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非慣性系と剛体の運動:コリオリ力から慣性テンソル・オイラー方程式・コマまで

対象読者: 本テーマ第 1〜3 章(ニュートン力学、中心力、ラグランジュ形式)と、学部の線形代数(対称行列の対角化・固有値)を学んだ人。剛体や回転座標系は初めてでも読めます。

前提となる記事:ラグランジュ形式の力学:最小作用の原理からオイラー・ラグランジュ方程式へ、惑星の運動と中心力:角運動量保存からケプラーの三法則へ

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回転するメリーゴーラウンドの上でボールを転がすと、まっすぐ転がしたつもりでも曲がって見えます。地球も自転しているので、地面の上の実験には同じことが起こります。この記事では、回る視点から見ると何が変わるのかを式で整理し、続いて回転する物体(コマや投げたラケット)がどう動くかを調べます。読み終えると、見かけの力の大きさを計算したり、回転する物体の向きが安定かどうかを判定したりできます。

  • 回転する座標系で見たベクトルの時間微分は、静止系での微分と ω×\boldsymbol{\omega}\times の項だけ違います(定理 2.2)。これを 2 回使うだけで、コリオリ力・遠心力・オイラー力がすべて出ます(定理 2.3)。
  • 地球は回転しているので、地表の力学は厳密には非慣性系の力学です。落下物の東向きのずれ(高さ 100 m100\ \mathrm{m} で約 1.8 cm1.8\ \mathrm{cm})やフーコーの振り子の面の回転は、コリオリ力の帰結です。
  • 剛体の角運動量は L=Iω\boldsymbol{L}=I\boldsymbol{\omega}、運動エネルギーは T=12ω⋅IωT=\tfrac12\boldsymbol{\omega}\cdot I\boldsymbol{\omega} と書けます。II は慣性テンソルで、実対称行列なので直交する主軸をもちます(定理 4.2, 命題 4.3)。
  • 主軸に固定した座標で書いたオイラーの運動方程式から、自由剛体の回転が最大・最小の主慣性モーメントの軸まわりでは安定で、中間の軸まわりでは不安定であることが証明できます(定理 5.5)。
  • 重力下の対称コマは、2 つの循環座標と力学的エネルギーの保存により 1 次元の求積問題に帰着します。立っているコマ(スリーピングトップ)が安定になる条件は pψ2>4I1Mglp_\psi^2>4I_1Mgl です(定理 6.3)。

1. 動機:ニュートンの法則が成り立たない系で力学をするには

Section titled “1. 動機:ニュートンの法則が成り立たない系で力学をするには”

ニュートン力学の基礎では、運動の第 2 法則 mr¨=Fm\ddot{\boldsymbol{r}}=\boldsymbol{F} が成り立つ座標系を慣性系と呼びました(定義 3.1[ニュートン力学の基礎])。ところが私たちが実際に実験をする地面は、自転しているので慣性系ではありません。台風が北半球で反時計回りに渦を巻くのも、長距離砲弾が狙いから右へそれるのも、地面に対して静止して見える座標系で第 2 法則をそのまま使うと説明できない現象です。

対処法は 2 通りあります。1 つは、慣性系に戻って考えること。もう 1 つは、回転座標系の中で「見かけの力」を足して第 2 法則の形を保つことです。どちらを使うにしても、回転する座標系で見た量と慣性系で見た量の関係を正確に押さえる必要があります。この記事の前半(第 2 節)はその関係を作ります。

後半は同じ道具の第 2 の応用です。剛体は、各点が互いの距離を保つ質点の集まりで、その運動は並進 3 成分と回転 3 成分で決まります。回転の部分を調べるには、物体に固定した座標系(物体系)から見るのが便利です。物体系は回転しているので、そこでの方程式は第 2 節の結果から出ます。こうして出てくるのが慣性テンソルとオイラーの運動方程式で、コマや人工衛星の姿勢運動の基礎になります。

ラグランジュ形式の力学の知識は第 6 節(コマ)で使います。それ以外はベクトルと行列の計算で完結します。

慣性系(空間系)の座標を x\boldsymbol{x}、回転座標系(物体系)の座標を xb\boldsymbol{x}_b とします。2 つの座標系は原点を共有し、基底の向きだけが時刻とともに変わるとします。物体系の基底 e1(t),e2(t),e3(t)\boldsymbol{e}_1(t),\boldsymbol{e}_2(t),\boldsymbol{e}_3(t)(空間系の成分で書いた正規直交右手系)を並べた行列を R(t)=(e1 e2 e3)R(t)=(\boldsymbol{e}_1\ \boldsymbol{e}_2\ \boldsymbol{e}_3) と置くと、R(t)R(t) は直交行列で det⁡R=1\det R=1 です。点の空間系での座標と物体系での座標は

x=R(t) xb\boldsymbol{x}=R(t)\,\boldsymbol{x}_b

で結ばれます。RR は時間について微分可能とします。

補題 2.1(角速度ベクトルの存在)✓

R(t)R(t) が時間について微分可能な直交行列の族ならば、R˙(t)R(t)T\dot R(t)R(t)^{\mathsf T} は反対称行列である。したがって各時刻 tt に、ただ 1 つのベクトル ω(t)\boldsymbol{\omega}(t) が存在して、すべての a∈R3\boldsymbol{a}\in\mathbb{R}^3 に対し

R˙ RTa=ω×a\dot R\,R^{\mathsf T}\boldsymbol{a}=\boldsymbol{\omega}\times\boldsymbol{a}

が成り立つ。この ω\boldsymbol{\omega} を(空間系で見た)角速度ベクトルという。

証明(補題 2.1)

RRT=ERR^{\mathsf T}=E(単位行列)を tt で微分すると R˙RT+RR˙T=O\dot RR^{\mathsf T}+R\dot R^{\mathsf T}=O です。RR˙T=(R˙RT)TR\dot R^{\mathsf T}=(\dot RR^{\mathsf T})^{\mathsf T} なので、W≡R˙RTW\equiv\dot RR^{\mathsf T} は W+WT=OW+W^{\mathsf T}=O、すなわち反対称です。反対称な 3×33\times3 行列は対角成分が 00 で、W32=−W23W_{32}=-W_{23}、W13=−W31W_{13}=-W_{31}、W21=−W12W_{21}=-W_{12} を満たすので、ω1=W32\omega_1=W_{32}, ω2=W13\omega_2=W_{13}, ω3=W21\omega_3=W_{21} と置くと

W=(0−ω3ω2ω30−ω1−ω2ω10).W=\begin{pmatrix}0&-\omega_3&\omega_2\\ \omega_3&0&-\omega_1\\ -\omega_2&\omega_1&0\end{pmatrix}.

この行列を a\boldsymbol{a} に掛けると (ω2a3−ω3a2, ω3a1−ω1a3, ω1a2−ω2a1)=ω×a(\omega_2a_3-\omega_3a_2,\ \omega_3a_1-\omega_1a_3,\ \omega_1a_2-\omega_2a_1)=\boldsymbol{\omega}\times\boldsymbol{a} です。一意性は、a\boldsymbol{a} として基本ベクトルを代入すれば WW の各列から ω\boldsymbol{\omega} が読み取れることからわかります。

ベクトル量 a(t)\boldsymbol{a}(t) を考えます。空間系の成分で書いたものを a\boldsymbol{a}、物体系の成分で書いたものを ab\boldsymbol{a}_b(a=Rab\boldsymbol{a}=R\boldsymbol{a}_b)とします。物体系の観測者が見る時間変化率は a˙b\dot{\boldsymbol{a}}_b です。これを空間系の成分に直したもの Ra˙bR\dot{\boldsymbol{a}}_b を、(dadt)b\left(\dfrac{d\boldsymbol{a}}{dt}\right)_{b} と書きます。

ここでの狙いは、「回る座標系の観測者が測った変化率」と「慣性系で測った変化率」の差を求めることです。どちらも同じ矢印の変化を見ていますが、成分を表す物差しが物体系では回っているので、その回転の分だけ違いが出ます。以下の定理は、その差が ω×a\boldsymbol{\omega}\times\boldsymbol{a} になると述べています。

定理 2.2(回転系での時間微分の公式)✓

任意のベクトル量 a(t)\boldsymbol{a}(t) に対し

dadt=(dadt)b+ω×a\frac{d\boldsymbol{a}}{dt}=\left(\frac{d\boldsymbol{a}}{dt}\right)_{b}+\boldsymbol{\omega}\times\boldsymbol{a}

が成り立つ。左辺は慣性系での微分、右辺第 1 項は回転系の観測者が測る変化率である。特に a=ω\boldsymbol{a}=\boldsymbol{\omega} とすると ω˙\dot{\boldsymbol{\omega}} は両方の系で同じ値をもつ。

証明(定理 2.2)

a=Rab\boldsymbol{a}=R\boldsymbol{a}_b を積の微分で展開すると、a˙=R˙ab+Ra˙b\dot{\boldsymbol{a}}=\dot R\boldsymbol{a}_b+R\dot{\boldsymbol{a}}_b です。ab=RTa\boldsymbol{a}_b=R^{\mathsf T}\boldsymbol{a} を第 1 項に入れると R˙ab=R˙RTa=ω×a\dot R\boldsymbol{a}_b=\dot RR^{\mathsf T}\boldsymbol{a}=\boldsymbol{\omega}\times\boldsymbol{a}(補題 2.1)。第 2 項は定義により (da/dt)b(d\boldsymbol{a}/dt)_b です。最後の主張は ω×ω=0\boldsymbol{\omega}\times\boldsymbol{\omega}=\boldsymbol{0} から従います。

この公式の意味は具体例でつかめます。物体系に固定されたベクトル(a˙b=0\dot{\boldsymbol{a}}_b=\boldsymbol{0})は、慣性系では a˙=ω×a\dot{\boldsymbol{a}}=\boldsymbol{\omega}\times\boldsymbol{a} で回ります。回転軸方向の単位ベクトルを n\boldsymbol{n} として ω=ωn\boldsymbol{\omega}=\omega\boldsymbol{n}(ω\omega は定数)とすれば、a\boldsymbol{a} は軸のまわりを角速度 ω\omega で回る点の位置ベクトルと同じ動きをします。

回転系で質点の運動方程式を書きましょう。位置を r\boldsymbol{r}、回転系での速度を vb≡(dr/dt)b\boldsymbol{v}_b\equiv(d\boldsymbol{r}/dt)_b、回転系での加速度を ab≡(dvb/dt)b\boldsymbol{a}_b\equiv(d\boldsymbol{v}_b/dt)_b とします。

定理 2.3(回転座標系での運動方程式)✓

慣性系での質量 mm の質点の運動方程式 mr¨=Fm\ddot{\boldsymbol{r}}=\boldsymbol{F} は、原点を共有して角速度 ω(t)\boldsymbol{\omega}(t) で回る座標系では

mab=F−2m ω×vb−m ω×(ω×r)−m ω˙×rm\boldsymbol{a}_b=\boldsymbol{F}-2m\,\boldsymbol{\omega}\times\boldsymbol{v}_b-m\,\boldsymbol{\omega}\times(\boldsymbol{\omega}\times\boldsymbol{r})-m\,\dot{\boldsymbol{\omega}}\times\boldsymbol{r}

となる。右辺の第 2 項をコリオリ力、第 3 項を遠心力、第 4 項をオイラー力という。

証明(定理 2.3)

定理 2.2 を a=r\boldsymbol{a}=\boldsymbol{r} に使うと、慣性系での速度は r˙=vb+ω×r\dot{\boldsymbol{r}}=\boldsymbol{v}_b+\boldsymbol{\omega}\times\boldsymbol{r} です。もう一度、今度は a=r˙\boldsymbol{a}=\dot{\boldsymbol{r}} に使います。

r¨=(dr˙dt)b+ω×r˙.\ddot{\boldsymbol{r}}=\left(\frac{d\dot{\boldsymbol{r}}}{dt}\right)_b+\boldsymbol{\omega}\times\dot{\boldsymbol{r}}.

右辺第 1 項は (ddt)b\left(\dfrac{d}{dt}\right)_b が線形で積の法則を満たすことから ab+ω˙×r+ω×vb\boldsymbol{a}_b+\dot{\boldsymbol{\omega}}\times\boldsymbol{r}+\boldsymbol{\omega}\times\boldsymbol{v}_b です((ω˙)b=ω˙(\dot{\boldsymbol{\omega}})_b=\dot{\boldsymbol{\omega}} は 定理 2.2 の最後の主張)。第 2 項は ω×(vb+ω×r)\boldsymbol{\omega}\times(\boldsymbol{v}_b+\boldsymbol{\omega}\times\boldsymbol{r}) なので、まとめて

r¨=ab+2ω×vb+ω×(ω×r)+ω˙×r.\ddot{\boldsymbol{r}}=\boldsymbol{a}_b+2\boldsymbol{\omega}\times\boldsymbol{v}_b+\boldsymbol{\omega}\times(\boldsymbol{\omega}\times\boldsymbol{r})+\dot{\boldsymbol{\omega}}\times\boldsymbol{r}.

これを mr¨=Fm\ddot{\boldsymbol{r}}=\boldsymbol{F} に代入し、mabm\boldsymbol{a}_b 以外を右辺に移せば結論です。

コリオリ力は速度に垂直なので仕事をしません。遠心力 −mω×(ω×r)=mω2r⊥-m\boldsymbol{\omega}\times(\boldsymbol{\omega}\times\boldsymbol{r})=m\omega^2\boldsymbol{r}_\perp は軸から遠ざかる向き(r⊥\boldsymbol{r}_\perp は r\boldsymbol{r} の軸に垂直な成分)で、大きさは軸からの距離に比例します。両者は慣性力なので、相手になる反作用はありません。慣性系の観測者から見れば、これらの力は存在せず、物体が慣性運動を続けているだけです。

回転系の原点が慣性系に対して加速度 A0\boldsymbol{A}_0 で動く場合は、右辺にさらに −mA0-m\boldsymbol{A}_0 が加わります。この項の証明は r慣性系=R0(t)+r\boldsymbol{r}_{\text{慣性系}}=\boldsymbol{R}_0(t)+\boldsymbol{r} と置いて 2 回微分するだけなので、省略します。

例 2.4(落下する物体の東向きのずれ)

北緯 λ\lambda の地点で、高さ hh から物体を静かに落とします。地球の自転角速度 ω=7.292×10−5 s−1\omega=7.292\times10^{-5}\ \mathrm{s^{-1}} は、地表に固定した右手系(東 xx、北 yy、鉛直上 zz)で ω=ω(0,cos⁡λ,sin⁡λ)\boldsymbol{\omega}=\omega(0,\cos\lambda,\sin\lambda) と書けます。ω\omega の 1 次まで(遠心力は重力に繰り込み、ω2\omega^2 の項は捨てる)で、運動方程式は r¨=−gez−2ω×r˙\ddot{\boldsymbol{r}}=-g\boldsymbol{e}_z-2\boldsymbol{\omega}\times\dot{\boldsymbol{r}} です。

0 次の解は r˙(0)=(0,0,−gt)\dot{\boldsymbol{r}}^{(0)}=(0,0,-gt) です。これをコリオリ項に入れると

−2ω×r˙(0)=−2ω(0,cos⁡λ,sin⁡λ)×(0,0,−gt)=−2ωgt (−cos⁡λ,0,0)=(2ωgtcos⁡λ,0,0)-2\boldsymbol{\omega}\times\dot{\boldsymbol{r}}^{(0)}=-2\omega(0,\cos\lambda,\sin\lambda)\times(0,0,-gt)=-2\omega gt\,(-\cos\lambda,0,0)=(2\omega gt\cos\lambda,0,0)

なので、東向きの加速度 x¨=2ωgtcos⁡λ\ddot x=2\omega g t\cos\lambda が現れます。初期条件 x(0)=x˙(0)=0x(0)=\dot x(0)=0 で積分して x=13ωgt3cos⁡λx=\tfrac13\omega g t^3\cos\lambda です。落下時間は t=2h/gt=\sqrt{2h/g} なので

x=ωcos⁡λ3 g(2hg)3/2.x=\frac{\omega\cos\lambda}{3}\,g\left(\frac{2h}{g}\right)^{3/2}.

h=100 mh=100\ \mathrm{m}, λ=35∘\lambda=35^\circ, g=9.8 m/s2g=9.8\ \mathrm{m/s^2} とすると t=4.52 st=4.52\ \mathrm{s} で、x=13(7.292×10−5)(9.8)(92.0)(0.819)=1.8×10−2 mx=\tfrac13(7.292\times10^{-5})(9.8)(92.0)(0.819)=1.8\times10^{-2}\ \mathrm{m}、すなわち約 1.8 cm1.8\ \mathrm{cm} 東にずれます。

例 2.5(フーコーの振り子)

長い振り子の水平面内の微小振動を考えます。振動数 Ω0\Omega_0 の等方的な復元力があり、地表の鉛直成分 ωz=ωsin⁡λ\omega_z=\omega\sin\lambda だけを考慮すると(水平成分の寄与は小さいので無視します)、水平座標 (x,y)(x,y) は

x¨=−Ω02x+2ωzy˙,y¨=−Ω02y−2ωzx˙\ddot x=-\Omega_0^2x+2\omega_z\dot y,\qquad \ddot y=-\Omega_0^2y-2\omega_z\dot x

に従います。ζ=x+iy\zeta=x+iy と置くと ζ¨=−Ω02ζ−2iωzζ˙\ddot\zeta=-\Omega_0^2\zeta-2i\omega_z\dot\zeta です。ζ=e−iωztη\zeta=e^{-i\omega_zt}\eta とすると、ζ˙=e−iωzt(η˙−iωzη)\dot\zeta=e^{-i\omega_zt}(\dot\eta-i\omega_z\eta)、ζ¨=e−iωzt(η¨−2iωzη˙−ωz2η)\ddot\zeta=e^{-i\omega_zt}(\ddot\eta-2i\omega_z\dot\eta-\omega_z^2\eta) なので、方程式は

η¨−2iωzη˙−ωz2η=−Ω02η−2iωzη˙−2ωz2η  ⟺  η¨=−(Ω02+ωz2)η\ddot\eta-2i\omega_z\dot\eta-\omega_z^2\eta=-\Omega_0^2\eta-2i\omega_z\dot\eta-2\omega_z^2\eta \iff \ddot\eta=-\left(\Omega_0^2+\omega_z^2\right)\eta

になります。つまり η\eta は(わずかに修正された振動数の)普通の単振動で、実際の運動 ζ\zeta はそれを角速度 −ωz-\omega_z で回したものです。振動面は 1 周に T=2π/(ωsin⁡λ)=(24 時間)/sin⁡λT=2\pi/(\omega\sin\lambda)=(24\ \text{時間})/\sin\lambda かかります。北緯 35∘35^\circ では約 4242 時間です。振動面の回転は、地球が慣性空間に対して自転している直接の証拠です。

定義 3.1(剛体)↗

質点系 {(ma,ra)}a=1N\{(m_a,\boldsymbol{r}_a)\}_{a=1}^N が剛体であるとは、任意の 2 点間の距離 ∣ra−rb∣|\boldsymbol{r}_a-\boldsymbol{r}_b| が運動中に変わらないことをいう。このとき、基準配置 ra0\boldsymbol{r}_a^0 と、時刻 tt ごとの並進 X(t)\boldsymbol{X}(t) と回転 R(t)∈SO(3)R(t)\in SO(3) があって

ra(t)=X(t)+R(t) ra0\boldsymbol{r}_a(t)=\boldsymbol{X}(t)+R(t)\,\boldsymbol{r}_a^0

と書ける(3 点が同一直線上にないものを選べば、距離を保つ写像は剛体運動であることがわかる)。ra0\boldsymbol{r}_a^0 は物体系での座標である。

命題 3.2(剛体上の速度分布)✓

剛体の各点の速度は、V≡X˙\boldsymbol{V}\equiv\dot{\boldsymbol{X}} と 補題 2.1 の角速度ベクトル ω\boldsymbol{\omega} により

r˙a=V+ω×(ra−X)\dot{\boldsymbol{r}}_a=\boldsymbol{V}+\boldsymbol{\omega}\times(\boldsymbol{r}_a-\boldsymbol{X})

と表される。ω\boldsymbol{\omega} は点 aa によらない。

証明(命題 3.2)

r˙a=X˙+R˙ra0\dot{\boldsymbol{r}}_a=\dot{\boldsymbol{X}}+\dot R\boldsymbol{r}_a^0 で、ra0=RT(ra−X)\boldsymbol{r}_a^0=R^{\mathsf T}(\boldsymbol{r}_a-\boldsymbol{X}) を代入すると R˙ra0=R˙RT(ra−X)=ω×(ra−X)\dot R\boldsymbol{r}_a^0=\dot RR^{\mathsf T}(\boldsymbol{r}_a-\boldsymbol{X})=\boldsymbol{\omega}\times(\boldsymbol{r}_a-\boldsymbol{X}) です。ここで R˙RT\dot RR^{\mathsf T} は点 aa に依存しないので ω\boldsymbol{\omega} も依存しません。

この命題は、剛体の運動を「基準点の並進 V\boldsymbol{V}」と「そのまわりの角速度 ω\boldsymbol{\omega} の回転」に分解できることを意味します。基準点を取り替えても ω\boldsymbol{\omega} は変わらず、V\boldsymbol{V} だけが変わります。以下では基準点を、固定点がある場合はその固定点、自由な剛体では重心に選びます。

基準点 OO を原点とし、各質点の位置を ra\boldsymbol{r}_a とします。基準点が固定点(または重心系の原点)のとき、速度は r˙a=ω×ra\dot{\boldsymbol{r}}_a=\boldsymbol{\omega}\times\boldsymbol{r}_a です。

定義 4.1(慣性テンソル)↗

点 OO に関する質点系の慣性テンソルを、3×33\times3 行列

Iij=∑ama(∣ra∣2δij−xa,ixa,j)I_{ij}=\sum_am_a\left(|\boldsymbol{r}_a|^2\delta_{ij}-x_{a,i}x_{a,j}\right)

で定義する(連続体では ∑ama→∫ρ dV\sum_am_a\to\int\rho\,dV)。対角成分 I11=∑ma(ya2+za2)I_{11}=\sum m_a(y_a^2+z_a^2) などは各軸まわりの慣性モーメントである。

定理 4.2(角運動量と運動エネルギー)✓

点 OO を固定したまま角速度 ω\boldsymbol{\omega} で回る剛体について、OO まわりの角運動量 L=∑amara×r˙a\boldsymbol{L}=\sum_am_a\boldsymbol{r}_a\times\dot{\boldsymbol{r}}_a と運動エネルギー T=∑a12ma∣r˙a∣2T=\sum_a\tfrac12m_a|\dot{\boldsymbol{r}}_a|^2 は

L=Iω,T=12 ω⋅Iω\boldsymbol{L}=I\boldsymbol{\omega},\qquad T=\tfrac12\,\boldsymbol{\omega}\cdot I\boldsymbol{\omega}

と表される。

証明(定理 4.2)

r˙a=ω×ra\dot{\boldsymbol{r}}_a=\boldsymbol{\omega}\times\boldsymbol{r}_a と公式 a×(b×c)=b(a⋅c)−c(a⋅b)\boldsymbol{a}\times(\boldsymbol{b}\times\boldsymbol{c})=\boldsymbol{b}(\boldsymbol{a}\cdot\boldsymbol{c})-\boldsymbol{c}(\boldsymbol{a}\cdot\boldsymbol{b}) から

L=∑ama ra×(ω×ra)=∑ama(∣ra∣2ω−(ra⋅ω)ra).\boldsymbol{L}=\sum_am_a\,\boldsymbol{r}_a\times(\boldsymbol{\omega}\times\boldsymbol{r}_a)=\sum_am_a\left(|\boldsymbol{r}_a|^2\boldsymbol{\omega}-(\boldsymbol{r}_a\cdot\boldsymbol{\omega})\boldsymbol{r}_a\right).

第 ii 成分は ∑ama(∣ra∣2ωi−xa,i∑jxa,jωj)=∑jIijωj\sum_am_a(|\boldsymbol{r}_a|^2\omega_i-x_{a,i}\sum_jx_{a,j}\omega_j)=\sum_jI_{ij}\omega_j です。エネルギーは ∣ω×r∣2=∣ω∣2∣r∣2−(ω⋅r)2|\boldsymbol{\omega}\times\boldsymbol{r}|^2=|\boldsymbol{\omega}|^2|\boldsymbol{r}|^2-(\boldsymbol{\omega}\cdot\boldsymbol{r})^2 より

T=12∑ama(∣ω∣2∣ra∣2−(ω⋅ra)2)=12∑ijωiIijωjT=\tfrac12\sum_am_a\left(|\boldsymbol{\omega}|^2|\boldsymbol{r}_a|^2-(\boldsymbol{\omega}\cdot\boldsymbol{r}_a)^2\right)=\tfrac12\sum_{ij}\omega_iI_{ij}\omega_j

です。

一般に L\boldsymbol{L} と ω\boldsymbol{\omega} は平行ではありません。平行になるのは ω\boldsymbol{\omega} が II の固有ベクトルのときだけです。

命題 4.3(主軸)✓

慣性テンソル II は実対称行列で、ω⋅Iω=∑ama∣ω×ra∣2≥0\boldsymbol{\omega}\cdot I\boldsymbol{\omega}=\sum_am_a|\boldsymbol{\omega}\times\boldsymbol{r}_a|^2\ge0 を満たす(半正定値)。したがって正規直交基底 e1,e2,e3\boldsymbol{e}_1,\boldsymbol{e}_2,\boldsymbol{e}_3 が存在して、その基底で I=diag(I1,I2,I3)I=\mathrm{diag}(I_1,I_2,I_3)、Ik≥0I_k\ge0 となる。この軸を主軸、IkI_k を主慣性モーメントという。さらに、全質点が一直線上にない限り Ik>0I_k>0 であり、I1+I2≥I3I_1+I_2\ge I_3 などの三角不等式が成り立つ。

証明(命題 4.3)

対称性は定義から明らかです。ω⋅Iω=∑ma∣ω×ra∣2\boldsymbol{\omega}\cdot I\boldsymbol{\omega}=\sum m_a|\boldsymbol{\omega}\times\boldsymbol{r}_a|^2 は 定理 4.2 の証明の中で示しました。実対称行列は直交行列で対角化できるので(系 4.3[スペクトル定理])、主軸が存在し、固有値は半正定値性から Ik≥0I_k\ge0 です。Ik=0I_k=0 ならば、すべての aa で ek×ra=0\boldsymbol{e}_k\times\boldsymbol{r}_a=\boldsymbol{0}、すなわち全質点が ek\boldsymbol{e}_k を通る直線上にあります。主軸の座標では Ik=∑ma(他の 2 座標の 2 乗の和)I_k=\sum m_a(\text{他の 2 座標の 2 乗の和}) なので、I1+I2−I3=2∑amaza2≥0I_1+I_2-I_3=2\sum_am_az_a^2\ge0 です(zz は e3\boldsymbol{e}_3 方向の座標)。

実際の計算では次の 2 つの定理が便利です。重心 RG=1M∑mara\boldsymbol{R}_G=\frac1M\sum m_a\boldsymbol{r}_a(M=∑maM=\sum m_a)を使います。

定理 4.4(平行軸の定理と運動エネルギーの分解)✓

重心まわりの慣性テンソルを IGI^{G}、点 OO から見た重心の位置ベクトルを d\boldsymbol{d} と置く。このとき

  1. IijO=IijG+M(∣d∣2δij−didj)I^{O}_{ij}=I^{G}_{ij}+M\left(|\boldsymbol{d}|^2\delta_{ij}-d_id_j\right)(平行軸の定理)。
  2. 重心の速度を V\boldsymbol{V}、重心まわりの角速度を ω\boldsymbol{\omega} とするとき、運動エネルギーは T=12M∣V∣2+12ω⋅IGωT=\tfrac12M|\boldsymbol{V}|^2+\tfrac12\boldsymbol{\omega}\cdot I^{G}\boldsymbol{\omega} である。
証明(定理 4.4)
  1. ra=d+ra′\boldsymbol{r}_a=\boldsymbol{d}+\boldsymbol{r}_a' と書くと、ra′\boldsymbol{r}'_a は重心からの位置で ∑mara′=0\sum m_a\boldsymbol{r}_a'=\boldsymbol{0} です。∣ra∣2δij−xixj|\boldsymbol{r}_a|^2\delta_{ij}-x_ix_j に代入して展開すると、d\boldsymbol{d} と ra′\boldsymbol{r}_a' の混合項は ∑mara′=0\sum m_a\boldsymbol{r}'_a=\boldsymbol{0} を掛けた形になって消え、d\boldsymbol{d} のみの項が M(∣d∣2δij−didj)M(|\boldsymbol{d}|^2\delta_{ij}-d_id_j)、r′\boldsymbol{r}' のみの項が IijGI^G_{ij} になります。
  2. 命題 3.2 より r˙a=V+ω×ra′\dot{\boldsymbol{r}}_a=\boldsymbol{V}+\boldsymbol{\omega}\times\boldsymbol{r}'_a なので、T=12M∣V∣2+V⋅(ω×∑mara′)+12∑ma∣ω×ra′∣2T=\tfrac12M|\boldsymbol{V}|^2+\boldsymbol{V}\cdot(\boldsymbol{\omega}\times\sum m_a\boldsymbol{r}_a')+\tfrac12\sum m_a|\boldsymbol{\omega}\times\boldsymbol{r}_a'|^2 です。中央の項は ∑mara′=0\sum m_a\boldsymbol{r}_a'=\boldsymbol{0} で消え、最後の項は 定理 4.2 により 12ω⋅IGω\tfrac12\boldsymbol{\omega}\cdot I^G\boldsymbol{\omega} です。

例 4.5(棒と球の慣性モーメント)

長さ ℓ\ell、質量 MM の一様な細い棒の、中心を通り棒に垂直な軸まわりの慣性モーメントは ∫−ℓ/2ℓ/2Mℓs2ds=Mℓ212\int_{-\ell/2}^{\ell/2}\frac{M}{\ell}s^2ds=\frac{M\ell^2}{12} です。端を通る平行な軸まわりは、平行軸の定理(d=ℓ/2d=\ell/2)で Mℓ212+Mℓ24=Mℓ23\frac{M\ell^2}{12}+M\frac{\ell^2}{4}=\frac{M\ell^2}{3} になります。

半径 RR、質量 MM の一様な球では、球対称性から Ixx=Iyy=IzzI_{xx}=I_{yy}=I_{zz} なので、Izz=∫ρ(x2+y2)dV=23∫ρr2dVI_{zz}=\int\rho(x^2+y^2)dV=\frac23\int\rho r^2dV(x2,y2,z2x^2,y^2,z^2 の平均が等しいため)です。右辺は 23ρ⋅4π∫0Rr4dr=8πρR515\frac23\rho\cdot4\pi\int_0^Rr^4dr=\frac{8\pi\rho R^5}{15} で、M=4π3ρR3M=\frac{4\pi}{3}\rho R^3 を使うと I=25MR2I=\frac25MR^2 になります。

例 4.6(立方体の頂点まわり)

一様な立方体(質量 MM、1 辺 aa)の重心まわりの慣性テンソルは、3 軸が対等なので IG=Ma26EI^G=\frac{Ma^2}{6}E(等方的)です。頂点まわりでは d=a2(1,1,1)\boldsymbol{d}=\frac a2(1,1,1)、∣d∣2=3a24|\boldsymbol{d}|^2=\frac{3a^2}{4} を 定理 4.4 に代入します。対角成分は Ma26+M(3a24−a24)=2Ma23\frac{Ma^2}{6}+M(\frac{3a^2}{4}-\frac{a^2}{4})=\frac{2Ma^2}{3}、非対角成分は −Ma24-M\frac{a^2}{4} です。主軸は体対角線方向(主慣性モーメント Ma26\frac{Ma^2}{6})とそれに垂直な任意の方向(11Ma212\frac{11Ma^2}{12}、2 重)になります。

回転運動を決める式は、角運動量と力のモーメントの関係です。

命題 5.1(角運動量の方程式)✓

質点系の内力が作用反作用の法則(公理 3.4[ニュートン力学の基礎])を満たし、さらに 2 質点を結ぶ直線上に働くとき、固定点(または重心)に関する角運動量 L\boldsymbol{L} は、外力のモーメントの和 N=∑ara×Faext\boldsymbol{N}=\sum_a\boldsymbol{r}_a\times\boldsymbol{F}^{\text{ext}}_a により L˙=N\dot{\boldsymbol{L}}=\boldsymbol{N} を満たす。

証明(命題 5.1)

L˙=∑a(r˙a×mar˙a+ra×mar¨a)=∑ara×Fa\dot{\boldsymbol{L}}=\sum_a(\dot{\boldsymbol{r}}_a\times m_a\dot{\boldsymbol{r}}_a+\boldsymbol{r}_a\times m_a\ddot{\boldsymbol{r}}_a)=\sum_a\boldsymbol{r}_a\times\boldsymbol{F}_a で、Fa\boldsymbol{F}_a を外力と内力 Fab\boldsymbol{F}_{ab} に分けます。内力の和は ∑a<b(ra−rb)×Fab\sum_{a<b}(\boldsymbol{r}_a-\boldsymbol{r}_b)\times\boldsymbol{F}_{ab} にまとまり(Fba=−Fab\boldsymbol{F}_{ba}=-\boldsymbol{F}_{ab})、Fab∥ra−rb\boldsymbol{F}_{ab}\parallel\boldsymbol{r}_a-\boldsymbol{r}_b なので 00 です。重心を基準にする場合は、重心系での位置 ra′\boldsymbol{r}'_a を使って同じ計算をします。重心の加速度による項は ∑mara′=0\sum m_a\boldsymbol{r}'_a=\boldsymbol{0} により消えます。

物体系の基底として主軸 ek\boldsymbol{e}_k をとります。物体系の成分を ωk,Lk,Nk\omega_k,L_k,N_k とすると、Lk=IkωkL_k=I_k\omega_k です。

定理 5.2(オイラーの運動方程式)✓

主軸に固定した物体系で、固定点まわり(または重心まわり)の回転は

I1ω˙1−(I2−I3) ω2ω3=N1,I2ω˙2−(I3−I1) ω3ω1=N2,I3ω˙3−(I1−I2) ω1ω2=N3\begin{aligned} I_1\dot\omega_1-(I_2-I_3)\,\omega_2\omega_3&=N_1,\\ I_2\dot\omega_2-(I_3-I_1)\,\omega_3\omega_1&=N_2,\\ I_3\dot\omega_3-(I_1-I_2)\,\omega_1\omega_2&=N_3 \end{aligned}

に従う。ここで ωk\omega_k, NkN_k は主軸方向の成分である。

証明(定理 5.2)

定理 2.2 を a=L\boldsymbol{a}=\boldsymbol{L} に使うと、N=L˙=(dL/dt)b+ω×L\boldsymbol{N}=\dot{\boldsymbol{L}}=(d\boldsymbol{L}/dt)_b+\boldsymbol{\omega}\times\boldsymbol{L} です(命題 5.1)。物体系の成分では (dL/dt)b=(I1ω˙1,I2ω˙2,I3ω˙3)(d\boldsymbol{L}/dt)_b=(I_1\dot\omega_1,I_2\dot\omega_2,I_3\dot\omega_3) です(IkI_k は物体に固定した主軸では定数)。また ω×L\boldsymbol{\omega}\times\boldsymbol{L} の第 1 成分は ω2L3−ω3L2=(I3−I2)ω2ω3\omega_2L_3-\omega_3L_2=(I_3-I_2)\omega_2\omega_3 で、他の成分も添字の巡回で得られます。これを移項すれば結論です。

力のモーメントが N=0\boldsymbol{N}=\boldsymbol{0} の自由な剛体では、L\boldsymbol{L} は慣性系で一定で、∣L∣2=∑Ik2ωk2|\boldsymbol{L}|^2=\sum I_k^2\omega_k^2 と T=12∑Ikωk2T=\frac12\sum I_k\omega_k^2 が保存します。最も簡単な場合から見てみましょう。

定理 5.3(自由な対称コマの角速度)✓

I1=I2≠I3I_1=I_2\ne I_3 で N=0\boldsymbol{N}=\boldsymbol{0} のとき、ω3\omega_3 は定数で、(ω1,ω2)(\omega_1,\omega_2) は物体系で角速度

Ω=I3−I1I1 ω3\Omega=\frac{I_3-I_1}{I_1}\,\omega_3

で回転する。すなわち ω1+iω2=(ω1+iω2)∣t=0 eiΩt\omega_1+i\omega_2=(\omega_1+i\omega_2)|_{t=0}\,e^{i\Omega t} である。

証明(定理 5.3)

定理 5.2 の第 3 式は I3ω˙3=0I_3\dot\omega_3=0 となり ω3\omega_3 は定数です。第 1・2 式は ω˙1=−Ωω2\dot\omega_1=-\Omega\omega_2、ω˙2=Ωω1\dot\omega_2=\Omega\omega_1 です。ζ=ω1+iω2\zeta=\omega_1+i\omega_2 とすると ζ˙=−Ωω2+iΩω1=iΩζ\dot\zeta=-\Omega\omega_2+i\Omega\omega_1=i\Omega\zeta なので ζ=ζ(0)eiΩt\zeta=\zeta(0)e^{i\Omega t} です。

例 5.4(地球の自由章動)

地球を回転軸(33 軸)まわりの扁平な回転楕円体とみなすと、(I3−I1)/I1≈1/305(I_3-I_1)/I_1\approx1/305 です。定理 5.3 によれば、地球に固定した座標系で見た自転軸(ω\boldsymbol{\omega})は、周期 2π/Ω2\pi/\Omega(ω3\omega_3 が 1 日に 1 回転の角速度なので約 305305 恒星日)で図形軸のまわりを回ります。これはオイラーが 18 世紀に予測した周期です。実際に観測される極運動の周期は約 433433 日(チャンドラー極運動)で予測より長く、これは地球が完全な剛体でなく弾性変形するためと説明されています。

次の定理は、ほぼ 1 つの主軸のまわりに回っている自由な剛体で、軸からのわずかなずれが時間とともに大きくならずに揺れるだけか、どんどん大きくなるかを調べます。ずれが小さい間は、ずれ同士の積の項を無視して線形の方程式にし、その解の型で判定します。

定理 5.5(自由剛体の主軸まわりの回転の安定性)✓

I1,I2,I3I_1,I_2,I_3 が相異なる自由な剛体が、第 1 主軸のまわりに角速度 ω1=Ω0≠0\omega_1=\Omega_0\ne0 で回転しているとする。この回転に小さな摂動 ω2,ω3\omega_2,\omega_3 を加えると、ω2,ω3\omega_2,\omega_3 の 1 次の近似では

  • (I1−I2)(I1−I3)>0(I_1-I_2)(I_1-I_3)>0、すなわち I1I_1 が最大または最小のとき、摂動は振動し(線形安定)、
  • (I1−I2)(I1−I3)<0(I_1-I_2)(I_1-I_3)<0、すなわち I1I_1 が中間のとき、摂動は指数関数的に増大する(不安定)。
証明(定理 5.5)

定理 5.2 で N=0\boldsymbol{N}=\boldsymbol{0} とし、ω2,ω3\omega_2,\omega_3 の 2 次の項を無視すると、第 1 式は I1ω˙1≈0I_1\dot\omega_1\approx0 で ω1=Ω0\omega_1=\Omega_0 は一定です。残りは

I2ω˙2=(I3−I1)Ω0ω3,I3ω˙3=(I1−I2)Ω0ω2I_2\dot\omega_2=(I_3-I_1)\Omega_0\omega_3,\qquad I_3\dot\omega_3=(I_1-I_2)\Omega_0\omega_2

です。第 1 式を微分して第 2 式を代入すると

ω¨2=(I3−I1)(I1−I2)I2I3 Ω02 ω2=−(I1−I3)(I1−I2)I2I3 Ω02 ω2\ddot\omega_2=\frac{(I_3-I_1)(I_1-I_2)}{I_2I_3}\,\Omega_0^2\,\omega_2=-\frac{(I_1-I_3)(I_1-I_2)}{I_2I_3}\,\Omega_0^2\,\omega_2

となります。(I1−I2)(I1−I3)>0(I_1-I_2)(I_1-I_3)>0 なら係数は負で ω2\omega_2 は単振動し、ω3\omega_3 も同じ振動数で振動します。<0<0 なら指数関数的な成長と減衰が現れ、一般の初期条件では成長する成分が混じります。

注意 5.6

最大・最小の軸の安定性は線形近似だけでなく、保存量 ∣L∣2|\boldsymbol{L}|^2 と TT を使って非線形にも示せます。ω\omega 空間で、2T=∑Ikωk22T=\sum I_k\omega_k^2 の楕円体と ∣L∣2=∑Ik2ωk2|\boldsymbol{L}|^2=\sum I_k^2\omega_k^2 の楕円体の共通部分(ポルホード)が軌道です。最大・最小の軸の近くでは共通部分は軸を囲む閉曲線ですが、中間の軸の近くでは 2 つの閉曲線が交わる鞍点の構造になり、軌道が遠くまで離れていきます。

例 5.7(テニスラケット定理)

テニスラケットのように 3 つの主慣性モーメントが異なる物体を投げ上げて、中間の主軸(ガット面内でグリップに垂直な軸)まわりに回すと、定理 5.5 により回転軸は不安定です。実際に試すと、物体は小さな初期の乱れから、周期的に半回転してひっくり返りながら回ります。最大・最小の軸まわりではこのようなひっくり返りは起こりません。

最後に、固定点をもつ対称コマ(I1=I2≠I3I_1=I_2\ne I_3)が重力を受ける場合を調べます。支点 OO から重心までの距離を ll、質量を MM とします。オイラーの運動方程式は物体系に固定した N\boldsymbol{N} の成分が必要で扱いにくいので、ここではラグランジュ形式を使います。

6.1. オイラー角とラグランジアン

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物体系を空間系に重ねた状態から、(1) 鉛直軸 zz のまわりに角 ϕ\phi、(2) 回転後の xx 軸(節線)のまわりに角 θ\theta、(3) さらに回転後の zz 軸(対称軸 e3\boldsymbol{e}_3)のまわりに角 ψ\psi 回すと、任意の向きが実現できます。この (ϕ,θ,ψ)(\phi,\theta,\psi) をオイラー角といい、R=Rz(ϕ)Rx(θ)Rz(ψ)R=R_z(\phi)R_x(\theta)R_z(\psi) です。θ\theta は鉛直軸と対称軸のなす角(章動)、ϕ˙\dot\phi は鉛直軸まわりの回転(歳差)、ψ˙\dot\psi は対称軸まわりの自転を表します。

鉛直軸 z対称軸 e3θφ の回転(歳差)支点 Oψ は e3 まわり
重力下の対称コマの座標:鉛直軸と対称軸のなす角 θ(章動)、鉛直軸まわりの回転 φ(歳差)、対称軸まわりの自転 ψ

次の補題の狙いは、3 つのオイラー角の変化率 ϕ˙,θ˙,ψ˙\dot\phi,\dot\theta,\dot\psi から、物体系で見た角速度の成分 ω1,ω2,ω3\omega_1,\omega_2,\omega_3 を求めることです。これが分かれば運動エネルギーをオイラー角で書けます。有限の回転は順序を入れ替えると結果が変わりますが、ここで足すのは各瞬間の回転の速さなので、1 次の近似では順序によらず、3 つの角速度ベクトルの和で表せます。

補題 6.1(オイラー角と角速度)✓

角速度ベクトルは ω=ϕ˙ ez+θ˙ eN+ψ˙ e3\boldsymbol{\omega}=\dot\phi\,\boldsymbol{e}_z+\dot\theta\,\boldsymbol{e}_N+\dot\psi\,\boldsymbol{e}_3 であり(eN\boldsymbol{e}_N は節線方向の単位ベクトル)、物体系の成分は

ω1=ϕ˙sin⁡θsin⁡ψ+θ˙cos⁡ψ,ω2=ϕ˙sin⁡θcos⁡ψ−θ˙sin⁡ψ,ω3=ϕ˙cos⁡θ+ψ˙\begin{aligned} \omega_1&=\dot\phi\sin\theta\sin\psi+\dot\theta\cos\psi,\\ \omega_2&=\dot\phi\sin\theta\cos\psi-\dot\theta\sin\psi,\\ \omega_3&=\dot\phi\cos\theta+\dot\psi \end{aligned}

である。特に ω12+ω22=θ˙2+ϕ˙2sin⁡2θ\omega_1^2+\omega_2^2=\dot\theta^2+\dot\phi^2\sin^2\theta が成り立つ。

証明(補題 6.1)

3 つの回転は順に、軸 ez\boldsymbol{e}_z まわり ϕ˙\dot\phi、軸 eN\boldsymbol{e}_N まわり θ˙\dot\theta、軸 e3\boldsymbol{e}_3 まわり ψ˙\dot\psi の角速度を与えます。微小時間の回転は交換するので(1 次の近似では)、角速度ベクトルは和になります。物体系の成分は RTezR^{\mathsf T}\boldsymbol{e}_z などを計算すれば得られます。RTez=Rz(−ψ)Rx(−θ)ezR^{\mathsf T}\boldsymbol{e}_z=R_z(-\psi)R_x(-\theta)\boldsymbol{e}_z で、Rx(−θ)ez=(0,sin⁡θ,cos⁡θ)R_x(-\theta)\boldsymbol{e}_z=(0,\sin\theta,\cos\theta)、これを Rz(−ψ)R_z(-\psi) で回すと (sin⁡θsin⁡ψ,sin⁡θcos⁡ψ,cos⁡θ)(\sin\theta\sin\psi,\sin\theta\cos\psi,\cos\theta) です。また eN=Rz(ϕ)ex\boldsymbol{e}_N=R_z(\phi)\boldsymbol{e}_x に対し RTeN=Rz(−ψ)ex=(cos⁡ψ,−sin⁡ψ,0)R^{\mathsf T}\boldsymbol{e}_N=R_z(-\psi)\boldsymbol{e}_x=(\cos\psi,-\sin\psi,0)、e3\boldsymbol{e}_3 の成分は (0,0,1)(0,0,1) です。係数をまとめると上の式になります。ω12+ω22\omega_1^2+\omega_2^2 の交差項は 2ϕ˙θ˙sin⁡θ(sin⁡ψcos⁡ψ−cos⁡ψsin⁡ψ)=02\dot\phi\dot\theta\sin\theta(\sin\psi\cos\psi-\cos\psi\sin\psi)=0 で消えます。

運動エネルギーは 定理 4.2 により T=12I1(ω12+ω22)+12I3ω32T=\tfrac12I_1(\omega_1^2+\omega_2^2)+\tfrac12I_3\omega_3^2、位置エネルギーは U=Mglcos⁡θU=Mgl\cos\theta です。したがってラグランジアンは

L=12I1(θ˙2+ϕ˙2sin⁡2θ)+12I3(ψ˙+ϕ˙cos⁡θ)2−Mglcos⁡θL=\tfrac12I_1\left(\dot\theta^2+\dot\phi^2\sin^2\theta\right)+\tfrac12I_3\left(\dot\psi+\dot\phi\cos\theta\right)^2-Mgl\cos\theta

です。

LL は ϕ\phi と ψ\psi を陽に含まない(循環座標)うえ、時間にも陽によらないので、命題 6.2[ラグランジュ形式の力学] と 命題 6.4[ラグランジュ形式の力学] により、3 つの保存量があります。ここで pψ,pϕp_\psi,p_\phi はそれぞれ ψ,ϕ\psi,\phi に対応する運動量(∂L/∂ψ˙\partial L/\partial\dot\psi, ∂L/∂ϕ˙\partial L/\partial\dot\phi)です。3 つの変数のうち 2 つが保存量で押さえられるので、残る θ\theta だけの 1 変数の問題になる、というのが次の定理の狙いです。

pψ=I3ω3,pϕ=I1ϕ˙sin⁡2θ+I3ω3cos⁡θ,E=T+U.p_\psi=I_3\omega_3,\qquad p_\phi=I_1\dot\phi\sin^2\theta+I_3\omega_3\cos\theta,\qquad E=T+U.

定理 6.2(対称コマの 1 次元問題への帰着)✓

u=cos⁡θu=\cos\theta と置き、E′=E−pψ22I3E'=E-\dfrac{p_\psi^2}{2I_3} とする。∣u∣<1|u|<1 のとき、対称コマの運動は

u˙2=f(u)≡(1−u2)(2E′−2Mgl u)I1−(pϕ−pψu)2I12,ϕ˙=pϕ−pψuI1(1−u2)\dot u^2=f(u)\equiv\frac{(1-u^2)(2E'-2Mgl\,u)}{I_1}-\frac{(p_\phi-p_\psi u)^2}{I_1^2},\qquad \dot\phi=\frac{p_\phi-p_\psi u}{I_1(1-u^2)}

に帰着する。ff は uu の 3 次式である。

証明(定理 6.2)

pϕ=I1ϕ˙sin⁡2θ+pψcos⁡θp_\phi=I_1\dot\phi\sin^2\theta+p_\psi\cos\theta から ϕ˙=(pϕ−pψu)/(I1(1−u2))\dot\phi=(p_\phi-p_\psi u)/(I_1(1-u^2)) です。エネルギーは E=12I1θ˙2+12I1ϕ˙2sin⁡2θ+pψ22I3+Mgl uE=\frac12I_1\dot\theta^2+\frac12I_1\dot\phi^2\sin^2\theta+\frac{p_\psi^2}{2I_3}+Mgl\,u なので、

I1θ˙2=2E′−2Mgl u−I1ϕ˙2(1−u2)=2E′−2Mgl u−(pϕ−pψu)2I1(1−u2).I_1\dot\theta^2=2E'-2Mgl\,u-I_1\dot\phi^2(1-u^2)=2E'-2Mgl\,u-\frac{(p_\phi-p_\psi u)^2}{I_1(1-u^2)}.

u˙=−sin⁡θ θ˙\dot u=-\sin\theta\,\dot\theta より u˙2=(1−u2)θ˙2\dot u^2=(1-u^2)\dot\theta^2 なので、両辺に (1−u2)/I1(1-u^2)/I_1 を掛ければ結論です。ff が 3 次式であることは、展開した最高次が 2Mgl u3/I12Mgl\,u^3/I_1 であることから明らかです。

f(u)≥0f(u)\ge0 を満たす区間が運動の許される範囲で、その両端 u1<u2u_1<u_2 の間を θ\theta が往復します(章動)。時間は t=∫du/f(u)t=\int du/\sqrt{f(u)} という楕円積分(3 次式や 4 次式の平方根を含む積分で、一般には初等関数では表せません)で与えられます。

コマが真っ直ぐ立って回る状態(θ=0\theta=0、スリーピングトップ)は、自転が十分速いときだけ安定です。

証明の方針は、真っ直ぐ立った状態からのわずかな傾きを s=1−cos⁡θs=1-\cos\theta(小さい量)で表し、前の定理の f(s)f(s) を ss の 2 次まで残して調べることです。ss が小さいので 3 次以上の項は 2 次に比べて無視でき、f≥0f\ge0 を満たす ss の範囲が小さいままか、大きく広がるかで安定性を判定します。

定理 6.3(眠りゴマの安定条件)✓

I1,I3,M,g,l>0I_1,I_3,M,g,l>0 とする。θ=0\theta=0 で角速度 ω3\omega_3 で回るコマは、pψ2=(I3ω3)2>4I1Mglp_\psi^2=(I_3\omega_3)^2>4I_1Mgl ならば(線形の意味で)安定、(I3ω3)2<4I1Mgl(I_3\omega_3)^2<4I_1Mgl ならば不安定である。

証明(定理 6.3)

θ=0\theta=0 の運動では ϕ˙\dot\phi が有限である条件から pϕ=pψ≡pp_\phi=p_\psi\equiv p、また u=1u=1 で f(1)=0f(1)=0 より E′=MglE'=Mgl です。摂動した運動では、保存量が E′=Mgl+εE'=Mgl+\varepsilon, pϕ=p+δp_\phi=p+\delta(ε,δ\varepsilon,\delta は小さい)になります。s=1−u≥0s=1-u\ge0 と置くと、1−u2=s(2−s)≈2s1-u^2=s(2-s)\approx2s、pϕ−pψu=δ+psp_\phi-p_\psi u=\delta+ps なので、ss の 2 次まで取ると

f≈2s(2ε+2Mgl s)I1−(δ+ps)2I12=κs2+bs−δ2I12,κ=4MglI1−p2I12,  b=4εI1−2δpI12f\approx\frac{2s(2\varepsilon+2Mgl\,s)}{I_1}-\frac{(\delta+ps)^2}{I_1^2}=\kappa s^2+bs-\frac{\delta^2}{I_1^2}, \qquad \kappa=\frac{4Mgl}{I_1}-\frac{p^2}{I_1^2},\ \ b=\frac{4\varepsilon}{I_1}-\frac{2\delta p}{I_1^2}

です。運動は s˙2=f≥0\dot s^2=f\ge0 の範囲に限られます。

κ<0\kappa<0(p2>4I1Mglp^2>4I_1Mgl)なら、f=−∣κ∣s2+bs−δ2/I12f=-|\kappa|s^2+bs-\delta^2/I_1^2 は上に凸の放物線で、f≥0f\ge0 となる ss の範囲は 2 つの根の間 s−≤s≤s+s_-\le s\le s_+、s±=b±b2−4∣κ∣δ2/I122∣κ∣s_\pm=\dfrac{b\pm\sqrt{b^2-4|\kappa|\delta^2/I_1^2}}{2|\kappa|} です(運動が実際に存在するためには、判別式が非負で b>0b>0 でなければなりません。δ=0\delta=0 なら s−=0s_-=0 です)。根号の中身は b2b^2 以下なので s+≤b/∣κ∣s_+\le b/|\kappa| で、bb は ε,δ\varepsilon,\delta の 1 次式ですから、s+s_+ は摂動に比例して小さくなります。したがって摂動が小さければ傾きも小さいままで、安定です。

κ>0\kappa>0 なら ff は ss が大きいほど正で、傾きは s˙2≈κs2\dot s^2\approx\kappa s^2 のように指数関数的に成長します。小さな摂動でも倒れ始めるので不安定です。

自転が速いと眠りゴマが安定という結果は、日常のコマが回っている間は立っており、回転が遅くなると傾いて倒れていくこととよく合います。

例 6.4(速いコマの規則歳差)

θ=θ0\theta=\theta_0 を保つ運動(θ\theta の運動方程式で θ¨=0\ddot\theta=0)を考えます。ラグランジュ方程式 ddt∂L∂θ˙=∂L∂θ\dfrac{d}{dt}\dfrac{\partial L}{\partial\dot\theta}=\dfrac{\partial L}{\partial\theta} は、

I1θ¨=I1ϕ˙2sin⁡θcos⁡θ−I3ω3ϕ˙sin⁡θ+Mglsin⁡θI_1\ddot\theta=I_1\dot\phi^2\sin\theta\cos\theta-I_3\omega_3\dot\phi\sin\theta+Mgl\sin\theta

です。θ¨=0\ddot\theta=0, sin⁡θ0≠0\sin\theta_0\ne0 とすると、ϕ˙\dot\phi に関する 2 次方程式 I1cos⁡θ0 ϕ˙2−I3ω3ϕ˙+Mgl=0I_1\cos\theta_0\,\dot\phi^2-I_3\omega_3\dot\phi+Mgl=0 を得ます。I3ω3I_3\omega_3 が大きいとき、遅い方の解は ϕ˙≈MglI3ω3\dot\phi\approx\dfrac{Mgl}{I_3\omega_3} です。つまり歳差の角速度は重力のモーメントに比例し、自転が速いほど遅くなります。

演習 7.1易

質量 MM、半径 RR の一様な薄い円板について、(1) 中心を通り円板に垂直な軸、(2) 円板の面内で中心を通る軸、(3) 円板の縁の 1 点を通り円板に垂直な軸、のまわりの慣性モーメントを求めてください。

解答

(1) 面密度 σ=M/(πR2)\sigma=M/(\pi R^2) として、I=∫0Rσr2⋅2πr dr=πσR42=12MR2I=\int_0^R\sigma r^2\cdot2\pi r\,dr=\frac{\pi\sigma R^4}{2}=\frac12MR^2 です。 (2) 円板の面内の 2 軸(x,yx,y)まわりの値は対称性で等しく、垂直軸まわりの値は Ix+IyI_x+I_y(平面の物体は z=0z=0 なので Iz=∑m(x2+y2)=Ix+IyI_z=\sum m(x^2+y^2)=I_x+I_y)に等しいので、Ix=14MR2I_x=\frac14MR^2 です。 (3) 平行軸の定理(定理 4.4)で d=Rd=R として 12MR2+MR2=32MR2\frac12MR^2+MR^2=\frac32MR^2 です。

演習 7.2標準

北緯 35∘35^\circ の地表で、水平に北向きに速さ v=300 m/sv=300\ \mathrm{m/s} で飛ぶ物体に働くコリオリ加速度の水平成分の大きさと向きを求めてください。ω=7.29×10−5 s−1\omega=7.29\times10^{-5}\ \mathrm{s^{-1}}, sin⁡35∘=0.574\sin35^\circ=0.574 とします。

解答

座標を東 xx、北 yy、鉛直上 zz とすると ω=ω(0,cos⁡λ,sin⁡λ)\boldsymbol{\omega}=\omega(0,\cos\lambda,\sin\lambda)、v=(0,v,0)\boldsymbol{v}=(0,v,0) です。コリオリ加速度は

−2ω×v=−2ωv (0,cos⁡λ,sin⁡λ)×(0,1,0)=−2ωv (−sin⁡λ,0,0)=(2ωvsin⁡λ,0,0)-2\boldsymbol{\omega}\times\boldsymbol{v}=-2\omega v\,(0,\cos\lambda,\sin\lambda)\times(0,1,0)=-2\omega v\,(-\sin\lambda,0,0)=(2\omega v\sin\lambda,0,0)

です。大きさは 2×7.29×10−5×300×0.574=2.51×10−2 m/s22\times7.29\times10^{-5}\times300\times0.574=2.51\times10^{-2}\ \mathrm{m/s^2} で、東向き(進行方向に対して右)です。鉛直成分はこの場合ありません。

演習 7.3標準

例 4.6 の立方体の頂点まわりの慣性テンソルを具体的に行列で書き、体対角線方向のベクトル (1,1,1)(1,1,1) が主軸であることを確かめ、その主慣性モーメントを求めてください。

解答

aa を単位にして I=Ma2(2/3−1/4−1/4−1/42/3−1/4−1/4−1/42/3)I=Ma^2\begin{pmatrix}2/3&-1/4&-1/4\\-1/4&2/3&-1/4\\-1/4&-1/4&2/3\end{pmatrix} です。(1,1,1)T(1,1,1)^{\mathsf T} に掛けると各成分が 2/3−1/4−1/4=1/62/3-1/4-1/4=1/6 なので、固有ベクトルで固有値(主慣性モーメント)は Ma2/6Ma^2/6 です。これはトレース 2Ma22Ma^2 から残り 2 つの固有値の和が 2Ma2−Ma2/6=11Ma2/62Ma^2-Ma^2/6=11Ma^2/6 となり、等しい 11Ma2/1211Ma^2/12 であることと整合します。

演習 7.4難

質量 M=0.050 kgM=0.050\ \mathrm{kg}、半径 R=0.020 mR=0.020\ \mathrm{m} の一様な円板が、中心を貫く対称軸上の先端を床に接して回るコマになっています。先端から円板の中心までの距離は l=0.030 ml=0.030\ \mathrm{m} です(棒の質量は無視)。(1) I3I_3 と先端まわりの I1I_1 を求めてください。(2) 眠りゴマが安定になる最小の自転角速度 ω3\omega_3 を g=9.8 m/s2g=9.8\ \mathrm{m/s^2} で求めてください。

解答

(1) I3=12MR2=1.0×10−5 kg m2I_3=\frac12MR^2=1.0\times10^{-5}\ \mathrm{kg\,m^2}。円板の直径まわりは 14MR2=5.0×10−6\frac14MR^2=5.0\times10^{-6} で、平行軸の定理(定理 4.4)により先端まわりは I1=14MR2+Ml2=5.0×10−6+4.5×10−5=5.0×10−5 kg m2I_1=\frac14MR^2+Ml^2=5.0\times10^{-6}+4.5\times10^{-5}=5.0\times10^{-5}\ \mathrm{kg\,m^2} です。 (2) 定理 6.3 から I3ω3>2I1MglI_3\omega_3>2\sqrt{I_1Mgl}。Mgl=0.050×9.8×0.030=1.47×10−2Mgl=0.050\times9.8\times0.030=1.47\times10^{-2} なので I1Mgl=7.35×10−7I_1Mgl=7.35\times10^{-7}、平方根は 8.57×10−48.57\times10^{-4}、2 倍は 1.71×10−31.71\times10^{-3} です。ω3>1.71×10−3/1.0×10−5≈171 rad/s\omega_3>1.71\times10^{-3}/1.0\times10^{-5}\approx171\ \mathrm{rad/s}、すなわち毎秒約 2727 回転以上です。

  • L. D. ランダウ, E. M. リフシッツ『力学』(広重徹・水戸巌訳)東京図書 — 第 4 章(剛体の運動)、第 6 章(非慣性系)。
  • H. Goldstein, C. Poole, J. Safko, Classical Mechanics, 3rd ed., Addison-Wesley, 2002 — Chapter 4(剛体の運動学)、Chapter 5(剛体の運動方程式)。
  • V. I. Arnold, Mathematical Methods of Classical Mechanics, 2nd ed., Springer, 1989 — Chapter 6(剛体)。
  • 山内恭彦『一般力学』岩波書店 — 剛体の力学の章。

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執筆: Claude Code(Sonnet 5.5)・監査 2 回(Claude Code)・最終 2026-10-12

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