# 格子上の微分形式とゲージ固定：離散 Hodge 分解・トーロン・Gribov 問題

> 超立方格子のコチェインと離散外微分を定義し、格子 Hodge 分解・Poincaré 補題・非可換 Bianchi 恒等式を証明する。トーラス上の平坦な配位（トーロン）を分類し、Landau ゲージの Gribov コピーを具体的に構成する。
> https://rikai.mugen-giken.com/physics/lattice-field-theory/lattice-differential-forms

## 0. この記事の要点

連続の空間で習う関数の微分や回転を、方眼紙のような格子の上で、隣り合う点の値の差だけで作り直したらどうなるか、という話です。そうして作った道具が連続の場合と同じ法則を満たすことを確かめ、格子の上のゲージ場（電磁場や強い力の場）を、ゲージ変換で動く部分と動かない部分に分けて整理します。読み終えると、端をつないだ格子（トーラス）の上で自明でない場の形が何か、そしてなぜ「ゲージを固定する」ことが一筋縄でいかないのかを、具体的な計算で説明できるようになります。

- 超立方格子の $k$ 次元の単位立方体の上の関数（$k$-コチェイン）は微分形式の格子版です。前進差分で作った外微分 $d$ は $d^2=0$ を満たし、その随伴 $\delta$ は後退差分で書けます。Hodge Laplacian $d\delta+\delta d$ は成分ごとに格子 Laplacian $-\sum_\nu\partial^*_\nu\partial_\nu$ に等しくなります。
- 周期格子（格子トーラス）では、有限次元の線形代数だけで Hodge 分解 $C^k=\mathrm{im}\,d\oplus\mathrm{im}\,\delta\oplus\mathcal H^k$ が成り立ち、調和形式は定数成分の形式で、その次元はトーラスの Betti 数（$k$ 次元の穴の数）$\binom dk$ です。無限格子 $\mathbb Z^d$ では閉形式はすべて完全です（格子 Poincaré 補題）。
- 非可換ゲージ場では、3 次元立方体の 6 つの面の[プラケット](/physics/lattice-field-theory/hamiltonian-lattice-gauge#def-spatial-lattice)（辺の変数の積でできる最小の面の量）を適当な順序と平行移動でつなぐと恒等元になります（格子 Bianchi 恒等式）。これは辺の上の自由群の恒等式です。
- 格子トーラス上の平坦な配位（作用 0、トーロン）は、互いに可換な Polyakov ループ（格子を一周してリンク変数を掛け合わせたもの）の組を同時共役で割ったものと 1 対 1 に対応します。$\mathrm U(1)$ では定数配位 $e^{i\theta_\mu/L}$ に帰着し、実の変数 $A$ の調和成分を $2\pi/L$ だけずらす「大ゲージ変換」が現れます。
- 非コンパクトな $\mathrm U(1)$ では Hodge 分解により Landau ゲージの代表元が一意に決まります。コンパクトなゲージ群では Landau ゲージは汎関数 $\sum\mathrm{Re}\,\mathrm{tr}\,U^g$ の停留点で、すべての軌道が基本モジュラー領域（ゲージ軌道の中で汎関数が最大になる配位の集合）と交わる一方、トーロンの上には体積とともに増える数の Gribov コピー（同じ軌道上の、Landau ゲージ条件を満たす別の配位）が存在します。

<Aside type="tip" title="この記事で使う事前知識">

- **微分形式と外微分**: 関数や 1 形式などに微分 $d$ を施して次数を 1 つ上げる操作。2 回続けると $0$ になる。→ [Hodge 理論](/mathematics/differential-geometry/hodge-theory)
- **Hodge 分解・調和形式**: 形式を、完全形式・余完全形式・調和形式（$d$ でも $\delta$ でも $0$ になるもの）の直交する和に分けること。→ [Hodge 理論](/mathematics/differential-geometry/hodge-theory)
- **リンク変数とゲージ場**: 格子の辺に置いた群の元（平行移動に当たる）と、その上のゲージ変換の考え方。→ [格子ゲージ場](/physics/lattice-field-theory/lattice-gauge-fields)
- **プラケット**: 格子の 1 つの正方形のまわりの 4 辺のリンク変数の積。→ [プラケット](/physics/lattice-field-theory/hamiltonian-lattice-gauge#def-spatial-lattice)
- **Wilson 作用**: プラケットから作る、格子ゲージ理論の標準的な作用。→ [Wilson 作用](/physics/lattice-field-theory/lattice-gauge-fields#def-wilson-action)
- **Polyakov ループ**: ある 1 方向に格子を一周するリンク変数の積。

</Aside>

## 1. 動機

連続理論のゲージ場は主束の接続で、場の強さはその曲率、Bianchi 恒等式は $DF=0$、ゲージ固定の困難（Gribov 問題）は接続の空間をゲージ群で割った商の位相から来ます（[ファイバー束・主束と接続](/mathematics/differential-geometry/principal-bundles-connections)）。格子ではリンク変数が平行移動そのものを与え、プラケットが曲率の役をします（[格子ゲージ場](/physics/lattice-field-theory/lattice-gauge-fields)）。では微分形式・外微分・Hodge 分解・コホモロジーは格子でどうなるのでしょうか。

答えは、格子の単位立方体を胞体とする胞体コチェインです。格子の外微分は差分で書けて $d^2=0$ を厳密に満たし、内積を入れると有限次元の線形代数だけで Hodge 分解が証明できます。連続理論では楕円型作用素の解析が必要だったところ（[Hodge 理論](/mathematics/differential-geometry/hodge-theory)）が、格子では行列の核と像の話になります。これは格子摂動論でゲージ場を縦波・横波・ゼロモードに分けるときの基礎であり、格子 QED の Coulomb 相の解析や、有限体積の弱結合展開でも使われます。

ゲージ固定は格子では原理的には不要です。Haar 測度（ゲージ群の上の、群の積で変わらない積分の測り方）で積分するので、ゲージ不変な量の期待値はゲージを固定せずに定義できます（<Ref to="physics/lattice-field-theory/lattice-gauge-fields#prop-gauge-invariance-expectation" />）。しかしグルーオンの伝播関数のようなゲージ依存の量を測るには、配位ごとにゲージを固定しなければなりません。そのとき Gribov（1978）が連続理論で見つけた「1 つの軌道が Landau ゲージ条件を何度も満たす」問題が、格子でも具体的な形で現れます。本章ではトーラス上の平坦な配位（トーロン）を分類し、その上で Gribov コピーを明示的に構成します。

（この章の続きは購入者向けです。）
