# 格子上のカイラル対称性：Ginsparg–Wilson 関係・overlap 演算子・domain wall フェルミオン

> Ginsparg–Wilson 関係と Lüscher の修正されたカイラル対称性を定式化し、Neuberger の overlap 演算子がそれを満たすこと、格子上の指数定理とアノマリー、domain wall フェルミオンの局在モード、カイラルゲージ理論の未解決問題までを証明つきで扱う。
> https://rikai.mugen-giken.com/physics/lattice-field-theory/ginsparg-wilson

## 0. この記事の要点

時空を格子の上に載せて計算機で扱うと、連続の理論にあったカイラル対称性（粒子の右巻きと左巻きを独立に扱える性質）は、そのままの形では残らないことが前章までに分かっていました。この記事では、そのカイラル対称性を格子の上でも「形を少し変えて、厳密に」保つ方法を調べます。読み終えると、Ginsparg–Wilson 関係とは何か、overlap 演算子と domain wall フェルミオンがなぜその実現になっているのか、そして格子の上でもアノマリーが整数として現れる理由が説明できるようになります。以下の箇条書きは全体の予告なので、分からない言葉があっても、本文を読み進めれば順に出てきます。

- Ginsparg–Wilson 関係 $\gamma_5D+D\gamma_5=aD\gamma_5D$ は、カイラル対称性の破れを「局所的な項」だけに押し込める条件です。伝播関数で言えば $\{\gamma_5,D^{-1}\}=a\gamma_5$ で、破れは接触項（同じ点の相関）に限られます。
- この関係を満たす $D$ の作用は、Lüscher の変換 $\delta\psi=\gamma_5(1-\frac a2D)\psi$、$\delta\bar\psi=\bar\psi(1-\frac a2D)\gamma_5$ で厳密に不変です。これは格子間隔 $a$ が有限のままの厳密なカイラル対称性で、[Nielsen–Ninomiya の定理](/physics/lattice-field-theory/lattice-fermions)は「通常の」カイラル対称性を仮定しているので、この対称性とは矛盾しません。
- Neuberger の overlap 演算子 $D=\frac1a(1+\gamma_5\,\mathrm{sign}(H_{\mathrm W}))$（$H_{\mathrm W}=\gamma_5(aD_{\mathrm W}-\rho)$、$0\lt\rho\lt2r$）は Ginsparg–Wilson 関係を満たし、doubler を持たず、滑らかなゲージ場の上で指数関数的に局所的です。
- 格子上の指数定理: Ginsparg–Wilson 関係と $\gamma_5$-エルミート性を満たす $D$ について、零モードのカイラリティの差は $n_+-n_-=-\frac a2\mathrm{Tr}(\gamma_5D)$ です。overlap ではこれが $-\frac12\mathrm{Tr}\,\mathrm{sign}(H_{\mathrm W})$ という整数（$\mathrm{sign}$ は固有値の符号を取る関数）になり、Lüscher 変換の下での測度の Jacobian $e^{2i\alpha Q}$ として軸性アノマリーを有限の $a$ で厳密に再現します。
- domain wall フェルミオンは、5 次元の Wilson フェルミオンの境界（壁）に局在するカイラルなモードを使います。自由場では局在の条件が $0\lt aM_5\lt2$ で、overlap の $\rho$ の窓と一致します。5 次元方向を無限に長くした極限で、有効的な 4 次元演算子は overlap 型になります。
- カイラルゲージ理論（Weyl フェルミオンをゲージ場に結合させた理論）の格子上の構成は、可換群では Lüscher が完成させ、非可換群では摂動の全次数まで示されていますが、非摂動的な構成は未解決です。障害は測度の位相の不定性で、これはゲージアノマリーの相殺条件と直結しています。

<Aside type="tip" title="この記事で使う事前知識">

- **Nielsen–Ninomiya の定理**: 局所的で並進不変な格子フェルミオンがカイラル対称性を保つと、doubler（余計な粒子）が必ず現れる、という定理。→ [格子フェルミオン](/physics/lattice-field-theory/lattice-fermions)
- **Wilson–Dirac 作用素**: Wilson 項を加えて doubler を重くした格子の Dirac 作用素。→ [Wilson–Dirac 作用素](/physics/lattice-field-theory/lattice-fermions#def-wilson-dirac)
- **$\gamma_5$-エルミート性**: $D^*=\gamma_5D\gamma_5$ が成り立つという性質。Wilson–Dirac 作用素も満たします。→ [格子フェルミオン](/physics/lattice-field-theory/lattice-fermions)
- **Grassmann 変数の積分と Jacobian**: 反可換な変数の積分で、変数を線形に取り替えると行列式の逆数が掛かる、という規則。→ [格子フェルミオン](/physics/lattice-field-theory/lattice-fermions)
- **Weyl フェルミオン**: 右巻きか左巻きのどちらか一方だけを持つフェルミオン。

</Aside>

## 1. 動機

前章の [格子フェルミオン](/physics/lattice-field-theory/lattice-fermions) で見たように、局所的で並進不変な格子フェルミオンは、カイラル対称性 $\{\gamma_5,D\}=0$ を保つ限り doubler を避けられません（<Ref to="physics/lattice-field-theory/lattice-fermions#thm-nielsen-ninomiya" />）。Wilson フェルミオンはカイラル対称性を捨てて doubler を除きましたが、その代償としてクォーク質量の加法的なくりこみと、$O(a)$ の破れを含むカイラル Ward 恒等式が残りました。軽いクォークの物理、たとえばパイオンが軽い理由や、カイラル対称性の自発的破れの秩序変数を調べるには、これは大きな負担です。

Ginsparg と Wilson（1982）は、くりこみ群のブロック変換の考察から、格子作用が連続理論のカイラル対称性を「どの形で覚えているべきか」を問いました。連続理論のカイラル対称性をブロック変換で格子に写すと、出てくる格子作用は $\{\gamma_5,D\}=0$ ではなく、右辺に局所的な項を持つ関係を満たします。これが Ginsparg–Wilson 関係です。しかしこの関係を満たす具体的な $D$ は長く知られず、関係は 15 年間ほぼ忘れられていました。

1997 年から 1998 年にかけて状況は一変しました。Hasenfratz らの固定点作用がこの関係を満たすことが指摘され、Neuberger は 5 次元の domain wall フェルミオン（Kaplan, 1992）の研究から、閉じた形の解である overlap 演算子を得ました。さらに Lüscher は、この関係から有限の格子間隔で厳密な対称性が導かれ、その下で測度だけが不変でないこと、つまりアノマリーが正しく再現されることを示しました。これで「格子上のカイラル対称性」が、近似ではなく厳密な数学的構造として手に入りました。

本章ではこの構造を、関係式の代数的な帰結（§3–§4）、overlap による具体的な実現（§5）、指数定理とアノマリー（§6）、domain wall による実現（§7）の順に調べます。最後に、この枠組みでもまだ解けていない問題、すなわち格子上のカイラルゲージ理論の構成に触れます（§8）。

（この章の続きは購入者向けです。）
