高校の微分では「f′(x)>0 の区間ではグラフが右上がり」「f′′(x)>0 ならグラフは下に膨らむ」と習い、増減表を書けばグラフが描けました。この記事は、そうなる理由を、定義から順に確かめます。たとえば「ex のグラフはその接線より必ず上にある」「3 次関数のグラフは真ん中の点に関して点対称になる」「方程式の解は何個あるか」といった、図を見て納得していた事実を、証明つきで言えるようになります。
- 高校の微分法は、公式を覚えて計算し、増減表でグラフを描く科目です。この記事は、その公式と増減表がなぜ正しいかを、大学の微分積分学の定理(平均値の定理・陰関数定理・テイラーの定理)を指しながら整理します。
- 指数関数・対数関数・三角関数は前の記事(指数・対数・三角関数をきちんと定義する)で級数から定義しました。この記事では、その定義から (xα)′=αxα−1、(ax)′=axloga、(log∣x∣)′=1/x を導き、対数微分法と陰関数の微分の根拠を示します。
- 関数の凹凸と第 2 次導関数の符号の関係を、平均値の定理から証明します。そこから「接線は凸関数のグラフの下にある」という、不等式の証明に強力な事実も出ます。
- 漸近線・3 次関数のグラフ(変曲点に関する点対称)・方程式の実数解の個数・定数分離を、グラフの増減と中間値の定理から証明します。
- 平均値の定理による評価、一般二項定理 (1+x)α=∑(kα)xk(∣x∣<1)、累乗の塔 xxx⋯ が収束する範囲 e−e≤x≤e1/e も、証明します。
高校の微分法の使い方は、次の流れです。
- f(x)=xn、sinx、ex などの導関数を覚える。
- 積・商・合成の規則で、複雑な関数の導関数を求める。
- f′(x) の符号から増減表を作り、f′′(x) の符号から凹凸を調べ、グラフの概形を描く。
- グラフから、方程式の解の個数や不等式の成り立つ範囲を読み取る。
どの段も、使っている事実が「なぜ正しいか」は大学の微分積分学にあります。たとえば 3 の「導関数が正なら増加する」は平均値の定理の帰結(系 3.4[平均値の定理とテイラーの定理])です。ところが、「f′′>0 なら下に凸」はどうでしょうか。「下に凸」を定義から言い換えて確かめている教科書は少なく、「グラフの形から明らか」で済ませることが多いのです。この記事では、そのような「図から明らか」の部分を、定義から証明します。
使う根の定理は次のとおりです。いずれも大学の記事で証明されています。
前の記事で exp′=exp(定理 3.3[指数・対数・三角関数をきちんと定義する])、log′(x)=1/x(定理 4.2[指数・対数・三角関数をきちんと定義する])、sin′=cos、cos′=−sin(定理 6.2[指数・対数・三角関数をきちんと定義する])を証明しました。これらを土台に、高校で使う導関数の公式を揃えます。
命題 2.1(基本関数の導関数)✓
- 整数 n について (xn)′=nxn−1(n<0 のときは x=0)。
- 実数 α について、x>0 で (xα)′=αxα−1。
- a>0 について (ax)′=axloga(x∈R)。
- x=0 で (log∣x∣)′=x1。a>0、a=1 について、x>0 で (logax)′=xloga1。
- cosx=0 で (tanx)′=cos2x1。
証明(命題 2.1)
(1) n≥1 は 補題 3.2[指数・対数・三角関数をきちんと定義する]、n=0 は定数、n<0 は xn=1/x−n に商の法則(定理 6.1[導関数の定義と基本的な微分法])を使って (1/xm)′=−mxm−1/x2m=−mx−m−1(m=−n)。
(2) x>0 で xα=exp(αlogx)(定理 4.3[指数・対数・三角関数をきちんと定義する])です。連鎖律(定理 7.2[導関数の定義と基本的な微分法])より (xα)′=exp(αlogx)⋅xα=xα⋅x−1α=αxα−1(指数法則 定理 4.2[指数関数と対数関数] (1))です。
(3) ax=exp(xloga) を連鎖律で微分して loga⋅exp(xloga)=axloga です。
(4) x>0 は 定理 4.2[指数・対数・三角関数をきちんと定義する] (4)。x<0 では log∣x∣=log(−x) で、連鎖律から −x1⋅(−1)=x1 です。底の変換(定理 5.4[指数関数と対数関数])から logax=logalogx なので、(logax)′=xloga1 です。ここで、指数法則の記事の「底が e の対数」は、前の記事の log と同じ関数です(ex=exp(xloge)=expx による)。
(5) 補題 9.1[指数・対数・三角関数をきちんと定義する] (3) です。
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命題 2.2(対数微分法)✓
開区間 I 上で f,g は微分可能とし、f>0 とする。
- (logf)′=ff′。
- fg=exp(glogf) は微分可能で、(fg)′=fg(g′logf+fgf′)。
証明(命題 2.2)
(1) 連鎖律と log′(y)=1/y です。(2) fg=exp(glogf)(定理 4.3[指数・対数・三角関数をきちんと定義する])を、連鎖律・積の法則・(1) で微分します:(fg)′=exp(glogf)⋅(g′logf+g(logf)′)=fg(g′logf+fgf′)。
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例 2.3(xx の導関数)
x>0 で f(x)=xx とすると、命題 2.2 で f=g=x、f′=g′=1 として (xx)′=xx(logx+1) です。f′(x)=0 となるのは logx=−1、すなわち x=1/e だけで、f は (0,1/e] で減少、[1/e,∞) で増加します(系 3.4[平均値の定理とテイラーの定理] (3))。したがって f の最小値は f(1/e)=e−1/e です。
円 x2+y2=1 の上半分は y=1−x2 と書けますが、y を x の式で解けない曲線 F(x,y)=0 も、局所的にはグラフ y=g(x) になることがあります。その導関数を、y を解かずに求める方法が陰関数の微分です。
次の命題の主張には、高校では出てこない言葉が並びます。開集合は、平面の部分集合で、その各点のまわりに小さな円板がまるごと入っているもの(境界を含まない領域)のことです。偏導関数 Fx,Fy は、F(x,y) の一方の変数だけを動かし、他方を固定して微分したものです(F=x2+xy+y2−3 なら Fx=2x+y)。C1 級は、偏導関数がすべて存在して連続であることです。要するに、F がなめらかで y 方向に変化している点では、曲線は局所的に y=g(x) と書け、傾きは −Fx/Fy になる、というのが主張です。
命題 2.4(陰関数の微分)✓
Ω⊆R2 を開集合、F:Ω→R を C1 級とし、F(a,b)=0、∂y∂F(a,b)=0 とする。このとき a を含む開区間 X と C1 級関数 g:X→R が存在して、g(a)=b、F(x,g(x))=0(x∈X)であり、
g′(x)=−Fy(x,g(x))Fx(x,g(x))である(Fx,Fy は偏導関数)。
証明(命題 2.4)
陰関数定理(定理 5.1[逆関数定理・陰関数定理と条件付き極値])で n=m=1 とした場合です。y に関する偏微分の 1×1 行列 Fy(a,b) が正則(=0)なので、a の近傍 X、b の近傍 Y、C1 級の g:X→Y があって、X×Y の中の F=0 の点は (x,g(x)) だけ、g(a)=b、そして Dg(x)=−(DyF)−1DxF、すなわち上の式です。
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例 2.5(x2+ xy +y2=3 の接線)
点 (1,1) は F(x,y)=x2+xy+y2−3=0 を満たします。Fx=2x+y、Fy=x+2y で、Fy(1,1)=3=0 なので 命題 2.4 から g′(1)=−33=−1、接線は y−1=−(x−1)、すなわち y=−x+2 です。
定義 2.6(接線・法線)↗
f が a で微分可能であるとき、直線 y=f(a)+f′(a)(x−a) を、点 (a,f(a)) における y=f(x) の接線という。f′(a)=0 のとき、この点で接線に垂直な直線 y=f(a)−f′(a)1(x−a) を法線という。
接線は、微分可能性の定義そのものから、「a の近くで f を最もよく近似する 1 次関数のグラフ」です(定理 4.1[導関数の定義と基本的な微分法])。
例 2.7(原点を通る log x の接線)
y=logx の点 (a,loga) での接線は y=loga+a1(x−a) で、原点を通る条件は 0=loga−1、すなわち loga=1、a=e です。接線は y=x/e です。
以下で「狭義単調増加」は、x<y ならつねに f(x)<f(y) となること(等号を許さない増加)、「狭義単調減少」はその逆向きのことです。
関数の増減表の根拠は、導関数の符号と単調性(系 3.4[平均値の定理とテイラーの定理])です。それを使って、「f′ の符号が + から − に変わる点で極大」を証明します。
命題 3.1(極値の判定(増減表の根拠))✓
f を開区間 I 上微分可能とし、a∈I、δ>0、(a−δ,a+δ)⊆I とする。
- (a−δ,a) で f′>0、(a,a+δ) で f′<0 ならば、0<∣x−a∣<δ で f(x)<f(a) である(a で極大)。
- (a−δ,a) で f′<0、(a,a+δ) で f′>0 ならば、0<∣x−a∣<δ で f(x)>f(a) である(a で極小)。
証明(命題 3.1)
(1) のみ示します((2) は −f に使う)。f は微分可能なので連続で、(a−δ,a) で f′>0 だから、(a−δ,a] 上で f は狭義単調増加です(系 3.4[平均値の定理とテイラーの定理] (3)。区間 (a−δ,a] の内部で f′>0、端点 a では連続)。よって x∈(a−δ,a) で f(x)<f(a)。同様に [a,a+δ) 上で狭義単調減少なので、x∈(a,a+δ) で f(x)<f(a) です。
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「下に凸」とは、グラフ上の 2 点を結ぶ線分が、グラフの上にある(グラフより下に来ない)ことです。式で書くと次のとおりです。
定義 4.1(区間上の凸関数)↗
I を区間とする。f:I→R が凸(下に凸)であるとは、すべての x,y∈I と 0≤λ≤1 について
f((1−λ)x+λy)≤(1−λ)f(x)+λf(y)が成り立つことをいう。−f が凸であるとき、f は凹(上に凸)であるという。
下に凸のグラフ上の 3 点 X, Z, Y(x < z < y)。線分 XZ、XY、ZY の傾きは、この順に大きくなる(点線が XY)。
これは実解析の凸関数の定義(定義 2.1[凸解析])の、1 変数・区間上の場合です。次の補題は、その言い換えです。
補題の主張は、図の 3 点 X、Z、Y について、線分 XZ、XY、ZY の傾きが左から右へ大きくなる、ということです(図では傾きが 3,5,6)。「グラフが下に曲がっていく」ことを、傾きの大小で言い直したものです。証明では、z が x から y へ向かう途中のどのあたりにあるかを λ(0 から 1 までの割合)で表し、定義の不等式をそのまま使います。
補題 4.2(傾きの不等式)✓
f:I→R が凸ならば、x<z<y(x,y,z∈I)に対し
z−xf(z)−f(x)≤y−xf(y)−f(x)≤y−zf(y)−f(z)が成り立つ。
証明(補題 4.2)
λ=y−xz−x∈(0,1) とおくと z=(1−λ)x+λy で、凸性から f(z)≤(1−λ)f(x)+λf(y)、すなわち f(z)−f(x)≤λ(f(y)−f(x)) です。両辺を z−x=λ(y−x)>0 で割ると第 1 の不等式です。また f(y)−f(z)≥f(y)−(1−λ)f(x)−λf(y)=(1−λ)(f(y)−f(x)) で、y−z=(1−λ)(y−x)>0 で割ると第 2 の不等式です。
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この節の定理は、高校で使ってきた「f′′≥0 なら下に凸」を、定義(定義 4.1)から証明するものです。流れは、f′′≥0 から f′ が増加し、平均値の定理で傾きを比べて凸の定義の不等式を得る、という順です。逆向きには、上の傾きの不等式で z を端点に近づけ、極限を取ります。
定理 4.3(凹凸と第 2 次導関数)✓
f を開区間 I 上で 2 回微分可能な関数とする。次の 3 条件は同値である。
- f は I 上で凸である。
- f′ は I 上で単調に増加する(x<y⇒f′(x)≤f′(y))。
- I 上で f′′≥0。
証明(定理 4.3)
(2) と (3) の同値。 f′ に 系 3.4[平均値の定理とテイラーの定理] (2) を使うだけです。
(2) ならば (1). x<z<y とします。平均値の定理(定理 3.3[平均値の定理とテイラーの定理])から z−xf(z)−f(x)=f′(ξ1)、y−zf(y)−f(z)=f′(ξ2)(x<ξ1<z<ξ2<y)で、f′ は増加なので f′(ξ1)≤f′(ξ2) です。すなわち (f(z)−f(x))(y−z)≤(f(y)−f(z))(z−x)。整理して f(z)(y−x)≤f(x)(y−z)+f(y)(z−x)、λ=y−xz−x とおけば f(z)≤(1−λ)f(x)+λf(y)(z=(1−λ)x+λy)で、凸性です(λ=0,1 は自明)。
(1) ならば (2). x<y とし、x<z<y に 補題 4.2 を使うと z−xf(z)−f(x)≤y−xf(y)−f(x) です。z→x(z>x)の極限を取ると(数列 zn→x で考える。命題 2.2[数列と関数の極限] (5))、f′(x)≤y−xf(y)−f(x)。同様に y−xf(y)−f(x)≤y−zf(y)−f(z) で z→y(z<y)として y−xf(y)−f(x)≤f′(y) です(極限の大小。命題 2.2[数列と関数の極限] (5))。よって f′(x)≤f′(y) です。
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とくに、f′′>0 ならば f′ は狭義単調増加です。区間の中で f′′ の符号が変わる点が変曲点です(凸から凹へ、あるいは凹から凸へ変わる点)。
系 4.4(凸関数のグラフは接線の上にある)✓
f が開区間 I 上で微分可能な凸関数ならば、すべての a,x∈I に対し f(x)≥f(a)+f′(a)(x−a) である。
証明(系 4.4)
補題 4.2 を使います。x>a のとき、a<z<x に補題を適用すると z−af(z)−f(a)≤x−af(x)−f(a) で、z→a(z>a)とすると f′(a)≤x−af(x)−f(a) です(極限の大小。命題 2.2[数列と関数の極限] (5))。よって f(x)≥f(a)+f′(a)(x−a) です。x<a のとき、x<z<a に補題を適用すると a−xf(a)−f(x)≤a−zf(a)−f(z) で、z→a(z<a)とすると a−xf(a)−f(x)≤f′(a)、すなわち f(a)−f(x)≤f′(a)(a−x) で、f(x)≥f(a)+f′(a)(x−a) です。x=a は等号です。
∎
例 4.5(接線の不等式 ex≥1+x、log x ≤ x − 1)
exp′′=exp>0 なので exp は凸で、a=0 での接線 y=1+x について ex≥1+x(すべての実数 x)です。log′′(x)=−1/x2<0 なので log は凹で、a=1 での接線 y=x−1 について logx≤x−1(x>0)です。どちらも接点では等号が成り立ちます。
増減表を書かなくても、f′(a)=0 となる点で f′′(a) の符号を見るだけで極大・極小がわかることがあります。その根拠は、f′′(a) が f′ の微分係数なので、f′′(a)>0 なら a の近くで f′ の符号が − から + に変わる、ということです。
命題 4.6(第 2 次導関数による極値の判定)✓
f を開区間 I 上微分可能とし、a∈I で f′(a)=0、かつ f′ が a で微分可能であるとする。
- f′′(a)>0 ならば、ある δ>0 が存在して 0<∣x−a∣<δ で f(x)>f(a) である(a で極小)。
- f′′(a)<0 ならば、ある δ>0 が存在して 0<∣x−a∣<δ で f(x)<f(a) である(a で極大)。
証明(命題 4.6)
(1) を示します((2) は −f に (1) を使う)。f′′(a) は f′ の a における微分係数(定義 3.1[導関数の定義と基本的な微分法])で、f′(a)=0 なので
f′′(a)=x→alimx−af′(x)−f′(a)=x→alimx−af′(x)です。極限の定義で ε=f′′(a)/2>0 とすると、ある δ>0 があって (a−δ,a+δ)⊆I かつ、0<∣x−a∣<δ で x−af′(x)−f′′(a)<2f′′(a)、とくに x−af′(x)>2f′′(a)>0 です。したがって x∈(a−δ,a) では x−a<0 なので f′(x)<0、x∈(a,a+δ) では f′(x)>0 です。命題 3.1 (2) より、0<∣x−a∣<δ で f(x)>f(a) です。
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f′′ が a の近くで連続なら、f′′(a)>0 から a のある開区間で f′′>0 となり、定理 4.3 によりそこで f は凸、系 4.4 により f(x)≥f(a)+f′(a)(x−a)=f(a) です。上の命題は、f′′ の連続性を仮定せずに、しかも狭義の不等式を出しています。多変数では、f′′(a) の代わりにヘッセ行列(2 階の偏導関数を並べた行列)の固有値の符号を見ます(定理 9.13[多変数関数の微分と偏微分])。
f′′(a)=0 のときは、この判定では何もわかりません。f(x)=x3 は f′(0)=f′′(0)=0 で、0 で極値をとりません(狭義単調増加)。f(x)=x4 も f′(0)=f′′(0)=0 ですが、0 で極小です(−x4 なら極大)。このときは 命題 3.1 のように f′ の符号の変化を直接調べます。
グラフの概形を描くとき、x→∞ で曲線が直線に限りなく近づくなら、その直線は漸近線です。
漸近線を調べる前に、指数関数と多項式の増え方の比較を示します。これは、xe−x のようなグラフの概形を描くときに必ず使う事実です。
命題 5.1(指数関数の増加の速さ)✓
- 整数 k≥0 について、x>0 で 0<xke−x≤x(k+1)!。とくに x→∞limxke−x=0。
- x→∞limxlogx=0、x→0x>0limxlogx=0(定義域を (0,∞) とした x→0 の極限)。
証明(命題 5.1)
(1) x≥0 で expx=∑jxj/j! の項はすべて 0 以上なので、j=k+1 の項だけを残して ex≥(k+1)!xk+1 です。e−x=1/ex(定理 3.3[指数・対数・三角関数をきちんと定義する] (2))から xke−x≤x(k+1)! です。ε>0 に対し M=(k+1)!/ε とすれば、x>M で 0<xke−x<ε です(定義 6.2[数列と関数の極限])。
(2) ε>0 に対し、(1) の k=1 から M があって t>M ならば te−t<ε です。x>eM ならば t=logx>M(log は単調増加)で、x=et なので xlogx=te−t<ε です。また 0<x<e−M ならば t=−logx>M で、x=e−t なので ∣xlogx∣=te−t<ε です。
∎
命題 5.2(漸近線の求め方)✓
f を区間 [c,∞) 上の関数とし、a,b を実数とする。次の 2 条件は同値である。
- x→∞lim(f(x)−ax−b)=0(直線 y=ax+b が漸近線)。
- x→∞limxf(x)=a かつ x→∞lim(f(x)−ax)=b。
証明(命題 5.2)
(1) ならば (2). xn→∞ を任意にとります。εn=f(xn)−axn−b は 命題 6.3[数列と関数の極限] から 0 に収束し、また 1/xn→0(ε>0 に対し xn>1/ε となる番号から先)です。したがって xnf(xn)=a+xnb+xnεn→a、f(xn)−axn=b+εn→b(命題 2.2[数列と関数の極限] (3))です。数列は任意なので、同じ命題で関数の極限が従います。(2) ならば (1). 差の極限 b−b=0 です。
∎
実際の求め方は (2) の順です。まず a=limf(x)/x を求め、次に b=lim(f(x)−ax) を求めます。a や b が存在しなければ、その向きの漸近線はありません。x→−∞ も同様です。
例 5.3(有理関数の漸近線)
x>1 で f(x)=x−1x2+1 とすると、f(x)−(x+1)=x−1x2+1−(x2−1)=x−12→0 です。命題 5.2 (1) から y=x+1 が漸近線です(a=1、b=1)。また x→1+ では、分子が x2+1≥2 なので f(x)≥x−12→∞ で、x=1 も(縦の)漸近線です。
例 5.4(xe−x の水平な漸近線)
f(x)=xe−x は、命題 5.1 (1) の k=1 から limx→∞f(x)=0 なので、y=0 が x→∞ での漸近線です。f′(x)=(1−x)e−x から、f は x=1 で最大値 e−1 を取り、(−∞,1] で増加、[1,∞) で減少します。f(0)=0 で、x<0 では f(x)<0 です。
3 次関数のグラフが、変曲点に関して点対称であること、極値の有無が判別式 b2−3ac で決まることを証明します。a>0 とするのは一般性を失いません(a<0 なら −f を考えます)。
補題 6.1(3 次関数の両端の挙動)✓
f(x)=ax3+bx2+cx+d(a>0)とする。任意の K に対しある M があって、x≥M ならば f(x)>K、x≤−M ならば f(x)<−K である。
証明(補題 6.1)
s=∣b∣+∣c∣+∣d∣ とおく。∣x∣≥1 で ∣bx2+cx+d∣≤sx2 で、∣x∣≥2s/a ならば sx2≤2a∣x∣3 です。したがって ∣x∣≥M0=max(1,a2s) で ∣f(x)−ax3∣≤2a∣x∣3、すなわち x≥M0 で f(x)≥2ax3、x≤−M0 で f(x)≤2ax3(負)です。K が与えられたとき M≥M0 を 2aM3>∣K∣ となるように取れば、主張が成り立ちます。
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定理 6.2(3 次関数のグラフ)✓
f(x)=ax3+bx2+cx+d(a>0)とし、x0=−3ab、D=b2−3ac とする。
- すべての h に対して f(x0+h)+f(x0−h)=2f(x0)。すなわちグラフは点 (x0,f(x0)) に関して点対称である。f′′(x)<0(x<x0)、f′′(x)>0(x>x0)で、x0 は変曲点である。
- D>0 のとき、α=3a−b−D<β=3a−b+D とおくと f′(x)=3a(x−α)(x−β) で、f は (−∞,α] で狭義単調増加、[α,β] で狭義単調減少、[β,∞) で狭義単調増加である。f(α) は極大値、f(β) は極小値である。
- D≤0 のとき、f は R 上で狭義単調増加である(極値を持たない)。
証明(定理 6.2)
(1) 展開すると
f(x0+h)=ah3+(3ax0+b)h2+(3ax02+2bx0+c)h+f(x0)で、3ax0+b=0 より h2 の係数は 0、h の係数は f′(x0) です。したがって f(x0+h)−f(x0)=ah3+f′(x0)h は h の奇関数で、f(x0+h)+f(x0−h)=2f(x0) です。また f′′(x)=6ax+2b=6a(x−x0) です。
(2)(3) f′(x)=3ax2+2bx+c=3a(x−x0)2−3aD と平方完成できます。D>0 のとき、f′ の 2 つの零点は x0±3aD、すなわち α,β で、f′=3a(x−α)(x−β) です。したがって f′>0(x<α または x>β)、f′<0(α<x<β)で、単調性は 系 3.4[平均値の定理とテイラーの定理] (3) から従います。極大・極小は 命題 3.1 です。D≤0 のとき、f′(x)≥0 で、f′(x)=0 となる x は(D=0 のときの x0 以外)ありません。f は連続で単調増加(系 3.4[平均値の定理とテイラーの定理] (2))であり、x<y で f(x)=f(y) とすると [x,y] 上で定数となって f′=0 が区間で成り立つことになり矛盾なので、狭義単調増加です。
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グラフの増減がわかれば、方程式 f(x)=k の解の個数が数えられます。その根拠は次のとおりです。
定理 7.1(単調な区間ごとの解の個数)✓
−∞≤p0<p1<⋯<pm≤+∞ とし、Ii={x∈R: pi−1≤x≤pi}(i=1,…,m)、I=I1∪⋯∪Im とする。内側の分点 p1,…,pm−1 は区間に含める。両端 p0,pm が有限のとき、そこで f が定義されていなければ(たとえば 1/x の x=0)、その端点は除いて I1,Im を考える。f が I で連続で、各 Ii で狭義単調であるとする。このとき、実数 k について
#{x∈I:f(x)=k}=#{i: k∈f(Ii)}−#{i∈{1,…,m−1}: f(pi)=k}である。ここで f(Ii) は Ii での値域であり、連続で狭義単調な関数の値域は端点の値(または ±∞ への極限)で挟まれた区間である。
証明(定理 7.1)
各 Ii で f は狭義単調なので単射で、f(x)=k の解は高々 1 つです。k∈f(Ii) なら(定義から)ちょうど 1 つあります。I 全体の解の個数は、各 Ii の解の個数を足して、2 つの区間に重複して数えられた解を引いたものです。区間 Ii と Ii+1 が共有する点は pi だけなので、重複して数えられるのは、f(pi)=k となる分点 pi が解であるときで、そのときだけ 1 回引けばよいのです。値域が端点の値で挟まれた区間であることは、中間値の定理(定理 5.7[極限と連続性])と単調性から従います。
∎
系 7.2(3 次方程式の実数解の個数)✓
f(x)=ax3+bx2+cx+d(a>0)とし、D=b2−3ac とする。f(x)=0 の相異なる実数解の個数は次のとおりである。
- D≤0 のとき 1 個。
- D>0 のとき(極大値 f(α)、極小値 f(β)。定理 6.2):f(α)>0>f(β) なら 3 個、f(α)f(β)=0 なら 2 個(片方は重解)、f(α)<0 または f(β)>0 なら 1 個。
証明(系 7.2)
D≤0 のとき f は R で狭義単調増加で、補題 6.1 と中間値の定理から値域は R なので、f(x)=0 はちょうど 1 つ解を持ちます。D>0 のとき、I1=(−∞,α]、I2=[α,β]、I3=[β,∞) に 定理 7.1 を使います。値域は 補題 6.1 から f(I1)=(−∞,f(α)]、f(I2)=[f(β),f(α)](f(α)>f(β))、f(I3)=[f(β),∞) です。k=0 について、(i) f(α)>0>f(β) のとき 0 は 3 つの値域すべてに入り、分点 α,β での値は 0 でないので 3 個。(ii) f(α)=0(このとき f(β)<0)のとき、3 つとも入り、分点 α が解なので 3−1=2 個。f(β)=0(f(α)>0)のときも同様に 2 個。(iii) f(α)<0 のとき f(β)<f(α)<0 で、0 が入るのは f(I3) だけ、f(β)>0 のとき f(α)>f(β)>0 で入るのは f(I1) だけなので、どちらも 1 個です。
∎
例 7.3(3 次方程式の解の個数)
x3−3x+1=0:a=1、b=0、c=−3、D=9>0、α=−1、β=1。f(−1)=3>0>f(1)=−1 なので、相異なる実数解は 3 個です(極限と連続性の記事 の 3 次方程式の例と同じ結論)。x3−3x+2=0:f(−1)=4、f(1)=0 なので 2 個で、実際 x3−3x+2=(x−1)2(x+2) です。
「f(x)=k の解の個数」を、グラフ y=f(x) と水平線 y=k の交点の個数と読む方法を定数分離といいます。
例 7.4(ex= kx の実数解の個数)
x=0 は解でない(e0=1=0)ので、k=q(x)=ex/x の解の個数を数えます。q′(x)=x2ex(x−1) です。
x>0。 q は (0,1] で狭義単調減少、[1,∞) で狭義単調増加で、q(1)=e。x→0+ で q(x)≥1/x→∞(ex≥1)、x→∞ で q(x)≥x/2→∞(ex≥x2/2。命題 5.1)なので、q((0,1])=[e,∞)、q([1,∞))=[e,∞) です。定理 7.1 から、k>e なら 2 個、k=e なら 2−1=1 個、k<e なら 0 個です。
x<0。 q′<0 で q は狭義単調減少、q<0。x≤−1 で ∣q(x)∣≤ex→0(x→−∞)です。また −21<x<0 では ex≥1+x>21(例 4.5)で、x<0 で割ると向きが変わるので q(x)<2x1→−∞(x→0−)です。よって値域は (−∞,0) で、定理 7.1(m=1、端点 0 は除く)から k<0 なら 1 個、k≥0 なら 0 個です。
まとめると、実数解の個数は k<0 で 1、0≤k<e で 0、k=e で 1、k>e で 2 です。
平均値の定理は、導関数の情報を関数の値の差の評価に変えます。次の 3 つが使いやすい形です。
定理 8.1(平均値の定理による評価)✓
f,g を [a,b] で連続、(a,b) で微分可能とする。
- (a,b) で m≤f′≤M ならば、a≤x<y≤b に対し m(y−x)≤f(y)−f(x)≤M(y−x)。とくに ∣f′∣≤L ならば ∣f(y)−f(x)∣≤L∣y−x∣。
- (比較)f(a)≤g(a) かつ (a,b) で f′≤g′ ならば、[a,b] 上で f≤g。
- 0<a<b ならば bb−a<logb−loga<ab−a。
証明(定理 8.1)
(1) [x,y] に平均値の定理(定理 3.3[平均値の定理とテイラーの定理])を使うと、f(y)−f(x)=f′(ξ)(y−x)(x<ξ<y)で、m≤f′(ξ)≤M です。(2) h=g−f とおくと h′≥0 なので h は [a,b] で単調増加(系 3.4[平均値の定理とテイラーの定理] (2))で、h(x)≥h(a)≥0 です。(3) log に平均値の定理(定理 3.3[平均値の定理とテイラーの定理])を使います:logb−loga=ξb−a(a<ξ<b)で、b1<ξ1<a1 です。
∎
例 8.2(log(1 + x) の評価)
x>0 に 定理 8.1 (3) を a=1、b=1+x として使うと 1+xx<log(1+x)<x です。たとえば x=0.1 では 0.0909⋯<log1.1<0.1 で、実際の値は 0.0953⋯ です。
例 8.3(x ≥ 0 で sin x ≤ x)
f(x)=sinx、g(x)=x とすると f(0)=0=g(0)、f′(x)=cosx≤1=g′(x)(定理 6.5[指数・対数・三角関数をきちんと定義する])なので、定理 8.1 (2) から [0,b](b>0 は任意)で sinx≤x です。
テイラーの定理(定理 5.3[平均値の定理とテイラーの定理])は、平均値の定理の高次への拡張で、関数を多項式で近似し、誤差を評価します。
例 8.4(e の近似値と誤差)
f=exp は何回でも微分可能で f(k)=exp です。a=0、x=1 としてテイラーの定理を使うと、ある c∈(0,1) があって
e=k=0∑nk!1+(n+1)!ecです。ec<e<3 なので、誤差は (n+1)!3 未満です。n=7 とすると ∑k=071/k!=2.71825396⋯ で、誤差は 3/8!<7.5×10−5 です。実際の e=2.71828182⋯ との差は 2.8×10−5 で、評価の範囲内です。
高校では、二項定理 (1+x)n=∑k=0n(kn)xk を自然数 n について習います。指数を実数 α にした (1+x)α を、x の無限級数に展開できるか、という問題を考えます。係数には、n 個から k 個を選ぶ選び方の数である二項係数を、n が整数でない場合に広げたものが現れます。
次の定理の証明は、右辺の級数を S(x) とおき、(a) S が微分できること、(b) (1+x)S′=αS を満たすこと、(c) S(x)(1+x)−α が定数になること、の 3 段階で進みます。
定義 9.1(一般の二項係数)↗
実数 α と整数 k≥0 に対し
(kα)=k!α(α−1)⋯(α−k+1)(k≥1),(0α)=1と定める。α=n が非負整数のとき、これは通常の二項係数 k!(n−k)!n!(命題 7.2[数え上げと母関数])に等しく、k>n では 0 である。
定理 9.2(一般二項定理)✓
α を実数、∣x∣<1 とする。このとき
(1+x)α=k=0∑∞(kα)xkが成り立つ(右辺は絶対収束する)。
証明(定理 9.2)
α が非負整数 n のときは、右辺は有限和で、二項定理(定理 7.3[数え上げと母関数])そのものです。以下、α は非負整数でないとし、ak=(kα) とおきます。このとき、すべての k で ak=0、
(k+1)ak+1=(α−k)ak(k≥0)が成り立ちます(定義から)。
収束と項別微分。 0<ρ<1 を取り、∣x∣≤ρ で考えます。項の比 ∣akxk∣∣ak+1xk+1∣=k+1∣α−k∣∣x∣→∣x∣<1 なので、比判定法(定理 6.2[級数と収束判定])から S(x)=∑akxk は絶対収束します。導関数の級数 ∑k≥1kakxk−1 についても、項の比は同じ理由で ρ に近づくので、Mk=k∣ak∣ρk−1 も ∑Mk<∞(比判定法)であり、M 判定法(系 6.4[関数列と一様収束])により SN(x)=∑k≤Nakxk の導関数 SN′ は [−ρ,ρ] 上で一様収束します。項別微分(定理 7.3[関数列と一様収束])から、S は (−ρ,ρ) で微分可能で S′(x)=∑k≥1kakxk−1 です。
微分方程式。 (1+x)S′(x)=αS(x) を示します。収束する 2 つの級数を項ごとに足すと
(1+x)S′(x)=j≥0∑(j+1)aj+1xj+j≥0∑jajxj=j≥0∑[(j+1)aj+1+jaj]xj=j≥0∑αajxj=αS(x)です(上の漸化式 (j+1)aj+1=(α−j)aj を使った)。
一意性。 h(x)=S(x)(1+x)−α(−1<x<1)とおきます。(1+x)−α=exp(−αlog(1+x)) は正で、命題 2.1 (2) と連鎖律から dxd(1+x)−α=−α(1+x)−α−1 です。積の法則で
h′(x)=S′(x)(1+x)−α−αS(x)(1+x)−α−1=(1+x)−α−1[(1+x)S′(x)−αS(x)]=0です。h は (−ρ,ρ) 上で定数(系 3.4[平均値の定理とテイラーの定理] (1))で、h(0)=S(0)=1 です。したがって S(x)=(1+x)α(∣x∣<ρ)で、ρ<1 は任意です。
∎
例 9.3(平方根と逆数の級数展開)
α=21:(11/2)=21、(21/2)=2(1/2)(−1/2)=−81、(31/2)=6(1/2)(−1/2)(−3/2)=161 なので、∣x∣<1 で
1+x=1+2x−8x2+16x3−⋯です。α=−1:(k−1)=(−1)k なので 1+x1=1−x+x2−⋯ で、等比級数の和の公式(命題 3.2[数列と関数の極限])を再現します。α=−21 で x を −x に替えると 1−x1=1+2x+83x2+⋯ で、x=0.01 とすると 1/0.99≈1+0.005+0.0000375=1.0050375 です(実際の値 1.00503782⋯)。
最後に、少し変わった問題として、累乗の塔
xxx⋅⋅⋅
を調べます。x>0 に対し、数列 a1=x、an+1=xan を考えると、a2=xx、a3=xxx、… で、これが塔の「下から n 階分」です。x=2 のときは an→2 のようです(22=2 だから、極限が存在すれば不動点 2 のはず。不動点とは xL=L のように、操作を施しても変わらない値のことです)。どの x で収束するのでしょうか。
補題 10.1(log t / t の最大値)✓
t>0 ならば logt≤t/e、すなわち tlogt≤e1 である。等号は t=e のときだけ成り立つ。
証明(補題 10.1)
g(t)=logt−t/e とおくと g′(t)=t1−e1 は 0<t<e で正、t>e で負です。したがって g は (0,e] で狭義単調増加、[e,∞) で狭義単調減少で(系 3.4[平均値の定理とテイラーの定理] (3))、g(t)≤g(e)=loge−1=0、等号は t=e のときだけです。
∎
次の補題の目標は、底が 1 より小さい x で反復 an+1=xan が 2 つの値を行き来して収束しなくなることが、どの範囲で起きないかを決めることです。証明は、そのような 2 つの値 s,u があったと仮定して y≤e との矛盾を導く形で、場合分けが続きますが、使うのは tlogt の増減と、m(c)>0 という 1 つの不等式だけです。
底が 1 より小さいとき、f(t)=xt は減少関数で、f∘f は増加関数です。そのとき f の「2 周期点」(f(s)=u、f(u)=s、s=u)が現れなければ収束します。次の補題は、それが現れない範囲を決めます。
補題 10.2(2 周期点が現れない範囲)✓
0<x<1、y=−logx とし、y≤e(すなわち x≥e−e)とする。s,u∈(0,1) が xu=s、xs=u を満たすならば s=u である。
証明(補題 10.2)
s=u と仮定して矛盾を導きます。logs=ulogx、logu=slogx を、それぞれ s、u 倍して slogs=sulogx=ulogu を得ます。w(t)=tlogt とおくと w′(t)=logt+1 で、w は (0,1/e] で狭義単調減少、[1/e,1) で狭義単調増加です(系 3.4[平均値の定理とテイラーの定理] (3))。w(s)=w(u)、s=u なので、s,u は 1/e をはさんで反対側にあり、s<1/e<u としてよいです(s,u の役割は対称)。c=−logs とおくと c>1 で、logs=ulogx から c=yu、すなわち y=c/u です。y≤e とは u≥c/e のことなので、これが矛盾することを示します。
c≥e のとき:u<1≤c/e で、u≥c/e に反します。1<c<e のとき:c/e∈(1/e,1) で、w は [1/e,1) で狭義単調増加なので、u<c/e は w(u)<w(c/e) と同値です。w(u)=w(s)=−ce−c、w(c/e)=ec(logc−1) なので、これは −e1−c<logc−1、すなわち
m(c)=logc−1+e1−c>0と同値です。m(1)=0、m′(c)=c1−e1−c で、c>1 では ec−1=∑(c−1)j/j!>1+(c−1)=c(級数の項が正でさらに j≥2 の項がある)なので e1−c<1/c、すなわち m′(c)>0 です。したがって m は [1,∞) で狭義単調増加で、c>1 で m(c)>0 です。よって u<c/e、すなわち y=c/u>e となり、y≤e に反します。
∎
定理 10.3(累乗の塔の収束範囲)✓
x>0 とし、a1=x、an+1=xan とする。数列 (an) が収束するための必要十分条件は
e−e≤x≤e1/eである。収束するとき、極限 L は方程式 xL=L の解である。
証明(定理 10.3)
f(t)=xt=exp(tlogx)(t>0)とします。f は連続で、an+1=f(an) です。すべての n で an≥min(x,1)>0 です(x≥1 なら xan≥1。x<1 のときは下の (iii) の議論で an∈[x,1))。したがって (an) が収束するならば、極限 L は正で、f は L で連続なので an+1=f(an)→f(L)(命題 5.5[数列と関数の極限] (1))、極限の一意性から f(L)=L、すなわち xL=L です。x=1 は an=1 で収束します。
(i) 1<x≤e1/e のとき収束する。 e1/e<e なので x∈[1,e] です。I=[1,e] とします。logx>0 なので f は増加で、f(I)⊆[f(1),f(e)]=[x,xe] です。x≥1、かつ logx≤1/e から xe=exp(elogx)≤exp1=e なので f(I)⊆I です。a1=x∈I なので、定理 5.6[数列と関数の極限] (2) により (an) は収束します。
(ii) x>e1/e のとき発散する。 logx>1/e で、補題 10.1 から t>0 で tlogt≤e1<logx、すなわち tlogx>logt、xt>t です。したがって an+1=xan>an(an>0)で、(an) は狭義単調増加です。もし収束するなら、極限 L>0 は xL=L を満たしますが、xL>L に反します。よって収束せず(単調増加なので ∞ に発散)です。
(iii) e−e≤x<1 のとき収束する。 y=−logx∈(0,e] です。an∈(0,1)(a1=x、an>0 なら 0<xan<1)で、さらに an<1 から an+1=xan>x1=x、すなわち an≥x>0 です。f は狭義単調減少で、h=f∘f は増加です。a2n+1=h(a2n−1) なので、奇数番目の部分列 (a2n−1) は単調です(a3≥a1 なら帰納的に a2n+3=h(a2n+1)≥h(a2n−1)=a2n+1、a3≤a1 なら逆)。有界なので、単調有界定理(定理 2.1[級数と収束判定])で L1 に収束します。f の連続性から a2n=f(a2n−1)→f(L1)=:L2、a2n+1=f(a2n)→f(L2) なので f(L2)=L1 です。x≤L1≤1 で、L1=1 とすると f(f(1))=xx=1 となって x=1 に反するので L1<1 です。s=L1、u=L2 は (0,1) の点で xu=s、xs=u を満たすので、補題 10.2 から s=u です。したがって奇数番目と偶数番目の部分列が同じ極限に収束し、(an) 全体が収束します(ε>0 に対し、両方の部分列の番号を取れば、それより先のすべての n で ∣an−L1∣<ε)。
(iv) 0<x<e−e のとき発散する。 y=−logx>e とし、(an) が収束すると仮定して矛盾を導きます。(iii) と同様に an∈[x,1) で、極限 L∈[x,1] は f(L)=L を満たします。f(1)=x=1 なので L<1 です。f(L)=L から e−yL=L、すなわち −logL/L=y>e です。関数 t↦−logt/t は (0,e) で狭義単調減少(導関数 (logt−1)/t2<0)で、t=1/e で値 e を取るので、L<1/e です。したがって yL=−logL>1 です。
f′(t)=−yf(t) は連続で、∣f′(L)∣=yL>1 なので、ρ=21+yL>1 とすると、δ>0 があって ∣t−L∣<δ ならば ∣f′(t)∣>ρ です。an→L なので、N があってすべての n≥N で ∣an−L∣<δ です。n≥N で、平均値の定理(定理 3.3[平均値の定理とテイラーの定理])から
∣an+1−L∣=∣f(an)−f(L)∣=∣f′(ξ)∣∣an−L∣>ρ∣an−L∣(ξ は an と L の間)で、an=L ならば帰納的に ∣aN+m−L∣>ρm∣aN−L∣ です。an=L となる n は存在しません(an=L=f(L) なら f の単射性から an−1=L、…、a1=x=L で、xx=x、すなわち x=1 となって矛盾)。ところが ρm≥1+m(ρ−1)→∞ (補題 3.1[指数関数と対数関数])で、∣aN+m−L∣<δ に反します。
∎
例 10.4(累乗の塔の極限の例)
x=2 は 1<2<e1/e=1.4446⋯ を満たします(2=1.4142⋯)。定理 10.3 から収束し、極限 L は (2)L=L の解です。an+1=(2)an<(2)2=2 から(帰納法で)an<2 なので L≤2 です。方程式 (2)L=L は、両辺の対数を取って g(L)=2log2L−logL=0 です。g′′(t)=1/t2>0 なので g′ は狭義単調増加で、ロルの定理(定理 3.1[平均値の定理とテイラーの定理])から g の零点は高々 2 個です。g(2)=g(4)=0 なので零点は 2 と 4 だけで、L≤2 から L=2 です。x=e1/e のときは、xL=L すなわち LlogL=e1 で、補題 10.1 の等号条件から L=e だけです。x=e−e(=0.0659⋯)のときも収束し、極限は L=1/e です((e−e)1/e=e−1 なので不動点で、t↦t−xt は狭義単調増加なので不動点は 1 つだけ)。
- 平均値の定理とテイラーの定理。 この記事で使った平均値の定理は、平均値の定理とテイラーの定理 で定義から証明され、ロピタルの定理・テイラー展開へと続きます。
- 凸解析。 凸関数の定義(定義 4.1)を多変数・無限次元に広げた理論が 凸解析 です。「接線がグラフの下にある」(系 4.4)は、劣勾配の理論の最初の例です。
- 陰関数定理・多変数の微分。 命題 2.4 の一般形、条件付き極値のラグランジュの乗数法は 逆関数定理と陰関数定理 です。
- べき級数と解析関数。 一般二項定理は、収束円板の中で関数をべき級数に展開する一例で、複素関数論(複素数と複素平面 の続き)につながります。
- 力学系。 累乗の塔は、1 次元の反復写像 an+1=f(an) の最も簡単な例で、不動点の安定性(∣f′∣<1)や 2 周期点の分岐が現れます。
演習 12.1標準
x>0 で f(x)=x1/x の最大値と、それを与える x を求めよ。
解答
f(x)=exp(xlogx) で、命題 2.2 または連鎖律から f′(x)=f(x)⋅x21−logx である。f>0 なので、f′ の符号は 1−logx の符号で、(0,e) で正、(e,∞) で負。したがって f は (0,e] で狭義単調増加、[e,∞) で狭義単調減少(系 3.4[平均値の定理とテイラーの定理] (3))で、x=e で最大値 f(e)=e1/e を取る。
演習 12.2標準
exp が凸であること(exp′′=exp>0)を使って、正の実数 x,y に対し xy≤2x+y を示せ。
解答
exp′′=exp>0 なので、定理 4.3 から exp は凸である。a=logx、b=logy、λ=21 として定義(定義 4.1)を使うと exp(2a+b)≤2expa+expb=2x+y。左辺は exp(21log(xy))=(xy)1/2=xy(定理 4.3[指数・対数・三角関数をきちんと定義する] と 定理 4.2[指数・対数・三角関数をきちんと定義する] (2))である。
演習 12.3易
1−x1 の x の 2 次までの展開を、定理 9.2 から求めよ。
解答
α=−21、x を −x に替える。(1−1/2)=−21、(2−1/2)=2(−1/2)(−3/2)=83 なので、(1+(−x))−1/2=1+(−21)(−x)+83(−x)2+⋯=1+2x+83x2+⋯ である(∣x∣<1)。
- 杉浦光夫『解析入門 I』東京大学出版会、1980 — 微分法の章(平均値の定理・テイラーの定理・凸関数)。
- W. Rudin, Principles of Mathematical Analysis, 3rd ed., McGraw-Hill, 1976 — Chapter 5(微分)、Chapter 8(べき級数)。
- J. Knoebel, “Exponentials reiterated”, The American Mathematical Monthly 88 (1981), 235–252 — 累乗の塔の収束。
- 高木貞治『解析概論』岩波書店 — 微分法の章(凸関数・二項級数)。
執筆: Claude Code(Sonnet 5.5)、Claude Code(Opus 5.5)・監査 3 回(Claude Code)・最終 2026-10-12