熱が行き渡って温度が落ち着いた金属板では、どの点の温度も、そのすぐ周りの温度の平均になっています。この記事は、この素朴な事実を数式で言い直し、そこから「温度の最大値は縁でしか現れない」「縁の温度を決めれば板の中の温度はただ一通りに決まる」ことを導きます。読み終えると、球の中の定常な温度分布を、縁の温度から積分の公式で書き下せるようになります。
- Δu=0 を満たす C2 関数(調和関数)は、すべての球面・球の上の平均値に等しくなります(平均値の性質)。逆に、連続で平均値の性質をもつ関数は C∞ 級の調和関数です。証明に使うのは発散定理だけです。
- 平均値の性質から、連結な領域の内部で最大値をとる調和関数は定数です(強最大値原理)。ここから Dirichlet 問題の解の一意性と安定性が出ます。
- 非負の調和関数は、コンパクトな部分集合の上で、最大値と最小値の比が関数によらない定数で抑えられます(Harnack の不等式。非負の調和関数の値は、場所によって極端には変わらないという不等式です)。
- 基本解 Φ(原点に置いた点電荷のつくるポテンシャルにあたる関数)との畳み込み Φ∗f は Poisson 方程式 −Δu=f を解きます。
- 有界領域の Green 関数 G(基本解を、境界で 0 になるように補正した関数)を使うと、調和関数は境界値から u(x)=∫∂ΩK(x,y)u(y)dS(y) で復元されます。球では鏡像の方法で G が求まり、Poisson 核(2 次元の場合は複素解析の章にあります)K(x,y)=nωnr∣x−y∣nr2−∣x∣2 が連続な境界値の Dirichlet 問題を解きます。
ラプラス方程式 Δu=∑j=1n∂j2u=0 は、静電ポテンシャル、定常状態の温度分布、張った膜の微小なたわみなど、「時間変化が止まった後の平衡」を記述します。熱方程式 ∂tu=Δu の定常解がまさに調和関数です。平衡では、各点の値は周りの値の平均に等しくなるはずです。この直観を定理にしたのが平均値の性質で、この章のほとんどの結果はそこから出ます。
2 次元では、調和関数は正則関数の実部として 調和関数と Poisson 積分 で扱われています。この章では複素解析を使わず、一般の次元 n≥2 で同じ結果を発散定理から導きます。
この記事は、テーマ「偏微分方程式」の最初の章です。テーマ全体の流れは次のとおりです。
- 古典解の理論(第 1〜3 章): 楕円型(Laplace)、放物型(熱)、双曲型(波動)の代表的な方程式を、明示的な解の公式・最大値原理・エネルギー評価で調べます。3 つの型で、解の滑らかさや情報の伝わり方がまったく異なることを見ます。
- 弱解の理論(第 4〜5 章): Sobolev 空間の上で、楕円型方程式の解を Hilbert 空間の方法(Lax–Milgram の定理、変分法)で作り、その解が実際には滑らかであること(正則性)を示します。
- スペクトル(第 6 章): 有界領域の Dirichlet ラプラシアンの固有値の個数が、領域の体積だけで決まる漸近則(Weyl 則)に従うことを証明します。
古典解の章で得た明示公式は、弱解の理論で「解がどのくらい滑らかか」を測る物差しになります。
以下 n≥2 とし、B(x,r)={y∈Rn∣∣y−x∣<r}、ωn を単位球 B(0,1) の体積とします。Ω⊂Rn を開集合とし、Bˉ(x,r)⊂Ω のような包含を「閉球が Ω に含まれる」と読みます。
Ω が滑らかな境界をもつ有界領域であるとは、Ω が有界な開集合で、閉包 Ωˉ が Rn の C∞ 級境界付き部分多様体(境界 ∂Ω)であることとします。ν を外向き単位法ベクトル、dS を ∂Ω の面積測度(誘導計量の体積測度)とします。球 B(x,r) や円環 B(x,R)∖Bˉ(x,r) はこの条件を満たします。このとき Ck(Ωˉ) は、Ωˉ のある近傍で Ck 級の関数の Ωˉ への制限の全体とします。u∈C1(Ωˉ) の外向き法微分を ∂νu=∇u⋅ν と書きます。
補題 2.1(n 次元の発散定理)✓
Ω を滑らかな境界をもつ有界領域、X を Ωˉ の近傍で定義された C1 級ベクトル場とする。このとき
∫ΩdivXdx=∫∂ΩX⋅νdS.
これはベクトル解析で習う発散定理の n 次元版です。証明の前半は微分形式を使ってストークスの定理に帰着させる議論で、後半は C1 級のベクトル場を、軟化子(なめらかな山形の関数との畳み込みで、関数を少しずつぼかして滑らかにする操作)で C∞ 級のもので近似します。内容を知っているなら、主張だけを受け取って次へ進んでも、以降の議論は追えます。
証明(補題 2.1)
X が C∞ 級の場合。 体積形式 vol=dx1∧⋯∧dxn との内部積 ω=ιXvol=∑i=1n(−1)i−1Xidx1∧⋯∧dxi∧⋯∧dxn を考えます( は省く因子)。d(Xidx1∧⋯dxi⋯∧dxn)=∂iXidxi∧dx1∧⋯dxi⋯∧dxn で、dxi を先頭から i 番目に移すと符号 (−1)i−1 が出るので、dω=(divX)vol です。境界の点 p で X=(X⋅ν)ν+X⊤(X⊤∈Tp∂Ω)と分けると、Tp∂Ω の n−1 本のベクトル v1,…,vn−1 に対し vol(X⊤,v1,…,vn−1)=0 です(n 本のベクトルが n−1 次元空間に入り一次従属)。(v1,…,vn−1) を誘導された向きの正の正規直交基底にとると vol(ν,v1,…,vn−1)=1 で、これは面積形式の値です。したがって ω の ∂Ω への引き戻しは (X⋅ν)dS で、ストークスの定理(定理 6.1[ストークスの定理]、Ωˉ はコンパクト)から主張が出ます。これは同記事の 3 次元の計算を n 次元でなぞったものです。
X が C1 級の場合。 X が定義された開集合 U⊃Ωˉ について、χ∈Cc∞(U) で Ωˉ の近傍で χ=1 となるもの(補題 2.3[Schwartz 空間と緩増加超関数])をとり、Y=χX を Rn 上のコンパクト台の C1 級ベクトル場とみます。軟化子 ρε(補題 2.1[Schwartz 空間と緩増加超関数])で Yε=ρε∗Y とおくと Yε∈C∞、∂iYε=ρε∗∂iY で、Y と ∂iY は一様連続なので Yε→Y、divYε→divY は一様収束です。Yε に対する等式で ε→0 とすれば、Ωˉ の近傍で Y=X なので主張が出ます。
∎
系 2.2(Green の公式)✓
Ω を滑らかな境界をもつ有界領域、u,v∈C2(Ωˉ) とする。
∫Ω(vΔu+∇v⋅∇u)dx=∫∂Ωv∂νudS,∫Ω(vΔu−uΔv)dx=∫∂Ω(v∂νu−u∂νv)dS.
証明(系 2.2)
X=v∇u は C1 級で divX=vΔu+∇v⋅∇u、X⋅ν=v∂νu なので、補題 2.1 から第 1 式が出ます。第 1 式から u,v を入れ替えた式を引くと第 2 式です。
∎
∂B(x,s) の面積測度は、∂B(0,1) の面積測度を相似写像 z↦x+sz で写して sn−1 倍したものです(誘導計量が s2 倍になるため)。したがって ∫∂B(x,s)fdS=sn−1∫∂B(0,1)f(x+sz)dS(z) です。
補題 2.3(球の上の積分の半径微分)✓
f を Rn 上の連続関数とすると、F(r)=∫B(x,r)fdy は r>0 で微分可能で F′(r)=∫∂B(x,r)fdS。したがって ∫B(x,r)fdy=∫0r(∫∂B(x,s)fdS)ds であり、特に ∂B(x,r) の面積は nωnrn−1 である。
球を半径 s の球面の重なりとみなして、球の上の積分を球面の上の積分の積み重ねに直す補題です。証明では、まず r を動かしたときの積分の変化を計算し、被積分関数が div(f(y)y) の形になることに気づいて、発散定理で球面の積分に書き換えます。
証明(補題 2.3)
x=0 としてよい。まず f∈C1 とします。変数変換 y=rz(系 3.5[ℝ^d の変数変換公式と極座標])で F(r)=rn∫B(0,1)f(rz)dz で、積分記号下で微分して
F′(r)=nrn−1∫B(0,1)f(rz)dz+rn∫B(0,1)z⋅∇f(rz)dz=r1∫B(0,r)(nf+y⋅∇f)dy.右辺の被積分関数は div(f(y)y) で、∂B(0,r) 上で y⋅ν=r なので、補題 2.1 から F′(r)=∫∂B(0,r)fdS です。一般の連続関数 f は、Bˉ(0,R+1) 上で C1 関数 fk=ρ1/k∗f によって一様近似できます。Fk(r)=∫0rGk(s)ds(Gk(s)=∫∂B(0,s)fkdS)で Fk→F、Gk→G はともに [0,R] 上一様なので、F(r)=∫0rG(s)ds で G は連続、よって F′=G です。f=1 とすると drd(ωnrn) が面積を与えます。
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以下、球面平均と球平均を
Mu(x,r)=nωnrn−11∫∂B(x,r)udS,Au(x,r)=ωnrn1∫B(x,r)udy
と書きます。補題 2.3 から Au(x,r)=rnn∫0rsn−1Mu(x,s)ds です。
定義 3.1(調和関数・劣調和関数)↗
開集合 Ω⊂Rn 上の実数値関数 u∈C2(Ω) が Δu=0 を満たすとき調和、Δu≥0 を満たすとき劣調和という。
定理 3.2(平均値の性質)✓
u∈C2(Ω)、Bˉ(x,r)⊂Ω とする。u が調和なら
u(x)=Mu(x,r)=Au(x,r)であり、u が劣調和なら u(x)≤Mu(x,r)、u(x)≤Au(x,r) である。
証明の方針は、球面平均を半径 s の関数 φ(s) とみて、s で微分することです。発散定理により φ′ は球の内部での Δu の平均に変わるので、調和なら φ は定数で、s→0 の極限である u(x) に等しくなります。
証明(定理 3.2)
φ(s)=Mu(x,s)=nωn1∫∂B(0,1)u(x+sz)dS(z)(0<s≤r)とおきます。積分記号下で微分し、∂B(x,s) 上の外向き法線が z=(y−x)/s であることと 補題 2.1 を使うと
φ′(s)=nωn1∫∂B(0,1)∇u(x+sz)⋅zdS(z)=nωnsn−11∫∂B(x,s)∂νudS=nωnsn−11∫B(x,s)Δudy=nsAΔu(x,s).u の連続性から φ(s)→u(x)(s→0)です。調和なら φ′=0 なので Mu(x,r)=u(x)、劣調和なら φ′≥0 なので Mu(x,r)≥u(x) です。球平均の主張は、補題 2.3 の後の式 Au(x,r)=rnn∫0rsn−1Mu(x,s)ds に代入すれば出ます(rnn∫0rsn−1ds=1)。
∎
平均値の性質は、調和性の「積分版」の言い換えです。逆も成り立ち、しかも滑らかさが自動的についてきます。
定理 3.3(平均値の性質の逆と滑らかさ)✓
u∈C(Ω) が、Bˉ(x,r)⊂Ω を満たすすべての x,r について u(x)=Mu(x,r) を満たすなら、u∈C∞(Ω) で u は調和である。特に、調和関数は C∞ 級である。
証明(定理 3.3)
軟化子 ρε(y)=ε−nρ(y/ε) は ∣y∣ だけの関数 ρ~ε(∣y∣) で、台は Bˉ(0,ε) です(補題 2.1[Schwartz 空間と緩増加超関数])。Ωε={x∈Ω∣dist(x,∂Ω)>ε} 上で、補題 2.3 を y↦ρε(x−y)u(y)(Bˉ(x,ε)⊂Ω の外では 0 とおいた連続関数)に使うと
(ρε∗u)(x)=∫0ερ~ε(s)(∫∂B(x,s)udS)ds=u(x)∫0ερ~ε(s)nωnsn−1ds=u(x)∫ρε=u(x)です。左辺は C∞ なので u∈C∞(Ωε)、ε は任意なので u∈C∞(Ω) です。すると 定理 3.2 の証明の φ は定数なので、AΔu(x,s)=0 がすべての小さな s で成り立ち、s→0 として Δu(x)=0 です。後半は 定理 3.2 と前半を合わせたものです。
∎
命題 3.4(調和関数の導関数の評価)✓
u を Ω 上の調和関数、Bˉ(x,r)⊂Ω とする。このとき
∣u(x)∣≤ωnrn1∫B(x,r)∣u∣dy,∣∂iu(x)∣≤rn∂B(x,r)max∣u∣(i=1,…,n).
証明(命題 3.4)
第 1 式は u(x)=Au(x,r) から出ます。定理 3.3 により ∂iu も調和なので、∂iu(x)=A∂iu(x,r) です。補題 2.1 を X=uei に使うと
∣∂iu(x)∣=ωnrn1∫∂B(x,r)uνidS≤ωnrnnωnrn−1∂B(x,r)max∣u∣=rn∂B(x,r)max∣u∣.∎
この評価は、調和関数の 1 階導関数が「半径 r の範囲での振幅を r で割ったもの」で抑えられることを言っています。第 5 章の Schauder 評価で、この形の評価を繰り返し使います。
定理 4.1(強最大値原理)✓
Ω を連結な開集合、u∈C2(Ω) を劣調和関数とする。u が Ω の内部の点で最大値 supΩu をとるなら、u は定数である。
証明(定理 4.1)
M=supΩu とし、S={x∈Ω∣u(x)=M} とおきます。仮定から S=∅、連続性から S は Ω の中で閉です。x∈S、Bˉ(x,r)⊂Ω なら 定理 3.2 により M=u(x)≤Au(x,r)≤M なので ∫B(x,r)(M−u)dy=0 で、被積分関数は非負連続なので B(x,r) 上 u=M です。よって S は開集合で、Ω の連結性から S=Ω です。
∎
系 4.2(弱最大値原理)✓
Ω を有界な開集合、u∈C2(Ω)∩C(Ωˉ) を劣調和とすると maxΩˉu=max∂Ωu。u が調和なら minΩˉu=min∂Ωu も成り立つ。
証明(系 4.2)
Ωˉ はコンパクトなので最大値 M がある点 x0 でとられます。x0∈∂Ω なら終わりです。x0∈Ω なら、x0 を含む Ω の連結成分 U の上で 定理 4.1 により u=M です。U は有界で空でない開集合なので Rn とは異なり、∂U=∅ で、∂U⊂∂Ω です(U の境界点が Ω に入ると、その点を含む連結成分が U と交わり U に一致してしまう)。連続性から ∂U 上でも u=M です。最小値の主張は −u に使えば出ます。
∎
系 4.3(Dirichlet 問題の一意性と安定性)✓
Ω を有界な開集合とする。u1,u2∈C2(Ω)∩C(Ωˉ) が Ω で −Δuk=f、∂Ω で uk=gk を満たすなら maxΩˉ∣u1−u2∣=max∂Ω∣g1−g2∣。特に g1=g2 なら u1=u2 である。
証明(系 4.3)
w=u1−u2 は調和なので、系 4.2 を w と −w に使います。
∎
有界性は外せません。上半空間 {xn>0} では u=xn が調和で境界値は 0 ですが、u=0 です。非有界な領域では、無限遠での増大度を制限して初めて一意性が戻ります(演習を参照)。
定理 5.1(Harnack の不等式)✓
Ω を開集合、V を連結な開集合で Vˉ がコンパクトかつ Vˉ⊂Ω とする。このとき V,Ω だけで決まる定数 C があって、Ω 上の非負の調和関数 u はすべて
Vsupu≤CVinfuを満たす。
証明の方針は次のとおりです。まず、近い 2 点では値が高々 2n 倍しか違わないことを平均値の性質から示します。次に、Vˉ を有限個の小さな球で覆い、2 点を隣り合う球の鎖でつなぎます。鎖の長さは球の数以下なので、定数 C は球の数だけで決まります。
証明(定理 5.1)
r=41dist(Vˉ,Rn∖Ω)(Ω=Rn なら r=1)とします。
一歩分の比較。 z∈Vˉ、∣p−z∣<r なら B(p,r)⊂B(z,2r) かつ B(z,r)⊂B(p,2r) で、閉球 Bˉ(z,2r)、Bˉ(p,2r) は Ω に含まれます(∣p−z∣+2r<4r)。u≥0 と 定理 3.2 から
u(z)=ωn(2r)n1∫B(z,2r)u≥2nωnrn1∫B(p,r)u=2−nu(p),同様に u(p)≥2−nu(z) です。
鎖でつなぐ。 Vˉ を有限個の開球 Bi=B(zi,r/2)(zi∈Vˉ、i=1,…,N)で覆います。x,y∈V を V 内の連続な道 γ で結びます(連結な開集合は弧状連結)。γ と交わる Bi 全体を、「交わりがあれば辺で結ぶ」グラフとみると、これは連結です。そうでなければ γ の像が、交わらない 2 つの開集合(2 つのグループの球の和)に分かれ、像の連結性に反するからです。よって x∈Bi1、y∈Bim で、隣り合う球が交わる鎖 Bi1,…,Bim(m≤N、相異なる)がとれます。隣り合う中心は ∣zik−zik+1∣<r を満たすので、一歩分の比較を m+1 回使って
u(x)≥2−nu(zi1)≥2−2nu(zi2)≥⋯≥2−mnu(zim)≥2−(m+1)nu(y)です。C=2(N+1)n とすれば、x,y は任意なので主張が出ます。
∎
Harnack の不等式は「非負の調和関数は 1 点の値で V 全体の大きさが決まる」と言っています。たとえば、u(x0)=0 となる点が V にあれば V 上 u=0 です(強最大値原理の別証明)。第 5 章で扱う Allegretto–Piepenbrink の定理では、Schrödinger 作用素に対するこの種の不等式が正の解の存在を支えます。
定義 6.1(ラプラス方程式の基本解)↗
x=0 に対し
Φ(x)=⎩⎨⎧−2π1log∣x∣n(n−2)ωn1∣x∣2−n(n=2),(n≥3)とおき、Φ を基本解という。
r=∣x∣ の関数 ra について ∇ra=ara−2x、Δra=a(a+n−2)ra−2 で、Δlogr=(n−2)r−2 です。a=2−n または n=2 の対数で 0 になるので、Φ は Rn∖{0} で調和です。また、どちらの場合も
∇Φ(x)=−nωn∣x∣nx
です(n=2 では nωn=2π)。補題 2.3 により ∫B(0,R)∣Φ∣dx=∫0R∣Φ(s)∣nωnsn−1ds<∞ なので、Φ は局所可積分です。定数は、次の定理で −Δ(Φ∗f)=f がちょうど成り立つように選ばれています。
基本解 Φ の動径方向のグラフ(実線: n = 3 の 1/(4π r)、破線: n = 2 の −log r/(2π))。どちらも原点に近づくと発散する
定理 6.2(Poisson 方程式の解)✓
f∈Cc2(Rn) に対し u(x)=∫RnΦ(x−y)f(y)dy とおくと、u∈C2(Rn) で、Rn 上 −Δu=f が成り立つ。
証明の方針は、Δu(x) を、原点のごく近くの小さな球 B(0,ε) と、その外側に分けることです。外側は Green の公式で球面の項に直し、ε→0 とすると f(x) だけが残ります。
証明(定理 6.2)
変数を替えて u(x)=∫Φ(y)f(x−y)dy と書きます。x が有界集合を動くとき、∂xαf(x−y)(∣α∣≤2)は有界で y についての台は一定の有界集合に入るので、局所可積分な Φ を掛けたものは可積分な優関数をもちます。積分記号下の微分(系 7.4[ルベーグ積分の定義と収束定理])を繰り返して ∂i∂ju(x)=∫Φ(y)∂i∂jf(x−y)dy で、これは優収束定理(定理 7.3[ルベーグ積分の定義と収束定理])で連続です。よって u∈C2 です。
x を固定し、v(y)=f(x−y) とおきます。Δxf(x−y)=Δyv(y) なので、ε>0 について
Δu(x)=∫B(0,ε)ΦΔvdy+∫B(0,R)∖B(0,ε)ΦΔvdy=Iε+Jεです。ここで R は v の台が B(0,R−1) に入るように大きくとります。∣Iε∣≤sup∣Δf∣∫B(0,ε)∣Φ∣→0 です。Jε には円環 U=B(0,R)∖Bˉ(0,ε) で 系 2.2 の第 2 式を使います。U で ΔΦ=0、外側の球面の近くで v=0 なので
Jε=∫∂B(0,ε)(Φ∂νv−v∂νΦ)dSで、ν=−y/ε は U から見た外向き法線です。第 1 項は ∣Φ(ε)∣sup∣∇f∣⋅nωnεn−1 以下で、n=2 では ε∣logε∣、n≥3 では ε の定数倍なので 0 に収束します。第 2 項は ∂νΦ=∇Φ(y)⋅(−y/ε)=nωnεn−11 なので −Mv(0,ε) に等しく、v の連続性から −v(0)=−f(x) に収束します。よって Δu(x)=−f(x) です。
∎
Φ∗f は「点電荷 f(y)dy のつくるポテンシャルの重ね合わせ」です。f に C2 を課したのは証明を短くするためで、f が Hölder 連続なら u∈C2 が成り立ちます(第 5 章の Schauder 評価の主題)。一方 f が連続なだけでは u∈C2 は一般に成り立ちません。
定理 7.1(Green の表現公式)✓
Ω を滑らかな境界をもつ有界領域、u∈C2(Ωˉ)、x∈Ω とすると
u(x)=∫∂Ω(Φ(y−x)∂νu(y)−u(y)∂νyΦ(y−x))dS(y)−∫ΩΦ(y−x)Δu(y)dy.
証明(定理 7.1)
Uε=Ω∖Bˉ(x,ε) に 系 2.2 の第 2 式を u と Φ(⋅−x) で使います。内側の球面からの寄与は、定理 6.2 の証明と同じ計算で ε→0 のとき u(x) に収束し(Φ∂νu の項は 0 に、−u∂νΦ の項は −Mu(x,ε) に収束し、移項して u(x))、体積積分は Φ の局所可積分性から ∫Ω に収束します。整理すると主張の式になります。
∎
この公式は、u が Ω 内の Δu と境界上の u、∂νu で決まることを言います。しかし Dirichlet 問題では ∂νu は与えられていません。そこで Φ を、境界で 0 になるように補正します。
定義 7.2(Green 関数と Poisson 核)↗
Ω を滑らかな境界をもつ有界領域とする。各 x∈Ω について、φx∈C2(Ωˉ) が Ω で調和、∂Ω 上で φx(y)=Φ(y−x) を満たすとする(補正関数)。このとき
G(x,y)=Φ(y−x)−φx(y)(x∈Ω, y∈Ωˉ, y=x)を Ω の Green 関数、K(x,y)=−∂νyG(x,y)(y∈∂Ω)を Poisson 核という。
補正関数は、境界値 Φ(⋅−x) の Dirichlet 問題の解なので、系 4.3 により存在すれば一意です。一般の領域での存在は第 4・5 章の弱解と正則性の理論で示されます。ここでは存在を仮定した帰結と、明示的に作れる球の場合を扱います。
定理 7.3(Green 関数による表示)✓
定義 7.2 の状況で、u∈C2(Ωˉ) と x∈Ω について
u(x)=∫∂ΩK(x,y)u(y)dS(y)−∫ΩG(x,y)Δu(y)dy.特に u が調和なら u(x)=∫∂ΩK(x,y)u(y)dS(y) である。
証明(定理 7.3)
φx は調和なので、系 2.2 の第 2 式から ∫ΩφxΔudy=∫∂Ω(φx∂νu−u∂νφx)dS です。これを 定理 7.1 から引くと
u(x)=∫∂Ω(G(x,y)∂νu−u∂νyG(x,y))dS(y)−∫ΩG(x,y)Δudyで、∂Ω 上 G(x,⋅)=0 なので第 1 項の前半が消えます。
∎
球の鏡像点。境界の点 y では、x からの距離と鏡像点 x̃ からの距離の比が一定 |x| になる
まず単位球 B=B(0,1) を考えます。x∈B∖{0} の鏡像点を x~=x/∣x∣2(∣x~∣>1)とします。∣y∣=1 なら
∣x∣2∣y−x~∣2=∣x∣2−2x⋅y+1=∣x−y∣2
なので ∣x∣∣y−x~∣=∣x−y∣ です。Φ は ∣x∣ だけの関数なので、φx(y)=Φ(∣x∣(y−x~)) は境界で Φ(y−x) に一致します。y↦∣x∣(y−x~) は相似写像で、Bˉ 上では y=x~ なので、φx は Bˉ の近傍で調和です(相似写像と合成するとラプラシアンは定数倍されるだけ)。x=0 では φ0 を、単位球面上の Φ の値に等しい定数とします。
命題 7.4(球の Poisson 核)✓
球 B(0,r) の Poisson 核は
Kr(x,y)=nωnr∣x−y∣nr2−∣x∣2(∣x∣<r, ∣y∣=r)である。Kr>0 で、∫∂B(0,r)Kr(x,y)dS(y)=1 が成り立つ。
証明では、鏡像点で作った補正関数 φx を y で微分して、G=Φ(y−x)−φx(y) の法微分を実際に計算します。∣x∣∣y−x~∣=∣x−y∣ のおかげで分母がそろい、式がきれいにまとまります。
証明(命題 7.4)
r=1 で計算し、一般の r は相似変換 x↦x/r で得ます(dS は rn−1 倍、法微分は r−1 倍になる)。∇Φ(z)=−z/(nωn∣z∣n) と ∣x∣∣y−x~∣=∣x−y∣ から
∂yiΦ(y−x)=−nωn∣x−y∣nyi−xi,∂yiΦ(∣x∣(y−x~))=−nωn∣x−y∣n∣x∣2(yi−x~i)=−nωn∣x−y∣n∣x∣2yi−xiです。差をとると ∂yiG(x,y)=−nωn∣x−y∣nyi(1−∣x∣2) で、ν=y との内積をとって K(x,y)=nωn∣x−y∣n1−∣x∣2 です。正値性は明らかです。u≡1 に 定理 7.3 を使うと ∫K(x,y)dS(y)=1 が出ます。
∎
n=2、r=1 では K(x,y)=2π∣x−y∣21−∣x∣2 で、複素解析の Poisson 核 定義 4.1[調和関数と Poisson 積分] と同じものです(dS=dθ)。
証明(定理 7.5)
調和性。 y を固定し w=x−y とおくと、積の微分と Δ∣w∣−n=2n∣w∣−n−2(定義 6.1 の後の公式で a=−n)から
Δx[(r2−∣x∣2)∣x−y∣−n]=2n∣w∣−n−2[(r2−∣x∣2)+2x⋅(x−y)−∣x−y∣2]=2n∣w∣−n−2(r2−∣y∣2)=0です(∣y∣=r)。Kr は {∣x∣<r}×∂B(0,r) 上で x について C∞ で、∣x∣≤ρ<r の範囲では導関数が一様に有界なので、積分記号下で何回でも微分でき、u∈C∞、Δu=0 です。
境界での連続性。 y0∈∂B(0,r)、ε>0 とし、∣y−y0∣<δ なら ∣g(y)−g(y0)∣<ε となる δ をとります。∣x−y0∣<δ/2 なら、命題 7.4 の ∫Kr=1、Kr>0 と、∣y−y0∣≥δ のとき ∣x−y∣≥δ/2 であることから
∣u(x)−g(y0)∣≤∫Kr(x,y)∣g(y)−g(y0)∣dS(y)≤ε+2max∣g∣⋅nωnrr2−∣x∣2(δ2)nnωnrn−1です。x→y0 で r2−∣x∣2→0 なので limsup∣u(x)−g(y0)∣≤ε です。境界上の点どうしの連続性は g の連続性そのものです。
一意性。 系 4.3 です。
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平均値の性質は x=0 の場合です。Kr(0,y)=nωnrn−11 なので、Poisson の公式は u(0)=Mu(0,r) を含んでいます。
演習 8.1易
Rn 上の有界な調和関数は定数であることを示せ(Liouville の定理)。
解答
∣u∣≤M とします。任意の x と r>0 で Bˉ(x,r)⊂Rn なので、命題 3.4 から ∣∂iu(x)∣≤nM/r です。r→∞ として ∇u=0、Rn は連結なので u は定数です。
演習 8.2標準
u∈C(Bˉ(0,r)) が B(0,r) で非負かつ調和なら、∣x∣<r で
(r+∣x∣)n−1rn−2(r−∣x∣)u(0)≤u(x)≤(r−∣x∣)n−1rn−2(r+∣x∣)u(0)が成り立つことを示せ。
解答
定理 7.5 の一意性から u は境界値の Poisson 積分です。∣y∣=r では r−∣x∣≤∣x−y∣≤r+∣x∣、r2−∣x∣2=(r−∣x∣)(r+∣x∣) なので
nωnr(r+∣x∣)n−1r−∣x∣≤Kr(x,y)≤nωnr(r−∣x∣)n−1r+∣x∣.u≥0 を掛けて積分し、平均値の性質 ∫∂B(0,r)udS=nωnrn−1u(0) を使えば主張が出ます。この式は 定理 5.1 の定数を球の場合に具体化したもので、x が境界に近づくと定数が発散する様子がわかります。
演習 8.3標準
n=3 とし、u=Φ∗1B(0,1) とする。∣x∣>1 で u(x)=3∣x∣1 となることを示せ。
解答
∣x∣>1 を固定すると、y↦Φ(x−y) は Bˉ(0,1) の近傍で調和です(Φ は原点の外で調和)。定理 3.2 の球平均の式から ∫B(0,1)Φ(x−y)dy=ω3Φ(x)=34π⋅4π∣x∣1=3∣x∣1 です。一様な密度の球の外側のポテンシャルが、全質量を中心に集めた点のポテンシャルに等しいという Newton の定理です。
演習 8.4難
R+n={xn>0} とし、u∈C2(R+n)∩C(R+n) が調和、境界 {xn=0} で u=0、かつ有界であるとする。u=0 を示せ。u=xn の例と比べ、有界性の仮定の役割を説明せよ。
解答
奇関数拡張 u~(x′,xn)=−u(x′,−xn)(xn<0)で u~ を Rn 上の有界な連続関数に延ばします(境界で u=0 なので連続)。R(x′,xn)=(x′,−xn) を鏡映とすると u~∘R=−u~ です。{xn=0} では u~ は明らかに調和なので、平面 {xn=0} 上の点 x0 の近くで調和であることを示します。
B=B(x0,r) とし、v を境界値 u~∣∂B の Poisson 積分(定理 7.5)とします。R は B を保つ等長写像なので v∘R も B で調和で、境界値は u~∘R=−u~ です。一意性から v∘R=−v、したがって平面上で v=0 です。上半球 B+=B∩{xn>0} で w=v−u は調和、Bˉ+ で連続で、境界の球面部分では v=u~=u、平らな部分では v=u=0 なので、∂B+ 上 w=0 です。系 4.2(B+ は有界)を ±w に使って B+ 上 v=u=u~、下半球でも同様なので、B 上 u~=v は調和です。
よって u~ は Rn 上の有界な調和関数で、演習 8.1 により定数、平面上の値から 0 です。
u=xn は有界でないので Liouville の定理が使えず、実際 u~=xn は Rn 上の調和関数として定数ではありません。非有界領域の一意性には、無限遠での増大度の制限が必要です。
- L. C. Evans, Partial Differential Equations, 2nd ed., American Mathematical Society, 2010 — Chapter 2.2(平均値の性質・最大値原理・Green 関数)。
- D. Gilbarg, N. S. Trudinger, Elliptic Partial Differential Equations of Second Order, Springer, 2001(Classics in Mathematics 版)— Chapter 2。
- F. John, Partial Differential Equations, 4th ed., Springer, 1982 — Chapter 4。
- S. Axler, P. Bourdon, W. Ramey, Harmonic Function Theory, 2nd ed., Springer, 2001 — Chapters 1–3(Harnack の不等式と Poisson 核)。
- 俣野博・神保道夫『熱・波動と微分方程式』岩波書店、2004 — ラプラス方程式の章。
執筆: Claude Code(Opus 5.5)、Claude Code(Sonnet 5.5)・監査 3 回(Claude Code)・最終 2026-10-12