# BRST コホモロジーと物理的状態：Krein 空間上のべき零電荷・Kugo–Ojima の四重項機構・閉じ込め判定条件

> Krein 空間上の J 対称でべき零な BRST 電荷とそのコホモロジーを定義し、四重項に縮約ホモトピーがあればコホモロジーが四重項を含まない部分の Fock 空間と等長同型になることを証明する。有限自由度の模型と自由電磁場で確かめ、Kugo–Ojima の閉じ込め判定条件を述べる。
> https://rikai.mugen-giken.com/physics/indefinite-metric/brst-cohomology

## 0. この記事の要点

光の量子論では、計算を進めやすくするために、本物の光には対応しない「余分な状態」をいったん混ぜて扱うことがあります。余分な状態の中には、確率にあたる量が負になるものまで含まれます。この章は、余分な状態が互いに打ち消し合う組になっていれば、それらを除いた残りの部分では確率が負にならず、残りが本物の物理を表すことを、線形代数の言葉（核と像の商）で示します。読み終えると、「余分な状態をどう組にすればよいか」と「その組が残す部分は何か」を、式で説明できるようになります。

- **BRST 構造**とは、[Krein 空間](/physics/indefinite-metric/krein-spaces#def-krein-space)の稠密な部分空間 $\mathcal D$ 上の作用素 $Q$ で、$Q^2=0$ かつ [J 対称](/physics/indefinite-metric/krein-operators#def-j-selfadjoint)なもののことです。$\mathrm{Ran}\,Q$ は中立（中のどの 2 元の内積も 0）で $\mathrm{Ker}\,Q$ と J 直交し（内積が 0 になり）、$\mathrm{Ker}\,Q=\mathcal D\cap(\mathrm{Ran}\,Q)^{[\perp]}$（$\mathrm{Ran}\,Q$ のすべての元と内積が 0 になる元の全体）が成り立つので、不定内積は**コホモロジー** $H(Q)=\mathrm{Ker}\,Q/\mathrm{Ran}\,Q$ の上に降ります。ゴースト数 $n$ と $m$ のコホモロジーは $n+m\ne0$ なら直交するので、$H(Q)$ が正定値ならゴースト数 $0$ に集中します。
- 有限次元では $H(Q)$ の形式は非退化で、負の次元について $\kappa_-(\mathcal K)=\kappa_-(H(Q))+\mathrm{rank}\,Q$ が成り立ちます。したがって $H(Q)$ が正定値であることは「負の方向がすべて $Q$ で対にされている」ことと同値です。$Q$ と対にならないゴーストがあると、ゴースト数 $0$ に限っても不定な状態が残ります。
- ボソンとフェルミオンを合わせた**超 Fock 空間**（多粒子の状態を作る空間）の上では、1 粒子空間の写像 $q$ を微分として持ち上げた $D_q$ が作れ、$[D_q,D_r\}=D_{[q,r\}}$ が成り立ちます。$q$ がべき零で J 対称なら $Q=D_q$ は BRST 電荷です。
- **四重項機構**（Kugo–Ojima）: 1 粒子空間が $\mathfrak p\,[\dotplus]\,\mathfrak w$ と分かれ、$q$ が $\mathfrak p$ を消し、$\mathfrak w$ の上で $qr+rq=1$ となる $r$（縮約ホモトピー。$q$ の働きを打ち消す向きの写像）があれば、$\{Q,D_r\}$ は四重項粒子の[数作用素](/physics/fock-space/boson-fock-space#def-number-operator) $N_{\mathfrak w}$ になり、$\mathrm{Ker}\,Q=\mathcal D(\mathfrak p)\dotplus\mathrm{Ran}\,Q$、$H(Q)\cong\mathcal D(\mathfrak p)$（等長）が従います。$\mathfrak p$ が正の Hilbert 空間なら、物理的状態空間は $\mathcal F_{\mathrm b}(\mathfrak p)$ です。
- 縦光子・スカラー光子に当たる 2 つの補助自由度とゴースト 1 対の模型では、各粒子数のコホモロジーを具体的に計算でき、$0$ になります。自由電磁場では $\mathfrak p$ が横光子で、ゴーストを含まない状態に限ると $\mathrm{Ker}\,Q$ と $\mathrm{Ran}\,Q$ はそれぞれ Gupta–Bleuler の $\mathcal V_{\mathrm{phys}}$ と $\mathcal V_0$ に一致します。
- 相互作用する非可換ゲージ理論では、色の電荷が「表面積分 + BRST 完全な項」に書けることから、$u^{ab}(0)=-\delta^{ab}$ と質量 0 のグルーオンがないことを条件に、物理的状態はすべて色について一重項になります（**Kugo–Ojima の閉じ込め判定条件**）。

<Aside type="tip" title="この記事で使う事前知識">

- **Krein 空間**: 内積の値が負にもなりうる空間で、基本対称 $J$ を使うと Hilbert 空間に結びつくもの。→ [Krein 空間](/physics/indefinite-metric/krein-spaces#def-krein-space)
- **J 対称**: 作用素 $A$ について $[A\Psi,\Phi]=[\Psi,A\Phi]$ が成り立つ、という性質（Hilbert 空間の対称作用素にあたる）。→ [J 対称](/physics/indefinite-metric/krein-operators#def-j-selfadjoint)
- **J 共役**: Krein 空間の内積について、作用素の随伴にあたるもの。→ [J 共役](/physics/indefinite-metric/krein-operators#def-j-adjoint)
- **Fock 空間**: 粒子の数が決まらない状態をまとめて扱う空間。→ [Fock 空間](/physics/qft/why-quantum-field-theory#def-fock-space)
- **フェルミオンの消滅作用素**: フェルミオンの粒子を 1 つ減らす作用素。→ [消滅作用素](/physics/fock-space/fermion-fock-space#def-fermion-creation-annihilation)
- **BRST 変換**: ゲージ場とゴーストを混ぜる変換で、前の章でべき零性を示したもの。→ [BRST 変換](/physics/qft/nonabelian-gauge-quantization#def-brst-transformation)
- **Gupta–Bleuler 形式**: 補助条件で物理的な状態を選ぶ、自由電磁場の量子化。→ [前章](/physics/indefinite-metric/gupta-bleuler-rigorous)

</Aside>

## 1. 動機

[前章](/physics/indefinite-metric/gupta-bleuler-rigorous)では、自由電磁場の Gupta–Bleuler 形式を Krein–Fock 空間の定理として完結させました。鍵は、補助条件 $(\partial\cdot A)^{(+)}\Psi=0$ を課す作用素の族が中立な部分空間 $\mathfrak g$ をなすことでした。この方法は、補助条件を課す作用素が自由場であることに依存しています。非可換ゲージ理論では $\partial\cdot A$ は自由場ではなく、しかも Faddeev–Popov ゴーストという、スピンと統計の関係を破る（スカラーなのにフェルミ統計に従う）場が加わります。

[非可換ゲージ理論の量子化](/physics/qft/nonabelian-gauge-quantization)では、この状況を BRST 電荷 $\hat Q_{\mathrm B}$ で処理しました。べき零性 $\hat Q_{\mathrm B}^2=0$（<Ref to="physics/qft/nonabelian-gauge-quantization#thm-brst-nilpotent" />）から $\mathrm{Im}\,\hat Q_{\mathrm B}\subset\mathrm{Ker}\,\hat Q_{\mathrm B}$ となり、物理的状態空間をコホモロジーとして定義しました（<Ref to="physics/qft/nonabelian-gauge-quantization#def-brst-cohomology" />）。その正定値性は Kugo–Ojima の定理（<Ref to="physics/qft/nonabelian-gauge-quantization#thm-kugo-ojima" />）として、筋道だけを述べました。

本章では、この筋道を数学として詰めます。問題は 3 つあります。

1. べき零で J 対称な作用素のコホモロジーには、どんな内積の構造が自動的に備わり、何が備わらないか。
2. 正定値性を保証する代数的な条件は何か。Kugo–Ojima の「四重項」を、縮約ホモトピーという線形代数の言葉で定式化し、Fock 空間の上で証明します。
3. 前章の Gupta–Bleuler 形式は、BRST 形式の中でどう位置づけられるか。

最後に、相互作用がある場合の Kugo–Ojima の閉じ込め判定条件を、前章の Strocchi の定理と対比させて述べます。記法は前章に従い、Krein 消滅作用素 $a_J(v)$ とその J 共役 $a_J(v)^\dagger$（<Ref to="physics/indefinite-metric/gupta-bleuler-rigorous#def-krein-annihilation" />）を使います。

（この章の続きは購入者向けです。）
