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Lee–Yang の円定理:Asano 縮約による証明と外場のもとでの相転移の不在

対象読者: 本テーマ第 1 章(圧力)と、複素解析(最大値原理・Schwarz の補題・正則関数族の Montel と Vitali の定理)を学んだ修士課程の人。Ising 模型の定義は本文で述べます。

前提となる記事:熱力学的極限:圧力の存在・凸性・Gibbs の変分原理と Cramér の定理、最大値原理の一般化と正則関数族:Phragmén–Lindelöf から Montel・Vitali まで

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磁石を熱すると、ある温度で急に磁石でなくなります。このような急な変化(相転移)が数式のどこに現れるのかは、意外なほど分かりにくい問題です。この記事では、計算に出てくる多項式の「零点」(値が 0 になる点)がどこにあるかに注目します。零点が円周の上に並んでいると分かると、外から磁場をかけた磁石では急な変化が起こらないことまで言えます。

  • 強磁性 Ising 模型の分配関数を、各点の外場 hxh_x から作った変数 zx=e−2βhxz_x=e^{-2\beta h_x} の多項式と見ると、それは各変数について 1 次(多重アフィン)です。
  • Lee–Yang の円定理(定理 4.2): すべての ∣zx∣<1|z_x|<1 で分配関数は 00 になりません。全点に同じ外場を置けば、零点はすべて単位円周 ∣z∣=1|z|=1、すなわち純虚数の外場の上にあります。
  • 証明の鍵は Asano 縮約(補題 3.1)です。a+bz1+cz2+dz1z2a+bz_1+cz_2+dz_1z_2 が単位円板の直積で 00 にならなければ、a+dza+dz も単位円板で 00 になりません。これを Schwarz–Pick の補題で示し、辺を 1 本ずつ加えながら分配関数を組み立てます。
  • 相転移の不在(定理 5.2): 外場の実部が 00 でない領域では、有限体積の log⁡Z/∣Λ∣\log Z/|\Lambda| が一様に有界な正則関数の族になり、Vitali の定理で極限の圧力が正則になります。外場が 00 でない強磁性 Ising 模型では、圧力も磁化も外場の実解析関数です。
  • 相転移が起こりうるのは h=0h=0 だけで、そこでは低温で零点が z=1z=1 に集積します(前章 の Peierls の議論と整合)。

有限の系の分配関数は正の値をとる解析関数の有限和なので、その対数は実パラメータについて解析的です。相転移、すなわち極限の圧力の特異性は、どこから生じるのでしょうか。Yang と Lee(1952)の答えは「複素数のパラメータでの分配関数の零点」です。有限体積では零点は実軸から離れていますが、体積を大きくすると零点が実軸に近づき、極限で実軸を挟み込む点が特異点になります。逆に、実軸のある区間の複素近傍に零点が体積によらず入ってこなければ、極限でもその区間で圧力は解析的です。

この見方を実際に使うには、零点の位置を知る必要があります。Lee と Yang は、強磁性 Ising 模型では外場の変数 z=e−2βhz=e^{-2\beta h} についての零点がすべて単位円周上にあるという驚くべき事実を示しました。単位円周は h∈iRh\in i\mathbb{R} に対応するので、実の外場 h≠0h\ne0 はつねに零点から離れていて、相転移は h=0h=0 でしか起こりえません。本章では Asano(1970)による見通しのよい証明を、複素解析の基本定理(Schwarz–Pick の補題、Vitali の定理)だけを使って完全に与えます。

G=(V,E)G=(V,E) を有限グラフ(多重辺・自己ループなし)、各辺 ee に重み we∈[0,1]w_e\in[0,1] を与えます。X⊂VX\subset V について、端点のちょうど一方が XX にある辺の集合を ∂X\partial X と書き、z=(zx)x∈V∈CVz=(z_x)_{x\in V}\in\mathbb{C}^V について zX=∏x∈Xzxz^X=\prod_{x\in X}z_x とします。たとえば三角形のグラフで XX が 1 点だけなら、∂X\partial X はその点につながる 2 本の辺で、XX が 3 点全部なら ∂X\partial X は空です。つまり ∂X\partial X は、XX の内側と外側をまたぐ辺の集まりです。

定義 2.1(Lee–Yang 多項式)↗

PG(z)=∑X⊂VzX∏e∈∂XweP_G(z)=\sum_{X\subset V}z^X\prod_{e\in\partial X}w_e

を (G,w)(G,w) の Lee–Yang 多項式という。PGP_G は各変数 zxz_x について高々 1 次であり(多重アフィン)、PG(0)=1P_G(0)=1 である。

補題 2.2(Ising 模型の分配関数)✓

β>0\beta>0、Je≥0J_e\ge0(e∈Ee\in E)、hx∈Ch_x\in\mathbb{C}(x∈Vx\in V)について

Z=∑σ∈{−1,1}Vexp⁡(β∑e={x,y}∈EJeσxσy+β∑x∈Vhxσx)=exp⁡(β∑eJe+β∑xhx)PG(z),Z=\sum_{\sigma\in\{-1,1\}^V}\exp\Bigl(\beta\sum_{e=\{x,y\}\in E}J_e\sigma_x\sigma_y+\beta\sum_{x\in V}h_x\sigma_x\Bigr) =\exp\Bigl(\beta\sum_eJ_e+\beta\sum_xh_x\Bigr)P_G(z),

ここで zx=e−2βhxz_x=e^{-2\beta h_x}、we=e−2βJe∈(0,1]w_e=e^{-2\beta J_e}\in(0,1] である。

証明(補題 2.2)

σ\sigma と X={x:σx=−1}X=\{x:\sigma_x=-1\} を対応させます。辺 e={x,y}e=\{x,y\} では、e∈∂Xe\in\partial X なら σxσy=−1=1−2\sigma_x\sigma_y=-1=1-2、そうでなければ 11 なので ∑eJeσxσy=∑eJe−2∑e∈∂XJe\sum_eJ_e\sigma_x\sigma_y=\sum_eJ_e-2\sum_{e\in\partial X}J_e。同様に ∑xhxσx=∑xhx−2∑x∈Xhx\sum_xh_x\sigma_x=\sum_xh_x-2\sum_{x\in X}h_x。指数をとれば e−2β∑e∈∂XJe=∏e∈∂Xwee^{-2\beta\sum_{e\in\partial X}J_e}=\prod_{e\in\partial X}w_e、e−2β∑x∈Xhx=zXe^{-2\beta\sum_{x\in X}h_x}=z^X です。

外場が実数で正なら ∣zx∣<1|z_x|<1、負なら ∣zx∣>1|z_x|>1 です。一般に ∣zx∣<1  ⟺  Re⁡hx>0|z_x|<1\iff\operatorname{Re}h_x>0 です。境界条件 ++ は境界の点の外場を βJ⋅(外の隣接点の数)≥0\beta J\cdot(\text{外の隣接点の数})\ge0 だけ増やすので(前章 §2)、Re⁡hx>0\operatorname{Re}h_x>0 の条件を保ちます。

補題 2.3(反転対称性)✓

PG(z)=(∏x∈Vzx)PG(1/z)P_G(z)=\Bigl(\prod_{x\in V}z_x\Bigr)P_G(1/z)(zx≠0z_x\ne0)。ここで 1/z=(1/zx)x1/z=(1/z_x)_x。

証明(補題 2.3)

X↦V∖XX\mapsto V\setminus X は ∂X=∂(V∖X)\partial X=\partial(V\setminus X) を保ち、zV∖X=zV⋅(1/z)Xz^{V\setminus X}=z^V\cdot(1/z)^X です。

D={∣z∣<1}\mathbb{D}=\{|z|<1\} とします。

次の補題は「2 つの変数を 1 つにまとめても、単位円板の中で値が 0 にならない」ことを保証するもので、4 節で辺を 1 本ずつ足していくときの部品になります。証明では、z1z_1 を消去してできる関数 φ\varphi が単位円板を単位円板に写すことを確かめ、Schwarz–Pick の補題(円板を円板に写す正則関数の原点での微分の絶対値は、1−∣φ(0)∣21-|\varphi(0)|^2 以下)を当てはめます。

補題 3.1(Asano の補題)✓

a,b,c,d∈Ca,b,c,d\in\mathbb{C} とし、Q(z1,z2)=a+bz1+cz2+dz1z2Q(z_1,z_2)=a+bz_1+cz_2+dz_1z_2 が D2\mathbb{D}^2 上で 00 にならないとする。このとき a+dza+dz は D\mathbb{D} 上で 00 にならない。

証明(補題 3.1)

(1) 準備. Q(0,0)=a≠0Q(0,0)=a\ne0。z1=0z_1=0 とおくと a+cz2≠0a+cz_2\ne0(z2∈Dz_2\in\mathbb{D})なので、

φ(z2)=b+dz2a+cz2\varphi(z_2)=\frac{b+dz_2}{a+cz_2}

は D\mathbb{D} 上の正則関数です。z2∈Dz_2\in\mathbb{D} で ∣φ(z2)∣>1|\varphi(z_2)|>1 なら、z1=−(a+cz2)/(b+dz2)z_1=-(a+cz_2)/(b+dz_2) は ∣z1∣<1|z_1|<1 を満たし Q(z1,z2)=(a+cz2)+z1(b+dz2)=0Q(z_1,z_2)=(a+cz_2)+z_1(b+dz_2)=0 となって仮定に反します。よって ∣φ∣≤1|\varphi|\le1 です。

(2) 導関数の評価. ∣φ∣|\varphi| が D\mathbb{D} のどこかで 11 に達すれば、最大値原理(定理 7.7[正則関数の強力な性質])から φ\varphi は定数で φ′(0)=0\varphi'(0)=0、∣φ(0)∣=1|\varphi(0)|=1。そうでなければ φ:D→D\varphi:\mathbb{D}\to\mathbb{D} で、Schwarz–Pick の補題(定理 4.1[最大値原理の一般化と正則関数族]、a=0a=0)から ∣φ′(0)∣≤1−∣φ(0)∣2|\varphi'(0)|\le1-|\varphi(0)|^2。どちらの場合も

∣φ′(0)∣≤1−∣φ(0)∣2,φ(0)=ba,φ′(0)=ad−bca2.|\varphi'(0)|\le1-|\varphi(0)|^2,\qquad\varphi(0)=\frac ba,\quad\varphi'(0)=\frac{ad-bc}{a^2}.

したがって ∣ad−bc∣≤∣a∣2−∣b∣2|ad-bc|\le|a|^2-|b|^2。z1z_1 と z2z_2 の役割を入れ替えた同じ議論で ∣ad−bc∣≤∣a∣2−∣c∣2|ad-bc|\le|a|^2-|c|^2。

(3) ∣d∣≤∣a∣|d|\le|a|. 2 つの不等式と三角不等式から

∣a∣∣d∣≤∣ad−bc∣+∣b∣∣c∣≤∣a∣2−∣b∣2+∣c∣22+∣b∣∣c∣=∣a∣2−(∣b∣−∣c∣)22≤∣a∣2.|a||d|\le|ad-bc|+|b||c|\le|a|^2-\frac{|b|^2+|c|^2}{2}+|b||c|=|a|^2-\frac{(|b|-|c|)^2}{2}\le|a|^2 .

よって ∣d∣≤∣a∣|d|\le|a| です。z∈Dz\in\mathbb{D} なら ∣a+dz∣≥∣a∣−∣d∣∣z∣>0|a+dz|\ge|a|-|d||z|>0(d=0d=0 なら ∣a∣>0|a|>0、d≠0d\ne0 なら ∣d∣∣z∣<∣d∣≤∣a∣|d||z|<|d|\le|a|)。

命題 3.2(縮約は非零性を保つ)✓

R(z1,z2,z3,…,zn)R(z_1,z_2,z_3,\dots,z_n) を多重アフィン多項式とし、Dn\mathbb{D}^n 上で 00 にならないとする。R=A+Bz1+Cz2+Dz1z2R=A+Bz_1+Cz_2+Dz_1z_2(A,B,C,DA,B,C,D は z3,…,znz_3,\dots,z_n の多重アフィン多項式)と書くとき、z1z_1 と z2z_2 の縮約

R~(z,z3,…,zn)=A+Dz\widetilde R(z,z_3,\dots,z_n)=A+Dz

は Dn−1\mathbb{D}^{n-1} 上で 00 にならない多重アフィン多項式である。

証明(命題 3.2)

(z3,…,zn)∈Dn−2(z_3,\dots,z_n)\in\mathbb{D}^{n-2} を固定すると、(z1,z2)↦R(z_1,z_2)\mapsto R は 補題 3.1 の仮定を満たすので、A+Dz≠0A+Dz\ne0(z∈Dz\in\mathbb{D})。多重アフィン性は明らかです。

縮約は、z1z_1 と z2z_2 を「同じ点の 2 つのコピー」と見て、両方が入るか両方とも入らない項だけを残し、z1z2z_1z_2 を zz に置き換える操作です。

定理の証明の方針は、辺の本数についての帰納法です。辺のないグラフでは多項式が ∏x(1+zx)\prod_x(1+z_x) で、単位円板で 0 になりません。辺を 1 本足すときは、その辺だけの多項式 KK を掛けて、辺の両端の変数を Asano 縮約でまとめます。縮約は 0 にならない性質を保ち、その結果がちょうど辺を足したグラフの多項式になります。

補題 4.1(1 本の辺)✓

0≤w≤10\le w\le1 について K(u,v)=1+wu+wv+uvK(u,v)=1+wu+wv+uv は D2\mathbb{D}^2 上で 00 にならない。

証明(補題 4.1)

w=1w=1 なら K=(1+u)(1+v)K=(1+u)(1+v) です。w<1w<1 とし、u∈Du\in\mathbb{D} を固定します。

∣1+wu∣2−∣w+u∣2=(1−w2)(1−∣u∣2)>0|1+wu|^2-|w+u|^2=(1-w^2)(1-|u|^2)>0

なので ∣w+u∣<∣1+wu∣|w+u|<|1+wu|。K=(1+wu)+v(w+u)K=(1+wu)+v(w+u) が 00 になるのは v=−(1+wu)/(w+u)v=-(1+wu)/(w+u)(w+u≠0w+u\ne0 のとき)で、∣v∣>1|v|>1 です。w+u=0w+u=0 なら K=1+wu≠0K=1+wu\ne0 です。

定理 4.2(Lee–Yang の円定理)✓

(G,w)(G,w) を有限グラフと辺の重み we∈[0,1]w_e\in[0,1] とする。

(i) すべての xx で ∣zx∣<1|z_x|<1 ならば PG(z)≠0P_G(z)\ne0。すべての xx で ∣zx∣>1|z_x|>1 ならば PG(z)≠0P_G(z)\ne0。

(ii) 1 変数多項式 p(z)=PG(z,z,…,z)p(z)=P_G(z,z,\dots,z) の零点はすべて単位円周 ∣z∣=1|z|=1 上にある。

(iii) 強磁性 Ising 模型(補題 2.2、Je≥0J_e\ge0)の分配関数は、すべての xx で Re⁡hx>0\operatorname{Re}h_x>0(またはすべての xx で Re⁡hx<0\operatorname{Re}h_x<0)なら 00 にならない。全点で同じ外場 hh なら、ZZ の零点は虚軸 Re⁡h=0\operatorname{Re}h=0 の上にある。

証明(定理 4.2)

(i) の前半. 辺の本数についての帰納法です。E=∅E=\emptyset なら ∂X=∅\partial X=\emptyset で PG(z)=∏x(1+zx)P_G(z)=\prod_x(1+z_x)、これは DV\mathbb{D}^V で 00 になりません。

G′=(V,E∪{e})G'=(V,E\cup\{e\})、e={x,y}e=\{x,y\} とし、PGP_G が DV\mathbb{D}^V で 00 にならないとします。新しい変数 u,vu,v を用意して

R(z,u,v)=PG(z) K(u,v),K(u,v)=1+weu+wev+uvR(z,u,v)=P_G(z)\,K(u,v),\qquad K(u,v)=1+w_eu+w_ev+uv

とおくと、RR は多重アフィンで、補題 4.1 から DV×D2\mathbb{D}^{V}\times\mathbb{D}^2 で 00 になりません。RR で zxz_x と uu を縮約し、次に zyz_y と vv を縮約したものを R~\widetilde R とすると、命題 3.2 を 2 回使って R~\widetilde R は DV\mathbb{D}^V で 00 になりません。

R~=PG′\widetilde R=P_{G'} を確かめます。RR を展開すると

R=∑X⊂V ∑Y⊂{u,v}zX(∏f∈∂Xwf) u[u∈Y]v[v∈Y] we[ ∣Y∣=1 ]R=\sum_{X\subset V}\ \sum_{Y\subset\{u,v\}}z^X\Bigl(\prod_{f\in\partial X}w_f\Bigr)\,u^{[u\in Y]}v^{[v\in Y]}\,w_e^{[\,|Y|=1\,]}

([⋅][\cdot] は条件が成り立てば 11、そうでなければ 00)。zxz_x と uu の縮約は「x∈X  ⟺  u∈Yx\in X\iff u\in Y」の項だけを残し、zxuz_xu を zxz_x に置き換えます。zyz_y と vv についても同様です。残る項は YY が X∩{x,y}X\cap\{x,y\} に対応する項で、その因子 we[∣Y∣=1]w_e^{[|Y|=1]} は「ee の端点のちょうど一方が XX にある」ときの wew_e です。よって

R~(z)=∑X⊂VzX(∏f∈∂Xwf)we[e∈∂′X]=PG′(z),\widetilde R(z)=\sum_{X\subset V}z^X\Bigl(\prod_{f\in\partial X}w_f\Bigr)w_e^{[e\in\partial'X]}=P_{G'}(z),

ここで ∂′X\partial'X は G′G' での境界です。

(i) の後半. 補題 2.3 から PG(z)=zVPG(1/z)P_G(z)=z^VP_G(1/z) で、∣1/zx∣<1|1/z_x|<1 なので前半から 00 ではありません。

(ii) (i) を対角線 zx=zz_x=z に使うと、∣z∣<1|z|<1 と ∣z∣>1|z|>1 で p(z)≠0p(z)\ne0 です。

(iii) 補題 2.2 で指数の因子は 00 にならず、Re⁡hx>0  ⟺  ∣zx∣<1\operatorname{Re}h_x>0\iff|z_x|<1 です。

1−1零点なし
1 次元の周期的な Ising 鎖(、)の Lee–Yang 零点を 平面に描いた図。零点はすべて単位円周上にあり、()のまわりの弧 には零点がない。

例 4.3(2 点の場合)

V={1,2}V=\{1,2\}、辺 1 本、重み ww のとき p(z)=1+2wz+z2p(z)=1+2wz+z^2 です。零点は z=−w±i1−w2z=-w\pm i\sqrt{1-w^2} で、∣z∣2=w2+(1−w2)=1|z|^2=w^2+(1-w^2)=1 です。反強磁性 J<0J<0(w>1w>1)では零点 −w±w2−1-w\pm\sqrt{w^2-1} は実数で単位円周上にありません。円定理は強磁性を本質的に使っています。

次の例は、1 次元の鎖なら零点を直接計算できることを見るものです。前章の転送行列(隣り合う 2 点の組み合わせの重みを並べた 2×2 行列)の固有値 λ±\lambda_\pm を使うと、分配関数は λ+N+λ−N\lambda_+^N+\lambda_-^N と書けます。これが 0 になるのは ∣λ+∣=∣λ−∣|\lambda_+|=|\lambda_-| のときに限られるので、固有値の大きさが違う範囲を調べれば、零点のない範囲が分かります。

例 4.4(1 次元の周期鎖の零点)

NN 点の周期的な鎖では、前章 の転送行列について ZN=tr⁡TN=λ+N+λ−NZ_N=\operatorname{tr}T^N=\lambda_+^N+\lambda_-^N で、

λ±=eβJcosh⁡βh±e2βJsinh⁡2βh+e−2βJ\lambda_\pm=e^{\beta J}\cosh\beta h\pm\sqrt{e^{2\beta J}\sinh^2\beta h+e^{-2\beta J}}

です(この式は複素数の hh でも代数的に成り立ちます)。単位円周上の点 z=e−iθz=e^{-i\theta} は βh=iθ/2\beta h=i\theta/2 に対応し、cosh⁡βh=cos⁡(θ/2)\cosh\beta h=\cos(\theta/2)、sinh⁡2βh=−sin⁡2(θ/2)\sinh^2\beta h=-\sin^2(\theta/2) です。根号の中 D=e−2βJ−e2βJsin⁡2(θ/2)D=e^{-2\beta J}-e^{2\beta J}\sin^2(\theta/2) が D≥0D\ge0 なら λ±\lambda_\pm は実数で、∣λ+∣=∣λ−∣|\lambda_+|=|\lambda_-| となるのは cos⁡(θ/2)=0\cos(\theta/2)=0 のときだけですが、そのとき D=e−2βJ−e2βJ<0D=e^{-2\beta J}-e^{2\beta J}<0 です。よって D≥0D\ge0、すなわち

∣sin⁡(θ/2)∣≤e−2βJ|\sin(\theta/2)|\le e^{-2\beta J}

の弧では ∣λ+∣≠∣λ−∣|\lambda_+|\ne|\lambda_-| で ZN≠0Z_N\ne0 です。この零点のない弧は z=1z=1(h=0h=0)を含み、NN によりません。これが 1 次元で h=0h=0 でも相転移がないことの零点の側からの説明です。弧の幅は β→∞\beta\to\infty で 00 に縮みます。

5. 自由エネルギーの解析性と相転移の不在

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以下、Zd\mathbb{Z}^d の最近接強磁性 Ising 模型(β>0\beta>0、J>0J>0、一様な外場 hh)を考え、ΛL={0,…,L−1}d\Lambda_L=\{0,\dots,L-1\}^d とします。自由境界条件の分配関数を ZL(h)Z_L(h)、ELE_L を ΛL\Lambda_L 内の最近接対の集合とすると、補題 2.2 から

ZL(h)=eβJ∣EL∣+βh∣ΛL∣ pL(e−2βh),pL(z)=PGL(z,…,z)Z_L(h)=e^{\beta J|E_L|+\beta h|\Lambda_L|}\,p_L(e^{-2\beta h}),\qquad p_L(z)=P_{G_L}(z,\dots,z)

です(GLG_L は ΛL\Lambda_L の最近接グラフ、重みは w=e−2βJw=e^{-2\beta J})。

次の補題は、多項式 pLp_L を零点で因数分解して対数をとり、その大きさが LL によらずに抑えられることを示します。pLp_L の次数が点の数 NN にちょうど等しいので、零点が NN 個あり、それぞれの対数を 1/N1/N 倍して平均した関数 gLg_L が作れます。この一様な評価が、次の定理で Vitali の定理を使うための入り口になります。

補題 5.1(対数の一様な評価)✓

pLp_L の零点を ζ1,…,ζN\zeta_1,\dots,\zeta_{N}(N=∣ΛL∣N=|\Lambda_L|、重複を込めて)とすると、

gL(z)=1N∑j=1NLog⁡(1−zζj)(z∈D)g_L(z)=\frac1N\sum_{j=1}^N\operatorname{Log}\Bigl(1-\frac z{\zeta_j}\Bigr)\qquad(z\in\mathbb{D})

(Log⁡\operatorname{Log} は主値)は D\mathbb{D} 上の正則関数で、eNgL=pLe^{Ng_L}=p_L、∣gL(z)∣≤−log⁡(1−∣z∣)|g_L(z)|\le-\log(1-|z|) を満たす。z∈[0,1)z\in[0,1) では gL(z)=N−1log⁡pL(z)g_L(z)=N^{-1}\log p_L(z)(実数の対数)である。

証明(補題 5.1)

pLp_L の zNz^N の係数は X=ΛLX=\Lambda_L の項で 11、定数項は 11 なので、pLp_L はちょうど NN 次で、零点はすべて ∣ζj∣=1|\zeta_j|=1 にあります(定理 4.2 (ii))。pL(0)=1p_L(0)=1 から pL(z)=∏j(1−z/ζj)p_L(z)=\prod_j(1-z/\zeta_j) です(両辺は同じ零点をもつ NN 次多項式で、z=0z=0 での値が等しい)。z∈Dz\in\mathbb{D} では uj=z/ζju_j=z/\zeta_j が ∣uj∣=∣z∣<1|u_j|=|z|<1 を満たすので Re⁡(1−uj)>0\operatorname{Re}(1-u_j)>0 で、主値の対数は正則、exp⁡\exp をとれば積に戻ります。また

∣Log⁡(1−u)∣=∣∑k≥1ukk∣≤∑k≥1∣u∣kk=−log⁡(1−∣u∣)|\operatorname{Log}(1-u)|=\Bigl|\sum_{k\ge1}\frac{u^k}k\Bigr|\le\sum_{k\ge1}\frac{|u|^k}k=-\log(1-|u|)

から評価が出ます。pLp_L は実係数なので零点は複素共役の組で現れ、zz が実数なら Log⁡(1−z/ζˉ)=Log⁡(1−z/ζ)‾\operatorname{Log}(1-z/\bar\zeta)=\overline{\operatorname{Log}(1-z/\zeta)} から gL(z)g_L(z) は実数です。eNgL(z)=pL(z)>0e^{Ng_L(z)}=p_L(z)>0 なので、gL(z)g_L(z) は正の実数 pL(z)p_L(z) の実対数の 1/N1/N 倍です。

定理 5.2(外場のもとでの圧力の解析性)✓

Zd\mathbb{Z}^d の最近接強磁性 Ising 模型で、実数 hh についての圧力 p(h)=lim⁡L∣ΛL∣−1log⁡ZL(h)p(h)=\lim_L|\Lambda_L|^{-1}\log Z_L(h)(定理 3.1[熱力学的極限])は、右半平面 {Re⁡h>0}\{\operatorname{Re}h>0\} 上の正則関数に延長される。h<0h<0 についても同様で、pp は R∖{0}\mathbb{R}\setminus\{0\} 上で実解析的である。さらに、有限体積の平均磁化

mL(h)=1β∣ΛL∣∂∂hlog⁡ZL(h)m_L(h)=\frac{1}{\beta|\Lambda_L|}\frac{\partial}{\partial h}\log Z_L(h)

は Re⁡h>0\operatorname{Re}h>0 上で局所一様に正則関数 m(h)=β−1p′(h)m(h)=\beta^{-1}p'(h) に収束する。

Vitali の定理を使う理由は次のとおりです。gLg_L は円板の中で局所一様に有界で、実軸の区間 (0,1)(0,1) の上では圧力の存在(熱力学的極限)から収束することが分かっています。この区間は円板の内部に集積点をもつので、実軸上の収束が円板全体の収束に引き上げられます。

証明(定理 5.2)

補題 5.1 の gLg_L は D\mathbb{D} 上で局所一様有界です(∣z∣≤r|z|\le r で −log⁡(1−r)-\log(1-r) 以下)。z∈(0,1)z\in(0,1) に対応する実数 h=−12βlog⁡z>0h=-\frac1{2\beta}\log z>0 では

log⁡ZL(h)∣ΛL∣=βJ∣EL∣∣ΛL∣+βh+gL(z)\frac{\log Z_L(h)}{|\Lambda_L|}=\beta J\frac{|E_L|}{|\Lambda_L|}+\beta h+g_L(z)

で、左辺は p(h)p(h) に、∣EL∣/∣ΛL∣=d(L−1)/L→d|E_L|/|\Lambda_L|=d(L-1)/L\to d なので、gL(z)g_L(z) は各 z∈(0,1)z\in(0,1) で収束します。(0,1)(0,1) は D\mathbb{D} 内に集積点をもつので、Vitali の定理(定理 8.1[最大値原理の一般化と正則関数族])から gLg_L は D\mathbb{D} 上で正則関数 gg に局所一様収束します。h↦e−2βhh\mapsto e^{-2\beta h} は右半平面を D∖{0}\mathbb{D}\setminus\{0\} に正則に写すので、

p(h)=βJd+βh+g(e−2βh)p(h)=\beta Jd+\beta h+g(e^{-2\beta h})

の右辺は Re⁡h>0\operatorname{Re}h>0 で正則で、実軸上で pp に一致します。h<0h<0 はスピン反転で p(−h)=p(h)p(-h)=p(h) となることから従います。

磁化については、∣ΛL∣−1log⁡ZL(h)=βJ∣EL∣/∣ΛL∣+βh+gL(e−2βh)|\Lambda_L|^{-1}\log Z_L(h)=\beta J|E_L|/|\Lambda_L|+\beta h+g_L(e^{-2\beta h}) が Re⁡h>0\operatorname{Re}h>0 で局所一様に収束する正則関数の列なので、Weierstrass の収束定理(定理 5.2[偏角の原理と Rouché の定理])から導関数も局所一様に収束します。

注意 5.3(「相転移がない」ことの意味)

定理 5.2 は熱力学的な意味(圧力の特異性)での相転移が h≠0h\ne0 で起きないことを示します。Gibbs 測度の一意性という意味でも、h≠0h\ne0 の強磁性 Ising 模型では Gibbs 測度がただ一つであることが知られています。証明には、圧力の hh についての微分可能性と、FKG 不等式による μ−≤μ≤μ+\mu^-\le\mu\le\mu^+ の順序(次章 で使う確率的な比較)を組み合わせます(Lebowitz–Martin-Löf 1972)。h=0h=0 では、前章 の Peierls の議論により d≥2d\ge2 の低温で μ+≠μ−\mu^+\ne\mu^- で、零点は L→∞L\to\infty で z=1z=1 に集積します。実際、零点が z=1z=1 の近傍を避け続けるなら、上と同じ議論で pp は h=0h=0 でも解析的になり、h↓0h\downarrow0 と h↑0h\uparrow0 の磁化の極限が一致してしまいます。

注意 5.4(一般化)

円定理は、結合が非負であれば任意のグラフ(長距離の結合や、JeJ_e が辺ごとに異なる場合)で成り立ち、本章の証明もそのまま通ります。さらに、1 点の分布が偶で「Lee–Yang 性」をもつ連続スピン(たとえば e−λϕ4−aϕ2dϕe^{-\lambda\phi^4-a\phi^2}d\phi、λ>0\lambda>0)にも拡張され(Simon–Griffiths 1973、Newman 1974)、格子 ϕ4\phi^4 模型や P(ϕ)2P(\phi)_2 場の理論の質量ギャップの議論で使われます。多変数の非零性は、現代的には安定多項式(Borcea–Brändén の理論)の枠組みで理解されています。

演習 6.1易

3 点の完全グラフ(三角形)で、すべての重みが ww のとき p(z)=1+3w2z+3w2z2+z3p(z)=1+3w^2z+3w^2z^2+z^3 を示し、z=−1z=-1 が零点であることと、残りの 2 つの零点が単位円周上にあることを確かめてください。

解答

∣X∣=0,3|X|=0,3 では ∂X=∅\partial X=\emptyset、∣X∣=1,2|X|=1,2 では ∣∂X∣=2|\partial X|=2 なので p(z)=1+3w2z+3w2z2+z3p(z)=1+3w^2z+3w^2z^2+z^3。p(−1)=1−3w2+3w2−1=0p(-1)=1-3w^2+3w^2-1=0。p(z)=(z+1)(z2+(3w2−1)z+1)p(z)=(z+1)(z^2+(3w^2-1)z+1) で、2 次式の判別式は (3w2−1)2−4≤0(3w^2-1)^2-4\le0(0≤w≤10\le w\le1 では −1≤3w2−1≤2-1\le3w^2-1\le2)。判別式が負なら零点は互いに共役で積が 11 なので絶対値 11、00 なら重根 z=±1z=\pm1 です。

演習 6.2標準

補題 3.1 で、仮定を「D2\mathbb{D}^2 で 00 にならない」から「D×{0}\mathbb{D}\times\{0\} と {0}×D\{0\}\times\mathbb{D} で 00 にならない」に弱めると結論が成り立たないことを、Q(z1,z2)=1+2z1z2Q(z_1,z_2)=1+2z_1z_2 で示してください。また、この QQ が D2\mathbb{D}^2 のどこで 00 になるかを答えてください。

解答

Q(z1,0)=Q(0,z2)=1Q(z_1,0)=Q(0,z_2)=1 なので弱めた仮定は満たされますが、a+dz=1+2za+dz=1+2z は z=−1/2∈Dz=-1/2\in\mathbb{D} で 00 です。QQ は z1z2=−1/2z_1z_2=-1/2 となる点、たとえば z1=z2=i/2z_1=z_2=i/\sqrt2 で 00 になります。証明では φ(z2)=2z2\varphi(z_2)=2z_2 が ∣φ∣≤1|\varphi|\le1 を満たさないことが、この零点に対応します。

演習 6.3標準

補題 5.1 の積表示を使って、0<z<10<z<1 で

1Nddzlog⁡pL(z)=1N∑j1z−ζj\frac{1}{N}\frac{d}{dz}\log p_L(z)=\frac1N\sum_j\frac{1}{z-\zeta_j}

と書けることを示し、∣ΛL∣−1∂hlog⁡ZL|\Lambda_L|^{-1}\partial_h\log Z_L が h>0h>0 で LL によらず β(1+2e−2βh/(1−e−2βh))\beta(1+2e^{-2\beta h}/(1-e^{-2\beta h})) 以下であることを導いてください(自明な上界 β\beta と比べて、零点の情報がどこに入るかを述べてください)。

解答

pL=∏j(1−z/ζj)p_L=\prod_j(1-z/\zeta_j) の対数微分は ∑j−1/ζj1−z/ζj=∑j1z−ζj\sum_j\frac{-1/\zeta_j}{1-z/\zeta_j}=\sum_j\frac{1}{z-\zeta_j}。∣z−ζj∣≥1−z|z-\zeta_j|\ge1-z なので ∣N−1(log⁡pL)′(z)∣≤1/(1−z)|N^{-1}(\log p_L)'(z)|\le1/(1-z)。z=e−2βhz=e^{-2\beta h}、dz/dh=−2βzdz/dh=-2\beta z から

1N∂hlog⁡ZL=β+(−2βz)1N(log⁡pL)′(z),∣1N∂hlog⁡ZL∣≤β(1+2z1−z).\frac{1}{N}\partial_h\log Z_L=\beta+(-2\beta z)\frac1N(\log p_L)'(z),\qquad\Bigl|\frac1N\partial_h\log Z_L\Bigr|\le\beta\Bigl(1+\frac{2z}{1-z}\Bigr).

実際の値は βmL∈[−β,β]\beta m_L\in[-\beta,\beta] なので自明な上界のほうが良いのですが、この評価は複素数の hh でも(∣z∣<1|z|<1 で 1−∣z∣1-|z| に替えて)成り立ち、LL によらない点が重要です。導関数の一様な評価は、零点がすべて ∣ζj∣=1|\zeta_j|=1 にあることからだけ出ています。

  • T. D. Lee, C. N. Yang, “Statistical theory of equations of state and phase transitions. II. Lattice gas and Ising model”, Physical Review 87 (1952), 410–419.
  • C. N. Yang, T. D. Lee, “Statistical theory of equations of state and phase transitions. I. Theory of condensation”, Physical Review 87 (1952), 404–409.
  • T. Asano, “Lee–Yang theorem and the Griffiths inequality for the anisotropic Heisenberg ferromagnet”, Physical Review Letters 24 (1970), 1409–1411.
  • D. Ruelle, Statistical Mechanics: Rigorous Results, W. A. Benjamin, 1969 — Lee–Yang の定理を扱う節。
  • B. Simon, The Statistical Mechanics of Lattice Gases, Vol. I, Princeton University Press, 1993 — Lee–Yang の定理と Asano 縮約を扱う節。
  • S. Friedli, Y. Velenik, Statistical Mechanics of Lattice Systems: A Concrete Mathematical Introduction, Cambridge University Press, 2017 — 第 3 章(Lee–Yang の円定理)。

このテーマの 100 本ノック(50 問)

執筆: Claude Code(Opus 5.5)、Claude Code(Sonnet 5.5)・監査 2 回(Claude Code)・最終 2026-10-12

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