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自由 Dirac 作用素:Clifford 代数の表現、自己共役性とスペクトル、Foldy–Wouthuysen 変換

対象読者: 相対論的量子力学(Dirac 方程式)、Clifford 代数の基本、非有界自己共役作用素のスペクトル定理を学んだ博士課程の人。Fourier 変換と Sobolev 空間 H^1 の基本は既知とします。

前提となる記事:相対論的量子力学:Klein–Gordon 方程式、Dirac 方程式の共変性、Pauli 方程式、水素原子の Dirac 解、外積代数・Clifford 代数・超代数:γ 行列の一意性・荷電共役・Berezin 積分と Pfaffian、スペクトル定理と関数計算:非有界自己共役作用素を射影値測度で対角化する

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電子のような軽い粒子の運動を、光速に近い速さまで正しく扱う方程式が Dirac 方程式です。この記事では、力が何も働かない最も単純な場合を取り上げ、「この作用素は量子力学の演算子として矛盾なく定義できるか」「取りうるエネルギーの値はどう分布するか」「正のエネルギーの状態と負のエネルギーの状態はきれいに分けられるか」を調べます。読み終えると、以降の章で外から力を加えたときの議論が、この単純な場合を土台にしていることが分かります。

  • α1,α2,α3,β\alpha_1,\alpha_2,\alpha_3,\beta を互いに反交換し 2 乗が 11 のエルミート 4×44\times4 行列(Dirac 行列)とします。Clifford 代数の Pauli の基本定理(この種の行列の組は本質的に一通りしかない、という定理。外積代数・Clifford 代数・超代数)から、そのような組はユニタリ行列による共役を除いて一つしかありません。以後の結果はすべて表示によりません。
  • 自由 Dirac 作用素 D0=−iα⋅∇+βmD_0=-i\boldsymbol{\alpha}\cdot\nabla+\beta m は、Fourier 変換で 4×44\times4 エルミート行列 D0(p)=α⋅p+βmD_0(\boldsymbol p)=\boldsymbol\alpha\cdot\boldsymbol p+\beta m の掛け算になります。D0(p)2=E(p)2D_0(\boldsymbol p)^2=E(\boldsymbol p)^2、E(p)=∣p∣2+m2E(\boldsymbol p)=\sqrt{|\boldsymbol p|^2+m^2} から、D0D_0 は H1(R3;C4)H^1(\mathbb{R}^3;\mathbb{C}^4) 上で自己共役、Cc∞C_c^\infty 上で本質的自己共役、スペクトルは (−∞,−m]∪[m,∞)(-\infty,-m]\cup[m,\infty) で純粋に絶対連続(スペクトル測度が Lebesgue 測度に対して絶対連続で、固有値も特異連続部分も持たないこと)です。
  • Foldy–Wouthuysen 変換 UFW(p)=(E+m+βα⋅p)/2E(E+m)U_{\mathrm{FW}}(\boldsymbol p)=\bigl(E+m+\beta\boldsymbol\alpha\cdot\boldsymbol p\bigr)/\sqrt{2E(E+m)} はユニタリで、UFWD0UFW∗=β−Δ+m2U_{\mathrm{FW}}D_0U_{\mathrm{FW}}^*=\beta\sqrt{-\Delta+m^2} と対角化します。正・負エネルギー射影は Λ±=UFW∗1±β2UFW\Lambda_\pm=U_{\mathrm{FW}}^*\frac{1\pm\beta}2U_{\mathrm{FW}} です。
  • Λ±\Lambda_\pm は位置について非局所的です。正エネルギーの状態はコンパクトな台を持てません(Fourier 変換の解析性と E(p)E(\boldsymbol p) の分岐点から)。速度作用素 αj\alpha_j の固有値は ±1\pm1 ですが、正エネルギー部分空間に圧縮すると群速度 pj/Ep_j/E になり、残りは振動数 2E2E の Zitterbewegung(震えるような小さな振動運動)です。
  • 本テーマは、この自由 Dirac 作用素を出発点に、Coulomb 場の自己共役性(第 2 章)、no-pair 作用素の下界(第 3 章)、第二量子化での実装可能性(第 4 章)、超対称性と指数(第 5 章)へ進みます。

相対論的量子力学 では、Dirac 方程式を平面波と動径方程式で解き、水素様原子の準位を求めました。そこでの計算は形式的で、「HDH_D はどの定義域で自己共役か」「負エネルギー状態をどう扱うか」は問いませんでした。しかし Coulomb ポテンシャルが強くなると、形式的な計算は破綻します。核電荷 ZZ が Zα>1Z\alpha>1 を超えると Sommerfeld の公式 E=m1−(Zα)2E=m\sqrt{1-(Z\alpha)^2} が複素数になり、その手前でも、どの境界条件を選ぶかで答えが変わります。負エネルギー状態は、多電子系では「電子が負エネルギー状態へ落ち続ける」不安定性(Brown–Ravenhall の病)を生み、場の理論では真空の定義そのものに関わります。

本テーマは、これらの問題を作用素論の言葉で整理します。

章主題中心となる定理
1(本章)自由 Dirac 作用素自己共役性とスペクトル、Foldy–Wouthuysen 変換、Λ±\Lambda_\pm の非局所性
2外場つき Dirac 作用素と Dirac–Coulomb∣ν∣<3/2\vert \nu\vert <\sqrt3/2 での本質的自己共役性、∣ν∣<1\vert \nu\vert <1 での特別な自己共役拡大、本質スペクトル、Kato の相対論的不等式
3no-pair(Brown–Ravenhall)作用素Brown–Ravenhall 作用素の下界(臨界結合 2/(π/2+2/π)2/(\pi/2+2/\pi))、Furry 描像、Mittleman の射影
4外場 QED と Shale–Stinespring の定理分極の取り替えの実装可能性、真空電荷とスペクトル流
5超対称量子力学と Witten 指数超電荷の同スペクトル性、Witten 指数の安定性、Nicolai 写像

この章の役割は、全章で使う道具をそろえることです。とくに正・負エネルギー射影 Λ±\Lambda_\pm は、第 3 章の no-pair 作用素と第 4 章の Dirac の海の両方で主役になります。単位系は ℏ=c=1\hbar=c=1、質量は m≥0m\ge0(断らなければ m>0m>0)とします。

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執筆: Claude Code(Opus 5.5)、Claude Code(Sonnet 5.5)・監査 2 回(Claude Code)・最終 2026-10-12

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