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KMS 状態と熱平衡:Gibbs 状態を解析的な境界条件で特徴づける

対象読者: 本テーマ第 1〜5 章の内容(冨田–竹崎理論とモジュラー群まで)と、複素解析の正則関数・最大値原理を学んだ人。有限系の量子統計力学(Gibbs 状態)の初歩を知っていると読みやすくなります。

前提となる記事:冨田–竹崎理論とモジュラー群:モジュラー作用素・KMS 条件・Bisognano–Wichmann・相対エントロピー

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箱の中の気体が熱いお風呂と十分に長くつながっていると、気体は「熱平衡」という落ち着いた状態になります。粒子が数個の有限の系なら、その状態は e−βHe^{-\beta H} という重みをつけた平均(Gibbs 状態)で書けます。ところが粒子が無限にある系ではこの式がそのままでは使えません。この記事は、「時間を複素数にまで延ばしたとき、観測量の順序の入れ替えと虚数方向のずれが対応する」という条件(KMS 条件)で熱平衡を言い表し、有限の系では Gibbs 状態と同じものになること、無限の系では相転移まで表せることを見ていきます。以下の要点は、その結果を専門用語で一気に並べたものなので、読みにくければ第 1 節から読み始めてください。

  • C∗C^* 力学系(時間発展が連続に定まった C∗C^* 環)(A,τ)(\mathfrak{A},\tau) の状態 ω\omega が逆温度 β>0\beta>0 の KMS 状態であるとは、任意の A,B∈AA,B\in\mathfrak{A} について、帯 0≤Im z≤β0\le\mathrm{Im}\,z\le\beta 上の有界連続関数 FA,BF_{A,B} で内部で正則、境界値が F(t)=ω(Aτt(B))F(t)=\omega(A\tau_t(B)), F(t+iβ)=ω(τt(B)A)F(t+i\beta)=\omega(\tau_t(B)A) となるものが存在することです。解析的な元(複素数の時間にまで時間発展を延ばせる元)に対しては ω(Aτiβ(B))=ω(BA)\omega(A\tau_{i\beta}(B))=\omega(BA) と同値です。
  • 有限次元 Mn(C)M_n(\mathbb{C}) と τt=Ad eitH\tau_t=\mathrm{Ad}\,e^{itH} では、(τ,β)(\tau,\beta)-KMS 状態は Gibbs 状態 Tr(e−βH ⋅ )/Tr e−βH\mathrm{Tr}(e^{-\beta H}\,\cdot\,)/\mathrm{Tr}\,e^{-\beta H} ただ 1 つです。KMS 条件は密度行列を使わないので、熱力学極限でもそのまま意味を持ちます。逆に無限次元の B(K)\mathcal{B}(\mathcal{K}) では KMS 状態が存在しないことがあります。
  • KMS 状態は時間不変で、GNS ベクトルは von Neumann 環 πω(A)′′\pi_\omega(\mathfrak{A})'' に対して分離的(環の元 XX が XΩ=0X\Omega=0 なら X=0X=0)です。冨田–竹崎のモジュラー群は時間発展を −β-\beta 倍に尺度変換したものと一致します。
  • KMS 状態の全体 KβK_\beta は弱 ∗* コンパクトな凸集合(実は Choquet 単体。各点が端点の混合としてただ一通りに表せる凸集合)で、端点はちょうど因子状態(巨視的な量がゆらがない状態)です。KβK_\beta が 2 点以上を含むことを相転移とみなし、対称性の自発的破れはその典型です。
  • 自由ボース気体では準自由状態(Weyl 作用素の期待値が指数関数の形で与えられる状態)が KMS 状態で、化学ポテンシャル 00・3 次元以上では凝縮の位相 θ\theta ごとに異なる KMS 状態が現れます。量子スピン系では有限体積 Gibbs 状態の極限として KMS 状態が存在します。
  • 有限次元の Gibbs 状態からは循環過程で仕事を取り出せません(受動性、Kelvin の原理。単一の熱浴から循環過程で正の仕事は取り出せない、という熱力学第 2 法則の一つの言い方)。任意個のコピーでも受動的な状態は Gibbs 状態か基底状態に限られます(Pusz–Woronowicz、Lenard)。

有限個の粒子からなる系では、熱平衡は Gibbs の正準分布 ρβ=e−βH/Tr e−βH\rho_\beta=e^{-\beta H}/\mathrm{Tr}\,e^{-\beta H} で記述されます。ところが熱力学極限(体積無限大、密度一定)を取ると、e−βHe^{-\beta H} はトレースクラスでなくなり、HH 自体も意味を失います。無限系のハミルトニアンは「全エネルギー」なので発散するからです。一方で、局所的な観測量の時間発展 τt\tau_t や、局所観測量の期待値は極限でも意味を持ちます。そこで、熱平衡を密度行列を使わずに、観測量の代数と時間発展だけで特徴づける条件が必要になります。

その答えが Kubo(1957 年)と Martin–Schwinger(1959 年)が熱的 Green 関数の周期性として見出し、Haag–Hugenholtz–Winnink(1967 年)が公理として採用した KMS 条件です。出発点は次の計算です。Gibbs 状態 ω(A)=Tr(e−βHA)/Z\omega(A)=\mathrm{Tr}(e^{-\beta H}A)/Z と τt(B)=eitHBe−itH\tau_t(B)=e^{itH}Be^{-itH} について、tt を形式的に t+iβt+i\beta に置き換えると τt+iβ(B)=e−βHτt(B)eβH\tau_{t+i\beta}(B)=e^{-\beta H}\tau_t(B)e^{\beta H} なので、トレースの巡回性から

ω(A τt+iβ(B))=1ZTr(e−βHAe−βHτt(B)eβH)=1ZTr(e−βHτt(B)A)=ω(τt(B)A)\omega\bigl(A\,\tau_{t+i\beta}(B)\bigr)=\frac{1}{Z}\mathrm{Tr}\bigl(e^{-\beta H}Ae^{-\beta H}\tau_t(B)e^{\beta H}\bigr)=\frac{1}{Z}\mathrm{Tr}\bigl(e^{-\beta H}\tau_t(B)A\bigr)=\omega\bigl(\tau_t(B)A\bigr)

が成り立ちます。左辺の相関関数を虚時間方向に β\beta だけずらすと、演算子の順序が入れ替わる。この「解析接続による境界条件」は e−βHe^{-\beta H} を明示的に含まないので、無限系にも持ち込めます。

この記事では、まず解析接続を正確に扱う枠組み(解析的な元と帯領域上の関数)を整え、KMS 条件の 2 つの形が同値であることと、有限次元では Gibbs 状態と一致することを証明します。次に KMS 状態の一般的な性質(時間不変性、凸構造、因子状態との関係)を述べ、相転移を KMS 状態の非一意性として捉えます。例として自由ボース気体と量子スピン系を扱い、最後に熱力学第 2 法則との関係(受動性)を述べます。冨田–竹崎理論(冨田–竹崎理論とモジュラー群)との関係は第 4 節で触れます。

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執筆: Claude Code(Opus 5.5)、Claude Code(Sonnet 5.5)・監査 3 回(Claude Code)・最終 2026-10-12

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