# 夜空はなぜ暗いのか：オルバースのパラドックスと宇宙の有限な年齢

> 宇宙が無限で永遠なら夜空は太陽の表面と同じ明るさになるはず。この矛盾を立体角と逆二乗則で定量化し、塵による吸収説を退け、有限の光速・有限の年齢・エネルギー不足という答えに至る。
> https://rikai.mugen-giken.com/physics/cosmology/olbers-paradox

## 0. この記事の要点

- 宇宙が「無限に広く・星が一様に散らばり・永遠の昔からあり・静止している」なら、どの方向を見ても視線は必ずどこかの星の表面に突き当たります。すると夜空全体が太陽の表面と同じ明るさになるはずです。これがオルバースのパラドックスです。
- その明るさは太陽定数のおよそ 18 万倍で、地球は約 5800 K まで熱せられます。岩も鉄も蒸発します。夜空が暗いという当たり前の事実は、上の 4 つの前提のどれかが間違っているという**観測データ**なのです。
- 「星間の塵が遠くの光を吸っている」という逃げ道は使えません。永遠の時間があれば塵は温まり、やがて星と同じ明るさで光り出すからです（熱力学第二法則）。
- 実際に効いているのは「光の速さが有限で、宇宙には始まりがある」ことです。視線が星でふさがるには $5 \times 10^{24}$ 光年ぶんの奥行きが必要なのに、宇宙が始まってから光が進めた距離は 138 億光年しかありません。夜空のうち星が覆っている面積の割合は $10^{-15}$ 程度です。
- もっと根本的には、**エネルギーが足りません**。夜空を星の表面と同じ明るさにするには約 $0.84\ \mathrm{J/m^3}$ の放射エネルギーが要りますが、宇宙の全物質をダークマターごと残らず光に変えても、必要量の 30 億分の 1 にしか届きません。
- ただしオルバースの結論は、ある意味では正しかったのです。視線は本当にどれも「熱い壁」——宇宙誕生から 38 万年後の火の玉——に突き当たっています。宇宙膨張がその明るさを約 1.4 兆分の 1 に薄めた残りが、宇宙マイクロ波背景放射です。

## 1. 動機：なぜ「夜は暗い」が問題なのか

夜空は暗いものです。これほど当たり前で、これほど説明の要らなさそうな事実もありません。「太陽が沈めば暗くなる。以上」——これで話は終わりそうに見えます。

ところが 400 年以上にわたって、天文学者たちはこの「当たり前」に悩まされてきました。ケプラーは 1610 年に、ガリレオが望遠鏡で見つけた無数の星について論じたなかで、夜空が暗いことは宇宙が無限ではない証拠だ、と書いています。エドモンド・ハレー（ハレー彗星の人です）は 1721 年に王立協会でこの問題を論じ、スイスのシェゾーは 1744 年に、そしてドイツの医師で天文学者だったハインリヒ・オルバースは 1823 年に、それぞれこの問題を定量的に扱いました。今日この問題が「オルバースのパラドックス」と呼ばれているのは、最後の人の名前が残ったからにすぎません。

彼らが困っていたのは、次の推論です。

宇宙が無限に広く、星がその全体に平均して同じ密度で散らばっているとしましょう。すると、どの方向に視線を伸ばしても、その視線はいつか必ずどこかの星の表面に当たります。森の中で立って周りを見ると、木が疎らでも十分遠くまで見通せば必ず幹が視界をふさぐのと同じです。そして——ここが肝心なところですが——星の表面は、遠くにあっても「単位面積あたりの明るさ」は変わりません。したがって、視線が必ず星に当たるなら、**空のあらゆる点が太陽の表面と同じ明るさで輝く**はずなのです。

これは「ちょっと明るすぎる」どころの話ではありません。後で計算しますが、地表が受け取るエネルギーは晴れた日の太陽光の 18 万倍になり、地球の温度は太陽表面と同じ約 5800 K に達します。そんな宇宙には海も大陸も、当然ながら私たちもいません。「夜」という言葉すら生まれなかったでしょう。

つまり「夜空が暗い」というのは、**望遠鏡を使わずにできる最も強力な宇宙論の観測**なのです。この記事では、パラドックスをきちんと式にして、逃げ道を一つずつ塞ぎ、最後に本物の答えにたどり着きます。

<Figure caption="オルバースのパラドックスの論理構造。前提から結論が出るのに、結論が観測と矛盾する。したがって前提のどれかが偽である。">
<Mermaid code={`flowchart TD
  A["前提1：宇宙は無限に広い"] --> E
  B["前提2：星はどこでも同じ密度で分布する"] --> E
  C["前提3：宇宙は永遠の昔から存在する"] --> E
  D["前提4：宇宙は静止している（膨張しない）"] --> E
  E["どの方向でも視線は必ず星の表面に当たる"] --> F["夜空は太陽の表面と同じ明るさになる"]
  F --> G["観測事実：夜空は暗い"]
  G --> H["前提 1〜4 のどれかが誤り"]`} />
</Figure>

## 2. 準備：明るさ・立体角・逆二乗則

パラドックスを式にするために、「明るさ」を 2 種類に区別します。混同するとパラドックスの急所が見えなくなるので、ここは丁寧にいきます。

<Definition id="def-surface-brightness" title="流束と面輝度">
光源から観測者に届く単位時間・単位面積あたりのエネルギーを**流束**（flux）$F$ と呼び、単位は $\mathrm{W/m^2}$ です。光度（総放出パワー）$L$ の光源が距離 $r$ にあり、光を全方向へ等しく出すなら、半径 $r$ の球面全体にエネルギーが広がるので

$$
F = \frac{L}{4\pi r^2}
$$

となります。これが**逆二乗則**です（<Ref to="physics/cosmology/cosmic-distance-ladder#prop-inverse-square" text="逆二乗の法則" />）。

一方、広がりをもつ天体については、**単位立体角あたりの流束**

$$
B = \frac{F}{\Omega} \qquad [\mathrm{W/m^2/sr}]
$$

を**面輝度**（surface brightness、放射強度とも）と呼びます。$\Omega$ はその天体が空で占める立体角です。
</Definition>

<Aside type="note">
立体角の単位ステラジアン（sr）は、球面上で切り取る面積を半径の 2 乗で割った量です。全天は $4\pi \simeq 12.57\ \mathrm{sr}$、太陽の見かけの直径は約 $0.53^\circ$ なので太陽が占める立体角は約 $6.8 \times 10^{-5}\ \mathrm{sr}$ です。全天のわずか $5 \times 10^{-6}$ しか占めていない天体が、昼間をあれだけ明るくしています。
</Aside>

<Proposition id="prop-brightness-invariance" title="面輝度は距離によらない">
広がりをもつ光源の表面の、ある一部分を考えます。その部分の面積を $A$、観測者から見た距離を $r$ とし、$A$ は $r$ に比べて十分小さく、観測者に正対しているとします。途中に光を吸収する物質が無ければ、この部分の面輝度 $B$ は $r$ によらず一定です。
</Proposition>

<Proof of="prop-brightness-invariance">
面積 $A$ の部分が観測者の方向へ出す単位時間あたりのエネルギーを $P$ とします。これは光源側で決まる量で、観測者がどこにいるかには依存しません。この部分だけを見たときの流束は逆二乗則から

$$
F = \frac{P}{4\pi r^2} \propto \frac{1}{r^2}
$$

です。一方、この部分が観測者から見て占める立体角は、定義により

$$
\Omega = \frac{A}{r^2} \propto \frac{1}{r^2}
$$

です。したがって面輝度は

$$
B = \frac{F}{\Omega} = \frac{P}{4\pi r^2} \cdot \frac{r^2}{A} = \frac{P}{4\pi A}
$$

となり、$r$ が消えます。分子・分母がどちらも $1/r^2$ で減るので、比は距離によらないのです。
</Proof>

この命題は直感に反するように見えますが、身の回りで確かめられます。月面を望遠鏡で撮った写真と、月面に降り立って撮った写真を比べると、写っている地面の「1 画素あたりの明るさ」は同じです。遠い月が暗く見えないのは、遠いぶん小さく見えて、光が集まる面積も小さくなるからです。同じ理由で、**遠くの星の表面も太陽の表面と同じ面輝度をもちます**。星が暗く見えるのは小さく見えるからであって、表面が暗いからではありません。

ここがオルバースのパラドックスのエンジンです。もし空が星の表面で埋め尽くされてしまえば、「小さく見える」という逃げ場がなくなり、空全体が太陽表面の明るさになります。

<Definition id="def-olbers-universe" title="オルバース宇宙">
以下の 4 条件を満たす理想化された宇宙を、この記事では**オルバース宇宙**と呼びます。

1. 空間は無限に広く、ユークリッド的です。
2. 星は数密度 $n$（単位体積あたりの個数）で一様・等方に分布します。星はすべて半径 $R_*$、光度 $L$、表面温度 $T_*$ の同じ星とします。
3. この状態が無限の過去から続いています。
4. 空間は静止しています（膨張も収縮もしません）。星と観測者の相対運動も無視します。

さらに、星と星の間は完全に透明（吸収も散乱もない）とします。
</Definition>

## 3. パラドックスを式にする

### 3.1. 素朴な形：足しても足しても減らない

まず、星が互いを隠すことを無視して、単純に光を足し上げてみます。

<Proposition id="prop-shell" title="球殻の寄与は距離によらない">
<Ref to="def-olbers-universe" text="オルバース宇宙" /> において、観測者を中心とする半径 $r$、厚さ $\Delta r$ の球殻に含まれる星から届く流束の合計は

$$
\Delta F = n L \,\Delta r
$$

であり、$r$ に依存しません。したがって半径 $R$ 以内の全星からの流束は $F(R) = nLR$ となり、$R \to \infty$ で無限大に発散します。
</Proposition>

<Proof of="prop-shell">
球殻の体積は $4\pi r^2 \Delta r$ です（球面の面積 $4\pi r^2$ に厚さを掛ける）。<Ref to="def-olbers-universe" /> の条件 2 より星の数密度は一様に $n$ なので、この球殻に含まれる星の個数は

$$
\Delta N = 4\pi r^2 n\, \Delta r
$$

です。星 1 個から届く流束は <Ref to="def-surface-brightness" /> の逆二乗則より $L/(4\pi r^2)$ です。よって球殻からの流束の合計は

$$
\Delta F = \Delta N \times \frac{L}{4\pi r^2} = 4\pi r^2 n \Delta r \times \frac{L}{4\pi r^2} = n L\, \Delta r .
$$

$r^2$ がきれいに約分され、$r$ が消えました。あとは $r = 0$ から $R$ まで足し上げるだけです。

$$
F(R) = \int_0^R n L \,dr = nLR \xrightarrow[R \to \infty]{} \infty .
$$
</Proof>

<Figure caption="視線が作る円錐の中を、等しい厚さの殻に区切る。遠い殻ほど星の数は距離の 2 乗に比例して増え、1 個あたりの明るさは距離の 2 乗に反比例して減る。両者はちょうど打ち消し合い、どの殻からも同じだけの光が届く。">
<svg viewBox="0 0 680 365" width="100%" role="img" aria-label="観測者から伸びる視線の円錐と、その中を等間隔に区切る 3 つの殻。手前の殻には大きな星が 1 個、次の殻には中くらいの星が 4 個、いちばん奥の殻には小さな星が 9 個描かれている。">
  <text x="340" y="24" text-anchor="middle" font-size="14" fill="currentColor">どの殻からも同じ量の光が届く</text>
  <g stroke="currentColor" fill="none" stroke-width="1.5" opacity="0.55">
    <line x1="40" y1="170" x2="600" y2="55" />
    <line x1="40" y1="170" x2="600" y2="285" />
  </g>
  <g stroke="currentColor" fill="none" stroke-width="1.2" stroke-dasharray="5 4" opacity="0.45">
    <path d="M 227 131.7 Q 250 170 227 208.3" />
    <path d="M 413 93.3 Q 448 170 413 246.7" />
    <path d="M 600 55 Q 645 170 600 285" />
  </g>
  <circle cx="40" cy="170" r="5" fill="currentColor" />
  <text x="6" y="196" font-size="12" fill="currentColor">観測者</text>
  <g fill="var(--sl-color-accent)">
    <circle cx="140" cy="170" r="10" />
    <circle cx="265" cy="145" r="5" />
    <circle cx="265" cy="198" r="5" />
    <circle cx="340" cy="135" r="5" />
    <circle cx="340" cy="210" r="5" />
    <circle cx="445" cy="115" r="3.3" />
    <circle cx="445" cy="170" r="3.3" />
    <circle cx="445" cy="225" r="3.3" />
    <circle cx="505" cy="105" r="3.3" />
    <circle cx="505" cy="165" r="3.3" />
    <circle cx="505" cy="230" r="3.3" />
    <circle cx="565" cy="95" r="3.3" />
    <circle cx="565" cy="170" r="3.3" />
    <circle cx="565" cy="240" r="3.3" />
  </g>
  <g font-size="13" text-anchor="middle" fill="currentColor">
    <text x="133" y="315">殻 1（距離 r）</text>
    <text x="320" y="315">殻 2（距離 2r）</text>
    <text x="507" y="315">殻 3（距離 3r）</text>
  </g>
  <g font-size="12" text-anchor="middle" fill="currentColor" opacity="0.85">
    <text x="133" y="335">星 1 個</text>
    <text x="320" y="335">星 4 個</text>
    <text x="507" y="335">星 9 個</text>
    <text x="133" y="355">明るさ ×1</text>
    <text x="320" y="355">明るさ ×1/4</text>
    <text x="507" y="355">明るさ ×1/9</text>
  </g>
</svg>
</Figure>

<Ref to="prop-shell" /> の結論は「夜空は無限に明るい」ですが、これは行き過ぎです。実際には手前の星が奥の星を隠すので、無限大にはなりません。星が互いを隠す効果を入れると、答えは「無限大」ではなく「星の表面と同じ明るさ」という有限の値に落ち着きます。それでも十分に破滅的です。

### 3.2. 厳密な形：視線は必ず星に当たる

<Definition id="def-mfp" title="星の平均自由行程（見通し距離）">
<Ref to="def-olbers-universe" text="オルバース宇宙" /> において、星 1 個が視線をふさぐ断面積（幾何学的断面積）は $\sigma = \pi R_*^2$ です。このとき

$$
\lambda = \frac{1}{n\sigma} = \frac{1}{n \pi R_*^2}
$$

を星の**平均自由行程**、あるいは宇宙の**見通し距離**と呼びます。これは「視線が平均してどれだけ進めば星の表面に当たるか」を表す長さです。
</Definition>

<Example id="ex-forest" title="森の中でどこまで見通せるか">
平均自由行程の意味を、森で確かめてみます。地面を上から見た 2 次元の問題として、直径 $d = 0.3\ \mathrm{m}$ の木が 1 平方メートルあたり $n_2 = 0.1$ 本生えているとします。視線をふさぐ「断面」は木 1 本あたり幅 $d$ なので、2 次元版の見通し距離は

$$
\lambda_2 = \frac{1}{n_2 d} = \frac{1}{0.1 \times 0.3} = 33\ \mathrm{m}
$$

です。実際、そのくらいの密度の林の中では 30 メートルほど先で視界が幹に埋まります。木がもっと疎らでも、森が十分広ければいつかは必ず視界がふさがる——ここが重要な点です。オルバース宇宙は「無限に広い森」なのです。
</Example>

<Theorem id="thm-olbers" title="オルバースのパラドックス">
<Ref to="def-olbers-universe" text="オルバース宇宙" /> において、星の中心の分布が数密度 $n$ の一様ポアソン分布に従うとします。星の表面の面輝度を $B_*$ とすると、観測者から距離 $R$ 以内の星だけを考えたときの、空の平均面輝度は

$$
B_{\text{sky}}(R) = B_*\left(1 - e^{-R/\lambda}\right), \qquad \lambda = \frac{1}{n\pi R_*^2}
$$

で与えられます。したがって $R \to \infty$ の極限で

$$
B_{\text{sky}} = B_*
$$

となり、**夜空は星の表面とちょうど同じ明るさになります**。
</Theorem>

<Proof of="thm-olbers">
観測者から任意の方向に 1 本の視線（直線）を引きます。半径 $R_*$ の星がこの視線をさえぎるのは、その中心が視線から距離 $R_*$ 以内にあるとき、つまり視線を軸とする半径 $R_*$ の円柱の内部に中心があるときです。

観測者から距離 $r$ までのこの円柱の体積は $\pi R_*^2 \, r = \sigma r$ です。星の中心が数密度 $n$ の一様ポアソン分布に従うので、この体積に含まれる星の中心の個数の期待値は $n \sigma r = r/\lambda$ です（<Ref to="def-mfp" /> の定義を使いました）。ポアソン分布では、期待値 $\mu$ のとき個数が $0$ である確率は $e^{-\mu}$ ですから、距離 $r$ まで**視線が 1 個の星にも当たらない確率**は

$$
P(r) = e^{-r/\lambda}
$$

です。したがって、視線が距離 $R$ までの間にどこかの星に当たる確率は $1 - e^{-R/\lambda}$ になります。

次に明るさです。視線が星に当たれば、その方向から届く光は星の表面から出たもので、<Ref to="prop-brightness-invariance" /> よりその面輝度は距離によらず $B_*$ です（<Ref to="def-olbers-universe" /> の「星の間は透明」という条件を使いました。途中で吸収があればこの結論は変わります）。視線が星に当たらなければ、その方向は暗いままです。

空全体を多数の方向に分けて平均すると、割合 $1 - e^{-R/\lambda}$ の方向が明るさ $B_*$ で、残りが $0$ です。よって平均面輝度は

$$
B_{\text{sky}}(R) = B_* \left(1 - e^{-R/\lambda}\right) + 0 \times e^{-R/\lambda} = B_*\left(1 - e^{-R/\lambda}\right).
$$

$R \to \infty$ とすれば $e^{-R/\lambda} \to 0$ なので $B_{\text{sky}} \to B_*$ です。
</Proof>

<Remark id="rem-saturation">
<Ref to="prop-shell" /> の「無限大」と <Ref to="thm-olbers" /> の「$B_*$ で頭打ち」は矛盾しません。<Ref to="prop-shell" /> は星が互いを隠さないと仮定したので発散し、<Ref to="thm-olbers" /> は隠す効果を入れたので飽和します。実際、$R \ll \lambda$ のときは $1 - e^{-R/\lambda} \approx R/\lambda$ なので $B_{\text{sky}} \approx B_* R/\lambda$ となり、$R$ に比例して増える <Ref to="prop-shell" /> の振る舞いと一致します。飽和が効き始めるのは $R$ が $\lambda$ に近づいてからです。この「$R \ll \lambda$ の領域」こそ、私たちが実際に住んでいる場所です（第 5 節で確かめます）。
</Remark>

### 3.3. どれくらいひどいことになるのか

数字を入れましょう。太陽を代表的な星とします。太陽の光度は $L_\odot = 3.83 \times 10^{26}\ \mathrm{W}$、半径は $R_\odot = 6.96 \times 10^8\ \mathrm{m}$ です。表面から出る流束は

$$
F_\odot^{\text{surf}} = \frac{L_\odot}{4\pi R_\odot^2} = \frac{3.83\times10^{26}}{4\pi \times (6.96\times10^8)^2} = 6.3 \times 10^7\ \mathrm{W/m^2}
$$

です。太陽表面をほぼ黒体とみなすと、この流束はシュテファン・ボルツマンの法則 $F = \sigma_{\mathrm{SB}} T^4$（$\sigma_{\mathrm{SB}} = 5.67\times10^{-8}\ \mathrm{W/m^2/K^4}$）から表面温度 $T_\odot = 5772\ \mathrm{K}$ に対応します。面輝度は Appendix の関係式 $B = F^{\text{surf}}/\pi$ から

$$
B_\odot = \frac{6.3\times10^7}{\pi} = 2.0\times10^7\ \mathrm{W/m^2/sr}
$$

です。もし全天（$4\pi\ \mathrm{sr}$）がこの明るさなら、地表が受け取る流束は

$$
F_{\text{sky}} = 4\pi B_\odot = 4\pi \times 2.0\times10^7 = 2.5\times10^{8}\ \mathrm{W/m^2}
$$

になります。現在の太陽定数（地球が太陽から受け取る流束）は $1361\ \mathrm{W/m^2}$ ですから、その

$$
\frac{2.5\times10^8}{1361} \approx 1.8\times10^5
$$

倍、およそ 18 万倍です。しかも四方八方から来るので、地球は逃げ場なく加熱され、最終的に放射と熱平衡になる温度、すなわち $5772\ \mathrm{K}$ に達します。鉄の沸点は約 3130 K、金属のなかで最も融点の高いタングステンでも融点は 3695 K です。5772 K の環境では、鉄は完全に蒸発し、タングステンですら液体でいられません。地球はほぼ丸ごと気体になります。

したがって <Ref to="thm-olbers" /> は、単に「明るくて眠れない」という話ではなく、**私たちが存在していること自体が、オルバース宇宙の 4 つの前提のどれかを否定している**、ということを意味します。

## 4. 逃げ道はふさがれている

歴史上、いくつもの「逃げ道」が提案され、そのつど潰されてきました。主なものを見ておきます。

### 4.1. 塵が吸っている（シェゾーとオルバースの答え）

シェゾーもオルバースも、星の間に薄い物質があって遠くの星の光を吸収している、と考えました。もっともらしく聞こえますし、実際に星間塵は存在します。しかしこの説明は、**永遠に続く宇宙**という前提と両立しません。

<Proposition id="prop-dust" title="吸収体は逃げ道にならない">
<Ref to="def-olbers-universe" text="オルバース宇宙" /> の条件 1〜4 のもとで、星の間に光を吸収する物質（塵）が一様に分布しているとします。この物質は星と物質のやりとり以外に熱を捨てる先をもたないとすると、無限の時間ののちに系は温度 $T_*$ の熱平衡に達し、空の面輝度はやはり $B_*$ になります。すなわち、吸収体を置いても夜空を暗くすることはできません。
</Proposition>

<Proof of="prop-dust">
塵の粒 1 個に注目します。粒は星の光を吸収してエネルギーを受け取り、自分の温度 $T_d$ に応じて熱放射を出してエネルギーを失います。<Ref to="def-olbers-universe" /> の条件 3（宇宙は永遠の昔から存在する）より、この粒はすでに無限の時間にわたって加熱され続けています。有限の熱容量をもつ粒が無限の時間で到達する状態は、吸収と放出が釣り合う定常状態です。

キルヒホッフの法則により、任意の波長で「吸収率＝放射率」が成り立ちます。したがって粒が周囲の放射と釣り合うのは、粒の温度が周囲の放射の温度に等しくなったときです。周囲には温度 $T_*$ の星の表面から出た放射しかないので、定常状態では $T_d = T_*$ です。

$T_d = T_*$ の粒は、温度 $T_*$ の黒体（正確には、吸収率と同じ効率で放射する物体）として光ります。星と同じ温度で光る以上、その粒は視線をふさぎはしても、暗くはしません。粒が覆った立体角は、星に代わって面輝度 $B_*$ で輝きます。

これを熱力学第二法則の言い方に直すと次のようになります。もし塵が永久に星より低温であり続けるなら、星から塵へ熱が一方向に流れ続け、しかも塵の温度は上がらないことになります。これは孤立系のエントロピーに関する第二法則に反します。永遠の時間が与えられれば、閉じた系は必ず一様な温度に落ち着き、その中では黒体放射がすべてを満たします。
</Proof>

<Aside type="caution">
現実の宇宙で星間塵が冷たいまま（数十 K 程度）でいられるのは、宇宙が「永遠に続く静的な箱」ではなく、まだ若く、しかも膨張しているからです。つまり <Ref to="prop-dust" /> は「塵説は間違い」と言っているのではなく、「塵説が成り立たないこと自体が、宇宙が永遠でも静的でもないことの証拠だ」と言っているのです。この指摘は 19 世紀半ばにジョン・ハーシェルによってなされました。
</Aside>

### 4.2. 星の数が有限なら？

「宇宙は無限でも、星は有限個しかないのでは」という逃げ道は、<Ref to="def-olbers-universe" /> の条件 2 を捨てることに相当します。これは論理的には有効ですが、観測と合いません。銀河の分布は、およそ 3 億光年より大きなスケールで見れば一様・等方であることが、大規模な銀河サーベイによって確かめられています。宇宙全体で銀河が有限個しかない「島宇宙」だとすると、私たちがその中心近くにいることになり、特別扱いを避けたい現代宇宙論の立場（宇宙原理）とも衝突します。

### 4.3. 星が階層的（フラクタル的）に分布していたら？

19 世紀末から 20 世紀初めにかけて、シャルリエらは「星は階層構造をなしていて、大きなスケールほど密度が薄くなる」という宇宙像を提案しました。これは実はパラドックスを回避できます。<Ref to="exr-fractal" /> で計算しますが、半径 $r$ 以内の星の個数が $N(r) \propto r^D$ と振る舞うとき、光の合計が有限にとどまる条件は $D$ が $2$ より小さいことです。

しかし観測される銀河分布は、数千万光年以下のスケールでは確かに $D \approx 2$ 前後のフラクタル的な振る舞いを示すものの、それ以上のスケールでは一様（$D = 3$）に移行します。したがって現実の宇宙ではこの逃げ道も使えません。

## 5. 本当の答え（1）：光は有限の速さで進み、宇宙には始まりがある

残った前提は 3 と 4、すなわち「永遠」と「静止」です。実際に効いているのは主として前提 3 のほうです。

宇宙に始まりがあれば、そして光の速さ $c$ が有限なら、私たちが見ることのできる範囲には限りがあります。宇宙年齢を $t_0$ とすると、光が届く距離はおおよそ $c t_0$ です。それより遠くの星は、たとえ存在していても**光がまだ到着していない**ので、夜空に貢献しません。

<Proposition id="prop-finite-age" title="有限の年齢をもつ静的宇宙の夜空">
<Ref to="def-olbers-universe" text="オルバース宇宙" /> の条件 3 だけを外し、星が過去 $t_0$ の間だけ光っていたとします（他の条件はそのまま）。$c t_0 \ll \lambda$ のとき、空の平均面輝度は

$$
B_{\text{sky}} \approx B_* \cdot \frac{c t_0}{\lambda}
$$

で与えられます。すなわち、夜空のうち星が覆う割合は $f = c t_0/\lambda$ です。
</Proposition>

<Proof of="prop-finite-age">
星が光り始めてから $t_0$ しか経っていないなら、距離 $R = c t_0$ より遠い星の光はまだ届いていません。したがって夜空に寄与するのは距離 $R = ct_0$ 以内の星だけで、<Ref to="thm-olbers" /> の途中式がそのまま使えて

$$
B_{\text{sky}} = B_*\left(1 - e^{-ct_0/\lambda}\right)
$$

です。$x \ll 1$ のとき $e^{-x} = 1 - x + x^2/2 - \cdots$ なので $1 - e^{-x} \approx x$ であり、$x = ct_0/\lambda \ll 1$ の仮定のもとで

$$
B_{\text{sky}} \approx B_* \cdot \frac{ct_0}{\lambda}
$$

を得ます。
</Proof>

あとは $\lambda$ と $ct_0$ の値を入れるだけです。

<Example id="ex-mfp-numbers" title="宇宙の見通し距離を計算する">
星の平均自由行程 $\lambda = 1/(n\pi R_*^2)$ を、実際の宇宙の値で見積もります。

**ステップ 1：星の数密度 $n$。** 宇宙の平均密度の基準になるのが<Ref to="physics/cosmology/dark-matter-and-dark-energy#def-critical-density" text="臨界密度" />です。ハッブル定数を $H_0 = 67.4\ \mathrm{km/s/Mpc}$（プランク衛星の値）とすると、$1\ \mathrm{Mpc} = 3.086\times10^{22}\ \mathrm{m}$ より $H_0 = 2.18\times10^{-18}\ \mathrm{s^{-1}}$ で、

$$
\rho_c = \frac{3H_0^2}{8\pi G} = \frac{3\times(2.18\times10^{-18})^2}{8\pi\times 6.674\times10^{-11}} = 8.5\times10^{-27}\ \mathrm{kg/m^3}
$$

です。このうち通常の物質（バリオン）は約 4.9 % なので $\rho_b = 4.2\times10^{-28}\ \mathrm{kg/m^3}$、さらにそのうち星になっているのは 1 割弱（ここでは 7 % とします）なので

$$
\rho_* \approx 3\times10^{-29}\ \mathrm{kg/m^3}
$$

です。太陽質量 $M_\odot = 1.99\times10^{30}\ \mathrm{kg}$ で割ると

$$
n = \frac{3\times10^{-29}}{1.99\times10^{30}} = 1.5\times10^{-59}\ \mathrm{m^{-3}} .
$$

1 立方メートルあたり $10^{-59}$ 個。宇宙がどれほど空っぽかが分かります。

**ステップ 2：断面積。**

$$
\sigma = \pi R_\odot^2 = \pi\times(6.96\times10^8)^2 = 1.52\times10^{18}\ \mathrm{m^2}.
$$

**ステップ 3：平均自由行程。**

$$
\lambda = \frac{1}{n\sigma} = \frac{1}{1.5\times10^{-59}\times1.52\times10^{18}} = 4.4\times10^{40}\ \mathrm{m}.
$$

1 光年 $= 9.46\times10^{15}\ \mathrm{m}$ で割ると

$$
\lambda = 4.6\times10^{24}\ \text{光年} \approx 5\times10^{24}\ \text{光年}.
$$

星の数密度の見積もりには数倍の不確かさがありますが、桁は $10^{24}$〜$10^{25}$ 光年で動きません。
</Example>

さて、宇宙の年齢は $t_0 = 138$ 億年 $= 1.38\times10^{10}$ 年なので、$ct_0 = 1.38\times10^{10}$ 光年です。<Ref to="prop-finite-age" /> の割合は

$$
f = \frac{ct_0}{\lambda} = \frac{1.38\times10^{10}}{4.6\times10^{24}} = 3.0\times10^{-15}
$$

となります。夜空のうち星が覆っているのは **1000 兆分の 3** ほど。オルバース宇宙が要求する「視線が必ず星に当たる」状態になるには、宇宙はあと $10^{15}$ 倍——およそ $5\times10^{24}$ 年——待たなければなりません。星の寿命がどんなに長くても $10^{13}$ 年程度であることを思えば、この待ち時間はまったく現実的ではありません。

<Example id="ex-sky-brightness-check" title="見積もりを観測と突き合わせる">
<Ref to="prop-finite-age" /> の式に数値を入れると、予想される夜空の面輝度は

$$
B_{\text{sky}} \approx 3.0\times10^{-15}\times 2.0\times10^7 = 6.0\times10^{-8}\ \mathrm{W/m^2/sr} = 60\ \mathrm{nW/m^2/sr}
$$

です。

一方、実際に観測されている**銀河系外背景光**（宇宙が誕生してから今日までに星が出した光の総和で、可視光から遠赤外線までを合わせたもの）は、およそ $50$〜$100\ \mathrm{nW/m^2/sr}$ と測定されています。

雑な仮定を重ねた見積もりが、観測値と同じ桁に収まりました。これは偶然ではありません。<Ref to="prop-finite-age" /> の物理——「宇宙の年齢が有限だから夜空が暗い」——が正しいことの、直接的な確認になっています。

なお、この見積もりは赤方偏移による減光も、星が生まれては死ぬ歴史も、太陽より明るい星の寄与も無視しています。それらを入れると答えは数倍動きますが、$10^{15}$ という巨大な比を前にすれば誤差のうちです。
</Example>

星までの距離をどうやって測るのかについては [なぜ星までの距離がわかるのか？](/physics/cosmology/cosmic-distance-ladder)（出発点は <Ref to="physics/cosmology/cosmic-distance-ladder#def-standard-candle" text="標準光源" /> の考え方です）を、宇宙の年齢 138 億年がどこから来たのかについては [宇宙の果てと年齢](/physics/cosmology/age-and-size-of-the-universe)（<Ref to="physics/cosmology/age-and-size-of-the-universe#thm-lcdm-age" />）を参照してください。

## 6. 本当の答え（2）：そもそもエネルギーが足りない

前節の議論は「まだ光が届いていない」という**幾何学**の話でした。しかしもっと乱暴で、もっと決定的な議論があります。エネルギー保存則です。この見方を強く押し出したのは宇宙論学者エドワード・ハリソンです。

<Theorem id="thm-energy" title="夜空を明るくするエネルギーは宇宙に存在しない">
夜空全体が温度 $T_*$ の黒体表面と同じ面輝度で輝いているとき、その放射のエネルギー密度は

$$
u_{\text{req}} = \frac{4\pi B_*}{c} = \frac{4\sigma_{\mathrm{SB}} T_*^4}{c} = a T_*^4, \qquad a = 7.566\times10^{-16}\ \mathrm{J/m^3/K^4}
$$

です。$T_* = 5772\ \mathrm{K}$（太陽表面）のとき $u_{\text{req}} = 0.84\ \mathrm{J/m^3}$ となります。一方、宇宙にある全物質（ダークマターを含む）の静止エネルギー密度は $u_{\text{mat}} = \Omega_m \rho_c c^2 = 2.4\times10^{-10}\ \mathrm{J/m^3}$ にすぎません。したがって

$$
\frac{u_{\text{req}}}{u_{\text{mat}}} = 3.5\times10^{9}
$$

であり、**宇宙の全物質を余さず光に変えても、必要量の 30 億分の 1 にしか届きません**。
</Theorem>

<Proof of="thm-energy">
まず $u_{\text{req}}$ を求めます。等方な放射のエネルギー密度と面輝度の関係 $u = 4\pi B/c$、および黒体表面の面輝度 $B = \sigma_{\mathrm{SB}}T^4/\pi$ は Appendix で導きます。この 2 つを合わせて

$$
u_{\text{req}} = \frac{4\pi}{c}\cdot\frac{\sigma_{\mathrm{SB}}T_*^4}{\pi} = \frac{4\sigma_{\mathrm{SB}}}{c}T_*^4 = aT_*^4 .
$$

数値を入れます。$T_*^4 = (5772)^4 = 1.11\times10^{15}\ \mathrm{K^4}$ なので

$$
u_{\text{req}} = 7.566\times10^{-16}\times1.11\times10^{15} = 0.84\ \mathrm{J/m^3}.
$$

次に $u_{\text{mat}}$ です。<Ref to="ex-mfp-numbers" /> で求めた臨界密度 $\rho_c = 8.5\times10^{-27}\ \mathrm{kg/m^3}$ に、物質（バリオン＋ダークマター）の割合 $\Omega_m = 0.315$ を掛けて $\rho_m = 2.7\times10^{-27}\ \mathrm{kg/m^3}$、これに $c^2 = 8.99\times10^{16}\ \mathrm{m^2/s^2}$ を掛けて

$$
u_{\text{mat}} = 2.7\times10^{-27}\times8.99\times10^{16} = 2.4\times10^{-10}\ \mathrm{J/m^3}.
$$

比を取ると $0.84 / (2.4\times10^{-10}) = 3.5\times10^{9}$ です。
</Proof>

<Example id="ex-energy-numbers" title="核融合ならどれだけ足りないか">
<Ref to="thm-energy" /> は「全物質を 100 % 光に変えたら」という、実現不可能なほど気前のよい仮定での話です。現実に星が使える手段は水素の核融合で、水素 4 個がヘリウム 1 個になるときに解放されるエネルギーは元の静止エネルギーの約 0.7 % にすぎません。しかもダークマターは核融合しません。

使えるのはバリオンだけ、効率は 0.7 % なので、宇宙が生涯かけて生み出せる光のエネルギー密度は最大でも

$$
u_{\text{avail}} = 0.007 \times \rho_b c^2 = 0.007 \times 4.2\times10^{-28}\times8.99\times10^{16} = 2.6\times10^{-13}\ \mathrm{J/m^3}
$$

です。必要量との比は

$$
\frac{u_{\text{req}}}{u_{\text{avail}}} = \frac{0.84}{2.6\times10^{-13}} = 3.2\times10^{12}
$$

すなわち **3 兆分の 1** です。

言い換えれば、たとえ宇宙が無限に古くても、星がいくら長生きしても、燃料が尽きるので夜空は決して明るくなりません。オルバース宇宙は、幾何学以前に**エネルギー収支の点で成り立たない**のです。
</Example>

<Remark id="rem-expansion-myth">
「夜空が暗いのは宇宙が膨張していて光が赤方偏移するから」という説明をよく見かけます。これは**主要な理由ではありません**。ウェッソンらの定量的な解析によれば、膨張を止めて年齢だけそのままにした宇宙を考えても、背景光の明るさは 2 倍程度しか変わりません。$10^{15}$ という比の圧倒的な部分を担っているのは、あくまで「宇宙が若い」ことと「星の燃料が有限」ことです。赤方偏移は仕上げの一押しにすぎません。

ただし次節で見るように、赤方偏移が主役になる場面がちゃんとあります。
</Remark>

## 7. オルバースは正しかった：空を本当に埋めている光

ここまでの話には、意地の悪いオチがあります。

<Ref to="thm-olbers" /> の幾何学的な結論——「どの方向を見ても視線は熱い表面に突き当たる」——は、実は**現実の宇宙で成り立っています**。ただし突き当たる先は星ではありません。

宇宙が誕生してから約 38 万年の間、宇宙は電子と陽子がばらばらのプラズマで満たされていて、光は電子に散乱されてまっすぐ進めませんでした。霧の中と同じで、その時代の宇宙は不透明だったのです。温度が約 3000 K まで下がると電子と陽子が結合して水素原子になり、霧が晴れて光が自由に飛べるようになりました（この時刻の見積もりは <Ref to="physics/cosmology/big-bang-evidence#ex-recombination-redshift" /> にあります）。この「霧が晴れた瞬間」の面を**最終散乱面**と呼びます。

どの方向を見ても、十分遠くまで視線を伸ばせば、必ずこの最終散乱面に突き当たります。そしてその面は温度 3000 K の、まさに星の表面のような輝きをもっていました。つまりオルバースの言うとおり、**空は文字どおり隙間なく「星の表面」で埋め尽くされている**のです。

<Example id="ex-cmb" title="宇宙マイクロ波背景放射：1.4 兆分の 1 に薄まった夜空">
では、なぜその 3000 K の輝きで焼かれずに済んでいるのでしょうか。ここで初めて宇宙膨張が主役になります。

宇宙の膨張によって、光の波長は $(1+z)$ 倍に引き伸ばされます。ここで $z$ は<Ref to="physics/cosmology/big-bang-evidence#def-redshift" text="赤方偏移" />です。黒体放射は膨張しても黒体放射のままで、温度は $T \propto (1+z)$ に従って下がります（<Ref to="physics/cosmology/big-bang-evidence#prop-blackbody-preserved" />）。最終散乱面の赤方偏移は $z \simeq 1090$ なので、当時 3000 K だった放射は現在

$$
T_0 = \frac{2973\ \mathrm{K}}{1 + 1090} = 2.73\ \mathrm{K}
$$

まで冷えています。実際に測定された値は $T_0 = 2.7255 \pm 0.0006\ \mathrm{K}$ です。ウィーンの変位則 $\lambda_{\max} = 2.898\times10^{-3}\ \mathrm{m\cdot K} / T$ を使うと、この放射がいちばん強い波長は

$$
\lambda_{\max} = \frac{2.898\times10^{-3}}{2.7255} = 1.06\ \mathrm{mm}
$$

で、マイクロ波の領域です。これが**宇宙マイクロ波背景放射**（CMB）です。

明るさがどれだけ薄まったかを見ます。放射のエネルギー密度は $u = aT^4$ なので、温度が $1/(1+z)$ になれば

$$
\frac{u_{\text{today}}}{u_{\text{then}}} = \frac{1}{(1+z)^4} = \frac{1}{1091^4} = \frac{1}{1.4\times10^{12}}
$$

すなわち **1.4 兆分の 1** です。実際、現在の CMB のエネルギー密度は

$$
u_{\text{CMB}} = a T_0^4 = 7.566\times10^{-16}\times(2.7255)^4 = 4.2\times10^{-14}\ \mathrm{J/m^3}
$$

で、最終散乱面での値 $a\times(2973)^4 = 5.9\times10^{-2}\ \mathrm{J/m^3}$ の $1.4\times10^{12}$ 分の 1 になっています。

ちなみに $5.9\times10^{-2}\ \mathrm{J/m^3}$ は、<Ref to="thm-energy" /> の $u_{\text{req}} = 0.84\ \mathrm{J/m^3}$ の 14 分の 1 です。オルバースが想定した「太陽表面で埋まった空」と、実際の最終散乱面は、明るさで 1 桁ちょっとしか違わなかったのです。私たちを救ったのは、その後の 1.4 兆分の 1 の減光でした。
</Example>

<Aside type="tip">
まとめると、夜空の暗さは 2 段構えで説明されます。

| 波長域 | 空を埋めているか | 暗い理由 |
|---|---|---|
| 可視光（星の光） | 埋めていない（被覆率 $3\times10^{-15}$） | 宇宙が若く、光が届く距離が短い。加えて核融合の燃料が足りない |
| マイクロ波（ビッグバンの光） | 完全に埋めている（被覆率 1） | 宇宙膨張による赤方偏移で $1.4\times10^{12}$ 分の 1 に減光 |

「夜空は暗い」という言い方は、正確には「**可視光で**夜空は暗い」です。マイクロ波の目をもつ生き物にとって、夜空は一点の隙間もなく均一に輝いています。
</Aside>

CMB がビッグバンの証拠としてどう使われるかは [ビッグバンは本当にあったのか？](/physics/cosmology/big-bang-evidence) で扱います。また、「なぜ静かなのか」という似た形の問いを宇宙人について立てたものが [宇宙人はどのくらいいるのか？（フェルミのパラドックス）](/physics/cosmology/fermi-paradox) の <Ref to="physics/cosmology/fermi-paradox#def-fermi-paradox" /> です。「当たり前に見える観測事実から宇宙の構造を絞り込む」という発想は、宇宙論の最も強力な道具の一つです。

## 8. 演習

<Exercise id="exr-shell" difficulty="易">
一様な密度 $n$ で光度 $L$ の星が分布する静的な無限宇宙で、星が互いを隠す効果を無視します。観測者から距離 $r_1$ 以上 $r_2$ 以下の範囲にある星から届く流束の合計を求めてください。また $r_1 = 10$ 光年、$r_2 = 20$ 光年の場合と、$r_1 = 1000$ 光年、$r_2 = 1010$ 光年の場合を比べてください。

<Solution>
<Ref to="prop-shell" /> より、厚さ $dr$ の球殻からの寄与は $nL\,dr$ で $r$ によりません。したがって

$$
F(r_1, r_2) = \int_{r_1}^{r_2} nL\,dr = nL\,(r_2 - r_1)
$$

となり、答えは**殻の厚さだけ**で決まります。

$r_1 = 10$、$r_2 = 20$ 光年の殻は厚さ 10 光年、$r_1 = 1000$、$r_2 = 1010$ 光年の殻も厚さ 10 光年なので、両者から届く光の総量は**等しい**です。後者の殻は前者より 100 倍遠いので星 1 個は $100^2 = 10^4$ 分の 1 に暗く見えますが、殻の体積が $(1000/10)^2 = 10^4$ 倍あるため星の個数も $10^4$ 倍あり、ちょうど相殺します。

「遠くの星は暗いから無視できる」という直感が、なぜこの問題で通用しないのかがここに現れています。
</Solution>
</Exercise>

<Exercise id="exr-mfp" difficulty="標準">
太陽と同じ大きさの星（半径 $R_\odot = 6.96\times10^8\ \mathrm{m}$）が数密度 $n = 1.5\times10^{-59}\ \mathrm{m^{-3}}$ で一様に分布しているとします。

1. 平均自由行程 $\lambda$ を光年単位で求めてください。
2. 光が距離 $ct_0 = 1.38\times10^{10}$ 光年だけ進んだとき、視線が星に当たっている確率（＝夜空の被覆率）を求めてください。
3. 被覆率が $50\ \%$ になるには、宇宙は何年待つ必要がありますか。

<Solution>
**1.** 断面積は $\sigma = \pi R_\odot^2 = \pi\times(6.96\times10^8)^2 = 1.52\times10^{18}\ \mathrm{m^2}$。よって

$$
\lambda = \frac{1}{n\sigma} = \frac{1}{1.5\times10^{-59}\times1.52\times10^{18}} = 4.4\times10^{40}\ \mathrm{m}.
$$

$1$ 光年 $= 9.46\times10^{15}\ \mathrm{m}$ で割って $\lambda = 4.6\times10^{24}$ 光年です。

**2.** <Ref to="thm-olbers" /> の証明中の式より、視線が当たる確率は $1 - e^{-R/\lambda}$。ここで

$$
\frac{R}{\lambda} = \frac{1.38\times10^{10}}{4.6\times10^{24}} = 3.0\times10^{-15}
$$

は $1$ に比べて極めて小さいので $1 - e^{-x} \approx x$ が使えて、被覆率は $3.0\times10^{-15}$、すなわち約 1000 兆分の 3 です。

**3.** $1 - e^{-R/\lambda} = 0.5$ を解くと $e^{-R/\lambda} = 0.5$、つまり $R/\lambda = \ln 2 = 0.693$。よって

$$
R = 0.693 \times 4.6\times10^{24} = 3.2\times10^{24}\ \text{光年}
$$

であり、光がこれだけ進むのに $3.2\times10^{24}$ 年かかります。宇宙年齢の $2.3\times10^{14}$ 倍です。しかも星の寿命はどんなに長くても $10^{13}$ 年程度なので、その頃には光る星は 1 つも残っていません（そして <Ref to="ex-energy-numbers" /> のとおり、そもそも燃料が足りません）。
</Solution>
</Exercise>

<Exercise id="exr-cmb" difficulty="標準">
宇宙マイクロ波背景放射の現在の温度は $T_0 = 2.7255\ \mathrm{K}$ です。膨張する宇宙では黒体放射の温度は $T = T_0(1+z)$ に従います。

1. 最終散乱面（$z = 1090$）での放射の温度と、ウィーンの変位則によるピーク波長を求めてください。定数は $2.898\times10^{-3}\ \mathrm{m\cdot K}$ とします。
2. 放射のエネルギー密度は $u = aT^4$（$a = 7.566\times10^{-16}\ \mathrm{J/m^3/K^4}$）です。最終散乱面での $u$ と現在の $u$ を求め、その比を確かめてください。
3. 現在の CMB のエネルギー密度を、星の光（銀河系外背景光、面輝度 $60\ \mathrm{nW/m^2/sr}$）のエネルギー密度と比べてください。等方な放射のエネルギー密度は $u = 4\pi B/c$ です。

<Solution>
**1.** $T = 2.7255\times(1+1090) = 2.7255\times1091 = 2973\ \mathrm{K}$、およそ 3000 K です。ピーク波長は

$$
\lambda_{\max} = \frac{2.898\times10^{-3}}{2973} = 9.75\times10^{-7}\ \mathrm{m} = 975\ \mathrm{nm}
$$

で、近赤外線です（人間の目で見えるぎりぎり外側、赤よりわずかに長い波長）。当時の宇宙は、この波長で輝く「霧」だったわけです。

**2.** 最終散乱面では $T^4 = (2973)^4 = 7.81\times10^{13}\ \mathrm{K^4}$ なので

$$
u_{\text{then}} = 7.566\times10^{-16}\times7.81\times10^{13} = 5.9\times10^{-2}\ \mathrm{J/m^3}.
$$

現在は $T_0^4 = (2.7255)^4 = 55.2\ \mathrm{K^4}$ なので

$$
u_{\text{now}} = 7.566\times10^{-16}\times55.2 = 4.2\times10^{-14}\ \mathrm{J/m^3}.
$$

比は $5.9\times10^{-2} / (4.2\times10^{-14}) = 1.4\times10^{12}$ です。一方 $(1+z)^4 = 1091^4 = 1.42\times10^{12}$ なので、$u \propto T^4 \propto (1+z)^{-4}$ が確かに成り立っています。

**3.** 星の光のエネルギー密度は

$$
u_{\text{star}} = \frac{4\pi B}{c} = \frac{4\pi\times 6.0\times10^{-8}}{3.00\times10^8} = 2.5\times10^{-15}\ \mathrm{J/m^3}.
$$

したがって

$$
\frac{u_{\text{CMB}}}{u_{\text{star}}} = \frac{4.2\times10^{-14}}{2.5\times10^{-15}} \approx 17 .
$$

宇宙を満たす光のエネルギーは、星が 138 億年かけて出したものより、ビッグバンの残り火のほうが十数倍多いのです。夜空を「明るさ」で語るなら、可視光ではなくマイクロ波こそが主役です。
</Solution>
</Exercise>

<Exercise id="exr-fractal" difficulty="難">
星が階層的に分布していて、観測者から半径 $r$ 以内にある星の個数が $r \ge r_0$ の範囲で $N(r) = A r^D$（$A$ は正の定数、$0 < D \le 3$）と書けるとします。$D = 3$ が一様分布に対応します。星の光度はすべて $L$ とし、星が互いを隠す効果は無視します。

1. 距離 $r_0$ より遠い全星から届く流束の合計を積分で表し、それが有限になる $D$ の条件を求めてください。
2. その条件は現実の宇宙で満たされているでしょうか。

<Solution>
**1.** $N(r) = Ar^D$ より、半径 $r$ と $r+dr$ の間にある星の個数は

$$
dN = N'(r)\,dr = A D r^{D-1}\,dr .
$$

星 1 個あたりの流束は $L/(4\pi r^2)$ なので、$r_0$ より遠い全星からの流束は

$$
F = \int_{r_0}^{\infty} ADr^{D-1}\cdot\frac{L}{4\pi r^2}\,dr = \frac{ADL}{4\pi}\int_{r_0}^{\infty} r^{D-3}\,dr .
$$

$\int_{r_0}^{\infty} r^{s}\,dr$ が収束するのは $s < -1$ のときですから、条件は $D - 3 < -1$、すなわち

$$
D < 2 .
$$

このとき値は

$$
F = \frac{ADL}{4\pi}\cdot\frac{r_0^{D-2}}{2-D}
$$

と具体的に求まります。$D = 3$（一様分布）では発散し、<Ref to="prop-shell" /> と一致します。$D = 2$ はちょうど境界で、$\int r^{-1}dr = \ln r$ が対数的に発散します。

**2.** 銀河の分布は、数千万光年程度までのスケールでは $D \approx 2$ 前後のフラクタル的な振る舞いを示すことが知られていますが、それより大きなスケール（およそ 3 億光年以上）では一様、すなわち $D = 3$ に移行することが大規模な銀河サーベイで確かめられています。したがって現実の宇宙では $D < 2$ という条件は満たされず、階層宇宙はオルバースのパラドックスの答えにはなりません。

（なお $D < 2$ の宇宙では、観測者の位置によって見える景色が大きく変わるため、宇宙原理とも折り合いが悪くなります。）
</Solution>
</Exercise>

## 参考文献

- Harrison, E. R., *Darkness at Night: A Riddle of the Universe*, Harvard University Press, 1987. — オルバースのパラドックスの歴史と物理を一冊かけて扱った標準的な文献。邦訳もあります（地人書館）。
- Harrison, E. R., *Cosmology: The Science of the Universe*, 2nd ed., Cambridge University Press, 2000. — 「Darkness at Night」の章に、この記事の <Ref to="thm-olbers" /> と <Ref to="thm-energy" /> に対応する議論があります。
- Wesson, P. S., Valle, K., Stabell, R., "The extragalactic background light and a definitive resolution of Olbers's paradox", *The Astrophysical Journal* 317 (1987), 601. — 有限の年齢と赤方偏移の寄与を分離して定量比較し、赤方偏移の効果が 2 倍程度にとどまることを示した論文。<Ref to="rem-expansion-myth" /> の根拠です。
- Hauser, M. G., Dwek, E., "The Cosmic Infrared Background: Measurements and Implications", *Annual Review of Astronomy and Astrophysics* 39 (2001), 249. — 宇宙背景光の観測値について。<Ref to="ex-sky-brightness-check" /> の比較に使いました。
- Fixsen, D. J., "The Temperature of the Cosmic Microwave Background", *The Astrophysical Journal* 707 (2009), 916. — CMB 温度 $T_0 = 2.7255 \pm 0.0006\ \mathrm{K}$ の出典。
- Planck Collaboration, "Planck 2018 results. VI. Cosmological parameters", *Astronomy &amp; Astrophysics* 641 (2020), A6. — $H_0$、$\Omega_m$、$\Omega_b$、宇宙年齢、最終散乱面の赤方偏移の値の出典。

## Appendix: 面輝度と放射エネルギー密度

本文の <Ref to="thm-energy" /> で使った 2 つの関係式を導いておきます。どちらも高校物理の範囲を少し超えますが、必要なのは「単位を追いかける」ことだけです。

**（A-1）等方放射のエネルギー密度 $u = 4\pi B / c$**

面積 $A$ の小さな平面を考え、それに垂直な方向を含む立体角 $d\Omega$ の範囲から面輝度 $B$ の放射が入ってくるとします。面輝度の定義（<Ref to="def-surface-brightness" />）より、時間 $dt$ の間にこの面を通過するエネルギーは

$$
dE = B \, A \, d\Omega \, dt
$$

です。このエネルギーは、$dt$ の直前には面の手前にある「底面積 $A$、長さ $c\,dt$ の柱」の中にありました。柱の体積は $A c\,dt$ なので、この方向から来る放射が担うエネルギー密度は

$$
du = \frac{dE}{A c \, dt} = \frac{B\, d\Omega}{c}
$$

です。あらゆる方向について足し合わせます。等方（どの方向でも $B$ が同じ）なら

$$
u = \frac{1}{c}\int B \, d\Omega = \frac{B}{c}\times 4\pi = \frac{4\pi B}{c} .
$$

**（A-2）黒体表面の面輝度 $B = \sigma_{\mathrm{SB}} T^4/\pi$**

温度 $T$ の黒体表面から単位面積・単位時間に出るエネルギーは、シュテファン・ボルツマンの法則より $F = \sigma_{\mathrm{SB}}T^4$ です。黒体表面はランバート面、つまりどの角度から見ても面輝度 $B$ が同じ面です。表面の法線から角度 $\theta$ の方向へ出る放射を考えると、その方向へ「見える」有効面積は $\cos\theta$ 倍になるので、外向き半球にわたって足し合わせた流束は

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F = \int_{\text{半球}} B\cos\theta \, d\Omega = B\int_0^{2\pi}\!\!\int_0^{\pi/2} \cos\theta \sin\theta \, d\theta \, d\varphi = B \cdot 2\pi \cdot \left[\frac{\sin^2\theta}{2}\right]_0^{\pi/2} = \pi B
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となります。したがって

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B = \frac{F}{\pi} = \frac{\sigma_{\mathrm{SB}}T^4}{\pi}.
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この $\pi$（$4\pi$ ではなく $\pi$）は、$\cos\theta$ の重みを掛けて半球で積分した結果です。本文で太陽の面輝度を $6.3\times10^7/\pi = 2.0\times10^7\ \mathrm{W/m^2/sr}$ と計算したのは、この関係を使っています。
