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分離射・固有射と付値判定法:Hausdorff 性とコンパクト性のスキーム版

対象読者: 本テーマ第 1〜4 章(スキーム、ファイバー積、有限型の射)と、離散付値環・Dedekind 環の基礎を学んだ修士課程の人。位相空間の Hausdorff 性とコンパクト性は既知とします。

前提となる記事:スキームの性質と射:ファイバー積・はめ込み・有限型、離散付値環と Dedekind 環:付値・可逆イデアル・Krull–秋月の定理

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直線から 1 点を抜くと、その点に近づいていく点は行き先を失います。反対に、原点を 2 つ貼り付けた直線では、同じ点が 2 つの行き先をもってしまいます。この記事は、この二つの現象をスキームの言葉で言い表す「分離性」と「固有性」を定義し、曲線の 1 点の近くでの行き先を調べるだけで判定できること(付値判定法)を示します。読み終えると、射影空間が「欠けのない」図形であることを、定義から確かめられるようになります。

  • スキームの射 f ⁣:X→Yf\colon X \to Y の対角射 Δ ⁣:X→X×YX\Delta\colon X \to X \times_Y X はいつでもはめ込みで、これが閉はめ込みになるとき ff を分離的といいます。分離性は対角の像が閉集合であることと同値で、位相空間の Hausdorff 性に当たります。
  • アフィンスキーム上分離的なスキームでは、二つのアフィン開集合の交わりがまたアフィンです。この性質は準連接層の順像と Čech コホモロジーの計算の土台になります。
  • 分離的・有限型で、どんな底変換をしても閉写像である射を固有射といいます。コンパクト空間からの写像に当たる概念です。閉はめ込みと有限射は固有で、分離性と固有性は合成・底変換・積で保たれます。
  • 付値判定法:付値環 VV とその商体 KK について、Spec⁡K→X\operatorname{Spec} K \to X を Spec⁡V→X\operatorname{Spec} V \to X に延ばす仕方が高々 1 通りなら分離的、ちょうど 1 通りなら固有です。「曲線から 1 点を抜いた写像が、その 1 点に延びるか」を見る判定法です。
  • 射影空間 PZn→Spec⁡Z\mathbb{P}^n_{\mathbb{Z}} \to \operatorname{Spec}\mathbb{Z} は固有で、したがって射影射は固有です。斉次座標の値が最小のもので割る操作が、延長を与えます。
  • 代数閉体上の完備多様体の大域正則関数は定数だけです。また固有かつアフィンな射は有限射です。多様体は分離的なので、稠密な開集合で一致する二つの射は等しく、射のグラフは閉です。

位相空間 XX が Hausdorff であることは、対角集合 {(x,x)}⊆X×X\{(x, x)\} \subseteq X \times X が積位相で閉であることと同値です。Hausdorff 空間では点列の極限が一意に決まり、二つの連続写像が稠密な部分集合で一致すれば全体で一致します。またコンパクト空間 XX では、どんな空間 ZZ についても射影 X×Z→ZX \times Z \to Z が閉写像になり、逆にこの性質がコンパクト性を特徴づけます(位相空間の分離公理は 定義 3.1[分離公理と距離づけ可能性]、コンパクト性は 定義 3.2[コンパクト性] を見てください)。

スキームの底空間に入っている Zariski 位相は、この二つの概念をそのままでは捉えません。アフィン直線 Ak1\mathbb{A}^1_k の底空間は、空でない開集合がどれも稠密なので Hausdorff ではありませんが、「原点を二重にした直線」と違って、極限が二つに割れることはありません。また Ak1\mathbb{A}^1_k はアフィンスキームなので準コンパクトですが、双曲線 xy=1xy = 1 を xx 軸に射影すると像は原点を欠き、閉ではありません。射影直線 Pk1\mathbb{P}^1_k ではこういうことが起きません。

この違いを取り出すには、位相空間の積ではなくスキームのファイバー積を使います。前の章で作ったファイバー積 X×YXX \times_Y X の底空間は、底空間の積集合に積位相を入れたものより多くの点と細かい位相をもちます。その中で対角が閉であること(分離性)、射影 X×YY′→Y′X \times_Y Y' \to Y' がいつも閉写像であること(固有性の中心部分)を要求すると、Hausdorff 性とコンパクト性に当たる性質が得られます。

定義は簡潔ですが、与えられた射について直接確かめるのは大変です。そこで使うのが付値判定法です。離散付値環 VV の Spec⁡\operatorname{Spec} は「生成点と閉点の 2 点」からなり、曲線の 1 点の十分小さい近傍の代役になります。商体 KK の Spec⁡\operatorname{Spec} は、そこから閉点を抜いたものです。Spec⁡K→X\operatorname{Spec} K \to X が Spec⁡V→X\operatorname{Spec} V \to X に延びることは「穴の開いた曲線の像が、穴の所で XX の中に極限をもつ」ことを表し、延び方が一意であることは「極限が一つしかない」ことを表します。一般の(離散とは限らない)付値環を使うのは、Noether 性を仮定しない場面でも判定法を成り立たせるためです。

この記事では §2 でアフィンスキームの閉部分スキームについての補題を準備し、§3 で分離射、§4 で特殊化と付値環の関係、§5 で固有射と付値判定法、§6 で合成・底変換での保存、§7 で射影空間の固有性、§8 で多様体への応用を扱います。

2. 準備:アフィンスキームへの閉はめ込み

Section titled “2. 準備:アフィンスキームへの閉はめ込み”

環はすべて単位元をもつ可換環です。スキーム XX の構造層を OX\mathcal{O}_X、点 xx での茎を OX,x\mathcal{O}_{X,x}、その極大イデアルを mx\mathfrak{m}_x、剰余体を κ(x)\kappa(x) と書きます。射 f ⁣:X→Yf\colon X \to Y に伴う層の射を f♯ ⁣:OY→f∗OXf^{\sharp}\colon \mathcal{O}_Y \to f_{*}\mathcal{O}_X と書きます。スキーム TT について X(T)=Hom⁡(T,X)X(T) = \operatorname{Hom}(T, X) は TT 値点の集合です。

前の章の用語を確認します。射 i ⁣:Z→Xi\colon Z \to X が閉はめ込みであるとは、ii が ZZ の底空間から XX の閉集合への同相写像で、i♯ ⁣:OX→i∗OZi^{\sharp}\colon \mathcal{O}_X \to i_{*}\mathcal{O}_Z が層の全射であることでした。開はめ込みは開部分スキームへの同型、はめ込みは閉はめ込みのあとに開はめ込みを合成した形に書ける射です。環 AA とイデアル II について Spec⁡A/I→Spec⁡A\operatorname{Spec} A/I \to \operatorname{Spec} A は閉はめ込みです。

閉はめ込みであること、同型であることは、どちらも終域の開被覆の上で確かめられます。すなわち X=⋃λWλX = \bigcup_\lambda W_\lambda を開被覆とするとき、すべての λ\lambda で i−1(Wλ)→Wλi^{-1}(W_\lambda) \to W_\lambda が閉はめ込み(同型)なら ii は閉はめ込み(同型)です。閉集合への同相写像であることは開被覆の上で確かめられ、層の射の全射性・同型性は茎で判定できる(命題 3.2[層])からです(閉はめ込み・開はめ込みについては 補題 4.2[スキームの性質と射] の 3 で証明しました。同型は全射な開はめ込みなので、同型についてもそこから従います)。以下ではこの事実を「終域について局所的」と呼んで使います。言い換えると、終域を小さな開集合に分け、一つずつ確かめれば足りる、ということです。

この節の目標は、アフィンスキームへの閉はめ込みが Spec⁡A/I→Spec⁡A\operatorname{Spec} A/I \to \operatorname{Spec} A の形に限ることです。前の章で証明した補題を、この章で使う形に並べ直します(証明は前の章の補題への参照です)。スキーム XX と f∈Γ(X,OX)f \in \Gamma(X, \mathcal{O}_X) について

Xf={x∈X:fx∉mx}X_f = \{ x \in X : f_x \notin \mathfrak{m}_x \}

とおきます。fxf_x は ff の xx での芽です。

補題 2.1(大域切断の局所化)✓

XX をスキーム、A=Γ(X,OX)A = \Gamma(X, \mathcal{O}_X)、f∈Af \in A とする。

  1. XfX_f は開集合で、アフィン開集合 U=Spec⁡BU = \operatorname{Spec} B について Xf∩U=D(f∣U)X_f \cap U = D(f|_U) である。f∣Xff|_{X_f} は Γ(Xf,OX)\Gamma(X_f, \mathcal{O}_X) の単元である。
  2. XX が有限個のアフィン開集合 U1,…,UrU_1, \ldots, U_r で覆われ、どの Ui∩UjU_i \cap U_j も準コンパクトであるとする。このとき制限写像が誘導する環準同型 Af→Γ(Xf,OX)A_f \to \Gamma(X_f, \mathcal{O}_X) は同型である。
証明(補題 2.1)

どちらも前の章までに証明した補題の言い直しです。

(1) XfX_f が開集合で f∣Xff|_{X_f} が単元であることは 補題 3.2[アフィンスキームとスキーム] の 2 です(fx∉mxf_x \notin \mathfrak{m}_x は、同じ補題の 1 により ff の xx での値が 00 でないことと同じ条件です)。アフィン開集合 U=Spec⁡BU = \operatorname{Spec} B については、同じ補題の 3 を包含 U→XU \to X に使うと Xf∩U=Uf∣UX_f \cap U = U_{f|_U} で、4 によりこれは D(f∣U)D(f|_U) です。

(2) 補題 3.2[スキームの性質と射] の 1 そのものです。

補題 2.2(アフィン性の判定)✓

XX をスキーム、A=Γ(X,OX)A = \Gamma(X, \mathcal{O}_X) とする。f1,…,fr∈Af_1, \ldots, f_r \in A が AA の単位イデアルを生成し、各 XfiX_{f_i} がアフィンスキームであれば、XX はアフィンスキームである。

証明(補題 2.2)

補題 3.2[スキームの性質と射] の 2 そのものです。証明の筋だけ確認します。恒等写像 A→Γ(X,OX)A \to \Gamma(X, \mathcal{O}_X) に対応する射 φ ⁣:X→Spec⁡A\varphi\colon X \to \operatorname{Spec} A を取ると(定理 3.4[アフィンスキームとスキーム])、φ−1(D(fi))=Xfi\varphi^{-1}(D(f_i)) = X_{f_i} です。XX は有限個のアフィン開集合 XfiX_{f_i} で覆われ、Xfi∩XfjX_{f_i} \cap X_{f_j} はアフィンスキーム XfiX_{f_i} の主開集合なので準コンパクトで、補題 2.1 の 2 により Afi→Γ(Xfi,OX)A_{f_i} \to \Gamma(X_{f_i}, \mathcal{O}_X) は同型です。したがって φ\varphi は各 D(fi)=Spec⁡AfiD(f_i) = \operatorname{Spec} A_{f_i} の上で同型で、D(fi)D(f_i) は Spec⁡A\operatorname{Spec} A を覆うので φ\varphi は同型です。

補題 2.3(アフィンスキームへの閉はめ込み)✓

i ⁣:Z→X=Spec⁡Ai\colon Z \to X = \operatorname{Spec} A を閉はめ込みとし、II を i♯(X) ⁣:A→Γ(Z,OZ)i^{\sharp}(X)\colon A \to \Gamma(Z, \mathcal{O}_Z) の核とする。このとき ZZ はアフィンスキームで、A/I→Γ(Z,OZ)A/I \to \Gamma(Z, \mathcal{O}_Z) は同型である。すなわち ii は XX 上の同型を除いて Spec⁡A/I→Spec⁡A\operatorname{Spec} A/I \to \operatorname{Spec} A に一致する。

証明(補題 2.3)

補題 4.2[スキームの性質と射] の 2 そのものです。そこでの証明は二段でした。まず XX を、逆像 i−1(D(f))=Zφ(f)i^{-1}(D(f)) = Z_{\varphi(f)}(φ=i♯(X)\varphi = i^{\sharp}(X))がアフィンであるような有限個の主開集合 D(f1),…,D(fr)D(f_1), \ldots, D(f_r) で覆い、補題 2.2 により ZZ がアフィンであることを示します。次に Z=Spec⁡BZ = \operatorname{Spec} B として i♯i^{\sharp} の点 p\mathfrak{p} での茎が φ\varphi の局所化 Ap→BpA_{\mathfrak{p}} \to B_{\mathfrak{p}} であることを確かめ、閉はめ込みの定義からこれがすべての p\mathfrak{p} で全射なので、φ\varphi が全射であること(定理 5.3[加群・完全列・中山の補題] の 2)を導きます。I=ker⁡φI = \ker\varphi なので A/I≅Γ(Z,OZ)A/I \cong \Gamma(Z, \mathcal{O}_Z) です。

補題 2.4(はめ込みは単射的な射)✓

i ⁣:Z→Xi\colon Z \to X をはめ込みとする。スキーム TT からの二つの射 g,h ⁣:T→Zg, h\colon T \to Z が i∘g=i∘hi \circ g = i \circ h を満たせば g=hg = h である。また XX が被約で、ii が全射な閉はめ込みであれば、ii は同型である。

証明(補題 2.4)

開はめ込み j ⁣:W→Xj\colon W \to X については、j∘g=j∘hj \circ g = j \circ h なら底空間の写像が一致し、層の射は WW の開集合の上の切断で決まるので g=hg = h です。はめ込みは閉はめ込みと開はめ込みの合成なので、ii が閉はめ込みの場合を示せば足ります。

ii は単射なので、gg と hh は底空間の写像として一致します。XX のアフィン開集合 W=Spec⁡AW = \operatorname{Spec} A について、i−1(W)→Wi^{-1}(W) \to W は 補題 2.3 により Spec⁡A/I→Spec⁡A\operatorname{Spec} A/I \to \operatorname{Spec} A です。T′=g−1(i−1(W))=h−1(i−1(W))T' = g^{-1}(i^{-1}(W)) = h^{-1}(i^{-1}(W)) とおくと、射 T′→Spec⁡A/IT' \to \operatorname{Spec} A/I は環準同型 A/I→Γ(T′,OT)A/I \to \Gamma(T', \mathcal{O}_T) に対応し(定理 3.4[アフィンスキームとスキーム])、ii との合成は全射 A→A/IA \to A/I との合成に対応します。全射との合成が一致する二つの準同型は一致するので、g∣T′=h∣T′g|_{T'} = h|_{T'} です。WW を動かすと T′T' は TT を覆うので g=hg = h です。

後半を示します。XX のアフィン開集合 W=Spec⁡AW = \operatorname{Spec} A の上で ii は Spec⁡A/I→Spec⁡A\operatorname{Spec} A/I \to \operatorname{Spec} A で、AA は被約です。ii は全射なので V(I)=Spec⁡AV(I) = \operatorname{Spec} A、すなわち II はすべての素イデアルに含まれ、I⊆nil⁡(A)=0I \subseteq \operatorname{nil}(A) = 0 です(定理 2.6[局所化と素イデアルのスペクトル])。よって i−1(W)→Wi^{-1}(W) \to W は同型で、同型は終域について局所的なので ii は同型です。

補題 2.3 から、閉はめ込みはアフィン射(アフィン開集合の逆像がアフィンである射)です。閉部分スキームとイデアル層の対応の一般的な形は次の章で扱います。

定義 3.1(対角射・分離射・準分離射)↗

f ⁣:X→Yf\colon X \to Y をスキームの射、p1,p2 ⁣:X×YX→Xp_1, p_2\colon X \times_Y X \to X をファイバー積の射影とする。p1∘Δ=p2∘Δ=id⁡Xp_1 \circ \Delta = p_2 \circ \Delta = \operatorname{id}_X を満たすただ一つの射 Δ=ΔX/Y ⁣:X→X×YX\Delta = \Delta_{X/Y}\colon X \to X \times_Y X を ff の対角射という。

  1. ΔX/Y\Delta_{X/Y} が閉はめ込みであるとき、ff は分離的である(XX は YY 上分離的である)という。
  2. ΔX/Y\Delta_{X/Y} が準コンパクトであるとき、ff は準分離的であるという。

Spec⁡Z\operatorname{Spec}\mathbb{Z} 上分離的なスキームを単に分離スキームという。

TT 値点で書くと、(X×YX)(T)(X \times_Y X)(T) は f∘a=f∘bf \circ a = f \circ b を満たす組 (a,b)∈X(T)2(a, b) \in X(T)^2 の集合で、Δ\Delta は a↦(a,a)a \mapsto (a, a) です(定理 7.1[スキームの性質と射])。

次の命題のねらいは、対角射が閉とは限らなくてもいつでもはめ込みになることを示し、問題を「閉かどうか」(Hausdorff 性に当たる条件)だけに絞ることです。証明は、アフィンの場合に対角射を乗法写像 B⊗AB→BB \otimes_A B \to B で書き、それを貼り合わせます。

命題 3.2(対角射ははめ込み)✓

f ⁣:X→Yf\colon X \to Y をスキームの射とする。

  1. X=Spec⁡BX = \operatorname{Spec} B、Y=Spec⁡AY = \operatorname{Spec} A がアフィンのとき、ΔX/Y\Delta_{X/Y} は乗法 B⊗AB→BB \otimes_A B \to B、b⊗b′↦bb′b \otimes b' \mapsto bb' に対応する閉はめ込みである。とくにアフィンスキームの間の射は分離的である。
  2. 一般に ΔX/Y\Delta_{X/Y} ははめ込みである。
  3. ff が分離的であることと、ΔX/Y(X)\Delta_{X/Y}(X) が X×YXX \times_Y X の閉集合であることは同値である。
証明(命題 3.2)

(1) X×YX=Spec⁡(B⊗AB)X \times_Y X = \operatorname{Spec}(B \otimes_A B) で、射影 p1,p2p_1, p_2 は b↦b⊗1b \mapsto b \otimes 1、b↦1⊗bb \mapsto 1 \otimes b に対応します(定理 5.2[スキームの性質と射])。乗法 μ ⁣:B⊗AB→B\mu\colon B \otimes_A B \to B は μ(b⊗1)=μ(1⊗b)=b\mu(b \otimes 1) = \mu(1 \otimes b) = b を満たす環準同型なので、Spec⁡μ\operatorname{Spec}\mu は p1,p2p_1, p_2 との合成が恒等射となる射で、対角射の一意性から Δ=Spec⁡μ\Delta = \operatorname{Spec}\mu です。μ\mu は全射なので、J=ker⁡μJ = \ker\mu とすると Δ\Delta は Spec⁡(B⊗AB)/J→Spec⁡(B⊗AB)\operatorname{Spec}(B \otimes_A B)/J \to \operatorname{Spec}(B \otimes_A B) と同一視され、閉はめ込みです。

(2) YY をアフィン開集合 VλV_\lambda で覆い、各 f−1(Vλ)f^{-1}(V_\lambda) をアフィン開集合 UλμU_{\lambda\mu} で覆います。ファイバー積の構成から Uλμ×VλUλμU_{\lambda\mu} \times_{V_\lambda} U_{\lambda\mu} は X×YXX \times_Y X の開部分スキームで(定理 5.2[スキームの性質と射])、p1−1(Uλμ)∩p2−1(Uλμ)p_1^{-1}(U_{\lambda\mu}) \cap p_2^{-1}(U_{\lambda\mu}) に等しいものです。その和集合を WW とします。pi∘Δ=id⁡p_i \circ \Delta = \operatorname{id} から

Δ−1(Uλμ×VλUλμ)=Uλμ∩Uλμ=Uλμ\Delta^{-1}\bigl(U_{\lambda\mu} \times_{V_\lambda} U_{\lambda\mu}\bigr) = U_{\lambda\mu} \cap U_{\lambda\mu} = U_{\lambda\mu}

で、UλμU_{\lambda\mu} は XX を覆うので Δ(X)⊆W\Delta(X) \subseteq W です。Δ\Delta の UλμU_{\lambda\mu} への制限は Uλμ→VλU_{\lambda\mu} \to V_\lambda の対角射で、(1) により閉はめ込みです。閉はめ込みは終域について局所的なので Δ ⁣:X→W\Delta\colon X \to W は閉はめ込みで、WW は X×YXX \times_Y X の開部分スキームなので Δ\Delta ははめ込みです。

(3) 閉はめ込みの像は閉なので、分離的なら Δ(X)\Delta(X) は閉です。逆に Δ(X)\Delta(X) が閉であるとします。(2) により Δ\Delta は像への同相写像なので、閉集合への同相写像です。Δ♯ ⁣:OX×YX→Δ∗OX\Delta^{\sharp}\colon \mathcal{O}_{X \times_Y X} \to \Delta_{*}\mathcal{O}_X の全射性を茎で確かめます。WW の点では (2) により全射です。WW の外の点 ww は Δ(X)\Delta(X) に属さず、Δ(X)\Delta(X) が閉なので ww の開近傍 NN で Δ−1(N)=∅\Delta^{-1}(N) = \varnothing となるものがあり、(Δ∗OX)w=0(\Delta_{*}\mathcal{O}_X)_w = 0 です。よって Δ♯\Delta^{\sharp} はすべての茎で全射で、Δ\Delta は閉はめ込みです(命題 3.2[層])。

(3) が「対角が閉」という Hausdorff 性の言い換えに当たります。ただし閉かどうかを見る位相は X×YXX \times_Y X の Zariski 位相で、底空間の積位相ではありません。

次の例では、二つの原点を別々に含む開集合 U1×kU2U_1 \times_k U_2 の上で対角を見ます。そこでは対角は「t1=t2t_1 = t_2 かつ t1≠0t_1 \ne 0」という原点を欠いた直線として現れるので、閉包を取ると原点が増え、対角が閉でないことが分かります。

例 3.3(原点を二重にした直線は分離的でない)

kk を体とし、U1=U2=Spec⁡k[t]U_1 = U_2 = \operatorname{Spec} k[t] を開集合 D(t)D(t) に沿って恒等写像で貼り合わせたスキームを XX とします(定理 5.1[アフィンスキームとスキーム])。XX は U1U_1 と U2U_2 で覆われ、U1∩U2=D(t)U_1 \cap U_2 = D(t) で、二つの原点 o1∈U1o_1 \in U_1、o2∈U2o_2 \in U_2 をもちます。X→Spec⁡kX \to \operatorname{Spec} k は分離的ではありません。

実際、X×kXX \times_k X の開集合 U1×kU2=Spec⁡k[t1,t2]U_1 \times_k U_2 = \operatorname{Spec} k[t_1, t_2] と対角の像の交わりは Δ(U1∩U2)\Delta(U_1 \cap U_2) で、Δ−1(U1×kU2)=U1∩U2=Spec⁡k[t,t−1]\Delta^{-1}(U_1 \times_k U_2) = U_1 \cap U_2 = \operatorname{Spec} k[t, t^{-1}] からの射は t1↦tt_1 \mapsto t、t2↦tt_2 \mapsto t に対応します。像は V(t1−t2)∩D(t1)V(t_1 - t_2) \cap D(t_1) で、V(t1−t2)≅Spec⁡k[t]V(t_1 - t_2) \cong \operatorname{Spec} k[t] の中で原点 (t1,t2)(t_1, t_2) を欠く開集合です。原点 (t1,t2)(t_1, t_2) はこの像の閉包に属しますが像には属さないので、Δ(X)\Delta(X) は閉でなく、命題 3.2 の 3 により分離的でありません。(t1,t2)(t_1, t_2) は「(o1,o2)(o_1, o_2)」に当たる点で、対角上の点 (a,a)(a, a)(a≠0a \ne 0)の極限ですが対角にはありません。

命題 3.4(分離スキームのアフィン開集合の交わり)✓

S=Spec⁡RS = \operatorname{Spec} R をアフィンスキーム、X→SX \to S を分離射とする。XX のアフィン開集合 U=Spec⁡AU = \operatorname{Spec} A、V=Spec⁡BV = \operatorname{Spec} B について、U∩VU \cap V はアフィンで、制限写像から定まる環準同型

A⊗RB⟶Γ(U∩V,OX),a⊗b⟼a∣U∩V⋅b∣U∩VA \otimes_R B \longrightarrow \Gamma(U \cap V, \mathcal{O}_X), \qquad a \otimes b \longmapsto a|_{U \cap V} \cdot b|_{U \cap V}

は全射である。

証明(命題 3.4)

U×SV=Spec⁡(A⊗RB)U \times_S V = \operatorname{Spec}(A \otimes_R B) は X×SXX \times_S X の開部分スキーム p1−1(U)∩p2−1(V)p_1^{-1}(U) \cap p_2^{-1}(V) です(定理 5.2[スキームの性質と射])。pi∘Δ=id⁡p_i \circ \Delta = \operatorname{id} から Δ−1(U×SV)=U∩V\Delta^{-1}(U \times_S V) = U \cap V です。Δ\Delta は閉はめ込みなので、その制限 U∩V→U×SVU \cap V \to U \times_S V も閉はめ込みです。補題 2.3 により U∩VU \cap V はアフィンで、A⊗RB→Γ(U∩V,OX)A \otimes_R B \to \Gamma(U \cap V, \mathcal{O}_X) は全射です。この環準同型は、p1∘Δp_1 \circ \Delta と p2∘Δp_2 \circ \Delta が包含 U∩V→UU \cap V \to U、U∩V→VU \cap V \to V であることから、a⊗1↦a∣U∩Va \otimes 1 \mapsto a|_{U \cap V}、1⊗b↦b∣U∩V1 \otimes b \mapsto b|_{U \cap V} で与えられます。

逆向きの判定法も使います。

補題 3.5(アフィン開被覆による分離性の判定)✓

S=Spec⁡RS = \operatorname{Spec} R とし、X→SX \to S をスキームの射、{Ui=Spec⁡Ai}\{U_i = \operatorname{Spec} A_i\} を XX のアフィン開被覆とする。すべての i,ji, j について Ui∩UjU_i \cap U_j がアフィンで Ai⊗RAj→Γ(Ui∩Uj,OX)A_i \otimes_R A_j \to \Gamma(U_i \cap U_j, \mathcal{O}_X) が全射であれば、X→SX \to S は分離的である。

証明(補題 3.5)

Ui×SUjU_i \times_S U_j は X×SXX \times_S X の開被覆です(どの点も p1p_1、p2p_2 での像がそれぞれある UiU_i、UjU_j に入るため)。Δ−1(Ui×SUj)=Ui∩Uj\Delta^{-1}(U_i \times_S U_j) = U_i \cap U_j で、制限 Ui∩Uj→Ui×SUjU_i \cap U_j \to U_i \times_S U_j はアフィンスキームの間の射であり、対応する環準同型 Ai⊗RAj→Γ(Ui∩Uj,OX)A_i \otimes_R A_j \to \Gamma(U_i \cap U_j, \mathcal{O}_X) は仮定により全射です。したがってこの制限は閉はめ込みで、閉はめ込みは終域について局所的なので Δ\Delta は閉はめ込みです。

例 3.3 では U1∩U2=Spec⁡k[t,t−1]U_1 \cap U_2 = \operatorname{Spec} k[t, t^{-1}] はアフィンですが、k[t1]⊗kk[t2]→k[t,t−1]k[t_1] \otimes_k k[t_2] \to k[t, t^{-1}] の像は k[t]k[t] で全射になりません。アフィン平面の原点を二重にすると、U1∩U2=Ak2∖{0}U_1 \cap U_2 = \mathbb{A}^2_k \setminus \{0\} がそもそもアフィンでなくなります(Ak2∖{0}\mathbb{A}^2_k \setminus \{0\} がアフィンでないことは アフィンスキームとスキーム の例で確かめています)。

スキーム XX の点 x,x′x, x' について、x′x' が {x}\{x\} の閉包に属するとき x′x' は xx の特殊化であるといい、x⇝x′x \rightsquigarrow x' と書きます。アフィン開集合 Spec⁡A\operatorname{Spec} A の中では、p⇝p′\mathfrak{p} \rightsquigarrow \mathfrak{p}' は p⊆p′\mathfrak{p} \subseteq \mathfrak{p}' と同値です(定理 4.4[局所化と素イデアルのスペクトル] の 3)。部分集合 E⊆XE \subseteq X が特殊化で閉じるとは、x∈Ex \in E、x⇝x′x \rightsquigarrow x' ならば x′∈Ex' \in E となることをいいます。閉集合は特殊化で閉じますが、逆は一般には成り立ちません。たとえば Spec⁡Z\operatorname{Spec}\mathbb{Z} の閉点全体は特殊化で閉じますが閉集合ではありません。準コンパクト射の像については逆が成り立ちます。

(0) 生成点(2)(3)(5)(7)(11) …閉点
Spec Z の特殊化。生成点 (0) の閉包は全体なので、どの閉点 (p) も (0) の特殊化です。閉点どうしの間に特殊化はありません。

補題 4.1(アフィンスキームの射の像の閉包)✓

φ ⁣:B→A\varphi\colon B \to A を環準同型とする。φ∗ ⁣:Spec⁡A→Spec⁡B\varphi^{*}\colon \operatorname{Spec} A \to \operatorname{Spec} B の像の閉包は V(ker⁡φ)V(\ker\varphi) である。さらに、V(ker⁡φ)V(\ker\varphi) の任意の点 q\mathfrak{q} について、像に属する点 q0\mathfrak{q}_0 で q0⊆q\mathfrak{q}_0 \subseteq \mathfrak{q} となるものが存在する。

証明(補題 4.1)

p∈Spec⁡A\mathfrak{p} \in \operatorname{Spec} A について φ−1(p)⊇ker⁡φ\varphi^{-1}(\mathfrak{p}) \supseteq \ker\varphi なので、像は閉集合 V(ker⁡φ)V(\ker\varphi) に含まれます。後半を示せば、V(ker⁡φ)V(\ker\varphi) の各点は像の点の特殊化なので像の閉包に属し、前半も従います。

BB を B/ker⁡φB/\ker\varphi に取り替えて(命題 4.6[局所化と素イデアルのスペクトル] の 1 により Spec⁡B/ker⁡φ\operatorname{Spec} B/\ker\varphi は V(ker⁡φ)V(\ker\varphi) と同相)、φ\varphi は単射であるとしてかまいません。q∈Spec⁡B\mathfrak{q} \in \operatorname{Spec} B を取り、q\mathfrak{q} に含まれる極小素イデアル q0\mathfrak{q}_0 を取ります(命題 4.7[局所化と素イデアルのスペクトル])。S=B∖q0S = B \setminus \mathfrak{q}_0 とします。局所化は完全なので(定理 5.2[加群・完全列・中山の補題])Bq0→S−1AB_{\mathfrak{q}_0} \to S^{-1}A は単射で、Bq0≠0B_{\mathfrak{q}_0} \ne 0 から S−1A≠0S^{-1}A \ne 0 です。S−1AS^{-1}A の素イデアルを一つ取り、AA への逆像を p\mathfrak{p} とすると、p\mathfrak{p} は φ(S)\varphi(S) と交わらない素イデアルなので(定理 3.6[局所化と素イデアルのスペクトル] の 4)、φ−1(p)⊆q0\varphi^{-1}(\mathfrak{p}) \subseteq \mathfrak{q}_0 です。q0\mathfrak{q}_0 は極小なので φ−1(p)=q0\varphi^{-1}(\mathfrak{p}) = \mathfrak{q}_0 となり、q0\mathfrak{q}_0 は像に属します。

次の補題のねらいは、像が閉かどうかという位相の問題を、点の特殊化という点ごとの条件に言い換えることです。証明では、逆像を有限個のアフィン開集合で覆い、それぞれの閉集合に対応する環の積を作って、直前の補題を一度で使える形にします。

補題 4.2(準コンパクト射の像が閉である条件)✓

f ⁣:X→Yf\colon X \to Y を準コンパクトなスキームの射、Z⊆XZ \subseteq X を閉集合とする。f(Z)f(Z) が YY の閉集合であることと、f(Z)f(Z) が特殊化で閉じることは同値である。とくに(Z=XZ = X として)準コンパクト射の像が閉であることと、像が特殊化で閉じることは同値である。

証明(補題 4.2)

閉集合は特殊化で閉じるので、逆を示します。f(Z)f(Z) が特殊化で閉じるとし、yy を f(Z)f(Z) の閉包の点とします。yy のアフィン開近傍 V=Spec⁡BV = \operatorname{Spec} B を取ります。yy の開近傍はどれも f(Z)f(Z) と交わるので、yy は VV の中で f(Z)∩Vf(Z) \cap V の閉包に属します。

ff は準コンパクトなので f−1(V)f^{-1}(V) は準コンパクトで(命題 3.3[スキームの性質と射] の 1)、有限個のアフィン開集合 Ui=Spec⁡AiU_i = \operatorname{Spec} A_i(1≤i≤r1 \le i \le r)で覆われます。Z∩UiZ \cap U_i は UiU_i の閉集合なので、AiA_i のイデアル IiI_i で Z∩Ui=V(Ii)Z \cap U_i = V(I_i) と書け、V(Ii)V(I_i) は Spec⁡Ai/Ii\operatorname{Spec} A_i/I_i の像です(命題 4.6[局所化と素イデアルのスペクトル] の 1)。A=∏i=1rAi/IiA = \prod_{i=1}^{r} A_i/I_i とし、φ ⁣:B→A\varphi\colon B \to A を各 B→Ai→Ai/IiB \to A_i \to A_i/I_i の積とします。有限個の環の積の素イデアルは、一つの成分の素イデアルと残りの成分全体の積なので、Spec⁡A\operatorname{Spec} A は Spec⁡Ai/Ii\operatorname{Spec} A_i/I_i の非交和で、φ∗\varphi^{*} の像は ⋃if(Z∩Ui)=f(Z)∩V\bigcup_i f(Z \cap U_i) = f(Z) \cap V です。

補題 4.1 により、yy は φ∗\varphi^{*} の像の閉包 V(ker⁡φ)V(\ker\varphi) に属し、像の点 y0∈f(Z)y_0 \in f(Z) で y0⇝yy_0 \rightsquigarrow y となるものがあります。f(Z)f(Z) は特殊化で閉じるので y∈f(Z)y \in f(Z) です。

証明で使った「有限個の環の積の素イデアル」は、A=A1×A2A = A_1 \times A_2 のとき e=(1,0)e = (1, 0) が e(1−e)=0e(1 - e) = 0 を満たすので、素イデアルは ee か 1−e1 - e の一方を含み、含む方に応じて A1×p2A_1 \times \mathfrak{p}_2 か p1×A2\mathfrak{p}_1 \times A_2 の形になることから分かります。

次の補題が、特殊化と付値環を結びます。

補題 4.3(特殊化は付値環で実現できる)✓

XX をスキーム、x⇝x′x \rightsquigarrow x' を XX の点の特殊化、KK を κ(x)\kappa(x) の拡大体とする。このとき KK の付値環 VV と射 g ⁣:Spec⁡V→Xg\colon \operatorname{Spec} V \to X で、次を満たすものが存在する。

  1. gg は Spec⁡V\operatorname{Spec} V の生成点 (0)(0) を xx に、閉点 mV\mathfrak{m}_V を x′x' に写す。
  2. gg と Spec⁡K→Spec⁡V\operatorname{Spec} K \to \operatorname{Spec} V の合成は、κ(x)⊆K\kappa(x) \subseteq K が定める射 Spec⁡K→Spec⁡κ(x)→X\operatorname{Spec} K \to \operatorname{Spec}\kappa(x) \to X に等しい。
証明(補題 4.3)

x′x' のアフィン開近傍 U=Spec⁡AU = \operatorname{Spec} A を取ります。x′x' は {x}\{x\} の閉包に属するので、x′x' の開近傍 UU は xx を含みます。x,x′x, x' に対応する素イデアルを p⊆p′\mathfrak{p} \subseteq \mathfrak{p}' とします。κ(x)=Frac⁡(A/p)\kappa(x) = \operatorname{Frac}(A/\mathfrak{p}) なので(命題 3.10[局所化と素イデアルのスペクトル])、合成 α ⁣:A→A/p→κ(x)→K\alpha\colon A \to A/\mathfrak{p} \to \kappa(x) \to K の核は p\mathfrak{p} で、像 R=α(A)R = \alpha(A) は KK の部分環、r=α(p′)\mathfrak{r} = \alpha(\mathfrak{p}') は R≅A/pR \cong A/\mathfrak{p} の素イデアルです。付値環の存在定理(定理 2.4[離散付値環と Dedekind 環])により、KK の付値環 VV で R⊆VR \subseteq V、mV∩R=r\mathfrak{m}_V \cap R = \mathfrak{r} となるものがあります。

α\alpha を A→VA \to V と見たものを β\beta とし、gg を Spec⁡β ⁣:Spec⁡V→Spec⁡A\operatorname{Spec}\beta\colon \operatorname{Spec} V \to \operatorname{Spec} A と包含 U⊆XU \subseteq X の合成とします。β−1(0)=ker⁡α=p\beta^{-1}(0) = \ker\alpha = \mathfrak{p}、β−1(mV)=α−1(r)=p′\beta^{-1}(\mathfrak{m}_V) = \alpha^{-1}(\mathfrak{r}) = \mathfrak{p}' なので 1 が成り立ちます。Spec⁡K→Spec⁡V→Spec⁡A\operatorname{Spec} K \to \operatorname{Spec} V \to \operatorname{Spec} A は α ⁣:A→K\alpha\colon A \to K に対応し、これは A→κ(x)→KA \to \kappa(x) \to K なので 2 が成り立ちます。

補題 4.4(付値環は支配について極大)✓

VV を体 KK の付値環、O\mathcal{O} を KK の部分環で局所環であるものとし、V⊆OV \subseteq \mathcal{O} かつ mV⊆mO\mathfrak{m}_V \subseteq \mathfrak{m}_{\mathcal{O}} とする。このとき O=V\mathcal{O} = V である。

証明(補題 4.4)

x∈O∖Vx \in \mathcal{O} \setminus V があったとします。x≠0x \ne 0 で、VV は付値環なので x−1∈Vx^{-1} \in V です。x∉Vx \notin V なので x−1x^{-1} は VV の単元ではなく、x−1∈mV⊆mOx^{-1} \in \mathfrak{m}_V \subseteq \mathfrak{m}_{\mathcal{O}} です(命題 2.2[離散付値環と Dedekind 環] の 2)。すると 1=x⋅x−1∈mO1 = x \cdot x^{-1} \in \mathfrak{m}_{\mathcal{O}} となり矛盾です。

「閉」は閉集合の像がまた閉集合になること、「普遍閉」はどんな底変換をしてもそうなることです。コンパクト空間 XX からの射影 X×Z→ZX \times Z \to Z が、どんな空間 ZZ についても閉写像になる、という性質に当たります。

定義 5.1(普遍閉・固有射)↗

f ⁣:X→Yf\colon X \to Y をスキームの射とする。

  1. ff が閉であるとは、XX の閉集合の像がいつも YY の閉集合であることをいう。任意の射 Y′→YY' \to Y について底変換 X×YY′→Y′X \times_Y Y' \to Y' が閉であるとき、ff は普遍閉であるという。
  2. ff が分離的・有限型・普遍閉であるとき、ff は固有である(XX は YY 上固有である)という。

例 5.2(アフィン直線は固有でない)

kk を体とします。Ak1=Spec⁡k[y]→Spec⁡k\mathbb{A}^1_k = \operatorname{Spec} k[y] \to \operatorname{Spec} k は分離的(命題 3.2 の 1)で有限型ですが、普遍閉ではありません。Spec⁡k[x]→Spec⁡k\operatorname{Spec} k[x] \to \operatorname{Spec} k で底変換すると、射影 π ⁣:Ak2=Spec⁡k[x,y]→Spec⁡k[x]\pi\colon \mathbb{A}^2_k = \operatorname{Spec} k[x, y] \to \operatorname{Spec} k[x] になります。閉集合 Z=V(xy−1)Z = V(xy - 1) の像を求めます。Z≅Spec⁡k[x,y]/(xy−1)≅Spec⁡k[x,x−1]Z \cong \operatorname{Spec} k[x, y]/(xy - 1) \cong \operatorname{Spec} k[x, x^{-1}] で、π∣Z\pi|_Z は包含 k[x]→k[x,x−1]k[x] \to k[x, x^{-1}] に対応するので、像は D(x)D(x) です(命題 4.6[局所化と素イデアルのスペクトル] の 2)。D(x)D(x) は原点 (x)(x) を含まず、原点は生成点 (0)∈D(x)(0) \in D(x) の特殊化なので、D(x)D(x) は閉ではありません。双曲線の上を x→0x \to 0 に動く点は y→∞y \to \infty へ逃げ、A1\mathbb{A}^1 の中に極限をもちません。

以下、付値環 VV とその商体 KK について、包含 V⊆KV \subseteq K が定める射を j ⁣:Spec⁡K→Spec⁡Vj\colon \operatorname{Spec} K \to \operatorname{Spec} V と書きます。射 f ⁣:X→Yf\colon X \to Y に対する付値の図式とは、付値環 VV と射 a ⁣:Spec⁡K→Xa\colon \operatorname{Spec} K \to X、b ⁣:Spec⁡V→Yb\colon \operatorname{Spec} V \to Y の組で f∘a=b∘jf \circ a = b \circ j を満たすものをいい、その持ち上げとは、射 h ⁣:Spec⁡V→Xh\colon \operatorname{Spec} V \to X で h∘j=ah \circ j = a、f∘h=bf \circ h = b を満たすものをいいます。

X(穴がある)Spec V → YfX(原点が二重)Spec V → Yf
付値判定法の描像。Spec V は曲線の 1 点の近傍、Spec K はそこから閉点を抜いたもの。左:行き先に穴があると持ち上げが存在しない(固有でない)。右:点が二重になっていると持ち上げが 2 通りある(分離的でない)。

次の定理の証明の方針です。1 ⇒ 2 では、二つの持ち上げの組を対角射の底変換に当てて、両者が等しいことを示します。2 ⇒ 1 では、対角の像が特殊化で閉じることを、特殊化を付値環で実現して確かめます。

定理 5.3(分離性の付値判定法)✓

f ⁣:X→Yf\colon X \to Y を準分離的なスキームの射とする(XX が Noether スキームならこの仮定は満たされる)。次は同値である。

  1. ff は分離的である。
  2. ff に対するどの付値の図式についても、持ち上げは高々一つである。

なお 1 ⇒ 2 は準分離性の仮定なしに成り立つ。

証明(定理 5.3)

Noether スキームなら準分離的。 XX が Noether スキームなら、底空間は Noether 位相空間で(命題 2.3[スキームの性質と射])、その開集合はすべて準コンパクトです。Δ−1\Delta^{-1} による準コンパクト開集合の逆像は XX の開集合なので準コンパクトで、Δ\Delta は準コンパクトです。

1 ⇒ 2。 付値の図式 (V,a,b)(V, a, b) と二つの持ち上げ h,h′h, h' を取り、T=Spec⁡VT = \operatorname{Spec} V とします。f∘h=f∘h′=bf \circ h = f \circ h' = b なので、射 (h,h′) ⁣:T→X×YX(h, h')\colon T \to X \times_Y X が定まります。Δ\Delta の (h,h′)(h, h') による底変換を E=T×X×YXX→TE = T \times_{X \times_Y X} X \to T とします。Δ\Delta は閉はめ込みなので、E→TE \to T も閉はめ込みで(命題 6.1[スキームの性質と射])、補題 2.3 により VV のイデアル II で E=Spec⁡V/IE = \operatorname{Spec} V/I と書けます。

h∘j=h′∘j=ah \circ j = h' \circ j = a なので、(h,h′)∘j=Δ∘a(h, h') \circ j = \Delta \circ a です。ファイバー積の普遍性により、jj と aa の組は射 Spec⁡K→E\operatorname{Spec} K \to E を定め、jj は E→TE \to T を経由します。環の言葉では、包含 V→KV \to K が V/IV/I を経由するので I=0I = 0 です。したがって E→TE \to T は同型で、射影 E→XE \to X と合わせて射 e ⁣:T→Xe\colon T \to X で Δ∘e=(h,h′)\Delta \circ e = (h, h') を満たすものが得られます。p1p_1、p2p_2 を合成すると e=he = h、e=h′e = h' となり、h=h′h = h' です。

2 ⇒ 1。 命題 3.2 の 3 により、Δ(X)\Delta(X) が閉であることを示せば足ります。Δ\Delta は準コンパクトなので、補題 4.2 により Δ(X)\Delta(X) が特殊化で閉じることを示せば足ります。

x∈Xx \in X、ξ=Δ(x)\xi = \Delta(x) とし、ξ⇝ξ′\xi \rightsquigarrow \xi' を X×YXX \times_Y X の中の特殊化とします。Δ\Delta は剰余体の埋め込み κ(ξ)→κ(x)\kappa(\xi) \to \kappa(x) を誘導するので、K=κ(x)K = \kappa(x) は κ(ξ)\kappa(\xi) の拡大体です。補題 4.3 により、KK の付値環 VV と射 g ⁣:Spec⁡V→X×YXg\colon \operatorname{Spec} V \to X \times_Y X で、閉点を ξ′\xi' に写し、g∘jg \circ j が Spec⁡K→Spec⁡κ(ξ)→X×YX\operatorname{Spec} K \to \operatorname{Spec}\kappa(\xi) \to X \times_Y X に等しいものがあります。a ⁣:Spec⁡K=Spec⁡κ(x)→Xa\colon \operatorname{Spec} K = \operatorname{Spec}\kappa(x) \to X を点 xx が定める射とすると、Δ∘a\Delta \circ a は点 ξ\xi と埋め込み κ(ξ)→K\kappa(\xi) \to K が定める射なので(命題 7.2[アフィンスキームとスキーム])、g∘j=Δ∘ag \circ j = \Delta \circ a です。

hi=pi∘g ⁣:Spec⁡V→Xh_i = p_i \circ g\colon \operatorname{Spec} V \to X(i=1,2i = 1, 2)とおきます。f∘p1=f∘p2f \circ p_1 = f \circ p_2 なので f∘h1=f∘h2=:bf \circ h_1 = f \circ h_2 =: b で、hi∘j=pi∘Δ∘a=ah_i \circ j = p_i \circ \Delta \circ a = a です。したがって h1,h2h_1, h_2 は付値の図式 (V,a,b)(V, a, b) の持ち上げで、仮定により h1=h2h_1 = h_2 です。すると Δ∘h1\Delta \circ h_1 と gg は p1p_1、p2p_2 との合成が一致するので g=Δ∘h1g = \Delta \circ h_1 で、ξ′=g(mV)∈Δ(X)\xi' = g(\mathfrak{m}_V) \in \Delta(X) です。

次の定理の証明の方針です。1 ⇒ 2 の存在では、底変換 X×YSpec⁡V→Spec⁡VX \times_Y \operatorname{Spec} V \to \operatorname{Spec} V が閉写像であることから、生成点の特殊化で閉点に写る点を見つけ、付値環の極大性(補題 4.4)で局所環が VV そのものになることを使って持ち上げを作ります。2 ⇒ 1 では、像が特殊化で閉じることを、特殊化を付値環で実現して持ち上げに帰着させます。

定理 5.4(固有性の付値判定法)✓

f ⁣:X→Yf\colon X \to Y を有限型の射とし、XX は Noether スキームであるとする(YY が Noether スキームで ff が有限型ならそうなる)。次は同値である。

  1. ff は固有である。
  2. ff に対するどの付値の図式についても、持ち上げがちょうど一つ存在する。

なお 1 ⇒ 2 は、XX についての Noether 性の仮定なしに成り立つ。

証明(定理 5.4)

YY が Noether で ff が有限型なら XX が Noether であることは、Noether 環上の有限型代数が Noether 環であることから従います(命題 2.3[スキームの性質と射])。

1 ⇒ 2。 一意性は 定理 5.3 の 1 ⇒ 2 です。存在を示します。付値の図式 (V,a,b)(V, a, b) を取り、T=Spec⁡VT = \operatorname{Spec} V、XT=X×YTX_T = X \times_Y T とし、射影を q ⁣:XT→Xq\colon X_T \to X、fT ⁣:XT→Tf_T\colon X_T \to T とします。f∘a=b∘jf \circ a = b \circ j から射 a′=(a,j) ⁣:Spec⁡K→XTa' = (a, j)\colon \operatorname{Spec} K \to X_T が定まり、q∘a′=aq \circ a' = a、fT∘a′=jf_T \circ a' = j です。a′a' の像の点を ξ\xi とすると、fT(ξ)f_T(\xi) は TT の生成点 η=(0)\eta = (0) です。

ZZ を {ξ}\{\xi\} の閉包とします。ff は普遍閉なので fTf_T は閉写像で、fT(Z)f_T(Z) は η\eta を含む閉集合です。VV は整域で、η\eta の閉包は V(0)=TV(0) = T なので、fT(Z)=Tf_T(Z) = T です。したがって TT の閉点 mV\mathfrak{m}_V に写る点 z∈Zz \in Z があります。

zz のアフィン開近傍 Spec⁡A⊆XT\operatorname{Spec} A \subseteq X_T を取ります。zz は ξ\xi の特殊化なので ξ∈Spec⁡A\xi \in \operatorname{Spec} A で、対応する素イデアルを p⊆q\mathfrak{p} \subseteq \mathfrak{q} とします。fTf_T の制限は環準同型 ψ ⁣:V→A\psi\colon V \to A に対応し、ψ−1(q)=mV\psi^{-1}(\mathfrak{q}) = \mathfrak{m}_V です。a′a' は開集合 Spec⁡A\operatorname{Spec} A を経由し、環準同型 α ⁣:A→K\alpha\colon A \to K に対応して、ker⁡α=p\ker\alpha = \mathfrak{p}、α∘ψ\alpha \circ \psi は包含 V⊆KV \subseteq K です。

R=α(A)≅A/pR = \alpha(A) \cong A/\mathfrak{p} は KK の部分環で V⊆RV \subseteq R です。r=α(q)\mathfrak{r} = \alpha(\mathfrak{q}) は RR の素イデアルで、O=Rr\mathcal{O} = R_{\mathfrak{r}} は KK の部分環と見なせる局所環です(整域の局所化は商体の部分環で、Frac⁡R⊆K\operatorname{Frac} R \subseteq K)。V⊆OV \subseteq \mathcal{O} で、ψ(mV)⊆q\psi(\mathfrak{m}_V) \subseteq \mathfrak{q} から mV⊆rO=mO\mathfrak{m}_V \subseteq \mathfrak{r}\mathcal{O} = \mathfrak{m}_{\mathcal{O}} です。補題 4.4 により O=V\mathcal{O} = V です。

よって α\alpha は環準同型 β ⁣:A→R⊆O=V\beta\colon A \to R \subseteq \mathcal{O} = V を定め、β∘ψ=id⁡V\beta \circ \psi = \operatorname{id}_V で、β\beta と包含 V⊆KV \subseteq K の合成は α\alpha です。h′=Spec⁡β ⁣:T→Spec⁡A⊆XTh' = \operatorname{Spec}\beta\colon T \to \operatorname{Spec} A \subseteq X_T とおくと、fT∘h′=id⁡Tf_T \circ h' = \operatorname{id}_T、h′∘j=a′h' \circ j = a' です。h=q∘h′h = q \circ h' とすれば

f∘h=f∘q∘h′=b∘fT∘h′=b,h∘j=q∘a′=af \circ h = f \circ q \circ h' = b \circ f_T \circ h' = b, \qquad h \circ j = q \circ a' = a

となり、hh が持ち上げです。

2 ⇒ 1。 XX は Noether スキームなので ff は準分離的で、持ち上げの一意性と 定理 5.3 により ff は分離的です。ff は仮定により有限型なので、普遍閉であることを示します。

u ⁣:Y′→Yu\colon Y' \to Y を任意の射、X′=X×YY′X' = X \times_Y Y'、q ⁣:X′→Xq\colon X' \to X と f′ ⁣:X′→Y′f'\colon X' \to Y' を射影とし、Z⊆X′Z \subseteq X' を閉集合とします。有限型の射は底変換で保たれ(命題 6.1[スキームの性質と射])、有限型の射は準コンパクトなので、f′f' は準コンパクトです。補題 4.2 により、f′(Z)f'(Z) が特殊化で閉じることを示せば足ります。

z∈Zz \in Z、y′=f′(z)y' = f'(z) とし、y′⇝y′′y' \rightsquigarrow y'' を Y′Y' の中の特殊化とします。K=κ(z)K = \kappa(z) は κ(y′)\kappa(y') の拡大体です。補題 4.3 により、KK の付値環 VV と射 g ⁣:Spec⁡V→Y′g\colon \operatorname{Spec} V \to Y' で、閉点を y′′y'' に写し、g∘jg \circ j が Spec⁡K→Spec⁡κ(y′)→Y′\operatorname{Spec} K \to \operatorname{Spec}\kappa(y') \to Y' に等しいものがあります。c ⁣:Spec⁡K→X′c\colon \operatorname{Spec} K \to X' を点 zz が定める射とすると、f′∘cf' \circ c は点 y′y' と埋め込み κ(y′)→K\kappa(y') \to K が定める射なので f′∘c=g∘jf' \circ c = g \circ j です。

a=q∘ca = q \circ c、b=u∘gb = u \circ g とおくと f∘a=u∘f′∘c=u∘g∘j=b∘jf \circ a = u \circ f' \circ c = u \circ g \circ j = b \circ j で、(V,a,b)(V, a, b) は ff に対する付値の図式です。仮定により持ち上げ h ⁣:Spec⁡V→Xh\colon \operatorname{Spec} V \to X があります。f∘h=b=u∘gf \circ h = b = u \circ g なので、射 h′=(h,g) ⁣:Spec⁡V→X′h' = (h, g)\colon \operatorname{Spec} V \to X' が定まり、f′∘h′=gf' \circ h' = g です。h′∘jh' \circ j と cc は、qq との合成が h∘j=a=q∘ch \circ j = a = q \circ c、f′f' との合成が g∘j=f′∘cg \circ j = f' \circ c で一致するので、h′∘j=ch' \circ j = c です。したがって h′h' は生成点を zz に写します。閉点の像を x′′x'' とすると、閉点は生成点の特殊化で h′h' は連続なので x′′x'' は zz の特殊化であり、ZZ は閉なので x′′∈Zx'' \in Z です。f′(x′′)=g(mV)=y′′f'(x'') = g(\mathfrak{m}_V) = y'' なので y′′∈f′(Z)y'' \in f'(Z) です。

例 5.5(付値判定法で見る「穴」と「二重点」)

kk を体、V=k[t](t)V = k[t]_{(t)}、K=k(t)K = k(t) とします。VV は離散付値環です(定義 3.1[離散付値環と Dedekind 環])。

(穴)開はめ込み f ⁣:X=Spec⁡k[x,x−1]→Y=Spec⁡k[x]f\colon X = \operatorname{Spec} k[x, x^{-1}] \to Y = \operatorname{Spec} k[x] について、bb を x↦tx \mapsto t が定める Spec⁡V→Y\operatorname{Spec} V \to Y、aa を x↦tx \mapsto t が定める Spec⁡K→X\operatorname{Spec} K \to X とします。持ち上げは環準同型 k[x,x−1]→Vk[x, x^{-1}] \to V で x↦tx \mapsto t となるものですが、t−1∉Vt^{-1} \notin V なので存在しません。定理 5.4 により ff は固有でありません。XX には原点という穴が開いていて、t→0t \to 0 の極限を受け止められません。

(二重点)例 3.3 の XX について、a ⁣:Spec⁡K→U1∩U2=Spec⁡k[t,t−1]a\colon \operatorname{Spec} K \to U_1 \cap U_2 = \operatorname{Spec} k[t, t^{-1}] を包含 k[t,t−1]⊆Kk[t, t^{-1}] \subseteq K が定める射とします。k[t]⊆Vk[t] \subseteq V が定める二つの射 hi ⁣:Spec⁡V→Ui⊆Xh_i\colon \operatorname{Spec} V \to U_i \subseteq X(i=1,2i = 1, 2)は、どちらも aa の延長で、閉点をそれぞれ o1o_1、o2o_2 に写すので異なります。定理 5.3 の 1 ⇒ 2 により、XX は kk 上分離的でありません。

対角射どうしの関係を、点の関手で確かめておきます。スキームの可換な四角形がファイバー積の図式であることは、すべてのスキーム TT について TT 値点の四角形が集合のファイバー積の図式であることと同値です(ファイバー積の普遍性そのもの。定理 7.1[スキームの性質と射])。

補題 6.1(対角射の底変換)✓

f ⁣:X→Yf\colon X \to Y、g ⁣:Y→Zg\colon Y \to Z をスキームの射とする。

  1. u ⁣:Y′→Yu\colon Y' \to Y を射、X′=X×YY′X' = X \times_Y Y' とすると、ΔX′/Y′\Delta_{X'/Y'} は ΔX/Y\Delta_{X/Y} の、自然な射 X′×Y′X′→X×YXX' \times_{Y'} X' \to X \times_Y X による底変換である。
  2. 自然な射 X×YX→X×ZXX \times_Y X \to X \times_Z X は、ΔY/Z\Delta_{Y/Z} の f×f ⁣:X×ZX→Y×ZYf \times f\colon X \times_Z X \to Y \times_Z Y による底変換である。
  3. グラフ射 Γf=(id⁡X,f) ⁣:X→X×ZY\Gamma_f = (\operatorname{id}_X, f)\colon X \to X \times_Z Y は、ΔY/Z\Delta_{Y/Z} の f×id⁡Y ⁣:X×ZY→Y×ZYf \times \operatorname{id}_Y\colon X \times_Z Y \to Y \times_Z Y による底変換である。
  4. a,b ⁣:X→Ya, b\colon X \to Y を g∘a=g∘bg \circ a = g \circ b を満たす射とし、E=X×Y×ZYYE = X \times_{Y \times_Z Y} Y を (a,b)(a, b) と ΔY/Z\Delta_{Y/Z} のファイバー積とする。射 x ⁣:T→Xx\colon T \to X が E→XE \to X を経由することと、a∘x=b∘xa \circ x = b \circ x は同値である。
証明(補題 6.1)

TT をスキームとし、TT 値点を小文字で書きます。

(1) X′(T)X'(T) は fx=uy′f x = u y' を満たす組 (x,y′)(x, y') の集合、(X′×Y′X′)(T)(X' \times_{Y'} X')(T) は fx1=fx2=uy′f x_1 = f x_2 = u y' を満たす組 (x1,x2,y′)(x_1, x_2, y') の集合で、X×YXX \times_Y X への射は (x1,x2,y′)↦(x1,x2)(x_1, x_2, y') \mapsto (x_1, x_2) です。これと ΔX/Y ⁣:x↦(x,x)\Delta_{X/Y}\colon x \mapsto (x, x) のファイバー積は、x1=x2x_1 = x_2 である組の集合、すなわち X′(T)X'(T) で、そこからの写像 (x,y′)↦(x,x,y′)(x, y') \mapsto (x, x, y') は ΔX′/Y′\Delta_{X'/Y'} です。

(2) (X×ZX)(T)(X \times_Z X)(T) は gfx1=gfx2g f x_1 = g f x_2 を満たす (x1,x2)(x_1, x_2) の集合で、f×ff \times f は (x1,x2)↦(fx1,fx2)(x_1, x_2) \mapsto (f x_1, f x_2) です。これと ΔY/Z ⁣:y↦(y,y)\Delta_{Y/Z}\colon y \mapsto (y, y) のファイバー積は fx1=fx2f x_1 = f x_2 を満たす組の集合、すなわち (X×YX)(T)(X \times_Y X)(T) です。

(3) (X×ZY)(T)(X \times_Z Y)(T) は gfx=gyg f x = g y を満たす (x,y)(x, y) の集合で、f×id⁡f \times \operatorname{id} は (x,y)↦(fx,y)(x, y) \mapsto (f x, y) です。ΔY/Z\Delta_{Y/Z} とのファイバー積は y=fxy = f x を満たす組の集合で、x↦(x,fx)x \mapsto (x, f x) により X(T)X(T) と同一視されます。

(4) E(T)E(T) は (ax,bx)=(y,y)(a x, b x) = (y, y) を満たす組 (x,y)(x, y) の集合で、これは ax=bxa x = b x を満たす x∈X(T)x \in X(T) の集合と同一視されます。

命題 6.2(分離射・固有射の保存)✓

スキームの射について次が成り立つ。

  1. はめ込み(とくに開はめ込み・閉はめ込み)は分離的である。閉はめ込みは固有である。
  2. 分離射(固有射)の合成は分離射(固有射)である。
  3. 分離射(固有射)の底変換は分離射(固有射)である。
  4. f ⁣:X→Yf\colon X \to Y、f′ ⁣:X′→Y′f'\colon X' \to Y' が SS 上のスキームの間の分離的(固有)な SS 射ならば、積 f×f′ ⁣:X×SX′→Y×SY′f \times f'\colon X \times_S X' \to Y \times_S Y' も分離的(固有)である。
  5. f ⁣:X→Yf\colon X \to Y、g ⁣:Y→Zg\colon Y \to Z について、g∘fg \circ f が分離的なら ff は分離的である。g∘fg \circ f が固有で gg が分離的なら ff は固有である。
  6. アフィン射は分離的である。有限射は固有である。
証明(命題 6.2)

有限型の射が合成と底変換で保たれること、閉はめ込み・開はめ込みが合成と底変換で保たれることは 命題 6.1[スキームの性質と射] を使います。

(1) i ⁣:Z→Xi\colon Z \to X をはめ込みとします。補題 2.4 により、ia=ibi a = i b を満たす TT 値点の組 (a,b)(a, b) は a=ba = b を満たすので、ΔZ/X\Delta_{Z/X} はすべての TT について TT 値点の全単射を与え、同型です(定理 7.1[スキームの性質と射])。同型は閉はめ込みなので ii は分離的です。ii が閉はめ込みのとき、XX のアフィン開集合 Spec⁡A\operatorname{Spec} A の上で ii は Spec⁡A/I→Spec⁡A\operatorname{Spec} A/I \to \operatorname{Spec} A で(補題 2.3)、A/IA/I は AA 上有限型なので ii は有限型です。閉はめ込みは閉集合への同相写像なので閉写像で、底変換も閉はめ込みなので、ii は普遍閉です。

(2) f ⁣:X→Yf\colon X \to Y、g ⁣:Y→Zg\colon Y \to Z とします。ΔX/Z\Delta_{X/Z} は ΔX/Y\Delta_{X/Y} と自然な射 ι ⁣:X×YX→X×ZX\iota\colon X \times_Y X \to X \times_Z X の合成です。f,gf, g が分離的なら、ι\iota は閉はめ込み ΔY/Z\Delta_{Y/Z} の底変換なので(補題 6.1 の 2)閉はめ込みで、ΔX/Z\Delta_{X/Z} は閉はめ込みの合成として閉はめ込みです。f,gf, g が普遍閉であるとし、Z′→ZZ' \to Z を射とします。Y′=Y×ZZ′Y' = Y \times_Z Z' とすると X×ZZ′≅X×YY′X \times_Z Z' \cong X \times_Y Y' なので、g∘fg \circ f の底変換は ff の底変換 X×YY′→Y′X \times_Y Y' \to Y' と gg の底変換 Y′→Z′Y' \to Z' の合成で、閉写像の合成として閉です。

(3) f ⁣:X→Yf\colon X \to Y の Y′→YY' \to Y による底変換を f′ ⁣:X′→Y′f'\colon X' \to Y' とします。ff が分離的なら、ΔX′/Y′\Delta_{X'/Y'} は閉はめ込み ΔX/Y\Delta_{X/Y} の底変換なので(補題 6.1 の 1)閉はめ込みです。ff が普遍閉なら、f′f' の Y′′→Y′Y'' \to Y' による底変換は ff の Y′′→Y′→YY'' \to Y' \to Y による底変換なので閉です。

(4) f×f′f \times f' は f×id⁡Y′ ⁣:X×SY′→Y×SY′f \times \operatorname{id}_{Y'}\colon X \times_S Y' \to Y \times_S Y' と id⁡X×f′ ⁣:X×SX′→X×SY′\operatorname{id}_X \times f'\colon X \times_S X' \to X \times_S Y' の合成です。前者は ff の射影 Y×SY′→YY \times_S Y' \to Y による底変換、後者は f′f' の射影 X×SY′→Y′X \times_S Y' \to Y' による底変換なので、(3) と (2) から従います。

(5) 前半。ΔX/Z=ι∘ΔX/Y\Delta_{X/Z} = \iota \circ \Delta_{X/Y} で、ι\iota ははめ込み ΔY/Z\Delta_{Y/Z}(命題 3.2 の 2)の底変換なのではめ込みで、とくに底空間の写像として単射です。ι\iota が単射なので ΔX/Y(X)=ι−1(ΔX/Z(X))\Delta_{X/Y}(X) = \iota^{-1}(\Delta_{X/Z}(X)) です。g∘fg \circ f が分離的なら右辺は閉集合の逆像なので閉で、命題 3.2 の 3 により ff は分離的です。

後半。f=p2∘Γff = p_2 \circ \Gamma_f と分解します。Γf ⁣:X→X×ZY\Gamma_f\colon X \to X \times_Z Y は ΔY/Z\Delta_{Y/Z} の底変換で(補題 6.1 の 3)、gg が分離的なので閉はめ込み、したがって (1) により固有です。p2 ⁣:X×ZY→Yp_2\colon X \times_Z Y \to Y は g∘fg \circ f の gg による底変換なので (3) により固有です。(2) により ff は固有です。

(6) f ⁣:X→Yf\colon X \to Y をアフィン射とし、YY をアフィン開集合 VλV_\lambda で覆うと、Uλ=f−1(Vλ)U_\lambda = f^{-1}(V_\lambda) はアフィンです。X×YXX \times_Y X の点 ww について fp1(w)=fp2(w)f p_1(w) = f p_2(w) はある VλV_\lambda に入るので、w∈p1−1(Uλ)∩p2−1(Uλ)=Uλ×VλUλw \in p_1^{-1}(U_\lambda) \cap p_2^{-1}(U_\lambda) = U_\lambda \times_{V_\lambda} U_\lambda で、これらは X×YXX \times_Y X を覆います。Δ−1(Uλ×VλUλ)=Uλ\Delta^{-1}(U_\lambda \times_{V_\lambda} U_\lambda) = U_\lambda で、制限はアフィンスキームの間の射の対角射なので閉はめ込みです(命題 3.2 の 1)。閉はめ込みは終域について局所的なので ΔX/Y\Delta_{X/Y} は閉はめ込みです。

ff が有限射なら、ff はアフィン射なので分離的で、有限代数は有限型なので ff は有限型です。有限射は底変換で保たれ、閉写像なので(命題 6.2[スキームの性質と射])、普遍閉です。

(5) の証明に現れたグラフ射について、gg が分離的なら Γf\Gamma_f は閉はめ込みです。これは「Hausdorff 空間への連続写像のグラフは閉」の対応物です。

環 AA 上の射影空間 PAn=Proj⁡A[x0,…,xn]\mathbb{P}^n_A = \operatorname{Proj} A[x_0, \ldots, x_n] は、n+1n + 1 個のアフィン開集合

D+(xi)=Spec⁡A[x0xi,…,xnxi]D_{+}(x_i) = \operatorname{Spec} A\Bigl[\frac{x_0}{x_i}, \ldots, \frac{x_n}{x_i}\Bigr]

で覆われ、右辺は xk/xix_k/x_i(k≠ik \ne i)を変数とする nn 変数多項式環です。また D+(xi)∩D+(xj)=D+(xixj)D_{+}(x_i) \cap D_{+}(x_j) = D_{+}(x_i x_j) は A[x0,…,xn]A[x_0, \ldots, x_n] を xixjx_i x_j で局所化した環の 00 次部分の Spec⁡\operatorname{Spec} です(定理 6.3[アフィンスキームとスキーム])。

定義 7.1(射影射・準射影射)↗

スキーム YY について PYn=PZn×Spec⁡ZY\mathbb{P}^n_Y = \mathbb{P}^n_{\mathbb{Z}} \times_{\operatorname{Spec}\mathbb{Z}} Y とおく。射 f ⁣:X→Yf\colon X \to Y が射影的であるとは、ある nn について、閉はめ込み X→PYnX \to \mathbb{P}^n_Y と射影 PYn→Y\mathbb{P}^n_Y \to Y の合成に分解することをいう。開はめ込み X→X′X \to X' と射影射 X′→YX' \to Y の合成に分解するとき、ff は準射影的であるという。

補題 7.2(射影空間の底変換)✓

環 AA について、Spec⁡A\operatorname{Spec} A 上の同型 PAn≅PZn×Spec⁡ZSpec⁡A\mathbb{P}^n_A \cong \mathbb{P}^n_{\mathbb{Z}} \times_{\operatorname{Spec}\mathbb{Z}} \operatorname{Spec} A がある。

証明(補題 7.2)

S=Z[x0,…,xn]S = \mathbb{Z}[x_0, \ldots, x_n]、SA=A[x0,…,xn]S_A = A[x_0, \ldots, x_n] とし、SS の斉次元 FF による局所化の 00 次部分を S(F)S_{(F)} と書きます。自然な環準同型 S(xi)→(SA)(xi)S_{(x_i)} \to (S_A)_{(x_i)} は射 πi ⁣:D+(xi)A→D+(xi)Z\pi_i\colon D_{+}(x_i)_A \to D_{+}(x_i)_{\mathbb{Z}} を定め、πi\pi_i と πj\pi_j は D+(xixj)AD_{+}(x_i x_j)_A の上で、どちらも S(xixj)→(SA)(xixj)S_{(x_i x_j)} \to (S_A)_{(x_i x_j)} が定める射に一致します。貼り合わせて射 π ⁣:PAn→PZn\pi\colon \mathbb{P}^n_A \to \mathbb{P}^n_{\mathbb{Z}} を得ます(定理 5.1[アフィンスキームとスキーム])。

π−1(D+(xi)Z)=D+(xi)A\pi^{-1}(D_{+}(x_i)_{\mathbb{Z}}) = D_{+}(x_i)_A です。実際、D+(xj)AD_{+}(x_j)_A の点で π\pi の像が D+(xi)Z∩D+(xj)ZD_{+}(x_i)_{\mathbb{Z}} \cap D_{+}(x_j)_{\mathbb{Z}} に入るものの全体は、D+(xj)ZD_{+}(x_j)_{\mathbb{Z}} の主開集合 D(xi/xj)D(x_i/x_j) の πj\pi_j による逆像で、これは D+(xj)AD_{+}(x_j)_A の主開集合 D(xi/xj)=D+(xixj)AD(x_i/x_j) = D_{+}(x_i x_j)_A です(命題 4.5[局所化と素イデアルのスペクトル])。

π\pi と構造射 PAn→Spec⁡A\mathbb{P}^n_A \to \operatorname{Spec} A から射 θ ⁣:PAn→PZn×ZSpec⁡A\theta\colon \mathbb{P}^n_A \to \mathbb{P}^n_{\mathbb{Z}} \times_{\mathbb{Z}} \operatorname{Spec} A が定まります。終域は開集合 D+(xi)Z×ZSpec⁡A=Spec⁡(S(xi)⊗ZA)D_{+}(x_i)_{\mathbb{Z}} \times_{\mathbb{Z}} \operatorname{Spec} A = \operatorname{Spec}(S_{(x_i)} \otimes_{\mathbb{Z}} A) で覆われ、その θ\theta による逆像は D+(xi)AD_{+}(x_i)_A です。制限は環準同型 S(xi)⊗ZA→(SA)(xi)S_{(x_i)} \otimes_{\mathbb{Z}} A \to (S_A)_{(x_i)} に対応し、これは多項式環 Z[xk/xi]k≠i\mathbb{Z}[x_k/x_i]_{k \ne i} の係数拡大が A[xk/xi]k≠iA[x_k/x_i]_{k \ne i} であるという同型です。同型は終域について局所的なので θ\theta は同型です。

定理 7.3(射影空間は固有)✓

PZn→Spec⁡Z\mathbb{P}^n_{\mathbb{Z}} \to \operatorname{Spec}\mathbb{Z} は固有である。したがって任意のスキーム YY について PYn→Y\mathbb{P}^n_Y \to Y は固有で、射影射は固有である。準射影射は分離的で、YY が局所 Noether スキームなら有限型でもある。

証明(定理 7.3)

S=Z[x0,…,xn]S = \mathbb{Z}[x_0, \ldots, x_n]、X=PZnX = \mathbb{P}^n_{\mathbb{Z}}、Ui=D+(xi)=Spec⁡S(xi)U_i = D_{+}(x_i) = \operatorname{Spec} S_{(x_i)} とします。

有限型。 XX は有限個の UiU_i で覆われ、S(xi)S_{(x_i)} は Z\mathbb{Z} 上の nn 変数多項式環なので、X→Spec⁡ZX \to \operatorname{Spec}\mathbb{Z} は有限型です。とくに XX は Noether スキームです。

分離的。 補題 3.5 を使います。Ui∩Uj=Spec⁡S(xixj)U_i \cap U_j = \operatorname{Spec} S_{(x_i x_j)} はアフィンです。S(xixj)S_{(x_i x_j)} の元は、2m2m 次の単項式 MM による M/(xixj)mM/(x_i x_j)^m の整数係数の一次結合です。M=M1M2M = M_1 M_2(M1,M2M_1, M_2 は mm 次の単項式)と分けると

M(xixj)m=M1xim⋅M2xjm\frac{M}{(x_i x_j)^m} = \frac{M_1}{x_i^m} \cdot \frac{M_2}{x_j^m}

で、右辺は S(xi)S_{(x_i)} の元と S(xj)S_{(x_j)} の元の制限の積です。よって S(xi)⊗ZS(xj)→S(xixj)S_{(x_i)} \otimes_{\mathbb{Z}} S_{(x_j)} \to S_{(x_i x_j)} は全射で、XX は分離的です。

普遍閉。 XX は Noether スキームで構造射は有限型なので、定理 5.4 により、どの付値の図式にも持ち上げがあることを示せば足ります(一意性は、いま示した分離性と 定理 5.3 から従います)。VV を付値環、KK を商体、a ⁣:Spec⁡K→Xa\colon \operatorname{Spec} K \to X を射とします。Spec⁡V→Spec⁡Z\operatorname{Spec} V \to \operatorname{Spec}\mathbb{Z} はただ一つなので、aa を延長する射 h ⁣:Spec⁡V→Xh\colon \operatorname{Spec} V \to X を作れば持ち上げになります。

aa の像の点はある UiU_i に属し、aa は UiU_i を経由して環準同型 α ⁣:S(xi)→K\alpha\colon S_{(x_i)} \to K に対応します。ak=α(xk/xi)∈Ka_k = \alpha(x_k/x_i) \in K とおきます(ai=1a_i = 1)。ak≠0a_k \ne 0 である添字 kk の集合 NN の上で、al/ak∈Va_l/a_k \in V のとき k⪯lk \preceq l と定めます。VV は付値環なので al/ak∈Va_l/a_k \in V か ak/al∈Va_k/a_l \in V の少なくとも一方が成り立ち、VV は積で閉じているので ⪯\preceq は推移的です。有限集合 NN には、すべての k∈Nk \in N について j⪯kj \preceq k となる jj があります。この jj について、すべての kk で ak/aj∈Va_k/a_j \in V です(ak=0a_k = 0 のときは 0∈V0 \in V)。付値の言葉では、aja_j は斉次座標のうち値が最小のものです。

S(xj)S_{(x_j)} は xk/xjx_k/x_j(k≠jk \ne j)を変数とする多項式環なので、環準同型 γ ⁣:S(xj)→V\gamma\colon S_{(x_j)} \to V を γ(xk/xj)=ak/aj\gamma(x_k/x_j) = a_k/a_j で定められます。hh を Spec⁡γ ⁣:Spec⁡V→Uj\operatorname{Spec}\gamma\colon \operatorname{Spec} V \to U_j と包含 Uj⊆XU_j \subseteq X の合成とします。

h∘j=ah \circ j = a を確かめます。α(xj/xi)=aj≠0\alpha(x_j/x_i) = a_j \ne 0 は KK の単元なので、aa は UiU_i の主開集合 D(xj/xi)=Ui∩UjD(x_j/x_i) = U_i \cap U_j を経由し、環準同型 α′ ⁣:S(xixj)→K\alpha'\colon S_{(x_i x_j)} \to K に対応します。S(xixj)S_{(x_i x_j)} の中で xk/xj=(xk/xi)(xj/xi)−1x_k/x_j = (x_k/x_i)(x_j/x_i)^{-1} なので、α′(xk/xj)=ak/aj\alpha'(x_k/x_j) = a_k/a_j です。したがって aa を Spec⁡K→Uj\operatorname{Spec} K \to U_j と見たものは xk/xj↦ak/ajx_k/x_j \mapsto a_k/a_j に対応し、これは γ\gamma と包含 V⊆KV \subseteq K の合成です。よって h∘j=ah \circ j = a です。

残りの主張。 PYn→Y\mathbb{P}^n_Y \to Y は PZn→Spec⁡Z\mathbb{P}^n_{\mathbb{Z}} \to \operatorname{Spec}\mathbb{Z} の底変換なので固有です(命題 6.2 の 3)。閉はめ込みは固有で、固有射の合成は固有なので(同 1、2)、射影射は固有です。準射影射 X→X′→YX \to X' \to Y(開はめ込みと射影射の合成)を考えます。開はめ込みは分離的で(同 1)、分離射の合成は分離的なので、準射影射は分離的です。YY が局所 Noether なら、YY 上有限型の X′X' も局所 Noether です(命題 2.3[スキームの性質と射])。X′X' のアフィン開集合 Spec⁡C\operatorname{Spec} C は Noether 環の Spec⁡\operatorname{Spec} なので、その開集合 X∩Spec⁡CX \cap \operatorname{Spec} C は準コンパクトで、有限個の主開集合 Spec⁡Cg\operatorname{Spec} C_g で覆われます。CgC_g は CC 上有限型なので、開はめ込み X→X′X \to X' は有限型で、合成 X→YX \to Y も有限型です。

上の証明で「値が最小の座標で割る」操作を、小さな例で見ます。kk を体、V=k[t](t)V = k[t]_{(t)}、K=k(t)K = k(t) とし、Pk1\mathbb{P}^1_k の KK 値点 [1:t−1][1 : t^{-1}] を考えます(a0=1a_0 = 1、a1=t−1a_1 = t^{-1})。t−1∉Vt^{-1} \notin V なので a1/a0∉Va_1/a_0 \notin V で、一方 a0/a1=t∈Va_0/a_1 = t \in V ですから、値が最小の座標は a1a_1 です。そこで a1a_1 で割ると [t:1][t : 1] となり、これが Spec⁡V\operatorname{Spec} V 全体へ延びた射を与えます。閉点(t=0t = 0)の行き先は [0:1][0 : 1] です。

例 7.4(射影直線と射影平面曲線)

kk を体とします。補題 7.2 と 定理 7.3 により、Pkn→Spec⁡k\mathbb{P}^n_k \to \operatorname{Spec} k は固有です。Pk1\mathbb{P}^1_k は二つのアフィン直線 Spec⁡k[t]\operatorname{Spec} k[t]、Spec⁡k[s]\operatorname{Spec} k[s] を s=t−1s = t^{-1} で貼り合わせたもので、例 5.2 で逃げていった点は、s=0s = 0 という「無限遠点」に受け止められます。

F∈S=k[x0,x1,x2]F \in S = k[x_0, x_1, x_2] を d≥1d \ge 1 次の斉次多項式とします。全射 S→S/(F)S \to S/(F) は、各 ii について全射 S(xi)→(S/(F))(xi)S_{(x_i)} \to (S/(F))_{(x_i)} を誘導し、その核は F/xidF/x_i^d で生成されます。対応する閉はめ込み Spec⁡(S/(F))(xi)→D+(xi)\operatorname{Spec}(S/(F))_{(x_i)} \to D_{+}(x_i) は貼り合わさって閉はめ込み C=Proj⁡S/(F)→Pk2C = \operatorname{Proj} S/(F) \to \mathbb{P}^2_k を与えます。したがって射影平面曲線 CC は kk 上射影的で、固有です。たとえば F=x1x2−x02F = x_1 x_2 - x_0^2 のとき、D+(x0)D_{+}(x_0) の上では双曲線 Spec⁡k[u,v]/(uv−1)\operatorname{Spec} k[u, v]/(uv - 1)(u=x1/x0u = x_1/x_0、v=x2/x0v = x_2/x_0)で、これに x0=0x_0 = 0 上の 2 点 [0:1:0][0:1:0]、[0:0:1][0:0:1] を足したものが CC です。

8. 多様体:完備性と分離性の帰結

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定義 8.1(代数多様体・完備多様体・射影多様体)↗

kk を代数閉体とする。kk 上の代数多様体(単に多様体)とは、整・分離的・有限型な kk 上のスキームをいう。多様体の射は kk 上のスキームの射とする。Spec⁡k\operatorname{Spec} k 上固有な多様体を完備多様体、射影的な多様体を射影多様体、準射影的な多様体を準射影多様体という。

多様体は Noether スキームです。第 1 章のアフィン多様体 XX に対応する Spec⁡k[X]\operatorname{Spec} k[X] は、整域の Spec⁡\operatorname{Spec} なので整、アフィンなので分離的(命題 3.2 の 1)、k[X]k[X] が有限生成なので有限型で、この意味の多様体です(定理 7.1[アフィンスキームとスキーム])。射影多様体は 定理 7.3 により完備です。

命題 8.2(稠密な開集合で一致する射は等しい)✓

SS をスキーム、XX を被約な SS 上のスキーム、YY を SS 上分離的なスキームとする。

  1. SS 上の射 a,b ⁣:X→Ya, b\colon X \to Y が XX の稠密な開集合 UU の上で一致すれば、a=ba = b である。とくに多様体の間の二つの射が空でない開集合の上で一致すれば、それらは等しい。
  2. SS 上の射 f ⁣:X→Yf\colon X \to Y のグラフ射 Γf ⁣:X→X×SY\Gamma_f\colon X \to X \times_S Y は閉はめ込みである(この主張には XX の被約性は要らない)。
証明(命題 8.2)

(1) E=X×Y×SYYE = X \times_{Y \times_S Y} Y を (a,b)(a, b) と ΔY/S\Delta_{Y/S} のファイバー積とします。ΔY/S\Delta_{Y/S} は閉はめ込みなので、その底変換 e ⁣:E→Xe\colon E \to X は閉はめ込みです(命題 6.1[スキームの性質と射])。a∣U=b∣Ua|_U = b|_U なので、包含 U→XU \to X は ee を経由します(補題 6.1 の 4)。よって e(E)e(E) は UU を含む閉集合で、UU は稠密なので e(E)=Xe(E) = X です。XX は被約なので、補題 2.4 の後半により ee は同型です。すると id⁡X\operatorname{id}_X が ee を経由するので、補題 6.1 の 4 により a=ba = b です。多様体は整なので被約かつ既約で(命題 2.2[スキームの性質と射])、既約な空間の空でない開集合は稠密です。

(2) Γf\Gamma_f は閉はめ込み ΔY/S\Delta_{Y/S} の底変換なので(補題 6.1 の 3)、閉はめ込みです。

分離性を落とすと (1) は成り立ちません。例 3.3 の二つの包含 U1→XU_1 \to X、U2→XU_2 \to X は、Spec⁡k[t]\operatorname{Spec} k[t] から XX への射として D(t)D(t) の上で一致しますが、原点の行き先が異なります。被約性も必要です。X=Spec⁡k[x,ε]/(ε2,xε)X = \operatorname{Spec} k[x, \varepsilon]/(\varepsilon^2, x\varepsilon) から Spec⁡k[t]\operatorname{Spec} k[t] への二つの射を t↦0t \mapsto 0 と t↦εt \mapsto \varepsilon で定めると、稠密な開集合 D(x)D(x) の上では xε=0x\varepsilon = 0 から ε=0\varepsilon = 0 となるので一致しますが、二つの射は等しくありません。

定理 8.3(完備多様体の大域正則関数は定数)✓

kk を代数閉体、XX を kk 上の完備多様体とする。

  1. Γ(X,OX)=k\Gamma(X, \mathcal{O}_X) = k である。
  2. BB を kk 代数とすると、kk 上の射 X→Spec⁡BX \to \operatorname{Spec} B はすべて、ある kk 代数の準同型 B→kB \to k が定める射 Spec⁡k→Spec⁡B\operatorname{Spec} k \to \operatorname{Spec} B を経由する。とくに完備多様体からアフィン多様体への射は、像が 1 点である。
証明(定理 8.3)

(1) f∈Γ(X,OX)f \in \Gamma(X, \mathcal{O}_X) を取ります。kk 代数の準同型 k[t]→Γ(X,OX)k[t] \to \Gamma(X, \mathcal{O}_X)、t↦ft \mapsto f は kk 上の射 φ ⁣:X→Ak1=Spec⁡k[t]\varphi\colon X \to \mathbb{A}^1_k = \operatorname{Spec} k[t] に対応します(定理 3.4[アフィンスキームとスキーム])。Pk1=Proj⁡k[x0,x1]\mathbb{P}^1_k = \operatorname{Proj} k[x_0, x_1] の中で D+(x0)=Spec⁡k[x1/x0]D_{+}(x_0) = \operatorname{Spec} k[x_1/x_0] を t=x1/x0t = x_1/x_0 により Ak1\mathbb{A}^1_k と同一視し、開はめ込みを ι ⁣:Ak1→Pk1\iota\colon \mathbb{A}^1_k \to \mathbb{P}^1_k とします。

X→Spec⁡kX \to \operatorname{Spec} k は固有で、Pk1→Spec⁡k\mathbb{P}^1_k \to \operatorname{Spec} k は分離的です(定理 7.3 と 補題 7.2)。命題 6.2 の 5 により ι∘φ\iota \circ \varphi は固有、とくに閉写像で、C=ι(φ(X))C = \iota(\varphi(X)) は Pk1\mathbb{P}^1_k の閉集合です。したがって φ(X)=ι−1(C)\varphi(X) = \iota^{-1}(C) は Ak1\mathbb{A}^1_k の閉集合です。XX は既約なので φ(X)\varphi(X) も既約で、既約閉集合として φ(X)=V(p)\varphi(X) = V(\mathfrak{p})(p\mathfrak{p} は k[t]k[t] の素イデアル)と書けます(定理 4.4[局所化と素イデアルのスペクトル] の 5)。

p=(0)\mathfrak{p} = (0) ではありません。もしそうなら C=D+(x0)C = D_{+}(x_0) が Pk1\mathbb{P}^1_k の閉集合になります。ところが D+(x1)=Spec⁡k[s]D_{+}(x_1) = \operatorname{Spec} k[s](s=x0/x1s = x_0/x_1)の中で、生成点 (0)(0) は D(s)=D+(x0x1)⊆D+(x0)D(s) = D_{+}(x_0 x_1) \subseteq D_{+}(x_0) に属し、その特殊化である原点 (s)(s) は x0x_0 が消える点なので D+(x0)D_{+}(x_0) に属しません。閉集合は特殊化で閉じるので矛盾です。

k[t]k[t] は単項イデアル整域で、kk は代数閉体なので既約多項式は 1 次式です。よって p=(t−c)\mathfrak{p} = (t - c)(c∈kc \in k)で、φ(X)\varphi(X) は 1 点 (t−c)(t - c) です。すなわち、すべての x∈Xx \in X で t−c∈φ(x)t - c \in \varphi(x) で、φ\varphi が誘導する局所準同型により (f−c)x∈mx(f - c)_x \in \mathfrak{m}_x です。XX のアフィン開集合 Spec⁡B\operatorname{Spec} B の上で、(f−c)∣Spec⁡B(f - c)|_{\operatorname{Spec} B} は BB のすべての素イデアルに属するので冪零で(定理 2.6[局所化と素イデアルのスペクトル])、XX は被約なので 00 です。アフィン開集合は XX を覆うので f=cf = c です。

これで k→Γ(X,OX)k \to \Gamma(X, \mathcal{O}_X) は全射です。XX は空でないので Γ(X,OX)≠0\Gamma(X, \mathcal{O}_X) \ne 0 で、体からの環準同型として単射です。

(2) kk 上の射 X→Spec⁡BX \to \operatorname{Spec} B は kk 代数の準同型 β ⁣:B→Γ(X,OX)=k\beta\colon B \to \Gamma(X, \mathcal{O}_X) = k に対応します。β\beta は B→kB \to k と k=Γ(X,OX)k = \Gamma(X, \mathcal{O}_X) の合成なので、対応する射は X→Spec⁡k→Spec⁡BX \to \operatorname{Spec} k \to \operatorname{Spec} B と分解し、像は ker⁡β\ker\beta という 1 点です。

これは「コンパクトな連結複素多様体の上の正則関数は定数」(最大値原理)の代数版です。完備多様体は正の次元をもつかぎりアフィンではありえない、ということも分かります。アフィン多様体 Spec⁡B\operatorname{Spec} B が完備なら B=kB = k で、1 点だからです。相対的な形が次の定理です。

定理 8.4(固有かつアフィンな射は有限)✓

スキームの射 f ⁣:X→Yf\colon X \to Y が固有かつアフィンであれば、ff は有限射である。

証明(定理 8.4)

YY のアフィン開集合 Spec⁡A\operatorname{Spec} A を取ります。ff はアフィン射なので f−1(Spec⁡A)=Spec⁡Bf^{-1}(\operatorname{Spec} A) = \operatorname{Spec} B で、制限 Spec⁡B→Spec⁡A\operatorname{Spec} B \to \operatorname{Spec} A は ff の底変換なので固有です(命題 6.2 の 3)。BB が AA 上有限であることを示せば、ff は有限射です(命題 3.3[スキームの性質と射])。BB は AA 上有限型なので、BB が AA 上整であることを示せば足ります(系 2.4[整拡大] の 4)。

b∈Bb \in B を取ります。PA1=Proj⁡A[x0,x1]\mathbb{P}^1_A = \operatorname{Proj} A[x_0, x_1] の開集合を U0=D+(x0)=Spec⁡A[T]U_0 = D_{+}(x_0) = \operatorname{Spec} A[T](T=x1/x0T = x_1/x_0)、U1=D+(x1)=Spec⁡A[s]U_1 = D_{+}(x_1) = \operatorname{Spec} A[s](s=x0/x1s = x_0/x_1)とします。U0∩U1U_0 \cap U_1 は U0U_0 の中では D(T)D(T)、U1U_1 の中では D(s)D(s) で、その上で s=T−1s = T^{-1} です。AA 代数の準同型 A[T]→BA[T] \to B、T↦bT \mapsto b が定める射を φb ⁣:Spec⁡B→U0\varphi_b\colon \operatorname{Spec} B \to U_0 とし、g ⁣:Spec⁡B→PA1g\colon \operatorname{Spec} B \to \mathbb{P}^1_A を φb\varphi_b と包含の合成とします。

Spec⁡B→Spec⁡A\operatorname{Spec} B \to \operatorname{Spec} A は固有、PA1→Spec⁡A\mathbb{P}^1_A \to \operatorname{Spec} A は分離的なので(定理 7.3 と 補題 7.2)、命題 6.2 の 5 により gg は固有で、g(Spec⁡B)g(\operatorname{Spec} B) は閉集合です。

g−1(U1)=φb−1(D(T))=D(b)=Spec⁡Bbg^{-1}(U_1) = \varphi_b^{-1}(D(T)) = D(b) = \operatorname{Spec} B_b で、制限 Spec⁡Bb→U1\operatorname{Spec} B_b \to U_1 は環準同型 σ ⁣:A[s]→Bb\sigma\colon A[s] \to B_b、σ(s)=b−1\sigma(s) = b^{-1} に対応します。その像は g(Spec⁡B)∩U1g(\operatorname{Spec} B) \cap U_1 で U1U_1 の閉集合なので、補題 4.1 により V(J)V(J)(J=ker⁡σJ = \ker\sigma)に等しくなります。σ(s)=b−1\sigma(s) = b^{-1} は BbB_b の単元で、BbB_b のどの素イデアルにも属さないので、像は V(s)V(s) と交わりません。よって

V(J+sA[s])=V(J)∩V(s)=∅V(J + sA[s]) = V(J) \cap V(s) = \varnothing

で、J+sA[s]=A[s]J + sA[s] = A[s] です。すなわち p∈Jp \in J と q=∑i=0mcisi∈A[s]q = \sum_{i=0}^{m} c_i s^i \in A[s] で 1=p+sq1 = p + sq となるものがあります。σ\sigma を施すと、BbB_b の中で

1=b−1∑i=0mcib−i,したがってbm+1=∑i=0mcibm−i1 = b^{-1}\sum_{i=0}^{m} c_i b^{-i}, \qquad\text{したがって}\qquad b^{m+1} = \sum_{i=0}^{m} c_i b^{m-i}

です。局所化 BbB_b での等式なので、ある N≥0N \ge 0 について BB の中で

bN(bm+1−∑i=0mcibm−i)=0b^{N}\Bigl(b^{m+1} - \sum_{i=0}^{m} c_i b^{m-i}\Bigr) = 0

が成り立ちます。これは bb の、AA の元の像を係数とするモニックな式なので、bb は AA 上整です(定義 2.1[整拡大])。

証明の中心は「bb を P1\mathbb{P}^1 への射と見ると、固有性により像が無限遠 s=0s = 0 から離れた閉集合になる」という点です。bb が無限遠に近づけないことが、bb の整従属の式に翻訳されています。逆に有限射は固有かつアフィンなので(命題 6.2 の 6)、有限射は「固有かつアフィンな射」と特徴づけられます。

注意 8.5(射影的でない完備多様体)

射影多様体は完備ですが、逆は成り立ちません。次元 1 の完備多様体と非特異な完備曲面はすべて射影的ですが、特異点をもつ完備曲面(永田雅宜の例)と非特異な 3 次元完備多様体(広中平祐の例)には射影的でないものがあります。構成には爆発と交叉数の計算が必要で、この記事の範囲を超えます。Hartshorne の教科書の付録 B と第 II 章 §7 の演習に解説があります。完備多様体は射影多様体と双有理同値である、という形の補い(Chow の補題)も同じ本の第 II 章 §4 の演習にあります。

演習 9.1標準

kk を体とし、C=Spec⁡k[x,y]/(y2−x3)C = \operatorname{Spec} k[x, y]/(y^2 - x^3)、f ⁣:Ak1=Spec⁡k[t]→Cf\colon \mathbb{A}^1_k = \operatorname{Spec} k[t] \to C を x↦t2x \mapsto t^2、y↦t3y \mapsto t^3 が定める射とします。付値判定法を使って ff が固有であることを示してください。

解答

CC は Noether スキームで、k[t]k[t] は k[x,y]/(y2−x3)k[x, y]/(y^2 - x^3) 上 tt で生成されるので ff は有限型です。定理 5.4 を使います。付値の図式 (V,a,b)(V, a, b) を取ります。aa は環準同型 k[t]→Kk[t] \to K に対応し、τ\tau を tt の像とします。bb は環準同型 β ⁣:k[x,y]/(y2−x3)→V\beta\colon k[x, y]/(y^2 - x^3) \to V に対応し、図式の可換性は β(x)=τ2\beta(x) = \tau^2、β(y)=τ3\beta(y) = \tau^3 を意味します。

持ち上げは、環準同型 γ ⁣:k[t]→V\gamma\colon k[t] \to V で、包含 V⊆KV \subseteq K と合成すると t↦τt \mapsto \tau になるものです(このとき γ(t2)=β(x)\gamma(t^2) = \beta(x)、γ(t3)=β(y)\gamma(t^3) = \beta(y) は自動的に成り立ちます)。V→KV \to K は単射なので、持ち上げは高々一つで、τ∈V\tau \in V のときに限り存在します。τ\tau は VV 係数のモニックな式 τ2−β(x)=0\tau^2 - \beta(x) = 0 を満たすので VV 上整で、付値環は商体の中で整閉なので(命題 2.2[離散付値環と Dedekind 環] の 4)τ∈V\tau \in V です。よって持ち上げはちょうど一つ存在し、ff は固有です。

ff はアフィンでもあるので、定理 8.4 により有限射です。実際 k[t]k[t] は k[t2,t3]k[t^2, t^3] 加群として 1,t1, t で生成されます。

演習 9.2易

f ⁣:X→Yf\colon X \to Y を有限射とします。ff に対するどの付値の図式にも持ち上げがちょうど一つ存在することを、定理 5.4 を使わずに直接示してください。

解答

付値の図式 (V,a,b)(V, a, b) を取ります。bb による閉点の像のアフィン開近傍 Spec⁡A⊆Y\operatorname{Spec} A \subseteq Y を取ると、その逆像は閉点を含む Spec⁡V\operatorname{Spec} V の開集合です。Spec⁡V\operatorname{Spec} V のどの点も閉点へ特殊化するので、閉点を含む開集合は全体で、bb は Spec⁡A\operatorname{Spec} A を経由します。f−1(Spec⁡A)=Spec⁡Bf^{-1}(\operatorname{Spec} A) = \operatorname{Spec} B で BB は AA 上有限です。bb に対応する準同型を β ⁣:A→V\beta\colon A \to V、aa に対応する準同型を α ⁣:B→K\alpha\colon B \to K とします(f∘a=b∘jf \circ a = b \circ j から aa は Spec⁡B\operatorname{Spec} B を経由し、α\alpha と A→BA \to B の合成は β\beta と包含の合成です)。

BB は AA 上整なので(系 2.4[整拡大] の 4)、α(B)\alpha(B) の元は β(A)⊆V\beta(A) \subseteq V の元を係数とするモニックな式を満たし、VV 上整です。VV は KK の中で整閉なので α(B)⊆V\alpha(B) \subseteq V です。α\alpha を B→VB \to V と見たものが持ち上げを与えます。持ち上げ hh はやはり Spec⁡B\operatorname{Spec} B を経由し、対応する準同型 B→VB \to V は包含 V⊆KV \subseteq K と合成して α\alpha になるものなので、一つしかありません。

演習 9.3標準

kk を体、n≥1n \ge 1 とします。貼り合わせの記述から直接 Γ(Pkn,O)=k\Gamma(\mathbb{P}^n_k, \mathcal{O}) = k を示し、kk 上の射 Pkn→Spec⁡B\mathbb{P}^n_k \to \operatorname{Spec} B(BB は kk 代数)の像が 1 点であることを導いてください。

解答

S=k[x0,…,xn]S = k[x_0, \ldots, x_n] とします。大域切断は、si∈S(xi)s_i \in S_{(x_i)} の組で、S(xixj)S_{(x_i x_j)} の中で si=sjs_i = s_j となるものです。SS は整域なので、これらの環はすべて Frac⁡S\operatorname{Frac} S の部分環で、大域切断は ⋂iS(xi)\bigcap_i S_{(x_i)} の元 ss と同じものです。

s=F/x0a=G/x1bs = F/x_0^a = G/x_1^b(FF は aa 次、GG は bb 次の斉次多項式)と書くと、Fx1b=Gx0aF x_1^b = G x_0^a です。SS は一意分解整域で(定理 3.5[多項式環と体の拡大])、x0x_0 と x1x_1 は互いに同伴でない素元なので、x0ax_0^a は FF を割ります。FF は aa 次なので F=cx0aF = c x_0^a(c∈kc \in k)で、s=cs = c です。よって Γ(Pkn,O)=k\Gamma(\mathbb{P}^n_k, \mathcal{O}) = k です。

kk 上の射 Pkn→Spec⁡B\mathbb{P}^n_k \to \operatorname{Spec} B は kk 代数の準同型 B→Γ(Pkn,O)=kB \to \Gamma(\mathbb{P}^n_k, \mathcal{O}) = k に対応するので(定理 3.4[アフィンスキームとスキーム])、Spec⁡k→Spec⁡B\operatorname{Spec} k \to \operatorname{Spec} B を経由し、像は 1 点です。kk が代数閉体のときは 定理 8.3 の特別な場合ですが、この計算は任意の体で通ります。

演習 9.4難

kk を体とします。Pk1×kPk1\mathbb{P}^1_k \times_k \mathbb{P}^1_k から Pk3=Proj⁡k[z00,z01,z10,z11]\mathbb{P}^3_k = \operatorname{Proj} k[z_{00}, z_{01}, z_{10}, z_{11}] への閉はめ込み(Segre 埋め込み)を、斉次座標で zij=xiyjz_{ij} = x_i y_j となるように構成してください。これにより積 Pk1×kPk1\mathbb{P}^1_k \times_k \mathbb{P}^1_k は kk 上射影的です。

解答

二つの Pk1\mathbb{P}^1_k の斉次座標を x0,x1x_0, x_1 と y0,y1y_0, y_1 とし、Ui=D+(xi)U_i = D_{+}(x_i)、Vj=D+(yj)V_j = D_{+}(y_j)、Wij=D+(zij)W_{ij} = D_{+}(z_{ij}) とします。Ui×kVj=Spec⁡(k[x1−i/xi]⊗kk[y1−j/yj])U_i \times_k V_j = \operatorname{Spec}\bigl(k[x_{1-i}/x_i] \otimes_k k[y_{1-j}/y_j]\bigr) は積の開被覆です。環準同型

σij ⁣:k[zklzij]k,l⟶k[x1−ixi]⊗kk[y1−jyj],zklzij⟼xkxi⊗ylyj\sigma_{ij}\colon k\Bigl[\frac{z_{kl}}{z_{ij}}\Bigr]_{k, l} \longrightarrow k\Bigl[\frac{x_{1-i}}{x_i}\Bigr] \otimes_k k\Bigl[\frac{y_{1-j}}{y_j}\Bigr], \qquad \frac{z_{kl}}{z_{ij}} \longmapsto \frac{x_k}{x_i} \otimes \frac{y_l}{y_j}

を取ります(左辺は 3 変数多項式環なので、変数の行き先を決めれば定まります)。σij\sigma_{ij} は全射です。z1−i,j/zij↦x1−i/xi⊗1z_{1-i, j}/z_{ij} \mapsto x_{1-i}/x_i \otimes 1、zi,1−j/zij↦1⊗y1−j/yjz_{i, 1-j}/z_{ij} \mapsto 1 \otimes y_{1-j}/y_j だからです。よって Spec⁡σij ⁣:Ui×kVj→Wij\operatorname{Spec}\sigma_{ij}\colon U_i \times_k V_j \to W_{ij} は閉はめ込みです。

貼り合わせを確かめます。(Ui×Vj)∩(Ui′×Vj′)(U_i \times V_j) \cap (U_{i'} \times V_{j'}) は Ui×VjU_i \times V_j の主開集合 D((xi′/xi)⊗(yj′/yj))=D(σij(zi′j′/zij))D\bigl((x_{i'}/x_i) \otimes (y_{j'}/y_j)\bigr) = D(\sigma_{ij}(z_{i'j'}/z_{ij})) で、その上で Spec⁡σij\operatorname{Spec}\sigma_{ij} と Spec⁡σi′j′\operatorname{Spec}\sigma_{i'j'} は、どちらも Wij∩Wi′j′W_{ij} \cap W_{i'j'} への射で、zkl/zij=(zkl/zi′j′)(zij/zi′j′)−1z_{kl}/z_{ij} = (z_{kl}/z_{i'j'})(z_{ij}/z_{i'j'})^{-1} を (xk/xi)⊗(yl/yj)(x_k/x_i) \otimes (y_l/y_j) に写す環準同型に対応するので一致します。貼り合わせて射 σ ⁣:Pk1×kPk1→Pk3\sigma\colon \mathbb{P}^1_k \times_k \mathbb{P}^1_k \to \mathbb{P}^3_k を得ます。

同じ計算から σ−1(Wij)=Ui×kVj\sigma^{-1}(W_{ij}) = U_i \times_k V_j です。Ui′×Vj′U_{i'} \times V_{j'} の点で像が WijW_{ij} に入るものの全体は D(σi′j′(zij/zi′j′))D(\sigma_{i'j'}(z_{ij}/z_{i'j'})) で、これは Ui×VjU_i \times V_j に含まれるからです。WijW_{ij} は Pk3\mathbb{P}^3_k を覆い、その上で σ\sigma は閉はめ込みなので、σ\sigma は閉はめ込みです。Pk3→Spec⁡k\mathbb{P}^3_k \to \operatorname{Spec} k と合成して、積は射影的です。

ker⁡σij\ker\sigma_{ij} は、u=z1−i,j/ziju = z_{1-i,j}/z_{ij}、v=zi,1−j/zijv = z_{i,1-j}/z_{ij}、w=z1−i,1−j/zijw = z_{1-i,1-j}/z_{ij} と書くと uv−wuv - w で生成されます(k[u,v,w]/(uv−w)≅k[u,v]k[u, v, w]/(uv - w) \cong k[u, v])。したがって像は 2 次曲面 V+(z00z11−z01z10)V_{+}(z_{00}z_{11} - z_{01}z_{10}) です。

  • R. Hartshorne, Algebraic Geometry, Graduate Texts in Mathematics 52, Springer, 1977 — 第 II 章 §4(分離射・固有射・付値判定法)、付録 B(射影的でない完備多様体)。
  • A. Grothendieck, J. Dieudonné, “Éléments de géométrie algébrique II. Étude globale élémentaire de quelques classes de morphismes”, Publications Mathématiques de l’IHÉS 8 (1961) — §5(射影射・固有射)、§7(付値判定法)。
  • U. Görtz, T. Wedhorn, Algebraic Geometry I: Schemes, Vieweg+Teubner, 2010 — 第 9 章(分離射)、第 12 章(アフィン射と固有射)、第 13 章(射影射)。
  • Q. Liu, Algebraic Geometry and Arithmetic Curves, Oxford Graduate Texts in Mathematics 6, Oxford University Press, 2002 — 第 3 章 §3(分離射・固有射・射影射)。
  • The Stacks Project Authors, The Stacks Project — Schemes の章(分離射と付値判定法)、Morphisms of Schemes の章(固有射、整な射と普遍閉の関係)。
  • D. Mumford, The Red Book of Varieties and Schemes, Lecture Notes in Mathematics 1358, Springer, 1988 — 第 II 章(分離性と固有性を、古典的な多様体の言葉と対比して説明している)。

このテーマの 100 本ノック(50 問)

執筆: Claude Code(Opus 5.5)、Claude Code(Sonnet 5.5)・監査 2 回(Claude Code)・最終 2026-10-12

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