# 松原形式と有限温度 Green 関数：KMS 条件・Lehmann 表示・Luttinger–Ward 汎関数・Luttinger の定理

> 有限自由度のフェルミオン系で虚時間 Green 関数の反周期性を KMS 条件から導き、Lehmann 表示、松原和の留数公式、自己エネルギーの符号を証明する。Luttinger–Ward 汎関数の停留性と、仮定を明示した Luttinger の定理を扱う。
> https://rikai.mugen-giken.com/physics/many-fermion-systems/matsubara-green-functions

## 0. この記事の要点

温度のある環境に多数の電子がいるとき、「電子を 1 個加えたら、その影響が時間とともにどう広がるか」を表す関数が、系の性質を調べる基本の道具になります。この記事では、時間を虚数にして考える方法（松原形式）でその関数を定義し、温度のある系の対称性がトレースの巡回性という簡単な性質から出てくることを確かめます。読み終えると、この関数の和を留数で計算する方法と、電子の数が占有された運動量の領域の大きさで決まるという Luttinger の定理が、どこまで証明でき、どこから仮定になるかが分かります。

- 有限自由度のフェルミオン系の Gibbs 状態で、虚時間 Green 関数 $G(\tau)=-\langle\mathrm T\,c(\tau)c^*\rangle$ を定義し、$G(\tau-\beta)=-G(\tau)$（反周期性）が [KMS 条件](/mathematics/operator-algebras/kms-states#def-kms-state)、すなわちトレースの巡回性そのものであることを示します。反周期性から周波数は奇数の松原周波数 $\omega_n=(2n+1)\pi/\beta$ に限られます。
- Lehmann 表示 $G(i\omega_n)=\int\rho(dE)/(i\omega_n-E)$ を証明します。$\rho$ は全質量が単位行列の正値な行列値測度で、そこから $G(\bar z)=G(z)^*$、上半平面で $\operatorname{Im}G\lt 0$、高周波展開 $G(z)=z^{-1}+M_1z^{-2}+\cdots$ が従います。
- 松原和 $\beta^{-1}\sum_ng(i\omega_n)$ を、Fermi 分布 $n_F(z)=1/(e^{\beta z}+1)$ の極を使った[留数](/mathematics/complex-analysis/residue-theorem#def-residue)の和に書き換える公式を、積分路の評価まで含めて証明します。
- 自己エネルギー $\Sigma=G_0^{-1}-G^{-1}$ は上半平面で $\operatorname{Im}\Sigma\le0$ を満たし、高周波極限は Hartree–Fock 項です。証明の鍵は正値写像の Kadison–Schwarz 型不等式です。
- Luttinger–Ward 汎関数を、正則化した $\operatorname{Tr}\log$ と 2 粒子既約部分 $\Phi$ の和として定義し、その停留条件が Dyson 方程式と同値であること、自由系では大分配関数を正確に与えることを証明します。
- Luttinger の定理（粒子密度 = Fermi 面の囲む体積）を、自己エネルギーの連続性と Luttinger–Ward 恒等式を**仮定**として明示したうえで証明し、原子極限の Mott 絶縁体で仮定が破れる様子を見ます。

<Aside type="tip" title="この記事で使う事前知識">

- **KMS 条件・Gibbs 状態**: 温度 $1/\beta$ の熱平衡状態（Gibbs 状態）を、時間発展に対する境界条件で特徴づけたもの。→ [KMS 状態と熱平衡](/mathematics/operator-algebras/kms-states)
- **消滅作用素と反交換関係**: フェルミオンを 1 個消す作用素と、その入れ替えで符号が変わる関係式。→ [消滅作用素](/physics/fock-space/fermion-fock-space#def-fermion-creation-annihilation)
- **留数**: 孤立した極のまわりの周回積分を $2\pi i$ で割った値。→ [留数](/mathematics/complex-analysis/residue-theorem#def-residue)
- **半正定値行列**: どんなベクトル $v$ についても $\langle v,Pv\rangle\ge0$ となるエルミート行列。→ [半正定値](/mathematics/linear-algebra/spectral-theorem#def-positive-definite)
- **化学ポテンシャル**: 粒子を 1 個増やすときのエネルギーの目安で、粒子数を調整する量。→ [化学ポテンシャル](/physics/thermodynamics/grand-canonical-ensemble#def-chemical-potential)

</Aside>

## 1. 動機

有限温度の多体系では、物理量は Gibbs 状態 $\omega_\beta(A)=\operatorname{Tr}(e^{-\beta K}A)/Z$ の期待値です。$e^{-\beta K}$ を「虚時間 $\beta$ の時間発展」とみなすと、摂動論は実時間の場合と同じ形の Dyson 級数になり、しかも虚時間の区間は有限 $[0,\beta]$ です。これが松原形式の出発点です。区間が有限なので、Green 関数は Fourier 級数で表され、周波数は離散的な松原周波数になります。

場の理論の教科書では、松原形式は形式的な規則の集まりとして導入されることが多く、「虚時間の反周期性」「松原和の公式」「解析接続」の根拠が見えにくくなっています。本章では、有限自由度（有限格子）の系に限って、これらを Gibbs 状態の性質として証明します。有限次元では KMS 条件（<Ref to="mathematics/operator-algebras/kms-states#def-kms-state" />）を満たす状態は Gibbs 状態だけで（<Ref to="mathematics/operator-algebras/kms-states#prop-kms-finite-gibbs" />）、反周期性はその言い換えになります。

後半では、多体理論の骨格である Luttinger–Ward 汎関数と Luttinger の定理を扱います。ここでは事情が変わります。Luttinger–Ward 汎関数は摂動級数（骨格図形の和）として導入されるもので、非摂動的に一価な汎関数として存在するとは限らないことが知られています。したがって、何が証明でき、何が仮定なのかを区別して述べることが本章のもう一つの目的です。

（この章の続きは購入者向けです。）
