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確率の発展:漸化式・破産問題・ランダムウォーク・秘書問題・Buffon の針

対象読者: 本テーマ第2章の有限確率空間・独立・条件付き確率・期待値を学んだ高校生。漸化式を解く基本(等比数列・階差数列)を知っていることを仮定し、大学の確率論は仮定しません。

前提となる記事:確率:有限確率空間・独立・条件付き確率・期待値

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「サイコロを振って 6 が出るまで平均何回かかるか」「持ち金を賭けて少しずつ増やすと、目標に届く前に無一文になる確率はどれくらいか」。こうした素朴な疑問は、高校では漸化式を立てて解きます。この記事では、その立式がなぜ正しいのかを確かめ、同じ考え方で、数直線上をふらふら動く点の振る舞いや、最良の人を選ぶ戦略、針を落とす実験の確率まで読み解きます。読み終えると、「終わりのない試行」の確率を、有限回の計算の極限として扱えるようになります。

  • 確率や期待値の問題には、「1 回目の結果で場合分けして、残りの問題が元の問題と同じ形になる」ものが多くあります。そこで得られる漸化式を解くと、「表が出るまでの回数の期待値は 1/p1/p」「連続して表が 2 回出るまでは平均 6 回」などが出ます。この記事では、無限に続く試行を、有限回で打ち切った確率空間の極限として扱い、証明を厳密にします。
  • 破産問題:持ち金 aa 円で、1 回 1 円ずつ賭けて勝つ確率 pp、目標 NN 円か破産のどちらかで終わる賭けで、目標に到達する確率を求めます。公平な賭け(p=1/2p=1/2)では a/Na/N です。
  • ランダムウォーク:数直線上を確率 1/21/2 ずつで ±1\pm1 動く点について、鏡像原理(経路の一部を折り返して数える方法)を示し、(i) 初めて原点に戻る時刻の分布(Catalan 数。数え上げによく現れる数)、(ii) 最後に原点にいた時刻の分布(離散の逆正弦法則)、(iii) 確率 11 で原点に戻ること(再帰性)を証明します。
  • Pólya の壺(赤玉を引いた回数の分布は一様)、Banach のマッチ箱問題、記録更新の回数の期待値は調和数(1+12+⋯+1n1+\frac12+\cdots+\frac1n のこと)、秘書問題(最適な戦略で最良の人を選べる確率は 1/e1/e に近づく)を証明します。
  • 二項分布の確率が最大になる回数、Penney のゲーム(先手が不利になる非推移的な勝負。A は B に、B は C に、C は A に勝つように、強さに順序がつかない勝負のこと)、幾何確率と Buffon の針(確率 2l/(πd)2l/(\pi d))も扱います。

1. 動機:確率の問題を「解く」と「証明する」の間

Section titled “1. 動機:確率の問題を「解く」と「証明する」の間”

高校の確率の発展的な問題は、次のように解かれます。

  • 「サイコロを振って 6 が出るまでの回数の期待値」:E=1⋅16+(1+E)⋅56E=1\cdot\frac16+\left(1+E\right)\cdot\frac56 と立てて E=6E=6。
  • 「持ち金 aa で、目標 NN に到達する確率」:h(a)=12h(a+1)+12h(a−1)h(a)=\frac12h(a+1)+\frac12h(a-1) と立てて解く。
  • 「針を投げて平行線にぶつかる確率」:向きと位置の範囲の面積比。

どれも自然な方法ですが、「E=⋯+(1+E)⋅56E=\dots+(1+E)\cdot\frac56」と書くとき、EE が有限の数であることを暗黙に仮定しています。もし E=∞E=\infty なら、この方程式から何もわかりません。また、無限回続く試行の確率は、前の記事で定義した有限確率空間(標本空間が有限集合)の範囲を超えます。

この記事の方針は、MM 回で打ち切った有限の確率空間で答えを求め、M→∞M\to\infty とすることです。打ち切りの確率の増え方が単調で上に有界なら、極限が存在します(単調有界定理。定理 2.1[級数と収束判定])。極限を取った式が漸化式を満たすことから、答えを決めます。この「打ち切りの極限」が、高校で使っている漸化式の立式を正当化します。

使う道具は、前の記事の有限確率空間(定義 2.1[確率])、直積空間と独立(定義 4.1[確率])、条件付き確率と全確率の公式(定理 5.3[確率])、期待値の線形性・指示関数の方法(定理 6.3[確率]、命題 6.4[確率])と、場合の数の記事の組合せの数(定理 4.3[場合の数])、最短経路の数(定理 6.2[場合の数])です。

2. 停止するまでの回数の期待値

Section titled “2. 停止するまでの回数の期待値”

2.1. 期待値は「まだ続いている確率」の和

Section titled “2.1. 期待値は「まだ続いている確率」の和”

試行を繰り返し、ある条件が初めて満たされた時点でやめるとき、やめるまでの回数を TT とします。TT は 1 以上の整数値で、条件が一度も満たされなければ T=∞T=\infty としますが、NN 回で打ち切った回数 min⁡(T,N)\min(T,N) は、NN 回の試行の有限確率空間で定義された確率変数です。

なぜ打ち切るのかというと、TT には「いつまでも成功しない」という無限の場合があり、そのままでは平均を考えにくいからです。たとえば N=5N=5 のとき、T=3T=3 なら min⁡(T,5)=3\min(T,5)=3、T=8T=8 なら min⁡(T,5)=5\min(T,5)=5 です。次の式は、この min⁡(T,N)\min(T,N) を「k=1,2,…,Nk=1,2,\dots,N について、kk 回目まで続いていれば 1 を足す」という数え方で書き直したものです。

min⁡(T,N)\min(T,N) の期待値は、「kk 回目まで続いている確率」の和で書けます。実際、

min⁡(T,N)=∑k=1N1{T≥k}\min(T,N)=\sum_{k=1}^N\mathbf 1_{\{T\ge k\}}

です(k≤min⁡(T,N)k\le\min(T,N) となる kk の個数が min⁡(T,N)\min(T,N) だから)。指示関数の方法(命題 6.4[確率])から、

E[min⁡(T,N)]=∑k=1NP(T≥k)E\bigl[\min(T,N)\bigr]=\sum_{k=1}^NP(T\ge k)

です。この式を使うと、「期待値が有限か」「いくつか」を、確率の和の問題として扱えます。

2.2. 最初の成功までと、連続 2 回の成功まで

Section titled “2.2. 最初の成功までと、連続 2 回の成功まで”

定理 2.1(停止までの回数の期待値)✓

  1. 成功確率 pp(0<p≤10<p\le1)の試行を独立に繰り返し、最初の成功までの回数を TT とする。E[min⁡(T,N)]=1−(1−p)NpE[\min(T,N)]=\dfrac{1-(1-p)^N}p で、これは N→∞N\to\infty で 1p\dfrac1p に増加して収束する。
  2. 公正なコイン(表の確率 12\frac12)を投げ続け、表が 2 回連続で出るまでの回数を TT とする。E[min⁡(T,N)]E[\min(T,N)] は NN について単調増加で、N→∞N\to\infty で 66 に収束する。また、mm 回投げて表が 2 回連続で出ない確率を qmq_m とすると、qm≤(34)⌊m/2⌋q_m\le\left(\frac34\right)^{\lfloor m/2\rfloor} であり、とくに qm→0q_m\to0(m→∞m\to\infty)である。
証明(定理 2.1)

(1) q=1−pq=1-p とする。T≥kT\ge k は「最初の k−1k-1 回がすべて失敗」で、直積空間の性質(命題 4.2[確率])から P(T≥k)=qk−1P(T\ge k)=q^{k-1} です。よって E[min⁡(T,N)]=∑k=1Nqk−1=1−qN1−q=1−qNpE[\min(T,N)]=\sum_{k=1}^Nq^{k-1}=\dfrac{1-q^N}{1-q}=\dfrac{1-q^N}p(等比数列の和)です。q<1q<1 のとき qN→0q^N\to0(命題 3.1[数列と関数の極限])なので、1/p1/p に収束します(p=1p=1 のときは N=1N=1 から 11)。

(2) qmq_m を「mm 回投げて表が連続しない確率」とする(q0=q1=1q_0=q_1=1)。T≥kT\ge k は「最初の k−1k-1 回で表が連続しない」ことなので、(1) と同じく E[min⁡(T,N)]=∑k=1Nqk−1=∑m=0N−1qmE[\min(T,N)]=\sum_{k=1}^Nq_{k-1}=\sum_{m=0}^{N-1}q_m で、各項が 00 以上なので単調増加です。

漸化式 qm=12qm−1+14qm−2q_m=\dfrac12q_{m-1}+\dfrac14q_{m-2}(m≥2m\ge2)を示します。表が連続しない長さ mm の列は、最後が裏(その前は表が連続しない長さ m−1m-1 の列。確率 12qm−1\frac12q_{m-1})か、最後が表で、その前が裏(その前は表が連続しない長さ m−2m-2 の列。確率 14qm−2\frac14q_{m-2})のどちらかで、両者は排反です。

有界性:長さ 2j2j の列を jj 個の連続する 2 回に区切ると、すべての区切りが「表表」でないことが必要で、独立なので q2j≤(34)jq_{2j}\le\left(\frac34\right)^j です。長さ 2j+12j+1 の列で表が連続しなければ、最初の 2j2j 回でも表が連続しないので q2j+1≤q2jq_{2j+1}\le q_{2j} です。合わせて qm≤(34)⌊m/2⌋q_m\le\left(\frac34\right)^{\lfloor m/2\rfloor} で、右辺は m→∞m\to\infty で 00 に収束します(命題 3.1[数列と関数の極限])。したがって ∑qm\sum q_m は等比級数で抑えられ、有界で単調増加なので収束します(定理 2.1[級数と収束判定])。和を Q=∑m≥0qmQ=\sum_{m\ge0}q_m とすると、漸化式を m=2,3,…m=2,3,\dots について足して Q−q0−q1=12(Q−q0)+14QQ-q_0-q_1=\frac12(Q-q_0)+\frac14Q、すなわち Q−2=34Q−12Q-2=\frac34Q-\frac12 で、Q=6Q=6 です。E[min⁡(T,N)]=∑m=0N−1qm→6E[\min(T,N)]=\sum_{m=0}^{N-1}q_m\to6 です。

(1) は、サイコロで 6 が出るまでの回数の期待値が 6(p=16p=\frac16)であることを含みます。(2) の 6 は、「表が出るまでの 2 回」よりずっと大きい数で、連続を待つ待ち時間の長さを示しています。このように、「期待値は E=1+(1−p)EE=1+(1-p)E と立てて解ける」という高校の方法は、打ち切りの極限で正当化されます。

持ち金が aa 円の人が、1 回の賭けで 1 円を賭けます。確率 pp で 1 円増え、確率 q=1−pq=1-p で 1 円減ります(0<p<10<p<1)。目標の NN 円に到達するか、持ち金が 00 になる(破産)かのどちらかが起こるまで、これを繰り返します。0≤a≤N0\le a\le N とします。

打ち切り:MM 回の賭けの有限確率空間(各回独立で、上の確率)で、MM 回以内に目標 NN に到達する(それ以前に破産していない)確率を RM(a)R_M(a) とします。MM とともに事象は大きくなるので、RM(a)R_M(a) は単調増加で 11 以下、したがって極限 R(a)=lim⁡M→∞RM(a)R(a)=\lim_{M\to\infty}R_M(a) が存在します。

定理 3.1(破産問題)✓

0≤a≤N0\le a\le N とし、r=q/pr=q/p とおく。

  1. 賭けが有限回で終わる確率は 11 である。すなわち、MM 回までにどちらにも到達していない確率は M→∞M\to\infty で 00 に収束する。
  2. 目標に到達する確率 R(a)R(a) は、p=12p=\frac12 のとき aN\dfrac aN、p≠12p\ne\frac12 のとき 1−ra1−rN\dfrac{1-r^a}{1-r^N} である。破産する確率は 1−R(a)1-R(a) である。
  3. p>12p>\frac12 のとき、N→∞N\to\infty の極限(目標が無限に遠い)で、破産する確率は rar^a に収束する。p≤12p\le\frac12 のとき、破産する確率は 11 に収束する。

証明の流れは次のとおりです。(1) で「いつまでも決着しない」ことはないと確かめ、(2) で 1 回目の賭けの結果で場合分けして R(a)R(a) の漸化式を作り、隣り合う R(a)R(a) の差が等比数列になることから公式を導きます。(3) は、(2) の式で目標 NN を限りなく遠くしたときの様子です。

証明(定理 3.1)

(1) どの aa から出発しても、続けて NN 回勝てば(確率 pNp^N)、NN 回以内に目標に到達します。したがって MM 回までに決着していない確率 DM(a)D_M(a) について DN(a)≤1−pND_N(a)\le1-p^N です。dM=max⁡aDM(a)d_M=\max_aD_M(a) とおく。最初の NN 回の結果で場合分けして(全確率の公式。定理 5.3[確率])、NN 回目に位置 a′a' にいて決着していない確率に、残りの MM 回で決着しない確率 DM(a′)≤dMD_M(a')\le d_M を掛けて足すと DM+N(a)≤dM⋅DN(a)≤(1−pN)dMD_{M+N}(a)\le d_M\cdot D_N(a)\le(1-p^N)d_M です。よって dkN≤(1−pN)k→0d_{kN}\le(1-p^N)^k\to0 で、dMd_M は MM について単調減少なので dM→0d_M\to0 です。

(2) RMR_M は、1 回目の賭けの結果で場合分けすると(全確率の公式と、残りの賭けが独立な同じ形であること)

RM(a)=p RM−1(a+1)+q RM−1(a−1)(0<a<N, M≥1),RM(0)=0, RM(N)=1R_M(a)=p\,R_{M-1}(a+1)+q\,R_{M-1}(a-1)\quad(0<a<N,\ M\ge1),\qquad R_M(0)=0,\ R_M(N)=1

です。M→∞M\to\infty とすると、極限 RR も同じ漸化式 R(a)=pR(a+1)+qR(a−1)R(a)=pR(a+1)+qR(a-1) と R(0)=0R(0)=0、R(N)=1R(N)=1 を満たします。p+q=1p+q=1 を使うと p(R(a+1)−R(a))=q(R(a)−R(a−1))p\bigl(R(a+1)-R(a)\bigr)=q\bigl(R(a)-R(a-1)\bigr) なので、階差 da=R(a+1)−R(a)d_a=R(a+1)-R(a) は da=r da−1d_a=r\,d_{a-1}、すなわち da=rad0d_a=r^ad_0 です。したがって R(a)=d0∑j=0a−1rjR(a)=d_0\sum_{j=0}^{a-1}r^j で、R(N)=1R(N)=1 から d0=(∑j=0N−1rj)−1d_0=\left(\sum_{j=0}^{N-1}r^j\right)^{-1}、すなわち R(a)=∑j<arj∑j<NrjR(a)=\dfrac{\sum_{j<a}r^j}{\sum_{j<N}r^j} です。r=1r=1(p=12p=\frac12)なら aN\dfrac aN、r≠1r\ne1 なら等比数列の和で 1−ra1−rN\dfrac{1-r^a}{1-r^N} です。(1) より、目標に到達する確率と破産する確率の和(M→∞M\to\infty)は 11 なので、破産確率は 1−R(a)1-R(a) です。

(3) p>12p>\frac12 ならば r<1r<1 で、破産確率は 1−1−ra1−rN=ra−rN1−rN→ra1-\dfrac{1-r^a}{1-r^N}=\dfrac{r^a-r^N}{1-r^N}\to r^a(N→∞N\to\infty。命題 3.1[数列と関数の極限])です。p<12p<\frac12 ならば r>1r>1 で、R(a)=ra−1rN−1→0R(a)=\dfrac{r^a-1}{r^N-1}\to0(分母 →∞\to\infty)、p=12p=\frac12 では aN→0\dfrac aN\to0 なので、破産確率は 11 に収束します。

例 3.2(公平な賭けと、不利な賭け)

公平な賭け(p=12p=\frac12):持ち金 1010 円、目標 100100 円なら、目標に到達する確率は 10/100=0.110/100=0.1 です。目標を 10001000 円にすると 0.010.01 です。「持ち金に比例した確率でしか勝てない」ことを意味します。

ルーレットの赤黒(ダブルゼロのある米国式では、赤に賭けて当たる確率は 1838\frac{18}{38}):p=1838p=\frac{18}{38}、r=2018=109r=\frac{20}{18}=\frac{10}9、a=100a=100、N=200N=200 では R(100)=1−r1001−r200=11+r100R(100)=\dfrac{1-r^{100}}{1-r^{200}}=\dfrac1{1+r^{100}}(1−r200=(1−r100)(1+r100)1-r^{200}=(1-r^{100})(1+r^{100}))で、r100=(10/9)100≈3.8×104r^{100}=(10/9)^{100}\approx3.8\times10^4 なので、R(100)≈2.7×10−5R(100)\approx2.7\times10^{-5} です。1 回あたりの不利が小さくても、「倍にして帰る」確率は極めて小さくなります。

数直線上の点が、原点から出発し、1 歩ごとに確率 12\frac12 ずつで +1+1 か −1-1 だけ動くとします。これを単純ランダムウォークといいます。nn 歩の結果は ε=(ε1,…,εn)∈{+1,−1}n\varepsilon=(\varepsilon_1,\dots,\varepsilon_n)\in\{+1,-1\}^n(2n2^n 通りで、同様に確からしい。命題 2.2[確率])で、kk 歩後の位置は Sk=ε1+⋯+εkS_k=\varepsilon_1+\cdots+\varepsilon_k(S0=0S_0=0)です。以後、2n2n 歩で原点に戻る確率を

u2n=P(S2n=0)=(2nn)4nu_{2n}=P(S_{2n}=0)=\frac{\binom{2n}n}{4^n}

と書きます(nn 回上がり nn 回下がる列の個数が (2nn)\binom{2n}n。定理 4.3[場合の数])。u0=1u_0=1、u2n=∏k=1n2k−12ku_{2n}=\prod_{k=1}^n\frac{2k-1}{2k} です(u2nu2n−2=(2n)(2n−1)4n2=2n−12n\dfrac{u_{2n}}{u_{2n-2}}=\dfrac{(2n)(2n-1)}{4n^2}=\dfrac{2n-1}{2n})。

補題 4.1(経路の個数)✓

整数 a,ba,b と m≥0m\ge0 について、高さ aa から出発して mm 歩(各歩 ±1\pm1)で高さ bb に到達する経路の個数を Nm(a→b)N_m(a\to b) と書く。m+b−am+b-a が偶数で ∣b−a∣≤m|b-a|\le m ならば Nm(a→b)=(m(m+b−a)/2)N_m(a\to b)=\dbinom m{(m+b-a)/2}、そうでなければ 00 である。

証明(補題 4.1)

上がる歩を kk 回とすると、下がる歩は m−km-k 回で、a+k−(m−k)=ba+k-(m-k)=b、すなわち k=m+b−a2k=\frac{m+b-a}2 です。上がる歩の位置を選ぶ選び方が (mk)\binom mk 通りです(定理 4.3[場合の数])。

定理 4.2(鏡像原理)✓

a,ba,b を正の整数とし、m≥0m\ge0 とする。高さ aa から出発して mm 歩で高さ bb に到達する経路のうち、途中で高さ 00 に(0≤k≤m0\le k\le m のいずれかの時刻に)触れるものの個数は、Nm(−a→b)N_m(-a\to b) に等しい。したがって、高さ 00 に触れない経路の個数は Nm(a→b)−Nm(−a→b)N_m(a\to b)-N_m(-a\to b) である。

ねらいは、「0 に触れる経路」を数えにくいまま数える代わりに、始点を −a-a に取り替えた経路と一対一に対応させることです。aa から出発した経路が初めて 0 に着いたところまでを、0 を軸に折り返す(図の点線)と、始点が −a-a の経路になります。

証明(定理 4.2)

A\mathcal A を「aa から bb へ行き、0 に触れる経路」の集合、B\mathcal B を「−a-a から bb へ行く経路」の集合とします。A\mathcal A の経路 h=(h0,…,hm)h=(h_0,\dots,h_m)(h0=ah_0=a、hm=bh_m=b)に対し、hh が最初に高さ 00 に着く時刻を τ\tau とし、hk′=−hkh'_k=-h_k(k≤τk\le\tau)、hk′=hkh'_k=h_k(k≥τk\ge\tau)と定めます。h0′=−ah'_0=-a、hτ′=0h'_\tau=0、hm′=bh'_m=b で、各歩は ±1\pm1 なので h′∈Bh'\in\mathcal B です。逆に B\mathcal B の経路は、始点 −a<0-a<0 から終点 b>0b>0 まで、各歩 ±1\pm1 で進むので、途中で必ず高さ 00 を通ります(途中で符号が変わるときは 00 を飛び越えられない)。その最初の時刻 τ\tau で τ\tau までを反転すれば A\mathcal A の経路が得られます。この 2 つの操作は互いに逆なので全単射で、∣A∣=∣B∣=Nm(−a→b)|\mathcal A|=|\mathcal B|=N_m(-a\to b) です。

a−abτ時刻
鏡像原理。0 に初めて触れる時刻までを反転すると、a から b への経路と、−a から b への経路が一対一に対応する(点線が反転した部分)

補題 4.3(原点に戻らない経路の個数)✓

n≥1n\ge1 とする。2n2n 歩の経路のうち、S1≠0,…,S2n≠0S_1\ne0,\dots,S_{2n}\ne0 を満たすものの個数は (2nn)\binom{2n}n で、その確率は u2nu_{2n} である。すなわち

P(S1≠0, …, S2n≠0)=P(S2n=0)=u2n.P(S_1\ne0,\ \dots,\ S_{2n}\ne0)=P(S_{2n}=0)=u_{2n}.

この補題は、「一度も 0 に戻らない経路」の個数が、「2n2n 歩目に 0 にいる経路」の個数と同じになる、という意外な事実を述べています。証明では、すべて正の経路を鏡像原理で数えます。和の各項の後半が次の項の前半と打ち消し合うので、最初の前半と最後の後半だけが残ります。

証明(補題 4.3)

Sk≠0S_k\ne0(1≤k≤2n1\le k\le2n)を満たす経路は、S1=±1S_1=\pm1 から符号が変わることなく進む(±1\pm1 ずつ動くので、符号を変えるには 00 を通る必要がある)ので、すべて正(Sk>0S_k>0)か、すべて負です。対称性から、両者の個数は等しいので、すべて正の経路の個数 UU を求めればよいです。

すべて正の経路は S1=1S_1=1 で、残りの 2n−12n-1 歩は高さ 11 から出発して高さ 00 に触れずに進みます。終点の高さ rr は、2n−12n-1 歩の偶奇から偶数 r=2jr=2j(1≤j≤n1\le j\le n)です。鏡像原理(定理 4.2)から、高さ 11 から 2j2j へ 00 に触れずに行く経路の個数は N2n−1(1→2j)−N2n−1(−1→2j)=(2n−1n+j−1)−(2n−1n+j)N_{2n-1}(1\to2j)-N_{2n-1}(-1\to2j)=\binom{2n-1}{n+j-1}-\binom{2n-1}{n+j} です(補題 4.1)。したがって

U=∑j=1n[(2n−1n+j−1)−(2n−1n+j)]=(2n−1n)−(2n−12n)=(2n−1n)U=\sum_{j=1}^n\left[\binom{2n-1}{n+j-1}-\binom{2n-1}{n+j}\right]=\binom{2n-1}n-\binom{2n-1}{2n}=\binom{2n-1}n

(隣り合う項が打ち消し合う和)です。Pascal の漸化式と対称性(命題 7.2[数え上げと母関数])から (2nn)=(2n−1n−1)+(2n−1n)=2(2n−1n)\binom{2n}n=\binom{2n-1}{n-1}+\binom{2n-1}n=2\binom{2n-1}n なので、条件を満たす経路の個数は 2U=(2nn)2U=\binom{2n}n です。確率は (2nn)22n=u2n\dfrac{\binom{2n}n}{2^{2n}}=u_{2n} です。

定理 4.4(初めて原点に戻る時刻の分布)✓

n≥1n\ge1 とする。ウォークが時刻 2n2n に初めて原点に戻る確率 f2n=P(S1≠0,…,S2n−1≠0, S2n=0)f_{2n}=P(S_1\ne0,\dots,S_{2n-1}\ne0,\ S_{2n}=0) は

f2n=u2n−2−u2n=u2n2n−1=Cn−122n−1f_{2n}=u_{2n-2}-u_{2n}=\frac{u_{2n}}{2n-1}=\frac{C_{n-1}}{2^{2n-1}}

である。ここで Cm=1m+1(2mm)C_m=\dfrac1{m+1}\dbinom{2m}m は Catalan 数である。

証明(定理 4.4)

EmE_m を「S1,…,S2mS_1,\dots,S_{2m} がすべて 00 でない」事象とする(E0E_0 は全体)。奇数時刻は SkS_k が奇数で 00 にならないので、Em=Em−1∩{S2m≠0}E_m=E_{m-1}\cap\{S_{2m}\ne0\} です。したがって「時刻 2n2n に初めて戻る」事象は En−1∩{S2n=0}=En−1∖EnE_{n-1}\cap\{S_{2n}=0\}=E_{n-1}\setminus E_n で、En⊆En−1E_n\subseteq E_{n-1} なので f2n=P(En−1)−P(En)=u2n−2−u2nf_{2n}=P(E_{n-1})-P(E_n)=u_{2n-2}-u_{2n}(補題 4.3。n=1n=1 では u0=1u_0=1)です。u2nu2n−2=2n−12n\dfrac{u_{2n}}{u_{2n-2}}=\dfrac{2n-1}{2n} から u2n−2−u2n=u2n−2⋅12n=u2n2n−1u_{2n-2}-u_{2n}=u_{2n-2}\cdot\dfrac1{2n}=\dfrac{u_{2n}}{2n-1} です。最後の等号は (2nn)=(2n)(2n−1)n2(2n−2n−1)\dbinom{2n}n=\dfrac{(2n)(2n-1)}{n^2}\dbinom{2n-2}{n-1} から u2n2n−1=2n⋅4n(2n−2n−1)=2Cn−14n\dfrac{u_{2n}}{2n-1}=\dfrac{2}{n\cdot4^n}\dbinom{2n-2}{n-1}=\dfrac{2C_{n-1}}{4^n} です。

例 4.5(初めて戻る時刻の確率の値)

f2=12f_2=\frac12、f4=18f_4=\frac18、f6=116f_6=\frac1{16}、f8=5128f_8=\frac5{128} です(C0=1,C1=1,C2=2,C3=5C_0=1,C_1=1,C_2=2,C_3=5)。最も起こりやすいのは「最初の 2 歩で戻る」で、時刻が遅いほど確率は小さくなりますが、f2nf_{2n} は(Stirling の公式から u2n∼1πnu_{2n}\sim\frac1{\sqrt{\pi n}} なので)12π n3/2\dfrac1{2\sqrt\pi\,n^{3/2}} とほぼ同じ大きさでゆっくり減るので、「戻るのにすごく時間がかかる」ことも起こりえます。

2n2n 歩のうち、最後に原点にいた時刻(S2k=0S_{2k}=0 となる最大の 2k≤2n2k\le2n)を L2nL_{2n} とします。

定理 4.6(最後に原点にいた時刻の分布(離散の逆正弦法則))✓

0≤k≤n0\le k\le n について

P(L2n=2k)=u2k u2n−2kP(L_{2n}=2k)=u_{2k}\,u_{2n-2k}

である。とくに ∑k=0nu2ku2n−2k=1\displaystyle\sum_{k=0}^nu_{2k}u_{2n-2k}=1。

証明(定理 4.6)

L2n=2kL_{2n}=2k は、S2k=0S_{2k}=0 かつ Sj≠0S_j\ne0(2k<j≤2n2k<j\le2n)という事象です。2n2n 歩を、最初の 2k2k 歩と残りの 2n−2k2n-2k 歩に分けると、Ω2n\Omega_{2n} は 2 つの有限確率空間の直積で、j>2kj>2k では SjS_j は残りの歩の部分和(S2k=0S_{2k}=0 なので)です。したがって事象は「最初の 2k2k 歩で S2k=0S_{2k}=0」と「残りの 2n−2k2n-2k 歩で、部分和が一度も 00 にならない」の積事象で、独立なので確率は u2k⋅u2n−2ku_{2k}\cdot u_{2n-2k} です(後者は 補題 4.3。2n−2k=02n-2k=0 のときは u0=1u_0=1)。事象 {L2n=2k}\{L_{2n}=2k\}(k=0,…,nk=0,\dots,n)は互いに排反で全体を覆うので、確率の和は 11 です。

例 4.7(10 歩のウォークの最後の原点)

u0=1u_0=1、u2=12u_2=\frac12、u4=38u_4=\frac38、u6=516u_6=\frac5{16}、u8=35128u_8=\frac{35}{128}、u10=63256u_{10}=\frac{63}{256} です。2n=102n=10 のとき P(L10=2k)=u2ku10−2kP(L_{10}=2k)=u_{2k}u_{10-2k} は次のとおりです。

2k2k00224466881010
確率63256≈0.246\frac{63}{256}\approx0.24635256≈0.137\frac{35}{256}\approx0.13730256≈0.117\frac{30}{256}\approx0.11730256≈0.117\frac{30}{256}\approx0.11735256≈0.137\frac{35}{256}\approx0.13763256≈0.246\frac{63}{256}\approx0.246

最後の原点は、真ん中ではなく、両端(ほとんど最初か、ほとんど最後)に集まります。「ずっと勝っている人(あるいはずっと負けている人)がいる」ことは、直観よりはるかによく起きます。

定理 4.8(1 次元ランダムウォークの再帰性)✓

n≥1n\ge1 について次が成り立つ。

  1. 12n≤u2n≤12n+1\dfrac1{2\sqrt n}\le u_{2n}\le\dfrac1{\sqrt{2n+1}}。
  2. 時刻 2n2n までに原点に戻る確率は 1−u2n1-u_{2n} で、n→∞n\to\infty のとき 11 に収束する。
  3. 時刻 2N2N までに原点にいる回数の期待値 ∑n=1Nu2n\sum_{n=1}^Nu_{2n} は、N→∞N\to\infty で ∞\infty に発散する。
証明(定理 4.8)

(1) u2n=∏k=1n2k−12ku_{2n}=\prod_{k=1}^n\frac{2k-1}{2k} で、2k−12k≤2k2k+1\dfrac{2k-1}{2k}\le\dfrac{2k}{2k+1} なので u2n2≤∏k=1n2k−12k⋅2k2k+1=12n+1u_{2n}^2\le\prod_{k=1}^n\dfrac{2k-1}{2k}\cdot\dfrac{2k}{2k+1}=\dfrac1{2n+1} です。下からは、2k−12k≥2k−22k−1\dfrac{2k-1}{2k}\ge\dfrac{2k-2}{2k-1}(k≥2k\ge2)なので u2n2≥(12)2∏k=2n2k−22k−1⋅2k−12k=14⋅1nu_{2n}^2\ge\left(\dfrac12\right)^2\prod_{k=2}^n\dfrac{2k-2}{2k-1}\cdot\dfrac{2k-1}{2k}=\dfrac14\cdot\dfrac1n です。

(2) 時刻 2n2n までに一度も戻らない確率は u2nu_{2n}(補題 4.3)で、(1) から u2n≤12n+1→0u_{2n}\le\dfrac1{\sqrt{2n+1}}\to0 です。

(3) 時刻 2n2n に原点にいる事象の指示関数の和の期待値は、指示関数の方法(命題 6.4[確率])から ∑n=1Nu2n\sum_{n=1}^Nu_{2n} です。(1) と、単調減少関数 f(x)=12xf(x)=\frac1{2\sqrt x} についての和と積分の比較(定理 8.1[積分法])から ∑n=1Nu2n≥∑n=1N12n≥∫1N+1dx2x=N+1−1→∞\sum_{n=1}^N u_{2n}\ge\sum_{n=1}^N\frac1{2\sqrt n}\ge\int_1^{N+1}\frac{dx}{2\sqrt x}=\sqrt{N+1}-1\to\infty です。

(2) は、「ランダムウォークは確率 11 で原点に戻る」ことの、有限回での言い方です(戻らない確率の上限が 00 に近づく)。(3) は、戻ってくる回数の期待値が無限であることを言っています。Stirling の公式(定理 7.1[広義積分・パラメータ積分とガンマ関数])を使うと、u2n∼1πnu_{2n}\sim\dfrac1{\sqrt{\pi n}} という精密な評価が得られます。

壺に赤玉 1 個と青玉 1 個が入っています。次の操作を nn 回繰り返します。壺から玉を 1 個無作為に取り出し、色を見て、その玉と同じ色の玉をもう 1 個足して戻す(壺の玉が 1 個増える)。「赤い玉を取り出した回数」が kk になる確率を求めます。

nn 回の結果の列(赤 R、青 B の列)の確率は、条件付き確率の積(乗法定理。定理 5.3[確率])で決まります。jj 回目の取り出しの前には壺に j+1j+1 個の玉があります。

定理 5.1(Pólya の壺)✓

赤 1 個、青 1 個から始めて nn 回繰り返したとき、赤い玉を取り出した回数がちょうど kk である確率は、すべての k=0,1,…,nk=0,1,\dots,n について 1n+1\dfrac1{n+1} である(一様分布)。

証明(定理 5.1)

kk 個の R と n−kn-k 個の B を並べた 1 つの列の確率を求めます。R を取り出すとき、壺の赤玉の個数は、そこまでに取り出した R の個数 +1+1 なので、ii 回目の R(i=1,…,ki=1,\dots,k)の取り出しで赤玉は ii 個です。同様に、ii 回目の B の取り出しで青玉は ii 個です。壺の全体の個数は jj 回目の取り出しの前で j+1j+1 なので、列の確率は、順序によらず、分子が 1⋅2⋯k⋅1⋅2⋯(n−k)=k! (n−k)!1\cdot2\cdots k\cdot1\cdot2\cdots(n-k)=k!\,(n-k)!、分母が 2⋅3⋯(n+1)=(n+1)!2\cdot3\cdots(n+1)=(n+1)! で

k! (n−k)!(n+1)!\frac{k!\,(n-k)!}{(n+1)!}

です。このような列は (nk)\binom nk 通りあり(定理 4.3[場合の数])、互いに排反なので、P(赤を k 回)=(nk)k!(n−k)!(n+1)!=n!(n+1)!=1n+1P(\text{赤を }k\text{ 回})=\binom nk\dfrac{k!(n-k)!}{(n+1)!}=\dfrac{n!}{(n+1)!}=\dfrac1{n+1} です。

nn 回の後、壺に入っている赤玉の割合は k+1n+2\dfrac{k+1}{n+2} で、kk は一様に分布するので、割合は {1n+2,…,n+1n+2}\left\{\dfrac1{n+2},\dots,\dfrac{n+1}{n+2}\right\} の上に一様に分布します。nn を大きくしたとき、割合が xx 以下である確率は、⌊x(n+2)⌋n+1\dfrac{\lfloor x(n+2)\rfloor}{n+1} で(0≤x<10\le x<1)、この xx に対して ∣⌊x(n+2)⌋n+1−x∣≤1n+1\left|\dfrac{\lfloor x(n+2)\rfloor}{n+1}-x\right|\le\dfrac1{n+1} です。すなわち赤玉の割合は、区間 [0,1][0,1] の一様分布に近づきます。壺の中身の「最初の揺らぎ」が、永久に偏りを決めてしまう、という現象です。

マッチ箱を 2 つ持っている人が、マッチが要るたびに、無作為に左右どちらかの箱(確率 12\frac12 ずつ)から 1 本取り出します。両方の箱に最初 NN 本ずつ入っていて、あるとき空の箱を選んでしまった(空だと気づいた)とします。そのときもう一方の箱に残っている本数を KK とします。

定理 5.2(Banach のマッチ箱問題)✓

k=0,1,…,Nk=0,1,\dots,N について、

P(K=k)=(2N−kN)122N−kP(K=k)=\binom{2N-k}N\frac1{2^{2N-k}}

である。とくに ∑k=0N(2N−kN)2−(2N−k)=1\displaystyle\sum_{k=0}^N\binom{2N-k}N2^{-(2N-k)}=1。

証明(定理 5.2)

「左の箱が空と気づき、右の箱に kk 本残っている」事象を AkA_k とします。AkA_k が起こるのは、選ぶ列の最初の 2N−k2N-k 回のうち、左を NN 回、右を N−kN-k 回選び、続く (2N−k+1)(2N-k+1) 回目に左を選ぶ(N+1N+1 回目の左で空に気づく)ときです。最初の 2N−k2N-k 回の選び方は (2N−kN)\binom{2N-k}N 通りで、各列の確率は 2−(2N−k+1)2^{-(2N-k+1)} なので、P(Ak)=(2N−kN)2−(2N−k+1)P(A_k)=\binom{2N-k}N2^{-(2N-k+1)} です(選択は独立。命題 4.2[確率])。右の箱が空と気づく事象も対称で同じ確率なので、P(K=k)=2P(Ak)=(2N−kN)2−(2N−k)P(K=k)=2P(A_k)=\binom{2N-k}N2^{-(2N-k)} です。最後の等式は、どちらかの箱が必ず(選択を 2N+12N+1 回行うまでに)空に気づかれるので、K∈{0,…,N}K\in\{0,\dots,N\} の確率の和が 11 であることから従います。

例 5.3(N = 3 のとき)

N=3N=3:P(K=0)=(63)126=2064P(K=0)=\binom63\frac1{2^6}=\frac{20}{64}、P(K=1)=(53)125=1032=2064P(K=1)=\binom53\frac1{2^5}=\frac{10}{32}=\frac{20}{64}、P(K=2)=(43)124=416=1664P(K=2)=\binom43\frac1{2^4}=\frac4{16}=\frac{16}{64}、P(K=3)=(33)123=18=864P(K=3)=\binom33\frac1{2^3}=\frac18=\frac8{64} で、和は 20+20+16+864=1\frac{20+20+16+8}{64}=1 です。最も起こりやすいのは「相手が 0 本または 1 本残っている」ときです。

nn 人の相異なる値(大きさの順位は 1,…,n1,\dots,n)を、無作為な順序で 1 人ずつ見ていきます(n!n! 通りの並び順が同様に確からしい)。ii 番目の人が、それまでの全員より大きいとき、ii 番目で記録が更新されたといいます。XiX_i を記録更新の指示関数(更新なら 11)とします。

定理 6.1(記録の更新回数の期待値)✓

  1. P(Xi=1)=1iP(X_i=1)=\dfrac1i(i=1,…,ni=1,\dots,n)。
  2. 記録更新の回数 X=X1+⋯+XnX=X_1+\cdots+X_n の期待値は、調和数 Hn=∑i=1n1iH_n=\displaystyle\sum_{i=1}^n\frac1i である。
  3. log⁡(n+1)≤Hn≤1+log⁡n\log(n+1)\le H_n\le1+\log n である。
証明(定理 6.1)

(1) 最初の ii 個の位置に入る値の集合の選び方は (ni)\binom ni 通り、その ii 個のうち最大のものを ii 番目に置く並べ方は残り i−1i-1 個の並べ替えで (i−1)!(i-1)! 通り、最後の n−in-i 個の並べ方は (n−i)!(n-i)! 通りです。記録更新となる並べ方の総数は (ni)(i−1)! (n−i)!=n!i\binom ni(i-1)!\,(n-i)!=\dfrac{n!}i で、確率は 1i\dfrac1i です。

(2) 指示関数の方法と期待値の線形性(命題 6.4[確率])から E[X]=∑iP(Xi=1)=HnE[X]=\sum_iP(X_i=1)=H_n です。

(3) n=1n=1 のとき log⁡2≤H1=1≤1+log⁡1\log2\le H_1=1\le1+\log1 は直接わかるので(log⁡2≤1\log2\le1 は 2≤e2\le e から)、n≥2n\ge2 とします。f(x)=1xf(x)=\frac1x は単調減少なので、和と積分の比較(定理 8.1[積分法])から Hn−1=∑k=2nf(k)≤∫1nf=log⁡nH_n-1=\sum_{k=2}^nf(k)\le\int_1^nf=\log n、Hn=∑k=1nf(k)≥∫1n+1f=log⁡(n+1)H_n=\sum_{k=1}^nf(k)\ge\int_1^{n+1}f=\log(n+1) です(∫1xdtt=log⁡x\int_1^x\frac{dt}t=\log x。命題 2.1[積分法])。

100 人を無作為な順序で見て、「それまでで最高」を更新する回数の期待値は H100≈5.19H_{100}\approx5.19 です。記録更新は、思ったよりずっと少ない回数でしか起こりません。

nn 人の応募者に、無作為な順序で 1 人ずつ面接します。面接のたびに、それまでの人との相対的な順位はわかりますが、その場で採用か不採用かを決めなければならず、一度不採用にした人は後から採用できません。最良の 1 人を選びたいとします。次の戦略を考えます。

最初の rr 人(0≤r≤n−10\le r\le n-1)は無条件で不採用にし、r+1r+1 人目以降で、それまでの全員より良い人が初めて現れたときに採用する。(そのような人が現れなければ最後の人を採用する。)

この戦略で最良の人を採用できる確率を pn(r)p_n(r) とします。

定理 6.2(秘書問題)✓

  1. pn(0)=1np_n(0)=\dfrac1n、1≤r≤n−11\le r\le n-1 のとき pn(r)=rn∑i=rn−11ip_n(r)=\dfrac rn\displaystyle\sum_{i=r}^{n-1}\frac1i である。
  2. 最適な rr を選んだときの成功確率 max⁡rpn(r)\displaystyle\max_rp_n(r) は、n→∞n\to\infty で 1e\dfrac1e に収束する。

証明の流れは、(1) で最良の人が ii 番目にいる場合ごとに成功する確率を足して pn(r)p_n(r) の式を得て、(2) でその式を積分ではさんで評価し、下からも上からも 1e\frac1e に近づくことを示す、というものです。

証明(定理 6.2)

(1) r=0r=0 は最初の 1 人を採用するので、その人が最良である確率 1n\frac1n です。r≥1r\ge1 とする。最良の人が ii 番目にいる(確率 1n\frac1n)とします。この戦略がその人を採用するのは、「最初の i−1i-1 人の中の最良の人が、最初の rr 人の中にいる」ときです(そうでなければ、r+1r+1 人目から i−1i-1 人目の間で、それまでの最高を更新した人を採用してしまうから)。i≤ri\le r のときはそもそも採用されません。i>ri>r のとき、最初の i−1i-1 人の位置は互いに対等なので、その中の最良の人が最初の rr 人の中にいる確率は ri−1\frac r{i-1} です。ii の値ごとの事象は排反なので

pn(r)=∑i=r+1n1n⋅ri−1=rn∑i=rn−11ip_n(r)=\sum_{i=r+1}^n\frac1n\cdot\frac r{i-1}=\frac rn\sum_{i=r}^{n-1}\frac1i

です。

(2) 下からの評価。 f(x)=1xf(x)=\frac1x は単調減少なので、和と積分の比較(定理 8.1[積分法])から ∑i=rn−11i≥∫rndxx=log⁡nr\sum_{i=r}^{n-1}\frac1i\ge\int_r^n\frac{dx}x=\log\frac nr、すなわち pn(r)≥rnlog⁡nrp_n(r)\ge\dfrac rn\log\dfrac nr です。g(x)=xlog⁡1xg(x)=x\log\frac1x は (0,1](0,1] で連続で、rn=⌈n/e⌉r_n=\lceil n/e\rceil に対し xn=rn/n∈[1e,1e+1n]x_n=r_n/n\in\left[\frac1e,\frac1e+\frac1n\right] なので xn→1ex_n\to\frac1e、したがって g(xn)→g(1e)=1eg(x_n)\to g\left(\frac1e\right)=\frac1e(連続性。命題 5.5[数列と関数の極限])です。よって max⁡rpn(r)≥pn(rn)≥g(xn)→1e\max_rp_n(r)\ge p_n(r_n)\ge g(x_n)\to\frac1e です。

上からの評価。 r≥2r\ge2 のとき、同じ比較から ∑i=rn−11i≤∫r−1n−1dxx=log⁡n−1r−1\sum_{i=r}^{n-1}\frac1i\le\int_{r-1}^{n-1}\frac{dx}x=\log\frac{n-1}{r-1} です。y=r−1n−1∈[1n−1,1)y=\frac{r-1}{n-1}\in\left[\frac1{n-1},1\right) とおくと、rn−y=n−rn(n−1)≤1n−1\frac rn-y=\frac{n-r}{n(n-1)}\le\frac1{n-1} なので

pn(r)≤(y+1n−1)log⁡1y≤ylog⁡1y+log⁡(n−1)n−1p_n(r)\le\left(y+\frac1{n-1}\right)\log\frac1y\le y\log\frac1y+\frac{\log(n-1)}{n-1}

です。ここで ylog⁡1y≤1ey\log\frac1y\le\frac1e(補題 10.1[微分法とその応用] を t=1yt=\frac1y に使う)なので pn(r)≤1e+log⁡(n−1)n−1p_n(r)\le\frac1e+\frac{\log(n-1)}{n-1} です。r=1r=1 では pn(1)=1n∑i=1n−11i≤1+log⁡nnp_n(1)=\frac1n\sum_{i=1}^{n-1}\frac1i\le\frac{1+\log n}n(定理 6.1 (3) より Hn−1≤Hn≤1+log⁡nH_{n-1}\le H_n\le1+\log n)、r=0r=0 では 1n\frac1n です。log⁡mm→0\frac{\log m}m\to0(命題 5.1[微分法とその応用] (2))なので、max⁡rpn(r)≤1e+εn\max_rp_n(r)\le\frac1e+\varepsilon_n(εn→0\varepsilon_n\to0)です。下からの評価とあわせて 1e\frac1e に収束します(はさみうち)。

証明の下からの評価では r≈n/er\approx n/e(約 37%)と取っており、「最初の約 37% は見送り、その後に出る最高を更新した人を採用する」戦略が、この形の戦略の中で(n→∞n\to\infty で)最良の成功確率 1e\frac1e を実現します。他の形の戦略を含めても最良であることは、この記事では扱いません。n=4n=4 では p4(1)=14(1+12+13)=1124≈0.458p_4(1)=\frac1{4}\left(1+\frac12+\frac13\right)=\frac{11}{24}\approx0.458 が最大で、nn が大きくなると成功確率は 0.368⋯=1e0.368\cdots=\frac1e に近づきます。

7. 二項分布の確率が最大になる回数

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命題 7.1(二項分布の最頻値)✓

0<p<10<p<1、q=1−pq=1-p とし、bk=(nk)pkqn−kb_k=\binom nkp^kq^{n-k}(0≤k≤n0\le k\le n)とする(二項分布。定義 3.1[確率分布と統計的な推測])。1≤k≤n1\le k\le n について

bkbk−1=(n−k+1) pk q\frac{b_k}{b_{k-1}}=\frac{(n-k+1)\,p}{k\,q}

で、bk>bk−1b_k>b_{k-1} であることは k<(n+1)pk<(n+1)p と同値、bk=bk−1b_k=b_{k-1} であることは k=(n+1)pk=(n+1)p と同値である。したがって bkb_k が最大になるのは k=⌊(n+1)p⌋k=\lfloor(n+1)p\rfloor のとき((n+1)p(n+1)p が整数のときは、それと (n+1)p−1(n+1)p-1 の 2 つ)である。

証明(命題 7.1)

(nk)=(nk−1)n−k+1k\binom nk=\binom n{k-1}\dfrac{n-k+1}k から比の式が従います。bk≥bk−1b_k\ge b_{k-1} は (n−k+1)p≥kq(n-k+1)p\ge kq と同値で、(n−k+1)p−kq=(n+1)p−k(p+q)=(n+1)p−k(n-k+1)p-kq=(n+1)p-k(p+q)=(n+1)p-k なので、k≤(n+1)pk\le(n+1)p と同値です(等号は等号と、不等号は不等号と対応する)。したがって kk を 00 から増やしていくと、k<(n+1)pk<(n+1)p の間 bkb_k は増加し、k>(n+1)pk>(n+1)p の間は減少するので、最大値は k=⌊(n+1)p⌋k=\lfloor(n+1)p\rfloor で取ります。

例 7.2(コインとサイコロ)

公正なコイン p=12p=\frac12 を 10 回投げて表が出る回数の最頻値は ⌊11⋅12⌋=5\lfloor11\cdot\frac12\rfloor=5 で、サイコロを 12 回投げて 6 が出る回数(p=16p=\frac16)は ⌊13/6⌋=2\lfloor13/6\rfloor=2 です。n=11n=11、p=12p=\frac12 では (n+1)p=6(n+1)p=6 が整数で、k=5,6k=5,6 が同時に最大です(b5=b6=(115)/211b_5=b_6=\binom{11}5/2^{11})。

公正なコインを投げ続け、2 人のプレイヤーが、それぞれ 3 回連続の並び(表 H・裏 T の列)を 1 つずつ選びます。投げ続けて、先に自分の並びが現れたほうが勝ちです。たとえば、あなたが HHT、相手が THH を選ぶと、相手のほうが勝ちやすいのです。

命題 8.1(Penney のゲーム)✓

次の勝つ確率が成り立つ。

  1. THH と HHT の勝負:THH が先に現れる確率は 34\dfrac34 である。
  2. TTH と THH の勝負:TTH が先に現れる確率は 23\dfrac23 である。
  3. HTT と TTH の勝負で HTT が勝つ確率は 34\dfrac34、HHT と HTT の勝負で HHT が勝つ確率は 23\dfrac23 である。

したがって、THH は HHT に、TTH は THH に、HTT は TTH に、HHT は HTT にそれぞれ勝ちやすく、4 つの列は循環しており、「最強の列」は存在しない。

証明(命題 8.1)

決着がつかない確率を押さえます。連続 22 回が「表表」でない確率は、mm 回投げて「表表」が現れない確率 qm≤(3/4)⌊m/2⌋→0q_m\le(3/4)^{\lfloor m/2\rfloor}\to0(定理 2.1 (2))です。以下、無限に続く試行の確率は、有限回で打ち切った確率の N→∞N\to\infty の極限で定めます。

(1) 最初の 2 回が HH のとき、最初の T が出る時刻 jj(j≥3j\ge3)で HHT が完成するので、HHT が先に現れます(THH は T を含むので、jj より前には完成せず、jj の T から始まるとしても j+2j+2 以降)。最初の 2 回が HH でないとき、最初に HH が現れる位置を (j,j+1)(j,j+1) とすると、j≥2j\ge2 で、j−1j-1 回目は T です(H なら j−1,jj-1,j で先に HH が現れる)。よって THH が j+1j+1 回目で完成します。HHT は、HH が (k,k+1)(k,k+1)(k≥jk\ge j)にあり、k+2≥j+2k+2\ge j+2 で完成するので、THH のほうが先です。したがって、NN 回で打ち切った THH が先に現れる確率は、{\{最初の 2 回が HH でない}\}(確率 34\frac34)に含まれ、決着がついている限りそれに一致します。決着がつかない確率は N→∞N\to\infty で 00(HH が一度も現れないか、最初が HH で後に T が現れない確率が 00 に収束する)なので、THH が先に現れる確率は 34\frac34 です。

(2) まだ決着していない列の終わり方を 4 つの状態に分けます。S:まだ T が出ていない(投げる前を含む)。A:末尾が T で、その前は T でない。B:末尾が TT。C:末尾が TH。T を含み決着していない列が HH で終わることはない(最後の T の直後に HH が続けば THH が完成している)ので、決着していない列はこの 4 つのどれかに当たります。それぞれの状態から先に mm 回投げる間に、TTH が THH より先に現れる確率を sm,am,bm,cms_m,a_m,b_m,c_m とします(m=0m=0 はすべて 00)。次の 1 回で場合分けすると(全確率の公式。定理 5.3[確率])、m≥1m\ge1 で

sm=12sm−1+12am−1,am=12bm−1+12cm−1,bm=12bm−1+12,cm=12am−1s_m=\tfrac12s_{m-1}+\tfrac12a_{m-1},\quad a_m=\tfrac12b_{m-1}+\tfrac12c_{m-1},\quad b_m=\tfrac12b_{m-1}+\tfrac12,\quad c_m=\tfrac12a_{m-1}

です。理由:S で H なら S のまま、T なら A。A で T なら B、H なら C。B で H なら TTH が完成して TTH の勝ち(値 11)、T なら B のまま。C で H なら THH が完成して THH の勝ち(値 00)、T なら A(末尾の T の前は H)です。事象は mm とともに大きくなるので、各数列は単調増加で 11 以下で、極限 s,a,b,cs,a,b,c が存在します(定理 2.1[級数と収束判定])。漸化式で m→∞m\to\infty とすると、b=12b+12b=\frac12b+\frac12 から b=1b=1、c=12ac=\frac12a、a=12b+12c=12+14aa=\frac12b+\frac12c=\frac12+\frac14a から a=23a=\frac23、s=12s+12as=\frac12s+\frac12a から s=a=23s=a=\frac23 です。投げ始めは状態 S なので、TTH が先に現れる確率は s=23s=\frac23 です。決着がつかない確率は、列を 3 回ずつの組に区切ると、どの組も TTH でも THH でもない確率が 34\frac34 なので (34)⌊N/3⌋→0\left(\frac34\right)^{\lfloor N/3\rfloor}\to0 で、THH が先に現れる確率は 1−23=131-\frac23=\frac13 です。

(3) 表と裏を入れ替える対称性により、HTT と TTH の勝負は THH と HHT の勝負(HTT↔\leftrightarrowTHH、TTH↔\leftrightarrowHHT)に、HHT と HTT の勝負は TTH と THH の勝負(HHT↔\leftrightarrowTTH、HTT↔\leftrightarrowTHH)に対応します。よって (1)(2) の確率がそれぞれ当てはまります。

先に選んだ側は、相手の選んだ列に応じて後から有利な列を選ばれてしまいます。「勝ちやすい」が推移しない(強さに順序がつかない)勝負は、サイコロでも作れます。

例 8.2(非推移的なサイコロ)

3 つのサイコロ A、B、C の目を、A={2,2,4,4,9,9}=\{2,2,4,4,9,9\}、B={1,1,6,6,8,8}=\{1,1,6,6,8,8\}、C={3,3,5,5,7,7}=\{3,3,5,5,7,7\} とします。A と B を振って A の目が大きい確率は、A の目の値 2,4,92,4,9 と B の目の値 1,6,81,6,8 の 9 通りの組(各確率 19\frac19)のうち、2>12>1、4>14>1、9>19>1、9>69>6、9>89>8 の 5 つなので 59\frac59 です。同様に B が C に勝つ確率(6>3,6>5,8>3,8>5,8>76>3,6>5,8>3,8>5,8>7)が 59\frac59、C が A に勝つ確率(3>2,5>2,5>4,7>2,7>43>2,5>2,5>4,7>2,7>4)が 59\frac59 です。A は B に、B は C に、C は A にそれぞれ 59\frac59 の確率で勝つので、3 つのサイコロの強さは循環しています。

有限確率空間では、結果が有限個なので「同様に確からしい」確率は個数の比でした。結果が連続的に変化する場合(針の位置・角度、待ち合わせの時刻)では、その代わりに面積の比を使います。

定義 9.1(幾何確率)↗

平面の有界な領域 Ω\Omega が面積確定で ∣Ω∣>0|\Omega|>0 とする。Ω\Omega の中から無作為に(一様に)点を選ぶとき、面積確定な部分集合 A⊆ΩA\subseteq\Omega に点が入る確率を P(A)=∣A∣∣Ω∣P(A)=\dfrac{|A|}{|\Omega|} と定める。ここで ∣⋅∣|\cdot| は面積(定義 5.1[重積分と累次積分])である。

面積は、互いに交わらない図形について加法的で、∣Ω∣|\Omega| で割ると全体が 11 になるので、有限確率空間と同じ形の性質(加法定理・余事象の確率)を持ちます。

例 9.2(待ち合わせ)

2 人が 12 時から 13 時までの間の無作為な時刻 s,ts,t(分、0≤s,t≤600\le s,t\le60)に着き、1515 分以上待たずに帰るとします。会える条件は ∣s−t∣≤15|s-t|\le15 で、会えない領域は 2 つの直角二等辺三角形(脚の長さ 4545)です。面積は 2⋅12⋅452=20252\cdot\frac12\cdot45^2=2025 で、全体の面積 602=360060^2=3600 との比から、会える確率は 1−20253600=7161-\dfrac{2025}{3600}=\dfrac7{16} です。

平行な直線が間隔 dd で引かれた平面に、長さ ll(l≤dl\le d)の針を無作為に落とします。針が直線のどれかと交わる確率を求めます。

針の位置は、針の中心から最も近い直線までの距離 x∈[0,d2]x\in\left[0,\frac d2\right] と、針が直線となす鋭角 θ∈[0,π2]\theta\in\left[0,\frac\pi2\right] で決まります。針を落とす(中心の位置と向きを無作為に決める)とは、組 (θ,x)(\theta,x) が長方形 Ω=[0,π2]×[0,d2]\Omega=\left[0,\frac\pi2\right]\times\left[0,\frac d2\right] の中から一様に選ばれる、ということです(対称性により、中心の位置と向きの全体を、この長方形に帰着できる)。

定理 9.3(Buffon の針)✓

l≤dl\le d とする。針が直線と交わる確率は

2lπd\frac{2l}{\pi d}

である。

証明(定理 9.3)

針の中心から直線への距離が xx、角が θ\theta のとき、針の端の直線への垂直方向の距離の最大は l2sin⁡θ\frac l2\sin\theta で、針が直線と交わるのは x≤l2sin⁡θx\le\frac l2\sin\theta のときです。事象 A={(θ,x):0≤θ≤π2, 0≤x≤l2sin⁡θ}A=\left\{(\theta,x):0\le\theta\le\frac\pi2,\ 0\le x\le\frac l2\sin\theta\right\} は、l2sin⁡θ≤l2≤d2\frac l2\sin\theta\le\frac l2\le\frac d2 なので Ω\Omega に含まれ、θ\theta を独立変数としたとき、連続関数 00 と l2sin⁡θ\frac l2\sin\theta に挟まれた図形です。定理 2.2[積分の応用] から面積は ∣A∣=∫0π/2l2sin⁡θ dθ=l2[−cos⁡θ]0π/2=l2\displaystyle|A|=\int_0^{\pi/2}\frac l2\sin\theta\,d\theta=\frac l2\bigl[-\cos\theta\bigr]_0^{\pi/2}=\frac l2(命題 2.1[積分法])です。全体の面積は ∣Ω∣=π2⋅d2=πd4|\Omega|=\frac\pi2\cdot\frac d2=\frac{\pi d}4 なので、定義 9.1 から P(A)=l/2πd/4=2lπdP(A)=\dfrac{l/2}{\pi d/4}=\dfrac{2l}{\pi d} です。

l=dl=d なら確率は 2π=0.6366⋯\frac2\pi=0.6366\cdots で、nn 回投げて kk 回直線と交わったなら、π≈2lndk\pi\approx\dfrac{2ln}{dk} と見積もれます。コンピュータで実験すると次のようになります。針の向きは、単位円板の中の一様な点から決めて(π\pi を使わずに)います。

import math
import random
def buffon(n, l=1.0, d=1.0):
hits = 0
for _ in range(n):
x = random.uniform(0, d / 2) # 針の中心から最も近い線までの距離
while True: # 単位円板内の一様な点で針の向きを決める
u, v = random.uniform(-1, 1), random.uniform(-1, 1)
r2 = u * u + v * v
if 0 < r2 <= 1:
break
s = abs(v) / math.sqrt(r2) # 針が線となす角の正弦 sin(theta)
if x <= (l / 2) * s:
hits += 1
return 2 * l * n / (d * hits)
print(buffon(10**6)) # 3.14 付近の値(乱数なので実行ごとに変わる)
  • マルコフ連鎖。 破産問題やランダムウォークは、状態が遷移確率で動くマルコフ連鎖の最も簡単な例です。停止時刻・再帰性・到達確率は マルコフ連鎖とポアソン過程 で一般論になります。
  • マルチンゲールと停止時刻。 公平な賭けの持ち金はマルチンゲールで、破産問題の答え a/Na/N は「停止時刻でも期待値が保たれる」ことの帰結です。
  • Brown 運動。 ランダムウォークの歩幅と時間間隔を小さくした極限が Brown 運動で、最後に原点にいた時刻の分布(離散の逆正弦法則)は、連続の逆正弦法則に変わります。
  • 確率空間と測度。 無限回の試行を扱う確率空間(Kolmogorov の公理)は 確率空間 で、この記事の「打ち切りの極限」は、測度の連続性として一般に定式化されます。
  • 組合せ論・母関数。 Catalan 数・鏡像原理は 母関数による数え上げ の対象です。この記事の漸化式(qm=12qm−1+14qm−2q_m=\frac12q_{m-1}+\frac14q_{m-2})は、漸化式と母関数 の特性方程式でも解けます。

演習 11.1標準

公正なコインを投げ続け、裏が 3 回連続して出るまでの回数を TT とする。E[min⁡(T,N)]E[\min(T,N)] の N→∞N\to\infty の極限を、定理 2.1 (2) と同様にして求めよ。

解答

qmq_m を「mm 回投げて裏が 3 回連続しない確率」とする(q0=q1=q2=1q_0=q_1=q_2=1)。最後の連続する裏の個数で場合分けして qm=12qm−1+14qm−2+18qm−3q_m=\frac12q_{m-1}+\frac14q_{m-2}+\frac18q_{m-3}(m≥3m\ge3)である。E[min⁡(T,N)]=∑m=0N−1qmE[\min(T,N)]=\sum_{m=0}^{N-1}q_m で、各項は 00 以上、q3j≤(78)jq_{3j}\le\left(\frac78\right)^j で抑えられるので収束する。和を QQ とし、漸化式を m≥3m\ge3 で足すと Q−3=12(Q−2)+14(Q−1)+18QQ-3=\frac12(Q-2)+\frac14(Q-1)+\frac18Q で、18Q=74\frac18Q=\frac74、Q=14Q=14 である。

演習 11.2易

f4f_4 を 定理 4.4 で求め、4 歩の経路を数え上げて確かめよ。

解答

f4=C123=18f_4=\dfrac{C_1}{2^3}=\dfrac18。4 歩の経路 24=162^4=16 通りのうち、S4=0S_4=0 かつ S1,S2,S3≠0S_1,S_2,S_3\ne0 となるのは ++−−++-- と −−++--++ の 2 通り(+−…+-\dots は S2=0S_2=0)なので 216=18\frac2{16}=\frac18 である。

演習 11.3標準

n=4n=4 の秘書問題で、p4(r)p_4(r)(r=0,1,2,3r=0,1,2,3)を求めて最適な rr を答えよ。

解答

定理 6.2 (1) から p4(0)=14p_4(0)=\frac14、p4(1)=14(1+12+13)=1124p_4(1)=\frac14\left(1+\frac12+\frac13\right)=\frac{11}{24}、p4(2)=24(12+13)=512=1024p_4(2)=\frac24\left(\frac12+\frac13\right)=\frac5{12}=\frac{10}{24}、p4(3)=34⋅13=14p_4(3)=\frac34\cdot\frac13=\frac14 である。最大は r=1r=1 のときの 1124≈0.458\frac{11}{24}\approx0.458 である。

  • W. Feller, An Introduction to Probability Theory and Its Applications, Vol. I, 3rd ed., Wiley, 1968 — ランダムウォーク・破産問題・Banach のマッチ箱問題の章。
  • 小針晛宏『確率・統計入門』岩波書店、1973 — 確率の基本。
  • T. S. Ferguson, “Who solved the secretary problem?”, Statistical Science 4 (1989), 282–289 — 秘書問題の歴史と解。
  • W. Penney, “Problem 95: Penney-ante”, Journal of Recreational Mathematics 7 (1974), 321 — Penney のゲームの出題。

このテーマの 100 本ノック(80 問)

執筆: Claude Code(Sonnet 5.5)、Claude Code(Opus 5.5)・監査 4 回(Claude Code)・最終 2026-10-12

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