# BCS 汎関数と臨界温度：相対エントロピーの下界・Birman–Schwinger 原理・弱結合での Cooper 不安定性

> 並進不変な BCS 汎関数で、常伝導状態が最小化元であることと作用素 K_T+V の非負性が同値であることを相対エントロピーの行列不等式から証明し、Birman–Schwinger 原理と Fermi 球面上の作用素で弱結合の臨界温度の漸近形を導く。
> https://rikai.mugen-giken.com/physics/many-fermion-systems/bcs-functional

## 0. この記事の要点

金属を冷やすと、ある温度で急に電気抵抗がなくなることがあります。この記事は、その転移が起こる温度（臨界温度）を、相互作用がどんな形でも使える言葉で決める方法を扱います。電子の集団が「ばらばらのまま」でいるほうが得か、「2 つずつ組になる」ほうが得かを、エネルギーの比較として数学的に書き、その比較が 1 本の線形な不等式に置き換わることを示します。読み終えると、Fermi 面上の相互作用に引力の成分があれば、それがどんなに弱くても低温で組ができること、そして転移温度が引力の強さの逆数の指数関数で小さくなることの理由が追えるようになります。

- 並進不変な準自由状態を、運動量ごとの $2\times2$ 行列 $\Gamma(p)=\begin{pmatrix}\gamma&\alpha\\\bar\alpha&1-\gamma\end{pmatrix}$（$0\le\Gamma\le1$）で表し、BCS 汎関数 $\mathcal F_T$ を常伝導状態からの差として定義します。被積分関数は相対エントロピー $\frac T2H(\Gamma(p),\Gamma_0(p))$ そのものです。
- 相対エントロピーの行列不等式 $H(\Gamma,\Gamma_0)\ge K(h)\operatorname{tr}(\Gamma-\Gamma_0)^2$、$K(h)=h/\tanh(h/2)$ を、1 変数関数の最大値の問題に帰着させて証明します。
- これにより、常伝導状態が最小化元であることと、線形作用素 $K_T+V$（$K_T(p)=(p^2-\mu)/\tanh((p^2-\mu)/2T)$）が非負であることが同値になります（Hainzl–Hamza–Seiringer–Solovej）。$K_T$ は $T$ について単調なので、臨界温度 $T_c$ が一意に定まります。
- 引力 $V=-\lambda v$ では、Birman–Schwinger 原理により $T\lt T_c$ は $v^{1/2}K_T^{-1}v^{1/2}$ の最大固有値が $1/\lambda$ を超えることと同値です。
- Birman–Schwinger 作用素を、Fermi 球面上の作用素 $\mathcal V_\mu$ に $\sqrt\mu\log(\mu/T)$ を掛けた特異部分と一様有界な残りに分解し、どんなに弱い引力でも $T_c>0$（Cooper 不安定性）、および $\lim_{\lambda\to0}\lambda\log(\mu/T_c)=1/(\sqrt\mu\,e_\mu)$ を証明します。Cooper 対の対称性（$s$ 波・$p$ 波）は $\mathcal V_\mu$ の最大固有関数で決まります。

<Aside type="tip" title="この記事で使う事前知識">

- **Cooper 不安定性**: Fermi 面のすぐ外側の 2 つの電子の間に弱い引力があるだけで、対が束縛状態をつくってしまうこと。→ [超伝導](/physics/condensed-matter/superconductivity)
- **簡約 BCS ハミルトニアン**: 引力で結ばれた電子対だけを残した、超伝導の標準的な模型。→ [簡約 BCS ハミルトニアン](/physics/condensed-matter/superconductivity#def-bcs-hamiltonian)
- **松原和**: 有限温度の Green 関数を、虚数の振動数についての和で扱う方法。→ [松原形式と有限温度 Green 関数](/physics/many-fermion-systems/matsubara-green-functions)
- **作用素不等式**: 作用素の大小を 2 次形式の大小で比べる考え方。Klein の不等式や Schur テストもここにある。→ [作用素不等式と積分作用素](/mathematics/functional-analysis/operator-inequalities)
- **化学ポテンシャル**: 粒子を 1 個足すときに必要なエネルギー。電子の数を決めるつまみ。→ [化学ポテンシャル](/physics/thermodynamics/grand-canonical-ensemble#def-chemical-potential)

</Aside>

## 1. 動機

[超伝導](/physics/condensed-matter/superconductivity)の章では、簡約 BCS ハミルトニアン（<Ref to="physics/condensed-matter/superconductivity#def-bcs-hamiltonian" />）の変分状態からギャップ方程式と転移温度の公式 $k_BT_c\simeq1.13\hbar\omega_De^{-1/g}$（<Ref to="physics/condensed-matter/superconductivity#thm-bcs-tc" />）を導きました。そこでは相互作用を Fermi 面の近くだけで一定とする模型を使いました。現実の 2 体相互作用 $V(x)$ について、

1. 「ギャップ方程式に $0$ でない解がある」ことと「BCS 状態が常伝導状態より自由エネルギーが低い」ことは同じか。
2. 臨界温度は一意に定まるか（$T_c$ より下では常に超伝導、上では常に常伝導か）。
3. 弱結合で $T_c$ は相互作用のどんな量で決まるか。

を、仮定を明示して答えたいわけです。Hainzl・Hamza・Seiringer・Solovej（2008）は、BCS 汎関数の枠組みで、1 と 2 を線形作用素 $K_T+V$ のスペクトルの問題に完全に帰着させました。Frank・Hainzl・Naboko・Seiringer と Hainzl・Seiringer は 3 を、Fermi 球面上の積分作用素 $\mathcal V_\mu$ の最大固有値で答えました。本章では、存在定理（最小化元の存在、ギャップ方程式の導出）は主張にとどめ、臨界温度の特徴づけと弱結合の漸近形を完全に証明します。

[松原形式](/physics/many-fermion-systems/matsubara-green-functions)の章との関係を一言述べておくと、$K_T^{-1}(p)=\tanh(\xi/2T)/\xi$（$\xi=p^2-\mu$）は 2 つの自由 Green 関数の積の松原和 $\frac1\beta\sum_n\frac1{(i\omega_n-\xi)(-i\omega_n-\xi)}$ の 2 倍に等しく、Birman–Schwinger 作用素は Cooper 対の「はしご図形」の核になっています（<Ref to="exr-kt-matsubara" />）。

（この章の続きは購入者向けです。）
