高校では「x=1 を代入して 0 になったから (x−1) で割れる」と解いてきました。この記事は、その手順がなぜ正しいのか、そして 3 次方程式の解の公式がどう作られるのかを、一歩ずつ確かめる章です。読み終えると、割り算・解と係数の関係・解の公式の背後にある理由が自分の言葉で説明できるようになります。
- 多項式にも整数と同じ除法の原理があります(商と余りの存在と一意性)。高校の「剰余の定理」「因数定理」「組立除法」はすべてこの定理の帰結です。除法の原理は、Rikai では次数の議論を使ってこの章で初めて定理として証明します。
- 体の上の次数 n 以下の多項式は、n+1 個の相異なる点での値で決まります。これが係数比較(恒等式の未定係数法)と Lagrange 補間(通るべき点を指定して多項式を 1 つ決める方法)の根拠です。
- 複素数の範囲では、代数学の基本定理により n 次方程式は重複度こみでちょうど n 個の解をもち、解と係数の関係が成り立ちます。2 次方程式の判別式 D<0 の場合の解も、同じ枠組みで扱えます。
- 解の対称式は基本対称式の多項式で書けます(対称式の基本定理)。べき和と基本対称式を結ぶ Newton の恒等式を、有限の多項式計算だけで示します。
- 有理数係数の方程式の有理根は、a0 の約数と an の約数の比に限られます(有理根定理)。3 次方程式は Cardano の公式で解けますが、3 実根のときも途中で複素数が必要になります。
- 1 の n 乗根の和の直交関係は、二項係数を余りで分類した和の閉じた式(振り分けの公式)を与えます。
高校では、x3−6x2+11x−6=0 のような方程式を、「x=1 を代入すると 0 になるから (x−1) で割り切れる」という手順で解きます。この手順にはいくつもの疑問が隠れています。
- なぜ f(1)=0 なら (x−1) で割り切れるのか。割り切れたとき、商はなぜ多項式なのか。
- 割り算の結果(商と余り)は一通りに決まるのか。決まらなければ「余り」という言葉は意味をなさない。
- n 次方程式の解は高々 n 個とされるが、本当にそうか。複素数まで広げたらちょうど n 個になるのはなぜか。
- 「解と係数の関係」はなぜ成り立つのか。3 つ以上の解でも同じ形になるのか。
この記事では、これらを順に定理として証明します。多項式の話は、整数の話とよく似ています。整数の除法の原理(商と余りの存在と一意性)の証明が「余りが小さくなるまで引く」だったのに対し、多項式では「次数が下がるまで引く」になります。この類似は、大学の代数学で「ユークリッド整域」という一般概念になります。
出発点にするのは、複素数体 C が体であること(複素数体の基本性質)と、係数が体の多項式環 K[x] の次数の性質(多項式環の次数・整域性・単元(定理 6.2)[環と体の基礎]:積の次数は次数の和)、代数学の基本定理(代数学の基本定理(定理 4.3)[正則関数の強力な性質])です。以後、K は Q、R、C のいずれかとします(証明は任意の体で通ります)。多項式 f(x)=anxn+⋯+a0 は係数の列として定まる式で(多項式環(定義 6.1)[環と体の基礎])、an=0 のとき degf=n と書きます。多項式に数を代入する操作が和と積を保つことは、次の節の最初に補題として確かめます。
補題 2.1(代入は和と積を保つ)✓
f,g∈K[x]、a∈K とする。(f+g)(a)=f(a)+g(a)、(fg)(a)=f(a)g(a) である。
証明(補題 2.1)
f=∑iaixi、g=∑jbjxj とします。和は係数ごとの和なので、(f+g)(a)=∑i(ai+bi)ai=f(a)+g(a)(分配法則)。積は xk の係数が ck=∑i+j=kaibj の多項式なので(多項式環(定義 6.1)[環と体の基礎])、
(fg)(a)=k∑(i+j=k∑aibj)ak=i∑j∑aiaibjaj=(i∑aiai)(j∑bjaj)=f(a)g(a)です。2 番目の等号では、ai+j=aiaj と、和が有限なので項の順序を並べ替えてよいことを使いました。
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定理 2.2(多項式の除法の原理)✓
f,g∈K[x]、g=0 とする。このとき
f=gq+r,r=0 または degr<deggを満たす q,r∈K[x] がただ 1 組存在する。
証明(定理 2.2)
存在。 degg=m、g の最高次の係数を b=0 とします。f の次数に関する強い帰納法(完全帰納法(定理 4.3)[証明の技術])で示します。f=0 なら q=r=0。f=0 で degf<m なら q=0、r=f。degf=n≥m とし、最高次の係数を a とします。
f1=f−baxn−mgは xn の係数が a−ba⋅b=0 となるので、f1=0 か degf1<n です。帰納法の仮定により f1=gq1+r1(r1=0 または degr1<m)と書け、
f=g(q1+baxn−m)+r1 が求める形です。
一意性。 f=gq+r=gq′+r′ とすると g(q−q′)=r′−r。q=q′ なら、左辺の次数は degg+deg(q−q′)≥degg(多項式環の次数(定理 6.2)[環と体の基礎] (1)。K は体なので整域)。一方、右辺は 0 か、次数が degg 未満です。矛盾するので q=q′、よって r=r′。
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定理 2.3(剰余の定理・因数定理)✓
f∈K[x]、a∈K とする。f を x−a で割った余りは定数 f(a) である。すなわち f(x)=(x−a)q(x)+f(a) と書ける。とくに、x−a が f を割り切ることと f(a)=0 は同値である。
証明(定理 2.3)
定理 2.2 を g=x−a(次数 1)に使うと、f=(x−a)q+r で r は 0 か次数 0、すなわち定数です。x=a を代入して(補題 2.1)f(a)=0⋅q(a)+r=r。よって r=f(a)。x−a が f を割り切るとは r=0 のことなので、後半が従います。
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命題 2.4(組立除法)✓
f(x)=anxn+⋯+a1x+a0、a∈K とし、bn=0、bk−1=ak+abk (k=n,n−1,…,1)、r=a0+ab0 とおく。このとき
f(x)=(x−a)(bn−1xn−1+⋯+b1x+b0)+r.すなわち bn−1,…,b0 が商の係数、r=f(a) が余りである。
証明(命題 2.4)
右辺を展開すると、xk(1≤k≤n)の係数は bk−1−abk、定数項は r−ab0 です。漸化式から bk−1−abk=ak、r−ab0=a0 なので、右辺は f に一致します。この等式に x=a を代入すると(補題 2.1)r=f(a) です。
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組立除法の表は、この漸化式の計算を縦に並べたものです。
例 2.5(組立除法)
f(x)=x3−6x2+11x−6 を x−1 で割ります。係数 1,−6,11,−6 に対し、b2=1、b1=−6+1⋅1=−5、b0=11+1⋅(−5)=6、r=−6+1⋅6=0。商は x2−5x+6=(x−2)(x−3) で、f=(x−1)(x−2)(x−3) です。余りが 0 になることは f(1)=0 と同じ主張で、定理 2.3 の具体例です。
定理 3.1(根の個数と恒等式の原理)✓
K を体とする。
- 0 でない n 次多項式 f∈K[x] の K での根は高々 n 個である。
- f,g∈K[x] がともに次数 n 以下で、相異なる n+1 個の点で値が一致するならば、f=g(係数がすべて等しい)。
- K が無限体(Q,R,C)のとき、f(x)=g(x) がすべての x∈K で成り立つなら、f=g(係数がすべて等しい)。
証明(定理 3.1)
(1) n に関する帰納法。n=0 では f は 0 でない定数で根をもちません。n≥1 で、f が根 a をもつなら 定理 2.3 により f=(x−a)q、degq=n−1 です。b=a が f の根なら 補題 2.1 により (b−a)q(b)=f(b)=0 で、b−a=0 なので逆元 (b−a)−1 をかけて q(b)=0 です(体の元の積が 0 なら一方が 0、一次方程式の可解性(命題 7.1)[数とは何か] (1)(2))。帰納法の仮定により q の根は高々 n−1 個なので、f の根は高々 n 個。
(2) f−g は次数 n 以下で、n+1 個の根をもつので、(1) により 0 です。
(3) f−g が全 x で 0 なら無限個の根をもつので、(1) により f−g=0。
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(3) が、高校の「恒等式」の定義(すべての x について成り立つ)と「係数比較」の同値性の根拠です。x についての恒等式 a(x−1)2+b(x−1)+c=2x2−x+3 は、両辺の係数を比べて a=2、b−2a=−1、a−b+c=3 から b=3、c=4 と決まります。
定理 3.2(Lagrange 補間)✓
x0,…,xn∈K を相異なる点、y0,…,yn∈K を任意の値とする。次数 n 以下で f(xi)=yi(i=0,…,n)を満たす多項式 f∈K[x] がただ 1 つ存在する。
証明(定理 3.2)
存在。 Li(x)=j=i∏xi−xjx−xj とおきます。分母は xj が相異なるので 0 でなく、Li は次数 n の多項式で、Li(xi)=1、k=i なら Li(xk)=0(分子に因子 x−xk がある)。f=∑iyiLi が求めるものです。
一意性。 2 つあれば 定理 3.1 (2) により一致します。
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例 3.3(3 点を通る 2 次式)
(0,1),(1,3),(2,7) を通る次数 2 以下の多項式は、f=1⋅2(x−1)(x−2)+3⋅−1x(x−2)+7⋅2x(x−1)=x2+x+1 です。確かめると f(0)=1、f(1)=3、f(2)=7。点が 3 つあるのに次数が 2 以下の多項式がただ 1 つ決まる、という事実が 定理 3.2 の内容です。次数を 3 以上まで許せば、f+cx(x−1)(x−2) も条件を満たすので一意ではなくなります。
3 点 (0,1), (1,3), (2,7) を通る放物線 y = x² + x + 1
実数係数の 2 次方程式で D<0 のとき、解は実数の範囲にありません(判別式と解の個数(定理 5.2)[2 次関数])。複素数体 C(複素数体(定義 2.1)[複素数と複素平面])は、実数に虚数単位 i(i2=−1)を添えて作った体で、すべての複素数 w=0 は 2 つの平方根をもちます(複素数の n 乗根(定理 5.4)[複素数と複素平面]、n=2)。
定義 4.1(基本対称式)↗
α1,…,αn を(可換環の)元とする。k=0,1,…,n について
ek(α1,…,αn)=1≤i1<⋯<ik≤n∑αi1αi2⋯αikを k 次の基本対称式という(e0=1)。k>n のときは ek=0 と約束する。
たとえば e1=α1+⋯+αn、en=α1⋯αn、n=3 では e2=α1α2+α2α3+α3α1 です。
定理 4.2(複素数係数の 2 次方程式)✓
a,b,c∈C、a=0、D=b2−4ac とし、w∈C を w2=D を満たす数とする。このとき
ax2+bx+c=a(x−α)(x−β),α=2a−b+w, β=2a−b−wであり、α+β=−ab、αβ=ac。D=0 なら解は異なる 2 つ、D=0 なら重解である。係数が実数で D<0 のときは、w=i−D とでき、2 つの解 2a−b±i−D は互いに共役である。
証明(定理 4.2)
w の存在は 複素数の n 乗根(定理 5.4)[複素数と複素平面] による(D=0 なら w=0)。体の計算規則だけで、a(x+2ab)2−4aw2=ax2+bx+4ab2−4ab2−4ac=ax2+bx+c が成り立ちます(平方完成(補題 3.1)[2 次関数] と同じ計算)。したがって、差の平方の公式により ax2+bx+c=a(x+2ab−2aw)(x+2ab+2aw)=a(x−α)(x−β) です。和と積は α+β=−ab、αβ=4a2b2−w2=4a24ac=ac。w=0 なら α=β。D<0 のとき (i−D)2=−(−D)=D です。
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定理 4.3(解と係数の関係)✓
f(x)=anxn+an−1xn−1+⋯+a0∈C[x]、n≥1、an=0 とする。このとき複素数 α1,…,αn(重複を許す)が存在して
f(x)=an(x−α1)⋯(x−αn)となり、f の根はちょうど α1,…,αn である。さらに k=1,…,n について
anan−k=(−1)kek(α1,…,αn).
証明(定理 4.3)
因数分解。 n に関する帰納法。代数学の基本定理(定理 4.3)[正則関数の強力な性質] により f は根 α1 をもち、定理 2.3 により f=(x−α1)h、h は次数 n−1、最高次の係数 an。n−1≥1 なら帰納法で h が分解され、n=1 なら h=a1 で自明です。根が αi に限ることは、f(b)=0 なら 補題 2.1 により an∏(b−αi)=0 で、体なので b=αi のどれかです(体の元の積が 0 なら一方が 0)。
係数。 補題として ∏i=1m(x−αi)=∑k=0m(−1)kek(α1,…,αm)xm−k を m に関する帰納法で示します。m=1 は x−α1。m で成り立つとして x−αm+1 をかけると、xm+1−k の係数には 2 つの項が寄与します。x と (−1)kek(α1,…,αm)xm−k の積、および −αm+1 と (−1)k−1ek−1(α1,…,αm)xm−k+1 の積で、その和は
(−1)k(ek(α1,…,αm)+αm+1ek−1(α1,…,αm))です。ek(α1,…,αm+1) の定義の和を、αm+1 を含まない項と含む項に分けると、前者が ek(α1,…,αm)、後者が αm+1ek−1(α1,…,αm) になるので、上の和は (−1)kek(α1,…,αm+1) に一致します。これが補題で、m=n として an 倍すれば係数の関係式が従います。
∎
解と係数の関係を使うと、解を求めずに解の式の値が求まります。たとえば x3−3x2+4x−5=0 の 3 解を α,β,γ とすれば、e1=3、e2=4、e3=5 で、α2+β2+γ2=e12−2e2=1 です。次の節では、このような「解の対称式」が必ず基本対称式で書けることを示します。
n 変数の多項式環 K[x1,…,xn] の元は、単項式 xα=x1α1⋯xnαn(α∈Z≥0n)の有限個の K 係数の和です。∣α∣=α1+⋯+αn を次数といいます。変数を入れ替えても変わらない多項式を対称式といいます。基本対称式 ek(x1,…,xn) と、べき和 pm=x1m+⋯+xnm は対称式です。
定理 5.1(対称式の基本定理)✓
f∈K[x1,…,xn] が対称式ならば、多項式 g∈K[y1,…,yn] が存在して f=g(e1,…,en) となる。すなわち、対称式は基本対称式の多項式で書ける。
次の証明のねらいは、x3+y3 のような対称式から、最も「大きい」項を基本対称式の積で消し、残りがより小さい項だけになるようにする、という操作を繰り返すことです。「大きい」を決めるために辞書式順序(単語を辞書で並べるのと同じ要領で、指数の組を左の成分から順に比べる順序)を使い、この操作が有限回で終わることを示します。具体的な実行は直後の例を見てください。
証明(定理 5.1)
指数ベクトルに辞書式順序を入れます。α>β とは、αj=βj となる最小の j で αj>βj のことです。これは全順序で、α>β なら α+γ>β+γ が成り立ち、次数 d 以下の指数ベクトルは有限個です。f=0 に現れる単項式のうち辞書式で最大のものを先頭項とよびます。体の上では、積 fg の先頭項は先頭項の積です(他の項の指数は先頭の和より真に小さい)。
ek の先頭項は x1x2⋯xk です(指数 (1,…,1,0,…,0) が最大)。
f=0 を次数 d 以下の対称式とし、先頭項を cxλ とします。λ1≥λ2≥⋯≥λn が成り立ちます。実際、λk<λk+1 なら、f は xk,xk+1 の入れ替えで不変なので、入れ替えた指数 λ′ の係数も c=0 で、λ′>λ(第 k 成分が大きい)となり λ の最大性に反します。λn+1=0 とおき、mk=λk−λk+1≥0 として
h=e1m1e2m2⋯enmnを作ると、h は対称式で次数 ∑kkmk=∣λ∣≤d の斉次式、先頭項は xλ(第 j 成分は ∑k≥jmk=λj)で係数 1 です。よって f1=f−ch は対称式で、次数 d 以下、xλ の項が消え、残る単項式はすべて λ より辞書式で小さい。次数 d 以下の指数ベクトルは有限個の全順序集合をなすので、先頭項が真に小さくなる操作は有限回で 0 に至り、f は e1,…,en の多項式として表されます。
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例 5.2(アルゴリズムの実行)
f=x3+y3(n=2)。先頭項 x3、λ=(3,0)、m1=3、m2=0 なので h=e13=x3+3x2y+3xy2+y3。f−h=−3x2y−3xy2 の先頭項は −3x2y、λ=(2,1)、m1=m2=1 で h=e1e2=x2y+xy2 で、(f−e13)−(−3)e1e2=0。結論は x3+y3=e13−3e1e2 で、直接展開 (x+y)3−3xy(x+y) と一致します。
定理 5.3(Newton の恒等式)✓
x1,…,xn の基本対称式を ek(k>n では ek=0)、べき和を pm=∑ixim とする。すべての k≥1 について
j=0∑k−1(−1)jejpk−j+(−1)kkek=0.たとえば p1=e1、p2=e1p1−2e2、p3=e1p2−e2p1+3e3。
この証明のねらいは、n 個の解についての ek とべき和 pm の関係を、1 つの多項式 E(t)=∏(1−xit) にまとめて読むことです。E(t) を展開すると tj の係数が (−1)jej になるので、基本対称式をひとまとめに扱う入れ物の役目をします。この E(t) と、各 xi の冪を並べた和をかけて tk の係数を比べると、主張の式が出てきます。
証明(定理 5.3)
多項式環 R=K[x1,…,xn][t] で考えます。E(t)=∏i=1n(1−xit) とおくと、定理 4.3 の証明の補題と同じ帰納法で E(t)=∑j=0n(−1)jejtj です。Gi=∏l=i(1−xlt) とおくと E=(1−xit)Gi で、同じ理由で Gi=∑j=0n−1(−1)jej(i)tj です。ここで ej(i) は xi を除いた n−1 個の変数の基本対称式です。
ステップ 1。 ∑ixitGi を ej で表します。j 個の添字の組 i1<⋯<ij の積 xi1⋯xij は、その組に含まれない n−j 個の i についての ej(i) にちょうど 1 回ずつ現れるので、∑i=1nej(i)=(n−j)ej です(j=n では両辺とも 0)。よって ∑iGi=∑j=0n(−1)j(n−j)ejtj。一方 xitGi=Gi−(1−xit)Gi=Gi−E を i=1,…,n について足すと
i∑xitGi=i∑Gi−nE=−j=0∑n(−1)jjejtj.ステップ 2。 k≥1 を固定し、Si=∑m=0k−1(xit)m とすると、因数分解の公式(命題 5.1)[数と式] (1) により (1−xit)Si=1−(xit)k なので、ESi=Gi(1−xit)Si=Gi−(xit)kGi です。両辺に xit をかけて i について足すと
i∑xitGi=Ei∑xitSi+tk+1H=Em=0∑k−1pm+1tm+1+tk+1H,H=i∑xik+1Giとなります。両辺の tk の係数を比べます。ステップ 1 により左辺の係数は −(−1)kkek です(k>n なら 0 で、ek=0 の約束と合います)。右辺の tk+1H は tk の項を含まず、E∑mpm+1tm+1 の tk の係数は、E の tj の係数 (−1)jej と tk−j の係数 pk−j の積を j=0,…,k−1 について足した ∑j=0k−1(−1)jejpk−j です(j>n の項は ej=0)。よって −(−1)kkek=∑j=0k−1(−1)jejpk−j で、移項すれば主張の式になります。
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定理 6.1(有理根定理)✓
整数係数の多項式 f(x)=anxn+⋯+a1x+a0(an=0)が有理数の根 p/q(p,q は互いに素な整数、q≥1)をもてば、p∣a0 かつ q∣an である。とくに f が最高次の係数 1 のモニックな多項式なら、有理根は整数である。
証明(定理 6.1)
f(p/q)=0 の両辺に qn をかけると anpn+an−1pn−1q+⋯+a1pqn−1+a0qn=0。第 1 項から第 n 項まではすべて p の倍数なので、p∣a0qn。gcd(p,q)=1 なので、ユークリッドの補題(一般形)(補題 2.2)[整除と素因数分解] を q の個数だけ繰り返して p∣a0 を得ます(p∣q⋅(a0qn−1) から p∣a0qn−1、以下同様)。同様に、第 2 項以降が q の倍数なので q∣anpn で、gcd(q,p)=1 から q∣an。モニックなら q∣1 で q=1 です。
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たとえば x2−2 はモニックで、整数の候補 ±1,±2 のどれも根でないので、有理根をもちません。これは 2 が無理数であることの別証明です(平方根 2 の無理性(定理 7.5)[証明の技術])。
命題 6.3(相反方程式)✓
a=0 とする。
- ax3+bx2+bx+a=(x+1)(ax2+(b−a)x+a)。
- 4 次の相反方程式 ax4+bx3+cx2+bx+a=0 の解 x は 0 でなく、t=x+x1 は 2 次方程式 at2+bt+(c−2a)=0 の解である。逆に、この 2 次方程式の解 t に対し、x2−tx+1=0 の 2 解(積が 1)は元の方程式の解である。
証明(命題 6.3)
(1) 右辺を展開すれば ax3+(b−a)x2+ax+ax2+(b−a)x+a=ax3+bx2+bx+a。
(2) x=0 では左辺は a=0 なので x=0。両辺を x2 で割ると a(x2+x21)+b(x+x1)+c=0。x2+x21=(x+x1)2−2=t2−2 なので a(t2−2)+bt+c=0。逆向きは、x2−tx+1=0 の解 x が x=0 で x+x1=t を満たすので、上の変形を逆にたどれます。
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例 6.4(次数下げ)
x4−5x3+8x2−5x+1=0 は t=x+x1 で t2−5t+6=0、t=2,3。t=2 から x2−2x+1=0 で x=1(重解)、t=3 から x2−3x+1=0 で x=23±5。実際 (x−1)2(x2−3x+1) を展開すると元の式に一致します。
x3+bx2+cx+d は x→x−3b の平行移動で、x3 の次の項のない形 x3+px+q に直せます(実際に代入して x2 の係数が消えることは直接計算で確かめられます)。以下はこの形を扱います。ω=2−1+i3 とおくと、ω2=2−1−i3、ω3=1、1+ω+ω2=0 が直接の計算でわかります。
定理 7.1(Cardano の公式)✓
p,q∈C とする。u3+v3=−q かつ uv=−3p を満たす複素数 u,v が存在し、このとき
x3+px+q=(x−(u+v))(x−(ωu+ω2v))(x−(ω2u+ωv))である。したがって x3+px+q=0 の解は u+v, ωu+ω2v, ω2u+ωv で、u3,v3 は 2 次方程式 z2+qz−27p3=0 の 2 解である。
証明の筋道は次のとおりです。解を u+v の形で探すことにして、3 つの解 u+v, ωu+ω2v, ω2u+ωv を一度に与える因数分解の恒等式を先に作ります。その恒等式の右辺が x3+px+q に一致するように u,v の条件(和と積)を決め、最後にその条件を満たす u,v が実際に存在することを示します。
証明(定理 7.1)
因数分解の恒等式。 任意の複素数 a,b について (x+a+b)(x+ωa+ω2b)(x+ω2a+ωb)=x3−3abx+a3+b3 です。実際、後ろの 2 因子の積は、ω+ω2=−1、ω3=1 から
x2+x(ωa+ω2b+ω2a+ωb)+(ωa+ω2b)(ω2a+ωb)=x2−(a+b)x+a2−ab+b2(定数項は ω3a2+(ω2+ω4)ab+ω3b2=a2−ab+b2)で、これに x+a+b をかけると x3+(a2−ab+b2−(a+b)2)x+(a+b)(a2−ab+b2)=x3−3abx+a3+b3 です。a=−u、b=−v とおくと、uv=−3p、u3+v3=−q のとき x3+px+q に一致し、主張の因数分解を得ます。
u,v の存在。 s2=4q2+27p3 を満たす s∈C をとり(右辺が 0 なら s=0、そうでなければ 複素数の n 乗根(定理 5.4)[複素数と複素平面])、A=−2q+s、B=−2q−s とします。A+B=−q、AB=4q2−s2=−27p3 です。A=B=0 なら q=0、s=0、p=0 で、u=v=0 が条件を満たします。そうでなければ、s の符号を替えて A=0 としてよく、u を u3=A の解(複素数の n 乗根(定理 5.4)[複素数と複素平面]、u=0)、v=−3up とすると、uv=−3p、v3=−27Ap3=B で u3+v3=A+B=−q です。最後の主張は u3+v3=−q、u3v3=−27p3 から従います。
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命題 7.2(3 次方程式の判別式と実数解の個数)✓
p,q を実数、α,β,γ を x3+px+q=0 の 3 解(定理 7.1 の因数分解による。重複を許す)とし、Δ=−4p3−27q2 とする。このとき ((α−β)(β−γ)(γ−α))2=Δ であり、
- Δ>0 ならば異なる 3 つの実数解、
- Δ=0 ならば実数解のみで少なくとも 2 つは等しい、
- Δ<0 ならば 1 つの実数解と、互いに共役な 2 つの虚数解
をもつ。
証明は 2 段です。まず、3 解の差の積の 2 乗を u,v で書き直して、Δ=−4p3−27q2 に等しいことを計算で確かめます。次に、実数係数なら解の共役も解であることを使い、3 解が「すべて実数」か「実数 1 つと共役な虚数 2 つ」のどちらかであることを示して、Δ の符号と結びつけます。
証明(命題 7.2)
判別式の公式。 定理 7.1 の証明で選んだ s,A,B,u,v(u3=A、v3=B、A−B=2s、s2=4q2+27p3)を使い、α=u+v、β=ωu+ω2v、γ=ω2u+ωv とします。1−ω2=(1−ω)(1+ω)=−ω2(1−ω) などを使って整理すると
α−β=(1−ω)(u−ω2v),β−γ=ω(1−ω)(u−v),γ−α=ω2(1−ω)(u−ωv)です。積は (1−ω)3ω3(u−v)(u−ωv)(u−ω2v)=(1−ω)3(u3−v3)((u−v)(u−ωv)(u−ω2v)=u3−v3 は 因数分解の公式(命題 5.1)[数と式] (1) と u2+uv+v2=(u−ωv)(u−ω2v) による)。(1−ω)2=1−2ω+ω2=−3ω から (1−ω)3=3(ω2−ω)=−3i3、2 乗して −27。また (u3−v3)2=(A−B)2=4s2 なので、積の 2 乗は −27⋅4s2=−108(4q2+27p3)=−27q2−4p3 です。
実数解の個数。 f は実係数なので、f(zˉ)=f(z)(共役と絶対値の基本法則(命題 3.2)[複素数と複素平面])から、解の共役も解です。α が虚数なら αˉ は α と異なる解、すなわち β か γ のどちらかで、残りの解は 3 解の和が 0(x2 の係数が 0)なので −(α+αˉ) は実数です。したがって解は「3 つとも実数」か「1 実数 α と共役な虚数 β,βˉ」のどちらかです。前者では Δ は実数の 2 乗の積で ≥0、等号は等しい解があるときに限ります。後者では (α−β)(α−βˉ)=∣α−β∣2>0 で (β−βˉ)2=−4(Imβ)2<0 なので Δ<0。以上で Δ の符号と解の型が対応します。
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例 7.3(3 実数解でも複素数が必要になる)
x3−3x+1=0 は p=−3、q=1 で Δ=108−27=81>0、異なる 3 つの実数解をもちます。ところが s2=41−1=−43 で s は虚数、u3=−21+23i なので、定理 7.1 の公式は実数解を虚数の立方根の和として表します。実際の値は、三角関数の 3 倍角の公式 cos3θ=4cos3θ−3cosθ から、x=2cosθ とおくと方程式が 2cos3θ=−1 になり、x=2cos92π, 2cos94π, 2cos98π(約 1.532, 0.347, −1.879)と求まります。3 解の和 0、積 −1 も数値で確かめられます。
n を正の整数とし、ωn=e2πi/n とします。複素数の n 乗根(定理 5.4)[複素数と複素平面] により、zn=1 の解はちょうど n 個で、zk=e2πik/n=ωnk(k=0,…,n−1)です(指数法則 指数法則(補題 4.1)[複素数と複素平面] による)。これが 1 の n 乗根です。
1 の 6 乗根は単位円周上の正六角形の頂点
定理 8.1(1 の冪根の直交関係)✓
n≥1、ω=ωn とし、j を整数とする。
k=0∑n−1ωjk={n0(n∣j),(n∤j).したがって整数 j,l について n1∑k=0n−1ω(j−l)k は、j≡l(modn) なら 1、そうでなければ 0 である。
証明(定理 8.1)
j=nm+r(0≤r<n)と書くと ωj=(ωn)mωr=ωr(ωn=1)。n∣j なら r=0、ωj=1 で、和は n 個の 1 の和 =n。n∤j なら 0<r<n で、ωr=zr=z0=1 です(z0,…,zn−1 は相異なる)。ξ=ωj=1 とおくと、因数分解の公式(命題 5.1)[数と式] (1) により (ξ−1)∑k=0n−1ξk=ξn−1=(ωn)j−1=0。ξ−1=0 なので和は 0 です。
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系 8.2(二項係数の振り分けの公式)✓
m≥1、n≥0 を整数、r を整数とし、ω=ωm とする。このとき
0≤k≤nk≡r (mod m)∑(kn)=m1j=0∑m−1ω−jr(1+ωj)n.
証明(系 8.2)
二項定理(二項定理(定理 7.3)[数え上げと母関数])で (1+ωj)n=∑k=0n(kn)ωjk。右辺の和を取り替えると
m1j=0∑m−1ω−jrk=0∑n(kn)ωjk=k=0∑n(kn)⋅m1j=0∑m−1ωj(k−r).内側の和は 定理 8.1 により k≡r(modm) のとき 1、そうでなければ 0 です。
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例 8.3(3 つおきの二項係数の和)
m=3、r=0 とすると ω=2−1+i3、1+ω=21+i3=eiπ/3、1+ω2=e−iπ/3 なので、
(0n)+(3n)+(6n)+⋯=32n+einπ/3+e−inπ/3=32n+2cos3nπ.n=3 なら 38−2=2=(03)+(33)、n=6 なら 364+2=22=1+20+1 と確かめられます。
係数が体の多項式環 K[x] は、除法の原理により整数環 Z と同じ型の環(ユークリッド整域、したがって単項イデアル整域)です。整数の素因数分解に対応するのが多項式の既約分解で、代数学(algebra)の環論と体の拡大論の最初の対象です。因数定理は「根を添加して体を拡大する」操作の基礎で、Galois 理論は、解と係数の関係と対称式の基本定理をさらに深めて、方程式が冪根で解けるかどうかを根の置換群で判定します。代数学の基本定理の証明は複素解析(complex-analysis)にあり、Newton の恒等式は不変式論と対称関数の理論へ続きます。1 の冪根の直交関係は、離散 Fourier 変換とその反転公式の核心で、フーリエ解析と群の指標の理論に現れます。
演習 10.1標準
x100 を x2−1 で割った余りを求めよ。
解答
余りは 0 か次数 1 以下なので r=ax+b とおきます。x100=(x2−1)q+ax+b に x=1、x=−1 を代入(定理 2.3 と同じ操作)して、1=a+b、1=−a+b。よって a=0、b=1、余りは 1 です。
演習 10.2標準
x3−3x2+4x−5=0 の 3 解を α,β,γ とするとき、α3+β3+γ3 を求めよ。
解答
定理 4.3 により e1=3、e2=4、e3=5。定理 5.3 で p1=e1=3、p2=e1p1−2e2=9−8=1、p3=e1p2−e2p1+3e3=3−12+15=6。
演習 10.3易
2x3−3x2−8x−3=0 を解け。
解答
定理 6.1 により、有理根の候補は ±1,±3,±21,±23。f(3)=54−27−24−3=0。組立除法(命題 2.4)で 2,3,1,0 を得るので、f=(x−3)(2x2+3x+1)=(x−3)(2x+1)(x+1)。解は x=3, −21, −1。
演習 10.4標準
(08)+(48)+(88) を 系 8.2 を使って求め、直接計算と比べよ。
解答
m=4、r=0、ω=i。41((1+1)8+(1+i)8+(1+i2)8+(1+i3)8)=41(256+(1+i)8+0+(1−i)8)。(1+i)2=2i なので (1+i)8=(2i)4=16、同様に (1−i)8=16。和は 41(256+32)=72。直接計算では 1+70+1=72 で一致します。
- 高木貞治『代数学講義』共立出版、改訂新版、1965 — 多項式と代数方程式に関する章。
- 彌永昌吉・彌永健一『代数学』岩波書店、1976 — 多項式環・対称式・Galois 理論への入口。
- B. L. van der Waerden, Algebra (Volume I), Springer — 3 次・4 次方程式と還元不能の場合に関する章。
- 杉浦光夫『解析入門 I』東京大学出版会、1980 — 複素数と連続関数に関する章。