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線形モデル:最小二乗、Gauss–Markov の定理、Cochran の定理と t 検定・F 検定

対象読者: 本テーマ第 1〜3 章の不偏推定・検定・信頼区間と、線形代数の内積空間・直交射影、特性関数とガウスベクトルを学んだ学部生。回帰分析は仮定しません。

前提となる記事:検定と区間推定:Neyman–Pearson の補題、一様最強力検定、尤度比検定と Wilks の定理、内積空間とグラム・シュミット直交化:長さと角度を線形代数に持ち込む、特性関数と Gauss ベクトル:反転公式・Lévy の連続性定理・Wick の公式・Mills 比

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データに直線を当てはめるとき、「その直線はどのくらい信頼できるのか」「本当に直線でよいのか、曲線にすべきか」と気になります。この記事は、最小二乗法という当てはめの方法を図形的な「射影」として見直し、その疑問に確率の言葉で答える話です。読み終えると、係数の誤差の見積もり、モデルの比較の検定、相関のあるデータでの誤差の補正ができるようになります。

  • 線形モデル y=Xβ+εy=X\beta+\varepsilon の最小二乗推定量 β^=(XTX)−1XTy\hat\beta=(X^{\mathsf T}X)^{-1}X^{\mathsf T}y は、yy を XX の列空間へ直交射影したものです。残差は列空間と直交し、∥y−Xβ∥2\|y-X\beta\|^2 のピタゴラス分解から導けます。
  • Gauss–Markov の定理:誤差が無相関で等分散なら、aTβ^a^{\mathsf T}\hat\beta は aTβa^{\mathsf T}\beta の線形不偏推定量の中で分散が最小です(正規性は不要)。残差平方和を n−pn-p で割ると σ2\sigma^2 の不偏推定量になります。
  • 誤差が正規分布なら、Cochran の定理(直交する部分空間への射影は独立で、各々の二乗和はカイ二乗分布)から、β^\hat\beta と s2s^2 の独立性と、tt 統計量が tn−pt_{n-p} に従うことが出ます。
  • 入れ子のモデルの比較は FF 検定 F=(RSS0−RSS)/qRSS/(n−p)∼Fq,n−pF=\dfrac{(\mathrm{RSS}_0-\mathrm{RSS})/q}{\mathrm{RSS}/(n-p)}\sim F_{q,n-p} で行います。これも Cochran の定理の帰結です。
  • 誤差に相関があるときは一般化最小二乗(誤差の共分散行列で白色化。白色化とは、相関のある誤差を、無相関で分散の等しい誤差に変換することです)が最良線形不偏推定量です。時系列的に相関するモンテカルロ・データ(乱数を使った数値シミュレーションで得た測定値)の平均では、有効標本数が N/(2τint)N/(2\tau_{\mathrm{int}}) に減り(τint\tau_{\mathrm{int}} は統合自己相関時間、相関がどれだけ長く続くかを表す量です)、相関を無視すると誤差を過小評価します。

最小二乗法は、実験データに直線や多項式を当てはめるとき、まず思い浮かぶ方法です。しかし、「これで最良なのか」「得られた係数はどの程度信頼できるのか」「直線ではなく放物線を仮定したほうがよいのか」を言うには、確率モデルが要ります。この章は、第 1〜3 章で作った道具(不偏推定、検定、信頼区間)を、最も重要な模型である線形モデルに適用します。

もう一つの動機は、数値シミュレーション(モンテカルロ法)の誤差評価です。たとえば、格子上の場の理論の数値計算では、相関関数 C(t)C(t) を複数の時間 tt で測り、C(t)≃∑nAne−EntC(t)\simeq\sum_nA_ne^{-E_nt} のような関数に当てはめて物理量を取り出します。測定値は時間方向にも、計算の更新ごとにも相関しています。相関を無視して最小二乗を行うと、誤差が過小評価され、検定も信頼区間も誤ります。この問題を正しく扱う標準的な道具が、この記事の後半で扱う一般化最小二乗と有効標本数です。

定義 2.1(線形モデル)↗

nn 個の観測 y∈Rny\in\mathbb R^n が

y=Xβ+ε,E[ε]=0,Cov(ε)=σ21ny=X\beta+\varepsilon,\qquad E[\varepsilon]=0,\quad\mathrm{Cov}(\varepsilon)=\sigma^2\mathbb 1_n

で与えられるとする。XX は既知の n×pn\times p 計画行列で、列は 1 次独立(フルランク、p≤np\le n)、β∈Rp\beta\in\mathbb R^p は未知の係数、σ2>0\sigma^2>0 は未知の誤差分散である。最小二乗推定量は ∥y−Xβ∥2\|y-X\beta\|^2 を最小にする β^\hat\beta 、残差平方和は RSS=∥y−Xβ^∥2\mathrm{RSS}=\|y-X\hat\beta\|^2 である。

XX の列が 1 次独立のとき、XTXX^{\mathsf T}X は正定値です(v≠0v\ne0 なら vTXTXv=∥Xv∥2>0v^{\mathsf T}X^{\mathsf T}Xv=\|Xv\|^2>0)。したがって逆行列をもちます。

定理 2.2(最小二乗推定量と射影)✓

β^=(XTX)−1XTy\hat\beta=(X^{\mathsf T}X)^{-1}X^{\mathsf T}y が ∥y−Xβ∥2\|y-X\beta\|^2 の唯一の最小点である。y^=Xβ^=Hy\hat y=X\hat\beta=Hy、H=X(XTX)−1XTH=X(X^{\mathsf T}X)^{-1}X^{\mathsf T} は、yy の W=col(X)W=\mathrm{col}(X)(XX の列空間)への直交射影で、HT=H=H2H^{\mathsf T}=H=H^2、trH=p\mathrm{tr}H=p をみたす。残差 ε^=(1−H)y\hat\varepsilon=(\mathbb 1-H)y は WW と直交し、tr(1−H)=n−p\mathrm{tr}(\mathbb 1-H)=n-p。

証明の方針は、HH が対称かつべき等であることを確かめ、残差が XX の列と直交することからピタゴラスの定理で最小性を示す、というものです。trH=p\mathrm{tr}H=p は、トレースで tr(AB)=tr(BA)\mathrm{tr}(AB)=\mathrm{tr}(BA) と順序を入れ替えられること(巡回性)を使って出します。

証明(定理 2.2)

HT=HH^{\mathsf T}=H は明らか。H2=X(XTX)−1XTX(XTX)−1XT=HH^2=X(X^{\mathsf T}X)^{-1}X^{\mathsf T}X(X^{\mathsf T}X)^{-1}X^{\mathsf T}=H。trH=tr((XTX)−1XTX)=tr 1p=p\mathrm{tr}H=\mathrm{tr}\bigl((X^{\mathsf T}X)^{-1}X^{\mathsf T}X\bigr)=\mathrm{tr}\,\mathbb 1_p=p (トレースの巡回性)。XT(1−H)=XT−XT=0X^{\mathsf T}(\mathbb 1-H)=X^{\mathsf T}-X^{\mathsf T}=0 なので、(1−H)y(\mathbb 1-H)y は XX の列すべてと直交する。したがって任意の β\beta に対し Hy−Xβ∈WHy-X\beta\in W と y−Hy⊥Wy-Hy\perp W から、ピタゴラスの定理(最良近似(定理 7.2)[内積空間とグラム・シュミット直交化] と同じ)で

∥y−Xβ∥2=∥y−Hy∥2+∥Hy−Xβ∥2.\|y-X\beta\|^2=\|y-Hy\|^2+\|Hy-X\beta\|^2.

右辺は Xβ=HyX\beta=Hy のとき最小で、XX がフルランクなら Xβ=HyX\beta=Hy を満たす β\beta は β=(XTX)−1XTy\beta=(X^{\mathsf T}X)^{-1}X^{\mathsf T}y の唯一つ。

β^\hat\beta を決める連立方程式 XTXβ=XTyX^{\mathsf T}X\beta=X^{\mathsf T}y を正規方程式といいます。

例 2.3(単回帰)

yi=β0+β1xi+εiy_i=\beta_0+\beta_1x_i+\varepsilon_i では X=(1,x)X=(\mathbf 1,x)。Sxx=∑(xi−xˉ)2S_{xx}=\sum(x_i-\bar x)^2、Sxy=∑(xi−xˉ)(yi−yˉ)S_{xy}=\sum(x_i-\bar x)(y_i-\bar y) として

β^1=SxySxx,β^0=yˉ−β^1xˉ.\hat\beta_1=\frac{S_{xy}}{S_{xx}},\qquad\hat\beta_0=\bar y-\hat\beta_1\bar x.

実際、正規方程式 (n  ∑xi∑xi  ∑xi2)(β0β1)=(∑yi∑xiyi)\binom{n\ \ \sum x_i}{\sum x_i\ \ \sum x_i^2}\binom{\beta_0}{\beta_1}=\binom{\sum y_i}{\sum x_iy_i} を解くと得られる。数値例:x=(1,2,3,4,5)x=(1,2,3,4,5)、y=(2.1,3.9,6.2,7.8,10.1)y=(2.1,3.9,6.2,7.8,10.1) では xˉ=3\bar x=3、yˉ=6.02\bar y=6.02、Sxx=10S_{xx}=10、Sxy=19.9S_{xy}=19.9 から β^1=1.99\hat\beta_1=1.99、β^0=0.05\hat\beta_0=0.05。

定理 3.1(Gauss–Markov の定理)✓

定義 2.1 の仮定(誤差は無相関・等分散;正規性は不要)のもとで、次が成り立つ。

  1. Eβ^=βE\hat\beta=\beta、Cov(β^)=σ2(XTX)−1\mathrm{Cov}(\hat\beta)=\sigma^2(X^{\mathsf T}X)^{-1}。
  2. 任意の a∈Rpa\in\mathbb R^p について、aTβa^{\mathsf T}\beta の線形不偏推定量(yy の線形関数 cTyc^{\mathsf T}y で E[cTy]=aTβE[c^{\mathsf T}y]=a^{\mathsf T}\beta がすべての β\beta で成り立つもの)のうち、aTβ^a^{\mathsf T}\hat\beta の分散が最小で、等号は cTy=aTβ^c^{\mathsf T}y=a^{\mathsf T}\hat\beta のときに限る(BLUE)。
  3. s2=RSS/(n−p)s^2=\mathrm{RSS}/(n-p) は σ2\sigma^2 の不偏推定量である。

2 の証明の方針は、別の線形不偏推定量 cTyc^{\mathsf T}y を、aTβ^a^{\mathsf T}\hat\beta に対応するベクトル c0c_0 とそこからのずれ dd に分けることです。ずれ dd は XX の列と直交するので、交差項が消え、分散は dd の分だけ増えるだけになります。

証明(定理 3.1)
  1. β^=(XTX)−1XT(Xβ+ε)=β+(XTX)−1XTε\hat\beta=(X^{\mathsf T}X)^{-1}X^{\mathsf T}(X\beta+\varepsilon)=\beta+(X^{\mathsf T}X)^{-1}X^{\mathsf T}\varepsilon。期待値は β\beta、共分散は (XTX)−1XT(σ21)X(XTX)−1=σ2(XTX)−1(X^{\mathsf T}X)^{-1}X^{\mathsf T}(\sigma^2\mathbb 1)X(X^{\mathsf T}X)^{-1}=\sigma^2(X^{\mathsf T}X)^{-1}。

  2. cTyc^{\mathsf T}y が不偏であることは E[cTy]=cTXβ=aTβE[c^{\mathsf T}y]=c^{\mathsf T}X\beta=a^{\mathsf T}\beta (全 β\beta)、すなわち XTc=aX^{\mathsf T}c=a。c0=X(XTX)−1ac_0=X(X^{\mathsf T}X)^{-1}a とおくと aTβ^=c0Tya^{\mathsf T}\hat\beta=c_0^{\mathsf T}y で、d=c−c0d=c-c_0 は XTd=a−a=0X^{\mathsf T}d=a-a=0 をみたす。Var(cTy)=σ2∥c∥2=σ2(∥c0∥2+2c0Td+∥d∥2)\mathrm{Var}(c^{\mathsf T}y)=\sigma^2\|c\|^2=\sigma^2(\|c_0\|^2+2c_0^{\mathsf T}d+\|d\|^2) で、交差項は c0Td=aT(XTX)−1XTd=0c_0^{\mathsf T}d=a^{\mathsf T}(X^{\mathsf T}X)^{-1}X^{\mathsf T}d=0 。よって Var(cTy)=Var(aTβ^)+σ2∥d∥2≥Var(aTβ^)\mathrm{Var}(c^{\mathsf T}y)=\mathrm{Var}(a^{\mathsf T}\hat\beta)+\sigma^2\|d\|^2\ge\mathrm{Var}(a^{\mathsf T}\hat\beta) で、等号は d=0d=0 のとき。

  3. (1−H)X=0(\mathbb 1-H)X=0 から ε^=(1−H)y=(1−H)ε\hat\varepsilon=(\mathbb 1-H)y=(\mathbb 1-H)\varepsilon。RSS=εT(1−H)ε\mathrm{RSS}=\varepsilon^{\mathsf T}(\mathbb 1-H)\varepsilon(1−H\mathbb 1-H は対称・べき等)。対称行列 AA について E[εTAε]=∑AijE[εiεj]=σ2trAE[\varepsilon^{\mathsf T}A\varepsilon]=\sum A_{ij}E[\varepsilon_i\varepsilon_j]=\sigma^2\mathrm{tr}A なので、E[RSS]=σ2tr(1−H)=σ2(n−p)E[\mathrm{RSS}]=\sigma^2\mathrm{tr}(\mathbb 1-H)=\sigma^2(n-p)。

自由度が n−pn-p になる理由は、残差が nn 次元空間の (n−p)(n-p) 次元の部分空間 W⊥W^\perp にしか自由度をもたないからです。

注意 3.2(BLUE が最良とは限らない)

Gauss–Markov が最良とするのは線形不偏推定量の範囲だけです。偏りを許すと MSE が下がることがあります。たとえば yi=β+εiy_i=\beta+\varepsilon_i(nn 個)では yˉ\bar y が BLUE ですが、縮小した cyˉc\bar y(0<c<10<c<1)は偏り (c−1)β(c-1)\beta を持つ代わりに分散が c2σ2/nc^2\sigma^2/n に減り、c=β2/(β2+σ2/n)c=\beta^2/(\beta^2+\sigma^2/n) で MSE が最小になります。説明変数が多いとき、この考え方が Ridge 回帰などの正則化につながります。

以下、ε∼N(0,σ21n)\varepsilon\sim N(0,\sigma^2\mathbb 1_n) (正規線形モデル)とします。ガウスベクトルの性質(Gauss ベクトルの構造(定理 5.2)[特性関数と Gauss ベクトル]、無相関ならば独立(命題 5.3)[特性関数と Gauss ベクトル])を使います。

定義 4.1(カイ二乗分布・t 分布・F 分布)↗

Z1,Z2,…Z_1,Z_2,\dots を独立な N(0,1)N(0,1) とする。自由度 kk のカイ二乗分布 χk2\chi^2_k は Z12+⋯+Zk2Z_1^2+\cdots+Z_k^2 の分布。Z∼N(0,1)Z\sim N(0,1) と V∼χk2V\sim\chi^2_k が独立のとき T=Z/V/kT=Z/\sqrt{V/k} の分布を 自由度 kk の tt 分布 tkt_k という。U∼χq2U\sim\chi^2_q と V∼χk2V\sim\chi^2_k が独立のとき F=(U/q)/(V/k)F=(U/q)/(V/k) の分布を FF 分布 Fq,kF_{q,k} という。

命題 4.2(カイ二乗分布の密度)✓

χk2\chi^2_k の密度は xk/2−1e−x/22k/2Γ(k/2)\dfrac{x^{k/2-1}e^{-x/2}}{2^{k/2}\Gamma(k/2)}(x>0x>0)で、平均 kk、分散 2k2k である。

証明(命題 4.2)

Z∼N(0,1)Z\sim N(0,1) の Z2Z^2 の特性関数は EeitZ2=∫e−(1−2it)z2/22πdz=(1−2it)−1/2E e^{itZ^2}=\int\frac{e^{-(1-2it)z^2/2}}{\sqrt{2\pi}}dz=(1-2it)^{-1/2}(ガウス積分の複素版;Re(1−2it)=1>0\mathrm{Re}(1-2it)=1>0)。独立和の特性関数は積なので χk2\chi^2_k の特性関数は (1−2it)−k/2(1-2it)^{-k/2}。一方、ガンマ分布 Gamma(k/2,レート 1/2)\mathrm{Gamma}(k/2,\text{レート }1/2) の密度 xk/2−1e−x/22k/2Γ(k/2)\frac{x^{k/2-1}e^{-x/2}}{2^{k/2}\Gamma(k/2)} の特性関数も同じ (1−2it)−k/2(1-2it)^{-k/2}(積分 ∫0∞xα−1e−(1/2−it)xdx=Γ(α)(1/2−it)−α\int_0^\infty x^{\alpha-1}e^{-(1/2-it)x}dx=\Gamma(\alpha)(1/2-it)^{-\alpha} から)。特性関数の一意性(定理 3.3)[特性関数と Gauss ベクトル] により分布が一致する。平均は EZ2=1E Z^2=1 から kk、分散は Var(Z2)=EZ4−1=3−1=2\mathrm{Var}(Z^2)=E Z^4-1=3-1=2 から 2k2k(独立和)。

tkt_k は k→∞k\to\infty で N(0,1)N(0,1) に近づきます。V/k→1V/k\to1(大数の法則)にスルツキーの定理を使えば従います。

定理 4.3(Cochran の定理)✓

Z∼N(0,1n)Z\sim N(0,\mathbb 1_n) とし、Rn\mathbb R^n が互いに直交する部分空間 V1,…,VmV_1,\dots,V_m の直和で dim⁡Vj=rj\dim V_j=r_j とする。PjP_j を VjV_j への直交射影とすると、P1Z,…,PmZP_1Z,\dots,P_mZ は互いに独立で、∥PjZ∥2∼χrj2\|P_jZ\|^2\sim\chi^2_{r_j} である。

この定理は、正規線形モデルの分布論の中心です。標準正規ベクトルを直交する部分空間に分けると、各部分の成分は互いに独立で、長さの二乗はカイ二乗分布に従います。これを使って、残差平方和と推定量の独立性や、tt 分布・FF 分布の導出ができます。証明の方針は、正規直交基底を取って座標で見ると、独立な標準正規変数の二乗和に分かれることを確かめるだけです。

証明(定理 4.3)

各 VjV_j の正規直交基底を並べて Rn\mathbb R^n の正規直交基底 {u1,…,un}\{u_1,\dots,u_n\} を作り、直交行列 O=(u1,…,un)TO=(u_1,\dots,u_n)^{\mathsf T} を定める。Gauss ベクトルの構造(定理 5.2)[特性関数と Gauss ベクトル] の 4 より OZ∼N(0,O1OT)=N(0,1n)OZ\sim N(0,O\mathbb 1O^{\mathsf T})=N(0,\mathbb 1_n)。成分 ξi=uiTZ\xi_i=u_i^{\mathsf T}Z はガウスベクトルの成分で互いに無相関なので、無相関ならば独立(命題 5.3)[特性関数と Gauss ベクトル] を繰り返し使って互いに独立な N(0,1)N(0,1)。PjZ=∑i∈IjξiuiP_jZ=\sum_{i\in I_j}\xi_iu_i (IjI_j は VjV_j の基底の添字集合、∣Ij∣=rj|I_j|=r_j)で、∥PjZ∥2=∑i∈Ijξi2\|P_jZ\|^2=\sum_{i\in I_j}\xi_i^2 。添字集合は互いに素なので、異なる jj のブロックは独立で、各ブロックは rjr_j 個の独立な標準正規の二乗和、すなわち χrj2\chi^2_{r_j}。

定理 4.4(正規線形モデルの標本分布)✓

y=Xβ+εy=X\beta+\varepsilon、ε∼N(0,σ21n)\varepsilon\sim N(0,\sigma^2\mathbb 1_n) のとき、

  1. β^∼N(β,σ2(XTX)−1)\hat\beta\sim N\bigl(\beta,\sigma^2(X^{\mathsf T}X)^{-1}\bigr)。
  2. (n−p)s2/σ2=RSS/σ2∼χn−p2(n-p)s^2/\sigma^2=\mathrm{RSS}/\sigma^2\sim\chi^2_{n-p}。
  3. β^\hat\beta と s2s^2 は独立である。
証明(定理 4.4)
  1. β^=β+(XTX)−1XTε\hat\beta=\beta+(X^{\mathsf T}X)^{-1}X^{\mathsf T}\varepsilon はガウスベクトルの線形変換なので、Gauss ベクトルの構造(定理 5.2)[特性関数と Gauss ベクトル] の 4 と 定理 3.1 の 1 による。2, 3. Z=ε/σ∼N(0,1n)Z=\varepsilon/\sigma\sim N(0,\mathbb 1_n) とし、Rn=W⊕W⊥\mathbb R^n=W\oplus W^\perp(W=col(X)W=\mathrm{col}(X)、dim⁡W=p\dim W=p、dim⁡W⊥=n−p\dim W^\perp=n-p)に 定理 4.3 を使う。RSS=∥(1−H)ε∥2=σ2∥PW⊥Z∥2∼σ2χn−p2\mathrm{RSS}=\|(\mathbb 1-H)\varepsilon\|^2=\sigma^2\|P_{W^\perp}Z\|^2\sim\sigma^2\chi^2_{n-p} で 2 を得る。さらに β^−β=(XTX)−1XTε\hat\beta-\beta=(X^{\mathsf T}X)^{-1}X^{\mathsf T}\varepsilon は XTε=XTHεX^{\mathsf T}\varepsilon=X^{\mathsf T}H\varepsilon (XTH=XTX^{\mathsf T}H=X^{\mathsf T} より)を通じて Hε=σPWZH\varepsilon=\sigma P_WZ のみの関数で、PWZP_WZ と PW⊥ZP_{W^\perp}Z は独立なので、β^\hat\beta と RSS\mathrm{RSS} も独立。

系 4.5(t 検定と t 区間)✓

a∈Rpa\in\mathbb R^p について、se(aTβ^)=saT(XTX)−1a\mathrm{se}(a^{\mathsf T}\hat\beta)=s\sqrt{a^{\mathsf T}(X^{\mathsf T}X)^{-1}a} とおくと

T=aTβ^−aTβse(aTβ^)∼tn−p.T=\frac{a^{\mathsf T}\hat\beta-a^{\mathsf T}\beta}{\mathrm{se}(a^{\mathsf T}\hat\beta)}\sim t_{n-p}.

したがって aTβa^{\mathsf T}\beta の信頼係数 1−α1-\alpha の信頼区間は aTβ^±tn−p,α/2 se(aTβ^)a^{\mathsf T}\hat\beta\pm t_{n-p,\alpha/2}\,\mathrm{se}(a^{\mathsf T}\hat\beta) である。

証明(系 4.5)

定理 4.4 の 1 より Z=aTβ^−aTβσaT(XTX)−1a∼N(0,1)Z=\dfrac{a^{\mathsf T}\hat\beta-a^{\mathsf T}\beta}{\sigma\sqrt{a^{\mathsf T}(X^{\mathsf T}X)^{-1}a}}\sim N(0,1)。2 より V=(n−p)s2/σ2∼χn−p2V=(n-p)s^2/\sigma^2\sim\chi^2_{n-p}、3 より ZZ と VV は独立。T=Z/V/(n−p)T=Z/\sqrt{V/(n-p)} で、σ\sigma が約分され tn−pt_{n-p} の定義そのもの。信頼区間は 検定と信頼集合の双対性(定理 6.2)[検定と区間推定] による。

X=1X=\mathbf 1(全部 1 の列)の場合が、母平均の古典的な tt 区間 Xˉ±tn−1,α/2s/n\bar X\pm t_{n-1,\alpha/2}s/\sqrt n です。標本数が小さいときは正規分布ではなく tt 分布を使う理由が、σ\sigma を ss で置き換えたことにあるのが分かります。

例 4.6(単回帰の推測)

例 2.3 のデータで、RSS=0.107\mathrm{RSS}=0.107、s2=0.107/3=0.0357s^2=0.107/3=0.0357(自由度 n−p=3n-p=3)。傾きの標準誤差は s2/Sxx=0.0597\sqrt{s^2/S_{xx}}=0.0597、t=1.99/0.0597=33.3t=1.99/0.0597=33.3 。95% 信頼区間は t3,0.025=3.182t_{3,0.025}=3.182 から 1.99±3.182×0.0597=(1.80, 2.18)1.99\pm3.182\times0.0597=(1.80,\ 2.18)。切片の標準誤差は s1/n+xˉ2/Sxx=0.198s\sqrt{1/n+\bar x^2/S_{xx}}=0.198、β^0=0.05\hat\beta_0=0.05 は 00 と有意に異なると言えない(t=0.25t=0.25)。

係数のいくつかが 00 かどうか、つまり小さいモデルで十分かを調べるのが FF 検定です。一般に、W=col(X)W=\mathrm{col}(X) の部分空間 W0W_0(dim⁡W0=p−q\dim W_0=p-q、q≥1q\ge1)を考え、H0:E[y]=Xβ∈W0H_0:E[y]=X\beta\in W_0 を検定します。たとえば、qq 個の係数が 00 という仮説です。

定理 5.1(入れ子モデルの F 検定)✓

正規線形モデルで H0:Xβ∈W0H_0:X\beta\in W_0 が成り立つとき、RSS0=∥(1−PW0)y∥2\mathrm{RSS}_0=\|(\mathbb 1-P_{W_0})y\|^2 (H0H_0 のもとでの最小二乗の残差平方和)、RSS=∥(1−PW)y∥2\mathrm{RSS}=\|(\mathbb 1-P_W)y\|^2 として

F=(RSS0−RSS)/qRSS/(n−p)∼Fq, n−p.F=\frac{(\mathrm{RSS}_0-\mathrm{RSS})/q}{\mathrm{RSS}/(n-p)}\sim F_{q,\,n-p}.

FF が大きいとき H0H_0 を棄却する。

証明の方針は、Rn\mathbb R^n を三つの直交する部分空間に分けることです。小さなモデルの空間 W0W_0、フルモデルの空間 WW のうち W0W_0 に含まれない部分、そして W⊥W^\perp です。H0H_0 のもとでは、後ろ二つの部分の成分は誤差だけで決まるので、Cochran の定理が当てはまります。

証明(定理 5.1)

Rn=W0⊕(W⊖W0)⊕W⊥\mathbb R^n=W_0\oplus(W\ominus W_0)\oplus W^\perp (直交する 3 つの部分空間、次元は p−qp-q、qq、n−pn-p)と分け、射影を P0,P1=PW−PW0,P2=1−PWP_0,P_1=P_W-P_{W_0},P_2=\mathbb 1-P_W とする。H0H_0 のもとで Xβ∈W0X\beta\in W_0 なので、P1Xβ=P2Xβ=0P_1X\beta=P_2X\beta=0、したがって P1y=P1εP_1y=P_1\varepsilon、P2y=P2εP_2y=P_2\varepsilon。(1−PW0)=P1+P2(\mathbb 1-P_{W_0})=P_1+P_2 で P1,P2P_1,P_2 は直交するから RSS0=∥P1y∥2+∥P2y∥2\mathrm{RSS}_0=\|P_1y\|^2+\|P_2y\|^2。RSS=∥P2y∥2\mathrm{RSS}=\|P_2y\|^2 なので RSS0−RSS=∥P1ε∥2\mathrm{RSS}_0-\mathrm{RSS}=\|P_1\varepsilon\|^2。定理 4.3 を Z=ε/σZ=\varepsilon/\sigma に適用すると、∥P1ε∥2/σ2∼χq2\|P_1\varepsilon\|^2/\sigma^2\sim\chi^2_q と ∥P2ε∥2/σ2=RSS/σ2∼χn−p2\|P_2\varepsilon\|^2/\sigma^2=\mathrm{RSS}/\sigma^2\sim\chi^2_{n-p} は独立で、比 FF は σ2\sigma^2 が約分され 定義 4.1 の Fq,n−pF_{q,n-p} である。

対立仮説(Xβ∉W0X\beta\notin W_0)のもとでは、P1y=P1Xβ+P1εP_1y=P_1X\beta+P_1\varepsilon の平均がずれ、∥P1y∥2/σ2\|P_1y\|^2/\sigma^2 は非心カイ二乗分布(非心度 ∥P1Xβ∥2/σ2\|P_1X\beta\|^2/\sigma^2)に従い、FF は大きくなる傾向をもちます。これが検出力の源です。

yŷ(W への射影)ŷ₀(W₀ への射影)W(次元 p)W₀(次元 p − q)残差 RSSRSS₀ − RSS
入れ子モデルの射影の幾何。y を W(フルモデル)に射影して ŷ、さらに W₀(小さなモデル)に射影して ŷ₀。RSS = |y − ŷ|²、RSS₀ − RSS = |ŷ − ŷ₀|²。両者は直交する成分で、H₀ のもとで独立なカイ二乗分布に従う。

例 5.2(1 個の係数の検定では F=t2F=t^2)

q=1q=1(aTβ=0a^{\mathsf T}\beta=0 の検定)では F1,kF_{1,k} と tk2t_k^2 は同じ分布です。実際 Z2/(V/k)Z^2/(V/k) は χ12/(V/k)\chi^2_1/(V/k) の定義そのもの。例 4.6 のデータで H0:β1=0H_0:\beta_1=0 の FF は RSS0=Syy=39.708\mathrm{RSS}_0=S_{yy}=39.708 から F=(39.708−0.107)/10.107/3=1110F=\frac{(39.708-0.107)/1}{0.107/3}=1110 で、t2=33.32=1110t^2=33.3^2=1110 と一致します。

例 5.3(2 つの係数を加えたモデルの比較)

n=20n=20 個のデータに、p=4p=4 個の係数をもつフルモデルと、2 個の係数が 0 の小さなモデルを当てはめ、RSS0=50\mathrm{RSS}_0=50、RSS=30\mathrm{RSS}=30 だったとする。q=2q=2 で F=(50−30)/230/16=5.33F=\dfrac{(50-30)/2}{30/16}=5.33 。F2,16F_{2,16} の上側 5%5\% 点は 3.633.63 なので、H0H_0(小さなモデルで十分)を棄却する。

例 5.4(一元配置分散分析)

gg 個の群があり、群 jj に njn_j 個の観測 yji∼N(μj,σ2)y_{ji}\sim N(\mu_j,\sigma^2) がある(n=∑njn=\sum n_j)。フルモデルは群ごとの平均(p=gp=g)、小さなモデルは全体の平均 1 個(p−q=1p-q=1、q=g−1q=g-1)。RSS=∑j,i(yji−yˉj)2\mathrm{RSS}=\sum_{j,i}(y_{ji}-\bar y_j)^2(群内)、RSS0−RSS=∑jnj(yˉj−yˉ)2\mathrm{RSS}_0-\mathrm{RSS}=\sum_jn_j(\bar y_j-\bar y)^2(群間)。F=群間/(g−1)群内/(n−g)∼Fg−1,n−gF=\dfrac{\text{群間}/(g-1)}{\text{群内}/(n-g)}\sim F_{g-1,n-g} が分散分析(ANOVA)の FF 検定です。

6. 一般化最小二乗と相関のあるデータ

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誤差が無相関・等分散でないとき、すなわち Cov(y)=C\mathrm{Cov}(y)=C (既知の正定値行列)のときを考えます。

定理 6.1(一般化最小二乗(Aitken))✓

y=Xβ+εy=X\beta+\varepsilon、Eε=0E\varepsilon=0、Cov(ε)=C\mathrm{Cov}(\varepsilon)=C(正定値)とする。一般化最小二乗(GLS)推定量

β^GLS=(XTC−1X)−1XTC−1y\hat\beta_{\mathrm{GLS}}=(X^{\mathsf T}C^{-1}X)^{-1}X^{\mathsf T}C^{-1}y

は β\beta の線形不偏推定量の中で最小分散(BLUE)で、Cov(β^GLS)=(XTC−1X)−1\mathrm{Cov}(\hat\beta_{\mathrm{GLS}})=(X^{\mathsf T}C^{-1}X)^{-1} である。β^GLS\hat\beta_{\mathrm{GLS}} は χ2(β)=(y−Xβ)TC−1(y−Xβ)\chi^2(\beta)=(y-X\beta)^{\mathsf T}C^{-1}(y-X\beta) の最小化で得られ、ε∼N(0,C)\varepsilon\sim N(0,C) なら最小値 χmin⁡2\chi^2_{\min} は χn−p2\chi^2_{n-p} に従う。

証明(定理 6.1)

CC は正定値な対称行列なので、スペクトル定理(定理 4.2)[スペクトル定理] で対角化して正定値な平方根 C1/2C^{1/2} とその逆 C−1/2C^{-1/2} が作れる。y~=C−1/2y\tilde y=C^{-1/2}y、X~=C−1/2X\tilde X=C^{-1/2}X、ε~=C−1/2ε\tilde\varepsilon=C^{-1/2}\varepsilon とおくと y~=X~β+ε~\tilde y=\tilde X\beta+\tilde\varepsilon、Cov(ε~)=C−1/2CC−1/2=1n\mathrm{Cov}(\tilde\varepsilon)=C^{-1/2}CC^{-1/2}=\mathbb 1_n(白色化)。これは σ2=1\sigma^2=1 の線形モデルで、定理 2.2 と 定理 3.1 が使える。最小二乗推定量は (X~TX~)−1X~Ty~=(XTC−1X)−1XTC−1y(\tilde X^{\mathsf T}\tilde X)^{-1}\tilde X^{\mathsf T}\tilde y=(X^{\mathsf T}C^{-1}X)^{-1}X^{\mathsf T}C^{-1}y で、∥y~−X~β∥2=χ2(β)\|\tilde y-\tilde X\beta\|^2=\chi^2(\beta) 。線形不偏推定量は cTy=(C1/2c)Ty~c^{\mathsf T}y=(C^{1/2}c)^{\mathsf T}\tilde y と書き直せば y~\tilde y の線形不偏推定量なので、BLUE の主張と共分散が従う。正規性のもとでは 定理 4.4 の 2 (σ=1\sigma=1)から χmin⁡2=RSS(y~,X~)∼χn−p2\chi^2_{\min}=\mathrm{RSS}(\tilde y,\tilde X)\sim\chi^2_{n-p}。

証明の方針は、誤差に C−1/2C^{-1/2} をかけて無相関・等分散の誤差に直し(白色化)、これまでの線形モデルの結果を使うことです。C−1/2C^{-1/2} は、CC を対角化して固有値の平方根の逆数を並べて作ります。

最小値 χmin⁡2\chi^2_{\min} は当てはめの良さの検定統計量です。χmin⁡2/(n−p)≈1\chi^2_{\min}/(n-p)\approx1 ならモデルとデータは整合し、はるかに大きければモデルが誤り(または誤差を過小評価)しています。

次に、モンテカルロ法の標本のように、同じ量を時系列的に繰り返し測ったデータで、平均値の誤差を評価します。測定値 x1,…,xNx_1,\dots,x_N は定常(時刻をずらしても統計的な性質が変わらない)で、自己共分散 γ(k)=Cov(xi,xi+k)\gamma(k)=\mathrm{Cov}(x_i,x_{i+k})、自己相関 ρk=γ(k)/γ(0)\rho_k=\gamma(k)/\gamma(0) をもつとします。

定理 6.2(相関のあるデータの平均の分散)✓

定常列 x1,…,xNx_1,\dots,x_N の標本平均 xˉ\bar x について

Var(xˉ)=γ(0)N[1+2∑k=1N−1(1−kN)ρk].\mathrm{Var}(\bar x)=\frac{\gamma(0)}N\Bigl[1+2\sum_{k=1}^{N-1}\Bigl(1-\frac kN\Bigr)\rho_k\Bigr].

∑k≥1∣ρk∣<∞\sum_{k\ge1}|\rho_k|<\infty ならば

N Var(xˉ)→γ(0)⋅2τint,τint=12+∑k=1∞ρk(N→∞).N\,\mathrm{Var}(\bar x)\to\gamma(0)\cdot2\tau_{\mathrm{int}},\qquad\tau_{\mathrm{int}}=\frac12+\sum_{k=1}^\infty\rho_k\quad(N\to\infty).

統合自己相関時間 τint\tau_{\mathrm{int}} を使うと、xˉ\bar x の分散は独立な Neff=N/(2τint)N_{\mathrm{eff}}=N/(2\tau_{\mathrm{int}}) 個の標本の平均の分散 γ(0)/Neff\gamma(0)/N_{\mathrm{eff}} に等しい。

証明の方針は、Var(xˉ)\mathrm{Var}(\bar x) が N2N^2 個の共分散の和であることから、時刻の差 k=i−jk=i-j が同じ組をまとめて数えることです。たとえば N=3N=3 なら、k=0k=0 の組は 3 個、k=1k=1 の組は (2,1),(3,2)(2,1),(3,2) の 2 個で、一般に差が ∣k∣|k| の組は N−∣k∣N-|k| 個です。

証明(定理 6.2)

Var(xˉ)=1N2∑i,j=1Nγ(i−j)\mathrm{Var}(\bar x)=\frac1{N^2}\sum_{i,j=1}^N\gamma(i-j)。差 k=i−jk=i-j ごとにまとめると、kk を与える (i,j)(i,j) の組は N−∣k∣N-|k| 個なので 1N2∑∣k∣<N(N−∣k∣)γ(k)=1N∑∣k∣<N(1−∣k∣N)γ(k)\frac1{N^2}\sum_{|k|<N}(N-|k|)\gamma(k)=\frac1N\sum_{|k|<N}(1-\frac{|k|}N)\gamma(k)。γ(−k)=γ(k)\gamma(-k)=\gamma(k) から第 1 式を得る。第 2 式は、各項 (1−k/N)ρk→ρk(1-k/N)\rho_k\to\rho_k で、∣(1−k/N)ρk∣≤∣ρk∣|(1-k/N)\rho_k|\le|\rho_k| かつ ∑∣ρk∣<∞\sum|\rho_k|<\infty なので、和に対する優収束定理(ルベーグの優収束定理(定理 7.3)[ルベーグ積分の定義と収束定理] を計数測度に使う)により ∑k=1N−1(1−k/N)ρk→∑k≥1ρk\sum_{k=1}^{N-1}(1-k/N)\rho_k\to\sum_{k\ge1}\rho_k。1+2∑ρk=2τint1+2\sum\rho_k=2\tau_{\mathrm{int}}。

独立な標本(ρk=0\rho_k=0)では τint=12\tau_{\mathrm{int}}=\frac12、Neff=NN_{\mathrm{eff}}=N で、Var(xˉ)=γ(0)/N\mathrm{Var}(\bar x)=\gamma(0)/N に戻ります。正の相関があると τint>12\tau_{\mathrm{int}}>\frac12 で、Neff<NN_{\mathrm{eff}}<N です。

例 6.3(AR(1) 過程の有効標本数)

xi+1−μ=ϕ(xi−μ)+ηix_{i+1}-\mu=\phi(x_i-\mu)+\eta_i(∣ϕ∣<1|\phi|<1、ηi\eta_i は無相関なノイズ)の定常解では ρk=ϕk\rho_k=\phi^k。∑k≥1ϕk=ϕ1−ϕ\sum_{k\ge1}\phi^k=\frac\phi{1-\phi} から

τint=12+ϕ1−ϕ=1+ϕ2(1−ϕ),Neff=N 1−ϕ1+ϕ.\tau_{\mathrm{int}}=\frac12+\frac\phi{1-\phi}=\frac{1+\phi}{2(1-\phi)},\qquad N_{\mathrm{eff}}=N\,\frac{1-\phi}{1+\phi}.

ϕ=0.9\phi=0.9 のとき Neff=N/19N_{\mathrm{eff}}=N/19 。10000 個の標本は 526 個の独立標本と同じ精度しかなく、相関を無視した標準誤差 γ(0)/N\sqrt{\gamma(0)/N} は真の値の 1/19=23%\sqrt{1/19}=23\% に過小評価されます。ϕ=0.5\phi=0.5 なら Neff=N/3N_{\mathrm{eff}}=N/3 。

注意 6.4(実際の誤差評価)

τint\tau_{\mathrm{int}} は未知で、データから推定します。実務では、系列を長さ BB のブロックに分けてブロック平均を作り、B≫τintB\gg\tau_{\mathrm{int}} なら各ブロック平均は近似的に独立になるので、ブロック平均の標準偏差から誤差を評価します(ブロック化、またはジャックナイフ法)。BB を増やして誤差が一定値に飽和するのを確認します。さらに、複数の時間 tt の測定値を同時に当てはめるときは、各時間の値の間の共分散行列 CC を標本から推定して 定理 6.1 の χ2\chi^2 最小化を行い、χmin⁡2/(n−p)\chi^2_{\min}/(n-p) で当てはめの良さを判断します。

演習 7.1易

3 点 (x,y)=(0,1),(1,3),(2,4)(x,y)=(0,1),(1,3),(2,4) に直線 y=β0+β1xy=\beta_0+\beta_1x を最小二乗で当てはめ、残差平方和を求めよ。

解答

xˉ=1\bar x=1、yˉ=83\bar y=\frac83。Sxx=2S_{xx}=2、Sxy=(−1)(1−83)+0+(1)(4−83)=53+43=3S_{xy}=(-1)(1-\frac83)+0+(1)(4-\frac83)=\frac53+\frac43=3。β^1=32\hat\beta_1=\frac32、β^0=83−32=76\hat\beta_0=\frac83-\frac32=\frac76。残差:1−76=−161-\frac76=-\frac16、3−(76+32)=3−83=133-(\frac76+\frac32)=3-\frac{8}{3}=\frac13、4−(76+3)=−164-(\frac76+3)=-\frac16。RSS=136+19+136=16\mathrm{RSS}=\frac1{36}+\frac19+\frac1{36}=\frac16。(残差の和は 00 で、xx との内積も 00 。)

演習 7.2標準

注意 3.2 のモデル yi=β+εiy_i=\beta+\varepsilon_i(Var εi=σ2\mathrm{Var}\,\varepsilon_i=\sigma^2)で、β^c=cyˉ\hat\beta_c=c\bar y の MSE を計算し、c=β2/(β2+σ2/n)c=\beta^2/(\beta^2+\sigma^2/n) で最小になることを示せ。

解答

Eβ^c=cβE\hat\beta_c=c\beta、偏り (c−1)β(c-1)\beta、分散 c2σ2/nc^2\sigma^2/n。MSE(c)=(c−1)2β2+c2σ2/n\mathrm{MSE}(c)=(c-1)^2\beta^2+c^2\sigma^2/n。cc で微分して 2(c−1)β2+2cσ2/n=02(c-1)\beta^2+2c\sigma^2/n=0 から c=β2/(β2+σ2/n)c=\beta^2/(\beta^2+\sigma^2/n)。このとき MSE=β2σ2/nβ2+σ2/n<σ2/n\mathrm{MSE}=\frac{\beta^2\sigma^2/n}{\beta^2+\sigma^2/n}<\sigma^2/n。(ただし最適な cc は未知の β\beta に依存するので、実際には使えない。)

演習 7.3標準

3 つの群の標本数が n1=n2=n3=5n_1=n_2=n_3=5、群平均が (10,12,14)(10,12,14)、全体平均 1212、群内平方和が RSS=60\mathrm{RSS}=60 であるとき、FF 統計量を求め、H0:μ1=μ2=μ3H_0:\mu_1=\mu_2=\mu_3 を 5%5\% 水準で検定せよ(F2,12F_{2,12} の上側 5%5\% 点は 3.893.89)。

解答

群間平方和は 5(4+0+4)=405(4+0+4)=40、g−1=2g-1=2、n−g=12n-g=12。F=40/260/12=4.0>3.89F=\dfrac{40/2}{60/12}=4.0>3.89 なので、5%5\% 水準で H0H_0 を棄却する(ぎりぎり)。

演習 7.4標準

ϕ=0.6\phi=0.6 の AR(1) 過程から N=2000N=2000 個の標本を得たとき、τint\tau_{\mathrm{int}} と有効標本数 NeffN_{\mathrm{eff}} を求めよ。標本平均の標準誤差は、相関を無視した場合の何倍か。

解答

τint=1.62×0.4=2\tau_{\mathrm{int}}=\frac{1.6}{2\times0.4}=2、Neff=2000/4=500N_{\mathrm{eff}}=2000/4=500(=N(1−ϕ)/(1+ϕ)=2000×0.25=N(1-\phi)/(1+\phi)=2000\times0.25)。標準誤差は N/Neff=4=2\sqrt{N/N_{\mathrm{eff}}}=\sqrt4=2 倍。

  • Shayle R. Searle and Marvin H. J. Gruber, Linear Models, 2nd ed., Wiley, 2017 — 最小二乗、Gauss–Markov、分布論。
  • C. Radhakrishna Rao, Linear Statistical Inference and Its Applications, 2nd ed., Wiley, 1973 — 線形モデルの理論、Cochran の定理。
  • George A. F. Seber and Alan J. Lee, Linear Regression Analysis, 2nd ed., Wiley, 2003 — 回帰分析の推測。
  • Ulli Wolff, “Monte Carlo errors with less errors”, Computer Physics Communications 156 (2004), 143–153 — 統合自己相関時間と誤差評価。
  • 久保川達也『現代数理統計学の基礎』共立出版、2017 — 線形モデルと正規分布論。

このテーマの 100 本ノック(50 問)

執筆: Claude Code(Sonnet 5.5)・監査 2 回(Claude Code)・最終 2026-10-12

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