データに直線を当てはめるとき、「その直線はどのくらい信頼できるのか」「本当に直線でよいのか、曲線にすべきか」と気になります。この記事は、最小二乗法という当てはめの方法を図形的な「射影」として見直し、その疑問に確率の言葉で答える話です。読み終えると、係数の誤差の見積もり、モデルの比較の検定、相関のあるデータでの誤差の補正ができるようになります。
- 線形モデル y=Xβ+ε の最小二乗推定量 β^=(XTX)−1XTy は、y を X の列空間へ直交射影したものです。残差は列空間と直交し、∥y−Xβ∥2 のピタゴラス分解から導けます。
- Gauss–Markov の定理:誤差が無相関で等分散なら、aTβ^ は aTβ の線形不偏推定量の中で分散が最小です(正規性は不要)。残差平方和を n−p で割ると σ2 の不偏推定量になります。
- 誤差が正規分布なら、Cochran の定理(直交する部分空間への射影は独立で、各々の二乗和はカイ二乗分布)から、β^ と s2 の独立性と、t 統計量が tn−p に従うことが出ます。
- 入れ子のモデルの比較は F 検定 F=RSS/(n−p)(RSS0−RSS)/q∼Fq,n−p で行います。これも Cochran の定理の帰結です。
- 誤差に相関があるときは一般化最小二乗(誤差の共分散行列で白色化。白色化とは、相関のある誤差を、無相関で分散の等しい誤差に変換することです)が最良線形不偏推定量です。時系列的に相関するモンテカルロ・データ(乱数を使った数値シミュレーションで得た測定値)の平均では、有効標本数が N/(2τint) に減り(τint は統合自己相関時間、相関がどれだけ長く続くかを表す量です)、相関を無視すると誤差を過小評価します。
最小二乗法は、実験データに直線や多項式を当てはめるとき、まず思い浮かぶ方法です。しかし、「これで最良なのか」「得られた係数はどの程度信頼できるのか」「直線ではなく放物線を仮定したほうがよいのか」を言うには、確率モデルが要ります。この章は、第 1〜3 章で作った道具(不偏推定、検定、信頼区間)を、最も重要な模型である線形モデルに適用します。
もう一つの動機は、数値シミュレーション(モンテカルロ法)の誤差評価です。たとえば、格子上の場の理論の数値計算では、相関関数 C(t) を複数の時間 t で測り、C(t)≃∑nAne−Ent のような関数に当てはめて物理量を取り出します。測定値は時間方向にも、計算の更新ごとにも相関しています。相関を無視して最小二乗を行うと、誤差が過小評価され、検定も信頼区間も誤ります。この問題を正しく扱う標準的な道具が、この記事の後半で扱う一般化最小二乗と有効標本数です。
定義 2.1(線形モデル)↗
n 個の観測 y∈Rn が
y=Xβ+ε,E[ε]=0,Cov(ε)=σ21nで与えられるとする。X は既知の n×p 計画行列で、列は 1 次独立(フルランク、p≤n)、β∈Rp は未知の係数、σ2>0 は未知の誤差分散である。最小二乗推定量は ∥y−Xβ∥2 を最小にする β^ 、残差平方和は RSS=∥y−Xβ^∥2 である。
X の列が 1 次独立のとき、XTX は正定値です(v=0 なら vTXTXv=∥Xv∥2>0)。したがって逆行列をもちます。
定理 2.2(最小二乗推定量と射影)✓
β^=(XTX)−1XTy が ∥y−Xβ∥2 の唯一の最小点である。y^=Xβ^=Hy、H=X(XTX)−1XT は、y の W=col(X)(X の列空間)への直交射影で、HT=H=H2、trH=p をみたす。残差 ε^=(1−H)y は W と直交し、tr(1−H)=n−p。
証明の方針は、H が対称かつべき等であることを確かめ、残差が X の列と直交することからピタゴラスの定理で最小性を示す、というものです。trH=p は、トレースで tr(AB)=tr(BA) と順序を入れ替えられること(巡回性)を使って出します。
証明(定理 2.2)
HT=H は明らか。H2=X(XTX)−1XTX(XTX)−1XT=H。trH=tr((XTX)−1XTX)=tr1p=p (トレースの巡回性)。XT(1−H)=XT−XT=0 なので、(1−H)y は X の列すべてと直交する。したがって任意の β に対し Hy−Xβ∈W と y−Hy⊥W から、ピタゴラスの定理(最良近似(定理 7.2)[内積空間とグラム・シュミット直交化] と同じ)で
∥y−Xβ∥2=∥y−Hy∥2+∥Hy−Xβ∥2.右辺は Xβ=Hy のとき最小で、X がフルランクなら Xβ=Hy を満たす β は β=(XTX)−1XTy の唯一つ。
∎
β^ を決める連立方程式 XTXβ=XTy を正規方程式といいます。
例 2.3(単回帰)
yi=β0+β1xi+εi では X=(1,x)。Sxx=∑(xi−xˉ)2、Sxy=∑(xi−xˉ)(yi−yˉ) として
β^1=SxxSxy,β^0=yˉ−β^1xˉ.実際、正規方程式 (∑xi ∑xi2n ∑xi)(β1β0)=(∑xiyi∑yi) を解くと得られる。数値例:x=(1,2,3,4,5)、y=(2.1,3.9,6.2,7.8,10.1) では xˉ=3、yˉ=6.02、Sxx=10、Sxy=19.9 から β^1=1.99、β^0=0.05。
定理 3.1(Gauss–Markov の定理)✓
定義 2.1 の仮定(誤差は無相関・等分散;正規性は不要)のもとで、次が成り立つ。
- Eβ^=β、Cov(β^)=σ2(XTX)−1。
- 任意の a∈Rp について、aTβ の線形不偏推定量(y の線形関数 cTy で E[cTy]=aTβ がすべての β で成り立つもの)のうち、aTβ^ の分散が最小で、等号は cTy=aTβ^ のときに限る(BLUE)。
- s2=RSS/(n−p) は σ2 の不偏推定量である。
2 の証明の方針は、別の線形不偏推定量 cTy を、aTβ^ に対応するベクトル c0 とそこからのずれ d に分けることです。ずれ d は X の列と直交するので、交差項が消え、分散は d の分だけ増えるだけになります。
証明(定理 3.1)
-
β^=(XTX)−1XT(Xβ+ε)=β+(XTX)−1XTε。期待値は β、共分散は (XTX)−1XT(σ21)X(XTX)−1=σ2(XTX)−1。
-
cTy が不偏であることは E[cTy]=cTXβ=aTβ (全 β)、すなわち XTc=a。c0=X(XTX)−1a とおくと aTβ^=c0Ty で、d=c−c0 は XTd=a−a=0 をみたす。Var(cTy)=σ2∥c∥2=σ2(∥c0∥2+2c0Td+∥d∥2) で、交差項は c0Td=aT(XTX)−1XTd=0 。よって Var(cTy)=Var(aTβ^)+σ2∥d∥2≥Var(aTβ^) で、等号は d=0 のとき。
-
(1−H)X=0 から ε^=(1−H)y=(1−H)ε。RSS=εT(1−H)ε(1−H は対称・べき等)。対称行列 A について E[εTAε]=∑AijE[εiεj]=σ2trA なので、E[RSS]=σ2tr(1−H)=σ2(n−p)。
∎
自由度が n−p になる理由は、残差が n 次元空間の (n−p) 次元の部分空間 W⊥ にしか自由度をもたないからです。
以下、ε∼N(0,σ21n) (正規線形モデル)とします。ガウスベクトルの性質(Gauss ベクトルの構造(定理 5.2)[特性関数と Gauss ベクトル]、無相関ならば独立(命題 5.3)[特性関数と Gauss ベクトル])を使います。
定義 4.1(カイ二乗分布・t 分布・F 分布)↗
Z1,Z2,… を独立な N(0,1) とする。自由度 k のカイ二乗分布 χk2 は Z12+⋯+Zk2 の分布。Z∼N(0,1) と V∼χk2 が独立のとき T=Z/V/k の分布を 自由度 k の t 分布 tk という。U∼χq2 と V∼χk2 が独立のとき F=(U/q)/(V/k) の分布を F 分布 Fq,k という。
命題 4.2(カイ二乗分布の密度)✓
χk2 の密度は 2k/2Γ(k/2)xk/2−1e−x/2(x>0)で、平均 k、分散 2k である。
証明(命題 4.2)
Z∼N(0,1) の Z2 の特性関数は EeitZ2=∫2πe−(1−2it)z2/2dz=(1−2it)−1/2(ガウス積分の複素版;Re(1−2it)=1>0)。独立和の特性関数は積なので χk2 の特性関数は (1−2it)−k/2。一方、ガンマ分布 Gamma(k/2,レート 1/2) の密度 2k/2Γ(k/2)xk/2−1e−x/2 の特性関数も同じ (1−2it)−k/2(積分 ∫0∞xα−1e−(1/2−it)xdx=Γ(α)(1/2−it)−α から)。特性関数の一意性(定理 3.3)[特性関数と Gauss ベクトル] により分布が一致する。平均は EZ2=1 から k、分散は Var(Z2)=EZ4−1=3−1=2 から 2k(独立和)。
∎
tk は k→∞ で N(0,1) に近づきます。V/k→1(大数の法則)にスルツキーの定理を使えば従います。
定理 4.3(Cochran の定理)✓
Z∼N(0,1n) とし、Rn が互いに直交する部分空間 V1,…,Vm の直和で dimVj=rj とする。Pj を Vj への直交射影とすると、P1Z,…,PmZ は互いに独立で、∥PjZ∥2∼χrj2 である。
この定理は、正規線形モデルの分布論の中心です。標準正規ベクトルを直交する部分空間に分けると、各部分の成分は互いに独立で、長さの二乗はカイ二乗分布に従います。これを使って、残差平方和と推定量の独立性や、t 分布・F 分布の導出ができます。証明の方針は、正規直交基底を取って座標で見ると、独立な標準正規変数の二乗和に分かれることを確かめるだけです。
証明(定理 4.3)
各 Vj の正規直交基底を並べて Rn の正規直交基底 {u1,…,un} を作り、直交行列 O=(u1,…,un)T を定める。Gauss ベクトルの構造(定理 5.2)[特性関数と Gauss ベクトル] の 4 より OZ∼N(0,O1OT)=N(0,1n)。成分 ξi=uiTZ はガウスベクトルの成分で互いに無相関なので、無相関ならば独立(命題 5.3)[特性関数と Gauss ベクトル] を繰り返し使って互いに独立な N(0,1)。PjZ=∑i∈Ijξiui (Ij は Vj の基底の添字集合、∣Ij∣=rj)で、∥PjZ∥2=∑i∈Ijξi2 。添字集合は互いに素なので、異なる j のブロックは独立で、各ブロックは rj 個の独立な標準正規の二乗和、すなわち χrj2。
∎
定理 4.4(正規線形モデルの標本分布)✓
y=Xβ+ε、ε∼N(0,σ21n) のとき、
- β^∼N(β,σ2(XTX)−1)。
- (n−p)s2/σ2=RSS/σ2∼χn−p2。
- β^ と s2 は独立である。
証明(定理 4.4)
- β^=β+(XTX)−1XTε はガウスベクトルの線形変換なので、Gauss ベクトルの構造(定理 5.2)[特性関数と Gauss ベクトル] の 4 と 定理 3.1 の 1 による。2, 3. Z=ε/σ∼N(0,1n) とし、Rn=W⊕W⊥(W=col(X)、dimW=p、dimW⊥=n−p)に 定理 4.3 を使う。RSS=∥(1−H)ε∥2=σ2∥PW⊥Z∥2∼σ2χn−p2 で 2 を得る。さらに β^−β=(XTX)−1XTε は XTε=XTHε (XTH=XT より)を通じて Hε=σPWZ のみの関数で、PWZ と PW⊥Z は独立なので、β^ と RSS も独立。
∎
系 4.5(t 検定と t 区間)✓
a∈Rp について、se(aTβ^)=saT(XTX)−1a とおくと
T=se(aTβ^)aTβ^−aTβ∼tn−p.したがって aTβ の信頼係数 1−α の信頼区間は aTβ^±tn−p,α/2se(aTβ^) である。
証明(系 4.5)
定理 4.4 の 1 より Z=σaT(XTX)−1aaTβ^−aTβ∼N(0,1)。2 より V=(n−p)s2/σ2∼χn−p2、3 より Z と V は独立。T=Z/V/(n−p) で、σ が約分され tn−p の定義そのもの。信頼区間は 検定と信頼集合の双対性(定理 6.2)[検定と区間推定] による。
∎
X=1(全部 1 の列)の場合が、母平均の古典的な t 区間 Xˉ±tn−1,α/2s/n です。標本数が小さいときは正規分布ではなく t 分布を使う理由が、σ を s で置き換えたことにあるのが分かります。
例 4.6(単回帰の推測)
例 2.3 のデータで、RSS=0.107、s2=0.107/3=0.0357(自由度 n−p=3)。傾きの標準誤差は s2/Sxx=0.0597、t=1.99/0.0597=33.3 。95% 信頼区間は t3,0.025=3.182 から 1.99±3.182×0.0597=(1.80, 2.18)。切片の標準誤差は s1/n+xˉ2/Sxx=0.198、β^0=0.05 は 0 と有意に異なると言えない(t=0.25)。
係数のいくつかが 0 かどうか、つまり小さいモデルで十分かを調べるのが F 検定です。一般に、W=col(X) の部分空間 W0(dimW0=p−q、q≥1)を考え、H0:E[y]=Xβ∈W0 を検定します。たとえば、q 個の係数が 0 という仮説です。
定理 5.1(入れ子モデルの F 検定)✓
正規線形モデルで H0:Xβ∈W0 が成り立つとき、RSS0=∥(1−PW0)y∥2 (H0 のもとでの最小二乗の残差平方和)、RSS=∥(1−PW)y∥2 として
F=RSS/(n−p)(RSS0−RSS)/q∼Fq,n−p.F が大きいとき H0 を棄却する。
証明の方針は、Rn を三つの直交する部分空間に分けることです。小さなモデルの空間 W0、フルモデルの空間 W のうち W0 に含まれない部分、そして W⊥ です。H0 のもとでは、後ろ二つの部分の成分は誤差だけで決まるので、Cochran の定理が当てはまります。
証明(定理 5.1)
Rn=W0⊕(W⊖W0)⊕W⊥ (直交する 3 つの部分空間、次元は p−q、q、n−p)と分け、射影を P0,P1=PW−PW0,P2=1−PW とする。H0 のもとで Xβ∈W0 なので、P1Xβ=P2Xβ=0、したがって P1y=P1ε、P2y=P2ε。(1−PW0)=P1+P2 で P1,P2 は直交するから RSS0=∥P1y∥2+∥P2y∥2。RSS=∥P2y∥2 なので RSS0−RSS=∥P1ε∥2。定理 4.3 を Z=ε/σ に適用すると、∥P1ε∥2/σ2∼χq2 と ∥P2ε∥2/σ2=RSS/σ2∼χn−p2 は独立で、比 F は σ2 が約分され 定義 4.1 の Fq,n−p である。
∎
対立仮説(Xβ∈/W0)のもとでは、P1y=P1Xβ+P1ε の平均がずれ、∥P1y∥2/σ2 は非心カイ二乗分布(非心度 ∥P1Xβ∥2/σ2)に従い、F は大きくなる傾向をもちます。これが検出力の源です。
入れ子モデルの射影の幾何。y を W(フルモデル)に射影して ŷ、さらに W₀(小さなモデル)に射影して ŷ₀。RSS = |y − ŷ|²、RSS₀ − RSS = |ŷ − ŷ₀|²。両者は直交する成分で、H₀ のもとで独立なカイ二乗分布に従う。
例 5.2(1 個の係数の検定では F=t2)
q=1(aTβ=0 の検定)では F1,k と tk2 は同じ分布です。実際 Z2/(V/k) は χ12/(V/k) の定義そのもの。例 4.6 のデータで H0:β1=0 の F は RSS0=Syy=39.708 から F=0.107/3(39.708−0.107)/1=1110 で、t2=33.32=1110 と一致します。
例 5.3(2 つの係数を加えたモデルの比較)
n=20 個のデータに、p=4 個の係数をもつフルモデルと、2 個の係数が 0 の小さなモデルを当てはめ、RSS0=50、RSS=30 だったとする。q=2 で F=30/16(50−30)/2=5.33 。F2,16 の上側 5% 点は 3.63 なので、H0(小さなモデルで十分)を棄却する。
例 5.4(一元配置分散分析)
g 個の群があり、群 j に nj 個の観測 yji∼N(μj,σ2) がある(n=∑nj)。フルモデルは群ごとの平均(p=g)、小さなモデルは全体の平均 1 個(p−q=1、q=g−1)。RSS=∑j,i(yji−yˉj)2(群内)、RSS0−RSS=∑jnj(yˉj−yˉ)2(群間)。F=群内/(n−g)群間/(g−1)∼Fg−1,n−g が分散分析(ANOVA)の F 検定です。
誤差が無相関・等分散でないとき、すなわち Cov(y)=C (既知の正定値行列)のときを考えます。
定理 6.1(一般化最小二乗(Aitken))✓
y=Xβ+ε、Eε=0、Cov(ε)=C(正定値)とする。一般化最小二乗(GLS)推定量
β^GLS=(XTC−1X)−1XTC−1yは β の線形不偏推定量の中で最小分散(BLUE)で、Cov(β^GLS)=(XTC−1X)−1 である。β^GLS は χ2(β)=(y−Xβ)TC−1(y−Xβ) の最小化で得られ、ε∼N(0,C) なら最小値 χmin2 は χn−p2 に従う。
証明(定理 6.1)
C は正定値な対称行列なので、スペクトル定理(定理 4.2)[スペクトル定理] で対角化して正定値な平方根 C1/2 とその逆 C−1/2 が作れる。y~=C−1/2y、X~=C−1/2X、ε~=C−1/2ε とおくと y~=X~β+ε~、Cov(ε~)=C−1/2CC−1/2=1n(白色化)。これは σ2=1 の線形モデルで、定理 2.2 と 定理 3.1 が使える。最小二乗推定量は (X~TX~)−1X~Ty~=(XTC−1X)−1XTC−1y で、∥y~−X~β∥2=χ2(β) 。線形不偏推定量は cTy=(C1/2c)Ty~ と書き直せば y~ の線形不偏推定量なので、BLUE の主張と共分散が従う。正規性のもとでは 定理 4.4 の 2 (σ=1)から χmin2=RSS(y~,X~)∼χn−p2。
∎
証明の方針は、誤差に C−1/2 をかけて無相関・等分散の誤差に直し(白色化)、これまでの線形モデルの結果を使うことです。C−1/2 は、C を対角化して固有値の平方根の逆数を並べて作ります。
最小値 χmin2 は当てはめの良さの検定統計量です。χmin2/(n−p)≈1 ならモデルとデータは整合し、はるかに大きければモデルが誤り(または誤差を過小評価)しています。
次に、モンテカルロ法の標本のように、同じ量を時系列的に繰り返し測ったデータで、平均値の誤差を評価します。測定値 x1,…,xN は定常(時刻をずらしても統計的な性質が変わらない)で、自己共分散 γ(k)=Cov(xi,xi+k)、自己相関 ρk=γ(k)/γ(0) をもつとします。
証明の方針は、Var(xˉ) が N2 個の共分散の和であることから、時刻の差 k=i−j が同じ組をまとめて数えることです。たとえば N=3 なら、k=0 の組は 3 個、k=1 の組は (2,1),(3,2) の 2 個で、一般に差が ∣k∣ の組は N−∣k∣ 個です。
証明(定理 6.2)
Var(xˉ)=N21∑i,j=1Nγ(i−j)。差 k=i−j ごとにまとめると、k を与える (i,j) の組は N−∣k∣ 個なので N21∑∣k∣<N(N−∣k∣)γ(k)=N1∑∣k∣<N(1−N∣k∣)γ(k)。γ(−k)=γ(k) から第 1 式を得る。第 2 式は、各項 (1−k/N)ρk→ρk で、∣(1−k/N)ρk∣≤∣ρk∣ かつ ∑∣ρk∣<∞ なので、和に対する優収束定理(ルベーグの優収束定理(定理 7.3)[ルベーグ積分の定義と収束定理] を計数測度に使う)により ∑k=1N−1(1−k/N)ρk→∑k≥1ρk。1+2∑ρk=2τint。
∎
独立な標本(ρk=0)では τint=21、Neff=N で、Var(xˉ)=γ(0)/N に戻ります。正の相関があると τint>21 で、Neff<N です。
例 6.3(AR(1) 過程の有効標本数)
xi+1−μ=ϕ(xi−μ)+ηi(∣ϕ∣<1、ηi は無相関なノイズ)の定常解では ρk=ϕk。∑k≥1ϕk=1−ϕϕ から
τint=21+1−ϕϕ=2(1−ϕ)1+ϕ,Neff=N1+ϕ1−ϕ.ϕ=0.9 のとき Neff=N/19 。10000 個の標本は 526 個の独立標本と同じ精度しかなく、相関を無視した標準誤差 γ(0)/N は真の値の 1/19=23% に過小評価されます。ϕ=0.5 なら Neff=N/3 。
演習 7.1易
3 点 (x,y)=(0,1),(1,3),(2,4) に直線 y=β0+β1x を最小二乗で当てはめ、残差平方和を求めよ。
解答
xˉ=1、yˉ=38。Sxx=2、Sxy=(−1)(1−38)+0+(1)(4−38)=35+34=3。β^1=23、β^0=38−23=67。残差:1−67=−61、3−(67+23)=3−38=31、4−(67+3)=−61。RSS=361+91+361=61。(残差の和は 0 で、x との内積も 0 。)
演習 7.2標準
注意 3.2 のモデル yi=β+εi(Varεi=σ2)で、β^c=cyˉ の MSE を計算し、c=β2/(β2+σ2/n) で最小になることを示せ。
解答
Eβ^c=cβ、偏り (c−1)β、分散 c2σ2/n。MSE(c)=(c−1)2β2+c2σ2/n。c で微分して 2(c−1)β2+2cσ2/n=0 から c=β2/(β2+σ2/n)。このとき MSE=β2+σ2/nβ2σ2/n<σ2/n。(ただし最適な c は未知の β に依存するので、実際には使えない。)
演習 7.3標準
3 つの群の標本数が n1=n2=n3=5、群平均が (10,12,14)、全体平均 12、群内平方和が RSS=60 であるとき、F 統計量を求め、H0:μ1=μ2=μ3 を 5% 水準で検定せよ(F2,12 の上側 5% 点は 3.89)。
解答
群間平方和は 5(4+0+4)=40、g−1=2、n−g=12。F=60/1240/2=4.0>3.89 なので、5% 水準で H0 を棄却する(ぎりぎり)。
演習 7.4標準
ϕ=0.6 の AR(1) 過程から N=2000 個の標本を得たとき、τint と有効標本数 Neff を求めよ。標本平均の標準誤差は、相関を無視した場合の何倍か。
解答
τint=2×0.41.6=2、Neff=2000/4=500(=N(1−ϕ)/(1+ϕ)=2000×0.25)。標準誤差は N/Neff=4=2 倍。
- Shayle R. Searle and Marvin H. J. Gruber, Linear Models, 2nd ed., Wiley, 2017 — 最小二乗、Gauss–Markov、分布論。
- C. Radhakrishna Rao, Linear Statistical Inference and Its Applications, 2nd ed., Wiley, 1973 — 線形モデルの理論、Cochran の定理。
- George A. F. Seber and Alan J. Lee, Linear Regression Analysis, 2nd ed., Wiley, 2003 — 回帰分析の推測。
- Ulli Wolff, “Monte Carlo errors with less errors”, Computer Physics Communications 156 (2004), 143–153 — 統合自己相関時間と誤差評価。
- 久保川達也『現代数理統計学の基礎』共立出版、2017 — 線形モデルと正規分布論。