# Wilson・staggered フェルミオンの転送行列：反射正値性の証明と Lüscher の正の転送行列

> Wilson フェルミオンを含む格子ゲージ理論の反射正値性を 0<r≤1 で証明し r>1 で破れることを示す。r=1 で Lüscher の自己共役かつ正の転送行列を構成し、r≠1 の時間方向の doubler と staggered の 2 段転送作用素を調べる。
> https://rikai.mugen-giken.com/physics/lattice-field-theory/lattice-fermion-transfer-matrix

## 0. この記事の要点

コンピュータ上の格子で素粒子の理論を計算するとき、時間を一コマずつ進める「1 ステップの規則」（転送行列）が正の数だけで書けていれば、計算結果を確率のように扱い、エネルギーの値として読むことができます。この記事は、電子やクォークのようなフェルミオンを格子に載せたとき、その規則が本当に使える形になっているかを確かめる話です。フェルミオンは通常の数では書けず、順序を入れ替えると符号が変わる特殊な変数で扱うため、符号を 1 つ間違えると結論が逆になります。そこで符号の取り方を決めてから、「使える」ための条件と、条件が崩れたときに何が起きるかを調べます。

- Grassmann 変数（順序を入れ替えると符号が変わる変数）の時間反射 $\Theta$ は反線形で積の順序を逆にする写像として定義します。生成元への作用に負号 $\Theta\psi=-\bar\psi\gamma_4$、$\Theta\bar\psi=-\gamma_4\psi$ を付けておくと、偶元・奇元を問わず $\langle\Theta(F)F\rangle\ge0$ という形で反射正値性が述べられます。負号を付けない規約では、奇元について不等号が逆向きになります。
- Wilson フェルミオンとゲージ場の格子理論は、$0\lt r\le1$、$\kappa\ge0$、$\beta\ge0$ で、リンク反射に関して反射正値です。証明の要は、反射面をまたぐ跳びの項が $\kappa\,\Theta(\psi)(1-r\gamma_4)\psi$ と $\kappa\,\Theta(\bar\psi)(1+r\gamma_4)^{\mathsf T}\bar\psi$ になり、$|r|\le1$ ではこの 2 つの行列が半正定値になることです。$r\gt1$ では小さい $\kappa$ で正値性が実際に破れます。
- $r=1$ では時間方向の跳びが射影 $P_\pm=(1\pm\gamma_4)/2$ になり、行列式 $\det(1-\kappa H)$ が外積代数上の自己共役で正の作用素 $\hat T_t$ の積のトレースに書けます（Lüscher, 1977）。正値性に要る条件は $0\lt\kappa\lt1/6$ で、これは空間方向の跳びの和のノルム $\le6$ から来ます。
- 粒子・反粒子の生成消滅作用素で書くと、$\hat T_t$ は「対消滅 × 粒子 1 個あたり $2\kappa$ の重み × 対生成」の積です。自由場では $\cosh E=1+(\sum_k\sin^2p_k+M^2)/(2(1+M))$ の 1 本の分散関係だけが現れます。
- $r\ne1$ では時間方向の doubler が現れ、$0\lt r\lt1$ では転送行列の負の固有値 $-e^{-E'}$ として見えます。staggered フェルミオンでは 1 段の転送作用素が自己共役でも正でなく、2 段の積 $\Gamma(\mathcal S)^2$ が正の転送行列になります。相関関数が $(-1)^t$ で振動する成分を含むのはこのためです。

<Aside type="tip" title="この記事で使う事前知識">

- **反射正値性**: 時間の向きを反転させた像との内積が非負になる、という測度の性質。これがあると Hilbert 空間と転送行列が組み立てられます。→ [反射正値性](/physics/lattice-field-theory/reflection-positivity-lattice#def-reflection-positivity)
- **Grassmann 代数**: 生成元どうしが反可換（順序を入れ替えると符号が変わる）な代数。フェルミオン場の経路積分で使います。→ [Grassmann 代数](/physics/lattice-field-theory/lattice-fermions#def-grassmann-algebra)
- **Berezin 積分**: Grassmann 変数に対する積分で、各変数について 1 次の係数を取り出す操作。→ [Berezin 積分](/physics/lattice-field-theory/lattice-fermions#def-berezin-integral)
- **staggered フェルミオン**: 1 つの格子点に 1 成分の場を置き、doubler を減らす格子フェルミオン。→ [staggered フェルミオン](/physics/lattice-field-theory/lattice-fermions#def-staggered-fermion)
- **フェルミオン Fock 空間**: 同種のフェルミオンを何個でも含む状態を集めた、反対称化した空間。→ [フェルミオン Fock 空間](/physics/fock-space/fermion-fock-space#def-fermion-fock-space)

</Aside>

## 1. 動機

[格子フェルミオン](/physics/lattice-field-theory/lattice-fermions) の章の最後で、Wilson フェルミオンを含む格子 QED が反射正値性を満たすと述べ、証明の筋道だけを示しました（<Ref to="physics/lattice-field-theory/lattice-fermions#thm-wilson-reflection-positivity" />）。スカラー場の反射正値性は [反射正値性と Hilbert 空間の再構成](/physics/lattice-field-theory/reflection-positivity-lattice) で完全に証明しましたが、フェルミオンでは事情が違います。Grassmann 変数には正値性という概念がそもそもなく、「$\langle\Theta(F)F\rangle\ge0$」の左辺が非負になるかどうかは、$\Theta$ の符号の規約、積の並べ方、Berezin 測度の規約がすべてかみ合って初めて決まります。符号を 1 か所誤ると、奇元について不等号が逆になります。

もう 1 つの問題は Wilson パラメータ $r$ です。$r=1$ が特別なのは、時間方向の跳びの行列 $r\mp\gamma_4$ が射影の 2 倍になり、各時刻の自由度の半分だけが前向き、残り半分が後ろ向きに伝わるからです。Lüscher（1977）はこの構造を使って、自己共役で厳密に正の転送行列を書き下しました。$r\ne1$ では跳びの行列が可逆になり、時間方向にも doubler が残ります。Osterwalder–Seiler（1978）が原論文で扱ったのは、素朴なフェルミオン作用と、Wilson 項に $i\gamma_5$ を掛けた形の項を足した作用で、自由境界の格子の上で、格子点を通らない面に関する反射（リンク反射）の正値性を証明しました。通常の質量項を持つ Wilson 作用そのものは原論文にはありませんが、同じ証明が $|r|\le1$ の Wilson 項にも通ります（[原論文の精読](/physics/constructive-papers/osterwalder-seiler-1978-part-1) の <Ref to="physics/constructive-papers/osterwalder-seiler-1978-part-1#cor-os-wilson-rp-special-case" />）。格子点を通る面に関する反射（サイト反射）の正値性は、のちに Menotti–Pelissetto（1987）が、Osterwalder–Seiler の証明を格子点を含む面へ拡張する形で、Wilson 作用について示しました（その証明は本章では扱いません）。staggered フェルミオンでは、1 時間ステップの転送作用素は正にならず、2 ステップを 1 組にする必要があります（Sharatchandra–Thun–Weisz, 1981）。

本章では、これらを 1 つの枠組みで証明します。道具は Berezin 積分（<Ref to="physics/lattice-field-theory/lattice-fermions#thm-grassmann-gaussian" />）、外積代数上の作用素 $\Gamma(X)$、ブロック巡回行列の行列式の 3 つだけです。

（この章の続きは購入者向けです。）
