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電磁放射:遅延ポテンシャルからラーモアの公式と放射反作用まで

対象読者: 本テーマ第 4・5 章のマクスウェル方程式とゲージ変換(ローレンツゲージ)を学んだ人と、学部の波動方程式とフーリエ変換の初歩を知っている人。グリーン関数やデルタ関数は簡単に説明し、特殊相対論は仮定しません。

前提となる記事:電磁ポテンシャルとゲージ変換:場の裏にある「余分な自由度」、マクスウェル方程式と電磁波:4 本の式から光速が出てくるまで

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アンテナから出た電波が遠くのラジオに届くまでには時間がかかり、電荷を揺らした影響は光の速さで遠くへ伝わっていきます。この記事では、電荷が動いたとき、離れた場所の電場や磁場がいつ・どのように決まるのかを、式で順に確かめます。読み終えると、加速する電荷がどれだけのエネルギーを電磁波として放出するかを計算でき、水素原子を古典的に考えると一瞬で潰れてしまう理由も説明できるようになります。

  • ローレンツゲージのポテンシャルは波動方程式 □φ=−ρ/ε0\Box\varphi=-\rho/\varepsilon_0、□A=−μ0J\Box\boldsymbol{A}=-\mu_0\boldsymbol{J} に従い、その解は遅延ポテンシャル φ(x,t)=14πε0∫ρ(y, t−∣x−y∣/c)∣x−y∣dVy\varphi(\boldsymbol{x},t)=\frac{1}{4\pi\varepsilon_0}\int\frac{\rho(\boldsymbol{y},\,t-|\boldsymbol{x}-\boldsymbol{y}|/c)}{|\boldsymbol{x}-\boldsymbol{y}|}dV_y です。「x\boldsymbol{x} での値は、光が届くだけ前の電荷の状態で決まる」という因果性を表します。
  • 動く点電荷の遅延ポテンシャルは、遅延時刻での位置・速度だけで書けます(リエナール・ヴィーヘルトポテンシャル)。等速運動の場合はローレンツ変換されたクーロンポテンシャルに一致します。
  • 遠方では場が 1/r1/r で減衰し、エネルギーを無限遠まで運ぶ波(放射場)が残ります。電荷分布の大きさが波長より十分小さければ、放射場は双極子モーメントの 2 階微分 p¨\ddot{\boldsymbol{p}} だけで決まり、全放射パワーは μ0∣p¨∣2/(6πc)\mu_0|\ddot{\boldsymbol{p}}|^2/(6\pi c) です。点電荷ならラーモアの公式 P=q2a2/(6πε0c3)P=q^2a^2/(6\pi\varepsilon_0c^3) になります。
  • 放射でエネルギーを失う電荷には反作用の力が働きます。エネルギー収支から求めたアブラハム・ローレンツ方程式 ma=F+mτa˙m\boldsymbol{a}=\boldsymbol{F}+m\tau\dot{\boldsymbol{a}} には、暴走解と前加速という奇妙な性質があります。
  • 電荷が瞬間的に速度を変えると、放射エネルギーのスペクトルは低周波側で一定値に近づきます。そのため光子の個数は低周波側で対数発散します(赤外発散の古典的な起源)。

1. 動機:場はどのようにして遠くへ行くのか

Section titled “1. 動機:場はどのようにして遠くへ行くのか”

マクスウェル方程式と電磁波 では、真空中の電磁波が cc で伝わる横波であることを示しました。しかし、そこで考えたのは電荷のない空間を伝わる波で、波が「どこから来たか」は問いませんでした。電磁ポテンシャルとゲージ変換 では、ローレンツゲージで電磁ポテンシャルが波動方程式に従うことまで示しました。ただし、その方程式を実際に解いて、電荷や電流から場がどのように立ち上がるかは扱っていません。

この記事は、その残りを埋めます。

  1. 源のある波動方程式の解を、具体的な積分公式として書く(§3)。
  2. それを動く点電荷に適用する(§4)。
  3. 遠方に残る波を取り出し、運ばれるエネルギーを計算する(§5)。
  4. エネルギーを放射する電荷には、それに見合う反作用が働くはずだと考えて、運動方程式を修正する(§6)。

静電場や定常電流の場は 1/r21/r^2 で減衰するので、遠方の球面を通る全エネルギーは 4πr2⋅r−4→04\pi r^2\cdot r^{-4}\to0 です。ところが、加速された電荷の場は 1/r1/r の項をもちます。ポインティング・ベクトルが r−2r^{-2} なら、球面を通るエネルギーは rr によらず、電荷から無限遠まで運ばれていきます。これが放射です。


□=∇2−c−2∂t2\Box=\nabla^2-c^{-2}\partial_t^2 と書きます。ローレンツゲージ条件(定義 5.1)[電磁ポテンシャルとゲージ変換] は ∇⋅A+c−2∂tφ=0\nabla\cdot\boldsymbol{A}+c^{-2}\partial_t\varphi=0 で、そのもとで電磁ポテンシャルは 系 5.3[電磁ポテンシャルとゲージ変換] の

□φ=−ρε0,□A=−μ0J\Box\varphi=-\frac{\rho}{\varepsilon_0},\qquad\Box\boldsymbol{A}=-\mu_0\boldsymbol{J}

に従います。電荷保存則 ∂tρ+∇⋅J=0\partial_t\rho+\nabla\cdot\boldsymbol{J}=0 も仮定します(命題 3.4[マクスウェル方程式と電磁波])。

以下、ρ,J\rho,\boldsymbol{J} は R3×R\mathbb{R}^3\times\mathbb{R} 上の C2C^2 級関数で、空間的には有界な領域 ∣y∣≤L|\boldsymbol{y}|\le L の外で 00 とします。単位球面 S2S^2 上の面積要素を dσd\sigma とします。


波動方程式を解くための鍵は、関数の球面平均(点 x\boldsymbol{x} を中心とする半径 rr の球面上で、関数の値を平均したもの)を考えることです。次の補題は、rr を変えたとき球面平均がどう変化するかを調べるもので、§3.2 で波動方程式を 1 次元の積分に直すために使います。

補題 3.1(球面平均の補題)✓

f∈C2(R3×R)f\in C^2(\mathbb{R}^3\times\mathbb{R}) で、空間的に有界な台をもつとし、

M(x,r,s)=14π∫S2f(x+rω,s) dσ(ω)(r≥0)M(\boldsymbol{x},r,s)=\frac{1}{4\pi}\int_{S^2}f(\boldsymbol{x}+r\boldsymbol{\omega},s)\,d\sigma(\boldsymbol{\omega})\qquad(r\ge0)

と定める。このとき (i) M(x,0,s)=f(x,s)M(\boldsymbol{x},0,s)=f(\boldsymbol{x},s)、(ii) r>0r>0 で ∂rM=14πr2∫∣y−x∣<r∇2f(y,s) dVy\partial_rM=\dfrac{1}{4\pi r^2}\displaystyle\int_{|\boldsymbol{y}-\boldsymbol{x}|<r}\nabla^2f(\boldsymbol{y},s)\,dV_y で、とくに r→0r\to0 で ∂rM=O(r)\partial_rM=O(r)、(iii) ∇x2M=1r2∂r(r2∂rM)\nabla_{\boldsymbol{x}}^2M=\dfrac{1}{r^2}\partial_r\bigl(r^2\partial_rM\bigr) である。

証明(補題 3.1)

(i) は ff の連続性から明らかです。(ii) ∂rM=14π∫ω⋅∇f(x+rω,s) dσ\partial_rM=\frac{1}{4\pi}\int\boldsymbol{\omega}\cdot\nabla f(\boldsymbol{x}+r\boldsymbol{\omega},s)\,d\sigma で、これは半径 rr の球面 Σr\Sigma_r 上の 14πr2∮Σr∂nf dS\frac{1}{4\pi r^2}\oint_{\Sigma_r}\partial_nf\,dS に等しく(dS=r2dσdS=r^2d\sigma、ω\boldsymbol{\omega} は外向き法線)、発散定理(定理 5.3)[静電場とガウスの法則] で ∇f\nabla f の発散の体積積分になります。球の体積は r3r^3 のオーダーなので ∂rM=O(r)\partial_rM=O(r) です。(iii) (ii) の両辺に r2r^2 を掛けて rr で微分すると、∂r(r2∂rM)=14π∮Σr∇2f dS=r2⋅14π∫S2∇2f(x+rω,s) dσ\partial_r(r^2\partial_rM)=\frac{1}{4\pi}\oint_{\Sigma_r}\nabla^2f\,dS=r^2\cdot\frac{1}{4\pi}\int_{S^2}\nabla^2f(\boldsymbol{x}+r\boldsymbol{\omega},s)\,d\sigma です。最後の積分は ∇2f\nabla^2f の球面平均で、積分記号の下で x\boldsymbol{x} について微分してよいので ∇x2M\nabla^2_{\boldsymbol{x}}M に等しくなります。

次の定理は、電荷や電流が与えられたとき、離れた点のポテンシャルを具体的な積分で書けると述べています。証明の方針は、積分を球面平均の rr についての積分に書き直し、補題で ∇2\nabla^2 を rr の微分に置き換えて、部分積分で端の値 −ρ(x,t)-\rho(\boldsymbol{x},t) だけを残すことです。偏微分が多いので、(i) では「MM を rr で微分したもの」を Φ\Phi、「MM を時間で微分したもの」を Ψ\Psi と名前を付けて追ってください。

定理 3.2(遅延ポテンシャル)✓

ρ,J\rho,\boldsymbol{J} を §2 の仮定を満たす電荷密度と電流密度とし、

φ(x,t)=14πε0∫ρ(y, t−∣x−y∣/c)∣x−y∣ dVy,A(x,t)=μ04π∫J(y, t−∣x−y∣/c)∣x−y∣ dVy\varphi(\boldsymbol{x},t)=\frac{1}{4\pi\varepsilon_0}\int\frac{\rho\bigl(\boldsymbol{y},\,t-|\boldsymbol{x}-\boldsymbol{y}|/c\bigr)}{|\boldsymbol{x}-\boldsymbol{y}|}\,dV_y,\qquad\boldsymbol{A}(\boldsymbol{x},t)=\frac{\mu_0}{4\pi}\int\frac{\boldsymbol{J}\bigl(\boldsymbol{y},\,t-|\boldsymbol{x}-\boldsymbol{y}|/c\bigr)}{|\boldsymbol{x}-\boldsymbol{y}|}\,dV_y

とおく。このとき

(i) φ,A\varphi,\boldsymbol{A} は C2C^2 級で、□φ=−ρ/ε0\Box\varphi=-\rho/\varepsilon_0、□A=−μ0J\Box\boldsymbol{A}=-\mu_0\boldsymbol{J} を満たす。

(ii) 電荷保存則のもとで、ローレンツゲージ条件 ∇⋅A+c−2∂tφ=0\nabla\cdot\boldsymbol{A}+c^{-2}\partial_t\varphi=0 を満たす。

(iii) E=−∇φ−∂tA\boldsymbol{E}=-\nabla\varphi-\partial_t\boldsymbol{A}、B=∇×A\boldsymbol{B}=\nabla\times\boldsymbol{A} は、源 (ρ,J)(\rho,\boldsymbol{J}) に対する真空のマクスウェル方程式(定義 3.1[マクスウェル方程式と電磁波])を満たす。

証明(定理 3.2)

y=x+z\boldsymbol{y}=\boldsymbol{x}+\boldsymbol{z} と変数を置き換えます。u(x,t):=14π∫ρ(x+z,t−∣z∣/c) ∣z∣−1dVzu(\boldsymbol{x},t):=\frac{1}{4\pi}\int\rho(\boldsymbol{x}+\boldsymbol{z},t-|\boldsymbol{z}|/c)\,|\boldsymbol{z}|^{-1}dV_z は φ=u/ε0\varphi=u/\varepsilon_0 に当たります。被積分関数の x,t\boldsymbol{x},t 依存性は ρ\rho だけを通じてで、∣z∣−1|\boldsymbol{z}|^{-1} は局所可積分なので、uu は C2C^2 級で微分は積分記号の中に入ります。極座標 z=rω\boldsymbol{z}=r\boldsymbol{\omega}(dVz=r2dr dσdV_z=r^2dr\,d\sigma)を使い、補題 3.1 の MM(f=ρf=\rho)で書くと

u(x,t)=∫0∞r M(x,r,t−r/c) dr.u(\boldsymbol{x},t)=\int_0^\infty r\,M\bigl(\boldsymbol{x},r,t-r/c\bigr)\,dr .

(i) 固定した x,t\boldsymbol{x},t に対し Φ(r)=Mr(x,r,t−r/c)\Phi(r)=M_r(\boldsymbol{x},r,t-r/c)、Ψ(r)=Ms(x,r,t−r/c)\Psi(r)=M_s(\boldsymbol{x},r,t-r/c) とおきます(Mr,MsM_r,M_s は第 2、第 3 引数についての偏導関数)。補題 3.1 (iii) により

∇2u=∫0∞1r [∂r(r2Mr)](r,t−r/c) dr.\nabla^2u=\int_0^\infty\frac1r\,\bigl[\partial_r(r^2M_r)\bigr](r,t-r/c)\,dr .

ddr[r2Mr(r,t−r/c)]=[∂r(r2Mr)]−1cr2Mrs\dfrac{d}{dr}\bigl[r^2M_r(r,t-r/c)\bigr]=\bigl[\partial_r(r^2M_r)\bigr]-\dfrac{1}{c}r^2M_{rs} なので、被積分関数は 1r(r2Φ)′+rcMrs\frac1r(r^2\Phi)'+\frac rcM_{rs} です。第 1 項は ∫0∞1r(r2Φ)′dr=∫0∞(2Φ+rΦ′) dr=∫0∞Φ dr+[rΦ]0∞=∫0∞Φ dr\int_0^\infty\frac1r(r^2\Phi)'dr=\int_0^\infty(2\Phi+r\Phi')\,dr=\int_0^\infty\Phi\,dr+[r\Phi]_0^\infty=\int_0^\infty\Phi\,dr です(r=0r=0 では 補題 3.1 (ii) により rΦ→0r\Phi\to0、rr が大きいと M=0M=0)。第 2 項は、Ψ′(r)=Msr−c−1Mss\Psi'(r)=M_{sr}-c^{-1}M_{ss} から Mrs=Ψ′+c−1MssM_{rs}=\Psi'+c^{-1}M_{ss} を使って

1c∫0∞rMrs dr=1c∫0∞rΨ′ dr+1c2∫0∞rMss dr=−1c∫0∞Ψ dr+1c2∂t2u\frac1c\int_0^\infty rM_{rs}\,dr=\frac1c\int_0^\infty r\Psi'\,dr+\frac{1}{c^2}\int_0^\infty rM_{ss}\,dr=-\frac1c\int_0^\infty\Psi\,dr+\frac{1}{c^2}\partial_t^2u

です(部分積分の境界項は 00。また ∂t2u=∫rMss dr\partial_t^2u=\int rM_{ss}\,dr)。まとめると

∇2u−1c2∂t2u=∫0∞(Φ−1cΨ)dr=∫0∞ddr[M(x,r,t−r/c)]dr=−M(x,0,t)=−ρ(x,t)\nabla^2u-\frac{1}{c^2}\partial_t^2u=\int_0^\infty\Bigl(\Phi-\frac1c\Psi\Bigr)dr=\int_0^\infty\frac{d}{dr}\Bigl[M(\boldsymbol{x},r,t-r/c)\Bigr]dr=-M(\boldsymbol{x},0,t)=-\rho(\boldsymbol{x},t)

で、□u=−ρ\Box u=-\rho、すなわち □φ=−ρ/ε0\Box\varphi=-\rho/\varepsilon_0 です。A\boldsymbol{A} の各成分も同様です(ρ→Ji\rho\to J_i、係数 μ0\mu_0)。

(ii) 置き換えた形で ∇⋅A=μ04π∫(∇⋅J)(x+z,t−∣z∣/c)∣z∣−1dVz\nabla\cdot\boldsymbol{A}=\frac{\mu_0}{4\pi}\int(\nabla\cdot\boldsymbol{J})(\boldsymbol{x}+\boldsymbol{z},t-|\boldsymbol{z}|/c)|\boldsymbol{z}|^{-1}dV_z で、∇⋅J=−∂tρ\nabla\cdot\boldsymbol{J}=-\partial_t\rho を代入すると =−μ0∂t14π∫ρ(…)∣z∣−1dVz=−μ0ε0∂tφ=−c−2∂tφ=-\mu_0\partial_t\frac{1}{4\pi}\int\rho(\ldots)|\boldsymbol{z}|^{-1}dV_z=-\mu_0\varepsilon_0\partial_t\varphi=-c^{-2}\partial_t\varphi です。

(iii) ∇⋅B=0\nabla\cdot\boldsymbol{B}=0 と ∇×E=−∂tB\nabla\times\boldsymbol{E}=-\partial_t\boldsymbol{B} は定義から従います(∇⋅(∇×A)=0\nabla\cdot(\nabla\times\boldsymbol{A})=0 は 補題 4.3[定常電流と静磁場]、∇×∇φ=0\nabla\times\nabla\varphi=\boldsymbol{0} とあわせて)。ガウスの法則は、(ii) を使い ∇⋅E=−∇2φ−∂t∇⋅A=−∇2φ+c−2∂t2φ=−□φ=ρ/ε0\nabla\cdot\boldsymbol{E}=-\nabla^2\varphi-\partial_t\nabla\cdot\boldsymbol{A}=-\nabla^2\varphi+c^{-2}\partial_t^2\varphi=-\Box\varphi=\rho/\varepsilon_0。アンペール・マクスウェルの法則は、補題 2.5[マクスウェル方程式と電磁波] と (ii) により ∇×B=∇(∇⋅A)−∇2A=−c−2∇∂tφ−∇2A\nabla\times\boldsymbol{B}=\nabla(\nabla\cdot\boldsymbol{A})-\nabla^2\boldsymbol{A}=-c^{-2}\nabla\partial_t\varphi-\nabla^2\boldsymbol{A} で、μ0J+c−2∂tE=μ0J−c−2∇∂tφ−c−2∂t2A\mu_0\boldsymbol{J}+c^{-2}\partial_t\boldsymbol{E}=\mu_0\boldsymbol{J}-c^{-2}\nabla\partial_t\varphi-c^{-2}\partial_t^2\boldsymbol{A} との差が −∇2A+c−2∂t2A−μ0J=−□A−μ0J=0-\nabla^2\boldsymbol{A}+c^{-2}\partial_t^2\boldsymbol{A}-\mu_0\boldsymbol{J}=-\Box\boldsymbol{A}-\mu_0\boldsymbol{J}=0 です。

「t−∣x−y∣/ct-|\boldsymbol{x}-\boldsymbol{y}|/c」を遅延時刻といいます。場 x\boldsymbol{x} の時刻 tt の値が、電荷が y\boldsymbol{y} にいた時刻 t−∣x−y∣/ct-|\boldsymbol{x}-\boldsymbol{y}|/c の状態で決まる、つまり影響が速さ cc で伝わることを表します。

注意 3.3

同じ波動方程式には t+∣x−y∣/ct+|\boldsymbol{x}-\boldsymbol{y}|/c を使った先進ポテンシャルも解として存在し、証明は 定理 3.2 (i) の c→−cc\to-c にあたります。方程式は時間反転で不変なので、どちらも解で、「原因が結果に先行する」解を選ぶのが遅延ポテンシャルです。源が無い過去に場がなかった(tt が十分負で φ=A=0\varphi=\boldsymbol{A}=0)という条件を課すと、解は遅延ポテンシャルただ一つに決まります(波動方程式の初期値問題の一意性による。本記事では認めます)。


4. 運動する点電荷:リエナール・ヴィーヘルトポテンシャル

Section titled “4. 運動する点電荷:リエナール・ヴィーヘルトポテンシャル”

軌道 rq(t)\boldsymbol{r}_q(t) を動く点電荷 qq の電荷密度は ρ(y,t)=q δ3(y−rq(t))\rho(\boldsymbol{y},t)=q\,\delta^3(\boldsymbol{y}-\boldsymbol{r}_q(t))、電流密度は J=qv(t)δ3(y−rq(t))\boldsymbol{J}=q\boldsymbol{v}(t)\delta^3(\boldsymbol{y}-\boldsymbol{r}_q(t))(v=r˙q\boldsymbol{v}=\dot{\boldsymbol{r}}_q)です。これは 定理 3.2 の仮定(C2C^2)を満たしませんが、C2C^2 な電荷分布の列の極限として扱い、積分を超関数として計算します。

観測点 x\boldsymbol{x}、観測時刻 tt に対し、遅延時刻 trt_r を方程式 t−tr=∣x−rq(tr)∣/ct-t_r=|\boldsymbol{x}-\boldsymbol{r}_q(t_r)|/c の解とします。電荷が動いていると、観測点に今届く場は、電荷の現在位置ではなく、光が進んでくる時間だけ前の位置(遅延位置)の状態で決まります。

電荷の軌道遅延位置(時刻 t_r)現在位置(時刻 t)観測点 x光(速さ c)
観測点 x に時刻 t で届く場は、遅延時刻 t_r の電荷の位置(遅延位置)で決まる。現在位置とは一般に異なる。

補題 4.1(遅延時刻の存在と一意性)✓

rq\boldsymbol{r}_q が C1C^1 級で ∣v(t)∣≤vmax⁡<c|\boldsymbol{v}(t)|\le v_{\max}<c ならば、任意の (x,t)(\boldsymbol{x},t) に対して遅延時刻 trt_r がただ一つ存在する。

証明(補題 4.1)

g(t′)=t′+∣x−rq(t′)∣/cg(t')=t'+|\boldsymbol{x}-\boldsymbol{r}_q(t')|/c とおくと、t1<t2t_1<t_2 に対し三角不等式から ∣x−rq(t2)∣−∣x−rq(t1)∣≥−∣rq(t2)−rq(t1)∣≥−vmax⁡(t2−t1)|\boldsymbol{x}-\boldsymbol{r}_q(t_2)|-|\boldsymbol{x}-\boldsymbol{r}_q(t_1)|\ge-|\boldsymbol{r}_q(t_2)-\boldsymbol{r}_q(t_1)|\ge-v_{\max}(t_2-t_1) なので

g(t2)−g(t1)≥(1−vmax⁡c)(t2−t1)>0g(t_2)-g(t_1)\ge\Bigl(1-\frac{v_{\max}}{c}\Bigr)(t_2-t_1)>0

です。よって gg は連続で狭義単調増加、かつ t′→±∞t'\to\pm\infty で ±∞\pm\infty に発散します。中間値の定理により g(tr)=tg(t_r)=t の解がただ一つ存在します。

定理 4.2(リエナール・ヴィーヘルトポテンシャル)✓

上の設定で、R=x−rq(tr)\boldsymbol{R}=\boldsymbol{x}-\boldsymbol{r}_q(t_r)、R=∣R∣R=|\boldsymbol{R}|、n^=R/R\hat{\boldsymbol{n}}=\boldsymbol{R}/R、β=v(tr)/c\boldsymbol{\beta}=\boldsymbol{v}(t_r)/c として

φ(x,t)=q4πε01R (1−n^⋅β),A(x,t)=μ0q4πv(tr)R (1−n^⋅β)=v(tr)c2φ(x,t)\varphi(\boldsymbol{x},t)=\frac{q}{4\pi\varepsilon_0}\frac{1}{R\,(1-\hat{\boldsymbol{n}}\cdot\boldsymbol{\beta})},\qquad\boldsymbol{A}(\boldsymbol{x},t)=\frac{\mu_0q}{4\pi}\frac{\boldsymbol{v}(t_r)}{R\,(1-\hat{\boldsymbol{n}}\cdot\boldsymbol{\beta})}=\frac{\boldsymbol{v}(t_r)}{c^2}\varphi(\boldsymbol{x},t)

である。

証明(定理 4.2)

定理 3.2 の式の ρ(y,t−∣x−y∣/c)\rho(\boldsymbol{y},t-|\boldsymbol{x}-\boldsymbol{y}|/c) を ∫ρ(y,t′) δ(t−t′−∣x−y∣/c)dt′\int\rho(\boldsymbol{y},t')\,\delta\bigl(t-t'-|\boldsymbol{x}-\boldsymbol{y}|/c\bigr)dt' と書くと、y\boldsymbol{y} の積分は δ3\delta^3 で実行でき

φ=q4πε0∫δ(t−g(t′))∣x−rq(t′)∣ dt′,g(t′)=t′+∣x−rq(t′)∣c\varphi=\frac{q}{4\pi\varepsilon_0}\int\frac{\delta\bigl(t-g(t')\bigr)}{|\boldsymbol{x}-\boldsymbol{r}_q(t')|}\,dt',\qquad g(t')=t'+\frac{|\boldsymbol{x}-\boldsymbol{r}_q(t')|}{c}

です。補題 4.1 により g(t′)=tg(t')=t の解は trt_r ただ一つで、δ(t−g(t′))=δ(t′−tr)/∣g′(tr)∣\delta(t-g(t'))=\delta(t'-t_r)/|g'(t_r)| です。g′(t′)=1+1cddt′∣x−rq(t′)∣=1−n^⋅v/cg'(t')=1+\frac1c\frac{d}{dt'}|\boldsymbol{x}-\boldsymbol{r}_q(t')|=1-\hat{\boldsymbol{n}}\cdot\boldsymbol{v}/c(ddt′∣x−rq∣=−n^⋅v\frac{d}{dt'}|\boldsymbol{x}-\boldsymbol{r}_q|=-\hat{\boldsymbol{n}}\cdot\boldsymbol{v})で正なので、φ=q4πε01R(1−n^⋅β)\varphi=\frac{q}{4\pi\varepsilon_0}\frac{1}{R(1-\hat{\boldsymbol{n}}\cdot\boldsymbol{\beta})} です。A\boldsymbol{A} は ρ→J=ρv\rho\to\boldsymbol{J}=\rho\boldsymbol{v}、1/ε0→μ01/\varepsilon_0\to\mu_0 の置き換えで同じ計算になります。

分母の 1−n^⋅β1-\hat{\boldsymbol{n}}\cdot\boldsymbol{\beta} は、遅延時刻の取り方が観測点の位置により変わることから来るヤコビアンです。電荷が観測者に向かって動いているとき(n^⋅β>0\hat{\boldsymbol{n}}\cdot\boldsymbol{\beta}>0)は 1 より小さくなり、ポテンシャルは強まります。

例 4.3(等速運動する電荷のポテンシャル)

v\boldsymbol{v} が一定のとき、現在時刻 tt での電荷の位置 rq(t)\boldsymbol{r}_q(t) から x\boldsymbol{x} へのベクトルを d=x−rq(t)\boldsymbol{d}=\boldsymbol{x}-\boldsymbol{r}_q(t) とします。遅延時刻の位置は rq(tr)=rq(t)−v(t−tr)=rq(t)−βR\boldsymbol{r}_q(t_r)=\boldsymbol{r}_q(t)-\boldsymbol{v}(t-t_r)=\boldsymbol{r}_q(t)-\boldsymbol{\beta}R(R=c(t−tr)R=c(t-t_r))なので、R=d+βR\boldsymbol{R}=\boldsymbol{d}+\boldsymbol{\beta}R です。両辺の大きさの 2 乗から (1−β2)R2−2R β⋅d−d2=0(1-\beta^2)R^2-2R\,\boldsymbol{\beta}\cdot\boldsymbol{d}-d^2=0 で、

R(1−n^⋅β)=R−β⋅R=(1−β2)R−β⋅d=(β⋅d)2+(1−β2)d2=d2−∣β×d∣2R(1-\hat{\boldsymbol{n}}\cdot\boldsymbol{\beta})=R-\boldsymbol{\beta}\cdot\boldsymbol{R}=(1-\beta^2)R-\boldsymbol{\beta}\cdot\boldsymbol{d}=\sqrt{(\boldsymbol{\beta}\cdot\boldsymbol{d})^2+(1-\beta^2)d^2}=\sqrt{d^2-|\boldsymbol{\beta}\times\boldsymbol{d}|^2}

です(RR の 2 次方程式の正の解 R=[β⋅d+(β⋅d)2+(1−β2)d2]/(1−β2)R=[\boldsymbol{\beta}\cdot\boldsymbol{d}+\sqrt{(\boldsymbol{\beta}\cdot\boldsymbol{d})^2+(1-\beta^2)d^2}]/(1-\beta^2) を使った)。したがって

φ=q4πε01d∥2+(1−β2)d⊥2=γ q4πε0γ2d∥2+d⊥2,γ=11−β2\varphi=\frac{q}{4\pi\varepsilon_0}\frac{1}{\sqrt{d_\parallel^2+(1-\beta^2)d_\perp^2}}=\gamma\,\frac{q}{4\pi\varepsilon_0\sqrt{\gamma^2d_\parallel^2+d_\perp^2}},\qquad\gamma=\frac{1}{\sqrt{1-\beta^2}}

です。ここで d∥,d⊥d_\parallel,d_\perp は d\boldsymbol{d} の v\boldsymbol{v} に平行・垂直な成分です。電荷の静止系での距離は r′=γ2d∥2+d⊥2r'=\sqrt{\gamma^2d_\parallel^2+d_\perp^2} なので、φ=γφ′\varphi=\gamma\varphi'(φ′=q/(4πε0r′)\varphi'=q/(4\pi\varepsilon_0r'))、A=vφ/c2\boldsymbol{A}=\boldsymbol{v}\varphi/c^2 です。これは 定義 6.1[電磁ポテンシャルとゲージ変換] の 4 元ポテンシャル (φ/c,A)(\varphi/c,\boldsymbol{A}) が静止系の (φ′/c,0)(\varphi'/c,\boldsymbol{0}) をローレンツ変換したものになっていることにほかならず、遅延ポテンシャルの結果が特殊相対論と整合しています。たとえば、運動方向では φ=q/(4πε0d)\varphi=q/(4\pi\varepsilon_0d)(通常のクーロンポテンシャルと同じ)、横方向では γq/(4πε0d)\gamma q/(4\pi\varepsilon_0d) と、運動方向に垂直な方向に強まります。


源が ∣y∣≤L|\boldsymbol{y}|\le L に収まっているとし、観測点を x=rn^\boldsymbol{x}=r\hat{\boldsymbol{n}}(r≫Lr\gg L)に取ります。遅延ポテンシャルの分母 ∣x−y∣=r−n^⋅y+O(L2/r)|\boldsymbol{x}-\boldsymbol{y}|=r-\hat{\boldsymbol{n}}\cdot\boldsymbol{y}+O(L^2/r) で、1/r1/r の係数を取り出すと

A(x,t)≈μ04πr∫J(y, t−rc+n^⋅yc)dVy\boldsymbol{A}(\boldsymbol{x},t)\approx\frac{\mu_0}{4\pi r}\int\boldsymbol{J}\Bigl(\boldsymbol{y},\,t-\frac rc+\frac{\hat{\boldsymbol{n}}\cdot\boldsymbol{y}}{c}\Bigr)dV_y

です。この A\boldsymbol{A} は F(t−r/c,n^)/r\boldsymbol{F}(t-r/c,\hat{\boldsymbol{n}})/r の形の項(外向きに進む波)が主要部です。このように、源から十分離れて 1/r1/r の項が支配的になる領域を波動帯(放射領域)といいます。次の命題は、そこでの電場・磁場・エネルギーの流れの向きと大きさの関係を求めます。r−2r^{-2} 以下の項は rr が大きいと r−1r^{-1} の項に比べて無視できるので、証明では r−1r^{-1} の項だけを残します。

命題 5.1(波動帯での場の関係)✓

遠方で A=F(t−r/c,n^)/r\boldsymbol{A}=\boldsymbol{F}(t-r/c,\hat{\boldsymbol{n}})/r と書けるとき、r−1r^{-1} のオーダーの場について

B=−1c n^×∂tA,E=c B×n^,S=1μ0E×B=cμ0∣B∣2n^\boldsymbol{B}=-\frac1c\,\hat{\boldsymbol{n}}\times\partial_t\boldsymbol{A},\qquad\boldsymbol{E}=c\,\boldsymbol{B}\times\hat{\boldsymbol{n}},\qquad\boldsymbol{S}=\frac{1}{\mu_0}\boldsymbol{E}\times\boldsymbol{B}=\frac{c}{\mu_0}|\boldsymbol{B}|^2\hat{\boldsymbol{n}}

が成り立つ。E,B,n^\boldsymbol{E},\boldsymbol{B},\hat{\boldsymbol{n}} は互いに直交する。

証明(命題 5.1)

∇(t−r/c)=−n^/c\nabla(t-r/c)=-\hat{\boldsymbol{n}}/c なので、∇×[F(t−r/c,n^)/r]=−1crn^×∂tF+O(r−2)\nabla\times\bigl[\boldsymbol{F}(t-r/c,\hat{\boldsymbol{n}})/r\bigr]=-\frac{1}{cr}\hat{\boldsymbol{n}}\times\partial_t\boldsymbol{F}+O(r^{-2}) です(n^\hat{\boldsymbol{n}} と 1/r1/r の微分は O(r−2)O(r^{-2}) を与える)。これが B\boldsymbol{B} の式です。次に、電荷のない遠方で ∂tE=c2∇×B\partial_t\boldsymbol{E}=c^2\nabla\times\boldsymbol{B} (定義 3.1[マクスウェル方程式と電磁波] の (M4))が成り立ち、B\boldsymbol{B} も t−r/ct-r/c の関数なので同じ計算で ∇×B=−1cn^×∂tB+O(r−2)\nabla\times\boldsymbol{B}=-\frac1c\hat{\boldsymbol{n}}\times\partial_t\boldsymbol{B}+O(r^{-2}) です。時間で積分して(時間によらない項は r−2r^{-2} 以下)E=−c n^×B=cB×n^\boldsymbol{E}=-c\,\hat{\boldsymbol{n}}\times\boldsymbol{B}=c\boldsymbol{B}\times\hat{\boldsymbol{n}} を得ます。B\boldsymbol{B} の式から B⊥n^\boldsymbol{B}\perp\hat{\boldsymbol{n}}、E\boldsymbol{E} の式から E⊥n^,B\boldsymbol{E}\perp\hat{\boldsymbol{n}},\boldsymbol{B} です。E×B=c(B×n^)×B=c[n^∣B∣2−B(n^⋅B)]=c∣B∣2n^\boldsymbol{E}\times\boldsymbol{B}=c(\boldsymbol{B}\times\hat{\boldsymbol{n}})\times\boldsymbol{B}=c\bigl[\hat{\boldsymbol{n}}|\boldsymbol{B}|^2-\boldsymbol{B}(\hat{\boldsymbol{n}}\cdot\boldsymbol{B})\bigr]=c|\boldsymbol{B}|^2\hat{\boldsymbol{n}} です。

∣B∣∝1/r|\boldsymbol{B}|\propto1/r なので ∣S∣∝r−2|\boldsymbol{S}|\propto r^{-2} で、半径 rr の球面を通るパワーは rr によらない有限値になります。これが放射です。

源の大きさ LL が、考える波長 λ∼c/ω\lambda\sim c/\omega より十分小さい(ωL/c≪1\omega L/c\ll1)場合を考えます。このとき J\boldsymbol{J} の遅延時刻の n^⋅y/c\hat{\boldsymbol{n}}\cdot\boldsymbol{y}/c のずれを無視してよく、

A(x,t)≈μ04πr∫J(y,t−r/c)dVy\boldsymbol{A}(\boldsymbol{x},t)\approx\frac{\mu_0}{4\pi r}\int\boldsymbol{J}\bigl(\boldsymbol{y},t-r/c\bigr)dV_y

です。この積分は電気双極子モーメントで書けます。

補題 5.2(電流の体積積分)✓

p(t)=∫y ρ(y,t) dVy\boldsymbol{p}(t)=\int\boldsymbol{y}\,\rho(\boldsymbol{y},t)\,dV_y とすると、電荷保存則のもとで ∫J dV=p˙\int\boldsymbol{J}\,dV=\dot{\boldsymbol{p}} である。

証明(補題 5.2)

∇⋅(yiJ)=Ji+yi∇⋅J=Ji−yi∂tρ\nabla\cdot(y_i\boldsymbol{J})=J_i+y_i\nabla\cdot\boldsymbol{J}=J_i-y_i\partial_t\rho です。J\boldsymbol{J} は有界な台をもつので、左辺の全空間積分は発散定理により 00 で、∫Ji dV=∫yi∂tρ dV=p˙i\int J_i\,dV=\int y_i\partial_t\rho\,dV=\dot p_i です。

定理 5.3(電気双極子放射)✓

源が ∣y∣≤L|\boldsymbol{y}|\le L にあり、ωL/c≪1\omega L/c\ll1 (ω\omega は時間変化の特徴的な角周波数)とする。波動帯では

B=−μ04πc r n^×p¨(t−r/c),E=cB×n^\boldsymbol{B}=-\frac{\mu_0}{4\pi c\,r}\,\hat{\boldsymbol{n}}\times\ddot{\boldsymbol{p}}\bigl(t-r/c\bigr),\qquad\boldsymbol{E}=c\boldsymbol{B}\times\hat{\boldsymbol{n}}

で、ポインティング・ベクトルは S=μ016π2c r2∣p¨∣2sin⁡2Θ n^\boldsymbol{S}=\dfrac{\mu_0}{16\pi^2c\,r^2}|\ddot{\boldsymbol{p}}|^2\sin^2\Theta\,\hat{\boldsymbol{n}}(Θ\Theta は p¨\ddot{\boldsymbol{p}} と n^\hat{\boldsymbol{n}} のなす角)、放射される全パワーは

P(t)=∮S⋅n^ r2dΩ=μ06πc ∣p¨(t−r/c)∣2P(t)=\oint\boldsymbol{S}\cdot\hat{\boldsymbol{n}}\,r^2d\Omega=\frac{\mu_0}{6\pi c}\,\bigl|\ddot{\boldsymbol{p}}(t-r/c)\bigr|^2

である。

証明(定理 5.3)

上の近似と 補題 5.2 により A≈μ04πrp˙(t−r/c)\boldsymbol{A}\approx\frac{\mu_0}{4\pi r}\dot{\boldsymbol{p}}(t-r/c) です。命題 5.1 に代入すると B=−1cn^×∂tA=−μ04πcrn^×p¨\boldsymbol{B}=-\frac1c\hat{\boldsymbol{n}}\times\partial_t\boldsymbol{A}=-\frac{\mu_0}{4\pi cr}\hat{\boldsymbol{n}}\times\ddot{\boldsymbol{p}} で、∣B∣=μ04πcr∣p¨∣sin⁡Θ|\boldsymbol{B}|=\frac{\mu_0}{4\pi cr}|\ddot{\boldsymbol{p}}|\sin\Theta です。したがって S=cμ0∣B∣2n^\boldsymbol{S}=\frac{c}{\mu_0}|\boldsymbol{B}|^2\hat{\boldsymbol{n}} は主張の形です。全パワーは、p¨\ddot{\boldsymbol{p}} の方向を極軸にとると

∮sin⁡2Θ dΩ=2π∫0πsin⁡3Θ dΘ=2π⋅43=8π3\oint\sin^2\Theta\,d\Omega=2\pi\int_0^\pi\sin^3\Theta\,d\Theta=2\pi\cdot\frac43=\frac{8\pi}{3}

より μ0∣p¨∣216π2c⋅8π3=μ0∣p¨∣26πc\frac{\mu_0|\ddot{\boldsymbol{p}}|^2}{16\pi^2c}\cdot\frac{8\pi}{3}=\frac{\mu_0|\ddot{\boldsymbol{p}}|^2}{6\pi c} です。球面を通る全パワーは、ポインティングの定理(定理 6.2)[マクスウェル方程式と電磁波] により場から失われる(外へ運ばれる)エネルギーの割合です。

p̈(軸)最大dP/dΩ ∝ sin²Θ
電気双極子放射の角度分布 sin²Θ。双極子の軸方向には放射せず、軸に垂直な方向に最も強く放射する。

系 5.4(ラーモアの公式)✓

加速度 a\boldsymbol{a} で運動する非相対論的な(v≪cv\ll c)点電荷 qq は、パワー

P=μ0q2a26πc=q2a26πε0c3P=\frac{\mu_0q^2a^2}{6\pi c}=\frac{q^2a^2}{6\pi\varepsilon_0c^3}

を放射する。放射場の強度は sin⁡2Θ\sin^2\Theta(Θ\Theta は a\boldsymbol{a} と観測方向のなす角)に比例する。

証明(系 5.4)

軌道が代表的な振幅 x0x_0 と角周波数 ω\omega をもつとき v∼ωx0v\sim\omega x_0 なので、v≪cv\ll c は ωx0/c≪1\omega x_0/c\ll1、すなわち 定理 5.3 の仮定です。点電荷の p=qrq(t)\boldsymbol{p}=q\boldsymbol{r}_q(t) から p¨=qa\ddot{\boldsymbol{p}}=q\boldsymbol{a} なので、定理 5.3 に代入して主張を得ます。

例 5.5(古典的な原子の寿命)

水素原子のボーア半径 aB=5.29×10−11 ma_B=5.29\times10^{-11}\,\mathrm{m} の円軌道を速さ v=αc=2.19×106 m/sv=\alpha c=2.19\times10^6\,\mathrm{m/s} で回る電子を考えると、加速度は a=v2/aB=9.1×1022 m/s2a=v^2/a_B=9.1\times10^{22}\,\mathrm{m/s^2} です。系 5.4 から

P=(1.60×10−19)2(9.1×1022)26π(8.85×10−12)(3.00×108)3≈4.7×10−8 W.P=\frac{(1.60\times10^{-19})^2(9.1\times10^{22})^2}{6\pi(8.85\times10^{-12})(3.00\times10^8)^3}\approx4.7\times10^{-8}\,\mathrm{W}.

軌道エネルギー 13.6 eV=2.2×10−18 J13.6\,\mathrm{eV}=2.2\times10^{-18}\,\mathrm{J} をこのパワーで割ると、約 5×10−11 s5\times10^{-11}\,\mathrm{s} です。古典電磁気学は、原子が 10−10 s10^{-10}\,\mathrm{s} 程度で潰れると予言してしまいます。これが量子力学が必要になった理由の一つです。

例 5.6(短い線アンテナの放射抵抗)

長さ ℓ≪λ\ell\ll\lambda の短い線に、振幅 I0I_0、角周波数 ω\omega の電流が一様に流れているとします(線の両端に電荷をためる導体球を付けて、電流が線全体で一様になるようにした理想化です。普通の線アンテナでは電流が両端で 00 になるため、放射抵抗は 1/41/4 になります)。両端の電荷が逆符号で振動し、双極子モーメントの振幅は p0=I0ℓ/ωp_0=I_0\ell/\omega です(p˙=Iℓ\dot p=I\ell より)。定理 5.3 から時間平均のパワーは ⟨P⟩=μ06πc⋅ω4p022=μ0ω2ℓ212πcI02\langle P\rangle=\dfrac{\mu_0}{6\pi c}\cdot\dfrac{\omega^4p_0^2}{2}=\dfrac{\mu_0\omega^2\ell^2}{12\pi c}I_0^2 で、⟨P⟩=12RradI02\langle P\rangle=\frac12R_{\mathrm{rad}}I_0^2 と書けば

Rrad=μ0ω2ℓ26πc=2π3Z0(ℓλ)2≈790(ℓλ)2 Ω,Z0=μ0/ε0≈377 ΩR_{\mathrm{rad}}=\frac{\mu_0\omega^2\ell^2}{6\pi c}=\frac{2\pi}{3}Z_0\Bigl(\frac\ell\lambda\Bigr)^2\approx790\Bigl(\frac\ell\lambda\Bigr)^2\ \Omega,\qquad Z_0=\sqrt{\mu_0/\varepsilon_0}\approx377\,\Omega

です。ℓ=λ/10\ell=\lambda/10 では約 7.9 Ω7.9\,\Omega で、放射は (ℓ/λ)2(\ell/\lambda)^2 に比例して急激に小さくなります。短いアンテナで効率よく電波を出せない理由です。同じ原理で、青い光は赤い光より ω4\omega^4 に比例して強く散乱されます(空が青い理由の一つ)。


6.1. エネルギー収支からアブラハム・ローレンツ方程式へ

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電荷が 系 5.4 のパワーを放射するなら、エネルギー保存則により、電荷自身が同じだけエネルギーを失っているはずです。これを、電荷に働く追加の力 Frad\boldsymbol{F}_{\mathrm{rad}} として表したのが放射反作用です。非相対論的な場合(v≪cv\ll c)を考え、

τ:=μ0q26πmc=23rec,re=q24πε0mc2\tau:=\frac{\mu_0q^2}{6\pi mc}=\frac{2}{3}\frac{r_e}{c},\qquad r_e=\frac{q^2}{4\pi\varepsilon_0mc^2}

とおきます。電子では re=2.82×10−15 mr_e=2.82\times10^{-15}\,\mathrm{m}(古典電子半径。電荷の静電エネルギーが mc2mc^2 程度になる長さの目安)、τ=6.26×10−24 s\tau=6.26\times10^{-24}\,\mathrm{s} です。τ\tau は光が rer_e の 2/3 を横切る時間です。

命題 6.1(エネルギー収支とアブラハム・ローレンツの力)✓

外力 Fext\boldsymbol{F}_{\mathrm{ext}} のもとで ma=Fext+Fradm\boldsymbol{a}=\boldsymbol{F}_{\mathrm{ext}}+\boldsymbol{F}_{\mathrm{rad}} と運動し、放射パワー P=mτa2P=m\tau a^2(系 5.4)の分のエネルギーを失うとする。時刻 t1,t2t_1,t_2 で加速度が a(t1)⋅v(t1)=a(t2)⋅v(t2)\boldsymbol{a}(t_1)\cdot\boldsymbol{v}(t_1)=\boldsymbol{a}(t_2)\cdot\boldsymbol{v}(t_2) を満たす(たとえば周期運動の 1 周期、あるいは両端で a=0\boldsymbol{a}=\boldsymbol{0})ならば、

Frad=mτ a˙\boldsymbol{F}_{\mathrm{rad}}=m\tau\,\dot{\boldsymbol{a}}

は、反作用力がする仕事 ∫t1t2Frad⋅v dt\int_{t_1}^{t_2}\boldsymbol{F}_{\mathrm{rad}}\cdot\boldsymbol{v}\,dt を放射エネルギーの損失 −∫t1t2P dt-\int_{t_1}^{t_2}P\,dt に等しくする。

証明(命題 6.1)

部分積分により ∫t1t2a2dt=[a⋅v]t1t2−∫t1t2a˙⋅v dt\int_{t_1}^{t_2}a^2dt=\bigl[\boldsymbol{a}\cdot\boldsymbol{v}\bigr]_{t_1}^{t_2}-\int_{t_1}^{t_2}\dot{\boldsymbol{a}}\cdot\boldsymbol{v}\,dt です。仮定により境界項は 00 で、∫Frad⋅v dt=mτ∫a˙⋅v dt=−mτ∫a2dt=−∫P dt\int\boldsymbol{F}_{\mathrm{rad}}\cdot\boldsymbol{v}\,dt=m\tau\int\dot{\boldsymbol{a}}\cdot\boldsymbol{v}\,dt=-m\tau\int a^2dt=-\int P\,dt です。

こうして得られる

ma=Fext+mτ a˙(アブラハム・ローレンツ方程式)m\boldsymbol{a}=\boldsymbol{F}_{\mathrm{ext}}+m\tau\,\dot{\boldsymbol{a}}\qquad\text{(アブラハム・ローレンツ方程式)}

は、加速度の時間微分を含みます。通常の運動方程式は x\boldsymbol{x} の 2 階微分で、初期位置と初速度を与えれば解が決まりますが、この方程式は 3 階で、初期加速度も必要です。この追加の自由度が、次のような奇妙な解を生みます。

注意 6.2

命題 6.1 は、「仮定した区間でエネルギー収支が合う、最も簡単な力」を求めたもので、放射反作用の導出としては発見的なものです。電荷を半径 aa の剛体球とみなし、その自己場が電荷自身に及ぼす力を計算する(ローレンツ、アブラハム)と、a→0a\to0 の極限で −43Uemc2a+mτa˙-\frac43\frac{U_{\mathrm{em}}}{c^2}\boldsymbol{a}+m\tau\dot{\boldsymbol{a}} が現れることが知られています(第 1 項は電磁場のエネルギー UemU_{\mathrm{em}} に由来する慣性質量で、観測される質量 mm に繰り込まれ、a→0a\to0 で発散します)。この計算は本記事では認め、参考文献に回します。方程式の適用範囲は、考える時間スケールが τ\tau より十分長く、かつ量子効果が無視できる場合に限られます。

次の定理は、アブラハム・ローレンツ方程式が通常の力学と違う奇妙な振る舞いをすることを示します。(i) は外力がないのに加速度が勝手に増え続ける解があるという主張、(ii) は、そのような解を除くと加速度が外力の「未来」の値から決まり、力が入る前から動き始めるという主張です。(ii) の「もしあれば」は、公式の右辺の積分が収束するなど、解が存在する場合に限ってこの形に決まるという意味です。

定理 6.3(暴走解と前加速)✓

(i) Fext=0\boldsymbol{F}_{\mathrm{ext}}=\boldsymbol{0} のとき、解は a(t)=a0et/τ\boldsymbol{a}(t)=\boldsymbol{a}_0e^{t/\tau} で、a0≠0\boldsymbol{a}_0\ne\boldsymbol{0} なら加速度が指数関数的に増大し続ける(暴走解)。

(ii) Fext(t)\boldsymbol{F}_{\mathrm{ext}}(t) が連続で有界ならば、t→∞t\to\infty で加速度が有界にとどまる解(暴走しない解)は、もしあれば

a(t)=1mτ∫t∞e−(s−t)/τFext(s) ds\boldsymbol{a}(t)=\frac{1}{m\tau}\int_t^\infty e^{-(s-t)/\tau}\boldsymbol{F}_{\mathrm{ext}}(s)\,ds

ただ一つである。この解では、外力が t=0t=0 で急に入ると、加速度は外力が入る前の時刻から立ち上がる(前加速)。

証明(定理 6.3)

(i) a=τa˙\boldsymbol{a}=\tau\dot{\boldsymbol{a}} は a=a0et/τ\boldsymbol{a}=\boldsymbol{a}_0e^{t/\tau} を一般解にもちます。

(ii) 方程式を a˙−a/τ=−Fext/(mτ)\dot{\boldsymbol{a}}-\boldsymbol{a}/\tau=-\boldsymbol{F}_{\mathrm{ext}}/(m\tau) と書き直し、e−t/τe^{-t/\tau} を掛けると ddt(e−t/τa)=−1mτe−t/τFext(t)\dfrac{d}{dt}\bigl(e^{-t/\tau}\boldsymbol{a}\bigr)=-\dfrac{1}{m\tau}e^{-t/\tau}\boldsymbol{F}_{\mathrm{ext}}(t) です。tt から TT まで積分して

e−T/τa(T)=e−t/τa(t)−1mτ∫tTe−s/τFext(s) ds.e^{-T/\tau}\boldsymbol{a}(T)=e^{-t/\tau}\boldsymbol{a}(t)-\frac{1}{m\tau}\int_t^Te^{-s/\tau}\boldsymbol{F}_{\mathrm{ext}}(s)\,ds .

a\boldsymbol{a} が有界ならば T→∞T\to\infty で左辺は 00 に近づき、右辺の積分は(Fext\boldsymbol{F}_{\mathrm{ext}} が有界なので)収束します。よって e−t/τa(t)=1mτ∫t∞e−s/τFext(s) dse^{-t/\tau}\boldsymbol{a}(t)=\frac{1}{m\tau}\int_t^\infty e^{-s/\tau}\boldsymbol{F}_{\mathrm{ext}}(s)\,ds、両辺に et/τe^{t/\tau} を掛けて主張の式を得ます。前加速の具体例は下の例で確かめます。

例 6.4(階段状の力に対する応答)

Fext(s)=F0F_{\mathrm{ext}}(s)=F_0(s>0s>0)、Fext(s)=0F_{\mathrm{ext}}(s)=0(s<0s<0)に対し、定理 6.3 (ii) の積分を計算すると、t>0t>0 では a(t)=1mτ∫t∞e−(s−t)/τF0 ds=F0/ma(t)=\frac{1}{m\tau}\int_t^\infty e^{-(s-t)/\tau}F_0\,ds=F_0/m(通常のニュートン力学の結果)、t<0t<0 では

a(t)=1mτ∫0∞e−(s−t)/τF0 ds=F0met/τa(t)=\frac{1}{m\tau}\int_0^\infty e^{-(s-t)/\tau}F_0\,ds=\frac{F_0}{m}e^{t/\tau}

です。加速は力が入る時間 τ∼10−23 s\tau\sim10^{-23}\,\mathrm{s} 程度前から始まります。結果が原因より先に現れるので因果律に反しているように見えますが、τ\tau は光が古典電子半径を横切る時間で、このスケールでは古典電磁気学自体が成り立たなくなります(量子効果が効き、電子の大きさの描像も破れます)。実際、方程式の適用範囲より短い現象です。

例 6.5(振動電荷の減衰と自然幅)

復元力 −mω02x-m\omega_0^2\boldsymbol{x} で束縛された電荷は、mx¨=−mω02x+mτx...m\ddot{\boldsymbol{x}}=-m\omega_0^2\boldsymbol{x}+m\tau\dddot{\boldsymbol{x}} に従います。τω0≪1\tau\omega_0\ll1 のとき、右辺の第 3 項を x...≈−ω02x˙\dddot{\boldsymbol{x}}\approx-\omega_0^2\dot{\boldsymbol{x}}(調和振動の近似)で置き換えると

x¨+Γx˙+ω02x=0,Γ=τω02\ddot{\boldsymbol{x}}+\Gamma\dot{\boldsymbol{x}}+\omega_0^2\boldsymbol{x}=\boldsymbol{0},\qquad\Gamma=\tau\omega_0^2

となり、振幅が e−Γt/2e^{-\Gamma t/2}、エネルギーが e−Γte^{-\Gamma t} で減衰します。波長 540 nm540\,\mathrm{nm} の光(ω0=3.5×1015 s−1\omega_0=3.5\times10^{15}\,\mathrm{s^{-1}})では Γ=6.26×10−24×(3.5×1015)2≈7.7×107 s−1\Gamma=6.26\times10^{-24}\times(3.5\times10^{15})^2\approx7.7\times10^7\,\mathrm{s^{-1}} で、原子の可視遷移の自然幅(寿命 10−8 s10^{-8}\,\mathrm{s} 程度)とほぼ同じ桁です。


7. 低周波のスペクトルと赤外発散

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電荷が時間 TT の間に速度を Δv\Delta\boldsymbol{v} だけ変える(散乱、衝突、β\beta 崩壊など)場合に放射されるエネルギーを、周波数ごとに分解します。

命題 7.1(放射エネルギーの低周波スペクトル)✓

非相対論的な点電荷の加速度 a(t)\boldsymbol{a}(t) が L1∩L2L^1\cap L^2 に属し、全体の速度変化 Δv=∫a dt\Delta\boldsymbol{v}=\int\boldsymbol{a}\,dt とする。放射される全エネルギーを W=∫0∞dWdωdωW=\int_0^\infty\frac{dW}{d\omega}d\omega と角周波数で分解したとき、

dWdω=μ0q26π2c ∣a~(ω)∣2,a~(ω)=∫a(t)eiωtdt,\frac{dW}{d\omega}=\frac{\mu_0q^2}{6\pi^2c}\,|\tilde{\boldsymbol{a}}(\omega)|^2,\qquad\tilde{\boldsymbol{a}}(\omega)=\int\boldsymbol{a}(t)e^{i\omega t}dt,

であり、ω→0\omega\to0 の極限は μ0q26π2c∣Δv∣2\dfrac{\mu_0q^2}{6\pi^2c}|\Delta\boldsymbol{v}|^2 に等しい。さらに、角周波数 ωmin⁡\omega_{\min} から ωmax⁡\omega_{\max} の間に放射される光子の平均個数は、ℏω\hbar\omega を 1 光子のエネルギーとして

N=∫ωmin⁡ωmax⁡1ℏωdWdωdω≈2α3π(∣Δv∣c)2ln⁡ωmax⁡ωmin⁡(ωmin⁡<ωmax⁡≪1/T)N=\int_{\omega_{\min}}^{\omega_{\max}}\frac{1}{\hbar\omega}\frac{dW}{d\omega}d\omega\approx\frac{2\alpha}{3\pi}\Bigl(\frac{|\Delta\boldsymbol{v}|}{c}\Bigr)^2\ln\frac{\omega_{\max}}{\omega_{\min}}\qquad(\omega_{\min}<\omega_{\max}\ll1/T)

と対数的に大きくなり、ωmin⁡→0\omega_{\min}\to0 で発散する。ここで TT は加速が起こる時間幅、 α=q2/(4πε0ℏc)\alpha=q^2/(4\pi\varepsilon_0\hbar c) は微細構造定数である。

証明(命題 7.1)

全放射エネルギーは 系 5.4 から W=μ0q26πc∫−∞∞∣a∣2dtW=\frac{\mu_0q^2}{6\pi c}\int_{-\infty}^\infty|\boldsymbol{a}|^2dt です。a∈L1∩L2\boldsymbol{a}\in L^1\cap L^2 なので、プランシェレルの等式 ∫∣a∣2dt=12π∫−∞∞∣a~∣2dω\int|\boldsymbol{a}|^2dt=\frac{1}{2\pi}\int_{-\infty}^\infty|\tilde{\boldsymbol{a}}|^2d\omega が使えます(Plancherel の定理(定理 4.1)[ℝⁿ 上のフーリエ変換] は符号が e−ix⋅ξe^{-ix\cdot\xi} の流儀ですが、∣a~∣|\tilde{\boldsymbol{a}}| は符号によらず、係数 (2π)n(2\pi)^n も同じ形です)。a\boldsymbol{a} は実数なので ∣a~(−ω)∣=∣a~(ω)∣|\tilde{\boldsymbol{a}}(-\omega)|=|\tilde{\boldsymbol{a}}(\omega)| で、ω>0\omega>0 に畳むと ∫∣a∣2dt=1π∫0∞∣a~∣2dω\int|\boldsymbol{a}|^2dt=\frac1\pi\int_0^\infty|\tilde{\boldsymbol{a}}|^2d\omega です。よって dW/dω=μ0q26π2c∣a~(ω)∣2dW/d\omega=\frac{\mu_0q^2}{6\pi^2c}|\tilde{\boldsymbol{a}}(\omega)|^2 です。a∈L1\boldsymbol{a}\in L^1 から a~\tilde{\boldsymbol{a}} は連続で a~(0)=∫a dt=Δv\tilde{\boldsymbol{a}}(0)=\int\boldsymbol{a}\,dt=\Delta\boldsymbol{v} なので、ω→0\omega\to0 の極限が求まります。光子数は、エネルギー dWdW を光子 1 個のエネルギー ℏω\hbar\omega で割って足したものです。a~≈Δv\tilde{\boldsymbol{a}}\approx\Delta\boldsymbol{v} が成り立つ範囲(ω≪1/T\omega\ll1/T)では N≈μ0q2∣Δv∣26π2cℏln⁡ωmax⁡ωmin⁡N\approx\frac{\mu_0q^2|\Delta\boldsymbol{v}|^2}{6\pi^2c\hbar}\ln\frac{\omega_{\max}}{\omega_{\min}} で、μ0q2=4παℏ/c\mu_0q^2=4\pi\alpha\hbar/c から係数は 2α3π∣Δv∣2c2\frac{2\alpha}{3\pi}\frac{|\Delta\boldsymbol{v}|^2}{c^2} です。

低周波の放射エネルギーが周波数によらず有限の値に近づくので、エネルギーを光子の個数に換算すると ∫dω/ω\int d\omega/\omega が現れ、対数発散します。これが赤外発散の古典的な起源です。荷電粒子が衝突などで速度を変える過程では、波長が長い(軟)光子が無限個放出されることになり、光子数が確定した状態への遷移確率が 00 になります。場の量子論では、放出される軟光子の数を和(包括的な過程)で数えれば有限になることが知られています。この問題を、電子と量子化された電磁場を結合した模型で厳密に調べたものが パウリ・フィールツ模型 です。


演習 8.1標準

磁束密度 B=1 TB=1\,\mathrm{T} の中で円運動する非相対論的な電子について、(a) 放射パワーを速さ vv で表し、(b) 運動エネルギーが 1/e1/e に減る時間(サイクロトロン冷却時間)を求めよ。

解答

円運動の角周波数は ωc=eB/m=1.76×1011 s−1\omega_c=eB/m=1.76\times10^{11}\,\mathrm{s^{-1}}、加速度は a=ωcva=\omega_cv です。(a) 系 5.4 から P=mτa2=mτωc2v2P=m\tau a^2=m\tau\omega_c^2v^2。(b) 運動エネルギー K=12mv2K=\frac12mv^2 は dK/dt=−P=−2τωc2KdK/dt=-P=-2\tau\omega_c^2K に従うので、K∝e−t/tcK\propto e^{-t/t_c}、tc=1/(2τωc2)=1/(2×6.26×10−24×(1.76×1011)2)≈2.6 st_c=1/(2\tau\omega_c^2)=1/(2\times6.26\times10^{-24}\times(1.76\times10^{11})^2)\approx2.6\,\mathrm{s} です。磁場が強いほど(∝B−2\propto B^{-2})電子は速く冷えます。

演習 8.2易

等速運動する電荷の 例 4.3 のポテンシャルで、運動方向に垂直な向き(d⊥v\boldsymbol{d}\perp\boldsymbol{v})の φ\varphi を現在位置からの距離 dd で表し、静止電荷のクーロンポテンシャルと比べよ。

解答

d∥=0d_\parallel=0、d⊥=dd_\perp=d で φ=q4πε0(1−β2)d2=γq4πε0d\varphi=\dfrac{q}{4\pi\varepsilon_0\sqrt{(1-\beta^2)d^2}}=\dfrac{\gamma q}{4\pi\varepsilon_0d} です。静止電荷より γ\gamma 倍強く、β→1\beta\to1 でいくらでも強くなります。運動方向では φ=q/(4πε0∣d∥∣)\varphi=q/(4\pi\varepsilon_0|d_\parallel|) で、静止電荷と同じです。

演習 8.3標準

電荷 qq が x=x0cos⁡ωtx=x_0\cos\omega t(x0ω≪cx_0\omega\ll c)で直線振動している。(a) 系 5.4 を使って時間平均の放射パワーを求め、(b) 定理 5.3 に p0=qx0p_0=qx_0 を代入した結果と一致することを確かめよ。(c) 放射反作用によるエネルギー損失の割合 ⟨P⟩/E\langle P\rangle/E(E=12mω2x02E=\frac12m\omega^2x_0^2 は力学的エネルギー)が τω2\tau\omega^2 に等しいことを示せ。

解答

(a) 加速度は a=−ω2x0cos⁡ωta=-\omega^2x_0\cos\omega t で、⟨a2⟩=ω4x02/2\langle a^2\rangle=\omega^4x_0^2/2 なので ⟨P⟩=μ0q26πc⋅ω4x022=μ0q2ω4x0212πc\langle P\rangle=\dfrac{\mu_0q^2}{6\pi c}\cdot\dfrac{\omega^4x_0^2}{2}=\dfrac{\mu_0q^2\omega^4x_0^2}{12\pi c}。(b) p¨=−ω2qx0cos⁡ωt\ddot p=-\omega^2qx_0\cos\omega t から ⟨P⟩=μ06πc⋅ω4p022\langle P\rangle=\dfrac{\mu_0}{6\pi c}\cdot\dfrac{\omega^4p_0^2}{2} で同じ式です。(c) ⟨P⟩=mτ⟨a2⟩=12mτω4x02\langle P\rangle=m\tau\langle a^2\rangle=\frac12m\tau\omega^4x_0^2 なので ⟨P⟩/E=12mτω4x0212mω2x02=τω2\langle P\rangle/E=\dfrac{\frac12m\tau\omega^4x_0^2}{\frac12m\omega^2x_0^2}=\tau\omega^2 です。エネルギー EE の時間変化率は −τω2E-\tau\omega^2E で、例 6.5 の Γ=τω2\Gamma=\tau\omega^2 と一致します。

演習 8.4易

定理 5.3 で、双極子モーメントの振動 p=p0cos⁡ωt ez\boldsymbol{p}=p_0\cos\omega t\,\boldsymbol{e}_z のとき、全方向にわたる時間平均パワーを求め、ω\omega にどう依存するか答えよ。

解答

p¨=−ω2p0cos⁡ωt ez\ddot{\boldsymbol{p}}=-\omega^2p_0\cos\omega t\,\boldsymbol{e}_z、⟨cos⁡2ωt⟩=1/2\langle\cos^2\omega t\rangle=1/2 なので、⟨P⟩=μ06πc⋅ω4p022=μ0ω4p0212πc\langle P\rangle=\dfrac{\mu_0}{6\pi c}\cdot\dfrac{\omega^4p_0^2}{2}=\dfrac{\mu_0\omega^4p_0^2}{12\pi c} です。ω4\omega^4 に比例するので、周波数を 2 倍にすると放射は 16 倍になります。


  • J. D. Jackson『電磁気学(原書第 3 版)』(Classical Electrodynamics, 3rd ed., Wiley, 1999)— 第 6 章(ゲージ変換、遅延グリーン関数)、第 9 章(放射系)、第 14 章(運動する荷電粒子の放射)、第 16 章(放射反作用)。
  • D. J. Griffiths, Introduction to Electrodynamics, 4th ed., Cambridge University Press, 2017 — 第 10 章(Potentials and Fields)、第 11 章(Radiation)、第 12 章(Electrodynamics and Relativity)。
  • L. D. Landau, E. M. Lifshitz, The Classical Theory of Fields, 4th ed., Pergamon Press, 1975 — 運動する電荷の場、放射、放射反作用に当たる各章。
  • F. Rohrlich, Classical Charged Particles, 3rd ed., World Scientific, 2007 — アブラハム・ローレンツ方程式と前加速。
  • R. P. Feynman, R. B. Leighton, M. Sands, The Feynman Lectures on Physics, Vol. II — 第 21 章(Solutions of Maxwell’s Equations with Currents and Charges)。

このテーマの 100 本ノック(100 問)

執筆: Claude Code(Sonnet 5.5)・監査 2 回(Claude Code)・最終 2026-10-12

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