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因果階層:年代順的時空から大域双曲的時空まで

対象読者: 本テーマ直前のLorentz 多様体の因果構造の章(因果的未来、押し上げ補題、体積関数)を学んだ人。因果階層の各段階は仮定しません。

前提となる記事:Lorentz 多様体の因果構造:因果的未来・局所理論・体積関数

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過去へ戻れる世界や、光が一周して自分の出発点に戻ってくる世界では、「原因があって結果がある」という物理の組み立てが難しくなります。この章は、時空が素直な時間の流れをどこまで保っているかを、弱い条件から強い条件まで 7 段階に並べ、段階どうしの関係を確かめます。読み終えると、与えられた時空がどの段階にあたるかを調べる道具と、隣り合う段階が違うことを示す具体例の作り方が分かります。

  • 時空の因果的なふるまいのよさを、弱い順に年代順的(閉じた時間的曲線がない)、因果的、識別的、強因果的、安定因果的(時間関数がある)、因果的に単純、大域双曲の 7 段階に並べます。これを因果階層といいます。
  • 各段階は一つ上の段階から従います(定理 4.9)。証明の道具は前章の局所理論(押し上げ補題と局所的な閉性)と体積関数です。とくに「時間関数があれば強因果的」(定理 4.5)と「因果的に単純なら体積関数が時間関数になる」(定理 4.7)が要です。
  • どの含意も逆は成り立ちません。光円錐が傾いた円柱 R×S1\mathbb{R}\times S^1 から閉じた半直線を何本か除くことで、因果的だが識別的でない例、識別的だが強因果的でない例、強因果的だが安定因果的でない例を作ります(§5)。
  • Cauchy 曲面(ある時刻の空間全体にあたるもの)はすべての非延長的な時間的曲線とちょうど 1 回交わる集合です。大域双曲であることと Cauchy 曲面を持つことは同値で、そのとき時空は R×S\mathbb{R}\times S に分解します(Geroch、Bernal–Sánchez。主張のみ)。
  • 完備な Riemann 多様体 FF 上の warped 積 I×fFI\times_fF(計量 −dt2+f(t)2h-dt^2+f(t)^2h)は大域双曲で、各断面 {t}×F\{t\}\times F は Cauchy 曲面です(定理 6.10)。Minkowski 空間、FLRW 宇宙、Schwarzschild 時空の外部領域がこの形に入ります。ここで warped 積とは、時間の直線と空間 FF を、空間の大きさを時刻ごとに伸び縮みさせながら組み合わせた時空のことです。

前章 Lorentz 多様体の因果構造 では、時空の各点の因果的未来・過去と、その局所的な性質を調べました。局所的には、どの時空も Minkowski 空間と同じ因果構造をしています。違いが現れるのは大域的な性質で、たとえば Lorentz トーラスではすべての点を閉じた時間的曲線が通ります。

物理的に「よい」時空とは何でしょうか。最低限、過去に戻る曲線(閉じた時間的曲線)はないほうがよいでしょう。しかしそれだけでは足りません。閉じた時間的曲線がなくても、閉じた光的な曲線があれば光は自分の過去に影響しますし、閉じた曲線そのものがなくても、ほとんど閉じた曲線の列があれば、計量をわずかに変えただけで閉じた時間的曲線が現れるかもしれません。一般相対論の計量は観測で近似的にしか決まらないので、そのような不安定な時空は物理的とはいえません。

逆に、波動方程式や Einstein 方程式の初期値問題をきちんと解くには、「ある時刻のデータで全時空が決まる」という性質(大域双曲性)が必要です。場の量子論を曲がった時空で考えるときも、大域双曲性が標準的な前提になります。

本章では、この「よさ」を段階に分けて定義し、段階のあいだの含意をすべて証明します。各段階が本当に違うことは、反例を一つずつ構成して確かめます。反例はどれも 2 次元の円柱の上に作れ、光円錐の向きを図に描いて確かめられます。

以下 (M,g)(M,g) は前章の意味の時空(連結・Hausdorff・第二可算・時間向き付けられた Lorentz 多様体、次元 n+1≥2n+1\ge2)です。記号 ≪\ll、≤\le、<\lt、I±I^\pm、J±J^\pm は 定義 3.2[Lorentz 多様体の因果構造] のとおりで、因果的曲線は区分的に滑らかです。前章の次の結果をくり返し使います。

結果内容
系 4.5[Lorentz 多様体の因果構造]I±(p)I^\pm(p) は開集合
系 4.6[Lorentz 多様体の因果構造]p≤q≪rp\le q\ll r または p≪q≤rp\ll q\le r なら p≪rp\ll r
系 4.7[Lorentz 多様体の因果構造]J±(p)⊂I±(p)‾J^\pm(p)\subset\overline{I^\pm(p)}、とくに p∈I±(p)‾p\in\overline{I^\pm(p)}
系 4.8[Lorentz 多様体の因果構造]一様正規近傍の中では因果関係の極限は因果関係
命題 6.5[Lorentz 多様体の因果構造]体積関数 t−t^- の単調性と半連続性

閉じた因果的曲線とは、未来向き因果的曲線 α ⁣:[0,1]→M\alpha\colon[0,1]\to M で α(0)=α(1)\alpha(0)=\alpha(1) となるものです。速度ベクトルは 00 にならないので、閉じた因果的曲線は定値ではありません。

定義 3.1(年代順的・因果的)↗

閉じた時間的曲線が存在しない(すべての pp で p∉I+(p)p\notin I^+(p))時空を年代順的(chronological)、閉じた因果的曲線が存在しない時空を因果的(causal)という。

定義 3.2(識別的)↗

過去識別的かつ未来識別的(定義 6.1[Lorentz 多様体の因果構造])な時空を識別的(distinguishing)という。すなわち I−(p)=I−(q)I^-(p)=I^-(q) または I+(p)=I+(q)I^+(p)=I^+(q) ならば p=qp=q である。

定義 3.3(強因果的)↗

時空が点 pp で強因果的であるとは、pp の任意の近傍 UU に対して、pp の近傍 V⊂UV\subset U で、両端が VV に入る未来向き因果的曲線がすべて UU に含まれるものが存在することをいう。すべての点で強因果的な時空を強因果的という。

強因果性は「ほとんど閉じた因果的曲線がない」ことを言っています。点 pp の近くから出て、遠回りして pp の近くに戻る因果的曲線があってはいけません。

定義 3.4(時間関数・時間的関数)↗

  1. 連続関数 τ ⁣:M→R\tau\colon M\to\mathbb{R} が、すべての未来向き因果的曲線 α\alpha に沿って狭義単調増加(s<s′s\lt s' なら τ(α(s))<τ(α(s′))\tau(\alpha(s))\lt\tau(\alpha(s')))であるとき、τ\tau を時間関数という。
  2. 滑らかな関数 τ\tau で、勾配 ∇τ\nabla\tau(g(∇τ,X)=dτ(X)g(\nabla\tau,X)=d\tau(X))が各点で過去向き時間的であるものを時間的関数(temporal function)という。

定義 3.5(安定因果的)↗

時間関数が存在する時空を安定因果的(stably causal)という。

注意 3.6(安定因果性の元の定義)

歴史的には、安定因果性は「光円錐をわずかに広げた計量 g′g'(gg について因果的な 00 でないベクトルがすべて g′g' について時間的になる計量)で、なお因果的なものが存在する」ことで定義されました。名前の「安定」は、計量の小さな摂動で因果性が壊れないことを指します。この意味で安定因果的なら時間関数が存在することは Hawking(1969)が示し、逆向きは、時間関数があれば時間的関数もある(Bernal–Sánchez 2005)ことから従います。したがって三つの条件は同値です。本章ではこの同値性を使わず、時間関数の存在を定義として採用します。

また、因果的に単純と安定因果的のあいだに、因果的に連続(識別的で、I+(p)⊃I+(q)⇔I−(p)⊂I−(q)I^+(p)\supset I^+(q)\Leftrightarrow I^-(p)\subset I^-(q) が成り立つ)という段階を置くことがあります。体積関数 t±t^\pm の連続性と同値です(Hawking–Sachs 1974)。本章の証明は、因果的に単純な時空で直接 t−t^- の連続性を示すので、この段階を経由しません。

定義 3.7(因果的に単純)↗

因果的で、すべての pp について J+(p)J^+(p) と J−(p)J^-(p) が閉集合である時空を因果的に単純(causally simple)という。

定義 3.8(大域双曲的時空)↗

強因果的で、すべての p,qp,q について J+(p)∩J−(q)J^+(p)\cap J^-(q) がコンパクトである時空を大域双曲的(globally hyperbolic)という。

J+(p)∩J−(q)J^+(p)\cap J^-(q) は pp から出て qq に届く因果的曲線が通れる範囲で、因果的ダイヤモンドと呼ばれます。大域双曲性は、このダイヤモンドに「穴」や「無限遠への抜け道」がないことを要求しています。定義の「強因果的」は「因果的」に弱めても同じ概念になることが知られています(Bernal–Sánchez 2007)。

大域双曲因果的に単純安定因果的強因果的識別的因果的年代順的半 Minkowski1 点を除く円柱 Z₃円柱 Z₂円柱 Z₁円柱 Z下段:その矢印の逆が成り立たない例(§5)
因果階層。矢印は含意で、それぞれ §4 で証明し、逆が成り立たない例を §5 で構成する。全悪性(前章)は年代順的の否定のうち最も極端な場合である。

命題 4.1(因果的ならば年代順的)✓

因果的な時空は年代順的である。

証明(命題 4.1)

閉じた時間的曲線は閉じた因果的曲線です(時間的ベクトルは因果的)。

命題 4.2(識別的ならば因果的)✓

未来識別的(または過去識別的)な時空は因果的である。

証明(命題 4.2)

閉じた因果的曲線 α ⁣:[0,1]→M\alpha\colon[0,1]\to M、α(0)=α(1)=p\alpha(0)=\alpha(1)=p があるとします。α\alpha は定値でないので q=α(s)≠pq=\alpha(s)\ne p となる ss があり、α∣[0,s]\alpha|_{[0,s]} と α∣[s,1]\alpha|_{[s,1]} から p≤qp\le q かつ q≤pq\le p です。r∈I+(q)r\in I^+(q) なら p≤q≪rp\le q\ll r なので押し上げ補題(系 4.6[Lorentz 多様体の因果構造])から r∈I+(p)r\in I^+(p)、同様に I+(p)⊂I+(q)I^+(p)\subset I^+(q) です。よって I+(p)=I+(q)I^+(p)=I^+(q)、p≠qp\ne q となり未来識別性に反します。過去についても同様です。

命題 4.3(強因果的ならば識別的)✓

強因果的な時空は識別的である。

証明(命題 4.3)

I−(p)=I−(q)I^-(p)=I^-(q)、p≠qp\ne q と仮定します。Hausdorff 性から、pp の開近傍 UU で q∉U‾q\notin\overline{U} となるものが取れます。強因果性から pp の近傍 V⊂UV\subset U を定義のとおりに取ります。p∈I−(p)‾p\in\overline{I^-(p)}(系 4.7[Lorentz 多様体の因果構造])なので、x∈V∩I−(p)x\in V\cap I^-(p) が取れます。x∈I−(p)=I−(q)x\in I^-(p)=I^-(q) なので I+(x)I^+(x) は qq を含む開集合で(系 4.5[Lorentz 多様体の因果構造])、I+(x)∖U‾I^+(x)\setminus\overline{U} も qq の開近傍です。q∈I−(q)‾=I−(p)‾q\in\overline{I^-(q)}=\overline{I^-(p)} なので、この近傍は I−(p)I^-(p) と交わり、y∈I+(x)∩I−(p)y\in I^+(x)\cap I^-(p)、y∉U‾y\notin\overline{U} が取れます。x≪y≪px\ll y\ll p をつないだ時間的曲線は、両端 x,px,p が VV に入るのに UU の外の yy を通り、強因果性に反します。未来識別性も時間反転で同様に示せます。

命題 4.4(時間的関数は時間関数)✓

時間的関数は時間関数である。

証明(命題 4.4)

τ\tau を時間的関数、α\alpha を未来向き因果的曲線とすると、α\alpha が滑らかな各小区間で

ddsτ(α(s))=dτ(α˙)=g(∇τ,α˙)=−g(−∇τ,α˙)>0\frac{d}{ds}\tau(\alpha(s))=d\tau(\dot\alpha)=g(\nabla\tau,\dot\alpha)=-g(-\nabla\tau,\dot\alpha)\gt0

です。−∇τ-\nabla\tau は未来向き時間的、α˙\dot\alpha は未来向き因果的なので、補題 2.1[Lorentz 多様体の因果構造] の 2 から g(−∇τ,α˙)<0g(-\nabla\tau,\dot\alpha)\lt0 だからです。τ∘α\tau\circ\alpha は連続で、各小区間で狭義単調増加なので全体で狭義単調増加です。

次の定理のねらいは、時間関数という「時間とともに必ず増える量」があれば、ほとんど閉じた因果的曲線が作れないことを示すことです。証明の方針は、強因果性が破れたと仮定して、ある点の近くから出て遠くへ行き戻る曲線の列を取り、その途中の点で時間関数の値が矛盾することを導く、というものです。

定理 4.5(時間関数があれば強因果的)✓

時間関数をもつ時空は強因果的である。すなわち、安定因果的な時空は強因果的である。

証明(定理 4.5)

τ\tau を時間関数とし、点 pp で強因果性が破れていると仮定します。すると pp の近傍 U0U_0 で、pp のどの近傍 V⊂U0V\subset U_0 にも、両端が VV に入り U0U_0 に含まれない未来向き因果的曲線があるものが存在します。

pp の一様正規近傍 WW(補題 4.3[Lorentz 多様体の因果構造])を取り、pp のコンパクトな近傍 K⊂W∩U0K\subset W\cap U_0(チャートの閉球)を取ります。pp の近傍の列 Vk⊂int⁡KV_k\subset\operatorname{int}K を pp に縮むように取り、VkV_k に両端 xk,ykx_k,y_k をもち U0U_0 に含まれない未来向き因果的曲線 γk ⁣:[0,1]→M\gamma_k\colon[0,1]\to M を取ります。γk\gamma_k は KK からも出るので、sk=inf⁡{s:γk(s)∉K}s_k=\inf\{s:\gamma_k(s)\notin K\} と置くと、γk([0,sk])⊂K\gamma_k([0,s_k])\subset K で zk=γk(sk)z_k=\gamma_k(s_k) は KK の境界 ∂K\partial K に属します。

∂K\partial K はコンパクトなので、部分列を取って zk→z∈∂Kz_k\to z\in\partial K とできます。xk→px_k\to p で、γk∣[0,sk]\gamma_k|_{[0,s_k]} は WW 内の因果的曲線なので、系 4.8[Lorentz 多様体の因果構造] から p≤zp\le z で、z∈∂Kz\in\partial K、p∈int⁡Kp\in\operatorname{int}K より z≠pz\ne p、すなわち p<zp\lt z です。τ\tau は pp から zz への因果的曲線に沿って狭義増加なので τ(p)<τ(z)\tau(p)\lt\tau(z) です。

一方、γk\gamma_k に沿って τ\tau は増加するので τ(xk)≤τ(zk)≤τ(yk)\tau(x_k)\le\tau(z_k)\le\tau(y_k) で、τ\tau の連続性から k→∞k\to\infty で τ(p)≤τ(z)≤τ(p)\tau(p)\le\tau(z)\le\tau(p)、すなわち τ(z)=τ(p)\tau(z)=\tau(p) です。矛盾です。

証明の核心は、pp の近くから出て遠くへ行き戻ってくる曲線が、途中で pp の「真の未来」にある点 zz を通らざるを得ないことです。zz は pp の真の未来にあるので時間関数の値は pp より大きいはずですが、曲線の終点が pp に近いことから値は pp と同じになってしまいます。

4.3. 因果的に単純な時空の体積関数

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補題 4.6(因果的に単純な時空の性質)✓

MM を因果的に単純な時空とする。

  1. すべての pp で I±(p)‾=J±(p)\overline{I^\pm(p)}=J^\pm(p) である。
  2. MM は識別的である。
  3. pk→pp_k\to p とし、点 xx が無限個の kk で x∈I−(pk)x\in I^-(p_k) を満たすならば、x∈J−(p)x\in J^-(p) である。
証明(補題 4.6)

1。 系 4.7[Lorentz 多様体の因果構造] から J−(p)⊂I−(p)‾J^-(p)\subset\overline{I^-(p)}、また I−(p)⊂J−(p)I^-(p)\subset J^-(p) で J−(p)J^-(p) は閉なので I−(p)‾⊂J−(p)\overline{I^-(p)}\subset J^-(p) です。未来も同様です。

2。 I−(p)=I−(q)I^-(p)=I^-(q) とすると、1 から J−(p)=J−(q)J^-(p)=J^-(q) で、p∈J−(q)p\in J^-(q)、q∈J−(p)q\in J^-(p) です。p≠qp\ne q なら pp から qq への因果的曲線と qq から pp への因果的曲線をつないだものは閉じた因果的曲線で、因果性に反します。よって p=qp=q です。未来も同様です。

3。 r∈I+(p)r\in I^+(p) を任意に取ります。I−(r)I^-(r) は pp を含む開集合なので(系 4.5[Lorentz 多様体の因果構造])、十分大きな kk で pk∈I−(r)p_k\in I^-(r) です。仮定からそのような kk で x≪pkx\ll p_k となるものがあり、x≪pk≪rx\ll p_k\ll r から x≪rx\ll r です。pp から未来向き時間的測地線を短く延ばした点の列 rm→pr_m\to p(rm∈I+(p)r_m\in I^+(p))を取ると、rm∈I+(x)⊂J+(x)r_m\in I^+(x)\subset J^+(x) で、J+(x)J^+(x) は閉なので p∈J+(x)p\in J^+(x)、すなわち x∈J−(p)x\in J^-(p) です。

定理 4.7(因果的に単純ならば安定因果的)✓

MM が因果的に単純ならば、体積関数 t−t^-(定義 6.4[Lorentz 多様体の因果構造])は時間関数である。とくに MM は安定因果的である。

証明(定理 4.7)

狭義単調性。 α\alpha を未来向き因果的曲線、s<s′s\lt s' とすると α(s)≤α(s′)\alpha(s)\le\alpha(s') で、α(s)=α(s′)\alpha(s)=\alpha(s') なら α∣[s,s′]\alpha|_{[s,s']} が閉じた因果的曲線になるので(因果性)α(s)<α(s′)\alpha(s)\lt\alpha(s') です。補題 4.6 の 2 から MM は過去識別的なので、命題 6.5[Lorentz 多様体の因果構造] の 2 により t−(α(s))<t−(α(s′))t^-(\alpha(s))\lt t^-(\alpha(s')) です。

連続性。 多様体は第一可算なので、点列 pk→pp_k\to p について t−(pk)→t−(p)t^-(p_k)\to t^-(p) を示せば十分です。命題 6.5[Lorentz 多様体の因果構造] の 3 から t−(p)≤lim inf⁡t−(pk)t^-(p)\le\liminf t^-(p_k) です。無限個の kk で x∈I−(pk)x\in I^-(p_k) となる xx は、補題 4.6 の 3 と 1 により J−(p)=I−(p)‾J^-(p)=\overline{I^-(p)} に属するので、命題 6.5[Lorentz 多様体の因果構造] の 4 の仮定が満たされ、lim sup⁡t−(pk)≤t−(p)\limsup t^-(p_k)\le t^-(p) です。

命題 4.8(大域双曲ならば因果的に単純)✓

大域双曲的な時空は因果的に単純である。

証明(命題 4.8)

強因果的なので、命題 4.3 と 命題 4.2 により因果的です。J+(p)J^+(p) が閉であることを示します。q∈J+(p)‾q\in\overline{J^+(p)} とし、qk→qq_k\to q、qk∈J+(p)q_k\in J^+(p) とします。qq から未来向き時間的測地線を短く延ばした点 rr を取ると q∈I−(r)q\in I^-(r) で、I−(r)I^-(r) は開なので、十分大きな kk で qk∈I−(r)⊂J−(r)q_k\in I^-(r)\subset J^-(r) です。よって qk∈J+(p)∩J−(r)q_k\in J^+(p)\cap J^-(r) で、これはコンパクト、したがって Hausdorff 空間 MM の閉集合です(定理 4.2[コンパクト性])。極限 qq もこの集合に入り、q∈J+(p)q\in J^+(p) です。J−(p)J^-(p) も同様です。

定理 4.9(因果階層)✓

時空について、次の含意が成り立つ。

大域双曲⇒因果的に単純⇒安定因果的⇒強因果的⇒識別的⇒因果的⇒年代順的\text{大域双曲}\Rightarrow\text{因果的に単純}\Rightarrow\text{安定因果的}\Rightarrow\text{強因果的}\Rightarrow\text{識別的}\Rightarrow\text{因果的}\Rightarrow\text{年代順的}
証明(定理 4.9)

左から順に 命題 4.8、定理 4.7、定理 4.5、命題 4.3、命題 4.2、命題 4.1 です。

反例の大部分は、次の 2 次元の時空から閉集合を除いて作ります。

定義 5.1(傾いた円柱 Z)↗

Z=R×S1Z=\mathbb{R}\times S^1(座標 t∈Rt\in\mathbb{R}、θ∈R/Z\theta\in\mathbb{R}/\mathbb{Z})に

g=2 dt dθ+h(t) dθ2,h(t)=t21+t2g=2\,dt\,d\theta+h(t)\,d\theta^2,\qquad h(t)=\frac{t^2}{1+t^2}

と時間向き付け T=−∂t+∂θT=-\partial_t+\partial_\theta を入れる。C={t=0}C=\{t=0\} と置く。曲線を扱うときは θ\theta を R\mathbb{R} に持ち上げた値 θ~\tilde\theta を使う。

gg の行列は (011h)\begin{pmatrix}0&1\\1&h\end{pmatrix} で行列式が −1-1 なので Lorentz 計量で、g(T,T)=h−2<0g(T,T)=h-2\lt0 なので TT は時間的です。

次の補題のねらいは、傾いた円柱の光円錐を不等式で書き表すことです。計量は、t=0t=0 の円周 CC がちょうど光的な閉曲線になり、CC から離れると未来向きの曲線に沿って tt が必ず減るように選んであります。以降の反例の証明は、すべてこの不等式から出発します。

補題 5.2(円柱 Z の光円錐)✓

  1. X=a∂t+b∂θ≠0X=a\partial_t+b\partial_\theta\ne0(点 (t,θ)(t,\theta))が未来向き因果的であることは b≥0b\ge0 かつ 2a+h(t)b≤02a+h(t)b\le0 と同値で、未来向き時間的であることは b>0b\gt0 かつ 2a+h(t)b<02a+h(t)b\lt0 と同値である。
  2. 未来向き因果的曲線に沿って θ~\tilde\theta は単調非減少、tt は単調非増加で、h(t) dθ~/ds≤−2 dt/dsh(t)\,d\tilde\theta/ds\le-2\,dt/ds を満たす。t≠0t\ne0 の点では dt/ds<0dt/ds\lt0 である。未来向き時間的曲線に沿っては θ~\tilde\theta は狭義増加、tt は狭義減少である。
  3. θ↦(0,θ)\theta\mapsto(0,\theta) は未来向きのヌル曲線で、CC は閉じた因果的曲線である。
  4. t1<t0t_1\lt t_0、L>0L\gt0 で 2(t1−t0)+max⁡{h(t0),h(t1)}L<02(t_1-t_0)+\max\{h(t_0),h(t_1)\}L\lt0 ならば、線分 s↦(t0+s(t1−t0), θ~0+sL)s\mapsto(t_0+s(t_1-t_0),\ \tilde\theta_0+sL)(0≤s≤10\le s\le1)は未来向き時間的である。
証明(補題 5.2)

1。 g(X,X)=b(2a+hb)g(X,X)=b(2a+hb)、g(X,T)=a−(1−h)bg(X,T)=a-(1-h)b です。b>0b\gt0 で 2a+hb≤02a+hb\le0 なら a≤−hb/2≤0a\le-hb/2\le0 で g(X,T)<0g(X,T)\lt0(未来向き)です。b=0b=0 なら XX はヌルで、a<0a\lt0 のとき未来向きです。b<0b\lt0 で因果的なら 2a+hb≥02a+hb\ge0 から a≥0a\ge0 で g(X,T)>0g(X,T)\gt0(過去向き)です。これで因果的な場合が示せ、時間的な場合は b(2a+hb)<0b(2a+hb)\lt0 を加えれば得られます。

2。 1 から b≥0b\ge0、a≤−hb/2≤0a\le-hb/2\le0 で、a=dt/dsa=dt/ds、b=dθ~/dsb=d\tilde\theta/ds です。t≠0t\ne0 なら h>0h\gt0 で、b>0b\gt0 なら a<0a\lt0、b=0b=0 なら X≠0X\ne0 から a<0a\lt0 です。時間的なら b>0b\gt0、a<−hb/2≤0a\lt-hb/2\le0 です。

3。 X=∂θX=\partial_\theta(a=0a=0、b=1b=1)は t=0t=0 で 2a+h(0)b=02a+h(0)b=0 を満たします。

4。 hh は ∣t∣|t| について増加なので、線分上で h(t)≤max⁡{h(t0),h(t1)}h(t)\le\max\{h(t_0),h(t_1)\} で、a=t1−t0a=t_1-t_0、b=Lb=L に 1 を使えばよいです。

2 から、tt は「時間とともに減る量」で、CC の上でだけ減らずに済みます。CC の近く(∣t∣|t| が小さいところ)では光円錐がほぼ θ\theta 方向に倒れていて、わずかに tt を減らすだけで円柱を一周できます。この「ほとんど閉じた曲線」をどこで断ち切るかで、異なる段階の反例が得られます。

命題 5.3(年代順的だが因果的でない)✓

ZZ は年代順的だが因果的でない。

証明(命題 5.3)

閉じた時間的曲線 α ⁣:[0,1]→Z\alpha\colon[0,1]\to Z があれば、補題 5.2 の 2 から t(α(1))<t(α(0))t(\alpha(1))\lt t(\alpha(0)) となり α(1)=α(0)\alpha(1)=\alpha(0) に反します。一方 補題 5.2 の 3 から CC は閉じた因果的曲線です。

命題 5.4(因果的だが識別的でない)✓

Z1=Z∖{(0,0)}Z_1=Z\setminus\{(0,0)\} は因果的だが、未来識別的でも過去識別的でもない。

証明(命題 5.4)

因果的。 閉じた因果的曲線 α\alpha があれば、tt は単調非増加で始点と終点で等しいので定数です。補題 5.2 の 2 から t≠0t\ne0 では dt/ds<0dt/ds\lt0 なので、その定数は 00 で、α\alpha は C∖{(0,0)}C\setminus\{(0,0)\} に含まれます。そこでは X≠0X\ne0、a=0a=0 から b>0b\gt0 で θ~\tilde\theta は狭義増加し、閉じるには θ~\tilde\theta が正の整数だけ増える必要がありますが、そうすると途中で θ≡0\theta\equiv0、すなわち除いた点を通ります。矛盾です。

識別的でない。 p=(0,θp)∈Cp=(0,\theta_p)\in C(0<θp<10\lt\theta_p\lt1)について I+(p)={t<0}I^+(p)=\{t\lt0\} を示します。⊂\subset は 補題 5.2 の 2 です。⊃\supset:t1<0t_1\lt0 と θ1\theta_1 を与え、持ち上げを θp<θ~1≤θp+1\theta_p\lt\tilde\theta_1\le\theta_p+1 に取り L=θ~1−θp∈(0,1]L=\tilde\theta_1-\theta_p\in(0,1] とします。(∣t1∣−1)2≥0(|t_1|-1)^2\ge0 から h(t1)≤∣t1∣/2h(t_1)\le|t_1|/2 なので 2t1+h(t1)L≤−2∣t1∣+∣t1∣/2<02t_1+h(t_1)L\le-2|t_1|+|t_1|/2\lt0 で、補題 5.2 の 4 から pp と (t1,θ1)(t_1,\theta_1) を結ぶ線分は時間的です。線分は s>0s\gt0 で t<0t\lt0 なので除いた点を通りません。よって C∖{(0,0)}C\setminus\{(0,0)\} のすべての点が同じ I+I^+ をもちます。時間反転して同様に I−(p)={t>0}I^-(p)=\{t\gt0\} です。

次の二つの例では、除いた半直線を「壁」と呼びます。未来向きの曲線に沿って tt は減るので、t≤0t\le0 の側に壁がある位置は t>0t\gt0 の間にしか横切れず、t≥0t\ge0 の側に壁がある位置は t<0t\lt0 になってからしか横切れません。この向きの制限が、円柱を一周できる曲線とできない曲線を分けます。

命題 5.5(識別的だが強因果的でない)✓

ZZ から閉集合 {(t,0):t≤0}\{(t,0):t\le0\} と {(t,1/2):t≥0}\{(t,1/2):t\ge0\} を除いた時空 Z2Z_2 は識別的だが、CC 上の点 p=(0,3/4)p=(0,3/4) で強因果的でない。

証明(命題 5.5)

以下、θ≡0\theta\equiv0 の壁は t>0t\gt0 でしか、θ≡1/2\theta\equiv1/2 の壁は t<0t\lt0 でしか横切れないことに注意します。

強因果的でない。 0<δ<10\lt\delta\lt1 について線分 s↦(δ−2δs, 3/4+s)s\mapsto(\delta-2\delta s,\ 3/4+s)(0≤s≤10\le s\le1)を考えます。h≤t2≤δ2h\le t^2\le\delta^2 なので 2(−2δ)+δ2<02(-2\delta)+\delta^2\lt0 で、補題 5.2 の 4 から未来向き時間的です。θ~=1\tilde\theta=1 を s=1/4s=1/4、t=δ/2>0t=\delta/2\gt0 で、θ~=3/2\tilde\theta=3/2 を s=3/4s=3/4、t=−δ/2<0t=-\delta/2\lt0 で横切るので、除いた集合を通りません。両端 (δ,3/4)(\delta,3/4)、(−δ,3/4)(-\delta,3/4) は δ→0\delta\to0 で pp に収束しますが、曲線は円柱を一周するので、近傍 U={∣t∣<1, ∣θ−3/4∣<1/8}U=\{|t|\lt1,\ |\theta-3/4|\lt1/8\} に含まれません。

I+(p)=I+(q)I^+(p)=I^+(q) なら tt 座標が等しい。 補題 5.2 の 2 から I+(p)⊂{t<tp}I^+(p)\subset\{t\lt t_p\} なので I+(p)‾⊂{t≤tp}\overline{I^+(p)}\subset\{t\le t_p\} です。q∈I+(q)‾q\in\overline{I^+(q)}(系 4.7[Lorentz 多様体の因果構造])=I+(p)‾=\overline{I^+(p)} から tq≤tpt_q\le t_p、対称に tp≤tqt_p\le t_q です。この値を τ0\tau_0 とします。

τ0≠0\tau_0\ne0 の場合。 xk∈I+(p)x_k\in I^+(p)、xk→qx_k\to q を取り、γk\gamma_k を pp から xkx_k への時間的曲線とします。γk\gamma_k 上で t∈[t(xk),τ0]t\in[t(x_k),\tau_0] で、十分大きな kk ではこの区間は 00 を含まず、そこでの hh の最小値 ηk\eta_k は h(τ0)>0h(\tau_0)\gt0 に収束します。補題 5.2 の 2 の不等式を積分すると、θ~\tilde\theta の増加量は 2(τ0−t(xk))/ηk→02(\tau_0-t(x_k))/\eta_k\to0 以下です。よって xk→px_k\to p で、q=pq=p です。

τ0=0\tau_0=0 の場合。 p=(0,θp)p=(0,\theta_p)、θp∈(0,1)∖{1/2}\theta_p\in(0,1)\setminus\{1/2\} とします。pp から出る時間的曲線は直ちに t<0t\lt0 に入るので θ~∈Z\tilde\theta\in\mathbb{Z} の壁を横切れず、θ~\tilde\theta は狭義増加なので I+(p)⊂{t<0, θp<θ<1}I^+(p)\subset\{t\lt0,\ \theta_p\lt\theta\lt1\} です。逆の包含は 命題 5.4 の証明と同じ線分で示せます(線分は t<0t\lt0 で θ≡1/2\theta\equiv1/2 を横切ってよく、θ≡0\theta\equiv0 には達しません)。よって θp<θq\theta_p\lt\theta_q なら (−1,(θp+θq)/2)(-1,(\theta_p+\theta_q)/2) は I+(p)I^+(p) に属し I+(q)I^+(q) に属しません。

以上で未来識別的です。過去識別性は、過去向き時間的曲線に沿って tt が狭義増加・θ~\tilde\theta が狭義減少し、t>0t\gt0 では θ≡1/2\theta\equiv1/2 の壁を横切れないことから、同じ議論で示せます(τ0=0\tau_0=0 の場合は I−(p)I^-(p) が {t>0}\{t\gt0\} と、θp\theta_p から θ~\tilde\theta を減らして最初の 1/2+Z1/2+\mathbb{Z} に達するまでの範囲の積になります)。

この例では、1 本の因果的曲線では円柱を一周できないようにして強因果性を保ちつつ、近似的な因果関係をつないだ鎖では一周できるようにします。安定因果的でないことの証明は、時間関数があるとすると、鎖をたどって自分自身より値が大きくなってしまう、という矛盾を導く方針です。

命題 5.6(強因果的だが安定因果的でない)✓

ZZ から 4 本の閉半直線 {(t,0):t≤0}\{(t,0):t\le0\}、{(t,1/2):t≤0}\{(t,1/2):t\le0\}、{(t,1/4):t≥0}\{(t,1/4):t\ge0\}、{(t,3/4):t≥0}\{(t,3/4):t\ge0\} を除いた時空 Z3Z_3 は強因果的だが、安定因果的でない。

証明(命題 5.6)

θ~∈12Z\tilde\theta\in\frac12\mathbb{Z} の壁(B 型)は t>0t\gt0 でしか、θ~∈14+12Z\tilde\theta\in\frac14+\frac12\mathbb{Z} の壁(A 型)は t<0t\lt0 でしか通れません。

一周できない。 未来向き因果的曲線の θ~\tilde\theta の値域を [θ−,θ+][\theta_-,\theta_+] とします。値域が連続する 3 つの壁の位置 c1<c2<c3c_1\lt c_2\lt c_3(間隔 1/41/4)を含むとすると、型は B, A, B か A, B, A です。θ~\tilde\theta は単調非減少なので、θ~=c2\tilde\theta=c_2 となる点は θ~=c3\tilde\theta=c_3 となる点より前に、θ~=c1\tilde\theta=c_1 となる点は c2c_2 となる点より前に現れます。B, A, B なら c2c_2 で t<0t\lt0、その後 c3c_3 で t>0t\gt0 となり、tt の単調非増加に反します。A, B, A なら c1c_1 と c2c_2 で同じ矛盾が起きます。よって値域は壁の位置を高々 2 つしか含まず、θ+−θ−<3/4\theta_+-\theta_-\lt3/4 です。

強因果的。 点 pp で破れていると仮定し、近傍 U0U_0 を取ります。U0U_0 に含まれる箱 U1={∣t−tp∣<ε, ∣θ~−θ~p∣<ε}U_1=\{|t-t_p|\lt\varepsilon,\ |\tilde\theta-\tilde\theta_p|\lt\varepsilon\}(ε<1/8\varepsilon\lt1/8)を取り、pp に縮む箱 VkV_k に両端 xk,ykx_k,y_k をもち U1U_1 に含まれない因果的曲線 γk\gamma_k を取ります。θ~\tilde\theta の増加量 Δk\Delta_k は [0,3/4)[0,3/4) に属し、θ(yk)−θ(xk)→0\theta(y_k)-\theta(x_k)\to0(法 11)なので Δk→0\Delta_k\to0 です。また γk\gamma_k 上で t∈[t(yk),t(xk)]t\in[t(y_k),t(x_k)] で、両端は tpt_p に収束します。よって十分大きな kk で γk⊂U1\gamma_k\subset U_1 となり、矛盾です。

安定因果的でない。 CC 上の点 a=(0,7/8)a=(0,7/8)、b=(0,1/16)b=(0,1/16)、c=(0,3/16)c=(0,3/16)、d=(0,3/8)d=(0,3/8)、e=(0,9/16)e=(0,9/16)、f=(0,11/16)f=(0,11/16)、g′=(0,13/16)g'=(0,13/16) を取ります(いずれも除いた集合の外)。「点列 xk→xx_k\to x、yk→yy_k\to y で xk≤ykx_k\le y_k となるものがある」ことを x⪯yx\preceq y と書くと、時間関数 τ\tau について x⪯yx\preceq y なら連続性から τ(x)≤τ(y)\tau(x)\le\tau(y)、x<yx\lt y なら τ(x)<τ(y)\tau(x)\lt\tau(y) です。次を示します。

a⪯b<c⪯d⪯e<f⪯g′<a.a\preceq b\lt c\preceq d\preceq e\lt f\preceq g'\lt a .

すると τ(a)<τ(a)\tau(a)\lt\tau(a) となり、時間関数は存在しません。

  • b<cb\lt c、e<fe\lt f、g′<ag'\lt a:CC に沿った未来向きヌル曲線(補題 5.2 の 3)で、壁の位置を通りません。
  • a⪯ba\preceq b:xk=(1/k,7/8)x_k=(1/k,7/8) から (1/(2k),17/16)(1/(2k),17/16) への線分(t>0t\gt0 のまま θ~=1\tilde\theta=1 の B 型の壁を通る。2(−12k)+1k2⋅316<02(-\tfrac1{2k})+\tfrac1{k^2}\cdot\tfrac3{16}\lt0 なので時間的)と、そこから bb への鉛直な線分(速度 −∂t-\partial_t、未来向きヌル)をつなぎます。
  • c⪯dc\preceq d:cc から (−1/(2k),3/16)(-1/(2k),3/16) へ鉛直に下り、(−1/k,3/8)(-1/k,3/8) への線分(t<0t\lt0 で θ~=1/4\tilde\theta=1/4 の A 型の壁を通る)をつなぎ、yk=(−1/k,3/8)→dy_k=(-1/k,3/8)\to d とします。
  • d⪯ed\preceq e、f⪯g′f\preceq g':それぞれ a⪯ba\preceq b、c⪯dc\preceq d と同じ形の曲線で、θ~=1/2\tilde\theta=1/2(B 型、t>0t\gt0)と θ~=3/4\tilde\theta=3/4(A 型、t<0t\lt0)を通ります。

どの曲線も、通る範囲に他の壁の位置を含みません。

Cθ=0 (B)θ=1/4 (A)θ=1/2 (B)θ=3/4 (A)θ=1 (B)abcdefg’t > 0t < 0
円柱 Z₃ を θ について 1 周分切り開いた図(横軸 θ、縦軸 t)。太い縦線は除いた半直線で、B 型(θ = 0, 1/2)は t ≤ 0、A 型(θ = 1/4, 3/4)は t ≥ 0。破線は安定因果性を壊す近似的な鎖:上側(t > 0)から B 型の壁を越えて C に降り、C に沿って進み、下側(t < 0)で A 型の壁を越える、を 2 回くり返す。1 本の因果的曲線では t が増やせないので鎖はつながらず、強因果性は保たれる。

上の 2 段階の反例は、Minkowski 空間 R1,1\mathbb{R}^{1,1}(座標 (t,x)(t,x)、計量 −dt2+dx2-dt^2+dx^2、時間向き付け ∂t\partial_t)の開部分集合で作れます。どちらも tt が時間的関数(∇t=−∂t\nabla t=-\partial_t は過去向き時間的)なので、命題 4.4 により安定因果的です。

命題 5.7(安定因果的だが因果的に単純でない)✓

M=R1,1∖{o}M=\mathbb{R}^{1,1}\setminus\{o\}、o=(1,1)o=(1,1) は安定因果的だが、p=(0,0)p=(0,0) について J+(p)J^+(p) は閉でない。

証明(命題 5.7)

tt は時間的関数(∇t=−∂t\nabla t=-\partial_t は過去向き時間的)なので、命題 4.4 により時間関数で、MM は安定因果的です。r=(2,2)r=(2,2) と置きます。r∉J+(p)r\notin J^+(p):MM 内の未来向き因果的曲線が pp から rr へ行けば、それは R1,1\mathbb{R}^{1,1} 内の曲線でもあり、r−pr-p はヌルなので 命題 3.4[Lorentz 多様体の因果構造] により像は線分 [p,r][p,r] に含まれます。tt は 00 から 22 まで連続に動くので(中間値の定理)t=1t=1 の点 oo を通り、MM 内の曲線であることに反します。一方 rk=(2,2−1/k)r_k=(2,2-1/k) について rk−pr_k-p は時間的で、線分 [p,rk][p,r_k] は t=1t=1 で x=1−1/(2k)≠1x=1-1/(2k)\ne1 を通るので oo を避け、rk∈J+(p)r_k\in J^+(p) です。rk→rr_k\to r なので J+(p)J^+(p) は閉でありません。

命題 5.8(因果的に単純だが大域双曲でない)✓

H={(t,x)∈R1,1:x>0}H=\{(t,x)\in\mathbb{R}^{1,1}:x\gt0\} は因果的に単純だが、大域双曲でない。

証明(命題 5.8)

因果的に単純。 tt は時間的関数なので 命題 4.4 により時間関数で、定理 4.5、命題 4.3、命題 4.2 から因果的です。HH は凸なので 命題 3.4[Lorentz 多様体の因果構造] により J±(p)=(p±C‾+)∩HJ^\pm(p)=(p\pm\overline{C}^+)\cap H で、これは HH の閉集合です。

大域双曲でない。 p=(0,1)p=(0,1)、q=(4,1)q=(4,1)、zk=(2,1/k)z_k=(2,1/k) とします。zk−p=(2,1/k−1)z_k-p=(2,1/k-1)、q−zk=(2,1−1/k)q-z_k=(2,1-1/k) はともに C‾+\overline{C}^+ に入るので zk∈J+(p)∩J−(q)=:Dz_k\in J^+(p)\cap J^-(q)=:D です。DD が HH のコンパクト集合なら、包含写像 H→R2H\to\mathbb{R}^2 による像として R2\mathbb{R}^2 のコンパクト集合(定理 6.1[コンパクト性])、したがって閉集合(定理 4.2[コンパクト性])で、zkz_k の極限 (2,0)(2,0) を含むはずですが、(2,0)∉H(2,0)\notin H です。

段階次の段階の反例何が壊れているか
年代順的ZZ閉じたヌル曲線 CC
因果的Z1Z_1CC 上の点がすべて同じ I±I^\pm をもつ
識別的Z2Z_2CC の近くを一周するほとんど閉じた曲線
強因果的Z3Z_3近似と真の因果関係を交互につなぐと閉じる鎖
安定因果的R1,1∖{o}\mathbb{R}^{1,1}\setminus\{o\}J+(p)J^+(p) が閉でない
因果的に単純半平面 HH因果的ダイヤモンドが境界へ抜ける

Cauchy 曲面の定義に必要な「非延長的」を先に定めます。直感的には、行き止まりに達することなく、時空の中をどこまでも伸びていく曲線のことです。

定義 6.1(非延長的な曲線)↗

未来向き因果的曲線 α ⁣:[a,b)→M\alpha\colon[a,b)\to M(b≤∞b\le\infty)が未来に延長可能であるとは、極限 lim⁡s→bα(s)\lim_{s\to b}\alpha(s) が MM に存在することをいう。そうでないとき未来に非延長的という。開区間上の因果的曲線が、未来向きに見て未来にも過去にも非延長的であるとき、単に非延長的という。

定義 6.2(Cauchy 曲面)↗

S⊂MS\subset M がCauchy 曲面であるとは、すべての非延長的な時間的曲線が SS とちょうど 1 回交わることをいう。

Cauchy 曲面は非時間的な閉集合で、位相的な超曲面になることが示せます(Hawking–Ellis の第 6 章)。物理的には「ある時刻の全空間」にあたり、その上に初期データを与えれば、波動方程式などの双曲型方程式の解が時空全体で一意に決まります。

S時間 t
Cauchy 曲面の概念図(1+1 次元の Minkowski 空間、縦軸が時間)。横線 S が Cauchy 曲面で、光円錐の内側を向く時間的曲線(実線)は、どちらの端も行き止まりに達することなく S とちょうど 1 回交わる。破線は交点での光円錐。

ここでの問いは、「ある時刻のデータで全時空が決まる」という物理的な性質を、Cauchy 曲面という幾何の言葉で言い換えることです。次の定理は、それが大域双曲性と同じことだと述べています。

定理 6.3(Geroch の分割定理)※

時空 MM について、次は同値である。(1) MM は大域双曲的である。(2) MM は Cauchy 曲面をもつ。さらにこのとき、Cauchy 曲面 SS について MM は R×S\mathbb{R}\times S と同相であり、MM のすべての Cauchy 曲面は互いに同相である。

注意 6.4(主張のみとする理由)

この定理は主張のみを述べ、証明は与えません。証明には、因果的曲線の列の極限曲線の存在定理と、Cauchy 曲面の依存領域 D(S)D(S) の詳しい解析が必要で、教科書でも 1 章分の準備を要します。(1) ⇒ (2) は、体積関数 t±t^\pm が連続になることを示して τ=log⁡(t−/(−t+))=log⁡(μ(I−)/μ(I+))\tau=\log\bigl(t^-/(-t^+)\bigr)=\log\bigl(\mu(I^-)/\mu(I^+)\bigr) を作り、その等位集合が Cauchy 曲面になることを確かめます(τ\tau は時間関数で、非延長的な因果的曲線に沿って −∞-\infty から ∞\infty まで動きます)。出典:R. Geroch, “Domain of dependence”, J. Math. Phys. 11 (1970), 437–449。教科書としては Hawking–Ellis の 6.6 節、O’Neill の第 14 章。

定理 6.5(Bernal–Sánchez の滑らかな分割定理)※

MM が大域双曲的ならば、時間的関数 τ ⁣:M→R\tau\colon M\to\mathbb{R} で、各等位集合 Sc=τ−1(c)S_c=\tau^{-1}(c) が滑らかな空間的 Cauchy 曲面となるものが存在する。さらに MM は R×S\mathbb{R}\times S に計量

−β dτ2+gτ-\beta\,d\tau^2+g_\tau

を入れたものと等長である。ここで β>0\beta\gt0 は滑らかな関数、gτg_\tau は τ\tau に滑らかに依存する SS 上の Riemann 計量である。

注意 6.6(主張のみとする理由)

この定理も主張のみとします。Geroch の時間関数は一般に連続なだけで、等位集合が滑らかになるように修正することは長く未解決でした(「Geroch の定理の滑らかな版」の問題)。Bernal と Sánchez は、局所的に構成した時間的関数を貼り合わせる精密な議論でこれを解決しました。証明は論文 2 本分の技術的な構成で、本章の範囲を超えます。出典:A. N. Bernal, M. Sánchez, Commun. Math. Phys. 243 (2003), 461–470;同 257 (2005), 43–50。また同じ著者らは、大域双曲性の定義の「強因果的」を「因果的」に弱めてよいことも示しています(Class. Quantum Grav. 24 (2007))。

この分割定理は、大域双曲的な時空が「空間 SS が時間 τ\tau とともに変形していく」という描像で記述できることを保証します。一般相対論の初期値問題(ADM 形式)や、曲がった時空上の場の量子論は、この分割を前提に組み立てられます。

定義 6.7(warped 積)↗

(B,gB)(B,g_B) を半 Riemann 多様体、(F,gF)(F,g_F) を Riemann 多様体、f ⁣:B→(0,∞)f\colon B\to(0,\infty) を滑らかな関数とする。B×FB\times F に計量

g=πB∗gB+(f∘πB)2 πF∗gFg=\pi_B^*g_B+(f\circ\pi_B)^2\,\pi_F^*g_F

を入れたものを warped 積といい、B×fFB\times_fF と書く(πB,πF\pi_B,\pi_F は射影)。ff を歪曲関数という。とくに B=(I,−dt2)B=(I,-dt^2)(I⊂RI\subset\mathbb{R} は開区間)のとき g=−dt2+f(t)2gFg=-dt^2+f(t)^2g_F は Lorentz 計量で、∂t\partial_t で時間向き付ける。

補題 6.8(共形変換と因果構造)✓

Ω ⁣:M→(0,∞)\Omega\colon M\to(0,\infty) を滑らかな関数とし、g~=Ω2g\tilde g=\Omega^2g とする(時間向き付けは同じベクトル場 TT)。(M,g)(M,g) と (M,g~)(M,\tilde g) の未来向き因果的(時間的)曲線は一致する。したがって I±I^\pm、J±J^\pm、時間関数、因果階層の各性質、Cauchy 曲面は両者で一致する。

証明(補題 6.8)

g~(v,v)=Ω2g(v,v)\tilde g(v,v)=\Omega^2g(v,v)、g~(v,T)=Ω2g(v,T)\tilde g(v,T)=\Omega^2g(v,T) で Ω2>0\Omega^2\gt0 なので、時間的・因果的・未来向きの判定は一致します。残りの概念はどれも未来向き因果的(時間的)曲線と多様体の位相だけで定義されています。

補題 6.9(静的な積の因果関係)✓

J⊂RJ\subset\mathbb{R} を開区間、(F,h)(F,h) を連結で完備な Riemann 多様体、dd をその距離とし、J×FJ\times F に計量 −dτ2+h-d\tau^2+h と時間向き付け ∂τ\partial_\tau を入れる。

  1. 未来向き因果的曲線 α(s)=(τ(s),x(s))\alpha(s)=(\tau(s),x(s)) は τ˙>0\dot\tau\gt0 かつ ∣x˙∣h≤τ˙|\dot x|_h\le\dot\tau を満たす。
  2. p=(τp,xp)p=(\tau_p,x_p)、q=(τq,xq)q=(\tau_q,x_q) について、q∈J+(p)q\in J^+(p) と τq−τp≥d(xp,xq)\tau_q-\tau_p\ge d(x_p,x_q) は同値である。
証明(補題 6.9)

1。 X=a∂τ+vX=a\partial_\tau+v(v∈TFv\in TF)について g(X,X)=−a2+∣v∣h2g(X,X)=-a^2+|v|_h^2、g(X,∂τ)=−ag(X,\partial_\tau)=-a です。未来向き因果的なら a>0a\gt0、∣v∣h≤a|v|_h\le a です。

2。 ⇒\Rightarrow:pp から qq への未来向き因果的曲線について、1 から xx の長さは ∫∣x˙∣h ds≤∫τ˙ ds=τq−τp\int|\dot x|_h\,ds\le\int\dot\tau\,ds=\tau_q-\tau_p で、d(xp,xq)d(x_p,x_q) は長さの下限なので d(xp,xq)≤τq−τpd(x_p,x_q)\le\tau_q-\tau_p です(p=qp=q なら両辺とも 00 です)。⇐\Leftarrow:τq=τp\tau_q=\tau_p なら d(xp,xq)=0d(x_p,x_q)=0 で q=pq=p です。τq>τp\tau_q\gt\tau_p なら、Hopf–Rinow の定理(定理 5.2[測地線と完備性])により長さ d(xp,xq)d(x_p,x_q) の測地線 σ ⁣:[0,1]→F\sigma\colon[0,1]\to F(速さ一定 d(xp,xq)d(x_p,x_q))が xpx_p と xqx_q を結びます。α(s)=(τp+s(τq−τp),σ(s))\alpha(s)=(\tau_p+s(\tau_q-\tau_p),\sigma(s)) は a=τq−τp>0a=\tau_q-\tau_p\gt0、∣v∣h=d(xp,xq)≤a|v|_h=d(x_p,x_q)\le a なので未来向き因果的で、τ\tau は [τp,τq]⊂J[\tau_p,\tau_q]\subset J にとどまります。

定理 6.10(warped 積の大域双曲性)✓

I⊂RI\subset\mathbb{R} を開区間、(F,h)(F,h) を連結で完備な Riemann 多様体、f ⁣:I→(0,∞)f\colon I\to(0,\infty) を滑らかな関数とし、M=I×fFM=I\times_fF(計量 −dt2+f(t)2h-dt^2+f(t)^2h)とする。

  1. tt は時間的関数である。
  2. MM は大域双曲的である。
  3. 各 t0∈It_0\in I について、断面 {t0}×F\{t_0\}\times F はすべての非延長的な因果的曲線とちょうど 1 回交わる。とくに Cauchy 曲面である。
証明(定理 6.10)

t∗∈It_*\in I を固定し ϕ(t)=∫t∗tds/f(s)\phi(t)=\int_{t_*}^t ds/f(s) と置くと、ϕ\phi は II から開区間 J=ϕ(I)J=\phi(I) への狭義増加な微分同相です。Φ(t,x)=(ϕ(t),x)\Phi(t,x)=(\phi(t),x) は MM から J×FJ\times F への微分同相で、dϕ=dt/fd\phi=dt/f から

Φ∗(−dτ2+h)=−dt2f2+h=f−2g\Phi^*(-d\tau^2+h)=-\frac{dt^2}{f^2}+h=f^{-2}g

です。Φ\Phi は ∂t\partial_t を ∂τ\partial_\tau の正の倍に写すので時間向き付けも保ちます。補題 6.8 により、MM の因果的な性質は (J×F,−dτ2+h)(J\times F,-d\tau^2+h) で調べれば十分です。

1。 g(−∂t,X)=dt(X)g(-\partial_t,X)=dt(X) なので ∇t=−∂t\nabla t=-\partial_t で、これは過去向き時間的です。

2。 1 と 命題 4.4、定理 4.5 から強因果的です。τp≤τq\tau_p\le\tau_q のとき、補題 6.9 から

J+(p)∩J−(q)={(τ,x):τp≤τ≤τq, d(xp,x)≤τ−τp, d(x,xq)≤τq−τ}J^+(p)\cap J^-(q)=\{(\tau,x):\tau_p\le\tau\le\tau_q,\ d(x_p,x)\le\tau-\tau_p,\ d(x,x_q)\le\tau_q-\tau\}

で(τp>τq\tau_p\gt\tau_q なら空集合)、これは dd の連続性から閉集合で、[τp,τq]×{x:d(xp,x)≤τq−τp}[\tau_p,\tau_q]\times\{x:d(x_p,x)\le\tau_q-\tau_p\} に含まれます。後者は閉区間(補題 5.1[コンパクト性])と完備多様体の有界閉集合(定理 5.2[測地線と完備性] の 1)の積なのでコンパクトで(定理 6.2[積位相・商位相と Tychonoff の定理])、その閉部分集合もコンパクトです(定理 4.1[コンパクト性])。

3。 非延長的な因果的曲線を未来向きにパラメータ付けし α(s)=(τ(s),x(s))\alpha(s)=(\tau(s),x(s))(a<s<ba\lt s\lt b)とします。補題 6.9 の 1 から τ\tau は狭義増加です。τ+=lim⁡s→bτ(s)\tau_+=\lim_{s\to b}\tau(s) が sup⁡J\sup J より小さいと仮定します。s<s′s\lt s' について d(x(s),x(s′))≤∫ss′∣x˙∣h≤τ(s′)−τ(s)d(x(s),x(s'))\le\int_s^{s'}|\dot x|_h\le\tau(s')-\tau(s) で、右辺は s,s′→bs,s'\to b で 00 に近づくので、sk→bs_k\to b となる任意の列について x(sk)x(s_k) は Cauchy 列です。FF は完備なので(定理 5.2[測地線と完備性] の 2)極限 x+x_+ が存在し、上の評価から極限は列によらず、α(s)→(τ+,x+)∈J×F\alpha(s)\to(\tau_+,x_+)\in J\times F です。これは α\alpha が未来に延長可能であることを意味し、矛盾です。よって τ(s)→sup⁡J\tau(s)\to\sup J、同様に τ(s)→inf⁡J\tau(s)\to\inf J(s→as\to a)で、中間値の定理(定理 6.1[連結性])と狭義単調性から、τ\tau は JJ の各値をちょうど 1 回とります。ϕ(t0)∈J\phi(t_0)\in J をとる点が断面との唯一の交点です。時間的曲線は因果的曲線なので、断面は Cauchy 曲面です。

例 6.11(warped 積の例)

  1. Minkowski 空間 R1,n\mathbb{R}^{1,n} は I=RI=\mathbb{R}、f=1f=1、F=RnF=\mathbb{R}^n の場合で、大域双曲的で t=t= 一定の超平面が Cauchy 曲面である。
  2. FLRW 時空 −dt2+a(t)2h-dt^2+a(t)^2h(宇宙論)は、tt の動く範囲を II、FF を R3\mathbb{R}^3・球面 S3S^3・双曲空間 H3H^3(いずれも完備)とした warped 積である。定理 6.10 により大域双曲的で、宇宙時刻一定の空間が Cauchy 曲面である。ビッグバンは II の端 t→0t\to0 にあり、時空の点ではない。
  3. de Sitter 時空 −dt2+cosh⁡2t σn-dt^2+\cosh^2t\,\sigma_n(σn\sigma_n は単位球面の計量)も I=RI=\mathbb{R}、F=SnF=S^n の warped 積で、大域双曲的である。

演習 7.1易

命題 5.4 の Z1Z_1 で、C∖{(0,0)}C\setminus\{(0,0)\} のすべての点で強因果性が破れていることを、ほとんど閉じた曲線を書き下して確かめよ。これは 命題 4.3 と矛盾しないことを説明せよ。

解答

p=(0,θp)p=(0,\theta_p)、0<θp<10\lt\theta_p\lt1 とし、δ>0\delta\gt0 について (δ,θp)(\delta,\theta_p) から (−δ′,θp+1)(-\delta',\theta_p+1) への線分を考えます。δ′\delta' は δ\delta か 2δ2\delta のうち、線分が θ~=1\tilde\theta=1 で t≠0t\ne0 となる方を選びます(t=0t=0 となるのは δ′\delta' について 1 つの値だけなので、どちらかは条件を満たします)。a=−(δ+δ′)a=-(\delta+\delta')、b=1b=1、h≤4δ2h\le4\delta^2 なので δ\delta が小さければ 補題 5.2 の 4 から時間的で、除いた点 (0,0)(0,0) を通りません。両端は δ→0\delta\to0 で pp に収束し、曲線は円柱を一周するので pp の小さな近傍に含まれません。Z1Z_1 は識別的でない(命題 5.4)ので、命題 4.3 の対偶から強因果的でないことは予想どおりで、矛盾はありません。

演習 7.2標準

M=R×(R2∖{0})M=\mathbb{R}\times(\mathbb{R}^2\setminus\{0\}) に −dt2+dx2+dy2-dt^2+dx^2+dy^2 を入れる。tt は時間的関数なので MM は強因果的だが、大域双曲でないことを示せ。定理 6.10 のどの仮定が満たされていないか。

解答

p=(0,(−1,0))p=(0,(-1,0))、q=(4,(1,0))q=(4,(1,0))、zk=(2,(0,1/k))z_k=(2,(0,1/k)) とします。空間成分の線分 (−1,0)→(0,1/k)(-1,0)\to(0,1/k) と (0,1/k)→(1,0)(0,1/k)\to(1,0) は原点を通らず、長さ 1+1/k2<2\sqrt{1+1/k^2}\lt2 なので、tt を 2 ずつ増やす直線はどちらも未来向き時間的で MM に含まれます(命題 3.4[Lorentz 多様体の因果構造] の計算)。よって zk∈J+(p)∩J−(q)z_k\in J^+(p)\cap J^-(q) ですが、zk→(2,(0,0))∉Mz_k\to(2,(0,0))\notin M なので、命題 5.8 の証明と同じ議論で J+(p)∩J−(q)J^+(p)\cap J^-(q) はコンパクトでありません。満たされていないのは F=R2∖{0}F=\mathbb{R}^2\setminus\{0\} の完備性で、原点に向かう Cauchy 列が収束しません。

演習 7.3難

Schwarzschild 時空の外部領域 {r>rs}\{r\gt r_s\}、計量 −(1−rs/r)dt2+(1−rs/r)−1dr2+r2dΩ2-(1-r_s/r)dt^2+(1-r_s/r)^{-1}dr^2+r^2d\Omega^2(c=1c=1)は大域双曲的であることを示せ。(ヒント:亀座標 r∗=r+rslog⁡(r/rs−1)r_*=r+r_s\log(r/r_s-1) を使って共形因子をくくり出す。)

解答

dr∗/dr=(1−rs/r)−1dr_*/dr=(1-r_s/r)^{-1} なので r∗r_* は (rs,∞)(r_s,\infty) から R\mathbb{R} への狭義増加な全単射で、計量は

(1−rsr)(−dt2+dr∗2+ψ(r∗)2dΩ2),ψ=r1−rs/r\Bigl(1-\frac{r_s}{r}\Bigr)\Bigl(-dt^2+dr_*^2+\psi(r_*)^2d\Omega^2\Bigr),\qquad\psi=\frac{r}{\sqrt{1-r_s/r}}

と書けます。補題 6.8 により、括弧の中の計量 −dt2+h-dt^2+h、h=dr∗2+ψ2dΩ2h=dr_*^2+\psi^2d\Omega^2(F=R×S2F=\mathbb{R}\times S^2)を調べれば十分です。FF の完備性:FF の点を (r∗,ω)(r_*,\omega) と書くと、FF の曲線の長さは r∗r_* 成分の変化以上なので d((r∗1,ω1),(r∗2,ω2))≥∣r∗1−r∗2∣d((r_{*1},\omega_1),(r_{*2},\omega_2))\ge|r_{*1}-r_{*2}| です。有界閉集合は r∗r_* が有界で、コンパクト集合 [A,B]×S2[A,B]\times S^2(定理 6.2[積位相・商位相と Tychonoff の定理])の閉部分集合なのでコンパクトです。定理 5.2[測地線と完備性] の 1 ⇒ 2 により完備です。よって 定理 6.10(I=RI=\mathbb{R}、f=1f=1)から外部領域は大域双曲的で、t=t= 一定が Cauchy 曲面です。地平線 r=rsr=r_s は r∗→−∞r_*\to-\infty に送られ、外部領域から見ると「無限に遠い」境界になっています。

  • S. W. Hawking, G. F. R. Ellis, The Large Scale Structure of Space-Time, Cambridge University Press, 1973 — 第 6 章(因果性の条件、Cauchy 曲面、大域双曲性)。
  • B. O’Neill, Semi-Riemannian Geometry with Applications to Relativity, Academic Press, 1983 — 第 7 章(warped 積)、第 14 章(因果性)。
  • J. K. Beem, P. E. Ehrlich, K. L. Easley, Global Lorentzian Geometry, 2nd ed., Marcel Dekker, 1996 — 第 3 章(因果階層)。
  • E. Minguzzi, M. Sánchez, “The causal hierarchy of spacetimes”, in Recent Developments in Pseudo-Riemannian Geometry, ESI Lectures in Mathematics and Physics, European Mathematical Society, 2008, 299–358. arXiv:gr-qc/0609119
  • R. Geroch, “Domain of dependence”, Journal of Mathematical Physics 11 (1970), 437–449。
  • A. N. Bernal, M. Sánchez, “On smooth Cauchy hypersurfaces and Geroch’s splitting theorem”, Communications in Mathematical Physics 243 (2003), 461–470;“Smoothness of time functions and the metric splitting of globally hyperbolic spacetimes”, 同 257 (2005), 43–50。

このテーマの 100 本ノック(100 問)

執筆: Claude Code(Opus 5.5)、Claude Code(Sonnet 5.5)・監査 2 回(Claude Code)・最終 2026-10-12

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