# Nelson 模型と spin-boson 模型：自己共役性・基底状態・紫外くりこみ

> 粒子がスカラー場と線形に結合する Nelson 模型と、2 準位系が結合する spin-boson 模型を定義する。Kato–Rellich による自己共役性、赤外条件と基底状態の存在、Gross 変換と Nelson の紫外くりこみ定理、Ohmic 型の局在転移を扱う。
> https://rikai.mugen-giken.com/physics/fock-space/nelson-spin-boson

## 0. この記事の要点

荷電粒子は動き回りながら、まわりの場を揺らし、その揺れがまた粒子に跳ね返ってきます。この「粒子と場のやりとり」を数式のハミルトニアンとして書いたとき、そもそも意味のある量子力学の問題になっているのか、エネルギーが最低の状態は本当に存在するのか、場の振動数をいくらでも高くしてもよいのかを、厳密に確かめるのがこの記事です。読み終えると、この 3 つの問いにどんな条件のもとで「はい」と答えられるか、答えが崩れるのはどんなときかが分かります。後半では、粒子の代わりに 2 つの状態だけをもつ系（量子ビット）を場に結合させた、さらに単純な模型も扱います。

- 自由場のハミルトニアン $H_{\mathrm{b}}=\mathrm{d}\Gamma(\omega)$ に対して、[Segal 場](/physics/fock-space/segal-field-weyl#def-segal-field) $\Phi_{\mathrm{S}}(f)$ は $\omega^{-1/2}f\in L^2$ なら相対限界 $0$（$H_{\mathrm{b}}$ に比べていくらでも小さい係数で抑えられる、ということ）で $H_{\mathrm{b}}$ 有界です。評価は $\|\Phi_{\mathrm{S}}(f)\psi\|\le\sqrt2\|\omega^{-1/2}f\|\|H_{\mathrm{b}}^{1/2}\psi\|+\|f\|\|\psi\|/\sqrt2$ で、$H_{\mathrm{b}}+\Phi_{\mathrm{S}}(f)\ge-\|\omega^{-1/2}f\|^2/2$ も同じ計算から出ます。
- Nelson 模型 $H=H_{\mathrm{p}}\otimes1+1\otimes H_{\mathrm{b}}+\int^\oplus\Phi_{\mathrm{S}}(v_{\boldsymbol{x}})\,\mathrm{d}\boldsymbol{x}$ は、紫外切断があれば任意の結合定数で $D(H_0)$ 上の自己共役作用素になり、下に有界です（Kato–Rellich）。赤外側の条件 $\chi/\omega\in L^2$ を外すと下に有界でなくなる例があります。
- 基底状態は、ボソンに質量 $m>0$ があり粒子が閉じ込められていれば HVZ 型の議論（本質スペクトルの下端がどこから始まるかを調べる議論）で存在します。質量ゼロでは赤外正則条件 $\int|\chi|^2/\omega^3\,\mathrm{d}\boldsymbol{k}<\infty$ が鍵で、pull-through 公式（ボソンを 1 個取り除いた状態を元の状態で表す式）がその理由を示します。
- 紫外切断 $\Lambda\to\infty$ では自己エネルギー $E_\Lambda\sim-4\pi M\lambda^2\log\Lambda$ が発散します。Gross 変換（粒子の位置に応じて場をずらし、粒子にボソンの雲を着せるユニタリ変換）で衣を着せた $U_\Lambda(H_\Lambda-E_\Lambda)U_\Lambda^*$ はノルムレゾルベント収束し、その帰結として $H_\Lambda-E_\Lambda$ 自身も強レゾルベント収束します（Nelson の定理）。
- spin-boson 模型 $\frac{\varepsilon}{2}\sigma_z+H_{\mathrm{b}}+\lambda\sigma_x\otimes\Phi_{\mathrm{S}}(v)$ も任意の結合で自己共役です。$\varepsilon=0$ では厳密に解けて基底状態が 2 重に縮退し、トンネル振幅は重なり $e^{-\lambda^2\|v/\omega\|^2}$ で抑えられます。Ohmic 型ではこれが赤外で対数発散し、局在転移が起こります。

<Aside type="tip" title="この記事で使う事前知識">

- **Segal 場**: 生成・消滅作用素の和 $(a(f)+a(f)^*)/\sqrt2$ から作る、Fock 空間上の自己共役な「場の演算子」。→ [Segal 場](/physics/fock-space/segal-field-weyl#def-segal-field)
- **コヒーレント状態**: 消滅作用素の固有ベクトルになる、古典的な場にいちばん近い状態。→ [コヒーレント状態](/physics/fock-space/segal-field-weyl#def-coherent-state)
- **Weyl 作用素**: Segal 場の指数 $e^{\mathrm{i}\Phi_{\mathrm{S}}(f)}$ で、場を一定量ずらすユニタリ作用素。→ [Weyl 作用素](/physics/fock-space/segal-field-weyl#def-weyl-operator)
- **van Hove ハミルトニアン**: 動かない源が場に結合したときの、厳密に解けるハミルトニアン。→ [van Hove ハミルトニアン](/physics/fock-space/van-hove-model#def-van-hove-hamiltonian)
- **真空**: ボソンが 1 個もない状態。→ [真空](/physics/fock-space/boson-fock-space#def-boson-fock-space)

</Aside>

## 1. 動機

前章の [van Hove 模型](/physics/fock-space/van-hove-model) では、空間に固定された古典的な源がスカラー場と線形に結合していました。模型は厳密に解けて、源の形によっては基底状態が Fock 空間からはみ出し、非同値な表現に移ることを見ました。しかし源は動きません。現実の荷電粒子や核子は場を放出・吸収しながら運動し、その反跳がエネルギーの勘定に入ります。

Nelson（1964）は、非相対論的な量子力学的粒子を相対論的なスカラー場に線形結合させた模型を考えました。粒子の位置 $\boldsymbol{x}$ に応じて場との結合関数 $v_{\boldsymbol{x}}$ が動くので、ハミルトニアンはもはや厳密には解けません。それでも Fock 空間の道具だけで次の 3 つの問いに答えられます。

1. **自己共役性**: 紫外切断のもとで、ハミルトニアンは定義域まで込めて意味を持つか。
2. **基底状態**: スペクトルの下端は固有値か。質量ゼロのボソンでは、無限個の低エネルギーボソンが基底状態を Fock 空間から追い出さないか（赤外問題）。
3. **紫外くりこみ**: 切断を外す極限で、エネルギーの発散を差し引けば意味のある作用素が残るか。

3 番目に対する Nelson の答えは「定数を引くだけで、同じ Hilbert 空間の中に極限が存在する」というもので、場の量子論の厳密なくりこみの最初の成功例です。摂動論的なくりこみ（[くりこみ理論入門](/physics/qft/renormalization)）と違い、作用素の収束の位相（ノルムか強か）が本質的な役割を果たします。

spin-boson 模型は、2 準位系（量子ビット）がボソン場に結合した、さらに単純な模型です。散逸のある量子トンネル効果の標準模型として物理で重要で、数学的には「赤外発散の強さに応じて基底状態の性質が変わる」現象を最も見やすい形で示します。次章の [Pauli–Fierz 模型](/physics/fock-space/pauli-fierz-model) は、この章の技術をベクトルポテンシャルとの結合に拡張したものです。

（この章の続きは購入者向けです。）
