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相転移と平均場理論:ファン・デル・ワールス、ランダウ、イジング模型

対象読者: 本テーマ第 1〜5 章の熱力学と統計力学(自由エネルギー・分配関数・グランドカノニカル集団)を学び、学部 1 年の微積分と行列の固有値を使える人。相転移は未習で構いません。

前提となる記事:カノニカル集団:ボルツマン因子と分配関数から熱力学を組み立てる、自由エネルギーと熱力学ポテンシャル:ルジャンドル変換で「制御できる変数」に乗り換える、グランドカノニカル集団:粒子数を手放して化学ポテンシャルを握る

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水が沸騰するときや、磁石が熱で磁石でなくなるときのように、物質の性質は温度のわずかな変化で急に変わることがあります。この記事は、そうした変化がなぜ起きるのか、またその起き方が物質の細部によらず共通になるのはなぜかを、簡単な模型で調べます。読み終えると、気体と液体が共存する条件や、磁石が磁化を失う温度を、式から自分で導けるようになります。

  • 相転移は、自由エネルギーの特異性(非解析性。なめらかな関数ではなく、どこかで折れたり跳んだりすること)として現れます。ファン・デル・ワールス(vdW)方程式の等温線は低温で S 字形になり、そのままでは熱力学的に不安定な領域を含みます。実際の平衡状態は、自由エネルギーの凸包(共通接線。グラフを下から包む、へこみのない形)で与えられ、それはマクスウェルの等面積則と同値です。
  • vdW 方程式は臨界点 Tc=8a/(27bkB)T_c=8a/(27bk_{\mathrm B})、vc=3bv_c=3b をもち、換算変数で書くと物質によらない対応状態の法則になります。臨界点近くの振る舞いは、秩序変数の 4 次式で書けるランダウ理論の指数 β=1/2\beta=1/2、γ=1\gamma=1、δ=3\delta=3 で決まります。
  • イジング模型の平均場近似は、ギブスの変分原理(カノニカル分布は自由エネルギー汎関数の最小点)から、積測度を試行関数にすることで導けます。自己無撞着方程式 m=tanh⁡(β(Jzm+h))m=\tanh\bigl(\beta(Jzm+h)\bigr) の解の構造が、Tc=Jz/kBT_c=Jz/k_{\mathrm B} での自発磁化の出現を与えます。
  • 1 次元イジング模型は転送行列で厳密に解けて、有限温度では自発磁化が出ません。平均場近似は 1 次元では誤った予言をします。揺らぎの効果は次元が低いほど大きいのです。
  • 臨界指数は物質の細部によらず、空間次元と対称性だけで決まる普遍性を示します。平均場の指数はその 1 つの普遍性類の一般化にすぎず、実測値とは一般に一致しません。

1. 動機:自由エネルギーの「折れ」としての相転移

Section titled “1. 動機:自由エネルギーの「折れ」としての相転移”

水は 100 ∘C100\,^\circ\mathrm{C} で沸騰し、鉄は 770 ∘C770\,^\circ\mathrm{C} で磁石でなくなります。温度や圧力などの外部パラメータを少し変えただけで、物質の性質が不連続に、あるいは急激に変わる現象を相転移といいます。

カノニカル集団では、系の熱力学量はすべて分配関数 ZZ から出ることを示しました。一方で Z=∑ie−βEiZ=\sum_ie^{-\beta E_i} は有限個の項の和で、有限系では温度 β\beta の解析関数です。したがって、有限系は相転移を起こしません。相転移は、粒子数を無限にする熱力学的極限をとって初めて現れる現象です(格子スピン系で、この極限が存在して境界条件によらないことは 熱力学的極限 の 圧力の存在(定理 3.1)[熱力学的極限] と 境界条件によらないこと(命題 3.2)[熱力学的極限] として証明されています。そこでの圧力 PP は、本記事の自由エネルギー ff と f=−kBTPf=-k_{\mathrm B}TP の関係にあります。数学側では逆温度を相互作用に吸収しています)。

では、どんな機構が相転移をもたらすのか。この記事は、それに答える最も基本的な 3 つの理論を、証明を添えて示します。

  1. 気体と液体の転移をとらえる vdW 理論(§3)。
  2. 対称性の自発的破れをとらえる、より一般的なランダウ理論(§4)。
  3. 磁性体の最も簡単な模型であるイジング模型の平均場近似(§5)と、それが破綻する 1 次元の厳密解(§6)。

最後に §7 で、これらが予言する臨界指数と実験値を比べ、普遍性という考え方に触れます。熱力学的極限の存在や、無限系の確率測度(ギブス測度)としての相転移の数学的な扱いは、数学の側の「ギブス測度と相転移」の議論に属し、この記事の範囲外です。


ボルツマン定数を kBk_{\mathrm B}、逆温度を β=1/(kBT)\beta=1/(k_{\mathrm B}T) と書きます。1 粒子あたりの量を小文字で表し、v=V/Nv=V/N を 1 粒子あたりの体積、f=F/Nf=F/N を 1 粒子あたりのヘルムホルツ自由エネルギーとします。

熱力学の平衡状態は、定理 5.1[自由エネルギーと熱力学ポテンシャル] により、温度と体積が一定のもとでヘルムホルツ自由エネルギー FF が最小の状態です。系を 2 つの部分に分けて、それぞれの体積を変えても FF が下がらないという条件は、f(v)f(v) が vv について凸であること、すなわち

∂2f∂v2=−∂p∂v≥0\frac{\partial^2f}{\partial v^2}=-\frac{\partial p}{\partial v}\ge0

と同値です(p=−∂f/∂vp=-\partial f/\partial v)。これは等温圧縮率 κT=−1v∂v∂p≥0\kappa_T=-\frac1v\frac{\partial v}{\partial p}\ge0 にほかなりません。また、グランドカノニカル集団での粒子数の分散が ⟨ΔN2⟩≥0\langle\Delta N^2\rangle\ge0 であることから(命題 5.1[グランドカノニカル集団])、この条件を統計力学の側から見ることもできます。


3. ファン・デル・ワールス方程式とマクスウェルの等面積則

Section titled “3. ファン・デル・ワールス方程式とマクスウェルの等面積則”

理想気体 pv=kBTpv=k_{\mathrm B}T を、2 つの補正で改良します。分子は有限の大きさをもつので、自由に動ける体積は vv から bb だけ減ります。分子間には遠距離で引力がはたらき、圧力を a/v2a/v^2 だけ減らします(壁に衝突する分子が内部の分子に引かれる効果で、密度の 2 乗に比例します)。

定義 3.1(ファン・デル・ワールス方程式)↗

正の定数 a,ba,b に対し、

p(v,T)=kBTv−b−av2(v>b)p(v,T)=\frac{k_{\mathrm B}T}{v-b}-\frac{a}{v^2}\qquad(v>b)

をファン・デル・ワールス方程式という。

定理 3.2(vdW 方程式の等温線の形と臨界点)✓

Tc=8a27bkBT_c=\dfrac{8a}{27bk_{\mathrm B}}、vc=3bv_c=3b、pc=a27b2p_c=\dfrac{a}{27b^2} とおく。

(i) T>TcT>T_c では ∂p/∂v<0\partial p/\partial v<0 がすべての v>bv>b で成り立つ。

(ii) T=TcT=T_c では ∂p/∂v≤0\partial p/\partial v\le0 で、等号は v=vcv=v_c のみ、vcv_c で ∂2p/∂v2=0\partial^2p/\partial v^2=0 である。

(iii) T<TcT<T_c では ∂p/∂v=0\partial p/\partial v=0 がちょうど 2 つの解 v1<vc<v2v_1<v_c<v_2 をもち、pp は (b,v1)(b,v_1) で減少、(v1,v2)(v_1,v_2) で増加、(v2,∞)(v_2,\infty) で減少する。

換算変数 p~=p/pc\tilde p=p/p_c、v~=v/vc\tilde v=v/v_c、T~=T/Tc\tilde T=T/T_c を使うと、方程式は物質の定数 a,ba,b を含まない

p~=8T~3v~−1−3v~2\tilde p=\frac{8\tilde T}{3\tilde v-1}-\frac{3}{\tilde v^2}

の形になる(対応状態の法則)。

証明(定理 3.2)

∂p∂v=−kBT(v−b)2+2av3\dfrac{\partial p}{\partial v}=-\dfrac{k_{\mathrm B}T}{(v-b)^2}+\dfrac{2a}{v^3} なので、∂p/∂v=0\partial p/\partial v=0 は kBT=2a h(v)k_{\mathrm B}T=2a\,h(v)、h(v)=(v−b)2v3h(v)=\dfrac{(v-b)^2}{v^3} と同値です。h′(v)=(v−b)(3b−v)v4h'(v)=\dfrac{(v-b)(3b-v)}{v^4} なので、hh は (b,3b)(b,3b) で増加し 3b3b で最大値 h(3b)=427bh(3b)=\dfrac{4}{27b} をとり、(3b,∞)(3b,\infty) で減少します(h(b)=0h(b)=0、h(∞)=0h(\infty)=0)。したがって kBT>2a⋅427b=kBTck_{\mathrm B}T>2a\cdot\frac{4}{27b}=k_{\mathrm B}T_c では kBT=2ah(v)k_{\mathrm B}T=2ah(v) に解がなく、∂p/∂v<0\partial p/\partial v<0(v→bv\to b で −∞-\infty なので符号が確定)です。T=TcT=T_c では解は v=3bv=3b だけ、T<TcT<T_c では hh の増加部分と減少部分で 1 つずつ、計 2 つの解 v1<3b<v2v_1<3b<v_2 をもちます。符号の変化は hh の増減から従います。臨界点では ∂2p/∂v2=2kBT(v−b)3−6av4\partial^2p/\partial v^2=\dfrac{2k_{\mathrm B}T}{(v-b)^3}-\dfrac{6a}{v^4} が v=3bv=3b、kBT=8a27bk_{\mathrm B}T=\frac{8a}{27b} で 2⋅8a27b⋅8b3−6a81b4=2a27b4−2a27b4=0\frac{2\cdot8a}{27b\cdot8b^3}-\frac{6a}{81b^4}=\frac{2a}{27b^4}-\frac{2a}{27b^4}=0 です。pc=p(3b,Tc)=8a27b⋅2b−a9b2=4a27b2−3a27b2=a27b2p_c=p(3b,T_c)=\frac{8a}{27b\cdot2b}-\frac{a}{9b^2}=\frac{4a}{27b^2}-\frac{3a}{27b^2}=\frac{a}{27b^2}。換算変数による書き換えは、kBT=8a27bT~k_{\mathrm B}T=\frac{8a}{27b}\tilde T、v=3bv~v=3b\tilde v を方程式に代入すると p=8aT~27b2(3v~−1)−a9b2v~2p=\frac{8a\tilde T}{27b^2(3\tilde v-1)}-\frac{a}{9b^2\tilde v^2} となり、両辺を pc=a/(27b2)p_c=a/(27b^2) で割れば得られます。

臨界点での pcvc/(kBTc)=(a/27b2)(3b)8a/27b=38=0.375p_cv_c/(k_{\mathrm B}T_c)=\dfrac{(a/27b^2)(3b)}{8a/27b}=\dfrac38=0.375 は、a,ba,b によらない普遍的な値です。実在の気体では 0.270.27〜0.310.31 程度で、vdW 理論は定性的に正しく、定量的にはずれます。

この節のねらいは、S 字形の等温線が表す「あり得ない状態」を取り除き、実際の平衡状態(気体と液体が混ざって共存する状態)を決めることです。自由エネルギー f(v)f(v) のグラフで、へこんだ(凹の)部分を飛び越えて 2 点に接する直線を引くと、その直線が実際の自由エネルギーになります。この直線を共通接線といい、凸包とはグラフを下から包むこの形のことです。以下の定理は、その接線が引けることと、圧力 p∗p^* の水平線と等温線が囲む 2 つの面積が等しいこと(等面積則)が同じことを言っています。節の最後に図があります。

定理 3.3(マクスウェルの等面積則)✓

T<TcT<T_c とし、f(v)f(v) を vdW 方程式に対応する 1 粒子あたりのヘルムホルツ自由エネルギー(p=−∂f/∂vp=-\partial f/\partial v を満たすもの、定数部分は任意)とする。このとき、

(i) ff は (b,v1](b,v_1] と [v2,∞)[v_2,\infty) で凸、[v1,v2][v_1,v_2] で凹である。

(ii) 圧力 p∗∈(p−,p+)p^*\in(p_-,p_+)、p−=max⁡{p(v1),0}p_-=\max\{p(v_1),0\}、p+=p(v2)p_+=p(v_2) に対し、p(v)=p∗p(v)=p^* の最小の解を vlv_l、最大の解を vgv_g とし、A(p∗)=∫vlvg(p(v)−p∗) dvA(p^*)=\int_{v_l}^{v_g}(p(v)-p^*)\,dv とおく。このとき A(p∗)=0A(p^*)=0 となる p∗p^* がただ一つ存在する。

(iii) その p∗p^* について、ff のグラフに 2 点 (vl,f(vl))(v_l,f(v_l))、(vg,f(vg))(v_g,f(v_g)) で接する直線 L(v)L(v) があり、すべての v>bv>b で f(v)≥L(v)f(v)\ge L(v) である。したがって ff の凸包は、[vl,vg][v_l,v_g] で LL、その外で ff そのものである。

証明(定理 3.3)

(i) f′′=−∂p/∂vf''=-\partial p/\partial v で、符号は 定理 3.2 (iii) から従います。

(ii) p∗∈(p−,p+)p^*\in(p_-,p_+) のとき、pp は (b,v1)(b,v_1) で +∞+\infty から p(v1)p(v_1) まで減少、(v1,v2)(v_1,v_2) で p(v1)p(v_1) から p(v2)p(v_2) まで増加、(v2,∞)(v_2,\infty) で p(v2)p(v_2) から 00 まで減少する(v→∞v\to\infty で p→0+p\to0^+)ので、p(v)=p∗p(v)=p^* は 3 つの解 vl<vm<vgv_l<v_m<v_g をもちます。p′(vl),p′(vg)<0p'(v_l),p'(v_g)<0 なので陰関数定理により vl(p∗),vg(p∗)v_l(p^*),v_g(p^*) は p∗p^* について微分可能で、A(p∗)A(p^*) の被積分関数は両端で 00 なので、dAdp∗=−(vg−vl)<0\dfrac{dA}{dp^*}=-(v_g-v_l)<0 です。AA は狭義単調減少です。p−=p(v1)≥0p_-=p(v_1)\ge0 の場合、p∗→p(v1)p^*\to p(v_1) のとき vl,vm→v1v_l,v_m\to v_1 で、A→∫v1vg(p−p(v1)) dv>0A\to\int_{v_1}^{v_g}(p-p(v_1))\,dv>0((v1,vg)(v_1,v_g) で p>p(v1)p>p(v_1))です。p−=0p_-=0 の場合は p∗→0+p^*\to0^+ で vg→∞v_g\to\infty となり、A≥∫vlvgp dv−p∗vgA\ge\int_{v_l}^{v_g}p\,dv-p^*v_g のうち ∫p dv∼kBTln⁡vg→∞\int p\,dv\sim k_{\mathrm B}T\ln v_g\to\infty、p∗vg→kBTp^*v_g\to k_{\mathrm B}T(有限)なので A→+∞A\to+\infty です。他方 p∗→p(v2)p^*\to p(v_2) のとき vm,vg→v2v_m,v_g\to v_2 で A→∫vlv2(p−p(v2)) dv<0A\to\int_{v_l}^{v_2}(p-p(v_2))\,dv<0 です((vl,v2)(v_l,v_2) で p<p(v2)p<p(v_2))。連続性と単調性から、A=0A=0 となる p∗p^* はただ一つです。

(iii) L(v)=f(vl)−p∗(v−vl)L(v)=f(v_l)-p^*(v-v_l) とおくと、L′=−p∗=f′(vl)=f′(vg)L'=-p^*=f'(v_l)=f'(v_g) で、vlv_l で接します。vgv_g でも接することは f(vg)=L(vg)f(v_g)=L(v_g)、すなわち f(vg)−f(vl)=−p∗(vg−vl)f(v_g)-f(v_l)=-p^*(v_g-v_l) と同値です。f′=−pf'=-p より f(vg)−f(vl)=−∫vlvgp dvf(v_g)-f(v_l)=-\int_{v_l}^{v_g}p\,dv なので、これは ∫vlvg(p−p∗)dv=0\int_{v_l}^{v_g}(p-p^*)dv=0、つまり A(p∗)=0A(p^*)=0 と同値です。そこで p∗p^* を (ii) で選ぶと両点で接します。次に f≥Lf\ge L を示します。(f−L)′=−p+p∗(f-L)'=-p+p^* で、v<vlv<v_l では p>p∗p>p^* より減少して vlv_l で 00 に達するので f−L>0f-L>0。vl<v<vmv_l<v<v_m では p<p∗p<p^* で増加、vm<v<vgv_m<v<v_g では p>p∗p>p^* で減少し、両端 vl,vgv_l,v_g で 00 なので f−L>0f-L>0。v>vgv>v_g では p<p∗p<p^* で増加するので f−L>0f-L>0 です。よって LL は ff の下から 2 点で接する支持直線で、凸包は主張のとおりです。

(iii) の意味は次のとおりです。全体の体積 V=NvV=Nv が vl<v<vgv_l<v<v_g に対応するとき、密度 1/vl1/v_l の液相と 1/vg1/v_g の気相に分かれた混合状態の自由エネルギーは、2 相の割合 x,1−xx,1-x(xvl+(1−x)vg=vxv_l+(1-x)v_g=v)で平均した xf(vl)+(1−x)f(vg)=L(v)xf(v_l)+(1-x)f(v_g)=L(v) です(界面のエネルギーは熱力学的極限では無視できます)。この値は f(v)f(v) より低いので、vdW の f(v)f(v) が表す一様な状態よりも二相共存の方が安定で、平衡状態は二相共存です。共存圧力が p∗p^* で、2 相の化学ポテンシャルは接線の切片 f(vl)+p∗vl=f(vg)+p∗vgf(v_l)+p^*v_l=f(v_g)+p^*v_g で等しくなります(命題 6.1[グランドカノニカル集団] の条件)。

vpv_lv_gp*不安定な部分(∂p/∂v > 0)
vdW 等温線(T = 0.85 T_c)。p* の水平線と等温線が囲む 2 つの領域(v_l から中間の交点まで下側、中間から v_g まで上側)の面積が等しい。

注意 3.4

p∗p^* より少し高い圧力(vlv_l から v1v_1 の間)で液体のまま、少し低い圧力で気体のまま保たれる状態を過熱液体・過冷却蒸気(準安定状態)といいます。∂p/∂v<0\partial p/\partial v<0 で局所的には安定だが、共通接線より自由エネルギーが高く、核形成によって二相に分かれます。区間 (v1,v2)(v_1,v_2) の内側(スピノーダル領域)は κT<0\kappa_T<0 で、局所的にも不安定です。

T~=1+t\tilde T=1+t、v~=1+ω\tilde v=1+\omega とおき、臨界点近傍で換算方程式を展開します。8(1+t)2+3ω=4(1+t)(1−32ω+94ω2−278ω3+⋯ )\dfrac{8(1+t)}{2+3\omega}=4(1+t)\Bigl(1-\tfrac32\omega+\tfrac94\omega^2-\tfrac{27}{8}\omega^3+\cdots\Bigr)、3(1+ω)2=3(1−2ω+3ω2−4ω3+⋯ )\dfrac{3}{(1+\omega)^2}=3(1-2\omega+3\omega^2-4\omega^3+\cdots) から

p~=1+4t−6tω+9tω2−32ω3+O(tω3,ω4)\tilde p=1+4t-6t\omega+9t\omega^2-\frac32\omega^3+O(t\omega^3,\omega^4)

です。

命題 3.5(vdW 理論の臨界指数)✓

(i)(臨界等温線)t=0t=0 で p~−1=−32ω3+O(ω4)\tilde p-1=-\frac32\omega^3+O(\omega^4)、すなわち ∣p~−1∣∝∣v~−1∣3|\tilde p-1|\propto|\tilde v-1|^3。

(ii)(圧縮率)臨界密度 v~=1\tilde v=1 で、t>0t>0 のとき等温圧縮率は κT∝t−1\kappa_T\propto t^{-1} である。正確には (∂p~/∂v~)T~,v~=1=−6t\bigl(\partial\tilde p/\partial\tilde v\bigr)_{\tilde T,\tilde v=1}=-6t。

(iii)(共存曲線)t<0t<0 で気相と液相の体積差は、主要項で v~g−v~l≃4(−t)1/2\tilde v_g-\tilde v_l\simeq4(-t)^{1/2} である。

証明(命題 3.5)

(i) 展開式に t=0t=0 を代入します。(ii) ∂p~/∂v~=−24T~(3v~−1)2+6v~3\partial\tilde p/\partial\tilde v=-\dfrac{24\tilde T}{(3\tilde v-1)^2}+\dfrac{6}{\tilde v^3} に v~=1\tilde v=1 を代入すると −6T~+6=−6t-6\tilde T+6=-6t です。(iii) 共存では p~∗\tilde p^* の水平線と等温線の交点が ωl<0<ωg\omega_l<0<\omega_g で、∣t∣|t| が小さいとき交点は O(∣t∣1/2)O(|t|^{1/2}) にあります。展開式で、−6tω−32ω3-6t\omega-\frac32\omega^3 は O(∣t∣3/2)O(|t|^{3/2})、9tω29t\omega^2 は O(t2)O(t^2) であり、後者は高次です。主要項では右辺が ω\omega の奇関数 −6tω−32ω3-6t\omega-\frac32\omega^3 に定数 4t+1−p~∗4t+1-\tilde p^* を加えたものになるので、定理 3.3 (ii) の等面積条件は定数が 00 のとき満たされます(奇関数の [−ω0,ω0][-\omega_0,\omega_0] での積分は 00)。このとき交点は −6tω−32ω3=0-6t\omega-\frac32\omega^3=0 の解 ω=±2(−t)1/2\omega=\pm2(-t)^{1/2} で、体積差は 4(−t)1/24(-t)^{1/2} です。

(iii) は高次の補正の見積りを省いた主要項の議論です。それでも結論は、補正を厳密に扱っても変わりません。β=1/2\beta=1/2、γ=1\gamma=1、δ=3\delta=3 が vdW 理論の臨界指数で、次節のランダウ理論や §5 の平均場イジング模型でも同じ値が現れます(これらを古典的または平均場の臨界指数といいます)。


vdW 理論を、状況に依存しない一般的な形に抽象化したのがランダウ理論です。系の状態を秩序変数 mm(磁性体では磁化、気液転移では密度のずれ)で特徴づけ、mm を固定したときの自由エネルギー ψ(m;T,h)\psi(m;T,h) が、mm について解析的であると仮定します。対称性(m→−mm\to-m で h→−hh\to-h)があるとき、mm が小さい領域で

ψ(m;T,h)=ψ0(T)+a(T) m2+b m4−hm,a(T)=a0(T−Tc),a0>0, b>0\psi(m;T,h)=\psi_0(T)+a(T)\,m^2+b\,m^4-hm,\qquad a(T)=a_0(T-T_c),\quad a_0>0,\ b>0

と置けます。hh は秩序変数に共役な外場(磁場)です。平衡状態は ψ\psi を最小にする mm です。

定理 4.1(ランダウ理論の臨界指数)✓

上の ψ\psi について、次が成り立つ。

(i) h=0h=0、T>TcT>T_c では最小点は m=0m=0 のみ。T<TcT<T_c では最小点は m=±m0m=\pm m_0、m0=a0(Tc−T)2bm_0=\sqrt{\dfrac{a_0(T_c-T)}{2b}} の 2 つで、m=0m=0 は極大点である。

(ii) h=0h=0 での自由エネルギーは f(T)=ψ0(T)f(T)=\psi_0(T)(T>TcT>T_c)、f(T)=ψ0(T)−a02(T−Tc)24bf(T)=\psi_0(T)-\dfrac{a_0^2(T-T_c)^2}{4b}(T<TcT<T_c)。比熱 c=−Tf′′(T)c=-Tf''(T) は TcT_c で Δc=a02Tc2b\Delta c=\dfrac{a_0^2T_c}{2b} だけ不連続に跳ぶ。

(iii) 磁化率 χ=∂m/∂h∣h→0\chi=\partial m/\partial h|_{h\to0} は、T>TcT>T_c で 12a0(T−Tc)\dfrac{1}{2a_0(T-T_c)}、T<TcT<T_c で 14a0(Tc−T)\dfrac{1}{4a_0(T_c-T)}。

(iv) T=TcT=T_c の臨界等温線は h=4bm3h=4bm^3。

したがって臨界指数は β=12\beta=\frac12(m0∝(Tc−T)1/2m_0\propto(T_c-T)^{1/2})、α=0\alpha=0(比熱の跳び)、γ=γ′=1\gamma=\gamma'=1、δ=3\delta=3 である。

証明(定理 4.1)

(i) ∂ψ/∂m=2am+4bm3−h=0\partial\psi/\partial m=2am+4bm^3-h=0。h=0h=0 では m(2a+4bm2)=0m(2a+4bm^2)=0 です。a>0a>0 なら実解は m=0m=0 のみで、∂2ψ/∂m2=2a>0\partial^2\psi/\partial m^2=2a>0 から最小点です。a<0a<0 なら m=0m=0 と m2=−a/(2b)m^2=-a/(2b) があり、∂2ψ/∂m2=2a+12bm2\partial^2\psi/\partial m^2=2a+12bm^2 は m=0m=0 で 2a<02a<0(極大)、m2=−a/(2b)m^2=-a/(2b) で 2a−6a=−4a>02a-6a=-4a>0(極小)です。m→±∞m\to\pm\infty で ψ→+∞\psi\to+\infty なので、極小点が大域的最小点です。

(ii) a<0a<0 で ψ(±m0)−ψ0=am02+bm04=−a22b+a24b=−a24b\psi(\pm m_0)-\psi_0=am_0^2+bm_0^4=-\dfrac{a^2}{2b}+\dfrac{a^2}{4b}=-\dfrac{a^2}{4b} です。a=a0(T−Tc)a=a_0(T-T_c) を代入し、f′′=ψ0′′−a022bf''=\psi_0''-\dfrac{a_0^2}{2b} から c=−Tf′′=−Tψ0′′+a02T2bc=-Tf''=-T\psi_0''+\dfrac{a_0^2T}{2b} で、TcT_c の下側と上側の差が Δc\Delta c です。

(iii) 極値条件 2am+4bm3=h2am+4bm^3=h を hh で微分すると (2a+12bm2)∂m∂h=1(2a+12bm^2)\dfrac{\partial m}{\partial h}=1 です。T>TcT>T_c(m=0m=0)では χ=1/(2a)\chi=1/(2a)、T<TcT<T_c(m2=−a/(2b)m^2=-a/(2b))では 2a+12bm2=−4a=4∣a∣2a+12bm^2=-4a=4|a| から χ=1/(4∣a∣)\chi=1/(4|a|) です。

(iv) a=0a=0 のとき 4bm3=h4bm^3=h です。

TcT_c の下側と上側で χ\chi の係数が 2 倍違う(T>TcT>T_c の χ=1/(2a)\chi=1/(2a) に対し T<TcT<T_c では 1/(4∣a∣)1/(4|a|))のは、秩序相では最小点の曲がり方が 2 倍急だからです。

第一種の転移。 3 次の項 cm3cm^3 が対称性で禁止されていないとき、ψ=ψ0+am2+cm3+bm4\psi=\psi_0+am^2+cm^3+bm^4 は異なる振る舞いを示します。m=0m=0 と m=m0≠0m=m_0\ne0 が同時に最小点になる(二相共存)条件は ψ−ψ0=bm2(m−m0)2\psi-\psi_0=bm^2(m-m_0)^2 と書けることで、展開して係数を比べると c=−2bm0c=-2bm_0、a=bm02=c2/(4b)a=bm_0^2=c^2/(4b) です。このとき秩序変数は m0=−c/(2b)m_0=-c/(2b) だけ不連続に跳び、転移は第一種(一次相転移)になります。vdW 理論の気液共存は、密度のずれを秩序変数とすればこの型です。臨界点(c=0c=0 かつ a=0a=0)でだけ連続(第二種)になります。


定義 5.1(イジング模型)↗

NN 個の格子点(各点に隣接点が zz 個ある周期的な格子)に σi=±1\sigma_i=\pm1 のスピンを置き、ハミルトニアンを

H(σ)=−J∑⟨ij⟩σiσj−h∑iσiH(\sigma)=-J\sum_{\langle ij\rangle}\sigma_i\sigma_j-h\sum_i\sigma_i

とする。和 ⟨ij⟩\langle ij\rangle は隣接する対を 1 回ずつ数える(対の総数は zN/2zN/2)。J>0J>0 は強磁性的な相互作用、hh は外部磁場である。

厳密な分配関数 Z=∑σe−βH(σ)Z=\sum_\sigma e^{-\beta H(\sigma)} を計算するのは一般に困難です。そこで、近似を変分原理として導きます。

命題 5.2(ギブスの変分原理)✓

スピン配置の任意の確率分布 PP に対し、自由エネルギー汎関数 F[P]=⟨H⟩P−kBT S[P]\mathcal F[P]=\langle H\rangle_P-k_{\mathrm B}T\,S[P]、S[P]=−∑σP(σ)ln⁡P(σ)S[P]=-\sum_\sigma P(\sigma)\ln P(\sigma) は、真の自由エネルギー F=−kBTln⁡ZF=-k_{\mathrm B}T\ln Z 以上であり、等号はカノニカル分布 P=e−βH/ZP=e^{-\beta H}/Z のときに限って成り立つ。

証明(命題 5.2)

これは 命題 4.4[カノニカル集団] (カノニカル分布の変分的特徴付け)にほかなりません。直接確かめると、Pβ=e−βH/ZP_\beta=e^{-\beta H}/Z に対して F[P]−F=kBT∑σPln⁡(P/Pβ)≥0\mathcal F[P]-F=k_{\mathrm B}T\sum_\sigma P\ln(P/P_\beta)\ge0(相対エントロピーの非負性)で、等号は P=PβP=P_\beta のときに限ります。

ここでの方針は、厳密な分布を求める代わりに、扱いやすい形の分布だけを候補にして、その中で自由エネルギー汎関数が最小になるものを選ぶことです。上の命題より、どの候補を選んでも真の値以上になるので、最小化した値は真の値に最も近い上界になります。

試行関数として、各スピンが独立に平均 mm をもつ積分布 P(σ)=∏i1+mσi2P(\sigma)=\prod_i\frac{1+m\sigma_i}{2} を選びます。このとき ⟨σi⟩=m\langle\sigma_i\rangle=m、⟨σiσj⟩=m2\langle\sigma_i\sigma_j\rangle=m^2(i≠ji\ne j)で、エントロピーは 1 スピンあたり −1+m2ln⁡1+m2−1−m2ln⁡1−m2-\frac{1+m}{2}\ln\frac{1+m}{2}-\frac{1-m}{2}\ln\frac{1-m}{2} です。1 スピンあたりの上界

φ(m)=−Jz2m2−hm+kBT[1+m2ln⁡1+m2+1−m2ln⁡1−m2] ≥ FN\varphi(m)=-\frac{Jz}{2}m^2-hm+k_{\mathrm B}T\Bigl[\frac{1+m}{2}\ln\frac{1+m}{2}+\frac{1-m}{2}\ln\frac{1-m}{2}\Bigr]\ \ge\ \frac FN

が 命題 5.2 から得られます。この上界を mm について最小化したものを平均場自由エネルギーとします。

5.2. 自己無撞着方程式と自発磁化

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定理 5.3(平均場イジング模型の自発磁化)✓

K=Jz/(kBT)=Tc/TK=Jz/(k_{\mathrm B}T)=T_c/T(Tc:=Jz/kBT_c:=Jz/k_{\mathrm B})とする。

(i) φ′(m)=0\varphi'(m)=0 は 自己無撞着方程式 m=tanh⁡(Km+βh)m=\tanh\bigl(Km+\beta h\bigr) と同値である。

(ii) h=0h=0 のとき、K≤1K\le1(T≥TcT\ge T_c)では解は m=0m=0 のみで φ\varphi の最小点。K>1K>1(T<TcT<T_c)では m=0m=0 のほかにちょうど 2 つの解 ±m∗≠0\pm m_*\ne0 があり、±m∗\pm m_* が最小点、m=0m=0 は極大点である。

(iii) T→Tc−T\to T_c^- で m∗≃3(1−T/Tc)m_*\simeq\sqrt{3(1-T/T_c)}、すなわち β=12\beta=\frac12。

証明(定理 5.3)

(i) ddm[1+m2ln⁡1+m2+1−m2ln⁡1−m2]=12ln⁡1+m1−m=artanh⁡m\dfrac{d}{dm}\Bigl[\frac{1+m}{2}\ln\frac{1+m}{2}+\frac{1-m}{2}\ln\frac{1-m}{2}\Bigr]=\frac12\ln\frac{1+m}{1-m}=\operatorname{artanh}m なので φ′(m)=kBT[artanh⁡m−Km−βh]\varphi'(m)=k_{\mathrm B}T\bigl[\operatorname{artanh}m-Km-\beta h\bigr] で、φ′=0  ⟺  m=tanh⁡(Km+βh)\varphi'=0\iff m=\tanh(Km+\beta h) です。

(ii) h=0h=0 とします。g(m)=tanh⁡(Km)−mg(m)=\tanh(Km)-m(m≥0m\ge0)は g(0)=0g(0)=0、g′(0)=K−1g'(0)=K-1、m>0m>0 で g′′=−2K2tanh⁡(Km)sech⁡2(Km)<0g''=-2K^2\tanh(Km)\operatorname{sech}^2(Km)<0(gg は凹)です。K≤1K\le1 なら g′(0)≤0g'(0)\le0 で凹なので g′<0g'<0(m>0m>0)、したがって g<0g<0 となり正の解はありません。K>1K>1 なら g>0g>0(mm が小さいとき)で凹、g(1)=tanh⁡K−1<0g(1)=\tanh K-1<0 だから (0,1)(0,1) にちょうど 1 つ零点 m∗m_* があります。符号は φ′=kBT[artanh⁡m−Km]\varphi'=k_{\mathrm B}T\bigl[\operatorname{artanh}m-Km\bigr] で、0<m<10<m<1 では artanh⁡m−Km>0  ⟺  m>tanh⁡(Km)  ⟺  g(m)<0\operatorname{artanh}m-Km>0\iff m>\tanh(Km)\iff g(m)<0 なので、φ′\varphi' の符号は gg の符号の逆です。よって K≤1K\le1 では φ′>0\varphi'>0(m>0m>0)、K>1K>1 では 0<m<m∗0<m<m_* で φ′<0\varphi'<0、m>m∗m>m_* で φ′>0\varphi'>0 と変わります。φ\varphi は偶関数なので主張を得ます。

(iii) m=tanh⁡(Km)=Km−(Km)33+O(m5)m=\tanh(Km)=Km-\frac{(Km)^3}{3}+O(m^5) を m≠0m\ne0 で割ると 1=K−K3m23+O(m4)1=K-\dfrac{K^3m^2}{3}+O(m^4)、m2≃3(K−1)/K3≃3(Tc−T)/Tcm^2\simeq3(K-1)/K^3\simeq3(T_c-T)/T_c です。

KK を 0.4 から 2 まで大きくする(温度を下げる)と、直線 y=my=m と曲線 y=tanh⁡(Km)y=\tanh(Km) の交点が K=1K=1 を境に 1 個から 3 個に増えます。

K を 0.4 から 2 まで増やしながら、y=m と y=tanh(Km) の交点を示す動画。K が 1 以下では交点は原点のみ、K が 1 を超えると正負の 2 つの交点が現れ、右図ではその解が K=1 でピッチフォーク型に分岐する。
自己無撞着方程式 m = tanh(Km)(h = 0)の解。K = T_c/T を増やすと、K = 1 で原点の解から ±m_* の 2 つが分岐する(右図が解の分岐)。

他の臨界指数。 φ(m)\varphi(m) を h=0h=0 で mm のべきに展開すると、1+m2ln⁡1+m2+1−m2ln⁡1−m2=−ln⁡2+∑k≥1m2k2k(2k−1)\frac{1+m}{2}\ln\frac{1+m}{2}+\frac{1-m}{2}\ln\frac{1-m}{2}=-\ln2+\sum_{k\ge1}\frac{m^{2k}}{2k(2k-1)} より

φ(m)=−kBTln⁡2+kB2(T−Tc)m2+kBT12m4+O(m6)\varphi(m)=-k_{\mathrm B}T\ln2+\frac{k_{\mathrm B}}{2}(T-T_c)m^2+\frac{k_{\mathrm B}T}{12}m^4+O(m^6)

で、これは 定理 4.1 の ψ\psi で a0=kB/2a_0=k_{\mathrm B}/2、b=kBTc/12b=k_{\mathrm B}T_c/12 とした形です。つまり平均場イジング模型は、ランダウ理論を具体的な模型から導出したものになっています。したがって γ=γ′=1\gamma=\gamma'=1、δ=3\delta=3 で、比熱の跳びは Δc=a02Tc2b=kB2Tc/4kBTc/6=32kB\Delta c=\dfrac{a_0^2T_c}{2b}=\dfrac{k_{\mathrm B}^2T_c/4}{k_{\mathrm B}T_c/6}=\dfrac32k_{\mathrm B} です。磁化率は 定理 5.3 (i) を hh で微分して χ=β1−m21−K(1−m2)\chi=\beta\dfrac{1-m^2}{1-K(1-m^2)} と書け、T>TcT>T_c で χ=1kB(T−Tc)\chi=\dfrac{1}{k_{\mathrm B}(T-T_c)} (キュリー・ワイスの法則)です。

注意 5.4

平均場近似は、各スピンが「他のスピンの平均が作る場」だけを感じると仮定します。この仮定は、隣接点の数 zz が大きいほど(1 つのスピンが多数の隣と相互作用するほど)よくなります。実際、TcMF=Jz/kBT_c^{\mathrm{MF}}=Jz/k_{\mathrm B} の値は、正方格子(z=4z=4)で 4J/kB4J/k_{\mathrm B} ですが、厳密解は 2J/(kBln⁡(1+2))≈2.27J/kB2J/(k_{\mathrm B}\ln(1+\sqrt2))\approx2.27J/k_{\mathrm B} で、約 1.8 倍の過大評価です。1 次元では次節のとおり転移そのものがなく、平均場は定性的にも誤ります。


平均場の予言が信用できるかどうかを、厳密に解ける唯一の自明でない場合である 1 次元で確かめます。

鎖状の模型では、エネルギーが隣り合う 2 つのスピンの組の和で書けるので、分配関数が 2 行 2 列の行列を NN 回かけた形にまとまります。以下はその仕掛けです。行列の積では、途中の添字が 1 つずつ ±1\pm1 で足し上げられますが、これが各スピンについての和にそのまま対応します。

NN 個のスピンを環状に並べ(σN+1=σ1\sigma_{N+1}=\sigma_1)、ハミルトニアン H=−J∑i=1Nσiσi+1−h∑i=1NσiH=-J\sum_{i=1}^N\sigma_i\sigma_{i+1}-h\sum_{i=1}^N\sigma_i を考えます。βH\beta H の磁場の項を隣り合う 2 つのスピンに半分ずつ分けて書くと、

e−βH=∏i=1NT(σi,σi+1),T(σ,σ′)=exp⁡[βJσσ′+βh2(σ+σ′)]e^{-\beta H}=\prod_{i=1}^NT(\sigma_i,\sigma_{i+1}),\qquad T(\sigma,\sigma')=\exp\Bigl[\beta J\sigma\sigma'+\frac{\beta h}{2}(\sigma+\sigma')\Bigr]

となります。TT を 2×22\times2 の行列と見て(行と列の添字は σ,σ′=±1\sigma,\sigma'=\pm1)、転送行列といいます。

T=(eβJ+βhe−βJe−βJeβJ−βh).T=\begin{pmatrix}e^{\beta J+\beta h}&e^{-\beta J}\\e^{-\beta J}&e^{\beta J-\beta h}\end{pmatrix}.

定理 6.1(1 次元イジング模型の自由エネルギーと磁化)✓

(i) ZN=Tr TN=λ+N+λ−NZ_N=\mathrm{Tr}\,T^N=\lambda_+^N+\lambda_-^N で、TT の固有値は

λ±=eβJcosh⁡βh±e2βJsinh⁡2βh+e−2βJ,λ+>λ−>0.\lambda_\pm=e^{\beta J}\cosh\beta h\pm\sqrt{e^{2\beta J}\sinh^2\beta h+e^{-2\beta J}},\qquad\lambda_+>\lambda_->0.

(ii) 熱力学的極限 N→∞N\to\infty で、1 スピンあたりの自由エネルギーは f(T,h)=−kBTln⁡λ+f(T,h)=-k_{\mathrm B}T\ln\lambda_+、磁化は

m(T,h)=−∂f∂h=sinh⁡βhsinh⁡2βh+e−4βJm(T,h)=-\frac{\partial f}{\partial h}=\frac{\sinh\beta h}{\sqrt{\sinh^2\beta h+e^{-4\beta J}}}

である。

(iii) T>0T>0 では lim⁡h→0m(T,h)=0\lim_{h\to0}m(T,h)=0、すなわち自発磁化は存在しない。f(T,h)f(T,h) は T>0T>0 のすべての hh で解析的で、相転移はない。

証明(定理 6.1)

(i) ZN=∑σ1,…,σNT(σ1,σ2)T(σ2,σ3)⋯T(σN,σ1)=Tr TNZ_N=\sum_{\sigma_1,\dots,\sigma_N}T(\sigma_1,\sigma_2)T(\sigma_2,\sigma_3)\cdots T(\sigma_N,\sigma_1)=\mathrm{Tr}\,T^N(行列の積の定義そのもの)です。TT は 2 次の実対称行列なので 2 つの実固有値 λ±\lambda_\pm をもち、Tr TN=λ+N+λ−N\mathrm{Tr}\,T^N=\lambda_+^N+\lambda_-^N。固有方程式は、Tr T=2eβJcosh⁡βh\mathrm{Tr}\,T=2e^{\beta J}\cosh\beta h、det⁡T=e2βJ−e−2βJ\det T=e^{2\beta J}-e^{-2\beta J} から λ2−2eβJcosh⁡βh λ+(e2βJ−e−2βJ)=0\lambda^2-2e^{\beta J}\cosh\beta h\,\lambda+(e^{2\beta J}-e^{-2\beta J})=0 で、解の公式の判別式の 4 分の 1 は e2βJcosh⁡2βh−e2βJ+e−2βJ=e2βJsinh⁡2βh+e−2βJ>0e^{2\beta J}\cosh^2\beta h-e^{2\beta J}+e^{-2\beta J}=e^{2\beta J}\sinh^2\beta h+e^{-2\beta J}>0 です。λ+λ−=det⁡T>0\lambda_+\lambda_-=\det T>0 より λ−>0\lambda_->0 です。

(ii) ln⁡ZN=Nln⁡λ++ln⁡[1+(λ−/λ+)N]\ln Z_N=N\ln\lambda_++\ln\bigl[1+(\lambda_-/\lambda_+)^N\bigr] で、0<λ−/λ+<10<\lambda_-/\lambda_+<1 なので第 2 項は N→∞N\to\infty で 00 に収束します。よって f=−lim⁡kBTNln⁡ZN=−kBTln⁡λ+f=-\lim\frac{k_{\mathrm B}T}{N}\ln Z_N=-k_{\mathrm B}T\ln\lambda_+。x=βhx=\beta h と書くと λ+=eβJ[cosh⁡x+sinh⁡2x+e−4βJ]\lambda_+=e^{\beta J}\bigl[\cosh x+\sqrt{\sinh^2x+e^{-4\beta J}}\bigr] で、m=−∂f/∂h=ddxln⁡λ+=sinh⁡x+sinh⁡xcosh⁡x/⋅cosh⁡x+⋅=sinh⁡x⋅m=-\partial f/\partial h=\dfrac{d}{dx}\ln\lambda_+=\dfrac{\sinh x+\sinh x\cosh x/\sqrt{\cdot}}{\cosh x+\sqrt{\cdot}}=\dfrac{\sinh x}{\sqrt{\cdot}} (⋅=sinh⁡2x+e−4βJ\sqrt\cdot=\sqrt{\sinh^2x+e^{-4\beta J}})です。

(iii) mm の式で x→0x\to0 のとき分子 →0\to0、分母 →e−2βJ>0\to e^{-2\beta J}>0 なので m→0m\to0 です。λ+\lambda_+ の中の平方根の中身は T>0T>0 で正(e−2βJ>0e^{-2\beta J}>0)なので、ff は (T,h)(T,h) について解析的です。

定理 6.2(1 次元イジング模型の相関関数)✓

h=0h=0 で N→∞N\to\infty の極限をとると、距離 rr だけ離れたスピンの相関は

⟨σ0σr⟩=(tanh⁡βJ)r=e−r/ξ,ξ=−1ln⁡tanh⁡βJ\langle\sigma_0\sigma_r\rangle=\bigl(\tanh\beta J\bigr)^r=e^{-r/\xi},\qquad\xi=-\frac{1}{\ln\tanh\beta J}

である。相関長は T→0T\to0 で ξ≃12e2J/(kBT)→∞\xi\simeq\frac12e^{2J/(k_{\mathrm B}T)}\to\infty と発散し、h=0h=0 の磁化率は χ=β∑r∈Z⟨σ0σr⟩=βe2βJ\chi=\beta\sum_{r\in\mathbb{Z}}\langle\sigma_0\sigma_r\rangle=\beta e^{2\beta J} である。

証明(定理 6.2)

h=0h=0 では T=eβJ(1e−2βJe−2βJ1)T=e^{\beta J}\begin{pmatrix}1&e^{-2\beta J}\\e^{-2\beta J}&1\end{pmatrix} で、固有ベクトルは ψ±=(1,±1)/2\psi_\pm=(1,\pm1)/\sqrt2、固有値は λ+=2cosh⁡βJ\lambda_+=2\cosh\beta J、λ−=2sinh⁡βJ\lambda_-=2\sinh\beta J です。S=diag(1,−1)S=\mathrm{diag}(1,-1) は σ\sigma を対角成分に持つ行列で、Sψ±=ψ∓S\psi_\pm=\psi_\mp です。⟨σ0σr⟩=Tr(S Tr S TN−r)/Tr TN\langle\sigma_0\sigma_r\rangle=\mathrm{Tr}\bigl(S\,T^r\,S\,T^{N-r}\bigr)/\mathrm{Tr}\,T^N を TT の固有基底で計算すると、Tr(STrSTN−r)=∑a,b=±λarλbN−r∣⟨ψa∣S∣ψb⟩∣2=λ+rλ−N−r+λ−rλ+N−r\mathrm{Tr}(ST^rST^{N-r})=\sum_{a,b=\pm}\lambda_a^r\lambda_b^{N-r}|\langle\psi_a|S|\psi_b\rangle|^2=\lambda_+^r\lambda_-^{N-r}+\lambda_-^r\lambda_+^{N-r}(a≠ba\ne b の項のみ)です。Tr TN=λ+N+λ−N\mathrm{Tr}\,T^N=\lambda_+^N+\lambda_-^N で割って N→∞N\to\infty とすると (λ−/λ+)r=tanh⁡rβJ(\lambda_-/\lambda_+)^r=\tanh^r\beta J です。T→0T\to0 では tanh⁡βJ=1−2e−2βJ+O(e−4βJ)\tanh\beta J=1-2e^{-2\beta J}+O(e^{-4\beta J})、ln⁡tanh⁡βJ≃−2e−2βJ\ln\tanh\beta J\simeq-2e^{-2\beta J} から ξ≃12e2βJ\xi\simeq\frac12e^{2\beta J}。磁化率は ∑r∈Ztanh⁡∣r∣βJ=1+2tanh⁡βJ1−tanh⁡βJ=1+tanh⁡βJ1−tanh⁡βJ=e2βJ\sum_{r\in\mathbb Z}\tanh^{|r|}\beta J=1+\frac{2\tanh\beta J}{1-\tanh\beta J}=\frac{1+\tanh\beta J}{1-\tanh\beta J}=e^{2\beta J} です(最後の等号は tanh⁡x=e2x−1e2x+1\tanh x=\frac{e^{2x}-1}{e^{2x}+1} から)。

T→0T\to0 で ξ\xi と χ\chi は発散しますが、べき乗則(ξ∼T−ν\xi\sim T^{-\nu})ではなく指数関数的です。これは T=0T=0 が臨界点で、そこでだけ秩序が現れることを意味します。有限温度の相転移は起きません。

注意 6.3

有限温度で秩序が壊れる理由は、ドメインウォール(スピンの向きが変わる場所)のエネルギーとエントロピーの比較で理解できます。すべて上向きの基底状態に 1 つだけ壁を入れると、エネルギーが 2J2J 上がりますが、壁の位置の選び方が NN 通りあるのでエントロピーが kBln⁡Nk_{\mathrm B}\ln N 増え、自由エネルギーの変化は ΔF=2J−kBTln⁡N\Delta F=2J-k_{\mathrm B}T\ln N です。NN が大きいと有限温度で必ず ΔF<0\Delta F<0 となり、壁が自発的に生じて秩序を壊します。2 次元以上では壁は線や面で、エネルギーが系の大きさとともに増える(周の長さに比例)ので、エントロピーに勝って秩序が保たれます。この議論を数学的に厳密にしたものがパイエルスの議論で、2 次元以上のイジング模型に自発磁化が存在することの証明になります。

平均場近似(§5)は 1 次元(z=2z=2)でも Tc=2J/kBT_c=2J/k_{\mathrm B} という有限温度の転移を予言してしまいました。実際には相転移はありません。平均場近似は、揺らぎ(スピンが平均値からずれること)を無視しているために、揺らぎが大きい低次元で破綻します。


臨界点の近くで、熱力学量は ∣t∣=∣T−Tc∣/Tc|t|=|T-T_c|/T_c のべきで特異になります。この指数を臨界指数といいます。

定義 7.1(臨界指数)↗

t=(T−Tc)/Tct=(T-T_c)/T_c と記し、h→0h\to0 で次のように振る舞うとき、指数を次で定める。

量振る舞い指数
比熱c∼∣t∣−αc\sim\lvert t\rvert^{-\alpha}α\alpha(T<TcT<T_c では α′\alpha')
秩序変数(自発磁化)m∼(−t)βm\sim(-t)^\beta(t<0t<0)β\beta
磁化率χ∼∣t∣−γ\chi\sim\lvert t\rvert^{-\gamma}γ\gamma(T<TcT<T_c では γ′\gamma')
臨界等温線∣m∣∼h1/δ\lvert m\rvert\sim h^{1/\delta}(t=0t=0)δ\delta
相関長ξ∼∣t∣−ν\xi\sim\lvert t\rvert^{-\nu}ν\nu

命題 7.2(平均場の臨界指数)✓

vdW 理論、ランダウ理論、平均場イジング模型はいずれも、α=0\alpha=0(比熱の有限の跳び)、β=12\beta=\frac12、γ=γ′=1\gamma=\gamma'=1、δ=3\delta=3 を与える。これらは次の等式を満たす。

α+2β+γ=2 (ラッシュブルックの等式),γ=β(δ−1) (ウィダムの等式).\alpha+2\beta+\gamma=2\ \text{(ラッシュブルックの等式)},\qquad\gamma=\beta(\delta-1)\ \text{(ウィダムの等式)}.
証明(命題 7.2)

vdW 理論は 命題 3.5、ランダウ理論は 定理 4.1、平均場イジング模型は 定理 5.3 とその後の議論に示しました。等式は代入すればよく、0+2⋅12+1=20+2\cdot\frac12+1=2、12⋅(3−1)=1\frac12\cdot(3-1)=1 です。

臨界指数の間には、熱力学だけから導ける不等式があります。

定理 7.3(ラッシュブルックの不等式)✓

磁性体の熱力学量が ch∼∣t∣−α′c_h\sim|t|^{-\alpha'}、M∼∣t∣βM\sim|t|^{\beta}、χT∼∣t∣−γ′\chi_T\sim|t|^{-\gamma'}(t→0−t\to0^-)とべき乗則に従うとき、

α′+2β+γ′≥2\alpha'+2\beta+\gamma'\ge2

が成り立つ。

証明(定理 7.3)

磁性体の熱力学では、自由エネルギー G(T,h)G(T,h) の全微分が dG=−S dT−M dhdG=-S\,dT-M\,dh です。ここで SS はエントロピー、MM は全磁化です。マクスウェルの関係式(定理 6.1[自由エネルギーと熱力学ポテンシャル] と同じ導出)から (∂S/∂h)T=(∂M/∂T)h(\partial S/\partial h)_T=(\partial M/\partial T)_h です。SS を (T,M)(T,M) の関数と見ると、連鎖律で

(∂S∂T)M=(∂S∂T)h+(∂S∂h)T(∂h∂T)M,(∂h∂T)M=−(∂M/∂T)h(∂M/∂h)T\Bigl(\frac{\partial S}{\partial T}\Bigr)_M=\Bigl(\frac{\partial S}{\partial T}\Bigr)_h+\Bigl(\frac{\partial S}{\partial h}\Bigr)_T\Bigl(\frac{\partial h}{\partial T}\Bigr)_M,\qquad\Bigl(\frac{\partial h}{\partial T}\Bigr)_M=-\frac{(\partial M/\partial T)_h}{(\partial M/\partial h)_T}

です。Ch=T(∂S/∂T)hC_h=T(\partial S/\partial T)_h、CM=T(∂S/∂T)MC_M=T(\partial S/\partial T)_M、χT=(∂M/∂h)T\chi_T=(\partial M/\partial h)_T と書くと

Ch−CM=T (∂M/∂T)h2χT.C_h-C_M=T\,\frac{\bigl(\partial M/\partial T\bigr)_h^2}{\chi_T}.

CM≥0C_M\ge0(熱力学的安定性)なので ChχT≥T(∂M/∂T)h2C_h\chi_T\ge T(\partial M/\partial T)_h^2 です。h→0h\to0、t→0−t\to0^- で左辺は ∣t∣−α′−γ′|t|^{-\alpha'-\gamma'}、右辺は (∣t∣β−1)2=∣t∣2β−2\bigl(|t|^{\beta-1}\bigr)^2=|t|^{2\beta-2} のオーダーなので、t→0−t\to0^- で左辺が右辺以上であるためには −α′−γ′≤2β−2-\alpha'-\gamma'\le2\beta-2、すなわち α′+2β+γ′≥2\alpha'+2\beta+\gamma'\ge2 が必要です。

平均場理論ではこの不等式が等号で成り立ち(命題 7.2)、臨界現象の理論(スケーリング理論、くりこみ群)では一般に等号が成り立つとされています。

平均場の指数と、他の方法で得られる値を比べます。

α\alphaβ\betaγ\gammaδ\deltaν\nu
平均場(古典)00(跳び)0.50.511330.50.5
2 次元イジング(オンサガーの厳密解)00(対数発散)1/81/87/47/4151511
3 次元イジング(数値計算)≈0.11\approx0.11≈0.326\approx0.326≈1.237\approx1.237≈4.79\approx4.79≈0.630\approx0.630
気液臨界点・二成分混合液(実験)≈0.11\approx0.11≈0.33\approx0.33≈1.24\approx1.24≈4.8\approx4.8≈0.63\approx0.63

平均場の値は、2 次元・3 次元ではっきり実験値から外れます。その原因は、臨界点近傍で相関長が発散して、ゆらぎが全スケールで重要になることです。平均場近似は、それを無視しています。

表で注目すべきは、実験値が 3 次元イジング模型の値に一致することです。気体・液体の臨界点にはイジング模型のような格子もスピンもありません。それでも、スケール変換(くりこみ群)で見たとき、同じ数の次元(d=3d=3)、同じ対称性(Z2\mathbb{Z}_2)をもつ系は、微視的な詳細によらず同じ臨界指数を与えることが、実験と数値計算で確かめられています。これを普遍性といい、臨界指数が dd と秩序変数の対称性だけで決まることを意味します。

注意 7.4

普遍性の理論的な説明はウィルソンのくりこみ群にあり、本記事では扱いません。また、平均場の指数が正しくなるのは空間次元 d≥4d\ge4(上部臨界次元)のときで、d<4d<4 では補正が必要なことがこの理論から分かります。d=2d=2 のイジング模型の厳密値はオンサガー(1944 年)の厳密解から得られ、d=3d=3 の値は数値計算(モンテカルロ法やブートストラップ法)の結果です。いずれも本記事では証明せずに引用しています。

相転移を、無限系の確率測度(ギブス測度)の言葉で厳密に定式化する試みは、熱力学的極限の存在の証明から始まる数学の側の議論にまとめられます。この記事で示した 1 次元の厳密解や、平均場の臨界指数は、その議論が目標とする物理的な実体です。たとえば §6 の m=−∂f/∂hm=-\partial f/\partial h という磁化の定義は、無限系では自由エネルギー(圧力)の外場による微分として 外場についての微分と磁化(系 3.4)[熱力学的極限] で厳密化されています。イジング模型の相互作用としての定式化は 例 2.2[熱力学的極限] を参照してください。


演習 8.1易

vdW 気体の臨界点における圧縮因子 Zc=pcvc/(kBTc)Z_c=p_cv_c/(k_{\mathrm B}T_c) を求めよ。

解答

定理 3.2 より pc=a/(27b2)p_c=a/(27b^2)、vc=3bv_c=3b、kBTc=8a/(27b)k_{\mathrm B}T_c=8a/(27b) なので Zc=a27b2⋅3b⋅27b8a=38=0.375Z_c=\dfrac{a}{27b^2}\cdot3b\cdot\dfrac{27b}{8a}=\dfrac38=0.375 です。物質によらない値で、実在気体の測定値(0.270.27〜0.310.31)より大きく、vdW 理論の定量的な限界を示しています。

演習 8.2易

最近接相互作用 JJ の 1 次元鎖(z=2z=2)と正方格子(z=4z=4)について、平均場近似の TcT_c を求め、厳密な結果(1 次元は Tc=0T_c=0、正方格子は Tc=2J/(kBln⁡(1+2))≈2.27J/kBT_c=2J/(k_{\mathrm B}\ln(1+\sqrt2))\approx2.27J/k_{\mathrm B})と比べよ。

解答

定理 5.3 より Tc=Jz/kBT_c=Jz/k_{\mathrm B} なので、1 次元は 2J/kB2J/k_{\mathrm B}、正方格子は 4J/kB4J/k_{\mathrm B} です。1 次元では厳密には転移がない(定理 6.1)のに有限の TcT_c を予言してしまい、正方格子でも約 4/2.27≈1.764/2.27\approx1.76 倍の過大評価です。zz が大きいほど各スピンが感じる平均場が実際の揺らぎの大きい環境をよく近似するので、精度が上がります。

演習 8.3標準

1 次元イジング模型で J/(kBT)=2J/(k_{\mathrm B}T)=2 のとき、相関長 ξ\xi と、距離 r=10r=10 の相関 ⟨σ0σ10⟩\langle\sigma_0\sigma_{10}\rangle、磁化率 χ\chi(β\beta 単位)を求めよ。

解答

定理 6.2 より tanh⁡2=0.96403\tanh2=0.96403、ln⁡tanh⁡2=−0.03663\ln\tanh2=-0.03663 なので ξ=1/0.03663≈27.3\xi=1/0.03663\approx27.3(格子間隔単位)です。⟨σ0σ10⟩=0.9640310=e−0.3663≈0.693\langle\sigma_0\sigma_{10}\rangle=0.96403^{10}=e^{-0.3663}\approx0.693。χ/β=e4≈54.6\chi/\beta=e^{4}\approx54.6 で、ξ\xi の 2 倍に近い値です(∑rtanh⁡∣r∣\sum_r\tanh^{|r|} が 2ξ2\xi 程度になるため)。低温になるほど相関する領域が指数的に広がります。

演習 8.4難

ψ(m)=ψ0+a0(T−T0)m2+cm3+bm4\psi(m)=\psi_0+a_0(T-T_0)m^2+cm^3+bm^4(a0>0a_0>0、b>0b>0、c<0c<0)について、(a) 二相共存(m=0m=0 と m=m0>0m=m_0>0 が同じ ψ\psi の最小値)が起きる温度 T1T_1 と跳び m0m_0 を求めよ。(b) 転移の潜熱を求めよ。

解答

(a) 4 次の項まで含めて ψ−ψ0=bm2(m−m0)2\psi-\psi_0=bm^2(m-m_0)^2 と書けるとき両者が縮退します。係数比較で c=−2bm0c=-2bm_0、a=bm02a=bm_0^2 なので、m0=−c/(2b)>0m_0=-c/(2b)>0、a=c2/(4b)a=c^2/(4b)、すなわち a0(T1−T0)=c2/(4b)a_0(T_1-T_0)=c^2/(4b) から T1=T0+c24a0bT_1=T_0+\dfrac{c^2}{4a_0b} です。T>T1T>T_1 で m=0m=0、T<T1T<T_1 で m=m0m=m_0 の相が安定です。(b) 自由エネルギー f=min⁡mψf=\min_m\psi で、エントロピーは s=−∂f/∂Ts=-\partial f/\partial T。m=m0m=m_0 の分枝では包絡線の定理により ∂f/∂T=∂ψ/∂T∣m=m0=ψ0′+a0m02\partial f/\partial T=\partial\psi/\partial T|_{m=m_0}=\psi_0'+a_0m_0^2、m=0m=0 の分枝では ψ0′\psi_0' なので、エントロピーの差は sm=0−sm0=a0m02s_{m=0}-s_{m_0}=a_0m_0^2 で、潜熱は L=T1a0m02=T1a0c24b2>0L=T_1a_0m_0^2=\dfrac{T_1a_0c^2}{4b^2}>0 です。連続な第二種の転移(c=0c=0)では L=0L=0 です。


  • 久保亮五 編『大学演習 熱学・統計力学』裳華房 — 相転移・イジング模型の演習問題。
  • 田崎晴明『統計力学 II』培風館、2008 — 相転移と臨界現象、イジング模型、平均場理論の章。
  • 西森秀稔『相転移・臨界現象の統計力学』培風館、2005 — 平均場理論、イジング模型、くりこみ群入門。
  • H. Nishimori, G. Ortiz, Elements of Phase Transitions and Critical Phenomena, Oxford University Press, 2011 — 平均場理論、ランダウ理論、臨界指数。
  • L. D. Landau, E. M. Lifshitz, Statistical Physics, Part 1, 3rd ed., Pergamon Press, 1980 — 相転移のランダウ理論、vdW 理論と等面積則。
  • E. Ising, “Beitrag zur Theorie des Ferromagnetismus”, Zeitschrift für Physik 31 (1925), 253–258. — 1 次元模型の解(転送行列を使わない原論文)。

このテーマの 100 本ノック(100 問)

執筆: Claude Code(Sonnet 5.5)・監査 2 回(Claude Code)・最終 2026-10-12

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