球面の上で決まる関数を、「基本の形」の足し合わせで表せないか、という話です。地球の表面の温度分布や、原子の中の電子の雲の形を、いくつかの基本の形の重ね合わせとして書く場面を思い浮かべてください。この記事では、3 変数の多項式のうち「ラプラシアン(2 階微分の和 Δ)で 0 になるもの」に着目してその基本の形(球面調和関数)を作り、個数・直交性・積の展開の公式を、微分方程式を解かずに導きます。読み終えると、球面上の積分作用素を一度に対角化したり、平面波を角度の部分と動径の部分に分けて書いたりできるようになります。
- R3 の k 次同次多項式の空間は、調和多項式(調和関数の仲間で、Δp=0 を満たす多項式)の空間 Hk と ∣x∣2×(k−2 次同次多項式) の直交直和に分解します。dimHk=2k+1 で、Hk を球面に制限したものが球面調和関数の空間です。
- 回転軸のまわりに不変な元を調べると、各次数に一次元しかなく、それは Legendre 多項式 Pl(cosθ) です。これが「Legendre 関数」の幾何学的な意味です。
- 加法定理: 正規直交基底 Ylm について ∑mYlm(ξ)Ylm(η)=4π2l+1Pl(ξ⋅η)。系として ∣Pl∣≤1 が出ます。
- Funk–Hecke の定理(球面上の積分作用素の固有値を求める公式): 内積 ξ⋅η だけに依る積分核は、Hl 上でスカラー 2π∫f(t)Pl(t)dt として働きます。
- 球 Bessel 関数 jl を導入すると、平面波が eiκξ⋅η=∑l(2l+1)iljl(κ)Pl(ξ⋅η) と展開されます。散乱理論の部分波展開(平面波を球面調和関数の次数ごとの成分に分ける展開)の土台です。
量子力学の中心力場の問題(水素原子、球対称ポテンシャルでの散乱)では、ハミルトニアンの角度部分は球面上のラプラシアンで、その固有関数が球面調和関数です。ここで知りたいのは、球面調和関数の個数(縮退度)、直交性、積の展開と、回転に関する振る舞いです。これらを微分方程式を解かずに、調和多項式の代数と回転対称性だけから導きます。
前章(直交多項式)の Legendre 多項式 Pl は、一様測度の直交多項式として導入されました。この章ではそれが球面上の軸対称な調和関数として自然に現れることを示し、さらに平面波の展開(散乱理論の出発点)まで進みます。展開の収束の証明では、連続関数が多項式で一様近似できること(ワイエルシュトラスの近似定理。フーリエ級数 で Fejér の定理から導きます)を使います。
Polk で R3 上の k 次同次多項式(複素係数)の空間を表し、Δ=∂12+∂22+∂32、Hk={p∈Polk:Δp=0} とします。dimPolk=(2k+2) です。Polk に、単項式 xα を直交とし [xα,xα]=α! とする内積(Fischer 内積)
[p,q]=∣α∣=k∑α!pαqα(p=∑pαxα, q=∑qαxα)
を入れます。
この内積を選ぶ理由は、次の補題にあります。「xj を掛ける」操作と「∂j で微分する」操作が、この内積では互いに随伴(一方を内積の反対側へ移すと他方になる関係)になります。そのため、∣x∣2 倍と Δ も随伴になり、調和多項式 Hk が ∣x∣2Polk−2 の直交補空間として現れます。なお xα=x1α1x2α2x3α3、α!=α1!α2!α3! という多重指数の記法です。
補題 2.1(Fischer 内積での随伴)✓
p∈Polk−1、q∈Polk について [xjp,q]=[p,∂jq]。したがって p∈Polk−2、q∈Polk なら [∣x∣2p,q]=[p,Δq]。
証明(補題 2.1)
単項式で確かめれば十分です。p=xα、q=xβ のとき、[xjxα,xβ]=(α+ej)!δα+ej,β です。一方 ∂jxβ=βjxβ−ej なので [xα,∂jxβ]=βjα!δα,β−ej で、β=α+ej のとき βj=αj+1 より (αj+1)α!=(α+ej)! で一致します。∣x∣2=∑xj2 と Δ=∑∂j2 には、これを 2 回使います。
∎
定理 2.2(調和多項式の分解)✓
k≥0 について、Polk は Fischer 内積に関する直交直和
Polk=Hk⊕∣x∣2Polk−2(Pol−1=Pol−2={0})に分解する。とくに dimHk=2k+1 である。
証明(定理 2.2)
W=∣x∣2Polk−2 の直交補空間は、補題 2.1 により {q∈Polk:[∣x∣2p,q]=0 ∀p}={q:[p,Δq]=0 ∀p∈Polk−2}={q:Δq=0}=Hk です(Δq∈Polk−2 が全ての p と直交すれば 0)。有限次元内積空間なので Polk=W⊕W⊥ です。∣x∣2 倍は単射なので dimW=dimPolk−2 で、dimHk=(2k+2)−(2k)=2k+1(k≤1 では Hk=Polk で 1,3)です。
∎
系 2.3(多項式の球面への制限)✓
Polk=Hk⊕∣x∣2Hk−2⊕∣x∣4Hk−4⊕⋯ である。したがって単位球面 S2 への制限を考えると、k 次以下の任意の多項式は H0,…,Hk の元の制限の和になる。
証明(系 2.3)
定理 2.2 を Polk−2,Polk−4,… に繰り返し適用します。S2 上では ∣x∣2=1 なので ∣x∣2sHk−2s は Hk−2s の制限と同じです。非同次多項式は同次成分の和で、各成分に ∣x∣2=1 を使って次数をそろえられます。
∎
p∈Hl の S2 への制限を次数 l の球面調和関数といい、その全体を Hl と書きます。同次多項式は球面上の値で決まる(p(x)=∣x∣lp(x/∣x∣))ので、制限は単射で dimHl=2l+1 です。L2(S2) の内積を ⟨f,g⟩=∫S2fgdσ(σ は面積測度、全面積 4π。定義は 定義 6.1[ℝ^d の変数変換公式と極座標])とします。
命題 2.4(次数の違う球面調和関数は直交する)✓
l=l′ なら Hl⊥Hl′。また Hl は SO(3) の作用 (Rf)(ξ)=f(R−1ξ) で不変である。
証明(命題 2.4)
p∈Hl、q∈Hl′ をとり、p は係数を複素共役にした多項式(実の点 x では p(x) に等しい調和同次多項式)とします。単位球 B 上で、ベクトル場 p∇q−q∇p に発散定理(定理 5.3[静電場とガウスの法則])を使うと、∫S2(p∂rq−q∂rp)dσ=∫B(pΔq−qΔp)dx=0 です。Euler の恒等式 x⋅∇q=l′q から、S2 上で ∂rq=l′q、∂rp=lp なので、(l′−l)∫S2pqdσ=0 です。
不変性: Δ は直交変換と可換で、同次性も保たれるので p∘R−1∈Hl です。
∎
この節のねらいは、z 軸のまわりの回転で不変な調和多項式を全部求めることです。x1,x2 を複素数 w=x1+ix2 にまとめると回転が単なる eiα 倍になり、調べやすくなります。w と wˉ を独立な変数のように扱って微分するので、ラプラシアンも ∂w∂wˉ で書き直されます。
w=x1+ix2、ρ2=∣w∣2、z=x3 とおきます。z 軸のまわりの角 α の回転 Rα は w↦eiαw、z↦z です。このとき Δ=4∂w∂wˉ+∂z2 です。
補題 3.1(回転に関する固有空間は一次元)✓
0≤m≤l について、Hl の元で p(Rαx)=eimαp(x)(全ての α)を満たすものの空間は一次元で、
p=wmj=0∑Jcjzl−m−2jρ2j(J=⌊2l−m⌋),cj+1=−4(j+1)(m+j+1)(l−m−2j)(l−m−2j−1)cjの定数倍である。m=0 の場合の元(軸対称なもの)を Zl(c0=1 に正規化)と書く。
証明(補題 3.1)
多項式を z,w,wˉ の単項式 wawˉbzk の和に書くと、Rα はこれを ei(a−b)α 倍します。したがって固有値 eimα の部分は a−b=m の単項式だけで、wawˉbzk=wmρ2bzk です。l 次同次なので m+2b+k=l、すなわち p=wm∑jcjzl−m−2jρ2j の形です。調和性を調べます。Δ(wm+jwˉjza)=4(m+j)jwm+j−1wˉj−1za+a(a−1)wm+jwˉjza−2 なので、
Δp=wmj∑[4(j+1)(m+j+1)cj+1+(l−m−2j)(l−m−2j−1)cj]zl−m−2j−2ρ2jです。これが 0 であることは係数の漸化式と同値で、c0 が決まれば全ての cj が決まります。最後の項 j=J では l−m−2J∈{0,1} なので (l−m−2J)(l−m−2J−1)=0 となり、追加の条件は生じません。よって c0 の定数倍が全てです。
∎
例 3.2(Z₂ と Z₃)
漸化式で m=0、c0=1 とします。l=2: c1=−42⋅1=−21 より Z2=z2−21ρ2。l=3: c1=−43⋅2=−23 より Z3=z3−23zρ2。球面 ∣x∣=1 では ρ2=1−z2 なので、Z2=23z2−1、Z3=25z3−3z で、これは前章で求めた Legendre 多項式 P2,P3 と一致します。
命題 3.3(軸対称調和関数は Legendre 多項式)✓
Zl を S2 に制限すると、ξ=(ξ1,ξ2,ξ3) について Zl(ξ)=Pl(ξ3) である。
証明(命題 3.3)
g(t)=∑jcjtl−2j(1−t2)j(ρ2=1−t2、z=t を代入したもの)は次数 l 以下の実多項式で、g(1)=c0=1 です。球座標では dσ=sinθdθdφ(命題 6.10[ℝ^d の変数変換公式と極座標])で、t=cosθ とすると、ξ3 だけの関数 F(ξ3) について ∫S2F(ξ3)dσ=2π∫−11F(t)dt です。次数 <l の多項式 q に対し、系 2.3 から q(ξ3) は H0,…,Hl−1 の元の和なので、命題 2.4 により Zl⊥q(ξ3) です。よって ∫−11g(t)q(t)dt=2π1∫S2Zlq(ξ3)dσ=0 です。g は R[t]l−1 に直交する次数 l 以下の多項式なので、前章の 定理 2.2[直交多項式] により Pl の定数倍です。g(1)=1=Pl(1)(命題 7.3[直交多項式])から、g=Pl です。
∎
軸が一般の単位ベクトル η のときは、η を e3 に写す回転 R を使います。(Rξ)3=ξ⋅η なので、η のまわりの回転で不変な Hl の元は、ξ↦Pl(ξ⋅η) の定数倍で尽くされます。これを次の形でまとめておきます。
系 3.4(軸対称な球面調和関数)✓
単位ベクトル η を固定する全ての回転で不変な Y∈Hl は、定数 c により Y(ξ)=cPl(ξ⋅η) と書ける。
証明(系 3.4)
Y に対応する Hl の元 p も、同次性により同じ回転で不変です。η=e3 に回転してよく、このとき p は 補題 3.1 の m=0 の空間に入るので、p=cZl で、命題 3.3 から結論が従います。
∎
Yl1,…,Yl,2l+1 を Hl の正規直交基底とし、Kl(ξ,η)=∑mYlm(ξ)Ylm(η) とおきます。
この節のねらいは、基底の取り方によらない量 Kl が、2 点の内積 ξ⋅η だけで決まることを示すことです。証明の流れは、(1) Kl が回転しても変わらないこと、(2) したがって η を固定すると、η を軸とする回転で不変な Hl の元になり、前節の結果で Legendre 多項式の定数倍に限られること、(3) 定数を ξ=η の値と全体の積分から決めること、です。途中の「SO(3) は S2 に推移的に作用する」とは、球面上のどの点も、適当な回転でほかのどの点にも移せる、という意味です。
定理 4.1(加法定理)✓
全ての ξ,η∈S2 について
m∑Ylm(ξ)Ylm(η)=4π2l+1Pl(ξ⋅η).
証明(定理 4.1)
Kl は基底の取り方によりません。別の正規直交基底は Ym′=∑nUnmYn(U はユニタリ行列)で、∑mYm′(ξ)Ym′(η)=∑n,n′(UU∗)nn′Yn(ξ)Yn′(η)=Kl(ξ,η) です。R∈SO(3) について {Ylm∘R} も Hl の正規直交基底(命題 2.4 と σ の回転不変性 命題 6.4[ℝ^d の変数変換公式と極座標])なので、Kl(Rξ,Rη)=Kl(ξ,η) です。
η を固定し、f=Kl(⋅,η)∈Hl とおきます。η を固定する回転 R について f(Rξ)=Kl(Rξ,Rη)=f(ξ) なので、系 3.4 により f(ξ)=κ(η)Pl(ξ⋅η) です。ξ=η とすると κ(η)=Kl(η,η)=∑m∣Ylm(η)∣2 で、これは回転不変で SO(3) は S2 に推移的に作用するので定数 κ です。両辺を η∈S2 で積分すると 4πκ=∑m∥Ylm∥2=2l+1 です。
∎
系 4.2(再生核と |𝒫ₗ| ≤ 1)✓
- Y∈Hl なら Y(ξ)=∫S2Kl(ξ,η)Y(η)dσ(η) で、∣Y(ξ)∣2≤4π2l+1∥Y∥2。
- −1≤t≤1 で ∣Pl(t)∣≤1。
証明(系 4.2)
1: Y=∑mamYlm とすると am=⟨Ylm,Y⟩ で、Y(ξ)=∑m⟨Ylm,Y⟩Ylm(ξ)=∫Kl(ξ,η)Y(η)dσ です。Cauchy–Schwarz と Kl(ξ,ξ)=4π2l+1(加法定理で ξ=η)で不等式が従います。2: t=ξ⋅η となる ξ,η をとると、∣Pl(t)∣=2l+14π∣Kl(ξ,η)∣≤2l+14πKl(ξ,ξ)Kl(η,η)=1 です(和についての Cauchy–Schwarz)。
∎
Legendre 多項式のグラフ。𝒫₀(水平線)、𝒫₁(直線)、𝒫₂(実線の放物線)、𝒫₃(破線)、𝒫₄(点線)。区間 [−1, 1] で値は −1 と 1 の間に収まる。
この節のねらいは、「点 ξ と η の内積だけで決まる重み f(ξ⋅η) を掛けて球面全体で積分する」という操作が、Hl の上ではただの定数倍になることを示すことです。証明の鍵は、Y を ξ のまわりの回転で平均すると、ξ を軸に回しても変わらない Hl の元になり、前節の結果から Pl(ξ⋅η) の定数倍に限られる、という点です。回転で平均しても Hl に残るのは、Hl が回転で不変な有限次元空間(平均は回転した関数の和の極限なので、この空間から出ない)だからです。
定理 5.1(Funk–Hecke の定理)✓
f∈C([−1,1]) とする。任意の Y∈Hl と ξ∈S2 について
∫S2f(ξ⋅η)Y(η)dσ(η)=λlY(ξ),λl=2π∫−11f(t)Pl(t)dt.
証明(定理 5.1)
ξ を固定し、Rξ,α を ξ を軸とする角 α の回転とします。Yˉ(η)=2π1∫02πY(Rξ,αη)dα とおくと、Hl は有限次元で回転で不変なので Yˉ∈Hl で、ξ を固定する回転で不変です。系 3.4 により Yˉ(η)=cPl(ξ⋅η) で、η=ξ とすれば c=Yˉ(ξ)=Y(ξ)(Rξ,αξ=ξ と Pl(1)=1)です。
η↦f(ξ⋅η) は Rξ,α で不変で、σ も不変なので、各 α について ∫f(ξ⋅η)Y(η)dσ=∫f(ξ⋅η)Y(Rξ,αη)dσ です。α で平均して Fubini を使うと、
∫f(ξ⋅η)Y(η)dσ=∫f(ξ⋅η)Yˉ(η)dσ=Y(ξ)∫S2f(ξ⋅η)Pl(ξ⋅η)dσ(η)=Y(ξ)⋅2π∫−11fPldtです。最後は ξ を極とする球座標での積分です。
∎
例 5.2(Funk–Hecke の固有値)
f(t)=1 なら λl=2π∫Pldt=4πδl0 で、l≥1 の球面調和関数の球面上の積分は 0 です。f(t)=t なら P1=t との直交性から λ1=2π⋅32=34π、他は 0 です。f(t)=t2=32P2+1 では λ0=34π、λ2=2π⋅32⋅52=158π、他は 0 です。このとき積分作用素 Y↦∫f(ξ⋅η)Y(η)dσ は L2(S2) で Hl ごとにスカラー λl として働くので、固有値 λl の固有空間の次元は 2l+1 です。
平面波 eiκξ⋅η の展開係数を調べるために、f(t)=eiκt に対する λl を関数として定義します。
定義 6.1(球 Bessel 関数)↗
l≥0 と実数 x に対し
jl(x)=2(−i)l∫−11eixtPl(t)dtを球 Bessel 関数という。Funk–Hecke の定理(定理 5.1)の f(t)=eiκt に対する固有値は λl=4πiljl(κ) である。
命題 6.2(球 Bessel 関数の基本性質)✓
- (Poisson の積分表示)jl(x)=2l+1l!xl∫−11cos(xt)(1−t2)ldt。とくに jl は実数値で、∣jl(x)∣≤(2l+1)!!∣x∣l、jl(x)=(2l+1)!!xl(1+O(x2))。
- y=jl(x) は x2y′′+2xy′+(x2−l(l+1))y=0 を満たす。
- (Rayleigh の公式)jl(x)=(−x)l(x1dxd)lxsinx。
- jl+1=−jl′+xljl。x→∞ で jl(x)=xsin(x−lπ/2)+O(x−2)。
証明(命題 6.2)
1: 前章の Rodrigues の公式 Pl=2ll!(−1)ldtldl(1−t2)l を代入し l 回部分積分します。(1−t2)l の l−1 階以下の導関数は t=±1 で 0 なので境界項は消え、∫eixtdtldl(1−t2)ldt=(−ix)l∫eixt(1−t2)ldt です。係数は 2(−i)l⋅2ll!(−1)l(−ix)l=2l+1l!xl((−i)2l(−1)l=1)です。(1−t2)l が偶関数なので sin(xt) の部分は消えて、cos の積分になります。∣cos∣≤1 と ∫−11(1−t2)ldt=(2l+1)!22l+1(l!)2(前章の 命題 7.3[直交多項式] の証明)、(2l+1)!=(2l+1)!!2ll! から評価が出ます。x→0 では cos(xt)=1+O(x2) です。
2: u(x)=∫−11eixtPl(t)dt とおきます。Legendre の方程式 ((1−t2)Pl′)′=−l(l+1)Pl に eixt を掛けて積分し、部分積分を 2 回行います(境界項は 1−t2 を含み消える):
−l(l+1)u=−ix∫eixt(1−t2)Pl′dt=−x2∫(1−t2)eixtPldt−2ix∫teixtPldt.∫teixtPl=−iu′、∫t2eixtPl=−u′′ なので、右辺は −x2(u+u′′)−2xu′ です。整理して x2u′′+2xu′+(x2−l(l+1))u=0、jl は u の定数倍です。
3: Jl(x)=x−ljl(x)=2l+1l!1∫eixt(1−t2)ldt とおくと、t(1−t2)l=−2(l+1)1dtd(1−t2)l+1 を使った部分積分で Jl′(x)=2l+1l!1∫iteixt(1−t2)ldt=2l+1l!⋅2(l+1)−x∫eixt(1−t2)l+1dt=−xJl+1(x) です。J0=21∫−11eixtdt=xsinx なので、Jl=(−x1dxd)lxsinx、jl=xlJl が得られます。
4: jl+1=xl+1Jl+1=−xlJl′=−xl(x−ljl)′=−jl′+xljl です。j0=sinx/x から出発して帰納法を回すと、jl は ∑k=1l+1x−k(aksinx+bkcosx)(ak,bk は定数)の形で、x−1 の項は jl+1 では −dxdxsin(x−lπ/2) の主要項 −xcos(x−lπ/2)=xsin(x−(l+1)π/2) になります。残りは O(x−2) です。
∎
たとえば Rayleigh の公式から j1(x)=x2sinx−xcosx です。
定理 7.1(平面波の部分波展開)✓
実数 κ と t∈[−1,1] について
eiκt=l=0∑∞(2l+1)iljl(κ)Pl(t)であり、右辺は t について一様に(絶対)収束する。したがって R3 の k,x に対して k^=k/∣k∣ などとして
eik⋅x=l=0∑∞(2l+1)iljl(∣k∣∣x∣)Pl(k^⋅x^)=4πl=0∑∞m∑iljl(∣k∣∣x∣)Ylm(x^)Ylm(k^).
証明(定理 7.1)
f(t)=eiκt の Legendre 係数は、∥Pl∥2=2l+12 より al=22l+1∫−11fPldt=(2l+1)iljl(κ) です(定義 6.1)。SN=∑l≤NalPl は f の L2(−1,1) での C[t]N への直交射影です。
まず一様収束: 系 4.2 の ∣Pl∣≤1 と 命題 6.2 の 1 から ∣alPl(t)∣≤(2l+1)!!(2l+1)∣κ∣l で、比 (2l+3)(2l+1)(2l+3)∣κ∣→0 なので級数は一様に絶対収束し、極限 g は連続です。
次に g=f: ワイエルシュトラスの近似定理(系 4.3[フーリエ級数] の 3)により、任意の ε>0 に対し多項式 q で sup∣f−q∣<ε となるものがあります。N≥degq なら射影の最良近似性により ∥f−SN∥2≤∥f−q∥2≤2ε なので、SN→f は L2 で成り立ちます。一方 SN→g は一様なので、g=f は殆ど至るところ、ともに連続なので全ての t で成り立ちます。
後半は t=k^⋅x^、κ=∣k∣∣x∣ とし、定理 4.1 の Pl(k^⋅x^)=2l+14π∑mYlm(x^)Ylm(k^) を代入します。
∎
この展開は、eik⋅x の各項が Hl に対応する角度依存性(Ylm(x^))と動径依存性(jl(∣k∣∣x∣))の積に分かれていることを意味します。動径関数が jl なのは、Δ(eik⋅x)=−∣k∣2eik⋅x に対応して、角度部分の固有値 l(l+1) を含む 命題 6.2 の 2 の方程式を満たすからです。
演習 8.1易
H2 の基底を挙げ、定理 2.2 の次元の公式を確かめよ。
解答
x1x2, x1x3, x2x3, x12−x22, 2x32−x12−x22 はどれも Δ で 0 になります(最後は 4−2−2=0)。これらは一次独立で、5 個です。dimH2=2⋅2+1=5 と一致します。実際 dimPol2=6、∣x∣2Pol0 が 1 次元で、6−1=5 です。
演習 8.2標準
平面波の展開 定理 7.1 を κ2 の次数まで書き下し、eiκt=1+iκt−2κ2t2+⋯ と一致することを確かめよ。
解答
命題 6.2 の 1 より j0(κ)=1−6κ2+⋯(Rayleigh から κsinκ)、j1(κ)=3κ+O(κ3)、j2(κ)=15κ2+O(κ4) です。l=0: 1−6κ2。l=1: 3i⋅3κ⋅t=iκt。l=2: 5i2⋅15κ2⋅23t2−1=−6κ2(3t2−1)。κ2 の項を足すと −61−63t2−1=−2t2 で、−2κ2t2 と一致します。l≥3 は O(κ3) です。
演習 8.3標準
S2 上の積分作用素 (Tf)(ξ)=∫S2(ξ⋅η)2f(η)dσ(η) の Hl 上での作用を、定理 5.1 を使って求めよ。
解答
核は f(ξ⋅η)、f(t)=t2=32P2+1 です。例 5.2 のとおり、T は H0 上でスカラー 34π、H2 上でスカラー 158π、他の Hl 上で 0 です。したがって T は固有値 34π(重複度 1)、158π(重複度 5)、0 をもちます。
- Claus Müller, Spherical Harmonics, Lecture Notes in Mathematics 17, Springer, 1966 — 第 1–3 章(調和多項式の分解、加法定理、Funk–Hecke)。
- Elias M. Stein, Guido Weiss, Introduction to Fourier Analysis on Euclidean Spaces, Princeton University Press, 1971 — 第 IV 章(球面調和関数)。
- Gábor Szegő, Orthogonal Polynomials, 4th edition, American Mathematical Society, 1975 — 第 IV 章(Legendre 多項式)。
- Frank W. J. Olver ほか編, NIST Handbook of Mathematical Functions, Cambridge University Press, 2010 — 第 10 章(球 Bessel 関数)、第 14 章(Legendre 関数)。
- Michael Reed, Barry Simon, Methods of Modern Mathematical Physics III: Scattering Theory, Academic Press, 1979 — 第 XI 章(部分波展開)。