# 冨田–竹崎理論とモジュラー群：モジュラー作用素・KMS 条件・Bisognano–Wichmann・相対エントロピー

> 巡回分離ベクトルから冨田作用素 S とその極分解 S=JΔ^{1/2} を定義し、JMJ=M′ と Δ^{it}MΔ^{-it}=M を有限次元で証明する。モジュラー群に関する KMS 条件、Bisognano–Wichmann の定理、相対モジュラー作用素と Araki の相対エントロピーまでを扱う。
> https://rikai.mugen-giken.com/mathematics/operator-algebras/tomita-takesaki

## 0. この記事の要点

量子系の「状態」を 1 つ決めると、それだけで、その系が自然に従う「時間発展」まで決まってしまう、という不思議な事実を扱います。行列で言えば、密度行列 $\rho$ を 1 つ与えるだけで、物理量 $x$ を $\rho^{it}x\rho^{-it}$ に動かす時間発展が定まります。この記事は、この仕組みをまず行列の場合に具体的に確かめ、そのうえで、行列では扱えない無限自由度の系（場の量子論など）にも同じ仕組みがあることを見ていきます。以下の箇条書きは全体の見取り図なので、初めて読むときは用語が分からなくても、§3 の行列の例まで進んでから戻ってください。

- [von Neumann 環](/mathematics/operator-algebras/von-neumann-algebras#def-von-neumann-algebra) $\mathfrak{M}$ と巡回分離ベクトル $\Omega$ から、$x\Omega\mapsto x^*\Omega$ という反線形作用素 $S_0$ が定まります。これは可閉で、閉包の極分解 $S=J\Delta^{1/2}$ がモジュラー共役 $J$ とモジュラー作用素 $\Delta$ を与えます。
- 冨田–竹崎の定理は $J\mathfrak{M}J=\mathfrak{M}'$ と $\Delta^{it}\mathfrak{M}\Delta^{-it}=\mathfrak{M}$ を主張します。状態 1 つから、可換子との対応と、環の自己同型の 1 径数群（モジュラー群 $\sigma_t$）が自動的に出てきます。
- 行列環で密度行列 $\rho$ の状態をとると $\Delta=\rho\otimes\rho^{-1}$（$\xi\mapsto\rho\xi\rho^{-1}$）、$\sigma_t(x)=\rho^{it}x\rho^{-it}$ です。$\rho=e^{-\beta H}/Z$ なら $\sigma_t$ は時間 $-\beta t$ の Heisenberg 発展で、モジュラー群は「状態が自分で決める時間発展」です。
- 状態 $\omega$ はモジュラー群に関して KMS 条件（熱平衡状態を特徴づける条件。逆温度 $-1$）を満たし、この性質でモジュラー群は一意に決まります。熱平衡状態の理論（[KMS 状態](/mathematics/operator-algebras/kms-states#def-kms-state)）と作用素環の構造論がここで一致します。
- 場の量子論の真空を楔領域の代数に制限すると、モジュラー群は Lorentz ブーストになります（Bisognano–Wichmann）。2 状態から作る相対モジュラー作用素 $\Delta_{\varphi,\psi}$ により、トレースのない環（III 型）でも相対エントロピー $S(\psi\|\varphi)\ge0$ が定義できます。

<Aside type="tip" title="この記事で使う事前知識">

- **von Neumann 環**: Hilbert 空間上の有界作用素のなす環のうち、二重可換子をとっても変わらないもの。→ [von Neumann 環](/mathematics/operator-algebras/von-neumann-algebras#def-von-neumann-algebra)
- **可換子 $\mathfrak{M}'$**: $\mathfrak{M}$ のすべての元と可換な作用素全体。
- **巡回ベクトル**: そのベクトルに環の元を掛けてできるベクトルの全体が、空間の中で稠密になるようなベクトル。→ [巡回ベクトル](/mathematics/operator-algebras/states-and-gns#def-representation)
- **正規状態**: 環上の状態のうち、σ-弱連続なもの。→ [正規状態](/mathematics/operator-algebras/von-neumann-algebras#def-normal-state)
- **因子の型（III 型など）**: 射影の比較で因子を分類したもの。→ [因子の型](/mathematics/operator-algebras/factor-types#def-factor-types)
- **自己共役作用素**: 作用素 $A$ が $A=A^*$（定義域も込み）を満たすこと。→ [自己共役作用素](/mathematics/functional-analysis/self-adjoint-extensions#def-self-adjoint)

</Aside>

## 1. 動機

有限自由度の量子統計力学では、ハミルトニアン $H$ の Gibbs 状態 $\omega(x)=\mathrm{tr}(e^{-\beta H}x)/Z$ と時間発展 $\tau_t(x)=e^{itH}xe^{-itH}$ があり、両者は $H$ を介して結びついています。トレースの巡回性から

$$
\omega(x\,\tau_{i\beta}(y)) = \omega(yx)
$$

が成り立ちます（KMS 条件）。熱力学的極限では $H$ も $\mathrm{tr}$ も意味を失いますが、Haag–Hugenholtz–Winnink (1967) は KMS 条件そのものを無限系の熱平衡の定義として採用しました。

同じころ、冨田稔は von Neumann 環の構造を、巡回分離ベクトルから作られる非有界作用素で調べる理論を発表し（1967）、竹崎正道がそれを整備して（1970）、状態ごとに環の自己同型の 1 径数群が定まり、しかもその状態がこの群に関して KMS 条件を満たすことを示しました。つまり、**忠実な状態はそれ自身を熱平衡状態にする「時間発展」を内蔵している**のです。

前章 [因子の型分類](/mathematics/operator-algebras/factor-types) で見たように、III 型因子にはトレースがありません。密度行列もエントロピーも使えない環で物理量を定義するとき、トレースの代わりをするのがモジュラー作用素です。この記事では、定義と基本関係式を証明つきで導き、冨田–竹崎の定理を有限次元で完全に証明し、一般の場合は証明の筋道を示します（一般の場合の完全な証明は [冨田–竹崎の定理の証明](/mathematics/operator-algebras/tomita-takesaki-proof) で与えます）。

（この章の続きは購入者向けです。）
