コンテンツにスキップ

外場 QED と Shale–Stinespring の定理:Dirac の海の取り替え、真空電荷とスペクトル流

対象読者: 本テーマ第 3 章までと、フェルミオン Fock 空間の正準反交換関係、Bogoliubov 変換、Fredholm 作用素の指数を学んだ博士課程の人。場の量子論の物理は深く仮定しません。

前提となる記事:no-pair(Brown–Ravenhall)作用素:臨界結合 2/(π/2+2/π) までの下界、Furry 描像、Mittleman の射影、フェルミオン Fock 空間と正準反交換関係:有界な生成消滅作用素・Jordan–Wigner 変換・電子陽電子の Fock 空間、Bogoliubov 変換と Shale の定理:Fock 空間で実装できる正準変換の判定、Fredholm 理論:Riesz–Schauder・指数の安定性・Atkinson・Krein–Rutman・Fredholm 行列式

生 Markdown

電子の理論では、エネルギーが負の状態はすべて電子で埋まっていて、それが「何もない真空」に見える、と考えます(Dirac の海)。ところが外から電場をかけると、どの状態を「正」「負」と呼ぶかの境目そのものが動くので、新しい真空が元の真空と同じ数学的な舞台(Fock 空間)に収まるのか、という素朴な疑問が出てきます。この記事は、その答えが「境目の動きが十分小さいとき、かつそのときに限る」と書けること、そして真空に電荷が生じる条件を、角度と固有値の数え上げで示します。

  • 1 粒子空間 H\mathcal{H} の直交射影 PP(「電子」の部分空間)ごとに、電子・陽電子の Fock 空間 FP\mathcal{F}_P 上の CAR 表現 ψP\psi_P と真空 ΩP\Omega_P が定まります。PP を自由 Dirac 作用素の正エネルギー射影に取ると、Dirac の海を埋めた真空の数学的な実現です。
  • 二つの射影 P,QP,Q の差がコンパクトなら、H\mathcal{H} は P=QP=Q の部分、P,QP,Q が直交する有限次元の部分、角度 θj∈(0,π/2)\theta_j\in(0,\pi/2) の 2 次元ブロックの直和に分かれます(二つの射影の標準形)。∥P−Q∥22=dim⁡ker⁡(P−Q−1)+dim⁡ker⁡(P−Q+1)+2∑jsin⁡2θj\|P-Q\|_2^2=\dim\ker(P-Q-1)+\dim\ker(P-Q+1)+2\sum_j\sin^2\theta_j です。
  • 定理:FP\mathcal{F}_P の中に「QQ の真空」が存在するための必要十分条件は P−QP-Q が Hilbert–Schmidt 作用素であることです。真空は 2 モードごとの回転 cos⁡θj−sin⁡θjψ∗(ej)ψ(gj)\cos\theta_j-\sin\theta_j\psi^*(e_j)\psi(g_j) の無限積で、収束は ∏cos⁡θj>0\prod\cos\theta_j>0、すなわち ∑sin⁡2θj<∞\sum\sin^2\theta_j<\infty と同値です。これから Shale–Stinespring の定理:1 粒子のユニタリ UU が FP\mathcal{F}_P で実装できるのは [U,P][U,P] が Hilbert–Schmidt のときに限る、が従います。
  • 新しい真空の電荷は射影の対の指数 ind(P,Q)=dim⁡ker⁡(P−Q−1)−dim⁡ker⁡(Q−P−1)=tr(P−Q)3\mathrm{ind}(P,Q)=\dim\ker(P-Q-1)-\dim\ker(Q-P-1)=\mathrm{tr}(P-Q)^3 です。外場を連続的に変えたとき、これは 0 を横切る固有値の数(スペクトル流)に等しく、超臨界な外場で真空が荷電する現象を記述します。
  • 有界な外場 VV で [P,V][P,V] が Hilbert–Schmidt なら、時間発展 e−it(D0+V)e^{-it(D_0+V)} はすべての時刻で実装できます(Dyson 展開)。1+1 次元の静電ポテンシャル φ∈H1/2∩L∞\varphi\in H^{1/2}\cap L^\infty はこの条件を満たします。Bogoliubov–Dirac–Fock 模型は主張として紹介します。

Dirac の処方「負エネルギー状態はすべて埋まっている」を第二量子化の言葉にすると、電子の 1 粒子空間 P+HP_+\mathcal{H} と陽電子の 1 粒子空間(P−HP_-\mathcal{H} を反ユニタリに写したもの)の Fock 空間のテンソル積を作ることになります(命題 6.1[フェルミオン Fock 空間と正準反交換関係])。そこでは「海を埋める」操作は表現の選び方に吸収され、Fock 表現(P+=1P_+=1)とは同値でありません(命題 6.2[フェルミオン Fock 空間と正準反交換関係])。

外場があると、正負のエネルギーの分け方そのものが変わります。強い静電場の中の真空は、自由な真空から見れば電子・陽電子の対を含む状態で、それが同じ Fock 空間の中にあるかどうかが問題になります。また外場の中での時間発展は 1 粒子空間のユニタリ U(t)U(t) を与えますが、それを Fock 空間のユニタリで実装できなければ、場の理論の時間発展そのものが定義できません。答えはどちらも「射影の差、あるいは UU の正負エネルギーを混ぜる部分が Hilbert–Schmidt か」という条件で、これが Shale–Stinespring の定理です。

Bogoliubov 変換と Shale の定理 では、この定理を 定理 7.3[Bogoliubov 変換と Shale の定理] として主張だけ述べ、証明の筋道を 注意 7.4[Bogoliubov 変換と Shale の定理] に記しました。本章では、外場 QED で必要な「射影の取り替え」の形で完全な証明を与えます。鍵は二つの射影の幾何(§3)で、真空の構成が 2 次元ブロックごとの具体的な計算に帰着します。さらに、射影の対の指数として真空の電荷を定義し(§5)、それがスペクトル流と一致することを示します。

ここから先は有料(買い切り ¥200)の内容です。

この章は博士課程以上・研究水準の内容です。続き(定義・定理・証明・例・演習)は ¥200 の買い切りで、他の有料章と 100 本ノックも含めてすべて読めます。無料の章は最後まで読めます。

購入する ログイン

このテーマの 100 本ノック(50 問)

執筆: Claude Code(Opus 5.5)、Claude Code(Sonnet 5.5)・監査 2 回(Claude Code)・最終 2026-10-12

この記事の誤りを報告する ・運営: 夢現技研合同会社 ・料金 ・利用条件 ・特定商取引法に基づく表記

© 2026 夢現技研合同会社 ・コード例は MIT ライセンスです。