距離化定理:Nagata–Smirnov・Bing・Smirnov と多様体の距離化可能性
対象読者: 本テーマ第 1〜12 章(分離公理・完全正則性・パラコンパクト性と Stone の定理)を学んだ修士程度の人。距離化定理は Urysohn のものだけ既習とします。
前提となる記事:分離公理と距離づけ可能性:T1 から T4 へ、そしてウリゾーンの距離化定理、完全正則空間と埋め込み定理:Tychonoff 立方体・Alexandroff 立方体・Stone–Čech コンパクト化、パラコンパクト空間と 1 の分割:局所有限被覆・Michael の定理・Stone の定理
0. この記事の要点
Section titled “0. この記事の要点”位相空間は、点どうしの「近さ」だけを取り出した抽象的な枠組みです。そのうち、普通の距離(2 点間の距離を測る物差し)を使って近さを表せるものはどれか、という素朴な疑問に答えるのがこの記事です。読み終えると、空間の分離性(T3)と基底(開集合を作る部品の族)の有限性の条件を調べるだけで、距離を実際に作らなくても、距離で表せるかどうかを判定できるようになります。
- 位相空間が距離から来るかどうか(距離づけ可能かどうか)を判定する定理を、可算性の仮定なしの形で示します。主役は Nagata–Smirnov の距離化定理(定理 5.1): が距離づけ可能であることと、 が T3 空間で 局所有限な基底を持つことは同値です。
- 証明の鍵は、正則で 局所有限な基底を持つ空間が完全正規になる(開集合がすべて余零集合、つまり連続関数が 0 でない点の集合になる)こと(補題 4.1)です。そこから基底の各元に連続関数を割り当て、局所有限な和で擬距離(異なる 2 点の距離が 0 になってもよい、距離のゆるめたもの)を組み立てます。
- 必要性の側は、距離空間が 離散な基底を持つこと(命題 3.1)に帰着します。これは前の記事の A. H. Stone の定理の応用です。 離散な基底の形に述べ直したものが Bing の距離化定理(定理 5.2)です。
- Smirnov の距離化定理(定理 7.1):パラコンパクトなハウスドルフ空間が距離づけ可能であることは、局所距離づけ可能であることと同値です。系として、パラコンパクトな位相多様体は距離づけ可能です(系 7.2)。
- 既存の Urysohn の距離化定理は、Nagata–Smirnov の特別な場合です(命題 6.1)。
1. 動機:第二可算性を弱める
Section titled “1. 動機:第二可算性を弱める”分離公理の記事の Urysohn の距離化定理(定理 7.3[分離公理と距離づけ可能性])は、第二可算な T3 空間が距離づけ可能であることを述べました。しかしこの定理は、実用上ほしい例の多くをカバーしません。非可分な距離空間(たとえば非可算集合の離散空間)は第二可算でないからです。また、第二可算性は距離づけ可能性の必要条件でさえありません(可分なら第二可算ですが、非可分な距離空間では成り立たない)。
では、可算な基底の代わりに何を要求すれば「距離づけ可能であるための必要十分条件」になるのでしょうか。Urysohn の証明を振り返ると、可算基底が使われたのは、(i) 可算個の連続関数を作るため、(ii) その関数の和が収束するよう を掛けるため、でした。可算個の関数でなく、「各点の近くでは有限個しか効かない」関数族を使えば、和は局所的に有限和で、重みを掛けなくても意味を持ちます。これが「 局所有限な基底」という条件の意味です。基底が 局所有限であるとは、基底が可算個の局所有限な族の合併になっているという有限性の条件で、可算基底(各族が 1 元)も、離散空間の 1 点集合の族も、これに含まれます。
もう一つの問いは、位相多様体が距離づけ可能であるかどうかです。多様体は局所的には と同相なので、局所的には距離づけ可能です。局所的に距離を持つ空間に、全体の距離を貼り合わせられるか。パラコンパクト性が、局所有限な被覆と 1 の分割を通じて、これをちょうど可能にします(Smirnov の定理)。
2. 定義: 局所有限な基底・局所距離づけ可能・位相多様体
Section titled “2. 定義:σ\sigmaσ 局所有限な基底・局所距離づけ可能・位相多様体”局所有限・ 局所有限・離散・ 離散は パラコンパクト空間と 1 の分割 の 定義(定義 2.1)[パラコンパクト空間と 1 の分割] に従います。
位相多様体は局所距離づけ可能です: の開集合は の距離を制限して距離づけ可能で、同相なものに距離を移せるからです。
3. 必要性:距離空間は 離散な基底を持つ
Section titled “3. 必要性:距離空間は σ\sigmaσ 離散な基底を持つ”ここで示したいのは、距離空間なら Nagata–Smirnov の条件の後半(基底の有限性)が必ず満たされる、ということです。各 について半径 の球の被覆を 離散な細分に取り替え、 を動かして集めたものが基底になります。
証明(命題 3.1)
各 に対し、開被覆 の 離散な開細分 を、A. H. Stone の定理(定理 5.1)[パラコンパクト空間と 1 の分割] により取る。 は 離散(可算個の 離散族の合併は、番号 を並べ直して 離散)な開集合の族である。基底であること: を開集合、 とし、 なる を取る。 なる を取り、 なる をとる( は被覆)。(ある )だから、 なら 。よって 。離散族は局所有限だから、 局所有限でもある。
4. 十分性:正則 + 局所有限な基底 完全正規
Section titled “4. 十分性:正則 + σ\sigmaσ 局所有限な基底 ⇒\Rightarrow⇒ 完全正規”次の補題は、各開集合を連続関数の「0 でない部分」として書けるようにするためのものです。証明は 3 段です。(1) 基底の局所有限性から、開集合は閉包が収まる開集合の可算個の合併になることを示す。(2) その結果を 2 つの閉集合の補集合に使い、交わらない開集合 を順に切り分けて作る( から を、 から を引くのは、後から足す部分が互いに食い込まないようにするためです)。(3) 完全正規空間の特徴づけから連続関数を得る。
補題 4.1(正則で σ 局所有限な基底を持つ空間は完全正規)✓
を正則空間で 局所有限な基底 を持つものとする。このとき は完全正規である。とくに、 の任意の開集合 に対し、連続関数 で となるものが存在する。
証明(補題 4.1)
開集合は 。 を開集合とする。各 について、正則性と 縮小補題(補題 4.4)[分離公理と距離づけ可能性] の 1 により なる開集合 があり、 が基底だから なる を取れて、。そこで 、 とおくと、 である。 は局所有限だから 補題 3.1[パラコンパクト空間と 1 の分割] により 。したがって は 集合で、 は開、 である。補集合を取ると、任意の閉集合は 集合である。
正規性。 を互いに素な閉集合とする。上の結果を に適用して、開集合 ()で 、 となるものを得る。同様に に対して開集合 で 、。
は開集合。、 とおく。 なら、 より (ある )で、全ての で だから 。よって 。すなわち 。同様に 。: とし、 として(対称) だが、 は ()を意味し、 で矛盾。よって は正規で、すべての閉集合が だから完全正規である。
余零集合。 完全正規空間の特徴づけ(命題 6.2)[完全正則空間と埋め込み定理] により、閉集合 は零集合、すなわち連続関数 で となるものがある。 とおけば は連続で 値、。
5. Nagata–Smirnov の距離化定理
Section titled “5. Nagata–Smirnov の距離化定理”十分性の証明の方針は、Urysohn の場合と同様に「基底の各元 を連続関数 で表し、点どうしの関数値の差を足し合わせて距離にする」ことです。族が局所有限なので、各点の近くで 0 でない は有限個しかなく、和は有限和になります。
証明(定理 5.1)
(1 2)距離空間は T4(定理 5.2[分離公理と距離づけ可能性])で、T1 のもとで 1 点集合は閉(命題 3.2[分離公理と距離づけ可能性])だから、正規性を 1 点集合と閉集合に適用して正則、よって T3。 局所有限な基底は 命題 3.1 による。
(2 1) を 局所有限な基底とする。補題 4.1 により、各 (開集合)に対し、連続関数 で となるものを選ぶ(各 について 1 つずつ選ぶ。選択公理)。 は の外で である。各 は局所有限だから、次が成り立つ。
(*) 各 に開近傍 があって、 上では有限個を除く について 。また各点 で なる は有限個( は点有限)。
擬距離。 に対し
と定める。 は (*) により有限個の非零項の和で、有限値。 は対称で三角不等式を満たし(各項について三角不等式を足し上げる)、 も同じ()。 は優級数 で絶対収束し、対称で三角不等式を満たし、。
。 とする。 は T1 だから は開で を含み、 が基底なので、 なる (ある )がある。 だから 、。
の位相 が元の位相 に一致すること。
(i): を固定して が で連続であることを示す。 と について (*) の を取る。 を、 上で恒等的には でない と なる の合併とする((*) により有限集合)。 に属さない では かつ 上 だから、 で 。これは 上の連続関数の有限和だから連続で、 も連続。次に の連続性: と に対し なる を取る。有限和 の連続性から の開近傍 で なら 。残りの項は 。ゆえに ()。したがって -球 は -開集合で、-開集合(球の合併)は -開集合。
(ii):、 とする。 なる を取り、、 とする。 なら 、よって だから で、。したがって 、。つまり -球 は に含まれる。
以上より は の位相を定める距離であり、 は距離づけ可能である。
(i) の記述はやや込み入っていますが、要点は「 は各点の近くで有限個の連続関数の和にほかならず、局所有限性がまさに連続性を保証する」ということです。Urysohn の証明では の重みが可算個の関数の和を収束させていましたが、ここでは局所有限性が和を有限和に落とし、 は族の番号 のほうに付くだけです。
証明(定理 5.2)
6. 例と Urysohn の定理との関係
Section titled “6. 例と Urysohn の定理との関係”命題 6.1(Urysohn の距離化定理は Nagata–Smirnov の特別な場合)✓
第二可算な T3 空間は距離づけ可能である。すなわち Urysohn の距離化定理(定理 7.3)[分離公理と距離づけ可能性] は 定理 5.1 の系として得られる。
証明(命題 6.1)
を第二可算な T3 空間とし、可算な基底 を取る。(1 元からなる族)は局所有限で、 は基底だから、 は T3 で 局所有限な基底を持つ。定理 5.1 により は距離づけ可能である。
例 6.2(距離化定理の使い方)
- 任意の集合 の離散位相:1 点集合の族 は離散な開基であり、離散空間は T3 だから、定理 5.2 により距離づけ可能(実際、離散距離が位相を与える)。 が非可算なら第二可算でないので、Urysohn の定理では扱えず、Bing(あるいは Nagata–Smirnov)の定理が必要になる。
- にゾルゲンフライ位相を入れた空間(例 7.5[分離公理と距離づけ可能性])は T3 で、第二可算でも距離づけ可能でもない。定理 5.1 の(2 1)の対偶により、 局所有限な基底を持たないことがわかる。可算基底を持たない T3 空間の中には、局所有限性という緩い有限性でも救えない例がある、ということである。
- 位相多様体の距離づけ可能性(長い直線など、局所的には だが距離づけ可能でないハウスドルフ空間の例)は、反例の空間 で扱う(命題 5.5[反例の空間])。定理 7.1 は、それがパラコンパクト性の欠如によることを示す。
7. Smirnov の距離化定理と多様体
Section titled “7. Smirnov の距離化定理と多様体”Smirnov の定理では、各点の近くで局所的に得られる 局所有限な基底を、1 の分割を使って全体に貼り合わせます。1 の分割から作る開集合 は、元の局所有限な被覆 の中に収まるので、やはり局所有限になります。
証明(定理 7.1)
()距離空間はパラコンパクト(定理 5.1[パラコンパクト空間と 1 の分割])で、自分自身が距離づけ可能な開近傍だから局所距離づけ可能。
() をパラコンパクトなハウスドルフ空間で局所距離づけ可能とする。 は正則(定理 3.2[パラコンパクト空間と 1 の分割])で、ハウスドルフだから T1。つまり T3 である。定理 5.1 の(2 1)を使うので、 局所有限な基底を作る。
各点が距離づけ可能な開近傍を持つので、そのような開集合全体が の開被覆をなす。パラコンパクト性により、局所有限な開細分 が取れる。各 は距離づけ可能な開集合に含まれる開集合だから、距離づけ可能(距離の制限)。したがって 定理 5.1 の(1 2)により、 は(相対位相で) 局所有限な基底 を持つ( は の中で局所有限)。 は で開だから、 の元は の開集合でもある。
1 の分割(定理 6.1)[パラコンパクト空間と 1 の分割] により、 に従属する 1 の分割 を取り、 とおく。 は開集合で、。 より は を覆い、 だから局所有限。
とおく。
は で局所有限。 なら の局所有限性による。 なら だから、 が の開近傍で、 に含まれる元とは交わらない。
は で局所有限。 の開近傍 で有限個の ()としか交わらないものを取る。 は に含まれるので、 と交わるなら 。各 について、 は局所有限だから、 の開近傍 で有限個の元としか交わらないものがあり、 は有限個の元としか交わらない。
は基底。 を開集合、 とする。 なる を取る。 は の開集合で を含むので、 が の基底であることから なる (ある )があり、。
以上により は T3 で 局所有限な基底を持つので、定理 5.1 により距離づけ可能である。
証明(系 7.2)
位相多様体はハウスドルフで局所距離づけ可能である(第 2 節の注意: の開集合は距離空間で、同相写像で距離を移せる)。定理 7.1 の()により距離づけ可能である。
例 7.3(第二可算な位相多様体)
第二可算な位相多様体は、座標近傍の閉球を取ることで コンパクトな LCH 空間になる。したがって 命題 8.1[パラコンパクト空間と 1 の分割] の 3 によりパラコンパクトで、系 7.2 により距離づけ可能。微分幾何で「多様体は第二可算ハウスドルフ」と仮定するのは、このためである(Riemann 計量の存在は 1 の分割から従う)。
の開区間の族 ()が、各 で局所有限であり、その合併 が の基底であることを示せ。
解答
局所有限:点 の近傍 は、長さ の区間 のうち、 かつ なるもの、すなわち有限個の とだけ交わる。基底: とし、 なる を取る。 とおくと だから 。この区間は に含まれる。
演習 8.2標準
距離空間 ()の可算個の積空間 が距離づけ可能であることを、定理 5.1 を使わずに、直接に距離を作って示せ。
解答
とおく。距離の公理は明らか( なら全ての で )。 の球が積位相で開であること: を固定すると、 は、各項が射影 と連続関数 の合成で連続、かつ一様収束する級数だから連続( の議論)。よって球は開。逆に、積位相の開基の元 (有限個の を除き )と点 について、()、、 とすれば、 なら より ()で 。したがって の位相は積位相に一致する。
演習 8.3標準
実数直線の「原点を 2 つにした空間」( を で同一視)を考える。各コピー の像は の開集合で と同相であるとする。 は局所距離づけ可能だが距離づけ可能でないことを説明せよ。これは 定理 7.1 のどの仮定がなぜ必要であることを示すか。
解答
2 つのコピーはそれぞれ開で と同相だから、各点は距離づけ可能な開近傍を持ち、 は局所距離づけ可能である。2 つの原点 の開近傍は、それぞれ を含む区間 のコピーを含むので、どんな近傍も共通の点 を含み、 はハウスドルフでない。距離空間はハウスドルフ(定理 5.2[分離公理と距離づけ可能性])だから、 は距離づけ可能でない。定理 7.1 でハウスドルフ性の仮定が外せないことを示す。
- Ryszard Engelking, General Topology, Heldermann Verlag, 1989 — 第 4 章 §4.4(距離化定理)、第 5 章 §5.4。
- James R. Munkres, Topology, 2nd ed., Prentice Hall, 2000 — §40(Nagata–Smirnov の距離化定理)、§42(Smirnov の距離化定理)。
- J. Nagata, “On a necessary and sufficient condition of metrizability”, Journal of the Institute of Polytechnics, Osaka City University 1 (1950), 93–100.
- R. H. Bing, “Metrization of topological spaces”, Canadian Journal of Mathematics 3 (1951), 175–186.
- Stephen Willard, General Topology, Addison-Wesley, 1970(Dover 版 2004)— 距離化定理の章。
執筆: Claude Code(Sonnet 5.5)・監査 2 回(Claude Code)・最終 2026-10-12
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