コンテンツにスキップ

状態の凸分解:Krein–Milman・Choquet 理論と KMS 状態の単体

対象読者: 本テーマ第 6 章の KMS 状態と、局所凸空間の位相(分離定理・Banach–Alaoglu・Krein–Milman)を学んだ人。測度論(Riesz–Markov の定理)の基本も仮定します。Choquet 理論は仮定しません。

前提となる記事:KMS 状態と熱平衡:Gibbs 状態を解析的な境界条件で特徴づける、局所凸空間と弱位相:分離定理・Banach–Alaoglu・Krein–Milman・不動点定理

生 Markdown

コップ 1 杯の水が、氷と水のどちらの状態にもなりうる温度があります。そのとき全体の状態は「氷の状態」と「水の状態」の混ぜ合わせですが、混ぜ方が 1 通りに決まるとは限りません。この記事は、混ざった状態を、これ以上分けられない純粋な状態の混ぜ合わせとして書けるか、書けるなら書き方は 1 通りか、を数学の言葉で調べます。読み終えると、熱平衡状態の混ぜ合わせが 1 通りに決まる理由(中心という可換な部分に問題が帰着されること)を説明できるようになります。

  • コンパクト凸集合 KK の点 xx を「端点の上の確率測度の重心」として表すのが凸分解です。Krein–Milman の定理は KK が端点の閉凸包であることを言い、Milman の逆定理は、KK を閉凸包として生成する閉集合は必ず端点を含むことを言います。
  • Choquet の定理:KK が距離化可能なら、各点 x∈Kx\in K は、端点の集合 ext K\mathrm{ext}\,K(GδG_\delta 集合)に集中した確率測度 μ\mu の重心として書けます。証明は狭義凸関数の上包絡を使い、Hahn–Banach と Riesz–Markov だけで完結します。
  • 表現測度が一意な KK を単体、さらに端点が閉集合をなすものを Bauer 単体といいます。単体であることは、KK の生成する錐が束であることと同値です(Choquet–Meyer の定理。凸関数の上包絡がアフィンになることを経由して証明します)。Bauer 単体はコンパクト空間上の確率測度全体 M1(X)M_1(X) と同じもので、可換 C∗C^* 環の状態空間がその典型です。非可換な状態空間(Bloch 球)は単体ではありません。
  • KMS 状態 ω\omega について、ω\omega 以下の KMS 汎関数と、GNS 表現の von Neumann 環の中心の元 0≤Z≤10\le Z\le1 が 1 対 1 に順序同型で対応します。証明は KMS 条件を πω(A)′′\pi_\omega(\mathfrak{A})'' に延ばし、竹崎の一意性定理(KMS 条件がモジュラー群を決めるという定理)でモジュラー群と時間発展を同一視し、モジュラー共役 JJ(左右を入れ替える反ユニタリ作用素)との可換性を示すことで行います。
  • その帰結として、端点の KMS 状態は因子状態(中心が自明な状態)であり、異なる端点は互いに素で、KMS 汎関数の錐は束になります(したがって KβK_\beta は Choquet 単体)。KMS 状態の端点分解は中心分解にほかならず(中心が原子的な場合に証明し、一般の場合は筋道を述べます)、群作用で不変な状態の端点分解はエルゴード分解です。

有限次元の量子系の熱平衡状態は Gibbs 状態ただ 1 つで(KMS 状態と熱平衡 の 命題 3.3[KMS 状態と熱平衡])、そこに「分解」の問題は生じません。無限系では逆温度 β\beta を決めても KMS 状態が複数ありえて、その全体 KβK_\beta は弱 ∗* コンパクトな凸集合になります(定理 4.5[KMS 状態と熱平衡])。たとえば低温の強磁性体には磁化が上向きの相と下向きの相があり、その混合も KMS 状態です。物理的に意味があるのは純粋な相(端点)と、混合状態をそれらに分ける分け方です。

ここで 2 つの問いが出ます。(i) すべての KMS 状態は純粋な相の「混合」として書けるか。有限個の凸結合では足りないことが多いので、混合は端点の上の確率測度による積分で表すことになります。(ii) その分解は一意か。Bloch 球(2 準位系の状態空間)では中心の完全混合状態 121\frac12 1 を「上向きと下向きの等分」とも「右向きと左向きの等分」とも書けるので、一般の凸集合では分解は一意ではありません。熱力学的な相の分解が一意であることは、KβK_\beta が特別な凸集合、つまり単体であることを意味します。

本章では (i) に答える Choquet の定理を証明し、(ii) の単体の性質を、KMS 状態について「ω\omega に支配される KMS 汎関数 ⇔ GNS 表現の中心の元」という対応から導きます。中心は可換な von Neumann 環なので、ここで非可換性が消えて古典的な確率論(測度の分解)に帰着します。これが「相の分解は古典的である」ことの数学的な中身です。最後に、同じ構造が群作用で不変な状態にも現れ、エルゴード分解を与えることを見ます。

ここから先は有料(買い切り ¥200)の内容です。

この章は博士課程以上・研究水準の内容です。続き(定義・定理・証明・例・演習)は ¥200 の買い切りで、他の有料章と 100 本ノックも含めてすべて読めます。無料の章は最後まで読めます。

購入する ログイン

このテーマの 100 本ノック(100 問)

執筆: Claude Code(Opus 5.5)、Claude Code(Sonnet 5.5)・監査 4 回(Claude Code)・最終 2026-10-12

この記事の誤りを報告する ・運営: 夢現技研合同会社 ・料金 ・利用条件 ・特定商取引法に基づく表記

© 2026 夢現技研合同会社 ・コード例は MIT ライセンスです。