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Ising 模型と Peierls の議論:1 次元の一意性と 2 次元以上の相の共存

対象読者: 本テーマ第 1〜2 章(圧力・DLR 条件と Gibbs 測度)を学び、Ising 模型の平均場理論を知っている修士課程の人。平面グラフの組合せ論は本文で補います。

前提となる記事:DLR 条件と Gibbs 測度:仕様・存在・極値測度と Dobrushin の一意性定理、相転移と平均場理論:ファン・デル・ワールス、ランダウ、イジング模型

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磁石は高温で磁力を失い、低温では保ちます。この記事では、格子の各点に上向きか下向きの小さな矢印(スピン)を置いた単純な模型で、この違いを数学として扱います。一列に並んだ鎖では、どんなに冷やしても「上向きが優勢な状態」と「下向きが優勢な状態」が別々に残ることはありません。ところが平面以上では、十分冷やすと両方が並び立ちます。読み終えると、この対比が起きる理由を、エネルギーの損と並べ方の数の勝負として説明できます。

  • 1 次元(定理 3.2): 最近接 Ising 模型の Gibbs 測度は、すべての温度と外場でただ一つです。転送行列 TT の最大固有値 λ+\lambda_+ がほかの固有値より真に大きいので、境界条件の影響が (λ−/λ+)n(\lambda_-/\lambda_+)^n で消えます。
  • 単調性(命題 4.1): 強磁性で外場 h≥0h\ge0 なら、すべて ++ の境界条件での相関 ⟨σA⟩Λ+\langle\sigma_A\rangle^+_\Lambda は体積 Λ\Lambda について単調減少です。Griffiths(GKS)不等式の帰結で、これにより極限状態 μ+\mu^+ が存在し、並進不変な Gibbs 測度になります(定理 4.2)。自発磁化 m∗(β)=μ+(σ0)m^*(\beta)=\mu^+(\sigma_0) は β\beta について単調非減少です。
  • Peierls の議論(定理 6.1): d=2d=2、h=0h=0 で、++ 境界条件のもと原点が −- になるには、原点を囲む長さ ℓ\ell の「輪郭」が必要で、その確率は e−2βJℓe^{-2\beta J\ell} 以下です。長さ ℓ\ell の輪郭は ℓ 3ℓ\ell\,3^\ell 個以下しかないので、βJ≥12log⁡6\beta J\ge\frac12\log6 なら ⟨σ0⟩Λ+≥1/5\langle\sigma_0\rangle^+_\Lambda\ge1/5 が体積によらず成り立ちます。
  • 輪郭の数え上げに必要な平面の事実(偶な辺集合は有限集合の境界であること、単連結な集合の境界は連結であること)も、本章で組合せ的に証明します。
  • 以上から d≥2d\ge2 の低温では μ+≠μ−\mu^+\ne\mu^- で、Gibbs 測度は一意ではありません(相の共存)。Pirogov–Sinai 理論は、この描像を対称性のない一般の模型に広げます(主張のみ)。

前章 では、相転移を「Gibbs 測度が 2 つ以上ある」こととして定義し、高温(Dobrushin 条件)では一意性が成り立つことを示しました。本章では、その逆が低温で実際に起きることを、最も単純な Ising 模型で示します。

歴史的には、Ising(1925)は 1 次元の模型を解いて相転移がないことを示し、高次元でもないと推測しました。Peierls(1936)は、2 次元では低温で自発磁化が残ることを、「境界の長さに比例するエネルギーの損失」と「境界の個数の指数的な増え方」の比較という単純な議論で示しました。Griffiths(1964)と Dobrushin(1965)がこの議論を厳密にしました。1 次元では境界は点なので長さによるエネルギーの損失がなく、逆にエントロピー(位置の選び方)が勝って秩序が壊れます。この対比が本章の主題です。

S={−1,1}S=\{-1,1\}、Ω={−1,1}Zd\Omega=\{-1,1\}^{\mathbb{Z}^d} とし、スピンを σx\sigma_x、AA 上の積を σA=∏x∈Aσx\sigma_A=\prod_{x\in A}\sigma_x と書きます。x∼yx\sim y は ∥x−y∥1=1\|x-y\|_1=1(最近接)を表します。

定義 2.1(最近接 Ising 模型)↗

β>0\beta>0、J>0J>0、h∈Rh\in\mathbb{R} とし、相互作用 Φ{x,y}=−βJσxσy\Phi_{\{x,y\}}=-\beta J\sigma_x\sigma_y(x∼yx\sim y)、Φ{x}=−βhσx\Phi_{\{x\}}=-\beta h\sigma_x の Gibbs 仕様(定義 3.3[DLR 条件と Gibbs 測度])を γ\gamma とする。Λ⋐Zd\Lambda\Subset\mathbb{Z}^d と τ∈Ω\tau\in\Omega について μΛτ=γΛ(⋅∣τ)\mu^\tau_\Lambda=\gamma_\Lambda(\cdot\mid\tau) を境界条件 τ\tau の有限体積 Gibbs 測度、⟨⋅⟩Λτ\langle\cdot\rangle^\tau_\Lambda をその期待値とする。τ≡+1\tau\equiv+1、τ≡−1\tau\equiv-1 のときを μΛ+\mu^+_\Lambda、μΛ−\mu^-_\Lambda と書く。

μΛτ\mu^\tau_\Lambda を ΩΛ\Omega_\Lambda 上の分布と見ると

μΛτ(σ)∝exp⁡(βJ∑{x,y}⊂Λx∼yσxσy+∑x∈Λ(βh+βJ∑y∼x, y∉Λτy)σx)\mu^\tau_\Lambda(\sigma)\propto\exp\Bigl(\beta J\sum_{\substack{\{x,y\}\subset\Lambda\\x\sim y}}\sigma_x\sigma_y+\sum_{x\in\Lambda}\bigl(\beta h+\beta J\textstyle\sum_{y\sim x,\,y\notin\Lambda}\tau_y\bigr)\sigma_x\Bigr)

です。すなわち境界条件は、境界の点に働く外場に置き換わります。τ≡+1\tau\equiv+1、h≥0h\ge0 なら、これは 相関不等式 の意味の強磁性模型(定義 2.1[相関不等式]、結合と外場がすべて非負)です。

スピン反転の対称性. 写像 σ↦−σ\sigma\mapsto-\sigma は hh を −h-h に、境界条件 τ\tau を −τ-\tau に移します。特に h=0h=0 では μΛ−\mu^-_\Lambda は μΛ+\mu^+_\Lambda をスピン反転で移したもので、⟨σ0⟩Λ−=−⟨σ0⟩Λ+\langle\sigma_0\rangle^-_\Lambda=-\langle\sigma_0\rangle^+_\Lambda です。

補題 2.2(Walsh 基底)✓

有限集合 Λ\Lambda について、{σA:A⊂Λ}\{\sigma_A:A\subset\Lambda\} は {−1,1}Λ\{-1,1\}^\Lambda 上の実数値関数全体の基底である。したがって、Ω\Omega 上の 2 つの確率測度は、すべての有限集合 AA で μ(σA)=ν(σA)\mu(\sigma_A)=\nu(\sigma_A) なら等しい。

証明(補題 2.2)

一様分布 uu のもとで u(σAσB)=u(σA△B)u(\sigma_A\sigma_B)=u(\sigma_{A\triangle B}) で、C≠∅C\ne\emptyset なら u(σC)=∏x∈Cu(σx)=0u(\sigma_C)=\prod_{x\in C}u(\sigma_x)=0 です。よって {σA}\{\sigma_A\} は内積 u(fg)u(fg) について正規直交で、個数 2∣Λ∣2^{|\Lambda|} は関数空間の次元に等しいので基底です。後半は、局所関数がすべて σA\sigma_A の線形結合になることと、補題 2.1[DLR 条件と Gibbs 測度] (iii) と 補題 2.2[確率測度の弱収束] から従います。

d=1d=1 とします。s,t∈{−1,1}s,t\in\{-1,1\} について

T(s,t)=exp⁡(βJst+βh2(s+t))T(s,t)=\exp\Bigl(\beta Jst+\frac{\beta h}{2}(s+t)\Bigr)

とおき、TT を 2×22\times2 の実対称行列と見ます(行と列の添字は +1,−1+1,-1)。自由エネルギーの公式 f=−β−1log⁡λ+f=-\beta^{-1}\log\lambda_+ は 相転移と平均場理論 の 定理 6.1[相転移と平均場理論] にあります。ここでは Gibbs 測度そのものを決定します。

補題 3.1(転送行列のスペクトル分解)✓

TT の固有値を λ+>λ−\lambda_+>\lambda_- とすると λ+>∣λ−∣\lambda_+>|\lambda_-| で、λ+\lambda_+ の単位固有ベクトル vv は成分がすべて正にとれる。ww を λ−\lambda_- の単位固有ベクトルとすると、m≥1m\ge1 について

Tm=λ+m vvT+λ−m wwT,lim⁡m→∞Tm(s,t)λ+m=vsvt(一様に s,t).T^m=\lambda_+^m\,vv^{\mathsf{T}}+\lambda_-^m\,ww^{\mathsf{T}},\qquad\lim_{m\to\infty}\frac{T^m(s,t)}{\lambda_+^m}=v_sv_t\quad(\text{一様に }s,t).
証明(補題 3.1)

T=(abbc)T=\begin{pmatrix}a&b\\b&c\end{pmatrix}、a=eβ(J+h)a=e^{\beta(J+h)}、b=e−βJb=e^{-\beta J}、c=eβ(J−h)c=e^{\beta(J-h)} はすべて正です。固有値は λ±=a+c2±(a−c2)2+b2\lambda_\pm=\frac{a+c}2\pm\sqrt{\bigl(\frac{a-c}2\bigr)^2+b^2} で、b>0b>0 から λ+>max⁡(a,c)\lambda_+>\max(a,c)、λ+>λ−\lambda_+>\lambda_-。λ++λ−=a+c>0\lambda_++\lambda_-=a+c>0 から λ+>∣λ−∣\lambda_+>|\lambda_-| です。(b,λ+−a)(b,\lambda_+-a) は λ+\lambda_+ の固有ベクトルで(第 1 行: ab+b(λ+−a)=λ+bab+b(\lambda_+-a)=\lambda_+b)、成分はどちらも正です。実対称行列なので v⊥wv\perp w で、スペクトル分解 T=λ+vvT+λ−wwTT=\lambda_+vv^{\mathsf{T}}+\lambda_-ww^{\mathsf{T}} の mm 乗が第 1 式です。∣λ−/λ+∣<1|\lambda_-/\lambda_+|<1 から第 2 式が出ます。

次の定理の証明の方針は、区間の外の境界条件の影響を、転送行列の冪 TmT^m の形で書き表すことです。冪は大きくなると λ+mvsvt\lambda_+^m v_sv_t にほぼ等しくなるので、遠い境界条件の違いは中央の確率に効かなくなり、どの境界条件からも同じ極限が得られます。

定理 3.2(1 次元 Ising 模型の Gibbs 測度の一意性)✓

d=1d=1 の最近接 Ising 模型(任意の β>0\beta>0、J>0J>0、h∈Rh\in\mathbb{R})の Gibbs 測度はただ一つ μ\mu であり、k≥0k\ge0、η∈{−1,1}{−k,…,k}\eta\in\{-1,1\}^{\{-k,\dots,k\}} について

μ(σi=ηi, ∣i∣≤k)=vη−k (∏i=−kk−1T(ηi,ηi+1)) vηkλ+2k\mu(\sigma_i=\eta_i,\ |i|\le k)=\frac{v_{\eta_{-k}}\,\Bigl(\prod_{i=-k}^{k-1}T(\eta_i,\eta_{i+1})\Bigr)\,v_{\eta_k}}{\lambda_+^{2k}}

で与えられる。

証明(定理 3.2)

Λn={−n,…,n}\Lambda_n=\{-n,\dots,n\}、n>kn>k とし、境界条件 ω\omega の端の値を a=ω−n−1a=\omega_{-n-1}、b=ωn+1b=\omega_{n+1} とします。Λn\Lambda_n 上の配位 σ\sigma に σ−n−1=a\sigma_{-n-1}=a、σn+1=b\sigma_{n+1}=b を付け加えると

∏i=−n−1nT(σi,σi+1)=exp⁡(βJ∑i=−n−1nσiσi+1+βh∑i=−nnσi+βh2(a+b))\prod_{i=-n-1}^{n}T(\sigma_i,\sigma_{i+1})=\exp\Bigl(\beta J\sum_{i=-n-1}^{n}\sigma_i\sigma_{i+1}+\beta h\sum_{i=-n}^{n}\sigma_i+\frac{\beta h}{2}(a+b)\Bigr)

です(σi\sigma_i は内部の点では 2 回、端点 a,ba,b は 1 回ずつ現れる)。最後の因子は σ\sigma によらないので、これは γΛn(⋅∣ω)\gamma_{\Lambda_n}(\cdot\mid\omega) の重みに比例します。Λn\Lambda_n の内側の区間 {−k,…,k}\{-k,\dots,k\} 以外の変数について和をとると

γΛn(σi=ηi, ∣i∣≤k∣ω)=Tn−k+1(a,η−k) W(η) Tn−k+1(ηk,b)T2n+2(a,b),W(η)=∏i=−kk−1T(ηi,ηi+1).\gamma_{\Lambda_n}\bigl(\sigma_i=\eta_i,\,|i|\le k\bigm|\omega\bigr)=\frac{T^{n-k+1}(a,\eta_{-k})\,W(\eta)\,T^{n-k+1}(\eta_k,b)}{T^{2n+2}(a,b)},\qquad W(\eta)=\prod_{i=-k}^{k-1}T(\eta_i,\eta_{i+1}).

補題 3.1 から、n→∞n\to\infty でこれは a,ba,b について一様に

λ+n−k+1vavη−k W(η) λ+n−k+1vηkvbλ+2n+2vavb=vη−kW(η)vηkλ+2k\frac{\lambda_+^{n-k+1}v_av_{\eta_{-k}}\,W(\eta)\,\lambda_+^{n-k+1}v_{\eta_k}v_b}{\lambda_+^{2n+2}v_av_b}=\frac{v_{\eta_{-k}}W(\eta)v_{\eta_k}}{\lambda_+^{2k}}

に収束します(va,vb>0v_a,v_b>0 が分母を 00 から遠ざける)。μ′∈G\mu'\in\mathcal{G} を任意にとると、DLR 方程式から μ′(σi=ηi,∣i∣≤k)=∫γΛn(σi=ηi,∣i∣≤k∣ω) μ′(dω)\mu'(\sigma_i=\eta_i,|i|\le k)=\int\gamma_{\Lambda_n}(\sigma_i=\eta_i,|i|\le k\mid\omega)\,\mu'(d\omega) で、一様収束により右辺は上の極限値に収束します。左辺は nn によらないので、μ′\mu' の有限次元分布は上の式で決まります。Gibbs 測度は存在する(定理 5.1[DLR 条件と Gibbs 測度])ので、ちょうど一つです。

注意 3.3(Markov 連鎖としての解釈)

上の式は、μ\mu が遷移行列 P(s,t)=T(s,t)vt/(λ+vs)P(s,t)=T(s,t)v_t/(\lambda_+v_s)、定常分布 π(s)=vs2\pi(s)=v_s^2 の定常 Markov 連鎖の分布であることを示しています(∑tP(s,t)=(Tv)s/(λ+vs)=1\sum_tP(s,t)=(Tv)_s/(\lambda_+v_s)=1)。相関は PP の第 2 固有値 λ−/λ+\lambda_-/\lambda_+ のべきで減衰し、h=0h=0 では ⟨σ0σr⟩=(tanh⁡βJ)r\langle\sigma_0\sigma_r\rangle=(\tanh\beta J)^r です(定理 6.2[相転移と平均場理論])。有限到達距離の相互作用をもつ 1 次元の系では、同じ転送行列の議論(Perron–Frobenius の定理)で、つねに Gibbs 測度が一意であることが示せます。h=0h=0 で一意な μ\mu はスピン反転で不変なので μ(σ0)=0\mu(\sigma_0)=0、すなわち 1 次元に自発磁化はありません。

4. Griffiths 不等式による単調性と + 状態

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以下 d≥1d\ge1 を一般にし、h≥0h\ge0 とします。

次の命題は、領域を広げても ++ 境界条件での相関が増えないことを言います。証明では、広い領域 Λ′\Lambda' のうち Λ\Lambda の外側の点にだけ外場 HH を加えて比べます。HH を大きくすると相関は増える一方(Griffiths の不等式)、H→∞H\to\infty では外側のスピンが ++ に固定されて Λ\Lambda の ++ 境界条件の模型に一致するので、H=0H=0 の元の相関はそれ以下だと分かります。

命題 4.1(+ 境界条件の相関の体積単調性)✓

h≥0h\ge0、A⊂Λ⊂Λ′⋐ZdA\subset\Lambda\subset\Lambda'\Subset\mathbb{Z}^d ならば

0≤⟨σA⟩Λ′+≤⟨σA⟩Λ+.0\le\langle\sigma_A\rangle^+_{\Lambda'}\le\langle\sigma_A\rangle^+_\Lambda .
証明(命題 4.1)

H≥0H\ge0 について、Λ′\Lambda' 上の ++ 境界条件の模型に、Λ′∖Λ\Lambda'\setminus\Lambda の各点で外場 HH を加えた分布を μ(H)\mu^{(H)} とします。これは強磁性なので、Griffiths の不等式の系(系 3.3[相関不等式])から μ(H)(σA)\mu^{(H)}(\sigma_A) は HH について単調非減少で、非負です(定理 3.1[相関不等式])。H=0H=0 では ⟨σA⟩Λ′+\langle\sigma_A\rangle^+_{\Lambda'} です。

H→∞H\to\infty の極限を調べます。x∈Λ′∖Λx\in\Lambda'\setminus\Lambda について、xx のスピンを反転する写像は {σx=+1}\{\sigma_x=+1\} と {σx=−1}\{\sigma_x=-1\} の全単射で、σx=−1\sigma_x=-1 の配位の重みは、反転した配位の重みの e−2(βh+H+βJmx)e^{-2(\beta h+H+\beta Jm_x)} 倍です(mx=∑y∼xσy≥−2dm_x=\sum_{y\sim x}\sigma_y\ge-2d)。よって μ(H)(σx=−1)≤e−2H+4dβJ→0\mu^{(H)}(\sigma_x=-1)\le e^{-2H+4d\beta J}\to0。一方、σΛ′∖Λ≡+1\sigma_{\Lambda'\setminus\Lambda}\equiv+1 を条件とする σΛ\sigma_\Lambda の条件付き分布は、外場 HH が Λ\Lambda の外にしか働かないので HH によらず、μΛ+\mu^+_\Lambda に一致します(境界条件はすべて +1+1)。したがって

∣μ(H)(σA)−⟨σA⟩Λ+∣≤2 μ(H)(σΛ′∖Λ≢+1)≤2∣Λ′∣e−2H+4dβJ→0.\bigl|\mu^{(H)}(\sigma_A)-\langle\sigma_A\rangle^+_\Lambda\bigr|\le2\,\mu^{(H)}\bigl(\sigma_{\Lambda'\setminus\Lambda}\not\equiv+1\bigr)\le2|\Lambda'|e^{-2H+4d\beta J}\to0 .

単調性と合わせて ⟨σA⟩Λ′+≤lim⁡H→∞μ(H)(σA)=⟨σA⟩Λ+\langle\sigma_A\rangle^+_{\Lambda'}\le\lim_{H\to\infty}\mu^{(H)}(\sigma_A)=\langle\sigma_A\rangle^+_\Lambda です。

定理 4.2(+ 状態の存在)✓

h≥0h\ge0 とする。Λn↑Zd\Lambda_n\uparrow\mathbb{Z}^d(⋃Λn=Zd\bigcup\Lambda_n=\mathbb{Z}^d の増大列)について μΛn+\mu^+_{\Lambda_n} は弱収束し、極限 μ+\mu^+ は列によらない。μ+\mu^+ は並進不変な Gibbs 測度で、すべての有限集合 AA で

μ+(σA)=inf⁡Λ⊃A⟨σA⟩Λ+.\mu^+(\sigma_A)=\inf_{\Lambda\supset A}\langle\sigma_A\rangle^+_\Lambda .

h=0h=0 のとき μ−\mu^- を μ+\mu^+ のスピン反転とすると、μ−\mu^- も Gibbs 測度である。

証明(定理 4.2)

命題 4.1 から、有限集合 AA を固定すると Λ↦⟨σA⟩Λ+\Lambda\mapsto\langle\sigma_A\rangle^+_\Lambda は包含について単調非増加で 00 以上です。増大列 Λn↑Zd\Lambda_n\uparrow\mathbb{Z}^d では、任意の有限 Λ⊃A\Lambda\supset A がある Λn\Lambda_n に含まれるので、lim⁡n⟨σA⟩Λn+=inf⁡Λ⊃A⟨σA⟩Λ+\lim_n\langle\sigma_A\rangle^+_{\Lambda_n}=\inf_{\Lambda\supset A}\langle\sigma_A\rangle^+_\Lambda で、これは列によりません。

(μΛn+)(\mu^+_{\Lambda_n}) の弱収束する部分列の極限(定理 5.1[DLR 条件と Gibbs 測度] (i))はすべて Gibbs 測度で(同 (ii))、σA\sigma_A は連続なので極限での σA\sigma_A の期待値は上の inf⁡\inf に等しく、補題 2.2 によりすべて同じ測度です。部分列の極限がすべて一致するので、列全体が弱収束します(補題 5.1[確率測度の弱収束])。

並進 xx について、相互作用の並進不変性から ⟨σA+x⟩Λ+x+=⟨σA⟩Λ+\langle\sigma_{A+x}\rangle^+_{\Lambda+x}=\langle\sigma_A\rangle^+_\Lambda なので、inf⁡\inf の形から μ+(σA+x)=μ+(σA)\mu^+(\sigma_{A+x})=\mu^+(\sigma_A) で、補題 2.2 から μ+∘θx−1=μ+\mu^+\circ\theta_x^{-1}=\mu^+。h=0h=0 では仕様がスピン反転で不変なので、反転した測度も DLR 方程式を満たします。

定義 4.3(自発磁化)↗

h=0h=0 のとき m∗(β)=μ+(σ0)m^*(\beta)=\mu^+(\sigma_0) を自発磁化という。

命題 4.4(自発磁化の性質)✓

h=0h=0 とする。(i) m∗(β)m^*(\beta) は β\beta について単調非減少である。(ii) m∗(β)>0m^*(\beta)>0 ならば μ+≠μ−\mu^+\ne\mu^- で、Gibbs 測度は一意でない。(iii) 2dtanh⁡(βJ)<12d\tanh(\beta J)<1 ならば m∗(β)=0m^*(\beta)=0。

証明(命題 4.4)

(i) μΛ+\mu^+_\Lambda は、結合 βJ\beta J と境界の外場 βJ⋅#{y∼x:y∉Λ}\beta J\cdot\#\{y\sim x:y\notin\Lambda\} をもつ強磁性模型で、これらはすべて β\beta について増加します。系 3.3[相関不等式] から ⟨σ0⟩Λ+\langle\sigma_0\rangle^+_\Lambda は β\beta について非減少で、inf⁡\inf をとっても保たれます。(ii) μ−(σ0)=−m∗<0<μ+(σ0)\mu^-(\sigma_0)=-m^*<0<\mu^+(\sigma_0)。(iii) Dobrushin の判定(命題 7.5[DLR 条件と Gibbs 測度])から Gibbs 測度は一意なので μ+=μ−\mu^+=\mu^-、よって m∗=μ+(σ0)=−μ+(σ0)=0m^*=\mu^+(\sigma_0)=-\mu^+(\sigma_0)=0。

したがって βc=sup⁡{β:m∗(β)=0}∈[artanh⁡(1/(2d))/J,∞]\beta_c=\sup\{\beta:m^*(\beta)=0\}\in[\operatorname{artanh}(1/(2d))/J,\infty] が定まり、β>βc\beta>\beta_c で相が共存します。残る問題は βc<∞\beta_c<\infty、つまり十分低温で m∗>0m^*>0 となることです。

Peierls の議論は、−- のスピンの島をその境界線(輪郭)で数えることにあります。数え上げに必要な平面の組合せ論をまとめて証明します。この節は d=2d=2 です。

双対格子. (Z2)∗=Z2+(12,12)(\mathbb{Z}^2)^*=\mathbb{Z}^2+(\frac12,\frac12) を双対格子とし、最近接点を結ぶ辺を双対辺と呼びます。Z2\mathbb{Z}^2 の各辺 ee には、中点を共有して ee と直交する双対辺 e∗e^* がただ一つあります。双対頂点 uu は、4 つの格子点を頂点とする単位正方形(面)の中心で、uu から出る 4 本の双対辺はその面の 4 辺と交わります。有限集合 B⊂Z2B\subset\mathbb{Z}^2 の辺境界 ∂eB\partial_eB を「一方の端点が BB、他方が BB の外にある辺」の集合とし、その双対 ∂∗B={e∗:e∈∂eB}\partial^*B=\{e^*:e\in\partial_eB\} を BB の輪郭と呼びます。

言葉だけでは想像しにくいので、図に格子点と双対格子点を重ねて示します。格子の辺を 1 本とると、その中点で直交する双対辺がちょうど 1 本あり、双対頂点のまわりには 4 本の双対辺が集まります。

ee*
格子点(黒丸)と双対頂点(色つきの点)。太い黒線が格子の辺 、色つきの線がそれと中点で直交する双対辺 。双対頂点のまわりに 4 本の双対辺が集まり、それぞれが正方形(面)の 4 辺と交わる。

双対辺の有限集合 γ\gamma が偶とは、すべての双対頂点で γ\gamma の辺の本数(次数)が偶数であることです。

補題 5.1(輪郭は偶)✓

任意の B⊂Z2B\subset\mathbb{Z}^2 について、∂∗B\partial^*B の各双対頂点での次数は偶数である。また 1∂e(B1△B2)=1∂eB1+1∂eB2(mod2)\mathbf{1}_{\partial_e(B_1\triangle B_2)}=\mathbf{1}_{\partial_eB_1}+\mathbf{1}_{\partial_eB_2}\pmod2 が成り立つ。

証明(補題 5.1)

辺 {x,y}\{x,y\} について 1∂eB({x,y})≡1B(x)+1B(y)(mod2)\mathbf{1}_{\partial_eB}(\{x,y\})\equiv\mathbf{1}_B(x)+\mathbf{1}_B(y)\pmod2 です。これは 1B\mathbf{1}_B について線形( mod 2\bmod2)なので第 2 の主張が出ます。双対頂点 uu の面の頂点を一周の順に x1,x2,x3,x4x_1,x_2,x_3,x_4 とすると、uu での次数は ∑i=14(1B(xi)+1B(xi+1))≡2∑i1B(xi)≡0\sum_{i=1}^4(\mathbf{1}_B(x_i)+\mathbf{1}_B(x_{i+1}))\equiv2\sum_i\mathbf{1}_B(x_i)\equiv0(x5=x1x_5=x_1)です。

補題 5.2(偶な集合は輪郭)✓

双対辺の有限な偶集合 γ\gamma に対し、∂∗B=γ\partial^*B=\gamma となる有限集合 B⊂Z2B\subset\mathbb{Z}^2 がただ一つ存在する。

証明(補題 5.2)

構成. 格子点 x=(a,b)x=(a,b) について、N(x)N(x) を「a′<aa'<a で、横の辺 {(a′,b),(a′+1,b)}\{(a',b),(a'+1,b)\} の双対が γ\gamma に属するもの」の個数とし、B={x:N(x) は奇数}B=\{x:N(x)\text{ は奇数}\} とおきます(γ\gamma は有限なので NN は有限)。

横の辺. e={(a,b),(a+1,b)}e=\{(a,b),(a+1,b)\} について N((a+1,b))−N((a,b))=1γ(e∗)N((a+1,b))-N((a,b))=\mathbf{1}_\gamma(e^*) なので、e∈∂eB  ⟺  e∗∈γe\in\partial_eB\iff e^*\in\gamma。

縦の辺. e={(a,b),(a,b+1)}e=\{(a,b),(a,b+1)\} とし、行 bb と b+1b+1 の間の双対頂点 ua′=(a′+12,b+12)u_{a'}=(a'+\frac12,b+\frac12)(a′<aa'<a)での γ\gamma の次数の和を考えます。偶性からこの和は偶数です。和の中で、横の双対辺 {ua′,ua′+1}\{u_{a'},u_{a'+1}\} は両端が範囲内なら 2 回数えられ、{ua−1,ua}\{u_{a-1},u_a\} だけは 1 回数えられます。この双対辺はちょうど ee と交わります。ua′u_{a'} から上に出る双対辺は横の辺 {(a′,b+1),(a′+1,b+1)}\{(a',b+1),(a'+1,b+1)\} と、下に出る双対辺は {(a′,b),(a′+1,b)}\{(a',b),(a'+1,b)\} と交わるので、それらの個数はそれぞれ N((a,b+1))N((a,b+1))、N((a,b))N((a,b)) です。したがって

0≡N((a,b))+N((a,b+1))+1γ(e∗)(mod2),0\equiv N((a,b))+N((a,b+1))+\mathbf{1}_\gamma(e^*)\pmod2,

すなわち e∈∂eB  ⟺  e∗∈γe\in\partial_eB\iff e^*\in\gamma です。

有限性. γ\gamma を含む長方形の左側と上下では N=0N=0 です。右側の十分遠く(aa が大きい)では、上の式で 1γ(e∗)=0\mathbf{1}_\gamma(e^*)=0 なので N((a,b))≡N((a,b+1))N((a,b))\equiv N((a,b+1)) がすべての bb で成り立ち、上方で N=0N=0 だから下へたどってすべて偶数です。よって BB は長方形に含まれ有限です。

一意性. ∂∗B=∂∗B′\partial^*B=\partial^*B' なら、補題 5.1 から ∂e(B△B′)=∅\partial_e(B\triangle B')=\emptyset で、B△B′B\triangle B' は隣接について閉じています。Z2\mathbb{Z}^2 は連結なので B△B′B\triangle B' は ∅\emptyset か Z2\mathbb{Z}^2 で、有限だから ∅\emptyset です。

補題 5.3(単連結な集合の輪郭は連結)✓

有限集合 B⊂Z2B\subset\mathbb{Z}^2 と Z2∖B\mathbb{Z}^2\setminus B がともに(最近接の意味で)連結ならば、∂∗B\partial^*B は双対格子のグラフとして連結である。

証明(補題 5.3)

γ=∂∗B\gamma=\partial^*B が連結でないとし、γ\gamma の連結成分のいくつかの和 γ1\gamma_1 と残り γ2\gamma_2 に分けます(ともに空でない)。連結成分どうしは頂点を共有しないので、各双対頂点での γ1\gamma_1 の次数は γ\gamma の次数か 00 で、γ1\gamma_1 は偶です(補題 5.1)。補題 5.2 から γ1=∂∗B1\gamma_1=\partial^*B_1 となる有限集合 B1B_1 があります。

BB の中の辺 {x,y}\{x,y\}(x,y∈Bx,y\in B)は ∂eB\partial_eB に属さず、γ1⊂γ\gamma_1\subset\gamma なので ∂eB1\partial_eB_1 にも属しません。すなわち 1B1(x)=1B1(y)\mathbf{1}_{B_1}(x)=\mathbf{1}_{B_1}(y) です。BB は連結なので、B⊂B1B\subset B_1 か B∩B1=∅B\cap B_1=\emptyset です。同じ理由で、連結な Z2∖B\mathbb{Z}^2\setminus B は B1B_1 に含まれるか B1B_1 と交わりません。B1B_1 は有限で Z2∖B\mathbb{Z}^2\setminus B は無限なので後者で、B1⊂BB_1\subset B です。よって B1=BB_1=B か B1=∅B_1=\emptyset です。前者なら γ1=γ\gamma_1=\gamma、後者なら γ1=∅\gamma_1=\emptyset で、どちらも仮定に反します。

補題 5.4(連結な偶集合の個数)✓

(i) 連結な有限グラフのすべての頂点の次数が偶数ならば、すべての辺をちょうど 1 回ずつ通る閉じた道(Euler 閉路)がある。

(ii) 双対辺 e0e_0 を含み、双対辺 ℓ\ell 本からなる連結な偶集合の個数は 2⋅3ℓ−12\cdot3^{\ell-1} 以下である。

証明(補題 5.4)

(i) 同じ辺を 2 度通らない道(トレイル)のうち最長のもの PP をとります。PP の終点が始点と異なれば、終点で PP が使った辺は奇数本なので未使用の辺があり、PP を延ばせて矛盾します。よって PP は閉じています。PP が使わない辺があれば、グラフの連結性から、PP 上の頂点 vv に接する未使用の辺 ff があります。PP を vv から始まる閉路と見直し、その後に ff をつなげば、より長いトレイルになり矛盾します。

(ii) そのような集合 γ\gamma に対し、(i) の Euler 閉路を e0e_0 から始め、向き(2 通り)を決めて辺を順に並べます。各ステップでは、現在の頂点(次数 44 以下)から、直前に通った辺以外の高々 3 本のうち 1 本を選びます。γ\gamma はこの列で決まるので、個数は 2⋅3ℓ−12\cdot3^{\ell-1} 以下です。

定理 6.1(Peierls の定理)✓

d=2d=2、h=0h=0、J>0J>0 とし、y=9e−4βJ<1y=9e^{-4\beta J}<1 とおく。原点を含むすべての正方形 Λ={−n,…,n}2\Lambda=\{-n,\dots,n\}^2 について

μΛ+(σ0=−1)≤∑j≥22j yj=2y2(2−y)(1−y)2.\mu^+_\Lambda(\sigma_0=-1)\le\sum_{j\ge2}2j\,y^j=\frac{2y^2(2-y)}{(1-y)^2}.

特に βJ≥12log⁡6\beta J\ge\frac12\log6 ならば ⟨σ0⟩Λ+≥1/5\langle\sigma_0\rangle^+_\Lambda\ge1/5 で、m∗(β)≥1/5m^*(\beta)\ge1/5。

証明(定理 6.1)

(1) 原点の島と輪郭. σ∈Ω\sigma\in\Omega を、Λ\Lambda の外で +1+1、σ0=−1\sigma_0=-1 の配位とします。CC を {x:σx=−1}\{x:\sigma_x=-1\} の中で原点を含む連結成分とすると、C⊂ΛC\subset\Lambda です。Z2∖Λ\mathbb{Z}^2\setminus\Lambda は連結で CC と交わらないので、Z2∖C\mathbb{Z}^2\setminus C のちょうど一つの連結成分 UU に含まれ、UU は無限、他の成分は Λ\Lambda に含まれる有限集合です。B=Z2∖UB=\mathbb{Z}^2\setminus U(CC に「穴」を埋めたもの)とおくと、次が成り立ちます。

  • BB は有限で 0∈B⊂Λ0\in B\subset\Lambda、Z2∖B=U\mathbb{Z}^2\setminus B=U は連結。
  • BB は連結。Z2∖C\mathbb{Z}^2\setminus C の有限な成分 FF の辺境界の辺 {x,y}\{x,y\}(x∈Fx\in F、y∉Fy\notin F)では、y∉Z2∖Cy\notin\mathbb{Z}^2\setminus C(さもなくば y∈Fy\in F)、すなわち y∈Cy\in C なので、FF は CC に隣接します。
  • ∂eB\partial_eB の辺 {x,y}\{x,y\}(x∈Bx\in B、y∈Uy\in U)では σx=−1\sigma_x=-1、σy=+1\sigma_y=+1。実際 x∈Fx\in F(有限成分)なら yy は FF に隣接する Z2∖C\mathbb{Z}^2\setminus C の点で FF に属し、矛盾します。よって x∈Cx\in C で σx=−1\sigma_x=-1、y∉Cy\notin C が CC に隣接するので σy=+1\sigma_y=+1 です。

このようにして決まる γ(σ)=∂∗B\gamma(\sigma)=\partial^*B を原点の輪郭と呼びます。補題 5.3 から γ(σ)\gamma(\sigma) は連結で、補題 5.1 から偶です。

(2) 1 つの輪郭の確率. 有限集合 B∋0B\ni0 を固定し、γ=∂∗B\gamma=\partial^*B とします。Λ\Lambda 内の配位 σ\sigma に対し、BB のスピンをすべて反転したものを σB\sigma^B とします(B⊂ΛB\subset\Lambda なので境界条件は保たれる)。σ↦σB\sigma\mapsto\sigma^B は全単射です。辺 {x,y}\{x,y\} の両端の符号の一致・不一致は、{x,y}∈∂eB\{x,y\}\in\partial_eB のときだけ入れ替わります。∂eB\partial_eB の辺がすべて不一致である σ\sigma では、反転によってそれらがすべて一致に変わるので、エネルギーは 2J∣γ∣2J|\gamma| 下がり、重みは e2βJ∣γ∣e^{2\beta J|\gamma|} 倍になります。したがって

μΛ+(∂eB の辺がすべて不一致)=∑σ′w(σ)Z=e−2βJ∣γ∣∑σ′w(σB)Z≤e−2βJ∣γ∣\mu^+_\Lambda\bigl(\partial_eB\text{ の辺がすべて不一致}\bigr)=\sum_{\sigma}{}'\frac{w(\sigma)}{Z}=e^{-2\beta J|\gamma|}\sum_\sigma{}'\frac{w(\sigma^B)}{Z}\le e^{-2\beta J|\gamma|}

です(∑′\sum' は条件を満たす σ\sigma についての和、ww は重み)。

(3) 輪郭の数え上げ. (1) の BB は、原点を含み BB と補集合が連結な有限集合です。そのような BB は ∂∗B\partial^*B で決まり(補題 5.2 の一意性)、ℓ=∣∂eB∣\ell=|\partial_eB| について次が成り立ちます。

  • ℓ\ell は偶数で ℓ≥4\ell\ge4。実際 ℓ=4∣B∣−2⋅#{B 内の辺}\ell=4|B|-2\cdot\#\{B\text{ 内の辺}\} で、BB と交わる各列の最上点の上の辺と最下点の下の辺が縦の境界辺、各行についても同様なので ℓ≥4\ell\ge4。
  • k=max⁡{j≥0:(j,0)∈B}k=\max\{j\ge0:(j,0)\in B\} とすると、辺 {(k,0),(k+1,0)}\{(k,0),(k+1,0)\} は ∂eB\partial_eB に属し、BB は連結なので列 0,1,…,k0,1,\dots,k のすべてと交わり、各列が縦の境界辺を 2 本以上もつので ℓ≥2(k+1)\ell\ge2(k+1)、すなわち k≤ℓ/2−1k\le\ell/2-1。

よって、長さ ℓ\ell の輪郭は「双対辺 {(k,0),(k+1,0)}∗\{(k,0),(k+1,0)\}^*(0≤k≤ℓ/2−10\le k\le\ell/2-1)を含む連結な偶集合」で、補題 5.4 (ii) からその個数は ℓ2⋅2⋅3ℓ−1≤ℓ 3ℓ/3≤ℓ 3ℓ\frac\ell2\cdot2\cdot3^{\ell-1}\le\ell\,3^\ell/3\le\ell\,3^\ell 以下です。

(4) まとめ. (1)(2)(3) から

μΛ+(σ0=−1)≤∑BμΛ+(∂eB の辺がすべて不一致)≤∑ℓ≥4, ℓ 偶ℓ 3ℓe−2βJℓ=∑j≥22j yj.\mu^+_\Lambda(\sigma_0=-1)\le\sum_{B}\mu^+_\Lambda(\partial_eB\text{ の辺がすべて不一致})\le\sum_{\ell\ge4,\ \ell\text{ 偶}}\ell\,3^\ell e^{-2\beta J\ell}=\sum_{j\ge2}2j\,y^j .

最後の級数の和は ∑j≥2jyj=y2(2−y)/(1−y)2\sum_{j\ge2}jy^j=y^2(2-y)/(1-y)^2 から得られます。βJ≥12log⁡6\beta J\ge\frac12\log6 なら y≤1/4y\le1/4 で、右辺は 2⋅116⋅74⋅169=7182\cdot\frac1{16}\cdot\frac74\cdot\frac{16}9=\frac{7}{18} 以下です。したがって ⟨σ0⟩Λ+=1−2μΛ+(σ0=−1)≥1−79=29≥15\langle\sigma_0\rangle^+_\Lambda=1-2\mu^+_\Lambda(\sigma_0=-1)\ge1-\frac79=\frac29\ge\frac15 で、定理 4.2 の inf⁡\inf の表示から m∗(β)≥1/5m^*(\beta)\ge1/5 です。

++++++++++++++++−−+++++−−−+++++−+++++++++++++++++
+ 境界条件のもとで原点(丸)を含む − の島 B と、その輪郭 ∂*B(太線、長さ 12)。輪郭は双対格子の閉曲線で、島の内側を反転すると輪郭の 12 本の不一致の辺がすべて一致に変わり、重みが 倍になる。

系 6.2(d≥2 での相の共存)✓

d≥2d\ge2、h=0h=0、βJ≥12log⁡6\beta J\ge\frac12\log6 ならば m∗(β)≥1/5m^*(\beta)\ge1/5 で、μ+≠μ−\mu^+\ne\mu^- はともに並進不変な Gibbs 測度である。特に βc<∞\beta_c<\infty。

証明(系 6.2)

Λ={−n,…,n}d\Lambda=\{-n,\dots,n\}^d とし、平面 P=Λ∩(Z2×{0}d−2)P=\Lambda\cap(\mathbb{Z}^2\times\{0\}^{d-2}) を考えます。μΛ+\mu^+_\Lambda は、結合 βJ\beta J(Λ\Lambda 内の最近接対)と境界の外場をもつ強磁性模型です。PP の 2 点を結ばない結合をすべて 00 にし、PP の外の点の外場もすべて 00 にします。PP の点の外場は、Λ\Lambda の外の隣接点からのものですが、PP は第 3 座標以降が 00 の中央の平面なので(n≥1n\ge1)、それは平面内の隣接点からのものだけです。こうして得た模型では、PP のスピンは 2 次元の正方形 {−n,…,n}2\{-n,\dots,n\}^2 の ++ 境界条件の Ising 模型に従い、他のスピンは独立です。結合と外場を減らすと相関は減る(系 3.3[相関不等式])ので、⟨σ0⟩Λ+≥⟨σ0⟩{−n,…,n}2+, d=2≥1/5\langle\sigma_0\rangle^+_\Lambda\ge\langle\sigma_0\rangle^{+,\,d=2}_{\{-n,\dots,n\}^2}\ge1/5(定理 6.1)。あとは 定理 4.2 と 命題 4.4 (ii) です。

注意 6.3(輪郭の気体とクラスター展開)

++ 境界条件の分配関数は、配位を「互いに両立する輪郭の族」と 1 対 1 に対応させると(2 つの輪郭が双対頂点で接する配位では、どちらの組に分けるかを規則で決めておく必要があります。この細部は省略します)

ZΛ+=eβJ∣EΛ∣∑{γ1,…,γk}∏i=1ke−2βJ∣γi∣Z^+_\Lambda=e^{\beta J|E_\Lambda|}\sum_{\{\gamma_1,\dots,\gamma_k\}}\prod_{i=1}^ke^{-2\beta J|\gamma_i|}

と書けます(EΛE_\Lambda は Λ\Lambda に関わる辺の集合、和は両立する輪郭の族について)。これは クラスター展開 のポリマー系(定義 2.1[クラスター展開と Kotecký–Preiss の判定条件])そのもので、重み e−2βJ∣γ∣e^{-2\beta J|\gamma|} は低温で小さいので、Kotecký–Preiss の判定条件(定理 4.1[クラスター展開と Kotecký–Preiss の判定条件])が使えます。こうして低温相の自由エネルギーの解析性や相関の指数減衰が得られます。輪郭の個数の評価 ℓ3ℓ\ell3^\ell が、ここでも鍵になります。

Peierls の議論はスピン反転の対称性を使いました(μ−\mu^- は μ+\mu^+ の反転)。対称性のない模型、たとえば外場を少し加えた Ising 模型や、基底状態が 3 つ以上ある Potts 模型・Blume–Capel 模型では、低温でどの相が安定かは自明ではありません。Pirogov と Sinai(1975)は、輪郭の方法を一般化してこの問題を解きました。

定理 7.1(Pirogov–Sinai の定理(主張))※

SS を有限集合とし、Φ\Phi を有限到達距離で並進不変な相互作用とする。Φ\Phi が有限個の周期的基底状態 g1,…,grg_1,\dots,g_r をもち、Peierls 条件(基底状態からずれた配位のエネルギーの超過が、ずれた領域の境界の大きさに比例する定数 ρ>0\rho>0 以上)を満たすとする。Φ\Phi に r−1r-1 個の摂動パラメータ λ∈Rr−1\lambda\in\mathbb{R}^{r-1} を加えた族 Φλ\Phi_\lambda を、基底状態のエネルギーの差が λ\lambda について非退化に動くようにとる。このとき β\beta が十分大きければ、λ\lambda の空間は、00 の近傍で零温度の相図をわずかに変形した相図に分かれる。すなわち、空でない部分集合 Q⊂{1,…,r}Q\subset\{1,\dots,r\} ごとに余次元 ∣Q∣−1|Q|-1 の集合 SQ\mathcal{S}_Q があり、λ∈SQ\lambda\in\mathcal{S}_Q では、gqg_q(q∈Qq\in Q)の摂動とみなせる周期的な極値 Gibbs 測度が ∣Q∣|Q| 個共存する。特に、rr 個の相がすべて共存する点がちょうど 1 つある。

注意 7.2(証明の所在)

証明は本章では与えません。原論文 S. A. Pirogov, Ya. G. Sinai (1975–76) のほか、Zahradník による簡略化、Borgs–Imbrie による解析性の結果があり、教科書としては Friedli–Velenik の第 7 章(Peierls の議論と Pirogov–Sinai の入門)が読みやすいでしょう。証明の中心は、各相 qq について「qq の境界条件で囲まれた輪郭の気体」を作り、不安定な相の輪郭重みを切り詰めた(truncated)重みで Kotecký–Preiss 型のクラスター展開を行うことです。

演習 8.1標準

定理 3.2 の μ\mu について、μ(σ0)=v+2−v−2\mu(\sigma_0)=v_+^2-v_-^2 を示し、これが 定理 6.1[相転移と平均場理論] の磁化 sinh⁡βh/sinh⁡2βh+e−4βJ\sinh\beta h/\sqrt{\sinh^2\beta h+e^{-4\beta J}} に等しいことを確かめてください。

解答

k=0k=0 の式から μ(σ0=s)=vs2\mu(\sigma_0=s)=v_s^2 なので μ(σ0)=v+2−v−2\mu(\sigma_0)=v_+^2-v_-^2。λ+\lambda_+ の固有ベクトルは (b,λ+−a)(b,\lambda_+-a) に比例するので、μ(σ0)=b2−(λ+−a)2b2+(λ+−a)2\mu(\sigma_0)=\dfrac{b^2-(\lambda_+-a)^2}{b^2+(\lambda_+-a)^2}。D=((a−c)/2)2+b2D=\sqrt{((a-c)/2)^2+b^2} とおくと λ+−a=D−(a−c)/2\lambda_+-a=D-(a-c)/2 で、固有方程式 (λ+−a)(λ+−c)=b2(\lambda_+-a)(\lambda_+-c)=b^2 を使うと分子と分母はそれぞれ 2(λ+−a)⋅a−c22(\lambda_+-a)\cdot\frac{a-c}2、2(λ+−a)D2(\lambda_+-a)D に等しくなり、μ(σ0)=(a−c)/2D\mu(\sigma_0)=\frac{(a-c)/2}{D} です。(a−c)/2=eβJsinh⁡βh(a-c)/2=e^{\beta J}\sinh\beta h、b=e−βJb=e^{-\beta J} を代入すると eβJsinh⁡βhe2βJsinh⁡2βh+e−2βJ=sinh⁡βhsinh⁡2βh+e−4βJ\dfrac{e^{\beta J}\sinh\beta h}{\sqrt{e^{2\beta J}\sinh^2\beta h+e^{-2\beta J}}}=\dfrac{\sinh\beta h}{\sqrt{\sinh^2\beta h+e^{-4\beta J}}}。

演習 8.2易

C={x∈Z2:∥x∥∞=1}C=\{x\in\mathbb{Z}^2:\|x\|_\infty=1\}(原点を囲む 8 点)とします。∂∗C\partial^*C は連結でないこと、CC の穴を埋めた B=C∪{0}B=C\cup\{0\} では ∂∗B\partial^*B が連結な長さ 12 の正方形になることを確かめてください。どの仮定が 補題 5.3 で効いているかも述べてください。

解答

∂eC\partial_eC は外側の境界辺 12 本と、原点と 4 つの隣接点を結ぶ内側の 4 本からなります。内側の 4 本の双対は原点を囲む長さ 4 の正方形、外側の 12 本の双対は [−32,32]2[-\frac32,\frac32]^2 の周で、両者は頂点を共有しないので ∂∗C\partial^*C は 2 つの成分からなります。B=C∪{0}={−1,0,1}2B=C\cup\{0\}=\{-1,0,1\}^2 では内側の 4 本が消え、外側の正方形だけが残ります。Z2∖C\mathbb{Z}^2\setminus C は {0}\{0\} と外側の 2 つの成分をもち連結でないので、補題 5.3 の仮定「補集合が連結」が満たされません。Peierls の議論で穴を埋めるのはこのためです。

演習 8.3標準

定理 6.1 の評価から、β→∞\beta\to\infty で 1−m∗(β)=O(e−8βJ)1-m^*(\beta)=O(e^{-8\beta J}) を示してください。また、原点が孤立した −- である配位だけを数えて、1−⟨σ0⟩Λ+≥c e−8βJ1-\langle\sigma_0\rangle^+_\Lambda\ge c\,e^{-8\beta J}(c>0c>0 は β\beta によらない、βJ≥1\beta J\ge1)を示し、指数 8βJ8\beta J が正しいことを確かめてください。

解答

y=9e−4βJy=9e^{-4\beta J} なので ∑j≥22jyj=4y2(1+O(y))=324e−8βJ(1+O(e−4βJ))\sum_{j\ge2}2jy^j=4y^2(1+O(y))=324e^{-8\beta J}(1+O(e^{-4\beta J}))、よって 1−⟨σ0⟩Λ+=2μΛ+(σ0=−1)=O(e−8βJ)1-\langle\sigma_0\rangle^+_\Lambda=2\mu^+_\Lambda(\sigma_0=-1)=O(e^{-8\beta J}) が Λ\Lambda について一様に成り立ち、m∗m^* にも引き継がれます。逆向きには、原点のスピンを反転する写像を、4 つの隣接点がすべて ++ の配位に使うと、重みは e−8βJe^{-8\beta J} 倍になります。よって μΛ+(σ0=−1)≥e−8βJμΛ+(原点と 4 隣接点がすべて +)\mu^+_\Lambda(\sigma_0=-1)\ge e^{-8\beta J}\mu^+_\Lambda(\text{原点と 4 隣接点がすべて }+) です(n≥1n\ge1)。定理 6.1 の証明は、着目する点が Λ\Lambda に属し Z2∖Λ\mathbb{Z}^2\setminus\Lambda が連結であることしか使わないので、原点の隣接点 xx でも μΛ+(σx=−1)≤2y2(2−y)/(1−y)2\mu^+_\Lambda(\sigma_x=-1)\le2y^2(2-y)/(1-y)^2 です。βJ≥1\beta J\ge1 では y≤9e−4<0.17y\le9e^{-4}<0.17 で、この右辺は 0.150.15 未満なので、5 点がすべて ++ である確率は 1−5⋅0.15=0.251-5\cdot0.15=0.25 以上です。したがって 1−⟨σ0⟩Λ+=2μΛ+(σ0=−1)≥0.5 e−8βJ1-\langle\sigma_0\rangle^+_\Lambda=2\mu^+_\Lambda(\sigma_0=-1)\ge0.5\,e^{-8\beta J} です。

  • S. Friedli, Y. Velenik, Statistical Mechanics of Lattice Systems: A Concrete Mathematical Introduction, Cambridge University Press, 2017 — 第 3 章(1 次元と Peierls の議論)、第 7 章(Pirogov–Sinai 理論)。
  • H.-O. Georgii, Gibbs Measures and Phase Transitions, 2nd ed., de Gruyter, 2011 — 第 6 章(Ising 模型の相転移)。
  • R. Peierls, “On Ising’s model of ferromagnetism”, Proceedings of the Cambridge Philosophical Society 32 (1936), 477–481.
  • R. B. Griffiths, “Peierls proof of spontaneous magnetization in a two-dimensional Ising ferromagnet”, Physical Review 136 (1964), A437–A439.
  • S. A. Pirogov, Ya. G. Sinai, “Phase diagrams of classical lattice systems”, Theoretical and Mathematical Physics 25 (1975), 1185–1192; 26 (1976), 39–49.
  • B. Simon, The Statistical Mechanics of Lattice Gases, Vol. I, Princeton University Press, 1993 — 転送行列と 1 次元系を扱う節。

このテーマの 100 本ノック(50 問)

執筆: Claude Code(Opus 5.5)、Claude Code(Sonnet 5.5)・監査 3 回(Claude Code)・最終 2026-10-12

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