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ボールウェイン積分:π/2 が 7 回続いて 8 回目に崩れる理由

対象読者: 高校数学の三角関数と積分に加え、大学初年級の級数の収束と広義積分を学んだ人。フーリエ変換や確率分布は記事内で説明するため、事前には仮定しません。

前提となる記事:級数と収束判定:部分和の極限・4 つの判定法・絶対収束と条件収束

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波の形をした関数 sin⁡x/x\sin x / x のグラフと横軸の間の面積を、右へ限りなく足し合わせると π/2\pi/2 になります。この関数に、幅の少しずつ違う同じ形の波を一つずつ掛けていっても、答えはしばらく π/2\pi/2 のまま変わりません。ところが 8 個目で、10−1110^{-11} ほどだけ値がずれます。この記事では、なぜ 7 回まで保たれて 8 回目に崩れるのかを、「窓を少しずつぼかす」という絵と確率の考え方で説明します。読み終えると、この「ずれ」が偶然ではなく、一つの不等式で決まっていると分かります。

  • ∫0∞sin⁡xx dx=π2\displaystyle\int_0^\infty \frac{\sin x}{x}\,dx = \frac{\pi}{2}(ディリクレ積分)は絶対収束しない広義積分(無限に続く範囲での積分)で、値はパラメータ付き積分と一様収束(どの ss でも同じ速さで収束すること)を使って求まります。
  • sinc⁡(ax)=sin⁡(ax)ax\operatorname{sinc}(a x) = \dfrac{\sin(ax)}{ax} は「幅 2a2a の箱型関数のフーリエ変換」(関数を波の成分に分けて見る変換)です。したがって sinc の積は箱型関数の畳み込み(一方を他方の上で動かしながら重ねて足し合わせる操作)に対応します。
  • 畳み込みは確率の言葉で書けます。XkX_k を区間 [−ak,ak][-a_k, a_k] 上の一様分布とすると ∫0∞∏k=0nsin⁡(akx)akx dx=π2a0Pr⁡ ⁣(∣∑k=1nXk∣≤a0).\int_0^\infty \prod_{k=0}^{n}\frac{\sin(a_k x)}{a_k x}\,dx = \frac{\pi}{2a_0}\Pr\!\left(\left|\sum_{k=1}^{n} X_k\right| \le a_0\right).
  • この式から、値が π/(2a0)\pi/(2a_0) に等しくなるための必要十分条件は a1+⋯+an≤a0a_1 + \cdots + a_n \le a_0 だと分かります。ak=1/(2k+1)a_k = 1/(2k+1) のとき、この条件は 13+15+⋯+115=1.0218…>1\frac13+\frac15+\cdots+\frac1{15} = 1.0218\ldots > 1 で初めて破れます。だから 7 回続いて 8 回目に崩れます。
  • 崩れ方は「はみ出した単体の体積」で正確に測れて、8 番目の積分は π/2\pi/2 より 2.31×10−112.31 \times 10^{-11} だけ小さくなります。偶然でも計算誤差でもありません。

1. 動機:7 回続いた等式が 8 回目に崩れる

Section titled “1. 動機:7 回続いた等式が 8 回目に崩れる”

次の積分列を考えます。奇数 1,3,5,…1, 3, 5, \ldots で xx を割った sinc 関数を、順に掛け足していったものです。

I0=∫0∞sin⁡xx dx,I1=∫0∞sin⁡xx⋅sin⁡(x/3)x/3 dx,I2=∫0∞sin⁡xx⋅sin⁡(x/3)x/3⋅sin⁡(x/5)x/5 dx,  ⋮In=∫0∞∏k=0nsin⁡(x/(2k+1))x/(2k+1) dx.\begin{aligned} I_0 &= \int_0^\infty \frac{\sin x}{x}\,dx, \\ I_1 &= \int_0^\infty \frac{\sin x}{x}\cdot\frac{\sin(x/3)}{x/3}\,dx, \\ I_2 &= \int_0^\infty \frac{\sin x}{x}\cdot\frac{\sin(x/3)}{x/3}\cdot\frac{\sin(x/5)}{x/5}\,dx, \\ &\ \ \vdots \\ I_n &= \int_0^\infty \prod_{k=0}^{n} \frac{\sin\bigl(x/(2k+1)\bigr)}{x/(2k+1)}\,dx. \end{aligned}

数値計算をすると、次の表が得られます。最後の列は小数第 10 位まで書いたものです。

nn最後に掛けた因子InI_n の値
00—1.5707963268=π/21.5707963268 = \pi/2
11sin⁡(x/3) / (x/3)\sin(x/3)\,/\,(x/3)1.5707963268=π/21.5707963268 = \pi/2
22sin⁡(x/5) / (x/5)\sin(x/5)\,/\,(x/5)1.5707963268=π/21.5707963268 = \pi/2
33sin⁡(x/7) / (x/7)\sin(x/7)\,/\,(x/7)1.5707963268=π/21.5707963268 = \pi/2
44sin⁡(x/9) / (x/9)\sin(x/9)\,/\,(x/9)1.5707963268=π/21.5707963268 = \pi/2
55sin⁡(x/11) / (x/11)\sin(x/11)\,/\,(x/11)1.5707963268=π/21.5707963268 = \pi/2
66sin⁡(x/13) / (x/13)\sin(x/13)\,/\,(x/13)1.5707963268=π/21.5707963268 = \pi/2
77sin⁡(x/15) / (x/15)\sin(x/15)\,/\,(x/15)1.5707963268≠π/21.5707963268 \ne \pi/2

最後の行だけ「≠\ne」と書きました。小数第 10 位までは π/2\pi/2 と一致していますが、実際には

I7=1.5707963267717960…,π2=1.5707963267948966…I_7 = 1.5707963267717960\ldots, \qquad \frac{\pi}{2} = 1.5707963267948966\ldots

で、I7I_7 は π/2\pi/2 よりおよそ 2.31×10−112.31\times 10^{-11} だけ小さいのです。

この差は倍精度浮動小数点数の有効桁(10 進で 16 桁程度)の内側にありますから、原理的には計算機で見えます。にもかかわらず見落とされやすいのは、被積分関数の性質のせいです。∏ksin⁡(x/(2k+1))/∏k(x/(2k+1))\prod_{k}\sin(x/(2k+1))\big/\prod_k (x/(2k+1)) は xx が大きいところで ∣x∣−8|x|^{-8} 程度でしか減衰せず、しかも符号を細かく振動させながら x=∞x = \infty まで効きます。台形則やシンプソン則で区間 [0,X][0, X] を刻んで足し上げると、打ち切り誤差と丸め誤差がすぐに 10−1110^{-11} を超えてしまうのです。振動積分に適した方法(周期ごとに区切って交項級数として加速する、あるいは多倍長で計算する)を使って初めて、この差ははっきり見えます。

この現象は D. ボールウェインと J. M. ボールウェインが 2001 年に発表した論文で詳しく調べられ、現在はボールウェイン積分と呼ばれています。単なる数値の偶然ではありません。「なぜ 7 回まで持ちこたえるのか」「なぜ 8 回目で崩れるのか」「崩れ幅がなぜ 2.31×10−112.31\times10^{-11} なのか」のすべてに、きれいな理由があります。

この記事のゴールは、その理由を完全に説明することです。道具は 2 つだけです。ひとつは I0=π/2I_0 = \pi/2 というディリクレ積分、もうひとつは「積のフーリエ変換は畳み込み」という関係です。後者を確率の言葉に翻訳すると、崩れる条件が一行で書けてしまいます。

定義 2.1(sinc 関数)↗

実数 a>0a > 0 に対し、関数 sinc⁡a:R→R\operatorname{sinc}_a : \mathbb{R} \to \mathbb{R} を

sinc⁡a(x)={sin⁡(ax)ax(x≠0),1(x=0)\operatorname{sinc}_a(x) = \begin{cases} \dfrac{\sin(a x)}{a x} & (x \ne 0), \\[2mm] 1 & (x = 0)\end{cases}

で定めます。a=1a = 1 のときは単に sinc⁡(x)=sin⁡x/x\operatorname{sinc}(x) = \sin x / x と書きます。

x→0x \to 0 で sin⁡(ax)/(ax)→1\sin(ax)/(ax) \to 1 ですから、sinc⁡a\operatorname{sinc}_a は R\mathbb{R} 全体で連続です。実際、sin⁡\sin のテイラー展開(sin x のマクローリン展開(例 6.2)[平均値の定理とテイラーの定理])から sin⁡(ax)ax=1−(ax)26+(ax)4120−⋯\dfrac{\sin(ax)}{ax} = 1 - \dfrac{(ax)^2}{6} + \dfrac{(ax)^4}{120} - \cdots となり、右辺は R\mathbb{R} 全体で収束する冪級数なので sinc⁡a\operatorname{sinc}_a は C∞C^\infty 級でもあります。また sinc⁡a\operatorname{sinc}_a は偶関数です。

sinc⁡a\operatorname{sinc}_a を無限区間で積分するとき、まず気をつけるべきなのは「どういう意味で積分するのか」です。

命題 2.2(条件収束)✓

広義積分 ∫0∞sin⁡xx dx=lim⁡R→∞∫0Rsin⁡xx dx\displaystyle\int_0^\infty \frac{\sin x}{x}\,dx = \lim_{R \to \infty}\int_0^R \frac{\sin x}{x}\,dx は収束します。しかし

∫0∞∣sin⁡xx∣dx=+∞\int_0^\infty \left|\frac{\sin x}{x}\right| dx = +\infty

であり、絶対収束はしません。さらに、任意の 1≤R<R′1 \le R < R' に対して

∣∫RR′sin⁡xx dx∣≤3R\left|\int_R^{R'} \frac{\sin x}{x}\,dx\right| \le \frac{3}{R}

が成り立ちます。

証明(命題 2.2)

(1)収束と評価。 1≤R<R′1 \le R < R' とします。u(x)=1/xu(x) = 1/x、v(x)=−cos⁡xv(x) = -\cos x として部分積分します(部分積分と微積分の基本定理については 積分の基本定理と定積分、とくに 部分積分の公式(定理 6.2)[積分の基本定理と定積分] を参照)。

∫RR′sin⁡xx dx=[−cos⁡xx]RR′−∫RR′cos⁡xx2 dx=cos⁡RR−cos⁡R′R′−∫RR′cos⁡xx2 dx.\int_R^{R'} \frac{\sin x}{x}\,dx = \left[\frac{-\cos x}{x}\right]_R^{R'} - \int_R^{R'} \frac{\cos x}{x^2}\,dx = \frac{\cos R}{R} - \frac{\cos R'}{R'} - \int_R^{R'}\frac{\cos x}{x^2}\,dx .

∣cos⁡∣≤1|\cos| \le 1 なので第 1 項と第 2 項の絶対値はそれぞれ 1/R1/R、1/R′1/R' 以下です。第 3 項は

∣∫RR′cos⁡xx2 dx∣≤∫RR′dxx2=1R−1R′≤1R.\left|\int_R^{R'}\frac{\cos x}{x^2}\,dx\right| \le \int_R^{R'}\frac{dx}{x^2} = \frac1R - \frac1{R'} \le \frac1R .

1/R′≤1/R1/R' \le 1/R なので、合わせて 3/R3/R 以下です。これが主張の評価です。

R→∞R \to \infty で右辺は 00 に行きますから、コーシーの判定条件(ε>0\varepsilon > 0 に対し R0=max⁡(1, 4/ε)R_0 = \max(1,\,4/\varepsilon) を取れば R0≤R<R′R_0 \le R < R' で差が ε\varepsilon 未満)により lim⁡R→∞∫0R\lim_{R\to\infty}\int_0^R は存在します。なお [0,1][0,1] 上では被積分関数は連続なので、そこでの積分は有限確定です。

(2)絶対発散。 k≥1k \ge 1 とし、区間 [kπ,(k+1)π][k\pi, (k+1)\pi] で評価します。この区間では x≤(k+1)πx \le (k+1)\pi なので ∣sin⁡x∣x≥∣sin⁡x∣(k+1)π\dfrac{|\sin x|}{x} \ge \dfrac{|\sin x|}{(k+1)\pi} であり、

∫kπ(k+1)π∣sin⁡x∣x dx≥1(k+1)π∫kπ(k+1)π∣sin⁡x∣ dx=2(k+1)π\int_{k\pi}^{(k+1)\pi}\frac{|\sin x|}{x}\,dx \ge \frac{1}{(k+1)\pi}\int_{k\pi}^{(k+1)\pi}|\sin x|\,dx = \frac{2}{(k+1)\pi}

となります(∫kπ(k+1)π∣sin⁡x∣ dx=∫0πsin⁡x dx=2\int_{k\pi}^{(k+1)\pi}|\sin x|\,dx = \int_0^\pi \sin x\,dx = 2)。したがって

∫π(N+1)π∣sin⁡x∣x dx≥2π∑k=1N1k+1\int_\pi^{(N+1)\pi}\frac{|\sin x|}{x}\,dx \ge \frac{2}{\pi}\sum_{k=1}^{N}\frac{1}{k+1}

となり、右辺は調和級数の部分和なので N→∞N \to \infty で +∞+\infty に発散します(級数と収束判定 の 調和級数は発散する(例 3.7)[級数と収束判定] を参照)。

注意 2.3

命題 2.2 の後半は、sin⁡x/x\sin x / x が (0,∞)(0,\infty) 上でルベーグ可積分ではないことを意味します。以下では ∫0∞\int_0^\infty や ∫−∞∞\int_{-\infty}^{\infty} を、常に対称な広義リーマン積分

∫−∞∞f=lim⁡R→∞∫−RRf\int_{-\infty}^{\infty} f = \lim_{R\to\infty}\int_{-R}^{R} f

の意味で使います。因子を 2 個以上掛けた I1,I2,…I_1, I_2, \ldots では被積分関数が ∣x∣−2|x|^{-2} 以下で減衰するので絶対収束し、この区別は不要になります。区別が必要なのは I0I_0 と、後で使う「因子 1 個の積分」だけです。

出発点となる等式を証明します。値そのものだけでなく、パラメータ tt を含む形まで示しておきます。後の議論で使うのはそちらです。

証明の鍵は、パラメータ ss を含む広義積分

F(s)=∫0∞e−sx sin⁡xx dx(s≥0)F(s) = \int_0^\infty e^{-sx}\,\frac{\sin x}{x}\,dx \qquad (s \ge 0)

が s≥0s \ge 0 で一様収束することです。一様収束していれば、極限関数 FF が連続になり、s→0+s \to 0^{+} の極限と s=0s = 0 での値を結びつけられます。

次の補題のねらいは、ss がどんな値でも通用する一つの上界 3/R3/R で、積分の「しっぽ」(RR より先の部分)を抑えることです。上界が ss によらないことが、そのまま一様収束の意味になります。証明は、sin⁡x/x\sin x / x だけのときと同じ部分積分を e−sxe^{-sx} つきで行うだけです。

補題 3.1(パラメータ付き広義積分の一様収束)✓

s≥0s \ge 0 とし、FR(s)=∫0Re−sxsin⁡xx dxF_R(s) = \displaystyle\int_0^R e^{-sx}\frac{\sin x}{x}\,dx と置きます。このとき任意の 1≤R<R′1 \le R < R' と任意の s≥0s \ge 0 に対して

∣FR′(s)−FR(s)∣≤3R\left|F_{R'}(s) - F_R(s)\right| \le \frac{3}{R}

が成り立ちます。したがって FRF_R は R→∞R \to \infty で [0,∞)[0,\infty) 上一様収束し、極限 FF は [0,∞)[0,\infty) 上連続です。

証明(補題 3.1)

g(x)=e−sxxg(x) = \dfrac{e^{-sx}}{x} と置き、1≤R<R′1 \le R < R' 上で部分積分します(v(x)=−cos⁡xv(x) = -\cos x)。

∫RR′g(x)sin⁡x dx=[−g(x)cos⁡x]RR′+∫RR′g′(x)cos⁡x dx.\int_R^{R'} g(x)\sin x\,dx = \bigl[-g(x)\cos x\bigr]_R^{R'} + \int_R^{R'} g'(x)\cos x\,dx .

境界項は ∣g(R)∣+∣g(R′)∣=e−sRR+e−sR′R′≤1R+1R=2R|g(R)| + |g(R')| = \dfrac{e^{-sR}}{R} + \dfrac{e^{-sR'}}{R'} \le \dfrac1R + \dfrac1R = \dfrac2R 以下です(s≥0s \ge 0 より e−sx≤1e^{-sx}\le 1、および R′>R≥1R' > R \ge 1)。

積分項については

g′(x)=−e−sx(sx+1x2)g'(x) = -e^{-sx}\left(\frac{s}{x} + \frac{1}{x^2}\right)

であり、x>0x > 0、s≥0s \ge 0 のとき g′(x)≤0g'(x) \le 0 で符号が一定です。よって

∫RR′∣g′(x)∣ dx=−∫RR′g′(x) dx=g(R)−g(R′)=e−sRR−e−sR′R′≤1R,\int_R^{R'}|g'(x)|\,dx = -\int_R^{R'} g'(x)\,dx = g(R) - g(R') = \frac{e^{-sR}}{R} - \frac{e^{-sR'}}{R'} \le \frac{1}{R},

したがって ∣∫RR′g′(x)cos⁡x dx∣≤1/R\left|\int_R^{R'} g'(x)\cos x\,dx\right| \le 1/R です。合わせて ∣FR′(s)−FR(s)∣≤3/R|F_{R'}(s) - F_R(s)| \le 3/R となり、この上界は ss に依りません。

これは一様コーシー条件そのものなので、FRF_R は [0,∞)[0,\infty) 上一様収束します。各 FRF_R は ss の関数として連続です(有限区間 [0,R][0,R] 上の積分で、被積分関数 e−sxsin⁡x/xe^{-sx}\sin x / x は (s,x)(s,x) について連続、[0,R][0,R] はコンパクトなので(有界閉区間上の連続関数は一様連続(注意 6.3)[極限と連続性])ss について一様連続性から極限が入れ替わります)。連続関数列の一様極限は連続なので(極限と連続性 (ε-δ論法) を参照)、FF は [0,∞)[0,\infty) 上連続です。

定理 3.2(ディリクレ積分)✓

∫0∞sin⁡xx dx=π2.\int_0^\infty \frac{\sin x}{x}\,dx = \frac{\pi}{2}.
証明(定理 3.2)

補題 3.1 の FF を使います。示すべきは F(0)=π/2F(0) = \pi/2 です。

(1)s>0s > 0 での微分。 s0>0s_0 > 0 を任意に固定し、s≥s0s \ge s_0 の範囲を考えます。被積分関数を ss で偏微分すると

∂∂s(e−sxsin⁡xx)=−e−sxsin⁡x,∣−e−sxsin⁡x∣≤e−s0x\frac{\partial}{\partial s}\left(e^{-sx}\frac{\sin x}{x}\right) = -e^{-sx}\sin x, \qquad \left|-e^{-sx}\sin x\right| \le e^{-s_0 x}

であり、∫0∞e−s0xdx=1/s0<∞\int_0^\infty e^{-s_0x}dx = 1/s_0 < \infty です。優関数が ss に依らず可積分なので、積分記号下での微分が正当化され、s≥s0s \ge s_0 で

F′(s)=−∫0∞e−sxsin⁡x dx.F'(s) = -\int_0^\infty e^{-sx}\sin x\,dx .

s0>0s_0 > 0 は任意だったので、これは s>0s > 0 のすべてで成り立ちます。

(2)右辺の計算。 I=∫0∞e−sxsin⁡x dxI = \int_0^\infty e^{-sx}\sin x\,dx、J=∫0∞e−sxcos⁡x dxJ = \int_0^\infty e^{-sx}\cos x\,dx と置きます(s>0s>0 なのでどちらも絶対収束)。部分積分して

I=[−e−sxssin⁡x]0∞+1s∫0∞e−sxcos⁡x dx=Js,I = \left[-\frac{e^{-sx}}{s}\sin x\right]_0^\infty + \frac1s\int_0^\infty e^{-sx}\cos x\,dx = \frac{J}{s},J=[−e−sxscos⁡x]0∞−1s∫0∞e−sxsin⁡x dx=1s−Is.J = \left[-\frac{e^{-sx}}{s}\cos x\right]_0^\infty - \frac1s\int_0^\infty e^{-sx}\sin x\,dx = \frac1s - \frac{I}{s} .

第 1 式に第 2 式を代入すると I=1s2−Is2I = \dfrac{1}{s^2} - \dfrac{I}{s^2}、すなわち I(1+1s2)=1s2I\left(1 + \dfrac{1}{s^2}\right) = \dfrac{1}{s^2} となり

∫0∞e−sxsin⁡x dx=11+s2,よってF′(s)=−11+s2(s>0).\int_0^\infty e^{-sx}\sin x\,dx = \frac{1}{1+s^2}, \qquad\text{よって}\qquad F'(s) = -\frac{1}{1+s^2}\quad (s>0).

(3)積分定数の決定。 (2)より F(s)=C−arctan⁡sF(s) = C - \arctan s(s>0s > 0、CC は定数)です。一方 ∣sin⁡x/x∣≤1|\sin x / x| \le 1 から

∣F(s)∣≤∫0∞e−sx dx=1s→s→∞0|F(s)| \le \int_0^\infty e^{-sx}\,dx = \frac1s \xrightarrow[s\to\infty]{} 0

であり、arctan⁡s→π/2\arctan s \to \pi/2 なので C=π/2C = \pi/2 です。したがって

F(s)=π2−arctan⁡s(s>0).F(s) = \frac{\pi}{2} - \arctan s \qquad (s > 0).

(4)s→0+s \to 0^{+}。 補題 3.1 より FF は s=0s = 0 で連続なので

∫0∞sin⁡xx dx=F(0)=lim⁡s→0+F(s)=π2−arctan⁡0=π2.\int_0^\infty \frac{\sin x}{x}\,dx = F(0) = \lim_{s\to 0^{+}} F(s) = \frac{\pi}{2} - \arctan 0 = \frac{\pi}{2}.

ここで一様収束が本質的でした。s>0s > 0 ごとの計算だけでは s=0s = 0 での値は分かりません。

系 3.3(符号付きディリクレ積分)✓

任意の実数 cc に対して

∫−∞∞sin⁡(cx)x dx=π sgn(c)={  π(c>0),  0(c=0),−π(c<0).\int_{-\infty}^{\infty} \frac{\sin(c x)}{x}\,dx = \pi\,\mathrm{sgn}(c) = \begin{cases} \ \ \pi & (c > 0), \\ \ \ 0 & (c = 0), \\ -\pi & (c < 0). \end{cases}
証明(系 3.3)

被積分関数 sin⁡(cx)/x\sin(cx)/x は偶関数なので ∫−∞∞=2∫0∞\int_{-\infty}^{\infty} = 2\int_0^\infty です。c=0c = 0 なら被積分関数は恒等的に 00 で、値は 00 です。c>0c > 0 なら u=cxu = cx と置換して(置換積分(定理 6.1)[積分の基本定理と定積分])

∫0∞sin⁡(cx)x dx=∫0∞sin⁡uu du=π2\int_0^\infty \frac{\sin(cx)}{x}\,dx = \int_0^\infty \frac{\sin u}{u}\,du = \frac{\pi}{2}

(定理 3.2)。よって ∫−∞∞=π\int_{-\infty}^{\infty} = \pi です。c<0c < 0 なら sin⁡(cx)=−sin⁡(∣c∣x)\sin(cx) = -\sin(|c|x) より符号が反転し −π-\pi になります。

例 3.4(最初のボールウェイン積分)

定理 3.2 はそのまま I0=π/2I_0 = \pi/2 を与えます。つまり表の第 1 行は証明済みです。問題は「因子を掛けても π/2\pi/2 のままなのはなぜか」です。試しに 2 個の場合を、後で作る道具を使わずに直接計算してみます。a>0a > 0 に対し

∫0∞sin⁡xx⋅sin⁡(ax)ax dx\int_0^\infty \frac{\sin x}{x}\cdot\frac{\sin(ax)}{ax}\,dx

で 0<a≤10 < a \le 1 とします。積和の公式 sin⁡xsin⁡(ax)=12[cos⁡((1−a)x)−cos⁡((1+a)x)]\sin x \sin(ax) = \frac12\bigl[\cos((1-a)x) - \cos((1+a)x)\bigr] を使うと被積分関数は cos⁡((1−a)x)−cos⁡((1+a)x)2ax2\dfrac{\cos((1-a)x)-\cos((1+a)x)}{2ax^2} となります。ここで cos⁡\cos の差を積分するために、1−cos⁡(bx)x2\dfrac{1-\cos(bx)}{x^2} の積分を使う手もありますが、計算はやや込み入ります。次節で作る道具を使えば、この積分が a≤1a \le 1 のとき π/2\pi/2、a>1a > 1 のとき π/(2a)\pi/(2a) になることが一瞬で分かります(例 4.7)。

4. sinc の積を「窓と密度」に翻訳する

Section titled “4. sinc の積を「窓と密度」に翻訳する”

ここからが本題です。鍵になるのは次の観察です。

12a∫−aae−ixt dt=12a⋅eiax−e−iaxix=sin⁡(ax)ax=sinc⁡a(x).\frac{1}{2a}\int_{-a}^{a} e^{-i x t}\,dt = \frac{1}{2a}\cdot\frac{e^{iax}-e^{-iax}}{ix} = \frac{\sin(ax)}{ax} = \operatorname{sinc}_a(x).

つまり sinc⁡a\operatorname{sinc}_a は「区間 [−a,a][-a,a] 上の一様な密度」のフーリエ変換です。フーリエ変換は積を畳み込みに移すので、sinc⁡\operatorname{sinc} の積は一様密度の畳み込みに対応するはずです。以下ではこの筋書きを、フーリエ反転定理を持ち出さずに、系 3.3 と積和の公式だけで直接証明します。

定義 4.1(一様密度と畳み込み)↗

a>0a > 0 に対して

ha(t)={12a(∣t∣≤a),0(∣t∣>a)h_a(t) = \begin{cases} \dfrac{1}{2a} & (|t| \le a), \\[1mm] 0 & (|t| > a)\end{cases}

と定めます。これは区間 [−a,a][-a,a] 上の一様分布の確率密度で、∫Rha=1\int_{\mathbb{R}} h_a = 1 です。有界可測かつ可積分な f,gf, g に対して畳み込みを

(f∗g)(t)=∫Rf(t−u) g(u) du(f * g)(t) = \int_{\mathbb{R}} f(t-u)\,g(u)\,du

で定めます。特に g=hag = h_a のときは

(f∗ha)(t)=12a∫t−at+af(u) du(f * h_a)(t) = \frac{1}{2a}\int_{t-a}^{t+a} f(u)\,du

であり、これは「ff を幅 2a2a の窓で移動平均する」操作です。

定義 4.2(パラメータを含む積分)↗

a0,a1,…,an>0a_0, a_1, \ldots, a_n > 0 を固定し、n≥0n \ge 0 と t∈Rt \in \mathbb{R} に対して

Ψn(t)=∫−∞∞(∏k=0nsinc⁡ak(x))cos⁡(tx) dx\Psi_n(t) = \int_{-\infty}^{\infty}\left(\prod_{k=0}^{n}\operatorname{sinc}_{a_k}(x)\right)\cos(tx)\,dx

と定めます(n=0n = 0 のときは 注意 2.3 の意味の対称広義積分、n≥1n \ge 1 のときは絶対収束します)。cos⁡\cos が偶関数なので Ψn\Psi_n も偶関数です。

Ψn(0)\Psi_n(0) が求めたい積分の 22 倍であることに注意してください。被積分関数は偶関数なので

∫0∞∏k=0nsinc⁡ak(x) dx=12Ψn(0).\int_0^\infty \prod_{k=0}^{n}\operatorname{sinc}_{a_k}(x)\,dx = \frac{1}{2}\Psi_n(0).

補題 4.3(出発点:因子が 1 個のときは箱型関数)✓

Ψ0(t)={πa0(∣t∣<a0),π2a0(∣t∣=a0),0(∣t∣>a0).\Psi_0(t) = \begin{cases} \dfrac{\pi}{a_0} & (|t| < a_0), \\[2mm] \dfrac{\pi}{2a_0} & (|t| = a_0), \\[2mm] 0 & (|t| > a_0). \end{cases}

すなわち ∣t∣≠a0|t| \ne a_0 では Ψ0(t)=2π ha0(t)\Psi_0(t) = 2\pi\,h_{a_0}(t) です。

証明(補題 4.3)

積和の公式 sin⁡(a0x)cos⁡(tx)=12[sin⁡((a0+t)x)+sin⁡((a0−t)x)]\sin(a_0x)\cos(tx) = \frac12\bigl[\sin((a_0+t)x) + \sin((a_0-t)x)\bigr] を使うと

sinc⁡a0(x)cos⁡(tx)=12a0[sin⁡((a0+t)x)x+sin⁡((a0−t)x)x].\operatorname{sinc}_{a_0}(x)\cos(tx) = \frac{1}{2a_0}\left[\frac{\sin((a_0+t)x)}{x} + \frac{\sin((a_0-t)x)}{x}\right].

両辺を ∫−RR\int_{-R}^{R} してから R→∞R \to \infty とすると、右辺の各項は 系 3.3 で計算できて

Ψ0(t)=12a0[π sgn(a0+t)+π sgn(a0−t)].\Psi_0(t) = \frac{1}{2a_0}\Bigl[\pi\,\mathrm{sgn}(a_0+t) + \pi\,\mathrm{sgn}(a_0-t)\Bigr].

あとは場合分けです。∣t∣<a0|t| < a_0 なら a0+t>0a_0 + t > 0 かつ a0−t>0a_0 - t > 0 なので括弧の中は 2π2\pi、よって Ψ0(t)=π/a0\Psi_0(t) = \pi/a_0。t>a0t > a_0 なら a0+t>0a_0 + t > 0、a0−t<0a_0 - t < 0 なので π−π=0\pi - \pi = 0。t<−a0t < -a_0 なら −π+π=0-\pi + \pi = 0。t=a0t = a_0 なら sgn(0)=0\mathrm{sgn}(0) = 0 が現れて括弧の中は π\pi、よって π/(2a0)\pi/(2a_0)。t=−a0t = -a_0 も同様です。

∣t∣=a0|t| = a_0 という 2 点だけ値が半分になりますが、これから Ψ0\Psi_0 は必ず積分される(移動平均される)ので、この 2 点の値は結果に影響しません。

次の定理が、この記事の道具の中心です。因子を 1 つ掛けると、Ψ\Psi が「幅 2an2a_n の窓での移動平均」に置き換わる、という関係を示します。証明の方針は、新しい因子を cos⁡\cos の平均として書き直し、積分の順序を入れ替えることです。途中で出てくる有界収束定理は、RR を大きくする極限と ss での積分を入れ替えてよい、という場面で使います。それが許されるのは、積分される関数が RR にも uu にも依らない定数で抑えられるからで、その確認は Appendix にあります。

定理 4.4(因子を 1 つ増やすことは移動平均すること)✓

n≥1n \ge 1 とします。定義 4.2 の Ψn\Psi_n について

Ψn=Ψn−1∗han,すなわちΨn(t)=12an∫t−ant+anΨn−1(u) du\Psi_n = \Psi_{n-1} * h_{a_n}, \qquad\text{すなわち}\qquad \Psi_n(t) = \frac{1}{2a_n}\int_{t-a_n}^{t+a_n} \Psi_{n-1}(u)\,du

がすべての t∈Rt \in \mathbb{R} で成り立ちます。

証明(定理 4.4)

まず、x≠0x \ne 0 に対して

1an∫0ancos⁡(sx) ds=1an⋅sin⁡(anx)x=sinc⁡an(x)\frac{1}{a_n}\int_0^{a_n}\cos(sx)\,ds = \frac{1}{a_n}\cdot\frac{\sin(a_n x)}{x} = \operatorname{sinc}_{a_n}(x)

であり、x=0x = 0 でも両辺 11 で一致します。これを Ψn\Psi_n の被積分関数に代入し、P(x)=∏k=0n−1sinc⁡ak(x)P(x) = \prod_{k=0}^{n-1}\operatorname{sinc}_{a_k}(x) と略記すると

(∏k=0nsinc⁡ak(x))cos⁡(tx)=P(x)⋅1an∫0ancos⁡(sx)cos⁡(tx) ds.\left(\prod_{k=0}^{n}\operatorname{sinc}_{a_k}(x)\right)\cos(tx) = P(x)\cdot\frac{1}{a_n}\int_0^{a_n}\cos(sx)\cos(tx)\,ds .

積和の公式 cos⁡(sx)cos⁡(tx)=12[cos⁡((t+s)x)+cos⁡((t−s)x)]\cos(sx)\cos(tx) = \frac12\bigl[\cos((t+s)x) + \cos((t-s)x)\bigr] を使い、有界閉領域 [−R,R]×[0,an][-R,R]\times[0,a_n] 上で積分順序を交換します(被積分関数は連続、領域はコンパクトなので 連続関数に対するフビニの定理(系 4.3)[重積分と累次積分] が使えます。重積分と累次積分 を参照)。

∫−RR(∏k=0nsinc⁡ak)cos⁡(tx) dx=12an∫0an[ΦR(t+s)+ΦR(t−s)]ds,\int_{-R}^{R}\left(\prod_{k=0}^{n}\operatorname{sinc}_{a_k}\right)\cos(tx)\,dx = \frac{1}{2a_n}\int_0^{a_n}\Bigl[\Phi_R(t+s) + \Phi_R(t-s)\Bigr]ds,

ただし

ΦR(u)=∫−RRP(x)cos⁡(ux) dx.\Phi_R(u) = \int_{-R}^{R} P(x)\cos(ux)\,dx .

ここで R→∞R \to \infty とします。各 uu について ΦR(u)→Ψn−1(u)\Phi_R(u) \to \Psi_{n-1}(u) です(n−1≥1n-1 \ge 1 なら絶対収束、n−1=0n-1 = 0 なら 補題 4.3 の議論)。さらに Appendix で示すとおり、RR と uu に依らない定数 CC があって ∣ΦR(u)∣≤C|\Phi_R(u)| \le C が成り立ちます。積分区間 [0,an][0,a_n] は有限なので、有界収束定理(定数 2C2C が優関数)により極限を積分の中に入れられて

Ψn(t)=12an∫0an[Ψn−1(t+s)+Ψn−1(t−s)]ds.\Psi_n(t) = \frac{1}{2a_n}\int_0^{a_n}\Bigl[\Psi_{n-1}(t+s) + \Psi_{n-1}(t-s)\Bigr]ds .

最後に Ψn−1\Psi_{n-1} が偶関数であること、および変数変換 s↦−ss \mapsto -s を使うと

∫0anΨn−1(t−s) ds=∫−an0Ψn−1(t+s) ds\int_0^{a_n}\Psi_{n-1}(t-s)\,ds = \int_{-a_n}^{0}\Psi_{n-1}(t+s)\,ds

なので、2 つの項を合わせて

Ψn(t)=12an∫−ananΨn−1(t+s) ds=12an∫t−ant+anΨn−1(u) du\Psi_n(t) = \frac{1}{2a_n}\int_{-a_n}^{a_n}\Psi_{n-1}(t+s)\,ds = \frac{1}{2a_n}\int_{t-a_n}^{t+a_n}\Psi_{n-1}(u)\,du

が得られます。これは 定義 4.1 の Ψn−1∗han\Psi_{n-1} * h_{a_n} に他なりません。

次の系は、この移動平均の繰り返しを確率の言葉に直したものです。独立な 2 つの量 X,YX, Y の和が値 tt の近くになる確率は、XX が uu の近くで YY が t−ut-u の近くになる確率を、uu についてすべて足し合わせたものです。この足し合わせが畳み込みの形をしているので、和の密度は各密度の畳み込みになります。

系 4.5(ボールウェイン積分の確率表示)✓

a0,a1,…,an>0a_0, a_1, \ldots, a_n > 0(n≥1n \ge 1)とし、X1,…,XnX_1, \ldots, X_n を独立で XkX_k が区間 [−ak,ak][-a_k, a_k] 上の一様分布に従う確率変数、S=X1+⋯+XnS = X_1 + \cdots + X_n とします。このとき

∫0∞∏k=0nsin⁡(akx)akx dx=π2a0Pr⁡(∣S∣≤a0).\int_0^\infty \prod_{k=0}^{n}\frac{\sin(a_k x)}{a_k x}\,dx = \frac{\pi}{2a_0}\Pr\bigl(|S| \le a_0\bigr).
証明(系 4.5)

補題 4.3 より Ψ0=2πha0\Psi_0 = 2\pi h_{a_0}(2 点を除く)で、定理 4.4 を nn 回使うと

Ψn=2π ha0∗ha1∗⋯∗han.\Psi_n = 2\pi\, h_{a_0} * h_{a_1} * \cdots * h_{a_n} .

右辺を 2πH2\pi H と書きます。G=ha1∗⋯∗hanG = h_{a_1} * \cdots * h_{a_n} と置くと H=ha0∗GH = h_{a_0} * G です。確率論の言葉では、独立な確率変数の和の密度は各密度の畳み込みなので、GG は S=X1+⋯+XnS = X_1 + \cdots + X_n の確率密度です。

t=0t = 0 を代入します。定義 4.1 より

H(0)=(ha0∗G)(0)=12a0∫−a0a0G(u) du=12a0Pr⁡(∣S∣≤a0).H(0) = (h_{a_0} * G)(0) = \frac{1}{2a_0}\int_{-a_0}^{a_0} G(u)\,du = \frac{1}{2a_0}\Pr\bigl(|S| \le a_0\bigr).

一方 定義 4.2 の直後に注意したとおり、求める積分は 12Ψn(0)=πH(0)\frac12\Psi_n(0) = \pi H(0) です。以上を合わせて主張を得ます。

この系がこの記事の中心です。言葉で言い直すと、こうなります。

  • sinc⁡a0\operatorname{sinc}_{a_0} は「幅 2a02a_0 の窓 [−a0,a0][-a_0, a_0]」を表す。
  • 残りの因子 sinc⁡a1,…,sinc⁡an\operatorname{sinc}_{a_1}, \ldots, \operatorname{sinc}_{a_n} を掛けることは、その窓を次々と移動平均でぼかすことに対応する。
  • 積分の値は「ぼかした後の窓の中心の高さ」に比例する。窓の中心の高さは、ぼかしに使った質量のうち窓の中に残っている割合、つまり Pr⁡(∣S∣≤a0)\Pr(|S| \le a_0) である。

次の注意は、フーリエ変換を学んだことのある人向けの言い換えです。読み飛ばしても、本文の証明の理解には影響しません。

注意 4.6(フーリエ変換の言葉で言い直す)

標準的なフーリエ解析の記号 f^(x)=∫Rf(t)e−ixt dt\widehat{f}(x) = \int_{\mathbb{R}} f(t)e^{-ixt}\,dt を使うと、この節でやったことは 3 行で書けます。まず節の冒頭の計算は ha^(x)=sinc⁡a(x)\widehat{h_a}(x) = \operatorname{sinc}_a(x) を意味します。次に「畳み込みの変換は変換の積」という基本性質から

ha0∗ha1∗⋯∗han^(x)=∏k=0nsinc⁡ak(x)\widehat{h_{a_0} * h_{a_1} * \cdots * h_{a_n}}(x) = \prod_{k=0}^{n}\operatorname{sinc}_{a_k}(x)

です。最後にフーリエ反転公式を t=0t = 0 で使えば

H(0)=12π∫RH^(x) dx=12π∫R∏k=0nsinc⁡ak(x) dxH(0) = \frac{1}{2\pi}\int_{\mathbb{R}}\widehat{H}(x)\,dx = \frac{1}{2\pi}\int_{\mathbb{R}}\prod_{k=0}^{n}\operatorname{sinc}_{a_k}(x)\,dx

となって 系 4.5 が出ます。

では、なぜ本文ではこの近道を通らなかったのでしょうか。反転公式を使うには HH と H^\widehat{H} の両方が可積分であることなどを確認する必要があり、その道具立て(フーリエ解析)は微分積分学の範囲を出るからです。定理 4.4 の証明で使ったのは、積和の公式と 系 3.3、それに積分順序の交換と有界収束定理だけでした。同じ結論に、より少ない前提でたどり着けます。

sinc の積の積分が確率に翻訳されるまでの流れ

次の図が、この記事全体の要約です。左は SS の密度が窓に収まる場合、右ははみ出す場合です。

−a₀0a₀−a₀0a₀B = a₁+⋯+aₙ ≤ a₀ のときB = a₁+⋯+aₙ が a₀ を超える密度は窓の中に全部収まる両端が窓からはみ出す積分 = π/(2a₀)積分 = π/(2a₀) より小さい濃い部分の確率だけ失われる
窓 と、和 の密度。密度が窓に収まっている限り、積分の値は変わらない。

a0=1a_0 = 1、ak=1/(2k+1)a_k = 1/(2k+1) のときに、因子を 1 個ずつ増やしていく様子を動画で見ます。青い山が SS の密度で、薄い青の帯が窓 [−1,1][-1,1] です。山が窓の中に収まっている間はずれが 00 のままで、n=7n = 7 で幅の合計が 11 をわずかに超えたところで、はみ出す確率が初めて正になります。

n = 1 から 8 まで因子を増やすと、密度が箱型からなだらかな山へ変わっていく。n = 6 までは山が窓 [-1,1] に収まりはみ出す確率は 0 で、n = 7 で約 2e-11、n = 8 で約 1e-8 になる。
因子を 1 個ずつ増やしたときの の密度(上)と、窓の外にはみ出す確率(下、対数軸)。数値は厳密な式で計算している。

例 4.7(因子 2 個の場合を計算しきる)

n=1n = 1、すなわち ∫0∞sinc⁡a(x)sinc⁡b(x) dx\displaystyle\int_0^\infty \operatorname{sinc}_{a}(x)\operatorname{sinc}_{b}(x)\,dx を 系 4.5 で計算します。a0=aa_0 = a、a1=ba_1 = b と取ると S=X1S = X_1 は [−b,b][-b,b] 上の一様分布です。

b≤ab \le a のとき、∣X1∣≤b≤a|X_1| \le b \le a は確率 11 で成り立つので Pr⁡(∣S∣≤a)=1\Pr(|S| \le a) = 1、よって値は π2a\dfrac{\pi}{2a} です。

b>ab > a のとき、Pr⁡(∣X1∣≤a)=2a2b=ab\Pr(|X_1| \le a) = \dfrac{2a}{2b} = \dfrac{a}{b} なので値は π2a⋅ab=π2b\dfrac{\pi}{2a}\cdot\dfrac{a}{b} = \dfrac{\pi}{2b} です。

まとめると

∫0∞sin⁡(ax)ax⋅sin⁡(bx)bx dx=π2max⁡(a,b).\int_0^\infty \frac{\sin(ax)}{ax}\cdot\frac{\sin(bx)}{bx}\,dx = \frac{\pi}{2\max(a,b)} .

具体的に a=1,b=3a = 1, b = 3 なら π/6=0.5235987755…\pi/6 = 0.5235987755\ldots、a=1,b=2a=1, b=2 なら π/4\pi/4、a=b=1a = b = 1 なら π/2\pi/2 です。最後のケースは

∫0∞sin⁡2xx2 dx=π2\int_0^\infty \frac{\sin^2 x}{x^2}\,dx = \frac{\pi}{2}

という有名な等式にほかなりません。b=ab = a が「ちょうど境界」であることに注意してください。

5. ボールウェイン積分:崩れる条件と崩れ幅

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いよいよ本題です。系 4.5 によれば値は確率 Pr⁡(∣S∣≤a0)\Pr(|S| \le a_0) で決まるので、この確率がちょうど 11 になる条件を調べれば、「いつまで π/2\pi/2 が続くか」が分かります。そのために、SS が実際にとりうる値の範囲(密度が 00 でない範囲。これを台と呼びます)を調べます。

定理 5.1(ボールウェインの定理)✓

n≥1n \ge 1 とし、a0,a1,…,ana_0, a_1, \ldots, a_n を正の実数、B=a1+a2+⋯+anB = a_1 + a_2 + \cdots + a_n とします。このとき

∫0∞∏k=0nsin⁡(akx)akx dx=π2a0⟺B≤a0.\int_0^\infty \prod_{k=0}^{n}\frac{\sin(a_k x)}{a_k x}\,dx = \frac{\pi}{2a_0} \quad\Longleftrightarrow\quad B \le a_0 .

さらに B>a0B > a_0 のときは、値は π2a0\dfrac{\pi}{2a_0} より真に小さくなります。

証明(定理 5.1)

系 4.5 の記号を使います。S=X1+⋯+XnS = X_1 + \cdots + X_n の密度 GG の台(GG が 00 でない点の閉包)を調べます。

(1)台は [−B,B][-B, B]。 各 XkX_k は ∣Xk∣≤ak|X_k| \le a_k を満たすので ∣S∣≤a1+⋯+an=B|S| \le a_1 + \cdots + a_n = B です。よって GG は [−B,B][-B,B] の外で 00 です。

(2)GG は開区間 (−B,B)(-B,B) 上で正。 GG は

G(u)=1n ∏k=1n(2ak)⋅voln−1({x∈∏k(−ak,ak) : x1+⋯+xn=u})G(u) = \frac{1}{\sqrt{n}\,\prod_{k=1}^{n}(2a_k)}\cdot \mathrm{vol}_{n-1}\Bigl(\bigl\{\boldsymbol{x}\in \textstyle\prod_k (-a_k,a_k)\ :\ x_1+\cdots+x_n = u\bigr\}\Bigr)

と書けます(nn 次元の箱を超平面で切った断面の (n−1)(n-1) 次元体積。n=∣∇(x1+⋯+xn)∣\sqrt{n} = |\nabla(x_1+\cdots+x_n)| は超平面が座標軸に対して傾いていることから来る因子で、以下では体積が正かどうかしか使いません)。∣u∣<B|u| < B なら、xk=uBakx_k = \dfrac{u}{B}a_k と取れば ∑kxk=u\sum_k x_k = u かつ ∣xk∣<ak|x_k| < a_k なので断面は空でなく、しかも超平面の中で開集合を含むため断面の (n−1)(n-1) 次元体積は正です。n=1n = 1 のときは G=ha1G = h_{a_1} で、(−a1,a1)(-a_1,a_1) 上で正です。

(3)B≤a0B \le a_0 の場合。 [−B,B]⊆[−a0,a0][-B,B] \subseteq [-a_0,a_0] なので Pr⁡(∣S∣≤a0)=Pr⁡(∣S∣≤B)=1\Pr(|S| \le a_0) = \Pr(|S| \le B) = 1 です。系 4.5 より値は π2a0\dfrac{\pi}{2a_0} になります。

(4)B>a0B > a_0 の場合。 区間 (a0,B)(a_0, B) は空でなく、(2)よりその上で G>0G > 0 なので

Pr⁡(∣S∣>a0)≥∫a0BG(u) du>0.\Pr(|S| > a_0) \ge \int_{a_0}^{B} G(u)\,du > 0 .

したがって Pr⁡(∣S∣≤a0)<1\Pr(|S| \le a_0) < 1 で、値は π2a0\dfrac{\pi}{2a_0} より真に小さくなります。

(3)と(4)で必要十分性が示されました。

この定理は「掛ける因子の幅の合計が最初の因子の幅を超えるまでは、いくら掛けても値が変わらない」と言っています。sinc⁡a0\operatorname{sinc}_{a_0} が作る窓を移動平均でぼかしていっても、ぼかしの総幅が窓の半分(片側 a0a_0)以内なら、中心の高さは削られないのです。

注意してほしいのは、この定理が「π/2\pi/2 が続く」ことと「いつか崩れる」ことを同じ一つの不等式で説明している点です。よくある説明は前半だけを扱いますが、定理 5.1 は必要十分条件なので、BB が a0a_0 を超えた瞬間に必ず値が変わることまで保証します。したがって「nn をもっと増やせばまた π/2\pi/2 に戻る」ということは起こりません。BnB_n は単調増加なので、一度超えたら二度と戻らないからです。

例 5.2(なぜ 7 回で止まるのか)

ak=12k+1a_k = \dfrac{1}{2k+1} の場合を 定理 5.1 に当てはめます。a0=1a_0 = 1 なので、条件は

Bn=13+15+⋯+12n+1≤1B_n = \frac13 + \frac15 + \cdots + \frac{1}{2n+1} \le 1

です。順に足していきます。

nnBnB_n の厳密値BnB_n の近似値Bn≤1B_n \le 1 か
111/31/30.33333330.3333333はい
228/158/150.53333330.5333333はい
3371/10571/1050.67619050.6761905はい
44248/315248/3150.78730160.7873016はい
553043/34653043/34650.87821070.8782107はい
6643024/4504543024/450450.95513380.9551338はい
7746027/4504546027/450451.02180041.0218004いいえ

n=6n = 6 での B6=0.9551…B_6 = 0.9551\ldots は 11 にかなり近く、そこに 1/15=0.06671/15 = 0.0667 を足すと 1.0218…1.0218\ldots になって初めて 11 を超えます。したがって I0,I1,…,I6I_0, I_1, \ldots, I_6 の 7 個はすべて π/2\pi/2 で、8 個目の I7I_7 で初めて崩れます。表の第 1 行から第 7 行までが π/2\pi/2、第 8 行だけ違う、という §1 の観察の理由がこれです。

超過分はわずか B7−1=98245045=0.0218004…B_7 - 1 = \dfrac{982}{45045} = 0.0218004\ldots です。「ぎりぎりはみ出した」ことが、崩れ幅が 10−1110^{-11} という極小の値になる原因です。

次の命題のねらいは、崩れ幅を実際の数として求めることです。崩れ幅は「和 SS が窓からはみ出す確率」に比例します。(x1,…,xn)(x_1,\ldots,x_n) を nn 次元の箱の中の一点と見ると、はみ出す部分は箱の角に切り取られた小さな領域で、証明ではその体積を数えます。次元が 2 のときの様子を図に示します。ここでは a1=a2=1a_1 = a_2 = 1、a0=1a_0 = 1(箱は一辺 2 の正方形)とし、x1+x2>1x_1 + x_2 > 1 となる部分が右上の角の三角形です。この三角形の面積は 1/21/2、正方形の面積は 44 なので、Pr⁡(S>1)=1/8\Pr(S > 1) = 1/8 になります。斜めの点線は、密度 G(u)G(u) を与える断面(x1+x2=ux_1 + x_2 = u の線分、ここでは u=1/2u = 1/2)です。

−101x₁01−1x₂x₁+x₂ が 1 を超える部分(面積 1/2)x₁+x₂ = 1/2
n = 2 の場合の箱(正方形)と、和がしきい値 1 を超える角の三角形。点線は和が一定の線(断面)。

命題 5.3(8 番目の積分の厳密値)✓

∫0∞∏k=07sin⁡(x/(2k+1))x/(2k+1) dx=π2−6879714958723010531935615849440640907310521750000 π\int_0^\infty \prod_{k=0}^{7}\frac{\sin\bigl(x/(2k+1)\bigr)}{x/(2k+1)}\,dx = \frac{\pi}{2} - \frac{6879714958723010531}{935615849440640907310521750000}\,\pi

であり、これは

467807924713440738696537864469935615849440640907310521750000 π=1.57079632677179604…\frac{467807924713440738696537864469}{935615849440640907310521750000}\,\pi = 1.57079632677179604\ldots

に等しく、π/2\pi/2 との差はおよそ 2.3100573×10−112.3100573 \times 10^{-11} です。

証明(命題 5.3)

系 4.5 より、求める値は π2Pr⁡(∣S∣≤1)\dfrac{\pi}{2}\Pr(|S| \le 1)、ただし S=∑k=17XkS = \sum_{k=1}^{7} X_k、Xk∼U[−ak,ak]X_k \sim U[-a_k, a_k]、ak=1/(2k+1)a_k = 1/(2k+1) です。SS の分布は原点対称なので Pr⁡(∣S∣≤1)=1−2Pr⁡(S>1)\Pr(|S| \le 1) = 1 - 2\Pr(S > 1) であり、Pr⁡(S>1)\Pr(S > 1) を計算すれば済みます。

(1)はみ出し確率は単体の体積。 n=7n = 7 とし、yk=ak−xky_k = a_k - x_k と変数変換します。xk∈[−ak,ak]x_k \in [-a_k, a_k] は yk∈[0,2ak]y_k \in [0, 2a_k] に対応し、

∑k=1nxk>1  ⟺  ∑k=1n(ak−yk)>1  ⟺  ∑k=1nyk<B−1\sum_{k=1}^{n} x_k > 1 \iff \sum_{k=1}^{n}(a_k - y_k) > 1 \iff \sum_{k=1}^{n} y_k < B - 1

となります(B=∑akB = \sum a_k)。よって

Pr⁡(S>1)=vol({y:0≤yk≤2ak, ∑kyk<B−1})∏k=1n(2ak).\Pr(S > 1) = \frac{\mathrm{vol}\Bigl(\bigl\{\boldsymbol{y} : 0 \le y_k \le 2a_k,\ \sum_k y_k < B-1\bigr\}\Bigr)}{\prod_{k=1}^{n}(2a_k)} .

(2)箱の制約が効かないこと。 いま B−1=98245045=0.02180…B - 1 = \dfrac{982}{45045} = 0.02180\ldots であり、一方 2min⁡kak=215=0.1333…2\min_k a_k = \dfrac{2}{15} = 0.1333\ldots です。B−1≤2akB - 1 \le 2a_k がすべての kk で成り立つので、yk≥0y_k \ge 0 かつ ∑yk<B−1\sum y_k < B-1 という条件からすでに yk<B−1≤2aky_k < B - 1 \le 2a_k が従い、上限の制約 yk≤2aky_k \le 2a_k は自動的に満たされます。したがって積分領域は単体 {y≥0, ∑yk<B−1}\{\boldsymbol{y} \ge 0,\ \sum y_k < B-1\} そのもので、その体積は (B−1)nn!\dfrac{(B-1)^n}{n!} です。

(3)代入。 ∏k=17(2ak)=27∏k=17ak=273⋅5⋅7⋅9⋅11⋅13⋅15=1282027025\prod_{k=1}^{7}(2a_k) = 2^7 \prod_{k=1}^{7}a_k = \dfrac{2^7}{3\cdot5\cdot7\cdot9\cdot11\cdot13\cdot15} = \dfrac{128}{2027025} なので

Pr⁡(S>1)=(982/45045)77!⋅2027025128=9827⋅2027025450457⋅5040⋅128=6879714958723010531935615849440640907310521750000.\Pr(S>1) = \frac{(982/45045)^7}{7!}\cdot\frac{2027025}{128} = \frac{982^7 \cdot 2027025}{45045^7 \cdot 5040 \cdot 128} = \frac{6879714958723010531}{935615849440640907310521750000}.

これは約 7.3531×10−127.3531 \times 10^{-12} です。

(4)結論。 求める値は

π2(1−2Pr⁡(S>1))=π2−πPr⁡(S>1)\frac{\pi}{2}\bigl(1 - 2\Pr(S>1)\bigr) = \frac{\pi}{2} - \pi\Pr(S>1)

であり、πPr⁡(S>1)=2.3100572…×10−11\pi \Pr(S>1) = 2.3100572\ldots\times 10^{-11} です。分数を通分して整理すると本文の表示になります。

注意 5.4(なぜこんなに長く持ちこたえるのか)

Bn=∑k=1n12k+1B_n = \sum_{k=1}^{n}\dfrac{1}{2k+1} は n→∞n \to \infty で発散します。実際、調和数 Hm=∑j=1m1/jH_m = \sum_{j=1}^{m}1/j を使うと

Bn=H2n+1−12Hn−1B_n = H_{2n+1} - \frac12 H_n - 1

と書けて、Hm=log⁡m+γ+O(1/m)H_m = \log m + \gamma + O(1/m)(γ\gamma はオイラー定数)から

Bn=12log⁡n+log⁡2+γ2−1+O ⁣(1n)B_n = \frac12\log n + \log 2 + \frac{\gamma}{2} - 1 + O\!\left(\frac1n\right)

となります。つまり BnB_n は log⁡\log の速さでしか増えません。だからしきい値 11 を超えるまでに 7 ステップもかかるのです。

裏返せば、BnB_n が発散する以上、しきい値がいくつであってもいつかは必ず崩れます。「π/2\pi/2 が何回も続く」ことと「いつかは崩れる」ことは、どちらも調和級数の対数発散という同じ事実の表れです(級数と収束判定 の コーシーの積分判定法(定理 5.1)[級数と収束判定] は、この log⁡\log の速さを与える道具でもあります)。有限個の数値実験から「常に π/2\pi/2 だろう」と結論するのが危険な理由が、ここに具体的な形で現れています。

6. 変奏:余弦因子を掛けるともっと長く持つ

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定理 5.1 の証明を見ると、崩れる原因は「窓の外に確率がはみ出すこと」だけでした。ならば、窓を広げてやればもっと長く持つはずです。それを実現するのが 2cos⁡x2\cos x という因子です。

命題 6.1(余弦因子を掛けた版)✓

n≥1n \ge 1、a0=1a_0 = 1 とし、a1,…,an>0a_1, \ldots, a_n > 0、B=a1+⋯+anB = a_1 + \cdots + a_n とします。S=X1+⋯+XnS = X_1 + \cdots + X_n(Xk∼U[−ak,ak]X_k \sim U[-a_k, a_k]、独立)とすると

∫0∞2cos⁡x∏k=0nsin⁡(akx)akx dx=πPr⁡(0≤S≤2).\int_0^\infty 2\cos x \prod_{k=0}^{n}\frac{\sin(a_k x)}{a_k x}\,dx = \pi\Pr\bigl(0 \le S \le 2\bigr).

特に B≤2B \le 2 ならばこの値は π2\dfrac{\pi}{2} です。

証明(命題 6.1)

被積分関数 2cos⁡x∏ksinc⁡ak(x)2\cos x\prod_{k}\operatorname{sinc}_{a_k}(x) は偶関数の積なので偶関数です。したがって ∫0∞\int_0^\infty は ∫−∞∞\int_{-\infty}^{\infty} の半分であり、定義 4.2 の Ψn\Psi_n を t=1t = 1 で読むと

∫0∞2cos⁡x∏k=0nsinc⁡ak(x) dx=12∫−∞∞2(∏k=0nsinc⁡ak(x))cos⁡(1⋅x) dx=Ψn(1).\int_0^\infty 2\cos x \prod_{k=0}^{n}\operatorname{sinc}_{a_k}(x)\,dx = \frac{1}{2}\int_{-\infty}^{\infty} 2\left(\prod_{k=0}^{n}\operatorname{sinc}_{a_k}(x)\right)\cos(1\cdot x)\,dx = \Psi_n(1).

つまり「2cos⁡x2\cos x を掛ける」ことは「Ψn\Psi_n を原点ではなく t=1t = 1 で評価する」ことに等しいのです。

系 4.5 の証明で見たとおり Ψn=2πH\Psi_n = 2\pi H、H=ha0∗GH = h_{a_0} * G、GG は SS の密度です。a0=1a_0 = 1 より h1(1−u)=12h_1(1-u) = \frac12 となるのは ∣1−u∣≤1|1-u| \le 1、すなわち 0≤u≤20 \le u \le 2 のときで、それ以外では 00 です。よって

H(1)=∫Rh1(1−u)G(u) du=12∫02G(u) du=12Pr⁡(0≤S≤2),H(1) = \int_{\mathbb{R}} h_1(1-u)G(u)\,du = \frac12\int_0^2 G(u)\,du = \frac12\Pr(0 \le S \le 2),

したがって Ψn(1)=2πH(1)=πPr⁡(0≤S≤2)\Psi_n(1) = 2\pi H(1) = \pi \Pr(0 \le S \le 2) です。

B≤2B \le 2 のときは ∣S∣≤B≤2|S| \le B \le 2 が確率 11 で成り立つので、Pr⁡(0≤S≤2)=Pr⁡(S≥0)\Pr(0 \le S \le 2) = \Pr(S \ge 0) です。SS の分布は原点対称かつ連続(n≥1n \ge 1 なので Pr⁡(S=0)=0\Pr(S = 0) = 0)だから Pr⁡(S≥0)=1/2\Pr(S \ge 0) = 1/2 となり、値は π/2\pi/2 です。

しきい値が 11 から 22 に倍増しました。注意 5.4 の BnB_n が 22 を超えるのはいつでしょうか。Bn≈12log⁡n+log⁡2+γ/2−1B_n \approx \frac12\log n + \log 2 + \gamma/2 - 1 を 22 と等置すると log⁡n≈4.04\log n \approx 4.04、つまり n≈57n \approx 57 あたりです。実際に厳密に計算すると

B55=1.9944375…≤2<B56=2.0032871…B_{55} = 1.9944375\ldots \le 2 < B_{56} = 2.0032871\ldots

なので、ak=1/(2k+1)a_k = 1/(2k+1) に対して

∫0∞2cos⁡x∏k=0nsin⁡(x/(2k+1))x/(2k+1) dx=π2\int_0^\infty 2\cos x\prod_{k=0}^{n}\frac{\sin\bigl(x/(2k+1)\bigr)}{x/(2k+1)}\,dx = \frac{\pi}{2}

は n=0,1,…,55n = 0, 1, \ldots, 55 で成り立ち、n=56n = 56(最後の因子が sin⁡(x/113)/(x/113)\sin(x/113)/(x/113)、sinc の因子は全部で 57 個)で初めて崩れます。

崩れ幅も 命題 5.3 と同じ単体の計算で求まります。B56−2=0.0032870…B_{56} - 2 = 0.0032870\ldots は 2min⁡kak=2/113=0.0177…2\min_k a_k = 2/113 = 0.0177\ldots 以下なので箱の制約は効かず、

πPr⁡(S>2)=π⋅(B56−2)5656!⋅1256∏k=156ak≈2.33×10−138\pi\Pr(S > 2) = \pi\cdot\frac{(B_{56}-2)^{56}}{56!}\cdot\frac{1}{2^{56}\prod_{k=1}^{56}a_k} \approx 2.33\times 10^{-138}

だけ π/2\pi/2 より小さくなります。倍精度どころか、通常の多倍長計算でも意識しないと見えない差です。「数値実験で 100 桁一致した」ことが証明にならない、という教訓のもっとも劇的な例のひとつだと思います。

注意 6.2(積分ではなく和にしても同じことが起きる)

積分を等間隔の和に置き換えた

∑m=−∞∞ ∏k=0nsin⁡(m/(2k+1))m/(2k+1)\sum_{m=-\infty}^{\infty}\ \prod_{k=0}^{n}\frac{\sin\bigl(m/(2k+1)\bigr)}{m/(2k+1)}

(m=0m = 0 の項は 11 と読む)についても、対応する積分と一致する範囲・一致しなくなる範囲が調べられています。R. Baillie、D. Borwein、J. M. Borwein による Monthly の論文にまとまっています。和と積分が長く一致するのは、この記事の議論をポアソン和公式と組み合わせると説明できます。

演習 7.1易

∫0∞sin⁡2xx2 dx\displaystyle\int_0^\infty \frac{\sin^2 x}{x^2}\,dx を、(a) 系 4.5 を使う方法と、(b) 部分積分して 定理 3.2 に帰着させる方法の 2 通りで求めてください。

解答

(a) sin⁡2xx2=sinc⁡1(x)⋅sinc⁡1(x)\dfrac{\sin^2x}{x^2} = \operatorname{sinc}_1(x)\cdot\operatorname{sinc}_1(x) なので a0=a1=1a_0 = a_1 = 1、n=1n = 1 の場合です。S=X1S = X_1 は [−1,1][-1,1] 上の一様分布なので Pr⁡(∣S∣≤1)=1\Pr(|S| \le 1) = 1、よって

∫0∞sin⁡2xx2dx=π2⋅1⋅1=π2.\int_0^\infty \frac{\sin^2x}{x^2}dx = \frac{\pi}{2\cdot 1}\cdot 1 = \frac{\pi}{2}.

B=a1=1=a0B = a_1 = 1 = a_0 でちょうど境界(等号成立)なので、定理 5.1 の条件 B≤a0B \le a_0 は満たされています。

(b) 0<δ<R0 < \delta < R 上で u=sin⁡2xu = \sin^2 x、dv=x−2dxdv = x^{-2}dx(v=−1/xv = -1/x)として部分積分すると

∫δRsin⁡2xx2dx=[−sin⁡2xx]δR+∫δR2sin⁡xcos⁡xxdx=sin⁡2δδ−sin⁡2RR+∫δRsin⁡2xxdx.\int_\delta^R \frac{\sin^2x}{x^2}dx = \left[-\frac{\sin^2x}{x}\right]_\delta^R + \int_\delta^R \frac{2\sin x\cos x}{x}dx = \frac{\sin^2\delta}{\delta} - \frac{\sin^2 R}{R} + \int_\delta^R\frac{\sin 2x}{x}dx .

δ→0+\delta \to 0^{+} で sin⁡2δδ=δ(sin⁡δδ)2→0\dfrac{\sin^2\delta}{\delta} = \delta\left(\dfrac{\sin\delta}{\delta}\right)^2 \to 0、R→∞R \to \infty で sin⁡2RR→0\dfrac{\sin^2R}{R} \to 0 です。残る積分は u=2xu = 2x と置換して

∫0∞sin⁡2xxdx=∫0∞sin⁡uudu=π2\int_0^\infty \frac{\sin 2x}{x}dx = \int_0^\infty\frac{\sin u}{u}du = \frac{\pi}{2}

(定理 3.2)。よって値は π/2\pi/2 で、(a) と一致します。

演習 7.2標準

∫0∞sin⁡xx⋅(sin⁡(2x/3)2x/3)2dx\int_0^\infty \frac{\sin x}{x}\cdot\left(\frac{\sin(2x/3)}{2x/3}\right)^2 dx

の値を厳密に求めてください。π/2\pi/2 になりますか。

解答

a0=1a_0 = 1、a1=a2=2/3a_1 = a_2 = 2/3、n=2n = 2 です。B=a1+a2=4/3>1=a0B = a_1 + a_2 = 4/3 > 1 = a_0 なので、定理 5.1 より値は π/2\pi/2 より真に小さくなります。厳密値を 命題 5.3 の証明と同じ手順で求めます。

S=X1+X2S = X_1 + X_2(Xk∼U[−2/3,2/3]X_k \sim U[-2/3, 2/3])とし、Pr⁡(S>1)\Pr(S > 1) を計算します。yk=ak−xk∈[0,4/3]y_k = a_k - x_k \in [0, 4/3] と置くと、x1+x2>1x_1 + x_2 > 1 は y1+y2<B−1=1/3y_1 + y_2 < B - 1 = 1/3 と同値です。B−1=1/3B - 1 = 1/3 は 2min⁡kak=4/32\min_k a_k = 4/3 以下なので上限の制約は効かず、領域は直角二等辺三角形 {y1,y2≥0, y1+y2<1/3}\{y_1, y_2 \ge 0,\ y_1 + y_2 < 1/3\} で、その面積は (1/3)22!=118\dfrac{(1/3)^2}{2!} = \dfrac{1}{18} です。全体の体積は ∏k(2ak)=(4/3)2=16/9\prod_k (2a_k) = (4/3)^2 = 16/9 なので

Pr⁡(S>1)=1/1816/9=9288=132.\Pr(S > 1) = \frac{1/18}{16/9} = \frac{9}{288} = \frac{1}{32}.

対称性から Pr⁡(∣S∣≤1)=1−2⋅132=1516\Pr(|S| \le 1) = 1 - 2\cdot\dfrac{1}{32} = \dfrac{15}{16} で、系 4.5 より

∫0∞sin⁡xx(sin⁡(2x/3)2x/3)2dx=π2⋅1516=15π32=1.4726215563…\int_0^\infty \frac{\sin x}{x}\left(\frac{\sin(2x/3)}{2x/3}\right)^2 dx = \frac{\pi}{2}\cdot\frac{15}{16} = \frac{15\pi}{32} = 1.4726215563\ldots

となり、π/2=1.5707963268…\pi/2 = 1.5707963268\ldots より明らかに小さい値です。因子を「太く」すると、崩れ幅は 10−1110^{-11} のような微差ではなく、はっきり見える差になります。

演習 7.3標準

Bn=∑k=1n12k+1B_n = \displaystyle\sum_{k=1}^{n}\frac{1}{2k+1} について、調和数 Hm=∑j=1m1jH_m = \sum_{j=1}^{m}\dfrac1j を使った表示

Bn=H2n+1−12Hn−1B_n = H_{2n+1} - \frac12 H_n - 1

を示し、Bn→∞B_n \to \infty を結論してください。さらに、これを使って「どんな a0>0a_0 > 0 を取っても、ak=1/(2k+1)a_k = 1/(2k+1) の積を十分たくさん掛ければ 定理 5.1 の等号は必ず破れる」ことを説明してください。

解答

11 から 2n+12n+1 までの逆数の和 H2n+1H_{2n+1} を、偶数の項と奇数の項に分けます。偶数の項は j=2kj = 2k(k=1,…,nk = 1, \ldots, n)で

∑k=1n12k=12Hn\sum_{k=1}^{n}\frac{1}{2k} = \frac12 H_n

です。奇数の項は j=1,3,5,…,2n+1j = 1, 3, 5, \ldots, 2n+1 なので

∑k=0n12k+1=H2n+1−12Hn.\sum_{k=0}^{n}\frac{1}{2k+1} = H_{2n+1} - \frac12 H_n .

左辺から k=0k = 0 の項 11 を引けば Bn=H2n+1−12Hn−1B_n = H_{2n+1} - \frac12 H_n - 1 です。

発散を見るには Hm=log⁡m+γ+O(1/m)H_m = \log m + \gamma + O(1/m) を使います。

Bn=(log⁡(2n+1)+γ)−12(log⁡n+γ)−1+O ⁣(1n)=12log⁡n+log⁡2+γ2−1+O ⁣(1n)B_n = \bigl(\log(2n+1) + \gamma\bigr) - \frac12\bigl(\log n + \gamma\bigr) - 1 + O\!\left(\frac1n\right) = \frac12\log n + \log 2 + \frac{\gamma}{2} - 1 + O\!\left(\frac1n\right)

であり、12log⁡n→∞\frac12\log n \to \infty なので Bn→∞B_n \to \infty です。(log⁡\log の漸近公式を使わなくても、Bn≥12∑k=1n1k+1B_n \ge \frac12\sum_{k=1}^{n}\frac{1}{k+1} から調和級数の発散に帰着させても構いません。12k+1≥12k+2=12⋅1k+1\frac{1}{2k+1} \ge \frac{1}{2k+2} = \frac12\cdot\frac{1}{k+1} です。)

したがって、どんな a0>0a_0 > 0 に対しても Bn>a0B_n > a_0 となる nn が存在します。その nn 以降では 定理 5.1 の条件 B≤a0B \le a_0 が破れ、積分の値は π/(2a0)\pi/(2a_0) より真に小さくなります。a0a_0 を大きくすれば「持ちこたえる回数」は増えますが、BnB_n の増え方が 12log⁡n\frac12\log n なので、その回数は a0a_0 について指数的に増えます。a0=1a_0 = 1 で 7 回、a0=2a_0 = 2(2cos⁡x2\cos x 版)で 56 回、というのがまさにその現象です。

演習 7.4難

定理 5.1 の証明の(2)では「GG は (−B,B)(-B,B) 上で正」を断面の体積で示しました。これを、nn についての帰納法で示し直してください。すなわち、Gn=ha1∗⋯∗hanG_n = h_{a_1} * \cdots * h_{a_n}、B(n)=a1+⋯+anB_{(n)} = a_1 + \cdots + a_n と置いたとき、GnG_n は連続(n≥2n \ge 2)で、(−B(n),B(n))(-B_{(n)}, B_{(n)}) 上で正であることを示してください。

解答

n=1n = 1。 G1=ha1G_1 = h_{a_1} は (−a1,a1)(-a_1, a_1) 上で値 12a1>0\dfrac{1}{2a_1} > 0 です(連続性は主張していません)。

帰納段階。 GnG_{n} が (−B(n),B(n))(-B_{(n)}, B_{(n)}) 上で正、その外で 00 と仮定します。定義 4.1 より

Gn+1(t)=(Gn∗han+1)(t)=12an+1∫t−an+1t+an+1Gn(u) du.G_{n+1}(t) = (G_n * h_{a_{n+1}})(t) = \frac{1}{2a_{n+1}}\int_{t-a_{n+1}}^{t+a_{n+1}} G_n(u)\,du .

まず連続性です。GnG_n は有界(G1G_1 は 1/(2a1)1/(2a_1) で抑えられ、移動平均は最大値を増やしません)かつ可積分なので、t↦∫t−at+aGnt \mapsto \int_{t-a}^{t+a}G_n は tt の連続関数です。実際、∣t−t′∣<η|t - t'| < \eta なら 2 つの積分区間の差は長さ 2η2\eta 以下の集合上の積分なので、差は ∥Gn∥∞⋅2η⋅12an+1\|G_n\|_\infty \cdot 2\eta \cdot \dfrac{1}{2a_{n+1}} 以下で、η→0\eta \to 0 とすれば 00 になります。よって Gn+1G_{n+1} は連続です(n+1≥2n + 1 \ge 2)。

次に正値性です。B(n+1)=B(n)+an+1B_{(n+1)} = B_{(n)} + a_{n+1} と置きます。∣t∣<B(n+1)|t| < B_{(n+1)} とし、対称性から 0≤t<B(n+1)0 \le t < B_{(n+1)} としてよいです。区間 J=(t−an+1, t+an+1)J = (t - a_{n+1},\ t + a_{n+1}) と区間 (−B(n),B(n))(-B_{(n)}, B_{(n)}) が交わることを言えば十分です(交わればそこで Gn>0G_n > 0、しかも交わりは開区間なので正の長さを持ち、積分は正になります)。

2 つの開区間が交わらないのは、t−an+1≥B(n)t - a_{n+1} \ge B_{(n)} または t+an+1≤−B(n)t + a_{n+1} \le -B_{(n)} のときです。前者は t≥B(n)+an+1=B(n+1)t \ge B_{(n)} + a_{n+1} = B_{(n+1)} を意味し、仮定 t<B(n+1)t < B_{(n+1)} に反します。後者は t≤−B(n+1)<0t \le -B_{(n+1)} < 0 で、t≥0t \ge 0 に反します。よって交わり、Gn+1(t)>0G_{n+1}(t) > 0 です。

∣t∣≥B(n+1)|t| \ge B_{(n+1)} では、区間 JJ と (−B(n),B(n))(-B_{(n)},B_{(n)}) は(内部で)交わらないので Gn+1(t)=0G_{n+1}(t) = 0 です。以上で帰納法が完成します。

これで 定理 5.1 の(4)、すなわち B>a0B > a_0 のとき ∫a0BG>0\int_{a_0}^{B}G > 0 が、断面の体積の議論を使わずに示せました。

  • David Borwein and Jonathan M. Borwein, “Some remarkable properties of sinc and related integrals”, The Ramanujan Journal 5 (2001), 73–89. — ボールウェイン積分の原論文。一般の aka_k に対する閉じた表示も与えられています。
  • Robert Baillie, David Borwein and Jonathan M. Borwein, “Surprising sinc sums and integrals”, The American Mathematical Monthly 115 (2008), 888–901. — 注意 6.2 で触れた和の版。
  • Hanspeter Schmid, “Two curious integrals and a graphic proof”, Elemente der Mathematik 69 (2014), 11–17. — この記事の §4 と同じ「窓を移動平均でぼかす」図解による説明。
  • Elias M. Stein and Rami Shakarchi, Fourier Analysis: An Introduction, Princeton University Press, 2003 — 第 5 章(R\mathbb{R} 上のフーリエ変換)。畳み込みと反転公式の標準的な扱い。
  • Jonathan M. Borwein, David H. Bailey and Roland Girgensohn, Experimentation in Mathematics: Computational Paths to Discovery, A K Peters, 2004. — 数値実験から予想を立てるときの落とし穴として、この積分列が取り上げられています。
  • 杉浦光夫『解析入門 I』東京大学出版会、1980 — 広義積分、パラメータを含む積分の一様収束と微分積分の順序交換。補題 3.1 と 定理 3.2 の背景。

定理 4.4 の証明で、R→∞R \to \infty の極限を積分の中に入れる操作を Appendix に回しました。ここを埋めます。

(あ)正弦積分の一様な上界。 Si(X)=∫0Xsin⁡vv dv\mathrm{Si}(X) = \displaystyle\int_0^X \frac{\sin v}{v}\,dv と置きます。主張は

0≤Si(X)≤Si(π)=1.85193705…(X≥0)0 \le \mathrm{Si}(X) \le \mathrm{Si}(\pi) = 1.85193705\ldots \qquad (X \ge 0)

です。証明はこうです。Si′(X)=sin⁡XX\mathrm{Si}'(X) = \dfrac{\sin X}{X} は X∈(2mπ,(2m+1)π)X \in (2m\pi, (2m+1)\pi) で正、X∈((2m+1)π,(2m+2)π)X \in ((2m+1)\pi, (2m+2)\pi) で負なので、Si\mathrm{Si} は [mπ,(m+1)π][m\pi, (m+1)\pi] ごとに単調で、極大は X=(2m+1)πX = (2m+1)\pi、極小は X=2mπX = 2m\pi で起こります。区間ごとの増減の大きさは

cm=∣∫mπ(m+1)πsin⁡vvdv∣=∫0πsin⁡ww+mπ dwc_m = \left|\int_{m\pi}^{(m+1)\pi}\frac{\sin v}{v}dv\right| = \int_0^{\pi}\frac{\sin w}{w + m\pi}\,dw

(v=w+mπv = w + m\pi と置換)で、被積分関数が mm について単調減少なので c0>c1>c2>⋯>0c_0 > c_1 > c_2 > \cdots > 0 かつ cm→0c_m \to 0 です。したがって極大値の列 Si(π)>Si(3π)>⋯\mathrm{Si}(\pi) > \mathrm{Si}(3\pi) > \cdots は減少、極小値の列 Si(0)<Si(2π)<⋯\mathrm{Si}(0) < \mathrm{Si}(2\pi) < \cdots は増加します(ライプニッツの交項級数判定法(定理 7.3)[級数と収束判定] と同じ構造です)。ゆえに全体の最大は Si(π)\mathrm{Si}(\pi)、最小は Si(0)=0\mathrm{Si}(0) = 0 です。

(い)ΦR\Phi_R の一様有界性。 定理 4.4 の証明で使った ΦR(u)=∫−RRP(x)cos⁡(ux) dx\Phi_R(u) = \displaystyle\int_{-R}^{R}P(x)\cos(ux)\,dx、P=∏k=0n−1sinc⁡akP = \prod_{k=0}^{n-1}\operatorname{sinc}_{a_k} について、R≥0R \ge 0 と u∈Ru \in \mathbb{R} に依らない上界を作ります。

n−1≥1n - 1 \ge 1 のとき。すべての a>0a>0 と x≠0x \ne 0 で ∣sinc⁡a(x)∣≤min⁡(1,1a∣x∣)|\operatorname{sinc}_a(x)| \le \min\left(1, \dfrac{1}{a|x|}\right) なので、因子が 2 個以上あることから ∣P(x)∣≤min⁡(1,1a0a1x2)|P(x)| \le \min\left(1, \dfrac{1}{a_0a_1x^2}\right) となり、PP は R\mathbb{R} 上可積分です。∣cos⁡∣≤1|\cos| \le 1 より

∣ΦR(u)∣≤∫R∣P(x)∣ dx=:C<∞.|\Phi_R(u)| \le \int_{\mathbb{R}}|P(x)|\,dx =: C < \infty .

n−1=0n - 1 = 0 のとき。P=sinc⁡a0P = \operatorname{sinc}_{a_0} は可積分ではないので、補題 4.3 の計算をそのまま使います。積和の公式から

ΦR(u)=1a0[∫0Rsin⁡((a0+u)x)xdx+∫0Rsin⁡((a0−u)x)xdx]\Phi_R(u) = \frac{1}{a_0}\left[\int_0^{R}\frac{\sin\bigl((a_0+u)x\bigr)}{x}dx + \int_0^{R}\frac{\sin\bigl((a_0-u)x\bigr)}{x}dx\right]

であり、c≠0c \ne 0 に対して ∫0Rsin⁡(cx)xdx=sgn(c) Si(∣c∣R)\displaystyle\int_0^{R}\frac{\sin(cx)}{x}dx = \mathrm{sgn}(c)\,\mathrm{Si}(|c|R)、c=0c = 0 なら 00 です。(あ)より各項の絶対値は Si(π)\mathrm{Si}(\pi) 以下なので

∣ΦR(u)∣≤2 Si(π)a0<3.71a0=:C.|\Phi_R(u)| \le \frac{2\,\mathrm{Si}(\pi)}{a_0} < \frac{3.71}{a_0} =: C .

いずれの場合も CC は RR にも uu にも依りません。よって有限区間 [0,an][0, a_n] 上で定数関数 2C2C が優関数となり、有界収束定理から

lim⁡R→∞∫0an[ΦR(t+s)+ΦR(t−s)]ds=∫0an[Ψn−1(t+s)+Ψn−1(t−s)]ds\lim_{R\to\infty}\int_0^{a_n}\bigl[\Phi_R(t+s) + \Phi_R(t-s)\bigr]ds = \int_0^{a_n}\bigl[\Psi_{n-1}(t+s) + \Psi_{n-1}(t-s)\bigr]ds

が正当化されます。なお ΦR(u)→Ψn−1(u)\Phi_R(u) \to \Psi_{n-1}(u) の収束は u=±a0u = \pm a_0 の近くでは一様ではありません(補題 4.3 の不連続点で、いわゆるギブス現象が起きます)。一様収束が使えないからこそ、一様有界性と有界収束定理が必要でした。

このテーマの 100 本ノック(50 問)

執筆: Claude Code(Sonnet 5.5)・監査 3 回(Claude Code)・最終 2026-10-12

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