弦をはじいたときの揺れ、水面の波紋、音の広がりは、どれも「波」として同じ形の方程式で表せます。この記事では、ある場所の揺れが次の瞬間にどこまで伝わるのか、一瞬だけ起きた揺れは後に残るのか、という素朴な疑問を、1 次元・3 次元・2 次元の順に式で確かめます。読み終えると、波が伝わる速さに上限があることを、解の公式を使わずに示せるようになります。
- 1 次元の波動方程式 utt=uxx の解は、左右に進む 2 つの波の和です(d’Alembert の公式)。点 (x,t) の値は初期値の [x−t,x+t] の部分だけで決まります。
- 多次元では、解の球面平均(球面上の値の平均)が 1 次元に近い方程式(Euler–Poisson–Darboux 方程式。球面平均を半径と時間の 2 変数の関数とみたときの方程式)を満たします。3 次元ではこれが 1 次元の波動方程式に帰着し、Kirchhoff の公式 u(x,t)=∂t(tMg(x,t))+tMh(x,t) が出ます。2 次元の公式は 3 次元から変数を 1 つ落として得ます(降下法。3 次元の解を、1 方向に変化しない解とみて 2 次元の解を得る方法)。
- 3 次元では、(x,t) の値は初期値の球面 ∣y−x∣=t 上の値だけで決まります(Huygens の原理)。2 次元では円板全体に依存し、局在した波源の後に「尾」が残ります。
- エネルギー E(t)=21∫(ut2+∣∇u∣2) は保存され、初期値・境界値問題の解は一意です。後退する球の上の局所エネルギーが減少することから、伝播速度は 1 以下です。
弦や膜の振動、音波、電磁波は波動方程式 utt=Δu に従います(光速や音速を 1 に規格化しています)。前の 2 章の Laplace 方程式・熱方程式と比べると、波動方程式には次の対照的な性質があります。
| 熱方程式 | 波動方程式 |
|---|
| 滑らかさ | t>0 で直ちに C∞ | 初期値の滑らかさが保たれるだけ(増えない) |
| 伝播速度 | 無限大 | 有限(1) |
| 時間の向き | 一方向(後ろ向きには解けない) | 可逆(t↦−t で同じ方程式) |
伝播速度が有限であることは、相対論的な場の理論の局所性(因果律)の数学的な核心です。光円錐の外の出来事は互いに影響しません。本章では、この性質をエネルギー評価で証明します。証明は解の公式を使わないので、係数が変わる方程式や Klein–Gordon 方程式にもそのまま通用します。
定理 2.1(d'Alembert の公式)✓
g∈C2(R)、h∈C1(R) とする。
u(x,t)=21(g(x+t)+g(x−t))+21∫x−tx+th(y)dyは u∈C2(R×R) で、utt=uxx、u(x,0)=g(x)、ut(x,0)=h(x) を満たす。逆に、これらを満たす u∈C2(R×[0,∞)) は上の式に限る。
証明(定理 2.1)
存在。 H を h の原始関数とすると u=21(g(x+t)+g(x−t))+21(H(x+t)−H(x−t)) で、F(x+t) の形の関数も F(x−t) の形の関数も、F∈C2 なら utt=F′′=uxx を満たします。初期条件は t=0 を代入し、ut=21(g′(x+t)−g′(x−t))+21(h(x+t)+h(x−t)) から確かめられます。
一意性。 u を解とし、v=ut−ux とおくと v∈C1 で vt+vx=utt−uxx=0 です(u∈C2 なので混合偏微分は交換できる)。s↦v(x+s,t+s) の微分は vx+vt=0 なので、v(x,t)=v(x−t,0)=a(x−t)、a=h−g′ です。次に w(s)=u(x+t−s,s)(0≤s≤t)とおくと w′(s)=−ux+ut=a(x+t−2s) なので
u(x,t)=w(t)=g(x+t)+∫0ta(x+t−2s)ds=g(x+t)+21∫x−tx+t(h(y)−g′(y))dyで、∫x−tx+tg′=g(x+t)−g(x−t) を代入すると公式になります。
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直線 x±t= 一定を特性線といいます。証明は、作用素を (∂t+∂x)(∂t−∂x) と因数分解し、それぞれの 1 階の方程式を特性線に沿って積分したものです(1 階の方程式の特性曲線法 定理 6.1[安定性・力学系・特性曲線法] の最も簡単な場合)。公式から、u(x,t) は初期値の区間 [x−t,x+t] の部分だけで決まります。この区間が依存領域です。また g に角があれば、その角は特性線に沿ってそのまま運ばれ、熱方程式のように均されることはありません。
点 (x₀, t₀) の依存領域。初期値の区間 [x₀ − t₀, x₀ + t₀] だけが u(x₀, t₀) に影響する。後退する円錐の局所エネルギーが減少することが有限伝播速度の証明の鍵
外力のある方程式 utt=uxx+f(x,t) は、外力を「各時刻の瞬間的な衝撃の重ね合わせ」と見て、斉次方程式の解に帰着できます。Duhamel の原理です。
命題 2.2(Duhamel の原理(1 次元の非斉次波動方程式))✓
f∈C(R×[0,∞)) で fx も連続とする。各 s≥0 について、w(⋅,⋅;s) を斉次方程式 wtt=wxx(t≥s)の、t=s での初期値 w=0、wt=f(⋅,s) の解
w(x,t;s)=21∫x−(t−s)x+(t−s)f(y,s)dy(定理 2.1 で g=0、h=f(⋅,s)、時刻を s だけずらしたもの)とする。このとき
u(x,t)=∫0tw(x,t;s)dsは C2 級で utt=uxx+f、u(x,0)=ut(x,0)=0 を満たし、これらを満たす C2 級の解は u だけである。
証明(命題 2.2)
w の偏導関数を計算します。wt=21(f(x+t−s,s)+f(x−t+s,s))、wx=21(f(x+t−s,s)−f(x−t+s,s)) で、さらに wtt=wxx=21(fx(x+t−s,s)−fx(x−t+s,s))、wxt=21(fx(x+t−s,s)+fx(x−t+s,s)) で、これらはすべて (x,t,s) について連続です。t=s では w=0、wx=0、wt=f(x,s) です。
積分記号下の微分(補題 5.3[常微分方程式の初等解法])を上端が t の積分に使う(被積分関数とその t,x での偏導関数が連続なので、H(t,τ)=∫0τG(t,s)ds の偏導関数 Ht=∫0τGtds、Hτ=G(t,τ) が連続で連鎖律が使える)と
ut=w(x,t;t)+∫0twtds=∫0twtds,utt=wt(x,t;t)+∫0twttds=f(x,t)+∫0twttdsux=∫0twxds,uxx=∫0twxxds,uxt=wx(x,t;t)+∫0twxtds=∫0twxtdsです。右辺の被積分関数はすべて連続なので、u の 2 階までの偏導関数は連続で、u∈C2 です。utt−uxx=f+∫0t(wtt−wxx)ds=f です。t=0 で積分区間が空なので u=ut=0 です。
一意性:二つの C2 級の解の差 v は vtt=vxx、v(⋅,0)=vt(⋅,0)=0 を満たします。任意の (x0,t0) について、B(x0,t0) 上で初期値が 0 なので、有限伝播速度(定理 5.3、n=1)により v(x0,t0)=0 です。
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例 2.3(外力が sin x のとき)
f(x,t)=sinx では w(x,t;s)=21(cos(x−t+s)−cos(x+t−s))=sinxsin(t−s) で、u(x,t)=sinx∫0tsin(t−s)ds=sinx(1−cost) です。確かめると utt=sinxcost、uxx=−sinx(1−cost) で、utt−uxx=sinx=f、初期値は u=ut=0 です。f≡1 なら w=t−s、u=2t2 です。
以下 n≥2 とし、前章までと同じく球面平均を Mf(x,r)=nωn1∫∂B(0,1)f(x+rz)dS(z) と書きます。この式は r≤0 でも意味をもち、z↦−z の対称性から r について偶関数です。f∈Ck なら (x,r)↦Mf(x,r) は Rn×R 上 Ck 級で、Mf(x,0)=f(x) です(積分記号下の微分)。
次の補題のねらいは、球面平均を半径 r の関数とみたとき、r に関する 2 階と 1 階の微分の組み合わせが Δ の球面平均に等しいことを示すことです。これにより、多次元の波動方程式が (r,t) の 2 変数の方程式に移ります。証明では、前の章で平均値の性質を示したときの計算を使います。
補題 3.1(Darboux の方程式)✓
f∈C2(Rn) なら、r>0 で
ΔxMf(x,r)=MΔf(x,r)=∂r2Mf(x,r)+rn−1∂rMf(x,r).
証明(補題 3.1)
第 1 の等号は、積分記号下で Δx を f(x+rz) に施したものです。第 2 の等号のために、定理 3.2[ラプラス方程式と調和関数] の証明の計算(φ′(s)=nsAΔf(x,s))を思い出すと
rn−1∂rMf(x,r)=nωn1∫B(x,r)Δfdyです。両辺を r で微分すると、補題 2.3[ラプラス方程式と調和関数] から右辺は nωn1∫∂B(x,r)ΔfdS=rn−1MΔf(x,r)、左辺は rn−1∂r2Mf+(n−1)rn−2∂rMf です。
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波動方程式の解 u に適用すると、U(x;r,t)=Mu(⋅,t)(x,r) は x を固定して Utt=Urr+rn−1Ur(Euler–Poisson–Darboux 方程式)を満たします。これは (r,t) の 2 変数の方程式で、n=3 のときは rU が 1 次元の波動方程式を満たします。実際 (rU)rr=rUrr+2Ur=r(Urr+r2Ur) です。以下では、この観察を初期値の球面平均の側で使って、解を直接作ります。
前節の観察から、3 次元では半径方向に r を掛けると 1 次元の波動方程式の形になります。そこで、初期値の球面平均に t を掛けたもの tMh が解になることを先に示します(初期値は (0,h) の形になります)。g の項には、この解の時間微分をとります。時間で微分すると、初期値の組が (0,g) から (g,0) に入れ替わるからです。
補題 4.1(tMh は波動方程式を解く)✓
n=3、h∈Ck(R3)(k≥2)とし、Wh(x,t)=tMh(x,t) とおく。このとき Wh∈Ck(R3×R) で、∂t2Wh=ΔWh、Wh(x,0)=0、∂tWh(x,0)=h(x) が成り立つ。
証明(補題 4.1)
滑らかさは Mh の滑らかさからです。t=0 で 補題 3.1(n=3、Mh は t について偶関数なので t<0 でも同じ式)を使うと
ΔWh=t(∂t2Mh+t2∂tMh)=t∂t2Mh+2∂tMh=∂t2(tMh)=∂t2Whです。両辺は連続なので t=0 でも成り立ちます。Wh(x,0)=0 と、∂tWh=Mh+t∂tMh に t=0 を入れて Mh(x,0)=h(x) が出ます。
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定理 4.2(Kirchhoff の公式)✓
n=3、g∈C3(R3)、h∈C2(R3) とする。
u(x,t)=∂t(tMg(x,t))+tMh(x,t)=4πt21∫∂B(x,t)(th(y)+g(y)+∇g(y)⋅(y−x))dS(y)(t>0)とおくと、u∈C2(R3×[0,∞)) で、utt=Δu、u(x,0)=g(x)、ut(x,0)=h(x) を満たす。
証明(定理 4.2)
補題 4.1 から Wh は C2 の解で初期値は (0,h) です。Wg∈C3 も解なので、∂tWg∈C2 も解です(∂t と ∂t2−Δ は可換)。その初期値は ∂tWg(x,0)=g(x)、∂t2Wg(x,0)=ΔWg(x,0)=0 です(Wg(⋅,0)=0)。足し合わせれば u=∂tWg+Wh は初期値 (g,h) の解です。
第 2 の表示は、∂tMg(x,t)=4π1∫∂B(0,1)∇g(x+tz)⋅zdS(z) から t∂tMg=4πt21∫∂B(x,t)∇g(y)⋅(y−x)dS(y)、および tMh=4πt21∫∂B(x,t)thdS を合わせたものです。
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一意性は 系 5.2 で示します。公式の形から、次のことが読み取れます。
系 4.3(Huygens の原理(3 次元))✓
定理 4.2 の解 u(x,t) は、g,h と ∇g の球面 ∂B(x,t) 上の値だけで決まる。特に、g,h の台が Bˉ(0,R) に含まれるなら、t>R で u(⋅,t) の台は殻 {t−R≤∣x∣≤t+R} に含まれる。
証明(系 4.3)
前半は公式そのものです。後半は、∣x∣<t−R または ∣x∣>t+R なら球面 ∂B(x,t) が Bˉ(0,R) と交わらないことから出ます(三角不等式で、球面上の y は ∣y∣≥t−∣x∣>R または ∣y∣≥∣x∣−t>R)。
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一瞬だけ鳴った音は、ある時間だけ聞こえて完全に止みます。3 次元の音声通信が成り立つのはこの性質のおかげです。
2 次元には rU のような 1 次元への帰着がありません。そこで、2 次元の初期値を 3 次元の関数とみなします。第 3 の座標に依存しない関数と考え、その 3 次元の解も第 3 の座標に依存しないことを使います。すると 3 次元の公式の球面の積分が、円板の積分に書き直せます。
定理 4.4(Poisson の公式(2 次元))✓
n=2、g∈C3(R2)、h∈C2(R2) とする。t>0 について
u(x,t)=∂t(2π1∫B(x,t)t2−∣y−x∣2g(y)dy)+2π1∫B(x,t)t2−∣y−x∣2h(y)dyとおくと、u は C2(R2×[0,∞)) に延びて utt=Δu、u(x,0)=g、ut(x,0)=h を満たす。
証明(定理 4.4)
gˉ(x1,x2,x3)=g(x1,x2)、hˉ も同様にして、3 次元の Kirchhoff の解 uˉ を作ります。uˉ は x3 によらない(初期値が x3 方向の平行移動で不変で、公式も平行移動と可換)ので、u(x1,x2,t)=uˉ(x1,x2,0,t) は 2 次元の波動方程式の C2 の解で、初期値は (g,h) です。あとは tMhˉ((x,0),t) を 2 次元の積分に書き直します。
球面 ∂B((x,0),t) の上半分は、円板 B(x,t) 上のグラフ y3=t2−∣y−x∣2 で、面積要素は 1+∣∇y3∣2dy=t2−∣y−x∣2tdy です(グラフ曲面の面積要素 命題 4.3[ベクトル解析と積分定理])。下半分も同じで、hˉ は y3 によらないので
tMhˉ((x,0),t)=4πt2t⋅2∫B(x,t)t2−∣y−x∣2th(y)dy=2π1∫B(x,t)t2−∣y−x∣2h(y)dyです。g の項も同様です。
∎
2 次元では u(x,t) が円板 B(x,t) 全体の初期値に依存し、Huygens の原理は成り立ちません。たとえば g=0、h≥0 が Bˉ(0,R) に台をもち h≡0 なら、∣x∣<t−R を満たすすべての (x,t) で B(x,t)⊃Bˉ(0,R) なので u(x,t)=2π1∫t2−∣y−x∣2h(y)dy>0 です。水面の波紋が通り過ぎた後も、水面は完全には静まりません(減衰は 1/t 程度、演習)。同じ降下法で、奇数次元 n≥3 では Huygens の原理が成り立ち、偶数次元では成り立たないことが示されます(Evans 2.4.1 節)。
定理 5.1(エネルギー保存)✓
U を滑らかな境界をもつ有界領域、u∈C2(Uˉ×[0,T]) が utt=Δu を満たし、∂U 上で u=0 とする。このとき
E(t)=21∫U(ut2+∣∇u∣2)dxは [0,T] 上で一定である。
証明(定理 5.1)
積分記号下で微分し、Green の公式(系 2.2[ラプラス方程式と調和関数])を v=ut と u に使うと
E′(t)=∫U(ututt+∇u⋅∇ut)dx=∫Uut(utt−Δu)dx+∫∂Uut∂νudS=0です。境界で u=0 が全ての t で成り立つので、境界で ut=0 だからです。
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系 5.2(初期値・境界値問題の一意性)✓
定理 5.1 の状況で、utt=Δu+f、∂U 上 u=b、u(⋅,0)=g、ut(⋅,0)=h を満たす u∈C2(Uˉ×[0,T]) は高々一つである。
証明(系 5.2)
2 つの解の差 w は斉次の方程式と斉次の境界条件を満たし、E(0)=0 です。定理 5.1 から E≡0 なので wt=0、w(⋅,0)=0 と合わせて w=0 です。
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全空間 Rn では境界がない代わりに無限遠が問題になります。次の局所エネルギーの評価が、両方の問題を同時に解決します。
直感的には、時間とともに縮んでいく球を考え、その中のエネルギーの量 e(t) を見ます。球の縮む速さは波の速さと同じ 1 です。球が縮む速さが波の速さと同じなので、外から球の中へ入ってくるエネルギーは、縮んで球から外れる分を上回りません。したがって e(t) は増えず、最初に 0 なら 0 のままです。
定理 5.3(有限伝播速度)✓
u∈C2(Rn×[0,t0]) が utt=Δu を満たすとする。x0∈Rn について、B(x0,t0) 上で u(⋅,0)=ut(⋅,0)=0 ならば、円錐 K={(x,t)∣0≤t≤t0, ∣x−x0∣≤t0−t} 上で u=0 である。
証明(定理 5.3)
0≤t<t0 について、後退する球の上の局所エネルギー
e(t)=21∫B(x0,t0−t)(ut2+∣∇u∣2)(x,t)dxを考えます。F(r,t)=21∫B(x0,r)(ut2+∣∇u∣2)(x,t)dx は、補題 2.3[ラプラス方程式と調和関数] により ∂rF=21∫∂B(x0,r)(ut2+∣∇u∣2)dS、積分記号下の微分で ∂tF=∫B(x0,r)(ututt+∇u⋅∇ut)dx をもち、両者は連続なので F は C1 です。e(t)=F(t0−t,t) なので、連鎖律と Green の公式から(B=B(x0,t0−t) と書いて)
e′(t)=∫But(utt−Δu)dx+∫∂B(ut∂νu−21ut2−21∣∇u∣2)dSです。第 1 項は 0、第 2 項は ∣ut∂νu∣≤∣ut∣∣∇u∣≤21(ut2+∣∇u∣2) から 0 以下です。よって e は単調減少で、e(0)=0 なので [0,t0) 上 e≡0 です。したがって K の t<t0 の部分で ut=0 で、(x,t)∈K なら線分 {(x,s)∣0≤s≤t} も K に入るので u(x,t)=u(x,0)+∫0tut(x,s)ds=0 です。t=t0 の頂点では連続性から u=0 です。
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境界の項の符号が鍵です。球面上で外に流れ出るエネルギーの流束 −ut∂νu は、球が光速で縮むことによる損失 21(ut2+∣∇u∣2) を超えられません。これが「エネルギーは光より速く運ばれない」ことの式としての表現です。
系 5.4(台の広がり)✓
定理 5.3 の状況で、初期値 u(⋅,0)、ut(⋅,0) の台が Bˉ(0,R) に含まれるなら、u(⋅,t) の台は Bˉ(0,R+t) に含まれる。特に E(t)=21∫Rn(ut2+∣∇u∣2)dx は有限で一定であり、Cauchy 問題の C2 解は一意である。
証明(系 5.4)
∣x0∣>R+t なら、B(x0,t) は Bˉ(0,R) と交わらないので、t0=t として 定理 5.3 を使えば u(x0,t)=0 です。エネルギーの保存は、十分大きな球 U=B(0,R+T+1) の上で 定理 5.1 と同じ計算をすれば、境界の近くで u=0 なので境界項が消えて出ます。一意性は差に前半を使って 定理 5.3 を全ての x0 に適用すれば出ます。
∎
Kirchhoff の公式の解はこの系により唯一の C2 解です。2 次元の Poisson の公式も、解が B(x,t) の外の初期値によらないので、t について伝播速度 1 と整合しています。違いは、3 次元では依存領域が「円錐の表面」だけなのに対し、2 次元では「円錐の内部全体」である点です。
演習 6.1易
n=1 で g=0、h∈Cc1(R) の台が [−R,R] に含まれるとする。∣x∣<t−R なら u(x,t)=21∫Rh であることを示し、1 次元でも Huygens の原理が成り立たないことを確かめよ。
解答
∣x∣<t−R なら x−t<−R かつ x+t>R なので、定理 2.1 の積分区間 [x−t,x+t] は h の台を含み、u(x,t)=21∫h です。∫h=0 なら、波が通り過ぎた後も変位が残ります(弦が平行移動したまま止まる)。
演習 6.2標準
m≥0 とし、u∈C2(Rn×[0,t0]) が Klein–Gordon 方程式 utt−Δu+m2u=0 を満たすとする。定理 5.3 と同じ結論が成り立つことを示せ。
解答
局所エネルギーを e(t)=21∫B(x0,t0−t)(ut2+∣∇u∣2+m2u2)dx とします。同じ計算で
e′(t)=∫But(utt−Δu+m2u)dx+∫∂B(ut∂νu−21(ut2+∣∇u∣2+m2u2))dS≤0で、以下同様です。質量項は伝播速度を変えません。相対論的な場の局所性は、質量の有無によらずこの評価で保証されます。
演習 6.3標準
n=2、g=0、h∈Cc2(R2)、h≥0 とする。x を固定して t→∞ のとき tu(x,t)→2π1∫R2h を示せ。
解答
h の台を Bˉ(0,R) に含め、t>∣x∣+R とします。定理 4.4 から tu(x,t)=2π1∫h(y)t2−∣y−x∣2tdy で、台の上では ∣y−x∣≤∣x∣+R なので 1≤t2−∣y−x∣2t≤(1−t2(∣x∣+R)2)−1/2→1 です。よって主張が出ます。3 次元では t が大きいと u(x,t)=0 になる(系 4.3)のと対照的に、2 次元では 1/t でしか減衰しない尾が残ります。
- L. C. Evans, Partial Differential Equations, 2nd ed., American Mathematical Society, 2010 — Chapter 2.4(d’Alembert・球面平均・Kirchhoff と Poisson の公式・エネルギー法)。
- F. John, Partial Differential Equations, 4th ed., Springer, 1982 — Chapters 2 and 5。
- R. Courant, D. Hilbert, Methods of Mathematical Physics, Vol. II, Wiley-Interscience, 1962 — Chapter VI(Huygens の原理と降下法)。
- C. D. Sogge, Lectures on Non-Linear Wave Equations, 2nd ed., International Press, 2008 — Chapter I(エネルギー評価と有限伝播速度)。
執筆: Claude Code(Opus 5.5)、Claude Code(Sonnet 5.5)・監査 4 回(Claude Code)・最終 2026-10-12