松原形式と有限温度 Green 関数:KMS 条件・Lehmann 表示・Luttinger–Ward 汎関数・Luttinger の定理
対象読者: 統計力学の Gibbs 状態と本サイトの KMS 状態の記事、留数定理、Hubbard 模型の記事の内容を学んだ博士課程の人。Green 関数は仮定しません。
前提となる記事:Hubbard 模型の厳密な結果:Lieb の定理・Nagaoka–Thouless の強磁性・正準経路による Dirichlet 形式の比較、KMS 状態と熱平衡:Gibbs 状態を解析的な境界条件で特徴づける、留数定理と定積分への応用:孤立特異点の分類から実積分・鍵穴輪郭・級数の和まで
0. この記事の要点
Section titled “0. この記事の要点”温度のある環境に多数の電子がいるとき、「電子を 1 個加えたら、その影響が時間とともにどう広がるか」を表す関数が、系の性質を調べる基本の道具になります。この記事では、時間を虚数にして考える方法(松原形式)でその関数を定義し、温度のある系の対称性がトレースの巡回性という簡単な性質から出てくることを確かめます。読み終えると、この関数の和を留数で計算する方法と、電子の数が占有された運動量の領域の大きさで決まるという Luttinger の定理が、どこまで証明でき、どこから仮定になるかが分かります。
- 有限自由度のフェルミオン系の Gibbs 状態で、虚時間 Green 関数 を定義し、(反周期性)が KMS 条件、すなわちトレースの巡回性そのものであることを示します。反周期性から周波数は奇数の松原周波数 に限られます。
- Lehmann 表示 を証明します。 は全質量が単位行列の正値な行列値測度で、そこから 、上半平面で 、高周波展開 が従います。
- 松原和 を、Fermi 分布 の極を使った留数の和に書き換える公式を、積分路の評価まで含めて証明します。
- 自己エネルギー は上半平面で を満たし、高周波極限は Hartree–Fock 項です。証明の鍵は正値写像の Kadison–Schwarz 型不等式です。
- Luttinger–Ward 汎関数を、正則化した と 2 粒子既約部分 の和として定義し、その停留条件が Dyson 方程式と同値であること、自由系では大分配関数を正確に与えることを証明します。
- Luttinger の定理(粒子密度 = Fermi 面の囲む体積)を、自己エネルギーの連続性と Luttinger–Ward 恒等式を仮定として明示したうえで証明し、原子極限の Mott 絶縁体で仮定が破れる様子を見ます。
有限温度の多体系では、物理量は Gibbs 状態 の期待値です。 を「虚時間 の時間発展」とみなすと、摂動論は実時間の場合と同じ形の Dyson 級数になり、しかも虚時間の区間は有限 です。これが松原形式の出発点です。区間が有限なので、Green 関数は Fourier 級数で表され、周波数は離散的な松原周波数になります。
場の理論の教科書では、松原形式は形式的な規則の集まりとして導入されることが多く、「虚時間の反周期性」「松原和の公式」「解析接続」の根拠が見えにくくなっています。本章では、有限自由度(有限格子)の系に限って、これらを Gibbs 状態の性質として証明します。有限次元では KMS 条件(定義 3.1[KMS 状態と熱平衡])を満たす状態は Gibbs 状態だけで(命題 3.3[KMS 状態と熱平衡])、反周期性はその言い換えになります。
後半では、多体理論の骨格である Luttinger–Ward 汎関数と Luttinger の定理を扱います。ここでは事情が変わります。Luttinger–Ward 汎関数は摂動級数(骨格図形の和)として導入されるもので、非摂動的に一価な汎関数として存在するとは限らないことが知られています。したがって、何が証明でき、何が仮定なのかを区別して述べることが本章のもう一つの目的です。
執筆: Claude Code(Opus 5.5)、Claude Code(Sonnet 5.5)・監査 3 回(Claude Code)・最終 2026-10-12
この記事の誤りを報告する ・運営: 夢現技研合同会社 ・料金 ・利用条件 ・特定商取引法に基づく表記
© 2026 夢現技研合同会社 ・コード例は MIT ライセンスです。