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式と証明:相加相乗平均・Cauchy–Schwarz から Muirhead・Maclaurin まで

対象読者: 本テーマ第 1〜2 章の内容(実数の不等式の計算、平方完成と判別式)を学んだ高校生。数学的帰納法の基本と、微分による関数の増減の初歩を知っていると読みやすくなります。

前提となる記事:数と式:実数の性質と式の計算を公理から組み立てる、2 次関数:平方完成から最大最小・判別式・解の配置まで

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「2 つの正の数の和が決まっているとき、積が最大になるのはいつか」といった素朴な疑問に、きちんと理由をつけて答えるのがこの記事の話題です。読み終えると、有名な不等式を証明つきで使い分け、「最小値は本当にその値になるのか」を等号条件で確かめられるようになります。長い証明(後半の Muirhead・Maclaurin)を読み飛ばしても、各不等式の主張と例題・演習から使い方は学べます。

  • 不等式の証明の基本は「差をとって平方の和に直す」「等号が成り立つ条件を先に探す」の 2 つです。等号が実際に達成できるかどうかを確かめないと、最大・最小の議論は完成しません。
  • 相加相乗平均の不等式は、2 変数の (a−b)2≥0(a-b)^2\ge0 から出発し、Cauchy の「前進後退帰納法」(変数の個数を 2 倍にする、1 つ減らす)で一般の nn 変数に広がります。等号条件も同じ流れで示せます。
  • Cauchy–Schwarz の不等式は、前の章の判別式の不等式(実数 tt の 2 次式 ∑(tai+bi)2≥0\sum(ta_i+b_i)^2\ge0)からそのまま従います。Engel の形(Titu の補題)と Nesbitt の不等式が続きます。
  • 並べ替え不等式は「同じ向きに並べた積の和が最大」で、隣り合う項の入れ替えという有限回の操作で証明できます。Chebyshev の和の不等式はその系です。
  • 凸関数(グラフ上の 2 点を結ぶ線分が、グラフより下にこない関数)に対する Jensen の不等式(有限版)は帰納法で示せ、二乗平均 ≥ 相加平均などが一括して得られます。
  • Muirhead の不等式は、指数ベクトルの「優越」関係による対称式の大小比較で、「Robin Hood 変換」(大きい指数から小さい指数へ 1 だけ分け与える)を繰り返すことで証明します。Maclaurin の不等式は、基本対称式(変数の積を作り方ごとにすべて足したもの)の平均が Newton の不等式から従います。

1. 動機:不等式は「どこで等号になるか」が命

Section titled “1. 動機:不等式は「どこで等号になるか」が命”

方程式は解が見つかれば終わりですが、不等式は「示した」だけでは終わりません。たとえば x>0x>0 のとき x+1x≥2x+\tfrac1x\ge2 は正しいのですが、「x+1xx+\tfrac1x の最小値は 22」と言い切るには、x=1x=1 という具体的な値で等号が成り立つことを確かめる必要があります。等号が達成できない不等式からは、最小値は決まりません。

もう一つの疑問は、証明の型がたくさんあることです。「差をとる」「平方完成」「相加相乗」「Cauchy–Schwarz」……、どれを使えばよいのでしょうか。それぞれの不等式は、実は少数の原理から導かれ、互いに関係しています。この記事では、その関係の木を示すことを目標にします。

  • 平方が非負(t2≥0t^2\ge0)→ 2 変数の相加相乗、判別式の不等式 → Cauchy–Schwarz → Titu、Nesbitt
  • 2 変数の相加相乗 → nn 変数の相加相乗 → 重み付き、平均の大小関係
  • 隣接項の入れ替え → 並べ替え不等式 → Chebyshev
  • 2 点間の凸性 → Jensen
  • Robin Hood の補題 → Muirhead

使う道具は、前章までの実数の計算規則(実数の計算規則(命題 2.2)[数と式])、平方根(平方根の存在と計算規則(命題 4.1)[数と式])、判別式の不等式(判別式で示す不等式(命題 7.2)[2 次関数])、数学的帰納法(数学的帰納法の原理(定理 3.2)[証明の技術])です。

2. 準備:べき乗の単調性と基本的な恒等式・不等式

Section titled “2. 準備:べき乗の単調性と基本的な恒等式・不等式”

補題 2.1(べき乗の単調性と n 乗根)✓

n≥1n\ge1 を整数とする。

  1. 0≤a<b0\le a<b ならば an<bna^n<b^n。したがって a,b≥0a,b\ge0 について an≤bn  ⟺  a≤ba^n\le b^n\iff a\le b。
  2. a≥0a\ge0 ならば、bn=ab^n=a を満たす b≥0b\ge0 がただ 1 つ存在する。これを an\sqrt[n]{a} と書く。
証明(補題 2.1)

(1) nn に関する帰納法。n=1n=1 は自明。an<bna^n<b^n と仮定すると、an+1=an⋅a≤an⋅b<bn⋅ba^{n+1}=a^n\cdot a\le a^n\cdot b<b^n\cdot b(前半は an≥0a^n\ge0 と a<ba<b、後半は b>0b>0 と an<bna^n<b^n、命題 2.2[数と式] の順序の公理)。後半の言い換えは対偶です。 (2) 一意性は (1)。存在は 平方根の存在(命題 4.1)[数と式] と同じく中間値の定理による:xnx^n は連続で(多項式関数の連続性(系 5.2)[極限と連続性])、0n=0≤a0^n=0\le a、(a+1)n≥a+1>a(a+1)^n\ge a+1>a なので、中間値の定理(定理 5.7)[極限と連続性] により [0,a+1][0,a+1] に bn=ab^n=a となる bb がある。

命題 2.2(基本的な恒等式と不等式)✓

実数 a,b,c,da,b,c,d について次が成り立つ。

  1. a2+b2≥2aba^2+b^2\ge2ab。等号は a=ba=b のときに限る。
  2. a2+b2+c2≥ab+bc+caa^2+b^2+c^2\ge ab+bc+ca。等号は a=b=ca=b=c のときに限る。
  3. (a+b+c)3−a3−b3−c3=3(a+b)(b+c)(c+a)(a+b+c)^3-a^3-b^3-c^3=3(a+b)(b+c)(c+a)。
  4. (a2+b2)(c2+d2)=(ac+bd)2+(ad−bc)2(a^2+b^2)(c^2+d^2)=(ac+bd)^2+(ad-bc)^2。
証明(命題 2.2)

(1) a2+b2−2ab=(a−b)2≥0a^2+b^2-2ab=(a-b)^2\ge0(命題 2.2[数と式] (3))。等号は (a−b)2=0(a-b)^2=0、すなわち a=ba=b。 (2) a2+b2+c2−ab−bc−ca=12((a−b)2+(b−c)2+(c−a)2)≥0a^2+b^2+c^2-ab-bc-ca=\tfrac12\bigl((a-b)^2+(b-c)^2+(c-a)^2\bigr)\ge0(右辺を展開すると 12(2a2+2b2+2c2−2ab−2bc−2ca)\tfrac12\bigl(2a^2+2b^2+2c^2-2ab-2bc-2ca\bigr) で、因数分解の公式(命題 5.1)[数と式] (3) の第 2 因子の書き換えと同じ式です)。等号は 3 つの平方がすべて 00 のとき。 (3)(4) 両辺を展開して一致を確かめます。(3) の左辺は 3(a2b+a2c+b2a+b2c+c2a+c2b)+6abc3(a^2b+a^2c+b^2a+b^2c+c^2a+c^2b)+6abc、右辺の 3(a+b)(b+c)(c+a)3(a+b)(b+c)(c+a) も同じです。(4) の両辺は a2c2+a2d2+b2c2+b2d2a^2c^2+a^2d^2+b^2c^2+b^2d^2 です。

(4) は Brahmagupta–Fibonacci の恒等式で、(ac+bd)2≤(a2+b2)(c2+d2)(ac+bd)^2\le(a^2+b^2)(c^2+d^2)、すなわち 2 変数の Cauchy–Schwarz の不等式を、平方の和として与えます。

3. 相加相乗平均の不等式と平均の大小関係

Section titled “3. 相加相乗平均の不等式と平均の大小関係”

定義 3.1(いろいろな平均)↗

正の実数 a1,…,ana_1,\dots,a_n に対し、

H=n1a1+⋯+1an,G=a1⋯ann,A=a1+⋯+ann,Q=a12+⋯+an2nH=\frac{n}{\frac1{a_1}+\cdots+\frac1{a_n}},\quad G=\sqrt[n]{a_1\cdots a_n},\quad A=\frac{a_1+\cdots+a_n}{n},\quad Q=\sqrt{\frac{a_1^2+\cdots+a_n^2}{n}}

を、それぞれ調和平均、相乗平均(幾何平均)、相加平均(算術平均)、二乗平均という(nn 乗根の存在は 補題 2.1)。

定理 3.2(相加相乗平均の不等式)✓

n≥1n\ge1 とし、x1,…,xn≥0x_1,\dots,x_n\ge0 とする。

(x1+⋯+xnn)n≥x1x2⋯xn,\Bigl(\frac{x_1+\cdots+x_n}{n}\Bigr)^n\ge x_1x_2\cdots x_n,

等号が成り立つのは x1=⋯=xnx_1=\cdots=x_n のときに限る。とくに、xi>0x_i>0 のとき A≥GA\ge G(補題 2.1 (1) により An≥GnA^n\ge G^n から従う)。

証明の方針は、まず 2 個の場合を示し、次に「個数を 2 倍にする」「個数を 1 つ減らす」の 2 つの操作で、すべての個数の場合に広げるというものです。2 倍にする操作で 2,4,8,…2,4,8,\dots 個の場合が、1 つ減らす操作でその間のすべての個数の場合が得られます。

証明(定理 3.2)

この主張(等号条件を含む)を S(n)S(n) とよびます。S(1)S(1) は自明。

S(2)S(2)。 (a+b2)2−ab=(a−b2)2≥0\bigl(\tfrac{a+b}2\bigr)^2-ab=\bigl(\tfrac{a-b}{2}\bigr)^2\ge0 で、等号は a=ba=b。

S(n)⇒S(2n)S(n)\Rightarrow S(2n)(前進)。 x1,…,x2n≥0x_1,\dots,x_{2n}\ge0 とし、y=1n∑i≤nxiy=\tfrac1n\sum_{i\le n}x_i、z=1n∑i>nxiz=\tfrac1n\sum_{i>n}x_i、X=x1⋯xnX=x_1\cdots x_n、Y=xn+1⋯x2nY=x_{n+1}\cdots x_{2n} とおくと、全体の相加平均は y+z2\tfrac{y+z}{2} です。

(y+z2)2n ≥ (yz)n=ynzn ≥ XY.\Bigl(\frac{y+z}2\Bigr)^{2n}\ \ge\ (yz)^n=y^nz^n\ \ge\ XY.

第 1 の不等号は S(2)S(2) より (y+z2)2≥yz≥0\bigl(\tfrac{y+z}{2}\bigr)^2\ge yz\ge0 で、補題 2.1 (1) を nn 乗に適用したもの。第 2 は S(n)S(n) より yn≥X≥0y^n\ge X\ge0、zn≥Y≥0z^n\ge Y\ge0 の積です。等号なら両方が等号です。第 1 の等号から (y+z2)2=yz\bigl(\tfrac{y+z}2\bigr)^2=yz、よって y=zy=z。第 2 の等号 ynzn=XYy^nz^n=XY と y=zy=z から y2n=XYy^{2n}=XY。y=0y=0 ならすべての xi=0x_i=0。y>0y>0 なら XY=y2n>0XY=y^{2n}>0 で、X≤ynX\le y^n から XY≤ynY≤y2nXY\le y^nY\le y^{2n} となり等号が連なるので ynY=y2ny^nY=y^{2n}、すなわち Y=ynY=y^n、同様に X=ynX=y^n。S(n)S(n) の等号条件により x1=⋯=xn=yx_1=\cdots=x_n=y、xn+1=⋯=x2n=z=yx_{n+1}=\cdots=x_{2n}=z=y です。

S(n)⇒S(n−1)S(n)\Rightarrow S(n-1)(後退、n≥2n\ge2)。 x1,…,xn−1≥0x_1,\dots,x_{n-1}\ge0 とし、m=1n−1∑i<nxim=\tfrac1{n-1}\sum_{i<n}x_i とおき、S(n)S(n) を (x1,…,xn−1,m)(x_1,\dots,x_{n-1},m) に適用します。この nn 数の和は nmnm なので mn≥x1⋯xn−1 mm^n\ge x_1\cdots x_{n-1}\,m。m=0m=0 ならすべて 00 で自明。m>0m>0 なら mm で割って mn−1≥x1⋯xn−1m^{n-1}\ge x_1\cdots x_{n-1}。等号なら mn=x1⋯xn−1mm^n=x_1\cdots x_{n-1}m で、S(n)S(n) の等号条件により x1=⋯=xn−1=mx_1=\cdots=x_{n-1}=m です。

結論。 S(2)S(2) から前進を繰り返して S(2k)S(2^k)(すべての kk)。任意の nn に対し 2k≥n2^k\ge n となる kk をとり、S(2k)S(2^k) から後退を 2k−n2^k-n 回繰り返すと S(n)S(n)。

定理 3.3(重み付き相加相乗平均(有理数の重み))✓

x1,…,xr>0x_1,\dots,x_r>0、m1,…,mrm_1,\dots,m_r を正の整数とし、N=m1+⋯+mrN=m_1+\cdots+m_r とする。

(m1x1+⋯+mrxrN)N≥x1m1⋯xrmr,\Bigl(\frac{m_1x_1+\cdots+m_rx_r}{N}\Bigr)^N\ge x_1^{m_1}\cdots x_r^{m_r},

等号は x1=⋯=xrx_1=\cdots=x_r のときに限る。

証明(定理 3.3)

xix_i を mim_i 個ずつ並べた NN 個の数に 定理 3.2 を適用します。左辺はその相加平均の NN 乗、右辺は積です。等号条件は「並べた NN 個がすべて等しい」ことです。

注意 3.4

重み wi=mi/Nw_i=m_i/N は正の有理数で、∑wi=1\sum w_i=1 です。重みが無理数のときは実数の指数が必要で、連続性による極限の議論になります(実数の指数は、高校数学の解析の章 指数関数と対数関数 で定義します)。

定理 3.5(平均の大小関係)✓

正の実数 a1,…,ana_1,\dots,a_n について H≤G≤A≤QH\le G\le A\le Q。等号は a1=⋯=ana_1=\cdots=a_n のときに限る。

証明(定理 3.5)

G≤AG\le A は 定理 3.2 です。H≤GH\le G:1/ai1/a_i に 定理 3.2 を使うと (1n∑1ai)n≥∏1ai\bigl(\tfrac1n\sum\tfrac1{a_i}\bigr)^n\ge\prod\tfrac1{a_i}。両辺の逆数をとって(命題 2.2[数と式] (5))Hn≤∏ai=GnH^n\le\prod a_i=G^n、補題 2.1 (1) により H≤GH\le G。A≤QA\le Q:22 変数の 命題 2.2 (1) の一般化として、n∑ai2−(∑ai)2=∑i<j(ai−aj)2≥0n\sum a_i^2-(\sum a_i)^2=\sum_{i<j}(a_i-a_j)^2\ge0(左辺の展開から)。よって A2≤Q2A^2\le Q^2、命題 4.1[数と式] (3) より A≤QA\le Q。3 つの不等式の等号は、それぞれ全変数が等しいときに限ります(A≤QA\le Q の等号は ∑i<j(ai−aj)2=0\sum_{i<j}(a_i-a_j)^2=0)。

例 3.6(三角形の辺の不等式(Ravi 置換))

a,b,ca,b,c を三角形の 3 辺の長さとすると、abc≥(b+c−a)(c+a−b)(a+b−c)abc\ge(b+c-a)(c+a-b)(a+b-c)。実際 x=b+c−ax=b+c-a、y=c+a−by=c+a-b、z=a+b−cz=a+b-c は三角不等式により正で、a=y+z2a=\tfrac{y+z}2、b=z+x2b=\tfrac{z+x}2、c=x+y2c=\tfrac{x+y}2 です。2 変数の相加相乗平均 y+z≥2yzy+z\ge2\sqrt{yz} などを辺々かけて abc=(y+z)(z+x)(x+y)8≥8yzzxxy8=xyzabc=\tfrac{(y+z)(z+x)(x+y)}{8}\ge\tfrac{8\sqrt{yz}\sqrt{zx}\sqrt{xy}}8=xyz(yzzxxy=xyz\sqrt{yz}\sqrt{zx}\sqrt{xy}=xyz、命題 4.1[数と式] (2))。等号は x=y=zx=y=z、すなわち正三角形のときです。

例 3.7(等号が達成できないと最小値にならない)

xx を実数として f(x)=x2+4+1x2+4f(x)=x^2+4+\dfrac1{x^2+4} の最小値を考えます。t=x2+4t=x^2+4 とおくと f=t+1t≥2f=t+\tfrac1t\ge2(定理 3.2)ですが、等号は t=1t=1 で、t=x2+4≥4t=x^2+4\ge4 に反するので達成されません。t≥4t\ge4 では t+1tt+\tfrac1t は増加(t1<t2t_1<t_2 なら t2+1t2−t1−1t1=(t2−t1)(1−1t1t2)>0t_2+\tfrac1{t_2}-t_1-\tfrac1{t_1}=(t_2-t_1)\bigl(1-\tfrac1{t_1t_2}\bigr)>0)なので、最小は t=4t=4、x=0x=0 のときの f(0)=174f(0)=\tfrac{17}4 です。相加相乗平均から f≥2f\ge2 は言えても、最小値が 22 とは言えません。

4. Cauchy–Schwarz・並べ替え・Chebyshev

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定理 4.1(Cauchy–Schwarz の不等式(実数の列))✓

実数 a1,…,an,b1,…,bna_1,\dots,a_n,b_1,\dots,b_n について

(∑i=1naibi)2≤(∑i=1nai2)(∑i=1nbi2).\Bigl(\sum_{i=1}^na_ib_i\Bigr)^2\le\Bigl(\sum_{i=1}^na_i^2\Bigr)\Bigl(\sum_{i=1}^nb_i^2\Bigr).

等号が成り立つのは、すべての aia_i が 00 か、ある実数 t0t_0 があって bi=t0aib_i=t_0a_i(すべての ii)となるときに限る。

証明(定理 4.1)

P=∑ai2P=\sum a_i^2、R=∑aibiR=\sum a_ib_i、T=∑bi2T=\sum b_i^2 とおくと、すべての実数 tt について

f(t)=∑i=1n(tai+bi)2=Pt2+2Rt+T≥0f(t)=\sum_{i=1}^n(ta_i+b_i)^2=Pt^2+2Rt+T\ge0

です。P=0P=0 なら、すべての ai=0a_i=0 で R=0R=0、不等式は 0≤00\le0 で等号。P>0P>0 なら、判別式で示す不等式(命題 7.2)[2 次関数] により (2R)2−4PT≤0(2R)^2-4PT\le0、すなわち R2≤PTR^2\le PT。等号なら判別式が 00 で、平方完成(補題 3.1)[2 次関数] から ff は t0=−R/Pt_0=-R/P で最小値 00 をとります。f(t0)=∑(t0ai+bi)2=0f(t_0)=\sum(t_0a_i+b_i)^2=0 なら各項が 00 で bi=−t0aib_i=-t_0a_i です。逆に bi=taib_i=ta_i なら両辺が t2P2t^2P^2 で等しい。

注意 4.2

同じ主張は、一般の内積空間でも成り立ちます(コーシー・シュワルツの不等式(定理 4.2)[内積空間とグラム・シュミット直交化])。実数の列は、内積 ⟨a,b⟩=∑aibi\langle a,b\rangle=\sum a_ib_i をもつ Rn\mathbb{R}^n の場合です。

系 4.3(Engel の形(Titu の補題))✓

aia_i を実数、bi>0b_i>0 とする。∑i=1nai2bi≥(∑ai)2∑bi\displaystyle\sum_{i=1}^n\frac{a_i^2}{b_i}\ge\frac{(\sum a_i)^2}{\sum b_i}。等号は ai/bia_i/b_i がすべて等しいときに限る。

証明(系 4.3)

定理 4.1 を、列 (ai/bi)\bigl(a_i/\sqrt{b_i}\bigr) と (bi)\bigl(\sqrt{b_i}\bigr) に使います(平方根は 命題 4.1[数と式])。(∑ai)2≤(∑ai2bi)(∑bi)\bigl(\sum a_i\bigr)^2\le\bigl(\sum\tfrac{a_i^2}{b_i}\bigr)\bigl(\sum b_i\bigr)。∑bi>0\sum b_i>0 で割ります。等号は bi=t0 ai/bi\sqrt{b_i}=t_0\,a_i/\sqrt{b_i}、すなわち ai/bi=1/t0a_i/b_i=1/t_0(定数)のときです。

定理 4.4(Nesbitt の不等式)✓

正の実数 a,b,ca,b,c について ab+c+bc+a+ca+b≥32\dfrac{a}{b+c}+\dfrac{b}{c+a}+\dfrac{c}{a+b}\ge\dfrac32。等号は a=b=ca=b=c のときに限る。

証明(定理 4.4)

ab+c=a2a(b+c)\dfrac a{b+c}=\dfrac{a^2}{a(b+c)} なので、系 4.3 により左辺 ≥(a+b+c)22(ab+bc+ca)\ge\dfrac{(a+b+c)^2}{2(ab+bc+ca)}。命題 2.2 (2) より (a+b+c)2=a2+b2+c2+2(ab+bc+ca)≥3(ab+bc+ca)(a+b+c)^2=a^2+b^2+c^2+2(ab+bc+ca)\ge3(ab+bc+ca) なので、この分数は 32\tfrac32 以上。等号は両方の不等式の等号で、a=b=ca=b=c です(逆に a=b=ca=b=c なら各項 12\tfrac12)。

たとえば a=(1,2)a=(1,2)、b=(3,4)b=(3,4) なら、同じ順に掛けた 1⋅3+2⋅4=111\cdot3+2\cdot4=11 は、逆順に掛けた 1⋅4+2⋅3=101\cdot4+2\cdot3=10 より大きくなります。次の定理は、この性質が何個の数でも成り立つことを述べます。証明では、置換(1,…,n1,\dots,n の並べ替え)の「転倒」(前の番号のほうが後ろの番号より大きくなっている組)を、隣り合う入れ替えで 1 つずつ減らします。

定理 4.5(並べ替え不等式)✓

a1≤⋯≤ana_1\le\cdots\le a_n、b1≤⋯≤bnb_1\le\cdots\le b_n とし、σ\sigma を {1,…,n}\{1,\dots,n\} の置換とする。

∑i=1naibn+1−i ≤ ∑i=1naibσ(i) ≤ ∑i=1naibi.\sum_{i=1}^na_ib_{n+1-i}\ \le\ \sum_{i=1}^na_ib_{\sigma(i)}\ \le\ \sum_{i=1}^na_ib_i.
証明(定理 4.5)

右側の不等式。 σ\sigma の転倒数を inv⁡(σ)=#{(i,j)∣i<j, σ(i)>σ(j)}\operatorname{inv}(\sigma)=\#\{(i,j)\mid i<j,\ \sigma(i)>\sigma(j)\} とします。inv⁡(σ)>0\operatorname{inv}(\sigma)>0 なら、隣り合う転倒 σ(i)>σ(i+1)\sigma(i)>\sigma(i+1) が存在します(すべての隣接で σ(i)<σ(i+1)\sigma(i)<\sigma(i+1) なら σ\sigma は恒等置換)。値 σ(i),σ(i+1)\sigma(i),\sigma(i+1) を入れ替えた置換 σ′\sigma' は、転倒数がちょうど 1 減ります(他の対の大小は変わらない)。和の変化は

(aibσ(i+1)+ai+1bσ(i))−(aibσ(i)+ai+1bσ(i+1))=(ai+1−ai)(bσ(i)−bσ(i+1))≥0\bigl(a_ib_{\sigma(i+1)}+a_{i+1}b_{\sigma(i)}\bigr)-\bigl(a_ib_{\sigma(i)}+a_{i+1}b_{\sigma(i+1)}\bigr)=(a_{i+1}-a_i)\bigl(b_{\sigma(i)}-b_{\sigma(i+1)}\bigr)\ge0

です。入れ替えを繰り返すと有限回で恒等置換に至り、和は減りません。 左側の不等式。 ci=−bn+1−ic_i=-b_{n+1-i} は増加列で、置換 σ′(i)=n+1−σ(i)\sigma'(i)=n+1-\sigma(i) について cσ′(i)=−bσ(i)c_{\sigma'(i)}=-b_{\sigma(i)}、ci=−bn+1−ic_i=-b_{n+1-i}。右側の不等式を a,c,σ′a,c,\sigma' に適用すると −∑aibσ(i)≤−∑aibn+1−i-\sum a_ib_{\sigma(i)}\le-\sum a_ib_{n+1-i} です。

定理 4.6(Chebyshev の和の不等式)✓

a1≤⋯≤ana_1\le\cdots\le a_n、b1≤⋯≤bnb_1\le\cdots\le b_n ならば

1n∑i=1naibi ≥ (1n∑i=1nai)(1n∑i=1nbi).\frac1n\sum_{i=1}^na_ib_i\ \ge\ \Bigl(\frac1n\sum_{i=1}^na_i\Bigr)\Bigl(\frac1n\sum_{i=1}^nb_i\Bigr).
証明(定理 4.6)

k=0,…,n−1k=0,\dots,n-1 について、巡回置換 σk(i)≡i+k(modn)\sigma_k(i)\equiv i+k\pmod n に 定理 4.5 の右側を使うと ∑iaibi≥∑iaibσk(i)\sum_ia_ib_i\ge\sum_ia_ib_{\sigma_k(i)}。kk について足すと、左辺は n∑aibin\sum a_ib_i、右辺は ∑iai∑kbσk(i)=∑iai∑jbj\sum_ia_i\sum_kb_{\sigma_k(i)}=\sum_ia_i\sum_jb_j(kk を動かすと σk(i)\sigma_k(i) はすべての添字をちょうど 1 回ずつ動く)です。n2n^2 で割ります。

例 4.7(巡回的な不等式)

正の実数 a,b,ca,b,c について a3+b3+c3≥a2b+b2c+c2aa^3+b^3+c^3\ge a^2b+b^2c+c^2a。a,b,ca,b,c を小さい順に並べ替えたものを x1≤x2≤x3x_1\le x_2\le x_3 とし、同じ並べ方で xi2x_i^2 を並べると x12≤x22≤x32x_1^2\le x_2^2\le x_3^2 です(0<s≤t  ⟺  s2≤t20<s\le t\iff s^2\le t^2、補題 2.1 (1))。同順の積の和は ∑xixi2=a3+b3+c3\sum x_ix_i^2=a^3+b^3+c^3。一方 a2b+b2c+c2aa^2b+b^2c+c^2a は、bb に a2a^2、cc に b2b^2、aa に c2c^2 を組み合わせた和で、これは xix_i に xσ(i)2x_{\sigma(i)}^2 を割り当てる和の 1 つです。定理 4.5 の右側の不等式により、同順の和 a3+b3+c3a^3+b^3+c^3 以下です。

定義 5.1(区間上の凸関数)↗

II を区間とする。関数 f:I→Rf:I\to\mathbb{R} が凸であるとは、すべての x,y∈Ix,y\in I と 0≤λ≤10\le\lambda\le1 について

f(λx+(1−λ)y)≤λf(x)+(1−λ)f(y)f\bigl(\lambda x+(1-\lambda)y\bigr)\le\lambda f(x)+(1-\lambda)f(y)

が成り立つことである(グラフ上の 2 点を結ぶ線分が、グラフより下にこない)。

大学の定義(凸集合・凸関数(定義 2.1)[凸解析])は、Rn\mathbb{R}^n 上の関数に対する同じ形の不等式です。

定理 5.2(Jensen の不等式(有限版))✓

f:I→Rf:I\to\mathbb{R} を凸関数、x1,…,xn∈Ix_1,\dots,x_n\in I、λ1,…,λn≥0\lambda_1,\dots,\lambda_n\ge0、∑λi=1\sum\lambda_i=1 とする。このとき ∑λixi∈I\sum\lambda_ix_i\in I で

f(∑i=1nλixi)≤∑i=1nλif(xi).f\Bigl(\sum_{i=1}^n\lambda_ix_i\Bigr)\le\sum_{i=1}^n\lambda_if(x_i).
証明(定理 5.2)

nn に関する帰納法。n=1n=1 は自明。n≥2n\ge2 とし、n−1n-1 で成り立つとします。λn=1\lambda_n=1 なら他の λi=0\lambda_i=0 で自明なので、μ=1−λn=∑i<nλi>0\mu=1-\lambda_n=\sum_{i<n}\lambda_i>0 とします。y=∑i<nλiμxiy=\sum_{i<n}\tfrac{\lambda_i}{\mu}x_i は x1,…,xn−1x_1,\dots,x_{n-1} の最小値と最大値の間にあるので II に属し(区間は、2 点の間の点をすべて含む)、同様に ∑λixi=μy+λnxn∈I\sum\lambda_ix_i=\mu y+\lambda_nx_n\in I。ff の凸性と帰納法の仮定より

f(∑λixi)=f(μy+λnxn)≤μf(y)+λnf(xn)≤μ∑i<nλiμf(xi)+λnf(xn)=∑i=1nλif(xi).f\Bigl(\sum\lambda_ix_i\Bigr)=f(\mu y+\lambda_nx_n)\le\mu f(y)+\lambda_nf(x_n)\le\mu\sum_{i<n}\frac{\lambda_i}{\mu}f(x_i)+\lambda_nf(x_n)=\sum_{i=1}^n\lambda_if(x_i).

注意 5.3

一般の確率空間・Rn\mathbb{R}^n 上の凸関数への拡張は、Jensen の不等式(定理 4.4)[凸解析] です。有限版は、有限個の点に確率 λi\lambda_i を与えた離散的な確率空間の場合にあたります。

例 5.4(二乗平均と相加平均)

f(x)=x2f(x)=x^2 は R\mathbb{R} 上で凸です。λx+(1−λ)y\lambda x+(1-\lambda)y を代入して λx2+(1−λ)y2−(λx+(1−λ)y)2=λ(1−λ)(x−y)2≥0\lambda x^2+(1-\lambda)y^2-(\lambda x+(1-\lambda)y)^2=\lambda(1-\lambda)(x-y)^2\ge0 となるからです。定理 5.2 を λi=1n\lambda_i=\tfrac1n に使うと (1n∑ai)2≤1n∑ai2\bigl(\tfrac1n\sum a_i\bigr)^2\le\tfrac1n\sum a_i^2、すなわち A≤QA\le Q が、実数 aia_i に対して(符号を問わず)得られます。

6. Muirhead の不等式と Maclaurin の不等式

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x1,…,xn≥0x_1,\dots,x_n\ge0 の対称な多項式どうしの大小を比べる一般的な道具が Muirhead の不等式です。ここでは指数を非負整数に限ります。

定義 6.1(優越と対称和)↗

非負整数の組 α=(α1,…,αn)\alpha=(\alpha_1,\dots,\alpha_n) に対し、x1,…,xn≥0x_1,\dots,x_n\ge0 の対称和を

[α](x)=∑σ∈Snxσ(1)α1xσ(2)α2⋯xσ(n)αn[\alpha](x)=\sum_{\sigma\in S_n}x_{\sigma(1)}^{\alpha_1}x_{\sigma(2)}^{\alpha_2}\cdots x_{\sigma(n)}^{\alpha_n}

と定める(SnS_n は nn 次の置換全体、00=10^0=1)。α,β\alpha,\beta を大きい順に並べた組を α↓,β↓\alpha^{\downarrow},\beta^{\downarrow} とする。α↓\alpha^{\downarrow} が β↓\beta^{\downarrow} を優越する(α≻β\alpha\succ\beta と書く)とは、

∑i≤kαi↓≥∑i≤kβi↓(k=1,…,n−1),∑i≤nαi=∑i≤nβi\sum_{i\le k}\alpha^{\downarrow}_i\ge\sum_{i\le k}\beta^{\downarrow}_i\quad(k=1,\dots,n-1),\qquad \sum_{i\le n}\alpha_i=\sum_{i\le n}\beta_i

が成り立つことである。

優越は、指数の組が「どれだけ偏っているか」を比べる関係です。たとえば (4,0,0)≻(2,1,1)(4,0,0)\succ(2,1,1) です(部分和は 4,4,44,4,4 と 2,3,42,3,4)。[α][\alpha] は α\alpha の並べ方によらず、(4,0,0)(4,0,0) では 2(x4+y4+z4)2(x^4+y^4+z^4) のような形になります。

補題 6.2(Robin Hood の補題)✓

整数 a,ba,b が a≥b+2a\ge b+2、b≥0b\ge0 を満たすとき、すべての x,y≥0x,y\ge0 について

xayb+xbya ≥ xa−1yb+1+xb+1ya−1.x^ay^b+x^by^a\ \ge\ x^{a-1}y^{b+1}+x^{b+1}y^{a-1}.
証明(補題 6.2)

左辺と右辺の差は (xy)b(xa−b+ya−b−xa−b−1y−xya−b−1)=(xy)b(x−y)(xm−ym)(xy)^b\bigl(x^{a-b}+y^{a-b}-x^{a-b-1}y-xy^{a-b-1}\bigr)=(xy)^b(x-y)(x^{m}-y^{m})、m=a−b−1≥1m=a-b-1\ge1 です。x≥yx\ge y なら xm≥ymx^m\ge y^m(補題 2.1 (1))で 2 つの因子はともに 00 以上、x<yx<y ならともに負で、積は 00 以上です。

「大きい指数 aa から小さい指数 bb へ 1 を分け与えると、対称和は減る」という補題です。優越関係 α≻β\alpha\succ\beta は、このような分け与えの繰り返しで α\alpha から β\beta にたどり着けることと同値で、次の補題がその向きを示します。

次の補題は、α\alpha から β\beta へ Robin Hood 変換を何回か繰り返してたどり着けることを保証します。証明は添字が多いので、結論(変換の列が存在する)だけ押さえて先へ進んでも構いません。

補題 6.3(優越関係は Robin Hood 変換の列で実現できる)✓

α,β\alpha,\beta を大きい順に並んだ非負整数の組で、α≻β\alpha\succ\beta、α≠β\alpha\ne\beta とする。このとき i<ji<j で αi≥αj+2\alpha_i\ge\alpha_j+2 となるものがあって、α′=α−ei+ej\alpha'=\alpha-e_i+e_j(第 ii 成分を 11 減らし第 jj 成分を 11 増やす)は大きい順に並び、α′≻β\alpha'\succ\beta を満たす。さらに ∑k(∑l≤kαl−∑l≤kβl)\sum_k\bigl(\sum_{l\le k}\alpha_l-\sum_{l\le k}\beta_l\bigr) は α′\alpha' で真に小さくなる。したがって有限回の変換で α\alpha から β\beta に至る。

証明(補題 6.3)

Ak=∑l≤kαlA_k=\sum_{l\le k}\alpha_l、Bk=∑l≤kβlB_k=\sum_{l\le k}\beta_l、dk=αk−βkd_k=\alpha_k-\beta_k、Dk=Ak−Bk≥0D_k=A_k-B_k\ge0 とします(Dn=0D_n=0)。α≠β\alpha\ne\beta なので dk≠0d_k\ne0 となる最小の pp があり、Dp=dp≥0D_p=d_p\ge0 から dp>0d_p>0。Dn=0D_n=0 なので、pp より後に dk<0d_k<0 となる添字があり、その最小を qq とします。p<k<qp<k<q では dk≥0d_k\ge0 で、したがって p≤k<qp\le k<q で Dk≥Dp≥1D_k\ge D_p\ge1 です。

αp>βp≥βq>αq\alpha_p>\beta_p\ge\beta_q>\alpha_q(β\beta は大きい順)なので αp≥αq+2\alpha_p\ge\alpha_q+2。p′p' を αp′=αp\alpha_{p'}=\alpha_p となる最大の添字とします。αq<αp\alpha_q<\alpha_p なので p≤p′<qp\le p'<q、そして αp′+1<αp′\alpha_{p'+1}<\alpha_{p'} です(p′+1=qp'+1=q でもこれは成り立つ)。また qq は αq\alpha_q と同じ値の添字のうち最小です。実際、同じ値の添字 q′′≤qq''\le q は αq′′=αq<βq≤βq′′\alpha_{q''}=\alpha_q<\beta_q\le\beta_{q''} より dq′′<0d_{q''}<0 で、q′′>pq''>p(αq′′<αp\alpha_{q''}<\alpha_p)なので qq の最小性から q′′≥qq''\ge q。よって αq−1>αq\alpha_{q-1}>\alpha_q です。

α′=α−ep′+eq\alpha'=\alpha-e_{p'}+e_q とします。αp′′=αp′−1≥αp′+1\alpha'_{p'}=\alpha_{p'}-1\ge\alpha_{p'+1}(上で示した αp′+1<αp′\alpha_{p'+1}<\alpha_{p'})、αq′=αq+1≤αq−1\alpha'_q=\alpha_q+1\le\alpha_{q-1}、さらに p′+1=qp'+1=q のときは αp′−1≥αq+1\alpha_{p'}-1\ge\alpha_q+1 なので、α′\alpha' は大きい順のままです。部分和は、p′≤k<qp'\le k<q で Ak′=Ak−1A'_k=A_k-1、他では Ak′=AkA'_k=A_k。後者は Ak≥BkA_k\ge B_k、前者は Ak−1≥BkA_k-1\ge B_k(Dk≥1D_k\ge1)なので α′≻β\alpha'\succ\beta。∑kDk\sum_kD_k は q−p′≥1q-p'\ge1 だけ減り、DkD_k は非負整数なので、有限回で Dk≡0D_k\equiv0、すなわち α=β\alpha=\beta に至ります。

定理 6.4(Muirhead の不等式)✓

α,β\alpha,\beta を非負整数の組とし、α≻β\alpha\succ\beta とする。すべての x1,…,xn≥0x_1,\dots,x_n\ge0 について [α](x)≥[β](x)[\alpha](x)\ge[\beta](x) が成り立つ。

証明(定理 6.4)

[α][\alpha] は α\alpha の成分の並べ替えによらないので、α,β\alpha,\beta は大きい順としてよい。α=β\alpha=\beta なら自明。そうでなければ 補題 6.3 により、α=γ0,γ1,…,γr=β\alpha=\gamma^0,\gamma^1,\dots,\gamma^r=\beta で、各段 γs+1=γs−ei+ej\gamma^{s+1}=\gamma^s-e_i+e_j(i<ji<j、γis≥γjs+2\gamma^s_i\ge\gamma^s_j+2)となるものがあります。各段で [γs]≥[γs+1][\gamma^s]\ge[\gamma^{s+1}] を示せば十分です。

γ=γs\gamma=\gamma^s、a=γia=\gamma_i、b=γjb=\gamma_j とします。置換 σ\sigma と σ′=σ∘(i j)\sigma'=\sigma\circ(i\ j)(位置 i,ji,j の割り当てを入れ替える)を組にすると、SnS_n は n!/2n!/2 個の組に分かれます。組の中の 2 項は、u=xσ(i)u=x_{\sigma(i)}、v=xσ(j)v=x_{\sigma(j)}、R=∏k≠i,jxσ(k)γk≥0R=\prod_{k\ne i,j}x_{\sigma(k)}^{\gamma_k}\ge0 として R(uavb+ubva)R(u^av^b+u^bv^a) で、γs+1\gamma^{s+1} に対しては R(ua−1vb+1+ub+1va−1)R(u^{a-1}v^{b+1}+u^{b+1}v^{a-1}) です。補題 6.2 により各組で前者が大きいので、[γ]≥[γs+1][\gamma]\ge[\gamma^{s+1}]。

例 6.5(Muirhead の使い方)

非負実数 x,y,zx,y,z について x4+y4+z4≥xyz(x+y+z)x^4+y^4+z^4\ge xyz(x+y+z)。(4,0,0)≻(2,1,1)(4,0,0)\succ(2,1,1) で、[4,0,0]=2(x4+y4+z4)[4,0,0]=2(x^4+y^4+z^4)、[2,1,1]=2xyz(x+y+z)[2,1,1]=2xyz(x+y+z) なので、定理 6.4 から従います。

定理 6.6(Maclaurin の不等式)✓

a1,…,ana_1,\dots,a_n を正の実数とし、ek=ek(a1,…,an)e_k=e_k(a_1,\dots,a_n) を基本対称式(基本対称式(定義 4.1)[多項式の割り算と高次方程式])、Sk=ek/(nk)S_k=e_k/\binom nk(S0=1S_0=1)とする。このとき

S1 ≥ S2 ≥ S33 ≥ ⋯ ≥ Snn.S_1\ \ge\ \sqrt{S_2}\ \ge\ \sqrt[3]{S_3}\ \ge\ \cdots\ \ge\ \sqrt[n]{S_n}.

証明は 2 段です。まず別の章の Newton の不等式から、隣り合う平均 SkS_k についての不等式 Sm2≥Sm−1Sm+1S_m^2\ge S_{m-1}S_{m+1} を作り、次にそこから比 Sj/Sj−1S_j/S_{j-1} が小さくなっていくことを使って、求める不等式の連なりを導きます。

証明(定理 6.6)

Newton の不等式。 P(x)=∏i=1n(x+ai)P(x)=\prod_{i=1}^n(x+a_i) は、すべての根 −ai-a_i が実数の nn 次多項式です。解と係数の関係(解と係数の関係(定理 4.3)[多項式の割り算と高次方程式])により、xkx^k の係数は en−ke_{n-k}、最高次の係数は e0=1e_0=1 です。Newton の不等式(定理 7.11)[数え上げと母関数] (1) を係数 ck=en−kc_k=e_{n-k} に使うと、1≤m=n−k≤n−11\le m=n-k\le n-1 について em2≥(1+1n−m)(1+1m)em+1em−1e_m^2\ge\bigl(1+\tfrac1{n-m}\bigr)\bigl(1+\tfrac1m\bigr)e_{m+1}e_{m-1}。二項係数の比 (nm+1)(nm)=n−mm+1\tfrac{\binom n{m+1}}{\binom nm}=\tfrac{n-m}{m+1}、(nm−1)(nm)=mn−m+1\tfrac{\binom n{m-1}}{\binom nm}=\tfrac m{n-m+1} より (1+1n−m)(1+1m)=n−m+1n−m⋅m+1m=(nm)2(nm+1)(nm−1)\bigl(1+\tfrac1{n-m}\bigr)\bigl(1+\tfrac1m\bigr)=\tfrac{n-m+1}{n-m}\cdot\tfrac{m+1}m=\tfrac{\binom nm^2}{\binom n{m+1}\binom n{m-1}} です。ej=(nj)Sje_j=\binom njS_j を代入して (nm)2\binom nm^2 を約すと

Sm2≥Sm−1Sm+1(1≤m≤n−1).S_m^2\ge S_{m-1}S_{m+1}\qquad(1\le m\le n-1).

比の単調性。 Sj>0S_j>0 なので rj=Sj/Sj−1r_j=S_j/S_{j-1}(1≤j≤n1\le j\le n)が定まり、上の不等式は rm+1≤rmr_{m+1}\le r_m、すなわち r1≥r2≥⋯≥rnr_1\ge r_2\ge\cdots\ge r_n です。Sk=r1⋯rkS_k=r_1\cdots r_k なので、1≤k≤n−11\le k\le n-1 について rk+1k≤r1⋯rk=Skr_{k+1}^k\le r_1\cdots r_k=S_k、よって

Sk+1k=Skkrk+1k≤Skk+1.S_{k+1}^k=S_k^kr_{k+1}^k\le S_k^{k+1}.

両辺は正で、k(k+1)k(k+1) 乗根をとると、Sk+11/(k+1)≤Sk1/kS_{k+1}^{1/(k+1)}\le S_k^{1/k}(k(k+1)k(k+1) 乗は 補題 2.1 (1) により大小を保つ)です。

k=1k=1 と k=nk=n の組は、1n∑ai≥a1⋯ann\tfrac1n\sum a_i\ge\sqrt[n]{a_1\cdots a_n}、すなわち相加相乗平均の不等式(定理 3.2)です。Maclaurin の不等式は、それを「途中の基本対称式の平均」で補間したものです。

命題 7.1(条件付き最大最小の 2 つの型)✓

s,P,a,b,p,qs,P,a,b,p,q を正の実数とする。

  1. x,y>0x,y>0 で x+y=sx+y=s なら xy≤s24xy\le\tfrac{s^2}{4}。xy=Pxy=P なら x+y≥2Px+y\ge2\sqrt P。どちらも等号は x=yx=y のとき。
  2. 実数 x,yx,y が ax2+by2=1ax^2+by^2=1 を満たすなら、px+qy≤Tpx+qy\le T、ただし T=p2/a+q2/bT=\sqrt{p^2/a+q^2/b}。等号は (x,y)=(paT,qbT)(x,y)=\bigl(\tfrac{p}{aT},\tfrac{q}{bT}\bigr) で達成される。
証明(命題 7.1)

(1) (x+y2)2−xy=(x−y2)2≥0\bigl(\tfrac{x+y}{2}\bigr)^2-xy=\bigl(\tfrac{x-y}2\bigr)^2\ge0 で、x+y=sx+y=s なら xy≤s24xy\le\tfrac{s^2}4。xy=Pxy=P のときは x+y−2P=(x−y)2≥0x+y-2\sqrt P=(\sqrt x-\sqrt y)^2\ge0(命題 4.1[数と式] (2))。 (2) 定理 4.1 を (a x, b y)(\sqrt a\,x,\ \sqrt b\,y) と (pa,qb)\bigl(\tfrac{p}{\sqrt a},\tfrac{q}{\sqrt b}\bigr) に使うと、(px+qy)2≤(ax2+by2)(p2a+q2b)=T2(px+qy)^2\le(ax^2+by^2)\bigl(\tfrac{p^2}a+\tfrac{q^2}b\bigr)=T^2。px+qy≤∣px+qy∣≤Tpx+qy\le|px+qy|\le T。(x,y)=(paT,qbT)(x,y)=\bigl(\tfrac p{aT},\tfrac q{bT}\bigr) では ax2+by2=p2/a+q2/bT2=1ax^2+by^2=\tfrac{p^2/a+q^2/b}{T^2}=1、px+qy=p2/a+q2/bT=Tpx+qy=\tfrac{p^2/a+q^2/b}{T}=T です。

例 7.2(条件付き最大・最小の例)

(i) x2+y2=1x^2+y^2=1 のとき 3x+4y3x+4y の最大値:a=b=1a=b=1、p=3p=3、q=4q=4 で T=5T=5、最大値は 55、(x,y)=(35,45)(x,y)=(\tfrac35,\tfrac45) で達成。(ii) x+2y=4x+2y=4 のとき x2+y2x^2+y^2 の最小値:定理 4.1 より (x2+y2)(1+4)≥(x+2y)2=16(x^2+y^2)(1+4)\ge(x+2y)^2=16、最小値 165\tfrac{16}5。等号は y=2xy=2x で、x+4x=4x+4x=4 より x=45x=\tfrac45、y=85y=\tfrac85 のときです。「等号が達成されるか」を最後に確かめることが肝です。

注意 7.3

条件 g(x,y)=0g(x,y)=0 のもとで f(x,y)f(x,y) の最大・最小を求める一般の方法は、Lagrange の乗数法です(ラグランジュの乗数法(定理 6.2)[逆関数定理・陰関数定理と条件付き極値])。ここで示した型は、不等式で最大値が上から押さえられ、その値が実際に達成されるという形で、微分を使わずに最大値を決めています。

Jensen の不等式は、凸解析(real-analysis)では確率空間上の一般形になり、Hölder・Minkowski の不等式などの古典的な不等式の共通の根拠になります。Cauchy–Schwarz の不等式は内積空間(linear-algebra)の基本不等式で、そこから角度と三角不等式が定まります。Newton・Maclaurin の不等式は、実根をもつ多項式の係数の性質(combinatorics の対数凹性)に現れます。Muirhead の不等式の優越関係は、majorization の理論(Schur 凸関数)として一般化され、統計力学や量子情報で使われます。

演習 9.1易

正の実数 a,b,ca,b,c が abc=1abc=1 を満たすとき、a+b+c≥3a+b+c\ge3 を示せ。

解答

定理 3.2 の n=3n=3:(a+b+c3)3≥abc=1\bigl(\tfrac{a+b+c}3\bigr)^3\ge abc=1。0≤t0\le t について t3≥1=13t^3\ge1=1^3 なら t≥1t\ge1(補題 2.1 (1) の対偶)なので a+b+c3≥1\tfrac{a+b+c}3\ge1。等号は a=b=c=1a=b=c=1。

演習 9.2標準

正の実数 x,yx,y が 1x+4y=1\dfrac1x+\dfrac4y=1 を満たすとき、x+yx+y の最小値を求めよ。

解答

系 4.3 により 12x+22y≥(1+2)2x+y\tfrac{1^2}{x}+\tfrac{2^2}{y}\ge\tfrac{(1+2)^2}{x+y}、すなわち 1≥9x+y1\ge\tfrac9{x+y} から x+y≥9x+y\ge9。等号は ai/bia_i/b_i がすべて等しいとき、すなわち 1x=2y\tfrac1x=\tfrac2y、y=2xy=2x のときで、1x+42x=3x=1\tfrac1x+\tfrac4{2x}=\tfrac3x=1 より x=3x=3、y=6y=6。このとき実際に 13+46=1\tfrac13+\tfrac46=1、x+y=9x+y=9 なので最小値は 99 です。

演習 9.3易

正の実数 a,b,ca,b,c について (a+b+c)(1a+1b+1c)≥9(a+b+c)\Bigl(\dfrac1a+\dfrac1b+\dfrac1c\Bigr)\ge9 を示せ。

解答

定理 3.5 の H≤AH\le A より 31a+1b+1c≤a+b+c3\dfrac{3}{\frac1a+\frac1b+\frac1c}\le\dfrac{a+b+c}3。両辺に 1a+1b+1c\tfrac1a+\tfrac1b+\tfrac1c と 33 をかけて整理すると、示すべき不等式を得ます。等号は a=b=ca=b=c。

演習 9.4標準

正の実数 a≤b≤ca\le b\le c について、a3+b3+c3≥(a+b+c)(a2+b2+c2)3a^3+b^3+c^3\ge\dfrac{(a+b+c)(a^2+b^2+c^2)}{3} を示せ。

解答

a≤b≤ca\le b\le c なら a2≤b2≤c2a^2\le b^2\le c^2(補題 2.1 (1))なので、列 (a,b,c)(a,b,c) と (a2,b2,c2)(a^2,b^2,c^2) はともに増加列です。定理 4.6 を適用すると 13(a3+b3+c3)≥13(a+b+c)⋅13(a2+b2+c2)\tfrac13(a^3+b^3+c^3)\ge\tfrac13(a+b+c)\cdot\tfrac13(a^2+b^2+c^2)。両辺に 33 をかけると主張を得ます。

  • G. H. Hardy, J. E. Littlewood, G. Pólya, Inequalities, 2nd ed., Cambridge University Press, 1952 — Chapter 2(平均の不等式、Muirhead の定理)、Chapter 3(凸関数)。
  • J. Michael Steele, The Cauchy–Schwarz Master Class, Cambridge University Press, 2004 — 第 1・2 章(相加相乗平均・Cauchy–Schwarz の不等式)。
  • 杉浦光夫『解析入門 I』東京大学出版会、1980 — 凸関数に関する節。
  • 文部科学省『高等学校学習指導要領(平成 30 年告示)解説 数学編 理数編』— 数学 II「式と証明」。

このテーマの 100 本ノック(100 問)

執筆: Claude Code(Sonnet 5.5)・監査 2 回(Claude Code)・最終 2026-10-12

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