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確率:有限確率空間・独立・条件付き確率・期待値

対象読者: 本テーマ第1章の場合の数(順列・組合せ・和の法則と積の法則)を学んだ高校生。確率は未習でもよく、集合の記号と有限和の計算を知っていれば読めます。

前提となる記事:場合の数:順列・組合せと数え上げの原理

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「さいころを 2 個投げて目の和が 7 になる確率は?」「検査で陽性と出たとき、本当に病気である確率は?」といった問いに、数え方のきまりを決めて確実に答えられるようにするのがこの記事の目的です。確率を「起こりうる結果の集合と、各結果の重み」として最初に定め、そこから足し算・条件付き・平均(期待値)の計算規則をすべて導きます。読み終えると、「何を同様に確からしいとみなすか」を自分で決めて、確率や期待値を計算できるようになります。

  • 確率とは「結果の集合 Ω\Omega(有限)の各点に非負の重みを割り当て、合計を 11 にしたもの」です。これが有限確率空間で、Kolmogorov の公理(確率空間)の特別な場合です。
  • 「同様に確からしい」とは、重みがすべて等しいことです。このとき確率は場合の数の比 P(A)=∣A∣/∣Ω∣P(A)=|A|/|\Omega| になります。前の記事(場合の数)が確率の計算の土台です。
  • 加法定理・余事象・和事象の確率は、重みの和の性質から直接出ます。
  • 独立な試行は直積空間で定義され、成功確率 pp の試行を nn 回反復して kk 回成功する確率は (nk)pk(1−p)n−k\binom nk p^k(1-p)^{n-k} です。
  • 条件付き確率 P(A∣B)=P(A∩B)/P(B)P(A\mid B)=P(A\cap B)/P(B) から、乗法定理・全確率の公式・ベイズの定理が出ます。「独立」と「排反」は別の概念です。
  • 期待値(確率で重みをつけた平均)は、独立でなくても線形性を満たします。事象の確率を足し合わせると、期待値が(難しい分布を求めずに)計算できます。

確率の問題で最も多い失敗は、「何が同様に確からしいのか」を決めずに数えることです。たとえば「2 個のさいころを投げて目の和が 7 になる確率」を、和の値 2,…,122,\dots,12 の 11 通りを同様に確からしいとして 1/111/11 と答えると誤りです。同様に確からしいのは、2 個のさいころの目の組 (i,j)(i,j) の 3636 通りで、和が 7 になるのは 66 通りだから 1/61/6 です。

この記事では、確率の対象を集合と重みとして最初に決めます。以後のすべての定理は、「有限和の性質」だけで証明できます。連続型や無限の場合の一般論は 確率空間 で学びます。

定義 2.1(有限確率空間)↗

空でない有限集合 Ω\Omega(標本空間、起こりうる結果全体)と、各 ω∈Ω\omega\in\Omega に対する実数 p(ω)≥0p(\omega)\ge0 で、∑ω∈Ωp(ω)=1\sum_{\omega\in\Omega}p(\omega)=1 を満たすものの組 (Ω,p)(\Omega,p) を有限確率空間という。Ω\Omega の部分集合を事象といい、事象 AA の確率を

P(A)=∑ω∈Ap(ω)P(A)=\sum_{\omega\in A}p(\omega)

と定める(P(∅)=0P(\varnothing)=0)。すべての ω\omega で p(ω)=1/∣Ω∣p(\omega)=1/|\Omega| であるとき、これらの結果は同様に確からしいといい、(Ω,p)(\Omega,p) を一様な確率空間という。

命題 2.2(同様に確からしいときの確率)✓

一様な有限確率空間では、任意の事象 AA について P(A)=∣A∣∣Ω∣P(A)=\dfrac{|A|}{|\Omega|} である。

証明(命題 2.2)

P(A)=∑ω∈A1∣Ω∣=∣A∣⋅1∣Ω∣P(A)=\sum_{\omega\in A}\dfrac1{|\Omega|}=|A|\cdot\dfrac1{|\Omega|}。

標本空間の選び方に注意します。さいころ 2 個の問題では、Ω={(i,j):1≤i,j≤6}\Omega=\{(i,j):1\le i,j\le6\}(区別できる 2 個の目の組)として、積の法則(定理 3.1)[場合の数] から ∣Ω∣=36|\Omega|=36、一様にとるのが自然です。

次の命題は、ここで定めた確率が、大学で学ぶ一般の確率(Kolmogorov の公理)の特別な場合になっていることの確認です。測度論の用語が出ますが、以降の高校範囲の内容は有限和だけで進むので、初めて読むときは読み飛ばしても支障ありません。

命題 2.3(有限確率空間は Kolmogorov の確率空間である)✓

(Ω,p)(\Omega,p) を有限確率空間とすると、Ω\Omega の冪集合 P(Ω)\mathcal{P}(\Omega) を事象の族として、PP は 確率測度(定義 4.1)[確率空間とコルモゴロフの公理] の 3 条件(非負性・全確率・可算加法性)を満たす。すなわち (Ω,P(Ω),P)(\Omega,\mathcal{P}(\Omega),P) は確率空間である。

証明(命題 2.3)

冪集合は σ\sigma-加法族(補集合と可算和で閉じる)なので (Ω,P(Ω))(\Omega,\mathcal{P}(\Omega)) は可測空間。非負性 P(A)≥0P(A)\ge0 は p(ω)≥0p(\omega)\ge0 から、全確率 P(Ω)=∑p(ω)=1P(\Omega)=\sum p(\omega)=1 は定義から従う。可算加法性: A1,A2,⋯⊆ΩA_1,A_2,\dots\subseteq\Omega が互いに素であるとする。空でない AnA_n は互いに素なので、Ω\Omega が有限集合であることから、空でない AnA_n は高々 ∣Ω∣|\Omega| 個である。したがって A=⋃nAnA=\bigcup_nA_n は有限個の互いに素な空でない部分集合の和であり、各 ω∈A\omega\in A はちょうど 1 つの AnA_n に属するので P(A)=∑ω∈Ap(ω)=∑n∑ω∈Anp(ω)=∑nP(An)P(A)=\sum_{\omega\in A}p(\omega)=\sum_n\sum_{\omega\in A_n}p(\omega)=\sum_nP(A_n)(空な項は 00)。

したがって、確率空間の一般論(確率測度の基本性質(定理 4.2)[確率空間とコルモゴロフの公理] など)はすべて有限確率空間で使えます。この記事では、高校の範囲の性質を有限和で直接証明します。

定理 3.1(確率の基本性質)✓

有限確率空間 (Ω,p)(\Omega,p) の事象 A,B,A1,…,AmA,B,A_1,\dots,A_m について次が成り立つ。

  1. P(∅)=0P(\varnothing)=0、P(Ω)=1P(\Omega)=1、0≤P(A)≤10\le P(A)\le1。
  2. (加法定理)A1,…,AmA_1,\dots,A_m が互いに排反(i≠ji\ne j なら Ai∩Aj=∅A_i\cap A_j=\varnothing)ならば P(A1∪⋯∪Am)=P(A1)+⋯+P(Am)P(A_1\cup\cdots\cup A_m)=P(A_1)+\cdots+P(A_m)。
  3. (余事象)P(Ac)=1−P(A)P(A^{c})=1-P(A)。
  4. (単調性)A⊆BA\subseteq B ならば P(A)≤P(B)P(A)\le P(B)。
  5. (和事象)P(A∪B)=P(A)+P(B)−P(A∩B)P(A\cup B)=P(A)+P(B)-P(A\cap B)。
  6. (合併上界)P(A1∪⋯∪Am)≤P(A1)+⋯+P(Am)P(A_1\cup\cdots\cup A_m)\le P(A_1)+\cdots+P(A_m)。
証明(定理 3.1)
  1. 空和は 00。P(Ω)=1P(\Omega)=1 は定義。各 p(ω)≥0p(\omega)\ge0 と A⊆ΩA\subseteq\Omega から 0≤P(A)≤P(Ω)=10\le P(A)\le P(\Omega)=1。
  2. A1,…,AmA_1,\dots,A_m が互いに排反なら、⋃Ai\bigcup A_i の各点はちょうど 1 つの AiA_i に属するので、∑ω∈⋃Aip(ω)=∑i∑ω∈Aip(ω)\sum_{\omega\in\bigcup A_i}p(\omega)=\sum_i\sum_{\omega\in A_i}p(\omega)。
  3. AA と AcA^c は排反で A∪Ac=ΩA\cup A^c=\Omega なので、2. と 1. より P(A)+P(Ac)=1P(A)+P(A^c)=1。
  4. B=A∪(B∖A)B=A\cup(B\setminus A) は排反な和で、2. より P(B)=P(A)+P(B∖A)≥P(A)P(B)=P(A)+P(B\setminus A)\ge P(A)。
  5. A∪B=A∪(B∖A)A\cup B=A\cup(B\setminus A)、B=(B∖A)∪(A∩B)B=(B\setminus A)\cup(A\cap B) がどちらも排反な和なので、2. により P(A∪B)=P(A)+P(B∖A)P(A\cup B)=P(A)+P(B\setminus A)、P(B)=P(B∖A)+P(A∩B)P(B)=P(B\setminus A)+P(A\cap B)。第 2 式から P(B∖A)=P(B)−P(A∩B)P(B\setminus A)=P(B)-P(A\cap B) を第 1 式に入れる。
  6. 各点 ω∈⋃Ai\omega\in\bigcup A_i は少なくとも 1 つの AiA_i に属し、∑ip(ω)1[ω∈Ai]≥p(ω)\sum_ip(\omega)\mathbf 1[\omega\in A_i]\ge p(\omega) だから、P(⋃Ai)=∑ω∈⋃Aip(ω)≤∑i∑ω∈Aip(ω)=∑iP(Ai)P(\bigcup A_i)=\sum_{\omega\in\bigcup A_i}p(\omega)\le\sum_i\sum_{\omega\in A_i}p(\omega)=\sum_iP(A_i)。

例 3.2(2 個のさいころ)

Ω=[6]×[6]\Omega=[6]\times[6] を一様にとる。「目の和が 7」は (1,6),…,(6,1)(1,6),\dots,(6,1) の 66 通りで確率 1/61/6。「目の和が 7 以上」は 6+5+4+3+2+1=216+5+4+3+2+1=21 通りで 7/127/12。「少なくとも 1 個が 6」は余事象「どちらも 6 でない」5×5=255\times5=25 通りを使って 1−25/36=11/361-25/36=11/36 です。「少なくとも」の形の確率は、定理 3.1 の 3. の余事象を使うのが基本です。

123456123456横: 2 個目の目、縦: 1 個目の目
2 個のさいころの目の組 の 36 通り。目の和が 7 になる 6 マス(色つき)が斜めに並ぶ。

例 3.3(誕生日問題)

kk 人の誕生日が(うるう年を除いた)365 日のどれかである。各人の誕生日が独立に一様だとすると、標本空間 Ω=[365]k\Omega=[365]^k(∣Ω∣=365k|\Omega|=365^k)は一様である。誕生日がすべて異なる事象は 365 個から kk 個を取る順列(定理 4.2[場合の数])で、確率は

365⋅364⋯(365−k+1)365k=∏j=1k−1(1−j365).\frac{365\cdot364\cdots(365-k+1)}{365^k}=\prod_{j=1}^{k-1}\Bigl(1-\frac j{365}\Bigr).

k=23k=23 で約 0.4930.493、したがって誕生日が重なる人がいる確率は 0.5070.507 と、半分を超えます。k=30k=30 で約 0.7060.706、k=50k=50 で約 0.9700.970 です。直観より小さい人数で重なるのは、重なりうる組の数が (k2)\binom k2 と速く増えるからです。

定義 4.1(直積空間(独立な試行))↗

有限確率空間 (Ω1,p1)(\Omega_1,p_1)、(Ω2,p2)(\Omega_2,p_2) に対し、Ω1×Ω2\Omega_1\times\Omega_2 に p(ω1,ω2)=p1(ω1) p2(ω2)p(\omega_1,\omega_2)=p_1(\omega_1)\,p_2(\omega_2) で重みを与えたものを直積確率空間といい、2 つの試行は独立であるという。同様に nn 個の試行の直積も定める。

命題 4.2(直積空間の性質)✓

直積確率空間は有限確率空間である。A⊆Ω1A\subseteq\Omega_1、B⊆Ω2B\subseteq\Omega_2 について

P(A×Ω2)=P1(A),P(Ω1×B)=P2(B),P(A×B)=P1(A)P2(B).P(A\times\Omega_2)=P_1(A),\quad P(\Omega_1\times B)=P_2(B),\quad P(A\times B)=P_1(A)P_2(B).

とくに事象 A×Ω2A\times\Omega_2(第 1 の試行だけで決まる)と Ω1×B\Omega_1\times B(第 2 の試行だけで決まる)の積事象の確率は、それぞれの確率の積である。

証明(命題 4.2)

p≥0p\ge0 は明らか。∑ω1,ω2p1(ω1)p2(ω2)=(∑p1)(∑p2)=1\sum_{\omega_1,\omega_2}p_1(\omega_1)p_2(\omega_2)=\bigl(\sum p_1\bigr)\bigl(\sum p_2\bigr)=1。P(A×B)=∑ω1∈A∑ω2∈Bp1(ω1)p2(ω2)=P1(A)P2(B)P(A\times B)=\sum_{\omega_1\in A}\sum_{\omega_2\in B}p_1(\omega_1)p_2(\omega_2)=P_1(A)P_2(B)。B=Ω2B=\Omega_2 または A=Ω1A=\Omega_1 とおけば、前の 2 式が出る。(A×Ω2)∩(Ω1×B)=A×B(A\times\Omega_2)\cap(\Omega_1\times B)=A\times B である。

「成功確率 pp の試行」とは、Ω0={成功,失敗}\Omega_0=\{\text{成功},\text{失敗}\}、p(成功)=pp(\text{成功})=p、p(失敗)=1−pp(\text{失敗})=1-p(0≤p≤10\le p\le1)の確率空間です。

定理 4.3(反復試行の確率)✓

成功確率 pp の試行を独立に nn 回繰り返す(Ω0n\Omega_0^n の直積空間)。ちょうど kk 回成功する確率は

(nk) pk(1−p)n−k(0≤k≤n)\binom nk\,p^k(1-p)^{n-k}\qquad(0\le k\le n)

である。これらの和は 11 である。

証明(定理 4.3)

結果は成功 SS、失敗 FF の列 ω=(ω1,…,ωn)\omega=(\omega_1,\dots,\omega_n) で、重みは ∏ip0(ωi)\prod_ip_0(\omega_i)。ちょうど kk 個の SS をもつ列では pk(1−p)n−kp^k(1-p)^{n-k} である。そのような列は、SS の位置の選び方(nn 個から kk 個)に 1 対 1 に対応するので、定理 4.3[場合の数] により (nk)\binom nk 個。確率は重みの和なので (nk)pk(1−p)n−k\binom nkp^k(1-p)^{n-k}。k=0,…,nk=0,\dots,n の事象は互いに排反で和が Ω\Omega なので、定理 3.1 の 1. と 2. により和は 11(二項定理(定理 7.3)[数え上げと母関数] (p+(1−p))n=1(p+(1-p))^n=1 と同じ式である)。

例 4.4(コインを 5 回投げる)

公平なコインを 5 回投げて、表が 2 回以上出る確率は、余事象(表が 0 回か 1 回)を使って 1−((50)+(51))/25=1−6/32=13/161-\bigl(\binom50+\binom51\bigr)/2^5=1-6/32=13/16。表が出る回数が 22 ちょうどの確率は (52)/32=5/16\binom52/32=5/16 です。

5. 条件付き確率・独立・ベイズの定理

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定義 5.1(条件付き確率)↗

事象 BB が P(B)>0P(B)>0 を満たすとき、BB が起こったという条件のもとでの事象 AA の条件付き確率を P(A∣B)=P(A∩B)P(B)P(A\mid B)=\dfrac{P(A\cap B)}{P(B)} と定める。

これは 条件付き確率(定義 5.1)[確率空間とコルモゴロフの公理] の特別な場合です。

命題 5.2(条件付き確率は確率である)✓

P(B)>0P(B)>0 のとき、pB(ω)=p(ω)/P(B)p_B(\omega)=p(\omega)/P(B)(ω∈B\omega\in B)、pB(ω)=0p_B(\omega)=0(ω∉B\omega\notin B)は Ω\Omega 上の有限確率空間を定め、その確率は PB(A)=P(A∣B)P_B(A)=P(A\mid B) である。したがって 定理 3.1 のすべての性質は、P(⋅∣B)P(\cdot\mid B) でも成り立つ。

証明(命題 5.2)

pB≥0p_B\ge0、∑ωpB(ω)=∑ω∈Bp(ω)/P(B)=1\sum_\omega p_B(\omega)=\sum_{\omega\in B}p(\omega)/P(B)=1。PB(A)=∑ω∈A∩Bp(ω)/P(B)=P(A∩B)/P(B)P_B(A)=\sum_{\omega\in A\cap B}p(\omega)/P(B)=P(A\cap B)/P(B)。

定理 5.3(乗法定理・全確率の公式・ベイズの定理)✓

(Ω,p)(\Omega,p) を有限確率空間とする。

  1. (乗法定理)P(B)>0P(B)>0 なら P(A∩B)=P(B) P(A∣B)P(A\cap B)=P(B)\,P(A\mid B)。
  2. (全確率の公式)B1,…,BmB_1,\dots,B_m が Ω\Omega の分割(互いに排反で和が Ω\Omega)で、すべての jj で P(Bj)>0P(B_j)>0 ならば、任意の事象 AA について P(A)=∑j=1mP(A∣Bj)P(Bj)P(A)=\sum_{j=1}^mP(A\mid B_j)P(B_j)。
  3. (ベイズの定理)2. の仮定のもとで P(A)>0P(A)>0 ならば、各 jj について
P(Bj∣A)=P(A∣Bj) P(Bj)∑i=1mP(A∣Bi) P(Bi).P(B_j\mid A)=\frac{P(A\mid B_j)\,P(B_j)}{\sum_{i=1}^mP(A\mid B_i)\,P(B_i)}.
証明(定理 5.3)
  1. 定義 5.1 の両辺に P(B)P(B) を掛ける。
  2. A=⋃j(A∩Bj)A=\bigcup_j(A\cap B_j) は排反な和なので、定理 3.1 の 2. により P(A)=∑jP(A∩Bj)P(A)=\sum_jP(A\cap B_j)。各項に 1. を使う。
  3. 定義と 1. より P(Bj∣A)=P(A∩Bj)P(A)=P(A∣Bj)P(Bj)P(A)P(B_j\mid A)=\dfrac{P(A\cap B_j)}{P(A)}=\dfrac{P(A\mid B_j)P(B_j)}{P(A)}。分母に 2. を使う。

一般の確率空間での同じ主張は 乗法定理・全確率の公式・ベイズの定理(定理 5.3)[確率空間とコルモゴロフの公理] にあります。

例 5.4(検査の陽性とベイズの定理)

ある病気の有病率が 1%1\% とする。病気の人が検査で陽性になる確率が 99%99\%、病気でない人が誤って陽性になる確率が 5%5\% とする。DD を「病気」、++ を「陽性」とすると P(D)=0.01P(D)=0.01、P(+∣D)=0.99P(+\mid D)=0.99、P(+∣Dc)=0.05P(+\mid D^c)=0.05。全確率の公式から P(+)=0.99⋅0.01+0.05⋅0.99=0.0099+0.0495=0.0594P(+)=0.99\cdot0.01+0.05\cdot0.99=0.0099+0.0495=0.0594。ベイズの定理より

P(D∣+)=0.00990.0594=16≈0.17.P(D\mid+)=\frac{0.0099}{0.0594}=\frac16\approx0.17.

陽性でも病気の確率は 6 分の 1 にすぎません。有病率が低いと、誤陽性の人数(0.04950.0495)が真の陽性(0.00990.0099)を上回るためです。

例 5.5(モンティ・ホール問題)

3 つのドアのうち 1 つに車、残りにヤギ。あなたはドア 1 を選ぶ。車のあるドアを知っている司会者が、あなたが選ばなかったドアのうちヤギのあるドアを 1 つ開ける(2 つともヤギなら等確率でどちらか)。車がドア ii にある事象を CiC_i(各 1/31/3)、司会者がドア 3 を開ける事象を H3H_3 とする。P(H3∣C1)=1/2P(H_3\mid C_1)=1/2、P(H3∣C2)=1P(H_3\mid C_2)=1(ドア 3 しか選べない)、P(H3∣C3)=0P(H_3\mid C_3)=0。全確率の公式から P(H3)=13⋅12+13⋅1+0=12P(H_3)=\frac13\cdot\frac12+\frac13\cdot1+0=\frac12。ベイズの定理より P(C1∣H3)=1/61/2=13P(C_1\mid H_3)=\dfrac{1/6}{1/2}=\dfrac13、P(C2∣H3)=1/31/2=23P(C_2\mid H_3)=\dfrac{1/3}{1/2}=\dfrac23。ドアを変えると車を得る確率は 2/32/3 です(詳しい議論は モンティ・ホール問題)。

定義 5.6(事象の独立)↗

事象 A,BA,B が独立であるとは P(A∩B)=P(A)P(B)P(A\cap B)=P(A)P(B) が成り立つこと。事象 A1,…,AmA_1,\dots,A_m が独立であるとは、{1,…,m}\{1,\dots,m\} の空でない任意の部分集合 JJ について P(⋂j∈JAj)=∏j∈JP(Aj)P\bigl(\bigcap_{j\in J}A_j\bigr)=\prod_{j\in J}P(A_j) が成り立つこと。

これは 事象の独立性(定義 6.1)[確率空間とコルモゴロフの公理] の特別な場合です。

命題 5.7(独立の基本性質)✓

  1. P(B)>0P(B)>0 とする。A,BA,B が独立であることと P(A∣B)=P(A)P(A\mid B)=P(A) は同値である。
  2. A,BA,B が独立ならば、A,BcA,B^c も独立で、Ac,BcA^c,B^c も独立である。
  3. P(A)>0P(A)>0、P(B)>0P(B)>0 で A∩B=∅A\cap B=\varnothing(排反)ならば、A,BA,B は独立でない。
証明(命題 5.7)
  1. P(A∣B)=P(A∩B)/P(B)P(A\mid B)=P(A\cap B)/P(B) なので、P(A∣B)=P(A)P(A\mid B)=P(A) は P(A∩B)=P(A)P(B)P(A\cap B)=P(A)P(B) と同値。
  2. P(A∩Bc)=P(A)−P(A∩B)=P(A)−P(A)P(B)=P(A)(1−P(B))=P(A)P(Bc)P(A\cap B^c)=P(A)-P(A\cap B)=P(A)-P(A)P(B)=P(A)(1-P(B))=P(A)P(B^c)(定理 3.1 の 2. と 3.)。AA と BcB^c が独立だと分かったので、同じ議論で AcA^c と BcB^c も独立。
  3. P(A∩B)=0P(A\cap B)=0 だが P(A)P(B)>0P(A)P(B)>0。

「独立」は一方が他方の確率に影響しないこと、「排反」は同時に起こらないことで、別の概念です。排反な 2 事象は、一方が起きたら他方が起きないことが分かるので、むしろ強く依存しています。

例 5.8(2 つずつ独立でも全体では独立でない)

コインを 2 回投げる(Ω={H,T}2\Omega=\{H,T\}^2 を一様にとる)。AA:「1 回目が表」、BB:「2 回目が表」、CC:「2 回の結果が同じ」とする。P(A)=P(B)=P(C)=12P(A)=P(B)=P(C)=\frac12、P(A∩B)=P(A∩C)=P(B∩C)=14P(A\cap B)=P(A\cap C)=P(B\cap C)=\frac14 なので、どの 2 つも独立です。しかし A∩B∩C=A∩BA\cap B\cap C=A\cap B なので P(A∩B∩C)=14≠18=P(A)P(B)P(C)P(A\cap B\cap C)=\frac14\ne\frac18=P(A)P(B)P(C) で、3 つは独立ではありません。独立の定義が、すべての部分集合について積の形を要求するのはこのためです。

確率変数は「変数」という名前ですが、実際は各結果に数を対応させる関数です。たとえば「さいころ 2 個の目の和」は、結果 (i,j)(i,j) に i+ji+j を対応させる関数です。期待値は、その数を結果の重みで平均したものです。

定義 6.1(確率変数と期待値)↗

有限確率空間 (Ω,p)(\Omega,p) 上の確率変数とは、実数値関数 X:Ω→RX:\Omega\to\mathbb{R} のこと。XX の期待値を E[X]=∑ω∈ΩX(ω) p(ω)E[X]=\sum_{\omega\in\Omega}X(\omega)\,p(\omega) と定める。事象 AA の指示関数は 1A(ω)=1\mathbf 1_A(\omega)=1(ω∈A\omega\in A)、00(ω∉A\omega\notin A)。

これは 確率変数(定義 3.1)[確率変数と期待値] と 期待値(定義 4.1)[確率変数と期待値] の有限の場合です。

命題 6.2(値ごとの和)✓

XX のとりうる値を x1,…,xrx_1,\dots,x_r(相異なる)とすると、E[X]=∑k=1rxk P(X=xk)E[X]=\sum_{k=1}^rx_k\,P(X=x_k) である。

証明(命題 6.2)

Ω\Omega を {X=xk}\{X=x_k\} で分割して、∑ωX(ω)p(ω)=∑k∑ω:X(ω)=xkxkp(ω)=∑kxkP(X=xk)\sum_\omega X(\omega)p(\omega)=\sum_k\sum_{\omega:X(\omega)=x_k}x_kp(\omega)=\sum_kx_kP(X=x_k)。

定理 6.3(期待値の線形性)✓

X,YX,Y を同じ有限確率空間上の確率変数、a,ba,b を実数とすると E[aX+bY]=aE[X]+bE[Y]E[aX+bY]=aE[X]+bE[Y] である。X,YX,Y が独立でなくても成り立つ。

証明(定理 6.3)

E[aX+bY]=∑ω(aX(ω)+bY(ω))p(ω)=a∑ωX(ω)p(ω)+b∑ωY(ω)p(ω)E[aX+bY]=\sum_\omega\bigl(aX(\omega)+bY(\omega)\bigr)p(\omega)=a\sum_\omega X(\omega)p(\omega)+b\sum_\omega Y(\omega)p(\omega)。独立性は一切使っていない。

命題 6.4(指示関数の方法)✓

  1. E[1A]=P(A)E[\mathbf 1_A]=P(A)。
  2. 事象 A1,…,AmA_1,\dots,A_m について、X=∑i1AiX=\sum_i\mathbf 1_{A_i}(ω\omega が属する AiA_i の個数)の期待値は E[X]=∑iP(Ai)E[X]=\sum_iP(A_i) である。
証明(命題 6.4)
  1. E[1A]=∑ω∈Ap(ω)=P(A)E[\mathbf 1_A]=\sum_{\omega\in A}p(\omega)=P(A)。2. 定理 6.3 と 1. による。

例 6.5(並べ替えの固定点の個数の期待値)

1,…,n1,\dots,n の並べ替え π\pi(n!n! 個、一様)の固定点(π(i)=i\pi(i)=i となる ii)の個数を XX とする。Ai={π:π(i)=i}A_i=\{\pi:\pi(i)=i\} とおくと ∣Ai∣=(n−1)!|A_i|=(n-1)!(残りの n−1n-1 個の並べ替え。定理 4.2[場合の数])で、P(Ai)=1/nP(A_i)=1/n。命題 6.4 により E[X]=n⋅1n=1E[X]=n\cdot\frac1n=1。XX の分布(完全順列が関わる)を求めなくても、期待値は nn によらず 11 と分かります。nn 人がそれぞれプレゼントを持ち寄ってランダムに交換すると、自分のものが戻ってくる人は平均 1 人です。

例 6.6(2 個のさいころの目の和の期待値)

1 個のさいころの目 X1X_1 の期待値は 1+2+⋯+66=72\frac{1+2+\cdots+6}6=\frac72。2 個の目の和 X1+X2X_1+X_2 の期待値は 定理 6.3 から 77(2 つの目が独立かどうかを使わない)。「目の和が 7 になりやすい」ことと「平均が 7」は別の話ですが、ここでは一致しています。

演習 8.1易

赤玉 3 個と白玉 2 個が入った袋から、玉を 1 個ずつ 2 回、戻さずに取り出す。1 回目が赤であったとき 2 回目も赤である確率、および 2 回目が赤である確率を求めよ。

解答

1 回目が赤のとき、残りは赤 2 個、白 2 個なので P(2 回目が赤∣1 回目が赤)=24=12P(\text{2 回目が赤}\mid\text{1 回目が赤})=\frac24=\frac12。全確率の公式(定理 5.3)で、1 回目が赤のとき 35⋅12\frac35\cdot\frac12、白のとき 25⋅34\frac25\cdot\frac34 なので、310+310=35\frac3{10}+\frac3{10}=\frac35。(2 回目だけを見ても 1 回目と同じ 3/53/5 になる。)

演習 8.2標準

当たりの確率が 13\frac13 のくじを 6 回、独立に引く。少なくとも 1 回当たる確率と、ちょうど 2 回当たる確率を求めよ。

解答

少なくとも 1 回: 余事象(6 回ともはずれ)は (23)6=64729(\frac23)^6=\frac{64}{729} なので 1−64729=6657291-\frac{64}{729}=\frac{665}{729}。ちょうど 2 回: 定理 4.3 より (62)(13)2(23)4=15⋅16729=240729=80243\binom62(\frac13)^2(\frac23)^4=15\cdot\frac{16}{729}=\frac{240}{729}=\frac{80}{243}。

演習 8.3標準

壺 A には赤玉 2 個・白玉 3 個、壺 B には赤玉 4 個・白玉 1 個が入っている。公平なコインを投げて、表なら壺 A、裏なら壺 B から玉を 1 個取り出したところ赤玉だった。取り出した壺が A であった確率を求めよ。

解答

P(A)=P(B)=12P(A)=P(B)=\frac12、P(赤∣A)=25P(\text{赤}\mid A)=\frac25、P(赤∣B)=45P(\text{赤}\mid B)=\frac45。ベイズの定理(定理 5.3)より P(A∣赤)=12⋅2512⋅25+12⋅45=22+4=13P(A\mid\text{赤})=\dfrac{\frac12\cdot\frac25}{\frac12\cdot\frac25+\frac12\cdot\frac45}=\dfrac{2}{2+4}=\dfrac13。

演習 8.4難

nn 個の箱に、nn 個の玉を 1 個ずつ独立に、各箱に等確率で入れる。空の箱の個数の期待値を求めよ。

解答

AiA_i を「箱 ii が空」とすると、各玉が箱 ii に入らない確率が 1−1n1-\frac1n で、玉は独立なので P(Ai)=(1−1n)nP(A_i)=(1-\frac1n)^n(命題 4.2)。空の箱の個数は ∑i1Ai\sum_i\mathbf 1_{A_i} なので、命題 6.4 より期待値は n(1−1n)nn\bigl(1-\frac1n\bigr)^n。n=2n=2 なら 2⋅14=122\cdot\frac14=\frac12 で、2 個の玉が同じ箱に入る確率 12\frac12 のとき空の箱が 1 個、そうでなければ 0 個という直接の計算と一致する。(nn が大きいと n/en/e に近づく。)

  1. William Feller, An Introduction to Probability Theory and Its Applications, Volume I, 3rd ed., Wiley, 1968 — 第 1 章(標本空間)、第 5 章(条件付き確率と独立)。
  2. 小針晛宏『確率・統計入門』岩波書店、1973 — 確率の基礎・条件付き確率の章。
  3. 伊藤清『確率論』岩波書店、1991 — 確率空間の公理の章。
  4. Sheldon M. Ross, A First Course in Probability, 10th ed., Pearson, 2019 — 条件付き確率・期待値の章。

このテーマの 100 本ノック(80 問)

執筆: Claude Code(Sonnet 5.5)・監査 2 回(Claude Code)・最終 2026-10-12

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