因子と直線束:Weil 因子・Cartier 因子・射影空間への射
対象読者: 本テーマ第 1〜2 章の層コホモロジーと Čech コホモロジー、可逆層、離散付値環・Dedekind 環の基礎を学んだ人。Weil 因子・Cartier 因子・Picard 群は未習でよい。
前提となる記事:Čech コホモロジーと射影空間のコホモロジー、準連接層・連接層と直線束:加群を幾何に移す、離散付値環と Dedekind 環:付値・可逆イデアル・Krull–秋月の定理
0. この記事の要点
Section titled “0. この記事の要点”射影平面の中の曲線を「同じ次数なら仲間」と数えると、曲線の分類が整数ひとつに落ちます。この記事は、この見方を一般のスキームに広げ、曲線や超曲面のような余次元 の部分集合を、有理関数の零点と極の差を無視して数える方法(因子)を作ります。さらに、因子から作る「直線束」が十分たくさんの切断をもてば、空間を射影空間の中に埋め込めることを示します。読み終えると、射影空間の因子が次数だけで決まる理由と、どんな直線束が埋め込みを与えるかを判定する方法が分かります。
- Weil 因子は余次元 の既約閉部分集合(素因子)の整数係数の形式和です。余次元 の局所環が離散付値環(素元の冪で割り切れる回数を測れる環)であるスキームでは、有理関数 の零点と極の位数を付値で測って因子 が定まり、主因子で割った群が因子類群 です。
- Noether 整域 が UFD であることは、 が正規で であることと同値です。閉集合を除く操作と との積について がどう変わるかが分かり、 が出ます。
- Cartier 因子は局所的に一つの有理関数で定義される因子です。局所環がすべて UFD のスキーム(とくに非特異多様体)では Weil 因子と一致します。整スキームでは Cartier 因子類群は Picard 群と同型で、因子 に可逆層 が対応します。
- スキーム から への射は、可逆層 とそれを生成する 個の大域切断の組と対応します。代数閉体上の射影多様体では、この射が閉はめ込み(像の上に自分自身がそのまま埋まる射)であることは「点を分離し、接ベクトルを分離する」ことと同値です。
- 可逆層 が豊富であることは、あるべき が非常に豊富である(射影空間へのはめ込みを与える)ことと同値で、固有スキームでは「ねじれば高次コホモロジーが消える」ことと同値です。
射影平面の中の曲線は 1 本の斉次式の零点で、次数という離散的な不変量をもちます。同じ次数の二つの曲線 、 は、有理関数 の零点と極としてつながっています。「余次元 の部分多様体を、有理関数の零点と極の差を無視して分類する」のが因子類群の考え方で、数論でいえば Dedekind 環のイデアル類群(定義 4.1[離散付値環と Dedekind 環])に当たります。
因子にはもう一つの顔があります。因子 に対して「 より悪い極をもたない有理関数」の層 は可逆層で、その大域切断の空間が、古典的な Riemann–Roch の問題の対象です。大域切断が十分にあれば、それらを斉次座標として多様体を射影空間に写せます。どの可逆層が埋め込みを与えるか、という問いが豊富性の理論で、前の章の有限性定理・消滅定理がその判定法を与えます。
この章の結果は、曲線の Riemann–Roch の定理(因子の次数と )と、曲面上の交点数の言葉になります。
Weil 因子を考えるスキーム には、次の条件を課します。
(*) は Noether・整・分離的なスキームで、次元 の局所環 はすべて離散付値環である。
正規な Noether 整分離スキームは (*) を満たします。次元 の Noether 局所整域は、整閉なら離散付値環だからです(定理 3.4[離散付値環と Dedekind 環])。整スキーム の関数体(生成点の局所環)を と書きます(命題 2.2[スキームの性質と射])。アフィン開集合 について は整域で です。既約な閉集合 の生成点を とし、 の余次元を とします。 なら 、 で、余次元は です。
可逆層・Picard 群・引き戻しは準連接層の章の定義を使います。可逆層 の切断 について と書きます。 が自明になる開集合の上では は関数 に対応し は が単元になる点の集合なので、 は開集合です。 のとき「 は で消える」といいます。
3. Weil 因子と因子類群
Section titled “3. Weil 因子と因子類群”は (*) を満たすとする。
- 余次元 の既約な閉集合 (被約な閉部分スキームと見る)を素因子という。素因子の生成する自由アーベル群 の元 (有限和)を Weil 因子という。すべての のとき は有効であるといい と書く。
- 素因子 について、 は商体 の離散付値環で、その付値を と書く。 に対し を の因子という(有限和であることは 命題 3.2)。 の形の因子を主因子という。
- が主因子のとき と は線形同値であるといい と書く。 を因子類群という。
証明(命題 3.2)
となる が有限個であることを示せば、 に同じ主張を使って となる も有限個と分かる。アフィン開集合 をとり ()と書いて、()とおくと である。
は真の閉集合で、既約成分は有限個である(命題 3.4[アフィン代数多様体と座標環])。 に含まれる素因子 は のある既約成分 に含まれ、 で の余次元は だから である。よって と交わらない素因子は有限個である。
と交わる素因子 は高さ の素イデアル に対応し、 だから 、 は と同値である。 を含む高さ の素イデアルは の極小素イデアルで、Noether 環 の極小素イデアルは有限個である(系 3.4[準素分解と随伴素イデアル])。以上で有限性が示された。後半は による。
証明(命題 3.3)
が体なら両方とも成り立つので、体でないとする。 の素因子は高さ の素イデアル に対応する。 が正規なら、 は離散付値環で、 である(定理 6.2[離散付値環と Dedekind 環])。
(⇒)UFD は正規である(命題 3.3[整拡大])。高さ の素イデアル は単項で(補題 8.1[Cohen–Macaulay 環と正則局所環])、 と書く。 だから である。別の高さ の素イデアル について、 なら で高さが等しいから となる。よって で、 である。素因子がすべて主因子なので である。
(⇐)高さ の素イデアル をとる。仮定により となる がある。すべての高さ の で だから で、 から である。 をとると、、 では だから 、すなわち である。よって は単項で、補題 8.1[Cohen–Macaulay 環と正則局所環] により は UFD である。
は (*) を満たすとし、 を閉集合、 とする。
- は全射準同型 を定める。
- のすべての既約成分の余次元が 以上なら、 は同型である。
- が素因子なら、 で定まる について、列 は完全である。
証明(定理 3.4)
も (*) を満たし、 である。 の素因子 で と交わるものについて、 は の既約な閉集合で生成点は だから の素因子で、 である。逆に の素因子 の での閉包 は既約で生成点が同じだから の素因子で、 である。
(1) 上のことから は全射で、 を に写すので、類の間の全射を誘導する。
(2) に含まれる素因子は、命題 3.2 の証明で見たように の既約成分で余次元 のものだから、仮定のもとでは存在しない。よって は全単射で、主因子は主因子に対応するから、類群の同型になる。
(3) の への制限が であるとする。 の への制限は だから、この因子に現れる素因子は と交わらず、 に含まれる素因子は 自身だけなので ()である。すなわち核は の倍数である。逆に は に写る。
証明(定理 3.5)
とおく。 のアフィン開集合 の上で は である。 は Noether 整域で、 は Noether・整で、分離射の底変換と合成により分離的である(命題 6.2[分離射・固有射と付値判定法])。関数体は である。
素因子の分類。 の高さ の素イデアル をとり、 とする。定理 6.2[Krull 次元と単項イデアル定理] の 2 により、 なら 、 なら で である。
- 第 1 種:、。 として である。 の素元を とすると、 は の素イデアル での局所化で、次元 の Noether 局所整域で極大イデアルが で生成されるから離散付値環である(定理 3.4[離散付値環と Dedekind 環])。その付値は の上で に一致する(、 と書ける)。逆に素因子 について はこの形の素因子である。
- 第 2 種:。 は ( の での局所化)の でない素イデアル ( は既約)に対応し、 は離散付値環で、付値は の 進付値 である。 の元は の単元なので付値は である。第 2 種の素因子の生成点は の生成点の上にあるので、どのアフィン開集合 とも交わり、第 2 種の素因子は の既約多項式(の単元倍を除く類)と一対一に対応する。
以上から は (*) を満たす。
写像の定義。 を で定める。これは単射である。 について、第 1 種の素因子での付値は 、第 2 種では だから、 である。よって が定まる。
単射性。 、 とする。 は第 1 種の素因子だけからなるので、すべての既約多項式 について である。( は互いに素)と書くと、 は既約因子をもたず、 である。すると で、 は因子の上で単射だから である。
全射性。 第 1 種の素因子は の像である。第 2 種の素因子 に対応する既約多項式を とすると、、他の第 2 種の素因子 では だから、 である。よって は の像に入る。
を体、、 を超平面とする。
- である。
- 、 は同型である。
- 次の でない斉次式 ( は互いに同伴でない既約斉次式)について、因子 は と線形同値である。この対応で、因子の類は次数 に写る。
証明(系 3.6)
のアフィン開集合 の座標環 は多項式環で UFD(定理 3.5[多項式環と体の拡大])、したがって正規だから、 は (*) を満たす。
(1) 命題 3.3 による。
(2)(3) は素因子で、 である。定理 3.4 の 3 と (1) により は全射である。単射性を示す。、 とする。 を に替えて としてよい。すべての素因子 で だから、各 の上で (定理 6.2[離散付値環と Dedekind 環])、すなわち (定理 5.1[Čech コホモロジーと射影空間のコホモロジー] の 1)である。定数の因子は だから となり矛盾する。
(3) を示す。既約斉次式 (次数 )について を示せば、積をとって が従う。素因子 と、 となる をとり、、 とする。 である。 は、 が の定数倍なら単元、そうでなければ既約である( なら、 を斉次化した とある について で、 は既約で で割れないから かつ の一方は定数)。UFD の既約元 について、 なら と は同伴だから、 は 、すなわち のとき 、そうでないとき である。同じく は のとき 、そうでないとき である。よって は で 、 で 、()で 、それ以外で となり、 である。最後の主張は、(2) の同型のもとで の類が に写るということである。
例 3.7(2 次錐の因子類群は Z/2)
を体、、 とします。、、 により で、これは の偶数次の成分だけからなる多項式の全体です。 の元 が の商体に入るなら、(、)で、 の奇数次の部分 について は奇数次の成分だけ、 は偶数次の成分だけなので です。よって は正規です。
母線 を考えます。 なので は素因子です。 の生成点の局所環では が単元で だから、 が素元で です。 を含む素イデアルは から も含むので、 です。 で、()は UFD だから です(命題 3.3)。定理 3.4 の 3 により は で生成され、 です。
を確かめます。 なら で、命題 3.3 の証明により は単項になります。しかし極大イデアル について は の類を基底とする 次元の空間で(関係式 は に入る)、 の像は の類で張られる 次元の空間だから、 は 1 元では生成できません。よって です。母線 は Weil 因子ですが、頂点の近くで 1 本の式では定義できません(2 倍すれば で定義できます)。
例 3.8( の因子類群は )
4. Cartier 因子と可逆層
Section titled “4. Cartier 因子と可逆層”Weil 因子は余次元 の局所環が離散付値環でないと定義できません。特異点をもつスキームでも通用するのは、「局所的に 1 本の式で定義される因子」です。つまり、空間を小さな開集合で覆い、各開集合の上では因子を 1 つの有理関数(局所方程式)の零点と極として書き、重なる部分では二つの式の比が至るところ 0 でも無限大でもない(単元である)ことを要請します。以下、整スキーム について、関数体 の定数層を 、その単元の層を (空でない開集合の上の切断は )、 を構造層の単元の層とします。
を整スキームとする。商層 の大域切断を Cartier 因子という。すなわち Cartier 因子 は、開被覆 と の組 で、 の上で となるもので表される( を の局所方程式という)。二つの組が同じ因子を表すのは、共通の細分の上で局所方程式の比が の切断になるときである。群の演算は局所方程式の積で、加法的に書く。 の定める因子 を主因子といい、主因子で割った群を と書く。すべての が に入るように表せるとき は有効であるという。
定理 4.2(Weil 因子と Cartier 因子の一致)✓
を Noether・整・分離的なスキームで、すべての局所環 が UFD であるものとする(たとえば非特異多様体)。Cartier 因子 に Weil 因子 ( は となる添字)を対応させる写像は、Cartier 因子の群から への同型で、主因子を主因子に写す。したがって である。
証明(定理 4.2)
UFD は正規なので は正規で、(*) を満たす。正規性から次が分かる。開集合 と について、 と交わるすべての素因子 で なら である。実際、 のアフィン開集合 について (定理 6.2[離散付値環と Dedekind 環]。 が体のときは自明)である。
写像が定まること。 なら は の単元だから で、表示の取り替えについても同じである。 は準コンパクトなので有限個の で覆え、各 と交わる素因子のうち のものは有限個(命題 3.2)だから、和は有限である。局所方程式の積は付値の和に対応するので準同型で、主因子 は に写る。
単射性。 の像が なら、各 の上で の付値がすべて で、冒頭の注意により 、すなわち である。
全射性。 Weil 因子 と点 をとる。 を通る素因子 は の高さ の素イデアル に対応し、 は UFD だから と書ける(補題 8.1[Cohen–Macaulay 環と正則局所環])。 とおくと、 を通る素因子 について である( なら )。 に現れる素因子は有限個で、どれも を通らないから、それらの補集合 は の開近傍で、 の上で と は一致する。 の上では の付値がすべて だから、冒頭の注意により である。よって は Cartier 因子で、その像は である。
非特異多様体の局所環は正則局所環で、UFD である(定理 8.5[Cohen–Macaulay 環と正則局所環])。
を整スキームとする。
- Cartier 因子 に対し、 の部分 加群 を、 の上で で生成されるものとして定める( が単元なので の上で一致する)。
- 可逆層 の でない大域切断 に対し、 の自明化 をとって とおくと、有効 Cartier 因子が定まる( は単元の掛け算)。これを の零点因子 という。
- Cartier 因子 と線形同値な有効 Cartier 因子の全体を と書き、完備線形系という。 の部分空間 に対応する因子の族 を線形系といい、すべての が消える点を基点という。
定理 4.4(Cartier 因子類群と Picard 群)✓
を整スキームとする。
- は可逆層で、 は Cartier 因子と の可逆な部分 加群の全単射である。
- 、 である。
- と は同値である。
- すべての可逆層は のある可逆な部分加群と同型である。したがって は群の同型 を誘導する。
- で( は主 Cartier 因子)、 でない切断 の零点因子は である。 は全単射 を与える。可逆層 の でない切断 について である。
証明(定理 4.4)
(1) の上で は同型 だから可逆である。 の での生成元は単元倍を除いて決まるので、 から が復元できる。逆に の可逆な部分加群 は、 となる開被覆の上で の像 で生成され、 は の上の単元だから、 が Cartier 因子で である。
(2) 、(共通の被覆にとる)とする。、 は、 の上で生成元 を の生成元 に写すので、 への同型である。 とすると で、可逆層の逆元は双対だから(命題 7.4[準連接層・連接層と直線束]) である。
(3) (2) により、 として「 が主因子 ⇔ 」を示せばよい。 なら である。逆に同型 があれば、 の像 は を至るところで生成するので、 で、(1) により である。
(4) を可逆層、 を自明化()とする。 は の掛け算で、 は既約なので三重の交わりは空でなく、 の中で が成り立つ。添字 を一つ固定し、 を で定める。 の上で だから、 は単射 に貼り合わさり、像は の上で で生成される可逆な部分加群である。(1)(2)(3) と合わせて、 は単射準同型で全射である。
(5) が の切断であることは、各 で 、すなわち と同値で、これは が有効ということである。自明化 は の掛け算なので、零点因子は である。 と線形同値な有効因子はこの形で、 は と同値である。最後の主張:(4) の埋め込み で を と同一視すると、 は に対応し、 は と線形同値だから (3) による。
証明(系 4.5)
例 4.6(尖点 3 次曲線の Cartier 因子類群)
を体、、 とします。 で、尖点 ()の局所環は ( の 次の係数が の元)です。これは整閉でないので離散付値環ではなく、Weil 因子は定義できません。Cartier 因子類群を求めます。
は UFD の なので、Cartier 因子 は の上で主因子です(定理 4.2、命題 3.3)。主因子を引いて、 は の上で自明としてよく、 は の近くでの局所方程式 ( 以外で単元)の を法とした類で決まります。そのような は (、、)の形で、 の上で自明な主因子は の因子です。したがって
です。準同型 、(対数微分の での値)は全射で、核は の単元、すなわち です。よって です。正規化 では自明な が、尖点のために の加法群だけ増えています。
5. 射影空間への射
Section titled “5. 射影空間への射”を環、 を 上のスキーム、 とする。
- 上の射 について、 は可逆層で、大域切断 ()で生成される。
- 逆に、 上の可逆層 と、 を生成する大域切断 に対し、 上の射 と同型 で が に対応するものが存在し、 はただ一つである。このとき である。
証明(定理 5.1)
(1) 可逆層の引き戻しは可逆である。 は を生成する( の上で が生成元。定理 8.3[準連接層・連接層と直線束])ので、全射 の引き戻し も全射( は右完全)で、 が生成する。
(2) とおく。 が を生成するので である。 の上で は の生成元だから、 となる がただ一つある。 への射 を、 代数の準同型 に対応するものとして定める(定理 3.4[アフィンスキームとスキーム])。 の上では で は単元だから、 と はどちらも を に写し、同じ環準同型に対応する。よって は射 に貼り合わさる(定理 5.1[アフィンスキームとスキーム])。
の上で は で生成されるので、 で同型 を定める。 の上で だから で、 は大域的な同型に貼り合わさり、 を に写す。
一意性。 も条件を満たすとする。 が で消えないことは と同値だから で、 の上で である。アフィンスキーム への射は環準同型で決まるので 、よって である。
可逆層 の同型による取り替え は同じ射を与えるので、 上の射 は組 の同型類と一対一に対応します。
証明(系 5.2)
射が閉はめ込みになる条件を調べます。まず、座標の上で判定する補題です。次の判定法(命題)の内容は、直感的には「像で二つの点が重ならず(点の分離)、像の曲線が各点でつぶれたり尖ったりしない(接ベクトルの分離)」ということです。証明はその 2 条件から、まず単射性、次に構造層の射の全射性を示す順に進み、局所環の全射性の補題と中山の補題を使います。
を環、 を の定める射とする。添字の部分集合 について、 で、 ごとに がアフィンかつ 、 が全射であるとする。このとき は開部分スキーム への閉はめ込みである。さらに が 上固有なら、 は への閉はめ込みである。
証明(補題 5.3)
について で、アフィンスキームの射 は環の全射に対応するから閉はめ込みである(定理 5.2[準連接層・連接層と直線束])。像が閉集合であること、像への同相であること、構造層の射が全射であることは、どれも終域の開被覆 の各々の上で確かめれば十分だから、 は閉はめ込みである。
が 上固有とする。 は 上分離的だから は固有で(命題 6.2[分離射・固有射と付値判定法])、 は の閉集合である。 は閉集合 への同相で、 は、 の点では上で見たとおり茎で全射、 の外の点は の外にあり の茎が だから全射である。よって閉はめ込みである。
証明(補題 5.4)
とおく。(ii) により で、 は有限生成 加群だから中山の補題(定理 3.5[加群・完全列・中山の補題])により である。(i) と合わせて 、すなわち である。(iii) により は有限生成 加群だから、もう一度中山の補題を 加群 に使って を得る。
を代数閉体、 を 上の射影多様体、 を の定める射、 を の張る部分空間とする。 が閉はめ込みであることは、次の 2 条件と同値である。
- (点の分離)相異なる閉点 に対し、 で消え で消えない がある。
- (接ベクトルの分離)閉点 ごとに、 で消える の類が を 上張る。
証明(命題 5.5)
は代数閉体なので、閉点の剰余体は である。 は 次形式 の引き戻しで、 が で消えることは が で消えることと同値である。
(⇒) を閉はめ込みとする。(1) は の相異なる 有理点で、一方を通り他方を通らない超平面があるから、その方程式 の引き戻しが求める である。(2) 座標の 次変換(系 5.2)で としてよい。 の座標 について、 の極大イデアルは である。閉はめ込みだから は全射で、 の像が を張る。 は の近くで の生成元で、()は で消え、その類が を張る。
(⇐) は 上固有なので は固有で、閉写像である。
は単射。 (1) により閉点の上では単射である。相異なる点 で となるものがあるとする。閉包 、 は相異なる既約閉集合で、 としてよい。 は連続な閉写像だから である。 は の空でない開集合で、 は の閉点を含む。実際、 に含まれる空でないアフィン開集合 ( の被約構造について)をとると、 は でない有限生成 代数で、極大イデアルの剰余体は であり(定理 4.1[Noether の正規化と Hilbert の零点定理])、剰余体が の点は、それを含むどのアフィン開集合 でも が体になるので の閉点である。そのような閉点 をとる。 は空でない閉集合で、閉点 を含む。 だから (1) により となり、 で矛盾する。よって は単射で、連続な閉写像だから閉集合 への同相である。
は連接。 を閉部分スキームとする。 は分離的なので、グラフ は閉はめ込みで、 の上に制限すると、 は の閉部分スキーム、すなわち 上の射影スキームである。定理 6.2[Čech コホモロジーと射影空間のコホモロジー] の 1 により は有限生成 加群である。 は準連接(命題 6.2[準連接層・連接層と直線束])だから、連接である。
は全射。 余核は連接層で、その台は閉集合である(補題 7.2[準連接層・連接層と直線束])。空でない閉集合は閉点を含むので、閉点 での茎の写像 ( は像への同相)が全射であることを示せばよい( の外では の茎は )。補題 5.4 の仮定を確かめる。(i) 剰余体はどちらも である。(iii) が連接なので は有限生成 加群である。(ii) となるよう番号をつけると、 で消える は ( は で消える 次形式)と書け、 である。条件 2 と同型 ( を掛ける)により、 は全射である。
以上から は閉集合への同相で構造層の射が全射だから、閉はめ込みである。
例 5.6(Veronese 埋め込みと Segre 埋め込み)
Veronese 埋め込み。 上の ()と 次の単項式の全体 ( 個)は射 を定めます。 を に対応する添字の集合とすると、 はアフィンで を覆い、 が座標環を生成するので、補題 5.3 により は閉はめ込みです。 のときの像が有理正規曲線で、 ならねじれ 3 次曲線です。
Segre 埋め込み。 上の と切断 は射 を定めます。 はアフィンで、 と が座標環を生成するので、これも閉はめ込みです。 では像は の 2 次曲面 です。
例 5.7(基点をもつ線形系と 1 点からの射影)
6. 豊富な可逆層
Section titled “6. 豊富な可逆層”- Noether スキーム 上の可逆層 が豊富(ample)であるとは、すべての連接層 に対し、ある があって なら が大域切断で生成されることをいう()。
- 環 上のスキーム の可逆層 が 上非常に豊富(very ample)であるとは、ある と、 の開部分スキーム への 上の閉はめ込み があって となることをいう。
- 整スキーム上の Cartier 因子 は、 が豊富・非常に豊富のとき、それぞれ豊富・非常に豊富であるという。
定理 5.1 により、非常に豊富であることは、 を生成する有限個の大域切断で、対応する射がはめ込みになるものがあることと同じです。豊富性は だけで決まる性質で、非常に豊富性は底の環 への射影空間を通じた相対的な性質です。二つを結ぶ定理の証明には、切断と連接層の延長についての補題が二つ要ります。次の定理の証明の筋は、1 の(⇒)では「豊富なら、切断が消えない場所がアフィンになるような切断を十分に集められる」(手順 1〜2)ことと、その切断で座標環の生成元を延ばして閉はめ込みを作る(手順 3)ことです。2 では、非常に豊富なら Serre の消滅定理が使え、逆にコホモロジーが消えるなら大域切断が茎を生成する、という二方向を示します。
を Noether スキーム、 を可逆層、、 を準連接層とする。
- の への制限が なら、ある について ( の中で)である。
- に対し、ある について は の上の切断に延びる。
証明(補題 6.2)
補題 9.1[準連接層・連接層と直線束] の特別な場合である。そこでの 、( の切断)が、ここでの 、(標準同型 で同一視する)に当たる。その補題の仮定を確かめる。 は Noether なので準コンパクトで、 が自明になるアフィン開集合( の開基をなす)の有限個 で覆える。 は Noether 空間の開集合だから準コンパクトである。よって同じ補題の 1 から (1) が、2 から (2) が従う。
証明(補題 6.3)
がアフィンの場合。 包含 は準コンパクトで分離的だから、 は準連接で(命題 6.2[準連接層・連接層と直線束])、、 と書ける。 を有限個の主開集合 で覆う。 は有限生成 加群なので、生成元を の元 の像の のべきによる商にとれる。 の中で の全体が生成する部分加群を とすると、 は有限生成で、 である。 は連接で、 が の部分層として成り立つから である。
一般の場合。 ( はアフィン開集合)とし、 とおく。 上の連接層 ()が与えられたとき、アフィンの場合により は 上の連接層 に延びる。 と は の上で同型だから、 上の層 に貼り合わさり(定理 8.1[層])、連接である。 とすればよい。
を Noether 環、 を 上有限型のスキーム、 を 上の可逆層とする。
- が豊富であることは、ある について が 上非常に豊富であることと同値である。
- が 上固有とする。 が豊富であることは、次と同値である:すべての連接層 に対し、ある があって、 とすべての について となる。
証明(定理 6.4)
1 の(⇐)。 を の開部分スキーム への閉はめ込みで となるものとする。まず、連接層 について、十分大きい で が大域切断で生成されることを示す。 は 上の連接層で(補題 6.1[Čech コホモロジーと射影空間のコホモロジー])、補題 6.3 により 上の連接層 に延びる。ある 以上の で は大域切断で生成される(定理 9.5[準連接層・連接層と直線束])。 に制限すると、(補題 6.1[Čech コホモロジーと射影空間のコホモロジー])が の上の切断で生成される。 で、 での茎は 、 は全射だから、 は大域切断で生成される。
これを ()に使うと、ある があって ならすべての について が大域切断で生成される。 は (、)と書けるので、 は豊富である。
1 の(⇒)。 を豊富とする。
手順 1。点 と、 となる のアフィン開近傍 をとる。 に被約な閉部分スキームの構造を入れ、イデアル層を とする( は連接。定理 5.2[準連接層・連接層と直線束])。ある で は大域切断で生成される。 は局所自由だから は単射で、像を と書く。 で となるものがある。 だから で、 は で消えない。 では だから は で消える。よって で、 の自明化で に対応する関数を とすると はアフィンである。
手順 2。 は準コンパクトだから、手順 1 の の有限個 ()で覆える。 なので、 を適当なべきに取り替えて、すべての が共通の であるとしてよい。 とおく。
手順 3。 は 上有限型だから は有限生成 代数である(命題 3.3[スキームの性質と射])。生成元を とする。補題 6.2 の 2(、可逆層 、切断 )により、ある があって は に延びる( はすべての に共通にとれる。 で延びれば を掛けて でも延びる)。 の切断 、 の全体を考える。 が を覆うので は を生成し、射 が定まる(定理 5.1)。 に対応する添字について、 はアフィンで、座標環からの準同型の像は を含むから全射である。補題 5.3 により は の開部分スキームへの閉はめ込みで、 は非常に豊富である。
2 の(⇒)。 1 により は非常に豊富で、閉はめ込み がある。 は 上固有だから、補題 5.3 の証明の後半と同じ議論で、 は固有で像は閉、 の外では の茎が だから、 は閉はめ込みである。すなわち は 上の射影スキームで である。連接層 ()に Serre の消滅定理(定理 6.2[Čech コホモロジーと射影空間のコホモロジー] の 2)を使うと、ある があって 、 で である。 なら である。
2 の(⇐)。 連接層 と閉点 について、被約な閉部分スキーム のイデアル層を 、 を の像とする。 は に台をもち茎が の層である。 とのテンソル積は完全だから は完全で、仮定により十分大きい で だから
は全射である。中山の補題(定理 3.5[加群・完全列・中山の補題])により、大域切断は茎 を生成する。有限個の切断で茎を生成でき、それらの定める射 の余核は連接層で での茎が だから、 のある開近傍で である(補題 7.2[準連接層・連接層と直線束])。すなわち、 と ごとにある があって、 なら は のある開近傍( による)の上で大域切断で生成される。
連接層 と閉点 を固定する。 に上を使い、ある と の開近傍 で、 が の上で大域切断で生成されるものをとる。 とし、 について が大域切断で生成される の開近傍 をとる。 とおく。 は (、)と書け、 は、 の上で大域切断のテンソル積で生成される。 は Noether で、空でない閉集合は閉点を含むから、閉点の開近傍 の全体は を覆い、有限個 で覆える。 なら は 全体で大域切断で生成される。よって は豊富である。
射影スキームの は、定義から非常に豊富で、定理により豊富です。定理 6.4 の 2 は、Serre の消滅定理が射影埋め込みの取り方によらない可逆層の性質であることを示しています。
を体とする。 上の有理関数 の因子を求め、次数が であることを確かめよ。
解答
は既約な 2 次式です( について 次で、係数 と は互いに素)。、、 とおきます。系 3.6 の証明の計算から、既約斉次式 (次数 )について です。 と書くと
です。次数は で、主因子の次数が であることと合います。
演習 7.2標準
を体、 を 次の既約斉次式 の定める超曲面、 とする。 を示せ。 はアフィンである。その座標環が UFD になるのはいつか。
解答
定理 3.4 の 3 により が完全で、最初の写像は です。系 3.6 の同型 のもとで だから、 です。 はアフィンで(定理 6.3[アフィンスキームとスキーム])、局所的に多項式環の局所化の だから正規です。命題 3.3 により、座標環が UFD であることは 、すなわち と同値です。たとえば平面から 2 次曲線を除いたアフィン曲面の座標環は UFD ではなく、因子類群は です。
演習 7.3標準
を代数閉体とする。 上の の切断の空間 の定める射 について、命題 5.5 の 2 条件を調べ、像の方程式を求めよ。
解答
と は同時には消えないので は を生成し、 です。像は ( の二通りの分解)を満たします。 の座標では で、尖点 3 次曲線 の媒介変数表示です。
点の分離: と ()が同じ点に写るなら 、 で、 なら 、 なら となって矛盾します。 は に写り、他の点は に写ります。よって条件 1 は成り立ちます。
接ベクトルの分離: で消える の元は と の結合で、局所座標 について で割り切れるので に入り、( 次元)を張りません。条件 2 は で成り立たず、 は像への同相ですが閉はめ込みではありません。像の尖点では接空間が 次元で、 の接空間はそこに で写っています。
演習 7.4標準
を体、、 とする。(a) なら は非常に豊富であることを示せ。(b) は大域切断で生成されるが豊富でないことを示せ。
解答
(a) と を二つの因子の斉次座標とします。 次の単項式 と 次の単項式 の積 は の切断です。 の消えない開集合は で、 を覆うアフィン開集合です。座標環 は と で生成されます。 は 上固有(固有射の積)なので、補題 5.3 によりこれらの切断の定める射は閉はめ込みで、 は非常に豊富です。
(b) は で生成されます。豊富だとすると、 について十分大きい で が大域切断で生成されます。閉部分スキーム に制限すると、 が大域切断(の制限)で生成されることになりますが、 なので矛盾します。 の定める射は第 1 射影 で、ファイバーをつぶすので埋め込みからは遠いものです。豊富であるためには、すべての曲線の上で「次数が正」でなければなりません。
- R. Hartshorne, Algebraic Geometry, Graduate Texts in Mathematics 52, Springer, 1977 — Chapter II §6、§7、Chapter III §5。
- A. Grothendieck, J. Dieudonné, “Éléments de géométrie algébrique II: Étude globale élémentaire de quelques classes de morphismes”, Publications Mathématiques de l’IHÉS 8 (1961) — 豊富な可逆層と射影射。
- H. Matsumura, Commutative Ring Theory, Cambridge University Press, 1986 — §12(Krull 整域)、§20(UFD)。
- D. Mumford, The Red Book of Varieties and Schemes, Lecture Notes in Mathematics 1358, Springer, 1999 — Chapter III。
- 上野健爾『代数幾何』岩波書店、2005 — 第 5 章(可逆層と因子)。
執筆: Claude Code(Opus 5.5)、Claude Code(Sonnet 5.5)・監査 2 回(Claude Code)・最終 2026-10-12
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