# Hubbard 模型の厳密な結果：Lieb の定理・Nagaoka–Thouless の強磁性・正準経路による Dirichlet 形式の比較

> 有限格子上の Hubbard 模型について、引力模型の基底状態の一意性、半充填の斥力模型の全スピン ||A|−|B||/2（Lieb の定理）、U=∞ で正孔 1 個の強磁性（Nagaoka–Thouless の定理）を証明し、正準経路でギャップを下から評価する。
> https://rikai.mugen-giken.com/physics/many-fermion-systems/hubbard-nagaoka

## 0. この記事の要点

電子がたくさん集まった結晶では、電子どうしが反発し合いながら格子の上を飛び移ります。この記事は、そのような系で「磁石になるか、ならないか」を、近似に頼らず証明で決める話です。結論だけ先に言えば、格子の形と電子の数によっては、電子のスピンが自然にそろう（強磁性）ことも、決まった大きさで打ち消し合うことも厳密に示せます。読み終えると、その結論と、証明の要になる「符号がそろえば基底状態は 1 つ」という考え方が分かります。

- 有限グラフ $\Lambda$ 上の [Hubbard 模型](/physics/condensed-matter/magnetism#def-hubbard) $H=\sum_{\sigma}\sum_{x,y}t_{xy}c_{x\sigma}^*c_{y\sigma}+\sum_xU_xn_{x\uparrow}n_{x\downarrow}$ を、上向き・下向きの Slater 基底（電子がどのサイトにいるかを指定した基本の状態）で「行列 $W$ に作用する写像」として書き直します。波動関数が行列になることが、以下の証明すべての出発点です。
- 引力 $U_x<0$ のとき、偶数 $N$ 個の電子の基底状態は一意で全スピン $0$ です（Lieb）。証明は、エルミート行列 $W$ をその絶対値 $|W|$ に置き換えてもエネルギーが下がらないこと（スピン空間の鏡映正値性。符号がそろう性質を行列の言葉で保つ仕組みです）と、ホッピングと占有数が生成する代数の既約性（それらの行列が、空間を分けて閉じ込めることがないという性質）です。
- 2 部グラフ（頂点を A と B に分けて、辺が必ず A と B をまたぐようにできるグラフ）$\Lambda=A\sqcup B$ 上の斥力模型 $U>0$ は、下向きスピンだけの粒子正孔変換で引力模型に写ります。これにより半充填 $N=|\Lambda|$ の基底状態は全スピン $S=\bigl||A|-|B|\bigr|/2$ の多重項ただ 1 つであることが従います（Lieb の定理）。Lieb 格子では強磁性的な巨視的スピンが現れます。
- $U=\infty$ で正孔が 1 個のとき、$t_{xy}\ge0$ と「正孔の運動による配置の連結性」のもとで、基底状態は全スピン最大 $(|\Lambda|-1)/2$ の多重項だけです（Nagaoka–Thouless）。符号 $t_{xy}\ge0$ が本質的であることを三角形で確かめます。
- Dirichlet 形式（グラフ上の関数の「でこぼこ」を測る量）の比較定理を Cauchy–Schwarz 1 回で証明し、正準経路による Poincaré 不等式（でこぼこの量から分散を抑える不等式）を導きます。正則格子の Nagaoka 模型では、強磁性多重項の上のギャップがこの方法で下から評価できます。

<Aside type="tip" title="この記事で使う事前知識">

- **Hubbard 模型**: 格子上を電子が飛び移る項と、同じサイトに 2 個いるときの反発の項からなる模型。→ [Hubbard 模型](/physics/condensed-matter/magnetism#def-hubbard)
- **フェルミオン Fock 空間**: 電子のように、同じ状態に 2 個入れない粒子を何個でも扱える状態空間。→ [フェルミオン Fock 空間](/physics/fock-space/fermion-fock-space#def-fermion-fock-space)
- **CAR（正準反交換関係）**: 生成・消滅演算子が満たす反交換の規則で、状態の計算はすべてこれに帰着する。→ [CAR](/physics/fock-space/fermion-fock-space#thm-car)
- **Perron–Frobenius の定理**: 成分が非負で既約な行列は、最大固有値が単純で、固有ベクトルは成分が正にとれる。→ [Perron–Frobenius](/mathematics/linear-algebra/matrix-inequalities#thm-perron-frobenius)
- **正定値・半正定値**: エルミート行列の固有値がすべて正（または 0 以上）であること。→ [正定値](/mathematics/linear-algebra/spectral-theorem#def-positive-definite)

</Aside>

## 1. 動機

### 1.1. この巻の見通し

この巻（格子フェルミオンの多体理論）は、格子上のフェルミオン多体系について**証明できること**をまとめます。章の並びは次のとおりです。

| 章 | 主題 | 主な道具 |
|---|---|---|
| 本章 | Hubbard 模型の基底状態の磁性 | 行列表示、鏡映正値性、Perron–Frobenius |
| 松原形式 | 有限温度の Green 関数、Luttinger–Ward 汎関数 | 虚時間、KMS 条件、松原和 |
| BCS 汎関数 | 超伝導の臨界温度 | 変分法、Birman–Schwinger 原理 |
| 多重尺度解析 | 相互作用するフェルミオンの摂動級数の収束 | Grassmann 積分、Gram–Hadamard 評価、森公式 |
| 朝永–Luttinger 模型 | 1 次元の厳密解とボソン化 | Schwinger 項、Bogoliubov 変換 |
| Jordan–Wigner と Bethe 仮説 | 1 次元スピン鎖の厳密解 | 自由フェルミオン化、座標 Bethe 仮説 |

前半の 3 章は有限系の線形代数と変分法で閉じる議論、後半の 3 章は無限自由度の解析（多重尺度、ボソン化、可積分性）です。全体を通じて、[凝縮系物理の磁性](/physics/condensed-matter/magnetism)と[超伝導](/physics/condensed-matter/superconductivity)で平均場や近似として述べた主張を、仮定を明示した定理として述べ直すことを目標にします。

### 1.2. なぜ Hubbard 模型の厳密な結果が必要か

Hubbard 模型（<Ref to="physics/condensed-matter/magnetism#def-hubbard" />）は、遍歴電子の磁性・Mott 絶縁体・高温超伝導のいずれにも登場する最小模型です。それにもかかわらず、2 次元以上で一般に証明されている性質はごく少数です。平均場理論（Stoner の条件、<Ref to="physics/condensed-matter/magnetism#thm-stoner" />）は強磁性を予言しますが、近似の妥当性は保証されていません。実際、Lieb–Mattis の定理によれば、1 次元の Hubbard 模型の基底状態は強磁性になりません。

厳密な結果として最もよく知られているのが次の 2 つです。

1. **Lieb の定理**（1989）：2 部グラフ上の半充填の斥力模型は、$U>0$ の大きさによらず全スピン $\bigl||A|-|B|\bigr|/2$ の基底状態を持つ。
2. **Nagaoka–Thouless の定理**（1965–66）：$U=\infty$ で半充填から電子を 1 個抜くと、基底状態は全スピン最大の強磁性状態になる。

どちらの証明も、適切な基底で Hamiltonian の非対角要素の符号がそろうことに帰着します。Perron–Frobenius の定理（<Ref to="mathematics/linear-algebra/matrix-inequalities#thm-perron-frobenius" />）が基底状態の一意性を与え、「同じ符号の構造を持つ、スピンのわかっている状態」との重なりが全スピンを決めます。Lieb の定理では基底が直接は見えず、行列表示と鏡映正値性という一段深い構造が必要になります。本章ではこの 2 つを完全に証明し、最後に、Perron–Frobenius 型の議論で得た基底状態の上のギャップを評価する道具として Dirichlet 形式の比較を扱います。

（この章の続きは購入者向けです。）
