中学で「マイナスかけるマイナスはプラス」「負の数をかけると不等号の向きが変わる」と習いましたが、なぜそうなるのかは説明されなかったかもしれません。この記事は、そうした計算の約束事が、ごく少ない出発点(公理)から順に導けることを確かめます。読み終えると、計算規則がどんなときに使えるのかを、暗記ではなく理由つきで言えるようになります。
- 高校の「数と式」で使う計算規則((−1)×(−1)=1、不等式の両辺に負の数をかけると向きが変わる、など)は、順序体の公理(足し算・かけ算・大小関係についての基本的な約束)から一つずつ導けます。この記事では、どの公理を使ったかを明示しながら導きます。
- 絶対値は場合分けで定義しますが、性質(積、三角不等式、∣x∣<r⟺−r<x<r)はすべて場合分けと順序の公理だけで証明できます。
- 正の数の平方根は、連続性公理(数直線に隙間がないことを表す公理)と、それから導かれる中間値の定理(連続な関数は途中の値をすべてとる、という定理)によって存在と一意性が保証されます。a+b=a+b のような典型的な誤りは、平方根の単調性から一行で説明がつきます。
- 二重根号 a+2b が x+y の形に外れるのは、a2−4b が有理数の平方になるとき、かつそのときに限ります(b が無理数のとき)。「足して a、かけて b になる 2 数」を探す手順の根拠がこれです。
- 2+3 のような和の無理性は、「有理数なら差も有理数になる」という一手で示せます。
- 条件の必要・十分は、真理集合(その条件を満たす数を集めた集合)の包含関係として読み替えられます。大学では実数の構成(解析学)、体と多項式環(代数学)へ続きます。
高校の数学は、「負の数どうしの積は正」「分数は通分して計算する」「a2=a ではなく ∣a∣」といった規則を、ほとんど当然のものとして使います。ところが、規則の一つ一つには理由があり、その理由を知らないと間違いが起こります。たとえば次の「計算」は、どこがおかしいでしょうか。
(−3)2=(−3)2=−3???
あるいは、不等式 x2>2x の両辺を x で割って x>2 と結論する誤り。割った数 x の符号がわからなければ、不等式の向きは決まりません。こうした誤りは、規則の適用条件を知らないことから生じます。
この記事では、数の計算規則を「順序体の公理(数とは何か? の 順序体(定義 2.1)[数とは何か])」から導く練習をします。公理は体の公理 5 つと順序の公理 4 つだけです。高校でよく使う規則はその帰結であり、証明は 2〜3 行で済むものがほとんどです。「公理から導ける」と知っておくと、規則が成り立つ範囲(たとえば「負の数をかけると向きが変わる」の「負」)が、暗記ではなく理解になります。
さらに、公理からは出てこない事実もあります。x2=2 を満たす数が存在するかどうかは、順序体の公理だけでは決まりません(有理数全体も順序体です)。存在を保証するのが連続性公理で、この記事の平方根の節で使います。出発点はすべて foundations の公理で、この記事は新しい公理を追加しません。
記事の流れは次のとおりです。節 2 で数の体系と計算規則、節 3 で絶対値、節 4 で平方根、節 5 で式の展開・因数分解、節 6 で無理数と二重根号、節 7 で条件の言い換え、節 8 で大学への接続を述べます。
定義 2.1(数の体系)↗
自然数全体を N={1,2,3,…}、整数全体を Z、有理数全体を Q={p/q∣p,q∈Z, q=0}、実数全体を R と書く。実数のうち有理数でないものを無理数という。
R は順序体の公理(順序体(定義 2.1)[数とは何か])に加えて、連続性公理(実数の連続性公理(公理 5.1)[数とは何か])を満たす。包含関係 N⊂Z⊂Q⊂R があり、Q も順序体だが連続性公理は満たさない。
数の体系の包含関係(高校数学ではさらに複素数を加える)
以下の計算規則は、R に限らず任意の順序体 K で成り立ちます。証明が使うのは公理だけです(公理の番号は 順序体(定義 2.1)[数とは何か] の 1〜9)。
命題 2.2(実数の計算規則)✓
a,b,c を順序体の元とする。
- (−a)b=−(ab)、(−a)(−b)=ab。
- ab=0 ならば a=0 または b=0。
- a=0 ならば a2>0。とくに 1>0。
- a<b かつ c<0 ならば ac>bc(負の数をかけると不等号の向きが変わる)。
- 0<a<b ならば 0<b−1<a−1。
- a≥0, b≥0 のとき、a<b⟺a2<b2。
次の証明は、「公理に書いてあることだけを使って、なじみのある規則を一つずつ確かめる」ことが目的です。まず準備として、逆元(足して 0 になる数)が一つしかないことなどを確かめ、それを (1)〜(6) で使います。公理の番号は、リンク先の順序体の定義にある 1〜9 の番号です。(1) から順に、前の結果を後ろで使う流れになっています。
証明(命題 2.2)
準備(逆元の一意性)。 x+y=0 かつ x+z=0 ならば y=z です。実際、y=y+0=y+(x+z)=(y+x)+z=0+z=z であり、結合法則と交換法則(公理 1)と単位元(公理 2)しか使っていません。したがって x+y=0 なら y=−x です。とくに −(−x)=x です((−x)+x=0 だから)。また、0<x かつ 0<y なら 0<xy です(公理 9 を 0<y と c=x に使うと 0⋅x<yx で、0⋅x=0 は 一次方程式の可解性(命題 7.1)[数とは何か] (1))。以下 (1)〜(6) では、これらを断りなく使います。
(1) ab+(−a)b=(a+(−a))b=0⋅b=0 です(分配法則と、0⋅b=0 は 一次方程式の可解性(命題 7.1)[数とは何か] (1))。したがって準備により (−a)b=−(ab)。同様に (−a)(−b)=−(a(−b))=−(−(ab))=ab。
(2) ab=0 かつ a=0 とします。b=(a−1a)b=a−1(ab)=a−1⋅0=0。
(3) 0<a なら、公理 9 を 0<a と c=a に使って 0⋅a<a⋅a、すなわち 0<a2。a<0 なら、公理 8 で両辺に −a を加えて 0<−a。この −a に前半を使うと 0<(−a)(−a)=a2((1))。1=0(公理 4)なので 1=12>0。
(4) c<0 より 0<−c。公理 9 から a(−c)<b(−c)、すなわち (1) により −(ac)<−(bc)。両辺に ac+bc を加える(公理 8)と bc<ac です。
(5) まず 0<a なら 0<a−1 です。a−1=0(a⋅0=0=1)なので、a−1<0 と仮定すると 0<−a−1 で、公理 9 より 0<a(−a−1)=−(aa−1)=−1。しかし (3) より 1>0 なので、−1<0 となり矛盾します。よって 0<a−1、同様に 0<b−1。積 a−1b−1>0 を a<b の両辺にかける(公理 9)と b−1<a−1 を得ます。
(6) 0≤a<b のとき、b>0 なので b+a>0、b−a>0。したがって b2−a2=(b−a)(b+a)>0(積が正になることは公理 9 から 0<xy、0<x, 0<y)。逆に a2<b2 で a<b が成り立たないとすると、公理 6 により b≤a。すると、前半(b=a のときは自明)から b2≤a2 となり、a2<b2 と矛盾します。
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(4) は不等式の「向き」を決める規則です。冒頭の例では、x2>2x の両辺を x で割るとき、x>0 なら x>2、x<0 なら向きが変わって x<2 となります。実際には x(x−2)>0 として、x>2 または x<0 と答えます。
定義 3.1(絶対値)↗
実数 a に対し、a≥0 のとき ∣a∣=a、a<0 のとき ∣a∣=−a と定める。
定理 3.2(絶対値の性質と三角不等式)✓
実数 a,b と r>0 について、次が成り立つ。
- ∣a∣≥0。∣a∣=0 となるのは a=0 のときに限る。
- −∣a∣≤a≤∣a∣。
- ∣ab∣=∣a∣∣b∣。とくに ∣−a∣=∣a∣。
- (三角不等式)∣a+b∣≤∣a∣+∣b∣。
- ∣a∣−∣b∣≤∣a−b∣。
- ∣x∣<r⟺−r<x<r。同様に ∣x∣≤r⟺−r≤x≤r。
証明(定理 3.2)
(1) a≥0 なら ∣a∣=a≥0、a<0 なら ∣a∣=−a>0(公理 8)。∣a∣=0 なら、a≥0 の場合は a=0、a<0 の場合は −a>0 で矛盾なので a=0。逆は明らか。
(2) a≥0 のとき ∣a∣=a で、−a≤0≤a。a<0 のとき ∣a∣=−a で、a<0<−a。どちらも主張の不等式が成り立ちます。
(3) a,b の符号で 4 通りに場合分けします。a,b≥0 なら ab≥0 で両辺とも ab。a≥0>b なら ab≤0 で、命題 2.2 (1) により ∣ab∣=−(ab)=a(−b)=∣a∣∣b∣。a<0≤b も同様。a,b<0 なら ab=(−a)(−b)>0 で ∣ab∣=ab=∣a∣∣b∣。∣−a∣=∣−1∣∣a∣=∣a∣ です。
(4) a+b≥0 のとき ∣a+b∣=a+b≤∣a∣+∣b∣((2) を足す)。a+b<0 のとき ∣a+b∣=(−a)+(−b)≤∣a∣+∣b∣((2) から −a≤∣a∣、−b≤∣b∣)。
(5) ∣a∣=∣(a−b)+b∣≤∣a−b∣+∣b∣ より ∣a∣−∣b∣≤∣a−b∣。a,b を入れ替えて ∣b∣−∣a∣≤∣b−a∣=∣a−b∣。∣a∣−∣b∣ はこの 2 数のどちらかに等しいので、主張が従います。
(6) x≥0 のとき ∣x∣<r は x<r と同値で、このとき −r<0≤x も成り立ちます。x<0 のとき ∣x∣<r は −x<r、すなわち −r<x と同値で、このとき x<0<r も成り立ちます。逆に −r<x<r とすると、x≥0 なら ∣x∣=x<r、x<0 なら ∣x∣=−x<r です。≤ の場合も同じです。
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(6) は「数直線上で原点からの距離が r 未満」という図形的な意味の翻訳です。∣x−a∣<r は a−r<x<a+r と同じで、これは次章以降の「近さ」の言葉です。
原点から距離 r 未満の区間と、a から距離 r 未満の区間(白丸は端点を含まない)
例 3.3(絶対値を含む方程式)
方程式 ∣x−1∣=2x を解く。x≥1 なら x−1=2x より x=−1 ですが、x≥1 に反します。x<1 なら 1−x=2x より x=1/3 で、x<1 を満たします。確かめると ∣1/3−1∣=2/3=2⋅(1/3) です。解は x=1/3 だけです。場合分けで出た解が場合分けの条件を満たすかを必ず確かめる、という点が要です。
命題 4.1(平方根の存在と計算規則)✓
a≥0 とする。b2=a を満たす b≥0 がただ一つ存在する。これを a と書く。さらに次が成り立つ。
- すべての実数 x について x2=∣x∣。
- a,b≥0 なら ab=ab。b>0 なら a/b=a/b。
- 0≤a<b ならば a<b。
- a,b≥0 なら a+b≤a+b。等号は ab=0 のときに限る。
存在の証明の考え方は次のとおりです。関数 x2 は x=0 のとき 0 で a 以下、x=a+1 のとき a より大きいので、その間のどこかでちょうど a になるはずです。この「途中の値をとる」ことを保証するのが中間値の定理です。(1)〜(4) は、存在と一意性が分かれば、2 乗して比べる計算だけで示せます。
証明(命題 4.1)
存在。 f(x)=x2 は連続です(多項式関数の連続性(系 5.2)[極限と連続性])。区間 [0,a+1] で f(0)=0≤a、f(a+1)=(a+1)2≥a+1>a なので、a は f(0) と f(a+1) の間にあり、中間値の定理(定理 5.7)[極限と連続性] により b∈[0,a+1] で b2=a となるものがあります。
一意性。 b,c≥0 で b2=c2=a とします。b=c なら一方が大きく、命題 2.2 (6) より b2=c2 で矛盾。
(1) ∣x∣≥0 かつ ∣x∣2=x2(定理 3.2 (3))。一意性により x2=∣x∣。
(2) (ab)2=ab で ab≥0 なので、一意性により ab=ab。商も同様((a/b)2=a/b)。
(3) a≥b なら 命題 2.2 (6) の対偶より a≥b、矛盾。
(4) (a+b)2=a+b+2ab≥a+b=(a+b)2。両辺が非負なので、命題 2.2 (6) により a+b≤a+b。等号は 2ab=0、すなわち ab=0、ab=0 のときに限ります。
∎
(1) が冒頭の誤りの原因です。(−3)2=∣−3∣=3 であって −3 ではありません。−3 はそもそも実数にならないので、(−3)2 は実数の範囲では意味を持ちません。
命題 4.2(分母の有理化)✓
有理数 p,q,r,s と平方数でない正の整数 n について、p+qn=0( p2=q2n と同値)のとき
p+qn1=p2−q2np−qnであり、右辺の分母は 0 でない有理数である。したがって Q(n)={p+qn} の 0 でない元の逆数はまた同じ形をとる。
証明(命題 4.2)
(p+qn)(p−qn)=p2−q2(n)2=p2−q2n です。n は無理数(平方数でない自然数の平方根(系 7.7)[証明の技術])なので、p2−q2n=0 なら q=0 のとき n=±p/q が有理数となって矛盾。q=0 なら p=0。よって p+qn=0 の場合に p2−q2n=0 です。両辺に分母 p+qn と p2−q2n をかけて等しいことを確かめれば等式が従います。
∎
展開・因数分解の公式は、可換環の計算規則(結合法則・交換法則・分配法則)だけから導けます。ここで「可換環の計算規則」とは、順序体(定義 2.1)[数とは何か] の体の公理 1〜5 から、乗法の逆元(公理 4 の後半)を除いたものです。以下の恒等式は、a,b,c が実数(あるいは文字式)であれば成り立ちます。
(1) は n=3 なら a3−b3=(a−b)(a2+ab+b2) です。右辺を展開すると a3+a2b+ab2−a2b−ab2−b3 となり、間の項が打ち消しあって a3−b3 だけが残ります。次の証明は、この「間の項が打ち消しあう」様子を、一般の n で和の記号を使って書いたものです。
証明(命題 5.1)
(1) 右辺を分配法則で展開すると
k=0∑n−1an−kbk−k=0∑n−1an−1−kbk+1で、第 2 の和の添字を k+1→j と読み替えると ∑j=1nan−jbj です。2 つの和は k=1,…,n−1 の項が打ち消しあい、残るのは第 1 の和の k=0 の項 an と、第 2 の和の j=n の項 −bn だけです。
(2) (1) の b を −b に置き換え、n が奇数なので (−b)n=−bn を使い、a−(−b)=a+b、(−b)k=(−1)kbk とすれば従います。
(3) 第 1 の等号は、a,b,c をそれぞれ第 2 因子にかけて足します。
a(⋯)b(⋯)c(⋯)=a3+ab2+ac2−a2b−abc−a2c,=a2b+b3+bc2−ab2−b2c−abc,=a2c+b2c+c3−abc−bc2−ac2.和では ab2, ac2, a2b, a2c, bc2, b2c の項が 2 つずつ打ち消しあい、a3+b3+c3−3abc が残ります。第 2 の等号は (a−b)2+(b−c)2+(c−a)2=2(a2+b2+c2−ab−bc−ca) から従います。
(4) 分配法則による展開です。
∎
系 5.2(3 変数の相加相乗平均(予告))✓
a,b,c≥0 ならば a3+b3+c3≥3abc。等号は a=b=c のときに限る。
証明(系 5.2)
命題 5.1 (3) の第 2 の形で、a+b+c≥0 であり、(a−b)2+(b−c)2+(c−a)2≥0(実数の平方は 0 以上、命題 2.2 (3))なので積は 0 以上です。等号なら a+b+c=0(このとき a=b=c=0)か、3 つの平方がすべて 0(このとき a=b=c)のいずれかで、どちらも a=b=c です。逆に a=b=c なら両辺は 3a3 で等しい。
∎
この系の a,b,c を 3x,3y,3z とすると、3 数の相加平均が相乗平均以上であるという形になります。一般の n 変数は式と証明:恒等式と不等式で扱います。
例 5.3(筆算は分配法則の記録)
47×23 の筆算は (40+7)(20+3)=40⋅20+40⋅3+7⋅20+7⋅3=800+120+140+21=1081 の記録です。繰り上がりは、10 の冪を係数にもつ「10 進法の展開式」を整理する操作です。同じ計算を x=10 の多項式 (4x+7)(2x+3)=8x2+26x+21 として行うと、係数 26 と 21 が計算の途中結果で、x=10 を代入して繰り上げれば 800+260+21=1081 となります。多項式の積は係数の「畳み込み」であり、整数の乗法はその x=10 での値です。
例 5.4(開平法が正しい理由)
2 の小数展開を桁ごとに求める開平法は、「k 桁目までの小数のうち、2 乗が 2 を超えない最大のもの」を順に決める操作です。これが 2 の k 桁への切り捨てを与えるのは、命題 4.1 (3) により x2≤2⟺x≤2(x≥0)だからです。
たとえば x=1 から始め、次の桁 d を (1+0.1d)2=1+0.2d+0.01d2≤2 から決めます。d=4 で 1.96、d=5 で 2.25 なので d=4、すなわち 1.4。次は (1.4+0.01d)2=1.96+0.028d+0.0001d2≤2 で、d=1 のとき 1.9881、d=2 のとき 2.0164 となるので d=1 で 1.41 です。展開 (x+dh)2=x2+2xdh+d2h2 の第 2 項 2xdh が、教科書の開平法の筆算で現れる「倍にして次の桁を並べる」操作の正体です。
命題 6.1(平方根の和の無理性)✓
m,n を正の整数とする。m+n が有理数ならば、m も n も平方数である。したがって、たとえば 2+3 は無理数である。
証明(命題 6.1)
s=m+n が有理数だとします。s>0 で、(m+n)(m−n)=m−n ですから m−n=(m−n)/s も有理数です。有理数の和・差・商は有理数なので
m=21(s+sm−n),n=21(s−sm−n)は有理数です。平方数でない自然数の平方根(系 7.7)[証明の技術] の対偶により、m と n は平方数でなければなりません。2 と 3 はどちらも平方数でないので、2+3 は無理数です。
∎
「有理数なら、そこから作った別の量も有理数」という議論は、無理性の証明の標準形です。有理数が四則で閉じていること(体であること)しか使っていません。
定理 6.2(二重根号が外れる条件)✓
a,b を正の有理数とし、b は有理数の平方でない(すなわち b は無理数)とする。このとき、正の有理数 x,y で
a+2b=x+yとなるものが存在するための必要十分条件は、a2−4b が有理数の平方になることである。このとき x,y=2a±a2−4b であり、x+y=a、xy=b が成り立つ。
証明は 2 方向に分かれます。「十分性」は、条件が成り立つなら実際に x,y を作って 2 乗で確かめる向きです。「必要性」は、外れたと仮定して 2 乗を繰り返し、b が無理数であることを使って x+y=a、xy=b を引き出す向きです。必要性では「有理数どうしの計算結果は有理数」という事実を何度も使うので、どの量が有理数かに注意して読んでください。
証明(定理 6.2)
十分性。 a2−4b=s2 (s≥0 は有理数)とします。x=(a+s)/2、y=(a−s)/2 は有理数で、x+y=a、xy=(a2−s2)/4=b です。s2=a2−4b<a2 で a>0、s≥0 なので、命題 2.2 (6) より s<a、したがって y>0、x>0 です。このとき
(x+y)2=x+y+2xy=a+2xy=a+2b(命題 4.1 (2) を使用)で、x+y>0 なので、平方根の一意性(命題 4.1)により a+2b=x+y です。
必要性。 a+2b=x+y とします。両辺を 2 乗して a+2b=x+y+2xy。r=a−x−y(有理数)とおくと 2xy=2b+r です。両辺を 2 乗して 4xy=4b+4rb+r2、すなわち rb=xy−b−r2/4 の右辺は有理数です。r=0 なら b が有理数となり仮定に反するので、r=0。すると x+y=a かつ xy=b、すなわち xy=b です。ゆえに a2−4b=(x+y)2−4xy=(x−y)2 は有理数の平方です。さらに s=a2−4b とおくと x−y=±s なので、x+y=a と合わせて {x,y}={2a+s,2a−s} となり、主張の x,y の値も従います。
∎
a+2b=x+y の探し方「足して a、かけて b になる 2 数を見つける」は、x,y が方程式 t2−at+b=0 の 2 解であることにほかなりません。その解が有理数になる条件が判別式 a2−4b の平方性です(判別式は2 次関数で扱います)。
例 6.3(外れる例と外れない例)
5+26 は a=5, b=6 で a2−4b=1=12 なので外れ、x,y=(5±1)/2=3,2、よって 5+26=3+2。検算 (3+2)2=5+26 ✓。
5+25 は a=5, b=5 で a2−4b=5 が有理数の平方でないので、どんな正の有理数 x,y をとっても x+y の形には書けません。外れない二重根号が存在することを、定理が保証しています。「x,y は有理数」という条件が要で、実数まで許せば、5+25=x+y を満たす x,y は(方程式 t2−5t+5=0 の 2 解として)存在しますが、それは根号の中にさらに根号が入った数であり、二重根号が外れたことにはなりません。
例 6.4(比例式の計算)
a:b=c:d のとき a=kb、c=kd(k=a/b=c/d)とおけます。したがって b,d,b+d=0 のもとで (a+c)/(b+d)=k(b+d)/(b+d)=k、つまり ba=dc=b+da+c(加比の理)です。b+d=0 のときは右辺が意味を持たない点に注意してください。
数学の問題で現れる「必要条件」「十分条件」「必要十分条件」は、述語の真理集合(その条件を満たすものを全部集めた集合)どうしの包含関係(一方が他方に含まれること)として読めます。
命題 7.1(必要条件・十分条件と真理集合)✓
X を集合、P,Q を X 上の条件とし、[P]={x∈X∣P(x)} とする。次は同値である。
- すべての x∈X について P(x)⇒Q(x) が成り立つ(P は Q の十分条件)。
- [P]⊆[Q]。
- [¬Q]⊆[¬P]。
また「すべての x について P(x)⟺Q(x)」は [P]=[Q] と同値である。
証明(命題 7.1)
(1) と (2) の同値は 真理集合と論理の対応(命題 6.3)[数学の国語] (1) です。(2) と (3) の同値は、いま示した (1) と (2) の同値を条件 ¬Q,¬P に適用すると、(3) が「すべての x で ¬Q(x)⇒¬P(x)」と同値になり、各 x について対偶の同値性(対偶の同値性(命題 6.1)[証明の技術])により ¬Q(x)⇒¬P(x) と P(x)⇒Q(x) が同値だからです。最後の主張は、P⟺Q が P⇒Q と Q⇒P の連言(必要条件と十分条件(定義 6.1)[数学の国語])で、(1)(2) により [P]⊆[Q] かつ [Q]⊆[P] と同値、すなわち [P]=[Q] だからです。
∎
例 7.2(包含関係で判定する)
実数 x について、P:x>2、Q:x2>4 とします。[P]=(2,∞)、[Q]=(−∞,−2)∪(2,∞) なので [P]⊊[Q] です。したがって P は Q の十分条件ですが必要条件ではありません。「小さい集合が十分条件」と覚えると、向きを間違えません。また、「x=0 かつ y=0」の否定は「x=0 または y=0」で、これはド・モルガンの法則(定理 4.4)[数学の国語] の言い換えです。
この記事で証明したことのほとんどは、大学では一段階抽象化されて再登場します。実数の計算規則と絶対値の三角不等式は、数とは何か? の順序体の公理と、解析学の距離空間の三角不等式へ。平方根の存在は連続性公理の最初の応用で、実数の構成と完備性は解析学(real-analysis)で本格的に扱われます。展開・因数分解の公式は、可換環と多項式環(algebra)の計算規則であり、Q(n) は代数学の「2 次体」(有理数に n を付け加えてできる数の集まり)という最初の例です。二重根号の定理は、2 次体 Q(b) の中で a+2b が 2 次体 Q(x,y) に入るかどうかという、体の拡大の問題です。条件の言い換えは、集合と論理の入口でもあります。
演習 9.1易
8+215 を x+y の形に書き直せ。
解答
a=8, b=15。a2−4b=64−60=4=22 なので 定理 6.2 が適用でき、x,y=(8±2)/2=5,3。よって 8+215=5+3。検算 (5+3)2=8+215 ✓。
演習 9.2標準
2+3+5 は無理数であることを示せ。
解答
s=2+3+5 が有理数だとします(s>0)。2+3=s−5 の両辺を 2 乗すると 5+26=s2−2s5+5、すなわち 26=s2−2s5。さらに 2 乗して 24=s4−4s35+20s2。s=0 なので 5=4s3s4+20s2−24 は有理数となり、平方数でない自然数の平方根(系 7.7)[証明の技術] に反します。よって s は無理数です。
演習 9.3標準
すべての実数 x について ∣x−1∣+∣x−3∣≥2 を示し、等号が成り立つ x の範囲を求めよ。
解答
三角不等式 定理 3.2 (4) により ∣x−1∣+∣3−x∣≥∣(x−1)+(3−x)∣=2。ここで ∣3−x∣=∣x−3∣((3))。等号条件は場合分けで確かめます。x<1 のとき和は (1−x)+(3−x)=4−2x>2。1≤x≤3 のとき和は (x−1)+(3−x)=2。x>3 のとき和は (x−1)+(x−3)=2x−4>2。よって等号は 1≤x≤3 のときです。
演習 9.4易
実数 x について、「x2−5x+6=0」は「x=2」であるための必要条件か、十分条件か、必要十分条件か。
解答
P:x=2、Q:x2−5x+6=0 とします。[P]={2}、[Q]={2,3}((x−2)(x−3)=0)で [P]⊊[Q]。命題 7.1 により、P⇒Q は真で逆は偽なので、Q は P の必要条件ですが十分条件ではありません(x=3 が反例)。
- 杉浦光夫『解析入門 I』東京大学出版会、1980 — 第 I 章(実数と連続性)。
- 松坂和夫『集合・位相入門』岩波書店、1968 — 第 1 章(集合と論理)。
- Walter Rudin, Principles of Mathematical Analysis, 3rd ed., McGraw-Hill, 1976 — Chapter 1(順序体と実数体)。
- 文部科学省『高等学校学習指導要領(平成 30 年告示)解説 数学編 理数編』— 数学 I「数と式」。