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宇宙論:FLRW 計量とフリードマン方程式から、距離梯子・宇宙の年齢・夜空の暗さ・ビッグバンの証拠・インフレーションまで

対象読者: 本テーマ第 1 章の計量・曲率テンソルと、一般相対論入門のアインシュタイン方程式を学んだ人。熱力学や素粒子は仮定せず、必要な事実はその場で説明されます。

前提となる記事:曲がった時空のテンソル解析:計量・共変微分・測地線・曲率を等価原理から組み立てる、曲がった時空と重力:アインシュタイン方程式から GPS の 38 マイクロ秒まで

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夜空はなぜ暗いのか、宇宙はいつ始まったのか、遠い銀河までの距離はどう測るのか。この記事は、そうした素朴な疑問を「宇宙全体は大きく見れば単純な形をしている」という一つの前提から順に答えていきます。読み終えると、宇宙の年齢や観測できる範囲の広さを、自分の手で数値を代入して計算できるようになります。

  • 宇宙原理(一様かつ等方)を仮定すると、時空の計量は FLRW 計量 ds2=−c2dt2+a(t)2[dχ2+SK(χ)2dΩ2]ds^2=-c^2dt^2+a(t)^2[d\chi^2+S_K(\chi)^2d\Omega^2] に限られます。空間の形は定曲率 KK で決まり、時間変化はスケール因子 a(t)a(t) 一つに集約されます。
  • Einstein 方程式に代入すると、a(t)a(t) を決めるフリードマン方程式 H2+Kc2/a2=8πG3ρH^2+Kc^2/a^2=\tfrac{8\pi G}{3}\rho と加速度方程式が出ます。この記事では Ricci テンソルの成分を実際に計算して導きます。
  • 光の赤方偏移は 1+z=a(t0)/a(temit)1+z=a(t_0)/a(t_{\mathrm{emit}})、光度距離は dL=(1+z)SK(χ)d_L=(1+z)S_K(\chi) です。この二つだけで、ハッブルの法則・距離梯子・Ia 型超新星の「暗さ」が一つの枠組みに入ります。
  • 年齢と地平線は H(a)H(a) の積分です。平坦で物質とダークエネルギーだけの宇宙の年齢は t0=23ΩΛln⁡1+ΩΛΩm⋅1H0≈138t_0=\frac{2}{3\sqrt{\Omega_\Lambda}}\ln\frac{1+\sqrt{\Omega_\Lambda}}{\sqrt{\Omega_m}}\cdot\frac1{H_0}\approx138 億年です。
  • 夜空が暗い理由(Olbers のパラドックス)は、宇宙に有限の年齢と地平線があることと、エネルギーが足りないことです。視線の先の「熱い壁」は薄まって CMB になりました。
  • CMB、軽元素の存在比、回転曲線と銀河団、加速膨張は、フリードマン方程式の各項に対応する独立な証拠です。地平線問題と平坦性問題は、a¨>0\ddot a>0 の時期(インフレーション)が一つあれば解けます。

1. 動機:宇宙全体を一つの方程式で書く

Section titled “1. 動機:宇宙全体を一つの方程式で書く”

一般相対論は、重力を時空の曲がりとして書き直した理論でした(等価原理の幾何学的定式化(公理 4.4)[曲がった時空のテンソル解析])。そうなると自然に、宇宙全体の時空を丸ごと考えるという問いが生まれます。ところが一般の計量は 10 個の成分関数をもち、Einstein 方程式は手に負えません。

宇宙論が成り立つのは、宇宙が大きなスケールでは驚くほど単純だからです。銀河の分布は約 3 億光年より大きなスケールで一様・等方に見え、CMB は全天で 10−510^{-5} の精度で同じ温度です。この単純さを対称性として組み込むと、未知関数は a(t)a(t) の一つに減り、観測量(距離、年齢、暗さ、元素の比)がすべて a(t)a(t) の言葉で書けます。

この記事は旧来の別々の話題を一本につないでいます。距離はどう測るか、年齢はいくつか、夜空はなぜ暗いか、ビッグバンの証拠は何か、暗い成分は何か。これらは同じ a(t)a(t) を別の角度から読んだものです。順序は、(i) 計量と方程式を導く、(ii) 光の旅(赤方偏移・距離)、(iii) 時間と空間の広がり(年齢・地平線)、(iv) 観測的な帰結、(v) インフレーション、です。

公理 2.1(宇宙原理)↗

宇宙の物質は、十分大きなスケールで見ると一様(どの場所も同じ)かつ等方(どの向きも同じ)である。厳密には、各時刻の空間(宇宙時間 tt が一定の面)Σt\Sigma_t が、各点のまわりで回転対称、かつ並進対称であるような時空を考える。

一様かつ等方な空間の曲率テンソルは、Schur の補題により断面曲率が点によらず一定の形になります。すなわち計量 γij\gamma_{ij} について

Rijkl=K(γikγjl−γilγjk),K=定数R_{ijkl}=K(\gamma_{ik}\gamma_{jl}-\gamma_{il}\gamma_{jk}),\qquad K=\text{定数}

です。この式から縮約すると Ricci テンソルは Rij=Rkikj=K(3γij−γij)=2KγijR_{ij}=R^k{}_{ikj}=K(3\gamma_{ij}-\gamma_{ij})=2K\gamma_{ij} となります。曲率の符号の約束は Riemann 曲率テンソル(定義 6.1)[曲がった時空のテンソル解析] と同じで、半径 1 の球面で K=+1K=+1 です。

次の定理のねらいは、宇宙の「空間の形」が球面・平面・双曲面の 3 通りしかないことを示すことです。方針は、中心から測った距離 χ\chi の関数として球面の半径 S(χ)S(\chi) を置き、曲率が一定という条件から SS の満たす微分方程式を作って解く、というものです。

定理 2.2(定曲率な 3 次元空間の計量)✓

3 次元 Riemann 多様体 (Σ,γ)(\Sigma,\gamma) が点 OO のまわりで球対称で、曲率が上のとおり定数 KK の形であるとする。OO からの固有距離を χ\chi とすると、OO の近傍で

γ=dχ2+SK(χ)2 dΩ2,SK(χ)={sin⁡(Kχ)/KK>0χK=0sinh⁡(−Kχ)/−KK<0\gamma=d\chi^2+S_K(\chi)^2\,d\Omega^2,\qquad S_K(\chi)=\begin{cases}\sin(\sqrt K\chi)/\sqrt K & K>0\\ \chi & K=0\\ \sinh(\sqrt{-K}\chi)/\sqrt{-K} & K<0\end{cases}

と書ける。ここで dΩ2=dθ2+sin⁡2θ dφ2d\Omega^2=d\theta^2+\sin^2\theta\,d\varphi^2 である。r=SK(χ)r=S_K(\chi) とおけば同じ計量は dr21−Kr2+r2dΩ2\dfrac{dr^2}{1-Kr^2}+r^2d\Omega^2 になる。

証明(定理 2.2)

球対称性により、OO を中心とする球面の上で計量は S(χ)2dΩ2S(\chi)^2d\Omega^2 の形になり、動径方向は χ\chi の取り方から dχ2d\chi^2 です。OO の近くで空間はほぼユークリッド的なので S(0)=0S(0)=0、S′(0)=1S'(0)=1 です。

曲率を計算します。座標 (χ,θ,φ)(\chi,\theta,\varphi) での Christoffel 記号のうち必要なものは Γχθθ=−SS′\Gamma^\chi{}_{\theta\theta}=-SS'、Γθχθ=S′/S\Gamma^\theta{}_{\chi\theta}=S'/S です。定義 6.1[曲がった時空のテンソル解析] の式を使うと、

Rχθχθ=∂χΓχθθ−ΓχθθΓθχθ=−(S′2+SS′′)+SS′⋅S′S=−SS′′R^\chi{}_{\theta\chi\theta}=\partial_\chi\Gamma^\chi{}_{\theta\theta}-\Gamma^\chi{}_{\theta\theta}\Gamma^\theta{}_{\chi\theta} =-(S'^2+SS'')+SS'\cdot\frac{S'}{S}=-SS''

です。一方、仮定から Rχθχθ=K(γχχγθθ−0)=KS2R_{\chi\theta\chi\theta}=K(\gamma_{\chi\chi}\gamma_{\theta\theta}-0)=KS^2 ですから、−SS′′=KS2-SS''=KS^2、すなわち

S′′=−KS,S(0)=0, S′(0)=1S''=-KS,\qquad S(0)=0,\ S'(0)=1

を得ます。この初期値問題の解が表の SKS_K です。さらに (S′2+KS2)′=2S′(S′′+KS)=0(S'^2+KS^2)'=2S'(S''+KS)=0 で、χ=0\chi=0 での値が 11 なので S′2=1−KS2S'^2=1-KS^2 です。r=Sr=S とすると dr=S′dχdr=S'd\chi より dχ2=dr2/(1−Kr2)d\chi^2=dr^2/(1-Kr^2) となり、後半の主張を得ます。

注意 2.3(時間方向の形について)

一様等方な時空では、宇宙の物質と共に動く観測者(共動観測者)の世界線の速度ベクトル uu が特別な向きを与えます。等方性により uu の加速度は特別な向きを持てず零になり、uu に直交する面が Σt\Sigma_t になります。そこで共動座標 xix^i を面上に固定し、tt を共動観測者の固有時間にとれば g00=−c2g_{00}=-c^2、g0i=0g_{0i}=0 とできます。一様性により、二つの共動観測者間の距離の時間変化の比は場所によらず、等方性により向きによらないので、空間計量は全体で a(t)2a(t)^2 倍されるだけです。

以上から、宇宙原理を満たす時空の計量は次の形です。

定義 2.4(FLRW 計量・スケール因子・共動距離)↗

Friedmann–Lemaître–Robertson–Walker(FLRW)計量とは

ds2=−c2dt2+a(t)2[dχ2+SK(χ)2dΩ2]ds^2=-c^2dt^2+a(t)^2\bigl[d\chi^2+S_K(\chi)^2d\Omega^2\bigr]

をいう。a(t)>0a(t)>0 をスケール因子、座標 χ\chi を共動距離と呼ぶ。現在時刻 t0t_0 で a(t0)=1a(t_0)=1 と規格化する。時刻 tt に共動距離 χ\chi だけ離れた二点の固有距離は d(t)=a(t)χd(t)=a(t)\chi である。

χ=一定\chi=\text{一定} の世界線(共動観測者、つまり宇宙の膨張の流れに乗って静止している観測者)が測地線であることは、Γi00=0\Gamma^i{}_{00}=0 から確かめられます(次節で Christoffel 記号を求めます)。つまり銀河は「空間の中を飛ぶ」のではなく、空間の目盛りが伸びることで離れていきます。

定義 2.5(ハッブル定数(ハッブル・パラメータ))↗

H(t)=a˙aH(t)=\dfrac{\dot a}{a} をハッブル・パラメータといい、現在値 H0=H(t0)H_0=H(t_0) をハッブル定数と呼ぶ。HH は時間の逆数の次元をもつ。

座標 (t,χ,θ,φ)(t,\chi,\theta,\varphi) をまとめて (t,xi)(t,x^i) と書き、空間部分の計量を γij\gamma_{ij} とします。g00=−c2g_{00}=-c^2、gij=a2γijg_{ij}=a^2\gamma_{ij} ですから、接続の成分表示(命題 3.3)[曲がった時空のテンソル解析] から零でない Christoffel 記号は

Γ0ij=aa˙c2γij,Γi0j=a˙aδij,Γijk=Γ[γ]ijk\Gamma^0{}_{ij}=\frac{a\dot a}{c^2}\gamma_{ij},\qquad \Gamma^i{}_{0j}=\frac{\dot a}{a}\delta^i{}_j,\qquad \Gamma^i{}_{jk}=\Gamma[\gamma]^i{}_{jk}

です(Γ0ij=−12g00∂tgij\Gamma^0{}_{ij}=-\tfrac12g^{00}\partial_tg_{ij} などを書き下したもの)。Γi00=0\Gamma^i{}_{00}=0 なので共動観測者は測地線です。

次の命題は、この Christoffel 記号から Ricci テンソルを計算する作業です。結果は、aa の 2 階微分 a¨\ddot a を含む R00R_{00} と、空間の曲率 KK を含む RijR_{ij} の二つに集約されます。証明は定義式の 4 つの項に、零でない Christoffel 記号 Γ0ij\Gamma^0{}_{ij}、Γi0j\Gamma^i{}_{0j} を一つずつ当てはめていくだけなので、各項で何が残るかを順に追えば読めます。

命題 3.1(FLRW 計量の Ricci テンソルとスカラー曲率)✓

FLRW 計量の Ricci テンソルは

R00=−3a¨a,R0i=0,Rij=[aa¨+2a˙2c2+2K]γijR_{00}=-\frac{3\ddot a}{a},\qquad R_{0i}=0,\qquad R_{ij}=\Bigl[\frac{a\ddot a+2\dot a^2}{c^2}+2K\Bigr]\gamma_{ij}

で、スカラー曲率は R=6c2(a¨a+a˙2a2+Kc2a2)R=\dfrac{6}{c^2}\Bigl(\dfrac{\ddot a}{a}+\dfrac{\dot a^2}{a^2}+\dfrac{Kc^2}{a^2}\Bigr) である。

証明(命題 3.1)

Ricci テンソルは Rνβ=RμνμβR_{\nu\beta}=R^\mu{}_{\nu\mu\beta}、つまり Rνβ=∂μΓμνβ−∂βΓμνμ+ΓμμσΓσνβ−ΓμβσΓσνμR_{\nu\beta}=\partial_\mu\Gamma^\mu{}_{\nu\beta}-\partial_\beta\Gamma^\mu{}_{\nu\mu}+\Gamma^\mu{}_{\mu\sigma}\Gamma^\sigma{}_{\nu\beta}-\Gamma^\mu{}_{\beta\sigma}\Gamma^\sigma{}_{\nu\mu} です。Γμμ0=3a˙/a\Gamma^\mu{}_{\mu0}=3\dot a/a に注意します。

R00R_{00}:Γμ00=0\Gamma^\mu{}_{00}=0 なので第 1・3 項は消え、R00=−∂t(3a˙/a)−Γi0jΓj0i=−3(a¨/a−a˙2/a2)−3a˙2/a2=−3a¨/aR_{00}=-\partial_t(3\dot a/a)-\Gamma^i{}_{0j}\Gamma^j{}_{0i}=-3(\ddot a/a-\dot a^2/a^2)-3\dot a^2/a^2=-3\ddot a/a。

RijR_{ij}:第 1 項から ∂tΓ0ij=a˙2+aa¨c2γij\partial_t\Gamma^0{}_{ij}=\frac{\dot a^2+a\ddot a}{c^2}\gamma_{ij}、第 3 項の σ=0\sigma=0 から Γμμ0Γ0ij=3a˙2c2γij\Gamma^\mu{}_{\mu0}\Gamma^0{}_{ij}=\frac{3\dot a^2}{c^2}\gamma_{ij}、第 4 項の (μ,σ)=(0,k),(k,0)(\mu,\sigma)=(0,k),(k,0) から −2a˙2c2γij-2\frac{\dot a^2}{c^2}\gamma_{ij}。空間成分だけの項は γ\gamma の Ricci テンソル 2Kγij2K\gamma_{ij} になります。合計して Rij=[aa¨+2a˙2c2+2K]γijR_{ij}=\bigl[\frac{a\ddot a+2\dot a^2}{c^2}+2K\bigr]\gamma_{ij}。R0i=0R_{0i}=0 は対称性から従います。

最後に R=g00R00+gijRij=3a¨ac2+3a2[aa¨+2a˙2c2+2K]R=g^{00}R_{00}+g^{ij}R_{ij}=\frac{3\ddot a}{ac^2}+\frac3{a^2}\bigl[\frac{a\ddot a+2\dot a^2}{c^2}+2K\bigr] を整理します。

3.2. Einstein 方程式からフリードマン方程式へ

Section titled “3.2. Einstein 方程式からフリードマン方程式へ”

物質の内容を指定します。宇宙の物質を完全流体と見なし、質量密度 ρ\rho(エネルギー密度 ρc2\rho c^2)、圧力 pp とします。共動観測者の 4 元速度 Uμ=(1,0,0,0)U^\mu=(1,0,0,0)(gμνUμUν=−c2g_{\mu\nu}U^\mu U^\nu=-c^2)に対し、エネルギー運動量テンソルは Tμν=(ρ+p/c2)UμUν+pgμνT_{\mu\nu}=(\rho+p/c^2)U_\mu U_\nu+pg_{\mu\nu}、成分では T00=ρc4T_{00}=\rho c^4、Tij=pa2γijT_{ij}=pa^2\gamma_{ij} です。

注意 3.2(Einstein 方程式(宇宙定数つき)の出どころ)

ここで使う場の方程式は

Gμν+Λgμν=8πGc4TμνG_{\mu\nu}+\Lambda g_{\mu\nu}=\dfrac{8\pi G}{c^4}T_{\mu\nu}

です。Gμν=Rμν−12RgμνG_{\mu\nu}=R_{\mu\nu}-\tfrac12Rg_{\mu\nu} は Einstein テンソル、Λ\Lambda は宇宙定数です。この記事では新たに仮定せず、Einstein 方程式の結果をそのまま使います。Λ=0\Lambda=0 の形は 公理 3.1[Einstein 方程式]、その Einstein–Hilbert 作用からの導出は 定理 4.4[Einstein 方程式]、宇宙定数の項を加えた形は 注意 4.6[Einstein 方程式] で扱っています。保存則 ∇μTμν=0\nabla^\mu T_{\mu\nu}=0(命題 3.2[Einstein 方程式])も Λ\Lambda の有無によらず成り立つので、次節の連続の式と整合します。

宇宙定数の項は右辺に移して Tμν(Λ)=−Λc48πGgμνT^{(\Lambda)}_{\mu\nu}=-\frac{\Lambda c^4}{8\pi G}g_{\mu\nu} と読めます。これは ρΛ=Λc2/(8πG)\rho_\Lambda=\Lambda c^2/(8\pi G)、pΛ=−ρΛc2p_\Lambda=-\rho_\Lambda c^2 の完全流体と同じです。以下では Λ\Lambda をこのように物質の一成分として ρ,p\rho,p に含めます。

定理 3.3(フリードマン方程式)✓

FLRW 計量と完全流体の Einstein 方程式から、次の二式が従う。

H2+Kc2a2=8πG3ρ,2a¨a+H2+Kc2a2=−8πGc2p.H^2+\frac{Kc^2}{a^2}=\frac{8\pi G}{3}\rho,\qquad 2\frac{\ddot a}{a}+H^2+\frac{Kc^2}{a^2}=-\frac{8\pi G}{c^2}p .
証明(定理 3.3)

命題 3.1 より、 G00=R00+c22R=−3a¨a+3(a¨a+a˙2a2+Kc2a2)=3(H2+Kc2a2)G_{00}=R_{00}+\tfrac{c^2}2R=-\frac{3\ddot a}{a}+3\bigl(\frac{\ddot a}{a}+\frac{\dot a^2}{a^2}+\frac{Kc^2}{a^2}\bigr)=3\bigl(H^2+\frac{Kc^2}{a^2}\bigr)。 右辺は 8πGc4T00=8πGρ\frac{8\pi G}{c^4}T_{00}=8\pi G\rho ですから、第 1 式を得ます。

空間成分は Gij=Rij−12Ra2γij=γij[aa¨+2a˙2c2+2K−3c2(aa¨+a˙2+Kc2)]=−γij[2aa¨+a˙2c2+K]G_{ij}=R_{ij}-\tfrac12Ra^2\gamma_{ij}=\gamma_{ij}\bigl[\frac{a\ddot a+2\dot a^2}{c^2}+2K-\frac{3}{c^2}(a\ddot a+\dot a^2+Kc^2)\bigr]=-\gamma_{ij}\bigl[\frac{2a\ddot a+\dot a^2}{c^2}+K\bigr]。 右辺は 8πGc4pa2γij\frac{8\pi G}{c^4}pa^2\gamma_{ij} なので、両辺を a2γija^2\gamma_{ij} で割って第 2 式を得ます。

命題 3.4(宇宙が加速する条件)✓

フリードマン方程式から

a¨a=−4πG3(ρ+3pc2)\frac{\ddot a}{a}=-\frac{4\pi G}{3}\Bigl(\rho+\frac{3p}{c^2}\Bigr)

が成り立つ。ρ>0\rho>0 のとき、膨張が加速する(a¨>0\ddot a>0)ための必要十分条件は、状態方程式パラメータ(定義 3.5) が w<−1/3w<-1/3 となることである。

証明(命題 3.4)

定理 3.3 の第 2 式から第 1 式を引くと 2a¨/a=−8πGc2p−8πG3ρ2\ddot a/a=-\frac{8\pi G}{c^2}p-\frac{8\pi G}3\rho、整理して主張の式です。p=wρc2p=w\rho c^2 を代入すると a¨/a=−4πG3ρ(1+3w)\ddot a/a=-\frac{4\pi G}3\rho(1+3w) で、ρ>0\rho>0 なら a¨>0\ddot a>0 と 1+3w<01+3w<0 は同値です。

ニュートン力学でも、半径 RR の一様な球の表面の粒子について R¨/R=−4πG3ρ\ddot R/R=-\frac{4\pi G}3\rho が出ます。圧力の項 3p/c23p/c^2 が重力源として入るのは一般相対論の新しい点で、負の圧力が斥力として働く理由です。

定義 3.5(状態方程式パラメータ)↗

一様に広がった成分について、w=pρc2w=\dfrac{p}{\rho c^2} を状態方程式パラメータという。ふつうの物質(圧力が無視できる塵)は w=0w=0、放射は w=1/3w=1/3 である。

命題 3.6(連続の式と密度の希釈)✓

フリードマン方程式から ρ˙+3H(ρ+p/c2)=0\dot\rho+3H\bigl(\rho+p/c^2\bigr)=0 が従う。ww が定数なら ρ∝a−3(1+w)\rho\propto a^{-3(1+w)}、すなわち物質は a−3a^{-3}、放射は a−4a^{-4}、w=−1w=-1 の成分は定数である。

証明(命題 3.6)

第 1 式を a˙2+Kc2=8πG3ρa2\dot a^2+Kc^2=\frac{8\pi G}3\rho a^2 と書いて時間で微分すると 2a˙a¨=8πG3(ρ˙a2+2ρaa˙)2\dot a\ddot a=\frac{8\pi G}3(\dot\rho a^2+2\rho a\dot a) です。左辺に a¨=−4πG3(ρ+3p/c2)a\ddot a=-\frac{4\pi G}3(\rho+3p/c^2)a を入れると −8πG3(ρ+3p/c2)aa˙-\frac{8\pi G}3(\rho+3p/c^2)a\dot a なので、a2ρ˙=−aa˙(3ρ+3p/c2)a^2\dot\rho=-a\dot a(3\rho+3p/c^2) となり、a2a^2 で割って H=a˙/aH=\dot a/a を使えば主張の式です。p=wρc2p=w\rho c^2 のとき ρ˙/ρ=−3(1+w)a˙/a\dot\rho/\rho=-3(1+w)\dot a/a で、積分して ρ∝a−3(1+w)\rho\propto a^{-3(1+w)} を得ます。

放射の a−4a^{-4} は、体積の希釈 a−3a^{-3} に光子エネルギーの赤方偏移 a−1a^{-1} が加わった結果です。

命題 3.7(エネルギー密度が一定なら圧力は負)✓

ρc2\rho c^2 が時間によらず一定で、宇宙が膨張している(H>0H>0)ならば p=−ρc2p=-\rho c^2、すなわち w=−1w=-1 である。

証明(命題 3.7)

命題 3.6 で ρ˙=0\dot\rho=0、H≠0H\ne0 とすると ρ+p/c2=0\rho+p/c^2=0 です。熱力学の言い方では、体積 VV の領域のエネルギー ρc2V\rho c^2V が、体積 dVdV の増加で ρc2dV\rho c^2dV だけ増えなければならず、断熱の第一法則 dU=−p dVdU=-p\,dV と比べて p=−ρc2p=-\rho c^2 になります。

系 3.8(真空のエネルギーは膨張を加速させる)✓

エネルギー密度が一定の成分(ρΛ>0\rho_\Lambda>0)は膨張を加速させる。

証明(系 3.8)

w=−1<−1/3w=-1<-1/3 なので 命題 3.4 から加速します。実際 a¨/a=−4πG3(ρΛ−3ρΛ)=8πG3ρΛ>0\ddot a/a=-\frac{4\pi G}3(\rho_\Lambda-3\rho_\Lambda)=\frac{8\pi G}3\rho_\Lambda>0 です。

密度の大きさは kg/m3\mathrm{kg/m^3} で測ってもよいのですが、「臨界密度の何倍か」で測ると、宇宙の内訳が割合として読めて便利です。曲率の項も同じ形に書き直すと、全部を足して 1 になるので、定義の ΩK\Omega_K は密度ではなく、その和を 1 にするための割合として導入されます。

定義 3.9(臨界密度と密度パラメータ)↗

ρc=3H028πG\rho_c=\dfrac{3H_0^2}{8\pi G} を臨界密度といい、成分 ii の現在の密度 ρi\rho_{i} に対し Ωi=ρi/ρc\Omega_i=\rho_{i}/\rho_c を密度パラメータという。曲率に対しては ΩK=−Kc2/H02\Omega_K=-Kc^2/H_0^2 と定める。

命題 3.10(密度パラメータによるフリードマン方程式)✓

物質(Ωm\Omega_m)、放射(Ωr\Omega_r)、宇宙定数(ΩΛ\Omega_\Lambda)と曲率が共存するとき、

H(a)2=H02(Ωma3+Ωra4+ΩΛ+ΩKa2),Ωm+Ωr+ΩΛ+ΩK=1H(a)^2=H_0^2\Bigl(\frac{\Omega_m}{a^3}+\frac{\Omega_r}{a^4}+\Omega_\Lambda+\frac{\Omega_K}{a^2}\Bigr),\qquad \Omega_m+\Omega_r+\Omega_\Lambda+\Omega_K=1

が成り立つ。特に K=0K=0 の宇宙(平坦)では Ωm+Ωr+ΩΛ=1\Omega_m+\Omega_r+\Omega_\Lambda=1 である。

証明(命題 3.10)

定理 3.3 の第 1 式に 命題 3.6 の希釈則 ρm=ρcΩma−3\rho_m=\rho_c\Omega_m a^{-3} などを代入し、Kc2/a2=−H02ΩKa−2Kc^2/a^2=-H_0^2\Omega_Ka^{-2} を移項します。a=1a=1 で和が 1 になることは H(1)=H0H(1)=H_0 の言い換えです。

例 3.11(ダークエネルギーはどれくらい濃いのか)

H0=67.4 km/s/Mpc=2.184×10−18 s−1H_0=67.4\ \mathrm{km/s/Mpc}=2.184\times10^{-18}\ \mathrm{s^{-1}} から

ρc=3H028πG=3×(2.184×10−18)28π×6.674×10−11=8.5×10−27 kg/m3\rho_c=\frac{3H_0^2}{8\pi G}=\frac{3\times(2.184\times10^{-18})^2}{8\pi\times6.674\times10^{-11}}=8.5\times10^{-27}\ \mathrm{kg/m^3}

です。水素原子(1.67×10−271.67\times10^{-27} kg)に直すと 1 m31\ \mathrm{m^3} あたり約 5 個。ダークエネルギー(ΩΛ=0.685\Omega_\Lambda=0.685)は 5.8×10−27 kg/m35.8\times10^{-27}\ \mathrm{kg/m^3}、通常の物質(Ωb=0.049\Omega_b=0.049)は水素原子 1 m31\ \mathrm{m^3} あたり約 0.25 個です。

例 3.12(加速はいつ始まったのか)

物質(w=0w=0)と宇宙定数(w=−1w=-1)だけなら、命題 3.4 の括弧の中身は ρm−2ρΛ\rho_m-2\rho_\Lambda です。加速の条件 ρm<2ρΛ\rho_m<2\rho_\Lambda は a3>Ωm/(2ΩΛ)=0.315/1.37=0.230a^3>\Omega_m/(2\Omega_\Lambda)=0.315/1.37=0.230、つまり a>0.613a>0.613、赤方偏移で z<0.63z<0.63 です。光の飛行時間にしておよそ 60 億年前で、宇宙は生涯の前半を減速し、後半に加速に転じました。

定義 4.1(赤方偏移)↗

天体が出した光の波長を λemit\lambda_{\mathrm{emit}}、受け取った波長を λobs\lambda_{\mathrm{obs}} として、z=λobs−λemitλemitz=\dfrac{\lambda_{\mathrm{obs}}-\lambda_{\mathrm{emit}}}{\lambda_{\mathrm{emit}}} を赤方偏移という。

定理 4.2(宇宙論的赤方偏移)✓

FLRW 時空で、共動観測者が時刻 tet_e に出した光を別の共動観測者が時刻 t0t_0 に受け取るとき

1+z=a(t0)a(te)=1a(te)1+z=\frac{a(t_0)}{a(t_e)}=\frac1{a(t_e)}

が成り立つ。

証明(定理 4.2)

光は ds2=0ds^2=0 を満たします。動径方向の光線では c dt=±a dχc\,dt=\pm a\,d\chi です。出発点と到着点の共動距離 χ\chi は一定なので

χ=∫tet0c dta(t)\chi=\int_{t_e}^{t_0}\frac{c\,dt}{a(t)}

です。次の波面は te+δtet_e+\delta t_e に出発し t0+δt0t_0+\delta t_0 に到着します。同じ χ\chi を与えるので ∫tet0=∫te+δtet0+δt0\int_{t_e}^{t_0}=\int_{t_e+\delta t_e}^{t_0+\delta t_0} 、差を取って δt0/a(t0)=δte/a(te)\delta t_0/a(t_0)=\delta t_e/a(t_e) です。周期の比が波長の比なので λobs/λemit=a(t0)/a(te)\lambda_{\mathrm{obs}}/\lambda_{\mathrm{emit}}=a(t_0)/a(t_e) で、a(t0)=1a(t_0)=1 と 定義 4.1 から主張を得ます。

注意 4.3(赤方偏移は空間の伸びである)

z≪1z\ll1 では v≈czv\approx cz のドップラー式と一致しますが、z=3z=3 の銀河が光速の 3 倍で動いているわけではありません。定理 4.2 は光が飛んでいるあいだに空間が伸びた量そのものです。

命題 4.4(ハッブル・ルメートルの法則)✓

共動距離 χ\chi にある銀河の固有距離 d(t)=a(t)χd(t)=a(t)\chi の時間変化率(後退速度)は v=H(t) dv=H(t)\,d である。また z≪1z\ll1 では cz≈H0dcz\approx H_0d である。

証明(命題 4.4)

χ\chi は定数なので v=a˙χ=(a˙/a) aχ=Hdv=\dot a\chi=(\dot a/a)\,a\chi=Hd。後半:a=1/(1+z)a=1/(1+z) より dz=−H(1+z) dtdz=-H(1+z)\,dt なので、定理 4.2 の証明の式は χ=∫0zc dz′H(z′)\chi=\int_0^z\frac{c\,dz'}{H(z')} と書けます。z≪1z\ll1 では χ≈cz/H0\chi\approx cz/H_0、d≈χd\approx\chi です。

系 4.5(膨張に中心はない)✓

どの銀河の観測者から見ても、他の銀河は距離に比例した速さで遠ざかる。したがって観測から膨張の中心は特定できない。

証明(系 4.5)

銀河 A と B の共動座標の差は時間によらず、距離 a χABa\,\chi_{AB} は A から見ても B から見ても同じ形です。命題 4.4 の H(t)H(t) は相手によらないので、どの観測者も同じ法則を見ます。

例 4.6(かみのけ座銀河団までの距離)

後退速度 6900 km/s6900\ \mathrm{km/s} に H0=70 km/s/MpcH_0=70\ \mathrm{km/s/Mpc} を使うと、命題 4.4 から d=98.6 Mpc≈3.2×108d=98.6\ \mathrm{Mpc}\approx3.2\times10^8 光年です。

注意 4.7(ハッブル定数はまだ揉めている)

CMB のゆらぎから間接的に決めた値は H0=67.4±0.5 km/s/MpcH_0=67.4\pm0.5\ \mathrm{km/s/Mpc}、近傍のケフェイドと超新星から直接決めた値は 73.0±1.0 km/s/Mpc73.0\pm1.0\ \mathrm{km/s/Mpc} で、偶然では説明しにくい差です。これをハッブル・テンションといいます。距離はしごの側の事情は 例 5.20 で扱います。

5. 光度距離と宇宙の距離はしご

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宇宙の距離は巻き尺で測れません。測れるのは、光の見かけの明るさ、波長のずれ、天球上の角度だけです。これらを距離に変える規則を、まず FLRW 計量から導き、次にその規則を何段も継いだ「はしご」を組みます。

定義 5.1(光度と放射照度)↗

天体が単位時間に全方向へ放出するエネルギーを光度 LL(W)、観測者の位置で光の向きに垂直な単位面積を単位時間に通る光のエネルギーを放射照度(見かけの明るさ)FF(W/m2\mathrm{W/m^2})という。

命題 5.2(逆二乗の法則)✓

光度 LL の天体が等方的に光を放ち、途中に吸収がなく、空間がユークリッド的とみなせるなら、距離 dd での放射照度は F=L/(4πd2)F=L/(4\pi d^2) である。

証明(命題 5.2)

天体を中心とする半径 dd の球面を、放出されたエネルギー LL が毎秒すべて通過します(吸収なし)。等方なので球面上で一様、面積は 4πd24\pi d^2 ですから、単位面積あたりは L/(4πd2)L/(4\pi d^2) です。観測者はこの球面上にいます。

銀河より遠くでは空間の伸びと赤方偏移が効くため、この法則は次のように修正されます。

定理 5.3(光度距離)✓

FLRW 時空で、共動距離 χ\chi(赤方偏移 zz)にある光度 LL の共動光源から届く放射照度は

F=L4πdL2,dL=(1+z) SK(χ),χ=∫0zc dz′H(z′)F=\frac{L}{4\pi d_L^2},\qquad d_L=(1+z)\,S_K(\chi),\qquad \chi=\int_0^z\frac{c\,dz'}{H(z')}

で与えられる。

証明(定理 5.3)

光源が時間 δte\delta t_e に出すエネルギーは L δteL\,\delta t_e です。定理 4.2 の証明より、この光は δt0=(1+z)δte\delta t_0=(1+z)\delta t_e の時間幅で届きます。光子の個数は保存し、各光子のエネルギーは 1/(1+z)1/(1+z) 倍に下がりますから、観測者が時間 δt0\delta t_0 に受け取るエネルギーは L δte/(1+z)L\,\delta t_e/(1+z) です。光は時刻 t0t_0 に、共動距離 χ\chi の球面を通ります。定義 2.4 の計量から、その面積は 4πa(t0)2SK(χ)2=4πSK(χ)24\pi a(t_0)^2S_K(\chi)^2=4\pi S_K(\chi)^2 です。したがって

F=L δte/(1+z)δt0⋅4πSK(χ)2=L4π(1+z)2SK(χ)2F=\frac{L\,\delta t_e/(1+z)}{\delta t_0\cdot4\pi S_K(\chi)^2}=\frac{L}{4\pi(1+z)^2S_K(\chi)^2}

となり、dLd_L の式を得ます。χ\chi の積分は 命題 4.4 の証明で導いたものです。

近傍(z≪1z\ll1)では SK(χ)≈χ≈dS_K(\chi)\approx\chi\approx d、1+z≈11+z\approx1 なので、命題 5.2 に戻ります。

定義 5.4(標準光源)↗

観測可能な特徴(変光周期、スペクトルの型、光度曲線の形など)から光度 LL を前もって知ることができる天体を標準光源という。

標準光源が見つかれば、FF の観測から dLd_L が出ます。逆二乗則が示すとおり、距離を知るには光度 LL をどこかから調達しなければなりません。この調達を何段も繰り返すのが距離はしごです。

天文学では明るさを対数の等級で表します。

定義 5.5(見かけの等級と絶対等級)↗

放射照度 F1,F2F_1,F_2 の天体の見かけの等級 m1,m2m_1,m_2 は m1−m2=−2.5log⁡10(F1/F2)m_1-m_2=-2.5\log_{10}(F_1/F_2) で定める。天体を距離 10 pc10\ \mathrm{pc} に置いたときの見かけの等級を絶対等級 MM といい、差 μ=m−M\mu=m-M を距離指数という。

命題 5.6(距離指数の公式)✓

吸収がなく近傍でユークリッド的なら、距離 dd(pc)について μ=5log⁡10(d/10 pc)\mu=5\log_{10}(d/10\ \mathrm{pc})、すなわち d=10(μ+5)/5 pcd=10^{(\mu+5)/5}\ \mathrm{pc} である。

証明(命題 5.6)

命題 5.2 より F(d)/F(10 pc)=(10 pc/d)2F(d)/F(10\ \mathrm{pc})=(10\ \mathrm{pc}/d)^2 です。定義 5.5 に入れて m−M=−2.5log⁡10(10 pc/d)2=5log⁡10(d/10 pc)m-M=-2.5\log_{10}(10\ \mathrm{pc}/d)^2=5\log_{10}(d/10\ \mathrm{pc})。後半は log⁡10d=μ/5+1\log_{10}d=\mu/5+1 を解いたものです。

命題 5.7(等級の誤差と距離の誤差)✓

距離指数が δμ\delta\mu だけずれると、距離は 10δμ/510^{\delta\mu/5} 倍になる。∣δμ∣|\delta\mu| が小さいとき δd/d≈ln⁡105δμ≈0.46 δμ\delta d/d\approx\frac{\ln10}{5}\delta\mu\approx0.46\,\delta\mu で、0.1 等のずれは距離の約 4.6 % に当たる。

証明(命題 5.7)

d=10(μ+5)/5d=10^{(\mu+5)/5} なので d(μ+δμ)/d(μ)=10δμ/5=e(ln⁡10/5)δμ≈1+0.4605 δμd(\mu+\delta\mu)/d(\mu)=10^{\delta\mu/5}=e^{(\ln10/5)\delta\mu}\approx1+0.4605\,\delta\mu です。δμ=0.1\delta\mu=0.1 で厳密値 100.02−1=0.04710^{0.02}-1=0.047 と近似 0.0460.046 がよく合います。

定義 5.8(年周視差とパーセク)↗

星を地球の公転軌道の反対側から見たときの方向のずれの半分、すなわち軌道半径 1 au1\ \mathrm{au} を見込む角を年周視差 pp という。p=1′′p=1'' となる距離を 11 パーセク(pc)と定める。

命題 5.9(視差距離の公式)✓

視差を秒角、距離をパーセクで測ると d=1/pd=1/p である。ここで 1 pc=206265 au=3.086×1013 km=3.261\ \mathrm{pc}=206265\ \mathrm{au}=3.086\times10^{13}\ \mathrm{km}=3.26 光年。

証明(命題 5.9)

太陽・地球・星が直角三角形をなし tan⁡p=1 au/d\tan p=1\ \mathrm{au}/d です。pp は微小なので tan⁡p≈p\tan p\approx p (1′′1'' で誤差 10−1110^{-11} 以下)、d=1 au/p[rad]d=1\ \mathrm{au}/p[\mathrm{rad}] です。1 rad=206265′′1\ \mathrm{rad}=206265'' なので d=206265 au/p[′′]d=206265\ \mathrm{au}/p['']、p=1′′p=1'' のときを 1 pc1\ \mathrm{pc} とすれば d[pc]=1/p[′′]d[\mathrm{pc}]=1/p[''] です。

例 5.10(太陽に最も近い星までの距離)

プロキシマ・ケンタウリの年周視差はガイア衛星で p=0.768′′p=0.768'' と測られています。命題 5.9 より d=1/0.768=1.302 pc=4.25d=1/0.768=1.302\ \mathrm{pc}=4.25 光年、4.0×10134.0\times10^{13} km(約 40 兆キロメートル)です。

命題 5.11(視差法が届く距離)✓

視差の測定誤差を σp\sigma_p(秒角)とすると、距離を相対誤差 ε\varepsilon 以内で決められる最大距離は dmax⁡=ε/σpd_{\max}=\varepsilon/\sigma_p(pc)である。

証明(命題 5.11)

d=1/pd=1/p の相対誤差は σp/p=σpd\sigma_p/p=\sigma_p d なので、これが ε\varepsilon 以下という条件が d≤ε/σpd\le\varepsilon/\sigma_p です。

ガイア(σp≈2×10−5\sigma_p\approx2\times10^{-5} 秒角)で ε=0.1\varepsilon=0.1 なら約 5000 pc ですが、銀河系の直径は約 3 万 pc、アンドロメダ銀河までは約 78 万 pc です。幾何学だけでは自分の銀河も横断できません。

5.3. 第二段・第三段:ケフェイドと Ia 型超新星

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定義 5.12(周期光度関係)↗

ケフェイド変光星の変光周期 PP(日)と絶対等級 MVM_V のあいだに成り立つ関係 MV=alog⁡10(P/1 日)+bM_V=a\log_{10}(P/1\ \text{日})+b(可視光で a≈−2.8a\approx-2.8、b≈−1.4b\approx-1.4)を周期光度関係(リービットの法則)という。

命題 5.13(ケフェイドまでの距離)✓

星間減光 AVA_V が分かっているとき、ケフェイドまでの距離は d=10(mV−AV−MV+5)/5 pcd=10^{(m_V-A_V-M_V+5)/5}\ \mathrm{pc} である。

証明(命題 5.13)

周期から 定義 5.12 で MVM_V が決まります。減光は星を暗く、すなわち等級を大きく見せるので、補正後の見かけの等級は mV−AVm_V-A_V です。距離指数 μ0=(mV−AV)−MV\mu_0=(m_V-A_V)-M_V を 命題 5.6 に入れます。

例 5.14(δ ケフェイまでの距離を実際に計算する)

P=5.366P=5.366 日、mV=3.95m_V=3.95、AV=0.28A_V=0.28 等。MV=−2.8×0.7296−1.4=−3.44M_V=-2.8\times0.7296-1.4=-3.44、μ0=3.67+3.44=7.11\mu_0=3.67+3.44=7.11 で、d=1012.11/5=264 pcd=10^{12.11/5}=264\ \mathrm{pc}。ハッブル宇宙望遠鏡の視差は 273±11 pc273\pm11\ \mathrm{pc} で、まったく別の原理による値が誤差の範囲で一致します。減光の補正を忘れると d=301 pcd=301\ \mathrm{pc} と約 14 % 遠く出ます。

注意 5.15(星間減光という永遠の敵)

命題 5.2 は吸収がないことを仮定しています。塵は星を暗く見せるので補正を忘れると距離を過大評価し、青い光ほど強く散乱するので星が赤くなります。この赤化から AVA_V を推定するのが標準的な手口で、塵を通しにくい赤外線の観測も有効です。

注意 5.16(目盛りは一度、間違ったことがある)

1952 年にバーデがケフェイドに二つの種族があることを示し、ハッブルが銀河系外の距離に使った周期光度関係が訂正されて、銀河系外の距離は一気に約 2 倍になりました。下の段の目盛りが狂えば上の段はまとめて狂います。現在も、周期光度関係の金属量依存性が精密測定の主要な不確定要素です。

ケフェイドは約 3000 万 pc(約 1 億光年)まで届きますが、それより遠い銀河では個々の星が分解できません。そこで Ia 型超新星を使います。白色矮星が連星の相手からガスを吸ってチャンドラセカール限界(太陽質量の約 1.4 倍)に近づくと炭素が暴走的に燃えて爆発します。引き金の質量がほぼ一定なので最大光度がそろい、絶対等級は約 −19.3-19.3 と、銀河一つ分に匹敵する明るさです。光度曲線の減光の速さによる補正(フィリップス関係)で、ばらつきは 0.40.4 等から約 0.150.15 等(距離で約 7 %)に下がります。

例 5.17(Ia 型超新星でどこまで届くか)

近傍の銀河 M101 の SN 2011fe は、ケフェイドによる距離指数 μ=29.04\mu=29.04 に対し最大時 9.99.9 等で、MB=9.9−29.04=−19.1M_B=9.9-29.04=-19.1 です。遠方で最大時 mB=20.0m_B=20.0 の同種の超新星があれば、μ=39.1\mu=39.1、d=1044.1/5=6.6×108 pcd=10^{44.1/5}=6.6\times10^8\ \mathrm{pc}(約 21 億光年)。同じ銀河のケフェイド(周期 30 日、MV=−5.54M_V=-5.54)は mV=33.6m_V=33.6 で、ハッブル宇宙望遠鏡の限界(約 30 等)の外です。

注意 5.18(正体はまだ完全にはわかっていない)

伴星からの降着(単縮退)か白色矮星どうしの合体(二重縮退)かは決着しておらず、合体なら爆発時の質量が限界質量に一致するとは限りません。「標準」は証明された定理ではなく、近傍で検証され続けている経験則です。

1 pc100 pc1 万 pc100 万 pc1 億 pc100 億 pc年周視差(約 5000 pc まで)ケフェイド(約 3000 万 pc まで)Ia 型超新星(数十億光年先まで)
距離はしごの各段が測れる範囲(横軸は距離の常用対数、pc 単位)。段どうしが重なる区間で、下の段が上の段の目盛りを刻む。

次の命題は、段を重ねたときに誤差がどう増えるかを述べます。ここで統計誤差は測るたびにばらつく誤差、系統誤差は測り方そのものの偏りで毎回同じ向きにずれる誤差のことです。ばらつきは打ち消し合うことがあるので 2 乗して足し、偏りは打ち消し合わないのでそのまま足します。

命題 5.19(はしごの継ぎ方と誤差の伝わり方)✓

同種の標準光源 A, B(絶対等級 MM が共通)の補正済み見かけの等級を mA,mBm_A,m_B とすると、μB=μA+(mB−mA)\mu_B=\mu_A+(m_B-m_A)、dB/dA=10(mB−mA)/5d_B/d_A=10^{(m_B-m_A)/5} で、MM は現れない。μA\mu_A と mB−mAm_B-m_A の誤差が独立なら σμB=σA2+σAB2\sigma_{\mu_B}=\sqrt{\sigma_A^2+\sigma_{AB}^2}、同じ向きの系統誤差は単純に足し合わさる。

証明(命題 5.19)

μA=mA−M\mu_A=m_A-M、μB=mB−M\mu_B=m_B-M を引くと MM が消えます。距離比は 命題 5.7 と同じ計算です。独立な量の和の分散は分散の和で、系統誤差は確率的ではない決まったずれなので和にそのまま入ります。

誤差は距離では掛け算、等級では足し算で積み上がります。各段の統計誤差が 0.05,0.10,0.150.05,0.10,0.15 等なら合計は 0.035=0.187\sqrt{0.035}=0.187 等(距離で約 8.6 %)です。

例 5.20(0.17 等が引き起こしている大論争)

はしご(視差、ケフェイド、Ia 型超新星)による値は H0=73.0±1.0H_0=73.0\pm1.0、CMB から宇宙論モデルを介した値は 67.4±0.5 km/s/Mpc67.4\pm0.5\ \mathrm{km/s/Mpc}(注意 4.7)。差は合成誤差 1.11.1 の約 5 倍です。H0=v/dH_0=v/d なので、はしごが距離を 8 % 小さく見積もっていれば 73.0/67.4=1.08373.0/67.4=1.083 の差が出ます。命題 5.7 より δμ=0.08/0.46=0.17\delta\mu=0.08/0.46=0.17 等。どこか一段に 17 % 分の明るさのずれが紛れ込めば説明がつくため、点検が続いています。

例 5.21(加速膨張は超新星を「暗く」見せる)

定理 5.3 の dLd_L を、平坦な宇宙二つで z=0.5z=0.5 について数値積分すると次のようになります(c/H0c/H_0 の単位)。

宇宙dL [c/H0]d_L\ [c/H_0]H0=67.4H_0=67.4 での値
物質のみ(Ωm=1\Omega_m=1)0.55050.5505約 8080 億光年
Ωm=0.315, ΩΛ=0.685\Omega_m=0.315,\ \Omega_\Lambda=0.6850.65810.6581約 9595 億光年

比は 1.1951.195、等級にして 5log⁡101.195=0.395\log_{10}1.195=0.39 等だけ、Λ\Lambda の宇宙の超新星のほうが暗くなります。1998 年の二つのチームが見たのはこの「予想より暗い」ずれでした。光が飛ぶあいだの膨張が、物質のみの場合より多かったということで、命題 3.4 の w<−1/3w<-1/3 の成分が宇宙を満たしていることを意味します。

定義 6.1(ハッブル時間)↗

tH=1/H0t_H=1/H_0 をハッブル時間、c tH=c/H0c\,t_H=c/H_0 をハッブル半径という。

例 6.2(ハッブル時間を年に直す)

H0=67.4 km/s/MpcH_0=67.4\ \mathrm{km/s/Mpc} と 1 Mpc=3.0857×1019 km1\ \mathrm{Mpc}=3.0857\times10^{19}\ \mathrm{km} より H0=2.184×10−18 s−1H_0=2.184\times10^{-18}\ \mathrm{s^{-1}}、tH=4.578×1017 s=1.451×1010t_H=4.578\times10^{17}\ \mathrm{s}=1.451\times10^{10} 年(約 145 億年)です。ハッブル半径は 145 億光年。

命題 6.3(等速膨張する宇宙の年齢)✓

a(t)=kta(t)=kt (k>0k>0)なら a=0a=0 は t=0t=0 で、現在までの経過時間は t0=1/H0t_0=1/H_0 である。

証明(命題 6.3)

H=a˙/a=k/(kt)=1/tH=\dot a/a=k/(kt)=1/t なので、現在 H0=1/t0H_0=1/t_0 です。

命題 6.4(宇宙の年齢の積分表示)✓

a(t)a(t) が狭義単調増加で a→0a\to0 となる過去があるなら、その時から現在までの時間は t0=∫01daa H(a)t_0=\displaystyle\int_0^1\frac{da}{a\,H(a)} である。

証明(命題 6.4)

H=a˙/aH=\dot a/a より dt=da/(aH)dt=da/(aH) で、aa を 00 から 11 まで積分します。命題 6.3 は H=H0/aH=H_0/a の場合です。

H(a)H(a) は 命題 3.10 が与えます。

例 6.5(ダークエネルギーを忘れると宇宙は若すぎる)

Ωm=1\Omega_m=1 なら H=H0a−3/2H=H_0a^{-3/2} で t0=1H0∫01a1/2da=231H0=96.7t_0=\frac1{H_0}\int_0^1a^{1/2}da=\frac23\frac1{H_0}=96.7 億年。最古の星団の年齢(約 130 億年)より短く、1990 年代の「年齢問題」でした。

定理 6.6(物質とダークエネルギーからなる平坦な宇宙の年齢)✓

K=0K=0、Ωr=0\Omega_r=0、Ωm+ΩΛ=1\Omega_m+\Omega_\Lambda=1、0<ΩΛ<10<\Omega_\Lambda<1 のとき

t0=23ΩΛln⁡ ⁣(1+ΩΛΩm)⋅1H0.t_0=\frac{2}{3\sqrt{\Omega_\Lambda}}\ln\!\left(\frac{1+\sqrt{\Omega_\Lambda}}{\sqrt{\Omega_m}}\right)\cdot\frac1{H_0}.
証明(定理 6.6)

命題 6.4 に H=H0Ωma−3+ΩΛH=H_0\sqrt{\Omega_ma^{-3}+\Omega_\Lambda} を入れ、根号を a−3/2Ωm+ΩΛa3a^{-3/2}\sqrt{\Omega_m+\Omega_\Lambda a^3} と書くと

t0=1H0∫01a1/2daΩm+ΩΛa3.t_0=\frac1{H_0}\int_0^1\frac{a^{1/2}da}{\sqrt{\Omega_m+\Omega_\Lambda a^3}} .

u=a3/2u=a^{3/2} とおくと a1/2da=23dua^{1/2}da=\frac23du、a3=u2a^3=u^2 で t0=23H0∫01duΩm+ΩΛu2t_0=\frac{2}{3H_0}\int_0^1\frac{du}{\sqrt{\Omega_m+\Omega_\Lambda u^2}} です。dduln⁡(u+u2+A/B)=1/u2+A/B\frac{d}{du}\ln\bigl(u+\sqrt{u^2+A/B}\bigr)=1/\sqrt{u^2+A/B} (A=ΩmA=\Omega_m、B=ΩΛB=\Omega_\Lambda)を使うと

t0=23H0ΩΛln⁡1+1+Ωm/ΩΛΩm/ΩΛ=23H0ΩΛln⁡ΩΛ+ΩΛ+ΩmΩm.t_0=\frac{2}{3H_0\sqrt{\Omega_\Lambda}}\ln\frac{1+\sqrt{1+\Omega_m/\Omega_\Lambda}}{\sqrt{\Omega_m/\Omega_\Lambda}} =\frac{2}{3H_0\sqrt{\Omega_\Lambda}}\ln\frac{\sqrt{\Omega_\Lambda}+\sqrt{\Omega_\Lambda+\Omega_m}}{\sqrt{\Omega_m}} .

ΩΛ+Ωm=1\Omega_\Lambda+\Omega_m=1 で主張の式になります。

例 6.7(実際に代入して 138 億年を出す)

0.685=0.8276\sqrt{0.685}=0.8276、0.315=0.5612\sqrt{0.315}=0.5612、ln⁡(1.8276/0.5612)=ln⁡3.256=1.1806\ln(1.8276/0.5612)=\ln3.256=1.1806、係数 2/(3×0.8276)=0.80542/(3\times0.8276)=0.8054 で t0=0.9509/H0t_0=0.9509/H_0。例 6.2 の 145.1145.1 億年を掛けて 138.0138.0 億年、Planck の 137.97±0.23137.97\pm0.23 億年と一致します。減速(係数 2/32/3)と加速が打ち消し合い、ほぼ 1/H01/H_0 に戻る偶然の時代に私たちは住んでいます。

定義 6.8(粒子的地平線(観測可能な宇宙の半径))↗

a=0a=0 で出た光が現在までに進める共動距離の最大値 χhor\chi_{\mathrm{hor}} を、現在の固有距離として表したものを粒子的地平線という。これより遠くの天体からは、まだ 1 個の光子も届いていない。

命題 6.9(粒子的地平線の積分表示)✓

dhor(t0)=∫0t0c dta(t)=∫01c daa2H(a)d_{\mathrm{hor}}(t_0)=\displaystyle\int_0^{t_0}\frac{c\,dt}{a(t)}=\int_0^1\frac{c\,da}{a^2H(a)} である。

証明(命題 6.9)

動径方向の光線では 定理 4.2 の証明のとおり dχ=c dt/ad\chi=c\,dt/a です。これを 00 から t0t_0 まで積分し、dt=da/(aH)dt=da/(aH) で変数を替えます。

例 6.10(地平線を計算する)

物質のみの宇宙(a=(t/t0)2/3a=(t/t_0)^{2/3})では dhor=∫0t0c(t/t0)−2/3dt=3c t0d_{\mathrm{hor}}=\int_0^{t_0}c(t/t_0)^{-2/3}dt=3c\,t_0 で、光の飛行距離 ct0ct_0 の 3 倍です。実際の宇宙では数値積分で約 461461 億光年(よく引用される値は約 465465 億光年)、c t0=138c\,t_0=138 億光年の約 3.3 倍です。いま届く CMB を放った場所は放射の瞬間に a=1/1100a=1/1100 で私たちから約 4100 万光年に過ぎませんでしたが、いまは約 452 億光年にあります。道が伸びたからで、後退速度は 3.1c3.1c ですが、各点で光は光速で進むので相対論に反しません。

命題 6.11(曲率半径の下限)✓

ΩK≠0\Omega_K\ne0 のとき曲率半径は Rc=c/H0∣ΩK∣R_c=\dfrac{c/H_0}{\sqrt{|\Omega_K|}} である。∣ΩK∣≤0.004|\Omega_K|\le0.004 なら Rc≥2290R_c\ge2290 億光年で、観測可能な宇宙の半径の約 4.94.9 倍である。

証明(命題 6.11)

定義 3.9 より K=−ΩKH02/c2K=-\Omega_KH_0^2/c^2 なので、定理 2.2 の曲率半径 1/∣K∣1/\sqrt{|K|} は (c/H0)/∣ΩK∣(c/H_0)/\sqrt{|\Omega_K|} です。c/H0=145c/H_0=145 億光年、0.004=0.0632\sqrt{0.004}=0.0632 から 145/0.0632=2294145/0.0632=2294 億光年、2294/465=4.92294/465=4.9 です。

Planck と銀河分布の組合せは ΩK=0.0007±0.0019\Omega_K=0.0007\pm0.0019 で、宇宙は平坦に見えます。ただし見える範囲で曲率が小さいことは全体が無限であることを意味せず、「宇宙は無限か」は未決着です。有限でも 3 次元球面やトーラスのように端はありえます。

定義 6.12(事象の地平線)↗

現在出た光が t→∞t\to\infty までに進める共動距離 deh=∫t0∞c dta=∫1∞c daa2H(a)d_{\mathrm{eh}}=\displaystyle\int_{t_0}^\infty\frac{c\,dt}{a}=\int_1^\infty\frac{c\,da}{a^2H(a)} を(宇宙論的な)事象の地平線という。これより遠くで今日起きた出来事は永遠に見えない。

命題 6.13(加速膨張する宇宙には事象の地平線がある)✓

K=0K=0、ΩΛ>0\Omega_\Lambda>0 のとき、deh≤cH0ΩΛd_{\mathrm{eh}}\le\dfrac{c}{H_0\sqrt{\Omega_\Lambda}} である。ΩΛ=0.685\Omega_\Lambda=0.685 では上限は 175 億光年(数値積分値は約 167 億光年)。

証明(命題 6.13)

H(a)≥H0ΩΛH(a)\ge H_0\sqrt{\Omega_\Lambda} なので deh≤cH0ΩΛ∫1∞a−2da=cH0ΩΛd_{\mathrm{eh}}\le\frac{c}{H_0\sqrt{\Omega_\Lambda}}\int_1^\infty a^{-2}da=\frac{c}{H_0\sqrt{\Omega_\Lambda}} です。数値は 145/0.8276=175145/0.8276=175 億光年。

現在の距離が約 167 億光年を超える銀河(およそ z>1.8z>1.8)が今日発した光は、永遠に地球に届きません。

例 6.14(自分で数値積分してみる)

a=u2a=u^2 と置換して台形則で 命題 6.4 と 命題 6.9 を計算します(NumPy 2 以降)。

import numpy as np
H0 = 67.4 # km/s/Mpc
Om, OL, Or = 0.315, 0.685, 9.2e-5
Mpc_km = 3.0857e19 # 1 Mpc [km]
yr_s = 3.1557e7 # 1 年 [s]
tH = Mpc_km / H0 / yr_s # ハッブル時間 [年]
print(f"1/H0 = {tH/1e8:.1f} 億年")
def E(a): # H(a) / H0
return np.sqrt(Om / a**3 + OL + Or / a**4)
u = np.linspace(1e-8, 1.0, 2_000_001) # a = u^2 と置換
a = u**2
age = np.trapezoid(2 * u / (a * E(a)), u) * tH
hor = np.trapezoid(2 * u / (a**2 * E(a)), u) * tH
print(f"年齢 = {age/1e8:.1f} 億年")
print(f"粒子的地平線 = {hor/1e8:.0f} 億光年")

出力は 1/H0 = 145.1 億年、年齢 = 137.9 億年、粒子的地平線 = 461 億光年 です。放射を入れたぶん年齢は手計算より 0.10.1 億年小さく、地平線は Ωr\Omega_r の扱い(ニュートリノを放射とするか)で数 % 動きます。

7. Olbers のパラドックスとその解決

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宇宙が無限に広く、星が一様に散らばり、永遠の昔からあり、静止しているなら、どの視線もいつか星の表面に突き当たり、夜空は太陽の表面と同じ明るさになるはずです。夜が暗いという事実は、この四つの前提のどれかが偽であることを示す観測です。

定義 7.1(流束と面輝度)↗

単位立体角あたりの放射照度 B=F/ΩB=F/\Omega(W/m2/sr\mathrm{W/m^2/sr})を面輝度という。

命題 7.2(面輝度は距離によらない)✓

途中に吸収がなければ、広がりをもつ光源の表面の一部分の面輝度は観測者からの距離によらない。

証明(命題 7.2)

面積 AA の部分を、光度 PP の等方点光源で代表させます。命題 5.2 から F=P/(4πr2)F=P/(4\pi r^2)、一方その部分が占める立体角は Ω=A/r2\Omega=A/r^2 です。よって B=F/Ω=P/(4πA)B=F/\Omega=P/(4\pi A) で rr が消えます。

遠い星は小さく見えるので暗いのであって、表面が暗いのではありません。空が星の表面で埋まれば「小さく見える」という逃げ場がなくなります。

定義 7.3(オルバース宇宙)↗

(1) 空間は無限でユークリッド的、(2) 半径 R∗R_*、光度 LL、表面温度 T∗T_* の同じ星が数密度 nn で一様に(中心はポアソン分布で)分布、(3) 状態は無限の過去から続く、(4) 空間は静止している、(5) 星の間は透明、を満たす理想化された宇宙をオルバース宇宙と呼ぶ。星 1 個が視線をふさぐ断面積 σ=πR∗2\sigma=\pi R_*^2 に対し、λ=1/(nσ)\lambda=1/(n\sigma) を平均自由行程(見通し距離)という。

命題 7.4(球殻の寄与は距離によらない)✓

オルバース宇宙で、観測者を中心とする半径 rr、厚さ Δr\Delta r の球殻内の星から届く流束の合計は、星が互いを隠さないと仮定すれば ΔF=nL Δr\Delta F=nL\,\Delta r で rr によらない。したがって半径 RR 以内の合計は nLRnLR で、R→∞R\to\infty で発散する。

証明(命題 7.4)

球殻の体積は 4πr2Δr4\pi r^2\Delta r なので星の個数は 4πr2n Δr4\pi r^2n\,\Delta r、星 1 個の流束は 命題 5.2 より L/(4πr2)L/(4\pi r^2)。積は nL ΔrnL\,\Delta r で r2r^2 が約分されます。

殻 1:星 1 個、明るさ ×1殻 2:星 4 個、×1/4殻 3:星 9 個、×1/9観測者
視線の円錐を等しい厚さの殻に区切る。遠い殻ほど星の数は距離の 2 乗に比例して増え、1 個あたりの明るさは 2 乗に反比例して減るので、どの殻からも同じ量の光が届く。

定理 7.5(オルバースのパラドックス)✓

オルバース宇宙(定義 7.3) で、星の表面の面輝度を B∗B_* とすると、距離 RR 以内の星だけを考えたときの空の平均面輝度は

Bsky(R)=B∗(1−e−R/λ)B_{\mathrm{sky}}(R)=B_*\bigl(1-e^{-R/\lambda}\bigr)

で、R→∞R\to\infty では Bsky=B∗B_{\mathrm{sky}}=B_*、すなわち夜空は星の表面と同じ明るさになる。

証明(定理 7.5)

視線を一本引きます。半径 R∗R_* の星が視線をふさぐのは、星の中心が視線を軸とする半径 R∗R_* の円柱の内部にあるときです。距離 rr までの円柱の体積は σr\sigma r で、ポアソン分布のもとで含まれる中心の個数の期待値は nσr=r/λn\sigma r=r/\lambda です。個数が 00 である確率は e−r/λe^{-r/\lambda} ですから、距離 RR までに視線が星に当たる確率は 1−e−R/λ1-e^{-R/\lambda} です。当たった方向の面輝度は 命題 7.2 により距離によらず B∗B_*(星の間は透明)、当たらない方向は 00 なので、全天平均は B∗(1−e−R/λ)B_*(1-e^{-R/\lambda}) です。R→∞R\to\infty で B∗B_*。

太陽を代表に取ると、表面の流束は L⊙/(4πR⊙2)=6.3×107 W/m2L_\odot/(4\pi R_\odot^2)=6.3\times10^7\ \mathrm{W/m^2}、面輝度は B⊙=F/π=2.0×107 W/m2/srB_\odot=F/\pi=2.0\times10^7\ \mathrm{W/m^2/sr} です(黒体表面の面輝度が F/πF/\pi である理由は 定理 7.10 の証明で示します)。全天がこの明るさなら地表の受ける流束は 4πB⊙=2.5×108 W/m24\pi B_\odot=2.5\times10^8\ \mathrm{W/m^2} で、太陽定数(1361 W/m21361\ \mathrm{W/m^2})の約 18 万倍、地球は 5772 K5772\ \mathrm{K} まで熱せられて蒸発します。

命題 7.6(吸収体は逃げ道にならない)✓

オルバース宇宙の条件 (1)〜(4) のもとで星の間に塵を置いても、無限の時間ののちに塵は温度 T∗T_* になり、空の面輝度はやはり B∗B_* である。

証明(命題 7.6)

塵の粒は星の光を吸収して加熱され、温度 TdT_d に応じた熱放射を出します。無限の時間のあとの定常状態は吸収と放出の釣り合いで、キルヒホッフの法則(吸収率=放射率)により周囲の放射の温度に等しくなる、すなわち Td=T∗T_d=T_* です。温度 T∗T_* で光る粒は星と同じ面輝度で輝くので、視線をふさいでも暗くはなりません。低温のままなら、星から塵への熱の一方向の流れが続くことになり、熱力学第二法則に反します。

星の数が有限なら、銀河の一様等方性(約 3 億光年以上)と宇宙原理に反します。星が階層的(フラクタル)に分布する宇宙は、光の合計が有限になる条件が D<2D<2 ですが(観測は大スケールで D=3D=3)、実際の宇宙には当てはまりません。残るのは「永遠」と「静止」、とくに前者です。

宇宙に始まりがあれば、視線の長さには限りがあります。定義 6.8 より、光が届く範囲は粒子的地平線の内側です。

命題 7.7(有限の年齢をもつ静的宇宙の夜空)✓

星が過去 t0t_0 の間だけ光っていた(他の条件はそのまま)なら、ct0≪λct_0\ll\lambda のとき Bsky≈B∗ ct0/λB_{\mathrm{sky}}\approx B_*\,ct_0/\lambda、すなわち夜空のうち星が覆う割合は f=ct0/λf=ct_0/\lambda である。

証明(命題 7.7)

距離 R=ct0R=ct_0 より遠い星の光はまだ届いていないので 定理 7.5 の式に R=ct0R=ct_0 を入れ、1−e−x≈x1-e^{-x}\approx x を使います。

例 7.8(宇宙の見通し距離を計算する)

ρc=8.5×10−27 kg/m3\rho_c=8.5\times10^{-27}\ \mathrm{kg/m^3}(例 3.11)の 4.94.9 % が普通の物質、その 7 % が星として ρ∗≈3×10−29 kg/m3\rho_*\approx3\times10^{-29}\ \mathrm{kg/m^3}。太陽質量で割って n=1.5×10−59 m−3n=1.5\times10^{-59}\ \mathrm{m^{-3}}、σ=πR⊙2=1.52×1018 m2\sigma=\pi R_\odot^2=1.52\times10^{18}\ \mathrm{m^2} から

λ=1nσ=4.4×1040 m≈5×1024 光年\lambda=\frac1{n\sigma}=4.4\times10^{40}\ \mathrm{m}\approx5\times10^{24}\ \text{光年}

です。

例 7.9(見積もりを観測と突き合わせる)

ct0=1.38×1010ct_0=1.38\times10^{10} 光年なので f=3.0×10−15f=3.0\times10^{-15}(夜空のうち星が覆うのは 1000 兆分の 3)、Bsky≈6.0×10−8 W/m2/sr=60 nW/m2/srB_{\mathrm{sky}}\approx6.0\times10^{-8}\ \mathrm{W/m^2/sr}=60\ \mathrm{nW/m^2/sr}。観測される銀河系外背景光は 5050〜100 nW/m2/sr100\ \mathrm{nW/m^2/sr} で、同じ桁に収まります。

さらに根本的なのはエネルギー収支です。次の定理は、「夜空全体を星の表面と同じ明るさにするには、空間 1 立方メートルあたりにどれだけの光のエネルギーが要るか」を求め、それを宇宙の全物質の持つエネルギーと比べます。証明は、ある方向から来る光の明るさを全方向で足し合わせて、エネルギー密度に直す計算です。

定理 7.10(夜空を明るくするエネルギーは宇宙に存在しない)✓

夜空全体が温度 T∗T_* の黒体表面と同じ面輝度で輝くには、放射のエネルギー密度が ureq=aT∗4u_{\mathrm{req}}=aT_*^4 (a=4σSB/c=7.566×10−16 J/m3/K4a=4\sigma_{\mathrm{SB}}/c=7.566\times10^{-16}\ \mathrm{J/m^3/K^4})必要である。T∗=5772 KT_*=5772\ \mathrm{K} では ureq=0.84 J/m3u_{\mathrm{req}}=0.84\ \mathrm{J/m^3} で、これは宇宙の全物質(ダークマターを含む)の静止エネルギー密度 umat=Ωmρcc2=2.4×10−10 J/m3u_{\mathrm{mat}}=\Omega_m\rho_cc^2=2.4\times10^{-10}\ \mathrm{J/m^3} の 3.5×1093.5\times10^9 倍である。

証明(定理 7.10)

等方放射の面輝度 BB のうち、立体角 dΩd\Omega から面積 AA を時間 dtdt に通るエネルギーは dE=BA dΩ dtdE=BA\,d\Omega\,dt で、これは長さ c dtc\,dt の柱(体積 Ac dtAc\,dt)にあったので、エネルギー密度は du=B dΩ/cdu=B\,d\Omega/c、全方向で u=4πB/cu=4\pi B/c です。黒体表面は面輝度がどの角度でも等しく、外向き半球で F=∫Bcos⁡θ dΩ=πBF=\int B\cos\theta\,d\Omega=\pi B なので、ステファン・ボルツマンの法則 F=σSBT4F=\sigma_{\mathrm{SB}}T^4 から B=σSBT4/πB=\sigma_{\mathrm{SB}}T^4/\pi です。よって ureq=4σSBT∗4/c=aT∗4u_{\mathrm{req}}=4\sigma_{\mathrm{SB}}T_*^4/c=aT_*^4。数値は T∗4=1.11×1015 K4T_*^4=1.11\times10^{15}\ \mathrm{K^4} から 0.84 J/m30.84\ \mathrm{J/m^3}。一方 ρm=0.315×8.5×10−27=2.7×10−27 kg/m3\rho_m=0.315\times8.5\times10^{-27}=2.7\times10^{-27}\ \mathrm{kg/m^3} に c2c^2 を掛けて umat=2.4×10−10 J/m3u_{\mathrm{mat}}=2.4\times10^{-10}\ \mathrm{J/m^3}、比は 3.5×1093.5\times10^9 です。

核融合が取り出せるのは水素の静止エネルギーの 0.7 % で、ダークマターは燃えません。使える量は 0.007ρbc2=2.6×10−13 J/m30.007\rho_bc^2=2.6\times10^{-13}\ \mathrm{J/m^3} で、必要量の 3 兆分の 1 しかありません。宇宙が無限に古くても、燃料が尽きて夜空は明るくなりません。

注意 7.11

「夜が暗いのは宇宙が膨張して赤方偏移するから」は主要な理由ではありません。Wesson らの解析では、膨張を止めて年齢だけを同じにしても背景光は 2 倍程度しか変わりません。101510^{15} の差の大部分は宇宙が若いこと、そして燃料が有限なことが担っています。

実は視線は、どの方向でも熱い壁に突き当たっています。宇宙誕生の約 38 万年後に電子と陽子が結合して霧が晴れた最終散乱面で、温度は約 3000 K3000\ \mathrm{K}、まさに星の表面のような輝きでした。

例 7.12(宇宙マイクロ波背景放射:1.4 兆分の 1 に薄まった夜空)

最終散乱面の赤方偏移は z≃1090z\simeq1090 です。命題 8.2 により放射は黒体のまま温度が 1/(1+z)1/(1+z) になり、T0=2973/1091=2.73 KT_0=2973/1091=2.73\ \mathrm{K}(観測値 2.7255±0.0006 K2.7255\pm0.0006\ \mathrm{K})、ウィーンの変位則で波長 1.06 mm1.06\ \mathrm{mm} のマイクロ波です。エネルギー密度 u=aT4u=aT^4 は (1+z)−4=1/(1.4×1012)(1+z)^{-4}=1/(1.4\times10^{12}) に薄まり、現在は 4.2×10−14 J/m34.2\times10^{-14}\ \mathrm{J/m^3}。最終散乱面の値 5.9×10−2 J/m35.9\times10^{-2}\ \mathrm{J/m^3} は 定理 7.10 の urequ_{\mathrm{req}} のわずか 14 分の 1 でした。夜空を救ったのは 1.4 兆分の 1 の減光です。

可視光では夜空はほとんど覆われていません(被覆率 3×10−153\times10^{-15})が、マイクロ波では完全に覆われています(被覆率 1)。後者は宇宙膨張の赤方偏移で薄まったものです。

8. ビッグバンの証拠:CMB と軽元素

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ビッグバン理論の中身は「宇宙は昔、いまよりずっと高温・高密度だった」です。「無の一点が爆発した」とは言いません。この主張を支える柱は、膨張(命題 4.4)、CMB、軽元素の存在比の三つです。

定義 8.1(黒体放射)↗

温度 TT の熱平衡にある電磁波の波長ごとの光子数密度は、プランクの式 nλ dλ=8πλ4dλehc/(λkT)−1n_\lambda\,d\lambda=\dfrac{8\pi}{\lambda^4}\dfrac{d\lambda}{e^{hc/(\lambda kT)}-1} で、形は TT だけで決まる。

命題 8.2(膨張は黒体放射を黒体放射に保つ)✓

光子が生成も消滅もしないなら、スケール因子が ss 倍になると温度 TT の黒体放射は温度 T/sT/s の黒体放射になる。したがって T(z)=T0(1+z)T(z)=T_0(1+z) である。

証明(命題 8.2)

定理 4.2 により全光子の波長は λ→sλ\lambda\to s\lambda、光子数密度は体積が s3s^3 倍になるので s−3s^{-3} 倍です。波長 [λ,λ+dλ][\lambda,\lambda+d\lambda] の光子の数密度は s−3nλ(λ)dλs^{-3}n_\lambda(\lambda)d\lambda になり、温度 T/sT/s のプランク分布に λ′=sλ\lambda'=s\lambda、dλ′=s dλd\lambda'=s\,d\lambda を入れると

8π(sλ)4s dλehc/(sλ⋅kT/s)−1=s−38πλ4dλehc/(λkT)−1\frac{8\pi}{(s\lambda)^4}\frac{s\,d\lambda}{e^{hc/(s\lambda\cdot kT/s)}-1}=s^{-3}\frac{8\pi}{\lambda^4}\frac{d\lambda}{e^{hc/(\lambda kT)}-1}

で一致します(指数の中身は ss が約分されて不変)。T∝1/a=(1+z)T\propto1/a=(1+z) から主張を得ます。

例 8.3(ピーク波長を出してみる)

T=2.7255 KT=2.7255\ \mathrm{K} にウィーンの変位則 λmax⁡T=2.898×10−3 m⋅K\lambda_{\max}T=2.898\times10^{-3}\ \mathrm{m\cdot K} を使うと λmax⁡=1.06 mm\lambda_{\max}=1.06\ \mathrm{mm}(マイクロ波)。この放射は 1 cm31\ \mathrm{cm^3} あたり約 411 個の光子に相当します。

例 8.4(宇宙が晴れ上がった時刻)

T≈3000 KT\approx3000\ \mathrm{K} で電子が陽子に捕まり、光が直進できるようになります。命題 8.2 から 1+z=3000/2.7255=11011+z=3000/2.7255=1101、当時の体積は現在の約 1/(1.3×109)1/(1.3\times10^9)、時刻は誕生から約 38 万年後です。

例 8.5(昔の宇宙の温度を直接測る)

z≈2.7z\approx2.7 のガス雲の分子の準位分布から測った温度は約 10 K10\ \mathrm{K} で、予言 2.7255×3.7=10.1 K2.7255\times3.7=10.1\ \mathrm{K} と一致します。CMB が昔から 2.7 K2.7\ \mathrm{K} の別物なら温度は zz によらないはずでした。1992 年には COBE が ΔT/T∼10−5\Delta T/T\sim10^{-5} のゆらぎを検出しました。

宇宙の普通の物質の質量の約 75 % は水素、約 25 % はヘリウムです。星の中で作られたにしては多すぎ、重元素ゼロに外挿した値も 0.245±0.0030.245\pm0.003 で下げ止まるので、星が生まれる前からあったことになります。

以下の見積もりの筋書きは、宇宙が生後 1 秒ほどのとき、中性子と陽子の比がある値で「凍結」して動かなくなり、約 3 分後にヘリウムができ始めるまでに、中性子が自然崩壊で少し減る、というものです。熱くて密度の高い初期宇宙では、粒子どうしの反応が膨張より速く進めば熱平衡の比が保たれ、反応が膨張に追いつけなくなると比がその値で止まります。比さえ分かれば、できるヘリウムの量は個数の勘定だけで決まります。

定義 8.6(ヘリウム質量比)↗

バリオンの全質量のうち 4He^4\mathrm{He} が占める割合を YY、星の影響を除いた初期宇宙起源の値を原始ヘリウム質量比 YpY_p という。

補題 8.7(熱平衡での中性子と陽子の個数比)✓

弱い相互作用で熱平衡にあり、kT≪mpc2kT\ll m_pc^2 なら

nnnp=(mnmp)3/2exp⁡ ⁣(−(mn−mp)c2kT)≈exp⁡ ⁣(−1.29 MeVkT).\frac{n_n}{n_p}=\left(\frac{m_n}{m_p}\right)^{3/2}\exp\!\left(-\frac{(m_n-m_p)c^2}{kT}\right)\approx\exp\!\left(-\frac{1.29\ \mathrm{MeV}}{kT}\right).
証明(補題 8.7)

非相対論的粒子の数密度はマクスウェル・ボルツマン分布から n=g(2πmkTh2)3/2e−mc2/kTn=g\bigl(\frac{2\pi mkT}{h^2}\bigr)^{3/2}e^{-mc^2/kT} です(kT∼1 MeV≪939 MeVkT\sim1\ \mathrm{MeV}\ll939\ \mathrm{MeV})。中性子も陽子もスピン 1/21/2 で g=2g=2 なので比を取ると gg と (2πkT/h2)3/2(2\pi kT/h^2)^{3/2} が約分されて主張の式が残ります。mn/mp=1.0014m_n/m_p=1.0014 から前の因子は 1.0021.002 で落とし、(mn−mp)c2=939.565−938.272=1.29 MeV(m_n-m_p)c^2=939.565-938.272=1.29\ \mathrm{MeV}。

例 8.8(1 秒後の凍結と 3 分間の目減り)

弱い相互作用の反応率は T5T^5、膨張率は T2T^2 に比例するので、kT≈0.8 MeVkT\approx0.8\ \mathrm{MeV}(約 90 億 K、約 1 秒後)で比が凍結し、補題 8.7 から nn/np=e−1.61=0.20=1/5n_n/n_p=e^{-1.61}=0.20=1/5。ヘリウム合成は、光子が核子 1 個あたり約 1.6×1091.6\times10^9 個もあって重水素(結合エネルギー 2.22 MeV2.22\ \mathrm{MeV})を壊すので、kT≈2.22/ln⁡(1.6×109)≈0.1 MeVkT\approx2.22/\ln(1.6\times10^9)\approx0.1\ \mathrm{MeV}、詳しくは 0.07 MeV0.07\ \mathrm{MeV}(約 3 分後)まで始まりません(重水素のボトルネック)。この間に中性子は寿命 880 s880\ \mathrm{s} で崩壊し、t=250 st=250\ \mathrm{s} で nn=0.2e−250/880=0.151n_n=0.2e^{-250/880}=0.151、np=1.049n_p=1.049、比は 0.143=1/70.143=1/7 になります。

命題 8.9(ヘリウム質量比は 1/4 になる)✓

合成開始時に nn:np=1:7n_n:n_p=1:7 で、中性子がすべて 4He^4\mathrm{He} に取り込まれ、より重い核は無視できるなら Y=2(nn/np)1+nn/np=14Y=\dfrac{2(n_n/n_p)}{1+n_n/n_p}=\dfrac14 である。

証明(命題 8.9)

中性子 NnN_n 個、陽子 NpN_p 個(Nn≤NpN_n\le N_p)から 4He^4\mathrm{He} は Nn/2N_n/2 個でき、核子質量を単位に質量は 2Nn2N_n。全質量は Nn+NpN_n+N_p なので Y=2Nn/(Nn+Np)=2r/(1+r)Y=2N_n/(N_n+N_p)=2r/(1+r)、r=1/7r=1/7 で 2/78/7=14\frac{2/7}{8/7}=\frac14。

紙と鉛筆の 0.250.25 に対し、観測 Yp=0.245±0.003Y_p=0.245\pm0.003、丁寧な計算は 0.2470.247 です。

例 8.10(二つのまったく違う方法が同じ答えを出す)

クェーサー吸収線の D/H=2.5×10−5\mathrm{D/H}=2.5\times10^{-5} から元素合成の計算で Ωbh2=0.022\Omega_bh^2=0.022、CMB のゆらぎから独立に Ωbh2=0.0224±0.0002\Omega_bh^2=0.0224\pm0.0002 が得られ、小数第 3 位まで一致します。h=0.67h=0.67 なら Ωb=0.049\Omega_b=0.049、普通の物質は宇宙のエネルギーの約 5 % です。軽元素のうち 7Li^7\mathrm{Li} だけは、予言 5×10−105\times10^{-10} に対し観測 1.6×10−101.6\times10^{-10} と合わず(リチウム問題)、未解決です。

三つの柱は互いに独立に測れるのに、バリオン量や年齢について同じ値を与えます。この理論は「殺せる」形をしています。CMB が黒体からはずれる、T(z)T(z) が T0(1+z)T_0(1+z) からはずれる、宇宙より古い星が見つかる、のどれか一つで破綻します。実際、1990 年代に球状星団が宇宙の年齢より古く見えた時期がありましたが、これは距離の改良とダークエネルギー(例 6.5)で解消しました。

天体の質量は、光(明るさ)からと、重力(運動)からの二通りに測れます。両者が食い違うのがダークマター問題です。

定義 9.1(回転曲線)↗

円盤銀河の中心から距離 rr の星やガスの回転速度 v(r)v(r) を rr の関数として表したものを回転曲線という。

定義 9.2(ダークマター)↗

電磁波を出しも吸いもせず、重力を通じてのみ存在が分かる物質成分をダークマターという。構造形成との整合から、速度は光速より十分遅い(冷たい)と考えられている。

命題 9.3(ケプラー回転)✓

質量 MM の天体が中心にあり外側の質量が無視できるとき、半径 rr の円運動の速さは v=GM/r∝r−1/2v=\sqrt{GM/r}\propto r^{-1/2} である。

証明(命題 9.3)

向心力 mv2/rmv^2/r が重力 GMm/r2GMm/r^2 に等しいので v2=GM/rv^2=GM/r です。

命題 9.4(平坦な回転曲線が意味すること)✓

球対称な銀河で、区間 r1≤r≤r2r_1\le r\le r_2 で v=v0v=v_0(一定)なら、この区間で M(r)=v02r/GM(r)=v_0^2r/G、ρ(r)=v024πGr2\rho(r)=\dfrac{v_0^2}{4\pi Gr^2} である。

証明(命題 9.4)

ニュートンの球殻定理により半径 rr の重力は内側の質量 M(r)M(r) が中心にあるときと同じで、命題 9.3 の釣り合いから M(r)=v2r/GM(r)=v^2r/G。dM/dr=4πr2ρdM/dr=4\pi r^2\rho と dM/dr=v02/GdM/dr=v_0^2/G を等置して ρ=v02/(4πGr2)\rho=v_0^2/(4\pi Gr^2)。

星の光は中心付近に集中していて外側では急に暗くなるのに、質量は rr に比例して増え続けます。光らない球状のハローが広がっているという解釈です。

例 9.5(天の川銀河の重さを 2 か所で量る)

太陽は中心から 8 kpc=2.47×1020 m8\ \mathrm{kpc}=2.47\times10^{20}\ \mathrm{m} を秒速 220 km220\ \mathrm{km} で回っています。命題 9.4 より M(8 kpc)=(2.2×105)2×2.47×10206.674×10−11=1.79×1041 kg=9.0×1010M⊙M(8\ \mathrm{kpc})=\frac{(2.2\times10^5)^2\times2.47\times10^{20}}{6.674\times10^{-11}}=1.79\times10^{41}\ \mathrm{kg}=9.0\times10^{10}M_\odot。ここまでは見える星やガスと釣り合います。水素ガスの電波観測では r=50 kpcr=50\ \mathrm{kpc} でも約 200 km/s200\ \mathrm{km/s} を保つので、M(50 kpc)=(2.0×105)2×1.543×10216.674×10−11=9.25×1041 kg=4.7×1011M⊙M(50\ \mathrm{kpc})=\frac{(2.0\times10^5)^2\times1.543\times10^{21}}{6.674\times10^{-11}}=9.25\times10^{41}\ \mathrm{kg}=4.7\times10^{11}M_\odot と 5 倍以上に増えます。星の光は 15 kpc あたりで尽きているので、増えた分は光らない物質です。銀河全体では約 1012M⊙10^{12}M_\odot、星の総質量(約 6×1010M⊙6\times10^{10}M_\odot)の 15〜20 倍です。

命題 9.6(ビリアル定理)✓

互いの万有引力だけで束縛された統計的に定常な NN 質点系で、運動エネルギー TT とポテンシャルエネルギー UU の長時間平均は 2⟨T⟩+⟨U⟩=02\langle T\rangle+\langle U\rangle=0 を満たす。全質量 MM、広がり RR、視線速度分散 σ\sigma で等方なら M≃3σ2R/GM\simeq3\sigma^2R/G と見積もれる。

証明(命題 9.6)

I=∑mi∣ri∣2I=\sum m_i|\boldsymbol r_i|^2 を 2 回微分すると I¨=2∑mi∣vi∣2+2∑ri⋅Fi=4T+2∑iri⋅Fi\ddot I=2\sum m_i|\boldsymbol v_i|^2+2\sum\boldsymbol r_i\cdot\boldsymbol F_i=4T+2\sum_i\boldsymbol r_i\cdot\boldsymbol F_i です。万有引力では i,ji,j の対をまとめて ∑iri⋅Fi=−G∑i<jmimj∣ri−rj∣=U\sum_i\boldsymbol r_i\cdot\boldsymbol F_i=-G\sum_{i<j}\frac{m_im_j}{|\boldsymbol r_i-\boldsymbol r_j|}=U なので I¨=4T+2U\ddot I=4T+2U。束縛系で II は有界なので長時間平均で I¨→0\ddot I\to0 、2⟨T⟩+⟨U⟩=02\langle T\rangle+\langle U\rangle=0。後半は ⟨T⟩=32Mσ2\langle T\rangle=\frac32M\sigma^2、U≃−GM2/RU\simeq-GM^2/R を代入して 3Mσ2=GM2/R3M\sigma^2=GM^2/R。UU の係数は質量分布で 1 前後変わるので桁の見積もりです。

例 9.7(かみのけ座銀河団の重さ)

σ≈1000 km/s\sigma\approx1000\ \mathrm{km/s}、R≈1.4 Mpc=4.32×1022 mR\approx1.4\ \mathrm{Mpc}=4.32\times10^{22}\ \mathrm{m} から M≃3×1012×4.32×10226.674×10−11=1.9×1045 kg≈1015M⊙M\simeq\frac{3\times10^{12}\times4.32\times10^{22}}{6.674\times10^{-11}}=1.9\times10^{45}\ \mathrm{kg}\approx10^{15}M_\odot。星は約 1013M⊙10^{13}M_\odot、X 線ガスを足しても約 1.5×1014M⊙1.5\times10^{14}M_\odot で、約 85 % が正体不明です(ツビッキーの 1933 年の「400 倍」は距離の目盛りとガスの見落としで約 6 倍に下がりました)。

例 9.8(弾丸銀河団 1E 0657-56)

二つの銀河団の衝突で、銀河はすれ違い、高温ガスは衝撃波で減速して中央に取り残されます。重力レンズの質量分布はガスではなく銀河に付き添って左右に分かれており、ぶつからずに素通りする質量成分が存在する直接の証拠です。

「光らない普通の物質」では済みません。暗い星や惑星はマイクロレンズ探索でハローを埋める量が見つからず、冷たいガスは吸収線として見え、ニュートリノは質量の上限から Ων≲0.003\Omega_\nu\lesssim0.003 です。決め手は二つあります。第一に、バリオン密度は元素合成と CMB が独立に Ωbh2=0.0224\Omega_bh^2=0.0224 と決めるのに、CMB は光と関わらず重力で集まる成分を Ωch2=0.120\Omega_ch^2=0.120(約 5.4 倍)と測ります。第二に、晴れ上がり時点の密度の濃淡は 10−510^{-5} しかなく、バリオンだけでは今日までに 10−210^{-2} にしか育たず銀河ができません。光と関わらないおかげで早くから濃淡を育てた成分が必要です。正体は WIMP、アクシオン、原始ブラックホールなどが候補ですが、未解決です。

ダークエネルギーの証拠は、すでに 例 5.21 と 例 3.12 で見ました。宇宙の内訳は、通常の物質 4.9 %、ダークマター 26.4 %、ダークエネルギー 68.5 % です。ダークエネルギーの素朴な量子論的見積もりは観測値と約 120 桁ずれています。

フリードマン方程式を前向きに解くと、二つの謎が残ります。

命題 10.1(地平線問題)✓

物質と放射だけの宇宙で、晴れ上がり時(a∗=1/1091a_*=1/1091)の粒子的地平線は共動距離で約 9.1 億光年で、現在の CMB の見える球面の半径(約 452 億光年)に対する見込み角は約 1.2∘1.2^\circ である。したがって CMB は互いに因果的に結びつくことのなかった約 1 万個の領域からなるのに、全天で 10−510^{-5} の精度で同じ温度である。

証明(命題 10.1)

命題 6.9 を a∗a_* まで積分します。H=H0Ωma−3+Ωra−4H=H_0\sqrt{\Omega_ma^{-3}+\Omega_ra^{-4}} から ca2H=cH01Ωma+Ωr\frac{c}{a^2H}=\frac{c}{H_0}\frac1{\sqrt{\Omega_ma+\Omega_r}} で、

∫0a∗c daa2H=cH0⋅2Ωm[Ωma∗+Ωr−Ωr]=145.1×0.0630 億光年\int_0^{a_*}\frac{c\,da}{a^2H}=\frac{c}{H_0}\cdot\frac2{\Omega_m}\Bigl[\sqrt{\Omega_ma_*+\Omega_r}-\sqrt{\Omega_r}\Bigr]=145.1\times0.0630\ \text{億光年}

すなわち 9.149.14 億光年です(c/H0=145.1c/H_0=145.1 億光年、2.887×10−4+9.2×10−5=0.01951\sqrt{2.887\times10^{-4}+9.2\times10^{-5}}=0.01951、Ωr=0.00959\sqrt{\Omega_r}=0.00959)。見込み角は 9.14/452=0.0202 rad=1.16∘9.14/452=0.0202\ \mathrm{rad}=1.16^\circ、半径がこの角の円の立体角は πθ2\pi\theta^2 なので、全天 4π4\pi にはおよそ 4/θ2≈1044/\theta^2\approx10^4 個入ります。

命題 10.2(平坦性問題)✓

密度パラメータ Ω(t)=ρ/ρcrit(t)\Omega(t)=\rho/\rho_{\mathrm{crit}}(t)(ρcrit=3H2/(8πG)\rho_{\mathrm{crit}}=3H^2/(8\pi G))は、Ω−1=Kc2(aH)2\Omega-1=\dfrac{Kc^2}{(aH)^2} を満たす。d(aH)/dt=a¨d(aH)/dt=\ddot a なので、a¨<0\ddot a<0 の時代には ∣Ω−1∣|\Omega-1| は時間とともに増え、a¨>0\ddot a>0 の時代には減る。

証明(命題 10.2)

定理 3.3 の第 1 式を H2H^2 で割ると 1+Kc2/(aH)2=Ω1+Kc^2/(aH)^2=\Omega。aH=a˙aH=\dot a ですから d(aH)/dt=a¨d(aH)/dt=\ddot a です。∣Ω−1∣∝(aH)−2|\Omega-1|\propto(aH)^{-2} は aHaH が減れば増え、増えれば減ります。

例 10.3(初期宇宙はどれほど平坦だったか)

∣Ω−1∣=∣ΩK∣/(a2E2)|\Omega-1|=|\Omega_K|/(a^2E^2) (E=H/H0E=H/H_0)で、元素合成の頃(T=1 MeVT=1\ \mathrm{MeV}、a=2.7255/1.16×1010=2.35×10−10a=2.7255/1.16\times10^{10}=2.35\times10^{-10})は放射優勢で a2E2≈Ωra−2=1.7×1015a^2E^2\approx\Omega_ra^{-2}=1.7\times10^{15} です。現在 ∣ΩK∣<0.004|\Omega_K|<0.004 なので、当時 ∣Ω−1∣<2×10−18|\Omega-1|<2\times10^{-18} でなければなりません。偶然とするには微調整が過ぎます。

二つの謎は、減速期(a¨<0\ddot a<0)だけを延長して過去に遡ったことによります。

定理 10.4(インフレーションの条件)✓

次の三つは同値である。(i) a¨>0\ddot a>0、(ii) 共動ハッブル半径 c/(aH)c/(aH) が時間とともに減少する、(iii) ρ>0\rho>0 のとき w<−1/3w<-1/3。

証明(定理 10.4)

aH=a˙aH=\dot a で d(aH)/dt=a¨d(aH)/dt=\ddot a なので、(i)⇔(ii)。(i)⇔(iii) は 命題 3.4 です。

a¨>0\ddot a>0 の時期(インフレーション)が宇宙の最初にあれば、(a) 命題 10.2 により ∣Ω−1∣|\Omega-1| が (aH)−2(aH)^{-2} に比例して急減し、後の減速期の増加を打ち消せます。(b) 共動ハッブル半径が縮むので、今日見える全領域がかつて一つの小さな因果的な領域に入っていたことになります。

最も単純な場合は w=−1w=-1 です。このとき 命題 3.6 から ρ\rho は一定で、KK が無視できれば第 1 式は a˙=Ha\dot a=Ha(HH 一定)となり a∝eHta\propto e^{Ht}(ド・ジッター膨張)です。

例 10.5(必要な膨張倍率(e-folding 数))

インフレーションが H=HinfH=H_{\mathrm{inf}} で aia_i から ae=aieNa_e=a_ie^N まで続き、直後に再加熱で放射優勢になるとします。今日の最大の観測スケール c/(a0H0)c/(a_0H_0) が、インフレーション開始時の共動ハッブル半径 c/(aiHinf)c/(a_iH_{\mathrm{inf}}) より小さいことが条件で、eN≥aeHinf/(a0H0)e^N\ge a_eH_{\mathrm{inf}}/(a_0H_0) です。放射優勢では H=H0Ωr(T/T0)2H=H_0\sqrt{\Omega_r}(T/T_0)^2、a=T0/Ta=T_0/T なので、再加熱温度 TRT_R に対し右辺は Ωr TR/T0\sqrt{\Omega_r}\,T_R/T_0。TR=1015 GeV=1.16×1028 KT_R=10^{15}\ \mathrm{GeV}=1.16\times10^{28}\ \mathrm{K} なら 9.6×10−3×4.3×1027=4.1×10259.6\times10^{-3}\times4.3\times10^{27}=4.1\times10^{25}、N≳59N\gtrsim59。1016 GeV10^{16}\ \mathrm{GeV} では N≳61N\gtrsim61 です。おおよそ 60 倍の e-folding、つまり e60∼1026e^{60}\sim10^{26} 倍の膨張が必要です。

注意 10.6

w≈−1w\approx-1 をつくる機構は、ゆっくり転がる(スローロール)スカラー場のポテンシャルエネルギーが有力ですが、その場の正体と、観測される 10−510^{-5} のゆらぎが量子ゆらぎから生じるという予言の導出は、この記事では証明せず主張のみにとどめます。

演習 11.1易

ある銀河のスペクトルで、静止波長 656.3 nm656.3\ \mathrm{nm} の Hα\mathrm{H}\alpha 線が 721.9 nm721.9\ \mathrm{nm} に観測された。H0=70 km/s/MpcH_0=70\ \mathrm{km/s/Mpc}、c=3.0×105 km/sc=3.0\times10^5\ \mathrm{km/s} として、赤方偏移と、地球からのおよその距離(光年)を求めよ。1 Mpc=3.26×1061\ \mathrm{Mpc}=3.26\times10^6 光年。

解答

定義 4.1 より z=65.6/656.3=0.100z=65.6/656.3=0.100。z≪1z\ll1 なので 命題 4.4 の cz≈H0dcz\approx H_0d が使え、v=cz=3.0×104 km/sv=cz=3.0\times10^4\ \mathrm{km/s}、d=3.0×104/70=4.3×102 Mpc=1.4×109d=3.0\times10^4/70=4.3\times10^2\ \mathrm{Mpc}=1.4\times10^9 光年。z=0.1z=0.1 では膨張の歴史が数 % 効くので目安です。

演習 11.2易

年周視差 p=0.025′′p=0.025''、見かけの等級 m=8.0m=8.0 の恒星の距離(pc と光年)と絶対等級を求めよ。星間減光は無視する。

解答

命題 5.9 より d=1/0.025=40 pc=130d=1/0.025=40\ \mathrm{pc}=130 光年。命題 5.6 より μ=5log⁡104=3.01\mu=5\log_{10}4=3.01、M=8.0−3.01=4.99≈5.0M=8.0-3.01=4.99\approx5.0。太陽の絶対等級(約 4.834.83)に近く、太陽に似た星です。

演習 11.3標準

太陽と同じ大きさの星(半径 6.96×108 m6.96\times10^8\ \mathrm{m})が数密度 n=1.5×10−59 m−3n=1.5\times10^{-59}\ \mathrm{m^{-3}} で一様に分布する。(1) 平均自由行程 λ\lambda を光年で求めよ。(2) 光が 1.38×10101.38\times10^{10} 光年進んだときの被覆率を求めよ。(3) 被覆率が 50 % になるには何年待つ必要があるか。

解答

(1) σ=πR2=1.52×1018 m2\sigma=\pi R^2=1.52\times10^{18}\ \mathrm{m^2}、λ=1/(nσ)=4.4×1040 m=4.6×1024\lambda=1/(n\sigma)=4.4\times10^{40}\ \mathrm{m}=4.6\times10^{24} 光年。(2) 定理 7.5 の証明より 1−e−R/λ≈R/λ=3.0×10−151-e^{-R/\lambda}\approx R/\lambda=3.0\times10^{-15}。(3) e−R/λ=0.5e^{-R/\lambda}=0.5 から R=λln⁡2=3.2×1024R=\lambda\ln2=3.2\times10^{24} 光年なので 3.2×10243.2\times10^{24} 年、宇宙年齢の約 2.3×10142.3\times10^{14} 倍で、星の寿命(高々 101310^{13} 年)をはるかに超えます。

演習 11.4標準

CMB の現在の温度を T0=2.7255 KT_0=2.7255\ \mathrm{K} とする。(1) 最終散乱面(z=1090z=1090)での温度とピーク波長を求めよ。(2) エネルギー密度 u=aT4u=aT^4 の、最終散乱面と現在の比を求め、(1+z)4(1+z)^4 と比べよ。(3) 星の光(面輝度 60 nW/m2/sr60\ \mathrm{nW/m^2/sr})のエネルギー密度 4πB/c4\pi B/c と現在の CMB のエネルギー密度を比べよ。

解答

(1) T=2.7255×1091=2973 KT=2.7255\times1091=2973\ \mathrm{K}、λmax⁡=2.898×10−3/2973=975 nm\lambda_{\max}=2.898\times10^{-3}/2973=975\ \mathrm{nm}(近赤外)。(2) uthen=7.566×10−16×(2973)4=5.9×10−2u_{\mathrm{then}}=7.566\times10^{-16}\times(2973)^4=5.9\times10^{-2}、unow=7.566×10−16×55.2=4.2×10−14 J/m3u_{\mathrm{now}}=7.566\times10^{-16}\times55.2=4.2\times10^{-14}\ \mathrm{J/m^3}、比 1.4×1012=109141.4\times10^{12}=1091^4。(3) ustar=4π×6.0×10−8/(3.00×108)=2.5×10−15 J/m3u_{\mathrm{star}}=4\pi\times6.0\times10^{-8}/(3.00\times10^8)=2.5\times10^{-15}\ \mathrm{J/m^3} で、CMB は星の光の約 17 倍です。

演習 11.5標準

H0=73.0 km/s/MpcH_0=73.0\ \mathrm{km/s/Mpc} を採用したとき、(1) ハッブル時間、(2) 定理 6.6 の係数 0.95090.9509 を用いた宇宙の年齢を求め、最古の球状星団の年齢(130 億年)と比べよ。

解答

(1) H0=73.0/(3.0857×1019)=2.366×10−18 s−1H_0=73.0/(3.0857\times10^{19})=2.366\times10^{-18}\ \mathrm{s^{-1}}、1/H0=4.227×1017 s=1341/H_0=4.227\times10^{17}\ \mathrm{s}=134 億年(145.1/1.083145.1/1.083 とも一致)。(2) 0.9509×133.9=127.30.9509\times133.9=127.3 億年で、130 億年を下回ります。星の年齢の誤差(約 5 億年)を考えても余裕がなく、ハッブル・テンションが単なる測定誤差とは言い切れない理由の一つです。

演習 11.6難

物質のみの平坦な宇宙(Ωm=1\Omega_m=1)で、(1) a(t)=(t/t0)2/3a(t)=(t/t_0)^{2/3} を示せ。(2) 命題 6.9 の aa による積分形から粒子的地平線が 3ct03ct_0 になることを示せ。

解答

(1) 命題 3.10 より H=H0a−3/2H=H_0a^{-3/2}。a˙=aH=H0a−1/2\dot a=aH=H_0a^{-1/2} を変数分離して 23a3/2=H0t\frac23a^{3/2}=H_0t(t=0t=0 で a=0a=0)。a(t0)=1a(t_0)=1 から H0t0=2/3H_0t_0=2/3、a=(t/t0)2/3a=(t/t_0)^{2/3}。(2) dhor=cH0∫01a−1/2da=2cH0=2c⋅32t0=3ct0d_{\mathrm{hor}}=\frac c{H_0}\int_0^1a^{-1/2}da=\frac{2c}{H_0}=2c\cdot\frac32t_0=3ct_0。a−1/2a^{-1/2} は a→0a\to0 で発散しても可積分です。

  • Harrison, E. R., Darkness at Night: A Riddle of the Universe, Harvard University Press, 1987. — Olbers のパラドックスの歴史と物理。
  • Wesson, P. S., Valle, K., Stabell, R., “The extragalactic background light and a definitive resolution of Olbers’s paradox”, The Astrophysical Journal 317 (1987), 601. — 有限の年齢と赤方偏移の寄与の分離(注意 7.11)。
  • Planck Collaboration, “Planck 2018 results. VI. Cosmological parameters”, Astronomy & Astrophysics 641 (2020), A6. arXiv:1807.06209 — H0H_0、Ωm\Omega_m、ΩΛ\Omega_\Lambda、ΩK\Omega_K、年齢の値の出典。
  • Riess, A. G. et al., “A Comprehensive Measurement of the Local Value of the Hubble Constant with 1 km/s/Mpc Uncertainty from the Hubble Space Telescope and the SH0ES Team”, The Astrophysical Journal Letters 934 (2022), L7. arXiv:2112.04510 — ハッブル・テンションの一方。
  • Davis, T. M., Lineweaver, C. H., “Expanding Confusion: Common Misconceptions of Cosmological Horizons and the Superluminal Expansion of the Universe”, Publications of the Astronomical Society of Australia 21 (2004), 97–109. arXiv:astro-ph/0310808 — 地平線と超光速後退。
  • 松原隆彦『現代宇宙論 ― 時空と物質の共進化』東京大学出版会、2010 — フリードマン方程式、距離、地平線、インフレーション。

このテーマの 100 本ノック(50 問)

執筆: Claude Code(Sonnet 5.5)・監査 2 回(Claude Code)・最終 2026-10-12

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