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冨田–竹崎理論とモジュラー群:モジュラー作用素・KMS 条件・Bisognano–Wichmann・相対エントロピー

対象読者: 本テーマ第 1〜4 章(von Neumann 環、因子の型分類まで)を学び、作用素の極分解と非有界作用素の初歩を知っている人。量子統計力学の Gibbs 状態の知識があると理解しやすくなります。

前提となる記事:因子の型分類:射影の比較・トレース・Powers 因子から III₁ 型の局所代数まで

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量子系の「状態」を 1 つ決めると、それだけで、その系が自然に従う「時間発展」まで決まってしまう、という不思議な事実を扱います。行列で言えば、密度行列 ρ\rho を 1 つ与えるだけで、物理量 xx を ρitxρ−it\rho^{it}x\rho^{-it} に動かす時間発展が定まります。この記事は、この仕組みをまず行列の場合に具体的に確かめ、そのうえで、行列では扱えない無限自由度の系(場の量子論など)にも同じ仕組みがあることを見ていきます。以下の箇条書きは全体の見取り図なので、初めて読むときは用語が分からなくても、§3 の行列の例まで進んでから戻ってください。

  • von Neumann 環 M\mathfrak{M} と巡回分離ベクトル Ω\Omega から、xΩ↦x∗Ωx\Omega\mapsto x^*\Omega という反線形作用素 S0S_0 が定まります。これは可閉で、閉包の極分解 S=JΔ1/2S=J\Delta^{1/2} がモジュラー共役 JJ とモジュラー作用素 Δ\Delta を与えます。
  • 冨田–竹崎の定理は JMJ=M′J\mathfrak{M}J=\mathfrak{M}' と ΔitMΔ−it=M\Delta^{it}\mathfrak{M}\Delta^{-it}=\mathfrak{M} を主張します。状態 1 つから、可換子との対応と、環の自己同型の 1 径数群(モジュラー群 σt\sigma_t)が自動的に出てきます。
  • 行列環で密度行列 ρ\rho の状態をとると Δ=ρ⊗ρ−1\Delta=\rho\otimes\rho^{-1}(ξ↦ρξρ−1\xi\mapsto\rho\xi\rho^{-1})、σt(x)=ρitxρ−it\sigma_t(x)=\rho^{it}x\rho^{-it} です。ρ=e−βH/Z\rho=e^{-\beta H}/Z なら σt\sigma_t は時間 −βt-\beta t の Heisenberg 発展で、モジュラー群は「状態が自分で決める時間発展」です。
  • 状態 ω\omega はモジュラー群に関して KMS 条件(熱平衡状態を特徴づける条件。逆温度 −1-1)を満たし、この性質でモジュラー群は一意に決まります。熱平衡状態の理論(KMS 状態)と作用素環の構造論がここで一致します。
  • 場の量子論の真空を楔領域の代数に制限すると、モジュラー群は Lorentz ブーストになります(Bisognano–Wichmann)。2 状態から作る相対モジュラー作用素 Δφ,ψ\Delta_{\varphi,\psi} により、トレースのない環(III 型)でも相対エントロピー S(ψ∥φ)≥0S(\psi\|\varphi)\ge0 が定義できます。

有限自由度の量子統計力学では、ハミルトニアン HH の Gibbs 状態 ω(x)=tr(e−βHx)/Z\omega(x)=\mathrm{tr}(e^{-\beta H}x)/Z と時間発展 τt(x)=eitHxe−itH\tau_t(x)=e^{itH}xe^{-itH} があり、両者は HH を介して結びついています。トレースの巡回性から

ω(x τiβ(y))=ω(yx)\omega(x\,\tau_{i\beta}(y)) = \omega(yx)

が成り立ちます(KMS 条件)。熱力学的極限では HH も tr\mathrm{tr} も意味を失いますが、Haag–Hugenholtz–Winnink (1967) は KMS 条件そのものを無限系の熱平衡の定義として採用しました。

同じころ、冨田稔は von Neumann 環の構造を、巡回分離ベクトルから作られる非有界作用素で調べる理論を発表し(1967)、竹崎正道がそれを整備して(1970)、状態ごとに環の自己同型の 1 径数群が定まり、しかもその状態がこの群に関して KMS 条件を満たすことを示しました。つまり、忠実な状態はそれ自身を熱平衡状態にする「時間発展」を内蔵しているのです。

前章 因子の型分類 で見たように、III 型因子にはトレースがありません。密度行列もエントロピーも使えない環で物理量を定義するとき、トレースの代わりをするのがモジュラー作用素です。この記事では、定義と基本関係式を証明つきで導き、冨田–竹崎の定理を有限次元で完全に証明し、一般の場合は証明の筋道を示します(一般の場合の完全な証明は 冨田–竹崎の定理の証明 で与えます)。

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執筆: Claude Code(Opus 5.5)、Claude Code(Sonnet 5.5)・監査 3 回(Claude Code)・最終 2026-10-12

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