# 外場 QED と Shale–Stinespring の定理：Dirac の海の取り替え、真空電荷とスペクトル流

> 電子・陽電子 Fock 空間で 1 粒子ユニタリ U が実装できるのは [U,P] が Hilbert–Schmidt のときに限るという Shale–Stinespring の定理を、二つの射影の標準形から証明する。真空の電荷が射影の対の指数とスペクトル流で与えられることも示す。
> https://rikai.mugen-giken.com/mathematics/dirac-operators/external-field-qed

## 0. この記事の要点

電子の理論では、エネルギーが負の状態はすべて電子で埋まっていて、それが「何もない真空」に見える、と考えます（Dirac の海）。ところが外から電場をかけると、どの状態を「正」「負」と呼ぶかの境目そのものが動くので、新しい真空が元の真空と同じ数学的な舞台（Fock 空間）に収まるのか、という素朴な疑問が出てきます。この記事は、その答えが「境目の動きが十分小さいとき、かつそのときに限る」と書けること、そして真空に電荷が生じる条件を、角度と固有値の数え上げで示します。

- 1 粒子空間 $\mathcal{H}$ の[直交射影](/mathematics/functional-analysis/bounded-operators#def-orthogonal-projection) $P$（「電子」の部分空間）ごとに、電子・陽電子の Fock 空間 $\mathcal{F}_P$ 上の CAR 表現 $\psi_P$ と真空 $\Omega_P$ が定まります。$P$ を[自由 Dirac 作用素](/mathematics/dirac-operators/free-dirac-operator#def-free-dirac)の正エネルギー射影に取ると、Dirac の海を埋めた真空の数学的な実現です。
- 二つの射影 $P,Q$ の差がコンパクトなら、$\mathcal{H}$ は $P=Q$ の部分、$P,Q$ が直交する有限次元の部分、角度 $\theta_j\in(0,\pi/2)$ の 2 次元ブロックの直和に分かれます（**二つの射影の標準形**）。$\|P-Q\|_2^2=\dim\ker(P-Q-1)+\dim\ker(P-Q+1)+2\sum_j\sin^2\theta_j$ です。
- **定理**：$\mathcal{F}_P$ の中に「$Q$ の真空」が存在するための必要十分条件は $P-Q$ が Hilbert–Schmidt 作用素であることです。真空は 2 モードごとの回転 $\cos\theta_j-\sin\theta_j\psi^*(e_j)\psi(g_j)$ の無限積で、収束は $\prod\cos\theta_j>0$、すなわち $\sum\sin^2\theta_j<\infty$ と同値です。これから **Shale–Stinespring の定理**：1 粒子のユニタリ $U$ が $\mathcal{F}_P$ で実装できるのは $[U,P]$ が Hilbert–Schmidt のときに限る、が従います。
- 新しい真空の電荷は**射影の対の指数** $\mathrm{ind}(P,Q)=\dim\ker(P-Q-1)-\dim\ker(Q-P-1)=\mathrm{tr}(P-Q)^3$ です。外場を連続的に変えたとき、これは 0 を横切る固有値の数（**スペクトル流**）に等しく、超臨界な外場で真空が荷電する現象を記述します。
- 有界な外場 $V$ で $[P,V]$ が Hilbert–Schmidt なら、時間発展 $e^{-it(D_0+V)}$ はすべての時刻で実装できます（Dyson 展開）。1+1 次元の静電ポテンシャル $\varphi\in H^{1/2}\cap L^\infty$ はこの条件を満たします。Bogoliubov–Dirac–Fock 模型は主張として紹介します。

<Aside type="tip" title="この記事で使う事前知識">

- **直交射影**: 部分空間の上へ「影を落とす」作用素で、$P^2=P=P^*$ を満たすもの。→ [直交射影](/mathematics/functional-analysis/bounded-operators#def-orthogonal-projection)
- **Hilbert–Schmidt 作用素**: 正規直交基底に施した像の長さの 2 乗和が有限になる作用素（行列でいえば成分の 2 乗和が有限）。
- **CAR の表現**: フェルミオンの消滅・生成作用素が満たす反交換関係を、Hilbert 空間の上で実現したもの。→ [CAR の表現](/physics/fock-space/fermion-fock-space#def-car-representation)
- **Bogoliubov 変換**: 生成作用素と消滅作用素を混ぜる形の正準変換。→ [Bogoliubov 変換](/physics/fock-space/bogoliubov-transformations#def-bogoliubov-transformation)
- **Fredholm 作用素の指数**: 核の次元から余核の次元を引いた整数。→ [Fredholm 理論](/mathematics/functional-analysis/fredholm-theory)
- **自由 Dirac 作用素の正・負エネルギー射影**: スペクトルが正の部分、負の部分への射影。→ [負エネルギー射影](/mathematics/dirac-operators/free-dirac-operator#def-energy-projections)

</Aside>

## 1. 動機

Dirac の処方「負エネルギー状態はすべて埋まっている」を第二量子化の言葉にすると、電子の 1 粒子空間 $P_+\mathcal{H}$ と陽電子の 1 粒子空間（$P_-\mathcal{H}$ を反ユニタリに写したもの）の Fock 空間のテンソル積を作ることになります（<Ref to="physics/fock-space/fermion-fock-space#prop-electron-positron-field" />）。そこでは「海を埋める」操作は表現の選び方に吸収され、Fock 表現（$P_+=1$）とは同値でありません（<Ref to="physics/fock-space/fermion-fock-space#prop-dirac-sea-non-fock" />）。

外場があると、正負のエネルギーの分け方そのものが変わります。強い静電場の中の真空は、自由な真空から見れば電子・陽電子の対を含む状態で、それが同じ Fock 空間の中にあるかどうかが問題になります。また外場の中での時間発展は 1 粒子空間のユニタリ $U(t)$ を与えますが、それを Fock 空間のユニタリで実装できなければ、場の理論の時間発展そのものが定義できません。答えはどちらも「射影の差、あるいは $U$ の正負エネルギーを混ぜる部分が Hilbert–Schmidt か」という条件で、これが Shale–Stinespring の定理です。

[Bogoliubov 変換と Shale の定理](/physics/fock-space/bogoliubov-transformations) では、この定理を <Ref to="physics/fock-space/bogoliubov-transformations#thm-shale-stinespring" /> として主張だけ述べ、証明の筋道を <Ref to="physics/fock-space/bogoliubov-transformations#rem-shale-stinespring-proof" /> に記しました。本章では、外場 QED で必要な「射影の取り替え」の形で完全な証明を与えます。鍵は二つの射影の幾何（§3）で、真空の構成が 2 次元ブロックごとの具体的な計算に帰着します。さらに、射影の対の指数として真空の電荷を定義し（§5）、それがスペクトル流と一致することを示します。

（この章の続きは購入者向けです。）
