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Kolmogorov の拡張定理と連続性定理:有限次元分布から Wiener 測度へ

対象読者: 測度の拡張定理と直積測度、本テーマのブラウン運動と特性関数(ガウスベクトル)の章を学んだ人。距離空間のコンパクト性と可分性は既知とし、ポーランド空間は本文で扱います。

前提となる記事:測度空間と Carathéodory の拡張定理:前測度から測度を作り、一意性を示す、直積測度と Fubini–Tonelli の定理:積分の順序交換と無限直積、マルチンゲールとブラウン運動:公平な賭けから連続時間の確率過程へ、特性関数と Gauss ベクトル:反転公式・Lévy の連続性定理・Wick の公式・Mills 比

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ブラウン運動のように、時間とともに不規則に動く量をどう数学的に作るのか、という話です。「いくつかの時刻での値のばらつき方」を先に決めておき、そのすべてに合う確率の枠組みが本当に存在するのかを確かめます。さらに、動きが途切れず滑らかにつながる(連続な)道をもつようにできることも示します。読み終えると、ブラウン運動の存在が、この記事の二つの定理から順に導かれる様子が追えるようになります。

  • 確率過程 (Xt)t∈T(X_t)_{t\in T} を「作る」とは、有限個の時刻での同時分布(有限次元分布)を指定し、それらすべてと矛盾しない確率測度を道の空間 ETE^T 上に構成することです。Kolmogorov の拡張定理(定理 4.1)は、状態空間 EE が Polish 空間なら、有限次元分布が互いに整合的であるだけで、それが可能であり一意だと主張します。
  • 証明の鍵は、Polish 空間(完備で可算な稠密部分集合をもつ距離空間、定義 3.1)上の確率測度がコンパクト集合で内側から近似できること(Ulam の定理、定理 3.3)です。コンパクト性が「空でない柱集合(有限個の時刻での値だけを制約した道の集合、定義 2.1)の減少列の共通部分は空でない」ことを保証し、前測度の可算加法性になります。
  • 実対称な核 K(s,t)K(s,t) が正定値であることは、ある Hilbert 空間のベクトル族の内積 K(s,t)=⟨v(s),v(t)⟩K(s,t)=\langle v(s),v(t)\rangle で書けることと同値です(Kolmogorov 分解、定理 5.2)。正定値核は、ちょうど Gauss 過程の共分散になれる関数です(定理 5.3)。
  • 拡張定理が作る測度は、道の連続性について何も教えません。Kolmogorov の連続性定理(定理 6.2)は、E[ρ(Xs,Xt)α]≤C∣t−s∣1+βE[\rho(X_s,X_t)^\alpha]\le C|t-s|^{1+\beta} という積率の評価から、Hölder 連続(∣f(t)−f(s)∣≤K∣t−s∣γ|f(t)-f(s)|\le K|t-s|^\gamma という形で変化が抑えられる連続性)な道をもつ修正(各時刻で確率 1 で同じ値をとる別の過程、定義 6.1)を作ります。
  • 以上を組み合わせて、Brown 運動の存在(マルチンゲールとブラウン運動 で主張だけを述べたもの)と、連続関数の空間上の Wiener 測度の存在と一意性を証明します(定理 7.2)。

確率測度の無限直積 で、独立な確率変数の無限列が存在することを証明しました(定理 6.1[直積測度と Fubini–Tonelli の定理])。ところが確率論で扱う対象の多くは独立ではありません。Markov 連鎖では次の状態が今の状態に依存し、Brown 運動では BsB_s と BtB_t の共分散が min⁡(s,t)\min(s,t) です。しかも Brown 運動の添字集合 [0,∞)[0,\infty) は非可算です。

こうした過程について、私たちが直接指定できるのは有限次元分布だけです。「時刻 t1,…,tnt_1,\ldots,t_n での値 (Bt1,…,Btn)(B_{t_1},\ldots,B_{t_n}) は共分散 min⁡(ti,tj)\min(t_i,t_j) の Gauss ベクトルに従う」という指定は、どの有限個の時刻についても意味をもちます。問題は、この無限個の指定をすべて同時に満たす確率空間があるかどうかです。指定どうしが矛盾していれば明らかに存在しないので、必要条件は整合性です。時刻 {t1,t2,t3}\{t_1,t_2,t_3\} での分布を (t1,t2)(t_1,t_2) 成分に射影したものは、時刻 {t1,t2}\{t_1,t_2\} での分布と一致していなければなりません。Kolmogorov(1933 年)は、この必要条件が実数値の過程について十分でもあることを示しました。

ここには二つの落とし穴があります。第一に、整合性だけでは足りず、状態空間の位相的な性質(コンパクト集合による近似)が証明に効きます。第二に、拡張定理で得られる確率空間 R[0,∞)\mathbb{R}^{[0,\infty)} 上では、「道が連続である」という事象が可測ですらありません(例 2.5)。連続な道をもつ Brown 運動を作るには、もう一段の議論(連続性定理)が必要です。この記事は二つの定理を順に証明し、Wiener 測度の構成で合流させます。

2. 準備:道の空間と有限次元分布

Section titled “2. 準備:道の空間と有限次元分布”

以下、TT は空でない集合(添字集合、時刻の集合)、(E,ρ)(E,\rho) は距離空間とします。ETE^T は写像 x:T→Ex:T\to E 全体で、xt=x(t)x_t=x(t) と書きます。TT の空でない有限部分集合の全体を F(T)\mathfrak{F}(T) と書きます。J∈F(T)J\in\mathfrak{F}(T) に対し EJE^J には距離 ρJ(x,y)=max⁡t∈Jρ(xt,yt)\rho_J(x,y)=\max_{t\in J}\rho(x_t,y_t) を入れます。J⊂KJ\subset K のとき、制限写像を πJK:EK→EJ\pi_{J}^{K}:E^K\to E^J、ET→EJE^T\to E^J への制限を πJ\pi_J と書きます。1 点 J={t}J=\{t\} のときは πt\pi_t と書き、座標写像と呼びます。

定義 2.1(道の空間の直積 σ-加法族と柱集合)↗

ETE^T 上の 直積 σ-加法族 B(E)⊗T\mathcal{B}(E)^{\otimes T} を、すべての座標写像 πt\pi_t(t∈Tt\in T)を可測にする最小の σ-加法族 σ(πt:t∈T)\sigma(\pi_t:t\in T) と定める。J∈F(T)J\in\mathfrak{F}(T) と B∈B(EJ)B\in\mathcal{B}(E^J) により πJ−1(B)\pi_J^{-1}(B) と書ける集合を柱集合といい、柱集合の全体を C\mathcal{C} と書く。

柱集合は、有限個の時刻でだけ値の範囲を指定し、それ以外の時刻では何も指定しない道の集合です。下の図では、2 つの時刻 t1,t2t_1,t_2 で値が太線の区間に入る道の全体が柱集合で、指定した時刻の間や外では道は自由に動けます。

t1t2B1B2
柱集合:時刻 t1, t2 での値だけを制約した道の集合。実線の 2 本は柱集合に属し、破線の道は t1 で区間の外に出るので属さない

TT が有限集合 {1,…,n}\{1,\ldots,n\} で E=RE=\mathbb{R} のときは、直積測度と Fubini の定理 の B(R)⊗n\mathcal{B}(\mathbb{R})^{\otimes n} と同じものです。次の補題は 命題 2.3[直積測度と Fubini–Tonelli の定理] を可分距離空間に一般化したものです。

補題 2.2(有限直積のボレル集合族)✓

EE が可分距離空間で J∈F(T)J\in\mathfrak{F}(T) ならば、(EJ,ρJ)(E^J,\rho_J) のボレル集合族は直積 σ-加法族 B(E)⊗J\mathcal{B}(E)^{\otimes J} に等しい。さらに EE が完備なら (EJ,ρJ)(E^J,\rho_J) も完備で可分である。

証明(補題 2.2)

(B(E)⊗J⊂B(EJ)\mathcal{B}(E)^{\otimes J}\subset\mathcal{B}(E^J))各 πt:EJ→E\pi_t:E^J\to E は ρ(πtx,πty)≤ρJ(x,y)\rho(\pi_tx,\pi_ty)\le\rho_J(x,y) より連続なので、開集合の逆像は開集合です。{A⊂E∣πt−1(A)∈B(EJ)}\{A\subset E\mid\pi_t^{-1}(A)\in\mathcal{B}(E^J)\} は開集合を含む σ-加法族なので B(E)\mathcal{B}(E) を含みます。よって各 πt\pi_t は B(EJ)\mathcal{B}(E^J)-可測で、最小性から包含が従います。

(⊃\supset){qk}\{q_k\} を EE の可算稠密集合とし、中心が qkq_k、半径が正の有理数の開球の直積 ∏t∈JB(qkt,r)\prod_{t\in J}B(q_{k_t},r) 全体を U\mathcal{U} とします。U\mathcal{U} は可算族で、各元は ⋂tπt−1(B(qkt,r))∈B(E)⊗J\bigcap_{t}\pi_t^{-1}(B(q_{k_t},r))\in\mathcal{B}(E)^{\otimes J} です。開集合 U⊂EJU\subset E^J と x∈Ux\in U を取り、ρJ\rho_J-球 BJ(x,ε)⊂UB_J(x,\varepsilon)\subset U とします。有理数 r∈(0,ε/2)r\in(0,\varepsilon/2) と ρ(qkt,xt)<r\rho(q_{k_t},x_t)<r を満たす qktq_{k_t} を選ぶと、x∈∏tB(qkt,r)⊂BJ(x,2r)⊂Ux\in\prod_tB(q_{k_t},r)\subset B_J(x,2r)\subset U です。したがって UU は U\mathcal{U} の元(UU に含まれるもの)の可算和で、U∈B(E)⊗JU\in\mathcal{B}(E)^{\otimes J} です。開集合で生成される B(EJ)\mathcal{B}(E^J) も含まれます。

最後の主張:ρJ\rho_J-Cauchy 列は各座標で Cauchy なので各座標が収束し、座標ごとの極限に ρJ\rho_J で収束します。{qk}J\{q_k\}^J は可算で EJE^J で稠密です。

定義 2.3(有限次元分布と整合性)↗

各 J∈F(T)J\in\mathfrak{F}(T) に (EJ,B(EJ))(E^J,\mathcal{B}(E^J)) 上の確率測度 μJ\mu_J が与えられているとする。J⊂KJ\subset K ならば常に

μK∘(πJK)−1=μJ\mu_K\circ(\pi_J^K)^{-1}=\mu_J

が成り立つとき、族 (μJ)J∈F(T)(\mu_J)_{J\in\mathfrak{F}(T)} は整合的であるという。確率空間 (Ω,F,P)(\Omega,\mathcal{F},P) 上の EE 値確率過程 X=(Xt)t∈TX=(X_t)_{t\in T} について、J={t1,…,tn}J=\{t_1,\ldots,t_n\} での同時分布 P∘(Xt1,…,Xtn)−1P\circ(X_{t_1},\ldots,X_{t_n})^{-1} を XX の有限次元分布という。

EJE^J を「JJ から EE への写像の空間」としたので、時刻の並べ替えに関する整合性は自動的に含まれています。確率過程の有限次元分布の族はつねに整合的です。(Xt)t∈K(X_t)_{t\in K} の分布を JJ 成分に制限すれば (Xt)t∈J(X_t)_{t\in J} の分布になるからです。

命題 2.4(可測集合は可算個の座標で決まる)✓

A∈B(E)⊗TA\in\mathcal{B}(E)^{\otimes T} ならば、可算集合 S⊂TS\subset T と B∈B(E)⊗SB\in\mathcal{B}(E)^{\otimes S} があって A=πS−1(B)A=\pi_S^{-1}(B) と書ける。特に、x∈Ax\in A で yt=xty_t=x_t(すべての t∈St\in S)ならば y∈Ay\in A である。

証明(命題 2.4)

このように書ける集合 AA の全体を G\mathcal{G} とします。πt−1(B)∈G\pi_t^{-1}(B)\in\mathcal{G}(S={t}S=\{t\})です。A=πS−1(B)A=\pi_S^{-1}(B) なら Ac=πS−1(Bc)A^c=\pi_S^{-1}(B^c)。An=πSn−1(Bn)A_n=\pi_{S_n}^{-1}(B_n) なら、S=⋃nSnS=\bigcup_nS_n(可算)として An=πS−1((πSnS)−1(Bn))A_n=\pi_S^{-1}\bigl((\pi^S_{S_n})^{-1}(B_n)\bigr) と書き直せるので ⋃nAn=πS−1(⋃n(πSnS)−1(Bn))\bigcup_nA_n=\pi_S^{-1}\bigl(\bigcup_n(\pi^S_{S_n})^{-1}(B_n)\bigr)。よって G\mathcal{G} はすべての πt\pi_t を可測にする σ-加法族で、B(E)⊗T⊂G\mathcal{B}(E)^{\otimes T}\subset\mathcal{G} です。

例 2.5(連続な道の集合は可測でない)

T=[0,1]T=[0,1]、E=RE=\mathbb{R} とし、A={x∈R[0,1]∣t↦xt は連続}A=\{x\in\mathbb{R}^{[0,1]}\mid t\mapsto x_t\text{ は連続}\} とします。A∈B(R)⊗[0,1]A\in\mathcal{B}(\mathbb{R})^{\otimes[0,1]} と仮定すると、命題 2.4 の可算集合 SS があります。x≡0∈Ax\equiv0\in A を取り、SS に属さない点 uu([0,1][0,1] は非可算なので存在する)で yu=1y_u=1、それ以外で yt=0y_t=0 とすると、yy は SS 上で xx と一致するので y∈Ay\in A のはずですが、yy は不連続です。矛盾なので AA は可測ではありません。同じ理由で sup⁡t∈[0,1]xt\sup_{t\in[0,1]}x_t も可測関数になりません。

直感的には、可測な事象は可算個の時刻の情報だけで判定できるものに限られ、非可算個の時刻にわたる性質(連続であること)は、可算個の時刻を見ただけでは決まらない、ということです。連続性を扱うために §6 の連続性定理が必要になります。

この節の目標は、「どんな確率測度も、コンパクト集合でほとんど全体を覆える」ことを示す Ulam の定理です。次節の証明で、無限個の条件を有限個の条件に落とすのにコンパクト集合が必要になります。まず補題で、ボレル集合を閉集合と開集合で内側と外側から挟めることを示し、次に完備性と可分性から、コンパクト集合を作ります。

定義 3.1(Polish 空間)↗

位相空間 EE が Polish 空間であるとは、EE の位相を与える距離 ρ\rho で、(E,ρ)(E,\rho) が完備かつ可分になるものが存在することをいう。以下、Polish 空間にはそのような距離を一つ固定して考える。

Rd\mathbb{R}^d、その閉集合と開集合(開集合は別の完備距離を入れる)、可分 Banach 空間、Polish 空間の可算直積(演習 8.1)、コンパクト距離空間、後で示す連続関数の空間 C([0,∞),Rd)C([0,\infty),\mathbb{R}^d) がその例です。

補題 3.2(閉集合による正則性)✓

μ\mu を距離空間 SS 上の有限なボレル測度とする。任意のボレル集合 AA と ε>0\varepsilon>0 に対し、閉集合 FF と開集合 GG で F⊂A⊂GF\subset A\subset G、μ(G∖F)<ε\mu(G\setminus F)<\varepsilon となるものがある。

証明(補題 3.2)

この性質をもつボレル集合 AA の全体を G\mathcal{G} とします。

閉集合を含む。 FF を閉集合とし、Gn={x∣dist⁡(x,F)<1/n}G_n=\{x\mid\operatorname{dist}(x,F)<1/n\} とおくと、GnG_n は開集合(dist⁡(⋅,F)\operatorname{dist}(\cdot,F) は 1-Lipschitz で連続)で Gn↓FG_n\downarrow F(FF は閉なので dist⁡(x,F)=0  ⟺  x∈F\operatorname{dist}(x,F)=0\iff x\in F)。μ\mu は有限なので、上からの連続性(命題 2.3[測度空間と Carathéodory の拡張定理])により μ(Gn∖F)→0\mu(G_n\setminus F)\to0 です。

補集合で閉じる。 F⊂A⊂GF\subset A\subset G なら Gc⊂Ac⊂FcG^c\subset A^c\subset F^c で、GcG^c は閉、FcF^c は開、Fc∖Gc=G∖FF^c\setminus G^c=G\setminus F です。

可算和で閉じる。 An∈GA_n\in\mathcal{G} に対し Fn⊂An⊂GnF_n\subset A_n\subset G_n、μ(Gn∖Fn)<ε2−n−1\mu(G_n\setminus F_n)<\varepsilon2^{-n-1} とします。G=⋃nGnG=\bigcup_nG_n は開集合です。μ(⋃nFn∖⋃n≤NFn)→0\mu\bigl(\bigcup_nF_n\setminus\bigcup_{n\le N}F_n\bigr)\to0(N→∞N\to\infty)なので、ε/2\varepsilon/2 未満となる NN を取り F=⋃n≤NFnF=\bigcup_{n\le N}F_n(閉集合)とします。G∖F⊂⋃n(Gn∖Fn)∪(⋃nFn∖F)G\setminus F\subset\bigcup_n(G_n\setminus F_n)\cup\bigl(\bigcup_nF_n\setminus F\bigr) から μ(G∖F)<ε\mu(G\setminus F)<\varepsilon です。

以上で G\mathcal{G} は閉集合を含む σ-加法族となり、ボレル集合族全体を含みます。

定理 3.3(Ulam の定理)✓

EE を Polish 空間、μ\mu を EE 上の有限なボレル測度とする。

  1. 任意の ε>0\varepsilon>0 に対し、コンパクト集合 KK で μ(E∖K)<ε\mu(E\setminus K)<\varepsilon となるものがある(μ\mu は緊密である)。
  2. 任意のボレル集合 AA と ε>0\varepsilon>0 に対し、コンパクト集合 K⊂AK\subset A で μ(A∖K)<ε\mu(A\setminus K)<\varepsilon となるものがある(内部正則性)。
証明(定理 3.3)

(1) {qi}\{q_i\} を可算稠密集合とします。各 k∈Nk\in\mathbb{N} について閉球 Bˉ(qi,1/k)\bar B(q_i,1/k)(i∈Ni\in\mathbb{N})は EE を覆う(稠密性)ので、⋃i≤nBˉ(qi,1/k)↑E\bigcup_{i\le n}\bar B(q_i,1/k)\uparrow E(n→∞n\to\infty)です。下からの連続性により、nkn_k を

μ(E∖⋃i≤nkBˉ(qi,1/k))<ε2−k\mu\Bigl(E\setminus\bigcup_{i\le n_k}\bar B(q_i,1/k)\Bigr)<\varepsilon2^{-k}

となるように取れます。K=⋂k⋃i≤nkBˉ(qi,1/k)K=\bigcap_{k}\bigcup_{i\le n_k}\bar B(q_i,1/k) とおくと、μ(E∖K)<∑kε2−k=ε\mu(E\setminus K)<\sum_k\varepsilon2^{-k}=\varepsilon です。KK は閉集合の共通部分なので閉で、完備空間の閉部分集合として完備です。また各 kk で有限個の半径 1/k1/k の閉球(したがって半径 2/k2/k の開球)で覆われるので全有界です。定理 4.3[距離空間] により KK はコンパクトです。

(2) 補題 3.2 により閉集合 F⊂AF\subset A で μ(A∖F)<ε/2\mu(A\setminus F)<\varepsilon/2 となるものを取り、(1) で μ(E∖K0)<ε/2\mu(E\setminus K_0)<\varepsilon/2 となるコンパクト集合 K0K_0 を取ります。K=F∩K0K=F\cap K_0 はコンパクト集合の閉部分集合なのでコンパクトで、μ(A∖K)≤μ(A∖F)+μ(E∖K0)<ε\mu(A\setminus K)\le\mu(A\setminus F)+\mu(E\setminus K_0)<\varepsilon です。

完備性は (1) で全有界な閉集合をコンパクトにするところでだけ使いました。この一点が、次節で前測度の可算加法性を生み出します。

定理 4.1(Kolmogorov の拡張定理)✓

TT を空でない集合、EE を Polish 空間とし、(μJ)J∈F(T)(\mu_J)_{J\in\mathfrak{F}(T)} を整合的な確率測度の族とする(定義 2.3)。このとき (ET,B(E)⊗T)(E^T,\mathcal{B}(E)^{\otimes T}) 上の確率測度 PP で、すべての J∈F(T)J\in\mathfrak{F}(T) について

P∘πJ−1=μJP\circ\pi_J^{-1}=\mu_J

を満たすものがただ一つ存在する。特に、座標過程 Xt=πtX_t=\pi_t は確率空間 (ET,B(E)⊗T,P)(E^T,\mathcal{B}(E)^{\otimes T},P) 上の確率過程で、その有限次元分布は (μJ)(\mu_J) である。

証明の見取り図です。柱集合の上では μJ\mu_J を使って確率が自然に定まります(手順 2)。これを全体に広げるには、前測度であること、つまり可算加法性が必要で、ここが証明の中心です(手順 3 と 4)。手順 3 では、柱集合が減っていくとき、各段階の柱集合の中に「コンパクト集合でできた小さな柱」を取って、点列の収束部分列から共通の点を作ります。可算加法性が出たら、Carathéodory の拡張定理で測度に広げます(手順 5)。

証明(定理 4.1)

(1) 柱集合は代数をなし、直積 σ-加法族を生成する。 J⊂LJ\subset L のとき πJ=πJL∘πL\pi_J=\pi_J^L\circ\pi_L で、πJL\pi_J^L は連続なので πJ−1(B)=πL−1((πJL)−1(B))\pi_J^{-1}(B)=\pi_L^{-1}\bigl((\pi_J^L)^{-1}(B)\bigr) と LL 上の柱集合に書き直せます。二つの柱集合は L=J∪KL=J\cup K 上に書き直せば、和・補集合も柱集合です。また ETE^T 自身も柱集合です。よって C\mathcal{C} は代数です。πt−1(B)∈C\pi_t^{-1}(B)\in\mathcal{C} なので σ(C)⊃B(E)⊗T\sigma(\mathcal{C})\supset\mathcal{B}(E)^{\otimes T}。逆に各 πJ\pi_J は成分が可測なので B(E)⊗J=B(EJ)\mathcal{B}(E)^{\otimes J}=\mathcal{B}(E^J)(補題 2.2)に関して可測で、C⊂B(E)⊗T\mathcal{C}\subset\mathcal{B}(E)^{\otimes T} です。

(2) P0P_0 の定義と有限加法性。 C=πJ−1(B)C=\pi_J^{-1}(B) に対し P0(C)=μJ(B)P_0(C)=\mu_J(B) と定めます。C=πK−1(B′)C=\pi_K^{-1}(B') とも書けるとき、L=J∪KL=J\cup K とすると πL−1((πJL)−1(B))=πL−1((πKL)−1(B′))\pi_L^{-1}\bigl((\pi_J^L)^{-1}(B)\bigr)=\pi_L^{-1}\bigl((\pi_K^L)^{-1}(B')\bigr) で、πL\pi_L は全射なので (πJL)−1(B)=(πKL)−1(B′)(\pi_J^L)^{-1}(B)=(\pi_K^L)^{-1}(B')。整合性から

μJ(B)=μL((πJL)−1(B))=μL((πKL)−1(B′))=μK(B′)\mu_J(B)=\mu_L\bigl((\pi_J^L)^{-1}(B)\bigr)=\mu_L\bigl((\pi_K^L)^{-1}(B')\bigr)=\mu_K(B')

となり、P0P_0 は表し方によりません。互いに素な二つの柱集合は共通の LL 上で πL−1(B1)\pi_L^{-1}(B_1)、πL−1(B2)\pi_L^{-1}(B_2) と書け、全射性から B1∩B2=∅B_1\cap B_2=\emptyset なので、P0P_0 は μL\mu_L の加法性から有限加法的です。P0(ET)=1P_0(E^T)=1 です。

(3) 空集合での連続性。 次を示します。

柱集合の減少列 C1⊃C2⊃⋯C_1\supset C_2\supset\cdots が P0(Cn)≥ε>0P_0(C_n)\ge\varepsilon>0(すべての nn)を満たすならば、⋂nCn≠∅\bigcap_nC_n\ne\emptyset。

Cn=πJn−1(Bn)C_n=\pi_{J_n}^{-1}(B_n) とし、JnJ_n を J1∪⋯∪JnJ_1\cup\cdots\cup J_n に取り替えて((1) の書き直し)J1⊂J2⊂⋯J_1\subset J_2\subset\cdots としてよいです。補題 2.2 により EJnE^{J_n} は Polish なので、定理 3.3 (2) からコンパクト集合 Kn⊂BnK_n\subset B_n で μJn(Bn∖Kn)<ε2−n−1\mu_{J_n}(B_n\setminus K_n)<\varepsilon2^{-n-1} となるものがあります。Dn=⋂k≤nπJk−1(Kk)D_n=\bigcap_{k\le n}\pi_{J_k}^{-1}(K_k) とおくと、Dn⊂CnD_n\subset C_n で、k≤nk\le n では Cn⊂CkC_n\subset C_k なので

P0(Cn∖Dn)≤∑k≤nP0(Ck∖πJk−1(Kk))=∑k≤nμJk(Bk∖Kk)<ε2P_0(C_n\setminus D_n)\le\sum_{k\le n}P_0\bigl(C_k\setminus\pi_{J_k}^{-1}(K_k)\bigr)=\sum_{k\le n}\mu_{J_k}(B_k\setminus K_k)<\frac{\varepsilon}{2}

です(有限劣加法性は 補題 4.1[測度空間と Carathéodory の拡張定理])。よって P0(Dn)>ε/2>0P_0(D_n)>\varepsilon/2>0 で、Dn≠∅D_n\ne\emptyset です。点 x(n)∈Dnx^{(n)}\in D_n を選びます。

n≥kn\ge k ならば πJk(x(n))∈Kk\pi_{J_k}(x^{(n)})\in K_k です。K1K_1 はコンパクト距離空間なので点列コンパクトで(定理 4.3[距離空間])、(πJ1(x(n)))n(\pi_{J_1}(x^{(n)}))_n は収束部分列をもちます。その部分列から (πJ2(x(n)))(\pi_{J_2}(x^{(n)})) の収束部分列を取り、と続けて対角線をとると、部分列 (nj)(n_j) で、すべての kk について πJk(x(nj))→y(k)∈Kk\pi_{J_k}(x^{(n_j)})\to y^{(k)}\in K_k(KkK_k は閉)となるものが得られます。制限写像の連続性から πJkJk+1(y(k+1))=y(k)\pi^{J_{k+1}}_{J_k}(y^{(k+1)})=y^{(k)} です。そこで、t∈Jkt\in J_k なら yt=yt(k)y_t=y^{(k)}_t(kk の取り方によらない)、t∉⋃kJkt\notin\bigcup_kJ_k なら yty_t を EE の任意の点とすると、πJk(y)=y(k)∈Kk⊂Bk\pi_{J_k}(y)=y^{(k)}\in K_k\subset B_k なので y∈Cky\in C_k(すべての kk)。主張が示されました。

(4) 可算加法性。 互いに素な Ak∈CA_k\in\mathcal{C} で A=⨆kAk∈CA=\bigsqcup_kA_k\in\mathcal{C} とします。Cn=A∖⨆k≤nAk∈CC_n=A\setminus\bigsqcup_{k\le n}A_k\in\mathcal{C} は減少列で ⋂nCn=∅\bigcap_nC_n=\emptyset なので、(3) の対偶から P0(Cn)→0P_0(C_n)\to0 です(P0(Cn)P_0(C_n) は単調減少なので、00 に収束しなければある ε\varepsilon 以上にとどまる)。有限加法性から P0(A)=∑k≤nP0(Ak)+P0(Cn)→∑kP0(Ak)P_0(A)=\sum_{k\le n}P_0(A_k)+P_0(C_n)\to\sum_kP_0(A_k)。よって P0P_0 は代数 C\mathcal{C} 上の前測度です。

(5) 拡張と一意性。 定理 4.2[測度空間と Carathéodory の拡張定理] により P0P_0 は σ(C)=B(E)⊗T\sigma(\mathcal{C})=\mathcal{B}(E)^{\otimes T} 上の測度 PP に拡張され、P∘πJ−1=μJP\circ\pi_J^{-1}=\mu_J を満たします。この性質をもつ測度は柱集合の上で P0P_0 と一致し、C\mathcal{C} は交叉で閉じていて ET∈CE^T\in\mathcal{C} なので、定理 4.5[測度空間と Carathéodory の拡張定理] により一意です。

証明の (3) で、コンパクト集合 KnK_n は二つの役割を果たしました。DnD_n が空でないことを測度の評価で保証し、点列 x(n)x^{(n)} から収束部分列を取り出すことを可能にしました。EE が任意の可測空間だと (3) が破れる例が知られており、位相的な仮定は飾りではありません。ただし独立な場合(定理 6.1[直積測度と Fubini–Tonelli の定理])は、各成分の積分で (3)(3) に相当する主張を直接示せるので、位相を使いません。

例 4.2(Markov 連鎖の構成)

EE を Polish 空間、ν\nu を EE 上の確率測度、Q(x,dy)Q(x,dy) を確率核(各 xx で Q(x,⋅)Q(x,\cdot) は確率測度、各ボレル集合 AA で x↦Q(x,A)x\mapsto Q(x,A) は可測)とします。T={0,1,2,…}T=\{0,1,2,\ldots\} とし、En+1E^{n+1} 上の確率測度を

μ{0,…,n}(B)=∫ν(dx0)∫Q(x0,dx1)⋯∫Q(xn−1,dxn) 1B(x0,…,xn)\mu_{\{0,\ldots,n\}}(B)=\int\nu(dx_0)\int Q(x_0,dx_1)\cdots\int Q(x_{n-1},dx_n)\,\mathbf 1_B(x_0,\ldots,x_n)

で定めます(内側から順に積分した関数が可測であることは 補題 3.1[直積測度と Fubini–Tonelli の定理] と同じ議論で示せ、可算加法性は単調収束定理から従う)。J⊂{0,…,n}J\subset\{0,\ldots,n\} には、その JJ 成分への射影を対応させます。Q(xn,E)=1Q(x_{n},E)=1 なので、n+1n+1 番目の変数について自明な集合 B×EB\times E では最後の積分を落としても値が変わらず、どの nn から射影しても同じ測度が得られて、族は整合的です。定理 4.1 により、初期分布 ν\nu、遷移確率 QQ の Markov 連鎖が存在します。

Gauss 過程の有限次元分布は、平均と共分散で決まります(定理 5.2[特性関数と Gauss ベクトル])。では、どのような関数 K(s,t)K(s,t) が共分散になれるのでしょうか。

定義 5.1(正定値核)↗

写像 K:T×T→RK:T\times T\to\mathbb{R} が正定値核であるとは、K(s,t)=K(t,s)K(s,t)=K(t,s) であり、任意の nn、t1,…,tn∈Tt_1,\ldots,t_n\in T、c1,…,cn∈Rc_1,\ldots,c_n\in\mathbb{R} について

∑i,j=1ncicjK(ti,tj)≥0\sum_{i,j=1}^nc_ic_jK(t_i,t_j)\ge0

が成り立つことをいう(行列 (K(ti,tj))i,j(K(t_i,t_j))_{i,j} がすべて半正定値であることと同じ)。

確率過程 (Xt)(X_t) が E[Xt2]<∞E[X_t^2]<\infty を満たせば、K(s,t)=Cov(Xs,Xt)K(s,t)=\mathrm{Cov}(X_s,X_t) は正定値核です。∑cicjK(ti,tj)=Var(∑iciXti)≥0\sum c_ic_jK(t_i,t_j)=\mathrm{Var}\bigl(\sum_ic_iX_{t_i}\bigr)\ge0 だからです。

定理 5.2(Kolmogorov 分解)✓

K:T×T→RK:T\times T\to\mathbb{R} について次は同値である。

  1. KK は正定値核である。
  2. 実 Hilbert 空間 HH と写像 v:T→Hv:T\to H で、すべての s,ts,t について K(s,t)=⟨v(s),v(t)⟩K(s,t)=\langle v(s),v(t)\rangle となるものがある。

さらに、(2) の (H,v)(H,v) は {v(t)}t∈T\{v(t)\}_{t\in T} の張る部分空間が HH で稠密になるように取れ(極小な分解)、極小な分解 (H,v)(H,v)、(H′,v′)(H',v') に対しては、ユニタリ作用素(全射な線形等長写像)U:H→H′U:H\to H' で Uv(t)=v′(t)Uv(t)=v'(t) となるものがただ一つある。

証明の方針です。(2) から (1) は内積の性質からすぐに出ます。逆向きには、時刻 tt ごとに「記号 δt\delta_t」を用意し、KK を内積と読みかえて、これらの 1 次結合の空間に長さと角度を入れます。内積が 00 になる元を同一視(商空間)し、極限を補う(完備化)と Hilbert 空間 HH になり、v(t)v(t) は δt\delta_t が表す元になります。

証明(定理 5.2)

(2) ⇒ (1) ∑cicjK(ti,tj)=∥∑iciv(ti)∥2≥0\sum c_ic_jK(t_i,t_j)=\bigl\|\sum_ic_iv(t_i)\bigr\|^2\ge0、対称性は内積の対称性です。

(1) ⇒ (2) TT 上の有限台の実数値関数全体を V0V_0 とし、a,b∈V0a,b\in V_0 に対し

⟨a,b⟩K=∑s,t∈Ta(s)b(t)K(s,t)\langle a,b\rangle_K=\sum_{s,t\in T}a(s)b(t)K(s,t)

とおきます(有限和)。これは対称な双線形形式で、正定値性から ⟨a,a⟩K≥0\langle a,a\rangle_K\ge0 です。半正定値な対称双線形形式では Cauchy–Schwarz の不等式 ⟨a,b⟩K2≤⟨a,a⟩K⟨b,b⟩K\langle a,b\rangle_K^2\le\langle a,a\rangle_K\langle b,b\rangle_K が成り立ちます(λ↦⟨a+λb,a+λb⟩K≥0\lambda\mapsto\langle a+\lambda b,a+\lambda b\rangle_K\ge0 の判別式、⟨b,b⟩K=0\langle b,b\rangle_K=0 のときは λ\lambda の 1 次式が非負であることから ⟨a,b⟩K=0\langle a,b\rangle_K=0)。したがって N={a∣⟨a,a⟩K=0}={a∣⟨a,b⟩K=0 ∀b}N=\{a\mid\langle a,a\rangle_K=0\}=\{a\mid\langle a,b\rangle_K=0\ \forall b\} は部分空間で、商空間 V0/NV_0/N 上に内積が well-defined に定まります。

V0/NV_0/N を内積から定まる距離で完備化したものを HH とします(定理 3.2[距離空間])。和・スカラー倍・内積は V0/NV_0/N 上で一様連続(内積は有界集合上で一様連続)なので、Cauchy 列の極限として HH に一意に拡張され、等式で書ける性質(線形性、内積の公理)は極限に引き継がれます。⟨h,h⟩=0\langle h,h\rangle=0 ならば、hh に収束する列 ana_n について距離 ∥an∥→∥h∥=0\|a_n\|\to\|h\|=0 なので h=0h=0 です。よって HH は Hilbert 空間です。δt\delta_t を tt で 11、他で 00 の関数とし、v(t)=[δt]v(t)=[\delta_t] とすると ⟨v(s),v(t)⟩=K(s,t)\langle v(s),v(t)\rangle=K(s,t) で、{v(t)}\{v(t)\} の張る空間は V0/NV_0/N 自身なので HH で稠密です。

一意性 極小な分解 (H,v)(H,v)、(H′,v′)(H',v') について、U0(∑iciv(ti))=∑iciv′(ti)U_0\bigl(\sum_ic_iv(t_i)\bigr)=\sum_ic_iv'(t_i) と定めます。

∥∑iciv′(ti)∥2=∑i,jcicjK(ti,tj)=∥∑iciv(ti)∥2\Bigl\|\sum_ic_iv'(t_i)\Bigr\|^2=\sum_{i,j}c_ic_jK(t_i,t_j)=\Bigl\|\sum_ic_iv(t_i)\Bigr\|^2

なので、左辺の表示が同じ元を与えるなら右辺も同じ元を与え(差のノルムが 00)、U0U_0 は well-defined な線形等長写像です。稠密な部分空間上の等長写像は閉包に一意に延び、像は {v′(t)}\{v'(t)\} の張る空間の閉包 H′H' 全体です。Uv(t)=v′(t)Uv(t)=v'(t) を満たす連続線形写像は張る空間上で U0U_0 と一致するので、一意です。

定理 5.3(Gauss 過程の存在)✓

TT を空でない集合、m:T→Rm:T\to\mathbb{R} を任意の関数、K:T×T→RK:T\times T\to\mathbb{R} を正定値核とする。このとき確率空間とその上の実数値確率過程 (Xt)t∈T(X_t)_{t\in T} で、すべての有限集合 {t1,…,tn}\{t_1,\ldots,t_n\} について (Xt1,…,Xtn)(X_{t_1},\ldots,X_{t_n}) が Gauss ベクトル N((m(ti))i,(K(ti,tj))i,j)N\bigl((m(t_i))_i,(K(t_i,t_j))_{i,j}\bigr) に従うものが存在する。その有限次元分布は (m,K)(m,K) で一意に決まる。

証明(定理 5.3)

J∈F(T)J\in\mathfrak{F}(T) に対し、RJ\mathbb{R}^J 上の Gauss 分布 μJ=N(mJ,KJ)\mu_J=N(m_J,K_J)、mJ=(m(t))t∈Jm_J=(m(t))_{t\in J}、KJ=(K(s,t))s,t∈JK_J=(K(s,t))_{s,t\in J} を考えます。KJK_J は対称半正定値なので、定理 5.2[特性関数と Gauss ベクトル] (2) により μJ\mu_J が存在し、(mJ,KJ)(m_J,K_J) だけで決まります。J⊂LJ\subset L のとき πJL\pi_J^L は線形写像(座標の抜き出し)なので、同定理の (4) から μL∘(πJL)−1=N(πJLmL, πJLKL(πJL)T)=N(mJ,KJ)=μJ\mu_L\circ(\pi_J^L)^{-1}=N(\pi_J^Lm_L,\ \pi_J^LK_L(\pi_J^L)^{\mathsf T})=N(m_J,K_J)=\mu_J。よって族は整合的で、R\mathbb{R} は Polish なので 定理 4.1 から過程が存在します。

二つの定理を合わせると、中心化 Gauss 過程と正定値核と「Hilbert 空間のベクトルの族」は、同じものの三つの見え方です。Kolmogorov 分解 K(s,t)=⟨v(s),v(t)⟩K(s,t)=\langle v(s),v(t)\rangle を使うと、XtX_t を HH のベクトル v(t)v(t) に「対応する」Gauss 変数とみなせます(演習 8.2)。

例 5.4(正定値核の例)

  1. Brown 運動 T=[0,∞)T=[0,\infty)、K(s,t)=min⁡(s,t)K(s,t)=\min(s,t)。min⁡(s,t)=∫0∞1[0,s](u)1[0,t](u) du\min(s,t)=\int_0^\infty\mathbf 1_{[0,s]}(u)\mathbf 1_{[0,t]}(u)\,du なので、H=L2(0,∞)H=L^2(0,\infty)、v(t)=1[0,t]v(t)=\mathbf 1_{[0,t]} が Kolmogorov 分解です。
  2. Ornstein–Uhlenbeck 過程 T=RT=\mathbb{R}、K(s,t)=e−∣s−t∣K(s,t)=e^{-|s-t|}。e−∣s−t∣=∫Rei(s−t)ξdξπ(1+ξ2)e^{-|s-t|}=\int_{\mathbb{R}}e^{i(s-t)\xi}\frac{d\xi}{\pi(1+\xi^2)}(Cauchy 分布の特性関数)なので、H=L2(R,dξπ(1+ξ2);C)H=L^2(\mathbb{R},\frac{d\xi}{\pi(1+\xi^2)};\mathbb{C}) を実 Hilbert 空間とみて v(t)=eitξv(t)=e^{it\xi} とすれば、⟨v(s),v(t)⟩=Re∫ei(s−t)ξdξπ(1+ξ2)=e−∣s−t∣\langle v(s),v(t)\rangle=\mathrm{Re}\int e^{i(s-t)\xi}\frac{d\xi}{\pi(1+\xi^2)}=e^{-|s-t|} です。
  3. 格子上の Gauss 自由場 Λ\Lambda を Zd\mathbb{Z}^d の有限部分集合、m>0m>0 とし、A=−ΔΛ+m2A=-\Delta_\Lambda+m^2(ΔΛ\Delta_\Lambda は Λ\Lambda 上の離散ラプラシアン、外側は 00 とする)とします。AA は対称で ⟨f,Af⟩≥m2∣f∣2\langle f,Af\rangle\ge m^2|f|^2 を満たすので正定値行列で、逆行列 G=A−1G=A^{-1} も正定値です。G(x,y)G(x,y) を共分散とする Gauss 過程 (ϕx)x∈Λ(\phi_x)_{x\in\Lambda} が格子 Gauss 自由場です。分解は v(x)=A−1/2exv(x)=A^{-1/2}e_x で与えられます。

拡張定理は有限次元分布しか見ないので、道の性質は「有限次元分布を変えない修正」の範囲でしか決まりません。

定義 6.1(修正と区別不能)↗

同じ確率空間上の確率過程 X=(Xt)t∈TX=(X_t)_{t\in T}、Y=(Yt)t∈TY=(Y_t)_{t\in T} について、すべての tt で P(Xt=Yt)=1P(X_t=Y_t)=1 のとき YY は XX の修正であるという。P(Xt=Yt ∀t∈T)=1P(X_t=Y_t\ \forall t\in T)=1 のとき(左辺の事象が可測であることも含めて)区別不能であるという。

修正どうしは有限次元分布が等しくなります(有限個の時刻での不一致は零集合の有限和に含まれる)。TT が可算なら修正は区別不能ですが、非可算だとそうなりません。τ\tau を [0,1][0,1] 上の一様分布とし Xt=0X_t=0、Yt=1{t=τ}Y_t=\mathbf 1_{\{t=\tau\}} とすれば、YY は XX の修正ですが道はすべて不連続です。一方、両方の道が連続な修正どうしは、有理数時刻で一致すれば全時刻で一致するので区別不能です。

定理 6.2(Kolmogorov の連続性定理)✓

(E,ρ)(E,\rho) を Polish 空間、X=(Xt)t∈[0,1]X=(X_t)_{t\in[0,1]} を EE 値確率過程とし、定数 α,β,C>0\alpha,\beta,C>0 があって

E[ρ(Xs,Xt)α]≤C∣t−s∣1+β(s,t∈[0,1])E\bigl[\rho(X_s,X_t)^\alpha\bigr]\le C|t-s|^{1+\beta}\qquad(s,t\in[0,1])

が成り立つとする。このとき XX の修正 X~\tilde X で、すべての道 t↦X~t(ω)t\mapsto\tilde X_t(\omega) が連続なものがある。さらに任意の γ∈(0,β/α)\gamma\in(0,\beta/\alpha) について、ほとんど確実に有限な確率変数 KγK_\gamma があり、ρ(X~s,X~t)≤Kγ∣t−s∣γ\rho(\tilde X_s,\tilde X_t)\le K_\gamma|t-s|^\gamma(すべての s,t∈[0,1]s,t\in[0,1])が成り立つ。

仮定の指数が 1+β1+\beta と 11 を超えていることが本質です。Poisson 過程(一定の割合でランダムに起こる出来事の回数を数える、階段状に増える過程)NtN_t は E∣Nt−Ns∣=∣t−s∣E|N_t-N_s|=|t-s|(α=1\alpha=1、β=0\beta=0)を満たしますが、連続な修正をもちません(跳びがあるため)。

証明の方針です。まず時刻を二進有理数(分母が 2 の冪の分数)に限り、各レベル nn で隣り合う点の差が 2−γn2^{-\gamma n} を超える確率を Markov の不等式で抑えます(手順 1)。次に、ss と tt を粗いレベルの点まで上がって渡り、細かいレベルへ下りる連鎖で結び、段差を幾何級数で足し合わせます(手順 2)。これで二進有理数の上で一様連続になり、そこから全時刻へ連続に延ばしたものが求める修正です(手順 3)。

証明(定理 6.2)

EE は可分なので、補題 2.2 により (Xs,Xt)(X_s,X_t) は B(E2)\mathcal{B}(E^2) に関して可測で、ρ(Xs,Xt)\rho(X_s,X_t) は確率変数です。Dn={k2−n∣0≤k≤2n}D_n=\{k2^{-n}\mid0\le k\le2^n\}、D=⋃nDnD=\bigcup_nD_n(二進有理数)とし、γ∈(0,β/α)\gamma\in(0,\beta/\alpha) を固定します。

(1) 隣り合う二進点の評価。 事象 An={max⁡1≤k≤2nρ(X(k−1)2−n,Xk2−n)>2−γn}A_n=\bigl\{\max_{1\le k\le2^n}\rho(X_{(k-1)2^{-n}},X_{k2^{-n}})>2^{-\gamma n}\bigr\} について、Markov の不等式(定理 6.1[確率変数と期待値])を各 kk に使うと

P(An)≤∑k=12nE[ρ(X(k−1)2−n,Xk2−n)α]2−γαn≤2n⋅C2−n(1+β)⋅2γαn=C2−n(β−γα).P(A_n)\le\sum_{k=1}^{2^n}\frac{E\bigl[\rho(X_{(k-1)2^{-n}},X_{k2^{-n}})^\alpha\bigr]}{2^{-\gamma\alpha n}}\le2^n\cdot C2^{-n(1+\beta)}\cdot2^{\gamma\alpha n}=C2^{-n(\beta-\gamma\alpha)}.

β−γα>0\beta-\gamma\alpha>0 なので ∑nP(An)<∞\sum_nP(A_n)<\infty。Borel–Cantelli の補題(補題 4.4[大数の法則と中心極限定理])により、確率 1 の事象 Ωγ\Omega_\gamma の上では、ある N(ω)N(\omega) があって n≥N(ω)n\ge N(\omega) なら AnA_n が起こりません。

(2) 連鎖による評価。 ω∈Ωγ\omega\in\Omega_\gamma を固定し、n≥N(ω)n\ge N(\omega) とします。m≥nm\ge n と s,t∈Dms,t\in D_m、0≤t−s≤2−n0\le t-s\le2^{-n} について

ρ(Xs,Xt)≤2−γn+2∑j=n+1m2−γj\rho(X_s,X_t)\le2^{-\gamma n}+2\sum_{j=n+1}^m2^{-\gamma j}

を mm に関する帰納法で示します。m=nm=n のとき s,ts,t は等しいか隣り合う DnD_n の点なので、(1) から成り立ちます。mm で成り立つとして s,t∈Dm+1s,t\in D_{m+1} を取ります。s′s' を ss 以上の最小の DmD_m の点、t′t' を tt 以下の最大の DmD_m の点とします。s′≤t′s'\le t' のとき、s′−ss'-s と t−t′t-t' は 00 か 2−(m+1)2^{-(m+1)} なので ρ(Xs,Xs′)\rho(X_s,X_{s'})、ρ(Xt′,Xt)≤2−γ(m+1)\rho(X_{t'},X_t)\le2^{-\gamma(m+1)} で、s′,t′∈Dms',t'\in D_m、0≤t′−s′≤2−n0\le t'-s'\le2^{-n} だから帰納法の仮定が使え、三角不等式で主張が出ます。s′>t′s'>t' のときは s,ts,t が長さ 2−m2^{-m} の同じ区間 [t′,s′][t',s'] の中にあり、等しいか隣り合う Dm+1D_{m+1} の点なので、ρ(Xs,Xt)≤2−γ(m+1)\rho(X_s,X_t)\le2^{-\gamma(m+1)} です。

右辺は cγ2−γnc_\gamma2^{-\gamma n}、cγ=1+2/(2γ−1)c_\gamma=1+2/(2^\gamma-1) 以下です。s,t∈Ds,t\in D、0<∣t−s∣≤2−N(ω)0<|t-s|\le2^{-N(\omega)} なら 2−(n+1)<∣t−s∣≤2−n2^{-(n+1)}<|t-s|\le2^{-n} となる n≥N(ω)n\ge N(\omega) を取って

ρ(Xs,Xt)≤cγ2−γn≤cγ2γ∣t−s∣γ.\rho(X_s,X_t)\le c_\gamma2^{-\gamma n}\le c_\gamma2^\gamma|t-s|^\gamma.

∣t−s∣>2−N(ω)|t-s|>2^{-N(\omega)} のときは、ss と tt の間にある DN(ω)D_{N(\omega)} の点で [s,t][s,t] を幅 2−N(ω)2^{-N(\omega)} 以下の高々 2N(ω)+22^{N(\omega)}+2 個の区間に区切り、各区間に上の評価を使って三角不等式で足せば、ρ(Xs,Xt)≤(2N(ω)+2)cγ2γ2−γN(ω)≤(2N(ω)+2)cγ2γ∣t−s∣γ\rho(X_s,X_t)\le(2^{N(\omega)}+2)c_\gamma2^{\gamma}2^{-\gamma N(\omega)}\le(2^{N(\omega)}+2)c_\gamma2^\gamma|t-s|^\gamma です。したがって Kγ(ω)=(2N(ω)+2)cγ2γK_\gamma(\omega)=(2^{N(\omega)}+2)c_\gamma2^\gamma とおけば、DD 上で ρ(Xs,Xt)≤Kγ∣t−s∣γ\rho(X_s,X_t)\le K_\gamma|t-s|^\gamma です。

(3) 修正の構成。 γk↑β/α\gamma_k\uparrow\beta/\alpha を取り、Ω∗=⋂kΩγk\Omega^*=\bigcap_k\Omega_{\gamma_k}(確率 1)とします。ω∈Ω∗\omega\in\Omega^* では t↦Xt(ω)t\mapsto X_t(\omega) は DD 上で一様連続なので、t∈[0,1]t\in[0,1] に対し D∋s→tD\ni s\to t のときの極限 X~t(ω)\tilde X_t(\omega) が EE の完備性から存在し、Hölder 評価は極限でも保たれます。ω∉Ω∗\omega\notin\Omega^* では X~t(ω)=e0\tilde X_t(\omega)=e_0(EE の固定点)とします。X~t\tilde X_t は可測関数の各点極限なので確率変数で、すべての道は連続です。

最後に修正であることを示します。t∈[0,1]t\in[0,1] に対し、∣sk−t∣≤2−k|s_k-t|\le2^{-k} となる sk∈Ds_k\in D を取ります。Markov の不等式から、任意の η>0\eta>0 で ∑kP(ρ(Xsk,Xt)>η)≤∑kC2−k(1+β)η−α<∞\sum_kP(\rho(X_{s_k},X_t)>\eta)\le\sum_kC2^{-k(1+\beta)}\eta^{-\alpha}<\infty なので、Borel–Cantelli の補題(補題 4.4[大数の法則と中心極限定理])により、ほとんど確実に ρ(Xsk,Xt)≤η\rho(X_{s_k},X_t)\le\eta がある kk から先で成り立ちます。η=1/m\eta=1/m(m∈Nm\in\mathbb{N})で可算個の零集合を除けば、ほとんど確実に Xsk→XtX_{s_k}\to X_t です。一方 Xsk→X~tX_{s_k}\to\tilde X_t は Ω∗\Omega^* 上で成り立つので、X~t=Xt\tilde X_t=X_t がほとんど確実に成り立ちます。

stnn+1n+2隣り合う点の差 ≤ 2^(-γn)
連鎖による評価:s と t を粗いレベルの二進点でつなぐ。細かいレベルの段差は幾何級数で抑えられる

道の空間として Wd=C([0,∞),Rd)W^d=C([0,\infty),\mathbb{R}^d) を取り、距離

dW(w,w′)=∑n=1∞2−nmin⁡(1,sup⁡0≤t≤n∣w(t)−w′(t)∣)d_W(w,w')=\sum_{n=1}^\infty2^{-n}\min\Bigl(1,\sup_{0\le t\le n}|w(t)-w'(t)|\Bigr)

を入れます。dW(wk,w)→0d_W(w_k,w)\to0 は、各有界区間上での一様収束(広義一様収束)と同値です。座標写像を πt(w)=w(t)\pi_t(w)=w(t) と書きます。

補題 7.1(連続関数の空間)✓

(Wd,dW)(W^d,d_W) は Polish 空間で、そのボレル集合族は座標写像の生成する σ-加法族 σ(πt:t≥0)\sigma(\pi_t:t\ge0) に等しい。

証明(補題 7.1)

完備性。 dWd_W-Cauchy 列 (wk)(w_k) は各 [0,n][0,n] 上で一様 Cauchy なので、一様収束の Cauchy 判定法(定理 6.2[関数列と一様収束])により各 [0,n][0,n] 上で一様収束し、極限 ww は連続(定理 4.1[関数列と一様収束])で dW(wk,w)→0d_W(w_k,w)\to0 です。

可分性。 節点 j/mj/m(j∈Z≥0j\in\mathbb{Z}_{\ge0}、m∈Nm\in\mathbb{N})で有理点 Qd\mathbb{Q}^d の値をとり、その間を線形補間し、ある時刻以降は定数とする折れ線は可算個です。w∈Wdw\in W^d と nn を取ると、ww は [0,n][0,n] 上一様連続(定理 7.1[連続関数と一様連続性])なので、mm を大きく取り節点の値を w(j/m)w(j/m) に近い有理点にすれば、[0,n][0,n] 上で一様に近い折れ線が取れます。これで可算稠密集合が得られます。

σ-加法族。 πt\pi_t は連続なので σ(πt)⊂B(Wd)\sigma(\pi_t)\subset\mathcal{B}(W^d)。逆に、w0w_0 を固定すると、連続性から sup⁡0≤t≤n∣w(t)−w0(t)∣=sup⁡t∈[0,n]∩Q∣πt(w)−w0(t)∣\sup_{0\le t\le n}|w(t)-w_0(t)|=\sup_{t\in[0,n]\cap\mathbb{Q}}|\pi_t(w)-w_0(t)| は可算個の σ(πt)\sigma(\pi_t)-可測関数の上限なので、w↦dW(w,w0)w\mapsto d_W(w,w_0) は σ(πt)\sigma(\pi_t)-可測で、開球は σ(πt)\sigma(\pi_t) に属します。可分距離空間の開集合は、可算稠密集合の点を中心とする有理半径の開球の(UU に含まれるものの)可算和です(補題 2.2 の証明と同じ議論)。よって B(Wd)⊂σ(πt)\mathcal{B}(W^d)\subset\sigma(\pi_t) です。

dd 次元標準 Brown 運動とは、成分 B1,…,BdB^1,\ldots,B^d が独立な 1 次元標準 Brown 運動(定義 5.1[マルチンゲールとブラウン運動])であるような Rd\mathbb{R}^d 値過程のことです。

定理 7.2(Brown 運動と Wiener 測度の存在)✓

  1. 確率空間上の実数値過程 (Bt)t≥0(B_t)_{t\ge0} で、定義 5.1[マルチンゲールとブラウン運動] の四条件を満たし、しかもすべての道が連続なものが存在する。その道は、任意の γ∈(0,1/4)\gamma\in(0,1/4) と nn について、ほとんど確実に [0,n][0,n] 上で γ\gamma-Hölder 連続である。
  2. (Wd,B(Wd))(W^d,\mathcal{B}(W^d)) 上の確率測度 W\mathbb{W} で、座標過程 (πt)t≥0(\pi_t)_{t\ge0} が dd 次元標準 Brown 運動となるものがただ一つ存在する。これを Wiener 測度という。x∈Rdx\in\mathbb{R}^d に対し、w↦x+ww\mapsto x+w による W\mathbb{W} の像を Wx\mathbb{W}_x と書く(xx から出発する Brown 運動の法則)。
証明(定理 7.2)

(1) min⁡(s,t)\min(s,t) は正定値核です。実際 min⁡(s,t)=∫0∞1[0,s](u)1[0,t](u) du\min(s,t)=\int_0^\infty\mathbf 1_{[0,s]}(u)\mathbf 1_{[0,t]}(u)\,du なので、任意の t1,…,tn≥0t_1,\dots,t_n\ge0 と実数 c1,…,cnc_1,\dots,c_n について

∑i,jcicjmin⁡(ti,tj)=∫0∞(∑ici1[0,ti](u))2du ≥0\sum_{i,j}c_ic_j\min(t_i,t_j)=\int_0^\infty\Bigl(\sum_i c_i\mathbf 1_{[0,t_i]}(u)\Bigr)^2du\ \ge0

で、対称性も明らかです。定理 5.3 により、平均 00、共分散 min⁡(s,t)\min(s,t) の Gauss 過程 (Xt)t≥0(X_t)_{t\ge0} が存在します。s<ts<t のとき Xt−XsX_t-X_s は Gauss ベクトル (Xs,Xt)(X_s,X_t) の線形像なので正規分布で、分散は t−2s+s=t−st-2s+s=t-s です。Z∼N(0,h)Z\sim N(0,h) なら E[Z4]=3h2E[Z^4]=3h^2 なので

E[∣Xt−Xs∣4]=3∣t−s∣2.E\bigl[|X_t-X_s|^4\bigr]=3|t-s|^2 .

n∈Nn\in\mathbb{N} を固定し Yu=XnuY_u=X_{nu}(u∈[0,1]u\in[0,1])とすると E∣Yu−Yv∣4=3n2∣u−v∣2E|Y_u-Y_v|^4=3n^2|u-v|^2 なので、定理 6.2(α=4\alpha=4、β=1\beta=1)から、連続な道をもつ修正 X~(n)\tilde X^{(n)} が [0,n][0,n] 上に得られ、γ<1/4\gamma<1/4 の Hölder 評価が成り立ちます。m<nm<n なら X~(m)\tilde X^{(m)} と X~(n)\tilde X^{(n)} はどちらも XX の修正なので、[0,m][0,m] の有理数時刻(可算個)で同時にほとんど確実に一致し、連続性から [0,m][0,m] 全体で一致します。これらの例外集合の和 N0N_0(零集合)の外では Bt=X~t(n)B_t=\tilde X^{(n)}_t(t≤nt\le n)が矛盾なく定まり、N0N_0 上では Bt≡0B_t\equiv0 とします。

BB は XX の修正なので、有限次元分布は XX と同じで、平均 00、共分散 min⁡(s,t)\min(s,t) の Gauss 過程です。Var(X0)=0\mathrm{Var}(X_0)=0 なので P(B0=0)=1P(B_0=0)=1。道はすべて連続です。命題 5.5[マルチンゲールとブラウン運動] の (ii) ⇒ (i) により、BB は標準 Brown 運動です。これが マルチンゲールとブラウン運動 で主張だけを述べた Wiener の存在定理の中身です(あちらの証明はこの (1) を引用しています)。

(2) 存在。 d=1d=1 とします。(1) の BB について、写像 Φ:Ω→W1\Phi:\Omega\to W^1、Φ(ω)=B⋅(ω)\Phi(\omega)=B_\cdot(\omega) は、πt∘Φ=Bt\pi_t\circ\Phi=B_t が可測で、補題 7.1 から B(W1)=σ(πt)\mathcal{B}(W^1)=\sigma(\pi_t) なので可測です。W=P∘Φ−1\mathbb{W}=P\circ\Phi^{-1} とすると、座標過程の有限次元分布は BB のそれと等しく、道は定義から連続なので、座標過程は標準 Brown 運動です。d≥2d\ge2 では (W1)d(W^1)^d と WdW^d を同一視し、直積測度 W⊗d\mathbb{W}^{\otimes d}(定理 3.2[直積測度と Fubini–Tonelli の定理])を取ります。両辺の σ-加法族はどちらも座標写像で生成されるので一致し、成分は独立な標準 Brown 運動です。

(2) 一意性。 座標過程が dd 次元標準 Brown 運動になる測度の下では、有限次元分布は成分ごとに共分散 min⁡(s,t)\min(s,t) の中心化 Gauss(命題 5.5[マルチンゲールとブラウン運動] の (i) ⇒ (ii))で、成分が独立なので一つに決まります。{πJ−1(B)}\{\pi_J^{-1}(B)\} の形の集合は交叉で閉じていて 補題 7.1 により B(Wd)\mathcal{B}(W^d) を生成するので、定理 4.5[測度空間と Carathéodory の拡張定理] により W\mathbb{W} は一意です。

注意 7.3

4 次の積率の代わりに E∣Xt−Xs∣2p=(2p−1)!! ∣t−s∣pE|X_t-X_s|^{2p}=(2p-1)!!\,|t-s|^p を使うと、γ<(p−1)/(2p)\gamma<(p-1)/(2p) が得られ、p→∞p\to\infty で任意の γ<1/2\gamma<1/2 に達します(演習 8.3)。γ>1/2\gamma>1/2 ではどの区間でも Hölder 連続になりません(演習 8.4)。

Wiener 測度は、確率論を「道の空間 WdW^d 上の測度論」に変えます。Brown 運動の汎関数 F(B)F(B) の期待値は ∫WdF dW\int_{W^d}F\,d\mathbb{W} で、Markov 性や Feynman–Kac 公式は WdW^d 上の積分の等式として書けます(Feller 過程と Feynman–Kac)。

演習 8.1易

(E,ρ)(E,\rho) を Polish 空間とし、ENE^{\mathbb{N}} に距離 ρˉ(x,y)=∑k≥12−kmin⁡(1,ρ(xk,yk))\bar\rho(x,y)=\sum_{k\ge1}2^{-k}\min(1,\rho(x_k,y_k)) を入れる。(EN,ρˉ)(E^{\mathbb{N}},\bar\rho) は完備かつ可分であり、ρˉ\bar\rho-収束は各座標の収束と同値であることを示せ。

解答

ρˉ(x(n),x)→0\bar\rho(x^{(n)},x)\to0 なら各 kk で min⁡(1,ρ(xk(n),xk))≤2kρˉ→0\min(1,\rho(x^{(n)}_k,x_k))\le2^k\bar\rho\to0。逆に各座標で収束すれば、ε>0\varepsilon>0 に対し ∑k>K2−k<ε/2\sum_{k>K}2^{-k}<\varepsilon/2 となる KK を取り、有限個の k≤Kk\le K の項を ε/2\varepsilon/2 未満にできます。Cauchy 列は同じ評価で各座標 Cauchy なので、座標ごとの極限に(上の同値性により)収束します。可算稠密集合 {qi}\{q_i\} と固定点 q1q_1 を使い、最初の KK 座標が {qi}\{q_i\} の元で残りが q1q_1 である点の全体(KK を動かして可算個)が稠密です。

演習 8.2標準

KK を正定値核、(H,v)(H,v) をその Kolmogorov 分解とし、HH は可分で正規直交基底 (ek)k≥1(e_k)_{k\ge1} をもつとする。(ξk)(\xi_k) を独立な標準正規確率変数列とする(例 6.2[直積測度と Fubini–Tonelli の定理] の構成で存在する)。Xt=∑k⟨v(t),ek⟩ξkX_t=\sum_k\langle v(t),e_k\rangle\xi_k が L2L^2 で収束し、(Xt)(X_t) が共分散 KK の中心化 Gauss 過程であることを示せ。Kolmogorov の拡張定理を使わない構成になっていることに注意せよ。

解答

部分和 Sn(t)=∑k≤n⟨v(t),ek⟩ξkS_n(t)=\sum_{k\le n}\langle v(t),e_k\rangle\xi_k について、ξk\xi_k は L2L^2 の正規直交系なので E∣Sn(t)−Sm(t)∣2=∑m<k≤n⟨v(t),ek⟩2E|S_n(t)-S_m(t)|^2=\sum_{m<k\le n}\langle v(t),e_k\rangle^2、Parseval の等式 ∑k⟨v(t),ek⟩2=∥v(t)∥2<∞\sum_k\langle v(t),e_k\rangle^2=\|v(t)\|^2<\infty からこれは 00 に収束し、L2(P)L^2(P) の完備性(定理 5.3[L^p 空間と関数解析への導入])から極限 XtX_t があります。E[XsXt]=lim⁡nE[Sn(s)Sn(t)]=lim⁡n∑k≤n⟨v(s),ek⟩⟨v(t),ek⟩=⟨v(s),v(t)⟩=K(s,t)E[X_sX_t]=\lim_nE[S_n(s)S_n(t)]=\lim_n\sum_{k\le n}\langle v(s),e_k\rangle\langle v(t),e_k\rangle=\langle v(s),v(t)\rangle=K(s,t)。有限個の tit_i と cic_i について ∑iciSn(ti)\sum_ic_iS_n(t_i) は独立な正規変数の 1 次結合なので正規分布で、L2L^2 収束から分布収束し(定理 3.6[大数の法則と中心極限定理])、命題 5.5[特性関数と Gauss ベクトル] により極限 ∑iciXti\sum_ic_iX_{t_i} も正規分布です。よって (Xt)(X_t) は Gauss 過程で、平均は L2L^2 極限で 00 のままです。

演習 8.3標準

Z∼N(0,h)Z\sim N(0,h) なら E[Z2p]=(2p−1)!! hpE[Z^{2p}]=(2p-1)!!\,h^p であることを使い、標準 Brown 運動の道が、任意の γ<1/2\gamma<1/2 についてほとんど確実に [0,1][0,1] 上 γ\gamma-Hölder 連続であることを示せ。

解答

E∣Bt−Bs∣2p=(2p−1)!! ∣t−s∣pE|B_t-B_s|^{2p}=(2p-1)!!\,|t-s|^p なので、定理 6.2 を α=2p\alpha=2p、β=p−1\beta=p-1(p≥2p\ge2)で使うと、γ<(p−1)/(2p)=12−12p\gamma<(p-1)/(2p)=\frac12-\frac1{2p} の Hölder 連続な修正が得られます。BB の道はすでに連続なので、修正 B~\tilde B とは有理数時刻で一致すれば全時刻で一致し(区別不能)、BB 自身が Hölder 連続です。p=2,3,…p=2,3,\ldots について確率 1 の事象の共通部分を取れば、すべての γ<1/2\gamma<1/2 について同時に成り立ちます。

演習 8.4難

γ>1/2\gamma>1/2 とする。標準 Brown 運動の道が [0,1][0,1] 上で γ\gamma-Hölder 連続である確率は 00 であることを、定理 5.8[マルチンゲールとブラウン運動] を使って示せ。

解答

∣Bt−Bs∣≤K∣t−s∣γ|B_t-B_s|\le K|t-s|^\gamma(s,t∈[0,1]s,t\in[0,1])が成り立つ道では、二進分割の二次変分は

Qn=∑k=12n(Bk2−n−B(k−1)2−n)2≤2n⋅K22−2γn=K22−n(2γ−1)→0Q_n=\sum_{k=1}^{2^n}\bigl(B_{k2^{-n}}-B_{(k-1)2^{-n}}\bigr)^2\le2^n\cdot K^22^{-2\gamma n}=K^22^{-n(2\gamma-1)}\to0

です。一方、二次変分の定理(t=1t=1)により確率 1 で Qn→1Q_n\to1 です。KK を N\mathbb{N} 上で動かした可算個の事象 {∣Bt−Bs∣≤K∣t−s∣γ ∀s,t}\{|B_t-B_s|\le K|t-s|^\gamma\ \forall s,t\}(連続性から有理数の s,ts,t に制限してよいので可測)はいずれも確率 00 で、その和である「γ\gamma-Hölder 連続」という事象も確率 00 です。

  • A. N. Kolmogorov『Grundbegriffe der Wahrscheinlichkeitsrechnung』Springer、1933 — 第 III 章(無限次元空間の確率と拡張定理)。
  • Patrick Billingsley『Probability and Measure』(第 3 版)Wiley、1995 — 第 36 節(Kolmogorov の存在定理)、第 37 節(Brown 運動)。
  • Ioannis Karatzas, Steven E. Shreve『Brownian Motion and Stochastic Calculus』(第 2 版)Springer、1991 — 第 2 章 2.2 節(Daniell–Kolmogorov の拡張定理と Kolmogorov–Čentsov の連続性定理)。
  • Olav Kallenberg『Foundations of Modern Probability』(第 2 版)Springer、2002。
  • Vern I. Paulsen, Mrinal Raghupathi『An Introduction to the Theory of Reproducing Kernel Hilbert Spaces』Cambridge University Press、2016(正定値核と Hilbert 空間の対応)。

このテーマの 100 本ノック(100 問)

執筆: Claude Code(Opus 5.5)、Claude Code(Sonnet 5.5)・監査 4 回(Claude Code)・最終 2026-10-12

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