# 宇宙人はどのくらいいるのか：ドレイクの方程式とフェルミのパラドックス

> 銀河系の文明数を見積もるドレイクの方程式を実際に数値計算し、「ではなぜ誰も来ないのか」というフェルミのパラドックスを、植民地化の所要時間と電波の検出限界という二つの数字から整理します。
> https://rikai.mugen-giken.com/physics/cosmology/fermi-paradox

## 0. この記事の要点

- ドレイクの方程式は、銀河系でいま通信可能な文明の数 $N$ を 7 つの因子の積として書いたものです。式そのものはほぼ定義から導かれる正しい式で、難しいのは因子の値のほうです。
- もっともらしい値を入れても $N$ は数個から $10^{-8}$ 個まで動きます。掛け算の不確かさは対数で足し算になるので、答えは必然的に桁で暴れます。
- パラドックスの本体は「電波が聞こえない」ことではありません。光速の 1 % 程度の船でも銀河系全体に広がるのに約 2000 万年しかかからず、これが銀河系の年齢の 0.15 % だという点です。
- 逆に「聞こえない」ことはほとんど何も意味しません。アレシボ級の送信を検出できる距離はおよそ 1000 光年で、その中に文明が 1 つ入るには銀河系に約 1 万の文明が同時に存在する必要があります。
- 答えの候補は「誰もいない」「消えた」「黙っている」「気づいていない」の 4 系統に分かれ、それぞれ将来の観測で切り分けられる予測を持ちます。

## 1. 動機：昼食の席で出た一言

1950 年の夏、ロスアラモス国立研究所。エンリコ・フェルミは同僚のエミール・コノピンスキー、エドワード・テラー、ハーバート・ヨークと昼食に向かう途中で、ニューヨーカー誌に載った一コマ漫画の話をしていました。当時ニューヨーク市では公共のごみ箱が次々に消える事件が起きていて、漫画家はその犯人を「ごみ箱を持ち去る宇宙人」として描いたのです。話題は空飛ぶ円盤と超光速旅行に流れ、やがて別のことに移りました。

そして食事が始まってしばらく、それまで黙っていたフェルミが唐突にこう言ったと伝えられます。

> みんな、どこにいるんだ？（Where is everybody?）

同席者の回想を丹念に集めた記録によれば、フェルミはその場で例のごとく暗算を始め、地球のような惑星は決して珍しくないはずで、そのいくつかでは生命が知性を持ち、そのいくつかは星間旅行を始めるはずで、だとすればとっくの昔に地球へ来ているはずだ、という結論に達したといいます。全員が「ああ、確かに」と思い、そして誰も答えられませんでした。

この記事の目的は、この昼食の雑談を**数字で詰められる問題**に翻訳することです。翻訳が済むと、意外なことが起こります。「宇宙人はいるのか」という問いは、ほとんどの部分が生物学と社会科学の問いに化けてしまい、物理学が答えられる部分だけがくっきり残るのです。そして物理学が答えられる部分は、驚くほどはっきりした結論を出します。

なお、有名な宇宙のパラドックスはこれが初めてではありません。「夜空はなぜ暗いのか」という問いも、素朴な仮定を一つずつ潰していくと宇宙の姿が見えてくる、まったく同じ構造をしています。そちらは [夜空はなぜ暗いのか](/physics/cosmology/olbers-paradox) を読んでください。素朴な仮定から出てくる矛盾は <Ref to="physics/cosmology/olbers-paradox#thm-olbers" text="オルバースのパラドックス" /> の形にまとめてあります。

## 2. 準備：銀河系の大きさと時間を体に入れる

まず、これから何度も使う数字を並べておきます。

| 量 | おおよその値 |
|---|---|
| 銀河系の恒星の数 | $1 \times 10^{11}$ 〜 $4 \times 10^{11}$ 個 |
| 銀河系の円盤の直径 | 約 $10$ 万光年 |
| 円盤の厚さ（薄い円盤） | 約 $1000$ 光年 |
| 太陽から銀河中心まで | 約 $2.6$ 万光年 |
| 銀河系の最古の星の年齢 | 約 $130$ 億年 |
| 太陽系の年齢 | 約 $46$ 億年 |
| 地球に生命が現れてから | 約 $40$ 億年 |
| 多細胞生物が現れてから | 約 $6$ 億年 |
| ホモ・サピエンスが現れてから | 約 $30$ 万年 |
| 人類が強い電波を出し始めてから | 約 $90$ 年 |

数字だけでは大きさが体に入らないので、縮尺模型を作ります。銀河系の直径 $10$ 万光年を $1$ メートルに縮めましょう。すると $1$ 光年は $10\ \mu\mathrm{m}$ です。

- 最も近い恒星プロキシマ・ケンタウリまでの $4.2$ 光年は $42\ \mu\mathrm{m}$。髪の毛の太さ（$80\ \mu\mathrm{m}$ 程度）の半分です。
- 太陽系（海王星の軌道まで）の直径は約 $0.001$ 光年なので $10\ \mathrm{nm}$。ウイルスの $10$ 分の $1$ です。

つまり、$1$ メートルの円盤の上に、ウイルスより小さい太陽系が数千億個、髪の毛の太さ程度の間隔でばらまかれている。これが銀河系です。この模型は後で「どのくらい遠くまで聞こえるか」を考えるときに効いてきます。

<Aside type="note">
表の距離や年齢がどうやって測られたのかは、[なぜ星までの距離がわかるのか](/physics/cosmology/cosmic-distance-ladder) と [宇宙の果てと年齢](/physics/cosmology/age-and-size-of-the-universe) で扱っています。遠くの天体までの距離は <Ref to="physics/cosmology/cosmic-distance-ladder#def-standard-candle" text="標準光源" /> を段ごとに乗り継いで測り、宇宙の年齢のほうは <Ref to="physics/cosmology/age-and-size-of-the-universe#thm-lcdm-age" text="平坦な宇宙の年齢の公式" /> から出てきます。銀河系そのものの重さを回転から量る話は <Ref to="physics/cosmology/dark-matter-and-dark-energy#ex-milky-way-mass" text="天の川銀河の重さ" /> にあります。ここでは測定結果を借りて使います。
</Aside>

## 3. ドレイクの方程式

### 3.1. 電波で探すという発想

1959 年、コーネル大学のジュゼッペ・コッコーニとフィリップ・モリソンが『ネイチャー』誌に短い論文を出しました。もし遠くの文明と交信するなら、どの波長を使うのが合理的か、という論文です。彼らの答えは水素原子が出す $21\ \mathrm{cm}$ 線、周波数 $1420\ \mathrm{MHz}$ でした。理由は明快で、この周波数は宇宙のどこの天文学者も知っており、しかも銀河の背景雑音が最も小さい帯域だからです。相手を知らなくても「相手も知っているはずのこと」を待ち合わせ場所にする、という発想でした。

翌 1960 年、若い電波天文学者フランク・ドレイクが $26\ \mathrm{m}$ 鏡でくじら座タウ星とエリダヌス座イプシロン星を狙いました。オズマ計画です。何も見つかりませんでした。そして 1961 年、ドレイクはグリーンバンクに 11 人を集めた小さな会議を開きます。議題を整理するために彼が黒板に書いたのが、次の式でした。

<Definition id="def-drake-equation" title="ドレイクの方程式">
銀河系の中で、いま現在、我々が検出できる信号を出している技術文明の数を $N$ とする。次の 7 つの量を導入する。

- $R_{*}$：銀河系で新しい恒星が生まれる割合（単位：個／年）
- $f_p$：そのうち惑星系をもつ恒星の割合（無次元、$0 \le f_p \le 1$）
- $n_e$：惑星系 1 つあたり、生命が生存可能な環境をもつ天体の平均個数（無次元、$n_e \ge 0$）
- $f_{\ell}$：そのような天体のうち、実際に生命が発生する割合
- $f_i$：生命が発生した天体のうち、知的生命にまで進化する割合
- $f_c$：知的生命のうち、宇宙に検出可能な信号を出す技術をもつに至る割合
- $L$：そのような文明が信号を出し続ける期間（単位：年）

このとき

$$
N = R_{*} \cdot f_p \cdot n_e \cdot f_{\ell} \cdot f_i \cdot f_c \cdot L
$$

と書ける。これを**ドレイクの方程式**という。
</Definition>

<Aside type="tip">
単位を確かめておきます。$R_{*}$ は「個／年」、$L$ は「年」、その他はすべて無次元です。したがって右辺の単位は（個／年）×（年）＝個となり、左辺の $N$ が個数であることと合っています。単位が合わない式は、意味を考える前に間違っています。
</Aside>

<Figure caption="ドレイクの方程式は、恒星の数を 6 回ふるいにかけて「いま生きている文明の数」を残す漏斗と読めます">
<Mermaid code={`flowchart TD
  A["生まれる恒星: 年に R* 個"] --> B["惑星系をもつ: 割合 f_p"]
  B --> C["生存可能な天体: 1系あたり n_e 個"]
  C --> D["生命が発生: 割合 f_l"]
  D --> E["知性に到達: 割合 f_i"]
  E --> F["通信技術を獲得: 割合 f_c"]
  F --> G["いま同時に生きている: 寿命 L 年"]`} />
</Figure>

### 3.2. なぜ最後に寿命 $L$ を掛けるのか

この式でいちばん腑に落ちにくいのが、最後の $L$ です。割合を掛けていくのは分かるとして、なぜ寿命を掛けると「いま存在する数」になるのでしょうか。これはきちんと証明できます。

<Proposition id="prop-steady-state" title="定常状態の個数は「発生率 × 寿命」">
文明が一定の割合 $R$（単位：個／年）で新しく誕生し、誕生した文明はどれもちょうど $L$ 年だけ信号を出して消えるとする。この状況が十分長い時間 $T \gg L$ にわたって続いているとき、任意の時点で信号を出している文明の数の平均 $N$ は

$$
N = R \cdot L
$$

で与えられる。
</Proposition>

<Proof of="prop-steady-state">
長さ $T$ の観測期間を考えます。この期間に誕生する文明の数は、定義より $RT$ 個です。

各文明は $L$ 年間だけ信号を出すので、1 つの文明が期間中に稼ぐ「文明が生きている年数」は $L$ 年です。したがって期間全体での「文明・年」の総量は

$$
(RT) \times L = RTL \quad [\text{文明} \cdot \text{年}]
$$

となります（端の効果、つまり期間の最初と最後にまたがる文明の分は、$T \gg L$ なので相対的に $L/T$ 程度の誤差にとどまり、無視できます）。

一方、この総量は「各時点で生きている文明の数」を時間について積分したものでもあります。その時間平均を $N$ と書けば、総量は $N \cdot T$ です。両者を等しいと置いて

$$
N T = R T L \quad \Longrightarrow \quad N = R L
$$

を得ます。

<Ref to="def-drake-equation" /> の $R_{*} f_p n_e f_{\ell} f_i f_c$ の部分は、まさに「年あたり何個の通信文明が新しく生まれるか」を表しています。これを $R$ とみなせば、ドレイクの方程式は本命題そのものです。
</Proof>

この命題は、待ち行列の理論で「リトルの法則」と呼ばれる関係と同じものです。ラーメン屋に 1 分あたり 2 人が入り、1 人あたり 15 分いるなら、店内には平均 30 人いる。それだけの話です。ドレイクの方程式の後半 6 個の因子は「入店率」を推定するためのもので、本質は $N = RL$ にあります。

### 3.3. 実際に数字を入れてみる

<Example id="ex-drake-numbers" title="楽観と悲観、二通りの計算">
**楽観セット。** 現在の銀河系の星形成率は年におよそ $1.5$ 〜 $3$ 個分ですから $R_{*} = 2$ 個／年とします。系外惑星の観測から、惑星をもつ恒星はむしろ普通なので $f_p = 1$。ケプラー宇宙望遠鏡の統計では、太陽に似た恒星のうち $10$ 〜 $20$ % 程度が生存可能領域に地球サイズの惑星をもつと見積もられているので $n_e = 0.2$ とします。残りは完全な当てずっぽうですが、生命は条件が揃えばそこそこ生まれるとして $f_{\ell} = 0.1$、知性への道はもっと狭いとして $f_i = 0.1$、そのうち電波を使うのが $f_c = 0.1$、寿命は $L = 10^{4}$ 年。

$$
\begin{aligned}
N &= 2 \times 1 \times 0.2 \times 0.1 \times 0.1 \times 0.1 \times 10^{4} \\
  &= 2 \times 0.2 \times 10^{-3} \times 10^{4} \\
  &= 4 .
\end{aligned}
$$

銀河系に 4 つ。これが「宇宙人はいる」派の典型的な答えです。

**悲観セット。** 同じ $R_{*} = 2$、$f_p = 1$ から出発し、しかし「本当に長期間安定した環境」は稀だとして $n_e = 0.02$、生命の発生は化学的にきわめて起こりにくいとして $f_{\ell} = 10^{-3}$、真核細胞から知性までの道はさらに狭いとして $f_i = 10^{-4}$、$f_c = 0.1$、そして文明は自分の技術で $100$ 年ほどで自滅するとして $L = 100$ 年。

$$
\begin{aligned}
N &= 2 \times 1 \times 0.02 \times 10^{-3} \times 10^{-4} \times 0.1 \times 100 \\
  &= 4 \times 10^{-2} \times 10^{-7} \times 10^{1} \\
  &= 4 \times 10^{-8} .
\end{aligned}
$$

銀河系 $2500$ 万個につき 1 つ。観測可能な宇宙にある銀河が $2$ 兆個ほどですから、宇宙全体では十万個くらいの文明がいることになりますが、我々が会える見込みは完全にゼロです。
</Example>

同じ式に、どちらも「言われてみればそんなものかもしれない」と思える数字を入れて、答えが $4$ と $4 \times 10^{-8}$、つまり **8 桁**違いました。これは計算間違いではなく、この式の本性です。次の節でその理由をはっきりさせます。

<Remark id="rem-organizing-ignorance">
ドレイク自身、この式は答えを出すための道具ではなく「我々の無知を整理するための道具」だと繰り返し述べていました。式の価値は、$N$ という一つの巨大な謎を、天文学（$R_{*}, f_p, n_e$）・生物学（$f_{\ell}, f_i$）・社会科学（$f_c, L$）という別々の学問が攻められる小さな謎に切り分けたことにあります。実際、1961 年に完全に未知だった $f_p$ と $n_e$ は、いまや観測で $1$ 桁の精度まで詰まりました。系外惑星は $5000$ 個以上が確認されています。左から順に、確かに霧は晴れつつあるのです。
</Remark>

## 4. 掛け算の落とし穴：期待値は典型値ではない

### 4.1. 不確かさは対数で足し算になる

7 個の量の掛け算で、それぞれが「まあ 10 倍くらいは間違っているかもしれない」とき、積はどのくらい間違うでしょうか。

数の「桁」を測るには常用対数を使います。$\log_{10}$ を取ると掛け算は足し算になるので、話が単純になります。

<Proposition id="prop-log-spread" title="対数を取ると不確かさは二乗和で伝わる">
$N = x_1 x_2 \cdots x_k$ とし、$x_1, \ldots, x_k$ は互いに独立な正の値をとる確率変数とする。$Y_i = \log_{10} x_i$ の平均を $\mu_i$、標準偏差を $\sigma_i$ とすると、$Y = \log_{10} N$ の平均と標準偏差は

$$
E[Y] = \sum_{i=1}^{k} \mu_i, \qquad
\mathrm{sd}[Y] = \sqrt{\sum_{i=1}^{k} \sigma_i^{2}}
$$

で与えられる。とくにすべての $\sigma_i$ が共通の値 $\sigma$ に等しいときは $\mathrm{sd}[Y] = \sigma\sqrt{k}$ である。
</Proposition>

<Proof of="prop-log-spread">
対数の性質 $\log_{10}(ab) = \log_{10}a + \log_{10}b$ を繰り返し使うと

$$
Y = \log_{10}(x_1 x_2 \cdots x_k) = \sum_{i=1}^{k} \log_{10} x_i = \sum_{i=1}^{k} Y_i
$$

です。平均（期待値）は和に対して線形、つまり $E[A+B] = E[A]+E[B]$ が独立性を仮定せずに成り立つので、$E[Y] = \sum_i E[Y_i] = \sum_i \mu_i$ が従います。

分散については、2 個の場合に

$$
V[Y_1 + Y_2] = V[Y_1] + V[Y_2] + 2\,\mathrm{Cov}(Y_1, Y_2)
$$

が一般に成り立ちます。ここで $Y_1$ と $Y_2$ が独立であれば共分散 $\mathrm{Cov}(Y_1,Y_2)$ は $0$ になるので、$V[Y_1+Y_2] = V[Y_1]+V[Y_2]$ です。これを $k$ 個に繰り返し適用して $V[Y] = \sum_i \sigma_i^{2}$ を得ます。標準偏差は分散の正の平方根なので $\mathrm{sd}[Y] = \sqrt{\sum_i \sigma_i^2}$ です。

すべての $\sigma_i = \sigma$ なら $\sqrt{k\sigma^2} = \sigma\sqrt{k}$ となります。
</Proof>

これを <Ref to="def-drake-equation" /> に当てはめます。$k = 7$ で、各因子が「10 倍のずれ」つまり $\sigma_i = 1$ 桁だとしましょう。すると

$$
\mathrm{sd}[\log_{10} N] = \sqrt{7} \approx 2.65 \ \text{桁}
$$

です。標準偏差の $\pm 1$ 倍の幅、すなわちごく普通に起こる範囲だけで $2 \times 2.65 = 5.3$ 桁、$20$ 万倍の開きが生じます。<Ref to="ex-drake-numbers" /> で 8 桁ぶれたのは、$f_{\ell}$ や $f_i$ の不確かさが 1 桁どころではないからで、むしろ控えめな例だったのです。

### 4.2. 「平均 20 個」と「半分の確率でゼロ」は両立する

もっと厄介なことがあります。不確かな量を掛け合わせたとき、**期待値は典型的な値ではありません**。

<Proposition id="prop-mean-vs-typical" title="相加平均は相乗平均以上である">
正の数 $N_1, N_2, \ldots, N_m$ のそれぞれが確率 $1/m$ で現れる確率変数を $N$ とする。このとき

$$
E[N] \;=\; \frac{1}{m}\sum_{j=1}^{m} N_j \;\ge\; \left(\prod_{j=1}^{m} N_j\right)^{1/m} \;=\; 10^{\,E[\log_{10} N]}
$$

が成り立つ。等号が成立するのは $N_1 = N_2 = \cdots = N_m$ のときに限る。
</Proposition>

<Proof of="prop-mean-vs-typical">
まず右端の等号を確かめます。$E[\log_{10}N] = \frac{1}{m}\sum_j \log_{10} N_j = \frac{1}{m}\log_{10}\left(\prod_j N_j\right)$ ですから、両辺を $10$ の肩に載せて

$$
10^{\,E[\log_{10}N]} = 10^{\frac{1}{m}\log_{10}(\prod_j N_j)} = \left(\prod_{j} N_j\right)^{1/m}
$$

となります。これは相乗平均（幾何平均）です。

残る不等号は相加平均・相乗平均の不等式そのものです。$m = 2$ の場合は直接確かめられます。$a, b > 0$ に対し

$$
\frac{a+b}{2} - \sqrt{ab} = \frac{a - 2\sqrt{ab} + b}{2} = \frac{(\sqrt{a}-\sqrt{b})^{2}}{2} \ \ge\ 0
$$

であり、等号は $\sqrt a = \sqrt b$ すなわち $a = b$ のときに限ります。一般の $m$ についても同じ不等式（相加平均・相乗平均の不等式）が成り立つことが知られており、等号条件もすべての値が等しいときに限られます。
</Proof>

<Example id="ex-two-point" title="生命の発生確率が二択のとき">
<Ref to="ex-drake-numbers" /> の楽観セットで、$f_{\ell}$ だけを次のように扱ってみます。生命の発生は化学の問題で、我々はその難しさをまったく知りません。そこで「起こるときはほぼ確実に起こる（$f_{\ell} = 1$）」か「宇宙にほとんど例がないほど難しい（$f_{\ell} = 10^{-10}$）」かのどちらかで、確率は五分五分だとします。

楽観セットは $f_{\ell} = 0.1$ で $N = 4$ でしたから、$N$ は $f_{\ell}$ に比例して

$$
N = \begin{cases}
4 \times \dfrac{1}{0.1} = 40 & (\text{確率 } 1/2) \\[2mm]
4 \times \dfrac{10^{-10}}{0.1} = 4\times 10^{-9} & (\text{確率 } 1/2)
\end{cases}
$$

となります。期待値は

$$
E[N] = \frac{40 + 4\times10^{-9}}{2} \approx 20
$$

です。ところが相乗平均は <Ref to="prop-mean-vs-typical" /> により

$$
\sqrt{40 \times 4\times10^{-9}} = \sqrt{1.6\times10^{-7}} = 4\times10^{-4}
$$

で、期待値の $5$ 万分の $1$ しかありません。そして中身を見れば、**半分の確率で銀河系には我々しかいない**のです。「銀河系には平均 20 の文明がある」という文と「コイン投げの裏が出れば我々は完全に孤独である」という文が、まったく同じモデルから出てきました。
</Example>

<Remark id="rem-sandberg">
この論法を 7 因子すべてについて丁寧にやったのが、サンドバーグ、ドレクスラー、オードの 2018 年の論文「Dissolving the Fermi Paradox」です。彼らは各因子に点推定値ではなく、現在の科学文献が許す幅の確率分布を割り当てて数百万回のモンテカルロ計算を行い、**銀河系で我々だけである確率が 53 〜 99.6 %、観測可能な宇宙で我々だけである確率が 39 〜 85 %** という結果を得ました。彼らの主張は「宇宙人はいない」ではなく、「不確かさを正しく扱えば、何も聞こえないことに驚く理由はそもそも薄い」というものです。パラドックスの半分は、点推定という悪い習慣が作り出した幻だった、というわけです。
</Remark>

## 5. パラドックスの厳密な形：なぜ「誰も来ない」が問題なのか

ここまでで、$N$ が小さくても不思議はないことが分かりました。では、フェルミの問いは解決したのでしょうか。していません。パラドックスの本当に鋭い部分は、電波とはまったく関係のないところにあります。

### 5.1. 銀河系を渡るのにかかる時間

宇宙船が恒星から恒星へ跳んでいく様子を考えます。各文明は近くの恒星系に船を送り、着いた先で資源を集めて態勢を整え、そこからまた次の恒星系へ船を出す。この波がどれだけの速さで広がるかを計算します。

<Proposition id="prop-colonization-time" title="植民の波が広がる時間">
ある文明が、次の規則で恒星系から恒星系へ拡がるとする。

- 1 回の跳躍距離は $d$（隣の恒星系までの平均距離）。
- 船の速さは $v$（一定）。
- 新しい恒星系に到着してから次の船を出発させるまでに $\tau$ の準備時間がかかる。

このとき、出発点から距離 $D$ の地点まで波が到達するのに要する時間 $T$ は

$$
T = \frac{D}{d}\left(\frac{d}{v} + \tau\right) = \frac{D}{v} + \frac{D}{d}\,\tau
$$

であり、波面の実効的な速さ $v_{\mathrm{eff}} = D/T$ は

$$
v_{\mathrm{eff}} = \frac{d}{\dfrac{d}{v} + \tau} = \frac{v}{1 + \dfrac{v\tau}{d}}
$$

で与えられる。とくに $v_{\mathrm{eff}}$ は $D$ に依存しない。
</Proposition>

<Proof of="prop-colonization-time">
距離 $D$ を跳躍距離 $d$ で割ると、必要な跳躍の回数は $n = D/d$ 回です。

1 回の跳躍にかかる時間は、飛行時間 $d/v$ と、到着後の準備時間 $\tau$ の和で $d/v + \tau$ です。跳躍は次々に直列につながるので、$n$ 回ぶんの合計時間は

$$
T = n\left(\frac{d}{v}+\tau\right) = \frac{D}{d}\left(\frac{d}{v}+\tau\right)
$$

となります。括弧を展開すると $T = D/v + (D/d)\tau$ です。

実効速度は定義により $v_{\mathrm{eff}} = D/T$ ですから、上の $T$ を代入して

$$
v_{\mathrm{eff}} = \frac{D}{\dfrac{D}{d}\left(\dfrac{d}{v}+\tau\right)} = \frac{d}{\dfrac{d}{v}+\tau}
$$

です。分子分母を $d$ で割れば $v_{\mathrm{eff}} = v/(1 + v\tau/d)$ が出ます。この表式に $D$ は現れないので、$v_{\mathrm{eff}}$ は距離によらない定数です。

なお実際の拡がりは直線ではなく球面状ですが、波面はどの方向へも同じ規則で進むので、中心から測った半径方向の到達時間は上の計算とまったく同じになります。
</Proof>

ここからが面白いところです。

<Corollary id="cor-wait-dominated" title="十分速い船を使っても、待ち時間が上限を決める">
<Ref to="prop-colonization-time" /> の設定において、$v\tau \gg d$（すなわち $d/v \ll \tau$）が成り立つならば

$$
v_{\mathrm{eff}} \approx \frac{d}{\tau}, \qquad T \approx \frac{D}{d}\,\tau
$$

である。とくに $v \to \infty$（瞬間移動）の極限でも $T$ は $\dfrac{D}{d}\tau$ より小さくならない。
</Corollary>

<Proof of="cor-wait-dominated">
<Ref to="prop-colonization-time" /> の $v_{\mathrm{eff}} = d/(d/v + \tau)$ において、仮定 $d/v \ll \tau$ より分母は $\tau$ で近似できます。よって $v_{\mathrm{eff}} \approx d/\tau$ で、$T = D/v_{\mathrm{eff}} \approx (D/d)\tau$ です。

厳密には、$T = D/v + (D/d)\tau$ の第 1 項 $D/v$ は $v$ を大きくするといくらでも小さくできますが、第 2 項 $(D/d)\tau$ は $v$ をまったく含みません。したがって $v \to \infty$ の極限で $T \to (D/d)\tau$ となり、これが下限です。
</Proof>

この系の意味は重大です。ワープ航法も反物質エンジンも要りません。**待ち時間 $\tau$ と跳躍距離 $d$ だけで、銀河系を渡る時間の下限が決まってしまう**のです。

<Example id="ex-colonization-numbers" title="控えめな数字でどうなるか">
太陽近傍の恒星の平均間隔から $d = 10$ 光年、船の速さを光速の $1$ % で $v = 0.01c$、新しい星系に着いてから次の船を出すまでの準備に $\tau = 1000$ 年かけるとします。$1000$ 年というのは、人類が中世から現代まで来たのと同じだけの時間を、毎回ゆっくり休むという意味です。銀河系を端から端まで渡る距離を $D = 10^{5}$ 光年とすると、<Ref to="prop-colonization-time" /> より

$$
\begin{aligned}
\frac{D}{v} &= \frac{10^{5}\ \text{光年}}{0.01\ \text{光年/年}} = 10^{7}\ \text{年}, \\
\frac{D}{d}\tau &= \frac{10^{5}}{10}\times 10^{3} = 10^{4}\times10^{3} = 10^{7}\ \text{年},
\end{aligned}
$$

したがって

$$
T = 10^{7} + 10^{7} = 2\times10^{7}\ \text{年} = 2000\ \text{万年}
$$

です。実効速度は $v_{\mathrm{eff}} = 10^{5}/(2\times10^{7}) = 5\times10^{-3}$ 光年／年、つまり光速の $0.5$ % です。

さらに <Ref to="cor-wait-dominated" /> により、船を無限に速くしても $T$ は $10^{7}$ 年、$1000$ 万年より短くなりません。逆に準備時間を $\tau = 10^{4}$ 年（人類の文明史の倍）まで引き延ばしても $T = 10^{7} + 10^{8} \approx 1.1\times10^{8}$ 年です。

銀河系の年齢 $1.3\times10^{10}$ 年と比べると、$2\times10^{7}$ 年は **$0.15$ %**。$1.1\times10^{8}$ 年でも $0.85$ % にすぎません。
</Example>

<Figure caption="銀河系の年齢に対する「銀河を渡る時間」。横軸は共通の線形スケールです">
<svg viewBox="0 0 720 250" width="100%" role="img" aria-label="銀河系の年齢 130 億年、地球の生命史 40 億年、銀河系を渡るのに必要な 2000 万年を同じ線形スケールの棒で比較した図">
  <text x="4" y="18" fill="currentColor" font-size="15">銀河系の年齢：約 130 億年</text>
  <rect x="4" y="28" width="700" height="26" rx="3" fill="currentColor" opacity="0.28" />
  <text x="4" y="90" fill="currentColor" font-size="15">地球に生命が現れてから：約 40 億年</text>
  <rect x="4" y="100" width="215" height="26" rx="3" fill="currentColor" opacity="0.55" />
  <text x="4" y="162" fill="currentColor" font-size="15">文明が銀河系を渡りきる時間：約 2000 万年</text>
  <rect x="4" y="172" width="1.2" height="26" fill="var(--sl-color-accent)" />
  <line x1="6" y1="185" x2="118" y2="219" stroke="var(--sl-color-accent)" stroke-width="1.6" />
  <circle cx="5" cy="185" r="3" fill="var(--sl-color-accent)" />
  <text x="124" y="224" fill="var(--sl-color-accent)" font-size="14">この幅、約 1 ピクセル。いちばん上の棒の 0.15 %</text>
</svg>
</Figure>

### 5.2. パラドックスを正確に述べる

<Definition id="def-fermi-paradox" title="フェルミのパラドックス">
次の 4 つの主張を考える。

1. 銀河系には太陽より数十億年古い恒星が多数あり、その多くが惑星系をもつ。
2. 生命と知性の発生確率がごく小さくても、恒星の数が $10^{11}$ 個あるため、我々より数億年から数十億年早く技術文明が現れた例が一つはあったと期待される。
3. 恒星間航行が原理的に可能であるなら、そのような文明は $10^{7}$ 年から $10^{8}$ 年という、銀河系の年齢のごく一部の時間で銀河系全体に到達できる（<Ref to="prop-colonization-time" />、<Ref to="cor-wait-dominated" />）。
4. しかし太陽系にも地球にも、地球外文明が訪れた形跡も、その機械や構造物も、まったく見つかっていない。

この 1 から 4 が同時には成り立たないこと、すなわちどれかの前提が誤っているはずだという状況を**フェルミのパラドックス**という。
</Definition>

この定式化にすると、パラドックスの本体がどこにあるかがはっきりします。問題は「電波が聞こえない」ことではなく、「**誰も来ていない**」ことです。マイケル・ハート（1975 年）とフランク・ティプラー（1980 年）は、この論法を厳しく突き詰めました。ティプラーはさらに、自分と同じものを作れる機械（フォン・ノイマン探査機）を送り出せば、文明が滅んだ後も探査機だけが増殖を続けて銀河系を埋めるはずだ、と指摘しています。1 個の探査機が 2 個を作り、それがまた 2 個ずつ作る。これを $40$ 回繰り返せば $10^{12}$ 個です。

つまり、**銀河系の 130 億年の歴史のなかで、拡張志向の文明が 1 つ、どこかに 1 度でも現れたなら、その痕跡は太陽系にあるはずだ**。これがパラドックスの刃です。

## 6. 沈黙の意味：私たちはどれだけ聴いたのか

刃の話をする前に、「聞こえない」ほうの証拠がどれほど弱いかを数字で押さえておきます。これは物理学がきれいに答えられる部分です。

<Definition id="def-detection-horizon" title="検出地平線">
送信機の**等方換算放射電力**（EIRP）を $P$ とする。これは、同じ強さの信号を全方向へ均等に出す送信機に置き換えたときの電力を意味し、アンテナで絞ったぶんだけ実際の送信電力より大きくなる。

受信側が検出できる最小の電力束密度を $S_{\min}$（単位：$\mathrm{W/m^2}$）とするとき、この送信機を検出できる最大距離 $r_{\max}$ を**検出地平線**と呼ぶ。
</Definition>

<Proposition id="prop-detection-horizon" title="検出地平線は電力の平方根に比例する">
星間空間での電波の吸収が無視できるとき、<Ref to="def-detection-horizon" /> の検出地平線は

$$
r_{\max} = \sqrt{\frac{P}{4\pi S_{\min}}}
$$

で与えられる。とくに $r_{\max}$ は $\sqrt{P}$ に比例する。
</Proposition>

<Proof of="prop-detection-horizon">
送信機を中心とする半径 $r$ の球面を考えます。エネルギー保存則より、吸収がなければこの球面を単位時間に通過する電磁波のエネルギーは、距離によらず $P$ に等しくなります。等方換算しているので球面上で一様と考えてよく、球面の面積は $4\pi r^{2}$ ですから、単位面積あたりの通過電力（電力束密度）は

$$
S(r) = \frac{P}{4\pi r^{2}}
$$

です。これが <Ref to="physics/cosmology/cosmic-distance-ladder#prop-inverse-square" text="逆二乗の法則" /> です。検出できる条件は $S(r) \ge S_{\min}$、すなわち

$$
\frac{P}{4\pi r^{2}} \ge S_{\min}
\quad\Longleftrightarrow\quad
r^{2} \le \frac{P}{4\pi S_{\min}}
\quad\Longleftrightarrow\quad
r \le \sqrt{\frac{P}{4\pi S_{\min}}} .
$$

最後の同値変形では $r > 0$ を使いました。右辺が $r_{\max}$ です。

なお $1$ 〜 $10\ \mathrm{GHz}$ の帯域では星間物質による吸収も銀河背景放射も小さく、この帯域が「宇宙の窓」と呼ばれる理由になっています。コッコーニとモリソンが $1420\ \mathrm{MHz}$ を選んだのもそのためで、吸収を無視した扱いはこの帯域では妥当です。
</Proof>

<Example id="ex-arecibo" title="アレシボの惑星レーダーはどこまで届くか">
プエルトリコにあったアレシボ天文台の $305\ \mathrm{m}$ 望遠鏡は、小惑星を観測するための強力なレーダー送信機を備えていました。その EIRP はおよそ $P = 10^{13}\ \mathrm{W}$ です。

受信側には同程度の望遠鏡を仮定します。狭帯域（帯域幅 $1\ \mathrm{Hz}$ 程度）に絞って長時間積分すると、検出限界はおおよそ $S_{\min} = 10^{-26}\ \mathrm{W/m^2}$ です。<Ref to="prop-detection-horizon" /> より

$$
r_{\max} = \sqrt{\frac{10^{13}}{4\pi \times 10^{-26}}} = \sqrt{\frac{10^{13}}{1.26\times10^{-25}}} = \sqrt{7.96\times10^{37}} = 8.9\times10^{18}\ \mathrm{m} .
$$

$1$ 光年 $= 9.46\times10^{15}\ \mathrm{m}$ で割ると

$$
r_{\max} \approx 940\ \text{光年} \approx 1000\ \text{光年}
$$

です。銀河系の直径 $10$ 万光年に対して $1$ % にすぎません。$2$ 節の縮尺模型でいえば、$1$ メートルの円盤の上で、我々に聞こえる範囲は半径 $1\ \mathrm{cm}$ の円です。

ちなみにアレシボ望遠鏡は 2020 年 12 月に自重で崩落しました。人類は現在、この計算に使った送信能力すら持っていません。
</Example>

<Example id="ex-earth-bubble" title="地球は宇宙に向かって叫んでいるか">
「地球のテレビ電波は半径 90 光年に広がっている」という言い方をよく聞きます。広がってはいますが、聞こえるかどうかは別の話です。

強力な UHF テレビ送信所の実効放射電力はせいぜい $P = 10^{7}\ \mathrm{W}$ 程度です。同じ $S_{\min} = 10^{-26}\ \mathrm{W/m^2}$ で <Ref to="prop-detection-horizon" /> を使うと

$$
r_{\max} = \sqrt{\frac{10^{7}}{1.26\times10^{-25}}} = \sqrt{7.96\times10^{31}} = 8.9\times10^{15}\ \mathrm{m} \approx 0.94\ \text{光年}
$$

です。**1 光年に届きません。** 最も近い恒星プロキシマ・ケンタウリ（$4.2$ 光年。この距離の測り方は <Ref to="physics/cosmology/cosmic-distance-ladder#ex-proxima" text="太陽に最も近い星までの距離" /> にあります）に我々と同じ望遠鏡を置いても、地球のテレビは聞こえないのです。しかも実際のテレビ信号は帯域が広く、狭帯域探索の感度は使えないので、条件はさらに悪くなります。

つまり「宇宙人がいるならとっくに地球の電波に気づいているはずだ」という直感は、単純に間違っています。そして人類の電波漏洩はいま減少中です。地上放送は光ファイバーに、衛星は指向性の高いビームに置き換わっているからです。もし他の文明も同じ道をたどるなら、$f_c$ や $L$ の「電波を出している期間」は驚くほど短いのかもしれません。
</Example>

### 6.1. どれだけ近くにいれば聞こえるのか

<Proposition id="prop-nearest-neighbor" title="銀河円盤に散らばる文明の典型的な間隔">
$N$ 個の文明が、半径 $R_g$ の円盤状の領域にほぼ一様に分布しているとする。円盤の厚さが文明どうしの間隔より十分小さいとき、隣り合う文明の典型的な距離 $\ell$ は

$$
\ell \approx R_g\sqrt{\frac{\pi}{N}}
$$

で与えられる。
</Proposition>

<Proof of="prop-nearest-neighbor">
円盤の厚さが間隔より十分小さいので、分布は 2 次元の問題として扱えます。円盤の面積は $\pi R_g^{2}$ です。これを $N$ 個の文明で分け合うと、1 個あたりの受け持ち面積は

$$
A_1 = \frac{\pi R_g^{2}}{N}
$$

です。この面積を一辺 $\ell$ の正方形とみなせば $\ell^{2} = A_1$、すなわち

$$
\ell = \sqrt{\frac{\pi R_g^{2}}{N}} = R_g\sqrt{\frac{\pi}{N}}
$$

となります。

なお、完全にランダム（2 次元ポアソン過程）な配置では、最近接距離の平均は数密度 $n = N/(\pi R_g^{2})$ を用いて $1/(2\sqrt{n}) = \ell/2$ と計算されます。上の見積もりの半分ですが、桁は変わりません。以下ではこの $2$ 倍の不定性を承知のうえで $\ell$ を使います。
</Proof>

<Corollary id="cor-silence-expected" title="沈黙は期待どおりである">
検出地平線を $r_{\max}$、銀河円盤の半径を $R_g$ とする。最も近い文明が検出地平線の内側に入る、すなわち $\ell \le r_{\max}$ となるためには

$$
N \ \ge\ \frac{\pi R_g^{2}}{r_{\max}^{2}}
$$

が必要である。$R_g = 5\times10^{4}$ 光年、$r_{\max} = 10^{3}$ 光年のとき、この条件は $N \ge 7.9\times10^{3}$、すなわち銀河系に約 1 万の文明が同時に存在することを要求する。
</Corollary>

<Proof of="cor-silence-expected">
<Ref to="prop-nearest-neighbor" /> より $\ell = R_g\sqrt{\pi/N}$ です。条件 $\ell \le r_{\max}$ は

$$
R_g\sqrt{\frac{\pi}{N}} \le r_{\max}
\quad\Longleftrightarrow\quad
\frac{\pi R_g^{2}}{N} \le r_{\max}^{2}
\quad\Longleftrightarrow\quad
N \ge \frac{\pi R_g^{2}}{r_{\max}^{2}}
$$

と同値です（両辺とも正なので二乗しても不等号の向きは変わりません）。数値を代入すると

$$
N \ge \frac{\pi \times (5\times10^{4})^{2}}{(10^{3})^{2}} = \frac{\pi \times 2.5\times10^{9}}{10^{6}} = 7.9\times10^{3}
$$

です。<Ref to="prop-nearest-neighbor" /> の証明で触れたポアソン配置の補正（$\ell$ が半分になる）を入れても $N \ge 2\times10^{3}$ 程度で、桁は変わりません。
</Proof>

<Ref to="ex-drake-numbers" /> の楽観セットですら $N = 4$ でした。このとき <Ref to="prop-nearest-neighbor" /> による最寄りの文明までの距離は

$$
\ell = 5\times10^{4}\times\sqrt{\frac{\pi}{4}} = 5\times10^{4}\times0.886 \approx 4.4\times10^{4}\ \text{光年}
$$

で、検出地平線の $40$ 倍以上です。往復の通信には $9$ 万年かかります。**楽観派の予測が正しくても、我々には何も聞こえないのが正常なのです。**

<Remark id="rem-haystack">
探索の網羅度そのものを定量化した研究もあります。ライト、カノディア、ルバーは 2018 年の論文で、SETI の探索空間を「空の方向・周波数・感度・偏波・変調方式・時間」という多次元の干し草の山とみなし、そのうち人類が実際に調べた体積の割合を評価しました。彼らの結論は、探索済みの割合は全体のごく一部にすぎず、地球の全海水に対する浴槽一杯ぶんになぞらえられる、というものでした。ブレークスルー・リッスン計画が 2020 年に公表したデータでも、丁寧に調べた近傍恒星は 1327 個です。銀河系の恒星 $10^{11}$ 個に対する $1327$ 個。

1977 年にオハイオ州立大学のビッグイヤー望遠鏡が $72$ 秒間だけ捉えた強い狭帯域信号（発見者が印刷紙の余白に「Wow!」と書き込んだのでこう呼ばれます）は、その後どれだけ探しても再現していません。何であったかは、いまも分かっていません。
</Remark>

## 7. 「答え」の候補

さて、<Ref to="def-fermi-paradox" /> の 4 つの主張のどれかが偽です。どれでしょうか。提案されている解答は数十種類ありますが、大きく 4 系統に整理できます。

### 7.1. そもそも誰もいない

主張 2 が偽だという立場です。ピーター・ウォードとドナルド・ブラウンリーは 2000 年の著書『レア・アース』で、単細胞生物はありふれていても、複雑な動物には異常に多くの条件が必要だと論じました。適度な大きさの月による自転軸の安定、木星型惑星による彗星の掃除、プレートテクトニクスによる炭素循環、銀河系の中で放射線が強すぎず重元素が少なすぎない位置。どれか一つ欠けても駄目なら、$n_e$ と $f_i$ は劇的に小さくなります。

もう一つの版が「**我々が最初**」説です。宇宙はまだ若いのです。太陽のような星の寿命は $100$ 億年ですが、恒星の $75$ % を占める赤色矮星の寿命は $10^{12}$ 年を超えます。宇宙が今後経験する「生命に適した時間」の大半は、まだ来ていません。ローブらは 2016 年の論文で、生命の存在確率を宇宙時間の関数として評価し、その確率は現在よりはるか未来の低質量星のまわりで最大になると論じました。つまり我々は宇宙のパーティに早く着きすぎた客で、他の客はまだ支度中だ、というわけです。

### 7.2. いたが、消えた

<Definition id="def-great-filter" title="グレートフィルター">
無生物の物質から出発して、銀河系に広がる技術文明に至るまでの一連の段階（惑星の形成、生命の発生、複雑な細胞、多細胞化、知性、技術、宇宙進出）を考える。フェルミのパラドックスが事実である以上、この一連の段階のどこかに、通過確率が極端に小さい関門が存在しなければならない。この関門を**グレートフィルター**という。

フィルターが人類の現在地より前の段階にあるとき「**背後にある**」、後の段階にあるとき「**前方にある**」という。
</Definition>

この概念はロビン・ハンソンが 1998 年に提唱しました。論理としては単純です。パラドックスが示す「銀河系は空である」という事実は、この道のりのどこかが極端に狭いことを意味する。狭い場所が「どこ」かは分からないが、必ず「ある」。

ここでニック・ボストロムが 2008 年に述べた、有名かつ不穏な帰結が出てきます。**火星やエウロパで独立起源の生命が見つかったら、それは人類にとって悪い知らせだ**、というのです。理屈はこうです。もし生命の発生（$f_{\ell}$）が簡単だと判明すれば、フィルターは生命の発生より後ろにあることになり、つまり我々のこれから先にある可能性が上がるからです。逆に太陽系のどこを探しても第二の生命が見つからないほうが、フィルターは背後の、我々がすでに通過した関門だったことになり、人類の未来は明るい。宇宙生物学の探査が「何も見つからないほうが安心」という奇妙な学問になってしまう、という指摘です。

<Aside type="caution">
これは確率の再配分についての議論であって、「火星の微生物が人類を滅ぼす」という話ではまったくありません。観測 $E$ が得られたとき、仮説 $H$ の確率がどう更新されるかというベイズ的な推論です。誤読されやすいので注意してください。
</Aside>

前方フィルターの候補としてよく挙がるのは、核戦争、環境の不可逆な破壊、制御に失敗した人工知能、設計された病原体などです。要するに、$L$ が短いという説です。<Ref to="ex-drake-numbers" /> で見たとおり $N$ は $L$ に比例するので、文明の平均寿命が $100$ 年か $100$ 万年かで、答えは $1$ 万倍変わります。ドレイクの方程式のいちばん右の因子は、我々自身についての因子なのです。

### 7.3. いるが、黙っている

主張 4 の「痕跡がない」を、「痕跡を見せないようにしている」と読み替える立場です。ジョン・A・ボールが 1973 年に提案した**動物園仮説**は、我々が自然保護区の中の生物のように扱われており、観察はされているが接触は禁じられている、というものです。デイヴィッド・ブリンは 1983 年の総説でこの種の説を批判的に整理しました。

より不吉な版が、劉慈欣の小説で広く知られるようになった**暗黒森林**説です。相手の意図が分からない状況では、先に位置を知られたほうが不利になる。だから合理的な文明はすべて沈黙する、という論理です。物語としては見事ですが、科学の仮説としては弱点があります。

<Aside type="danger">
動物園仮説も暗黒森林説も、「見つからないこと」自体を予測として持つため、**どんな観測結果とも矛盾しません**。反証できない仮説は、当たっているかもしれなくても、科学の議論を前に進めません。これらの説を検討するときは、「では、この説が偽ならどんな観測が得られるはずか」を必ず問うてください。
</Aside>

### 7.4. いるが、我々が気づいていない

主張 4 を、我々の探索能力の問題だとする立場です。<Ref to="ex-arecibo" /> と <Ref to="cor-silence-expected" /> で見たとおり、電波に関してはこの立場が圧倒的に有利です。我々は銀河系の直径の $1$ % ほどの距離までしか聴けず、そのなかの数千個の星しか丁寧に見ていません。相手が電波ではなくレーザーを使っていたら、あるいは我々が想像もしない方式を使っていたら、探索の網には最初からかかりません。

ただし <Ref to="def-fermi-paradox" /> の主張 3 に対しては、この立場は無力です。銀河系を埋め尽くした文明の建造物は、隠すほうがずっと難しいからです。

### 7.5. 見取り図

| 仮説 | 骨子 | パラドックスのどこを説明するか | 効きそうな観測 |
|---|---|---|---|
| レア・アース | 複雑な生命に必要な条件が異常に厳しい | $n_e, f_{\ell}, f_i$ が極端に小さい | 系外惑星の大気バイオシグネチャ探索 |
| 我々が最初 | 宇宙はまだ若く、文明の適齢期はこれから | $N$ が小さい理由を時間で説明 | 恒星寿命分布と宇宙化学進化の理論 |
| グレートフィルター（背後） | 生命の発生や真核化が極めて稀 | 誰も来ないこと | 火星・エウロパ・エンケラドスでの第二の生命起源の探索 |
| グレートフィルター（前方） | 技術文明は短命 | $L$ が小さいこと | 我々自身の歴史（核・気候・AI） |
| 動物園仮説 | 観察されているが接触が禁じられている | 沈黙と不在の両方 | 反証が困難で、予測力に乏しい |
| 暗黒森林 | 露出は自殺行為なので誰も送信しない | 沈黙 | 送信ではなく「痕跡」の探索 |
| 探し方が悪い | 探索空間が広すぎて未踏部分が大半 | 沈黙のみ | 探索体積の系統的な拡大 |

こうして並べると、この問いの構造が見えてきます。**沈黙**を説明する仮説はいくらでもあり、しかもそのほとんどは <Ref to="cor-silence-expected" /> を認めるだけで不要になります。本当に説明を要するのは**不在**、すなわち $10^{7}$ 年で埋まるはずの銀河系が空であることのほうです。そして不在を説明できるのは、実質的に「そもそも誰もいない」か「グレートフィルター」か「拡張しないことが普遍的な選択である」かの 3 つに絞られます。

フェルミの問いは、$76$ 年たったいまも開いています。しかし問いの形は、確実に鋭くなりました。

## 8. 演習

<Exercise id="exr-lifetime-scaling" difficulty="易">
<Ref to="def-drake-equation" /> において、$L$ 以外のすべての因子を固定する。

(1) $L$ を $100$ 年から $10^{6}$ 年に変えると、$N$ は何倍になりますか。

(2) <Ref to="ex-drake-numbers" /> の楽観セット（$L = 10^{4}$ 年で $N = 4$）について、$L = 100$ 年としたときの $N$ を求めてください。

<Solution>
(1) <Ref to="def-drake-equation" /> の右辺で $L$ は 1 次の因子なので、$N$ は $L$ に比例します。よって

$$
\frac{10^{6}}{100} = 10^{4}
$$

倍、すなわち $1$ 万倍になります。

(2) 比例関係から

$$
N = 4 \times \frac{100}{10^{4}} = 4\times10^{-2} = 0.04
$$

です。銀河系 $25$ 個につき $1$ つの文明という意味になります。

天文学と生物学の因子をどれだけ楽観的に見積もっても、文明が電波を出し続ける期間が $100$ 年しかないなら、銀河系には実質的に我々しかいません。これがドレイクの方程式のいちばん右の因子が「我々自身の問題」だと言われる理由です。
</Solution>
</Exercise>

<Exercise id="exr-colonization" difficulty="標準">
<Ref to="prop-colonization-time" /> の設定で、$D = 10^{5}$ 光年、跳躍距離 $d = 20$ 光年、準備時間 $\tau = 5000$ 年、船の速さ $v = 0.1c$ とします。

(1) 到達時間 $T$ と実効速度 $v_{\mathrm{eff}}$ を求めてください。

(2) 船を無限に速くした極限（$v \to \infty$）での $T$ を求め、(1) と比べてください。

(3) (1) の $T$ は銀河系の年齢 $1.3\times10^{10}$ 年の何 % ですか。

<Solution>
(1) <Ref to="prop-colonization-time" /> の $T = D/v + (D/d)\tau$ に代入します。$v = 0.1c = 0.1$ 光年／年なので

$$
\frac{D}{v} = \frac{10^{5}}{0.1} = 10^{6}\ \text{年},
$$

$$
\frac{D}{d}\tau = \frac{10^{5}}{20}\times 5000 = 5000 \times 5000 = 2.5\times10^{7}\ \text{年}.
$$

よって

$$
T = 1.0\times10^{6} + 2.5\times10^{7} = 2.6\times10^{7}\ \text{年}
$$

です。実効速度は

$$
v_{\mathrm{eff}} = \frac{D}{T} = \frac{10^{5}}{2.6\times10^{7}} = 3.8\times10^{-3}\ \text{光年/年} = 0.0038\,c
$$

となります。船は光速の $10$ % で飛んでいるのに、波面は光速の $0.38$ % でしか進みません。

(2) <Ref to="cor-wait-dominated" /> より、$v \to \infty$ で $T \to (D/d)\tau = 2.5\times10^{7}$ 年です。(1) の $2.6\times10^{7}$ 年と比べて $4$ % しか減りません。この設定ではすでに待ち時間が支配的で、船の性能を上げても意味がないことが分かります。

(3) 

$$
\frac{2.6\times10^{7}}{1.3\times10^{10}} = 2.0\times10^{-3} = 0.2\ \%
$$

です。銀河系の歴史の $0.2$ % で全域が埋まります。逆に言えば、拡張志向の文明が過去 $130$ 億年のうち任意の時点で 1 つでも現れていれば、その痕跡は $99.8$ % の期間にわたって存在し続けたはずです。
</Solution>
</Exercise>

<Exercise id="exr-beacon-power" difficulty="標準">
<Ref to="prop-detection-horizon" /> を使います。受信側の検出限界は $S_{\min} = 10^{-26}\ \mathrm{W/m^2}$ で固定します。

(1) 送信の EIRP を $100$ 倍にすると、検出地平線 $r_{\max}$ は何倍になりますか。

(2) 銀河系の反対側（$r = 10^{5}$ 光年 $= 9.46\times10^{20}\ \mathrm{m}$）まで届かせるのに必要な EIRP を求めてください。

(3) (2) の値を、人類の一次エネルギー消費の総量 $2\times10^{13}\ \mathrm{W}$ と比べてください。アンテナの利得がアレシボと同じ（EIRP が実送信電力の $10^{7}$ 倍）だとすると、必要な実送信電力はいくらですか。

<Solution>
(1) <Ref to="prop-detection-horizon" /> より $r_{\max} \propto \sqrt{P}$ ですから、$\sqrt{100} = 10$ 倍です。距離を稼ぐのは高くつきます。$10$ 倍遠くへ届かせるには電力が $100$ 倍必要です。

(2) $r_{\max} = \sqrt{P/(4\pi S_{\min})}$ を $P$ について解くと $P = 4\pi r_{\max}^{2} S_{\min}$ です。$r_{\max} = 9.46\times10^{20}\ \mathrm{m}$ なので

$$
r_{\max}^{2} = 8.95\times10^{41}\ \mathrm{m^2}, \qquad
4\pi r_{\max}^{2} = 1.12\times10^{43}\ \mathrm{m^2},
$$

$$
P = 1.12\times10^{43} \times 10^{-26} = 1.1\times10^{17}\ \mathrm{W}.
$$

(3) 人類の一次エネルギー消費との比は

$$
\frac{1.1\times10^{17}}{2\times10^{13}} \approx 5.6\times10^{3}
$$

で、全人類が使うエネルギーの約 $5600$ 倍です。ただしこれは等方換算値であり、アンテナで絞れば実送信電力はずっと小さくて済みます。利得が $10^{7}$ 倍なら

$$
P_{\text{実}} = \frac{1.1\times10^{17}}{10^{7}} = 1.1\times10^{10}\ \mathrm{W} = 110\ \text{億}\ \mathrm{W}
$$

で、大型原子力発電所 $10$ 基分ほどです。技術的には不可能な数字ではありません。

ただし注意が必要です。ビームを絞ったぶん、一度に照らせるのは空のごく狭い一方向だけです。銀河系全体に向けて常時ビーコンを出そうとすれば、方向の数だけ送信機が要ります。「送信するより聞くほうが安上がり」という SETI の基本的な非対称性が、ここから出てきます。そして全員がその計算をして全員が聞く側に回れば、宇宙は静かなままです。
</Solution>
</Exercise>

<Exercise id="exr-mars-microbe" difficulty="難">
火星の地下から、地球の生命とは独立に発生したことが確実な微生物の化石が見つかったとします。

(1) これは <Ref to="def-drake-equation" /> のどの因子についての情報ですか。

(2) この発見は人類の未来にとって良い知らせですか、悪い知らせですか。<Ref to="def-great-filter" /> の「背後」「前方」という言葉を使って論じてください。

<Solution>
(1) 生存可能な天体のうち実際に生命が発生する割合、$f_{\ell}$ についての情報です。同じ太陽系の中で $2$ 回独立に生命が生まれたのなら、$f_{\ell}$ は非常に大きい（$1$ に近い）と考えるのが自然です。

(2) 悪い知らせです。順を追って考えます。

まず <Ref to="def-fermi-paradox" /> が示すのは、「銀河系が拡張文明で埋まっていない」という観測事実です。<Ref to="def-great-filter" /> によれば、この事実は無生物から銀河文明までの道のりのどこかに極端に狭い関門があることを意味します。関門が「どこか」にあることは動かせません。

次に、$f_{\ell}$ が大きいと分かったとします。すると「生命の発生」という段階は狭い関門ではなかったことになります。関門はどこかにあるのですから、消去法により、残りの段階のどれかに関門がある確率が上がります。残りの段階は、真核細胞、多細胞化、知性、技術、そして**技術文明が長期間存続すること**です。このうち人類がまだ通過していないのは最後の項目だけです。したがって、フィルターが前方にある確率が上がります。

逆に、太陽系のどこにも第二の生命起源が見つからなければ、$f_{\ell}$ が極端に小さい可能性が残ります。その場合フィルターは背後、すなわち人類がすでに通過した関門だったことになり、前方に待ち受けている確率は下がります。これがボストロムの「何も見つからないことを願う」という主張の中身です。

なお、この議論は「観測が確率を更新する」というベイズ的な推論であって、火星の微生物そのものが危険だという意味ではありません。また前提として <Ref to="def-fermi-paradox" /> を事実として認めていることに注意してください。<Ref to="cor-silence-expected" /> が示すように、パラドックスのうち「沈黙」の部分は探索不足で十分説明できるので、この議論が本当に効くのは「不在」の部分だけです。
</Solution>
</Exercise>

## 参考文献

1. G. Cocconi and P. Morrison, "Searching for Interstellar Communications", *Nature* **184** (1959), 844–846. — $1420\ \mathrm{MHz}$ を提案した 2 ページの原論文。
2. E. M. Jones, *"Where Is Everybody?" An Account of Fermi's Question*, Los Alamos National Laboratory report LA-10311-MS (1985). — 1950 年の昼食について、同席者への聞き取りをまとめた一次資料。
3. M. H. Hart, "An Explanation for the Absence of Extraterrestrials on Earth", *Quarterly Journal of the Royal Astronomical Society* **16** (1975), 128–135. — 植民地化の時間スケールからパラドックスを厳密化した論文。
4. S. Webb, *If the Universe Is Teeming with Aliens ... WHERE IS EVERYBODY? Seventy-Five Solutions to the Fermi Paradox and the Problem of Extraterrestrial Life*, 2nd ed., Springer, 2015. — 提案された解答を網羅的に整理した書籍。
5. A. Sandberg, E. Drexler and T. Ord, "Dissolving the Fermi Paradox" (2018), [arXiv:1806.02404](https://arxiv.org/abs/1806.02404). — ドレイクの方程式の不確かさを分布として扱った論文。
6. J. T. Wright, S. Kanodia and E. Lubar, "How Much SETI Has Been Done? Finding Needles in the n-Dimensional Cosmic Haystack", *The Astronomical Journal* **156** (2018), 260. [arXiv:1809.07252](https://arxiv.org/abs/1809.07252) — 探索の網羅度を定量化した論文。

## Appendix: 「銀河ごと」を探す

**痕跡を探すという発想。** 電波は文明が「送ろうと決めた」ときにしか出ません。これに対し、文明が大きくなれば必ず出てしまうものがあります。熱です。熱力学第二法則により、使ったエネルギーは最後に赤外線として捨てられます。フリーマン・ダイソンが 1960 年に指摘したのはこの点で、恒星のエネルギーを大規模に利用する文明は、中赤外で異常に明るく見えるはずだ、というものでした。

**カルダシェフの階梯。** ニコライ・カルダシェフは 1964 年に、文明が使うエネルギーの規模で分類する尺度を提案しました。惑星に届く恒星の光を使い切るのが I 型（$10^{16}\ \mathrm{W}$ 程度）、恒星の全放射を使うのが II 型（$10^{26}\ \mathrm{W}$ 程度）、銀河全体の放射を使うのが III 型（$10^{37}\ \mathrm{W}$ 程度）です。人類はまだ I 型に届いておらず、$10^{13}\ \mathrm{W}$ 程度、つまり $0.7$ 型あたりにいます。

**そして、いなかった。** III 型文明がいれば、その銀河は可視光が暗く中赤外が異常に明るい銀河として、カタログ上で目立つはずです。グリフィスとライトらは 2015 年、赤外線天文衛星 WISE のカタログから約 10 万個の銀河を調べ、恒星の光の大部分を中赤外に作り替えている銀河は一つも見つからないと報告しました。彼らの制限は「星の光の $85$ % 以上を再放射している銀河は存在しない」というものです。

つまりフェルミのパラドックスは、銀河系の中だけの問題ではありません。$10$ 万個の銀河のどこにも、銀河を作り替えた文明はいないのです。<Ref to="prop-colonization-time" /> の計算は銀河系の内部についてのものでしたが、$130$ 億年という時間は銀河間の距離（数百万光年）を渡るのにも足ります。問いのスケールは、フェルミが昼食の席で考えたときよりずっと大きくなっています。
