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三角比と三角形の計量:正弦定理・余弦定理から Heron・Bretschneider の公式まで

対象読者: 本テーマ第 1〜2 章(内積・行列式・合同と相似)と、高校の三角関数(一般角・加法定理)を学んだ人。三角比の定義は復習から入ります。

前提となる記事:合同と相似:座標平面から合同条件・平行線・内角の和を証明する、三角関数:一般角・弧度法・加法定理から、周期と正五角形の黄金比まで

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三角形の 3 辺の長さが分かっているとき、角の大きさや面積はどうなるでしょうか。逆に、2 辺とその間の角が分かっているとき、残りの辺の長さはどうなるでしょうか。この記事は、三角形の辺・角・面積・外接円の間に成り立つ関係を、ベクトルの計算で一つずつ確かめていきます。読み終えると、測量のように「測れる量から測れない量を求める」公式が、なぜ成り立つのかを説明できるようになります。

  • 三角比には 2 つの定義があります。直角三角形の辺の比と、単位円(半径 rr の半円)上の点の座標です。2 つが一致することを、前章までの内積と三平方の定理から示します(命題 2.1)。
  • 余弦定理は内積の展開、面積公式 S=12bcsin⁡AS=\tfrac12bc\sin A は行列式の言い換えです(定理 3.1、定理 3.3)。正弦定理は、これに外接円の半径の公式 R=abc4SR=\dfrac{abc}{4S} を合わせて得られます(補題 4.1、定理 4.2)。
  • 3 辺から面積を与える Heron の公式は、余弦定理と因数分解だけで出ます(定理 3.4)。
  • 2 辺と 1 つの対角から三角形を作るとき、解は 0・1・2 個になります。その分かれ目を判別式の言葉で完全に決めます(定理 5.1)。
  • 正接定理・Mollweide の公式・半角公式、Stewart の定理(中線定理の一般化)、四角形の面積の Bretschneider の公式、三角形の等周不等式(周が一定なら正三角形が面積最大)を証明します。
  • 前章までは角を使わずに合同条件を証明しました。この章で初めて三角関数が主役になりますが、使うのは三角関数の定義と加法定理だけで、新しい幾何の公理は要りません。

1. 動機 — 「辺の比」としての三角比を、定理にする

Section titled “1. 動機 — 「辺の比」としての三角比を、定理にする”

高校の数学 I では、直角三角形の辺の比として sin⁡θ=対辺斜辺\sin\theta=\dfrac{\text{対辺}}{\text{斜辺}} などを習い、後から 0∘≤θ≤180∘0^\circ\le\theta\le180^\circ に「拡張」されます。拡張のときには、半径 rr の半円上の点 (x,y)(x,y) について sin⁡θ=y/r\sin\theta=y/r、cos⁡θ=x/r\cos\theta=x/r と定め直します。このとき自然な疑問が 2 つ出ます。

  1. 鋭角では、2 つの定義は本当に同じ値を与えるのか。
  2. 正弦定理 asin⁡A=2R\dfrac{a}{\sin A}=2R の「2R2R」はどこから来るのか。

この章は、前章までに作った道具(内積・行列式・合同条件・角の和)で、この 2 つの疑問に答えます。そのうえで、三角形の辺・角・面積・外接円の半径の間の公式を一通り証明します。

用語は前章までと同じです。三角形 ABCABC で a=∣BC∣a=|BC|、b=∣CA∣b=|CA|、c=∣AB∣c=|AB|、A,B,CA,B,C は頂点での角(∠A=∠BAC\angle A=\angle BAC など)、SS は面積(S=∣S(A,B,C)∣S=|S(A,B,C)|)、s=a+b+c2s=\dfrac{a+b+c}{2} は周の半分とします。三角関数 cos⁡,sin⁡\cos,\sin は級数で定義された関数(定義 6.1[指数・対数・三角関数をきちんと定義する])で、基本性質は 命題 3.1[三角関数] にあるものを使います。

命題 2.1(三角比の 2 つの定義の一致)✓

  1. 三角形 ABCABC が CC で直角(CA→⋅CB→=0\overrightarrow{CA}\cdot\overrightarrow{CB}=0)であるとき、θ=∠A\theta=\angle A について
cos⁡θ=∣AC∣∣AB∣,sin⁡θ=∣BC∣∣AB∣,tan⁡θ=∣BC∣∣AC∣\cos\theta=\frac{|AC|}{|AB|},\qquad\sin\theta=\frac{|BC|}{|AB|},\qquad\tan\theta=\frac{|BC|}{|AC|}

が成り立つ。 2. 原点 OO と異なる点 P=(x,y)P=(x,y)(y≥0y\ge0)について、θ=∠(e1,OP→)∈[0,π]\theta=\angle(\boldsymbol e_1,\overrightarrow{OP})\in[0,\pi] とすると x=∣OP∣cos⁡θx=|OP|\cos\theta、y=∣OP∣sin⁡θy=|OP|\sin\theta である。

証明(命題 2.1)

1: AB→=CB→−CA→\overrightarrow{AB}=\overrightarrow{CB}-\overrightarrow{CA} と CA→⋅CB→=0\overrightarrow{CA}\cdot\overrightarrow{CB}=0 から、前章の 定理 4.1[平面ベクトルと座標] の 3 より ∣AB∣2=∣CB∣2+∣CA∣2|AB|^2=|CB|^2+|CA|^2(三平方の定理)である。また AB→⋅AC→=(CB→−CA→)⋅(−CA→)=∣CA∣2\overrightarrow{AB}\cdot\overrightarrow{AC}=(\overrightarrow{CB}-\overrightarrow{CA})\cdot(-\overrightarrow{CA})=|CA|^2 なので、なす角の定義(定義 4.2[平面ベクトルと座標])から cos⁡θ=∣AC∣2∣AB∣∣AC∣=∣AC∣∣AB∣\cos\theta=\dfrac{|AC|^2}{|AB||AC|}=\dfrac{|AC|}{|AB|}。これは正なので θ∈[0,π/2)\theta\in[0,\pi/2) で、sin⁡θ≥0\sin\theta\ge0(定理 7.3[指数・対数・三角関数をきちんと定義する] の 3)と sin⁡2θ=1−cos⁡2θ=∣AB∣2−∣AC∣2∣AB∣2=∣BC∣2∣AB∣2\sin^2\theta=1-\cos^2\theta=\dfrac{|AB|^2-|AC|^2}{|AB|^2}=\dfrac{|BC|^2}{|AB|^2} から sin⁡θ=∣BC∣∣AB∣\sin\theta=\dfrac{|BC|}{|AB|}。tan⁡θ=sin⁡θ/cos⁡θ\tan\theta=\sin\theta/\cos\theta も同様。

2: r=∣OP∣r=|OP| として p^=OP→/r\hat{\boldsymbol p}=\overrightarrow{OP}/r は単位ベクトルで、p^=e(φ)\hat{\boldsymbol p}=e(\varphi) と書ける(定理 7.4[指数・対数・三角関数をきちんと定義する]、φ∈[0,2π)\varphi\in[0,2\pi))。y≥0y\ge0 なので sin⁡φ≥0\sin\varphi\ge0 で、φ∈(π,2π)\varphi\in(\pi,2\pi) なら sin⁡φ=−sin⁡(φ−π)<0\sin\varphi=-\sin(\varphi-\pi)<0(同じ定理の 2 と 3)となって不適。したがって φ∈[0,π]\varphi\in[0,\pi] である。cos⁡∠(e1,OP→)=p^⋅e1=cos⁡φ\cos\angle(\boldsymbol e_1,\overrightarrow{OP})=\hat{\boldsymbol p}\cdot\boldsymbol e_1=\cos\varphi で、余弦は [0,π][0,\pi] で単射なので θ=φ\theta=\varphi。よって x=rcos⁡θx=r\cos\theta、y=rsin⁡θy=r\sin\theta である。

1 は、直角三角形の辺の比が単位円の座標と同じ値を与えるという主張です。2 は、0≤θ≤π0\le\theta\le\pi の範囲で「半円上の点の座標」による高校の定義を、そのまま認めてよいことを示します。さらに θ>π/2\theta>\pi/2 では、cos⁡(π−θ)=−cos⁡θ\cos(\pi-\theta)=-\cos\theta、sin⁡(π−θ)=sin⁡θ\sin(\pi-\theta)=\sin\theta (命題 3.1[三角関数] の 3)が成り立つので、鈍角の三角比は補角の三角比から求められます。

3. 余弦定理・第一余弦定理・面積公式

Section titled “3. 余弦定理・第一余弦定理・面積公式”

定理 3.1(余弦定理)✓

三角形 ABCABC について

a2=b2+c2−2bccos⁡A,b2=c2+a2−2cacos⁡B,c2=a2+b2−2abcos⁡Ca^2=b^2+c^2-2bc\cos A,\qquad b^2=c^2+a^2-2ca\cos B,\qquad c^2=a^2+b^2-2ab\cos C

である。

証明(定理 3.1)

前章の 補題 6.1[合同と相似] は cos⁡A=b2+c2−a22bc\cos A=\dfrac{b^2+c^2-a^2}{2bc} などを与える。分母を払えばよい。この補題の中身は、a2=∣AC→−AB→∣2=b2+c2−2AB→⋅AC→a^2=|\overrightarrow{AC}-\overrightarrow{AB}|^2=b^2+c^2-2\overrightarrow{AB}\cdot\overrightarrow{AC} と AB→⋅AC→=bccos⁡A\overrightarrow{AB}\cdot\overrightarrow{AC}=bc\cos A である。

C=π/2C=\pi/2 のとき cos⁡C=0\cos C=0 で、余弦定理は三平方の定理になります。

命題 3.2(第一余弦定理(射影公式))✓

三角形 ABCABC について a=bcos⁡C+ccos⁡Ba=b\cos C+c\cos B、b=ccos⁡A+acos⁡Cb=c\cos A+a\cos C、c=acos⁡B+bcos⁡Ac=a\cos B+b\cos A である。

証明(命題 3.2)

補題 6.1[合同と相似] を使うと

bcos⁡C+ccos⁡B=a2+b2−c22a+a2+c2−b22a=a.b\cos C+c\cos B=\frac{a^2+b^2-c^2}{2a}+\frac{a^2+c^2-b^2}{2a}=a.

他の 2 式も同様に、A,B,CA,B,C を巡回させて得られる。

定理 3.3(三角形の面積公式)✓

三角形 ABCABC の面積 SS は

S=12bcsin⁡A=12casin⁡B=12absin⁡CS=\tfrac12bc\sin A=\tfrac12ca\sin B=\tfrac12ab\sin C

である。

証明(定理 3.3)

前章の 命題 6.2[平面ベクトルと座標] の 5 により S=12∣det⁡(AB→,AC→)∣S=\tfrac12|\det(\overrightarrow{AB},\overrightarrow{AC})| である。向きつきの角を θ=ang⁡(AB→,AC→)\theta=\operatorname{ang}(\overrightarrow{AB},\overrightarrow{AC}) とすると、命題 4.5[平面ベクトルと座標] の 1 より det⁡(AB→,AC→)=bcsin⁡θ\det(\overrightarrow{AB},\overrightarrow{AC})=bc\sin\theta で、同 2 より ∣θ∣=∠A|\theta|=\angle A なので ∣sin⁡θ∣=sin⁡∣θ∣=sin⁡A|\sin\theta|=\sin|\theta|=\sin A(∣θ∣∈[0,π]|\theta|\in[0,\pi] では sin⁡≥0\sin\ge0)。よって S=12bcsin⁡AS=\tfrac12bc\sin A。他の 2 式は頂点の役割を取り替えれば同じである。

定理 3.4(Heron の公式)✓

三角形 ABCABC の面積 SS は、s=a+b+c2s=\dfrac{a+b+c}2 として

S=s(s−a)(s−b)(s−c)S=\sqrt{s(s-a)(s-b)(s-c)}

である。

証明(定理 3.4)

定理 3.3 と 定理 3.1 から

16S2=4b2c2sin⁡2A=4b2c2−(2bccos⁡A)2=4b2c2−(b2+c2−a2)2.16S^2=4b^2c^2\sin^2A=4b^2c^2-(2bc\cos A)^2=4b^2c^2-(b^2+c^2-a^2)^2.

差の平方の因数分解を使うと、右辺は (2bc−b2−c2+a2)(2bc+b2+c2−a2)=(a2−(b−c)2)((b+c)2−a2)\bigl(2bc-b^2-c^2+a^2\bigr)\bigl(2bc+b^2+c^2-a^2\bigr)=\bigl(a^2-(b-c)^2\bigr)\bigl((b+c)^2-a^2\bigr) で、さらに

(a−b+c)(a+b−c)⋅(b+c−a)(b+c+a)=2(s−b)⋅2(s−c)⋅2(s−a)⋅2s=16 s(s−a)(s−b)(s−c).(a-b+c)(a+b-c)\cdot(b+c-a)(b+c+a)=2(s-b)\cdot2(s-c)\cdot2(s-a)\cdot2s=16\,s(s-a)(s-b)(s-c).

S>0S>0 なので平方根をとる。

例 3.5(辺 13, 14, 15 の三角形)

s=21s=21 で、S=21⋅8⋅7⋅6=7056=84S=\sqrt{21\cdot8\cdot7\cdot6}=\sqrt{7056}=84。このように辺も面積も整数になる三角形を Heron 三角形という(3,4,53,4,5 や 5,5,65,5,6 もそうである)。余弦定理から cos⁡C=132+142−1522⋅13⋅14=140364=513\cos C=\dfrac{13^2+14^2-15^2}{2\cdot13\cdot14}=\dfrac{140}{364}=\dfrac5{13} である(CC は辺 1515 の対角)。

正弦定理の「2R2R」を、外接円の存在から示します。次の補題は、「3 頂点から等しい距離にある点」が本当に 1 つだけあることを、連立 1 次方程式を解いて確かめ、そのまま半径 RR を辺の長さと面積で表します。証明の後半の JJ は、ベクトルを反時計回りに 90∘90^\circ 回すだけの操作で、その解が方程式を満たすことを内積の計算で確かめています。

補題 4.1(外接円の存在・一意性と半径の公式)✓

三角形 ABCABC について、3 頂点から等しい距離にある点 OO(外心)はただ 1 つ存在する。R=∣OA∣R=|OA|(外接円の半径)は

R=abc4SR=\frac{abc}{4S}

で与えられる。

証明(補題 4.1)

u=AB→\boldsymbol u=\overrightarrow{AB}、w=AC→\boldsymbol w=\overrightarrow{AC}、D=det⁡(u,w)≠0D=\det(\boldsymbol u,\boldsymbol w)\ne0、p=AO→\boldsymbol p=\overrightarrow{AO} とおく。∣OB∣2=∣p−u∣2=∣p∣2−2p⋅u+∣u∣2|OB|^2=|\boldsymbol p-\boldsymbol u|^2=|\boldsymbol p|^2-2\boldsymbol p\cdot\boldsymbol u+|\boldsymbol u|^2 なので、∣OA∣=∣OB∣|OA|=|OB| は 2p⋅u=∣u∣22\boldsymbol p\cdot\boldsymbol u=|\boldsymbol u|^2 と同値であり、同様に ∣OA∣=∣OC∣|OA|=|OC| は 2p⋅w=∣w∣22\boldsymbol p\cdot\boldsymbol w=|\boldsymbol w|^2 と同値である。この 2 つは p\boldsymbol p の成分についての連立 1 次方程式で、係数行列の行列式は det⁡(u,w)=D≠0\det(\boldsymbol u,\boldsymbol w)=D\ne0 なので、解がただ 1 つ存在する(行を u,w\boldsymbol u,\boldsymbol w とする係数行列の列を a′=(u1,w1)\boldsymbol a'=(u_1,w_1)、b′=(u2,w2)\boldsymbol b'=(u_2,w_2) とおくと、方程式は p1a′+p2b′=(12∣u∣2,12∣w∣2)p_1\boldsymbol a'+p_2\boldsymbol b'=(\tfrac12|\boldsymbol u|^2,\tfrac12|\boldsymbol w|^2) の形で、det⁡(a′,b′)=D≠0\det(\boldsymbol a',\boldsymbol b')=D\ne0 だから 命題 3.1[平面ベクトルと座標] が使える)。

J=R(π/2)J=R(\pi/2)(J(x,y)=(−y,x)J(x,y)=(-y,x))とおき、p=∣w∣2Ju−∣u∣2Jw2D\boldsymbol p=\dfrac{|\boldsymbol w|^2J\boldsymbol u-|\boldsymbol u|^2J\boldsymbol w}{2D} を確かめる。Ju⋅u=0J\boldsymbol u\cdot\boldsymbol u=0、Jw⋅u=−DJ\boldsymbol w\cdot\boldsymbol u=-D、Ju⋅w=DJ\boldsymbol u\cdot\boldsymbol w=D、Jw⋅w=0J\boldsymbol w\cdot\boldsymbol w=0 なので、p⋅u=∣u∣2D2D=∣u∣22\boldsymbol p\cdot\boldsymbol u=\dfrac{|\boldsymbol u|^2D}{2D}=\dfrac{|\boldsymbol u|^2}2、p⋅w=∣w∣2D2D=∣w∣22\boldsymbol p\cdot\boldsymbol w=\dfrac{|\boldsymbol w|^2D}{2D}=\dfrac{|\boldsymbol w|^2}2 で、方程式を満たす。JJ は内積を保つので(命題 6.3[平面ベクトルと座標] の 2)Ju⋅Jw=u⋅wJ\boldsymbol u\cdot J\boldsymbol w=\boldsymbol u\cdot\boldsymbol w で、

R2=∣p∣2=∣w∣4∣u∣2+∣u∣4∣w∣2−2∣u∣2∣w∣2 u⋅w4D2=∣u∣2∣w∣2 ∣u−w∣24D2=c2b2a24D2.R^2=|\boldsymbol p|^2=\frac{|\boldsymbol w|^4|\boldsymbol u|^2+|\boldsymbol u|^4|\boldsymbol w|^2-2|\boldsymbol u|^2|\boldsymbol w|^2\,\boldsymbol u\cdot\boldsymbol w}{4D^2}=\frac{|\boldsymbol u|^2|\boldsymbol w|^2\,|\boldsymbol u-\boldsymbol w|^2}{4D^2}=\frac{c^2b^2a^2}{4D^2}.

∣D∣=2S|D|=2S なので R=abc2∣D∣=abc4SR=\dfrac{abc}{2|D|}=\dfrac{abc}{4S} である。

定理 4.2(正弦定理)✓

三角形 ABCABC の外接円の半径を RR とすると

asin⁡A=bsin⁡B=csin⁡C=2R\frac{a}{\sin A}=\frac{b}{\sin B}=\frac{c}{\sin C}=2R

である。

証明(定理 4.2)

定理 3.3 から sin⁡A=2Sbc\sin A=\dfrac{2S}{bc} なので、asin⁡A=abc2S\dfrac{a}{\sin A}=\dfrac{abc}{2S}。補題 4.1 により abc2S=2R\dfrac{abc}{2S}=2R。sin⁡B\sin B、sin⁡C\sin C についても同じ計算で bsin⁡B=csin⁡C=abc2S\dfrac{b}{\sin B}=\dfrac{c}{\sin C}=\dfrac{abc}{2S} である。

正弦定理から、sin⁡A:sin⁡B:sin⁡C=a:b:c\sin A:\sin B:\sin C=a:b:c なので、前章の 定理 6.3[合同と相似] の主張(大きい辺に大きい角が対する)を、正弦で言い直すこともできます。

OABCabcR
外接円(中心 O、半径 R)と三角形 ABC。辺 a, b, c を対角の正弦で割ると、どれも 2R になる

例 4.3(基線と 2 つの角から距離を求める(三角測量))

2 地点 A,BA,B を結ぶ基線 ∣AB∣=c|AB|=c と、対岸の点 CC を見込む角 A,BA,B が測れたとする。C=π−A−BC=\pi-A-B(定理 5.4[合同と相似])で、正弦定理から ∣AC∣=b=csin⁡Bsin⁡C=csin⁡Bsin⁡(A+B)|AC|=b=\dfrac{c\sin B}{\sin C}=\dfrac{c\sin B}{\sin(A+B)}。たとえば c=100c=100、A=π/3A=\pi/3、B=π/4B=\pi/4 なら、加法定理から sin⁡(A+B)=32⋅22+12⋅22=6+24\sin(A+B)=\dfrac{\sqrt3}{2}\cdot\dfrac{\sqrt2}{2}+\dfrac12\cdot\dfrac{\sqrt2}{2}=\dfrac{\sqrt6+\sqrt2}{4} で、

b=100⋅226+24=20026+2=2002(6−2)4=100(3−1)≈73.2b=\frac{100\cdot\frac{\sqrt2}{2}}{\frac{\sqrt6+\sqrt2}{4}}=\frac{200\sqrt2}{\sqrt6+\sqrt2}=\frac{200\sqrt2(\sqrt6-\sqrt2)}{4}=100(\sqrt3-1)\approx73.2

である。

2 辺とその夾角(SAS)、3 辺(SSS)、1 辺と両端の角(ASA)は、前章の 定理 3.5[合同と相似]、定理 3.4[合同と相似]、定理 3.7[合同と相似] により三角形を(合同を除いて)ただ 1 つに決めます。決まらないのが「2 辺と夾角でない角(SSA)」です。解がいくつあるかを完全に決めます。なお夾角とは、2 辺にはさまれた角のことです。

次の定理の証明は、三角形の個数を、余弦定理から出てくる cc の 2 次方程式の正の解の個数に言い換えるのが方針です。あとは判別式と、解の和・積の符号で場合分けをします。

定理 5.1(2 辺と 1 つの対角から決まる三角形の個数)✓

a,b>0a,b>0、0<A<π0<A<\pi を与える。∣BC∣=a|BC|=a、∣CA∣=b|CA|=b、∠A=A\angle A=A を満たす三角形 ABCABC の個数(合同なものを同じとみなす)は、k=bsin⁡Ak=b\sin A として次のとおりである。

条件個数
a<ka<k00
a=ka=kA<π/2A<\pi/2 なら 11、A≥π/2A\ge\pi/2 なら 00
k<a<bk<a<bA<π/2A<\pi/2 なら 22、A≥π/2A\ge\pi/2 なら 00
a=ba=bA<π/2A<\pi/2 なら 11、A≥π/2A\ge\pi/2 なら 00
a>ba>b11
証明(定理 5.1)

そのような三角形があれば、c=∣AB∣>0c=|AB|>0 は余弦定理(定理 3.1)により

c2−2bccos⁡A+b2−a2=0,すなわち(c−bcos⁡A)2=a2−b2sin⁡2A=a2−k2c^2-2bc\cos A+b^2-a^2=0,\quad\text{すなわち}\quad(c-b\cos A)^2=a^2-b^2\sin^2A=a^2-k^2

を満たす。逆に、この方程式の正の解 cc に対して、a2=b2+c2−2bccos⁡Aa^2=b^2+c^2-2bc\cos A と −1<cos⁡A<1-1<\cos A<1 から (b−c)2<a2<(b+c)2(b-c)^2<a^2<(b+c)^2、すなわち ∣b−c∣<a<b+c|b-c|<a<b+c なので、定理 6.2[合同と相似] により辺が a,b,ca,b,c の三角形が存在し、その AA での角の余弦は b2+c2−a22bc=cos⁡A\dfrac{b^2+c^2-a^2}{2bc}=\cos A なので角は AA である。異なる cc は合同でない三角形を与える。したがって個数は、cc についての方程式 c2−2bcos⁡A c+(b2−a2)=0c^2-2b\cos A\,c+(b^2-a^2)=0 の正の解の個数に等しい。解の和は 2bcos⁡A2b\cos A、積は b2−a2b^2-a^2 である。

  • a<ka<k: a2−k2<0a^2-k^2<0 で実数解がない。個数 00。
  • a=ka=k: 重解 c=bcos⁡Ac=b\cos A。正であることは cos⁡A>0\cos A>0、すなわち A<π/2A<\pi/2 と同値。
  • k<a<bk<a<b: 相異なる実数解が 2 つあり、積 b2−a2>0b^2-a^2>0 なので同符号で、和 2bcos⁡A2b\cos A の符号がそれらの符号である。A<π/2A<\pi/2 なら 2 つとも正、A≥π/2A\ge\pi/2 なら 2 つとも正でない。
  • a=ba=b: 解は c=0c=0 と c=2bcos⁡Ac=2b\cos A。正の解は cos⁡A>0\cos A>0 のときの 1 つだけ。
  • a>ba>b: 積 b2−a2<0b^2-a^2<0 なので解は異符号で、正の解はちょうど 1 つ。

例 5.2(2 辺と対角の問題で 2 つの三角形ができる例)

b=4b=4、A=π/6A=\pi/6(k=2k=2)のとき、a=3a=3 なら k<a<bk<a<b で 2 つ(c=23±5c=2\sqrt3\pm\sqrt5)、a=2a=2 なら a=ka=k で 1 つ(c=23c=2\sqrt3、直角三角形)、a=1a=1 なら 0 個、a=5a=5 なら 1 つである。前章の 例 3.9[合同と相似] の 2 つの三角形は、まさにこの「2 つ」の場合にあたる。

6. 正接定理・Mollweide の公式・半角公式

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三角関数の加法定理(定理 6.4[指数・対数・三角関数をきちんと定義する])から、和積の公式 sin⁡B+sin⁡C=2sin⁡B+C2cos⁡B−C2\sin B+\sin C=2\sin\frac{B+C}2\cos\frac{B-C}2、sin⁡B−sin⁡C=2cos⁡B+C2sin⁡B−C2\sin B-\sin C=2\cos\frac{B+C}2\sin\frac{B-C}2 が得られます(系 4.3[三角関数])。

定理 6.1(Mollweide の公式)✓

三角形 ABCABC について

b−ca=sin⁡B−C2cos⁡A2,b+ca=cos⁡B−C2sin⁡A2\frac{b-c}{a}=\frac{\sin\frac{B-C}{2}}{\cos\frac A2},\qquad\frac{b+c}{a}=\frac{\cos\frac{B-C}{2}}{\sin\frac A2}

である。

証明(定理 6.1)

正弦定理(定理 4.2)から b∓c=2R(sin⁡B∓sin⁡C)b\mp c=2R(\sin B\mp\sin C)、a=2Rsin⁡Aa=2R\sin A なので、b±ca\dfrac{b\pm c}{a} は sin⁡B±sin⁡Csin⁡A\dfrac{\sin B\pm\sin C}{\sin A} に等しい。sin⁡A=2sin⁡A2cos⁡A2\sin A=2\sin\frac A2\cos\frac A2(系 4.2[三角関数] の 1)と、定理 5.4[合同と相似] から得られる B+C2=π2−A2\dfrac{B+C}2=\dfrac\pi2-\dfrac A2 により、sin⁡B+C2=cos⁡A2\sin\frac{B+C}2=\cos\frac A2、cos⁡B+C2=sin⁡A2\cos\frac{B+C}2=\sin\frac A2(命題 3.1[三角関数] の 3)。和積の公式を使うと

sin⁡B−sin⁡Csin⁡A=2sin⁡A2sin⁡B−C22sin⁡A2cos⁡A2=sin⁡B−C2cos⁡A2,sin⁡B+sin⁡Csin⁡A=2cos⁡A2cos⁡B−C22sin⁡A2cos⁡A2=cos⁡B−C2sin⁡A2.\frac{\sin B-\sin C}{\sin A}=\frac{2\sin\frac A2\sin\frac{B-C}2}{2\sin\frac A2\cos\frac A2}=\frac{\sin\frac{B-C}2}{\cos\frac A2},\qquad \frac{\sin B+\sin C}{\sin A}=\frac{2\cos\frac A2\cos\frac{B-C}2}{2\sin\frac A2\cos\frac A2}=\frac{\cos\frac{B-C}2}{\sin\frac A2}.

定理 6.2(正接定理)✓

三角形 ABCABC について

b−cb+c=tan⁡B−C2tan⁡B+C2\frac{b-c}{b+c}=\frac{\tan\frac{B-C}{2}}{\tan\frac{B+C}{2}}

である。

証明(定理 6.2)

定理 6.1 の 2 式の比をとると b−cb+c=sin⁡B−C2cos⁡B−C2⋅sin⁡A2cos⁡A2=tan⁡B−C2tan⁡A2\dfrac{b-c}{b+c}=\dfrac{\sin\frac{B-C}2}{\cos\frac{B-C}2}\cdot\dfrac{\sin\frac A2}{\cos\frac A2}=\tan\frac{B-C}2\tan\frac A2(∣B−C∣<π|B-C|<\pi なので cos⁡B−C2>0\cos\frac{B-C}{2}>0)。B+C2=π2−A2\frac{B+C}2=\frac\pi2-\frac A2 なので tan⁡B+C2=cos⁡A2sin⁡A2=1tan⁡A2\tan\frac{B+C}2=\dfrac{\cos\frac A2}{\sin\frac A2}=\dfrac{1}{\tan\frac A2}(0<A2<π20<\frac A2<\frac\pi2)。よって tan⁡A2=1tan⁡B+C2\tan\frac A2=\dfrac{1}{\tan\frac{B+C}2} を代入すればよい。

命題 6.3(半角公式)✓

三角形 ABCABC について、s=a+b+c2s=\dfrac{a+b+c}2 とすると

sin⁡A2=(s−b)(s−c)bc,cos⁡A2=s(s−a)bc,tan⁡A2=(s−b)(s−c)s(s−a)=rs−a\sin\frac A2=\sqrt{\frac{(s-b)(s-c)}{bc}},\quad\cos\frac A2=\sqrt{\frac{s(s-a)}{bc}},\quad\tan\frac A2=\sqrt{\frac{(s-b)(s-c)}{s(s-a)}}=\frac{r}{s-a}

である。ここで r=Ss=(s−a)(s−b)(s−c)sr=\dfrac Ss=\sqrt{\dfrac{(s-a)(s-b)(s-c)}{s}}。

証明(命題 6.3)

半角の公式(系 4.2[三角関数] の 2)と余弦定理から

cos⁡2A2=1+cos⁡A2=2bc+b2+c2−a24bc=(b+c)2−a24bc=(b+c−a)(b+c+a)4bc=s(s−a)bc,\cos^2\frac A2=\frac{1+\cos A}2=\frac{2bc+b^2+c^2-a^2}{4bc}=\frac{(b+c)^2-a^2}{4bc}=\frac{(b+c-a)(b+c+a)}{4bc}=\frac{s(s-a)}{bc},sin⁡2A2=1−cos⁡A2=a2−(b−c)24bc=(a−b+c)(a+b−c)4bc=(s−b)(s−c)bc.\sin^2\frac A2=\frac{1-\cos A}2=\frac{a^2-(b-c)^2}{4bc}=\frac{(a-b+c)(a+b-c)}{4bc}=\frac{(s-b)(s-c)}{bc}.

0<A2<π20<\frac A2<\frac\pi2 なので正の平方根をとる(定理 7.3[指数・対数・三角関数をきちんと定義する] の 3)。比をとって tan⁡A2\tan\frac A2 を得る。最後の等号は、定理 3.4 から r=S/s=(s−a)(s−b)(s−c)/sr=S/s=\sqrt{(s-a)(s-b)(s-c)/s} で、rs−a=(s−b)(s−c)s(s−a)\dfrac{r}{s-a}=\sqrt{\dfrac{(s-b)(s-c)}{s(s-a)}} となることによる。

r=S/sr=S/s は、後の章の三角形の名定理で、内接円の半径(内心から各辺までの距離)と一致することを示します。ここでは S/sS/s という数の名前にすぎません。

7. Stewart の定理と Bretschneider の公式

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後半の Bretschneider の公式は、四角形を対角線 BDBD で 2 つの三角形に分け、各三角形に面積公式と余弦定理を使います。2 つの式を 2 乗して足すと、角 AA と CC の影響が cos⁡(A+C)\cos(A+C) という一つの項にまとまる、というのが証明の筋道です。

定理 7.1(Stewart の定理)✓

三角形 ABCABC の辺 BCBC 上の点 DD について、m=∣BD∣m=|BD|、n=∣DC∣n=|DC|、d=∣AD∣d=|AD| とすると

c2n+b2m=a(d2+mn)c^2n+b^2m=a(d^2+mn)

である(a=m+na=m+n)。とくに DD が中点なら b2+c2=2d2+a22b^2+c^2=2d^2+\dfrac{a^2}{2}(中線定理)である。

証明(定理 7.1)

DD を原点にとり、e\boldsymbol e を BC→\overrightarrow{BC} 方向の単位ベクトル、x=DA→\boldsymbol x=\overrightarrow{DA}(∣x∣=d|\boldsymbol x|=d)とすると、DB→=−me\overrightarrow{DB}=-m\boldsymbol e、DC→=ne\overrightarrow{DC}=n\boldsymbol e である。

c2=∣x+me∣2=d2+2m x⋅e+m2,b2=∣x−ne∣2=d2−2n x⋅e+n2.c^2=|\boldsymbol x+m\boldsymbol e|^2=d^2+2m\,\boldsymbol x\cdot\boldsymbol e+m^2,\qquad b^2=|\boldsymbol x-n\boldsymbol e|^2=d^2-2n\,\boldsymbol x\cdot\boldsymbol e+n^2.

第 1 式に nn、第 2 式に mm を掛けて足すと、x⋅e\boldsymbol x\cdot\boldsymbol e の項が消えて c2n+b2m=(m+n)d2+mn(m+n)=a(d2+mn)c^2n+b^2m=(m+n)d^2+mn(m+n)=a(d^2+mn)。中点なら m=n=a/2m=n=a/2。

定理 7.2(Bretschneider の公式)✓

凸四角形 ABCDABCD(前章の 定義 5.5[合同と相似]、n=4n=4)で、a=∣AB∣a=|AB|、b=∣BC∣b=|BC|、c=∣CD∣c=|CD|、d=∣DA∣d=|DA|、s=a+b+c+d2s=\dfrac{a+b+c+d}2 とし、頂点 A,CA,C での内角を A,CA,C とする。面積 SS について

S2=(s−a)(s−b)(s−c)(s−d)−abcdcos⁡2A+C2S^2=(s-a)(s-b)(s-c)(s-d)-abcd\cos^2\frac{A+C}{2}

である。

証明(定理 7.2)

四角形は対角線 BDBD で三角形 ABDABD と CBDCBD に分かれ、2 つの三角形の共通部分は線分(面積 00)なので、面積は 2 つの三角形の面積の和である。A,B,C,DA,B,C,D は反時計回りの凸四角形なので、S(A,B,D)S(A,B,D) と S(B,C,D)S(B,C,D)(添え字の順に取った 3 点)はどちらも正で、前章の 命題 6.2[平面ベクトルと座標] の 1 により和は 12(det⁡(a,b)+det⁡(b,c)+det⁡(c,d)+det⁡(d,a))\tfrac12\bigl(\det(\boldsymbol a,\boldsymbol b)+\det(\boldsymbol b,\boldsymbol c)+\det(\boldsymbol c,\boldsymbol d)+\det(\boldsymbol d,\boldsymbol a)\bigr)(det⁡(b,d)+det⁡(d,b)=0\det(\boldsymbol b,\boldsymbol d)+\det(\boldsymbol d,\boldsymbol b)=0 による)である。同じ 1 を S(A,B,C)+S(A,C,D)S(A,B,C)+S(A,C,D) に使っても同じ式になるので、四角形の符号付き面積 S(A,B,C,D)S(A,B,C,D) に等しい。定理 3.3 を三角形 ABDABD(頂点 AA で辺 a,da,d)と CBDCBD(頂点 CC で辺 b,cb,c)に使うと

2S=adsin⁡A+bcsin⁡C.2S=ad\sin A+bc\sin C.

対角線 BDBD の長さを、余弦定理(定理 3.1)で 2 通りに表すと a2+d2−2adcos⁡A=b2+c2−2bccos⁡Ca^2+d^2-2ad\cos A=b^2+c^2-2bc\cos C なので、a2+d2−b2−c22=adcos⁡A−bccos⁡C\dfrac{a^2+d^2-b^2-c^2}{2}=ad\cos A-bc\cos C。この 2 式を 2 乗して足すと、

4S2+(a2+d2−b2−c22)2=a2d2+b2c2−2abcdcos⁡(A+C)4S^2+\Bigl(\frac{a^2+d^2-b^2-c^2}{2}\Bigr)^2=a^2d^2+b^2c^2-2abcd\cos(A+C)

(交差項は 2abcd(sin⁡Asin⁡C−cos⁡Acos⁡C)=−2abcdcos⁡(A+C)2abcd(\sin A\sin C-\cos A\cos C)=-2abcd\cos(A+C))。cos⁡(A+C)=2cos⁡2A+C2−1\cos(A+C)=2\cos^2\frac{A+C}2-1(系 4.2[三角関数] の 1)を代入して整理すると

16S2=4(ad+bc)2−(a2+d2−b2−c2)2−16abcdcos⁡2A+C2.16S^2=4(ad+bc)^2-(a^2+d^2-b^2-c^2)^2-16abcd\cos^2\frac{A+C}2.

最初の 2 項は、差の平方の因数分解を 2 回使って ((b+c)2−(a−d)2)((a+d)2−(b−c)2)=16(s−a)(s−b)(s−c)(s−d)\bigl((b+c)^2-(a-d)^2\bigr)\bigl((a+d)^2-(b-c)^2\bigr)=16(s-a)(s-b)(s-c)(s-d) と変形できる(因子 b+c−a+d=2(s−a)b+c-a+d=2(s-a) など)。

ABCDabcdAC
四角形 ABCD を対角線 BD で三角形 ABD と CBD に分ける。辺は AB=a、BC=b、CD=c、DA=d で、証明では頂点 A と C の角を使う

対角の和が π\pi(円に内接する四角形)のときは cos⁡A+C2=0\cos\frac{A+C}2=0 で、Heron の公式の 4 辺版(Brahmagupta の公式)になります。それは円の幾何の章で、円に内接する四角形では対角の和が π\pi になることを示してから、円の名定理の Brahmagupta の公式(定理 3.1)[円の名定理] として得ます。

定理 8.1(周が一定の三角形で面積が最大のもの)✓

周の長さが pp の三角形の面積 SS は S≤p2123S\le\dfrac{p^2}{12\sqrt3} を満たし、等号は正三角形のときに限る。

証明(定理 8.1)

s=p/2s=p/2、x=s−ax=s-a、y=s−by=s-b、z=s−cz=s-c とおく。定理 6.2[合同と相似] から x,y,z>0x,y,z>0 で、x+y+z=3s−(a+b+c)=sx+y+z=3s-(a+b+c)=s。Heron の公式(定理 3.4)から S2=s xyzS^2=s\,xyz。相加相乗平均の不等式(定理 3.2[式と証明]、n=3n=3)により xyz≤(x+y+z3)3=s327xyz\le\bigl(\tfrac{x+y+z}{3}\bigr)^3=\dfrac{s^3}{27} で、等号は x=y=zx=y=z(a=b=ca=b=c)のときに限る。よって S2≤s427S^2\le\dfrac{s^4}{27}、S≤s233=p2123S\le\dfrac{s^2}{3\sqrt3}=\dfrac{p^2}{12\sqrt3} である。

注意 8.2(一般の等周問題)

周の長さが一定の平面図形のうち、面積が最大のものは円である(等周不等式 L2≥4πAL^2\ge4\pi A)。三角形の場合は上のように Heron の公式と相加相乗平均で証明できますが、一般の図形に対する証明(Steiner の対称化の議論、Hurwitz の Fourier 級数による証明)は高校の範囲を超えるので、ここでは扱いません。「周が一定の多角形で面積最大のものは正多角形」や「ディドの問題(海岸線と一定の長さの縄で囲む面積の最大化)」も同じ系統の話題です。歴史と証明の概説は、V. Blåsjö, “The Evolution of the Isoperimetric Problem”, American Mathematical Monthly 112 (2005) を参照してください。

  • 内積空間の余弦定理。定理 3.1 は内積の展開 ∣x−y∣2=∣x∣2+∣y∣2−2⟨x,y⟩|x-y|^2=|x|^2+|y|^2-2\langle x,y\rangle そのものです(内積空間)。関数空間でも、同じ式が角の定義を与えます。
  • 球面三角法と空間図形。平面三角形の公式は、球面三角形(後の立体・球面・多面体の章)では余弦定理が cos⁡a=cos⁡bcos⁡c+sin⁡bsin⁡ccos⁡A\cos a=\cos b\cos c+\sin b\sin c\cos A の形になり、角の和が π\pi を超える分が面積になります。
  • 外接円と円分体。正弦定理の 2R2R は、複素平面では 1 の冪根と結びつき、複素数平面と作図の章の正多角形の話題へ続きます。
  • 凸最適化。定理 8.1 は、制約つきの最適化(Lagrange の乗数法、xyz3≤(x+y+z)/3\sqrt[3]{xyz}\le(x+y+z)/3 の凸性)の最も簡単な例です。

演習 10.1標準

辺の長さが 3,5,73,5,7 の三角形について、最大の角、面積、外接円の半径を求めよ。

解答

最大の角は最大の辺 77 の対角 CC で、定理 3.1 から cos⁡C=9+25−492⋅3⋅5=−12\cos C=\dfrac{9+25-49}{2\cdot3\cdot5}=-\dfrac12、C=2π3C=\dfrac{2\pi}3。面積は 定理 3.3 から 12⋅3⋅5sin⁡2π3=1534\tfrac12\cdot3\cdot5\sin\dfrac{2\pi}3=\dfrac{15\sqrt3}4(Heron の公式 定理 3.4 でも s=152s=\tfrac{15}2、152⋅92⋅52⋅12=1534\sqrt{\tfrac{15}2\cdot\tfrac92\cdot\tfrac52\cdot\tfrac12}=\tfrac{15\sqrt3}{4})。外接円の半径は 定理 4.2 から R=72sin⁡(2π/3)=73R=\dfrac{7}{2\sin(2\pi/3)}=\dfrac7{\sqrt3}。確かめとして abc4S=105153=73\dfrac{abc}{4S}=\dfrac{105}{15\sqrt3}=\dfrac7{\sqrt3}。

演習 10.2標準

b=4b=4、A=π6A=\dfrac\pi6 のとき、a=3a=3 で cc の値をすべて求め、2 つの三角形の面積をそれぞれ求めよ。

解答

定理 5.1 の証明の方程式は c2−43 c+7=0c^2-4\sqrt3\,c+7=0 で、c=23±5c=2\sqrt3\pm\sqrt5。どちらも正である。面積は 12bcsin⁡A=c\tfrac12bc\sin A=c なので、23+52\sqrt3+\sqrt5 と 23−52\sqrt3-\sqrt5 である。

演習 10.3標準

辺の長さが ∣AB∣=8|AB|=8、∣AC∣=6|AC|=6、∣BC∣=10|BC|=10 の三角形で、辺 BCBC 上に ∣BD∣=4|BD|=4 となる点 DD をとる。∣AD∣|AD| を求めよ。

解答

m=4m=4、n=6n=6、c=8c=8、b=6b=6、a=10a=10 として 定理 7.1 を使うと 64⋅6+36⋅4=10(d2+24)64\cdot6+36\cdot4=10(d^2+24)、すなわち 528=10d2+240528=10d^2+240 で d2=1445d^2=\dfrac{144}5、d=125d=\dfrac{12}{\sqrt5}。(AB2+AC2=BC2AB^2+AC^2=BC^2 なので AA は直角で、座標 A=(0,0)A=(0,0)、B=(8,0)B=(8,0)、C=(0,6)C=(0,6) で D=(4.8,2.4)D=(4.8,2.4) から AD2=23.04+5.76=28.8AD^2=23.04+5.76=28.8 と確かめられる。)

演習 10.4易

定理 7.2 を、辺が 3,4,3,43,4,3,4 の長方形(A=C=π/2A=C=\pi/2)に適用して、面積が 1212 であることを確かめよ。

解答

s=7s=7 で (s−a)(s−b)(s−c)(s−d)=4⋅3⋅4⋅3=144(s-a)(s-b)(s-c)(s-d)=4\cdot3\cdot4\cdot3=144。A+C2=π2\dfrac{A+C}2=\dfrac\pi2 で cos⁡π2=0\cos\dfrac\pi2=0 なので S2=144S^2=144、S=12=3⋅4S=12=3\cdot4 である。

  • H. S. M. Coxeter, S. L. Greitzer, Geometry Revisited, Mathematical Association of America, 1967 — 第 1 章(三角形に関する点と直線)。
  • Robin Hartshorne, Geometry: Euclid and Beyond, Springer, 2000 — 平面幾何と三角法の関係。
  • Roger A. Johnson, Advanced Euclidean Geometry, Dover, 2007 — 三角形の計量(正接定理・Mollweide の公式・Stewart の定理など)の古典的な整理。
  • Viktor Blåsjö, “The Evolution of the Isoperimetric Problem”, American Mathematical Monthly 112 (2005) — 一般の等周問題の歴史と証明。

このテーマの 100 本ノック(100 問)

執筆: Claude Code(Sonnet 5.5)、Claude Code(Opus 5.5)・監査 2 回(Claude Code)・最終 2026-10-12

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