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リーマン予想 III:ℜs > 7/8 の零点なし半平面という主張(OpenAI, 2026)を読む

対象読者: リーマン予想 I・II の内容(零点なし領域、Dirichlet L 関数、一般化リーマン予想)と、代数体の整数環・イデアルの初歩を学んだ人。Hecke L 関数は仮定しません。

前提となる記事:リーマン予想 I:ゼータ関数の零点の理論(Hadamard 積・零点の個数・古典的零点なし領域)、リーマン予想 II:歴史と各種のアプローチ(Hardy の定理・Dirichlet L 関数・零点密度・Hilbert–Pólya・関数体)、代数体の整数環と Dedekind 整域:イデアルで素因数分解を取り戻す

生 Markdown

素数は、数が大きくなるとだいたいどのくらいの割合で現れるのでしょうか。その「だいたい」の誤差を決めるのが、ゼータ関数という関数が 00 になる点(零点)の位置です。零点が一定の範囲に入らないと言えれば、素数の数え上げの誤差は小さく抑えられます。この記事は、2026 年に OpenAI が公表した「零点はある右半分の領域に存在しない」という主張を取り上げます。主張が正しいかどうかは判定せず、周辺の確立した数学を証明し、主張とその帰結を区別して読めるようになることを目標にします。

  • 主張は「F=Q(−3)F=\mathbb{Q}(\sqrt{-3}) 上のすべての有限位数 Hecke LL 関数と、すべての Dirichlet LL 関数(ζ\zeta を含む)は、半平面 Re⁡s>78\operatorname{Re}s\gt\frac78 に零点をもたない」です(注意 3.1)。第 2 章の言葉では QRH(78)\mathrm{QRH}(\frac78) です。
  • これはリーマン予想の証明ではありません。原稿自身がそう書いています。リーマン予想は零点の実部が 12\frac12 だという主張で、78\frac78 との間には幅 38\frac38 の帯が残ります。
  • それでも、正しければ質的に新しい結果です。確立している零点なし領域(Vinogradov–Korobov 型)は高さとともに幅が 00 に縮み、幅が高さによらない帯の零点なし領域は、これまで 1 つも証明されていませんでした。
  • 原稿の議論の骨組みのうち、接続の原理(命題 5.1)、Hecke の族から Dirichlet・ζ\zeta への移行(命題 4.2)、加法的 large sieve(互いによく離れた点での値の二乗和を抑える不等式。定理 6.2)は、この記事で独立に証明します。3 次テータ関数(3 次の Gauss 和を係数にもつ特別な関数)と 6 次の large sieve を使う本体は、原稿に書かれていることを節と補題の番号つきで紹介するにとどめます。
  • 主張が正しいと仮定すると、ψ(x)=x+O(x7/8log⁡2x)\psi(x)=x+O(x^{7/8}\log^2x)、算術級数での同様の評価、Siegel 零点の非存在が従います(命題 7.2)。
  • 検証の状況は、Lean による形式化の記載(一次資料で確認)と、人が読む証明としての査読(未了)を分けて §8 に書きます。

1. 動機:何が主張され、なぜ注目されるのか

Section titled “1. 動機:何が主張され、なぜ注目されるのか”

第 1 章の対照表を思い出します。零点なし領域の幅と素数定理の誤差項は対応していて、確立した結果(古典的領域、Vinogradov–Korobov の領域)では、誤差項はどんな δ>0\delta\gt0 についても x1−δx^{1-\delta} より大きいままでした。冪の節約 ψ(x)=x+O(xΘ+ε)\psi(x)=x+O(x^{\Theta+\varepsilon})(Θ<1\Theta\lt1)は、半平面 Re⁡s>Θ\operatorname{Re}s\gt\Theta に零点がないことと同値で(定理 7.2[リーマン予想 I] と 補題 7.12[リーマン予想とは何か])、どの Θ<1\Theta\lt1 についても未証明でした。

2026 年 9 月 30 日付の原稿は、Θ=78\Theta=\frac78 でこれが成り立つと主張します。しかも ζ\zeta だけでなく、すべての Dirichlet LL 関数について、指標にも法にも高さにもよらない一様な形で、です。

この記事の読み方を先に述べます。原稿は 199 ページで、2 部に分かれます。第 I 部(§3〜§11)が 1112\frac{11}{12} の半平面、第 II 部(§12〜§20)がそれを入力にした 78\frac78 の半平面です。この記事で確認できたのは次の範囲です。

  • 全文を読んだ部分: §1(序論、証明の概観、系)、§2(接続の原理とその証明)、§3、§4.1(記号)、Lemma 6.2 と Proposition 6.3 の証明、Lemma 8.1 の証明、§11(1112\frac{11}{12} の結論と Dirichlet への移行)、§12 の冒頭(第 II 部の設定)、Theorem 1.1 の証明の最後の段。
  • 文と前後の説明だけを読んだ部分: Proposition 5.1、Lemma 5.8、Lemma 6.1、Lemma 7.1、Lemma 8.2、Lemma 9.1、Proposition 9.2、Lemma 10.5、Proposition 15.3、Lemma 17.1、Lemma 18.1、Proposition 19.2、Lemma 20.2、Proposition 20.3。
  • 読んでいない部分: 上の命題・補題の証明の本体(Proposition 5.1 の約 10 ページ、§10、§14〜§18 の帰納法など、合わせて 150 ページ以上)。同じリポジトリにある別証明(2026 年 10 月 5 日付、1112\frac{11}{12})、Landau–Siegel 零点の原稿(10 月 1 日付)、overview.pdf、Lean の証明本体のソース。

したがって §6 の「証明の骨子」は、原稿が何を示すと書いているかの紹介で、各段が正しいことの確認ではありません。読んでいない部分を推測で補うことはしません。

2. 準備:Eisenstein 整数と Hecke L 関数

Section titled “2. 準備:Eisenstein 整数と Hecke L 関数”

主張の主役は ζ\zeta ではなく、虚 2 次体 F=Q(−3)F=\mathbb{Q}(\sqrt{-3}) 上の LL 関数の族です。まずその舞台を作ります。ω=e2πi/3=−1+−32\omega=e^{2\pi i/3}=\frac{-1+\sqrt{-3}}2 とします。ω2+ω+1=0\omega^2+\omega+1=0、ωˉ=ω2=−1−ω\bar\omega=\omega^2=-1-\omega です。

定義 2.1(Eisenstein 整数とノルム)↗

O:=Z[ω]={a+bω: a,b∈Z}\mathcal{O}:=\mathbb{Z}[\omega]=\{a+b\omega:\ a,b\in\mathbb{Z}\} の元を Eisenstein 整数という。α=a+bω\alpha=a+b\omega のノルムを

N(α):=ααˉ=∣α∣2=a2−ab+b2N(\alpha):=\alpha\bar\alpha=|\alpha|^2=a^2-ab+b^2

で定める。O\mathcal{O} は F=Q(−3)F=\mathbb{Q}(\sqrt{-3}) の整数環である(命題 8.1[代数体の整数環と Dedekind 整域] の m=−3≡1(mod4)m=-3\equiv1\pmod4 の場合。1+−32=1+ω\frac{1+\sqrt{-3}}2=1+\omega)。00 でないイデアル a\mathfrak{a} のノルムは Na:=∣O/a∣N\mathfrak{a}:=|\mathcal{O}/\mathfrak{a}|(定義 5.1[代数体の整数環と Dedekind 整域])で、N(αO)=N(α)N(\alpha\mathcal{O})=N(\alpha) である(命題 5.3[代数体の整数環と Dedekind 整域] の 3)。λ:=−3=1+2ω\lambda:=\sqrt{-3}=1+2\omega とおく。N(λ)=3N(\lambda)=3、λ2=−3\lambda^2=-3 である。

命題 2.2(ℤ[ω] の算術)✓

  1. O\mathcal{O} はノルムについて Euclid 整域である。すなわち α,β∈O\alpha,\beta\in\mathcal{O}、β≠0\beta\ne0 に対して α=κβ+ρ\alpha=\kappa\beta+\rho、N(ρ)<N(β)N(\rho)\lt N(\beta) を満たす κ,ρ∈O\kappa,\rho\in\mathcal{O} が存在する。したがって O\mathcal{O} のイデアルはすべて単項で、O\mathcal{O} は一意分解整域である。
  2. O\mathcal{O} の単数は ±1,±ω,±ω2\pm1,\pm\omega,\pm\omega^2 の 66 個である。
  3. α∈O\alpha\in\mathcal{O} が λ\lambda で割り切れないとき、uα≡1(mod3O)u\alpha\equiv1\pmod{3\mathcal{O}} を満たす単数 uu がただ 1 つ存在する。したがって、33 と互いに素な 00 でないイデアルは、≡1(mod3)\equiv1\pmod3 である生成元をただ 1 つもつ。
証明(命題 2.2)

1. α/β=αβˉ/N(β)=u+vω\alpha/\beta=\alpha\bar\beta/N(\beta)=u+v\omega(u,v∈Qu,v\in\mathbb{Q})と書き、∣u−m∣≤12|u-m|\le\frac12、∣v−n∣≤12|v-n|\le\frac12 となる整数 m,nm,n を取ります。κ=m+nω\kappa=m+n\omega、ρ=α−κβ\rho=\alpha-\kappa\beta とおくと、x=u−mx=u-m、y=v−ny=v-n について

N(ρ)=N(β) ∣x+yω∣2=N(β) (x2−xy+y2)≤N(β)(14+14+14)<N(β)N(\rho)=N(\beta)\,|x+y\omega|^2=N(\beta)\,(x^2-xy+y^2)\le N(\beta)\Bigl(\frac14+\frac14+\frac14\Bigr)\lt N(\beta)

です。00 でないイデアル a\mathfrak{a} について、a\mathfrak{a} の 00 でない元のうちノルムが最小のもの β\beta を取ると、任意の α∈a\alpha\in\mathfrak{a} について ρ=α−κβ∈a\rho=\alpha-\kappa\beta\in\mathfrak{a}、N(ρ)<N(β)N(\rho)\lt N(\beta) なので ρ=0\rho=0、すなわち a=βO\mathfrak{a}=\beta\mathcal{O} です。単項イデアル整域は一意分解整域です(定理 2.5[多項式環と体の拡大])。

2. NN は乗法的で非負整数値なので、uu が単数なら N(u)N(u−1)=1N(u)N(u^{-1})=1 から N(u)=1N(u)=1、逆に N(u)=uuˉ=1N(u)=u\bar u=1 なら uˉ\bar u が逆元です。a2−ab+b2=1a^2-ab+b^2=1 は (2a−b)2+3b2=4(2a-b)^2+3b^2=4 と同値で、整数解は b=0b=0、a=±1a=\pm1 と、b=±1b=\pm1、2a−b=±12a-b=\pm1、すなわち (a,b)=(±1,0),(0,±1),(1,1),(−1,−1)(a,b)=(\pm1,0),(0,\pm1),(1,1),(-1,-1) の 66 組です。1+ω=−ω21+\omega=-\omega^2 なので、これらは ±1,±ω,±ω2\pm1,\pm\omega,\pm\omega^2 です。

3. ω(1−ω)=ω−ω2=1+2ω=λ\omega(1-\omega)=\omega-\omega^2=1+2\omega=\lambda なので ω≡1(modλ)\omega\equiv1\pmod\lambda で、a+bω≡a+b(modλ)a+b\omega\equiv a+b\pmod\lambda です。N(λ)=3N(\lambda)=3 から O/λO\mathcal{O}/\lambda\mathcal{O} は 33 元体で、a+bωa+b\omega が λ\lambda で割り切れることは a+b≡0(mod3)a+b\equiv0\pmod3 と同値です。O/3O\mathcal{O}/3\mathcal{O} は (a mod 3,b mod 3)(a\bmod3,b\bmod3) で表される 99 元からなり、3=−λ23=-\lambda^2 なので、その単元は λ\lambda で割り切れない類、すなわち a+b≢0a+b\not\equiv0 の 66 個です。6 個の単数の類は (1,0),(2,0),(0,1),(0,2),(2,2),(1,1)(1,0),(2,0),(0,1),(0,2),(2,2),(1,1) で相異なり、どれも a+b≢0a+b\not\equiv0 なので、写像 O×→(O/3O)×\mathcal{O}^\times\to(\mathcal{O}/3\mathcal{O})^\times は全単射です。α\alpha が λ\lambda で割り切れなければ、その類はある単数 u0u_0 の類にちょうど 1 通りに一致し、u=u0−1u=u_0^{-1} が求める唯一の単数です。イデアルの生成元は単数倍を除いて一意なので、後半が従います。

3 の生成元を、原稿は primary な生成元と呼んでいます。有理整数で「正の生成元を選ぶ」ことに当たる正規化で、これによりイデアルについての和を元についての和に直せます。

補題 2.3(素数の ℤ[ω] での分解)✓

pp を素数とし、χ−3\chi_{-3} を法 33 の主指標でない Dirichlet 指標(χ−3(n)=1,−1,0\chi_{-3}(n)=1,-1,0 が n≡1,2,0(mod3)n\equiv1,2,0\pmod3 に対応)とする。

  1. p=3p=3: 3O=(λ)23\mathcal{O}=(\lambda)^2。(λ)(\lambda) はノルム 33 の素イデアル(分岐)。
  2. p≡1(mod3)p\equiv1\pmod3: pO=pp′p\mathcal{O}=\mathfrak{p}\mathfrak{p}'、p≠p′\mathfrak{p}\ne\mathfrak{p}' はノルム pp の素イデアル(分解)。
  3. p≡2(mod3)p\equiv2\pmod3: pOp\mathcal{O} はノルム p2p^2 の素イデアル(惰性)。

O\mathcal{O} の 00 でない素イデアルはこれらで尽くされる。したがって p≠3p\ne3 について、pp の上の素イデアルの個数は 1+χ−3(p)1+\chi_{-3}(p) である。

証明(補題 2.3)

命題 8.2[代数体の整数環と Dedekind 整域] を m=−3m=-3(判別式 dF=−3d_F=-3)に使います。1 は 3∣dF3\mid d_F と 3=−λ23=-\lambda^2 から。p=2p=2 は −3≡5(mod8)-3\equiv5\pmod8 なので惰性で、2≡2(mod3)2\equiv2\pmod3 と合っています。p≥5p\ge5 では、(−3p)=1\bigl(\frac{-3}p\bigr)=1 なら分解、−1-1 なら惰性です。Legendre 記号の乗法性と (−1p)=(−1)(p−1)/2\bigl(\frac{-1}p\bigr)=(-1)^{(p-1)/2}(系 3.4[原始根と平方剰余の相互法則])、相互法則 (3p)(p3)=(−1)(p−1)/2\bigl(\frac3p\bigr)\bigl(\frac p3\bigr)=(-1)^{(p-1)/2}(定理 5.3[原始根と平方剰余の相互法則])から

(−3p)=(−1p)(3p)=(−1)(p−1)/2⋅(−1)(p−1)/2(p3)=(p3)=χ−3(p)\Bigl(\frac{-3}p\Bigr)=\Bigl(\frac{-1}p\Bigr)\Bigl(\frac3p\Bigr)=(-1)^{(p-1)/2}\cdot(-1)^{(p-1)/2}\Bigl(\frac p3\Bigr)=\Bigl(\frac p3\Bigr)=\chi_{-3}(p)

です。ノルムは、分解なら剰余次数 11 で pp、惰性なら剰余次数 22 で p2p^2 です(定義 5.1[代数体の整数環と Dedekind 整域])。最後に、00 でない素イデアル p\mathfrak{p} は整数 NpN\mathfrak{p} を含む(命題 5.3[代数体の整数環と Dedekind 整域] の 4)ので、その素因数のどれか pp を含み、pOp\mathcal{O} の素イデアル分解(定理 4.5[代数体の整数環と Dedekind 整域])に現れます。

Dirichlet 指標が整数に値を割り当てるのに対し、Hecke 指標は O\mathcal{O} のイデアルに値を割り当てます。O\mathcal{O} のイデアルはすべて単項なので、イデアルを生成元 α\alpha で表し、α\alpha を法 f\mathfrak{f} で見た類に指標を適用する、という仕組みです。次の定義は、この「イデアルに対する Dirichlet 指標」を正確に述べたものです。

定義 2.4(有限位数 Hecke 指標と Hecke L 関数)↗

f\mathfrak{f} を O\mathcal{O} の 00 でないイデアルとし、χ:(O/f)×→C×\chi:(\mathcal{O}/\mathfrak{f})^\times\to\mathbb{C}^\times を、66 個の単数 uu すべてについて χ(u mod f)=1\chi(u\bmod\mathfrak{f})=1 を満たす群準同型とする。00 でないイデアル a=αO\mathfrak{a}=\alpha\mathcal{O} に対して

η(a):={χ(α mod f)(a+f=O)0(それ以外)\eta(\mathfrak{a}):=\begin{cases}\chi(\alpha\bmod\mathfrak{f})&(\mathfrak{a}+\mathfrak{f}=\mathcal{O})\\0&(\text{それ以外})\end{cases}

と定める(生成元 α\alpha は単数倍を除いて一意で、χ\chi は単数で 11 なので、値は α\alpha の選び方によらない)。この η\eta を法 f\mathfrak{f} の有限位数 Hecke 指標という。η(ab)=η(a)η(b)\eta(\mathfrak{a}\mathfrak{b})=\eta(\mathfrak{a})\eta(\mathfrak{b}) が成り立つ。χ\chi が自明なとき η\eta を主指標という。Dirichlet 指標の場合(定義 2.2[リーマン予想 II])と同じく、f′⊃f\mathfrak{f}'\supset\mathfrak{f} を法とする指標 η∗\eta^{*} が f\mathfrak{f} と互いに素なすべてのイデアルで η\eta と一致するとき η\eta は η∗\eta^{*} から誘導されるといい、真に大きい f′\mathfrak{f}' の指標から誘導されないとき原始的という。Re⁡s>1\operatorname{Re}s\gt1 で

LF(s,η):=∑a≠0η(a)(Na)sL_F(s,\eta):=\sum_{\mathfrak{a}\ne0}\frac{\eta(\mathfrak{a})}{(N\mathfrak{a})^{s}}

を Hecke LL 関数という(和は O\mathcal{O} の 00 でないイデアル全体。収束は 補題 2.5)。f=O\mathfrak{f}=\mathcal{O} の主指標では LF(s,η)=ζF(s):=∑a(Na)−sL_F(s,\eta)=\zeta_F(s):=\sum_{\mathfrak{a}}(N\mathfrak{a})^{-s}(Dedekind ゼータ関数)である。

原稿は η\eta を「法 f\mathfrak{f} の射類群の指標を、f\mathfrak{f} と互いに素でないイデアルでは 00 として延ばしたもの」と定義しています。O\mathcal{O} のイデアルはすべて単項なので(命題 2.2)、f\mathfrak{f} と互いに素なイデアル αO\alpha\mathcal{O} に α mod f\alpha\bmod\mathfrak{f} を対応させると、射類群は (O/f)×(\mathcal{O}/\mathfrak{f})^\times を単数の像で割った群と同一視でき、上の定義と同じものになります。FF は実素点をもたず、複素素点は有限位数の指標に寄与しないので、無限素点での条件はありません。「有限位数」は、α↦(α/∣α∣)k\alpha\mapsto(\alpha/|\alpha|)^k のような無限位数の成分(量指標)を含まないという意味です。

補題 2.5(Hecke L 関数の Euler 積)✓

η\eta を有限位数 Hecke 指標とする。Re⁡s>1\operatorname{Re}s\gt1 で LF(s,η)L_F(s,\eta) の級数は絶対収束し、

LF(s,η)=∏p(1−η(p)(Np)−s)−1≠0L_F(s,\eta)=\prod_{\mathfrak{p}}\bigl(1-\eta(\mathfrak{p})(N\mathfrak{p})^{-s}\bigr)^{-1}\ne0

が成り立つ(積は 00 でない素イデアル全体を、ノルムの小さい順に掛けた極限)。

証明(補題 2.5)

σ=Re⁡s>1\sigma=\operatorname{Re}s\gt1 とします。補題 2.3 から、各素数 pp の上の素イデアルは高々 22 個で、ノルムは pp 以上、最小のノルムは 33 です。よって ∑p(Np)−σ≤2∑pp−σ<∞\sum_{\mathfrak{p}}(N\mathfrak{p})^{-\sigma}\le2\sum_pp^{-\sigma}\lt\infty です。wp=η(p)(Np)−sw_{\mathfrak{p}}=\eta(\mathfrak{p})(N\mathfrak{p})^{-s} は ∣wp∣≤13|w_{\mathfrak{p}}|\le\frac13 を満たし、∑p∑k≥1∣wp∣kk≤32∑p∣wp∣<∞\sum_{\mathfrak{p}}\sum_{k\ge1}\frac{|w_{\mathfrak{p}}|^k}k\le\frac32\sum_{\mathfrak{p}}|w_{\mathfrak{p}}|\lt\infty なので、exp⁡(∑kwk/k)=(1−w)−1\exp(\sum_kw^k/k)=(1-w)^{-1} から、積は 00 でない値 exp⁡(∑p∑kwpkk)\exp\bigl(\sum_{\mathfrak{p}}\sum_k\frac{w_{\mathfrak{p}}^k}k\bigr) に収束します。

X>0X\gt0 について、ノルムが XX 以下の素イデアル(有限個)にわたる部分積の各因子を等比級数に展開します。O\mathcal{O} は Dedekind 整域(定理 4.2[代数体の整数環と Dedekind 整域])で、00 でないイデアルは素イデアルの積に一意に分解し(定理 4.5[代数体の整数環と Dedekind 整域])、NN と η\eta は乗法的(命題 5.3[代数体の整数環と Dedekind 整域] の 3)なので、部分積は ∑a∈SXη(a)(Na)−s\sum_{\mathfrak{a}\in S_X}\eta(\mathfrak{a})(N\mathfrak{a})^{-s} に等しくなります(SXS_X は素因子のノルムがすべて XX 以下のイデアルの集合。有限個の絶対収束級数の積の展開)。η\eta を 11、ss を σ\sigma に替えた同じ等式から ∑a∈SX(Na)−σ≤exp⁡(32∑p(Np)−σ)\sum_{\mathfrak{a}\in S_X}(N\mathfrak{a})^{-\sigma}\le\exp\bigl(\frac32\sum_{\mathfrak{p}}(N\mathfrak{p})^{-\sigma}\bigr) で、右辺は XX によらないので、∑a(Na)−σ<∞\sum_{\mathfrak{a}}(N\mathfrak{a})^{-\sigma}\lt\infty です。SXS_X はノルムが XX 以下のイデアルをすべて含むので、∣LF(s,η)−∑a∈SXη(a)(Na)−s∣≤∑Na>X(Na)−σ→0\bigl|L_F(s,\eta)-\sum_{\mathfrak{a}\in S_X}\eta(\mathfrak{a})(N\mathfrak{a})^{-s}\bigr|\le\sum_{N\mathfrak{a}\gt X}(N\mathfrak{a})^{-\sigma}\to0 です。

Hecke (1918, 1920) の定理により、LF(s,η)L_F(s,\eta) は C\mathbb{C} 上の有理型関数に延び、η\eta が主指標でなければ整関数、主指標なら s=1s=1 にだけ極(単純極)をもち、s↔1−ss\leftrightarrow1-s の関数等式を満たします(Neukirch『Algebraic Number Theory』第 VII 章 §8)。Rikai にはこの定理の証明がまだありません。この記事では、この事実を主張の文と β∗\beta_{*} の定義を述べるためだけに使い、定理環境の証明には使いません(Dirichlet 指標から来る η\eta については、命題 4.2 が Re⁡s>0\operatorname{Re}s\gt0 への接続を直接与えます)。

原稿の本体には、Dirichlet 指標の 3 次・6 次の類似物が現れます。

定義 2.6(6 次・3 次の剰余記号)↗

π∈O\pi\in\mathcal{O} を 66 を割らない素元とする。このとき N(π)≡1(mod6)N(\pi)\equiv1\pmod6 で、π\pi で割り切れない α∈O\alpha\in\mathcal{O} に対し

(απ)6≡α(N(π)−1)/6(modπ)\Bigl(\frac\alpha\pi\Bigr)_6\equiv\alpha^{(N(\pi)-1)/6}\pmod\pi

を満たす 11 の 66 乗根 (απ)6∈{±1,±ω,±ω2}\bigl(\frac\alpha\pi\bigr)_6\in\{\pm1,\pm\omega,\pm\omega^2\} がただ 1 つ存在する。これを 66 次剰余記号といい、π∣α\pi\mid\alpha のときは 00 と定める。(απ)3:=(απ)62\bigl(\frac\alpha\pi\bigr)_3:=\bigl(\frac\alpha\pi\bigr)_6^{2} を 33 次剰余記号という。

この定義が意味をもつ理由を確かめます。66 個の単数の差は、1−(−1)=21-(-1)=2、1−ω1-\omega(λ\lambda の単数倍)、1−ω21-\omega^2、1+ω=−ω21+\omega=-\omega^2 などで、どれも 66 の約数か単数です。π∤6\pi\nmid6 なら 66 個の単数は体 O/πO\mathcal{O}/\pi\mathcal{O} の中で相異なる 66 個の元になり、位数 N(π)−1N(\pi)-1 の乗法群の中で X6=1X^6=1 の 66 個の解をなします。乗法群は巡回群(定理 7.3[多項式環と体の拡大])なので 6∣N(π)−16\mid N(\pi)-1 で、α(N(π)−1)/6\alpha^{(N(\pi)-1)/6} は 66 乗して 11 になるので、66 個の単数のちょうど 1 つと合同です。(απ)6=1\bigl(\frac\alpha\pi\bigr)_6=1 は α\alpha が  mod π\bmod\pi で 66 乗数であることと同値で、Legendre 記号(定義 3.2[原始根と平方剰余の相互法則])の 66 次版です。α\alpha を固定して π\pi を動かすと、π↦(απ)6\pi\mapsto\bigl(\frac\alpha\pi\bigr)_6 は(相互法則により)有限位数 Hecke 指標になります。これが、ζ\zeta の話に Hecke LL 関数の族が入ってくる入口です。

例 2.7(p = 7 の分解と剰余記号)

7≡1(mod3)7\equiv1\pmod3 なので 77 は分解します。N(a+bω)=7N(a+b\omega)=7 の解として 2−ω2-\omega(4+2+1=74+2+1=7)があり、7=(2−ω)(2−ω2)=(2−ω)(3+ω)7=(2-\omega)(2-\omega^2)=(2-\omega)(3+\omega) です。primary な生成元(命題 2.2 の 3)は、ω(2−ω)=2ω−ω2=1+3ω≡1(mod3)\omega(2-\omega)=2\omega-\omega^2=1+3\omega\equiv1\pmod3 から π=1+3ω\pi=1+3\omega、もう一方は πˉ=1+3ω2=−2−3ω\bar\pi=1+3\omega^2=-2-3\omega です。実際 (1+3ω)(−2−3ω)=−2−9ω−9ω2=−2+9=7(1+3\omega)(-2-3\omega)=-2-9\omega-9\omega^2=-2+9=7 です。

O/πO≅F7\mathcal{O}/\pi\mathcal{O}\cong\mathbb{F}_7 で、1+3ω≡01+3\omega\equiv0 から ω≡−13≡−5≡2(modπ)\omega\equiv-\frac13\equiv-5\equiv2\pmod\pi です(確かに 22+2+1=7≡02^2+2+1=7\equiv0)。N(π)=7N(\pi)=7 なので (2π)6≡2(7−1)/6=2≡ω\bigl(\frac2\pi\bigr)_6\equiv2^{(7-1)/6}=2\equiv\omega、すなわち (2π)6=ω\bigl(\frac2\pi\bigr)_6=\omega、(2π)3=ω2≠1\bigl(\frac2\pi\bigr)_3=\omega^2\ne1 です。22 は  mod 7\bmod7 で立方数でない( mod 7\bmod7 の立方数は 0,±10,\pm1)ことと合っています。

Euler 因子を見ます。ζF(s)\zeta_F(s) の 77 での因子は、ノルム 77 の素イデアルが 2 個あるので (1−7−s)−2(1-7^{-s})^{-2} です。一方 ζ(s)L(s,χ−3)\zeta(s)L(s,\chi_{-3}) の 77 での因子は (1−7−s)−1(1−χ−3(7)7−s)−1=(1−7−s)−2(1-7^{-s})^{-1}(1-\chi_{-3}(7)7^{-s})^{-1}=(1-7^{-s})^{-2}(χ−3(7)=1\chi_{-3}(7)=1)で、一致します。惰性の p=5p=5 では (1−25−s)−1=(1−5−s)−1(1+5−s)−1(1-25^{-s})^{-1}=(1-5^{-s})^{-1}(1+5^{-s})^{-1} で、χ−3(5)=−1\chi_{-3}(5)=-1 と合います。これをすべての pp について述べたのが §4 の 命題 4.2 です。

注意 3.1(主張(OpenAI, 2026。独立の査読は未了))

主張 A(原稿 Theorem 1.1). F=Q(−3)F=\mathbb{Q}(\sqrt{-3}) 上のすべての有限位数 Hecke 指標 η\eta について、LF(s,η)L_F(s,\eta) は半平面 Re⁡s>78\operatorname{Re}s\gt\frac78 に零点をもたない。すべての Dirichlet 指標 χ\chi(法は任意)について、L(s,χ)L(s,\chi) も同じ半平面に零点をもたない。法 11 の場合として、ζ(s)\zeta(s) は Re⁡s>78\operatorname{Re}s\gt\frac78 に零点をもたない。主指標の s=1s=1 での極は零点ではないので、主張に抵触しない。

主張 B(原稿 Theorem 3.1). 同じ 2 つの族について、Re⁡s>1112\operatorname{Re}s\gt\frac{11}{12} に零点がない。原稿は第 I 部でこれを示し、第 II 部で主張 A の入力に使う。

主張 C(原稿 Corollary 1.2). 絶対定数 A,C>0A,C\gt0 があって、すべての奇素数 pp について、最小の正の平方非剰余 n(p)n(p) は n(p)≤C(log⁡p)An(p)\le C(\log p)^{A} を満たす。また、奇素数 pp と a∈Fpa\in\mathbb{F}_p が与えられたとき、aa の平方根を求めるか、存在しないと判定する、log⁡p\log p の多項式時間の決定的アルゴリズムがある。原稿は、主張 A が Bhargava・Ivanyos・Mittal・Saxena の結果の仮定(弱い形の一般化リーマン予想)を満たすことからこれを導いている。

出典: OpenAI, “The Quasi-Riemann Hypothesis: A Zero-Free Half-Plane ℜs>7/8\Re s>7/8”, 30 September 2026。openai/math リポジトリの preprints/The-Quasi-Riemann-Hypothesis-September-30-2026/paper.pdf。確認日 2026-10-08。この時点で訂正版・正誤表は確認できなかった。

これらは定理として確立したものではなく、公表された主張である。Rikai の定理・命題はこれらに依存させない。依存する事柄は 命題 7.2 のように仮定に明記する。

第 2 章の 定義 4.2[リーマン予想 II] の記号では、主張 A の Dirichlet の部分は QRH(78)\mathrm{QRH}(\frac78)、主張 B は QRH(1112)\mathrm{QRH}(\frac{11}{12}) です。

原稿が自分で述べている限界. 序論に次の 3 点が書かれています。境界の直線 Re⁡s=78\operatorname{Re}s=\frac78 は主張に含まれない。区間 (78,1)(\frac78,1) の実零点(例外零点)は排除される。そして、リーマン予想もその一般化も証明していない。原稿の言葉では “The Riemann hypothesis remains open” です(原稿 §1)。主張 A は、非自明零点の実部の上限が 78\frac78 以下だというもので、関数等式の対称性と合わせると、零点は帯 18≤Re⁡s≤78\frac18\le\operatorname{Re}s\le\frac78 にあるという主張です。臨界線 Re⁡s=12\operatorname{Re}s=\frac12 の上にあるという主張ではありません。

既知の結果との比較. 第 1 章の対照表に 1 行足します。

零点なし領域幅(高さ ∣t∣\lvert t\rvert で)ψ(x)−x\psi(x)-x の評価状況
古典的c/log⁡∣t∣c/\log\lvert t\rvertO(xexp⁡(−c′log⁡x))O\bigl(x\exp(-c'\sqrt{\log x})\bigr)定理(1899)
Vinogradov–Korobovc/((log⁡∣t∣)2/3(log⁡log⁡∣t∣)1/3)c/\bigl((\log\lvert t\rvert)^{2/3}(\log\log\lvert t\rvert)^{1/3}\bigr)O(xexp⁡(−c′(log⁡x)3/5(log⁡log⁡x)−1/5))O\bigl(x\exp(-c'(\log x)^{3/5}(\log\log x)^{-1/5})\bigr)定理(1958)。無条件で最良
半平面 Re⁡s>78\operatorname{Re}s\gt\frac7818\frac18(高さによらない)O(x7/8log⁡2x)O(x^{7/8}\log^2x)主張(2026、査読未了)
リーマン予想12\frac12O(xlog⁡2x)O(\sqrt x\log^2x)未解決

確立した 2 行の幅は、∣t∣→∞|t|\to\infty で 00 に縮みます。主張の行は幅が一定で、誤差項が初めて冪の節約になります。違いは定数や対数の冪の改良ではなく、型の違いです。1958 年以降の改良は Vinogradov–Korobov の定数 cc についてのもので、幅が一定の帯については、どんなに細い帯(たとえば Re⁡s>0.999\operatorname{Re}s\gt0.999)であっても証明がありませんでした。

Re s = 0Re s = 1/2Re s = 1Re s = 7/8高さが大きいほど曲線は 1 に近い
臨界帯の模式図(縮尺は正確ではない)。実線の曲線の右側が古典的な零点なし領域で、高さ とともに細くなる。破線 の右側が主張 A の零点なし領域で、幅は高さによらない。

もう 1 つ区別すべきものが零点密度評価です。Guth と Maynard (2024) の N(σ,T)≤T30(1−σ)/13+o(1)N(\sigma,T)\le T^{30(1-\sigma)/13+o(1)}(定理 6.2[リーマン予想 II])は「Re⁡s≥σ\operatorname{Re}s\ge\sigma の零点が少ない」という主張で、σ<1\sigma\lt1 である限り零点が無いことは与えません。主張 A は「Re⁡s>78\operatorname{Re}s\gt\frac78 では N(σ,T)=0N(\sigma,T)=0」という別種の主張で、原稿の序論もこの区別を述べています。主張 A は 78\frac78 より左の零点の個数については何も言わないので、σ≤78\sigma\le\frac78 では零点密度評価のほうが情報をもちます。

主張 A の 2 つの文のうち、原稿が直接示そうとするのは Hecke の族についての文です。Dirichlet LL 関数と ζ\zeta についての文は、次の 2 つの命題(原稿では Proposition 11.3 と §2 の冒頭)で Hecke の文から従います。どちらも主張の正否に依らない確立した数学で、ここで証明します。

命題 4.1(原始的でない指標の L 関数は同じ零点をもつ)✓

χ\chi を法 qq の Dirichlet 指標とし、d∣qd\mid q を法とする指標 χ∗\chi^{*} から誘導されるとする。このとき Re⁡s>0\operatorname{Re}s\gt0 で

L(s,χ)=L(s,χ∗)∏p∣q(1−χ∗(p)p−s)L(s,\chi)=L(s,\chi^{*})\prod_{p\mid q}\bigl(1-\chi^{*}(p)p^{-s}\bigr)

が有理型関数の等式として成り立ち、右辺の有限積は Re⁡s>0\operatorname{Re}s\gt0 に零点をもたない。したがって L(s,χ)L(s,\chi) と L(s,χ∗)L(s,\chi^{*}) は Re⁡s>0\operatorname{Re}s\gt0 で同じ零点を同じ位数でもつ。

証明(命題 4.1)

σ>1\sigma\gt1 とします。p∤qp\nmid q なら χ(p)=χ∗(p)\chi(p)=\chi^{*}(p)、p∣qp\mid q なら χ(p)=0\chi(p)=0 なので、Euler 積(補題 2.5[リーマン予想 II])から

L(s,χ)=∏p∤q(1−χ∗(p)p−s)−1=L(s,χ∗)∏p∣q(1−χ∗(p)p−s)L(s,\chi)=\prod_{p\nmid q}\bigl(1-\chi^{*}(p)p^{-s}\bigr)^{-1}=L(s,\chi^{*})\prod_{p\mid q}\bigl(1-\chi^{*}(p)p^{-s}\bigr)

です。両辺は Re⁡s>0\operatorname{Re}s\gt0 で有理型(定理 3.1[リーマン予想 II]。極は高々 s=1s=1)なので、一致の定理(定理 7.3[正則関数の強力な性質])により Re⁡s>0\operatorname{Re}s\gt0 で成り立ちます。Re⁡s>0\operatorname{Re}s\gt0 では ∣χ∗(p)p−s∣≤p−σ<1|\chi^{*}(p)p^{-s}|\le p^{-\sigma}\lt1 なので、有限積の各因子は 00 になりません。

したがって、零点なし半平面の主張は原始指標について示せば十分です。Hecke 指標についても同じ式(pp を素イデアルに、p−sp^{-s} を (Np)−s(N\mathfrak{p})^{-s} に替える)が同じ証明で成り立ちます。

命題 4.2(ノルムと合成した指標の L 関数の分解)✓

χ\chi を法 qq の Dirichlet 指標とする。

  1. ηχ(a):=χ(Na)\eta_\chi(\mathfrak{a}):=\chi(N\mathfrak{a}) は、法 qOq\mathcal{O} の有限位数 Hecke 指標である。
  2. χχ−3\chi\chi_{-3} を法 3q3q の Dirichlet 指標 n↦χ(n)χ−3(n)n\mapsto\chi(n)\chi_{-3}(n) とすると、Re⁡s>1\operatorname{Re}s\gt1 で
LF(s,ηχ)=L(s,χ) L(s,χχ−3)L_F(s,\eta_\chi)=L(s,\chi)\,L(s,\chi\chi_{-3})

が成り立つ。とくに ζF(s)=ζ(s)L(s,χ−3)\zeta_F(s)=\zeta(s)L(s,\chi_{-3}) である。右辺によって LF(s,ηχ)L_F(s,\eta_\chi) は Re⁡s>0\operatorname{Re}s\gt0 上の有理型関数に延びる。 3. 12≤σ0<1\frac12\le\sigma_0\lt1 とする。2 で延ばした LF(s,ηχ)L_F(s,\eta_\chi) が Re⁡s>σ0\operatorname{Re}s\gt\sigma_0 に零点をもたなければ、L(s,χ)L(s,\chi) も Re⁡s>σ0\operatorname{Re}s\gt\sigma_0 に零点をもたない。

証明(命題 4.2)

1. α≡α′(modqO)\alpha\equiv\alpha'\pmod{q\mathcal{O}} なら αˉ≡αˉ′\bar\alpha\equiv\bar\alpha' で、N(α)−N(α′)∈qO∩Z=qZN(\alpha)-N(\alpha')\in q\mathcal{O}\cap\mathbb{Z}=q\mathbb{Z} なので、α mod qO↦χ(N(α))\alpha\bmod q\mathcal{O}\mapsto\chi(N(\alpha)) は O/qO\mathcal{O}/q\mathcal{O} 上で定まり、乗法的です。単数では N(u)=1N(u)=1 なので値は 11 です。α\alpha が qq と互いに素、すなわち qq の素因数 pp の上のどの素イデアルも α\alpha を割らないとします。p∣N(α)=ααˉp\mid N(\alpha)=\alpha\bar\alpha なら、pp の上の素イデアル p\mathfrak{p} が α\alpha か αˉ\bar\alpha を割り、後者なら pˉ\bar{\mathfrak{p}}(これも pp の上の素イデアル)が α\alpha を割るので、仮定に反します。よって gcd⁡(N(α),q)=1\gcd(N(\alpha),q)=1 で、χ(N(α))≠0\chi(N(\alpha))\ne0 です。逆に α\alpha が qq と互いに素でなければ、α\alpha を割る素イデアル p∣p∣q\mathfrak{p}\mid p\mid q について p∣Np∣N(α)p\mid N\mathfrak{p}\mid N(\alpha) なので χ(N(α))=0\chi(N(\alpha))=0 です。以上から ηχ(αO)=χ(N(α))\eta_\chi(\alpha\mathcal{O})=\chi(N(\alpha)) は 定義 2.4 の形をしています。

2. σ>1\sigma\gt1 で、補題 2.5 の Euler 積を、素イデアルが乗っている素数 pp ごとにまとめます(絶対収束しているので並べ替えられます)。補題 2.3 の 3 通りについて、pp の上の素イデアルにわたる因子の積は次のとおりです。

  • p≡1(mod3)p\equiv1\pmod3: ノルム pp の素イデアルが 2 個。(1−χ(p)p−s)−2\bigl(1-\chi(p)p^{-s}\bigr)^{-2}。
  • p≡2(mod3)p\equiv2\pmod3: ノルム p2p^2 の素イデアルが 1 個。(1−χ(p)2p−2s)−1=(1−χ(p)p−s)−1(1+χ(p)p−s)−1\bigl(1-\chi(p)^2p^{-2s}\bigr)^{-1}=\bigl(1-\chi(p)p^{-s}\bigr)^{-1}\bigl(1+\chi(p)p^{-s}\bigr)^{-1}。
  • p=3p=3: ノルム 33 の素イデアルが 1 個。(1−χ(3)3−s)−1\bigl(1-\chi(3)3^{-s}\bigr)^{-1}。

どの場合も、これは (1−χ(p)p−s)−1(1−χ(p)χ−3(p)p−s)−1\bigl(1-\chi(p)p^{-s}\bigr)^{-1}\bigl(1-\chi(p)\chi_{-3}(p)p^{-s}\bigr)^{-1} に等しくなります(χ−3(p)=1,−1,0\chi_{-3}(p)=1,-1,0)。pp について掛け合わせ、右辺に Dirichlet LL 関数の Euler 積(補題 2.5[リーマン予想 II])を使うと等式を得ます。χ\chi が法 11 の自明な指標のとき ζF(s)=ζ(s)L(s,χ−3)\zeta_F(s)=\zeta(s)L(s,\chi_{-3}) です。右辺の 2 つの因子は Re⁡s>0\operatorname{Re}s\gt0 で有理型(定理 3.1[リーマン予想 II])です。

3. Re⁡ρ>σ0\operatorname{Re}\rho\gt\sigma_0、L(ρ,χ)=0L(\rho,\chi)=0 と仮定します。L(s,χ)L(s,\chi) の極は高々 s=1s=1 で、ρ\rho は零点なので、χ\chi が主指標のときは ρ≠1\rho\ne1、主指標でないときは L(1,χ)≠0L(1,\chi)\ne0(定理 3.3[リーマン予想 II])から、やはり ρ≠1\rho\ne1 です。L(s,χχ−3)L(s,\chi\chi_{-3}) の極も高々 s=1s=1 なので ρ\rho で正則で、2 から LF(ρ,ηχ)=L(ρ,χ)L(ρ,χχ−3)=0L_F(\rho,\eta_\chi)=L(\rho,\chi)L(\rho,\chi\chi_{-3})=0 となり、仮定に反します。

2 の等式は、F/QF/\mathbb{Q} が 2 次拡大で、その Galois 群の指標が 11 と χ−3\chi_{-3} であることの表現です。原稿は χ\chi と χχ−3\chi\chi_{-3} を原始的な形で扱うために有限個の Euler 因子を除いた形で同じ等式を述べ、s=1s=1 での極と零点の打ち消し合いが起きないことを L(1,χ−3)=π33>0L(1,\chi_{-3})=\frac\pi{3\sqrt3}\gt0 の計算(第 2 章の 例 3.5[リーマン予想 II] と同じもの)で確かめています。ここでは L(1,χ)≠0L(1,\chi)\ne0 の一般的な定理を使いました。

ζ\zeta の零点を調べるのに、なぜわざわざ FF 上の族へ持ち上げるのか、という疑問が湧きます。原稿の答えは「証明の途中の Poisson 和で、目標の指標を 66 次剰余記号でひねった Hecke 指標が現れるので、族全体を同時に扱わないと議論が閉じない」です(原稿 §1、§3)。そのために、族全体の零点の右端を 1 つの数で表します。

定義 4.3(族全体の零点の実部の上限)↗

FF 上の原始的な有限位数 Hecke 指標 η\eta の全体を考え、

β∗:=sup⁡({12}∪{Re⁡ρ: 12≤Re⁡ρ≤1, ある原始的な η について LF(ρ,η)=0})\beta_{*}:=\sup\Bigl(\bigl\{\tfrac12\bigr\}\cup\bigl\{\operatorname{Re}\rho:\ \tfrac12\le\operatorname{Re}\rho\le1,\ \text{ある原始的な }\eta\text{ について }L_F(\rho,\eta)=0\bigr\}\Bigr)

とおく(原稿の式 (2.1)。極は数えない)。Euler 積(補題 2.5)から Re⁡s>1\operatorname{Re}s\gt1 に零点はないので、12≤β∗≤1\frac12\le\beta_{*}\le1 である。

主張 A の Hecke の部分は β∗≤78\beta_{*}\le\frac78、主張 B は β∗≤1112\beta_{*}\le\frac{11}{12} です。確立しているのは β∗≤1\beta_{*}\le1 だけです。β∗\beta_{*} は上限で、その値を実部にもつ零点があるとは限らないことに注意してください。使えるのは「どんな ϵ>0\epsilon\gt0 についても、ある η\eta が Re⁡ρ>β∗−ϵ\operatorname{Re}\rho\gt\beta_{*}-\epsilon の零点をもつ」ことだけです。

原稿の 2 つの部は、同じ解析的な原理(原稿 Proposition 2.1)に、異なる和を入力して使います。原理そのものは、Mellin 変換((0,∞)(0,\infty) 上の関数 f(x)f(x) に xs−1x^{s-1} を掛けて積分し、ss の関数に直す変換)の正則性、Fourier 反転、一致の定理だけで証明でき、LL 関数の深い性質を使いません。ここでは族を抽象的な添字集合にして、仮定をすべて書いた形で述べ直し、証明します。

考え方はこうです。1/Lη(s)1/L_\eta(s) を「信号」とみて、重み ZC(s)e(s−b)2Hη(s)Z^{C(s)}e^{(s-b)^2}H_\eta(s) を掛けて直線 Re⁡s=2\operatorname{Re}s=2 で積分した量 fη(Z)f_\eta(Z) を作ります。Z→∞Z\to\infty での fη(Z)f_\eta(Z) の大きさは、積分路をどこまで左へ動かせるか、つまり 1/Lη1/L_\eta の極(LηL_\eta の零点)の右端で決まります。逆に、fη(Z)f_\eta(Z) が零点の右端 β∗\beta_{*} から期待される大きさ ZC(β∗)Z^{C(\beta_{*})} より冪で小さいことが族全体で一様に分かれば、Mellin 変換を取り直すことで 1/Lη1/L_\eta が β∗\beta_{*} の左まで正則に延び、β∗\beta_{*} の定義に反します。

次の命題は、「β∗>σ0\beta_{*}\gt\sigma_0 であるのに条件 1〜3 を満たす評価が作れる」ことは起こらない、と述べています。裏返せば、1〜3 を満たす評価を実際に作れれば、零点の右端 β∗\beta_{*} は σ0\sigma_0 まで下がります。§6 では、原稿がこの評価をどう作るかを紹介します。

命題 5.1(共通の信号からの接続(原稿 Proposition 2.1 の述べ直し))✓

σ0<1\sigma_0\lt1 を実数、II を空でない集合とする。各 η∈I\eta\in I に対し、LηL_\eta を半平面 Re⁡s>σ0\operatorname{Re}s\gt\sigma_0 上の有理型関数で、1/Lη1/L_\eta が Re⁡s>1\operatorname{Re}s\gt1 で正則、Re⁡s≥2\operatorname{Re}s\ge2 で有界であるものとする。

β∗:=sup⁡({σ0}∪{Re⁡ρ: Re⁡ρ>σ0, ある η∈I について Lη(ρ)=0})\beta_{*}:=\sup\Bigl(\{\sigma_0\}\cup\bigl\{\operatorname{Re}\rho:\ \operatorname{Re}\rho\gt\sigma_0,\ \text{ある }\eta\in I\text{ について }L_\eta(\rho)=0\bigr\}\Bigr)

とおく(σ0≤β∗≤1\sigma_0\le\beta_{*}\le1)。b,cb,c を実数とし、C(s):=s+cC(s):=s+c とする。

このとき、β∗>σ0\beta_{*}\gt\sigma_0 であって、しかも次の条件を満たす実数 ω,κ\omega,\kappa と、各 η∈I\eta\in I についての Hη,Jη,Kη,ZηH_\eta,J_\eta,K_\eta,Z_\eta が存在する、ということは起こらない。

  1. 0<ω<β∗−σ00\lt\omega\lt\beta_{*}-\sigma_0、κ>0\kappa\gt0。この 2 つは η\eta によらない。
  2. HηH_\eta は Re⁡s>σ0\operatorname{Re}s\gt\sigma_0 で正則で、そこで ∣Hη(s)−1∣≤12|H_\eta(s)-1|\le\frac12。
  3. Kη>0K_\eta\gt0、Zη≥1Z_\eta\ge1 は定数、Jη:[Zη,∞)→CJ_\eta:[Z_\eta,\infty)\to\mathbb{C} は関数で、Z>0Z\gt0 に対して
fη(Z):=12πi∫Re⁡s=2ZC(s) e(s−b)2 Hη(s)Lη(s) dsf_\eta(Z):=\frac1{2\pi i}\int_{\operatorname{Re}s=2}Z^{C(s)}\,e^{(s-b)^2}\,\frac{H_\eta(s)}{L_\eta(s)}\,ds

とおくと、すべての Z≥ZηZ\ge Z_\eta で

∣Jη(Z)∣≤Kη ZC(σ0)+ω,∣Jη(Z)−fη(Z)∣≤Kη ZC(β∗)−κ.|J_\eta(Z)|\le K_\eta\,Z^{C(\sigma_0)+\omega},\qquad|J_\eta(Z)-f_\eta(Z)|\le K_\eta\,Z^{C(\beta_{*})-\kappa}.

言い換えると、「β∗>σ0\beta_{*}\gt\sigma_0 ならば 1〜3 を満たすものが構成できる」ことが示されれば、β∗=σ0\beta_{*}=\sigma_0、すなわちどの LηL_\eta も Re⁡s>σ0\operatorname{Re}s\gt\sigma_0 に零点をもたない。

証明は 5 段です。第 1・2 段で fη(Z)f_\eta(Z) を ZZ が大きいときと小さいときに評価し、第 3 段でその Mellin 変換が β∗\beta_{*} より少し左まで正則であることを示します。第 4 段は Fourier 反転で、この Mellin 変換が 1/Lη1/L_\eta に等しいことを導きます。すると第 5 段で、1/Lη1/L_\eta が零点の位置まで正則に延びてしまい、矛盾します。

証明(命題 5.1)

β∗>σ0\beta_{*}\gt\sigma_0 とし、1〜3 を満たすものがあるとして矛盾を導きます。β∗≤1\beta_{*}\le1 は、Re⁡ρ>1\operatorname{Re}\rho\gt1 の零点があれば 1/Lη1/L_\eta が ρ\rho で極をもって仮定に反することから分かります。Δ0:=β∗−σ0\Delta_0:=\beta_{*}-\sigma_0、

ϵ∗:=min⁡{Δ0−ω, κ}>0\epsilon_{*}:=\min\{\Delta_0-\omega,\ \kappa\}\gt0

とおきます。ϵ∗<Δ0\epsilon_{*}\lt\Delta_0 なので β∗−ϵ∗>σ0\beta_{*}-\epsilon_{*}\gt\sigma_0 です。η∈I\eta\in I を固定し、Aη(s):=e(s−b)2Hη(s)/Lη(s)A_\eta(s):=e^{(s-b)^2}H_\eta(s)/L_\eta(s) とおきます。AηA_\eta は Re⁡s>1\operatorname{Re}s\gt1 で正則です。s=σ+its=\sigma+it について ∣e(s−b)2∣=e(σ−b)2−t2|e^{(s-b)^2}|=e^{(\sigma-b)^2-t^2}、∣Hη∣≤32|H_\eta|\le\frac32 で、Re⁡s≥2\operatorname{Re}s\ge2 で ∣1/Lη∣≤Mη|1/L_\eta|\le M_\eta とすると

∣Aη(σ+it)∣≤32Mη e(σ−b)2 e−t2(σ≥2).|A_\eta(\sigma+it)|\le\tfrac32M_\eta\,e^{(\sigma-b)^2}\,e^{-t^2}\qquad(\sigma\ge2).

とくに fη(Z)f_\eta(Z) の積分は絶対収束し、fηf_\eta は Z>0Z\gt0 の連続関数です。

第 1 段(ZZ が大きいとき). CC の傾きは 11 なので C(σ0)+ω=C(β∗)−(Δ0−ω)≤C(β∗)−ϵ∗C(\sigma_0)+\omega=C(\beta_{*})-(\Delta_0-\omega)\le C(\beta_{*})-\epsilon_{*} で、Z≥ZηZ\ge Z_\eta について三角不等式と 3 から

∣fη(Z)∣≤∣Jη(Z)∣+∣Jη(Z)−fη(Z)∣≤2Kη ZC(β∗)−ϵ∗.|f_\eta(Z)|\le|J_\eta(Z)|+|J_\eta(Z)-f_\eta(Z)|\le2K_\eta\,Z^{C(\beta_{*})-\epsilon_{*}} .

第 2 段(ZZ が小さいとき). B>2B\gt2 とします。T′>0T'\gt0 について頂点 2±iT′2\pm iT'、B±iT′B\pm iT' の長方形に Cauchy の定理(定理 5.1[留数定理と定積分への応用] で特異点が無い場合)を使うと、横の辺の積分は (B−2)⋅Zσ+c⋅32Mηe(B+∣b∣)2e−T′2(B-2)\cdot Z^{\sigma+c}\cdot\frac32M_\eta e^{(B+|b|)^2}e^{-T'^2} の形の量で抑えられ、T′→∞T'\to\infty で 00 に収束します。よって積分路を Re⁡s=B\operatorname{Re}s=B に移せて、∣ZC(s)∣=ZB+c|Z^{C(s)}|=Z^{B+c} から

∣fη(Z)∣≤ZB+c⋅12π⋅32Mη e(B−b)2∫−∞∞e−t2dt=:Kη,B ZB+c(Z>0)|f_\eta(Z)|\le Z^{B+c}\cdot\frac1{2\pi}\cdot\frac32M_\eta\,e^{(B-b)^2}\int_{-\infty}^\infty e^{-t^2}dt=:K_{\eta,B}\,Z^{B+c}\qquad(Z\gt0)

です。

第 3 段(Mellin 変換の正則性).

Fη(s):=∫0∞fη(Z) Z−C(s) dZZF_\eta(s):=\int_0^\infty f_\eta(Z)\,Z^{-C(s)}\,\frac{dZ}Z

とおきます。β∗−ϵ∗<σ−≤Re⁡s≤σ+\beta_{*}-\epsilon_{*}\lt\sigma_-\le\operatorname{Re}s\le\sigma_+ の範囲で、Z≥ZηZ\ge Z_\eta では第 1 段から被積分関数の絶対値は 2KηZβ∗−ϵ∗−σ−−12K_\eta Z^{\beta_{*}-\epsilon_{*}-\sigma_--1} 以下、1≤Z≤Zη1\le Z\le Z_\eta では連続関数として有界、0<Z≤10\lt Z\le1 では第 2 段を B=σ++1B=\sigma_++1 で使って Kη,BZB−σ+−1=Kη,BK_{\eta,B}Z^{B-\sigma_+-1}=K_{\eta,B} 以下です。どれも ss によらない可積分な優関数なので、∫1/nn\int_{1/n}^{n}(ss の整関数)は n→∞n\to\infty でこの帯の上で一様に収束し、FηF_\eta は半平面 Re⁡s>β∗−ϵ∗\operatorname{Re}s\gt\beta_{*}-\epsilon_{*} で正則です(定理 5.2[偏角の原理と Rouché の定理])。

第 4 段(Fη=AηF_\eta=A_\eta). a(t):=Aη(2+it)a(t):=A_\eta(2+it) は連続で可積分です。Z=euZ=e^{u} とおくと、fηf_\eta の定義から

g(u):=e−(2+c)ufη(eu)=12π∫−∞∞a(t) eitu dt=12π a^(−u)g(u):=e^{-(2+c)u}f_\eta(e^{u})=\frac1{2\pi}\int_{-\infty}^\infty a(t)\,e^{itu}\,dt=\frac1{2\pi}\,\hat a(-u)

です(Fourier 変換の規約は 定義 2.1[ℝⁿ 上のフーリエ変換])。gg は可積分です。実際 u→+∞u\to+\infty では第 1 段から ∣g(u)∣≤2Kηe(β∗−ϵ∗−2)u|g(u)|\le2K_\eta e^{(\beta_{*}-\epsilon_{*}-2)u} で指数は負、u→−∞u\to-\infty では第 2 段(B=3B=3)から ∣g(u)∣≤Kη,3eu|g(u)|\le K_{\eta,3}e^{u} です。よって aa と a^\hat a がともに可積分で、反転公式(定理 3.3[ℝⁿ 上のフーリエ変換])から、ほとんどすべての tt で

a(t)=12π∫−∞∞a^(v) eitv dv=∫−∞∞g(u) e−itu du=∫0∞fη(Z) Z−(2+it+c) dZZ=Fη(2+it)a(t)=\frac1{2\pi}\int_{-\infty}^\infty\hat a(v)\,e^{itv}\,dv=\int_{-\infty}^\infty g(u)\,e^{-itu}\,du=\int_0^\infty f_\eta(Z)\,Z^{-(2+it+c)}\,\frac{dZ}Z=F_\eta(2+it)

です(2 つ目の等号は v=−uv=-u)。両辺は tt について連続なので、すべての実数 tt で Fη(2+it)=Aη(2+it)F_\eta(2+it)=A_\eta(2+it) です。FηF_\eta と AηA_\eta は半平面 Re⁡s>1\operatorname{Re}s\gt1 で正則で、直線 Re⁡s=2\operatorname{Re}s=2 上で一致するので、一致の定理(定理 7.3[正則関数の強力な性質])から Re⁡s>1\operatorname{Re}s\gt1 で Fη=AηF_\eta=A_\eta です。

第 5 段(矛盾). 2 から Re⁡s>σ0\operatorname{Re}s\gt\sigma_0 で ∣Hη(s)∣≥12|H_\eta(s)|\ge\frac12 なので、

Gη(s):=e−(s−b)2 Fη(s)Hη(s)G_\eta(s):=e^{-(s-b)^2}\,\frac{F_\eta(s)}{H_\eta(s)}

は Re⁡s>β∗−ϵ∗\operatorname{Re}s\gt\beta_{*}-\epsilon_{*} で正則で、第 4 段から Re⁡s>1\operatorname{Re}s\gt1 で Gη=1/LηG_\eta=1/L_\eta です。ϵ∗\epsilon_{*} は η\eta によらないので、これはすべての η∈I\eta\in I について成り立ちます。β∗\beta_{*} の定義と β∗>σ0\beta_{*}\gt\sigma_0 から、ある η∈I\eta\in I と LηL_\eta の零点 ρ\rho で Re⁡ρ>β∗−ϵ∗\operatorname{Re}\rho\gt\beta_{*}-\epsilon_{*} となるものがあります。この η\eta について、LηGηL_\eta G_\eta は Re⁡s>β∗−ϵ∗\operatorname{Re}s\gt\beta_{*}-\epsilon_{*} で有理型で、Re⁡s>1\operatorname{Re}s\gt1 で 11 に等しいので、LηL_\eta の極を除いた(連結な)領域で LηGη=1L_\eta G_\eta=1 です。ρ\rho は LηL_\eta の零点なので極ではなく、Lη(ρ)Gη(ρ)=0≠1L_\eta(\rho)G_\eta(\rho)=0\ne1 となって矛盾です。

最後の言い換えは、いま示したことから直ちに従います。構成できるのに β∗>σ0\beta_{*}\gt\sigma_0 だとすると矛盾するので、β∗≤σ0\beta_{*}\le\sigma_0、定義から β∗=σ0\beta_{*}=\sigma_0 です。

証明から分かるとおり、族全体で一様でなければならないのは 2 つの指数 ω\omega と κ\kappa だけです。定数 KηK_\eta、しきい値 ZηZ_\eta、関数 HηH_\eta は η\eta ごとに違ってかまいません。これは β∗\beta_{*} が上限であること(どの η\eta が右端に近い零点をもつか分からないこと)に対応しています。もう 1 点、3 の 2 つ目の評価が C(σ0)C(\sigma_0) ではなく C(β∗)C(\beta_{*}) を基準にしていることに注意してください。示すべきは「仮想的な右端の零点から期待される大きさに対する冪の節約」で、右端がどこにあるかを知らなくても意味をもつ形になっています。

原稿では II が原始的な有限位数 Hecke 指標の全体、LηL_\eta が LF(s,η)L_F(s,\eta) から有限個の Euler 因子を除いたもの、b=56b=\frac56 で、2 つの部の違いは次の表のとおりです(原稿 §2 の末尾)。

σ0\sigma_0C(s)C(s)C(σ0)C(\sigma_0)使う和 JηJ_\eta
第 I 部1112\frac{11}{12}s−23s-\frac2314\frac14基本の完備化された 3 次テータ和(§6)
第 II 部78\frac78s−1116s-\frac{11}{16}316\frac3{16}素因子による補正を入れた和(§12)

境界 σ0\sigma_0 は「和 JηJ_\eta を直接評価して得られる指数」が C(σ0)C(\sigma_0) に一致する点として決まります。第 I 部では直接評価が Z1/4+εZ^{1/4+\varepsilon} なので σ0=14+23=1112\sigma_0=\frac14+\frac23=\frac{11}{12}、第 II 部では Z3/16+εZ^{3/16+\varepsilon} なので σ0=316+1116=78\sigma_0=\frac3{16}+\frac{11}{16}=\frac78 です。

6. 証明の骨子(原稿に書かれている範囲)

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この節は原稿の構成の紹介です。命題 5.1 の 3 を満たす和 JηJ_\eta をどう作り、2 つの評価をどう得ると原稿が述べているかを、節と補題の番号つきで追います。§1 で述べたとおり、この節に出てくる原稿の補題の証明は、この記事では確かめていません。

原稿の議論の構成。太い枠はこの記事で証明した部分、破線の枠は原稿に依る部分(この記事では証明を確かめていない)。

(1) 和の定義(原稿 §4、§6.1). 以下の「base probe」は原稿の用語で、目標の指標を調べるために作る、スケール X,Y,ZX,Y,Z つきの和くらいの意味に読めば足ります。目標の原始指標 η\eta を固定します。原稿が「base probe」と呼ぶ和 Iη(X,Y,Z)I_\eta(X,Y,Z) は、3 つの正のスケール X,Y,ZX,Y,Z をもちます。中身は、3 次テータ関数の Fourier 係数(3 次の Gauss 和 γ2(c)\gamma_2(c) を係数にもつ Dirichlet 級数)を滑らかに切ったものに、66 次剰余記号 χA(m)\chi_A(m) と η\eta を掛け、元 m∈Om\in\mathcal{O} と primary な元 ss について平均したものです。添字は A=cn3A=cn^3(cc は平方因子をもたない、c,n≡1(mod3)c,n\equiv1\pmod3)の形をしていて、立方因子 n3n^3 を落とさずに残すことを原稿は「完備化」と呼んでいます。この和に 2 通りの厳密な表示があり、それぞれを別の方法で評価する、というのが全体の設計です。

(2) 反射側と低い評価(原稿 §5、§6.2). 1 つ目の表示は、3 次テータ関数の関数等式から来ます。3 次テータ関数は Kubota と Patterson が導入した、メタプレクティック群上の保型形式で、その Fourier 係数が 3 次 Gauss 和で書けます。原稿は、尖点での展開を Dunn と Radziwiłł の論文(Annals of Math. 200 (2024))に記録された無条件の形から引き、指標の零点(単数でない元での値 00)を保ったまま変換する式を Proposition 5.1 として導いています。そのうえで IηI_\eta を、テータ側の因子 Bm,σ(Z)B_{m,\sigma}(Z) と加法的な因子 Am,σ,v(Y)A_{m,\sigma,v}(Y) の積の和に分け(式 (6.2))、行 mm についての 2 乗平均を別々に評価します。前者は 2 次の large sieve(Goldmakher–Louvel)を使う Lemma 5.8 で ∑m∣Bm,σ(Z)∣2≪Z1+ε\sum_m|B_{m,\sigma}(Z)|^2\ll Z^{1+\varepsilon}、後者は平面の加法的 large sieve(Lemma 6.1、6.2)で ∑m∣Am,σ,v(Y)∣2≪(Q+Y2)/Y\sum_m|A_{m,\sigma,v}(Y)|^2\ll(Q+Y^2)/Y(QQ は XYXY の定数倍)です。Cauchy–Schwarz の不等式で合わせます。このとき前者の 2 乗和の平方根から Z1/2+εZ^{1/2+\varepsilon}、後者の 2 乗和の平方根から (Q/Y)1/2(Q/Y)^{1/2} が入ります(Y2=ZY^2=Z は QQ と同じ大きさなので、Q+Y2Q+Y^2 は QQ の定数倍です)。X=Y=Z1/2X=Y=Z^{1/2}(したがって QQ は ZZ の定数倍)とすると

∣Iη∣≪Q−1/2(QY)1/2Z1/2+ε=Y−1/2Z1/2+ε=Z1/4+ε|I_\eta|\ll Q^{-1/2}\Bigl(\frac QY\Bigr)^{1/2}Z^{1/2+\varepsilon}=Y^{-1/2}Z^{1/2+\varepsilon}=Z^{1/4+\varepsilon}

となります(Proposition 6.3)。これが 命題 5.1 の 3 の 1 つ目の評価で、CI(1112)=14C_{\mathrm I}(\frac{11}{12})=\frac14 に対応します。Lemma 6.2 と Proposition 6.3 の証明はこの記事でも読み、上の指数の計算を確かめました。

Lemma 6.2 の要点は、Gauss 和を展開して現れる分数 d/sd/s(ss は primary、dd は ss と互いに素な剰余)が C/O\mathbb{C}/\mathcal{O} の中で互いに 1/∣ss′∣1/|ss'| 以上離れている、という Farey 分数と同じ事実です。この「よく離れた点での値の 2 乗和」を抑えるのが large sieve で、1 次元の原型をここで証明しておきます。

定義 6.1(large sieve 不等式)↗

実数 xx に対し e(x):=e2πixe(x):=e^{2\pi ix}、∥x∥:=min⁡k∈Z∣x−k∣\|x\|:=\min_{k\in\mathbb{Z}}|x-k| とおく。δ>0\delta\gt0 とし、実数 x1,…,xRx_1,\dots,x_R が r≠r′r\ne r' について ∥xr−xr′∥≥δ\|x_r-x_{r'}\|\ge\delta を満たすとき、x1,…,xRx_1,\dots,x_R は δ\delta だけ離れているという。整数 MM、N≥1N\ge1 と δ>0\delta\gt0 に対して、定数 Δ=Δ(N,δ)\Delta=\Delta(N,\delta) が存在して、δ\delta だけ離れた任意の x1,…,xRx_1,\dots,x_R と任意の複素数 aM+1,…,aM+Na_{M+1},\dots,a_{M+N} について

∑r=1R∣∑n=M+1M+Nan e(nxr)∣2≤Δ∑n=M+1M+N∣an∣2\sum_{r=1}^{R}\Bigl|\sum_{n=M+1}^{M+N}a_n\,e(nx_r)\Bigr|^2\le\Delta\sum_{n=M+1}^{M+N}|a_n|^2

が成り立つ、という形の不等式を(加法的な)large sieve 不等式という。

定理 6.2(加法的 large sieve 不等式(Gallagher の証明))✓

定義 6.1 の不等式は Δ=πN+δ−1\Delta=\pi N+\delta^{-1} で成り立つ。さらに同じ仮定の下で、任意の複素数 b1,…,bRb_1,\dots,b_R について双対の形

∑n=M+1M+N∣∑r=1Rbr e(nxr)∣2≤(πN+δ−1)∑r=1R∣br∣2\sum_{n=M+1}^{M+N}\Bigl|\sum_{r=1}^{R}b_r\,e(nx_r)\Bigr|^2\le(\pi N+\delta^{-1})\sum_{r=1}^{R}|b_r|^2

も成り立つ。

証明の方針は次のとおりです。1 点での値の 2 乗を、その点のまわりの積分で抑えます(第 1 段)。点が互いに離れていれば、まわりの区間は重ならないので、足し合わせると区間 [0,1][0,1] 全体の積分に収まります(第 2 段)。その積分を Parseval の等式で係数の 2 乗和に直します(第 3 段)。双対の形は第 4 段で導きます。

証明(定理 6.2)

δ>12\delta\gt\frac12 のとき、δ\delta だけ離れた点は高々 1 個(∥x∥≤12\|x\|\le\frac12)で、Cauchy–Schwarz から ∣S(x1)∣2≤N∑∣an∣2|S(x_1)|^2\le N\sum|a_n|^2 なので成り立ちます。以下 δ≤12\delta\le\frac12 とします(R=1R=1 でもかまいません)。S(x)=∑nane(nx)S(x)=\sum_na_ne(nx) とおきます。

第 1 段(1 点での値を近くの積分で抑える). ff を区間 J=[x−δ2,x+δ2]J=[x-\frac\delta2,x+\frac\delta2] 上の C1C^1 級の複素数値関数とします。u∈Ju\in J について f(x)=f(u)+∫uxf′(v) dvf(x)=f(u)+\int_u^xf'(v)\,dv を uu について JJ 上で平均すると

f(x)=1δ∫Jf(u) du+1δ∫J(∫uxf′(v) dv)duf(x)=\frac1\delta\int_Jf(u)\,du+\frac1\delta\int_J\Bigl(\int_u^xf'(v)\,dv\Bigr)du

です。第 2 項で、各 v∈Jv\in J が内側の積分に現れる uu は、vv より xx から遠い側にある点で、その集合の長さは δ2\frac\delta2 以下です。積分の順序を交換して

∣f(x)∣≤1δ∫J∣f(u)∣ du+12∫J∣f′(v)∣ dv.|f(x)|\le\frac1\delta\int_J|f(u)|\,du+\frac12\int_J|f'(v)|\,dv .

第 2 段(足し合わせ). f=S2f=S^2(f′=2SS′f'=2SS'、∣f∣=∣S∣2|f|=|S|^2)に各 xrx_r で使うと

∣S(xr)∣2≤1δ∫Jr∣S(u)∣2du+∫Jr∣S(u)S′(u)∣ du,Jr=[xr−δ2,xr+δ2]|S(x_r)|^2\le\frac1\delta\int_{J_r}|S(u)|^2du+\int_{J_r}|S(u)S'(u)|\,du,\qquad J_r=\bigl[x_r-\tfrac\delta2,x_r+\tfrac\delta2\bigr]

です。点が δ\delta だけ離れているので、区間 JrJ_r を  mod 1\bmod1 で見たものは内部が交わりません。SS は周期 11 なので、rr について足すと

∑r∣S(xr)∣2≤1δ∫01∣S∣2du+∫01∣SS′∣ du≤1δ∫01∣S∣2du+(∫01∣S∣2du)1/2(∫01∣S′∣2du)1/2\sum_r|S(x_r)|^2\le\frac1\delta\int_0^1|S|^2du+\int_0^1|SS'|\,du\le\frac1\delta\int_0^1|S|^2du+\Bigl(\int_0^1|S|^2du\Bigr)^{1/2}\Bigl(\int_0^1|S'|^2du\Bigr)^{1/2}

です(最後は Cauchy–Schwarz)。

第 3 段(Parseval). ∫01e(nu)e(n′u)‾du\int_0^1e(nu)\overline{e(n'u)}du は n=n′n=n' のとき 11、そうでなければ 00 なので、∫01∣S∣2=∑n∣an∣2\int_0^1|S|^2=\sum_n|a_n|^2 です。n0n_0 を M+N+12M+\frac{N+1}2 に最も近い整数(の 1 つ)とすると、M+1≤n≤M+NM+1\le n\le M+N で ∣n−n0∣≤N2|n-n_0|\le\frac N2 です。SS の代わりに S0(x)=e(−n0x)S(x)=∑nane((n−n0)x)S_0(x)=e(-n_0x)S(x)=\sum_na_ne((n-n_0)x) を使っても ∣S0∣=∣S∣|S_0|=|S| で第 1・2 段はそのまま成り立ち、S0′(x)=2πi∑n(n−n0)ane((n−n0)x)S_0'(x)=2\pi i\sum_n(n-n_0)a_ne((n-n_0)x) から

∫01∣S0′∣2du=4π2∑n(n−n0)2∣an∣2≤π2N2∑n∣an∣2\int_0^1|S_0'|^2du=4\pi^2\sum_n(n-n_0)^2|a_n|^2\le\pi^2N^2\sum_n|a_n|^2

です。よって ∑r∣S(xr)∣2≤(δ−1+πN)∑n∣an∣2\sum_r|S(x_r)|^2\le(\delta^{-1}+\pi N)\sum_n|a_n|^2 です。

第 4 段(双対). cn:=∑rbre(nxr)c_n:=\sum_rb_re(nx_r) とおくと

∑n∣cn∣2=∑ncn‾∑rbre(nxr)=∑rbr∑ncn‾ e(nxr)\sum_n|c_n|^2=\sum_n\overline{c_n}\sum_rb_re(nx_r)=\sum_rb_r\sum_n\overline{c_n}\,e(nx_r)

です。内側の和は係数 an=cn‾a_n=\overline{c_n} の S(xr)S(x_r) なので、Cauchy–Schwarz といま示した不等式から

∑n∣cn∣2≤(∑r∣br∣2)1/2((πN+δ−1)∑n∣cn∣2)1/2\sum_n|c_n|^2\le\Bigl(\sum_r|b_r|^2\Bigr)^{1/2}\Bigl((\pi N+\delta^{-1})\sum_n|c_n|^2\Bigr)^{1/2}

で、両辺を (∑n∣cn∣2)1/2(\sum_n|c_n|^2)^{1/2} で割って 2 乗すれば双対の形です(∑n∣cn∣2=0\sum_n|c_n|^2=0 のときは自明)。

最良の定数は N−1+δ−1N-1+\delta^{-1}(Selberg、Montgomery–Vaughan)ですが、指数の議論には上の形で十分です。右辺の πN+δ−1\pi N+\delta^{-1} は「長さ NN の和」と「点の密度 δ−1\delta^{-1}」の和で、積ではないことが要です。自明な評価(各点で Cauchy–Schwarz)は RN∑∣an∣2RN\sum|a_n|^2 で、RR が δ−1\delta^{-1} 程度なら Nδ−1N\delta^{-1} になります。分母が QQ 以下の既約分数 a/qa/q は 1Q2\frac1{Q^2} だけ離れている(∣aq−a′q′∣≥1qq′|\frac aq-\frac{a'}{q'}|\ge\frac1{qq'})ので、Δ=πN+Q2\Delta=\pi N+Q^2 が取れます。原稿の Lemma 6.1 は、Z\mathbb{Z} を格子 O\mathcal{O} に、R/Z\mathbb{R}/\mathbb{Z} を C/O\mathbb{C}/\mathcal{O} に替えた双対の形で、右辺は(次元が 2 なので)Q+δ−2Q+\delta^{-2} の定数倍です。指標 χ\chi についての和に直した乗法的な large sieve(第 2 章の 演習 10.2[リーマン予想 II] を法についても平均したもの)が、原稿の Lemma 5.8 や Lemma 9.1 の型です。

(3) Poisson 側(原稿 §7). 2 つ目の表示は、平均の変数 mm について Poisson 和公式(定理 6.1[ℝⁿ 上のフーリエ変換] の O\mathcal{O} 上の形)を使って得られます。00 でない周波数は ua6ua^6(uu は 66 乗因子をもたない元、aa は primary)の形に一意に書け、uu ごとの寄与を原稿は「行」と呼びます。Lemma 7.1 が各素イデアルでの局所因子を計算し、行 uu の級数が

ζFS(6z) LS(w,χ∙(u))LS(x,η χ∙(u))×(絶対収束する Euler 積)\frac{\zeta_F^{S}(6z)\,L^{S}(w,\chi_\bullet(u))}{L^{S}(x,\eta\,\chi_\bullet(u))}\times(\text{絶対収束する Euler 積})

と分解すると述べます(式 (7.13)。x,w,zx,w,z は 3 つの Mellin 変数、上付きの SS は有限個の Euler 因子を除くこと、χ∙(u)\chi_\bullet(u) は a↦\mathfrak{a}\mapsto「a\mathfrak{a} を法とする uu の 66 次剰余記号」が定める Hecke 指標)。u=1u=1 の行の分母が、目標の LFS(x,η)L^{S}_F(x,\eta) そのものです。分母に 1/L1/L が出るので、LL の零点が極として見えます。u≠1u\ne1 の行の分母は η\eta を 66 次指標でひねった LL 関数で、ここで族全体が必要になります。

(4) 主行と残りの行(原稿 §8〜§10). u=1u=1 の行で、ζFS(6z)\zeta_F^{S}(6z) の z=16z=\frac16 での極と ζFS(w)\zeta_F^{S}(w) の w=1w=1 での極の留数を取ると、正の定数倍を除いて 命題 5.1 の fη(Z)f_\eta(Z) の形になります(Lemma 10.5)。重み X1/2−zZx+z−1Yw−1X^{1/2-z}Z^{x+z-1}Y^{w-1} に z=16z=\frac16、w=1w=1、X=Z1/2X=Z^{1/2} を入れると Zx−2/3Z^{x-2/3} で、これが CI(s)=s−23C_{\mathrm I}(s)=s-\frac23 です。HηH_\eta は残りの Euler 積で、除く素イデアルを増やせば ∣Hη−1∣≤12|H_\eta-1|\le\frac12 にできると述べられています(式 (10.2))。

u≠1u\ne1 の行は、ZC(β∗)Z^{C(\beta_{*})} に対して冪で小さいことを示す必要があります。原稿は行をノルムの大きさで分け、中間の範囲では「零点検出器」(§8)を使います。行 uu に付随する有限個の LL 関数の零点の位置で行を分類し(Lemma 8.1)、右寄りに零点をもつ行については、その零点が 2 つの Dirichlet 多項式(Möbius 関数つきの「逆」多項式と、つかない多項式)が大きいことの証拠になる、という仕組みです。大きな値を取る行の個数は、66 次の large sieve(Lemma 9.1。右辺の因子は (KD)ε(K+D+(KD)2/3)(KD)^{\varepsilon}(K+D+(KD)^{2/3}))で抑えられます(Proposition 9.2)。零点が右にある行ほど個数が少ない、という零点密度型の評価を、ここでは族の中の行について使っています。これらを合わせた結論が Proposition 11.2 の

∣JI,η(Z)−fI,η(Z)∣≪ηZCI(β∗)−1/4800|J_{\mathrm I,\eta}(Z)-f_{\mathrm I,\eta}(Z)|\ll_\eta Z^{C_{\mathrm I}(\beta_{*})-1/4800}

で、命題 5.1 の 3 の 2 つ目の評価(κ=14800\kappa=\frac1{4800})です。ω=12(β∗−1112)\omega=\frac12(\beta_{*}-\frac{11}{12}) と合わせて接続の原理を使い、β∗≤1112\beta_{*}\le\frac{11}{12}(主張 B の Hecke の部分)を得る、というのが第 I 部です。

(5) 第 II 部(原稿 §12〜§20). 第 II 部は β∗≤1112\beta_{*}\le\frac{11}{12} を出発点にして、β∗>78\beta_{*}\gt\frac78 を仮定して矛盾を導きます。和を次のように変えます(式 (12.5))。選んだ素元 pp ごとに、「pp が添字 cn3cn^3 を割るという条件を付けた和」から「スケールを pp のノルムで縮めた和」を引きます。原稿によれば、この引き算は Poisson 側で不要な Euler 因子の寄与を打ち消し、66 次指標つきの素数の和を残すためのものです。2 つの平均のスケールは等しくなくなり(X=Z17/48X=Z^{17/48}、Y=Z23/48Y=Z^{23/48})、直接の評価は Z3/16+εZ^{3/16+\varepsilon}(Proposition 15.3)、主行の信号は CII(s)=s−1116C_{\mathrm{II}}(s)=s-\frac{11}{16} になります。残りの行の評価には 2 つのモーメント評価、すなわち素数の和を掛けた逆多項式の 2 乗平均(Lemma 17.1、§17 は約 40 ページ)と、2 つの多項式の積の 2 乗平均(Lemma 18.1)が加わり、どちらも有限 Poisson 変換を 2 回使う帰納法で証明されると述べられています。最後に、すべての範囲で指数が負になることを 2 変数の多項式の不等式として確かめ(Lemma 20.2)、選ぶ順序を整理して(Proposition 20.3)接続の原理を σ0=78\sigma_0=\frac78 で使います。

以上が、原稿が述べている構成です。この記事で独立に確かめたのは、図の太い枠の部分と、(2) の指数の計算、(4) の CIC_{\mathrm I} の読み取りだけです。主張の正否は、破線の枠の中、とくに Proposition 5.1、Lemma 9.1、Lemma 17.1、Lemma 18.1 と、それらをつなぐ指数の収支が正しいかどうかで決まります。

この節の命題は、仮定に QRH(Θ)\mathrm{QRH}(\Theta)(定義 4.2[リーマン予想 II])を明記した条件つきの命題です。証明するのは「仮定から結論が従う」ことだけで、仮定そのものは証明しません。主張 A は Θ=78\Theta=\frac78 の場合に当たります。

χ\chi を法 qq の Dirichlet 指標とし、ψ(x,χ):=∑n≤xΛ(n)χ(n)\psi(x,\chi):=\sum_{n\le x}\Lambda(n)\chi(n)、gcd⁡(a,q)=1\gcd(a,q)=1 について ψ(x;q,a):=∑n≤x, n≡a (q)Λ(n)\psi(x;q,a):=\sum_{n\le x,\ n\equiv a\ (q)}\Lambda(n) とおきます。

次の補題は、零点なし半平面の仮定から、LL 関数の対数微分 L′/LL'/L の大きさを抑えるためのものです。素数を数える関数 ψ(x,χ)\psi(x,\chi) の評価(命題 7.2 の 2・3)は、この大きさの評価から出ます。証明では Borel–Carathéodory の不等式(実部の上からの評価から、関数そのものの大きさを引き出す複素解析の不等式)を使います。

補題 7.1(零点なし半平面での L′/L の大きさ)✓

12≤Θ<1\frac12\le\Theta\lt1、0<δ<12(1−Θ)0\lt\delta\lt\frac12(1-\Theta) とし、χ\chi を法 qq の主指標でない Dirichlet 指標で、L(s,χ)L(s,\chi) が Re⁡s>Θ\operatorname{Re}s\gt\Theta に零点をもたないものとする。このとき σ≥Θ+2δ\sigma\ge\Theta+2\delta とすべての実数 tt について

∣L′L(σ+it,χ)∣≤19δ2 log⁡(q(∣t∣+5))\Bigl|\frac{L'}{L}(\sigma+it,\chi)\Bigr|\le\frac{19}{\delta^2}\,\log\bigl(q(|t|+5)\bigr)

が成り立つ。右辺の定数は qq にも χ\chi にもよらない。

証明(補題 7.1)

定理 3.1[リーマン予想 II] から、L(s,χ)L(s,\chi) は Re⁡s>0\operatorname{Re}s\gt0 で正則で、積分表示と ∣A(x)∣≤q|A(x)|\le q から

∣L(s,χ)∣≤∣s∣ q∫1∞x−σ−1dx=q∣s∣σ(σ>0)|L(s,\chi)|\le|s|\,q\int_1^\infty x^{-\sigma-1}dx=\frac{q|s|}{\sigma}\qquad(\sigma\gt0)

です。半平面 U={Re⁡s>Θ}U=\{\operatorname{Re}s\gt\Theta\} は凸で、仮定から LL は UU で正則で零点をもたないので、L′/LL'/L の UU 上の原始関数 L\mathcal L が取れます(定理 4.5[コーシーの積分定理と積分公式])。定数を調節して、σ>1\sigma\gt1 で L=ℓχ\mathcal L=\ell_\chi(補題 2.5[リーマン予想 II])とします。UU 上で L=eLL=e^{\mathcal L}、σ≥2\sigma\ge2 で ∣L(s)∣≤∑n≥2n−2≤1|\mathcal L(s)|\le\sum_{n\ge2}n^{-2}\le1、また ∣L(2+it,χ)∣≥1−∑n≥2n−2≥0.3|L(2+it,\chi)|\ge1-\sum_{n\ge2}n^{-2}\ge0.3 です。

tt を固定し、s0=2+its_0=2+it、R=2−Θ−δ2R=2-\Theta-\frac\delta2 とします。閉円板 ∣s−s0∣≤R|s-s_0|\le R は UU に含まれ、その上で σ≥Θ≥12\sigma\ge\Theta\ge\frac12、∣s∣≤∣t∣+4|s|\le|t|+4 なので ∣L(s,χ)∣≤2q(∣t∣+4)|L(s,\chi)|\le2q(|t|+4) です。F(z)=L(s0+z)−L(s0)F(z)=\mathcal L(s_0+z)-\mathcal L(s_0) は F(0)=0F(0)=0 で、∣z∣=R|z|=R 上で

Re⁡F(z)=log⁡∣L(s0+z,χ)L(s0,χ)∣≤log⁡(7q(∣t∣+4))≤3log⁡(q(∣t∣+4))\operatorname{Re}F(z)=\log\Bigl|\frac{L(s_0+z,\chi)}{L(s_0,\chi)}\Bigr|\le\log\bigl(7q(|t|+4)\bigr)\le3\log\bigl(q(|t|+4)\bigr)

です(log⁡7≤1.5log⁡4\log7\le1.5\log4)。Borel–Carathéodory の不等式(命題 4.3[最大値原理の一般化と正則関数族])から、∣z∣≤r:=2−Θ−δ|z|\le r:=2-\Theta-\delta(≤32\le\frac32)で

∣F(z)∣≤2⋅3log⁡(q(∣t∣+4))⋅rR−r≤18δlog⁡(q(∣t∣+4))|F(z)|\le\frac{2\cdot3\log(q(|t|+4))\cdot r}{R-r}\le\frac{18}{\delta}\log\bigl(q(|t|+4)\bigr)

です。∣L(s0)∣≤1≤1δlog⁡(q(∣t∣+4))|\mathcal L(s_0)|\le1\le\frac1\delta\log(q(|t|+4)) と合わせて、Θ+δ≤σ≤2\Theta+\delta\le\sigma\le2 で ∣L(σ+it)∣≤19δlog⁡(q(∣t∣+4))|\mathcal L(\sigma+it)|\le\frac{19}\delta\log(q(|t|+4))、σ≥2\sigma\ge2 では 11 以下なので、この評価は σ≥Θ+δ\sigma\ge\Theta+\delta とすべての tt で成り立ちます。

σ≥Θ+2δ\sigma\ge\Theta+2\delta のとき、閉円板 D‾(s,δ)\overline{D}(s,\delta) の点は実部 ≥Θ+δ\ge\Theta+\delta、虚部の絶対値 ≤∣t∣+1\le|t|+1 を満たすので、Cauchy の評価式(命題 4.1[正則関数の強力な性質]、n=1n=1)から

∣L′L(s,χ)∣=∣L′(s)∣≤1δ⋅19δlog⁡(q(∣t∣+5)).\Bigl|\frac{L'}{L}(s,\chi)\Bigr|=|\mathcal L'(s)|\le\frac1\delta\cdot\frac{19}{\delta}\log\bigl(q(|t|+5)\bigr).

命題 7.2(一様な零点なし半平面からの帰結(仮定つき))✓

12≤Θ<1\frac12\le\Theta\lt1 とし、QRH(Θ)\mathrm{QRH}(\Theta) を仮定する。すなわち、すべての Dirichlet 指標 χ\chi について L(s,χ)L(s,\chi) は Re⁡s>Θ\operatorname{Re}s\gt\Theta に零点をもたないとする(主張 A が正しいと仮定すると、Θ=78\Theta=\frac78 でこの仮定が満たされる)。このとき次が成り立つ。

  1. 定数 CC があって、x≥2x\ge2 で ∣ψ(x)−x∣≤C xΘlog⁡2x|\psi(x)-x|\le C\,x^{\Theta}\log^2x。
  2. 任意の 0<δ<12(1−Θ)0\lt\delta\lt\frac12(1-\Theta) に対して、Θ\Theta と δ\delta だけに依る定数 CδC_\delta があって、すべての q≥1q\ge1、法 qq の主指標でないすべての χ\chi、すべての x≥2x\ge2 について ∣ψ(x,χ)∣≤Cδ xΘ+2δlog⁡2(qx)|\psi(x,\chi)|\le C_\delta\,x^{\Theta+2\delta}\log^2(qx)。
  3. 同じ δ\delta に対して定数 Cδ′C'_\delta があって、すべての q≥1q\ge1、gcd⁡(a,q)=1\gcd(a,q)=1、x≥2x\ge2 について ∣ψ(x;q,a)−xφ(q)∣≤Cδ′ xΘ+2δlog⁡2(qx)\bigl|\psi(x;q,a)-\frac{x}{\varphi(q)}\bigr|\le C'_\delta\,x^{\Theta+2\delta}\log^2(qx)。
  4. どの Dirichlet 指標 χ\chi についても、L(s,χ)L(s,\chi) は区間 (Θ,1)(\Theta,1) に実零点をもたない。とくに c<(1−Θ)log⁡3c\lt(1-\Theta)\log3 について、例外零点(定義 4.3[リーマン予想 II])は存在しない。

主張 A が正しいと仮定すると、Θ=78\Theta=\frac78 として、ψ(x)=x+O(x7/8log⁡2x)\psi(x)=x+O(x^{7/8}\log^2x)、任意の ε>0\varepsilon\gt0 について qq に関して一様に ψ(x;q,a)=xφ(q)+Oε(x7/8+εlog⁡2(2q))\psi(x;q,a)=\frac{x}{\varphi(q)}+O_\varepsilon(x^{7/8+\varepsilon}\log^2(2q))、および (78,1)(\frac78,1) に実零点が無いことが従う。

証明(命題 7.2)

1. 法 11 の指標についての仮定は「ζ\zeta が Re⁡s>Θ\operatorname{Re}s\gt\Theta に零点をもたない」なので、定理 7.2[リーマン予想 I] そのものです。

4. 仮定から直ちに従います。q≥3q\ge3 なら 1−clog⁡q≥1−clog⁡3>Θ1-\frac{c}{\log q}\ge1-\frac{c}{\log3}\gt\Theta なので、例外零点の定義の区間は (Θ,1)(\Theta,1) に含まれます。

2. κ=Θ+2δ\kappa=\Theta+2\delta(<1\lt1)とおきます。ψ(⋅,χ)\psi(\cdot,\chi) は [N,N+1)[N,N+1) で定数なので、まず x=N+12x=N+\frac12、N≥5N\ge5 とし、c=1+1log⁡xc=1+\frac1{\log x}、T=xT=x とします。

補題 2.5[リーマン予想 II] の ℓχ\ell_\chi を項別に微分すると、σ>1\sigma\gt1 で −L′L(s,χ)=∑p∑kχ(pk)log⁡p⋅p−ks=∑nΛ(n)χ(n)n−s-\frac{L'}{L}(s,\chi)=\sum_p\sum_k\chi(p^k)\log p\cdot p^{-ks}=\sum_n\Lambda(n)\chi(n)n^{-s}(絶対収束)です。線分 Re⁡s=c\operatorname{Re}s=c 上で項別に積分し、補題 7.10[リーマン予想とは何か] を使うと

∣ψ(x,χ)−Jχ∣≤∑n≥1Λ(n)(x/n)cπT∣log⁡(x/n)∣,Jχ:=12πi∫c−iTc+iT(−L′L(s,χ))xss ds\Bigl|\psi(x,\chi)-J_\chi\Bigr|\le\sum_{n\ge1}\Lambda(n)\frac{(x/n)^{c}}{\pi T|\log(x/n)|},\qquad J_\chi:=\frac1{2\pi i}\int_{c-iT}^{c+iT}\Bigl(-\frac{L'}{L}(s,\chi)\Bigr)\frac{x^s}{s}\,ds

です(∣χ(n)∣≤1|\chi(n)|\le1)。右辺の和は 補題 7.1[リーマン予想 I] の証明の第 1 段で評価した和と同じもので、そこで示したとおり K1xlog⁡2xT=K1log⁡2xK_1\frac{x\log^2x}{T}=K_1\log^2x 以下です(n≤x/2n\le x/2 と n≥2xn\ge2x の項は ∣log⁡(x/n)∣≥log⁡2|\log(x/n)|\ge\log2 と ∑nΛ(n)n−c≤6log⁡x\sum_n\Lambda(n)n^{-c}\le6\log x から、x/2<n<2xx/2\lt n\lt2x の項は ∣log⁡(x/n)∣≥∣x−n∣4x|\log(x/n)|\ge\frac{|x-n|}{4x} と ∑1∣x−n∣≤2(2+log⁡(4x+1))\sum\frac1{|x-n|}\le2(2+\log(4x+1)) から)。

χ\chi は主指標でなく、仮定から L(s,χ)L(s,\chi) は Re⁡s>Θ\operatorname{Re}s\gt\Theta で正則で零点をもたないので、JχJ_\chi の被積分関数は Re⁡s>Θ\operatorname{Re}s\gt\Theta で正則です。頂点 κ±iT\kappa\pm iT、c±iTc\pm iT の長方形に Cauchy の定理(定理 5.1[留数定理と定積分への応用] で特異点が無い場合)を使うと、JχJ_\chi は残りの 3 辺の積分で書けます。補題 7.1 から、3 辺の上で ∣L′L∣≤19δ2log⁡(q(T+5))\bigl|\frac{L'}{L}\bigr|\le\frac{19}{\delta^2}\log(q(T+5)) です。横の辺では ∣xs/s∣≤xσ/T|x^s/s|\le x^\sigma/T、∫κcxσdσ≤ex\int_\kappa^{c}x^\sigma d\sigma\le ex から寄与は 19eδ2log⁡(q(x+5))\frac{19e}{\delta^2}\log(q(x+5)) 以下、縦の辺では ∫−TTdt∣κ+it∣≤2κ+2log⁡T≤4+2log⁡x\int_{-T}^{T}\frac{dt}{|\kappa+it|}\le\frac2\kappa+2\log T\le4+2\log x から寄与は 19δ2xκlog⁡(q(x+5))(4+2log⁡x)\frac{19}{\delta^2}x^{\kappa}\log(q(x+5))(4+2\log x) 以下です。合わせて、半整数 x≥5.5x\ge5.5 で ∣ψ(x,χ)∣≤Cδxκlog⁡2(qx)|\psi(x,\chi)|\le C_\delta x^{\kappa}\log^2(qx) です。一般の x≥6x\ge6 は ⌊x⌋+12\lfloor x\rfloor+\frac12 での値に等しく、2≤x<62\le x\lt6 では ∣ψ(x,χ)∣≤ψ(6)|\psi(x,\chi)|\le\psi(6) なので、定数を取り直せばすべての x≥2x\ge2 で成り立ちます。

3. 指標の直交関係(命題 2.1[リーマン予想 II])から

ψ(x;q,a)=1φ(q)∑χ mod qχ(a)‾ ψ(x,χ)\psi(x;q,a)=\frac1{\varphi(q)}\sum_{\chi\bmod q}\overline{\chi(a)}\,\psi(x,\chi)

です。主指標の項は ψ(x,χ0)=ψ(x)−∑p∣q∑k: pk≤xlog⁡p\psi(x,\chi_0)=\psi(x)-\sum_{p\mid q}\sum_{k:\,p^k\le x}\log p で、引かれる和は各 pp について log⁡x\log x 以下、qq の素因数は log⁡qlog⁡2\frac{\log q}{\log2} 個以下なので 2log⁡qlog⁡x2\log q\log x 以下です。1 と合わせて ∣ψ(x,χ0)−x∣≤CxΘlog⁡2x+2log⁡qlog⁡x|\psi(x,\chi_0)-x|\le Cx^{\Theta}\log^2x+2\log q\log x。主指標でない φ(q)−1\varphi(q)-1 個の項には 2 を使うと、∣ψ(x;q,a)−xφ(q)∣≤1φ(q)(CxΘlog⁡2x+2log⁡qlog⁡x)+CδxΘ+2δlog⁡2(qx)|\psi(x;q,a)-\frac x{\varphi(q)}|\le\frac1{\varphi(q)}\bigl(Cx^\Theta\log^2x+2\log q\log x\bigr)+C_\delta x^{\Theta+2\delta}\log^2(qx) で、右辺は Cδ′xΘ+2δlog⁡2(qx)C'_\delta x^{\Theta+2\delta}\log^2(qx) 以下です。

最後の段落は Θ=78\Theta=\frac78、δ=ε/4\delta=\varepsilon/4(ε<14\varepsilon\lt\frac14 としてよい)とし、log⁡2(qx)≤2log⁡2(2q)+2log⁡2x\log^2(qx)\le2\log^2(2q)+2\log^2x、log⁡2(2q)≥log⁡22\log^2(2q)\ge\log^22 と log⁡2x≤Cεxε/2\log^2x\le C_\varepsilon x^{\varepsilon/2} を使ったものです。

3 の評価は、主項 x/φ(q)x/\varphi(q) が誤差より大きい範囲、すなわち q≤x1−Θ−3δq\le x^{1-\Theta-3\delta} で意味をもちます。Θ=78\Theta=\frac78 なら qq がおよそ x1/8x^{1/8} まで、です。無条件で知られている Siegel–Walfisz の定理は q≤(log⁡x)Aq\le(\log x)^{A} の範囲で、しかも定数が実効的でありません(定理 4.4[リーマン予想 II] の非実効性を受け継ぎます)。一般化リーマン予想なら q≤x1/2−εq\le x^{1/2-\varepsilon} です。LL 関数の関数等式と零点の個数の評価を使えば、2 と 3 の指数の 2δ2\delta の損失は取り除けて O(xΘlog⁡2(qx))O(x^{\Theta}\log^2(qx)) になります(Davenport 第 19・20 章の方法。Rikai にはまだ L(s,χ)L(s,\chi) の関数等式が無いので、ここでは上の形にとどめました)。

これらは主張 A が正しい場合に限って成り立つ評価です。現時点で確立した定理として使えるのは、第 1 章の 定理 7.3[リーマン予想 I] の形の評価までです。

一次資料で確かめた事実と、確かめられなかったことを分けて書きます。

(i) Lean による形式化の記載. リポジトリの lean/docs/003.md は、この原稿と、別の原稿 “Uniform exclusion of Landau–Siegel zeros”(2026 年 10 月 1 日付)に対応する形式化の範囲を、次のように述べています。

  • ζ\zeta とすべての Dirichlet LL 関数について、すべての正の法とすべての指標にわたって一様に θ=78\theta=\frac78 の零点なし半平面が形式化されている。Q(−3)\mathbb{Q}(\sqrt{-3}) 上の有限位数 Hecke LL 関数についても同じ。主指標の s=1s=1 の極は文の中で除外されている。
  • 原稿の後半の応用は含まれない(主張 C に当たる Corollary 1.2 は形式化されていない)。
  • 実原始指標の実零点について、ある定数 c>0c\gt0 があって、導手 q≥3q\ge3 の主指標でない実原始指標の LL 関数の実零点 0<β<10\lt\beta\lt1 はすべて 1−β≥c/log⁡q1-\beta\ge c/\log q を満たす、という文が形式化されている。cc の具体的な値は与えられていない。これは区間 (1−c/log⁡q,1)(1-c/\log q,1) の実零点を排除するもので、(0,1)(0,1) の他の場所の実零点については何も言わない、と明記されている。

なお、最後の文は、Dirichlet の 78\frac78 の文からも論理的に従います(β>78\beta\gt\frac78 の実零点は無く、β≤78\beta\le\frac78 なら 1−β≥18≥clog⁡q1-\beta\ge\frac18\ge\frac{c}{\log q} が c=18log⁡3c=\frac18\log3 で成り立つ)。別の原稿として公開されている証明の内容は、この記事では確認していません。

同じ文書は、定理の文を記した Lean ファイル(Comparator という検査ツール用の「挑戦文」)への対応を挙げています。ζ\zeta と Dirichlet LL 関数についての文は次のとおりです(lean/ComparatorChallenges/QuasiRiemannHypothesis.lean、DirichletSevenEighths.lean。証明の位置は sorry で、証明本体は別のモジュールにあります)。

theorem riemannZeta_ne_zero_of_seven_eighths_lt_re
{s : ℂ} (hs : (7 / 8 : ℝ) < s.re) : riemannZeta s ≠ 0
theorem LFunction_ne_zero_of_seven_eighths_lt_re
{q : ℕ} [NeZero q] (χ : DirichletCharacter ℂ q) {s : ℂ}
(hs : (7 / 8 : ℝ) < s.re) (hpole : ¬ (χ = 1 ∧ s = 1)) :
DirichletCharacter.LFunction χ s ≠ 0

riemannZeta と DirichletCharacter.LFunction は Lean の数学ライブラリ Mathlib の定義で、C\mathbb{C} 全体で定義された関数です。Re⁡s>1\operatorname{Re}s\gt1 で級数 ∑n−s\sum n^{-s}、∑χ(n)n−s\sum\chi(n)n^{-s} に一致し、極を除いて正則であることが Mathlib の中で証明されているので、一致の定理により通常の解析接続と同じ関数です(極の点 s=1s=1 には Mathlib の規約による値が割り当てられていて、2 つ目の文の仮定 hpole は主指標の極を除外しています)。したがってこの 2 つの文は、主張 A の Dirichlet の部分を正確に表しています。Hecke についての文(HeckeSevenEighths.lean)は、定義 2.4 と同じく「(O/f)×(\mathcal{O}/\mathfrak{f})^\times の指標で単数上自明なもの」として指標を定義し、LL 関数をテータ級数の Mellin 変換による接続としてそのファイルの中で定義しています。こちらは Mathlib の既成の定義ではないので、文が意図した数学的命題を表していることは、その定義を読んで確かめる必要があります(この記事では定義の形を確認しただけで、通常の Hecke LL 関数との一致の証明は確かめていません)。

各挑戦文に付いた設定ファイル(*.json)は、証明本体のモジュール名と、許される公理として propext、Quot.sound、Classical.choice(Lean と Mathlib が標準で使う 3 つ)だけを挙げています。検査の手順は lean/ComparatorChallenges/README.md にあります。この記事では Lean のビルドも Comparator の実行もしていません。 証明本体のソースも読んでいません。上に書いたのは、リポジトリに何が置かれ、何と書かれているかです。

(ii) Lean の検査が保証することと、しないこと. 検査が通れば、次のことが保証されます。挑戦文に書かれた定理の文が、Mathlib の定義と上の 3 つの公理から、Lean の核(kernel)が受理する形で導かれている。信頼の根拠は、Lean の核の正しさと、文に現れる定義が意図どおりであること、の 2 点に絞られます。ζ\zeta と Dirichlet の文については後者は上で述べたとおり確かめやすく、これは 199 ページの原稿を人が読む検証とは独立な、強い種類の証拠です。

保証されないこともあります。第 1 に、形式証明は原稿の議論と同じ道筋をたどっているとは限りません。形式化が確認するのは結論の文で、原稿の各補題の記述が正しいことではありません。第 2 に、形式化されていない部分(主張 C、原稿の定数の値など)には何の保証も及びません。第 3 に、検査が通ることと、数学者がその証明を理解し、他の問題に使える形で受け取ることは別です。新しい結果が定理として定着するには、通常、独立な専門家による読解と、査読を経た公表が必要です。

(iii) リポジトリの README の記載. README は次のことを述べています。このリポジトリは OpenAI の内部モデルが作った数学の原稿と証明の成果物を集めたもので、722 編の原稿を 372 の系統に分類している。収録された結果は検証の段階がまちまちで、すべてに Lean の形式化が付いているわけではなく、形式化されていない結果には問題があり得る。訂正と改訂は新しい版として記録し、以前の版も残す。大多数の結果は同じ手順(約 4,000 問を与え、1 結果あたり平均 3 時間の計算)で得たが、ζ\zeta の零点なし領域の仕事はその例外である。Re⁡s>1112\operatorname{Re}s\gt\frac{11}{12} の零点なし領域の書き物は、読みやすさのために人手で編集されている。

したがって、この結果に要した計算時間や手順は、README からは分かりません(標準の手順の例外と書かれているためです)。報道に出る所要時間などの数字は、この結果については一次資料で確認できなかったので、この記事には書きません。確認した時点で、リポジトリの main ブランチの先頭は 2026 年 10 月 6 日付の「Initial commit」でした。

(iv) 査読・掲載・独立の検証. 原稿は著者表記が OpenAI のプレプリントで、原稿の PDF にも README にも、査読、学術誌への投稿・掲載についての記載はありません。確認日の時点で、独立した数学者による検証結果(正しいとするものも、誤りを指摘するものも)の公表は、一次資料からは確認できませんでした。訂正版・正誤表も確認できませんでした。

まとめ. この主張について現時点で言えるのは、(a) 主張の文は明確で、ζ\zeta と Dirichlet LL 関数については形式的な文として公開されている、(b) 形式証明が付いていると記載されているが、この記事では検査を実行していない、(c) 人が読む証明としての独立な検証は公表されていない、の 3 点です。数学の歴史では、重要な主張が公表から定着までに数年かかることは珍しくなく、その間に誤りが見つかって修正されることも、撤回されることもあります。この記事は、状況が変わったら版と確認日を更新します。

演習 9.1易

1313 を O=Z[ω]\mathcal{O}=\mathbb{Z}[\omega] で素元分解し、2 つの素因子の primary な生成元(≡1(mod3)\equiv1\pmod3 のもの)を求めよ。その一方を π\pi として、(2π)3\bigl(\frac2\pi\bigr)_3 を計算せよ。

解答

13≡1(mod3)13\equiv1\pmod3 なので分解します(補題 2.3)。a2−ab+b2=13a^2-ab+b^2=13 の解として (a,b)=(4,1)(a,b)=(4,1) があり、4+ω4+\omega がノルム 1313 の素元です。4+ω4+\omega の  mod 3\bmod3 での類は (1,1)(1,1) で、これは単数 1+ω=−ω21+\omega=-\omega^2 の類です。命題 2.2 の 3 から、(−ω2)−1=−ω(-\omega^2)^{-1}=-\omega を掛けて π=−ω(4+ω)=−4ω−ω2=1−3ω\pi=-\omega(4+\omega)=-4\omega-\omega^2=1-3\omega が primary です(N(π)=1+3+9=13N(\pi)=1+3+9=13)。もう一方は πˉ=1−3ω2=4+3ω\bar\pi=1-3\omega^2=4+3\omega(16−12+9=1316-12+9=13)で、ππˉ=13\pi\bar\pi=13 です。

O/πO≅F13\mathcal{O}/\pi\mathcal{O}\cong\mathbb{F}_{13} で、1−3ω≡01-3\omega\equiv0 から ω≡3−1≡9\omega\equiv3^{-1}\equiv9 です(81+9+1=91=7⋅1381+9+1=91=7\cdot13)。(2π)3≡2(13−1)/3=16≡3(modπ)\bigl(\frac2\pi\bigr)_3\equiv2^{(13-1)/3}=16\equiv3\pmod\pi で、ω2≡81≡3\omega^2\equiv81\equiv3 なので (2π)3=ω2\bigl(\frac2\pi\bigr)_3=\omega^2 です。11 でないので 22 は  mod 13\bmod13 で立方数ではありません( mod 13\bmod13 の 00 でない立方数は 1,5,8,121,5,8,12)。

演習 9.2標準

r(n)r(n) を、ノルムが nn の O\mathcal{O} のイデアルの個数とする。ζF(s)=ζ(s)L(s,χ−3)\zeta_F(s)=\zeta(s)L(s,\chi_{-3})(命題 4.2)から r(n)=∑d∣nχ−3(d)r(n)=\sum_{d\mid n}\chi_{-3}(d) を導き、n=3,4,5,7n=3,4,5,7 で確かめよ。また a2−ab+b2=7a^2-ab+b^2=7 の整数解の個数を求めよ。

解答

Re⁡s>1\operatorname{Re}s\gt1 で ζF(s)=∑nr(n)n−s\zeta_F(s)=\sum_nr(n)n^{-s}(ノルムごとにまとめる)、ζ(s)L(s,χ−3)=∑n(∑d∣nχ−3(d))n−s\zeta(s)L(s,\chi_{-3})=\sum_n\bigl(\sum_{d\mid n}\chi_{-3}(d)\bigr)n^{-s}(絶対収束する級数の積)です。Dirichlet 級数の係数は関数から一意に決まります(n−sn^{-s} の係数の最初に食い違う番号を n0n_0 とし、差に n0sn_0^{s} を掛けて実数 s→+∞s\to+\infty とすると矛盾)。よって r(n)=∑d∣nχ−3(d)r(n)=\sum_{d\mid n}\chi_{-3}(d) です。

r(3)=χ−3(1)+χ−3(3)=1r(3)=\chi_{-3}(1)+\chi_{-3}(3)=1((λ)(\lambda) だけ)、r(4)=1−1+1=1r(4)=1-1+1=1((2)(2) だけ)、r(5)=1−1=0r(5)=1-1=0(55 は惰性でノルム 55 のイデアルは無い)、r(7)=1+1=2r(7)=1+1=2(77 の上の 2 つの素イデアル)で、補題 2.3 と合います。各イデアルは 66 個の生成元をもつ(命題 2.2 の 2)ので、a2−ab+b2=7a^2-ab+b^2=7 の整数解は 6r(7)=126r(7)=12 個です。

演習 9.3標準

η\eta を法 f\mathfrak{f} の有限位数 Hecke 指標とし、法 f′⊃f\mathfrak{f}'\supset\mathfrak{f} の指標 η∗\eta^{*} から誘導されるとする。Re⁡s>1\operatorname{Re}s\gt1 で

LF(s,η)=LF(s,η∗)∏p⊃f(1−η∗(p)(Np)−s)L_F(s,\eta)=L_F(s,\eta^{*})\prod_{\mathfrak{p}\supset\mathfrak{f}}\bigl(1-\eta^{*}(\mathfrak{p})(N\mathfrak{p})^{-s}\bigr)

を示し、定義 4.3 で原始指標だけを考えれば十分である理由を説明せよ。

解答

p\mathfrak{p} が f\mathfrak{f} を含まない(f\mathfrak{f} と互いに素な)素イデアルなら η(p)=η∗(p)\eta(\mathfrak{p})=\eta^{*}(\mathfrak{p})、p⊃f\mathfrak{p}\supset\mathfrak{f} なら η(p)=0\eta(\mathfrak{p})=0 です。補題 2.5 の Euler 積で、η\eta の積は η∗\eta^{*} の積から p⊃f\mathfrak{p}\supset\mathfrak{f} の因子(有限個)を除いたものなので、等式が成り立ちます。Re⁡s>0\operatorname{Re}s\gt0 では ∣η∗(p)(Np)−s∣<1|\eta^{*}(\mathfrak{p})(N\mathfrak{p})^{-s}|\lt1 なので、右辺の有限積は零点をもちません。したがって、両辺を有理型に延ばしたとき(Hecke の定理)、LF(s,η)L_F(s,\eta) と LF(s,η∗)L_F(s,\eta^{*}) は Re⁡s>0\operatorname{Re}s\gt0 で同じ零点をもちます。どの指標も原始指標から誘導される(定義 2.2[リーマン予想 II] の後の議論と同じ)ので、すべての有限位数指標にわたる零点の実部の上限は、原始指標にわたる上限 β∗\beta_{*} に等しくなります。命題 4.1 の Hecke 版です。

演習 9.4難

12≤Θ<1\frac12\le\Theta\lt1 とし、QRH(Θ)\mathrm{QRH}(\Theta) を仮定する。奇素数 pp に対し、n(p)n(p) を pp を法とする最小の正の平方非剰余とする。任意の A>21−ΘA\gt\frac2{1-\Theta} に対して定数 CAC_A が存在して、すべての奇素数 pp で n(p)≤CA(log⁡p)An(p)\le C_A(\log p)^{A} となることを、命題 7.2 を使って示せ。とくに任意の δ>0\delta\gt0 について n(p)=Oδ(pδ)n(p)=O_\delta(p^{\delta}) である。

解答

χ(n)=(np)\chi(n)=\bigl(\frac np\bigr) は法 pp の主指標でない実指標です(系 3.4[原始根と平方剰余の相互法則] の 1・2・5)。y=n(p)−1y=n(p)-1 とおくと y<py\lt p で、1≤n≤y1\le n\le y はすべて pp と互いに素な平方剰余なので χ(n)=1\chi(n)=1、したがって ψ(y,χ)=ψ(y)\psi(y,\chi)=\psi(y) です。

命題 7.2 の 1 から、ある y0y_0 があって y≥y0y\ge y_0 で ψ(y)≥y−CyΘlog⁡2y≥y2\psi(y)\ge y-Cy^{\Theta}\log^2y\ge\frac y2 です。0<δ<12(1−Θ)0\lt\delta\lt\frac12(1-\Theta) を取ると、同命題の 2(q=pq=p、x=yx=y)と y<py\lt p から ∣ψ(y,χ)∣≤CδyΘ+2δlog⁡2(py)≤4CδyΘ+2δlog⁡2p|\psi(y,\chi)|\le C_\delta y^{\Theta+2\delta}\log^2(py)\le4C_\delta y^{\Theta+2\delta}\log^2p です。y≥y0y\ge y_0 なら

y2≤4Cδ yΘ+2δlog⁡2p,すなわちy≤(8Cδlog⁡2p)1/(1−Θ−2δ)\frac y2\le4C_\delta\,y^{\Theta+2\delta}\log^2p,\qquad\text{すなわち}\qquad y\le\bigl(8C_\delta\log^2p\bigr)^{1/(1-\Theta-2\delta)}

です。よって n(p)≤1+max⁡{y0,(8Cδ)1/(1−Θ−2δ)(log⁡p)2/(1−Θ−2δ)}n(p)\le1+\max\{y_0,(8C_\delta)^{1/(1-\Theta-2\delta)}(\log p)^{2/(1-\Theta-2\delta)}\} で、δ↓0\delta\downarrow0 とすれば指数 21−Θ−2δ\frac2{1-\Theta-2\delta} は 21−Θ\frac2{1-\Theta} にいくらでも近づくので主張が従います。log⁡p\log p の冪は任意の pδp^{\delta} より小さいので、後半も従います。

Θ=78\Theta=\frac78 では A>16A\gt16 が取れます。原稿の主張 C は、別の文献(Bhargava・Ivanyos・Mittal・Saxena, ISSAC 2017)の定理を経由して A=32A=32 を例として挙げ、ここでは最適化は必要ないと述べています。ここでの導出は「主張 A が正しいと仮定すると」という条件つきで、無条件に知られている最良の評価は Burgess (1957) の n(p)=Oε(p1/(4e)+ε)n(p)=O_\varepsilon(p^{1/(4\sqrt e)+\varepsilon}) です。一般化リーマン予想の下では Ankeny (1952) の n(p)=O(log⁡2p)n(p)=O(\log^2p) が知られています。

  • OpenAI, “The Quasi-Riemann Hypothesis: A Zero-Free Half-Plane ℜs>7/8\Re s>7/8”, プレプリント、2026 年 9 月 30 日付。github.com/openai/math の preprints/The-Quasi-Riemann-Hypothesis-September-30-2026/paper.pdf(確認日 2026-10-08。査読を経ていない)。
  • openai/math リポジトリの README、lean/docs/003.md(形式化の範囲)、lean/ComparatorChallenges/(定理の文と検査の設定。確認日 2026-10-08)。
  • H. Davenport『Multiplicative Number Theory』第 3 版、Springer、2000 — 第 14 章(LL 関数の零点なし領域)、第 19・20 章(算術級数の素数定理)、第 27 章(large sieve)。
  • P. X. Gallagher, “The large sieve”, Mathematika 14 (1967), 14–20 — 定理 6.2 の証明の方法。
  • K. Ireland, M. Rosen『A Classical Introduction to Modern Number Theory』第 2 版、Springer、1990 — 第 9 章(Eisenstein 整数と 3 次剰余の相互法則)。
  • A. Dunn, M. Radziwiłł, “Bias in cubic Gauss sums: Patterson’s conjecture”, Annals of Mathematics 200 (2024), 967–1057. arXiv:2109.07463 — 原稿が 3 次テータ関数の尖点展開の出典として挙げる論文。
  • S. J. Patterson, “A cubic analogue of the theta series”, J. reine angew. Math. 296 (1977), 125–161 — 3 次テータ関数。

このテーマの 100 本ノック(50 問)

執筆: Claude Code(Opus 5.5)、Claude Code(Sonnet 5.5)・監査 2 回(Claude Code)・最終 2026-10-12

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