# 格子 QCD：連続極限・スケール設定・ハドロン質量・有限温度

> Wilson ゲージ作用と Wilson・staggered・ドメインウォールのクォークで格子 QCD を定義し、2 ループの Λ パラメータ公式による連続極限、Sommer スケール、有効質量によるハドロン質量の読み取り、GMOR 関係、有限温度と符号問題を扱う。
> https://rikai.mugen-giken.com/physics/lattice-field-theory/lattice-qcd

## 0. この記事の要点

陽子や中性子を作るクォークとグルーオンの力は、強すぎて紙と鉛筆の計算では扱えません。そこで時空を細かい格子の点に置き換え、計算機で数値的に答えを出すのが格子 QCD です。この記事を読むと、格子の細かさをどう $0$ に近づけるか、格子の長さをどうメートルの単位に直すか、陽子やパイオンの質量を計算結果のどこから読み取るか、高温ではどうなるかが分かります。以下の箇条書きは全体の見取り図で、細部は各節で順に説明します。

- 格子 QCD は、$\mathrm{SU}(3)$ のリンク変数に対する [Wilson ゲージ作用](/physics/lattice-field-theory/lattice-gauge-fields#def-wilson-action)と、クォーク場の格子 Dirac 作用素（Wilson・staggered・ドメインウォール）で定義されます。クォークを積分すると重み $e^{-S_G}\prod_f\det(D+m_f)$ が残り、Wilson 作用素は $\gamma_5 D\gamma_5=D^*$ を満たすので、縮退した 2 フレーバーの重みは非負です。
- 漸近的自由のもとで連続極限は $g_0\to0$（$\beta=6/g_0^2\to\infty$）にあり、格子間隔は 2 ループで $a\Lambda_{\mathrm{L}}=(b_0g_0^2)^{-b_1/(2b_0^2)}e^{-1/(2b_0g_0^2)}(1+O(g_0^2))$、つまり $a\sim e^{-\beta/(12b_0)}$ と振る舞います。これを $\beta$ 関数の展開だけから証明します。
- 物理単位は「一定物理線」に沿って 1 つの量（Sommer スケール $r_0$、gradient flow の $t_0$、$\Omega$ 粒子の質量など）を実験値に合わせて決めます。裸の結合による漸近的スケーリングは $\beta=6$ 付近では 50% 以上ずれます。
- ハドロン質量は 2 点関数の指数減衰から読みます。転送行列が正なら相関関数は正測度の Laplace 変換なので、有効質量は単調非増加で基底状態の質量に上から収束します。staggered の振動項はこの仮定が外れる例です。
- カイラル対称な格子作用素では、配位ごとに積分 Ward 恒等式 $\sum_x C_\pi(x)=-\langle\bar uu\rangle/m$ が厳密に成り立ち、パイオン極の仮定を足すと Gell-Mann–Oakes–Renner 関係 $m_\pi^2F_\pi^2=-(m_u+m_d)\langle\bar\psi\psi\rangle+O(m^2)$ が出ます。Wilson クォークでは自由場でもこれが壊れます。
- 有限温度は時間方向の格子点数 $N_t=1/(aT)$ で決まり、純ゲージでは中心対称性と [Polyakov ループ](/physics/lattice-field-theory/lattice-gauge-fields#def-polyakov-loop)が閉じ込めの秩序変数になります。物理的なクォーク質量では転移はクロスオーバーです。実の化学ポテンシャルでは $\det D$ が複素数になり（符号問題）、重点サンプリングが使えません。

<Aside type="tip" title="この記事で使う事前知識">

- **Wilson 作用**: 格子上の小さな正方形（プラケット）を一周するリンク変数の積のトレースから作る、ゲージ場の作用。→ [Wilson 作用](/physics/lattice-field-theory/lattice-gauge-fields#def-wilson-action)
- **Wilson–Dirac 作用素**: 隣の格子点へのホッピングで Dirac 作用素を置き換え、余分なクォーク（doubler）に Wilson 項で質量を与えたもの。→ [Wilson–Dirac 作用素](/physics/lattice-field-theory/lattice-fermions#def-wilson-dirac)
- **Polyakov ループ**: 時間方向に格子を一周するリンク変数の積のトレース。→ [Polyakov ループ](/physics/lattice-field-theory/lattice-gauge-fields#def-polyakov-loop)
- **反射正値性**: 時間反転した配置との組の期待値が非負になる性質で、転送行列と Hilbert 空間を作るのに使う。→ [反射正値性](/physics/lattice-field-theory/reflection-positivity-lattice#def-reflection-positivity)
- **Ginsparg–Wilson 関係**: 格子上でもカイラル対称性の修正版を保てる作用素の条件。→ [Ginsparg–Wilson 関係](/physics/lattice-field-theory/ginsparg-wilson)
- **Grassmann 変数**: 掛ける順序を入れ替えると符号が変わる（反交換する）数で、フェルミオン場を表します。

</Aside>

## 1. 動機

QCD は、パラメータがゲージ結合 1 つとクォーク質量だけの理論ですが、陽子の質量（約 938 MeV）の大部分は、クォーク質量（$u$, $d$ で数 MeV）ではなくグルーオンとクォークの強い相互作用から生じています。この領域は摂動論では扱えません。格子 QCD は、Euclid 化した経路積分を有限の格子上で定義し、モンテカルロ法で数値的に評価することで、QCD の非摂動的な予言を系統誤差つきで引き出すほぼ唯一の第一原理的な方法です。

ただし、格子上の計算はそれだけでは無次元の数（$am_\pi$、$am_N$ など格子単位の量）しか与えません。物理的な予言にするには、次の 3 つの段を踏む必要があります。

1. 格子間隔 $a$ を $0$ に近づけたとき、無次元比（$m_N/m_\Omega$ など）が極限を持つこと（連続極限）。漸近的自由が、どの方向に裸の結合を動かせばよいかを教えます。
2. 1 つの物理量で $a$ をフェムトメートルに換算すること（スケール設定）。
3. 相関関数から質量・崩壊定数・行列要素を、励起状態の混入を制御しながら取り出すこと。

本章はこの 3 段を順に定式化し、さらにカイラル対称性（パイオンが軽い理由）と有限温度・有限密度（クォーク・グルーオン・プラズマと符号問題）を扱います。格子ゲージ場とフェルミオンの基本は [格子ゲージ場](/physics/lattice-field-theory/lattice-gauge-fields)、[格子フェルミオン](/physics/lattice-field-theory/lattice-fermions)、[Ginsparg–Wilson 関係](/physics/lattice-field-theory/ginsparg-wilson) の章を前提にします。

（この章の続きは購入者向けです。）
