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静電場の境界値問題:一意性定理から鏡像法・変数分離・静電容量まで

対象読者: 本テーマ第 1 章の静電場とポアソン方程式、学部の重積分(フビニの定理)と無限級数の収束を学んだ人。グリーンの恒等式、ルジャンドル多項式、変数分離は仮定せず、ここで導入します。

前提となる記事:静電場とガウスの法則:クーロンの法則からポアソン方程式まで、重積分と累次積分:フビニの定理とヤコビアンで多変数の積分を計算する、級数と収束判定:部分和の極限・4 つの判定法・絶対収束と条件収束

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金属の板のそばに電気を帯びた粒を置くと、板の表面にも電気が現れますが、その分布は最初は分かりません。分かっているのは、板の表面や空間の端で電位がどうなっているか、という条件だけです。この記事では、そのような条件から電位がただ一つに決まること、そして決まった電位を実際に求める代表的な方法を順に見ます。読み終えると、板や球のそばの点電荷、金属球のまわりの電位、2 つの金属の電気の蓄えやすさ(静電容量)を、自分で計算できるようになります。

  • 静電気の問題は、領域と境界条件を与えて ΔV=−ρ/ε0\Delta V = -\rho/\varepsilon_0 を解く境界値問題です(領域の境界での値を決めたうえで方程式を解く問題のこと)。境界上で VV を指定する(ディリクレ条件)か、法線微分を指定する(ノイマン条件)かのどちらかなら、解は(ノイマン条件では定数を除いて)ただ一つです。証明はグリーンの第一恒等式だけで済みます。
  • 一意性が保証されているので、どんな方法で見つけた解でも、境界条件を満たしていれば正解です。鏡像法は「それらしい配置を推測して境界条件を確かめる」だけの方法ですが、一意性定理があるので正当な解法になります。
  • 軸対称な問題では、ラプラス方程式の変数分離解は rlPl(cos⁡θ)r^l P_l(\cos\theta) と r−l−1Pl(cos⁡θ)r^{-l-1}P_l(\cos\theta) です。ルジャンドル多項式 PlP_l は母関数(係数に目的の列 PlP_l を並べた冪級数の和として書ける関数)から直接定義でき、微分方程式・直交性・規格化がすべて短い計算で出ます。
  • 電荷分布から遠い場所のポテンシャルは、同じ母関数から多重極展開になります。単極子・双極子・四重極子(電荷の総和・正負の偏り・もう一段細かい偏りを表す項)が 1/r, 1/r2, 1/r31/r,\,1/r^2,\,1/r^3 で減衰する項に対応します。
  • 導体系では、電荷とポテンシャルが静電容量係数 CijC_{ij} で線形に結ばれ、Cij=CjiC_{ij}=C_{ji}、静電エネルギーは 12∑CijViVj≥0\tfrac12\sum C_{ij}V_iV_j\ge 0 です。

1. 動機:ポアソン方程式を「どう解くか」

Section titled “1. 動機:ポアソン方程式を「どう解くか」”

静電場とガウスの法則 で、静電ポテンシャルがポアソン方程式 ΔV=−ρ/ε0\Delta V=-\rho/\varepsilon_0 を満たすことを示しました。そこで得た積分公式 V(x)=14πε0∫ρ(y)/∣x−y∣ dVyV(\boldsymbol{x})=\frac{1}{4\pi\varepsilon_0}\int \rho(\boldsymbol{y})/|\boldsymbol{x}-\boldsymbol{y}|\,dV_y は、電荷分布がすべて与えられていて、周囲に何も置かれていない場合の解です。

現実の問題は違います。接地された金属板の前に点電荷を置いたとき、板の表面には電荷が誘起されますが、その分布は最初は分かりません。分かっているのは「導体表面の電位は一定」という境界条件だけです。このとき、電荷分布を先に決めてポテンシャルを積分する道は使えず、方程式と境界条件の組を解く問題になります。

ここで 2 つの疑問が出ます。

  1. そもそも解はあるのか。あるとして、ただ一つか。複数あるなら、物理的にどれが正しいのか。
  2. 解が一意なら、具体的にどうやって見つけるのか。

この記事は、まず 1 に完全な答えを与え(§3)、その答えを使って 2 の代表的な方法(鏡像法 §4、変数分離 §5、多重極展開 §6)を正当化し、最後に導体系の静電容量を扱います(§7)。存在については、標準的な偏微分方程式論の結果(領域が十分なめらかなら解が存在する)を認めて進み、本記事では具体的な解を構成することで個々の例の存在を示します。球のディリクレ問題の存在は ラプラス方程式 の Poisson 積分(定理 7.5)[ラプラス方程式と調和関数] で、一般の領域では 楕円型方程式の弱解 の理論で弱い意味の解が得られます(古典解になるには境界の正則性が必要です)。


2. 準備:境界値問題とグリーンの恒等式

Section titled “2. 準備:境界値問題とグリーンの恒等式”

Ω⊂R3\Omega\subset\mathbb{R}^3 を、境界 ∂Ω\partial\Omega が区分的に滑らかな有界領域(連結な開集合)とし、n\boldsymbol{n} を ∂Ω\partial\Omega の外向き単位法線とします。∂nV=n⋅∇V\partial_n V=\boldsymbol{n}\cdot\nabla V と書きます。

定義 2.1(境界値問題)↗

電荷密度 ρ\rho が Ω\Omega 上で連続に与えられているとき、次を満たす V∈C2(Ω‾)V\in C^2(\overline{\Omega}) を求める問題を考える。

ΔV=−ρε0(Ω 内).\Delta V = -\frac{\rho}{\varepsilon_0}\quad(\Omega\ \text{内}).

境界条件として次のいずれかを課す。

  • ディリクレ条件: V∣∂Ω=gV|_{\partial\Omega}=g(gg は境界上の連続関数)。
  • ノイマン条件: ∂nV∣∂Ω=h\partial_n V|_{\partial\Omega}=h(hh は境界上の連続関数)。

外部領域(有界閉集合の補集合)では、∂Ω\partial\Omega 上の条件に加えて、無限遠での減衰条件

∣V(x)∣≤C∣x∣,∣∇V(x)∣≤C∣x∣2(∣x∣→∞)|V(\boldsymbol{x})|\le \frac{C}{|\boldsymbol{x}|},\qquad |\nabla V(\boldsymbol{x})|\le \frac{C}{|\boldsymbol{x}|^2}\qquad(|\boldsymbol{x}|\to\infty)

を課す。

ここで V∈C2(Ω‾)V\in C^2(\overline\Omega) は「VV が境界まで込めて 2 階連続微分可能」という意味です。実際の物理では境界で場が不連続になることもありますが、その場合は領域を分けて考えます。減衰条件は、有限の電荷分布が作るポテンシャルがもつ性質(遠方で 1/r1/r と 1/r21/r^2)そのものです。

一意性の証明も、後の静電容量の議論も、次の恒等式だけを使います。

命題 2.2(グリーンの恒等式)✓

Ω\Omega を上の有界領域、φ,ψ∈C2(Ω‾)\varphi,\psi\in C^2(\overline\Omega) とする。このとき

∫Ω(φ Δψ+∇φ⋅∇ψ)dV=∮∂Ωφ ∂nψ dS(第一恒等式),\int_\Omega\bigl(\varphi\,\Delta\psi+\nabla\varphi\cdot\nabla\psi\bigr)dV=\oint_{\partial\Omega}\varphi\,\partial_n\psi\,dS \qquad\text{(第一恒等式)},∫Ω(φ Δψ−ψ Δφ)dV=∮∂Ω(φ ∂nψ−ψ ∂nφ)dS(第二恒等式).\int_\Omega\bigl(\varphi\,\Delta\psi-\psi\,\Delta\varphi\bigr)dV=\oint_{\partial\Omega}\bigl(\varphi\,\partial_n\psi-\psi\,\partial_n\varphi\bigr)dS \qquad\text{(第二恒等式)}.
証明(命題 2.2)

ベクトル場 A=φ∇ψ\boldsymbol{A}=\varphi\nabla\psi は C1(Ω‾)C^1(\overline\Omega) 級です。積の微分から ∇⋅A=∇φ⋅∇ψ+φΔψ\nabla\cdot\boldsymbol{A}=\nabla\varphi\cdot\nabla\psi+\varphi\Delta\psi です。これに 発散定理(定理 5.3)[静電場とガウスの法則] を適用すると、∫Ω∇⋅A dV=∮∂ΩA⋅n dS=∮φ ∂nψ dS\int_\Omega\nabla\cdot\boldsymbol{A}\,dV=\oint_{\partial\Omega}\boldsymbol{A}\cdot\boldsymbol{n}\,dS=\oint\varphi\,\partial_n\psi\,dS となり、第一恒等式を得ます。第二恒等式は、第一恒等式で φ\varphi と ψ\psi を入れ替えたものを引けば、∇φ⋅∇ψ\nabla\varphi\cdot\nabla\psi が相殺して得られます。


定理 3.1(静電ポテンシャルの一意性定理)✓

Ω\Omega を有界連結領域とし、ρ\rho を連続とする。

(a) ディリクレ問題。 V1,V2∈C2(Ω‾)V_1,V_2\in C^2(\overline\Omega) がともに ΔV=−ρ/ε0\Delta V=-\rho/\varepsilon_0 を満たし、∂Ω\partial\Omega 上で V1=V2V_1=V_2 ならば、Ω\Omega 上で V1=V2V_1=V_2 である。

(b) ノイマン問題。 V1,V2∈C2(Ω‾)V_1,V_2\in C^2(\overline\Omega) がともに ΔV=−ρ/ε0\Delta V=-\rho/\varepsilon_0 を満たし、∂Ω\partial\Omega 上で ∂nV1=∂nV2\partial_nV_1=\partial_nV_2 ならば、V1−V2V_1-V_2 は Ω\Omega 上で定数である。

(c) 外部ディリクレ問題。 Ω\Omega が有界閉集合の補集合(連結)のとき、V1,V2V_1,V_2 が ΔV=−ρ/ε0\Delta V=-\rho/\varepsilon_0、境界 ∂Ω\partial\Omega 上で V1=V2V_1=V_2、かつ 定義 2.1 の減衰条件を満たすならば、V1=V2V_1=V_2 である。

証明(定理 3.1)

w=V1−V2w=V_1-V_2 とおきます。Δw=−ρ/ε0+ρ/ε0=0\Delta w=-\rho/\varepsilon_0+\rho/\varepsilon_0=0 です。

(a) 命題 2.2 の第一恒等式で φ=ψ=w\varphi=\psi=w とすると、Δw=0\Delta w=0 なので

∫Ω∣∇w∣2 dV=∮∂Ωw ∂nw dS=0\int_\Omega|\nabla w|^2\,dV=\oint_{\partial\Omega}w\,\partial_nw\,dS=0

です(境界上で w=0w=0)。被積分関数 ∣∇w∣2|\nabla w|^2 は連続で非負ですから、積分が 00 なら Ω\Omega 上で恒等的に ∇w=0\nabla w=\boldsymbol{0} です(どこかで正なら連続性により小さな球の上で正になり、積分が正になってしまいます)。Ω\Omega は連結なので ww は定数で、境界で 00 なので w≡0w\equiv 0 です。

(b) 同様に ∮w ∂nw dS=0\oint w\,\partial_nw\,dS=0(境界上で ∂nw=0\partial_nw=0)から ∇w≡0\nabla w\equiv\boldsymbol{0}、よって ww は定数です。

(c) 十分大きな RR に対し、ΩR=Ω∩{∣x∣<R}\Omega_R=\Omega\cap\{|\boldsymbol{x}|<R\} に第一恒等式を使います。境界は ∂Ω\partial\Omega と球面 SRS_R からなり、∂Ω\partial\Omega 上では w=0w=0 なので

∫ΩR∣∇w∣2dV=∮SRw ∂rw dS.\int_{\Omega_R}|\nabla w|^2dV=\oint_{S_R}w\,\partial_rw\,dS .

減衰条件(ww にも同じ評価が成り立つ。CC は 2C2C に取り替える)から右辺は ≤4πR2⋅CR⋅CR2=4πC2R→0\le 4\pi R^2\cdot\frac{C}{R}\cdot\frac{C}{R^2}=\frac{4\pi C^2}{R}\to0(R→∞R\to\infty)です。左辺は RR について単調増加なので、∫Ω∣∇w∣2dV=0\int_\Omega|\nabla w|^2dV=0、すなわち ∇w≡0\nabla w\equiv\boldsymbol{0} で ww は定数です。無限遠で w→0w\to0 なので w≡0w\equiv0 です。

この定理が物理に与える意味は大きく、次の 2 点にまとめられます。

第一に、境界条件の過不足がないことの保証です。ディリクレ条件を与えれば、さらにノイマン条件まで与える余地はありません(与えれば一般に矛盾します)。両方を同時に指定してはいけないのです。

第二に、解の探し方に制限がないことです。直観・対称性・推測・級数展開など、手段は何でもよく、結果が方程式と境界条件を満たしていれば、それが唯一の答えです。

注意 3.2

ノイマン問題には解の存在に関する制約があります。ΔV=−ρ/ε0\Delta V=-\rho/\varepsilon_0 を Ω\Omega 上で積分して発散定理を使うと ∮∂Ωh dS=∮∂nV dS=∫ΩΔV dV=−1ε0∫Ωρ dV\oint_{\partial\Omega}h\,dS=\oint\partial_nV\,dS=\int_\Omega\Delta V\,dV=-\frac{1}{\varepsilon_0}\int_\Omega\rho\,dV となり、境界データ hh が総電荷と整合しなければ解は存在しません。これは「内部の電荷が境界を貫く電場の総量を決める」という ガウスの法則(定理 4.4)[静電場とガウスの法則] の言い換えです。


定義 4.1(静電平衡にある導体)↗

連結な閉領域 KK が導体であって静電平衡にあるとは、KK の内部で E=0\boldsymbol{E}=\boldsymbol{0} が成り立ち、電荷は表面だけに面密度 σ\sigma で分布していることをいう。

導体内部で自由に動ける電荷は、電場があればそれが消えるまで動き続けます。それが止まった状態が静電平衡で、内部の電場は 00 です。

補題 4.2(導体表面の境界条件)✓

静電平衡にある導体の外側で V∈C1V\in C^1 が表面まで連続に延びているとし、n\boldsymbol{n} を導体から外へ向かう単位法線とする。このとき

(i) 導体全体(内部と表面)で VV は定数である。

(ii) 表面のすぐ外側で E=(σ/ε0)n\boldsymbol{E}=(\sigma/\varepsilon_0)\boldsymbol{n} であり、すなわち σ=−ε0 ∂nV\sigma=-\varepsilon_0\,\partial_nV である。

証明(補題 4.2)

(i) 内部で ∇V=−E=0\nabla V=-\boldsymbol{E}=\boldsymbol{0} で、内部は連結なので VV は定数です。表面の値は連続性により同じ定数です。

(ii) 表面の一点を含む、底面積 AA で高さが表面を挟んで上下に δ\delta ずつの小さな円柱に ガウスの法則(積分形)(定理 4.4)[静電場とガウスの法則] を使います。下の底面は導体内部にあるので寄与は 00、側面の寄与は δ→0\delta\to0 で 00 に近づきます(E\boldsymbol{E} は有界)。上の底面の寄与は E⋅n A\boldsymbol{E}\cdot\boldsymbol{n}\,A で、これが内部の電荷 σA\sigma A を ε0\varepsilon_0 で割ったものに等しくなります。ゆえに E⋅n=σ/ε0\boldsymbol{E}\cdot\boldsymbol{n}=\sigma/\varepsilon_0 です。さらに表面上で VV は定数なので接線方向の微分は 00、E\boldsymbol{E} は法線方向を向きます。E=−∇V\boldsymbol{E}=-\nabla V から σ=ε0E⋅n=−ε0∂nV\sigma=\varepsilon_0\boldsymbol{E}\cdot\boldsymbol{n}=-\varepsilon_0\partial_nV です。

したがって導体を含む問題は、導体の表面を境界とするディリクレ問題(各導体の電位が既知)、あるいは各導体の総電荷が既知の問題として扱えます。後者は §7 で見ます。

点電荷 qq が導体の近くにあるとき、全体のポテンシャルは V=Vq+ϕV=V_q+\phi と分けられます。Vq=q4πε0∣x−xq∣V_q=\frac{q}{4\pi\varepsilon_0|\boldsymbol{x}-\boldsymbol{x}_q|} は点電荷自身のクーロンポテンシャルで、ϕ\phi は導体表面に誘起された電荷が作る部分、領域内部で調和(Δϕ=0\Delta\phi=0)で、境界条件は ϕ=−Vq+(導体の電位)\phi=-V_q+(\text{導体の電位}) です。

鏡像法は、ϕ\phi を「領域の外側に置いた仮想の点電荷のポテンシャル」として当てる方法です。領域の外側の電荷は領域内で調和な関数を与えるので、あとは境界条件を満たすように配置と大きさを決めるだけです。この解が正しいことは 定理 3.1 で保証されます。

定理 4.3(接地導体平面と点電荷)✓

接地された(電位 00 の)無限に広い導体平面 z=0z=0 の上方 xq=(0,0,d)\boldsymbol{x}_q=(0,0,d)(d>0d>0)に点電荷 qq を置く。領域 z>0z>0 での静電ポテンシャルは

V(x)=q4πε0(1∣x−dez∣−1∣x+dez∣)V(\boldsymbol{x})=\frac{q}{4\pi\varepsilon_0}\left(\frac{1}{|\boldsymbol{x}-d\boldsymbol{e}_z|}-\frac{1}{|\boldsymbol{x}+d\boldsymbol{e}_z|}\right)

である。導体表面の誘導電荷密度は σ(ρ)=−qd2π(ρ2+d2)3/2\sigma(\rho)=-\dfrac{qd}{2\pi(\rho^2+d^2)^{3/2}}(ρ\rho は原点からの距離)、総誘導電荷は −q-q であり、電荷 qq に働く力は大きさ q24πε0(2d)2\dfrac{q^2}{4\pi\varepsilon_0(2d)^2} で導体平面に向かう引力である。

証明(定理 4.3)

V=Vq+ϕV=V_q+\phi、ϕ=−q4πε0∣x+dez∣\phi=-\dfrac{q}{4\pi\varepsilon_0|\boldsymbol{x}+d\boldsymbol{e}_z|} とおきます。ϕ\phi は z>0z>0 で調和であり(−dez-d\boldsymbol{e}_z 以外では 1/∣x−a∣1/|\boldsymbol{x}-\boldsymbol{a}| は調和)、平面 z=0z=0 上では ∣x−dez∣=∣x+dez∣|\boldsymbol{x}-d\boldsymbol{e}_z|=|\boldsymbol{x}+d\boldsymbol{e}_z| なので V=0V=0 です。無限遠では V=O(∣x∣−2)V=O(|\boldsymbol{x}|^{-2})、∇V=O(∣x∣−3)\nabla V=O(|\boldsymbol{x}|^{-3}) で減衰条件を満たします。

唯一性は 定理 3.1 (c) と同じ議論で示せます。別の解を V′=Vq+ϕ′V'=V_q+\phi' とすると、w=ϕ−ϕ′w=\phi-\phi' は z>0z>0 で調和(点電荷の特異部分 VqV_q が差で消える)、z=0z=0 で w=0w=0、無限遠で減衰します。半球 {z>0,∣x∣<R}\{z>0,|\boldsymbol{x}|<R\} に第一恒等式を使うと、平面部分は w=0w=0、半球面部分は ≤2πR2⋅CR−1⋅CR−2→0\le 2\pi R^2\cdot C R^{-1}\cdot CR^{-2}\to0 なので ∫∣∇w∣2dV=0\int|\nabla w|^2dV=0 となり w≡0w\equiv0 です。よって上の VV が解です。

誘導電荷。 ∂zV∣z=0\partial_zV|_{z=0} を計算します。V=q4πε0[(ρ2+(z−d)2)−1/2−(ρ2+(z+d)2)−1/2]V=\frac{q}{4\pi\varepsilon_0}\bigl[(\rho^2+(z-d)^2)^{-1/2}-(\rho^2+(z+d)^2)^{-1/2}\bigr] なので

∂zV∣z=0=q4πε0[d(ρ2+d2)3/2+d(ρ2+d2)3/2]=q4πε02d(ρ2+d2)3/2.\partial_zV\Big|_{z=0}=\frac{q}{4\pi\varepsilon_0}\left[\frac{d}{(\rho^2+d^2)^{3/2}}+\frac{d}{(\rho^2+d^2)^{3/2}}\right]=\frac{q}{4\pi\varepsilon_0}\frac{2d}{(\rho^2+d^2)^{3/2}} .

補題 4.2 (ii) で、導体から領域に向かう法線は n=ez\boldsymbol{n}=\boldsymbol{e}_z だから σ=−ε0∂zV=−qd2π(ρ2+d2)3/2\sigma=-\varepsilon_0\partial_zV=-\dfrac{qd}{2\pi(\rho^2+d^2)^{3/2}} です。総量は

∫0∞σ 2πρ dρ=−qd∫0∞ρ dρ(ρ2+d2)3/2=−qd[−1ρ2+d2]0∞=−q.\int_0^\infty\sigma\,2\pi\rho\,d\rho=-qd\int_0^\infty\frac{\rho\,d\rho}{(\rho^2+d^2)^{3/2}}=-qd\left[-\frac{1}{\sqrt{\rho^2+d^2}}\right]_0^\infty=-q .

力。 qq の近傍では全電場は qq 自身のクーロン場と −∇ϕ-\nabla\phi の和です。自分自身のクーロン場は対称なので qq に正味の力を与えません。力を与えるのは滑らかな部分 −∇ϕ-\nabla\phi だけで、これは位置 −dez-d\boldsymbol{e}_z にある電荷 −q-q がつくる電場と同じです。距離は 2d2d なので、力の大きさは q2/(4πε0(2d)2)q^2/(4\pi\varepsilon_0(2d)^2)、向きは引力です。

q(高さ d)−q(鏡像、高さ −d)V = 0(接地導体)領域 z > 0
接地導体平面と鏡像電荷。実際の電場は z > 0 の領域だけで意味をもち、平面の下側(破線)は計算上の仮想配置にすぎない。

定理 4.4(接地導体球と点電荷)✓

原点を中心とする半径 RR の接地導体球の外側、xq=dez\boldsymbol{x}_q=d\boldsymbol{e}_z(d>Rd>R)に点電荷 qq を置く。球の外側のポテンシャルは

V(x)=14πε0(q∣x−dez∣+q′∣x−d′ez∣),q′=−Rdq,d′=R2dV(\boldsymbol{x})=\frac{1}{4\pi\varepsilon_0}\left(\frac{q}{|\boldsymbol{x}-d\boldsymbol{e}_z|}+\frac{q'}{|\boldsymbol{x}-d'\boldsymbol{e}_z|}\right),\qquad q'=-\frac{R}{d}q,\quad d'=\frac{R^2}{d}

である。球に誘起される総電荷は q′=−qR/dq'=-qR/d、電荷 qq に働く力は球に向かう引力で大きさ q2Rd4πε0(d2−R2)2\dfrac{q^2Rd}{4\pi\varepsilon_0(d^2-R^2)^2} である。

証明(定理 4.4)

∣x∣=R|\boldsymbol{x}|=R、x=R(sin⁡θcos⁡φ,sin⁡θsin⁡φ,cos⁡θ)\boldsymbol{x}=R(\sin\theta\cos\varphi,\sin\theta\sin\varphi,\cos\theta) のとき、

∣x−d′ez∣2=R2−2d′Rcos⁡θ+d′2=R2−2R3dcos⁡θ+R4d2=R2d2(d2−2dRcos⁡θ+R2)=R2d2∣x−dez∣2|\boldsymbol{x}-d'\boldsymbol{e}_z|^2=R^2-2d'R\cos\theta+d'^2=R^2-\frac{2R^3}{d}\cos\theta+\frac{R^4}{d^2}=\frac{R^2}{d^2}\bigl(d^2-2dR\cos\theta+R^2\bigr)=\frac{R^2}{d^2}|\boldsymbol{x}-d\boldsymbol{e}_z|^2

です。つまり球面上で ∣x−d′ez∣=Rd∣x−dez∣|\boldsymbol{x}-d'\boldsymbol{e}_z|=\dfrac{R}{d}|\boldsymbol{x}-d\boldsymbol{e}_z| が成り立ちます。これを VV に代入すると、球面上で

V=14πε0∣x−dez∣(q+q′dR)=0V=\frac{1}{4\pi\varepsilon_0|\boldsymbol{x}-d\boldsymbol{e}_z|}\left(q+q'\frac{d}{R}\right)=0

となります(q′=−qR/dq'=-qR/d)。像電荷は球の内側(d′<Rd'<R)にあるので、球の外側で V−VqV-V_q は調和です。無限遠では V=O(1/∣x∣)V=O(1/|\boldsymbol{x}|)、∇V=O(1/∣x∣2)\nabla V=O(1/|\boldsymbol{x}|^2) で減衰条件を満たすので、定理 3.1 (c) と 定理 4.3 の証明と同じ論法により(特異部分 VqV_q は差で消える)、これが唯一の解です。

総誘導電荷は、球を囲む大きな球面に ガウスの法則(定理 4.4)[静電場とガウスの法則] を使うと、遠方で電場が (q+q′)(q+q') の点電荷の場に漸近することから、q+(誘導電荷)=q+q′q+(\text{誘導電荷})=q+q' より誘導電荷は q′q' です。力は 定理 4.3 と同様に像電荷からの力に等しく、距離 d−d′=(d2−R2)/dd-d'=(d^2-R^2)/d を用いて

∣F∣=∣qq′∣4πε0(d−d′)2=q2Rd⋅d24πε0(d2−R2)2=q2Rd4πε0(d2−R2)2|F|=\frac{|q q'|}{4\pi\varepsilon_0(d-d')^2}=\frac{q^2R}{d}\cdot\frac{d^2}{4\pi\varepsilon_0(d^2-R^2)^2}=\frac{q^2Rd}{4\pi\varepsilon_0(d^2-R^2)^2}

です。

注意 4.5

球面からの距離 s=d−Rs=d-R を固定して R→∞R\to\infty とすると、像電荷は q′=−qR/(R+s)→−qq'=-qR/(R+s)\to-q、電荷と像の距離は d−d′=(d2−R2)/d=s(2R+s)/(R+s)→2sd-d'=(d^2-R^2)/d=s(2R+s)/(R+s)\to2s となり、力は q2/(4πε0(2s)2)q^2/(4\pi\varepsilon_0(2s)^2) に近づきます。球面が平面に近づくので、定理 4.3 の結果と整合します。


5. 変数分離とルジャンドル多項式

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鏡像法が使えるのは、境界が平面や球のように特別な形のときだけです。もう少し一般の境界には、座標系を境界に合わせて取り、ラプラス方程式を 1 変数の常微分方程式の積に分解する変数分離を使います。球座標で必要になるルジャンドル多項式を、母関数から定義して必要な性質をすべて証明します。

定義 5.1(ルジャンドル多項式)↗

−1≤x≤1-1\le x\le1、∣t∣<1|t|<1 に対して

G(x,t)=11−2xt+t2=∑l=0∞Pl(x) tlG(x,t)=\frac{1}{\sqrt{1-2xt+t^2}}=\sum_{l=0}^\infty P_l(x)\,t^l

と tt について冪級数展開したときの係数 Pl(x)P_l(x) を、ll 次のルジャンドル多項式という。

PlP_l が実際に多項式であること、∣Pl∣≤1|P_l|\le1 であることは、次のように分かります。以下の 3 つの命題(基本性質、微分方程式、直交性)のねらいは、後の §5.2 と §6 で PlP_l を自由に使えるようにすることです。基本性質の証明は、1/1−z1/\sqrt{1-z} の級数を 2 つ掛け合わせて係数を読み取るだけの方針で、cos⁡mθ\cos m\theta が cos⁡θ\cos\theta の多項式で書けるという事実(チェビシェフ多項式と呼ばれます)は、cos⁡2θ=2cos⁡2θ−1\cos 2\theta=2\cos^2\theta-1 のような例の一般化として使います。

命題 5.2(ルジャンドル多項式の基本性質)✓

(i) PlP_l は ll 次の実係数多項式で、Pl(−x)=(−1)lPl(x)P_l(-x)=(-1)^lP_l(x) を満たす。

(ii) Pl(1)=1P_l(1)=1 であり、−1≤x≤1-1\le x\le1 で ∣Pl(x)∣≤1|P_l(x)|\le1 である。

(iii) P0=1P_0=1、P1=xP_1=x、P2=3x2−12P_2=\dfrac{3x^2-1}{2}、P3=5x3−3x2P_3=\dfrac{5x^3-3x}{2} である。

証明(命題 5.2)

x=cos⁡θx=\cos\theta とおくと 1−2xt+t2=(1−eiθt)(1−e−iθt)1-2xt+t^2=(1-e^{i\theta}t)(1-e^{-i\theta}t) です。∣z∣<1|z|<1 に対して二項級数 (1−z)−1/2=∑j≥0ajzj(1-z)^{-1/2}=\sum_{j\ge0}a_jz^j、aj=(1/2)(3/2)⋯((2j−1)/2)j!=(2j)!4j(j!)2>0a_j=\dfrac{(1/2)(3/2)\cdots((2j-1)/2)}{j!}=\dfrac{(2j)!}{4^j(j!)^2}>0 が成り立つので(テイラーの定理(定理 5.3)[平均値の定理とテイラーの定理] の応用です)、∣t∣<1|t|<1 で絶対収束する 2 つの級数の積をとって

G=(∑jajeijθtj)(∑kake−ikθtk)=∑l≥0tl∑j+k=lajak ei(j−k)θ,G=\Bigl(\sum_ja_je^{ij\theta}t^j\Bigr)\Bigl(\sum_ka_ke^{-ik\theta}t^k\Bigr)=\sum_{l\ge0}t^l\sum_{j+k=l}a_ja_k\,e^{i(j-k)\theta},

すなわち Pl(cos⁡θ)=∑j+k=lajakcos⁡((j−k)θ)P_l(\cos\theta)=\sum_{j+k=l}a_ja_k\cos\bigl((j-k)\theta\bigr) を得ます。cos⁡mθ\cos m\theta は cos⁡θ\cos\theta の ∣m∣|m| 次の多項式(チェビシェフ多項式)で、偶奇は mm の偶奇に等しく、j−k≡l(mod2)j-k\equiv l\pmod 2 なので、PlP_l は高々 ll 次で偶奇が (−1)l(-1)^l の多項式です。l≥1l\ge1 では、j−k=±lj-k=\pm l の 2 項(ともに最高次の係数 al 2l−1a_l\,2^{l-1})だけが xlx^l の項を与えるので、xlx^l の係数は al2l≠0a_l2^l\ne0 です。これで (i) が示されました。

(ii) θ=0\theta=0 では G(1,t)=(1−t)−1=∑tlG(1,t)=(1-t)^{-1}=\sum t^l なので Pl(1)=1P_l(1)=1 です。一般の θ\theta では ∣Pl(cos⁡θ)∣≤∑j+k=lajak=Pl(1)=1|P_l(\cos\theta)|\le\sum_{j+k=l}a_ja_k=P_l(1)=1 です。

(iii) GG を tt の 2 次まで展開します。u=2xt−t2u=2xt-t^2 として (1−u)−1/2=1+12u+38u2+⋯(1-u)^{-1/2}=1+\frac12u+\frac38u^2+\cdots より 1+12(2xt−t2)+38(2xt)2+O(t3)=1+xt+3x2−12t2+O(t3)1+\frac12(2xt-t^2)+\frac38(2xt)^2+O(t^3)=1+xt+\frac{3x^2-1}{2}t^2+O(t^3) です。P3P_3 も同様に計算できます。

次に、PlP_l が従う微分方程式を求めます。方針は、母関数 GG が満たす偏微分方程式を 1 本見つけ、両辺の tlt^l の係数を比べて PlP_l の方程式に読み替えることです。次の証明の等式は、結論から逆算して選んだ組み合わせで、Gx,Gxx,Gt,GttG_x,G_{xx},G_t,G_{tt} を ww の冪で並べて整理すると各項が打ち消し合うことを確かめる計算が中心です。

命題 5.3(ルジャンドルの微分方程式)✓

(1−x2)Pl′′(x)−2xPl′(x)+l(l+1)Pl(x)=0,すなわちddx[(1−x2)Pl′]+l(l+1)Pl=0.(1-x^2)P_l''(x)-2xP_l'(x)+l(l+1)P_l(x)=0,\qquad\text{すなわち}\quad\frac{d}{dx}\Bigl[(1-x^2)P_l'\Bigr]+l(l+1)P_l=0 .
証明(命題 5.3)

w=1−2xt+t2w=1-2xt+t^2 とおくと G=w−1/2G=w^{-1/2} で、

Gx=t w−3/2,Gxx=3t2w−5/2,Gt=(x−t)w−3/2,Gtt=−w−3/2+3(x−t)2w−5/2G_x=t\,w^{-3/2},\quad G_{xx}=3t^2w^{-5/2},\quad G_t=(x-t)w^{-3/2},\quad G_{tt}=-w^{-3/2}+3(x-t)^2w^{-5/2}

です。次の等式が成り立ちます。

(1−x2)Gxx−2xGx+2tGt+t2Gtt=0.(1-x^2)G_{xx}-2xG_x+2tG_t+t^2G_{tt}=0 .

実際、左辺に w5/2w^{5/2} を掛けて整理すると

3t2(1−x2)−2xtw+2t(x−t)w+t2[−w+3(x−t)2]=3t2[(1−x2)−w+(x−t)2]=03t^2(1-x^2)-2xtw+2t(x-t)w+t^2\bigl[-w+3(x-t)^2\bigr]=3t^2\bigl[(1-x^2)-w+(x-t)^2\bigr]=0

となります(最後の括弧は 1−x2−1+2xt−t2+x2−2xt+t2=01-x^2-1+2xt-t^2+x^2-2xt+t^2=0)。一方、G=∑PltlG=\sum P_lt^l の係数を比べると、2tGt+t2Gtt=∑l(l+1)Pltl2tG_t+t^2G_{tt}=\sum l(l+1)P_lt^l です(2l+l(l−1)=l(l+1)2l+l(l-1)=l(l+1))。GG は (x,t)(x,t) の解析関数であり、tlt^l の係数を取り出す操作は xx での微分と交換できるので、上の等式の tlt^l の係数は (1−x2)Pl′′−2xPl′+l(l+1)Pl=0(1-x^2)P_l''-2xP_l'+l(l+1)P_l=0 を与えます。

命題 5.4(直交性と規格化)✓

∫−11Pl(x)Pm(x) dx=22l+1 δlm.\int_{-1}^1P_l(x)P_m(x)\,dx=\frac{2}{2l+1}\,\delta_{lm} .
証明(命題 5.4)

l≠ml\ne m とします。命題 5.3 の ll 版に PmP_m、mm 版に PlP_l を掛けて引くと

ddx[(1−x2)(Pl′Pm−Pm′Pl)]+(l(l+1)−m(m+1))PlPm=0\frac{d}{dx}\Bigl[(1-x^2)\bigl(P_l'P_m-P_m'P_l\bigr)\Bigr]+\bigl(l(l+1)-m(m+1)\bigr)P_lP_m=0

です。−1-1 から 11 まで積分すると、第 1 項は (1−x2)(1-x^2) が両端で 00 なので消え、l(l+1)≠m(m+1)l(l+1)\ne m(m+1) より ∫PlPm dx=0\int P_lP_m\,dx=0 です。

規格化には GG そのものを使います。∣t∣<1|t|<1 で

∫−11G2dx=∫−11dx1−2xt+t2=[−12tln⁡(1−2xt+t2)]−11=1tln⁡1+t1−t=∑l≥022l+1t2l\int_{-1}^1G^2dx=\int_{-1}^1\frac{dx}{1-2xt+t^2}=\Bigl[-\frac{1}{2t}\ln(1-2xt+t^2)\Bigr]_{-1}^{1}=\frac1t\ln\frac{1+t}{1-t}=\sum_{l\ge0}\frac{2}{2l+1}t^{2l}

です。他方 ∣Pl∣≤1|P_l|\le1 より ∑l,mtl+mPlPm\sum_{l,m}t^{l+m}P_lP_m は xx について一様に絶対収束するので項別積分でき、直交性から ∫G2dx=∑lt2l∫Pl2dx\int G^2dx=\sum_lt^{2l}\int P_l^2dx です。t2lt^{2l} の係数を比べて ∫Pl2dx=2/(2l+1)\int P_l^2dx=2/(2l+1) を得ます。

この節のねらいは、球の問題でラプラス方程式を「rr だけの方程式」と「角度だけの方程式(ルジャンドルの方程式)」に分けて、解を rlr^l や r−l−1r^{-l-1} と PlP_l の積として書き下すことです。

球座標 (r,θ,φ)(r,\theta,\varphi) で、φ\varphi に依存しない関数 V(r,θ)V(r,\theta) のラプラシアンは(連鎖律による計算で)

ΔV=1r2∂∂r(r2∂V∂r)+1r2sin⁡θ∂∂θ(sin⁡θ∂V∂θ)\Delta V=\frac{1}{r^2}\frac{\partial}{\partial r}\Bigl(r^2\frac{\partial V}{\partial r}\Bigr)+\frac{1}{r^2\sin\theta}\frac{\partial}{\partial\theta}\Bigl(\sin\theta\frac{\partial V}{\partial\theta}\Bigr)

です。x=cos⁡θx=\cos\theta とすると ∂θ=−sin⁡θ ∂x\partial_\theta=-\sin\theta\,\partial_x なので、第 2 項は 1r2∂∂x[(1−x2)∂V∂x]\dfrac{1}{r^2}\dfrac{\partial}{\partial x}\Bigl[(1-x^2)\dfrac{\partial V}{\partial x}\Bigr] に書き換わります。これで 命題 5.3 が使えます。

命題 5.5(軸対称な分離解)✓

各 l≥0l\ge0 について V=rlPl(cos⁡θ)V=r^lP_l(\cos\theta) と V=r−l−1Pl(cos⁡θ)V=r^{-l-1}P_l(\cos\theta) はラプラス方程式を満たす。前者は R3\mathbb{R}^3 全体で滑らかな(x,y,zx,y,z の ll 次斉次多項式の)調和関数で、後者は原点を除いて滑らかである。

証明(命題 5.5)

V=R(r)Pl(x)V=R(r)P_l(x) とすると、上の書き換えと 命題 5.3 から

ΔV=Plr2(r2R′)′+Rr2ddx[(1−x2)Pl′]=Plr2[(r2R′)′−l(l+1)R]\Delta V=\frac{P_l}{r^2}\bigl(r^2R'\bigr)'+\frac{R}{r^2}\frac{d}{dx}\Bigl[(1-x^2)P_l'\Bigr]=\frac{P_l}{r^2}\Bigl[\bigl(r^2R'\bigr)'-l(l+1)R\Bigr]

です。R=rlR=r^l のとき (r2⋅lrl−1)′=l(l+1)rl(r^2\cdot lr^{l-1})'=l(l+1)r^l、R=r−l−1R=r^{-l-1} のとき (r2⋅(−(l+1))r−l−2)′=−(l+1)(−l)r−l−1=l(l+1)r−l−1(r^2\cdot(-(l+1))r^{-l-2})'=-(l+1)(-l)r^{-l-1}=l(l+1)r^{-l-1} で、括弧内は 00 です。滑らかさについては、PlP_l の偶奇が (−1)l(-1)^l なので rlPl(z/r)r^lP_l(z/r) は r2=x2+y2+z2r^2=x^2+y^2+z^2 の冪と zz の冪の積の和、つまり ll 次斉次多項式です。

境界が球面のとき、この分離解で境界条件に合わせることができます。

定理 5.6(球のディリクレ問題(軸対称・有限展開))✓

半径 RR の球面上の境界値が f(θ)=∑l=0NflPl(cos⁡θ)f(\theta)=\sum_{l=0}^Nf_lP_l(\cos\theta)(flf_l は実定数)であるとする。

(i) 球の内部 r<Rr<R のラプラス方程式の(定義 2.1 の意味の)解は一意で

Vin(r,θ)=∑l=0Nfl(rR)lPl(cos⁡θ).V_{\text{in}}(r,\theta)=\sum_{l=0}^Nf_l\Bigl(\frac rR\Bigr)^lP_l(\cos\theta) .

(ii) 球の外部 r>Rr>R で、無限遠で減衰するラプラス方程式の解は一意で

Vout(r,θ)=∑l=0Nfl(Rr)l+1Pl(cos⁡θ).V_{\text{out}}(r,\theta)=\sum_{l=0}^Nf_l\Bigl(\frac Rr\Bigr)^{l+1}P_l(\cos\theta) .

(iii) 係数は fl=2l+12∫−11f(arccos⁡x)Pl(x) dxf_l=\dfrac{2l+1}{2}\displaystyle\int_{-1}^1f\bigl(\arccos x\bigr)P_l(x)\,dx で与えられる。

証明(定理 5.6)

(i), (ii) 命題 5.5 により各項は調和で、r=Rr=R での値はちょうど flPl(cos⁡θ)f_lP_l(\cos\theta) です。内部の解は閉球で C2C^2 級です。外部の解は ∣V∣≤C/r|V|\le C/r、∣∇V∣≤C/r2|\nabla V|\le C/r^2 を満たします(最も遅く減衰する項が l=0l=0 の f0R/rf_0R/r で、勾配は r−2r^{-2} のオーダー)。一意性は 定理 3.1 (a)(c) です。

(iii) f(arccos⁡x)=∑mfmPm(x)f(\arccos x)=\sum_mf_mP_m(x) の両辺に PlP_l を掛けて [−1,1][-1,1] で積分し、命題 5.4 を使うと ∫fPl dx=fl⋅2/(2l+1)\int fP_l\,dx=f_l\cdot2/(2l+1) です。

注意 5.7

境界値 ff が有限和でなくても、同じ形の無限級数 ∑fl(r/R)lPl\sum f_l(r/R)^lP_l が解を与えます。その根拠は、(1) 命題 5.2 (i) により P0,…,PNP_0,\dots,P_N は NN 次以下の多項式全体を張り、(2) 多項式が連続関数を一様に近似できる(ワイエルシュトラスの近似定理)ので、{Pl}\{P_l\} が L2(−1,1)L^2(-1,1) で完全である、という 2 点です。多項式近似の部分は ワイエルシュトラスの多項式近似定理(系 4.4)[Arzelà–Ascoli と Stone–Weierstrass] として、{Pl}\{P_l\} が直交系をなすことは 直交多項式(Legendre 多項式の基本事項は 命題 7.3[直交多項式] で、本記事の PlP_l はそこでの Pl\mathcal P_l と同じ)として Rikai にあります。級数が境界値に収束する細部(内部での収束と境界への連続な接続)は、本記事では認めて進みます(定理 5.6 の有限展開の範囲では不要です)。球の場合の解の存在と一意性は Poisson 積分(定理 7.5)[ラプラス方程式と調和関数] でも示されます。詳しくは参考文献のジャクソンの第 3 章を参照してください。

例 5.8(一様電場の中の導体球)

一様電場 E0=E0ez\boldsymbol{E}_0=E_0\boldsymbol{e}_z の中に、半径 RR の電気的に中性の導体球を置きます。遠方では V→−E0z=−E0rcos⁡θV\to-E_0z=-E_0r\cos\theta です。V=−E0rcos⁡θ+ϕV=-E_0r\cos\theta+\phi と分けると、ϕ\phi は外部で調和で、無限遠で減衰し、球面上で(球の電位を 00 に選んで)ϕ=E0Rcos⁡θ=E0RP1(cos⁡θ)\phi=E_0R\cos\theta=E_0RP_1(\cos\theta) でなければなりません。これは 定理 5.6 (ii) で f1=E0Rf_1=E_0R の場合なので、

ϕ=E0R(Rr)2cos⁡θ,V=−E0(r−R3r2)cos⁡θ(r≥R)\phi=E_0R\Bigl(\frac Rr\Bigr)^2\cos\theta,\qquad V=-E_0\Bigl(r-\frac{R^3}{r^2}\Bigr)\cos\theta\quad(r\ge R)

です。ϕ\phi には 1/r1/r の項がない(単極子成分が 00)ので総電荷は 00 で、「中性の導体球」という条件に合っています。補題 4.2 (ii) から表面電荷は

σ=−ε0∂rV∣r=R=ε0E0(1+2R3r3)cos⁡θ∣r=R=3ε0E0cos⁡θ\sigma=-\varepsilon_0\partial_rV\Big|_{r=R}=\varepsilon_0E_0\Bigl(1+\frac{2R^3}{r^3}\Bigr)\cos\theta\Big|_{r=R}=3\varepsilon_0E_0\cos\theta

です。球の北極側(E0\boldsymbol{E}_0 向きの側)に正、南極側に負の電荷が現れ、球の外の電場は赤道付近で弱く、極付近で 3E03E_0 に強まります。

+ + +− − −E₀(一様電場)導体球
一様電場(上向き)の中の導体球の断面の模式図。北極側に正、南極側に負の電荷が現れ、電気力線は表面に垂直に出入りする。線の本数は強さの目安にすぎない。

境界が平面で囲まれているときは直交座標を使います。必要なのは三角関数の直交性だけです。

補題 5.9(正弦関数の直交性)✓

正の整数 m,nm,n について ∫0asin⁡mπxasin⁡nπxa dx=a2δmn\displaystyle\int_0^a\sin\frac{m\pi x}{a}\sin\frac{n\pi x}{a}\,dx=\frac a2\delta_{mn} である。

証明(補題 5.9)

積和公式 sin⁡Asin⁡B=12[cos⁡(A−B)−cos⁡(A+B)]\sin A\sin B=\frac12[\cos(A-B)-\cos(A+B)] より、積分は 12∫0a[cos⁡(m−n)πxa−cos⁡(m+n)πxa]dx\frac12\int_0^a\bigl[\cos\frac{(m-n)\pi x}{a}-\cos\frac{(m+n)\pi x}{a}\bigr]dx です。整数 k≠0k\ne0 に対して ∫0acos⁡(kπx/a)dx=akπsin⁡kπ=0\int_0^a\cos(k\pi x/a)dx=\frac{a}{k\pi}\sin k\pi=0 なので、m≠nm\ne n なら 00、m=nm=n なら第 1 項が aa を与え a2\frac a2 です。

例 5.10(半無限の溝)

幅 aa の半無限の溝 0<x<a0<x<a、y>0y>0 を考え、2 つの側壁 x=0x=0、x=ax=a は電位 00、底面 y=0y=0 は電位 V0V_0(一定)、y→∞y\to\infty で V→0V\to0 とします(zz 方向に一様な 2 次元問題)。

V=X(x)Y(y)V=X(x)Y(y) と分離して ΔV=0\Delta V=0 に代入すると X′′/X=−Y′′/YX''/X=-Y''/Y で、左辺は xx のみ、右辺は yy のみの関数なので共通の定数 −k2-k^2 に等しくなります。側壁の条件を満たす XX は X=sin⁡(kx)X=\sin(k x)、k=nπ/ak=n\pi/a(n=1,2,…n=1,2,\dots)で、このとき Y′′=k2YY''=k^2Y の y→∞y\to\infty で有界な解は Y=e−kyY=e^{-ky} です。各 sin⁡(nπx/a)e−nπy/a\sin(n\pi x/a)e^{-n\pi y/a} は調和で、側壁と無限遠の条件を満たします。そこで

V(x,y)=∑n=1∞cnsin⁡nπxa e−nπy/aV(x,y)=\sum_{n=1}^\infty c_n\sin\frac{n\pi x}{a}\,e^{-n\pi y/a}

と置き、底面 y=0y=0 で V=V0V=V_0 となるように cnc_n を選びます。補題 5.9 により

cn=2a∫0aV0sin⁡nπxadx=2V0nπ(1−(−1)n)={4V0/(nπ)(n 奇数)0(n 偶数)c_n=\frac2a\int_0^aV_0\sin\frac{n\pi x}{a}dx=\frac{2V_0}{n\pi}\bigl(1-(-1)^n\bigr)=\begin{cases}4V_0/(n\pi)&(n\ \text{奇数})\\0&(n\ \text{偶数})\end{cases}

です。したがって

V(x,y)=4V0π∑n=1,3,5,…1nsin⁡nπxa e−nπy/a.V(x,y)=\frac{4V_0}{\pi}\sum_{n=1,3,5,\dots}\frac1n\sin\frac{n\pi x}{a}\,e^{-n\pi y/a}.

y>0y>0 では e−nπy/ae^{-n\pi y/a} のおかげで級数は速く収束します。たとえば x=a/2x=a/2、y=a/2y=a/2 では n=1,3,5n=1,3,5 の項が e−π/2−13e−3π/2+15e−5π/2≈0.2079−0.0030+0.00008=0.2050e^{-\pi/2}-\frac13e^{-3\pi/2}+\frac15e^{-5\pi/2}\approx0.2079-0.0030+0.00008=0.2050 となり、V≈4π×0.2050 V0≈0.261V0V\approx\frac4\pi\times0.2050\,V_0\approx0.261V_0 です。底面の中央 y=0y=0 では V0V_0、yy とともに急速に減ります。

注意 5.11

例 5.10 の級数は y=0y=0 の角(x=0,ax=0,a)で境界値が不連続(V0V_0 と 00)なため、底面でちょうど V0V_0 に収束するのは内点 0<x<a0<x<a についてだけで、角の近くでは収束が遅く(ギブス現象。フーリエ級数のギブス現象(定理 6.1)[フーリエ級数] を参照)、解は角で連続ではありません。底面での級数 4V0π∑n 奇数1nsin⁡nπxa\frac{4V_0}{\pi}\sum_{n\text{ 奇数}}\frac1n\sin\frac{n\pi x}{a} が 0<x<a0<x<a で V0V_0 に収束することは、方形波(区分的に定数)のフーリエ級数の収束として Dirichlet–Jordan の定理(定理 3.4)[フーリエ級数] から従います。このような角のある問題は 定義 2.1 の C2(Ω‾)C^2(\overline\Omega) の枠からはずれますが、角を除いた領域では上の VV は調和で、境界条件を満たします。


電荷が有限の領域に集まっているとき、遠方のポテンシャルを 1/r1/r の冪に展開できます。母関数 GG がそのまま使えます。遠くから見ると電荷の集まりはほぼ 1 つの点電荷に見え、その細かい偏りが 1/r1/r の冪が大きい項として順に現れる、というのが全体の見取り図です。

定理 6.1(多重極展開)✓

ρ\rho を ∣y∣≤a|\boldsymbol{y}|\le a の外で 00 となる連続な電荷密度とする。r=∣x∣>ar=|\boldsymbol{x}|>a の点で、静電ポテンシャル V(x)=14πε0∫ρ(y)∣x−y∣dVyV(\boldsymbol{x})=\dfrac{1}{4\pi\varepsilon_0}\displaystyle\int\frac{\rho(\boldsymbol{y})}{|\boldsymbol{x}-\boldsymbol{y}|}dV_y は

V(x)=14πε0∑l=0∞1rl+1∫ρ(y) ∣y∣l Pl(cos⁡γ) dVy,cos⁡γ=x⋅y∣x∣∣y∣V(\boldsymbol{x})=\frac{1}{4\pi\varepsilon_0}\sum_{l=0}^\infty\frac{1}{r^{l+1}}\int\rho(\boldsymbol{y})\,|\boldsymbol{y}|^l\,P_l(\cos\gamma)\,dV_y,\qquad\cos\gamma=\frac{\boldsymbol{x}\cdot\boldsymbol{y}}{|\boldsymbol{x}||\boldsymbol{y}|}

と展開され、級数は r≥a′>ar\ge a'>a で一様に収束する。

証明(定理 6.1)

r′=∣y∣≤a<rr'=|\boldsymbol{y}|\le a<r とします。余弦定理により ∣x−y∣2=r2−2rr′cos⁡γ+r′2=r2(1−2xt+t2)|\boldsymbol{x}-\boldsymbol{y}|^2=r^2-2rr'\cos\gamma+r'^2=r^2(1-2xt+t^2)、ただし x=cos⁡γx=\cos\gamma、t=r′/r≤a/r<1t=r'/r\le a/r<1 です。定義 5.1 から

1∣x−y∣=1rG(cos⁡γ,t)=∑l=0∞r′lrl+1Pl(cos⁡γ).\frac{1}{|\boldsymbol{x}-\boldsymbol{y}|}=\frac1rG(\cos\gamma,t)=\sum_{l=0}^\infty\frac{r'^l}{r^{l+1}}P_l(\cos\gamma) .

命題 5.2 (ii) より第 ll 項の絶対値は ≤al/rl+1≤al/a′l+1\le a^l/r^{l+1}\le a^l/a'^{l+1} で、a/a′<1a/a'<1 の等比級数で押さえられます。したがって y\boldsymbol{y} について一様に収束し、ρ\rho は有界で台がコンパクトですから、積分と和を入れ替えられます。

最初の 3 項に名前が付いています。l=0l=0 は単極子で

V0(x)=Q4πε0r,Q=∫ρ dVyV_0(\boldsymbol{x})=\frac{Q}{4\pi\varepsilon_0r},\qquad Q=\int\rho\,dV_y

(総電荷)、l=1l=1 は双極子で、∣y∣cos⁡γ=y⋅x^|\boldsymbol{y}|\cos\gamma=\boldsymbol{y}\cdot\hat{\boldsymbol{x}} に注意して

V1(x)=p⋅x4πε0r3,p=∫ρ(y) y dVyV_1(\boldsymbol{x})=\frac{\boldsymbol{p}\cdot\boldsymbol{x}}{4\pi\varepsilon_0r^3},\qquad\boldsymbol{p}=\int\rho(\boldsymbol{y})\,\boldsymbol{y}\,dV_y

(双極子モーメント)です。l=2l=2 は四重極子で、P2(cos⁡γ)=12(3cos⁡2γ−1)P_2(\cos\gamma)=\frac12(3\cos^2\gamma-1) より

V2(x)=18πε0r5∑i,jQijxixj,Qij=∫ρ(y)(3yiyj−∣y∣2δij)dVyV_2(\boldsymbol{x})=\frac{1}{8\pi\varepsilon_0r^5}\sum_{i,j}Q_{ij}x_ix_j,\qquad Q_{ij}=\int\rho(\boldsymbol{y})\bigl(3y_iy_j-|\boldsymbol{y}|^2\delta_{ij}\bigr)dV_y

です。

命題 6.2(双極子の電場と原点の取り方)✓

(i) 原点以外で、双極子ポテンシャル V1V_1 の電場は E=14πε03(p⋅r^)r^−pr3\boldsymbol{E}=\dfrac{1}{4\pi\varepsilon_0}\dfrac{3(\boldsymbol{p}\cdot\hat{\boldsymbol{r}})\hat{\boldsymbol{r}}-\boldsymbol{p}}{r^3} である。

(ii) 総電荷が Q=0Q=0 のとき、p\boldsymbol{p} は原点の取り方によらない。

証明(命題 6.2)

(i) ∇(p⋅x)=p\nabla(\boldsymbol{p}\cdot\boldsymbol{x})=\boldsymbol{p}、∇r−3=−3xr−5\nabla r^{-3}=-3\boldsymbol{x}r^{-5} なので −∇p⋅xr3=−pr3+3(p⋅x)xr5-\nabla\dfrac{\boldsymbol{p}\cdot\boldsymbol{x}}{r^3}=-\dfrac{\boldsymbol{p}}{r^3}+\dfrac{3(\boldsymbol{p}\cdot\boldsymbol{x})\boldsymbol{x}}{r^5} で、x=rr^\boldsymbol{x}=r\hat{\boldsymbol{r}} を代入すれば主張の形です。

(ii) 原点を b\boldsymbol{b} だけずらすと y→y−b\boldsymbol{y}\to\boldsymbol{y}-\boldsymbol{b} で、p′=∫ρ(y−b) dV=p−Qb\boldsymbol{p}'=\int\rho(\boldsymbol{y}-\boldsymbol{b})\,dV=\boldsymbol{p}-Q\boldsymbol{b} です。Q=0Q=0 なら p′=p\boldsymbol{p}'=\boldsymbol{p} です。

例 6.3(直線四重極子)

zz 軸上の (0,0,±a)(0,0,\pm a) に電荷 qq、原点に −2q-2q を置きます。Q=0Q=0、p=qaez−qaez=0\boldsymbol{p}=q a\boldsymbol{e}_z-qa\boldsymbol{e}_z=\boldsymbol{0} なので、遠方の主要項は四重極子です。Qzz=2q(3a2−a2)=4qa2Q_{zz}=2q(3a^2-a^2)=4qa^2、Qxx=Qyy=2q(0−a2)=−2qa2Q_{xx}=Q_{yy}=2q(0-a^2)=-2qa^2、非対角成分は 00 なので

V2=18πε0r5[4qa2z2−2qa2(x2+y2)]=qa24πε0r3(3cos⁡2θ−1)=2qa24πε0r3P2(cos⁡θ)V_2=\frac{1}{8\pi\varepsilon_0r^5}\bigl[4qa^2z^2-2qa^2(x^2+y^2)\bigr]=\frac{qa^2}{4\pi\varepsilon_0r^3}(3\cos^2\theta-1)=\frac{2qa^2}{4\pi\varepsilon_0r^3}P_2(\cos\theta)

です。直接確かめます。q∣x∓aez∣=qr∑l(ar)lPl(±cos⁡θ)\dfrac{q}{|\boldsymbol{x}\mp a\boldsymbol{e}_z|}=\dfrac qr\sum_l\bigl(\dfrac ar\bigr)^lP_l(\pm\cos\theta) の和をとると偶数次の項が 2 倍に、奇数次が相殺し、−2q/r-2q/r と合わせて l=0l=0 の項も消えるので V=14πε02qa2r3P2(cos⁡θ)+O(r−5)V=\dfrac{1}{4\pi\varepsilon_0}\dfrac{2qa^2}{r^3}P_2(\cos\theta)+O(r^{-5}) となり、上と一致します。四重極子ポテンシャルは 1/r31/r^3 で減衰し、点電荷(1/r1/r)や双極子(1/r21/r^2)より速く小さくなります。


この節のねらいは、複数の導体の電位と電荷の関係を 1 つの行列 (Cij)(C_{ij}) にまとめ、その性質を言葉にすることです。Cij=CjiC_{ij}=C_{ji} は「jj 番目に電位を与えたとき ii 番目に現れる電荷」と「ii 番目に電位を与えたとき jj 番目に現れる電荷」が等しいという意味で、行列が正定値であることは、どの導体にどんな電位を与えてもエネルギーが負にならず、0 になるのは全部の電位が 0 のときだけだ、という意味です。

真空中に nn 個の導体 K1,…,KnK_1,\dots,K_n があり、その外側の領域を Ω\Omega、KiK_i の表面を SiS_i、SiS_i から Ω\Omega へ向かう法線を n\boldsymbol{n} とします。導体の外側に電荷はないとします。補題 4.2 から、各導体は一定電位 ViV_i をもち、Ω\Omega では ΔV=0\Delta V=0 で、無限遠で減衰します。この外部ディリクレ問題の解は一意(定理 3.1 (c))で、その存在は偏微分方程式論の標準的な結果として認めます。

φj\varphi_j を「SjS_j で 11、他の SiS_i で 00、無限遠で減衰」を満たす調和関数とすると、解の一意性から V=∑jVjφjV=\sum_jV_j\varphi_j が成り立ちます。表面電荷の総量は 補題 4.2 (ii) より Qi=∮Siσ dS=−ε0∮Si∂nV dSQ_i=\oint_{S_i}\sigma\,dS=-\varepsilon_0\oint_{S_i}\partial_nV\,dS なので、次の線形関係を得ます。

定義 7.1(静電容量係数)↗

Qi=∑j=1nCijVj,Cij=−ε0∮Si∂nφj dS.Q_i=\sum_{j=1}^nC_{ij}V_j,\qquad C_{ij}=-\varepsilon_0\oint_{S_i}\partial_n\varphi_j\,dS .

CijC_{ij} を静電容量係数という。

定理 7.2(静電容量係数の対称性とエネルギー)✓

(i) Cij=CjiC_{ij}=C_{ji} である。

(ii) 電場のエネルギー W=ε02∫Ω∣E∣2dVW=\dfrac{\varepsilon_0}{2}\displaystyle\int_\Omega|\boldsymbol{E}|^2dV は

W=12∑iQiVi=12∑i,jCijViVjW=\frac12\sum_iQ_iV_i=\frac12\sum_{i,j}C_{ij}V_iV_j

に等しい。

(iii) W≥0W\ge0 で、W=0W=0 となるのはすべての Vi=0V_i=0 のときに限る。すなわち行列 (Cij)(C_{ij}) は正定値である。

ここで電場のエネルギーは、エネルギー密度(定義 6.1)[マクスウェル方程式と電磁波] ε0∣E∣2/2\varepsilon_0|\boldsymbol{E}|^2/2 の体積分として定義したものです。

証明(定理 7.2)

ΩR=Ω∩{∣x∣<R}\Omega_R=\Omega\cap\{|\boldsymbol{x}|<R\} とします。∂ΩR\partial\Omega_R は ⋃Sk\bigcup S_k(外向き法線は −n-\boldsymbol{n})と大きな球面 SRS_R からなります。

(i) 命題 2.2 の第二恒等式を φi,φj\varphi_i,\varphi_j に使うと、両者とも調和なので左辺は 00 で

0=∮SR(φi∂rφj−φj∂rφi)dS−∑k∮Sk(φi∂nφj−φj∂nφi)dS.0=\oint_{S_R}\bigl(\varphi_i\partial_r\varphi_j-\varphi_j\partial_r\varphi_i\bigr)dS-\sum_k\oint_{S_k}\bigl(\varphi_i\partial_n\varphi_j-\varphi_j\partial_n\varphi_i\bigr)dS .

SkS_k 上で φi=δik\varphi_i=\delta_{ik}、φj=δjk\varphi_j=\delta_{jk} なので、kk の和は ∮Si∂nφj dS−∮Sj∂nφi dS\oint_{S_i}\partial_n\varphi_j\,dS-\oint_{S_j}\partial_n\varphi_i\,dS です。SRS_R の項は、減衰条件により ≤4πR2⋅2C2R−3→0\le4\pi R^2\cdot2C^2R^{-3}\to0 なので、R→∞R\to\infty で ∮Si∂nφj dS=∮Sj∂nφi dS\oint_{S_i}\partial_n\varphi_j\,dS=\oint_{S_j}\partial_n\varphi_i\,dS、すなわち Cij=CjiC_{ij}=C_{ji} です。

(ii) 第一恒等式を φ=ψ=V\varphi=\psi=V に使うと ∫ΩR∣∇V∣2dV=∮SRV∂rV dS−∑k∮SkV∂nV dS\int_{\Omega_R}|\nabla V|^2dV=\oint_{S_R}V\partial_rV\,dS-\sum_k\oint_{S_k}V\partial_nV\,dS です。SRS_R の項は R→∞R\to\infty で 00、SkS_k 上では V=VkV=V_k なので、∫Ω∣∇V∣2dV=−∑kVk∮Sk∂nV dS=1ε0∑kVkQk\int_\Omega|\nabla V|^2dV=-\sum_kV_k\oint_{S_k}\partial_nV\,dS=\dfrac{1}{\varepsilon_0}\sum_kV_kQ_k となります。E=−∇V\boldsymbol{E}=-\nabla V と Qk=∑jCkjVjQ_k=\sum_jC_{kj}V_j を使えば (ii) です。

(iii) (ii) より W≥0W\ge0。W=0W=0 なら ∇V≡0\nabla V\equiv\boldsymbol{0} で、VV は定数、無限遠で 00 なので V≡0V\equiv0、したがって各 Vi=0V_i=0 です。

注意 7.3

(i) は相反定理の一例です。KjK_j に単位電位を与えたとき KiK_i に現れる電荷と、KiK_i に単位電位を与えたとき KjK_j に現れる電荷が等しい、という内容で、2 つの導体の形や位置がどれほど非対称でも成り立ちます。

2 つの導体に電荷 +Q+Q と −Q-Q を与えたとき、電位差 ΔV=V1−V2\Delta V=V_1-V_2 は QQ に比例します。比例定数の逆数 C=Q/ΔVC=Q/\Delta V を静電容量といい、定理 7.2 (ii) から W=12Q ΔV=Q22CW=\frac12Q\,\Delta V=\dfrac{Q^2}{2C} です。

例 7.4(同心球コンデンサと孤立球)

半径 aa の内球に +Q+Q、半径 b>ab>a の外球殻(内半径 bb)に −Q-Q を与えます。球対称性から E=E(r)r^\boldsymbol{E}=E(r)\hat{\boldsymbol{r}} で、ガウスの法則(定理 4.4[静電場とガウスの法則])により a<r<ba<r<b で E=Q/(4πε0r2)E=Q/(4\pi\varepsilon_0r^2) です。電位差は

ΔV=∫abQ4πε0r2dr=Q4πε0(1a−1b),C=4πε0abb−a.\Delta V=\int_a^b\frac{Q}{4\pi\varepsilon_0r^2}dr=\frac{Q}{4\pi\varepsilon_0}\Bigl(\frac1a-\frac1b\Bigr),\qquad C=\frac{4\pi\varepsilon_0ab}{b-a} .

b→∞b\to\infty とすると、孤立した半径 aa の球の静電容量 C=4πε0aC=4\pi\varepsilon_0a が得られます(地球の半径 6.4×106 m6.4\times10^6\,\mathrm{m} では C≈7×10−4 FC\approx7\times10^{-4}\,\mathrm{F} です)。

例 7.5(平行板コンデンサ)

面積 SS の 2 枚の板を間隔 dd で向かい合わせ、dd が板の大きさに比べて十分小さいとして縁の効果を無視します。電荷が一様に ±σ=±Q/S\pm\sigma=\pm Q/S のとき、板の間の電場はガウスの法則から E=σ/ε0E=\sigma/\varepsilon_0 で一様です。ΔV=Ed=Qd/(ε0S)\Delta V=Ed=Qd/(\varepsilon_0S) なので C=ε0S/dC=\varepsilon_0S/d です。たとえば S=1 cm2S=1\,\mathrm{cm}^2、d=0.1 mmd=0.1\,\mathrm{mm} では C=8.85×10−12×10−4/10−4≈8.9×10−12 FC=8.85\times10^{-12}\times10^{-4}/10^{-4}\approx8.9\times10^{-12}\,\mathrm{F} で、ピコファラッド程度です。


演習 8.1標準

互いに直交する 2 枚の接地導体平面 x=0x=0 と y=0y=0 の間の第 1 象限(x>0,y>0x>0,y>0)の点 (a,b,0)(a,b,0) に点電荷 qq を置く。鏡像法で電位を求め、必要な像電荷の個数・位置・符号を答えよ。

解答

x=0x=0 に関する鏡像 (−a,b)(-a,b) に −q-q、y=0y=0 に関する鏡像 (a,−b)(a,-b) に −q-q、さらに原点に関する点対称な位置 (−a,−b)(-a,-b) に +q+q の計 3 個の像電荷を置きます。電位は

V=q4πε0[1r1−1r2−1r3+1r4]V=\frac{q}{4\pi\varepsilon_0}\Bigl[\frac{1}{r_1}-\frac1{r_2}-\frac1{r_3}+\frac1{r_4}\Bigr]

です。ここで r1,r2,r3,r4r_1,r_2,r_3,r_4 は (x,y,z)(x,y,z) から (a,b,0)(a,b,0)、(−a,b,0)(-a,b,0)、(a,−b,0)(a,-b,0)、(−a,−b,0)(-a,-b,0) までの距離で、たとえば r2=(x+a)2+(y−b)2+z2r_2=\sqrt{(x+a)^2+(y-b)^2+z^2} です。x=0x=0 では r1=r2r_1=r_2、r3=r4r_3=r_4 により V=0V=0、y=0y=0 では r1=r3r_1=r_3、r2=r4r_2=r_4 により V=0V=0 です。像電荷はすべて第 1 象限の外にあり、無限遠で V→0V\to0 なので、定理 3.1 により唯一の解です。像が 2 個では足りません(x=0x=0 だけが満たされるため)。

演習 8.2標準

半径 RR の球面上の電位が V0cos⁡2θV_0\cos^2\theta であるとき、球の内部と外部の電位を求めよ。

解答

cos⁡2θ=13+23P2(cos⁡θ)\cos^2\theta=\frac13+\frac23P_2(\cos\theta) です(P2=(3x2−1)/2P_2=(3x^2-1)/2 より x2=(2P2+1)/3x^2=(2P_2+1)/3)。よって f0=V0/3f_0=V_0/3、f2=2V0/3f_2=2V_0/3 で、定理 5.6 から

Vin=V0[13+23(rR)2P2(cos⁡θ)],Vout=V0[13Rr+23(Rr)3P2(cos⁡θ)]V_{\text{in}}=V_0\Bigl[\frac13+\frac23\Bigl(\frac rR\Bigr)^2P_2(\cos\theta)\Bigr],\qquad V_{\text{out}}=V_0\Bigl[\frac13\frac Rr+\frac23\Bigl(\frac Rr\Bigr)^3P_2(\cos\theta)\Bigr]

です。外部の 1/r1/r の項は総電荷 Q=4πε0RV0/3Q=4\pi\varepsilon_0RV_0/3 に対応します。

演習 8.3易

半径 aa の長い直線導体を半径 b>ab>a の同軸円筒導体が囲む。単位長さあたりの静電容量が C/L=2πε0/ln⁡(b/a)C/L=2\pi\varepsilon_0/\ln(b/a) であることを示せ。

解答

単位長さあたり ±λ\pm\lambda の電荷を与えます。軸対称性と、軸に垂直な方向に電場がないことから、半径 rr の長さ LL の円筒面にガウスの法則を使うと E⋅2πrL=λL/ε0E\cdot2\pi rL=\lambda L/\varepsilon_0、すなわち E=λ/(2πε0r)E=\lambda/(2\pi\varepsilon_0r) です。電位差は ΔV=∫abE dr=λ2πε0ln⁡ba\Delta V=\int_a^b E\,dr=\dfrac{\lambda}{2\pi\varepsilon_0}\ln\dfrac ba なので、C/L=λ/ΔV=2πε0/ln⁡(b/a)C/L=\lambda/\Delta V=2\pi\varepsilon_0/\ln(b/a) です。

演習 8.4難

Ω\Omega を半径 RR の球とし、ノイマン問題 ΔV=0\Delta V=0、∂rV∣r=R=h(θ)=cos⁡θ\partial_rV|_{r=R}=h(\theta)=\cos\theta を考える。解の一意性(定数を除く)を示した 定理 3.1 (b) を踏まえ、解を求めよ。また h≡1h\equiv1(定数)のときの解の存在について論ぜよ。

解答

解の候補は 命題 5.5 から V=Arcos⁡θV=Ar\cos\theta(r1P1r^1P_1)です。∂rV∣r=R=Acos⁡θ=cos⁡θ\partial_rV|_{r=R}=A\cos\theta=\cos\theta より A=1A=1 で、V=rcos⁡θ=zV=r\cos\theta=z(定数の不定性を除く)です。一意性は (b) によります。h≡1h\equiv1 では、注意 3.2 の整合条件 ∮h dS=4πR2≠0=−1ε0∫ρ dV\oint h\,dS=4\pi R^2\ne0=-\frac{1}{\varepsilon_0}\int\rho\,dV が破れるので(ρ=0\rho=0 のとき)解は存在しません。電荷がない領域の境界で、外向きの電場成分が全域で同じ符号(h≡1h\equiv1 では Er=−∂rV=−1<0E_r=-\partial_rV=-1<0)になることはあり得ないという、ガウスの法則の帰結です。


  • J. D. Jackson『電磁気学(原書第 3 版)』(Classical Electrodynamics, 3rd ed., Wiley, 1999)— 第 1 章(一意性・グリーンの定理・静電容量)、第 2 章(鏡像法)、第 3 章(球座標・ルジャンドル多項式・多重極展開)。
  • D. J. Griffiths, Introduction to Electrodynamics, 4th ed., Cambridge University Press, 2017 — 第 3 章(Special Techniques)。
  • 砂川重信『理論電磁気学(第 3 版)』紀伊國屋書店、1999 — 静電場の境界値問題の章。
  • L. C. Evans, Partial Differential Equations, 2nd ed., American Mathematical Society, 2010 — 第 2 章(ラプラス方程式、調和関数、グリーン関数)。
  • L. D. Landau, E. M. Lifshitz, Electrodynamics of Continuous Media, 2nd ed., Pergamon Press, 1984 — 第 1 章(導体の静電場、静電容量)。

このテーマの 100 本ノック(100 問)

執筆: Claude Code(Sonnet 5.5)・監査 2 回(Claude Code)・最終 2026-10-12

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