# ハミルトニアン格子ゲージ理論と量子シミュレーション：Kogut–Susskind ハミルトニアン・Gauss の法則・強結合の質量ギャップ

> 時間方向の格子間隔を 0 にする極限で転送行列から Kogut–Susskind ハミルトニアンを導き、リンク空間 L²(G)・色電場・Gauss の法則を定式化する。強結合の質量ギャップ、Schwinger 模型・量子リンク模型・トーリック符号、量子シミュレーションと Fock 空間の運動量切断との辞書をまとめる。
> https://rikai.mugen-giken.com/physics/lattice-field-theory/hamiltonian-lattice-gauge

## 0. この記事の要点

電気や磁気の力を伝える「ゲージ場」を、碁盤の目のような格子の上で量子力学として扱うと、何が言えるのでしょうか。この記事では、空間の各辺に「電気の流れの太さ」を表す量を置き、全体のエネルギーを 1 本の式（ハミルトニアン）で書き表します。そこから、電気の流れが途中で湧いたり消えたりしないという制約、電荷を引き離すほど必要なエネルギーが増える閉じ込めの仕組み、そして量子計算機で調べるときの考え方までを順にたどります。

- 空間だけを格子にし、時間を連続に残すとゲージ場の量子論は**ハミルトニアン形式**になります。各リンクの Hilbert 空間は $L^2(G)$（$G$ はコンパクトなゲージ群、Haar 測度）で、リンク変数 $U$ は掛け算作用素、**色電場** $E^a$ は左・右移動の生成子です。両者は $[E^a_{\mathrm{L}},\hat U]=T^a\hat U$、$[E^a_{\mathrm{R}},\hat U]=\hat U T^a$ を満たします。
- 異方的な [Wilson 作用](/physics/lattice-field-theory/lattice-gauge-fields#def-wilson-action)の転送行列 $T_{a_t}$ について $T_{t/n}^{\,n}\to e^{-tH}$（強収束）が成り立ち、極限が **Kogut–Susskind ハミルトニアン** $H=\frac{g^2}{2a}\sum_\ell E_\ell^2+\frac{c_G}{ag^2}\sum_p\mathrm{Re}\,\mathrm{tr}(1-U_p)$ です。$G=U(1)$ では Bessel 関数と Chernoff の積公式で完全に証明できます。
- 時間方向のリンク変数を積分すると **Gauss の法則**（各頂点で電束が湧き出さないという条件）が現れ、物理的状態はゲージ変換で不変な部分空間 $\mathcal{H}_{\mathrm{phys}}$ に限られます。Peter–Weyl 分解を使うと、$\mathcal{H}_{\mathrm{phys}}$ は「各頂点で表現の不変元をもつ」リンクの表現ラベルの配置で分類されます。
- 強結合 $g\to\infty$ では、最低励起は最小のプラケットを一周する電束で、質量ギャップは $\Delta=\frac{g^2}{2a}\cdot 4C_{\min}+O(g^{-2})$（$SU(N)$ では $C_{\min}=C_2(F)$、4 はプラケットの周長）です。静的な電荷対の基底エネルギーは距離に比例し、閉じ込めを与えます。
- 格子 Schwinger 模型・量子リンク模型・トーリック符号はこの枠組みの具体例です。ハミルトニアン形式は正の重みを必要としないので、実時間発展・有限密度・$\theta$ 項の**符号問題**（重みが正でないため確率として標本を取れない困難）を回避でき、テンソルネットワークや量子計算機による量子シミュレーションの出発点になります。
- 空間格子は [Fock 空間](/physics/qft/why-quantum-field-theory#def-fock-space)の運動量切断と辞書で対応します。Brillouin 域 $(-\pi/a,\pi/a]^d$ が紫外切断に、格子分散関係 $\omega_a(k)$ が $\omega(k)=\sqrt{|k|^2+m^2}$ に対応し、$\frac{2}{\pi}\omega\le\omega_a\le\omega$ が成り立ちます。

<Aside type="tip" title="この記事で使う事前知識">

- **転送行列と反射正値性**: Euclid 経路積分を 1 時間ステップ分の作用素 $T=e^{-aH}$ に書き直す方法です。→ [反射正値性](/physics/lattice-field-theory/reflection-positivity-lattice#def-reflection-positivity)
- **Wilson 作用**: リンク変数の積（プラケット）を使った格子ゲージ理論の作用です。→ [Wilson 作用](/physics/lattice-field-theory/lattice-gauge-fields#def-wilson-action)
- **ハミルトニアン**: 系の全エネルギーを表す作用素で、時間発展を決めます。
- **Fock 空間**: 粒子の数が変わる系の状態を、粒子数ごとの空間の直和で表したものです。→ [Fock 空間](/physics/qft/why-quantum-field-theory#def-fock-space)
- **基底状態**: ハミルトニアンのエネルギーが最も低い状態です。→ [基底状態](/physics/fock-space/nelson-spin-boson#def-ground-state)
- **コンパクト群の表現論**: Haar 測度と Peter–Weyl の定理（$L^2(G)$ が既約表現の行列成分で直和に分かれる）を使います。
- **前章の内容**: 格子の系統誤差の扱いを学んだ直前の章です。→ [Symanzik 改良・gradient flow・Lüscher の有限体積公式](/physics/lattice-field-theory/lattice-improvement-finite-volume)

</Aside>

## 1. 動機

これまでの章では、ゲージ理論を Euclid 格子上の統計力学として扱ってきました。[分配関数](/physics/qft/path-integral-quantization#def-partition-function) $\int e^{-S}\prod dU$ をモンテカルロ法で評価するのが格子 QCD の標準的な手法で、ハドロン質量や有限温度の性質を高い精度で与えます。しかしこの方法には原理的な限界があります。重み $e^{-S}$ が正の実数でなければ、確率として標本を作れません。実時間の発展 $e^{iS}$、有限のバリオン[化学ポテンシャル](/physics/thermodynamics/grand-canonical-ensemble#def-chemical-potential)、$\theta$ 項はいずれも重みを複素数にし、相殺が指数関数的に激しくなります（**符号問題**）。

一方、量子力学の基本的な形は Hilbert 空間とハミルトニアンです。Euclid 経路積分から転送行列 $T=e^{-aH}$ を経てハミルトニアンに戻ることは、[反射正値性と Hilbert 空間の再構成](/physics/lattice-field-theory/reflection-positivity-lattice) で格子間隔を固定したまま行いました。本章では時間方向の間隔 $a_t$ だけを $0$ にする極限を取り、空間格子の上のハミルトニアン（Kogut–Susskind, 1975）を導きます。この形式では状態を直接扱うので、符号問題の代わりに「Hilbert 空間の次元が体積について指数関数的に大きい」という困難に置き換わります。後者を量子計算機やテンソルネットワークで扱うのが**量子シミュレーション**の考え方です。

また、ハミルトニアン形式は強結合での閉じ込めを最も見通しよく示します。電場のエネルギーが支配的な極限では、ゲージ不変性（Gauss の法則）のために電束は閉じたループか電荷を結ぶ線にしかなれず、その長さに比例したエネルギーをもちます。これが質量ギャップと線形ポテンシャルの起源です。最後に、空間格子による切断が、[スカラー場の正準量子化](/physics/qft/canonical-quantization) で使う Fock 空間の運動量切断とどう対応するかを辞書としてまとめます。

（この章の続きは購入者向けです。）
