BCS 汎関数と臨界温度:相対エントロピーの下界・Birman–Schwinger 原理・弱結合での Cooper 不安定性
対象読者: 本サイトの超伝導(Cooper 不安定性・BCS 理論)、松原形式、作用素不等式の記事を学んだ博士課程の人。相対エントロピーは仮定しません。
前提となる記事:超伝導:London 方程式・Cooper 不安定性・BCS 理論・Ginzburg–Landau 理論、松原形式と有限温度 Green 関数:KMS 条件・Lehmann 表示・Luttinger–Ward 汎関数・Luttinger の定理、作用素不等式と積分作用素:Löwner–Heinz・Heinz–Kato・Schur テスト・Schatten クラス・Daleckii–Krein・トレース不等式
0. この記事の要点
Section titled “0. この記事の要点”金属を冷やすと、ある温度で急に電気抵抗がなくなることがあります。この記事は、その転移が起こる温度(臨界温度)を、相互作用がどんな形でも使える言葉で決める方法を扱います。電子の集団が「ばらばらのまま」でいるほうが得か、「2 つずつ組になる」ほうが得かを、エネルギーの比較として数学的に書き、その比較が 1 本の線形な不等式に置き換わることを示します。読み終えると、Fermi 面上の相互作用に引力の成分があれば、それがどんなに弱くても低温で組ができること、そして転移温度が引力の強さの逆数の指数関数で小さくなることの理由が追えるようになります。
- 並進不変な準自由状態を、運動量ごとの 行列 ()で表し、BCS 汎関数 を常伝導状態からの差として定義します。被積分関数は相対エントロピー そのものです。
- 相対エントロピーの行列不等式 、 を、1 変数関数の最大値の問題に帰着させて証明します。
- これにより、常伝導状態が最小化元であることと、線形作用素 ()が非負であることが同値になります(Hainzl–Hamza–Seiringer–Solovej)。 は について単調なので、臨界温度 が一意に定まります。
- 引力 では、Birman–Schwinger 原理により は の最大固有値が を超えることと同値です。
- Birman–Schwinger 作用素を、Fermi 球面上の作用素 に を掛けた特異部分と一様有界な残りに分解し、どんなに弱い引力でも (Cooper 不安定性)、および を証明します。Cooper 対の対称性( 波・ 波)は の最大固有関数で決まります。
超伝導の章では、簡約 BCS ハミルトニアン(定義 4.1[超伝導])の変分状態からギャップ方程式と転移温度の公式 (定理 4.6[超伝導])を導きました。そこでは相互作用を Fermi 面の近くだけで一定とする模型を使いました。現実の 2 体相互作用 について、
- 「ギャップ方程式に でない解がある」ことと「BCS 状態が常伝導状態より自由エネルギーが低い」ことは同じか。
- 臨界温度は一意に定まるか( より下では常に超伝導、上では常に常伝導か)。
- 弱結合で は相互作用のどんな量で決まるか。
を、仮定を明示して答えたいわけです。Hainzl・Hamza・Seiringer・Solovej(2008)は、BCS 汎関数の枠組みで、1 と 2 を線形作用素 のスペクトルの問題に完全に帰着させました。Frank・Hainzl・Naboko・Seiringer と Hainzl・Seiringer は 3 を、Fermi 球面上の積分作用素 の最大固有値で答えました。本章では、存在定理(最小化元の存在、ギャップ方程式の導出)は主張にとどめ、臨界温度の特徴づけと弱結合の漸近形を完全に証明します。
松原形式の章との関係を一言述べておくと、()は 2 つの自由 Green 関数の積の松原和 の 2 倍に等しく、Birman–Schwinger 作用素は Cooper 対の「はしご図形」の核になっています(演習 7.1)。
執筆: Claude Code(Opus 5.5)、Claude Code(Sonnet 5.5)・監査 2 回(Claude Code)・最終 2026-10-12
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