三角形には、重心・外心・内心など「中心」と呼ばれる点がいくつもあります。中学では作図で、3 本の線がいつも 1 点に集まることを見てきました。この記事では、その理由を図に頼らず、点の位置を式で書いて確かめます。読み終えると、3 本の線が 1 点で交わる条件(Ceva の定理)や、3 点が一直線に並ぶ条件(Menelaus の定理)を、自分で使えるようになります。
- 三角形の五心(重心・外心・内心・傍心・垂心)は、「3 本の直線が 1 点で交わる」という事実の 5 つの例です。この記事では、どの場合も交点の位置ベクトルを先に書き下し、それが 3 本の線上にあることを確かめる形で証明します。図の位置関係(内側か外側か)に依存しません。
- 重心 G=3A+B+C、内心 I=a+b+caA+bB+cC、傍心(3 辺を含む 3 直線から等距離の点)IA=−a+b+c−aA+bB+cC。外心 O を原点にとれば垂心は H=A+B+C です。
- Ceva の定理は「BD/DC⋅CE/EA⋅AF/FB=1 と 3 本の線が共点は同値」、Menelaus の定理は符号付きの比で積が −1 のとき共線、です。どちらも重心座標(点を頂点の重み付き平均で表す座標)で見通しよく証明できます。
- 重心座標から 2 つの面積の公式が出ます。P=αA+βB+γC なら S(P,B,C)=αS(A,B,C)。さらに 3 点の重心座標の 3×3 行列式が、三角形の面積比です。これが Routh の定理(3 本の線が作る三角形の面積比)の証明になります。
- 正三角形のとき、内部の点から 3 辺への距離の和は一定です(Viviani の定理)。五心が一致するのも正三角形に限ります。
中学で「中線は 1 点で交わる」「垂直二等分線は 1 点で交わる」を図で見て、証明は「2 本の交点が 3 本目の上にもある」と説明されます。しかし、2 本の交点がどこにあるのかを具体的に計算しなければ、3 本目の上にある理由は述べられません。
この記事では計算をしてしまいます。交点を位置ベクトルで書くと、「3 本目の上にある」は 1 行の確認になり、場合分け(鋭角三角形か鈍角三角形か)も不要になります。使う道具は、前の 2 つの記事(平面ベクトルと座標、合同と相似)の内積・行列式・内分点・符号付き面積です。
以下、A,B,C は一直線上にない 3 点(三角形)とし、点とその位置ベクトルを同じ文字で書きます。a=∣BC∣、b=∣CA∣、c=∣AB∣、S=∣S(A,B,C)∣ を三角形の面積とします(符号付き面積 S(A,B,C) は 定義 6.1[平面ベクトルと座標])。三角形の成立条件から a<b+c、b<c+a、c<a+b です(定理 6.2[合同と相似])。
重心座標. A,B,C が一直線上にないとき、平面の点 P を P=αA+βB+γC(α+β+γ=1)と書く書き方はただ 1 通りです(定理 5.4[平面ベクトルと座標] の 3.)。(α,β,γ) を P の重心座標といいます。三角形の周と内部は α,β,γ≥0 の点の集合で(同 2.)、内部は α,β,γ>0 の点とします。たとえば重心は (31,31,31)、頂点 A は (1,0,0) です。
次の補題のねらいは、重心座標で書いた 3 点が作る三角形の面積が、重心座標を並べた 3×3 の行列式だけで決まる、という公式を得ることです。Menelaus の定理や Routh の定理は、この公式に数を代入して示します。証明は、座標の差を作って 2 次の行列式に直す順に進みます。
補題 2.1(重心座標と面積比)✓
Pi=αiA+βiB+γiC(αi+βi+γi=1、i=1,2,3)とすると
S(P1,P2,P3)=detα1α2α3β1β2β3γ1γ2γ3S(A,B,C)である。とくに P=αA+βB+γC なら S(P,B,C)=αS(A,B,C)、S(A,P,C)=βS(A,B,C)、S(A,B,P)=γS(A,B,C)。
証明(補題 2.1)
Pi−A=βi(B−A)+γi(C−A) なので、行列式の双線形性(定義 2.2[平面ベクトルと座標])から
det(P2−P1,P3−P1)=[(β2−β1)(γ3−γ1)−(γ2−γ1)(β3−β1)]det(B−A,C−A)(det(u,u)=0 を使う)。左辺は 2S(P1,P2,P3)、右辺の det(B−A,C−A) は 2S(A,B,C)。ブラケットの中は、3×3 行列式で第 2・第 3 列を第 1 列に加えて第 1 列を (1,1,1)T にし(αi=1−βi−γi)、第 2・3 行から第 1 行を引いて第 1 列で展開したものに等しい。後半は、A,B,C の重心座標がそれぞれ (1,0,0),(0,1,0),(0,0,1) なので、行列式が α00β10γ01=α、1α00β00γ1=β、10α01β00γ=γ となることから従う。
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次の補題は、点と直線の距離を式で表します。内心の距離と接点、Viviani の定理で使います。
補題 2.2(点と直線の距離)✓
u を単位ベクトル(∣u∣=1)とし、直線 ℓ={A+su∣s∈R} と点 P をとる。∣P−A−su∣(s∈R)の最小値は ∣det(u,P−A)∣ で、s=u⋅(P−A) のときにだけとられる。この値を P と ℓ の距離という。
証明(補題 2.2)
w=P−A とする。定理 4.1[平面ベクトルと座標] の 3. と ∣u∣=1 より ∣w−su∣2=∣w∣2−2su⋅w+s2=(s−u⋅w)2+∣w∣2−(u⋅w)2。同じ 4.(Lagrange の恒等式)で ∣w∣2−(u⋅w)2=det(u,w)2。よって最小値は ∣det(u,w)∣ で、s=u⋅w のときだけとられる。
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定理 3.1(重心)✓
3 本の中線(頂点と向かいの辺の中点を結ぶ線分)は 1 点 G=3A+B+C で交わり、G は各中線を頂点から 2:1 に内分する。
証明(定理 3.1)
MA=2B+C を BC の中点とする。定理 5.1[平面ベクトルと座標] により、A と MA を結ぶ線分を 2:1 に内分する点は 31⋅A+2MA=3A+B+C。この式は A,B,C について対称なので、他の 2 本の中線についても同じ点である。
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定理 3.2(外心と外接円)✓
3 辺の垂直二等分線は 1 点 O で交わる。O は A,B,C から等距離で、A,B,C を通る円がただ 1 つあり、その中心が O である。この円の半径を R と書く。
証明(定理 3.2)
2 点 P=Q から等距離の点の集合は、∣X−P∣2−∣X−Q∣2=−2X⋅(P−Q)+∣P∣2−∣Q∣2=2(Q−P)⋅(X−2P+Q) より、中点を通り Q−P に垂直な直線 {X:(X−2P+Q)⋅(Q−P)=0}(垂直二等分線)である。AB の垂直二等分線の法線ベクトルは B−A、BC のは C−B。この 2 つは 1 次独立(det(B−A,C−B)=det(B−A,C−A)=0)なので、連立 1 次方程式(命題 3.1[平面ベクトルと座標])がただ 1 つの解 O をもち、∣OA∣=∣OB∣=∣OC∣。したがって O は CA の垂直二等分線の上にもある。A,B,C から等距離の点は O だけで、その距離 R を半径とする円が求める円である。
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定理 3.3(垂心)✓
外心を O とする。3 つの頂点から対辺に下ろした垂線(高さ)は 1 点 H=A+B+C−2O で交わる。とくに O を原点にとれば H=A+B+C である。
証明(定理 3.3)
頂点 A からの垂線は {X:(X−A)⋅(B−C)=0}(命題 5.5[平面ベクトルと座標] の 2.)。H=A+B+C−2O とおくと H−A=(B−O)+(C−O)、B−C=(B−O)−(C−O) なので
(H−A)⋅(B−C)=∣B−O∣2−∣C−O∣2=R2−R2=0.よって H は A からの垂線上にある。この式は A,B,C について対称なので、H は 3 本の垂線のすべてにある。2 本の垂線は平行でない(法線 B−C と C−A が 1 次独立)ので、交点は H だけである。
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頂点 A から B,C への単位ベクトルを u=cB−A、v=bC−A とします(u=v、u+v=0:A,B,C が一直線上にないため)。
この節のねらいは、内心が内角の二等分線の交点であることを式で示すことです。まず補題で、二等分線の方向が u+v であることを確かめます。次に交点の位置を先に式で書き、それが 3 本の二等分線すべての上にあることを確かめます。
補題 4.1(角の二等分線)✓
単位ベクトル w が w⋅u=w⋅v(w が AB の方向と AC の方向と等しい角をなす)を満たすための条件は w=±∣u+v∣u+v である。+ のほうは u との内積が正で、∠BAC の内側を向く。A を始点として u+v の方向にのびる半直線を内角の二等分線といい、A を通って u+v に垂直な直線(u−v の方向の直線)を外角の二等分線という。
証明(補題 4.1)
w⋅(u−v)=0。一方 (u+v)⋅(u−v)=∣u∣2−∣v∣2=0 で、u−v=0 なので、u−v に垂直なベクトルは 1 つの方向の定数倍だけ(命題 5.5[平面ベクトルと座標] の 2.)。u+v=0 が垂直なので w は u+v の定数倍で、∣w∣=1 から w=±(u+v)/∣u+v∣。u⋅(u+v)=1+u⋅v>0(u=−v より u⋅v>−1)なので + のほうが ∠BAC の内側。
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定理 4.2(内心と内接円)✓
3 つの内角の二等分線は 1 点
I=a+b+caA+bB+cCで交わる。I は三角形の内部にあり、3 辺を含む直線までの距離が等しく、その値は r=a+b+c2S である。I を中心とする半径 r の円(内接円)は 3 辺に接し、頂点 A から辺 AB 上の接点までの距離は 2b+c−a である。
証明(定理 4.2)
B−A=cu、C−A=bv より I−A=a+b+cb(B−A)+c(C−A)=a+b+cbc(u+v)。係数は正なので、I は A からの内角の二等分線上にある。I の式は (A,a),(B,b),(C,c) について対称なので、B、C からの二等分線上にもある。重心座標 (a+b+ca,a+b+cb,a+b+cc) はすべて正で、I は内部にある。
距離: 補題 2.2 より、I と直線 AB(方向 u)の距離は a+b+cbc∣det(u,u+v)∣=a+b+cbc∣det(u,v)∣、直線 AC(方向 v)との距離は a+b+cbc∣det(v,u+v)∣=a+b+cbc∣det(v,u)∣ で等しい。同様に B からの二等分線上で BA と BC への距離が等しい。よって 3 辺への距離は等しい。∣det(u,v)∣=bc∣det(B−A,C−A)∣=bc2S なので距離は r=a+b+c2S。
接点: 直線 AB 上の I に最も近い点は A+su、s=u⋅(I−A)=a+b+cbc(1+u⋅v)(補題 2.2)。a2=∣B−C∣2=∣cu−bv∣2=b2+c2−2bcu⋅v(定理 4.1[平面ベクトルと座標] の 3.)から bcu⋅v=2b2+c2−a2。ゆえに s=a+b+cbc+2b2+c2−a2=2(a+b+c)(b+c)2−a2=2b+c−a。三角形の成立条件から 0<b+c−a<2c(b−c<a)なので、接点は線分 AB の内部にある。
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傍心は、1 つの頂点の内角の二等分線と、ほかの 2 頂点の外角の二等分線の交点です。式は内心の a の符号を変えた形になります。
定理 4.3(傍心と傍接円)✓
内角 A の二等分線と、頂点 B,C の外角の二等分線は 1 点
IA=−a+b+c−aA+bB+cCで交わる。IA は 3 つの直線 AB,BC,CA からの距離が等しく、その値は rA=b+c−a2S である。同様に IB,IC が定まる。これらを傍心、IA を中心とする半径 rA の円を傍接円という。
証明(定理 4.3)
b+c−a>0 である(三角形の成立条件)。まず IA−A=b+c−ab(B−A)+c(C−A)=b+c−abc(u+v) で係数は正なので、IA は内角 A の二等分線上にある。次に u′=cA−B、v′=aC−B とすると IA−B=b+c−a−a(A−B)+c(C−B)=b+c−aac(v′−u′)。v′−u′ は u′+v′(頂点 B の内角の二等分線の方向)に垂直(補題 4.1)で、B における外角の二等分線の方向である。頂点 C についても、B と C(したがって b と c)を入れ替えて同じ式になる:IA−C=b+c−aab(v′′−u′′)(u′′=bA−C、v′′=aB−C)で、C における外角の二等分線の方向。距離: P=B+s(v′−u′) と直線 BA(方向 u′)、直線 BC(方向 v′)の距離は 補題 2.2 から ∣s∣∣det(u′,v′−u′)∣=∣s∣∣det(u′,v′)∣、∣s∣∣det(v′,v′−u′)∣=∣s∣∣det(v′,u′)∣ で等しい。直線 AB と AC への距離が等しいことは A の二等分線上であることからも出る。よって 3 直線への距離は等しい。値は、IA と直線 AB の距離 b+c−abc∣det(u,u+v)∣=b+c−abc⋅bc2S=b+c−a2S。
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例 4.4(3・4・5 の直角三角形の五心)
A=(0,0)、B=(4,0)、C=(0,3)(a=∣BC∣=5、b=∣CA∣=3、c=∣AB∣=4、S=6)。重心は G=(34,1)。外心は斜辺 BC の中点 O=(2,23)(∣OA∣=∣OB∣=∣OC∣=25 が直接確かめられる)。垂心は H=A+B+C−2O=(4,3)−(4,3)=(0,0)=A(直角の頂点)。内心は I=125A+3B+4C=(1,1) で、r=122⋅6=1(直角三角形の内接円の半径は (b+c−a)/2=1 とも一致)。傍心は IA=2−5A+3B+4C=(6,6)、rA=212=6。
三角形 A(0,0), B(8,0), C(2,6) の重心 G、外心 O、垂心 H(Euler 線上)と内心 I
辺 BC、CA、AB の内部の点 D,E,F をとり、
x=DCBD,y=EACE,z=FBAF
(正の実数)とおきます。定理 5.1[平面ベクトルと座標] により
D=1+xB+xC,E=1+yC+yA,F=1+zA+zB
です。重心座標では D=(0,1+x1,1+xx)、E=(1+yy,0,1+y1)、F=(1+z1,1+zz,0) です。
証明のねらいは、直線 AD を重心座標の 1 次式で表すことです。AD 上の点は γ=xβ を満たす、という形で書けます。BE、CF も同様に書き、3 つの式を連立すると xyz=1 が現れます。
定理 5.1(Ceva の定理とその逆)✓
3 本の直線 AD、BE、CF が 1 点で交わることと
DCBD⋅EACE⋅FBAF=1は同値である。このとき交点 P は三角形の内部にあり、重心座標は (1,z,zx)/(1+z+zx) である。
証明(定理 5.1)
直線 AD 上の点は A+t(D−A)=(1−t, 1+xt, 1+xtx)(重心座標)で、t は任意の実数。逆に重心座標 (α,β,γ) が γ=xβ を満たす点は t=(1+x)β として AD 上にある。したがって
AD={γ=xβ}.同様に、B+u(E−B)=(1+yuy,1−u,1+yu) から BE={α=yγ}、C+v(F−C)=(1+zv,1+zvz,1−v) から CF={β=zα}。3 直線が共有点 P=(α,β,γ)(α+β+γ=1)をもつなら、α=yγ=yxβ=yxzα、すなわち α(1−xyz)=0。α=0 だと β=zα=0、γ=xβ=0 となって和が 1 に反するので α=0、ゆえに xyz=1。逆に xyz=1 とする。α=1+z+zx1、β=zα、γ=zxα とおくと和は 1 で、γ=xβ、β=zα は明らか、α=yγ=yzxα は xyz=1 から成り立つ。よってこの点は 3 直線のすべての上にある。係数はすべて正なので内部にある。
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定理 5.2(三角関数形の Ceva の定理)✓
D,E,F を辺 BC,CA,AB の内部の点とする。AD,BE,CF が 1 点で交わることと
sin∠DACsin∠BAD⋅sin∠EBAsin∠CBE⋅sin∠FCBsin∠ACF=1は同値である。
証明(定理 5.2)
D=1+xB+xC とすると、D−A=1+x(B−A)+x(C−A) で、行列式の双線形性から det(B−A,D−A)=1+xxdet(B−A,C−A)、det(D−A,C−A)=1+x1det(B−A,C−A)。よって det(D−A,C−A)det(B−A,D−A)=x=DCBD(面積 S(A,B,D):S(A,D,C) の比と同じ)。一方 命題 4.5[平面ベクトルと座標] の 1.・2. により det(B−A,D−A)=∣AB∣∣AD∣sin∠BAD、det(D−A,C−A)=∣AD∣∣AC∣sin∠DAC。したがって
DCBD=bsin∠DACcsin∠BAD.同様に EACE=csin∠EBAasin∠CBE、FBAF=asin∠FCBbsin∠ACF。3 式の積をとると辺の長さ a,b,c が約分されて、DCBD⋅EACE⋅FBAF が題意の三角関数の積に等しい。定理 5.1 により、これが 1 であることが共点と同値。
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例 5.3(Ceva の定理の使い方)
BD:DC=2:3、CE:EA=1:2 となる D,E に対して、F を AF:FB=z にとって AD,BE,CF が共点になるためには、32⋅21⋅z=1 より z=3、すなわち AF:FB=3:1 です。このとき交点の重心座標は (1,3,3⋅32)/(1+3+2)=(61,21,31)。重心座標がすべて正なので、交点は三角形の内部にあります。
直線 BC 上の点 D(D=C)について、D=1+xB+xC となる実数 x(x=−1)をただ 1 つ定めて、x=DCBD(符号付きの比)といいます。D が線分 BC の内部にあれば x>0、B の外側にあれば −1<x<0、C の外側にあれば x<−1 で、D=B なら x=0 です。直線 CA 上の点 E の y=EACE、直線 AB 上の点 F の z=FBAF も同様に定めます。
符号の見方は、D が B と C の間にあれば正、その外にあれば負、です。B を 0、C を 1 とした数直線では、D の位置は 1+xx です。たとえば x=1 は中点 21、x=−21 は B の外側の −1、x=−2 は C の外側の 2 です。
定理 6.1(Menelaus の定理とその逆)✓
直線 BC,CA,AB 上の点 D,E,F(頂点とは異なる)について、D,E,F が一直線上にあることと
DCBD⋅EACE⋅FBAF=−1(符号付きの比の積)は同値である。
証明(定理 6.1)
D=(0,1,x)/(1+x)、E=(y,0,1)/(1+y)、F=(1,z,0)/(1+z)(重心座標)。補題 2.1 より
S(D,E,F)=(1+x)(1+y)(1+z)10y110zx10S(A,B,C)=(1+x)(1+y)(1+z)1+xyzS(A,B,C)(行列式を第 1 行で展開すると −1⋅(0−1)+x(yz−0)=1+xyz)。命題 6.2[平面ベクトルと座標] の 2. により、D,E,F が一直線上にあることは S(D,E,F)=0 と同値で、S(A,B,C)=0 なので 1+xyz=0 と同値。
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例 6.2(Menelaus の定理の使い方)
F が AB の中点(z=1)、E が CE:EA=2:1(y=2)の点のとき、直線 FE が直線 BC と交わる点 D の比は、xyz=−1 から x=−21。すなわち D=21B−21C=2B−C で、B が CD の中点になる位置にあります。
また、D,E,F が三角形の辺の内部にあるときは x,y,z>0 で積は正なので、−1 にはなりません。辺の内部の 3 点が一直線上に並ぶことはない、という当たり前の事実が、符号付きの比から出ます。
Ceva の定理は、3 本の線が 1 点で交わる条件でした。Routh の定理は、交わらないときにできる小さな三角形の面積が元の何倍かを与え、rst=1 のときに 0 になります。
定理 7.1(Routh の定理)✓
D,E,F を辺 BC,CA,AB の内部の点とし、FBAF=r、DCBD=s、EACE=t とおく。直線 AD,BE,CF のそれぞれ 2 本の交点 P=AD∩BE、Q=BE∩CF、R=CF∩AD がつくる三角形 PQR の面積について
S(A,B,C)S(P,Q,R)=(1+s+st)(1+t+rt)(1+r+rs)(rst−1)2である。rst=1 のとき(Ceva の条件)は 0、すなわち 3 本が 1 点で交わる。
証明(定理 7.1)
定理 5.1 の証明と同じ記号で、AD={γ=sβ}、BE={α=tγ}、CF={β=rα}(x→s、y→t、z→r)。AD∩BE:γ=sβ、α=tγ=tsβ から P=1+s+st(ts,1,s)。BE∩CF:α=tγ、β=rα=rtγ から Q=1+t+rt(t,rt,1)。CF∩AD:β=rα、γ=sβ=rsα から R=1+r+rs(1,r,rs)。補題 2.1 より、
S(A,B,C)S(P,Q,R)=(1+s+st)(1+t+rt)(1+r+rs)1tst11rtrs1rs.行列式は ts(rt⋅rs−r)−(t⋅rs−1)+s(tr−rt)=r2s2t2−rst−rst+1=(rst−1)2。
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例 7.2(3 等分点を結ぶと面積は 1/7)
r=s=t=2(各辺を 2:1 に分ける点と対頂点を結ぶ)のとき、(1+2+4)3(8−1)2=34349=71。小さな三角形の面積は元の 71 です。r=s=t=3 なら 133262=134、r=s=t=1(中線)なら 0 です。
定理 7.3(van Aubel の定理(三角形))✓
AD,BE,CF が 1 点 P で交わるとき(D,E,F は辺の内部の点)、
PDAP=FBAF+ECAE.
証明(定理 7.3)
定理 5.1 より P=(α,β,γ)=(1,z,zx)/(1+z+zx)、すなわち β=zα、γ=zxα(xyz=1)。β+γβB+γC=z+zxzB+zxC=1+xB+xC=D なので、P=αA+(β+γ)D(α+(β+γ)=1)。よって P−A=(β+γ)(D−A)、D−P=α(D−A) で、PDAP=αβ+γ=z+zx。一方 FBAF=z、ECAE=y1=zx(xyz=1)。和が一致する。
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定理 7.4(Viviani の定理)✓
三角形の内部の点 P から直線 BC,CA,AB までの距離を da,db,dc とすると、ada+bdb+cdc=2S である。とくに正三角形(a=b=c)では da+db+dc=a2S(一定。これは 1 つの頂点から対辺までの距離、すなわち高さに等しい)。
証明(定理 7.4)
P=αA+βB+γC(α,β,γ>0)。直線 BC の単位方向ベクトルは u=aC−B で、補題 2.2 から da=∣det(u,P−B)∣=a∣det(C−B,P−B)∣=a2∣S(B,C,P)∣。S(B,C,P)=S(P,B,C)=αS(A,B,C)(命題 6.2[平面ベクトルと座標] の 1.、補題 2.1)なので ada=2αS。同様に bdb=2βS、cdc=2γS。足して α+β+γ=1 を使う。正三角形では a を共通因子にして da+db+dc=2S/a。頂点 A 自身は α=1 なので、A から BC までの距離は同じ計算で 2S/a。
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命題 8.1(重心・内心・外心・垂心が一致するのは正三角形)✓
三角形 ABC について、次の 4 条件は同値である。(1) a=b=c(正三角形)。(2) 重心 G と内心 I が一致する。(3) G と外心 O が一致する。(4) G と垂心 H が一致する。このとき G=I=O=H である。
証明(命題 8.1)
(1)⇔(2): I の重心座標は (a+b+ca,a+b+cb,a+b+cc)、G は (31,31,31)。重心座標の一意性(定理 5.4[平面ベクトルと座標] の 3.)により I=G は a=b=c と同値。
(3)⇔(4): 定理 3.3 から H−G=A+B+C−2O−3A+B+C=2(G−O) なので H=G⟺G=O。
(1)⇒(3): O を原点とし ∣A∣=∣B∣=∣C∣=R。a=b=c なら ∣A−B∣2=2R2−2A⋅B が 3 組で等しいので A⋅B=B⋅C=C⋅A。g=A+B+C とおくと g⋅(A−B)=∣A∣2−∣B∣2+C⋅(A−B)=0、同様に g⋅(B−C)=0。A−B と B−C は 1 次独立(命題 3.1[平面ベクトルと座標])なので g=0、すなわち G=O。
(3)⇒(1): G=O(原点)なら A+B+C=0。∣A+B∣2=∣C∣2 から 2R2+2A⋅B=R2、A⋅B=−2R2。∣A−B∣2=2R2+R2=3R2。同様に他の 2 辺も 3R2 で、a=b=c。
最後に、(1) のとき (2)(3)(4) が成り立ち、G=I=O=H。
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- 重心座標は、アフィン幾何(アフィン空間・アフィン写像)と射影幾何(斉次座標)への入口です。P=αA+βB+γC は凸結合(平面ベクトルと座標 で学んだ凸包)の座標表示です。
- 面積比が 3×3 行列式の値になる(補題 2.1)ことは、行列式 の「体積は行列式」の最も簡単な例です。
- Ceva と Menelaus の定理は、射影幾何の双対原理(点と直線の入れ替え)で互いに対応します。
- Euler 線(O,G,H が共線)、九点円、Simson 線など、五心から出てくる定理は、続く記事の主題です。
演習 10.1標準
A=(0,0)、B=(6,0)、C=(0,8) の三角形について、重心 G、外心 O、垂心 H、内心 I と内接円の半径 r を求めよ。
解答
a=∣BC∣=10、b=∣CA∣=8、c=∣AB∣=6、S=24。G=(2,38)。直角の頂点を A とするので外心は斜辺 BC の中点 O=(3,4)(定理 3.2 で ∣OA∣=∣OB∣=∣OC∣=5)。H=A+B+C−2O=(6,8)−(6,8)=(0,0)=A。内心は 定理 4.2 より I=2410A+8B+6C=24(48,48)=(2,2)、r=242⋅24=2。
演習 10.2標準
AB の中点を F、BC を 1:2 に内分する点を D とし、E は辺 CA 上の点とする。AD,BE,CF が 1 点で交わるとき、CE:EA を求めよ。
解答
x=DCBD=21、z=FBAF=1。定理 5.1 より xyz=1 から y=xz1=2。すなわち CE:EA=2:1。
演習 10.3標準
三角形 ABC の辺 AB を 1:2 に内分する点 F と、辺 CA を 3:1 に内分する点 E(CE:EA=3:1)をとる。直線 FE が直線 BC と交わる点を D とするとき、BD:DC(符号付きの比)を求めよ。
解答
z=FBAF=21、y=EACE=3。定理 6.1 より xyz=−1、x⋅3⋅21=−1 なので x=−32。−1<x<0 なので、D は B の外側(C と反対側)にあり、BD:DC=−2:3(長さの比は BD:DC=2:3 で、D は線分 BC を B の側へ延長した上)。
演習 10.4易
1 辺が 6 の正三角形の内部の点から 3 辺への距離の和を求めよ。
解答
定理 7.4 より和は高さ 23⋅6=33(S=93、2S/a=183/6=33)。
- H. S. M. Coxeter, S. L. Greitzer, Geometry Revisited, Mathematical Association of America, 1967 — 第 1 章(三角形に関する点と直線、Ceva・Menelaus の定理)。
- Robin Hartshorne, Geometry: Euclid and Beyond, Springer, 2000.
- Abraham A. Ungar, Barycentric Calculus in Euclidean and Hyperbolic Geometry, World Scientific, 2010.
- 小平邦彦『幾何への誘い』岩波書店、2000。