# Krein 空間と J 内積：基本分解・位相の一意性・最大非負部分空間・商空間による正定値化

> 不定内積空間と基本対称 J を定義し、Krein 空間の位相が基本分解によらないことを閉グラフ定理で示す。角作用素による最大非負部分空間の記述、Pontryagin 空間、正則部分空間の判定、商空間による正定値化を述べ、不定計量の Fock 空間に応用する。
> https://rikai.mugen-giken.com/physics/indefinite-metric/krein-spaces

## 0. この記事の要点

ふつうの内積では、ベクトルの長さの 2 乗は必ず正です。ところが相対論では、時間方向と空間方向で符号が逆になり、長さの 2 乗が負になる方向が現れます。量子論でそのような符号をもつ状態を扱うと、「収束する」「閉じている」といった言葉の意味が、補助的に選んだ内積によって変わらないか、という疑問が出ます。この記事は、正負が混ざった内積をもつ空間でも、完備性さえあれば位相が選び方によらないことを示し、負の部分を整理して正定値な Hilbert 空間を取り出す方法を述べます。

- **不定内積空間**は、正定値性を課さないエルミート形式 $[\cdot,\cdot]$ をもつ複素線形空間です。正・負・中立のベクトルが共存し、Cauchy–Schwarz の不等式は一般に成り立ちません。ただし半定値な部分空間の中では成り立ち、これが以下のほとんどの議論の出発点になります。
- **Krein 空間**は、互いに $[\cdot,\cdot]$ 直交する正の [Hilbert 空間](/mathematics/functional-analysis/hilbert-spaces#def-hilbert-space)と負の Hilbert 空間の直和 $\mathcal K=\mathcal K_+[\dotplus]\mathcal K_-$ に分解できる不定内積空間です。分解から**基本対称** $J=P_+-P_-$ と、正定値な **J 内積** $\langle x,y\rangle_J=[x,Jy]$ が決まります。
- 基本分解は一意ではありませんが、どの基本分解から作った J ノルムも互いに同値です。証明は閉グラフ定理によります。完備性を外すとこの一意性は壊れ、その反例も示します。
- 非負部分空間は、$\mathcal K_+$ の部分空間から $\mathcal K_-$ への縮小写像（ベクトルの長さを増やさない写像。**角作用素**）のグラフとして書けます。最大非負部分空間は、それ以上大きくできない非負部分空間のことで、角作用素の定義域が $\mathcal K_+$ 全体になるものです。ここから $\dim\mathcal K_-$ が基本分解によらないことが出ます。$\kappa=\dim\mathcal K_-<\infty$ のとき **Pontryagin 空間** $\Pi_\kappa$ と呼び、非正部分空間の次元は $\kappa$ 以下です。
- 閉部分空間 $\mathcal L$ が $\mathcal K=\mathcal L[\dotplus]\mathcal L^{[\perp]}$ を満たすことと、$\mathcal L$ 自身が Krein 空間であることは同値です。退化した非負部分空間は、等方部分 $\mathcal L^0$（ノルムが $0$ のベクトルの集まり）で割って完備化すると Hilbert 空間になります。Gupta–Bleuler 形式（電磁場を相対論的に扱う量子化の方法）の物理的状態空間は、この構成そのものです。
- 1 粒子空間の基本対称 $J_1$ を第二量子化した $\Gamma(J_1)$ は [Fock 空間](/physics/qft/why-quantum-field-theory#def-fock-space)（粒子の個数が決まらない状態を扱う空間）の基本対称になります。スカラー光子を含む不定計量の Fock 空間は、正の部分と負の部分がともに無限次元の Krein 空間で、Pontryagin 空間にはなりません。

<Aside type="tip" title="この記事で使う事前知識">

- **Hilbert 空間**: 内積をもち、収束列の極限が空間の中に残る（完備な）ベクトル空間。→ [Hilbert 空間](/mathematics/functional-analysis/hilbert-spaces#def-hilbert-space)
- **直交射影**: 閉部分空間 $M$ に対して、ベクトルを $M$ の成分と $M$ に直交する成分に分ける作用素の、$M$ の成分を取り出す方。→ [直交射影](/mathematics/functional-analysis/hilbert-spaces#def-orthogonal-projection)
- **閉部分空間・直交補空間**: 極限をとる操作で外に出ない部分空間と、それ全体に直交するベクトルの集まり。→ [閉部分空間・直交補空間](/mathematics/functional-analysis/hilbert-spaces#def-orthogonal-complement)
- **ユニタリ写像**: 内積を保つ全単射。→ [ユニタリ写像](/mathematics/functional-analysis/hilbert-spaces#def-unitary)
- **Fock 空間**: 0 個、1 個、2 個、…の粒子の状態を直和にまとめた空間。→ [Fock 空間](/physics/qft/why-quantum-field-theory#def-fock-space)

</Aside>

## 1. 動機

[電磁場の量子化とゲージ固定](/physics/qft/maxwell-field-quantization)の共変量子化では、時間成分の光子（スカラー光子）が負のノルムをもちました（<Ref to="physics/qft/maxwell-field-quantization#prop-negative-norm" />）。そこでは <Ref to="physics/qft/maxwell-field-quantization#rem-krein-space" /> で、正定値な Fock 空間の内積に $\eta=(-1)^{N_0}$ を挟んで不定計量を作り、この空間を Krein 空間と呼ぶ、と述べるにとどめました。物理の議論としてはそれで足ります。しかし、数学的に詰めようとすると、次の疑問がすぐに出てきます。

第一に、位相の問題です。不定計量 $\langle\psi|\phi\rangle$ はノルムを定めないので、「状態の列が収束する」「作用素が有界である」「部分空間が閉じている」といった言葉の意味は、補助的に選んだ正定値内積 $(\psi,\eta\phi)$ に頼っています。ところが $\eta$ の選び方は一意ではありません。たとえば Lorentz ブースト（等速で動く観測者への座標変換）は不定計量を保ちますが、$\eta$ は保ちません。選び方を変えると位相が変わるのであれば、「物理的状態空間の完備化」のような操作は観測者に依存してしまいます。本章の <Ref to="thm-topology-independence" /> は、Krein 空間ではこの心配が不要であることを保証します。

第二に、部分空間の問題です。Gupta–Bleuler 条件で選んだ物理的状態空間 $\mathcal V_{\mathrm{phys}}$ は、ノルムが半正定値で、ノルム $0$ の状態 $\mathcal V_0$ を含んでいました（<Ref to="physics/qft/maxwell-field-quantization#thm-gupta-bleuler" />）。これは「非負だが退化した部分空間」という、Hilbert 空間には現れない対象です。どういう部分空間なら正定値化できるのか、商をとった結果は完備なのか、を一般的に答えておく必要があります。

第三に、次章以降で扱う作用素の問題です。不定計量の下でのハミルトニアンは Hilbert 空間の意味で自己共役ではなく、実でない固有値をもつことさえあります。そのスペクトル理論は、空間の幾何（どの部分空間が正・負・中立か）と切り離せません。

本章は Bognár と Azizov–Iokhvidov の教科書の最初の数章に相当する内容を、証明つきで整理します。記法は次のとおりです。不定内積 $[x,y]$ は**第 1 変数について共役線形、第 2 変数について線形**とし、Hilbert 空間の内積 $\langle\cdot,\cdot\rangle$ と同じ慣習に従います。

（この章の続きは購入者向けです。）
