# 格子場のモンテカルロ法：Metropolis・熱浴・HMC・クラスター法と統計誤差の解析

> 詳細つり合いと Doeblin 条件から平衡分布への収束を証明し、Metropolis・SU(2) 熱浴・擬フェルミオンと HMC・Swendsen–Wang 法がいずれも正しい分布を生むことを示す。積分自己相関時間・ビニング・ジャックナイフの公式も導く。
> https://rikai.mugen-giken.com/physics/lattice-field-theory/lattice-monte-carlo

## 0. この記事の要点

格子の上の場の理論では、変数が何百万個もあって、平均値を式で計算することができません。そこで、確率の重みに合わせたサイコロを振るように配位（場の値の組）を次々に作り、その平均で近似します。この記事では、そのサイコロの振り方が「本当に狙った確率に従う」ことをどう保証するか、そして得られたデータにどれだけの誤差があるかをどう見積もるかを学びます。読み終えると、Metropolis 法・熱浴法・HMC・クラスター法がなぜ正しいのか、誤差棒をどう付けるのかが分かります。

- 格子上の期待値 $\langle A\rangle=Z^{-1}\int A\,e^{-S}$ は、$e^{-S}$ を不変分布にもつマルコフ連鎖の時間平均で推定します。正しさの核心は 2 つで、**不変性**（一度その分布になったら以後もその分布のままであること。多くは詳細つり合いで保証）と**収束**（どこから出発しても最終的にその分布に近づくこと。Doeblin 条件などのエルゴード性）です。片方だけでは足りません。
- Metropolis–Hastings 法と熱浴法は、いずれも 1 変数ずつの詳細つり合いを満たします。SU(2) ゲージ場では、ステープルの和が SU(2) の定数倍になることから、局所分布が $\sqrt{1-x_0^2}\,e^{\beta k x_0}$ に帰着し、Kennedy–Pendleton 法で厳密に引けます。
- 偶数フレーバーのフェルミオン行列式は $\det(M^*M)$ と書け、複素ガウス積分（擬フェルミオン）で表せます。ハイブリッド・モンテカルロ（HMC）は、リープフロッグ積分が**可逆かつ体積保存**であることと Metropolis 判定を組み合わせ、積分誤差があっても分布を厳密に保ちます。
- Swendsen–Wang 法はスピンとボンドの同時分布に対する 2 段の Gibbs 更新であり、詳細つり合いと 1 ステップでの正値性を同時に満たします。臨界点近くでの自己相関時間の発散（臨界減速）を大きく緩和します。
- 相関のある時系列の平均の分散は $2\tau_{\mathrm{int}}\Gamma(0)/N$ です。ビニングはこの $\tau_{\mathrm{int}}$ を明示的に推定せずに正しい誤差を与え、ジャックナイフは非線形な量の誤差と $O(1/N)$ のバイアスを同時に処理します。

<Aside type="tip" title="この記事で使う事前知識">

- **マルコフ連鎖**: 次の状態の確率が現在の状態だけで決まる確率過程。→ [遷移核・不変分布・マルコフ連鎖](#def-markov-kernel)
- **大数の法則と中心極限定理**: 独立な標本の平均が期待値に近づくこと、およびその揺らぎが正規分布になること。→ [確率論の極限定理](/mathematics/probability/limit-theorems)
- **Haar 測度**: 群の上で、どの元を掛けても変わらない（偏りのない）測度。→ [格子ゲージ場](/physics/lattice-field-theory/lattice-gauge-fields)
- **Wilson 作用**: 格子ゲージ場の作用で、プラケット（最小の正方形）に沿ったリンクの積のトレースの和。→ [Wilson 作用](/physics/lattice-field-theory/lattice-gauge-fields#def-wilson-action)
- **Wilson–Dirac 作用素**: 格子上のフェルミオンを表す行列。→ [Wilson–Dirac 作用素](/physics/lattice-field-theory/lattice-fermions#def-wilson-dirac)

</Aside>

## 1. 動機

[格子 Higgs 模型と湯川模型](/physics/lattice-field-theory/lattice-higgs-yukawa) までの章では、強結合展開や平均場、摂動論で相構造を論じました。しかしハドロン質量や相転移の位置を定量的に決めるには、格子上の経路積分
$$
\langle A\rangle=\frac{1}{Z}\int\prod_{x}d\varphi_x\,A[\varphi]\,e^{-S[\varphi]},\qquad Z=\int\prod_xd\varphi_x\,e^{-S[\varphi]}
$$
を数値的に評価するしかありません。変数の数は $10^6$ を優に超えるので、格子点ごとの求積は論外で、一様乱数による素朴なモンテカルロ積分も役に立ちません。作用は体積に比例するので、$e^{-S}$ の重みは配位空間のごく薄い殻に集中し、一様に引いた配位はほぼすべて重み $0$ だからです。

そこで $e^{-S}$ そのものに従う配位を生成する**重点サンプリング**を使います。$10^6$ 次元の分布から独立な標本を直接引く方法はないので、1 つ前の配位を少しずつ変えるマルコフ連鎖を走らせ、その極限分布が $e^{-S}$ になるように設計します。Metropolis ら（1953 年）の方法がその原型で、Creutz（1980 年）が SU(2) ゲージ理論に熱浴法を適用して閉じ込めの数値的証拠を示したのが格子 QCD の数値計算の始まりです。

この記事では、まずマルコフ連鎖が正しい分布に収束するための条件を証明し、次に格子場で使われる代表的な更新法（Metropolis、熱浴、HMC、クラスター）がその条件を満たすことを 1 つずつ確かめます。最後に、連鎖が生む**相関のある**標本から誤差を正しく見積もる方法を導きます。数値計算の結果は「誤差棒つき」でなければ主張にならないので、最後の節は他の節と同じだけ重要です。

（この章の続きは購入者向けです。）
