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数と式:実数の性質と式の計算を公理から組み立てる

対象読者: 中学数学の計算(正負の数・文字式・平方根の初歩)を学んだ高校生。実数の公理や極限・連続性の知識は仮定せず、必要な概念は本文で順に導入します。

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中学で「マイナスかけるマイナスはプラス」「負の数をかけると不等号の向きが変わる」と習いましたが、なぜそうなるのかは説明されなかったかもしれません。この記事は、そうした計算の約束事が、ごく少ない出発点(公理)から順に導けることを確かめます。読み終えると、計算規則がどんなときに使えるのかを、暗記ではなく理由つきで言えるようになります。

  • 高校の「数と式」で使う計算規則((−1)×(−1)=1(-1)\times(-1)=1、不等式の両辺に負の数をかけると向きが変わる、など)は、順序体の公理(足し算・かけ算・大小関係についての基本的な約束)から一つずつ導けます。この記事では、どの公理を使ったかを明示しながら導きます。
  • 絶対値は場合分けで定義しますが、性質(積、三角不等式、∣x∣<r  ⟺  −r<x<r|x|<r \iff -r<x<r)はすべて場合分けと順序の公理だけで証明できます。
  • 正の数の平方根は、連続性公理(数直線に隙間がないことを表す公理)と、それから導かれる中間値の定理(連続な関数は途中の値をすべてとる、という定理)によって存在と一意性が保証されます。a+b≠a+b\sqrt{a+b}\ne\sqrt a+\sqrt b のような典型的な誤りは、平方根の単調性から一行で説明がつきます。
  • 二重根号 a+2b\sqrt{a+2\sqrt b} が x+y\sqrt x+\sqrt y の形に外れるのは、a2−4ba^2-4b が有理数の平方になるとき、かつそのときに限ります(b\sqrt b が無理数のとき)。「足して aa、かけて bb になる 2 数」を探す手順の根拠がこれです。
  • 2+3\sqrt2+\sqrt3 のような和の無理性は、「有理数なら差も有理数になる」という一手で示せます。
  • 条件の必要・十分は、真理集合(その条件を満たす数を集めた集合)の包含関係として読み替えられます。大学では実数の構成(解析学)、体と多項式環(代数学)へ続きます。

1. 動機:計算規則はどこまで「認めて」よいのか

Section titled “1. 動機:計算規則はどこまで「認めて」よいのか”

高校の数学は、「負の数どうしの積は正」「分数は通分して計算する」「a2=a\sqrt{a^2}=a ではなく ∣a∣|a|」といった規則を、ほとんど当然のものとして使います。ところが、規則の一つ一つには理由があり、その理由を知らないと間違いが起こります。たとえば次の「計算」は、どこがおかしいでしょうか。

(−3)2=(−3)2=−3???\sqrt{(-3)^2} = (\sqrt{-3})^2 = -3 \quad ???

あるいは、不等式 x2>2xx^2 > 2x の両辺を xx で割って x>2x>2 と結論する誤り。割った数 xx の符号がわからなければ、不等式の向きは決まりません。こうした誤りは、規則の適用条件を知らないことから生じます。

この記事では、数の計算規則を「順序体の公理(数とは何か? の 順序体(定義 2.1)[数とは何か])」から導く練習をします。公理は体の公理 5 つと順序の公理 4 つだけです。高校でよく使う規則はその帰結であり、証明は 2〜3 行で済むものがほとんどです。「公理から導ける」と知っておくと、規則が成り立つ範囲(たとえば「負の数をかけると向きが変わる」の「負」)が、暗記ではなく理解になります。

さらに、公理からは出てこない事実もあります。x2=2x^2=2 を満たす数が存在するかどうかは、順序体の公理だけでは決まりません(有理数全体も順序体です)。存在を保証するのが連続性公理で、この記事の平方根の節で使います。出発点はすべて foundations の公理で、この記事は新しい公理を追加しません。

記事の流れは次のとおりです。節 2 で数の体系と計算規則、節 3 で絶対値、節 4 で平方根、節 5 で式の展開・因数分解、節 6 で無理数と二重根号、節 7 で条件の言い換え、節 8 で大学への接続を述べます。

定義 2.1(数の体系)↗

自然数全体を N={1,2,3,…}\mathbb{N}=\{1,2,3,\ldots\}、整数全体を Z\mathbb{Z}、有理数全体を Q={p/q∣p,q∈Z, q≠0}\mathbb{Q}=\{p/q \mid p,q\in\mathbb{Z},\ q\ne0\}、実数全体を R\mathbb{R} と書く。実数のうち有理数でないものを無理数という。

R\mathbb{R} は順序体の公理(順序体(定義 2.1)[数とは何か])に加えて、連続性公理(実数の連続性公理(公理 5.1)[数とは何か])を満たす。包含関係 N⊂Z⊂Q⊂R\mathbb{N}\subset\mathbb{Z}\subset\mathbb{Q}\subset\mathbb{R} があり、Q\mathbb{Q} も順序体だが連続性公理は満たさない。

ℕℤℚℝ
数の体系の包含関係(高校数学ではさらに複素数を加える)

以下の計算規則は、R\mathbb{R} に限らず任意の順序体 KK で成り立ちます。証明が使うのは公理だけです(公理の番号は 順序体(定義 2.1)[数とは何か] の 1〜9)。

命題 2.2(実数の計算規則)✓

a,b,ca,b,c を順序体の元とする。

  1. (−a)b=−(ab)(-a)b=-(ab)、(−a)(−b)=ab(-a)(-b)=ab。
  2. ab=0ab=0 ならば a=0a=0 または b=0b=0。
  3. a≠0a\ne0 ならば a2>0a^2>0。とくに 1>01>0。
  4. a<ba<b かつ c<0c<0 ならば ac>bcac>bc(負の数をかけると不等号の向きが変わる)。
  5. 0<a<b0<a<b ならば 0<b−1<a−10<b^{-1}<a^{-1}。
  6. a≥0, b≥0a\ge0,\ b\ge0 のとき、a<b  ⟺  a2<b2a<b \iff a^2<b^2。

次の証明は、「公理に書いてあることだけを使って、なじみのある規則を一つずつ確かめる」ことが目的です。まず準備として、逆元(足して 0 になる数)が一つしかないことなどを確かめ、それを (1)〜(6) で使います。公理の番号は、リンク先の順序体の定義にある 1〜9 の番号です。(1) から順に、前の結果を後ろで使う流れになっています。

証明(命題 2.2)

準備(逆元の一意性)。 x+y=0x+y=0 かつ x+z=0x+z=0 ならば y=zy=z です。実際、y=y+0=y+(x+z)=(y+x)+z=0+z=zy=y+0=y+(x+z)=(y+x)+z=0+z=z であり、結合法則と交換法則(公理 1)と単位元(公理 2)しか使っていません。したがって x+y=0x+y=0 なら y=−xy=-x です。とくに −(−x)=x-(-x)=x です((−x)+x=0(-x)+x=0 だから)。また、0<x0<x かつ 0<y0<y なら 0<xy0<xy です(公理 9 を 0<y0<y と c=xc=x に使うと 0⋅x<yx0\cdot x<yx で、0⋅x=00\cdot x=0 は 一次方程式の可解性(命題 7.1)[数とは何か] (1))。以下 (1)〜(6) では、これらを断りなく使います。

(1) ab+(−a)b=(a+(−a))b=0⋅b=0ab+(-a)b=(a+(-a))b=0\cdot b=0 です(分配法則と、0⋅b=00\cdot b=0 は 一次方程式の可解性(命題 7.1)[数とは何か] (1))。したがって準備により (−a)b=−(ab)(-a)b=-(ab)。同様に (−a)(−b)=−(a(−b))=−(−(ab))=ab(-a)(-b)=-(a(-b))=-(-(ab))=ab。

(2) ab=0ab=0 かつ a≠0a\ne0 とします。b=(a−1a)b=a−1(ab)=a−1⋅0=0b=(a^{-1}a)b=a^{-1}(ab)=a^{-1}\cdot0=0。

(3) 0<a0<a なら、公理 9 を 0<a0<a と c=ac=a に使って 0⋅a<a⋅a0\cdot a<a\cdot a、すなわち 0<a20<a^2。a<0a<0 なら、公理 8 で両辺に −a-a を加えて 0<−a0<-a。この −a-a に前半を使うと 0<(−a)(−a)=a20<(-a)(-a)=a^2((1))。1≠01\ne0(公理 4)なので 1=12>01=1^2>0。

(4) c<0c<0 より 0<−c0<-c。公理 9 から a(−c)<b(−c)a(-c)<b(-c)、すなわち (1) により −(ac)<−(bc)-(ac)<-(bc)。両辺に ac+bcac+bc を加える(公理 8)と bc<acbc<ac です。

(5) まず 0<a0<a なら 0<a−10<a^{-1} です。a−1≠0a^{-1}\ne0(a⋅0=0≠1a\cdot0=0\ne1)なので、a−1<0a^{-1}<0 と仮定すると 0<−a−10<-a^{-1} で、公理 9 より 0<a(−a−1)=−(aa−1)=−10<a(-a^{-1})=-(aa^{-1})=-1。しかし (3) より 1>01>0 なので、−1<0-1<0 となり矛盾します。よって 0<a−10<a^{-1}、同様に 0<b−10<b^{-1}。積 a−1b−1>0a^{-1}b^{-1}>0 を a<ba<b の両辺にかける(公理 9)と b−1<a−1b^{-1}<a^{-1} を得ます。

(6) 0≤a<b0\le a<b のとき、b>0b>0 なので b+a>0b+a>0、b−a>0b-a>0。したがって b2−a2=(b−a)(b+a)>0b^2-a^2=(b-a)(b+a)>0(積が正になることは公理 9 から 0<xy0<xy、0<x, 0<y0<x,\ 0<y)。逆に a2<b2a^2<b^2 で a<ba<b が成り立たないとすると、公理 6 により b≤ab\le a。すると、前半(b=ab=a のときは自明)から b2≤a2b^2\le a^2 となり、a2<b2a^2<b^2 と矛盾します。

(4) は不等式の「向き」を決める規則です。冒頭の例では、x2>2xx^2>2x の両辺を xx で割るとき、x>0x>0 なら x>2x>2、x<0x<0 なら向きが変わって x<2x<2 となります。実際には x(x−2)>0x(x-2)>0 として、x>2x>2 または x<0x<0 と答えます。

定義 3.1(絶対値)↗

実数 aa に対し、a≥0a\ge0 のとき ∣a∣=a|a|=a、a<0a<0 のとき ∣a∣=−a|a|=-a と定める。

定理 3.2(絶対値の性質と三角不等式)✓

実数 a,ba,b と r>0r>0 について、次が成り立つ。

  1. ∣a∣≥0|a|\ge0。∣a∣=0|a|=0 となるのは a=0a=0 のときに限る。
  2. −∣a∣≤a≤∣a∣-|a|\le a\le|a|。
  3. ∣ab∣=∣a∣∣b∣|ab|=|a||b|。とくに ∣−a∣=∣a∣|-a|=|a|。
  4. (三角不等式)∣a+b∣≤∣a∣+∣b∣|a+b|\le|a|+|b|。
  5. ∣∣a∣−∣b∣∣≤∣a−b∣\bigl||a|-|b|\bigr|\le|a-b|。
  6. ∣x∣<r  ⟺  −r<x<r|x|<r \iff -r<x<r。同様に ∣x∣≤r  ⟺  −r≤x≤r|x|\le r\iff -r\le x\le r。
証明(定理 3.2)

(1) a≥0a\ge0 なら ∣a∣=a≥0|a|=a\ge0、a<0a<0 なら ∣a∣=−a>0|a|=-a>0(公理 8)。∣a∣=0|a|=0 なら、a≥0a\ge0 の場合は a=0a=0、a<0a<0 の場合は −a>0-a>0 で矛盾なので a=0a=0。逆は明らか。

(2) a≥0a\ge0 のとき ∣a∣=a|a|=a で、−a≤0≤a-a\le0\le a。a<0a<0 のとき ∣a∣=−a|a|=-a で、a<0<−aa<0<-a。どちらも主張の不等式が成り立ちます。

(3) a,ba,b の符号で 4 通りに場合分けします。a,b≥0a,b\ge0 なら ab≥0ab\ge0 で両辺とも abab。a≥0>ba\ge0>b なら ab≤0ab\le0 で、命題 2.2 (1) により ∣ab∣=−(ab)=a(−b)=∣a∣∣b∣|ab|=-(ab)=a(-b)=|a||b|。a<0≤ba<0\le b も同様。a,b<0a,b<0 なら ab=(−a)(−b)>0ab=(-a)(-b)>0 で ∣ab∣=ab=∣a∣∣b∣|ab|=ab=|a||b|。∣−a∣=∣−1∣∣a∣=∣a∣|-a|=|-1||a|=|a| です。

(4) a+b≥0a+b\ge0 のとき ∣a+b∣=a+b≤∣a∣+∣b∣|a+b|=a+b\le|a|+|b|((2) を足す)。a+b<0a+b<0 のとき ∣a+b∣=(−a)+(−b)≤∣a∣+∣b∣|a+b|=(-a)+(-b)\le|a|+|b|((2) から −a≤∣a∣-a\le|a|、−b≤∣b∣-b\le|b|)。

(5) ∣a∣=∣(a−b)+b∣≤∣a−b∣+∣b∣|a|=|(a-b)+b|\le|a-b|+|b| より ∣a∣−∣b∣≤∣a−b∣|a|-|b|\le|a-b|。a,ba,b を入れ替えて ∣b∣−∣a∣≤∣b−a∣=∣a−b∣|b|-|a|\le|b-a|=|a-b|。∣∣a∣−∣b∣∣\bigl||a|-|b|\bigr| はこの 2 数のどちらかに等しいので、主張が従います。

(6) x≥0x\ge0 のとき ∣x∣<r|x|<r は x<rx<r と同値で、このとき −r<0≤x-r<0\le x も成り立ちます。x<0x<0 のとき ∣x∣<r|x|<r は −x<r-x<r、すなわち −r<x-r<x と同値で、このとき x<0<rx<0<r も成り立ちます。逆に −r<x<r-r<x<r とすると、x≥0x\ge0 なら ∣x∣=x<r|x|=x<r、x<0x<0 なら ∣x∣=−x<r|x|=-x<r です。≤\le の場合も同じです。

(6) は「数直線上で原点からの距離が rr 未満」という図形的な意味の翻訳です。∣x−a∣<r|x-a|<r は a−r<x<a+ra-r<x<a+r と同じで、これは次章以降の「近さ」の言葉です。

|x| < r−r0r|x − a| < ra−raa+r
原点から距離 r 未満の区間と、a から距離 r 未満の区間(白丸は端点を含まない)

例 3.3(絶対値を含む方程式)

方程式 ∣x−1∣=2x|x-1|=2x を解く。x≥1x\ge1 なら x−1=2xx-1=2x より x=−1x=-1 ですが、x≥1x\ge1 に反します。x<1x<1 なら 1−x=2x1-x=2x より x=1/3x=1/3 で、x<1x<1 を満たします。確かめると ∣1/3−1∣=2/3=2⋅(1/3)|1/3-1|=2/3=2\cdot(1/3) です。解は x=1/3x=1/3 だけです。場合分けで出た解が場合分けの条件を満たすかを必ず確かめる、という点が要です。

命題 4.1(平方根の存在と計算規則)✓

a≥0a\ge0 とする。b2=ab^2=a を満たす b≥0b\ge0 がただ一つ存在する。これを a\sqrt a と書く。さらに次が成り立つ。

  1. すべての実数 xx について x2=∣x∣\sqrt{x^2}=|x|。
  2. a,b≥0a,b\ge0 なら ab=ab\sqrt{ab}=\sqrt a\sqrt b。b>0b>0 なら a/b=a/b\sqrt{a/b}=\sqrt a/\sqrt b。
  3. 0≤a<b0\le a<b ならば a<b\sqrt a<\sqrt b。
  4. a,b≥0a,b\ge0 なら a+b≤a+b\sqrt{a+b}\le\sqrt a+\sqrt b。等号は ab=0ab=0 のときに限る。

存在の証明の考え方は次のとおりです。関数 x2x^2 は x=0x=0 のとき 00 で aa 以下、x=a+1x=a+1 のとき aa より大きいので、その間のどこかでちょうど aa になるはずです。この「途中の値をとる」ことを保証するのが中間値の定理です。(1)〜(4) は、存在と一意性が分かれば、2 乗して比べる計算だけで示せます。

証明(命題 4.1)

存在。 f(x)=x2f(x)=x^2 は連続です(多項式関数の連続性(系 5.2)[極限と連続性])。区間 [0,a+1][0,a+1] で f(0)=0≤af(0)=0\le a、f(a+1)=(a+1)2≥a+1>af(a+1)=(a+1)^2\ge a+1>a なので、aa は f(0)f(0) と f(a+1)f(a+1) の間にあり、中間値の定理(定理 5.7)[極限と連続性] により b∈[0,a+1]b\in[0,a+1] で b2=ab^2=a となるものがあります。 一意性。 b,c≥0b,c\ge0 で b2=c2=ab^2=c^2=a とします。b≠cb\ne c なら一方が大きく、命題 2.2 (6) より b2≠c2b^2\ne c^2 で矛盾。

(1) ∣x∣≥0|x|\ge0 かつ ∣x∣2=x2|x|^2=x^2(定理 3.2 (3))。一意性により x2=∣x∣\sqrt{x^2}=|x|。 (2) (ab)2=ab(\sqrt a\sqrt b)^2=ab で ab≥0\sqrt a\sqrt b\ge0 なので、一意性により ab=ab\sqrt{ab}=\sqrt a\sqrt b。商も同様((a/b)2=a/b(\sqrt a/\sqrt b)^2=a/b)。 (3) a≥b\sqrt a\ge\sqrt b なら 命題 2.2 (6) の対偶より a≥ba\ge b、矛盾。 (4) (a+b)2=a+b+2ab≥a+b=(a+b)2(\sqrt a+\sqrt b)^2=a+b+2\sqrt a\sqrt b\ge a+b=(\sqrt{a+b})^2。両辺が非負なので、命題 2.2 (6) により a+b≤a+b\sqrt{a+b}\le\sqrt a+\sqrt b。等号は 2ab=02\sqrt a\sqrt b=0、すなわち ab=0\sqrt{ab}=0、ab=0ab=0 のときに限ります。

(1) が冒頭の誤りの原因です。(−3)2=∣−3∣=3\sqrt{(-3)^2}=|-3|=3 であって −3-3 ではありません。−3\sqrt{-3} はそもそも実数にならないので、(−3)2(\sqrt{-3})^2 は実数の範囲では意味を持ちません。

命題 4.2(分母の有理化)✓

有理数 p,q,r,sp,q,r,s と平方数でない正の整数 nn について、p+qn≠0p+q\sqrt n\ne0( p2≠q2np^2\ne q^2n と同値)のとき

1p+qn=p−qnp2−q2n\frac{1}{p+q\sqrt n}=\frac{p-q\sqrt n}{p^2-q^2n}

であり、右辺の分母は 00 でない有理数である。したがって Q(n)={p+qn}\mathbb{Q}(\sqrt n)=\{p+q\sqrt n\} の 0 でない元の逆数はまた同じ形をとる。

証明(命題 4.2)

(p+qn)(p−qn)=p2−q2(n)2=p2−q2n(p+q\sqrt n)(p-q\sqrt n)=p^2-q^2(\sqrt n)^2=p^2-q^2n です。n\sqrt n は無理数(平方数でない自然数の平方根(系 7.7)[証明の技術])なので、p2−q2n=0p^2-q^2n=0 なら q≠0q\ne0 のとき n=±p/q\sqrt n=\pm p/q が有理数となって矛盾。q=0q=0 なら p=0p=0。よって p+qn≠0p+q\sqrt n\ne0 の場合に p2−q2n≠0p^2-q^2n\ne0 です。両辺に分母 p+qnp+q\sqrt n と p2−q2np^2-q^2n をかけて等しいことを確かめれば等式が従います。

展開・因数分解の公式は、可換環の計算規則(結合法則・交換法則・分配法則)だけから導けます。ここで「可換環の計算規則」とは、順序体(定義 2.1)[数とは何か] の体の公理 1〜5 から、乗法の逆元(公理 4 の後半)を除いたものです。以下の恒等式は、a,b,ca,b,c が実数(あるいは文字式)であれば成り立ちます。

命題 5.1(因数分解の公式)✓

nn を自然数、a,b,ca,b,c を実数とする。証明は可換環の計算規則しか使わないので、a,b,ca,b,c が複素数や多項式(文字式)であっても同じ等式が成り立つ。

  1. an−bn=(a−b)∑k=0n−1a n−1−kbka^n-b^n=(a-b)\displaystyle\sum_{k=0}^{n-1}a^{\,n-1-k}b^{k}。
  2. nn が奇数のとき、an+bn=(a+b)∑k=0n−1(−1)ka n−1−kbka^n+b^n=(a+b)\displaystyle\sum_{k=0}^{n-1}(-1)^{k}a^{\,n-1-k}b^{k}。
  3. a3+b3+c3−3abc=(a+b+c)(a2+b2+c2−ab−bc−ca)=12(a+b+c)((a−b)2+(b−c)2+(c−a)2)a^3+b^3+c^3-3abc=(a+b+c)(a^2+b^2+c^2-ab-bc-ca)=\dfrac12(a+b+c)\bigl((a-b)^2+(b-c)^2+(c-a)^2\bigr)。
  4. (a+b+c)2=a2+b2+c2+2(ab+bc+ca)(a+b+c)^2=a^2+b^2+c^2+2(ab+bc+ca)、(a+b)3=a3+3a2b+3ab2+b3(a+b)^3=a^3+3a^2b+3ab^2+b^3。

(1) は n=3n=3 なら a3−b3=(a−b)(a2+ab+b2)a^3-b^3=(a-b)(a^2+ab+b^2) です。右辺を展開すると a3+a2b+ab2−a2b−ab2−b3a^3+a^2b+ab^2-a^2b-ab^2-b^3 となり、間の項が打ち消しあって a3−b3a^3-b^3 だけが残ります。次の証明は、この「間の項が打ち消しあう」様子を、一般の nn で和の記号を使って書いたものです。

証明(命題 5.1)

(1) 右辺を分配法則で展開すると

∑k=0n−1a n−kbk−∑k=0n−1a n−1−kbk+1\sum_{k=0}^{n-1}a^{\,n-k}b^{k}-\sum_{k=0}^{n-1}a^{\,n-1-k}b^{k+1}

で、第 2 の和の添字を k+1→jk+1\to j と読み替えると ∑j=1na n−jbj\sum_{j=1}^{n}a^{\,n-j}b^{j} です。2 つの和は k=1,…,n−1k=1,\dots,n-1 の項が打ち消しあい、残るのは第 1 の和の k=0k=0 の項 ana^n と、第 2 の和の j=nj=n の項 −bn-b^n だけです。 (2) (1) の bb を −b-b に置き換え、nn が奇数なので (−b)n=−bn(-b)^n=-b^n を使い、a−(−b)=a+ba-(-b)=a+b、(−b)k=(−1)kbk(-b)^k=(-1)^kb^k とすれば従います。 (3) 第 1 の等号は、a,b,ca,b,c をそれぞれ第 2 因子にかけて足します。

a(⋯ )=a3+ab2+ac2−a2b−abc−a2c,b(⋯ )=a2b+b3+bc2−ab2−b2c−abc,c(⋯ )=a2c+b2c+c3−abc−bc2−ac2.\begin{aligned} a(\cdots)&=a^3+ab^2+ac^2-a^2b-abc-a^2c,\\ b(\cdots)&=a^2b+b^3+bc^2-ab^2-b^2c-abc,\\ c(\cdots)&=a^2c+b^2c+c^3-abc-bc^2-ac^2. \end{aligned}

和では ab2, ac2, a2b, a2c, bc2, b2cab^2,\ ac^2,\ a^2b,\ a^2c,\ bc^2,\ b^2c の項が 2 つずつ打ち消しあい、a3+b3+c3−3abca^3+b^3+c^3-3abc が残ります。第 2 の等号は (a−b)2+(b−c)2+(c−a)2=2(a2+b2+c2−ab−bc−ca)(a-b)^2+(b-c)^2+(c-a)^2=2(a^2+b^2+c^2-ab-bc-ca) から従います。 (4) 分配法則による展開です。

系 5.2(3 変数の相加相乗平均(予告))✓

a,b,c≥0a,b,c\ge0 ならば a3+b3+c3≥3abca^3+b^3+c^3\ge3abc。等号は a=b=ca=b=c のときに限る。

証明(系 5.2)

命題 5.1 (3) の第 2 の形で、a+b+c≥0a+b+c\ge0 であり、(a−b)2+(b−c)2+(c−a)2≥0(a-b)^2+(b-c)^2+(c-a)^2\ge0(実数の平方は 0 以上、命題 2.2 (3))なので積は 00 以上です。等号なら a+b+c=0a+b+c=0(このとき a=b=c=0a=b=c=0)か、3 つの平方がすべて 00(このとき a=b=ca=b=c)のいずれかで、どちらも a=b=ca=b=c です。逆に a=b=ca=b=c なら両辺は 3a33a^3 で等しい。

この系の a,b,ca,b,c を x3,y3,z3\sqrt[3]{x},\sqrt[3]{y},\sqrt[3]{z} とすると、3 数の相加平均が相乗平均以上であるという形になります。一般の nn 変数は式と証明:恒等式と不等式で扱います。

例 5.3(筆算は分配法則の記録)

47×2347\times23 の筆算は (40+7)(20+3)=40⋅20+40⋅3+7⋅20+7⋅3=800+120+140+21=1081(40+7)(20+3)=40\cdot20+40\cdot3+7\cdot20+7\cdot3=800+120+140+21=1081 の記録です。繰り上がりは、1010 の冪を係数にもつ「1010 進法の展開式」を整理する操作です。同じ計算を x=10x=10 の多項式 (4x+7)(2x+3)=8x2+26x+21(4x+7)(2x+3)=8x^2+26x+21 として行うと、係数 2626 と 2121 が計算の途中結果で、x=10x=10 を代入して繰り上げれば 800+260+21=1081800+260+21=1081 となります。多項式の積は係数の「畳み込み」であり、整数の乗法はその x=10x=10 での値です。

例 5.4(開平法が正しい理由)

2\sqrt2 の小数展開を桁ごとに求める開平法は、「kk 桁目までの小数のうち、2 乗が 22 を超えない最大のもの」を順に決める操作です。これが 2\sqrt2 の kk 桁への切り捨てを与えるのは、命題 4.1 (3) により x2≤2  ⟺  x≤2x^2\le2\iff x\le\sqrt2(x≥0x\ge0)だからです。 たとえば x=1x=1 から始め、次の桁 dd を (1+0.1d)2=1+0.2d+0.01d2≤2(1+0.1d)^2=1+0.2d+0.01d^2\le2 から決めます。d=4d=4 で 1.961.96、d=5d=5 で 2.252.25 なので d=4d=4、すなわち 1.41.4。次は (1.4+0.01d)2=1.96+0.028d+0.0001d2≤2(1.4+0.01d)^2=1.96+0.028d+0.0001d^2\le2 で、d=1d=1 のとき 1.98811.9881、d=2d=2 のとき 2.01642.0164 となるので d=1d=1 で 1.411.41 です。展開 (x+dh)2=x2+2xdh+d2h2(x+dh)^2=x^2+2xdh+d^2h^2 の第 2 項 2xdh2xdh が、教科書の開平法の筆算で現れる「倍にして次の桁を並べる」操作の正体です。

命題 6.1(平方根の和の無理性)✓

m,nm,n を正の整数とする。m+n\sqrt m+\sqrt n が有理数ならば、mm も nn も平方数である。したがって、たとえば 2+3\sqrt2+\sqrt3 は無理数である。

証明(命題 6.1)

s=m+ns=\sqrt m+\sqrt n が有理数だとします。s>0s>0 で、(m+n)(m−n)=m−n(\sqrt m+\sqrt n)(\sqrt m-\sqrt n)=m-n ですから m−n=(m−n)/s\sqrt m-\sqrt n=(m-n)/s も有理数です。有理数の和・差・商は有理数なので

m=12(s+m−ns),n=12(s−m−ns)\sqrt m=\frac12\Bigl(s+\frac{m-n}{s}\Bigr),\qquad \sqrt n=\frac12\Bigl(s-\frac{m-n}{s}\Bigr)

は有理数です。平方数でない自然数の平方根(系 7.7)[証明の技術] の対偶により、mm と nn は平方数でなければなりません。22 と 33 はどちらも平方数でないので、2+3\sqrt2+\sqrt3 は無理数です。

「有理数なら、そこから作った別の量も有理数」という議論は、無理性の証明の標準形です。有理数が四則で閉じていること(体であること)しか使っていません。

定理 6.2(二重根号が外れる条件)✓

a,ba,b を正の有理数とし、bb は有理数の平方でない(すなわち b\sqrt b は無理数)とする。このとき、正の有理数 x,yx,y で

a+2b=x+y\sqrt{a+2\sqrt b}=\sqrt x+\sqrt y

となるものが存在するための必要十分条件は、a2−4ba^2-4b が有理数の平方になることである。このとき x,y=a±a2−4b2x,y=\dfrac{a\pm\sqrt{a^2-4b}}{2} であり、x+y=ax+y=a、xy=bxy=b が成り立つ。

証明は 2 方向に分かれます。「十分性」は、条件が成り立つなら実際に x,yx,y を作って 2 乗で確かめる向きです。「必要性」は、外れたと仮定して 2 乗を繰り返し、b\sqrt b が無理数であることを使って x+y=ax+y=a、xy=bxy=b を引き出す向きです。必要性では「有理数どうしの計算結果は有理数」という事実を何度も使うので、どの量が有理数かに注意して読んでください。

証明(定理 6.2)

十分性。 a2−4b=s2a^2-4b=s^2 (s≥0s\ge0 は有理数)とします。x=(a+s)/2x=(a+s)/2、y=(a−s)/2y=(a-s)/2 は有理数で、x+y=ax+y=a、xy=(a2−s2)/4=bxy=(a^2-s^2)/4=b です。s2=a2−4b<a2s^2=a^2-4b<a^2 で a>0a>0、s≥0s\ge0 なので、命題 2.2 (6) より s<as<a、したがって y>0y>0、x>0x>0 です。このとき

(x+y)2=x+y+2xy=a+2xy=a+2b(\sqrt x+\sqrt y)^2=x+y+2\sqrt x\sqrt y=a+2\sqrt{xy}=a+2\sqrt b

(命題 4.1 (2) を使用)で、x+y>0\sqrt x+\sqrt y>0 なので、平方根の一意性(命題 4.1)により a+2b=x+y\sqrt{a+2\sqrt b}=\sqrt x+\sqrt y です。

必要性。 a+2b=x+y\sqrt{a+2\sqrt b}=\sqrt x+\sqrt y とします。両辺を 2 乗して a+2b=x+y+2xya+2\sqrt b=x+y+2\sqrt{xy}。r=a−x−yr=a-x-y(有理数)とおくと 2xy=2b+r2\sqrt{xy}=2\sqrt b+r です。両辺を 2 乗して 4xy=4b+4rb+r24xy=4b+4r\sqrt b+r^2、すなわち rb=xy−b−r2/4r\sqrt b=xy-b-r^2/4 の右辺は有理数です。r≠0r\ne0 なら b\sqrt b が有理数となり仮定に反するので、r=0r=0。すると x+y=ax+y=a かつ xy=b\sqrt{xy}=\sqrt b、すなわち xy=bxy=b です。ゆえに a2−4b=(x+y)2−4xy=(x−y)2a^2-4b=(x+y)^2-4xy=(x-y)^2 は有理数の平方です。さらに s=a2−4bs=\sqrt{a^2-4b} とおくと x−y=±sx-y=\pm s なので、x+y=ax+y=a と合わせて {x,y}={a+s2,a−s2}\{x,y\}=\bigl\{\tfrac{a+s}2,\tfrac{a-s}2\bigr\} となり、主張の x,yx,y の値も従います。

a+2b=x+y\sqrt{a+2\sqrt b}=\sqrt x+\sqrt y の探し方「足して aa、かけて bb になる 2 数を見つける」は、x,yx,y が方程式 t2−at+b=0t^2-at+b=0 の 2 解であることにほかなりません。その解が有理数になる条件が判別式 a2−4ba^2-4b の平方性です(判別式は2 次関数で扱います)。

例 6.3(外れる例と外れない例)

5+26\sqrt{5+2\sqrt6} は a=5, b=6a=5,\ b=6 で a2−4b=1=12a^2-4b=1=1^2 なので外れ、x,y=(5±1)/2=3,2x,y=(5\pm1)/2=3,2、よって 5+26=3+2\sqrt{5+2\sqrt6}=\sqrt3+\sqrt2。検算 (3+2)2=5+26(\sqrt3+\sqrt2)^2=5+2\sqrt6 ✓。 5+25\sqrt{5+2\sqrt5} は a=5, b=5a=5,\ b=5 で a2−4b=5a^2-4b=5 が有理数の平方でないので、どんな正の有理数 x,yx,y をとっても x+y\sqrt x+\sqrt y の形には書けません。外れない二重根号が存在することを、定理が保証しています。「x,yx,y は有理数」という条件が要で、実数まで許せば、5+25=x+y\sqrt{5+2\sqrt5}=\sqrt x+\sqrt y を満たす x,yx,y は(方程式 t2−5t+5=0t^2-5t+5=0 の 2 解として)存在しますが、それは根号の中にさらに根号が入った数であり、二重根号が外れたことにはなりません。

例 6.4(比例式の計算)

a:b=c:da:b=c:d のとき a=kba=kb、c=kdc=kd(k=a/b=c/dk=a/b=c/d)とおけます。したがって b,d,b+d≠0b,d,b+d\ne0 のもとで (a+c)/(b+d)=k(b+d)/(b+d)=k(a+c)/(b+d)=k(b+d)/(b+d)=k、つまり ab=cd=a+cb+d\dfrac{a}{b}=\dfrac{c}{d}=\dfrac{a+c}{b+d}(加比の理)です。b+d=0b+d=0 のときは右辺が意味を持たない点に注意してください。

7. 条件と真理集合:必要条件・十分条件の言い換え

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数学の問題で現れる「必要条件」「十分条件」「必要十分条件」は、述語の真理集合(その条件を満たすものを全部集めた集合)どうしの包含関係(一方が他方に含まれること)として読めます。

命題 7.1(必要条件・十分条件と真理集合)✓

XX を集合、P,QP,Q を XX 上の条件とし、[P]={x∈X∣P(x)}[P]=\{x\in X\mid P(x)\} とする。次は同値である。

  1. すべての x∈Xx\in X について P(x)⇒Q(x)P(x)\Rightarrow Q(x) が成り立つ(PP は QQ の十分条件)。
  2. [P]⊆[Q][P]\subseteq[Q]。
  3. [¬Q]⊆[¬P][\lnot Q]\subseteq[\lnot P]。

また「すべての xx について P(x)  ⟺  Q(x)P(x)\iff Q(x)」は [P]=[Q][P]=[Q] と同値である。

証明(命題 7.1)

(1) と (2) の同値は 真理集合と論理の対応(命題 6.3)[数学の国語] (1) です。(2) と (3) の同値は、いま示した (1) と (2) の同値を条件 ¬Q,¬P\lnot Q,\lnot P に適用すると、(3) が「すべての xx で ¬Q(x)⇒¬P(x)\lnot Q(x)\Rightarrow\lnot P(x)」と同値になり、各 xx について対偶の同値性(対偶の同値性(命題 6.1)[証明の技術])により ¬Q(x)⇒¬P(x)\lnot Q(x)\Rightarrow\lnot P(x) と P(x)⇒Q(x)P(x)\Rightarrow Q(x) が同値だからです。最後の主張は、P  ⟺  QP\iff Q が P⇒QP\Rightarrow Q と Q⇒PQ\Rightarrow P の連言(必要条件と十分条件(定義 6.1)[数学の国語])で、(1)(2) により [P]⊆[Q][P]\subseteq[Q] かつ [Q]⊆[P][Q]\subseteq[P] と同値、すなわち [P]=[Q][P]=[Q] だからです。

例 7.2(包含関係で判定する)

実数 xx について、PP:x>2x>2、QQ:x2>4x^2>4 とします。[P]=(2,∞)[P]=(2,\infty)、[Q]=(−∞,−2)∪(2,∞)[Q]=(-\infty,-2)\cup(2,\infty) なので [P]⊊[Q][P]\subsetneq[Q] です。したがって PP は QQ の十分条件ですが必要条件ではありません。「小さい集合が十分条件」と覚えると、向きを間違えません。また、「x≠0x\ne0 かつ y≠0y\ne0」の否定は「x=0x=0 または y=0y=0」で、これはド・モルガンの法則(定理 4.4)[数学の国語] の言い換えです。

この記事で証明したことのほとんどは、大学では一段階抽象化されて再登場します。実数の計算規則と絶対値の三角不等式は、数とは何か? の順序体の公理と、解析学の距離空間の三角不等式へ。平方根の存在は連続性公理の最初の応用で、実数の構成と完備性は解析学(real-analysis)で本格的に扱われます。展開・因数分解の公式は、可換環と多項式環(algebra)の計算規則であり、Q(n)\mathbb{Q}(\sqrt n) は代数学の「2 次体」(有理数に n\sqrt n を付け加えてできる数の集まり)という最初の例です。二重根号の定理は、2 次体 Q(b)\mathbb{Q}(\sqrt b) の中で a+2b\sqrt{a+2\sqrt b} が 2 次体 Q(x,y)\mathbb{Q}(\sqrt x,\sqrt y) に入るかどうかという、体の拡大の問題です。条件の言い換えは、集合と論理の入口でもあります。

演習 9.1易

8+215\sqrt{8+2\sqrt{15}} を x+y\sqrt x+\sqrt y の形に書き直せ。

解答

a=8, b=15a=8,\ b=15。a2−4b=64−60=4=22a^2-4b=64-60=4=2^2 なので 定理 6.2 が適用でき、x,y=(8±2)/2=5,3x,y=(8\pm2)/2=5,3。よって 8+215=5+3\sqrt{8+2\sqrt{15}}=\sqrt5+\sqrt3。検算 (5+3)2=8+215(\sqrt5+\sqrt3)^2=8+2\sqrt{15} ✓。

演習 9.2標準

2+3+5\sqrt2+\sqrt3+\sqrt5 は無理数であることを示せ。

解答

s=2+3+5s=\sqrt2+\sqrt3+\sqrt5 が有理数だとします(s>0s>0)。2+3=s−5\sqrt2+\sqrt3=s-\sqrt5 の両辺を 2 乗すると 5+26=s2−2s5+55+2\sqrt6=s^2-2s\sqrt5+5、すなわち 26=s2−2s52\sqrt6=s^2-2s\sqrt5。さらに 2 乗して 24=s4−4s35+20s224=s^4-4s^3\sqrt5+20s^2。s≠0s\ne0 なので 5=s4+20s2−244s3\sqrt5=\dfrac{s^4+20s^2-24}{4s^3} は有理数となり、平方数でない自然数の平方根(系 7.7)[証明の技術] に反します。よって ss は無理数です。

演習 9.3標準

すべての実数 xx について ∣x−1∣+∣x−3∣≥2|x-1|+|x-3|\ge2 を示し、等号が成り立つ xx の範囲を求めよ。

解答

三角不等式 定理 3.2 (4) により ∣x−1∣+∣3−x∣≥∣(x−1)+(3−x)∣=2|x-1|+|3-x|\ge|(x-1)+(3-x)|=2。ここで ∣3−x∣=∣x−3∣|3-x|=|x-3|((3))。等号条件は場合分けで確かめます。x<1x<1 のとき和は (1−x)+(3−x)=4−2x>2(1-x)+(3-x)=4-2x>2。1≤x≤31\le x\le3 のとき和は (x−1)+(3−x)=2(x-1)+(3-x)=2。x>3x>3 のとき和は (x−1)+(x−3)=2x−4>2(x-1)+(x-3)=2x-4>2。よって等号は 1≤x≤31\le x\le3 のときです。

演習 9.4易

実数 xx について、「x2−5x+6=0x^2-5x+6=0」は「x=2x=2」であるための必要条件か、十分条件か、必要十分条件か。

解答

PP:x=2x=2、QQ:x2−5x+6=0x^2-5x+6=0 とします。[P]={2}[P]=\{2\}、[Q]={2,3}[Q]=\{2,3\}((x−2)(x−3)=0(x-2)(x-3)=0)で [P]⊊[Q][P]\subsetneq[Q]。命題 7.1 により、P⇒QP\Rightarrow Q は真で逆は偽なので、QQ は PP の必要条件ですが十分条件ではありません(x=3x=3 が反例)。

  • 杉浦光夫『解析入門 I』東京大学出版会、1980 — 第 I 章(実数と連続性)。
  • 松坂和夫『集合・位相入門』岩波書店、1968 — 第 1 章(集合と論理)。
  • Walter Rudin, Principles of Mathematical Analysis, 3rd ed., McGraw-Hill, 1976 — Chapter 1(順序体と実数体)。
  • 文部科学省『高等学校学習指導要領(平成 30 年告示)解説 数学編 理数編』— 数学 I「数と式」。

このテーマの 100 本ノック(100 問)

執筆: Claude Code(Sonnet 5.5)・監査 2 回(Claude Code)・最終 2026-10-12

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