spin-boson 模型の相図:臨界結合・基底状態と長距離秩序・局在転移
対象読者: 本テーマ第 2 章の連続時間 Ising 模型と Feynman–Kac 表示、および GKS 不等式を学んだ博士課程の人。自己共役作用素のスペクトル定理とレゾルベントは既知とし、局在転移の予備知識は仮定しません。
前提となる記事:spin-boson 模型の Feynman–Kac 表示:跳び過程・連続時間 Ising 模型・相関不等式
0. この記事の要点
Section titled “0. この記事の要点”量子ビットのような 2 つの状態をもつ小さな系が、まわりの環境と結びつくと、最初の状態にずっととどまるのか、それとも状態を行き来して最初の状態を忘れるのか、という素朴な疑問があります。この記事では、これを「時間軸に沿って並べたスピンの向きが、遠く離れた時刻どうしでもそろっているか」という磁石の問いに置き換えて調べます。読み終えると、とどまる側と忘れる側の境目(相図)の大まかな形が証明でき、どこまでが証明済みで、どこからが予想なのかを区別できるようになります。
- spin-boson 模型の相は、前章 の連続時間 Ising 模型の 2 点関数 で記述します。 を局在相(時間方向の長距離秩序)、感受率 を非局在相とします。
- GKS 不等式により は について増加し、 について減少します。そのため局在相と非局在相はそれぞれ 1 つの臨界結合 , ()で区切られ、 平面の相境界は単調です(Spohn の臨界結合)。
- 真空振幅 ( は、スピンが向き でボソンが 1 つもない「裸の真空」)は で基底状態(エネルギー最低の状態)との重なり に単調に減少します。正値性から、基底状態があれば必ず裸の真空 と重なります。
- 基底状態があれば と書け、基底状態が単純なら長距離秩序はなく、 です。対偶として、長距離秩序がある結合では単純な基底状態は存在しません。ボソンに質量があればすべての結合で非局在です。
- Ohmic 型では、Spohn(1989)が KMS 状態の言葉で、Betz–Hinrichs–Kraft–Polzer(2025)が基底状態の言葉で、結合の大きい側の局在(Fock 空間に基底状態がないこと)を示しました。小さい結合側では Hasler–Hinrichs–Siebert の存在定理と、De Roeck–Kupiainen の小結合展開による基底状態への接近があります(後二者はここでは主張として述べます)。
散逸のある 2 準位系の局在転移は、物理では Anderson–Yuval–Hamann の繰り込み群と、Chakravarty、Bray–Moore による Ohmic 型の解析で 1980 年代前半に理解されました。Ohmic 型(環境の時間相関が で減衰する型)の結合 が を超えると(トンネル が小さい極限で)、2 準位系は最初にいた井戸から永久に出られなくなります。これは量子力学的なトンネル効果が、環境との結合によって完全に抑え込まれる現象で、量子ビットのデコヒーレンスの極端な場合でもあります。
数学的には、「永久に出られない」をどう定義するかが最初の問題です。有限の結合では 2 準位系は常に揺らいでいて、ハミルトニアンのレベルでは の固有状態に局在した固有ベクトルは現れません。そこで 前章 の Feynman–Kac 表示を使い、虚時間方向の相関 が無限に長い時間にわたって残るかどうかで相を定義します。これは統計力学の自発磁化(長距離秩序)と同じ定義で、spin-boson 模型の局在は 1 次元の長距離 Ising 模型の相転移に翻訳されます。
この章では、まず相関不等式だけから相図の大枠(臨界結合の存在と単調性)を証明します。次に、Hilbert 空間の側の量(基底状態の存在、裸の真空との重なり、感受率)と Ising 模型の量を結びつける定理を証明します。最後に、Ohmic 型について文献で知られている結果を、何が証明されていて何が予想なのかを区別して整理します。
執筆: Claude Code(Opus 5.5)、Claude Code(Sonnet 5.5)・監査 2 回(Claude Code)・最終 2026-10-12
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